説明

生体内挿入器具

【課題】生体内に挿入されて処置のための空間を確保することが可能な生体内挿入器具を提供すること。
【解決手段】生体内挿入器具10は、処置の対象となる対象臓器12近傍の生体内に挿入される接触部14と、上記接触部14の対象臓器12と接触する側及びその反対側に設けられた湾曲管88A及び88Bを備える、上記対象臓器12と当該対象臓器12とは異なる臓器との間、又は、当該対象臓器12と腹壁若しくは胸壁との間に、当該対象臓器12を処置するための手術空間32を確保する開閉部88と、上記開閉部88を駆動し、上記対象臓器12と当該対象臓器12とは異なる臓器との間又は当該対象臓器12と上記腹壁若しくは胸壁との間で力を作用させるケーブルと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科手術時に生体内に挿入される生体内挿入器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の心臓外科手術では、胸骨を切開して(正中胸骨切開術)、胸腔内へアクセスできるようにしている。この場合、開創器が胸の切開に配置されて、開創器によって胸骨と組織が広げられて大きな開口が形成される。そして、外科用器具がその開口を通して配置されて、心臓の外科手術が行われる。
【0003】
最も一般的な心臓外科手術の1つは、冠動脈バイパス手術(Coronary Artery Bypass Grafting:CABG)である。このCABGでは、1つもしくは複数の冠動脈内の閉塞が、その閉塞の下流側の冠動脈に移植血管(グラフト)を接続することによってバイパスされる。冠動脈にグラフトを接続する技術は、吻合術として知られている。グラフトは、例えば、胸の壁から切開された胸動脈が用いられ、その場合、胸動脈の上流側の端部は無傷のまま残され、胸動脈の下流側の端部が冠動脈に接続される。また、グラフトは、患者の体のいずれかの部分からの動脈もしくは静脈を用いても良い。更には、人工血管移植片を用いることもでき、その場合には、移植片の上流側の端部は大動脈などの動脈に接続され、下流側の端部が冠動脈に接続される。このようにして、心臓の正面、側面及び背面の様々な位置の複数の冠動脈の閉塞が、複数のグラフトを用いてバイパスされる。
【0004】
従来、CABGは、患者の心臓を停止して行われるので、患者の血液は人工心肺装置を用いて循環されている。
【0005】
しかし、CABGは、「オフポンプ(Off-pump)冠動脈バイパス(OPCAB)」として知られている技術によって心臓を鼓動させながら行われても良く、これにより人工心肺装置の使用を避けることができる。
【0006】
このOPCABでは、心臓を鼓動させながら、冠動脈の吻合部位に近い心臓の表面を、スタビライザと呼ばれる特別な器具を用いて固定する。このスタビライザによる局部的な固定により、グラフトが冠動脈に接続される間、吻合部位をできるだけ動かないように保つ。
【0007】
上記のようなスタビライザは、例えば、特許文献1に開示されているように、臓器に接触する接触部と、該接触部を支持する柔軟性を持つ接触部支持部とを備えている。接触部支持部は、該接触部支持部を曲げたり、変形させることができるように複数の接合体によって形成されており、それら接合体内部を通してワイヤ等の細長いケーブルが延びている。そして、このケーブルの張力を適宜調整することで接触部支持部を曲げたり、変形させながら、該接触部支持部を胸腔内に挿入していき、接触部を心臓の所望部位に接触させて、心臓を押圧もしくは吸着することでその動きを抑制する。
【0008】
正中胸骨切開術や開胸術では、開創器によって胸骨と組織が広げられて大きな開口が形成されるため、スタビライザの状態を直接医師が観察できる。
【0009】
また、心臓の裏面側等、吻合部位が通常状態では正面視できない部分である場合には、例えば特許文献2に開示されているような処置具により心臓を吸着保持して、当該吻合部位が観察できるように心臓の位置を調整する。
【0010】
一方、近年、大きな切開を要しない低侵襲なものとして、腹壁等の体腔壁に穴を開け、この穴を通じて内視鏡や処置具を体腔内に挿入することにより体腔内で様々な処置を行なう内視鏡下手術が、上記CABGにおいても行われるようになってきている。そのような場合には、術前に撮影したCT画像などによる疾患部位に対応する体腔内位置に観察カメラを挿入して、術部を観察しつつ手術を行うことになる。
【0011】
このような内視鏡下手術においては、例えば特許文献3に開示されているように、体腔内に挿入された後に複数枚の扁平板が扇状に開き、該扇状に開いた扁平板により処置対象臓器とは異なる臓器を圧排して、観察カメラの視野を確保するリトラクタが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2003−521296号公報
【特許文献2】特開2005−237945号公報
【特許文献3】特開平6−154152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記特許文献1及び2に開示された構成のスタビライザ及び処置具は、正中胸骨切開術や開胸術において医師が直接観察することを前提としたものであり、内視鏡下手術には適用できない。
【0014】
また、上記特許文献3に開示されたリトラクタは、複数枚の扁平板が扇状に開くというその構造が故に、その作用力及び強度には限界があった。従って、処置対象部位が対象臓器の後面側等である場合に、重量のある当該臓器自体を移動させて、内視鏡下手術のための手術空間を確保することは難しかった。
【0015】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、生体内に挿入されて処置のための空間を確保することが可能な生体内挿入器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の生体内挿入器具の一態様は、
処置の対象となる対象臓器近傍の生体内に挿入される挿入部と、
上記挿入部の上記対象臓器と接触する側及びその反対側に設けられ、上記対象臓器と当該対象臓器とは異なる臓器との間、又は、当該対象臓器と腹壁若しくは胸壁との間に、当該対象臓器を処置するための空間を確保する空間確保手段と、
上記空間確保手段を駆動し、上記対象臓器と当該対象臓器とは異なる臓器との間又は当該対象臓器と上記腹壁若しくは胸壁との間で力を作用させる駆動部と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、生体内に挿入されて処置のための空間を確保することが可能な生体内挿入器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1参考形態に係る生体内挿入器具の構成及び動作を説明するための図である。
【図2】第1参考形態に係る生体内挿入器具を使用する手術システムの構成を示す図である。
【図3】第1参考形態に係る生体内挿入器具を使用する手術システムの電気的な構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第2参考形態に係る生体内挿入器具の構成を示す図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る生体内挿入器具の構成を示す図である。
【図6】第1実施形態の第1変形例の構成を示す図である。
【図7】第1実施形態の第2変形例の構成を示す図である。
【図8】第1実施形態の第3変形例の構成を示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る生体内挿入器具の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の形態を図面を参照して説明する。
[第1参考形態]
図1(A)は、本発明の第1参考形態に係る生体内挿入器具10の構成を示す図である。
【0020】
本参考形態に係る生体内挿入器具10は、心臓等の対象臓器12近傍の生体内に挿入されて対象臓器12に接触する柔軟性を持つ接触部14と、該接触部14を支持する柔軟性を持つ接触部支持部16と、該接触部14の対象臓器12と接触する側とは反対側に設けられたバルーン18と、を備えている。
【0021】
上記接触部14及び接触部支持部16は、それら接触部14及び接触部支持部16を曲げたり、変形させることができるように、例えば複数の接合体によって形成されており、図示はしていないが、該接合体内部を通してワイヤ等の細長いケーブルが延びている。また、上記接触部14の先端には小型カメラ20が組み込まれている。さらに、小型カメラ20の視野を確保し、小型カメラ20を保護するために透明テーパフード22が取り付けられている。この透明テーパフード22は、接触部14の生体内への挿入性を向上させる。更に、接触部14の対象臓器12と接触する側には、複数の吸引孔24が開けられており、これら吸引孔24に連通する吸引用空圧伝達路(図示せず)が接触部14及び接触部支持部16を通して外部まで延ばされている。
【0022】
一方、上記バルーン18は、当該生体内挿入器具10の生体内への挿入時に邪魔にならないように収縮された状態で接触部14に取り付けられている。該バルーン18は、接触部支持部16内を外部まで延びる供給用空圧伝達路(図示せず)に接続されており、上記供給用空圧伝達路から空気をバルーン18内に供給することで膨らまされることができる。ここで、バルーン18は、上記接触部14に沿って設けられており、よって上記接触部14の湾曲形状と同様の湾曲形状を持って膨らむ。
【0023】
この生体内挿入器具10は、生体内挿入器具支持アーム(図示せず)によって位置決めされ、小型カメラ20によって観察しつつ、上記ケーブルの張力を適宜調整することで接触部支持部16を曲げたり、変形させながら、体腔壁(図示せず)に開けられた穴(図示せず)及び横隔膜26に開けられた穴28を通して胸腔30内に挿入されていき、その接触部14を対象臓器12の所望部位に接触させる。その後、更に上記ケーブルの張力を適宜調整することで接触部14をドーナッツ状に変形させながら挿入されていく。
【0024】
そして、図1(B)に示すように、円弧状に接触部14が変形し、各吸引孔24が対象臓器12に向いた所望の状態となったならば、上記吸引用空圧伝達路を介して吸引力を与えて上記吸引孔24より対象臓器12を吸引する。またそれと共に、上記供給用空圧伝達路を介して上記バルーン18内に空気を供給してバルーン18を膨らませる。これにより、図1(C)中に矢印で示すようなバルーン18の膨張力が、該バルーン18の下側(接触部14が対象臓器12と接触する側とは反対側)に存在する上記対象臓器とは異なる臓器である隣接臓器(図示せず)又は腹壁若しくは胸壁等の体腔壁(図示せず)に対する離反力として作用して、上記対象臓器12を上記隣接臓器又は体腔壁から離間させ、上記対象臓器12と上記隣接臓器又は体腔壁との間に、胸腔30とつながる手術空間32を確保することができる。なお、バルーン18の膨張量は、上記小型カメラ20により観察しながら調整することができる。また、接触部14は、上記吸引孔24による吸引力により対象臓器12を吸引すると共に、上記バルーン18の離反力により対象臓器12に押し付けられるので、対象臓器12の動きを抑制することができる。
【0025】
このように、本参考形態による生体内挿入器具10は、対象臓器12の動きの抑制というスタビライザの機能を果たすと同時に、手術空間32を確保する機能も果たすことができる。
【0026】
なお、手術中には適宜、上記吸引孔24による吸引力やバルーン18の膨張量は調整可能であり、また、手術完了時には吸引力は解除されると共にバルーン18が収縮されて、生体内挿入器具10が生体内から抜き取られることは言うまでもない。
【0027】
図2は、このような構成の生体内挿入器具10を使用する手術システムの構成を示す図であり、図3は、該手術システムの電気的な構成を示すブロック図である。
【0028】
即ち、この手術システムは、例えば、遠隔操作装置であるマスタ部34と、このマスタ部34からの遠隔操作情報に基づいてスレーブ本体36を制御する制御部38と、を備えている。
【0029】
ここで、スレーブ本体36は、生体内挿入器具スレーブ部40、マニピュレータスレーブ部42及び観察カメラ部44からなる。
【0030】
上記生体内挿入器具スレーブ部40は、上記生体内挿入器具10と、上記生体内挿入器具支持アーム46と、上記生体内挿入器具10内の各駆動機構部(図示せず)を駆動するモータ48と、上記生体内挿入器具支持アーム46内の各駆動機構部(図示せず)を駆動するモータ50と、上記小型カメラ20とから構成される。
【0031】
上記マニピュレータスレーブ部42は、生体内部位の処置を行うマニピュレータ52と、該マニピュレータ52を支持し、術部に対して位置決めするためのマニピュレータ支持アーム54と、上記マニピュレータ52内の各駆動機構部(図示せず)を駆動するモータ56と、上記マニピュレータ支持アーム54内の各駆動機構部(図示せず)を駆動するモータ58とから構成される。なお、マニピュレータ52の詳細については、例えば特開平7−136173号公報に開示されているので、ここではその説明は省略する。
【0032】
上記観察カメラ部44は、生体内部位の観察を行う観察カメラ60と、該観察カメラ60を支持し、術部に対して位置決めするための観察カメラ支持アーム62と、該観察カメラ支持アーム62内の各駆動機構部(図示せず)を駆動するモータ64とから構成される。
【0033】
一方、上記制御部38は、上記スレーブ本体36の各モータ48,50,56,58,64を駆動するモータ駆動部66と、上記観察カメラ60の動作を制御すると共に該制御部38に接続された表示部68の表示を制御するカメラ表示制御部70と、上記マスタ部34からの遠隔操作情報に基づいて上記生体内挿入器具10、マニピュレータ52、観察カメラ60の移動量や動作を制御する信号を生成して、上記モータ駆動部66及びカメラ表示制御部70に供給することで、上記生体内挿入器具10、マニピュレータ52、観察カメラ60の移動や動作を行わせる演算部72と、各部に電源を供給するための電源部74と、から構成されている。また、上記演算部72は、上記マスタ部34からの遠隔操作情報に基づいて、上記吸引用空圧伝達路及び供給用空圧伝達路(図2では纏めて一つの空圧伝達路76として示している)に与える空圧を発生する空圧発生部78の動作を制御する信号を生成して、上記空圧発生部78に供給することで、上記生体内挿入器具10の接触部14の吸引孔24による吸引及びバルーン18の膨張/収縮動作を行わせる。
【0034】
従って、術者は、表示部68に表示された、観察カメラ60による術部の画像と、生体内挿入器具10の接触部14先端に取り付けられた小型カメラ20による画像とを観察しながら、マスタ部34を操作して、生体内挿入器具10を胸腔30内に挿入して行き、生体内挿入器具10の接触部14を対象臓器12の所望部位に接触させて、その動きを抑制させると共に、対象臓器12と隣接臓器80又は体腔壁との間に手術空間32を確保することができる。そしてその後、上記生体内挿入器具10と同様にマスタ部34を操作して、肋骨82を介してマニピュレータ52を、上記生体内挿入器具10円弧状に変形された接触部14(及びバルーン18)の先端部と接触部支持部16との間の隙間より上記確保された手術空間32に挿入して、対象臓器12の患部に対する処置を実施することができる。
【0035】
[第2参考形態]
図4(A)及び(B)は、本発明の第2参考形態に係る生体内挿入器具10の構成を示す図である。
【0036】
本参考形態に係る生体内挿入器具10は、心臓等の対象臓器12近傍の生体内に挿入される挿入部84と、該挿入部84に複数設けられたバルーン18と、を備えている。
【0037】
ここで、挿入部84は、その先端に小型カメラ20が組み込まれている。この挿入部84を生体内に挿入するための構成は、上記第1参考形態における接触部14及び接触部支持部16を生体内に挿入するための構成と同様である。
【0038】
また、バルーン18は、上記挿入部84の軸方向に対して直交する方向であって、且つ、互いに直交する4方向に膨らむように、4個ずつ組になって、複数箇所に間隔を空けて配置されている。これらのバルーン18を膨張/収縮させるための構成についても上記第1参考形態と同様である。
【0039】
このような構成を持つ本参考形態に係る生体内挿入器具10では、バルーン18を膨らませると、1箇所について4方向に膨らんで、対象臓器12と隣接臓器80及び/又は体腔壁とを挿入部84から離間する方向に押圧するため、その直交する方向に膨らんだ隣接バルーン18間にマニピュレータ52を挿入していくための挿入空間86を確保することができる。そして、このようなバルーン18の組が間隔を空けて配置されているため、上記のようにバルーン18を膨らませることで、挿入空間86を確保すると同時に、バルーン18の取付け箇所間に手術空間32を確保することができる。
【0040】
なお、各バルーン18は、挿入部84に対し1箇所について4方向に膨らむように4個ずつ設けているが、4方向に限定するものではないことは勿論である。また、それぞれを独立のバルーンとするのではなく、複数方向に向けて膨らむ単一のバルーンとして構成しても良い。
【0041】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
図5は、本発明の第1実施形態に係る生体内挿入器具10の構成を示す図である。
【0042】
本実施形態に係る生体内挿入器具10は、心臓等の対象臓器12近傍の生体内に挿入される挿入部84の先端に、機械的に開閉する開閉部88を設けたものである。
【0043】
ここで、挿入部84を生体内に挿入するための構成は、上記第1参考形態における接触部14及び接触部支持部16を生体内に挿入するための構成と同様である。
【0044】
また、開閉部88は、上記挿入部84内を通されたワイヤ等の細長いケーブル(図示せず)に接続された2つの湾曲管88A,88Bからなり、これら湾曲管88A,88Bは、上記ケーブルの張力を調整することで、湾曲された形態と湾曲していない形態とを設定可能となっている。なお、2つの湾曲管88A,88Bは、この湾曲された形態において、互いに反対方向の湾曲となるように挿入部84に取り付けられている。
【0045】
このような構成を持つ本実施形態に係る生体内挿入器具10では、生体内への挿入時には湾曲管88A,88Bは湾曲していない形態、つまり開閉部88が閉じられた状態とされて生体内に挿入され、所望の挿入状態で上記ケーブルを引くことで図5中に矢印で示すように湾曲管88A,88Bは互いに反対方向に湾曲した形態となる。このように開閉部88が開いた状態では、湾曲管88A,88Bによって対象臓器12と隣接臓器80及び/又は体腔壁とを挿入部84から離間する方向に押圧することで、胸腔30とつながる手術空間32を確保することができる。
【0046】
なお、湾曲管88A,88Bに、上記第1参考形態で説明したような吸引孔24を設けて、対象臓器12及び/又は隣接臓器80又は体腔壁を吸着し、それらの振動を抑制するようにしても良いことは勿論である。即ち、湾曲管88A,88Bをスタビライザとして使用することも可能である。
【0047】
(第1変形例)
図6(A)及び(B)は、本実施形態の第1変形例の構成を示す図である。
【0048】
本第1変形例は、開閉部88に、2つの湾曲管88A,88Bの代わりに4つの可動箆88C,88D,88E,88Fを用いるものである。
【0049】
このような可動箆88C,88D,88E,88Fを用いた開閉部88としても、同様に手術空間32を確保することができる。
【0050】
(第2変形例)
図7は、本発実施形態の第2変形例の構成を示す図である。
【0051】
本第2変形例は、開閉部88を1つの湾曲管88Gと固定部88Hとにより構成したものである。ここで、固定部88Hは、挿入に支障がない程度の剛性を有する。また、湾曲管88Gには、湾曲していない形態では上記固定部88Hにより保護され、湾曲された形態では露出する小型カメラ20が組み込まれている。
【0052】
このような構成としても、同様に手術空間32を確保することができる。また、小型カメラ20により、その手術空間32を観察することもできる。
【0053】
更に、湾曲管88G及び/又は固定部88Hに上記第1参考形態で説明したような吸引孔24を設けて、対象臓器12及び/又は隣接臓器80又は体腔壁を吸着し、それらの振動を抑制するようにしても良いことは勿論である。
【0054】
なお、本第2変形例を実施する際には、例えば、上記湾曲管88Gは側視型の内視鏡を用い、挿入部84はその内視鏡を覆うオーバーチューブとし、固定部88Hは、そのオーバーチューブの先端部の一部を、上記内視鏡が変形可能となるように除去することで構成することができる。
【0055】
(第3変形例)
図8は、本実施形態の第3変形例の構成を示す図である。
【0056】
本第3変形例は、開閉部88を構成する2つの湾曲管88A,88Bの内、一方の湾曲管88Aにバルーン18を設け、他方の湾曲管88Bにはその先端に特許文献3に開示されているような扇状に開閉自在な扁平板90を設けたものである。
【0057】
このような構成としても、同様に手術空間32を確保することができる。
また、対象臓器12と接触する側の湾曲管88Aに設けた扁平板90を扇状に開いて対象臓器12を押圧することで、対象臓器12の振動を抑制することができる。
【0058】
更に、他方の湾曲管88Bを2段湾曲式とし、先端に小型カメラ20を組み込むことにより、図8に示すように手術空間32を観察できるようにすることも可能である。
【0059】
なお、本第3変形例を実施する際には、例えば、上記湾曲管88A,88Bとしてマニピュレータ52を用い、挿入部84はそれらマニピュレータ52を覆うオーバーチューブとして構成することができる。
【0060】
[第2実施形態]
図9は、本発明の第2実施形態に係る生体内挿入器具10の構成を示す図である。
【0061】
本実施形態に係る生体内挿入器具10は、内視鏡下手術で用いられる小型カメラ20付きのマニピュレータ52として提供されるもので、該マニピュレータ52の先端から出し入れ可能に構成された2つの鉗子92と、各鉗子92に設けられたバルーン18と、を備えている。
【0062】
ここで、上記2つの鉗子92は、湾曲機能を有しており、マニピュレータ52内を通されたワイヤ等の細長いケーブル(図示せず)の張力を調整することでその湾曲状態を調整可能となっている。なお、2つの鉗子92の湾曲方向は、互いに反対方向となるように取り付けられている。
【0063】
また、バルーン18は、上記鉗子92及びマニピュレータ52内に設けられた供給用空圧伝達路(図示せず)から空気を供給することで膨らますことができるようになっている。
【0064】
このような構成を持つ本実施形態に係る生体内挿入器具10では、鉗子92及びバルーン18はマニピュレータ52内に収納された状態で生体内に挿入され、所望の挿入状態で鉗子92がマニピュレータ52から延ばされ、上記ケーブルを引いていくことで2つの鉗子92は互いに反対方向に湾曲していく。このとき同時にバルーン18を膨らませることにより、湾曲された鉗子92が生体に損傷を与えることを防止できる。
【0065】
このようにして鉗子92を所望の位置まで湾曲させることにより、バルーン18によって対象臓器12と隣接臓器80及び/又は体腔壁とを挿入部84から離間する方向に押圧することで、胸腔30とつながる手術空間32を確保することができる。
【0066】
以上実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
【0067】
(付記)
前記の具体的実施形態から、以下のような構成の発明を抽出することができる。
【0068】
(1) 処置の対象となる対象臓器近傍の生体内に挿入される挿入部と、
上記挿入部に設けられ、上記対象臓器と当該対象臓器とは異なる臓器との間、又は、当該対象臓器と腹壁若しくは胸壁との間に、当該対象臓器を処置するための空間を確保する空間確保手段と、
上記空間確保手段を駆動し、上記対象臓器と当該対象臓器とは異なる臓器との間又は当該対象臓器と上記腹壁若しくは胸壁との間で力を作用させる駆動部と、
を有することを特徴とする生体内挿入器具。
【0069】
(対応する形態)
この(1)に記載の生体内挿入器具に関する形態は、第1及び第2参考形態、第1及び第2実施形態が対応する。それらの形態において、生体内挿入器具10が上記生体内挿入器具に、対象臓器12が上記臓器に、接触部14又は挿入部84が上記挿入部に、手術空間32が上記対象臓器を処置するための空間に、バルーン18,開閉部88又は鉗子92が上記空間確保手段に、空圧伝達路76又は図示しないケーブルが上記駆動部に、それぞれ対応する。
【0070】
(作用効果)
この(1)に記載の生体内挿入器具によれば、生体内に挿入されて処置のための空間を確保することが可能となる。
【0071】
(2) 上記空間確保手段は、上記挿入部の上記対象臓器と接触する側とは反対側に設けられることを特徴とする(1)に記載の生体内挿入器具。
【0072】
(対応する形態)
この(2)に記載の生体内挿入器具に関する形態は、第1参考形態が対応する。
【0073】
(作用効果)
この(2)に記載の生体内挿入器具によれば、空間確保手段が対象臓器とは反対側にある臓器又は体腔に作用して処置のための空間を確保することができる。
【0074】
(3) 上記空間確保手段は、生体内で膨らむバルーンであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の生体内挿入器具。
【0075】
(対応する形態)
この(3)に記載の生体内挿入器具に関する形態は、第1参考形態、第2参考形態、第1実施形態の第3変形例、第2実施形態が対応する。それらの形態において、バルーン18が上記バルーンに対応する。
【0076】
(作用効果)
この(3)に記載の生体内挿入器具によれば、バルーンを膨らませることで処置のための空間を確保することができる。
【0077】
(4) 上記挿入部は、上記対象臓器と接触して当該臓器の振動を抑制する抑制部であることを特徴とする(2)に記載の生体内挿入器具。
【0078】
(対応する形態)
この(4)に記載の生体内挿入器具に関する形態は、第1参考形態が対応する。その形態において、接触部14が上記抑制部に対応する。
【0079】
(作用効果)
この(4)に記載の生体内挿入器具によれば、処置のための空間を確保すると同時に対象臓器の振動を抑制できる。
【0080】
(5) 上記空間確保手段は、上記挿入部の上記対象臓器と接触する側及びその反対側に設けられることを特徴とする(1)に記載の生体内挿入器具。
【0081】
(対応する形態)
この(5)に記載の生体内挿入器具に関する形態は、第1及び第2実施形態が対応する。
【0082】
(作用効果)
この(5)に記載の生体内挿入器具によれば、空間確保手段が、対象臓器と、対象臓器とは反対側にある臓器又は体腔とに作用して処置のための空間を確保することができる。
【0083】
(6) 上記空間確保手段は、生体内に挿入されるときの第1の形態と、上記第1の形態よりも大きい体積を有する上記生体内に挿入されたときの第2の形態とを、選択的に設定可能であることを特徴とする(1)に記載の生体内挿入器具。
【0084】
(対応する形態)
この(6)に記載の生体内挿入器具に関する形態は、第1及び第2参考形態、第1及び第2実施形態が対応する。
【0085】
(作用効果)
この(6)に記載の生体内挿入器具によれば、生体内への挿入時には小さい体積を有する形態とすることができるので、挿入を容易に行える。
【0086】
(7) 上記駆動部は、上記対象臓器と当該対象臓器とは異なる臓器との間又は当該対象臓器と上記腹壁若しくは胸壁との間で力を作用させるときの作用点を、対向する位置に設定することを特徴とする(1)に記載の生体内挿入器具。
【0087】
(対応する形態)
この(7)に記載の生体内挿入器具に関する形態は、第1及び第2参考形態、第1及び第2実施形態が対応する。
【0088】
(作用効果)
この(7)に記載の生体内挿入器具によれば、空間確保手段に対向する位置に作用させるので、空間確保手段の作用点、反作用点はすべて体腔内に存在する。空間確保手段を駆動するための力は、駆動部と空間確保手段との間の生体内挿入器具内で生じ、この間では外部(例えば生体)に力が加えられることはない。そのため、駆動部から空間確保手段までの間の剛性を大きくする必要はなく、軟性部材で構成したり装置全体を小型化したりすることが可能である。
【0089】
(8) 上記駆動部は、体腔内の臓器のうちの一部の臓器に限定して上記空間確保手段に力を作用させることを特徴とする(1)に記載の生体内挿入器具。
【0090】
(対応する形態)
この(8)に記載の生体内挿入器具に関する形態は、第1及び第2参考形態、第1及び第2実施形態が対応する。
【0091】
(作用効果)
この(8)に記載の生体内挿入器具によれば、体腔内の臓器のうちの対象臓器のみ、または対象臓器と隣接臓器とにのみ、力を作用させて処置のための空間を確保することができる。
【0092】
(9) 上記空間確保手段が確保する空間は、体腔とつながる空間であることを特徴とする(1)に記載の生体内挿入器具。
【0093】
(対応する形態)
この(9)に記載の生体内挿入器具に関する形態は、第1及び第2参考形態、第1及び第2実施形態が対応する。それらの形態において、胸腔30が上記体腔に対応する。
【0094】
(作用効果)
この(9)に記載の生体内挿入器具によれば、体腔側から他の処置具を確保された空間に挿入することができる。
【0095】
(10) 上記空間確保手段は、少なくとも2つの湾曲機能を有する湾曲部材を有することを特徴とする(5)乃至(8)の何れかに記載の生体内挿入器具。
【0096】
(対応する形態)
この(10)に記載の生体内挿入器具に関する形態は、第1実施形態及び第2実施形態が対応する。第1実施形態において、湾曲管88A,88B、可動箆88C,88D,88E,88Fが、第2実施形態において、鉗子92が、上記湾曲部材に対応する。
【0097】
(作用効果)
この(10)に記載の生体内挿入器具によれば、湾曲部材が、対象臓器と、対象臓器とは反対側にある臓器又は体腔とに作用して処置のための空間を確保することができる。
【0098】
(11) 上記空間確保手段は、生体内で膨らむバルーンを有することを特徴とする(5)乃至(10)の何れかに記載の生体内挿入器具。
【0099】
(対応する形態)
この(11)に記載の生体内挿入器具に関する形態は、第1実施形態の第3変形例及び第2実施形態が対応する。それらの形態において、バルーン18が上記バルーンに対応する。
【0100】
(作用効果)
この(11)に記載の生体内挿入器具によれば、臓器等との接触がバルーンであるため、その接触部位で臓器を傷つけたりしないようにすることができる。
【0101】
(12) 上記空間確保手段は、固定部と湾曲機能を有する湾曲部材とを有し、
該固定部は該湾曲部材が湾曲しない状態において該湾曲部材を保護していることを特徴とする(5)乃至(8)の何れかに記載の生体内挿入器具。
【0102】
(対応する形態)
この(12)に記載の生体内挿入器具に関する形態は、第1実施形態の第2変形例が対応する。その形態において、固定部88Hが上記固定部に対応し、湾曲部88Gが上記湾曲部材に対応する。
【0103】
(作用効果)
この(12)に記載の生体内挿入器具によれば、固定部と湾曲部材が、対象臓器と、対象臓器とは反対側にある臓器又は体腔とに作用して処置のための空間を確保することができる。
【0104】
(13) 上記駆動部は、電動であることを特徴とする(5)乃至(12)の何れかに記載の生体内挿入器具。
【0105】
(対応する形態)
この(13)に記載の生体内挿入器具に関する形態は、第1実施形態及び第2実施形態が対応する。
【0106】
(作用効果)
この(13)に記載の生体内挿入器具によれば、操作性が向上する。
【符号の説明】
【0107】
10…生体内挿入器具、 12…対象臓器、 14…接触部、 16…接触部支持部、 18…バルーン、 20…小型カメラ、 22…透明テーパフード、 24…吸引孔、 26…横隔膜、 28…穴、 30…胸腔、 32…手術空間、 34…マスタ部、 36…スレーブ本体、 38…制御部、 40…生体内挿入器具スレーブ部、 42…マニピュレータスレーブ部、 44…観察カメラ部、 46…生体内挿入器具支持アーム、 48,50,56,58,64…モータ、 52…マニピュレータ、 54…マニピュレータ支持アーム、 60…観察カメラ、 62…観察カメラ支持アーム、 66…モータ駆動部、 68…表示部、 70…カメラ表示制御部、 72…演算部、 74…電源部、 76…空圧伝達路、 78…空圧発生部、 80…隣接臓器、 82…肋骨、 84…挿入部、 86…挿入空間、 88…開閉部、 88A,88B,88G…湾曲管、 88C,88D,88E,88F…可動箆、 88H…固定部、 90…扁平板、 92…鉗子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処置の対象となる対象臓器近傍の生体内に挿入される挿入部と、
上記挿入部の上記対象臓器と接触する側及びその反対側に設けられ、上記対象臓器と当該対象臓器とは異なる臓器との間、又は、当該対象臓器と腹壁若しくは胸壁との間に、当該対象臓器を処置するための空間を確保する空間確保手段と、
上記空間確保手段を駆動し、上記対象臓器と当該対象臓器とは異なる臓器との間又は当該対象臓器と上記腹壁若しくは胸壁との間で力を作用させる駆動部と、
を有することを特徴とする生体内挿入器具。
【請求項2】
上記空間確保手段は、生体内に挿入されるときの第1の形態と、上記第1の形態よりも大きい体積を有する上記生体内に挿入されたときの第2の形態とを、選択的に設定可能であることを特徴とする請求項1に記載の生体内挿入器具。
【請求項3】
上記駆動部は、上記対象臓器と当該対象臓器とは異なる臓器との間又は当該対象臓器と上記腹壁若しくは胸壁との間で力を作用させるときの作用点を、対向する位置に設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の生体内挿入器具。
【請求項4】
上記駆動部は、体腔内の臓器のうちの一部の臓器に限定して上記空間確保手段に力を作用させることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の生体内挿入器具。
【請求項5】
上記空間確保手段は、少なくとも2つの湾曲機能を有する湾曲部材を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の生体内挿入器具。
【請求項6】
上記空間確保手段は、生体内で膨らむバルーンを有することを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の生体内挿入器具。
【請求項7】
上記空間確保手段は、固定部と湾曲機能を有する湾曲部材とを有し、
該固定部は、該湾曲部材が湾曲しない状態において該湾曲部材を保護していることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の生体内挿入器具。
【請求項8】
上記駆動部は、電動であることを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の生体内挿入器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−130791(P2012−130791A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−88798(P2012−88798)
【出願日】平成24年4月9日(2012.4.9)
【分割の表示】特願2007−105242(P2007−105242)の分割
【原出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】