説明

生体内シミュレーション装置、生体内シミュレーション方法、および、プログラム

【課題】生体内の複数の細胞におけるカルシウムイオンのダイナミクス等を適切に再現することができる、生体内シミュレーション装置、生体内シミュレーション方法、および、プログラムを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、各細胞を識別する細胞インデックスに対応付けて細胞の座標およびIP受容体1貯蔵庫モデルにおける初期パラメータを記憶し、各細胞のIP受容体1貯蔵庫モデルに初期パラメータを設定し、一の細胞のIP受容体1貯蔵庫モデルと他の細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルとの間で、細胞質内Ca2+濃度と細胞質内IP濃度の拡散による増減量を数理的に規定したカルシウムイオン伝播モデルを設定し、仮想三次元空間の座標における各細胞の細胞質内Ca2+濃度の時間変化をカルシウムイオン伝播モデルに基づいて算出し、当該細胞の細胞インデックスに対応付けて記憶部に格納する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内シミュレーション装置、生体内シミュレーション方法、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞内のカルシウムイオンのダイナミクスを表現する数理モデルが提案されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、小胞体膜上のイノシトール三リン酸(IP)受容体にIPが結合することにより小胞体からカルシウムイオンが細胞質内に放出される現象を数理的に表現したIP受容体1貯蔵庫モデルが開示されている。
【0004】
また、近年、皮膚の表皮細胞において、角層直下でカルシウムイオンの局在化が起こることや、角層を破壊すると局在化も消失すること、空気暴露によってカルシウムイオンの伝播現象が起こること等が実験的に観察されている(非特許文献2,3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Keener,J.Sneyd著 「数理生理学(上)」日本評論社 2005年
【非特許文献2】傳田光洋・著 「皮膚は考える」岩波書店 2005年
【非特許文献3】M.Denda,S.Denda著 “Air−exposed keratinocytes exhibited intracellular oscillation” Skin Research and Technology,13,p.195−201 2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の数理モデルにおいては、細胞内カルシウムイオンのダイナミクスを表現することができるものの、組織中の複数の細胞におけるカルシウムイオンのダイナミクス(局在化現象や伝播現象など)やカルシウムイオンに従った細胞分化等を適切に表現することができないという問題点を有していた。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、生体内の複数の細胞におけるカルシウムイオンのダイナミクスやカルシウムイオンに従った細胞分化等を適切に再現することができる、生体内シミュレーション装置、生体内シミュレーション方法、および、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するため、本発明の生体内シミュレーション装置は、IP受容体1貯蔵庫モデルに基づく生体内シミュレーションを実行する、少なくとも記憶部と制御部を備えた生体内シミュレーション装置であって、前記記憶部は、各細胞を識別する細胞インデックスに対応付けて、仮想三次元空間における前記細胞の座標、および、前記IP受容体1貯蔵庫モデルにおける細胞質内IP濃度、細胞質内Ca2+濃度、および非活性率の初期パラメータを少なくとも記憶する細胞情報記憶手段、を備え、前記制御部は、前記各細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルに、当該細胞の前記細胞インデックスに対応する前記細胞情報記憶手段に記憶された前記初期パラメータを設定し、一の前記細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルと他の前記細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルとの間で、前記細胞質内Ca2+濃度と前記細胞質内IP濃度の拡散による増減量を数理的に規定したカルシウムイオン伝播モデルを設定するカルシウムイオン伝播モデル設定手段と、前記細胞情報記憶手段に記憶された前記仮想三次元空間の前記座標における前記各細胞の前記細胞質内Ca2+濃度の時間変化を前記カルシウムイオン伝播モデルに基づいて算出し、当該細胞の前記細胞インデックスに対応付けて前記細胞情報記憶手段に格納するカルシウムイオン伝播モデル計算手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の生体内シミュレーション装置は、上記記載の生体内シミュレーション装置において、前記カルシウムイオン伝播モデルは、更に、前記細胞質内Ca2+濃度に基づく細胞外ATP濃度の増加量、および、前記細胞外ATP濃度に基づく前記細胞質内IP濃度の増加量を数理的に規定した数理モデルであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の生体内シミュレーション装置は、上記記載の生体内シミュレーション装置において、前記カルシウムイオン伝播モデルは、以下の数式に基づく数理モデルであることを特徴とする生体内シミュレーション装置。
【数1】

(ここで、Aは前記細胞外ATP濃度であり、tは時刻であり、dは前記細胞外ATP濃度の拡散率であり、G(A)は前記細胞外ATP濃度Aにおける減少量であり、iおよびjは前記細胞インデックスであり、I(c,x)は、前記細胞質内Ca2+濃度cおよび前記座標xにおける前記細胞外ATPの増加量である。また、Pは前記細胞質内IP濃度であり、d(t;i,j)は時刻tにおける前記細胞iと前記細胞jとの間の前記細胞質内IPの拡散率であり、H(A)は前記細胞外ATP濃度Aに基づく前記細胞質内IP濃度の増加量であり、J(P)は前記細胞質内IPのもれ量である。また、d(t;i,j)は時刻tにおける細胞iと細胞jとの間の前記細胞質内Ca2+濃度の拡散率であり、F(P,c,h)は、前記細胞質内IP濃度P、前記細胞質内Ca2+濃度c、および、前記非活性率hを変数する前記IP受容体1貯蔵庫モデルにおいて規定された関数である。)
【0011】
また、本発明の生体内シミュレーション装置は、上記記載の生体内シミュレーション装置において、前記制御部は、前記カルシウムイオン伝播モデル計算手段により前記細胞情報記憶手段に格納された前記各細胞の前記細胞質内Ca2+濃度に基づいて上記各細胞の分化状態を示す状態変数を算出し、当該細胞の前記細胞インデックスに対応付けて前記細胞情報記憶手段に格納する状態変数算出手段、を更に備え、前記カルシウムイオン伝播モデル設定手段は、前記状態変数算出手段により前記細胞情報記憶手段に格納された前記各細胞の前記状態変数を導入することにより、前記カルシウムイオン伝播モデルにおける前記細胞質内Ca2+濃度と前記細胞質内IP濃度の前記拡散率を含む係数値を前記分化状態に応じて上記細胞毎に変更する係数変更手段、を更に備え、前記カルシウムイオン伝播モデル計算手段は、前記係数変更手段により前記係数値が変更された前記カルシウムイオン伝播モデルに基づいて、既に算出した前記時間に続く新たな時間において、前記細胞質内Ca2+濃度の時間変化を算出することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の生体内シミュレーション装置は、上記記載の生体内シミュレーション装置において、前記状態変数算出手段は、前記カルシウムイオン伝播モデル計算手段により前記細胞情報記憶手段に格納された前記各細胞の前記細胞質内Ca2+濃度の前記時間変化から時間平均を算出し、当該細胞質内Ca2+濃度の時間平均に基づいて前記状態変数を算出し、当該細胞の前記細胞インデックスに対応付けて前記細胞情報記憶手段に格納することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の生体内シミュレーション装置は、上記記載の生体内シミュレーション装置において、前記状態変数算出手段は、前記細胞質内Ca2+濃度に依存する下記の数式のうちいずれか一つに基づいて上記各細胞の上記状態変数を算出することを特徴とする。
【数2】

【0014】
また、本発明の生体内シミュレーション装置は、上記記載の生体内シミュレーション装置において、前記係数変更手段は、更に、前記カルシウムイオン伝播モデルにおける、前記細胞外ATP濃度に基づく前記細胞質内IP濃度の増加率または前記非活性率の前記係数値を、前記状態変数に基づく前記分化状態に応じて上記細胞ごとに変更することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の生体内シミュレーション装置は、上記記載の生体内シミュレーション装置において、前記カルシウムイオン伝播モデルは、前記状態変数を導入した以下の数式に基づく数理モデルであることを特徴とする。
【数3】

【0016】
また、本発明の生体内シミュレーション装置は、上記記載の生体内シミュレーション装置において、前記カルシウムイオン伝播モデルは、前記1−31式に、細胞外刺激物質による前記細胞質内Ca2+濃度の増加量を表す項を加えた下記の数式を用いることを特徴とする。
【数4】

(ここで、B(t,x)は前記細胞外刺激物質の濃度であり、Kbcは前記細胞外刺激物質の濃度に基づく前記細胞質内Ca2+濃度の増加率、Hは定数である。)
【0017】
また、本発明の生体内シミュレーション装置は、上記記載の生体内シミュレーション装置において、前記状態変数は、皮膚組織における基底細胞から角層死細胞に至るまでの表皮細胞の前記分化状態を示す変数であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の生体内シミュレーション装置は、上記記載の生体内シミュレーション装置において、前記係数変更手段は、前記状態変数に応じて前記表皮細胞における有棘層の所定の前記係数値から顆粒層の所定の前記係数値までの範囲で変動する双曲線正接関数に基づいて、前記係数値を変更することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の生体内シミュレーション装置は、上記記載の生体内シミュレーション装置において、前記制御部は、前記細胞情報記憶手段に記憶された前記仮想三次元空間における前記細胞の前記座標を、細胞運動モデルに基づいて変化させる細胞運動モデル計算手段、を更に備えたことを特徴とする。
【0020】
また、本発明の生体内シミュレーション装置は、上記記載の生体内シミュレーション装置において、前記細胞運動モデル計算手段は、レナード・ジョーンズの式による細胞移動モデルに基づいて、前記細胞情報記憶手段に記憶された前記各細胞の前記座標を変化させる細胞移動モデル計算手段、を更に備えたことを特徴とする。
【0021】
また、本発明の生体内シミュレーション装置は、上記記載の生体内シミュレーション装置において、前記細胞運動モデル計算手段は、前記仮想三次元空間の前記座標における所定の前記細胞を、所定の分裂期に従って2つの前記細胞に分裂させる細胞分裂モデル計算手段、を更に備えたことを特徴とする。
【0022】
また、本発明は生体内シミュレーション方法に関するものであり、本発明の生体内シミュレーション方法は、少なくとも記憶部と制御部を備えた生体内シミュレーション装置において、IP受容体1貯蔵庫モデルに基づく生体内シミュレーションを実行する生体内シミュレーション方法であって、前記記憶部は、各細胞を識別する細胞インデックスに対応付けて、仮想三次元空間における前記細胞の座標、および、前記IP受容体1貯蔵庫モデルにおける細胞質内IP濃度、細胞質内Ca2+濃度、および非活性率の初期パラメータを少なくとも記憶する細胞情報記憶手段、を備え、前記制御部において実行される、前記各細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルに、当該細胞の前記細胞インデックスに対応する前記細胞情報記憶手段に記憶された前記初期パラメータを設定し、一の前記細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルと他の前記細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルとの間で、前記細胞質内Ca2+濃度と前記細胞質内IP濃度の拡散による増減量を数理的に規定したカルシウムイオン伝播モデルを設定するカルシウムイオン伝播モデル設定ステップと、前記細胞情報記憶手段に記憶された前記仮想三次元空間の前記座標における前記各細胞の前記細胞質内Ca2+濃度の時間変化を前記カルシウムイオン伝播モデルに基づいて算出し、当該細胞の前記細胞インデックスに対応付けて前記細胞情報記憶手段に格納するカルシウムイオン伝播モデル計算ステップと、を含むことを特徴とする。
【0023】
また、本発明はプログラムに関するものであり、本発明のプログラムは、少なくとも記憶部と制御部を備えた生体内シミュレーション装置に、IP受容体1貯蔵庫モデルに基づく生体内シミュレーションを実行させるためのプログラムであって、前記記憶部は、各細胞を識別する細胞インデックスに対応付けて、仮想三次元空間における前記細胞の座標、および、前記IP受容体1貯蔵庫モデルにおける細胞質内IP濃度、細胞質内Ca2+濃度、および非活性率の初期パラメータを少なくとも記憶する細胞情報記憶手段、を備え、前記制御部において、前記各細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルに、当該細胞の前記細胞インデックスに対応する前記細胞情報記憶手段に記憶された前記初期パラメータを設定し、一の前記細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルと他の前記細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルとの間で、前記細胞質内Ca2+濃度と前記細胞質内IP濃度の拡散による増減量を数理的に規定したカルシウムイオン伝播モデルを設定するカルシウムイオン伝播モデル設定ステップと、前記細胞情報記憶手段に記憶された前記仮想三次元空間の前記座標における前記各細胞の前記細胞質内Ca2+濃度の時間変化を前記カルシウムイオン伝播モデルに基づいて算出し、当該細胞の前記細胞インデックスに対応付けて前記細胞情報記憶手段に格納するカルシウムイオン伝播モデル計算ステップと、を実行させることを特徴とする。
【0024】
また、本発明は記録媒体に関するものであり、上記記載のプログラムを記録したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、記憶部において、各細胞を識別する細胞インデックスに対応付けて、仮想三次元空間における細胞の座標、および、IP受容体1貯蔵庫モデルにおける細胞質内IP濃度、細胞質内Ca2+濃度、および非活性率の初期パラメータを少なくとも記憶し、制御部において、各細胞のIP受容体1貯蔵庫モデルに、当該細胞の細胞インデックスに対応する初期パラメータを設定し、一の細胞のIP受容体1貯蔵庫モデルと他の細胞のIP受容体1貯蔵庫モデルとの間で、細胞質内Ca2+濃度と細胞質内IP濃度の拡散による増減量を数理的に規定したカルシウムイオン伝播モデルを設定し、仮想三次元空間の座標における各細胞の細胞質内Ca2+濃度の時間変化をカルシウムイオン伝播モデルに基づいて算出し、当該細胞の細胞インデックスに対応付けて記憶部に格納する。これにより、組織中の複数の細胞におけるカルシウムイオン伝播現象を正確に再現することができるという効果を奏する。特に、皮膚組織中の表皮細胞のように、細胞間でギャップジャンクションを介したCa2+やIPの拡散が起こりうる場合、拡散を加味して生体内のカルシウムイオン伝播現象を適確に再現することができる。
【0026】
また、本発明によれば、上記発明において、カルシウムイオン伝播モデルは、更に、細胞質内Ca2+濃度に基づく細胞外ATP濃度の増加量、および、細胞外ATP濃度に基づく細胞質内IP濃度の増加量を数理的に規定した数理モデルであるので、細胞質内のCa2+濃度上昇に伴うATPの放出や、放出されたATPが隣接する細胞の受容体に結合する結果、当該隣接細胞の細胞質内でIPが生成されるという生体内の現象を加味して、カルシウムイオン伝播現象をより正確に再現することができるという効果を奏する。
【0027】
また、本発明によれば、上記発明において、カルシウムイオン伝播モデルは、上述した(1−1式)〜(1−3式)に基づく数理モデルであるので、細胞外ATP濃度の偏微分方程式、細胞質内IP濃度の微分方程式、および細胞質内Ca2+濃度cの微分方程式による具体的数式に基づいて、正確にカルシウムイオン伝播現象を再現することができる。
【0028】
また、本発明によれば、上記発明において、制御部は、カルシウムイオン伝播モデルの計算結果である各細胞の細胞質内Ca2+濃度に基づいて各細胞の分化状態を示す状態変数を算出し、当該細胞の前記細胞インデックスに対応付けて記憶部に格納し、格納した各細胞の状態変数を導入することにより、カルシウムイオン伝播モデルにおける細胞質内Ca2+濃度と細胞質内IP濃度の拡散率を含む係数値を分化状態に応じて細胞毎に変更し、既に算出した時間に続く新たな時間において、係数値が変更されたカルシウムイオン伝播モデルに基づいて細胞質内Ca2+濃度の時間変化を算出する。これにより、カルシウムイオン伝播モデルの計算結果から各細胞の分化状態を判定し、判定した分化状態を反映したカルシウムイオン伝播モデルを続く時間において再度計算させることを繰り返すので、生体内の細胞分化がCa2+濃度に関連する場合に細胞分化を正確に再現することができるという効果を奏する。例えば、皮膚表皮細胞においては、Ca2+濃度勾配に従って、角層、顆粒層、有棘層が並んでいるので、カルシウムイオン伝播モデルの計算結果から正確に細胞分化を予測することができる。
【0029】
また、本発明によれば、各細胞の細胞質内Ca2+濃度の時間変化から時間平均を算出し、当該細胞質内Ca2+濃度の時間平均に基づいて状態変数を算出し、当該細胞の細胞インデックスに対応付けて記憶部に格納する。これにより、Ca2+の伝播は秒単位で起こる現象であるのに対し、細胞分化は時間単位で起こる現象であるので、秒単位で変動するCa2+濃度の時間平均を算出することにより、正確に細胞分化を再現することができるという効果を奏する。
【0030】
また、本発明によれば、上記発明において、細胞質内Ca2+濃度の時間平均に依存する2−1式〜2−3式のいずれか一つに基づいて各細胞の状態変数を算出するので、具体的な数式を用いて細胞分化を表現する状態変数を正確に算出することができるという効果を奏する。
【0031】
また、本発明によれば、上記発明において、更に、カルシウムイオン伝播モデルにおける、細胞外ATP濃度に基づく細胞質内IP濃度の増加率または非活性率の係数値を、状態変数に基づく分化状態に応じて細胞ごとに変更する。これにより、細胞分化に伴って、ATP受容体の発現量やATP受容によるIP生産量などATP感受性IP生成に変化がある場合や、IP感受性Ca2+放出量に変化がある場合に、正確に生体内のカルシウムイオンのダイナミクスや細胞分化等を再現することができるという効果を奏する。
【0032】
また、本発明によれば、上記発明において、カルシウムイオン伝播モデルは、上述の(1−1式)に加えて状態変数を導入した(1−21式)および(1−31式)に基づく数理モデルであるので、カルシウムイオン伝播モデルの数式に状態変数を導入して、算出した状態変数に従って好適にカルシウムイオン伝播モデルの係数値を変更することができるという効果を奏する。
【0033】
また、本発明によれば、上記発明において、カルシウムイオン伝播モデルは、上述の(1−31式)に、細胞外刺激物質による細胞質内Ca2+濃度の増加量を表す項を加えた(1−32式)を用いるので、細胞外刺激物質による細胞質内Ca2+濃度の増加を再現することができるという効果を奏する。例えば、皮膚の角層直下の表皮細胞では、カルシウムイオンの局在化が観察されているが、表皮細胞の角層の死細胞に分化する場合に未知の細胞外刺激物質をカルシウムイオン伝播モデルに取り入れることで、カルシウムイオンの局在化現象を正確に再現することができる。
【0034】
また、本発明によれば、上記発明において、状態変数は、皮膚組織における基底細胞から角層死細胞に至るまでの表皮細胞の分化状態を示す変数とするので、Ca2+濃度勾配に従って配置していることが観察されている表皮細胞の分化を、状態変数を用いて正確に表現することができる。
【0035】
また、本発明によれば、上記発明において、状態変数に応じて表皮細胞における有棘層の所定の係数値から顆粒層の所定の係数値までの範囲で変動する双曲線正接関数に基づいて、係数値を変更するので、細胞分化に伴って、有棘層と顆粒層の閾値を中心にしてS字型に変化する生物的な振る舞いを正確に再現することができるという効果を奏する。
【0036】
また、本発明によれば、上記発明において、制御部は、記憶部に記憶した仮想三次元空間における細胞の座標を、細胞運動モデルに基づいて変化させるので、細胞運動が起こる時間スケールにおいて、細胞運動を加味してカルシウムイオンの伝播現象や細胞分化等を正確に再現することができるという効果を奏する。
【0037】
また、本発明によれば、上記発明において、レナード・ジョーンズの式による細胞移動モデルに基づいて、各細胞の座標を変化させるので、レナード・ジョーンズ型ポテンシャルを用いた質点運動モデルを用いて、細胞の移動を適切に再現することができるという効果を奏する。
【0038】
また、本発明によれば、上記発明において、仮想三次元空間の座標における所定の細胞を、所定の分裂期に従って2つの細胞に分裂させるので、細胞分裂を伴う組織中におけるカルシウムイオンの伝播現象や細胞分化等を正確に再現することができるという効果を奏する。例えば、皮膚組織中の基底細胞は、表皮細胞を供給する幹細胞としての役割を果たしているが、仮想三次元空間の基底細胞に位置する細胞を所定の分裂期で分裂させることにより、生体内の基底細胞から角層死細胞に至るまでの細胞分化に伴う変遷を正確に再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、IP受容体1貯蔵庫モデルを模式的に示す図である。
【図2】図2は、隣接する細胞間における、IP、Ca2+、およびATPの拡散現象を模式的に示した図である。
【図3】図3は、本実施の形態の概要を示すフローチャートである。
【図4】図4は、本実施の形態が適用される本生体内シミュレーション装置100の一例を示すブロック図である。
【図5】図5は、細胞情報ファイル106aに細胞毎に格納される各種パラメータ情報の一例を示す図である。
【図6】図6は、本実施の形態における生体内シミュレーション装置100の処理の一例を示すフローチャートである。
【図7】図7は、皮膚組織の表皮の構造を模式的に示した図である。
【図8】図8は、本実施例のd(c,c)の関数型を表す図である。
【図9】図9は、パラメータをk=4.0,k=6.0,δ=1.0と設定した場合のKpaの関数型を表す図である。
【図10】図10は、In(Sk)の関数型を表す図である。
【図11】図11は、τ(Sk)の関数型を表す図である。
【図12】図12は、f(Sk,x,r)の関数型を表す図である。
【図13】図13は、計算領域と可視化領域を示す図である。
【図14】図14は、角層直下でのカルシウムイオンの局在化を再現した結果を示す図である。
【図15】図15は、表皮細胞まで角層を剥がし、空気暴露によるカルシウムイオンの伝播現象を再現した図である。
【図16】図16は、空気暴露していない場合の角層回復を再現した図である。
【図17】図17は、空気暴露による角層回復を再現した図である。
【図18】図18は、異常分裂および異常分化による鶏眼形成の病態を再現した図である。
【図19】図19は、同じ時刻t=200.0で見た場合の、空気暴露の有無による角層回復速度の違いを表す図である。
【図20】図20は、基底層まで破壊した場合の皮膚回復現象を再現した図(断面図)である。
【図21】図21は、基底層まで破壊した場合の皮膚回復現象を再現した図(斜視図)である。
【図22】図22は、角層を回復するたびに何度も剥がした場合を再現した図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、本発明にかかる生体内シミュレーション装置、生体内シミュレーション方法、および、プログラムの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0041】
特に以下の実施の形態においては、本発明を皮膚組織のシミュレーションに適用した例について説明することがあるが、この場合に限られず、神経組織等の体内組織や、体外で培養中の細胞群などを含めた全ての生体内の細胞群について、同様に本発明の生体内シミュレーション装置を適用することができる。
【0042】
[本発明の実施の形態の概要]
以下、本発明の実施の形態の概要について図1〜図3を参照して説明し、その後、本実施の形態の構成および処理等について詳細に説明する。ここで、図1は、IP受容体1貯蔵庫モデルを模式的に示す図である。
【0043】
図1に示すように、IP受容体1貯蔵庫モデルは、1細胞中のカルシウムイオン(Ca2+)の振る舞い(ダイナミクス)を数理的に表したモデルであって、細胞質中のIPが、小胞体などのCa2+貯蔵庫のIP受容体に結合した場合に放出されるCa2+の濃度上昇と、細胞質中のCa2+の貯蔵庫への回収を適確に再現するモデルである。
【0044】
一例として、IP受容体1貯蔵庫モデルは、細胞質内のCa2+濃度c(t)と非活性率(非活性化変数)h(t)を変数とする以下の数式に基づく数理モデルである(非特許文献1参照)。
【数5】

(ここで、Pは細胞質内のIP濃度を表す正定数であり、μ,μ,Kμ,B,K,γ,Kγ,Kも正定数である。τは、興奮パラメータである。)
【0045】
上記関数Fcの第1項は、細胞内にあるIP感受性Ca2+貯蔵庫から細胞質内へのCa2+放出を表している。すなわち、IP濃度が高ければ高いほど、またCa2+濃度が高ければ高いほど、Ca2+の放出を促進するが、Ca2+濃度が高ければ高いほど非活性率hは減少し、Ca2+の放出を抑制する。第2項は、細胞質内からIP感受性Ca2+貯蔵庫へのCa2+の回収(汲み出し)を表しており、第3項は、細胞質へのCa2+のもれ(一定流入)を表している。このIP受容体1貯蔵庫モデルの式は、FitzHugh−Nagumo方程式と同様に興奮性を持っており、興奮パラメータτにより対象細胞の性質に応じて興奮性の強弱を変更することができる。
【0046】
そこで、本願発明者は、このような1細胞におけるIP受容体1貯蔵庫モデルを、複数の細胞間に拡張して、生体内のカルシウムイオン伝播現象を再現できるモデルを構築するという着想を得た。ここで、図2は、隣接する細胞間における、IP、Ca2+、およびATPの拡散現象を模式的に示した図である。
【0047】
図2に示すように、ある組織中の隣接する細胞同士は、ギャップジャンクション(GJ:Gap−Junction)で連結されており、このギャップジャンクションが開いている場合に、細胞質内の微小物質(IPやCa2+など)は他の細胞へ拡散する。この生体内の現象に鑑みて、本願発明者は、一の細胞のIP受容体1貯蔵庫モデルと他の細胞のIP受容体1貯蔵庫モデルとの間で、細胞質内Ca2+濃度と細胞質内IP濃度の拡散による増減量を数理的に規定したカルシウムイオン伝播モデルを開発するに至った。
【0048】
また、図2に示すように、ある種の細胞では、細胞質内のCa2+濃度の上昇に伴って細胞外に、アデノシン三リン酸(ATP)を放出し、放出された細胞外のATPは、隣接する細胞のATP受容体に結合して、隣接細胞の細胞内でIP生成を促進する。従って、当該生体内の現象を再現するために、上記カルシウムイオン伝播モデルにおいて、更に、細胞質内Ca2+濃度に基づく細胞外ATP濃度の増加量、および、細胞外ATP濃度に基づく細胞質内IP濃度の増加量を規定した数理モデルを用いてもよい。つづいて、上述したカルシウムイオン伝播モデルを用いた本実施の形態の処理の流れの概要について以下に説明する。
【0049】
本実施の形態の生体内シミュレーション装置は、少なくとも記憶部と制御部を備え、記憶部において、各細胞を識別する細胞インデックスに対応付けて、仮想三次元空間における細胞の座標、および、IP受容体1貯蔵庫モデルにおける細胞質内IP濃度、細胞質内Ca2+濃度、および非活性率の初期パラメータを少なくとも記憶している。ここで、図3は、本実施の形態の概要を示すフローチャートである。
【0050】
まず、本生体内シミュレーション装置は、各細胞のIP受容体1貯蔵庫モデルに、当該細胞の細胞インデックスに対応する記憶部に記憶された初期パラメータを設定し、上述のカルシウムイオン伝播モデルを設定する(ステップSA−1)。なお、一例として、カルシウムイオン伝播モデルは、以下の数式に基づく数理モデルであってもよい。
【数6】

(ここで、Aは細胞外ATP濃度であり、tは時刻であり、dは細胞外ATP濃度の拡散率であり、G(A)は細胞外ATP濃度Aにおける減少量であり、iおよびjは細胞インデックスであり、I(c,x)は、細胞質内Ca2+濃度cおよび座標xにおける細胞外ATPの増加量である。また、Pは細胞質内IP濃度であり、d(t;i,j)は時刻tにおける細胞iと細胞jとの間の細胞質内IPの拡散率であり、H(A)は細胞外ATP濃度Aに基づく細胞質内IP濃度の増加量であり、J(P)は細胞質内IPのもれ量であり例えばKと表せる。また、d(t;i,j)は時刻tにおける細胞iと細胞jとの間の細胞質内Ca2+濃度の拡散率であり、F(P,c,h)は、上記IP受容体1貯蔵庫モデルにおいて規定された関数である。)
【0051】
ここで、各関数I(c,x)、d(t;i,j)、およびd(t;i,j)は、細胞の大きさ(細胞半径)rを更に変数として加え、以下のように表せる。
【数7】

(ここで、d、dは、それぞれギャップ結合を介したIP、Ca2+の透過率であり、wij(t)はギャップ結合の開閉率である。rは細胞の半径であり、Kacは細胞質内Ca2+による細胞外ATPの増加率(定数)である。また、αは、正定数である。なお、細胞の大きさ(細胞半径)rは、細胞間で異なり得る変数としてではなく、細胞間で一定の大きさとして定数とおいてもよい。)
【0052】
また、関数H(A)は、以下のように表せる。
【数8】

(ここで、Kpaは、細胞外ATP濃度A(t,x)による細胞質内IP濃度Pの増加率であり、Hは定数である。)
【0053】
そして、本生体内シミュレーション装置は、記憶部に記憶された仮想三次元空間の座標における各細胞の細胞質内Ca2+濃度を、カルシウムイオン伝播モデルに基づいて算出し、当該細胞の細胞インデックスに対応付けて記憶部に格納する(ステップSA−2)。なお、生体内シミュレーション装置は、細胞質内Ca2+濃度に加え、算出した細胞質内IP濃度や、細胞外ATP濃度等を、細胞インデックスに対応付けて記憶部に格納してもよい。
【0054】
そして、本生体内シミュレーション装置は、カルシウムイオン伝播モデルの計算の繰り返し処理を終了するか否か判定する(ステップSA−3)。ここで、繰り返し処理の終了条件は、予め定められた繰り返し回数や時間であってもよく、利用者により入力部を介した終了指示があった場合に終了判定を行ってもよい。
【0055】
繰り返し処理を終了しない場合(ステップSA−3、No)、本生体内シミュレーション装置は、続く時間において、カルシウムイオン伝播モデルに基づいて各細胞の細胞質内Ca2+濃度を更に算出し、細胞質内Ca2+濃度の時間変化を細胞インデックスに対応付けて記憶部に格納する(ステップSA−2)。このように、生体内シミュレーション装置は、細胞質内Ca2+濃度や細胞質内IP濃度、細胞外ATP濃度等のパラメータを算出結果により更新させながら、カルシウムイオン伝播モデルの計算を連続して実行することによって、細胞質内Ca2+濃度の時間変化、すなわちカルシウムイオン伝播現象のシミュレーション結果を記憶部に格納していく。
【0056】
そして、繰り返し処理を終了すると判定した場合、例えば所定の終了条件を満たした場合(ステップSA−3、Yes)、本生体内シミュレーション装置は、カルシウムイオン伝播モデルの計算を終了して、シミュレーション結果を出力可能に制御する(ステップSA−4)。
【0057】
以上が本実施の形態の概要である。ここで、本生体内シミュレーション装置は、カルシウムイオン伝播モデルの計算を行う毎に(時刻t毎に)、カルシウムイオン伝播モデルの計算結果である各細胞の細胞質内Ca2+濃度に基づいて各細胞の分化状態を示す状態変数を算出してもよい。そして、本生体内シミュレーション装置は、各細胞の状態変数をカルシウムイオン伝播モデルに導入することにより、細胞質内Ca2+濃度と細胞質内IP濃度の拡散率等の係数値を、分化状態に応じて細胞毎に変更し、係数値が変更されたカルシウムイオン伝播モデルに基づいて上述した繰り返し処理を再度行ってもよい。また、その際に、細胞運動モデルに基づいて、時刻t毎に仮想三次元空間における細胞の座標を変化させてもよい。なお、カルシウムイオン伝播モデルにおいて細胞質内Ca2+濃度の変化は秒単位で起こり得るのに対し、細胞分化や細胞運動は時間単位で比較的ゆっくり変化するので、以下に詳しく説明するように、細胞質内Ca2+濃度の時間平均に基づいて状態変数を算出して、細胞分化や細胞運動のモデルに導入することにより、シミュレーション計算の負荷を軽減させてもよい。
【0058】
[生体内シミュレーション装置の構成]
次に、本生体内シミュレーション装置の構成について図4および図5を参照して説明する。図4は、本実施の形態が適用される本生体内シミュレーション装置100の一例を示すブロック図であり、該構成のうち本実施の形態に関係する部分のみを概念的に示している。
【0059】
図4に示すように、本実施の形態における生体内シミュレーション装置100は、概略的に、制御部102と記憶部106を少なくとも備え、本実施の形態において、更に、入出力制御インターフェース部108と通信制御インターフェース部104を備える。ここで、制御部102は、生体内シミュレーション装置100の全体を統括的に制御するCPU等である。また、通信制御インターフェース部104は、通信回線等に接続されるルータ等の通信装置(図示せず)に接続されるインターフェースであり、入出力制御インターフェース部108は、入力装置112や出力装置114に接続されるインターフェースである。また、記憶部106は、各種のデータベースやテーブルなどを格納する装置である。これら生体内シミュレーション装置100の各部は任意の通信路を介して通信可能に接続されている。更に、この生体内シミュレーション装置100は、ルータ等の通信装置および専用線等の有線または無線の通信回線を介して、ネットワーク300に通信可能に接続されている。
【0060】
記憶部106に格納される各種のデータベースやテーブル(細胞情報ファイル106a等)は、固定ディスク装置等のストレージ手段である。例えば、記憶部106は、各種処理に用いる各種のプログラム、テーブル、ファイル、データベース、および、ウェブページ等を格納する。
【0061】
これら記憶部106の各構成要素のうち、細胞情報ファイル106aは、各細胞を識別する細胞インデックスに対応付けて、細胞毎の各種パラメータ(係数値等)を記憶する細胞情報記憶手段である。例えば、細胞情報ファイル106aは、細胞インデックスに対応付けて、仮想三次元空間における細胞の座標、および、IP受容体1貯蔵庫モデルにおける細胞質内IP濃度P、細胞質内Ca2+濃度c、および非活性率hの初期パラメータを少なくとも記憶する。ここで、図5は、細胞情報ファイル106aに細胞毎に格納される各種パラメータ情報の一例を示す図である。
【0062】
一例として図5に示すように、細胞情報ファイル106aは、細胞インデックスiおよび時刻tに対応付けて、細胞質内Ca2+濃度c、細胞質内IP濃度P、細胞外ATP濃度A、非活性率h、座標x、興奮パラメータτ、および状態変数Skのパラメータ値を記憶する。例えば、図5に示すように、細胞インデックスi=1に対応する細胞Cについては、細胞質内Ca2+濃度c、細胞質内IP濃度P、細胞外ATP濃度A、非活性率h、座標x、興奮パラメータτ、および状態変数Sk等のパラメータのデータ項目が用意されている。そして、細胞情報ファイル106aには、予めこれらパラメータのt=0の場合の数値、すなわちc10、P10、A10、h10、x10、τ10、Sk10等の初期パラメータが記憶されている。
【0063】
また、図5に示すように、本実施の形態において、これらのパラメータのうち、細胞質内Ca2+濃度c、細胞質内IP濃度P、細胞外ATP濃度A、非活性率hのパラメータは、後述するカルシウムイオン伝播モデル計算部102cによる繰り返し計算が行われる毎に(すなわち時刻t毎に)変化しうる変数である。一方、図5に示すように、これらのパラメータのうち、座標x、興奮パラメータτ、および状態変数Sk等のパラメータは、カルシウムイオン伝播モデル計算部102cによる繰り返し計算が終わるまでの間(例えば、t=0〜tの間)一定である定数として振る舞い、後述する係数変更部102bや状態変数算出部102dや細胞運動モデル計算部102eにより変更されうる係数値である。すなわち、図5の例では、時刻tにおけるカルシウムイオン伝播モデルの計算が終わると、座標x、興奮パラメータτ、および状態変数Sk等の係数値が変更され、既に算出した時刻tに続く新たな時刻t+1において、これら係数値が変更されたカルシウムイオン伝播モデルの繰り返し計算が再開される。なお、上述したパラメータ以外にも、細胞情報ファイル106aは、カルシウムイオン伝播モデルや細胞運動モデル等における他のパラメータ等を、細胞インデックスiに対応付けて記憶してもよい。
【0064】
再び図4に戻り、入出力制御インターフェース部108は、入力装置112や出力装置114の制御を行う。ここで、出力装置114としては、モニタ(家庭用テレビを含む)の他、スピーカを用いることができる(なお、以下においては出力装置114をモニタとして記載する場合がある)。また、入力装置112としては、キーボード、マウス、およびマイク等を用いることができる。
【0065】
また、図4において、制御部102は、OS(Operating System)等の制御プログラムや、各種の処理手順等を規定したプログラム、および、所要データを格納するための内部メモリを有する。そして、制御部102は、これらのプログラム等により、種々の処理を実行するための情報処理を行う。制御部102は、機能概念的に、カルシウムイオン伝播モデル設定部102a、カルシウムイオン伝播モデル計算部102c、状態変数算出部102d、細胞運動モデル計算部102e、および、シミュレーション結果出力部102kを備える。
【0066】
このうち、カルシウムイオン伝播モデル設定部102aは、各細胞のIP受容体1貯蔵庫モデルに、当該細胞の細胞インデックスiに対応する細胞情報ファイル106aに記憶された初期パラメータを設定し、一の細胞のIP受容体1貯蔵庫モデルと他の細胞のIP受容体1貯蔵庫モデルとの間で、細胞質内Ca2+濃度cと細胞質内IP濃度Pの拡散による増減量を数理的に規定したカルシウムイオン伝播モデルを設定するカルシウムイオン伝播モデル設定手段である。ここで、カルシウムイオン伝播モデル設定部102aは、更に、細胞質内Ca2+濃度cに基づく細胞外ATP濃度Aの増加量、および、細胞外ATP濃度Aに基づく細胞質内IP濃度Pの増加量を数理的に規定したカルシウムイオン伝播モデルを設定してもよい。一例として、カルシウムイオン伝播モデル設定部102aは、以下の数式に基づく数理モデルをカルシウムイオン伝播モデルとして用いてパラメータ(係数値)を設定してもよい。
【数9】

(ここで、dは細胞外ATP濃度Aの拡散率であり、G(A)は細胞外ATP濃度Aにおける減少量であり、iおよびjは細胞インデックスであり、I(c,x,r)は、細胞の大きさ(細胞半径)r、細胞質内Ca2+濃度cおよび座標xにおける細胞外ATPの増加量である。また、d(t;i,j)は時刻tにおける細胞iと細胞jとの間の細胞質内IPの拡散率であり、H(A)は細胞外ATP濃度Aに基づく細胞質内IP濃度Pの増加量であり、J(P)は細胞質内IPのもれ量である。また、d(t;i,j)は時刻tにおける細胞iと細胞jとの間の細胞質内Ca2+濃度の拡散率であり、F(P,c,h)は、細胞質内IP濃度P、細胞質内Ca2+濃度c、および、非活性率hを変数するIP受容体1貯蔵庫モデルにおいて規定された関数である。また、τは非活性率の興奮パラメータであり、F(c,h)はIP受容体1貯蔵庫モデルにおいて規定された関数である。)
【0067】
ここで、図4に示すように、カルシウムイオン伝播モデル設定部102aは、係数変更部102bを更に備える。係数変更部102bは、状態変数算出部102dにより細胞情報ファイル106aに格納された各細胞の状態変数Skを導入することにより、カルシウムイオン伝播モデルにおける係数値を分化状態に応じて細胞毎に変更する係数変更手段である。一例として、係数変更部102bは、状態変数算出部102dにより算出された状態変数Skの値に基づいて、上記1−2式における細胞質内IP濃度の拡散率d、上記1−2式の関数H(A)における係数である、細胞外ATP濃度Aに基づく細胞質内IP濃度Pの増加率Kpa、上記1−3式における細胞質内Ca2+濃度の拡散率d、および、上記1−4式における興奮パラメータτのうち少なくとも一つを、状態変数Skに基づく分化状態に応じて変更してもよい。すなわち、カルシウムイオン伝播モデル設定部102aが、上記1−2式〜1−4式に状態変数Skを導入した以下の数式に基づく数理モデルをカルシウムイオン伝播モデルとして用いる場合、係数変更部102bは、状態変数算出部102dにより算出され細胞状態ファイル106aに格納された状態変数Skの値を、当該カルシウムイオン伝播モデルの数式に代入することにより係数値を変更してもよい。
【数10】

【0068】
ここで、カルシウムイオン伝播モデルは、上記1−31式に細胞外刺激物質の濃度Bに基づく細胞質内Ca2+濃度cの増加量を表す項を加えた下記の1−32式を用いてもよい。
【数11】

【0069】
一例として、状態変数Skが、皮膚組織における基底細胞から角層死細胞に至るまでの表皮細胞の分化状態を表す場合、係数変更部102bは、状態変数Skに応じて表皮細胞における有棘層の所定の係数値から顆粒層の所定の係数値までの範囲で変動する、双曲線正接関数(tanh関数)やシグモイド関数等のロジスティック関数等に基づいて、係数値を変更してもよい。すなわち、係数変更部102bは、ある細胞から別の細胞へ分化する場合の状態変数Skの閾値を変曲点とするロジスティック関数を用いてもよい。例えば、係数変更部102bは、以下のように、状態変数Skの閾値Ss、Sg、Scを定義して、係数値の計算等に用いてもよい。
0<Sk(t)≦Ssの場合、有棘層の表皮細胞
Ss<Sk(t)≦Sgの場合、顆粒層の表皮細胞
Sg<Sk(t)<Scの場合、角層の死細胞
Sk(t)=Ssの場合、角層から剥離(仮想三次元空間から除外する)
なお、状態変数Skを変数としてdやKpa、d、τ等のパラメータ(係数値)を算出する関数(上記1−21式、1−31式、1−32式、および1−41式においてSkを変数に含む関数)の具体例については後述する。
【0070】
また、カルシウムイオン伝播モデル計算部102cは、細胞情報ファイル106aに記憶された仮想三次元空間の座標xにおける各細胞の細胞質内Ca2+濃度cの時間変化をカルシウムイオン伝播モデルに基づいて算出し、当該細胞の細胞インデックスiに対応付けて細胞情報ファイル106aに格納するカルシウムイオン伝播モデル計算手段である。
【0071】
すなわち、カルシウムイオン伝播モデル計算部102cは、初回の計算においては、カルシウムイオン伝播モデル設定部102aにより初期パラメータが設定されたカルシウムイオン伝播モデルに基づいて、細胞質内Ca2+濃度c、細胞質内IP濃度P、非活性率h、および細胞外ATP濃度Aを算出して、各細胞インデックスiに対応付けて細胞情報ファイル106aに格納する。そして、カルシウムイオン伝播モデル計算部102cは、計算した細胞質内Ca2+濃度c、細胞質内IP濃度P、非活性率h、および細胞外ATP濃度Aを更新しながら次の計算を行い、繰り返しカルシウムイオン伝播モデルの計算を行うことによって、細胞質内Ca2+濃度c等の時間変化を算出し、算出結果を細胞情報ファイル106aに蓄積する。そして、カルシウムイオン伝播モデル計算部102cは、所定の終了条件(例えば時刻t=t)に達すると、カルシウムイオン伝播モデルの繰り返し計算を終了する。そして、カルシウムイオン伝播モデル計算部102cは、係数変更部102bにより変更された係数値や細胞運動モデル計算部102eにより座標等が変更されると、既に算出した時刻tに続く新たな時間において、各種パラメータ値の変更が反映されたカルシウムイオン伝播モデルに基づいて繰り返し計算を再開する。なお、所定の終了条件は、予め定められた、繰り返し回数でもよく、時刻tの進行時間等であってもよい。また、再開する条件は、細胞運動モデル計算部102e等により所定の細胞分化が生じた場合や、一定時間の計算が終了したタイミングであってもよい。
【0072】
また、状態変数算出部102dは、カルシウムイオン伝播モデル計算部102cにより細胞情報ファイル106aに格納された各細胞の細胞質内Ca2+濃度cに基づいて各細胞の分化状態を示す状態変数Skを算出し、当該細胞の細胞インデックスiに対応付けて細胞情報ファイル106aに格納する状態変数算出手段である。ここで、状態変数算出部102dは、カルシウムイオン伝播モデル計算部102cにより細胞情報ファイル106aに格納された各細胞の細胞質内Ca2+濃度cの時間変化から時間平均を算出し、当該細胞質内Ca2+濃度cの時間平均に基づいて各細胞の分化状態を示す状態変数Skを算出し、当該細胞の細胞インデックスiに対応付けて細胞情報ファイル106aに格納してもよい。一例として、状態変数算出部102dは、細胞質内Ca2+濃度の時間平均に依存する、下記の2−1式〜2−3式のうちのいずれか一つに基づいて、各細胞の状態変数Skを算出してもよい。
【数12】

【0073】
また、細胞運動モデル計算部102eは、細胞情報ファイル106aに記憶された仮想三次元空間における各細胞の座標を細胞運動モデルに基づいて変化させ、細胞情報ファイル106aに格納する細胞運動モデル計算手段である。ここで、細胞運動モデルにおける細胞運動には、細胞移動のほか、細胞分裂や細胞成長や細胞分化等が含まれる。図4に示すように、細胞運動モデル計算部102eは、細胞移動モデル計算部102fと、細胞分裂モデル計算部102g、細胞成長モデル計算部102h、および、細胞外刺激物質モデル計算部102iを備える。
【0074】
このうち、細胞移動モデル計算部102fは、レナード・ジョーンズ(Lennard−Jones)の式により細胞間の引力および斥力を考慮した細胞移動モデルに基づいて、細胞情報ファイル106aに記憶された各細胞の座標xを変化させる細胞移動モデル計算手段である。例えば、細胞移動モデル計算部102fは、以下の数式に基づく数理モデルを細胞移動モデルとして用いてもよい。
【数13】

また、ε、k、k、kは定数であり、ε=0.01、k=k=0.1、k=1.0としてもよい。また、Λは細胞インデックスiの細胞Cの周囲の細胞(の細胞インデックス)の集合であり、rは細胞を球とした場合の半径である。)
【0075】
また、細胞分裂モデル計算部102gは、仮想三次元空間の座標xにおける所定の細胞を、所定の分裂期に従って2つの細胞に分裂させる細胞分裂モデル計算手段である。例えば、細胞分裂モデル計算部102gは、仮想三次元空間における最下層の細胞(例えば、皮膚組織における基底層の細胞)を、所定の分裂期に、当該細胞に隣接する座標に新たな細胞を、細胞インデックスを付与して設定してもよい。なお、細胞分裂モデル計算部102gは、分裂方向(既存の細胞に対して新たな細胞を設定する座標の方向)を、上述したレナード・ジョーンズのポテンシャルの力の向きや大きさ等に応じて決定してもよい。
【0076】
また、細胞成長モデル計算部102hは、細胞成長を数理的に規定した細胞成長モデルに基づいて、細胞の大きさ(半径r等)を算出する細胞成長モデル計算手段である。例えば、細胞成長モデル計算部102hは、以下の数式に基づく細胞成長モデルに基づいて、細胞を球とした場合の半径rを算出してもよい。
【数14】

(ここで、εは、定数であり、rmaxは半径rの最大値である。)
【0077】
また、細胞外刺激物質モデル計算部102iは、所定の細胞Ciが細胞外へ細胞外刺激物質を出すことを数理的に規定した細胞外刺激物質モデルを計算する細胞外刺激物質モデル計算手段である。例えば、細胞外刺激物質モデル計算部102iは、細胞の状態変数Skが所定値となった場合に、当該細胞から細胞外刺激物質の濃度Bが拡散するよう設定し、上述した関数f(Sk,x)を用いて細胞外刺激物質の濃度Bの増加量を計算する。
【0078】
以上のように、細胞運動モデル計算部102eは、細胞移動モデル計算部102fの処理により変更される座標xや、細胞分裂モデル計算部102gの処理により新たに追加される細胞や、細胞成長モデル計算部102hの処理により変更される半径r等の更新に応じて、順次更新された値を細胞情報ファイル106aに格納しながら、これら細胞運動モデルの計算を実行する。なお、細胞運動モデル計算部102eによる細胞運動モデルの繰り返し計算の間で、状態変数算出部102dによる状態変数Skの更新や、係数変更部102bによる係数値の更新等が行われてもよい。細胞運動モデル計算部102eは、状態変数Skの更新による所定の細胞分化が生じた場合や、一定時間の計算が終了したタイミング等を終了条件として、細胞運動モデルの繰り返し計算を終了してもよい。
【0079】
また、シミュレーション結果出力部102kは、細胞情報ファイル106aに細胞インデックスiおよび時刻tに対応付けて格納された各種パラメータ値に基づいて、生体内シミュレーション結果を、モニタ等の出力部114に出力するシミュレーション結果出力手段である。例えば、シミュレーション結果出力部102kは、細胞情報ファイル106aに細胞インデックスiに対応付けられた座標xに応じて、仮想三次元空間に配置した各細胞を、出力装置114に表示させてもよい。また、シミュレーション結果出力部102kは、仮想三次元空間に配置した各細胞を、細胞情報ファイル106aに細胞インデックスiに対応付けて格納された細胞質内Ca2+濃度cに応じて色付け表示させ、時刻tの時系列に従って動画像を表示してもよい。このほか、シミュレーション結果出力部102kは、細胞情報ファイル106aに格納された状態変数Skや、細胞質内IP濃度P、細胞外ATP濃度A等のパラメータ値を、時系列に従って出力表示させてもよい。
【0080】
以上が、本実施の形態における生体内シミュレーション装置100の構成の一例である。なお、生体内シミュレーション装置100は、ネットワーク300を介して外部システム200に接続されてもよい。この場合、通信制御インターフェース部104は、生体内シミュレーション装置100とネットワーク300(またはルータ等の通信装置)との間における通信制御を行う。すなわち、通信制御インターフェース部104は、他の端末と通信回線を介してデータを通信する機能を有する。また、ネットワーク300は、生体内シミュレーション装置100と外部システム200とを相互に接続する機能を有し、例えば、インターネット等である。
【0081】
また、外部システム200は、ネットワーク300を介して、生体内シミュレーション装置100と相互に接続され、各種パラメータに関する外部データベースや、接続された情報処理装置に生体内シミュレーション方法を実行させるためのプログラム等を提供する機能を有する。
【0082】
ここで、外部システム200は、WEBサーバやASPサーバ等として構成していてもよい。また、外部システム200のハードウェア構成は、一般に市販されるワークステーション、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置およびその付属装置により構成していてもよい。また、外部システム200の各機能は、外部システム200のハードウェア構成中のCPU、ディスク装置、メモリ装置、入力装置、出力装置、通信制御装置等およびそれらを制御するプログラム等により実現される。
【0083】
以上で、本実施の形態の構成の説明を終える。
【0084】
[生体内シミュレーション装置100の処理]
次に、このように構成された本実施の形態における生体内シミュレーション装置100の処理の一例について、以下に図6を参照して詳細に説明する。図6は、本実施の形態における生体内シミュレーション装置100の処理の一例を示すフローチャートである。
【0085】
図6に示すように、まず、カルシウムイオン伝播モデル設定部102aは、細胞情報ファイル106aに記憶された時刻t=0における、細胞質内Ca2+濃度ci0、細胞質内IP濃度Pi0、細胞外ATP濃度Ai0、非活性率hi0(または興奮パラメータτi0)、座標xi0、および状態変数Ski0等の初期パラメータを、各細胞の細胞インデックスiに対応付けて、カルシウムイオン伝播モデルに設定する(ステップSB−1)。一例として、カルシウムイオン伝播モデルは、上述した1−1式〜1−4式において、状態変数Skを導入した以下の数式に基づく数理モデルであってもよい。
【数15】

(ここで、dは細胞外ATP濃度Aの拡散率であり、G(A)は細胞外ATP濃度Aにおける減少量であり、iおよびjは細胞インデックスであり、I(c,x,r)は、細胞の大きさ(細胞半径)r、細胞質内Ca2+濃度cおよび座標xにおける細胞外ATPの増加量である。また、dは細胞質内IPの拡散率であり、H(A)は細胞外ATP濃度Aに基づく細胞質内IP濃度Pの増加量であり、J(P)は細胞質内IPのもれ量である。また、dは細胞質内Ca2+濃度cの拡散率であり、F(P,c,h)は、細胞質内IP濃度P、細胞質内Ca2+濃度c、および、非活性率hを変数するIP受容体1貯蔵庫モデルにおいて規定された関数である。また、τ(Sk)は非活性率の興奮パラメータであり、F(c,h)はIP受容体1貯蔵庫モデルにおいて規定された関数である。)
【0086】
ここで、上記1−21式および1−32式における関数dp(t;i,j,Sk(t))および関数dc(t;i,j,Sk(t))は、状態変数Skを変数としてそれぞれ以下のように表せる。
【数16】

(ここで、ε及びδは定数であり、Sは、ある細胞から別の細胞へ細胞分化する場合の状態変数の閾値である。)
【0087】
また、上記1−21式における関数H(A)の係数である増加率Kpaは、状態変数Skを変数として導入して以下のように表せる。
【数17】

(ここで、Sは、ある細胞から別の細胞へ細胞分化する場合の状態変数の閾値であり、kは当該細胞分化前の細胞が示すKpaの所定値であり、kは当該細胞分化後の細胞が示すKpaの所定値である。また、δは定数である。)
【0088】
また、上記1−32式における細胞外刺激物質Bの増加量f(Sk,x,r)は、状態変数Skを変数として以下のように表せる。
【数18】

(ここで、Sk1およびSk2は、細胞外刺激物質を放出する細胞の状態変数の範囲を表す定数であり、δb1およびδb2は定数である)
【0089】
また、上記1−41式における関数τ(S(t))は、状態変数Skを変数として以下のように表せる。
【数19】

(ここで、Sは、ある細胞から別の細胞へ細胞分化する場合の状態変数の閾値であり、τは当該細胞分化前の細胞が示す興奮パラメータτの所定値であり、τは当該細胞分化後の細胞が示す興奮パラメータτの所定値である。ここで、τ=0.2、τ=1.0としてもよい。また、δτは定数であり、δτ=1.0としてもよい。)
【0090】
以上のようにカルシウムイオン伝播モデル設定部102aにより初期パラメータが設定されると、カルシウムイオン伝播モデル計算部102cは、設定されたカルシウムイオン伝播モデルに基づいて、時刻t=1における、細胞質内Ca2+濃度ci1、細胞質内IP濃度Pi1、非活性率hi1、および細胞外ATP濃度Ai1を算出して、各細胞インデックスiに対応付けて細胞情報ファイル106aに格納する(ステップSB−2)。
【0091】
そして、カルシウムイオン伝播モデル計算部102cは、所定の繰り返し計算回数(例えば、5000回)に達したか否かを判定し(ステップSB−3)、繰り返し計算回数に達していない場合(ステップSA−3、No)、計算した時刻t=1における、細胞質内Ca2+濃度ci1、細胞質内IP濃度Pi1、非活性率hi1、および細胞外ATP濃度Ai1に値を更新して、時刻t=2における、細胞質内Ca2+濃度ci2、細胞質内IP濃度Pi2、非活性率hi2、および細胞外ATP濃度Ai2を算出して、各細胞インデックスiに対応付けて細胞情報ファイル106aに格納する(ステップSB−2)。
【0092】
このように、カルシウムイオン伝播モデル計算部102cは、所定の繰り返し計算回数に達するまで、繰り返しカルシウムイオン伝播モデルの計算を行い、細胞質内Ca2+濃度cit、細胞質内IP濃度Pit、非活性率hit、および細胞外ATP濃度Aitを、細胞インデックスiおよび時刻tに対応付けて、細胞情報ファイル106aに蓄積する。
【0093】
そして、カルシウムイオン伝播モデル計算部102cは、所定の繰り返し計算回数に達したと判定した場合(ステップSB−3、Yes)、カルシウムイオン伝播モデルの繰り返し計算を終了し、状態変数算出部102dは、カルシウムイオン伝播モデル計算部102cにより細胞インデックスiに対応付けて細胞情報ファイル106aに格納された各細胞の細胞質内Ca2+濃度cの時間変化から時間平均を算出し、当該時間平均に基づいて状態変数Skを算出して、細胞インデックスiに対応付けて細胞情報ファイル106aに格納する(ステップSB−4)。ここで、カルシウムイオン伝播モデル計算部102cにより5000回の数値計算が行われた場合、状態変数算出部102dは、最後の1000回の各細胞の細胞質内Ca2+濃度cの時間平均を求め、状態変数モデルに代入して状態変数を算出してもよい。一例として、状態変数モデルは、下記の2−1式〜2−3式のうちのいずれか一つに基づく数理モデルであってもよい。
【数20】

【0094】
そして、係数値変更部102bは、状態変数算出部102dにより細胞情報ファイル106aに格納された各細胞の状態変数Skをカルシウムイオン伝播モデルに導入することにより、カルシウムイオン伝播モデルの係数値を分化状態に応じて細胞毎に変更する(ステップSB−5)。例えば、上述した1−21式、1−32式、および1−41式に、各細胞のSkの値を代入することにより、dやKpa、d、τ等の各種係数値を変更してもよい。
【0095】
そして、細胞運動モデル計算部102eは、細胞情報ファイル106aに記憶された仮想三次元空間における各細胞の座標xを細胞運動モデルに基づいて変化させ、細胞インデックスiに対応付けて細胞情報ファイル106aに格納する(ステップSB−6)。例えば、細胞運動モデル計算部102eは、細胞移動モデル計算部102fの処理により変更される座標xや、細胞分裂モデル計算部102gの処理により新たに追加される細胞Cや、細胞成長モデル計算部102hの処理により変更される半径r、細胞外刺激物質モデル計算部102iの処理による細胞外刺激物質を出す細胞の設定および濃度計算等の更新に応じて、順次更新された値を細胞情報ファイル106aに格納しながら、細胞運動モデルの計算を実行する。なお、細胞運動モデル計算部102eによる細胞運動モデルの繰り返し計算の間で、状態変数算出部102dによる状態変数Skの更新や、係数変更部102bによる各種係数値の更新等が行われてもよい。また、細胞運動モデル計算部102eは、状態変数Skの更新により所定の細胞分化が生じた場合(例えば、所定値以上の状態変数Skを有する所定数の細胞が出現した場合)に、細胞運動モデルの繰り返し計算を終了してもよい。
【0096】
そして、生体内シミュレーション装置100の制御部102は、生体内シミュレーションを終了するか否かを判定する(ステップSB−7)。例えば、上記生体内シミュレーションにおける時刻tが所定時間に達した場合や、利用者により入力装置112を介して終了指示が入力された場合に、生体内シミュレーションの計算を終了すると判定してもよい。
【0097】
生体内シミュレーションを終了しないと判定した場合(ステップSB−7、No)、カルシウムイオン伝播モデル計算部102cは、既に算出した時刻tに続く時刻t+1について、係数変更部102bにより状態変数Skの値が代入されることにより係数値が変更されたカルシウムイオン伝播モデルに基づいて、細胞運動モデル計算部102eにより細胞情報ファイル106aに格納された各細胞Cの座標xにおける、細胞質内Ca2+濃度cit+1、細胞質内IP濃度Pit+1、非活性率hit+1、および細胞外ATP濃度Ait+1を算出して、各細胞インデックスiに対応付けて細胞情報ファイル106aに格納する(ステップSB−2)。そして、上述したように、所定の繰り返し計算回数に達するまで、繰り返しカルシウムイオン伝播モデルの計算を行い、更新された細胞質内Ca2+濃度cit、細胞質内IP濃度Pit、非活性率hit、および細胞外ATP濃度Aitを、細胞インデックスiおよび時刻tに対応付けて、細胞情報ファイル106aに蓄積する。そして、生体内シミュレーション装置100は、上述したステップSB−2〜ステップSB−7の処理を繰り返す。
【0098】
そして、生体内シミュレーションを終了すると判定した場合(ステップSB−7、Yes)、シミュレーション結果出力部102kは、細胞情報ファイル106aに細胞インデックスiおよび時刻tに対応付けて格納された各種パラメータ値に基づいて、生体内シミュレーション結果を、モニタ等の出力部114に出力する(ステップSB−8)。例えば、シミュレーション結果出力部102kは、細胞情報ファイル106aに格納された座標xの値に応じて仮想三次元空間に配置した各細胞Cが表示されるように、モニタ等の出力装置114に表示出力させてもよい。また、シミュレーション結果出力部102kは、仮想三次元空間に配置した各細胞Cを、細胞情報ファイル106aに細胞インデックスiに対応付けて格納された細胞質内Ca2+濃度cの値に応じて色分け表示させてもよく、時刻tの時系列に従って当該cの値に基づく色の変化を表示出力させてもよい。このほか、シミュレーション結果出力部102kは、細胞情報ファイル106aに格納された状態変数Skや、細胞質内IP濃度P、細胞外ATP濃度A等のパラメータ値を、時系列tに従って出力表示させてもよい。
【0099】
以上が、本実施形態における生体内シミュレーション装置100の処理の一例である。
【0100】
[実施例]
つづいて、上述した実施の形態を、生体内の皮膚組織を再現するために適用した実施例について、以下に図7〜図22を参照して説明する。
【0101】
[1.背景]
まず、本実施例が開発された背景について説明する。ここで、図7は、皮膚組織の表皮の構造を模式的に示した図である。
【0102】
皮膚は真皮,表皮から成っており、角層は死んだ表皮細胞より形成されている。すなわち、図7に示すように、皮膚組織において基底細胞から分裂した表皮細胞は、順に有棘層と顆粒層の細胞に分化し、角層の死細胞に至る。角層の恒常性維持機能と破壊からの回復機構には、角層直下でのカルシウムイオンの局在化と消滅が重要であり、この現象を理解するためには角層直下の表皮細胞をモデル化する必要がある。そのために表皮細胞の持つ特徴、特にカルシウムイオンの振る舞いを定性的に記述する数理モデルの構成が必要であった。
【0103】
そこで、本願発明者は、機械刺激を受けた培養表皮細胞の振る舞いに注目し、表皮細胞に対するカルシウムイオンの伝播形態を記述する数理モデルを構成した。新たな数理モデル(カルシウムイオン伝播モデル)を開発するにあたって、1貯蔵庫モデルとよばれる細胞質中でのカルシウム興奮現象を記述している数理モデルを、基礎のモデル方程式とした。
【0104】
[2.モデル方程式]
そして、本願発明者は、この1貯蔵庫モデルに、1)刺激による細胞外へのATP放出、2)ATP受容によるIP3の細胞質内放出、3)IP3,カルシウムイオンのギャップジャンクションを通じた拡散、4)カルシウムイオン興奮による細胞外へのATP放出を数理的に表す式を加えることによって、以下の式(1)に基づく新たな数理モデルを構成した。
【数21】

【0105】
ここで、上記式(1)における各関数は、以下の通りである。
【数22】

【数23】

【数24】

【数25】

【数26】

【数27】

【数28】

【数29】

【数30】

ここで、各変数および定数は次の通りである。c(t):細胞質内のCa2+濃度,P(t):細胞質内のIP濃度,A(t,x):細胞外のATP濃度,h(t):IP感受性Ca2+貯蔵庫から細胞質内へのCa2+放出の非活性率を表す変数,wij(t):細胞Cと細胞Cjの間のギャップ結合の開閉を表す関数,r:細胞半径,γ:細胞質内からIP感受性Ca2+貯蔵庫へのCa2+の取り込み率,β:IP感受性Ca2+貯蔵庫や細胞外から細胞質へのCa2+のもれを表す。
【0106】
本実施例において、各パラメータの値は次のように設定した。K=8.1,μ=0.567,μ=0.433,kμ=4.0,α=0.11,K=0.7,γ=2.0,Kγ=0.1,β=0.02,K=0.7,G=0.0,Kaa=0.2,ma3=2,ma4=1,H=0.5,ma1=ma2=1,J=0.0,Kpp=0.3,mp1=2,mp2=1,d=0.9,d=0.03,α=1.2,Kac=0.02,I=1.0,c=0.25,mc1=mc2=2,d=1.0,τ=1.0(未分化細胞,有棘層),τ=0.2(分化細胞,顆粒層)
【0107】
[3.Gap−Junctionの開閉モデル]
上記式(7)および(8)における関数wij(t)を、細胞CとC間のGap−Junction(GJ)の開閉の変数として以下のように設定した。ここで、以下の式(11)において、wij→1ならばGap−Junctionは開いていると定義し、wij→0ならばGap−Junctionは閉じていると定義する。
【数31】

【0108】
上記式(11)において、εは開閉速度に対応する時定数であり、以下の式(12)で表す。
【数32】

ここで、本実施例において、パラメータはw=0.2,w=0.4,w=0.1,δ=0.001とした。
【0109】
また、このとき、GJの開閉に依存してIPとCa2+の細胞間拡散係数が変化すると仮定して、以下のように設定した。
【数33】

【数34】

【0110】
ここで、W(x,y)は、GJの開閉要因を表す関数であり、ここでは次の仮説のうち仮説1によって関数型を決定した。ここで、図8は、本実施例のd(c,c)の関数型を表す図である。
(仮説1)・・・隣接する細胞で濃度勾配があるとGJを閉める。このとき、W(c,c)=c−cとなる。
(仮説2)・・・細胞内カルシウムイオン濃度がある濃度c以上に上昇するとGJを閉める。このとき、W(c,c)=c−cとなる。
【0111】
[4.細胞の状態インデックス]
つづいて、本願発明者は、細胞分化が表現されるよう上記式(1)の数理モデルを改良した。ここで、細胞に分化を取り入れるためには個々の細胞を特徴付けることが必要である。ここでは、細胞の状態を表す状態インデックスを定義することで、個々の細胞の特徴付けを与える。ここで、第i番目の細胞Cの状態インデックスを次の様に与えた。
={P(t),c(t),h(t),wij(t),Ski(t),Sbi(t),r(t),x(t),Λ
ここで、Λは細胞Cに隣接している細胞番号(細胞インデックス)の集合を表している。便利のため、細胞CのIDを表すCId(i)を次のように定義した。
Id(i)=0 → 表皮細胞
Id(i)=1 → 角化細胞
Id(i)=2 → 剥離細胞
Id(i)=3 → 暴露細胞
Id(i)=4 → 基底層細胞
Id(i)=5 → 真皮層細胞
Id(i)=6 → 予備細胞(数値計算上の予備)
Id(i)=7 → 強制剥離細胞(角層を何度も破壊する実験用)
【0112】
[5.表皮細胞の状態変数モデル(State variable model)]
本実施例において、基底細胞から分裂したi番表皮細胞の状態変数Ski(t)は次の方程式(15)によって定義した。
【数35】

【0113】
ここで、式(15)に対して初期値は、Ski(t)=0と設定した。また、数値計算によって状態変数の値を求め、次のように表皮細胞の状態を決定した。
(1) 0<Ski(t)<Sならば有棘層(Stratum spinosum)
(2) S<Ski(t)<Sならば顆粒層(Stratum granulosum)
(3) S<Ski(t)<Sならば角層(Stratum corneum)
(4) Ski(t)=Sとなったとき角層は垢となって剥離する。
ここで、各パラメータは、εk1=1.0,εk2=1.0,cバー=0.25,α=1.0,δ≡0,S=9.0,S=22.0,S=35.0と設定した。
【0114】
[6.有棘層(未分化細胞)と顆粒層(分化した細胞)のモデル化]
各種実験により、未分化細胞の特徴は、(1)ATP感受性が強い、すなわちカルシウム興奮を起こす(生体実験より)、(2)GJ受容体が発現していない(培養実験より)、(3)興奮性パラメータが変化する(機械刺激実験によるCa2+の時間変化)、との実験的知見が得られた。
【0115】
そこで、知見(1)を考慮して、カルシウムイオン伝播モデルにおいて有棘層と顆粒層において異なるパラメータを設定する。本実施例では、上述の数理モデル(1)の以下の関数H(A)中のパラメータKpaを変化させることで、ATPの感受性の強さが変化するよう設定した。
【数36】

【0116】
すなわち、状態変数に依存して変化すると仮定して以下のように定義した。
【数37】

ここで、kは有棘層でのKpaの値、kは顆粒層でのKpaの値である。
【0117】
したがって、上記関数H(A)に状態変数を導入して以下の式とした。
【数38】

ここで、パラメータは、k=4.0,k=6.0,δ=1.0と設定した。ここで、図9は、パラメータをk=4.0,k=6.0,δ=1.0と設定した場合のKpaの関数型を表す図である。
【0118】
つづいて、上記知見(2)に関しては、GJの発現率(incidence)を導入し、有棘層ではGJの係数が0となるように数理モデルを構成する。まず、GJの発現率Inを細胞状態変数Sの関数として次のように定式化した。
【数39】

ここで、ε/(2+ε)は、有棘層での発現率を表し、各パラメータは、ε=0.0,δ=1.5と設定した。ここで、図10は、In(Sk)の関数型を表す図である。
【0119】
そして、この関数Inを用いて、上記数理モデル(1)における細胞間拡散係数を、以下のように再定義した。これにより、有棘層では発現率が0となりギャップ結合がなくなり、顆粒層ではギャップ結合が発現することを再現可能になる。
【数40】

【数41】

【0120】
また、上記知見(3)に関しては、カルシウムイオン伝播モデル(1)において、τが有棘層と顆粒層において異なるパラメータを取るよう設定する。本実施例では、細胞状態変数に依存して変化するとして以下の式で設定した。
【数42】

ただし、τは有棘層でのτの値、τは顆粒層でのτの値である。各パラメータは、τ=1.0,τ=0.2,δτ=1.0と設定した。ここで、図11は、τ(Sk)の関数型を表す図である。
【0121】
[7.表皮細胞成長のモデル]
基底層以外では表皮細胞は原則成長しないが、ただし最低限の成長はすると仮定して細胞成長モデルを構築した。本実施例では、次のモデル方程式で表現する。
【数43】

ここで、rkmaxは細胞の最大半径であり、kは成長率である。各パラメータは、rkmax=1.4,ε=1.0,k=0.5,α=1.0と設定した。
【0122】
[8.基底層1層のモデル]
基底層では表皮細胞Cに対して、「基底細胞は分裂する表皮細胞とする。真皮と接している表皮細胞は栄養を受けて分裂できる」と仮定して、細胞分裂モデルを構築した。
【0123】
ここで、基底細胞の状態変数をS(t)として、S(t)に対する数理モデルを以下のように定義した。
【数44】

ここで、初期値は、Sbi(0)=0と設定した。また、所定の分裂期S=Sdivとなった場合、細胞分裂モデル計算部102gの処理により、2つの細胞に分裂するよう制御する。本実施例では、各パラメータは、εb1=1.0,εb2=5.0,α=1.0,δ(t)≡0と設定した。
【0124】
[9.基底細胞の分裂]
細胞分裂モデル計算部102gの処理により、Sbi(t)=Sdivの場合、基底層で表皮細胞の分裂を発生させる。本実施例では、次の仮説を与えることで、分裂方向を規定する。
(1) 周囲の細胞から受ける力がFbcより大きいときには、基底細胞は上下に分裂させる。
(2) 周囲の細胞から受ける力がFbcより小さいときには、相互作用を与える周りの基底細胞の中で最も距離が遠い細胞(x)の方向へ横に分裂させる。
(3) 分裂した細胞の半径は、分裂前のrに対し1/2rと設定する。
【0125】
細胞分裂モデル計算部102gは、周囲の細胞から受ける力Fを、レナード・ジョーンズのポテンシャルに基づく次の式から求めるものとする。
【数45】

【0126】
ここで、分裂前の細胞位置xとし、細胞半径rに対し分裂後の細胞位置をそれぞれx´,x´´とした場合、分裂方向を次の式で定義することができる。
≧Fbc=0.08のとき、
【数46】

<Fbc=0.08のとき、
【数47】

ここで、パラメータは、ε=0.01と設定した。
【0127】
[10.基底層における表皮細胞の接触抑制付き成長モデル]
基底層では、他の細胞と接触していると成長しないと仮定し、各細胞に加えられる周りの細胞からの力の合計が一定値を超えた場合には、成長を止めることで、この特性を再現する細胞成長モデルを構築した。
【0128】
周囲の細胞から受ける力は上記レナード・ジョーンズの式(25)によって算出できる。もし、FがFrcを超えたら、細胞成長モデル計算部102hの処理による成長はしないこととする。ただし、細胞はある程度(rkmax≦rbmax)までは、周りからの力に関わらず成長するものと仮定して、以下の式により細胞成長モデルを定義した。
【数48】

【数49】

ここで、各パラメータは、rkmax=1.4,rbmax=1.4,ε=1.0,k=0.5,α=1.0,Frc=0.08と設定した。
【0129】
[11.細胞移動モデル]
細胞移動モデル計算部102fにより計算される細胞移動モデルは、Lennard−Jones型ポテンシャルを用いる以下の式とした。
【数50】

ここで、Kは以下とした。
【数51】

ここで、x(t)(j=1,・・・,N)は細胞の位置を表す。各パラメータは、k=k=0.1,k=1.0,ε=0.01,m=6として設定した。
【0130】
なお、厳密には以下の式としてもよい。
【数52】

しかしながら、非常にゆっくり動くことから慣性項(上式の最後の項)は無視できるので、以下の式として設定した。
【数53】

【0131】
[12.細胞外刺激物質モデル]
角層直下の顆粒層におけるカルシウムイオンの局在化を再現するため、上述の数理モデルに対し、細胞外刺激物質をモデルに加える。実際に、細胞は角化するときに、細胞内物質を細胞外へ出す。従って、これらが細胞を刺激している可能性は十分に考えられる。よって細胞外刺激物質モデルを以下のようにする
【数54】

【数55】

ここで、各パラメータは、ε=1.0,d=0.0009,K=0.03,Sk1=21.9,Sk2=22.2,δb1=0.01,δb2=0.05として設定した。ここで、図12はf(Sk, x ,r)の関数型を表す図である。
【0132】
[13.状態変数依存のカルシウムイオン伝播モデル]
以上、数理モデルの式(1)に、上述のように状態変数を導入した式(18)、式(20)、式(21)、式(22)、および式(34)を適用することにより、以下の式に基づくカルシウムイオン伝播モデルを構築した。
【数56】

ここで、各パラメータKbc=0.4,H=0.1と設定した。なお、カルシウムイオン伝播モデルの繰り返し計算の終了条件は、20個の細胞が角化した場合として設定した。
【0133】
また、生体内において、表皮細胞は基底層で分裂と成長をし、有棘層、顆粒層へと分化しながら移動し、角化して角層となり、最後は垢となって剥離する。これら細胞分化や細胞移動や細胞成長等を細胞運動と呼ぶことにすると、細胞運動に要する時間は分裂してから角化するまでに約2週間かかることが分かっている。すなわち、カルシウムイオンのダイナミクスは秒単位で変化するのに対して、細胞運動は時間単位でゆっくり変化する。本実施例は、これらの両モデルを状態変数を介して統合するものであるが、上記理由により、統合した数理モデルでは、早い時間で変化する量と、ゆっくりとした時間スケールで変化する量に分けられる。したがって、状態変数算出部102dの処理により、時間平均化法を用いて、カルシウムイオン伝播モデルによる細胞質内Ca2+濃度の(秒単位で変動しうる)時間変化の平均を求める。
【0134】
[14.境界条件]
実験から、空気暴露している表皮細胞からATPの放出が認められた。そこで、空気暴露している細胞CからATPを放出する以下の条件を与えてもよい。
A(t,x)=A(=0.05)
【0135】
[15.初期条件]
以下の仮定に基づいて、機械刺激による初期条件を設定してもよい。
仮定1)機械刺激をうけた細胞は細胞外Ca2+の流入により興奮する(実験から示唆)。
仮定2)興奮した細胞はATPを放出する(仮説)。
【0136】
仮定1および2を数理モデルに導入すれば、初期値に対して大きな摂動を与えることに対応する。従って、数理モデルに対して次の初期条件を与えてもよい。
【数57】

【数58】

ここで、Iは初期に機械刺激を与えた細胞集合である。
【0137】
[16.シミュレーション結果]
以上のように設定した各数理モデル(カルシウムイオン伝播モデル、細胞運動モデル等)に基づいて、生体内シミュレーション装置100によりシミュレーションを行った結果について以下に説明する。ここで、図13は、計算領域と可視化領域を示す図である。
【0138】
図13に示すように、本実施例では、L=50、L=50、およびL=60の直方体を仮想三次元空間として計算を行った。以下の図14〜図22に示す結果は、断面が見易いように直方体を切断した領域(可視化領域)を示している。ここで、図14は、角層直下でのカルシウムイオンの局在化を再現した結果を示す図である。図中の多数の球は、各細胞を表し、上層から下層に向けて、角化した細胞(中心の水平ラインより上側の層、カラー図で白色)、分化した表皮細胞(中心の水平ラインより下側の層、カラー図で青色)、基底層にある分裂する表皮細胞(最下段から2列目の層、カラー図で緑色)、および真皮層の境界にある細胞(最下段、カラー図でピンク色)の順に、層状に並んでいる(以下も同じ)。また、カルシウムイオンの濃度は、濃度が高い順に、赤、オレンジ色、黄色、黄緑色、緑色、水色、青色で色分けしている(以下も同じ)。
【0139】
図14に示すように、角層直下の表皮細胞で、カルシウムイオンの高濃度の局在化が再現できることが確かめられた。ここで、図15は、表皮細胞まで角層を剥がし、空気暴露によるカルシウムイオンの伝播現象を再現した図であり、図16は、空気暴露していない場合の角層回復を再現した図である。
【0140】
図15に示すように、境界条件として角層が破壊されて空気に晒された表皮細胞からATPを細胞外に放出する条件を与えると(上記[14.境界条件]参照)、空気に接触した細胞から下層の細胞に向けて、カルシウムイオンの伝播現象が再現され、生体内と同様に、カルシウムイオンの波が繰り返し発生することが確かめられた。
【0141】
一方、同じ条件で上記境界条件を無しにすると、図16に示すように、カルシウムイオンの伝播現象は発生せず、長時間(t=440)のシミュレーションを行っても、傷口は正常に回復し難く、空気暴露していない場合に角層回復が遅れる原因が示唆された。ここで、図17は、空気暴露による角層回復を再現した図である。
【0142】
図15の条件で長時間(t=200)のシミュレーションを行うと、傷口が回復するとともに、カルシウムイオン伝播現象は減衰していき、カルシウムイオンの伝播と細胞分化が密接に関連していることが示唆された。ここで、図18は、異常分裂および異常分化による鶏眼形成の病態を再現した図である。
【0143】
図18に示すように、鶏眼(いわゆる魚の目)が形成される場合、t=500.0の白丸枠内の状態変数モデルのパラメータが通常より2倍大きくなっており、本実施例により病態の原因を推定することが可能なことが示唆された。ここで、図19は、同じ時刻t=200.0で見た場合の、空気暴露の有無(上記[14.境界条件]の有無)による角層回復速度の違いを表す図である。左図は、空気暴露なしの条件を示し、右図は、空気暴露ありの条件を示している。
【0144】
図19に示すように、空気暴露の条件を設定した方が角層回復速度は大きくなり、生体における観察結果と同様の結果が得られることが確かめられた。すなわち、生体で角層を破壊したあと、空気を通さないプラスティック膜で覆うと回復が遅れ、空気を通すゴアテックス(登録商標)のような膜で覆うと空気暴露している状態と同様に急速に回復する、という知見とよく一致する。ここで、図20および図21は、基底層まで破壊した場合の皮膚回復現象を再現した図である。
【0145】
上述の図15〜図19は角層を意図的に破壊した場合を示したが、図20(断面)および図21(斜視図)に示すように、角層から基底層に至るまでの細胞を除去すると、次第に周囲から細胞が集まっていき、傷口が回復することが再現できた。ここで、図22は、角層を回復するたびに何度も剥がした場合を再現した図である。
【0146】
図22に示すように、上記境界条件を与えた状態で、傷口を何度も形成させると、角層が破壊されている周囲の角層が厚くなっており、生体で実際に起こるように、角層破壊直下の表皮細胞が盛り上がることが観察された。
【0147】
以上のように、本実施例によれば、生体内のカルシウムイオン伝播現象を正確に再現することができ、創傷による皮膚組織の変化や鶏眼形成などを再現することが可能であることが確かめられた。これにより、培養実験(in vitro)や生体実験(in vivo)の実験の代わりに、計算機(in silico)によって角層形成や角層バリア形成に対する研究や、創薬開発のスクリーニングに用いることが可能であることが確かめられた。すなわち、本実施例の生体内シミュレーション装置100を用いることによって、角層回復の促進剤等の効果を生体実験前に予測することが可能となり、製品開発の促進に大きく寄与することができる。
【0148】
また、実験結果と数理モデルの数値計算結果を比較することにより、表皮細胞のカルシウム興奮性は神経軸策に現れるような強い興奮性ではなく、弱い興奮性となっていることが示唆された。また、培養表皮細胞での伝播現象は、神経軸策に現れる電位伝播のような興奮伝播現象ではなく、Ca2+の弱い興奮性とATPとIPの拡散効果の相互作用によって起こることが示された。このように、生体内の実験結果と数理モデルが符合した場合、数理モデルにより時系列で計算されたパラメータを解析することにより、病態等に至る原因を数理的に解明することが可能となる。
【0149】
[他の実施の形態]
さて、これまで本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態以外にも、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内において種々の異なる実施の形態にて実施されてよいものである。
【0150】
例えば、上述した実施の形態においては、細胞インデックスに対応付けて各種の初期パラメータが記憶部106の細胞情報ファイル106aに記憶された例について説明したが、記憶部106は、これら各種の初期パラメータが格納されたプログラムを記憶することにより、細胞情報記憶手段として機能してもよい。また、上述した例のように、利用者に入力装置112を介して初期パラメータを入力させることにより設定させ、設定された初期パラメータを記憶部106に格納してもよい。
【0151】
また、上述した実施の形態においては、カルシウムイオン伝播モデル設定部102aが、IP受容体1貯蔵庫モデルやカルシウムイオン伝播モデルに、初期パラメータを設定する例について説明したが、IP受容体1貯蔵庫モデルやカルシウムイオン伝播モデル等を計算するためのプログラムに、初期パラメータが予め設定されていてもよい。すなわち、カルシウムイオン伝播モデル設定部102aによる「設定する」とは、初期パラメータをプログラム内に設定することであってもよく、また、初期パラメータが設定されたプログラムやファイルやデータ等を記憶部106に格納することであってもよい。
【0152】
また、生体内シミュレーション装置100がスタンドアローンの形態で処理を行う場合を一例に説明したが、生体内シミュレーション装置100は、クライアント端末からの要求に応じて処理を行い、その処理結果を当該クライアント端末に返却するようにしてもよい。
【0153】
また、実施の形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。
【0154】
このほか、上記文献中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各処理の登録データや検索条件等のパラメータを含む情報、画面例、データベース構成については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0155】
また、生体内シミュレーション装置100に関して、図示の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。
【0156】
例えば、生体内シミュレーション装置100の各装置が備える処理機能、特に制御部102にて行われる各処理機能については、その全部または任意の一部を、CPU(Central Processing Unit)および当該CPUにて解釈実行されるプログラムにて実現してもよく、また、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現してもよい。なお、プログラムは、後述する記録媒体に記録されており、必要に応じて生体内シミュレーション装置100に機械的に読み取られる。すなわち、ROMまたはHDなどの記憶部106などには、OS(Operating System)として協働してCPUに命令を与え、各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。このコンピュータプログラムは、RAMにロードされることによって実行され、CPUと協働して制御部を構成する。
【0157】
また、このコンピュータプログラムは、生体内シミュレーション装置100に対して任意のネットワーク300を介して接続されたアプリケーションプログラムサーバに記憶されていてもよく、必要に応じてその全部または一部をダウンロードすることも可能である。
【0158】
また、本発明に係るプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納してもよく、また、プログラム製品として構成することもできる。ここで、この「記録媒体」とは、メモリーカード、USBメモリ、SDカード、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、EPROM、EEPROM、CD−ROM、MO、DVD、および、Blu−ray Disc等の任意の「可搬用の物理媒体」を含むものとする。
【0159】
また、「プログラム」とは、任意の言語や記述方法にて記述されたデータ処理方法であり、ソースコードやバイナリコード等の形式を問わない。なお、「プログラム」は必ずしも単一的に構成されるものに限られず、複数のモジュールやライブラリとして分散構成されるものや、OS(Operating System)に代表される別個のプログラムと協働してその機能を達成するものをも含む。なお、実施の形態に示した各装置において記録媒体を読み取るための具体的な構成、読み取り手順、あるいは、読み取り後のインストール手順等については、周知の構成や手順を用いることができる。
【0160】
記憶部106に格納される各種のデータベース等(細胞情報ファイル106a等)は、RAM、ROM等のメモリ装置、ハードディスク等の固定ディスク装置、フレキシブルディスク、および、光ディスク等のストレージ手段であり、各種処理やウェブサイト提供に用いる各種のプログラム、テーブル、データベース、および、ウェブページ用ファイル等を格納する。
【0161】
また、生体内シミュレーション装置100は、既知のパーソナルコンピュータ、ワークステーション等の情報処理装置として構成してもよく、また、該情報処理装置に任意の周辺装置を接続して構成してもよい。また、生体内シミュレーション装置100は、該情報処理装置に本発明の方法を実現させるソフトウェア(プログラム、データ等を含む)を実装することにより実現してもよい。
【0162】
更に、装置の分散・統合の具体的形態は図示するものに限られず、その全部または一部を、各種の付加等に応じて、または、機能負荷に応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。すなわち、上述した実施形態を任意に組み合わせて実施してもよく、実施形態を選択的に実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0163】
以上詳述に説明したように、本発明によれば、生体内の複数の細胞におけるカルシウムイオンのダイナミクスや細胞分化等を適切に再現することができる、生体内シミュレーション装置、生体内シミュレーション方法、および、プログラムを提供することができ、医療や製薬や創薬や生物学研究や臨床検査などの様々な分野において極めて有用である。
【符号の説明】
【0164】
100 生体内シミュレーション装置
102 制御部
102a カルシウムイオン伝播モデル設定部
102b 係数変更部
102c カルシウムイオン伝播モデル計算部
102d 状態変数算出部
102e 細胞運動モデル計算部
102f 細胞移動モデル計算部
102g 細胞分裂モデル計算部
102h 細胞成長モデル計算部
102i 細胞外刺激物質モデル計算部
102k シミュレーション結果出力部
104 通信制御インターフェース部
106 記憶部
106a 細胞情報ファイル
108 入出力制御インターフェース部
112 入力装置
114 出力装置
200 外部システム
300 ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IP受容体1貯蔵庫モデルに基づく生体内シミュレーションを実行する、少なくとも記憶部と制御部を備えた生体内シミュレーション装置であって、
前記記憶部は、
各細胞を識別する細胞インデックスに対応付けて、仮想三次元空間における前記細胞の座標、および、前記IP受容体1貯蔵庫モデルにおける細胞質内IP濃度、細胞質内Ca2+濃度、および非活性率の初期パラメータを少なくとも記憶する細胞情報記憶手段、
を備え、
前記制御部は、
前記各細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルに、当該細胞の前記細胞インデックスに対応する前記細胞情報記憶手段に記憶された前記初期パラメータを設定し、一の前記細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルと他の前記細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルとの間で、前記細胞質内Ca2+濃度と前記細胞質内IP濃度の拡散による増減量を数理的に規定したカルシウムイオン伝播モデルを設定するカルシウムイオン伝播モデル設定手段と、
前記細胞情報記憶手段に記憶された前記仮想三次元空間の前記座標における前記各細胞の前記細胞質内Ca2+濃度の時間変化を前記カルシウムイオン伝播モデルに基づいて算出し、当該細胞の前記細胞インデックスに対応付けて前記細胞情報記憶手段に格納するカルシウムイオン伝播モデル計算手段と、
を備えたことを特徴とする生体内シミュレーション装置。
【請求項2】
請求項1に記載の生体内シミュレーション装置において、
前記カルシウムイオン伝播モデルは、
更に、前記細胞質内Ca2+濃度に基づく細胞外ATP濃度の増加量、および、前記細胞外ATP濃度に基づく前記細胞質内IP濃度の増加量を数理的に規定した数理モデルであること
を特徴とする生体内シミュレーション装置。
【請求項3】
請求項2に記載の生体内シミュレーション装置において、
前記カルシウムイオン伝播モデルは、以下の数式に基づく数理モデルであること
を特徴とする生体内シミュレーション装置。
【数1】

(ここで、Aは前記細胞外ATP濃度であり、tは時刻であり、dは前記細胞外ATP濃度の拡散率であり、G(A)は前記細胞外ATP濃度Aにおける減少量であり、iおよびjは前記細胞インデックスであり、I(c,x)は、前記細胞質内Ca2+濃度cおよび前記座標xにおける前記細胞外ATPの増加量である。また、Pは前記細胞質内IP濃度であり、d(t;i,j)は時刻tにおける前記細胞iと前記細胞jとの間の前記細胞質内IPの拡散率であり、H(A)は前記細胞外ATP濃度Aに基づく前記細胞質内IP濃度の増加量であり、J(P)は前記細胞質内IPのもれ量である。また、d(t;i,j)は時刻tにおける細胞iと細胞jとの間の前記細胞質内Ca2+濃度の拡散率であり、F(P,c,h)は、前記細胞質内IP濃度P、前記細胞質内Ca2+濃度c、および、前記非活性率hを変数する前記IP受容体1貯蔵庫モデルにおいて規定された関数である。)
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載の生体内シミュレーション装置において、
前記制御部は、
前記カルシウムイオン伝播モデル計算手段により前記細胞情報記憶手段に格納された前記各細胞の前記細胞質内Ca2+濃度に基づいて上記各細胞の分化状態を示す状態変数を算出し、当該細胞の前記細胞インデックスに対応付けて前記細胞情報記憶手段に格納する状態変数算出手段、
を更に備え、
前記カルシウムイオン伝播モデル設定手段は、
前記状態変数算出手段により前記細胞情報記憶手段に格納された前記各細胞の前記状態変数を導入することにより、前記カルシウムイオン伝播モデルにおける前記細胞質内Ca2+濃度と前記細胞質内IP濃度の前記拡散率を含む係数値を前記分化状態に応じて上記細胞毎に変更する係数変更手段、を更に備え、
前記カルシウムイオン伝播モデル計算手段は、
前記係数変更手段により前記係数値が変更された前記カルシウムイオン伝播モデルに基づいて、既に算出した前記時間に続く新たな時間において、前記細胞質内Ca2+濃度の時間変化を算出すること
を特徴とする生体内シミュレーション装置。
【請求項5】
請求項4に記載の生体内シミュレーション装置において、
前記状態変数算出手段は、
前記カルシウムイオン伝播モデル計算手段により前記細胞情報記憶手段に格納された前記各細胞の前記細胞質内Ca2+濃度の前記時間変化から時間平均を算出し、当該細胞質内Ca2+濃度の時間平均に基づいて前記状態変数を算出し、当該細胞の前記細胞インデックスに対応付けて前記細胞情報記憶手段に格納すること
を特徴とする生体内シミュレーション装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の生体内シミュレーション装置において、
前記状態変数算出手段は、
前記細胞質内Ca2+濃度に依存する下記の数式のうちいずれか一つに基づいて上記各細胞の上記状態変数を算出すること
を特徴とする生体内シミュレーション装置。
【数2】

【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか一つに記載の生体内シミュレーション装置において、
前記係数変更手段は、
更に、前記カルシウムイオン伝播モデルにおける、前記細胞外ATP濃度に基づく前記細胞質内IP濃度の増加率または前記非活性率の前記係数値を、前記状態変数に基づく前記分化状態に応じて上記細胞ごとに変更すること
を特徴とする生体内シミュレーション装置。
【請求項8】
請求項7に記載の生体内シミュレーション装置において、
前記カルシウムイオン伝播モデルは、前記状態変数を導入した以下の数式に基づく数理モデルであること
を特徴とする生体内シミュレーション装置。
【数3】

【請求項9】
請求項8に記載の生体内シミュレーション装置において、
前記カルシウムイオン伝播モデルは、
前記1−31式に、細胞外刺激物質による前記細胞質内Ca2+濃度の増加量を表す項を加えた下記の数式を用いること
を特徴とする生体内シミュレーション装置。
【数4】

(ここで、B(t,x)は前記細胞外刺激物質の濃度であり、Kbcは前記細胞外刺激物質の濃度に基づく前記細胞質内Ca2+濃度の増加率、Hは定数である。)
【請求項10】
請求項4乃至9のいずれか一つに記載の生体内シミュレーション装置において、
前記状態変数は、
皮膚組織における基底細胞から角層死細胞に至るまでの表皮細胞の前記分化状態を示す変数であること
を特徴とする生体内シミュレーション装置。
【請求項11】
請求項10に記載の生体内シミュレーション装置において、
前記係数変更手段は、
前記状態変数に応じて前記表皮細胞における有棘層の所定の前記係数値から顆粒層の所定の前記係数値までの範囲で変動する双曲線正接関数に基づいて、前記係数値を変更すること
を特徴とする生体内シミュレーション装置。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一つに記載の生体内シミュレーション装置において、
前記制御部は、
前記細胞情報記憶手段に記憶された前記仮想三次元空間における前記細胞の前記座標を、細胞運動モデルに基づいて変化させる細胞運動モデル計算手段、
を更に備えたことを特徴とする生体内シミュレーション装置。
【請求項13】
請求項12に記載の生体内シミュレーション装置において、
前記細胞運動モデル計算手段は、
レナード・ジョーンズの式による細胞移動モデルに基づいて、前記細胞情報記憶手段に記憶された前記各細胞の前記座標を変化させる細胞移動モデル計算手段、
を更に備えたことを特徴とする生体内シミュレーション装置。
【請求項14】
請求項12に記載の生体内シミュレーション装置において、
前記細胞運動モデル計算手段は、
前記仮想三次元空間の前記座標における所定の前記細胞を、所定の分裂期に従って2つの前記細胞に分裂させる細胞分裂モデル計算手段、
を更に備えたことを特徴とする生体内シミュレーション装置。
【請求項15】
少なくとも記憶部と制御部を備えた生体内シミュレーション装置において、IP受容体1貯蔵庫モデルに基づく生体内シミュレーションを実行する生体内シミュレーション方法であって、
前記記憶部は、
各細胞を識別する細胞インデックスに対応付けて、仮想三次元空間における前記細胞の座標、および、前記IP受容体1貯蔵庫モデルにおける細胞質内IP濃度、細胞質内Ca2+濃度、および非活性率の初期パラメータを少なくとも記憶する細胞情報記憶手段、
を備え、
前記制御部において実行される、
前記各細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルに、当該細胞の前記細胞インデックスに対応する前記細胞情報記憶手段に記憶された前記初期パラメータを設定し、一の前記細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルと他の前記細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルとの間で、前記細胞質内Ca2+濃度と前記細胞質内IP濃度の拡散による増減量を数理的に規定したカルシウムイオン伝播モデルを設定するカルシウムイオン伝播モデル設定ステップと、
前記細胞情報記憶手段に記憶された前記仮想三次元空間の前記座標における前記各細胞の前記細胞質内Ca2+濃度の時間変化を前記カルシウムイオン伝播モデルに基づいて算出し、当該細胞の前記細胞インデックスに対応付けて前記細胞情報記憶手段に格納するカルシウムイオン伝播モデル計算ステップと、
を含むことを特徴とする生体内シミュレーション方法。
【請求項16】
少なくとも記憶部と制御部を備えた生体内シミュレーション装置に、IP受容体1貯蔵庫モデルに基づく生体内シミュレーションを実行させるためのプログラムであって、
前記記憶部は、
各細胞を識別する細胞インデックスに対応付けて、仮想三次元空間における前記細胞の座標、および、前記IP受容体1貯蔵庫モデルにおける細胞質内IP濃度、細胞質内Ca2+濃度、および非活性率の初期パラメータを少なくとも記憶する細胞情報記憶手段、
を備え、
前記制御部において、
前記各細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルに、当該細胞の前記細胞インデックスに対応する前記細胞情報記憶手段に記憶された前記初期パラメータを設定し、一の前記細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルと他の前記細胞の前記IP受容体1貯蔵庫モデルとの間で、前記細胞質内Ca2+濃度と前記細胞質内IP濃度の拡散による増減量を数理的に規定したカルシウムイオン伝播モデルを設定するカルシウムイオン伝播モデル設定ステップと、
前記細胞情報記憶手段に記憶された前記仮想三次元空間の前記座標における前記各細胞の前記細胞質内Ca2+濃度の時間変化を前記カルシウムイオン伝播モデルに基づいて算出し、当該細胞の前記細胞インデックスに対応付けて前記細胞情報記憶手段に格納するカルシウムイオン伝播モデル計算ステップと、
を実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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