説明

生体内抗酸化活性の測定法

【課題】 生体内抗酸化活性を適確に且つ包括的に評価すること。
【解決手段】 生体から採取した全血等を試料とし、この試料に既知量の酸化ストレスを暴露して人為的に試料中の赤血球を溶血させ、遊離するヘモグロビンを測定することにより、つまり、溶血の度合いと溶血に要する時間から全血の脆弱性を評価して、その血液が存在した生体内の酸化ストレスの度合いを包括的に評価することにより、この課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト等の生体内における抗酸化活性の程度、つまり生体内の酸化ストレスの強弱を、言い換えれば種々の抗酸化成分を含有する食品やサプリメントを摂取した際の生体内抗酸化活性の変化を、あるいは個々人の遺伝素因に起因する内因性抗酸化能の多寡などを測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生活習慣病やメタボリックシンドローム発症には個々人の遺伝素因と環境因子が深く関わるとされており、特に環境因子は個々人の生活スタイル、すなわち食習慣や運動習慣が、中でも日々摂取する食物の種類とその内容や摂取カロリーが大きく寄与するものと認識されている。また、斯かる因子が生体の酸化ストレスを惹起させる可能性が示唆され、活性酸素産生が酸化ストレスに関わるものと推定されているが、その詳細は未だ不明のままである。イン・ヴィトロで抗酸化活性を測定する方法は少なくないが、一方、生体内抗酸化活性を測定するために過酸化脂質や血漿が有する銅イオンや鉄イオンの還元能の測定が利用されているが、いずれも生体内抗酸化能を適確に評価できる方法ではない。尚、特許文献並びに非特許文献には斯かる測定法に関わる開示は皆無である。
【特許文献1】なし
【非特許文献1】なし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
活性酸素の産生に関わるNADPH−オキシダーゼは食細胞のほか血管内皮細胞などにも存在し、種々の刺激により複合体形成量が増加することにより活性化され、活性酸素産生量が増加して、組織細胞や血流内、すなわち生体内が酸化ストレスに晒されるものと推測される。本発明は、この際に赤血球や血漿成分も酸化ストレスに暴露されると、これらが有する抗酸化に関わる生体成分が減弱するものと思考し、生体から採取した血液を指標にして生体内抗酸化活性を包括的に評価することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題を解決するための請求項1の発明は、生体から採取した全血等を試料とし、この試料に既知量の酸化ストレスを暴露して人為的に試料中の赤血球を溶血させ、遊離するヘモグロビンを測定することにより、つまり、溶血の度合いと溶血に要する時間から全血の脆弱性を評価して、その血液が存在した生体内の酸化ストレスの度合いを包括的に評価するものである。生体内抗酸化活性が低レベルであれば溶血に要する時間は短く、逆に生体内抗酸化活性が高レベルにある場合にはその時間が遅延することから生体内抗酸化活性を判定する。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、個々人のあるいは実験動物の内因性抗酸化活性が評価できるので、生活習慣病やメタボリックシンドロームを予防するための生活習慣改善の指導や自己コントロールの指標として寄与することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
指頭血あるいは肘静脈等から全血を採取し、一定量の酸化ストレスを負荷することにより遊離するヘモグロビン量の測定値と溶血に要する時間から生体内抗酸化活性を包括的に評価できることを特徴とする。生体内抗酸化活性が低い検体の場合には溶血に要する時間が短く、またその活性が高い場合には溶血時間が遅延するので、溶血に要する時間を計測することにより、また溶血のパターンを比較することにより生体内抗酸化活性を評価することができる。
【実施例1】
【0007】
空腹時の指頭採取微量全血に光増感剤、アルミニウムフタロシアニンを加え、可視光線を照射することにより一定時間全血試料を一重項酸素で曝露した。その後、光を遮断して一重項酸素曝露を停止し、摂氏37度でさらにインキュベートを続けた。この間、経時的に試料をサンプリングし、溶血率を測定した。また、グルコース75グラムを経口摂取後、経時的に採取した指頭血を同様に処理し比較した。その結果、グルコース負荷により生体内酸化ストレス強度は上昇するが、健常者では酸化ストレスに対する抵抗性が高い上に恒常性が保たれているため、内因性抗酸化能は容易に元のレベルに復帰する。しかし、所謂メタボリックシンドローム予備軍ではその様相が異なる。以上のことから、高血糖あるいは高インスリンによりNADPH−オキシダーゼの活性化を介して生体酸化ストレスが惹起されること、健常者の内因性抗酸化能は十分に抵抗しうるレベルにあることが判明するとともに、両者の測定値に有意な差が得られ、本発明の有効性が確認された。
【実施例2】
【0008】
緑茶浸出液、ビタミンC、カテキンを単味あるいは併用摂取したのち、自己採取した指頭血を試料として実施例1と同様にして内因性抗酸化能を計測した。内因性抗酸化能には個体差が認められ、内因性抗酸化能が低い被験者ではビタミンCあるいはカテキン摂取により生体内抗酸化能が上昇する。しかし、内因性抗酸化能が高い被験者では生体内抗酸化能の更なる増強効果が認められない。以上のことから、内因性抗酸化能が低レベルにある個体においてのみビタミンCやカテキンによる生体内抗酸化活性増強効果が期待でき、通常の緑茶一服程度では生体内抗酸化能のアップは不十分であることが判明し、本発明の有効性が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0009】
本発明に係わる方法は、所謂抗酸化を標榜するサプリメントの評価や個々人が有する内因性抗酸化活性の評価に寄与できることから、真に有用な抗酸化サプリメントの篩い分けに利用できるほか、生活習慣病やメタボリックシンドロームの予防に利用できる可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から採取した全血に既知量の酸化ストレスを暴露して溶血する赤血球の度合いを測定することにより、生体が有する抗酸化活性、すなわち生体内抗酸化活性を包括的に評価することを特徴とする生体内抗酸化活性の測定法。