説明

瓦と、その敷設工法

【課題】軒側から吹上げる風に対する抵抗力が強く、外観上の問題を生ずることがない瓦の敷設工法で用いる平板瓦を提供する。
【解決手段】平板瓦の瓦尻には一対の釘孔12が適当な間隔を存して形成されると共に、釘孔間に凹部13が形成され、千鳥葺きする際には、凹部13にコーキング剤を塗布したのち棟側の瓦11の瓦頭のえり部14aが凹部13に嵌ってコーキング剤に押付けられて接着され、えり部14のなかでは釘孔12から最も遠い瓦頭のえり部14aにおいてコーキング剤で接着することにより、釘による固定箇所との支点間距離を長くして軒側から吹き上げる風に対する抵抗力を強める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台風等の強風を受けたときにめくり上がるのを防止することができる瓦と、その敷設工法に関する。
【背景技術】
【0002】
瓦には、図1に示すように断面が波状の桟瓦1や図2に示すように主として洋風状の建物に使用される平板瓦4がある。図3は、この平板瓦4を用いて千鳥状に葺いた千鳥葺きと称される屋根の一部を示すもので、その施工は通常次のようにして行われる。平板瓦4を瓦尻裏面の係止爪(図示しない)が野地板上の桟木に係止するように配設したのち(図6参照)、瓦尻の釘孔5を通して釘を桟木に打ち付けて固定する。ついでその側方に別の瓦4を桟4aが隣の瓦4のえり部4bの上に重なるようにして置くと共に、瓦尻裏面の係止爪を桟木に係止させて配設し、釘孔5を通して同様に釘を桟木に打ち付け固定する。同様にして瓦4を軒に沿って横向きに一連に敷設したのち、棟側に別の瓦4を、その瓦頭が軒側の隣り合う両瓦4の瓦尻の上に重なるようにして敷設する。図3は、軒から棟に向かって平板瓦4が千鳥状に葺かれている例を示すものであるが、瓦の敷設工法としてはこのほか、図8に示すように、平板瓦4を軒から棟に向かって一列に揃って並べる筋葺きと称されるものもある。
【0003】
上述する従来の平板瓦は、桟瓦も同様であるが、瓦尻が桟木に釘により打ち付けて固定されているだけであるため、軒側から強風が吹き込むと、瓦頭が持ち上がってめくれ、最悪時には吹き飛ぶことがある。この問題を解決するために一側に取付部を、他側に押え部を有して断面略乙形をなし、取付部を桟木に釘で固定すると共に、押え部を瓦の瓦頭に係合させて瓦頭を押える瓦止金具、該瓦止金具と同様、断面略乙形をなし、釘を取付部と共に瓦尻の釘孔に通して桟木に打ち付けて固定するとともに、押え部を棟側に葺かれる瓦のえり部側の瓦裏面に形成された係合凹部に差し込んで押える瓦止金具(特許文献1)、押え部を瓦えり部に引掛けた状態で座部に通したビスを屋根構成部材に捩じ込み、押え部でえり部を押え付ける瓦止金具(特許文献2)、線材を屈曲形成して係止部と係合部を形成し、係止部を軒側の瓦の瓦尻下に差込むと共に、係合部を棟側の瓦のえり部に係合させて該えり部を押える瓦止金具(特許文献3)など種々の瓦止金具が提案されている。
【特許文献1】特開2001−152614号
【特許文献2】特開平10−169105号
【特許文献3】特開2001−27014号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述する従来の瓦止金具のうち、前者の瓦頭を押える瓦止金具は、瓦尻の釘孔を通して桟木に打ち付けられる釘により固定される瓦に対し、釘からの支点間距離を大きくとることができるため軒側から吹上げる風に対する抵抗力を強くできるが、瓦止金具の押え部が瓦頭を押えるべく瓦表面に露出するため屋根の外観が低下する、という問題があった。
【0005】
後三者の瓦止金具は、表面に露出することがなく外観上の問題はないが、上述する前者の瓦止金具に比べ、釘からの支点間距離が長くないため、軒側から吹上げる風に対する抵抗力が強くない、という問題がある。
【0006】
本発明は、上記の問題を解消すること、すなわち、軒側から吹上げる風に対する抵抗力が強く、外観上の問題を生ずることがない瓦の敷設工法と、該工法で用いる瓦を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、瓦の敷設工法であって、瓦尻に形成される釘孔を通して屋根下地材に釘を打ち付け瓦尻を固定すると共に、えり部の瓦頭裏面と、該裏面と接合する軒側の瓦の瓦尻とを接着剤にて接着することを特徴とする。
【0008】
本発明で用いる瓦は、図1に示す桟瓦であってもよいし、図2に示す平板瓦であってもよい。桟瓦を使用する場合には、図1及び図4に示すように、瓦尻コーナの切欠部に棟側の瓦より伝い落ちてきた雨水を受ける受片2を備えた特公平7−13385号に示されるタイプの瓦が用いられ、えり部の瓦頭裏面と受片2とが接着剤にて接着される。
図1の符号3は、釘穴を示し、また図4における斜線部分と、点線で囲まれる部分は接着部分を示す。
【0009】
釘が打ち付けられる屋根下地材は、多くの場合桟木であるが、桟木以外のものに打ち付けて固定することも可能である。
【0010】
本発明は、図3に示すような千鳥葺きに限らず、筋葺きの場合にも適用される。
本発明で用いる接着剤としては、例えばコーキング剤が用いられるが、瓦を接着できる機能を有するものであればどのようなものでもよく、とくに限定されない。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の瓦が平板瓦であることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明の工法で用いる平板瓦であって、瓦尻には接着剤が接着される箇所に凹部が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によると、瓦は瓦尻を固定する釘と、えり部の瓦頭を接着する接着剤とにより固定され、瓦頭以外のえり部を固定するのに比べ、接着箇所と釘で固定する箇所との支点間距離が長いため、軒側から吹上げる風に対する抵抗力を大きくできること、えり部の瓦頭裏面で接着剤により固定されるため、えり部を流れる水の流れを阻害することがないこと、接着剤はえり部やその上に重なる瓦の桟で覆われて瓦表面に露出することはなく、屋根の外観が損なわれることがないこと等の効果を有する。
【0013】
瓦敷設後、割れなどにより瓦を取り換えねばならないことがある。従来の瓦止金具で固定された瓦では、一部の瓦を取り換えようとすると、その周りの瓦も取外さないと、瓦止金具を取外して取り換えることができず、手間がかかっていたが、請求項2に係る発明のような平板瓦では、瓦頭と、その下側の瓦の瓦尻との間よりカッターナイフ等の刃物(以下、単にナイフという)を差込んで接着剤にナイフを入れることができ、ナイフを入れることにより接着剤による固定状態を解除して一枚の瓦だけを引き出して取外すことができ、取付けたときもえり部の瓦頭裏面と該瓦頭裏面が接触する部分のうち、少なくともいずれか一方に接着剤を塗布したのち棟側と隣の瓦を若干浮かして差込むことで簡易に取換えることができる。
【0014】
請求項3に係る発明の平板瓦によると、瓦尻に接着剤を塗布する際、凹部が接触する箇所の目印となり、えり部の瓦頭を確実に接着することができること、接着剤は凹所に充填される量だけ塗布すればよく、接着剤が多過ぎたり少な過ぎたりすることなく適正な量を塗布することができることなどの効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図5は、千鳥葺き用の瓦として用いられる本発明に係る平板瓦11を示すもので、瓦尻には一対の釘孔12が適当な間隔を存して形成されると共に、釘孔間に一定幅の段差を備えた凹部13が形成され、えり部14は段となって隣の瓦の桟15が重なるアンダーラップとなり、隣の瓦との間より入り込んだ雨水の水路となっている。
【0016】
図5に示す平板瓦11を用いて千鳥葺きすると、図3のようになる。
図6は平板瓦11を用いた図3のA−A線での断面を示すもので、凹部13には接着剤としてのコーキング剤16が充填され、平板瓦11を葺いたとき棟側の平板瓦11のえり部の瓦頭14aが凹部13に嵌ってコーキング剤16に押付けられ接着されるようになっている。図中、17は桟木を示す。
【0017】
本実施形態の平板瓦11によると、コーキング剤で接着されるえり部の瓦頭14aは、えり部14のなかでは釘孔12より最も遠く、釘による固定箇所とコーキング剤16による固定箇所の支点間距離が長いため軒側から吹上げる風に対する抵抗力が強く、煽られて吹き飛びにくいこと、コーキング剤16はえり部の瓦頭14aや隣接する瓦11の桟15の瓦頭で覆われ、表面に露出することがないため、屋根の外観が損なわれることがないこと、凹部13はコーキング剤16を塗布する際の目印となり、凹部13を充填するだけのコーキング剤16を塗布するだけでえり部の瓦頭14aを確実に接着できること、コーキング剤16はえり部の瓦頭裏面に位置し、えり部14を流れる雨水の邪魔となることはないことなどの効果を奏する。
【0018】
図3に示す瓦11aを取り換えるときには、該瓦11aのえり部の瓦頭14a下にカッターナイフを差込んでコーキング剤16を切断し、ついで図の右隣の瓦11の桟15を若干浮かして瓦11aを手前側に引き出して矢印方向に抜き取る。次に切断されたコーキング剤を除去して新たなコーキング剤を凹部13に充填したのち、取外した瓦に被さる棟側の両瓦11の瓦頭と右隣の瓦11の桟15とを若干浮かした状態で取換え用の新たな瓦11aを差込み、浮かした各瓦11を押し下げる。これにより取り換えた瓦11aのえり部の瓦頭14aがコーキング剤15に押付けられ接着される。
【0019】
図7に示す平板瓦17は筋葺き用の瓦で、瓦尻の桟15にコーキング剤が充填される凹部18が形成される。図8は上記平板瓦17を用いて筋葺きに葺いた屋根の一部を示すもので、B−B線での断面は図6と同様となる。
【0020】
上記各実施形態は、平板瓦11を千鳥葺き或いは筋葺きに葺いた例を示すものであるが、桟瓦を用いて葺く場合も、図4に示すような受片2を備えた桟瓦を用いてえり部の瓦頭と受片をコーキング剤により接着して葺くことにより平板瓦11を用いた場合と同様、外観を損なうことなく瓦をしっかりと固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来の桟瓦の概略斜視図。
【図2】従来の平板瓦の概略斜視図。
【図3】平板瓦を用いて千鳥状に葺いた屋根の一部を示す斜視図。
【図4】桟瓦の接着部分を示す斜視図。
【図5】本発明に係る平板瓦の概略斜視図。
【図6】図5に示す平板瓦を用いて葺いた屋根の図3及び図8におけるA−A線及びB−B線での断面図。
【図7】本発明に係る平板瓦の別の態様の概略斜視図。
【図8】図7に示す平板瓦を用いて葺いた屋根の一部を示す斜視図。
【符号の説明】
【0022】
1・・桟瓦
2・・受片
4、11、11a、17・・平板瓦
4a、15・・桟
4b、14・・えり部
3、5、12・・釘孔
13・・凹部
14a・・えり部の瓦頭
16・・コーキング剤
17・・桟木

【特許請求の範囲】
【請求項1】
瓦の敷設工法であって、瓦尻に形成される釘孔を通して屋根下地材に釘を打ち付け瓦尻を固定すると共に、えり部の瓦頭裏面と、該裏面と接合する軒側の瓦の瓦尻とを接着剤にて接着することを特徴とする敷設工法。
【請求項2】
瓦として平板瓦が用いられることを特徴とする請求項1記載の敷設工法。
【請求項3】
請求項2で用いる平板瓦であって、瓦尻には接着剤が接着される箇所に凹部が形成されることを特徴とする平板瓦。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−255673(P2008−255673A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99064(P2007−99064)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(591091663)株式会社石州川上窯業 (8)