説明

生体信号計測用電極、並びに、その使用方法及び製造方法

【課題】脳波測定と並行してX線CTやMRIによる撮像を行ってもアーチファクトが写りこまない鮮明な画像を得ることができ、かつ、安価で使い捨てが可能で、長時間安定して使用することが可能で、更に、従来用いられていた導電性ペーストの使用を回避することのできる生体信号計測用電極、並びに、その使用方法及び製造方法を提供すること。
【解決手段】非金属導電性フィラーと、水と、水溶性ポリマーを含むマトリクス樹脂と、を含有する生体信号計測用電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体信号計測用電極、並びに、その使用方法及び製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、生体内の脳や筋肉、心臓等が発する電気信号の計測において、導電性ペーストを介さずに電極を直接皮膚に貼り付けることで低ノイズの波形が得られる電極と、その使用方法及び製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
医療高度化のニーズに伴い、脳外科手術においては、X線CTやMRI等と脳波計測が同時に行われることが望ましい。従来の脳波計測用電極は、銀皿電極の使用により、X線CTとの併用やMRIとの併用においてアーチファクトと呼ばれる偽像が写りこみ、診断の弊害となることが知られている。また、銀皿電極は高価なため、1回の使用で廃棄されず複数の患者に使い回されることもあり、感染症の危険性も懸念されている。このような背景から、安価で使い捨てが可能であり、かつ、磁場やX線と干渉の少ない脳波計測用電極が望まれている。
【0003】
そのような脳波計測用電極として、非金属のカーボン材料を用いた脳波計測用電極の開発が提案されている。しかしながら、カーボン材料は基本的に粉末材料であるため、電極として適した形状に成形するためには、結着成分として寄与する高分子と混合させたコンポジット電極とする必要がある。このため、概して銀皿電極と比較すると高抵抗となり、脳波計測においてノイズが増加し、SN比が低下することとなる。そこで、カーボン系電極の抵抗低減のため、導電性のカーボンフィラーとしてカーボンナノチューブを用いる方法が有効な手段として報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−246678
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カーボンナノチューブを利用した特許文献1に記載の電極は、表面が硬く平滑であるためそのまま頭部に接触させても良好な脳波を得ることは難しい。そのため、通常、皮膚と電極間に導電性のペースト(クリーム)を介在させ、電極と皮膚間の界面抵抗を低減しかつ測定部位の位置固定をすることで脳波計測を可能にしている。この導電ペーストは長時間頭皮に付着すると固化し、測定後の除去が困難になる。また、頭髪が存在する場合には、被験者自身や医療担当者が診断後に頭髪を洗浄する必要が生じる等、医療現場に一定の負担を強いることになる。このような背景から、皮膚と電極との間に導電ペーストを用いない電極の開発が望まれているのが実情である。
【0006】
そこで本発明は、脳波測定と並行してX線CTやMRIによる撮像を行ってもアーチファクトが写りこまない鮮明な画像を得ることができ、かつ、安価で使い捨てが可能で、長時間安定して使用することが可能で、更に、従来用いられていた導電性ペーストの使用を回避することのできる生体信号計測用電極、並びに、その使用方法及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、非金属導電性フィラーと、水と、水溶性ポリマーを含むマトリクス樹脂と、を含有する生体信号計測用電極を提供する。本発明の生体信号計測用電極は、生体から発せられた電気信号を検出する電極であり、皮膚と電極との間に導電ペーストを介在させずに、皮膚から直接信号を検出することができる。この生体信号計測用電極によれば、生体信号計測用センサを用いて脳波検出を行いながら、X線CTやMRIによる撮像を行っても、X線や磁気が乱れないので、アーチファクトが写りこまない鮮明なCT画像やMRI画像を得ることができる。このため、例えば、脳外科手術中に、本発明に係る生体信号計測用センサを用いて脳の機能的な情報を取得しつつ、並行して、X線CTやMRIにより脳の形態的な情報を取得して、安全性の高い手術を実施することができる。また、導電ペーストを用いないため、電極の取り付け作業及び取り外し作業が大幅に簡略化することが可能で、且つ、被験者の肉体的負担も少なくすることができる。
【0008】
また、本発明の生体信号計測用電極は、その原材料が安価であるので、低価格で使い捨て可能なものとすることができる。このため、使い回しによる感染症の危険性を低減することができる。
【0009】
上記生体信号計測用電極において、水の含有量は、電極総質量を基準として0.1〜98質量%であることが好ましい。水の含有量がこの範囲内にあると、生体信号計測用電極が柔軟な状態となり、皮膚の表面形状に追従しやすく、密着させやすい。このため、皮膚への物理的刺激が少なく、長時間装着しても炎症が起こりにくいので、被験者への肉体的負担を軽減することができる。
【0010】
また、上記生体信号計測用電極において、マトリクス樹脂はゲル化していることが好ましい。マトリクス樹脂がゲル化していると、電極が多量の水を保持することが可能になり、電極の皮膚追従性が向上する。また、生体信号波形を計測する上で想定される曲げや圧縮によって保持された水が漏れ出すことがなく、試験を実施する上で好ましい。
【0011】
また、本発明の生体信号計測用電極は、水が電解質イオン成分を含むことが好ましい。水が電解質イオン成分を含むことで、含有水の導電率が向上し、より明瞭な脳波の計測が可能となる。
【0012】
また、本発明の生体信号計測用電極において、非金属導電性フィラーはカーボンナノチューブであることが好ましい。カーボンナノチューブは非金属導電性フィラーの中でも導電性が比較的高いため、非金属導電性フィラーとして特に適している。
【0013】
また、導電性、電極の成形性及び含水ゲル構造の保持の観点から、本発明の生体信号計測用電極は、非金属導電性フィラーの含有量が、マトリクス樹脂100質量部に対し、1〜50質量部であることが好ましい。
【0014】
本発明はまた、導電性ペーストを介さず直接皮膚に付着させる、上記生体信号計測用電極の使用方法を提供する。皮膚と電極との間に導電性ペースト等の媒介物を存在させないため、電極の取り付け作業及び取り外し作業が大幅に簡略化することが可能で、かつ、被験者の肉体的負担も少なくすることができる。
【0015】
本発明はまた、非金属導電性フィラーと、水と、水溶性ポリマーを含むマトリクス樹脂とを混合してフィラー分散液とし、次いで、マトリクス樹脂をゲル化して成形体とし、該成形体からなる生体信号計測用電極を得る、生体信号計測用電極の製造方法を提供する。この製造方法によれば、上記特徴を有する生体信号計測用電極が提供される。ここで、非金属導電性フィラーがカーボンナノチューブであると、生体信号計測用電極の導電性が高くなることから好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、脳波測定と並行してX線CTやMRIによる撮像を行ってもアーチファクトが写りこまない鮮明な画像を得ることができ、かつ、安価で使い捨てが可能で、長時間安定して使用することが可能で、更に、従来用いられていた導電性ペーストの使用を回避することのできる生体信号計測用電極、並びに、その使用方法及び製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る脳波測定用センサの外観図である。
【図2】図1の電極部の断面図である。
【図3】実施例1に係る脳波チャートである。
【図4】実施例2に係る脳波チャートである。
【図5】比較例4に係る脳波チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。本実施形態の生体信号計測用電極(以下、単に「電極」という)は、被験者の頭部に装着して、脳波を検出するためのものであり、頭部と電極の間に導電性ペースト等の媒介物を存在させずに計測を行うことができるという特徴をもつ。電極は、非金属導電性フィラーと、水と、水溶性ポリマーを含むマトリクス樹脂とを含有する。
【0019】
[非金属導電性フィラー]
非金属導電性フィラーとしては、種々のものを使用することができるが、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、黒鉛等の炭素材料が好ましく、特に、導電性の高いカーボンナノチューブが好ましい。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブでも多層カーボンナノチューブでもよいが、電極の柔軟性及び皮膚追従性の観点からはできるだけ細く、やわらかいものが好ましい。
【0020】
カーボンナノチューブは、一定の太さと長さを持つ繊維状物質であり、電極内でこの繊維又は繊維の束が三次元的に導電ネットワークの網目構造を保持するものが好ましい。導電ネットワークを形成することで、電極の導電性が向上するため、検出波形のノイズを低減し、感度を向上させることができる。
【0021】
カーボンナノチューブの直径としては、1〜500nmのものが好ましく、1〜200nmのものがより好ましく、1〜50nmのものが更に好ましい。また、カーボンナノチューブの長さとしては、長さが長いものが、カーボンナノチューブ同士の接触抵抗を低減できるため導電性向上の観点から好ましい。
【0022】
使用するカーボンナノチューブの製法としては特に限定されず、例えば、アーク放電法、レーザーアブレーション法、化学気相成長法(CVD法)等が挙げられる。これらの種々の方法を用いて製造されたカーボンナノチューブを使用することができる。
【0023】
[水]
水の含有量は、電極総質量を基準として0.1〜98質量%であることが好ましく、1〜90質量%であることがより好ましく、5〜90質量%であることが更に好ましい。0.1質量%以下では十分な柔軟性が得られず、また導電性も低下するため、電極抵抗と電極−皮膚間の接触抵抗をともに上昇させ明瞭な脳波の計測が困難になる。また、98質量%を超えると電極の構造保持が困難になり、同じく脳波計測が困難になる。
【0024】
前記水は、電解質イオン成分を含むことが好ましい。水が電解質イオン成分を含有することで、含有水の導電率が向上し、より明瞭な脳波の計測が可能になる。電解質イオン成分としては、ナトリウムイオン、塩化物イオン、カリウムイオン、硫化物イオン等が挙げられる。
【0025】
電解質イオン成分の濃度は、電極に含有される水の量及び電解質イオン成分の量の合計量を基準として0.1〜30質量%の範囲であることが好ましい。0.1質量%未満では十分な導電性が得られなる傾向があり、また30質量%を超えると、30質量%を超えて添加した分の効果が得られにくく、更には価格上昇の要因となる。
【0026】
[マトリクス樹脂]
マトリクス樹脂は、上記非金属導電性フィラーの分散、保水、及び、電極構造保持の役割を担うものである。マトリクス樹脂としては、水への溶解性を有する水溶性ポリマーを含み、架橋構造を形成して含水ゲルとなるものが好ましい。また、当該水溶性ポリマーは、生体への刺激性や、非金属導電性フィラーの分散性を勘案して選択され、例えば、ポリアクリル酸やポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等のセルロース樹脂や、アラビアゴム、コーンスターチ等が用いられる。また、これらの樹脂を2種類以上混合してもよい。
【0027】
非金属導電性フィラーのマトリクス樹脂への添加量としては、マトリクス樹脂100質量部に対し、1〜50質量部であることが好ましい。1質量部未満であると充分な導電性が得られにくく、脳波検出感度が低下する傾向がある。50質量部を超えると、電極の成形と含水ゲル構造の保持が困難になる傾向がある。
【0028】
上記構成を備える電極は、25℃、40%RHにおける5時間放置後の水分減少率が、電極総質量を基準として20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることが好ましい。水分減少率が20質量%以下であると、電極に含まれる水が十分に保持され、電極の皮膚への密着性が良好に保たれる。
【0029】
[電極の使用方法]
上記電極は、その使用に際し、導電性ペーストを介さず直接皮膚に付着させることができる。皮膚と電極との間に導電性ペースト等の媒介物を存在させないため、電極の取り付け作業及び取り外し作業を大幅に簡略化することが可能で、かつ、被験者の肉体的負担も少なくすることができる。
【0030】
このとき、電極は、円盤状又はシート状に成形されていることが好ましい。電極をこれらの形状に成形することにより皮膚に密着させやすくなるため、皮膚への物理的刺激をより軽減することができる。
【0031】
[電極の製造方法]
上記電極は、非金属導電性フィラーと、水と、水溶性ポリマーを含むマトリクス樹脂とを混合してフィラー分散液とし、次いで、これをゲル化して成形体とすることにより製造することができる。より具体的には、フィラー分散液の調製として、マトリクス樹脂中に非金属導電性フィラーを直接混練してこれを水に溶解させてもよく、マトリクス樹脂を水に溶解させてから、そこに非金属導電性フィラーを添加してもよい。このように液体状のフィラー分散液を調製することにより、非金属導電性フィラーを分散させやすくなり、その後の架橋処理によって含水ゲルを成形することが容易になる。
【0032】
なお、非金属導電性フィラーをマトリクス樹脂中に分散させるには、例えば、非金属導電性フィラーを添加したマトリクス樹脂に超音波振動を加える方法や、湿式のビーズミル、ボールミル、ジェットミル等の方法を用いることができる。
【0033】
マトリクス樹脂をゲル化することにより、電極が多量の水を保持することが可能になり、電極の皮膚追従性が向上する。また、マトリクス樹脂がゲル化していると、生体信号波形を計測する上で想定される曲げや圧縮によって保持された水が漏れ出すことがなく、試験を実施する上で好ましい。
【0034】
上記フィラー分散液を電解質イオン成分を含有する水溶液に浸し、マトリクス樹脂をイオンで架橋することにより、マトリクス樹脂をゲル化することができる。
【0035】
[脳波測定用センサ]
本実施形態に係る電極は、脳波測定用センサに好適に適用することができる。図1は、脳波測定用センサの一実施形態を示す。脳波測定用センサ1は、被験者の頭部に装着して脳波を検出するためのものであり、図1に示されるように、電極部2と、リード線部3と、コネクタ部4とを備えている。
【0036】
図2は、図1の電極部2の断面図である。図2に示されるように、電極部2は、本実施形態に係る電極5、支持体6及びプローブ7を有する。電極5は、直径約0.5〜1.5cm、厚さ約0.5〜3mmの薄い円盤状に成形されている。プローブ7は、カーボンナノチューブ等の導電性物質の分散液(例えば上記フィラー分散液)を支持体6上に塗布することにより形成されている。電極5と、支持体6及びプローブ7とは、銀ペースト等の導電性ペースト(図示せず)により接続されていてもよい。
【0037】
リード線部3は、電極部2と相互に着脱可能な1組の着脱部8と、着脱部8から延伸され樹脂により被覆された銅線等からなるリード線9とを有する。電極部2から延びる自由端である支持体6及びプローブ7が、着脱部8を介してリード線9と電気的に接続される。これにより、電極部2とリード線部3とが接続されている。ここで、着脱部8は、電極部2とリード線部3とを着脱可能に接続できるものであれば特に限定されず、例えばクリップ状の部材や差し込み式ソケット等を用いることができる。
【0038】
コネクタ部4は、リード線部3において電極部2が接続された側とは反対側の末端に設けられ、図示しない脳波計に接続されている。
【0039】
上記のように構成された脳波測定用センサ1によれば、微弱な生体電気信号を高感度で検出することができるうえ、銀皿電極を使用していないためにX線や磁気が乱されず、脳波測定時に並行してX線CTやMRIによる撮像を行っても、アーチファクトが写りこまない鮮明な画像を得ることができる。また、電極の原材料が安価であるため、電極を低価格で使い捨て可能なものとすることができる。更に、電極が柔軟な樹脂組成物から形成されているため、これを装着する被験者への肉体的負担が少ない。
【0040】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、電極の大きさや形状は前記実施形態に限定されず、用途や目的に合わせて適宜選択することができる。また、脳波測定用センサは、脳波以外の種々の生体が発する電気信号を検出することもできるので、例えば、心電図や筋電図等の記録にも適用することができる。その他、本発明は上記実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、前述した種々の構成の一部又は全部を適宜組み合わせて構成してもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0042】
<実施例1>
ポリアクリル酸(和光純薬工業製 重量平均分子量100万)2gを純水98gに溶解した水溶液にカーボンナノチューブ0.1gを加え、湿式分散装置(吉田機械興業製 NM2−2000AR−D)を用いて混合し、分散液を製造した。得られた分散液9gとポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬工業製 重量平均分子量750万)を2質量%溶解した水溶液1gとを混合し、フィラー分散液を調製した。得られたフィラー分散液をスポイトで採取し、これを15質量%カリミョウバン水溶液中に2ml滴下した。円盤状になったフィラー分散液を10分間放置することでゲル化処理を行い、成形ゲル体を作製した。この円盤状の成形ゲル体をカリミョウバン水溶液中からすくい取り、成形ゲル体の表面水分をよくふき取り、成形ゲル体からなるφ10mmの含水ゲル電極を得た。含水ゲル電極の含水量は、120℃乾燥後の重量測定の結果、電極総質量を基準として90質量%であった。また、含水ゲル電極を25℃、40%RHにおいて5時間放置したときの水分減少率は、15%であった。ここで、水分減少率は、次の式により算出した。
水分減少率(%)={(放置前の含水ゲル電極中の水の質量 − 放置後の含水ゲル電極中の水の質量)/放置前の含水ゲル電極中の水の質量}×100
【0043】
次に、この含水ゲル電極と脳波検出装置のプローブ配線とを、粘着テープ支持のもと、導電性の銀ペーストで接続し、脳波検出装置の電極部を作製した。この電極部の含水ゲル電極を、被験者の頭部の脳波計測箇所に、頭皮と含水ゲル電極との間に導電性ペーストを介在させずに直接貼り付けた。電極プローブを脳波計測装置(日本光電製ニューロパック MEB2312)に接続し、脳波の計測を行った。結果を図3に示す。
【0044】
<実施例2>
ポリアクリル酸(和光純薬工業製 重量平均分子量100万)2gを純水98gに溶解した水溶液にカーボンナノチューブ0.1gを加え、湿式分散装置(吉田機械興業製 NM2−2000AR−D)を用いて混合し、分散液を製造した。得られた分散液100gとポリビニルアルコール(和光純薬工業製 重合度2000)の20質量%水溶液5gとを混合し、フィラー分散液を調製した。得られたフィラー分散液をスポイトで採取した。採取した分散液2mlに15質量%ホウ砂水溶液50mlを加えてよく混合することで、ゲル化処理を行った。得られたゲルをφ10mmの円盤状に成形し、含水ゲル電極を得た。含水ゲル電極の含水量は、120℃乾燥後の重量測定の結果、電極総質量を基準として75質量%であった。また、含水ゲル電極を25℃、40%RHにおいて5時間放置したときの水分減少率は、12%であった。
【0045】
次に、この含水ゲル電極と脳波検出装置のプローブ配線とを、粘着テープ支持のもと、導電性の銀ペーストで接続し、脳波検出装置の電極部を作製した。この電極部の含水ゲル電極を、被験者の頭部の脳波計測箇所に、頭皮と含水ゲル電極との間に導電性ペーストを介在させずに直接貼り付けた。電極プローブを脳波計測装置(日本光電製ニューロパック MEB2312)に接続し、脳波の計測を行った。結果を図4に示す。
【0046】
<比較例1>
従来の銀皿電極を頭部の脳波計測箇所に導電性ペーストを用いずに貼り付け、脳波計測を行ったが、すぐに剥離し、安定した脳波計測はできなかった。
【0047】
<比較例2>
2質量%カルボキシメチルセルロース水溶液99.9gに0.1gのカーボンナノチューブを加え、湿式分散装置(吉田機械興業製 NM2−2000AR−D)を用いて混合し、フィラー分散液を製造した。得られたフィラー分散液をスポイトで採取し、PETフィルム上へ厚み5μmとなるよう塗布した。PETフィルム上に塗布したフィラー分散液を70℃で熱風乾燥して水を除去し、フィラー分散液を乾燥させた塗膜とPETフィルムとからなるカーボンナノチューブ塗布フィルムを得た。得られたカーボンナノチューブ塗布フィルムをφ10mmの円盤状に打ち抜き、カーボンナノチューブ電極を得た。
【0048】
次に、この電極と脳波検出装置のプローブ配線とを、粘着テープ支持のもと、導電性の銀ペーストで接続し、脳波検出装置の電極部を作製した。この電極部の含水ゲル電極を、被験者の頭部の脳波計測箇所に、頭皮と電極との間に導電性ペーストを介在させずに直接貼り付けた。脳波計測を行った結果、すぐに剥離し脳波計測はできなかった。
【0049】
<比較例3>
ポリメタクリル酸メチルのエチルメチルケトン5質量%溶液99.9gに0.1gのカーボンナノチューブを加え、湿式分散装置(吉田機械興業製 NM2−2000AR−D)を用いて混合し、フィラー分散液を製造した。得られたフィラー分散液をスポイトで採取し、PETフィルム上へ厚み5μmとなるよう塗布した。PETフィルム上に塗布したフィラー分散液を70℃で熱風乾燥して水を除去し、フィラー分散液を乾燥させた塗膜とPETフィルムとからなるカーボンナノチューブ塗布フィルムを得た。得られたカーボンナノチューブ塗布フィルムをφ10mmの円盤状に打ち抜き、カーボンナノチューブ電極を得た。
【0050】
次に、この電極と脳波検出装置のプローブ配線とを、粘着テープ支持のもと、導電性の銀ペーストで接続し、脳波検出装置の電極部を作製した。この電極部の含水ゲル電極を、被験者の頭部の脳波計測箇所に、頭皮と電極との間に導電性ペーストを介在させずに直接貼り付けた。脳波計測を行った結果、すぐに剥離し脳波計測はできなかった。
【0051】
<比較例4>
従来の銀皿電極を被験者の頭部の脳波計測箇所に導電性ペーストを用いて貼り付け、脳波計測を行った結果、良好な波形が得られた。結果を図5に示す。当該電極を取り付けた状態でX線CTによる撮像を行ったところ、アーチファクトが写りこんだ。また、導電性ペーストを用いているため、電極の取り付け及び取り外しの作業に手間がかかるとともに、取り外し後に頭皮の洗浄及び銀皿電極の洗浄が必要である等、作業負担が大きかった。
【0052】
以上の結果から明らかなように、実施例1及び2の含水ゲル電極によれば、導電性ペーストを用いることなく被験者の頭部に直接貼り付けることが可能であるとともに、脳波計測においては、従来の銀皿電極を導電性ペーストを用いて貼り付けた場合(比較例4)と同等の良好な波形が得られることが確認された。また、実施例1及び2の含水ゲル電極は、銀皿電極のようにX線や磁気の乱れを生じさせることがないため、X線CT等において、アーチファクトが写りこまない鮮明な画像を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、脳外科分野を始めとする種々の医療分野で有用である。
【符号の説明】
【0054】
1…脳波測定用センサ、2…電極部、3…リード線部、4…コネクタ部、5…生体信号計測用電極、6…支持体、7…プローブ、8…着脱部、9…リード線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非金属導電性フィラーと、水と、水溶性ポリマーを含むマトリクス樹脂と、を含有する生体信号計測用電極。
【請求項2】
前記水の含有量は、電極総質量を基準として0.1〜98質量%である、請求項1に記載の生体信号計測用電極。
【請求項3】
前記マトリクス樹脂がゲル化している、請求項1又は2に記載の生体信号計測用電極。
【請求項4】
前記水は、電解質イオン成分を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の生体信号計測用電極。
【請求項5】
前記非金属導電性フィラーは、カーボンナノチューブである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の生体信号計測用電極。
【請求項6】
前記非金属導電性フィラーの含有量は、前記マトリクス樹脂100質量部に対し、1〜50質量部である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の生体信号計測用電極。
【請求項7】
導電性ペーストを介さず直接皮膚に付着させる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の生体信号計測用電極の使用方法。
【請求項8】
非金属導電性フィラーと、水と、水溶性ポリマーを含むマトリクス樹脂とを混合してフィラー分散液とし、次いで、前記マトリクス樹脂をゲル化して成形体とし、該成形体からなる生体信号計測用電極を得る、生体信号計測用電極の製造方法。
【請求項9】
非金属導電性フィラーは、カーボンナノチューブである、請求項8に記載の生体信号計測用電極の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−34699(P2013−34699A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173911(P2011−173911)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)