説明

甘藷焼酎モロミ粕を酵素処理して得られた健康食品及びその製造方法

【課題】甘藷焼酎モロミ粕を賦形剤及び結合剤を用いることなく、錠剤として必要な硬度、崩壊性を有する錠剤に容易に成形することができ、得られた錠剤のラジカル消去能、保存安定性が優れ、また、優れた栄養素を含む甘藷焼酎モロミ粕の錠剤中における含有量を高められ、さらに、肌の状態改善や、腸内環境改善や、抗疲労効果を有する甘藷焼酎モロミ粕を植物組織崩壊酵素で処理して得られた健康食品及びその製造方法の提供。
【解決手段】本発明の健康食品の製造方法は、甘藷焼酎モロミ粕を植物組織崩壊酵素で処理する酵素処理工程と、前記酵素処理された甘藷焼酎モロミ粕を用い、賦形剤及び結合剤を用いることなく、前記酵素処理された甘藷焼酎モロミ粕を錠剤に成形する錠剤成形工程とを含み、前記植物組織崩壊酵素が、キシラナーゼ系の酵素、セルラーゼ系の酵素から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた栄養素を含む甘藷焼酎モロミ粕を植物組織崩壊酵素で処理して得られた健康食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
甘藷焼酎モロミ粕は、甘藷焼酎を製造する際に発生する。甘藷焼酎の製造において、モロミの主成分である炭水化物は、糖化、アルコール発酵、及び蒸留工程を経て、アルコールに変換される。そして、最終的には微生物が利用しきれなかったセルロース及びヘミセルロースなどの繊維や多糖類、蛋白質、脂質、無機塩類が、蒸留工程で気化により回収されずに残ったものが甘藷焼酎モロミ粕で、これの栄養価の高さは、よく知られている。
【0003】
乾燥甘藷焼酎モロミ粕中の成分を表1に示す。
【表1】

註)試験依頼先:財団法人日本食品分析センター
【0004】
乾燥甘藷焼酎モロミ粕中のアミノ酸組成を表2に示す。
【表2】

註)試験依頼先:財団法人日本食品分析センター
【0005】
また、本発明者らが公知の方法で分析をした結果、甘藷焼酎モロミ粕の乾燥物1g中に0.6mgのセラミドが高含有されていることを確認するに至った。また、乾燥焼酎モロミ粕には、クエン酸などの有機酸も含まれている。
【0006】
甘藷焼酎モロミ粕の栄養価の高さは、よく知られていることから、これまでに数多くの甘藷焼酎モロミ粕を用いた食品が開示されてきた。例えば、焼酎蒸留残渣を用いたゼリー状食品(特許文献1参照)、腫瘍の予防又は治療を可能にする焼酎蒸留粕を含有する健康食品(特許文献2参照)、甘しょ焼酎蒸留粕にセルラーゼ系酵素と米麹及び/又は麦麹とを添加して可溶化処理を行った後、圧搾ろ過して分離させた固形分を乾燥させることによって得られることを特徴とする、健康食品素材(特許文献3参照)が開示されている。
また、甘藷焼酎モロミ粕は、植物ステロールを含んでおり、前記植物ステロールは、降コレステロール剤として注目されている(非特許文献1参照)。
【0007】
このように優れた栄養素を含む焼酎モロミ粕を手軽に摂取するには、顆粒や錠剤の形が望ましい。しかしながら、甘藷焼酎モロミ粕を錠剤に成形するには、甘藷焼酎モロミ粕全量に対して、少なくとも25%の賦形剤及び結合剤などの添加剤が必要であり、錠剤中に甘藷焼酎モロミ粕以外の成分を含むこととなる。そのため、これまでの錠剤では、甘藷焼酎モロミ粕の含有量が低下せざるを得なかった。
また、賦形剤及び結合剤を用いると、甘藷焼酎モロミ粕と均一に混合する工程が必要となったり、錠剤成形工程において、得られた錠剤同士の凝集が起こり、目的とする大きさや形の錠剤の成形が困難であったり、製造された錠剤の色が褐変化してしまったり、また、製造された錠剤を長期保存している間に、錠剤同士の凝集や、錠剤の褐変化や、錠剤の吸湿性により、かびが生えやすくなってしまうなどの問題も挙げられる。
さらに、錠剤成形の際に用いられる賦形剤や結合剤によって嵩増しがされるので、一回に摂取する錠剤の数が多くなったり、もともと高カロリー物質でもある賦形剤や結合剤の余計なカロリーを摂取してしまうなど、健康管理に気を使う消費者の間で賦形剤や結合剤などの添加物を敬遠する傾向が年々高まっている。
そこで、賦形剤や結合剤を用いない錠剤の開発が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−178519号公報
【特許文献2】特開2002−308793号公報
【特許文献3】特許3806101号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Foods Food Ingredients J.Jpn.、Vol.210、No.6、487−503、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、甘藷焼酎モロミ粕を賦形剤及び結合剤を用いることなく、錠剤として必要な硬度、崩壊性を有する錠剤に容易に成形することができ、得られた錠剤のラジカル消去能、保存安定性が優れ、また、優れた栄養素を含む甘藷焼酎モロミ粕の錠剤中における含有量を高められ、さらに、肌の状態改善や、腸内環境改善や、抗疲労効果を有する甘藷焼酎モロミ粕を植物組織崩壊酵素で処理して得られた健康食品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 甘藷焼酎モロミ粕を植物組織崩壊酵素で処理する酵素処理工程と、前記酵素処理された甘藷焼酎モロミ粕を用い、賦形剤及び結合剤を用いることなく、前記酵素処理された甘藷焼酎モロミ粕を錠剤に成形する錠剤成形工程とを含み、
前記植物組織崩壊酵素が、キシラナーゼ系の酵素、及びセルラーゼ系の酵素から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする健康食品の製造方法である。
<2> 植物組織崩壊酵素が、更にぺクチナーゼ系の酵素を含む前記<1>に記載の健康食品の製造方法である。
<3> 酵素処理工程が、植物組織崩壊酵素で処理された甘藷焼酎モロミ粕を加熱する加熱工程を含む前記<1>から<2>のいずれかに記載の健康食品の製造方法である。
<4> 甘藷焼酎モロミ粕を植物組織崩壊酵素で処理して得られた健康食品であって、ラジカル消去能が、4[μmol Trolox 相当量/g]〜12[μmol Trolox 相当量/g]であることを特徴とする健康食品である。
<5> 植物組織崩壊酵素が、キシラナーゼ系の酵素とぺクチナーゼ系の酵素を含む前記<4>に記載の健康食品である。
<6> 甘藷焼酎モロミ粕を植物組織崩壊酵素で処理して得られた健康食品が、賦形剤及び結合剤を含まない前記<4>から<5>のいずれかに記載の健康食品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、甘藷焼酎モロミ粕を賦形剤及び結合剤を用いることなく、錠剤として必要な硬度、崩壊性を有する錠剤に容易に成形することができ、得られた錠剤のラジカル消去能、保存安定性が優れ、また、優れた栄養素を含む甘藷焼酎モロミ粕の錠剤中における含有量を高められ、さらに、肌の状態改善や、腸内環境改善や、抗疲労効果を有する甘藷焼酎モロミ粕を植物組織崩壊酵素で処理して得られた健康食品及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(甘藷焼酎モロミ粕を酵素処理して得られた健康食品の製造方法)
本発明の甘藷焼酎モロミ粕を酵素処理して得られた健康食品の製造方法は、酵素処理工程と、錠剤成形工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0014】
−酵素処理工程−
前記酵素処理工程は、甘藷焼酎モロミ粕を植物組織崩壊酵素で処理する工程である。具体的には、甘藷焼酎モロミ粕に植物組織崩壊酵素を添加して作用させることにより、甘藷焼酎モロミ粕の組織構造を変化させたり、甘藷焼酎モロミ粕中にキシロオリゴ糖などの様々なオリゴ糖を生成する工程である。
【0015】
前記甘藷焼酎モロミ粕としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、甘藷焼酎モロミ粕そのもの、乾燥甘藷焼酎モロミ粕、乾燥甘藷焼酎モロミ粕に水を加えてペースト状にしたもの、甘藷焼酎モロミ粕脱水ケーキなどが挙げられる。
甘藷焼酎モロミ粕そのものでは、ドロドロとして高粘度であるため扱いにくく、また腐敗しやすいのに対し、乾燥甘藷焼酎モロミ粕は、取り扱いが容易であり、また腐敗し難いので冷暗所での長期保存が可能なことから特殊な貯蔵設備が不要な点で好ましく、植物組織崩壊酵素で処理する際、乾燥甘藷焼酎モロミ粕に酵素反応に適量の水を加えてペースト状にしたものは植物組織崩壊酵素の至適pHの範囲内のpHであることから、pH調節が不要な点でより好ましい。
【0016】
前記乾燥甘藷焼酎モロミ粕中の水分含量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10質量%未満が、取り扱いが容易である点や腐敗しにくい点で好ましい。
前記甘藷焼酎モロミ粕に水を加えてペースト状にしたものとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水分含量が10質量%未満の乾燥甘藷焼酎モロミ粕40質量部に、水60質量部を加えてペースト状にしたものなどが挙げられる。
前記甘藷焼酎モロミ粕脱水ケーキとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水分含量が85質量%のものなどが挙げられる。
【0017】
前記植物組織崩壊酵素とは、セルロース、ヘミセルロース(キシラン、マンナン、ペクチンなど)を低分子に分解する酵素をいう。
前記酵素処理工程では、前記植物組織崩壊酵素として、キシラナーゼ系の酵素、及びセルラーゼ系の酵素から選択される少なくとも1種が用いられる。
前記キシラナーゼ系の酵素、及びセルラーゼ系の酵素以外の植物組織崩壊酵素としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ペクチナーゼ系の酵素、マンナナーゼ系の酵素、ヘミセルラーゼ系の酵素、プロトペクチナーゼ系の酵素などが挙げられる。
これらの中でも、キシラナーゼ系の酵素で甘藷焼酎モロミ粕を処理した場合、セルラーゼ系の酵素やその他の植物組織崩壊酵素で処理した場合と比べて、打錠した際にひび割れしにくい錠剤ができる点で好ましい。
また、ぺクチナーゼ系の酵素は、それ単独で甘藷焼酎モロミ粕を処理した場合には打錠しても錠剤に成形できなかった(後述する比較例4参照)。しかし、キシラナーゼ系の酵素と併用した場合、キシラナーゼ系の酵素を単独で甘藷焼酎モロミ粕を処理した場合よりも、打錠中あるいは成形された錠剤に、帽子状に薄く剥れるキャッピングや層状に分離するラミネーティングがおこり難くなり有効打錠率が高くなる点で好ましい。
なお、前記セルラーゼ系の酵素を主に用いて甘藷焼酎モロミ粕を処理すると、甘藷焼酎モロミ粕中のセルロースが分解され過ぎて液分が多くなり、前記酵素処理工程の後に行う乾燥工程において時間が掛かるなどの支障がでる。
【0018】
前記キシラナーゼ系の酵素としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Asperugillus nigerTrichodrma virideRhizopus sp.由来の酵素が挙げられる。これらの中でも、Asperugillus niger由来の酵素が、至適pHが甘藷焼酎モロミ粕自体のpH値であるpH4.0付近であるものが多いので、pH調整が不要である点で好ましい。キシラナーゼ系酵素に分類されている市販品の例として、セルロシンHC100、セルロシンHC、セルロシンTP25、セルロシンB、ヘミセルラーゼM(以上、HBI株式会社製)、スミチームX(新日本化学工業株式会社製)、ヘミセルラーゼ「アマノ」90(天野エンザイム株式会社製)、グリンドアミルH(ダニスコジャパン株式会社製)、ベイクザイムHS2000、ベイクザイムIConc(日本シイベルヘグナー株式会社)、ペントパンモノ、ペントパン、シーアザイム(ノボザイムズジャパン株式会社製)などがある。また、キシラナーゼ系酵素に分類されてはいないがキシラナーゼも含有している市販品の酵素として、スミチームACH(新日本化学工業株式会社製)、セルロシンPC5(HBI株式会社製)などがある。
【0019】
前記セルラーゼ系の酵素としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Trichodrma reeseiTrichodrma virideAsperugillus niger由来の酵素などが挙げられる。これらの中でも、Trichodrma reeseiTrichodrma virideなどのTrichodrma属由来の酵素が、他の微生物由来の酵素よりもセルロース分解能力が強く、甘藷焼酎モロミ粕の繊維質塊を細かくするので、後述する顆粒製造工程での篩過が支障なく行われる点で好ましい。セルラーゼ系酵素に分類されている市販品の例として、セルラーゼA「アマノ」3、セルラーゼT「アマノ」4(以上、天野エンザイム株式会社製)、セルラーゼSS,セルラーゼXL−531(以上、ナガセケムテックス株式会社製)、メイセラーゼ(明治製菓株式会社製)、セルロシンAC40、セルロシンAL、セルロシンT(以上、HBI株式会社製)、セルラーゼ“オノズカ”3S、セルラーゼY−NC、パンセラーゼBR(以上、ヤクルト薬品工業株式会社製)、GODO−TCF(合同酒精株式会社製)、スペザイムCP、GC220(以上、ジェネンコア協和株式会社)などがある。
【0020】
前記ペクチナーゼ系の酵素としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Rizopus sp.Trichodrma penicillatumAspergillus usamiiAsperugillus nigerBacillus subtilisAspergillus pulverulentus由来の酵素などが挙げられる。これらの中でも、Rizopus sp.由来の酵素が、野菜類の植物細胞壁を崩壊させる効果が高い点で好ましい。ペクチナーゼ系酵素に分類されている市販品の例として、セルロシンPC5、セルロシンPE60、セルロシンPEL、セルロシンME、可溶性ペクチナーゼT(以上、HBI株式会社製)、スミチームPX、スミチームAP−2、スミチームSPC、スミチームMC、(以上、新日本化学工業株式会社製)、ペクチナーゼG「アマノ」、ペクチナーゼPL「アマノ」(以上、天野エンザイム株式会社製)、ペクチナーゼSS、ペクチナーゼHL(以上、ヤクルト薬品工業株式会社製)スクラーゼN、スクラーゼS(以上、三菱化学フーズ株式会社製)、Pectinase−GODO(合同酒精株式会社製)、ペクチナーゼXP−534 NEO(ナガセケムテックス株式会社製)、ペクチネックス、ペクチネックスウルトラSP−L、ウルトラザイム、ビノザイム、シトロザイム、ビールザイム(以上、ノボザイムズジャパン株式会社製)、ROHAPECT10L(樋口商会株式会社製)などがある。また、キシラナーゼとペクチナーゼを混合している市販品の酵素として、スクラーゼA(三菱化学フーズ株式会社製)がある。
【0021】
前記植物組織崩壊酵素は、キシラナーゼ系の酵素、及びセルラーゼ系の酵素から選択される少なくとも1種を含んでいれば、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいが、キシラナーゼ系の酵素、及びセルラーゼ系の酵素から選択される少なくとも1種とペクチナーゼ系の酵素との併用が好ましく、キシラナーゼ系の酵素とペクチナーゼ系の酵素の併用が特に好ましい。
なお、甘藷焼酎モロミ粕が、原料である甘藷の根毛などの植物組織片を多く含有する場合などは、キシラナーゼ系の酵素やペクチナーゼ系の酵素の他に、少量のセルラーゼ系の酵素を併用してもよい。
【0022】
前記植物崩壊酵素として、キシラナーゼ系の酵素と、ペクチナーゼ系の酵素とを併用する場合、前記キシラナーゼ系の酵素の使用量と、前記ペクチナーゼ系の酵素の使用量との割合としては、質量比(キシラナーゼ酵素の使用量:ペクチナーゼ系酵素の使用量)で、4:1〜1:4が好ましく、2:3がより好ましい。
【0023】
前記植物組織崩壊酵素の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、乾燥甘藷焼酎モロミ粕に対して、0.05質量%〜0.3質量%が好ましく、0.1質量%〜0.3質量%が特に好ましい。前記植物組織崩壊酵素の添加量が、甘藷焼酎モロミ粕に対して、0.05質量%未満であると、前記植物組織崩壊酵素の反応速度が遅く、目的とする状態の甘薯モロミ粕を得るまでに時間が掛かり過ぎ、0.3質量%を超えると、前記植物組織崩壊酵素の反応速度が速いが現実的にコストの面で好ましいとはいえない。一方、前記植物組織崩壊酵素の添加量が前記特に好ましい範囲内であると、酵素反応に掛ける時間や費用を抑える点で有利である。
【0024】
前記酵素処理の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、使用する酵素の至適温度とすることが好ましい。例えば、キシラナーゼ系の酵素の場合は、30℃〜60℃が好ましく、45℃〜55℃がより好ましい。また、例えば、セルラーゼ系の酵素の場合は、40℃〜60℃が好ましく、50℃〜60℃がより好ましい。さらに、例えば、ペクチナーゼ系の酵素の場合は、40℃〜60℃が好ましく、45℃〜55℃がより好ましい。
【0025】
前記酵素処理の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2時間〜48時間が好ましく、8時間〜24時間が特に好ましい。
前記酵素処理の時間が、2時間未満であると、酵素による甘薯モロミ粕の分解反応が不十分な場合がある。また酵素処理は長時間行った方が甘藷モロミ粕の分解量が多くなるが、生産性を考慮した場合好ましくない。一方、前記酵素処理の時間が前記特に好ましい範囲内であると、酵素処理の効果を最大限に引出すのみならず、反応槽の温度コントロールに使用する燃料を節約できるのでコスト抑制の面においても優れている点で有利である。
また、キシラナーゼ系の酵素とペクチナーゼ系の酵素など、複数の酵素を併用する場合、至適pHと至適温度が同じ酵素を選択すればpH調整が不要であるばかりではなく同時に添加し反応させることが出来て作業工程の省略化が図れるので、コスト抑制の面においても優れている点で好ましい。
【0026】
前記酵素処理の状態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、静置状態、攪拌状態、振盪状態などが挙げられる。中でも、攪拌状態が甘薯焼酎モロミ粕の未反応組織と前記植物組織崩壊酵素との接触が偏り無く行われることから分解反応が促進される共に、撹拌によって甘薯焼酎モロミ粕の組織を破壊する力が加わるので、甘薯焼酎モロミ粕の繊維質からなる凝集塊がほぐれ、ペーストのきめが細かくなるという点で好ましい。
【0027】
−−加熱工程−−
前記酵素処理工程は、植物組織崩壊酵素で処理された甘藷焼酎モロミ粕を加熱する加熱工程を含んでもよい。前記加熱工程は、前記植物組織崩壊酵素を失活させるとともに、前記植物組織崩壊酵素で処理された甘藷焼酎モロミ粕を殺菌する工程である。
前記加熱工程の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、70℃〜100℃が好ましく、85℃〜95℃が特に好ましい。
前記加熱工程の温度が70℃未満であると、甘薯焼酎モロミ粕の殺菌や酵素の失活が不十分となることがあり、100℃を超えると、前記酵素処理工程反応槽の壁に付着したモロミペーストが焦げ、攪拌する間に反応物に混ざって最終反応物が焦げ臭くなることがある。一方、前記加熱工程の温度が前記特に好ましい範囲内であると、風味を損なわず、汎用の加熱攪拌機を使えば前記加熱工程が全て行える点で有利である。
【0028】
前記加熱工程の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、15分〜1時間が好ましく、30分〜1時間が特に好ましい。
前記加熱工程の時間が、15分未満であると、前記植物組織崩壊酵素の失活や殺菌が不十分な場合があり、1時間を超える加熱は時間と燃料などの浪費に繋がる。一方、前記加熱工程の時間が前記特に好ましい範囲内であると、実際の作業の段取りやコストの点で好ましい。
【0029】
−−pH調節工程−−
前記酵素処理工程は、pHを調節するpH調節工程を含んでもよい。前記pHは、前記植物組織崩壊酵素の活性がある範囲であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記pH調節に用いるpH調節剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸等の有機酸が挙げられる。また、食品製造にも使用できる塩酸も挙げられるが、最終的には苛性ソーダで中和しなければならないという作業における手間を考慮すると、使用についてはあまり好ましくない。
なお、前記甘藷焼酎モロミ粕には、クエン酸などの有機酸が含まれており、乾燥甘藷焼酎モロミ粕に水を加えてペースト状にしたもののpHは4〜5であるため、乾燥甘藷焼酎モロミ粕に水を加えてペースト状にしたものを使用する場合、pH調節工程を含まなくてもよい。
【0030】
−錠剤成形工程−
前記錠剤成形工程は、前記酵素処理された甘藷焼酎モロミ粕を用い、賦形剤及び結着剤を用いることなく、前記酵素処理された甘藷焼酎モロミ粕を錠剤に成形する工程である。
前記錠剤成形工程は、前記酵素処理された甘藷焼酎モロミ粕を顆粒に成形し、前記顆粒を錠剤に成形する工程を含んでもよい。
【0031】
前記賦形剤は、例えば、澱粉、乳糖、白糖などが挙げられる。また、前記結合剤は、例えば、還元水飴、結晶セルロース、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、アラビアガムなどが挙げられる。
【0032】
前記錠剤に成形する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、直接打錠法、顆粒打錠法、などが挙げられる。
【0033】
前記直接打錠法は、前記酵素処理された甘藷焼酎モロミ粕をそのまま打錠する方法である。この方法は顆粒製造工程を省略出来る事から、コスト的に有利である。前記酵素処理された甘薯焼酎モロミ粕ペーストの水分含量を10質量%以下にまで乾燥して粉末化すれば、顆粒製造工程を経ることなく直接打錠法にて打錠することが出来る。
【0034】
前記顆粒打錠法は、前記酵素処理された甘藷焼酎モロミ粕を顆粒に成形してから打錠する方法であり、打錠機への原料粉末の供給に必要な流動性や圧縮条件の設定の選択肢が多い点に特徴がある。前記顆粒を成形する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、押出し造粒法、攪拌造粒法、転動造粒法、流動層造粒法、噴霧乾燥造粒法、破砕造粒法などが挙げられる。
【0035】
−−乾燥工程−−
前記錠剤成形工程は、前記酵素処理された甘藷焼酎モロミ粕を顆粒に成形する前及び成形した後に、乾燥する乾燥工程を含んでもよい。
前記乾燥する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酵素処理終了直後の甘藷焼酎モロミ粕を、粉砕工程や顆粒成形工程など後の工程に適した水分含有量に調整する為に乾燥工程を設ける場合は、ドラム式乾燥機により乾燥する方法、熱風乾燥機により乾燥する方法、凍結乾燥機により乾燥する方法、乾熱乾燥機により乾燥する方法などが挙げられ、顆粒成形工程後に乾燥工程を設ける場合は、熱風乾燥機により乾燥する方法、流動層乾燥機により乾燥する方法、凍結乾燥機により乾燥する方法、乾熱乾燥機により乾燥する方法などが挙げられる。
【0036】
−−粉砕工程−−
前記錠剤成形工程は、前記酵素処理工程前及び終了後の甘藷焼酎モロミ粕を適切な大きさにする為の粉砕工程を含んでもよい。
例えば、前記粉砕工程を前記酵素処理工程前に行った場合、前記植物組織崩壊酵素が甘藷焼酎モロミ粕に作用しやすくなる。また前記粉砕工程を前記酵素処理工程後に行った場合は、前記酵素処理工程で分解せずに残った根毛などの植物組織片を破砕することで甘藷焼酎モロミ粕のキメが細かく均一になり、結果として製造した錠剤の強度を増すことが出来る。
前記粉砕の方法は、特に制限がなく、目的に応じて汎用されている粉砕機を選択すればよい。例えば、ボールミル、振動ボールミル、ハンマーミル、ジェットミル、コロイドミル、ピンミル、スクリューミル、スタンプミル、ロールミル、自生粉砕機、碾臼などがある。
【0037】
−その他の工程−
前記その他の工程としては、本発明の効果を害しない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ろ過工程などが挙げられる。
【0038】
−−ろ過工程−−
前記ろ過工程は、前記酵素処理工程の後に、前記酵素処理された甘藷焼酎モロミ粕を固液分離する工程である。
前記ろ過工程は、前記酵素処理された甘藷焼酎モロミ粕の液分を除く必要がある場合に行うことができ、例えば、前記酵素処理工程で、前記セルラーゼ系の酵素を主に用いて甘藷焼酎モロミ粕を処理し、甘藷焼酎モロミ粕中のセルロースが分解され過ぎて液分が多くなり、前記錠剤成形工程で顆粒が成形されにくい場合などが挙げられる。
前記ろ過の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
また、前記ろ過工程にて発生したろ液は、その液中に水溶性の栄養成分が含まれている為、回収して必要ならば濃縮など適宜処理を行い、錠剤製造に使用する。
【0039】
(甘藷焼酎モロミ粕を酵素処理して得られた健康食品)
本発明の健康食品は、本発明の前記方法によって得られた健康食品であって、ラジカル消去能が、4[μmol Trolox 相当量/g]〜12[μmol Trolox 相当量/g]である。
前記甘薯焼酎モロミ粕を植物組織崩壊酵素で処理して得られた健康食品は、賦形剤及び結合剤を含まないことが好ましい。
【0040】
−ラジカル(活性酸素)消去能−
元々、乾燥甘藷焼酎モロミ粕原料にはラジカル消去能があるが、前記酵素処理工程でさらにラジカル消去能の活性が高められる。
前記酵素処理工程にて生成した乾燥甘藷焼酎モロミ粕中のラジカル消去能をDPPHラジカル消去法にて測定したところ、5.8[μmol Trolox 相当量/g]〜11.1[μmol Trolox 相当量/g]であった。このことから、実際に本発明の方法によって製造した健康食品の前記ラジカル消去能としては、4[μmol Trolox 相当量/g]〜12[μmol Trolox 相当量/g]であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、甘藷焼酎モロミ粕のみ使用した健康食品の場合は、6[μmol Trolox 相当量/g]〜10[μmol Trolox 相当量/g]が好ましく、甘藷焼酎モロミ粕にコラーゲンやビタミン類等の栄養成分を適宜添加した場合は、4[μmol Trolox 相当量/g]〜10[μmol Trolox 相当量/g]が好ましい。
【0041】
−−DPPHラジカル消去法−−
前記DPPHラジカル消去法の測定は、以下のようにして行うことができる。
ブランク液(50%エタノール溶液)、Trolox標準液(Troloxを12.5μM、25μM、50μM、100μMの各濃度となるように50%エタノール溶液で希釈したもの)及び各サンプル液(乾燥甘藷焼酎モロミ粕の乾燥粉末を50%エタノール溶液で破砕抽出したもの)を200μLずつ試験管に順次加え、次にMES緩衝液(pH6.0)を800μLずつ加える。
さらに500μM DPPH(1,1−diphenyl−2−picrylhydrazyl(和光純薬製))50%エタノール溶液を1mlずつ加えよく混合した後、室温、暗所にて20分間静置し、分光光度計にて波長520nmの吸光度を測定する。
サンプル1g当りのDPPHラジカル消去能は、ブランクとサンプル液の測定値をTrolox標準液の検量線に代入して、Trolox換算量で示される。なお、サンプル溶液は、同じサンプルを各三本ずつ測定し、その平均値とした。
【0042】
前記甘薯焼酎モロミ粕を植物組織崩壊酵素で処理して得られた健康食品における、前記植物組織崩壊酵素としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、キシラナーゼ系の酵素、及びセルラーゼ系の酵素から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、キシラナーゼ系の酵素とペクチナーゼ系の酵素の併用がより好ましい。
なお、前記植物組織崩壊酵素の例は、上述と同じである。
【0043】
−キシロオリゴ糖−
本発明の前記健康食品は、キシロオリゴ糖を含む。
前記キシロオリゴ糖は、前記酵素処理工程で生成されるものである。前記酵素処理工程で生成したキシロオリゴ糖が打錠工程における結合剤の役割を果たしているかは定かではないが、前記酵素処理工程にて生成される乾燥甘藷焼酎モロミ粕中のキシロオリゴ糖量をHPLC法にて測定したところ、3.9質量%〜4.3質量%であった。このことから、実際に本発明の方法によって製造した健康食品中の前記キシロオリゴ糖の含有量としては、甘藷焼酎モロミ粕のみ使用の場合は3.5質量%〜4.0質量%が好ましく、目的によってコラーゲンやビタミン類等の栄養成分を適宜添加した場合は2.0質量%〜3.5質量%が好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1−1)
加熱攪拌機(レオニーダーKH−S6EL型、梶原工業化株式会社製)に水分含量が10質量%未満の乾燥甘藷焼酎モロミ粕(サザンクリーン協同組合製,製造Lot2006.12.23)100kgと水100kgを加え、混合し、ペースト状の甘藷焼酎モロミ粕を得た。
植物崩壊酵素として、キシラナーゼ(セルロシンHC100(エイチ・ビィ・アイ社製))0.2kgを前記ペースト状の甘藷焼酎モロミ粕に添加し、攪拌しながら50℃で24時間酵素処理を行った後、引き続き攪拌しながら98℃で1時間加熱して酵素を失活させると共に、前記酵素処理されたペースト状の甘藷焼酎モロミ粕を殺菌した。
その後、前記酵素処理されたペースト状の甘藷焼酎モロミ粕を水分含量が10質量%未満となるように60℃で5時間乾燥した後、スクリーンサイズが1mmのハンマーミル(不二パウダル製)を用いて、篩分けによる粒度の累積分布の平均粒径が15μmとなるように粉砕した。
そして、前記酵素処理された甘藷焼酎モロミ粕粉末を用いた直接打錠法で、打錠機(菊水製作所製)にて、Φ9mm丸型、11.5Rの杵を使用し、回転盤回転数13rpm〜16rpmの条件で直径9mm、厚さ4.6mm、質量300mgの錠剤の成形を行った(打錠時間30分)。
【0045】
(実施例1−2)
実施例1−1において、キシラナーゼをセルラーゼ(セルロシンT(エイチ・ビィ・アイ社製))に代えた以外は、実施例1−1と同条件の酵素処理及び乾燥・粉砕・打錠操作を行い、錠剤の成形を行った。
【0046】
(実施例2−1〜2−5)
表3−1に示す配合で、キシラナーゼ(セルロシンHC100(エイチ・ビィ・アイ社製))とペクチナーゼ(ペクチナーゼ・ナガセ(ナガセケムテック製))の酵素総質量が、前記乾燥甘藷焼酎モロミ粕に対して0.2質量%となるように前記ペースト状の甘藷焼酎モロミ粕に添加した以外は、実施例1−1と同条件の酵素処理及び乾燥・粉砕・打錠操作を行い、錠剤の成形を行った。
【0047】
(比較例1)
実施例1と同様の方法でペースト状の甘藷焼酎モロミ粕を得た後、前記ペースト状の甘藷焼酎モロミ粕に植物組織崩壊酵素を加えていない試料を、攪拌しながら50℃で24時間保持後、引き続き攪拌しながら98℃で1時間加熱して甘藷焼酎モロミ粕を殺菌した。
その後、実施例1と同様の乾燥・粉砕・打錠操作を行い、錠剤の成形を行った。
【0048】
(比較例2)
実施例1において、乾燥甘藷焼酎モロミ粕の使用量を100kgから80kgに変えた以外は、実施例1と同様の方法でペースト状の甘藷焼酎モロミ粕を得た。その後、前記ペースト状の甘藷焼酎モロミ粕に結合剤としてキシロオリゴ糖(和光純薬製)20kgを添加した試料を、攪拌しながら50℃で24時間保持後、引き続き攪拌しながら98℃で1時間加熱して甘藷焼酎モロミ粕を殺菌した。
その後、実施例1と同様の乾燥・粉砕・打錠操作を行い、錠剤の成形を行った。
【0049】
(比較例3)
実施例1において、乾燥甘藷焼酎モロミ粕の使用量を100kgから75kgに変えた以外は、実施例1と同様の方法でペースト状の甘藷焼酎モロミ粕を得た。その後、前記ペースト状の甘藷焼酎モロミ粕に結合剤として還元麦芽糖水飴粉末(株式会社林原商事製)25kgを添加した試料を、攪拌しながら50℃で24時間保持後、引き続き攪拌しながら98℃で1時間加熱して甘藷焼酎モロミ粕を殺菌した。
その後、実施例1と同様の乾燥・粉砕・打錠操作を行い、錠剤の成形を行った。
【0050】
(比較例4)
実施例1−1において、キシラナーゼをペクチナーゼ(ペクチナーゼ・ナガセ(ナガセケムテック社製))に代えた以外は、実施例1−1と同条件の酵素処理及び乾燥・粉砕・打錠操作を行い、錠剤の成形を行った。
【0051】
−有効打錠率−
実施例1−1〜1−2、実施例2−1〜2−5、及び比較例1〜4の方法で試作した際に得られた錠剤の有効打錠率を表3−1〜3−2に示す。
なお、「良好打錠物:完全な形に成形されたものであると目視により判定した錠剤」とみなし、
「有効打錠率[%]=(良好打錠物数/打錠時間30分中の全打錠物数)×100」
を計算式とした。
また、打錠成形出来なかった試料の欄には×印を示す。
【0052】
−硬度試験−
実施例1−1〜1−2、実施例2−1〜2−5、及び比較例1〜4の方法で得られた錠剤の硬度を、木屋式硬度計を使って測定した。結果を表3−1〜3−2に示す。なお、打錠成形出来なかった試料の欄には×印を示す。
【0053】
−崩壊試験−
日本薬局方一般試験法の「崩壊試験法」を準用し、下記の手順で崩壊試験を行い、実施例1−1〜1−2、実施例2−1〜2−5、及び比較例1〜4で得られたそれぞれの錠剤の適合性を判定した結果を表3−1〜3−2に示す。
(イ)試料(錠剤)を6個用意する。
(ロ)試験機のガラス管に前記試料を1個ずつ入れる。なお、試験機は、「崩壊試験法」に定めるものを用いる。
(ハ)試験液として、水を用い、29〜32往復/分、振幅53〜57mmの上下運動を行い、5分間隔で30分間観察する。尚、補助盤は崩壊具合の判定がし難くなる場合は用いなくてもよい。
(ニ)観察する際、試料の残留物をガラス管内に認めないか、又は認めても海綿状の物質であるか、若しくは軟質の物質若しくは泥状の物質がわずかのときは適合とする。
なお、表3−1〜3−2中、「適合」は試料の錠剤が殆ど崩壊して海綿状態若しくは泥状になった状態を表し、「不適合」は殆ど崩壊していない状態を表す。
【0054】
−ラジカル(活性酸素)消去能−
元々、乾燥甘藷焼酎モロミ粕原料にはラジカル消去能があるが、前記酵素処理工程でさらに活性が高められるかを調べるため、前記酵素処理工程にて生成した乾燥甘藷焼酎モロミ粕中のラジカル消去能を以下のDPPHラジカル消去法にて測定した。なお、本試験にて行った試験方法は食品の機能性評価マニュアル集(出版者:農林水産省農林水産技術会議事務局食品総合研究所)を参考にした。
−−DPPHラジカル消去法−−
ブランク液(50%エタノール溶液)、Trolox標準液(Troloxを12.5μM、25μM、50μM、100μMの各濃度となるように50%エタノール溶液で希釈したもの)及び各サンプル液(原料の乾燥甘藷焼酎モロミ粕と実施例1−1〜1−2、実施例2−1〜2−5、及び比較例1〜4で作成した打錠成形前の乾燥粉末を50%エタノール溶液で破砕抽出したもの)を各々200μLずつ試験管に順次加え、次にMES緩衝液(pH6.0)を800μLずつ加えた。さらに500μM DPPH(1,1−diphenyl−2−picrylhydrazyl(和光純薬製))50%エタノール溶液を1mlずつ加えよく混合した後、室温、暗所にて20分間静置し、分光光度計にて波長520nmの吸光度を測定した。各サンプル1g当りのDPPHラジカル消去能は、ブランクと各サンプル液の測定値をTrolox標準液の検量線に代入して、Trolox換算量で示した。なお、サンプル溶液は、同じサンプルを各三本ずつ測定し、その平均値とした。
表3−1〜3−2に実施例1−1〜1−2、実施例2−1〜2−5、及び比較例1〜4で作成した打錠成形前の乾燥粉末のDPPHラジカル消去能の測定値を示す。
【0055】
【表3−1】

【表3−2】

【0056】
表3−1〜3−2から、キシラナーゼ、又はセルラーゼで処理することにより賦形剤及び結合剤を用いることなく錠剤を成形できることがわかった(実施例1−1、1−2)。キシラナーゼを用いた実施例1−1の錠剤は、セルラーゼを用いた実施例1−2の錠剤よりも硬度が高く、錠剤の成形に必要な結着性が高く、結合剤を加えた比較例の錠剤と遜色のない硬度を有する錠剤を成形可能であることがわかった。
【0057】
さらに実施例2−1〜2−5から、キシラナーゼとペクチナーゼを併用することにより、キシラナーゼのみを用いて処理した実施例1−1よりも有効打錠率が飛躍的に高まることがわかった。単独で処理した場合は錠剤成形が出来ないペクチナーゼをキシラナーゼと併用した実施例2−1〜2−5の場合には、比較例に対しても遜色のない硬度を得られたので、キシラナーゼとペクチナーゼによる相乗効果があることがわかった。
【0058】
キシラナーゼとペクチナーゼを作用させて作製した実施例2−4の錠剤が最も硬度が高かったにもかかわらず、キシラナーゼを単独で作用させて作製した実施例1−1の錠剤や結合剤を添加した比較例2及び比較例3の錠剤と同様の崩壊性を有していることがわかった。
【0059】
乾燥甘藷焼酎モロミ粕にペクチナーゼを作用させることにより、原料の乾燥甘藷焼酎モロミ粕よりも約4倍も高いラジカル消去能を有することが判った。しかし、ペクチナーゼ単独では打錠出来無い。そこで、キシラーゼとペクチナーゼを併用することで、ペクチナーゼを単独で作用させた場合に近い値の高いラジカル消去能を得られることが判った。
【0060】
有効打錠率と錠剤の硬度とラジカル消去能の高さ及び良好な崩壊性を総合的に判断すれば、本発明における乾燥甘藷焼酎モロミ粕の錠剤を作製する最適条件は、実施例2−4である。キシラーゼとペクチナーゼを等量に作用させるよりもそれ単独では結着力を生じないペクチナーゼを少し多めに添加することで結着性が高まるのは興味深い。
【0061】
−経口摂取試験−
優れた栄養素を含んだ甘藷焼酎モロミ粕を酵素処理し、賦形剤及び結合剤を用いずに成形された甘藷焼酎モロミ粕の錠剤が健康食品としての機能を有するかを、20歳〜60歳の女性20人のモニターに、実施例2−4で作製した錠剤を1日5錠ずつ、2ヶ月間摂取してもらい、摂取期間終了後にアンケートを行うことにより検証した。アンケート結果を表4に示す。
なお、乾燥甘藷焼酎モロミ粕にはセラミドが0.06質量%含まれることから、前記錠剤1錠中には、セラミドが0.18mg含まれていることとなる。また、セラミドの推奨摂取量は、0.6mg/日〜1.2mg/日とされている。よって、前記錠剤を1日5錠摂取することで、1日のセラミドの推奨摂取量を摂取することとなる。
【0062】
【表4】

【0063】
表4に示すように、甘藷焼酎モロミ粕を酵素処理し、賦形剤及び結合剤を用いないで作成した錠剤を摂取することで、肌の乾燥や便秘が特に改善されていた。これは、前記錠剤が体内で崩壊し、甘藷焼酎モロミ粕中に含まれるセラミドや酵素処理によって生成したキシロオリゴ糖やラジカル消去能が体内で作用しているものと考えられる。また、疲れにくくなったという回答もあることから、甘藷焼酎モロミ粕中に含まれるアミノ酸類や有機酸も体内で作用しているものと考えられる。
上記アンケートの回答のほかに、「冷え性が改善した。(5人)」、「フケが減った。(4人)」などの評価もあった。
以上から、優れた栄養素を含んだ甘藷焼酎モロミ粕を酵素処理し、賦形剤及び結着剤を用いずに成形された甘藷焼酎モロミ粕の錠剤が健康食品としての機能を有することが判った。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の甘藷焼酎モロミ粕を酵素処理して得られた健康食品の製造方法は、賦形剤や結合剤を用いることなく錠剤に成形することが可能であるため、多量のセラミドと、食物繊維とオリゴ糖類、アミノ酸類などの優れた栄養素を含む甘藷焼酎モロミ粕の錠剤を成形するのに好適に用いることができる。
また、本発明の甘藷焼酎モロミ粕を植物組織崩壊酵素で処理して得られた健康食品は、多量のセラミドと、食物繊維とオリゴ糖類、アミノ酸類などの優れた栄養素を含み、さらにラジカル消去能も有する甘藷焼酎モロミ粕の錠剤として、サプリメントに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘藷焼酎モロミ粕を植物組織崩壊酵素で処理する酵素処理工程と、前記酵素処理された甘藷焼酎モロミ粕を用い、賦形剤及び結合剤を用いることなく、前記酵素処理された甘藷焼酎モロミ粕を錠剤に成形する錠剤成形工程とを含み、
前記植物組織崩壊酵素が、キシラナーゼ系の酵素、及びセルラーゼ系の酵素から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする健康食品の製造方法。
【請求項2】
植物組織崩壊酵素が、更にぺクチナーゼ系の酵素を含む請求項1に記載の健康食品の製造方法。
【請求項3】
甘藷焼酎モロミ粕を植物組織崩壊酵素で処理して得られた健康食品であって、ラジカル消去能が、4[μmol Trolox 相当量/g]〜12[μmol Trolox 相当量/g]であることを特徴とする健康食品。
【請求項4】
植物組織崩壊酵素が、キシラナーゼ系の酵素とぺクチナーゼ系の酵素を含む請求項3に記載の健康食品。

【公開番号】特開2011−24496(P2011−24496A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174512(P2009−174512)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(504028171)有限会社 備南食研 (3)
【Fターム(参考)】