説明

環状オレフィン系樹脂発泡体の製造方法

【課題】環状オレフィン系樹脂の耐熱性に関係なく、環状オレフィン系樹脂発泡体を製造するための方法を提供する。
【解決手段】環状オレフィン系樹脂に該環状オレフィン系樹脂に親和性のある有機溶媒を含浸させる含浸工程と、上記含浸工程後の環状オレフィン系樹脂を、上記有機溶媒の飽和蒸気圧が100mHgから200mHgになる乾燥温度で乾燥させる発泡工程と、を備え、上記乾燥温度を、上記環状オレフィン系樹脂のガラス転移点よりも30℃から80℃低い温度にする方法で環状オレフィン系樹脂発泡体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系樹脂を用いた発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂発泡体の製造に用いる樹脂材料としては、従来から、ポリエチレンやポリスチレン等が知られている。しかし、このような樹脂材料を用いて得られる発泡体は、用途上、耐熱性や耐薬品性等が十分ではない場合があり改善が求められていた。
【0003】
そこで、環状オレフィン系樹脂を用いた発泡体が知られている。環状オレフィン系樹脂は、主鎖に環状オレフィンの骨格を有する樹脂である。また、環状オレフィン系樹脂は、高透明性、低複屈折性、高熱変形温度、軽量性、寸法安定性、低吸水性、耐加水分解性、耐薬品性、低誘電率、低誘電損失、環境負荷物質を含まない等、多くの特徴をもつ樹脂である。このような多くの特徴を持つ環状オレフィン系樹脂は、これらの特徴が必要とされる多種多様な分野に用いられている。また、環状オレフィン系樹脂は上記特徴に加えて、発泡成形性が良好であるとともに、高剛性に由来する耐側圧性にも優れる。このため、環状オレフィン系樹脂は、発泡体の製造に用いる樹脂材料として好適である。
【0004】
ところで、発泡体は高発泡倍率であることが求められている。発泡倍率が高ければ、より軽量で、発泡体の製造に用いる樹脂材料の使用量も削減できるからである。また、発泡倍率を上げるためには、十分な機械的強度をもつ環状オレフィン系樹脂であることが必要である。
【0005】
このため、例えば、発泡密度が0.02g/cmから0.05g/cmの環状オレフィン系樹脂を用いた軽量な発泡体が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−145987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、環状オレフィン系樹脂を用いた発泡体の研究は盛んに行われている。しかしながら、耐熱性の高い環状オレフィン系樹脂を用いた発泡倍率の高い環状オレフィン系樹脂発泡体は、得られていない。
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、環状オレフィン系樹脂の耐熱性に関係なく、環状オレフィン系樹脂発泡体を製造するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、従来の押出発泡による方法とは異なる方法で環状オレフィン系樹脂発泡体を製造することに着目し、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、環状オレフィン系樹脂に該環状オレフィン系樹脂に親和性のある有機溶媒を含浸させる含浸工程と、上記含浸工程後の環状オレフィン系樹脂を、上記有機溶媒の飽和蒸気圧が100mHgから200mHgになる乾燥温度で乾燥させる発泡工程と、を備え、上記乾燥温度を、上記環状オレフィン系樹脂のガラス転移点よりも30℃から80℃低い温度にする方法で環状オレフィン系樹脂発泡体を製造することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) 環状オレフィン系樹脂に該環状オレフィン系樹脂に親和性のある有機溶媒を含浸させる含浸工程と、前記含浸工程後の環状オレフィン系樹脂を、前記有機溶媒の飽和蒸気圧が100mmHgから200mmHgになる乾燥温度で乾燥させる発泡工程と、を備え、前記乾燥温度は、前記環状オレフィン系樹脂のガラス転移点よりも30℃から80℃低い温度である環状オレフィン系樹脂発泡体の製造方法。
【0011】
(2) 前記有機溶媒の溶解度パラメータは、20(J/cml/2以下である(1)に記載の環状オレフィン系樹脂発泡体の製造方法。
【0012】
(3) 前記発泡工程は、常温及び常圧で行う(1)又は(2)に記載の環状オレフィン系樹脂発泡体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定の有機溶剤を用い、特定の条件で環状オレフィン系樹脂を発砲させることにより、環状オレフィン系樹脂の耐熱性に関係なく、環状オレフィン系樹脂発泡体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0015】
<環状オレフィン系樹脂>
本発明に用いられる環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィン成分を共重合成分として含むものであり、環状オレフィン成分を主鎖に含むポリオレフィン系樹脂であれば、特に限定されるものではない。例えば、環状オレフィンの付加重合体又はその水素添加物、環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物等を挙げることができる。
【0016】
また、本発明に用いられる環状オレフィン成分を共重合成分として含む環状オレフィン系樹脂としては、上記重合体に、さらに極性基を有する不飽和化合物をグラフト及び/又は共重合したもの、を含む。
【0017】
極性基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基等を挙げることができ、極性基を有する不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、マレイン酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等を挙げることができる。
【0018】
本発明においては、環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物を好ましく用いることができる。
【0019】
また、本発明に用いられる環状オレフィン成分を共重合成分として含む環状オレフィン系樹脂(A)としては、市販の樹脂を用いることも可能である。市販されている環状オレフィン系樹脂(A)としては、例えば、TOPAS(登録商標)(Topas Advanced Polymers社製)、アペル(登録商標)(三井化学社製)、ゼオネックス(登録商標)(日本ゼオン社製)、ゼオノア(登録商標)(日本ゼオン社製)、アートン(登録商標)(JSR社製)等を挙げることができる。
【0020】
本発明の組成物に好ましく用いられる環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体としては、特に限定されるものではない。特に好ましい例としては、〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と、〔2〕下記一般式(I)で示される環状オレフィン成分と、を含む共重合体を挙げることができる。
【化1】

(式中、R〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
とR10、R11とR12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、
又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、
nが2以上の場合には、R〜Rは、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0021】
〔〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分〕
本発明に好ましく用いられる環状オレフィン成分とエチレン等の他の共重合成分との付加重合体の共重合成分となる炭素数2〜20のα−オレフィンは、特に限定されるものではない。例えば、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。また、これらのα−オレフィン成分は、1種単独でも2種以上を同時に使用してもよい。これらの中では、エチレンの単独使用が最も好ましい。
【0022】
〔〔2〕一般式(I)で示される環状オレフィン成分〕
本発明に好ましく用いられる環状オレフィン成分とエチレン等の他の共重合成分との付加重合体において、共重合成分となる一般式(I)で示される環状オレフィン成分について説明する。
【0023】
一般式(I)におけるR〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものである。
【0024】
〜Rの具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0025】
また、R〜R12の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、ステアリル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ナフチル基、アントリル基等の置換又は無置換の芳香族炭化水素基;ベンジル基、フェネチル基、その他アルキル基にアリール基が置換したアラルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0026】
とR10、又はR11とR12とが一体化して2価の炭化水素基を形成する場合の具体例としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基等のアルキリデン基等を挙げることができる。
【0027】
又はR10と、R11又はR12とが、互いに環を形成する場合には、形成される環は単環でも多環であってもよく、架橋を有する多環であってもよく、二重結合を有する環であってもよく、またこれらの環の組み合わせからなる環であってもよい。また、これらの環はメチル基等の置換基を有していてもよい。
【0028】
一般式(I)で示される環状オレフィン成分の具体例としては、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。
【0029】
これらの環状オレフィン成分は、1種単独でも、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中では、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)を単独使用することが好ましい。
【0030】
環状オレフィン系樹脂のガラス転移点は、特に限定されない。本発明は、耐熱性に関係無く様々な種類の環状オレフィン系樹脂を、優れた環状オレフィン系樹脂発泡体にすることを特徴とするからである。後述する有機溶媒を選択する際に、環状オレフィン系樹脂のガラス転移点よりも30℃から80℃低い温度の範囲で、飽和蒸気圧が100mmHgから200mmHgになるような有機溶媒を選択することで、環状オレフィン系樹脂の耐熱性に関係なく、環状オレフィン系樹脂発泡体を製造することができる。なお、ガラス転移点(Tg)は、DSC法(JIS K7121記載の方法)によって昇温速度10℃/分の条件で測定した値を採用する。
【0031】
本発明によれば、環状オレフィン系樹脂の耐熱性等に関係なく様々な環状オレフィン系樹脂を発泡させることができるが、環状オレフィン系樹脂の190℃、巻取速度を15m/分にして測定したメルトテンションが、25mNから60mNであることが好ましい。環状オレフィン系樹脂のメルトテンションが25mN以上であれば気泡が割れにくいため好ましく、環状オレフィン系樹脂のメルトテンションが60mN以下であれば、気泡サイズの生長という理由で好ましい。より好ましい環状オレフィン系樹脂のメルトテンションの範囲は30mNから50mNである。
【0032】
本発明に用いる環状オレフィン系樹脂は、ISO11443に準拠して260℃、剪断速度1216/sに於いて測定した溶融粘度が、50Pa・sから500Pa・sであることが好ましい。環状オレフィン系樹脂の溶融粘度が50Pa・s未満であれば気泡割れて発泡体が得られ難くなり、環状オレフィン系樹脂の溶融粘度が500Pa・sを超えると発泡前のビーズや成形体を得ることが難しくなる。より好ましい溶融粘度の範囲は80Pa・sから250Pa・sである。
【0033】
〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と〔2〕一般式(I)で表される環状オレフィン成分との重合方法及び得られた重合体の水素添加方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法に従って行うことができる。ランダム共重合であっても、ブロック共重合であってもよいが、ランダム共重合であることが好ましい。
【0034】
また、用いられる重合触媒についても特に限定されるものではなく、チーグラー・ナッタ系、メタセシス系、メタロセン系触媒等の従来周知の触媒を用いて周知の方法により得ることができる。
【0035】
メタセシス触媒としては、シクロオレフィンの開環重合用触媒として公知のモリブデン又はタングステン系メタセシス触媒(例えば、特開昭58−127728号公報、同58−129013号公報等に記載)が挙げられる。また、メタセシス触媒で得られる重合体は無機担体担持遷移金属触媒等を用い、主鎖の二重結合を90%以上、側鎖の芳香環中の炭素−炭素二重結合の98%以上を水素添加することが好ましい。
【0036】
〔その他共重合成分〕
環状オレフィン系樹脂(A)は、上記の〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と、〔2〕一般式(I)で示される環状オレフィン成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて他の共重合可能な不飽和単量体成分を含有していてもよい。
【0037】
任意に共重合されていてもよい不飽和単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭素−炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体等を挙げることができる。炭素−炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体の具体例としては、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。
【0038】
<有機溶媒>
本発明の環状オレフィン系樹脂発泡体の製造に用いる有機溶媒は、使用する環状オレフィン系樹脂により異なる。具体的には、使用可能な有機溶媒とは、環状オレフィン系樹脂のガラス転移点より30℃から80℃低い範囲で飽和蒸気圧が100mmHgから200mmHgになる有機溶媒であり、環状オレフィン系樹脂に親和性の有機溶媒である。このような有機溶媒を選択し、選択した有機溶媒を環状オレフィン系樹脂に含浸させることで、環状オレフィン系樹脂の見かけのガラス転移点が後述する乾燥温度よりも低くなる。その後、環状オレフィン系樹脂に含浸した溶媒が、環状オレフィン系樹脂から抜ける際に環状オレフィン系樹脂は発泡する。このような環状オレフィン系樹脂の発泡は溶媒による樹脂の可塑化という理由から、環状オレフィン系樹脂の耐熱性に関係なく様々な環状オレフィン系樹脂に適用できることが推測される。
【0039】
環状オレフィン系樹脂の見かけのガラス転移点は、上記環状オレフィン系樹脂のガラス転移点と同様の方法で測定する。また、環状オレフィン系樹脂の見かけのガラス転移点は、乾燥温度の±10℃の範囲であることが好ましい。上記温度範囲にあれば、発泡倍率が大きくなるという理由で好ましい。
【0040】
本発明では、環状オレフィン系樹脂のガラス転移点より30℃から80℃低い範囲で飽和蒸気圧が100mmHgから200mmHgになる有機溶媒を使用する。100mmHg未満の場合には蒸発速度が大き過ぎるという理由で好ましくなく、200mmHgを超える場合には発泡体中に溶媒が残存するという理由で好ましくない。
【0041】
有機溶媒は、環状オレフィン系樹脂のガラス転移点より30℃から80℃低い範囲で上記範囲の飽和蒸気圧になることが必要である。環状オレフィン系樹脂のガラス転移点より30℃低い温度以下の範囲で、有機溶媒が上記飽和蒸気圧の範囲を満たすことは、発泡体が発泡後に収縮しないという理由で好ましく、環状オレフィン系樹脂のガラス転移点より80℃低い温度以上で上記飽和蒸気圧の範囲を満たすことは発泡倍率を高めるという理由で好ましい。
【0042】
「環状オレフィン系樹脂に親和性がある」とは、環状オレフィン系樹脂を溶解する有機溶媒であることを意味する。有機溶媒の環状オレフィン系樹脂に対する親和性の程度は特に限定されないが、有機溶媒の溶解度パラメータは、20(J/cml/2以下であることが好ましい。有機溶媒の溶解度パラメータが20(J/cml/2以下であれば、有機溶媒が適度に環状オレフィン系樹脂に含浸し、環状オレフィン系樹脂の見かけのガラス転移点が適切な範囲まで下がりやすく、環状オレフィン系樹脂は乾燥温度範囲で適度な柔軟性を持つ。その結果、乾燥時、有機溶媒が環状オレフィン系樹脂から抜けていく際に発泡しやすくなるため好ましい。
【0043】
上記のような有機溶媒であれば、どのようなものでも使用可能である。本発明の環状オレフィン系樹脂発泡体の製造に使用可能な有機溶媒としては、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ベンゼン、メチルエチルケトン、クロロホルム、メチレンクロライド、エチレンクロライド、アセトン、シクロヘキサノン、ジオキサン、n−ブタノール、イソプロパノール、エタノール、メタノール等が挙げられる。これらの中でも、n−ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ベンゼン、メチルエチルケトン、クロロホルム、メチレンクロライドが好ましい。溶解度パラメータが20(J/cml/2以下の有機溶媒だからである。
【0044】
<環状オレフィン系樹脂発泡体の製造方法>
本発明の環状オレフィン系樹脂発泡体の製造方法は、環状オレフィン系樹脂に該環状オレフィン系樹脂に親和性のある有機溶媒を含浸させる含浸工程と、上記含浸工程後の環状オレフィン系樹脂を、上記有機溶媒の飽和蒸気圧が100mmHgから200mmHgになる乾燥温度で乾燥させる発泡工程と、を備えることを特徴とする。以下、本発明の環状オレフィン系樹脂発泡体の製造方法の一例について説明する。
【0045】
[成形工程]
成形工程は、所望の環状オレフィン系樹脂を成形する工程である。成形方法は特に限定されないが、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、押出成形、ブロー成形等種々の成形方法を挙げることができる。上記のような成形方法で、環状オレフィン系樹脂を成形することにより、環状オレフィン系樹脂成形品を得ることができる。
【0046】
原料となる環状オレフィン系樹脂は、複数の環状オレフィン系樹脂をブレンドしたものであってもよく、環状オレフィン系樹脂と環状オレフィン系樹脂以外の樹脂をブレンドしたものであってもよい。さらに、樹脂に対して核剤、カーボンブラック、無機焼成顔料等の顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤を添加して、所望の特性を付与したものであってもよい。
【0047】
[含浸工程]
含浸工程は、上記成形工程で成形した環状オレフィン系樹脂成形品に対して、親和性のある有機溶媒を含浸させる工程である。環状オレフィン系樹脂成形品に上記有機溶媒を含浸させることで、環状オレフィン系樹脂の見かけのガラス転移点が低下し、後述する乾燥温度下で環状オレフィン系樹脂成形品は柔軟性を発現する。
【0048】
本発明は、環状オレフィン系樹脂成形品に有機溶媒を含浸させて、環状オレフィン系樹脂成形品に柔軟性を発現させ、発泡工程で環状オレフィン系樹脂成形品から有機溶媒を抜く際に環状オレフィン系樹脂成形品を発泡させる。
【0049】
[発泡工程]
発泡工程とは、含浸工程後の環状オレフィン系樹脂を、上記有機溶媒の飽和蒸気圧が100mmHgから200mmHgになる乾燥温度で乾燥させる工程である。上述の通り環状オレフィン系樹脂成形品は、有機溶媒を含浸することで見かけのガラス転移点が低下し柔軟性が付与される。本工程では、乾燥の際に有機溶媒が環状オレフィン系樹脂成形品中から蒸発して抜けていく際に、環状オレフィン系樹脂成形品は発泡する。同時に有機溶媒が環状オレフィン系樹脂成形品から蒸発により抜けていく過程で、環状オレフィン系樹脂の見かけのガラス転移点は、もとの環状オレフィン系樹脂のガラス転移点に近づいていき、環状オレフィン系樹脂の見かけのガラス転移点が、乾燥温度を超えたときに環状オレフィン系樹脂成形品に付与された柔軟性は無くなり、環状オレフィン系樹脂発泡体が得られる。発泡工程で、有機溶媒を含浸させた環状オレフィン系樹脂成形品を乾燥させる乾燥温度は、上述の通り、環状オレフィン系樹脂のガラス転移点よりも30℃から80℃低い温度で行う必要がある。
【0050】
発泡工程は、所望の有機溶媒が決まっている場合には、圧力をかけて行うことも可能であるが、特に使用する有機溶媒が決まっていない場合には、常圧で使用可能な有機溶媒を選択し、常圧で発泡させることが好ましい。常圧で環状オレフィン系樹脂成形品を発泡させることで、容易に環状オレフィン系樹脂発泡体を製造することができるからである。
【0051】
また、発泡させる環状オレフィン系樹脂のガラス転移点が、約50℃から約100℃の範囲にある場合には、有機溶媒の選択により、発泡工程を常温、常圧で行うことができる。発泡工程を常温、常圧で行うことができれば、さらに容易に環状オレフィン系樹脂発泡体を製造することができるため好ましい。
【0052】
[その他の方法]
本発明の環状オレフィン系樹脂発泡体の製造は、上記のような有機溶媒を環状オレフィン系樹脂に含浸させる工程と、有機溶媒を含浸させた環状オレフィン系樹脂から有機溶媒を蒸発させることで環状オレフィン系樹脂を発泡させる発泡工程とを備えるものであればよい。例えば、ビーズ発泡法により、本発明の環状オレフィン系樹脂発泡体の製造方法を実施することもできる。具体的には、先ず、環状オレフィン系樹脂の樹脂ビーズを作製し、次いで、環状オレフィン系樹脂の樹脂ビーズに有機溶媒を含浸させ一次発泡を行い、最後に、一次発泡させた環状オレフィン系樹脂の樹脂ビーズを成形型に入れ成形と二次発泡を同時に行うことで環状オレフィン系樹脂発泡体を製造することができる。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0054】
<材料>
環状オレフィン系樹脂ペレット:TOPAS8007F−04(ポリプラスチックス社製)、ガラス転移点80℃
有機溶媒1:クロロホルム、23℃における飽和蒸気圧178mmHg、溶解度パラメータ19(J/cml/2
有機溶媒2:シクロヘキサン、23℃における飽和蒸気圧89mmHg、溶解度パラメータ16.8(J/cml/2
【0055】
<実施例1>
10mlのクロロホルムに上記環状オレフィン系樹脂ペレット0.1gを加え、攪拌しながら50℃に加熱してペレットを溶解した。さらに攪拌を続けながらクロロホルムが沸騰する温度まで昇温して溶媒を濃縮し、最終的に環状オレフィン樹脂の固形物が得られるまでクロロホルムを留去した。この樹脂固形物の重量を測ったところ、溶媒含浸量は0.2gであった。この樹脂固形物を底面の直径5mmの半球状に成形して蒸発皿の中央に置き、室温23℃湿度50%の状態で48時間放置したところ、発泡倍率32倍にまで膨張した。
【0056】
<実施例2>
100mlのクロロホルムに上記環状オレフィン系樹脂ペレット1gを加え、攪拌しながら50℃に加熱してペレットを溶解した。さらに攪拌を続けながらクロロホルムが沸騰する温度まで昇温して溶媒を濃縮し、最終的に環状オレフィン樹脂の固形物が得られるまでクロロホルムを留去した。この樹脂固形物の重量を測ったところ、溶媒含浸量は2gであった。この樹脂固形物を底面の直径2cmで高さ約8mmの扁平円盤状(おはじき形状)に成形して蒸発皿の中央に置き、室温23℃湿度50%の状態で48時間放置したところ、底面の直径6cmで高さ3cmまで発泡した。
【0057】
<比較例1>
10mlのシクロヘキサンに上記環状オレフィン系樹脂ペレット0.1gを加え、攪拌しながら50℃に加熱してペレットを溶解した。さらに攪拌を続けながらシクロヘキサンが沸騰する温度まで昇温して溶媒を濃縮し、最終的に環状オレフィン樹脂の固形物が得られるまでシクロヘキサンを留去した。この樹脂固形物の重量を測ったところ、溶媒含漫量は0.1gであった。この樹脂固形物を底面の直径5mmの半球状に成形して蒸発皿の中央に置き、室温23℃湿度50%の状態で48時間放置したところ、溶媒は完全に蒸発して樹脂固形物の重量は0.1gに戻ったが半球体の寸法は収縮し、固形物内部に気泡は見当たらなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系樹脂に該環状オレフィン系樹脂に親和性のある有機溶媒を含浸させる含浸工程と、
前記含浸工程後の環状オレフィン系樹脂を、前記有機溶媒の飽和蒸気圧が100mmHgから200mmHgになる乾燥温度で乾燥させる発泡工程と、を備え、
前記乾燥温度は、前記環状オレフィン系樹脂のガラス転移点よりも30℃から80℃低い温度である環状オレフィン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒の溶解度パラメータは、20(J/cml/2以下である請求項1に記載の環状オレフィン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項3】
前記発泡工程は、常温及び常圧で行う請求項1又は2に記載の環状オレフィン系樹脂発泡体の製造方法。

【公開番号】特開2010−185057(P2010−185057A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31859(P2009−31859)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】