説明

生体情報処理装置および生体情報処理方法

【課題】光音響トモグラフィーにおいて、被検体内部での光量の減衰の影響を低減するための技術を提供する。
【解決手段】生体情報処理装置は、被検体に光を照射する光源と、前記被検体内の光吸収体が光を吸収することによって発生する音響波を検出し、検出信号を出力する音響波検出器と、前記音響波検出器から出力される検出信号を増幅する増幅器と、前記被検体内部での光量の減衰に起因する音響波の強度の低下を補正するために、利得の時間変化を定義する利得制御テーブルに従って前記増幅器の利得を時間的に変化させる利得制御部と、前記増幅器により増幅された信号から前記被検体内部の情報を得る信号処理部と、を備える。前記被検体内部の光量の分布又は前記音響波検出器の位置が異なる、複数の測定条件での測定が可能であり、前記利得制御部は、測定条件に応じて前記利得制御テーブルを変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報処理装置および生体情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エックス線、超音波、MRI(核磁気共鳴画像法)を用いたイメージング装置が医療分野で多く使われている。一方、レーザーなどの光源から照射した光を生体などの被検体内に伝播させ、その伝播光等を検知することで、生体内の情報を得る光イメージング装置の研究も医療分野で積極的に進められている。このような光イメージング技術の一つとして、光音響トモグラフィー(Photoacoustic Tomography:PAT)が提案されている(非特許文献1)。
PATとは、光源から発生したパルス光を被検体に照射し、被検体内で伝播・拡散した光のエネルギーを吸収した生体組織から発生した音響波を複数の個所で検出し、それらの信号を解析処理し、被検体内部の光学特性値に関連した情報を可視化する技術である。これにより、被検体内の光学特性値分布、特に光エネルギー吸収密度分布を得ることができる。
【0003】
非特許文献1によれば、光音響トモグラフィーにおいて、光吸収により被検体内の吸収体から発生する音響波の初期音圧(P)は次式で表すことができる。
=Γ・μ・Φ 式(1)
ここで、Γはグリューナイゼン係数であり、熱膨張係数(β)と音速(c)の二乗の積を定圧比熱(C)で割ったものである。μは吸収体の光吸収係数、Φは局所的な領域での光量(吸収体に照射された光量で、光フルエンスとも言う)である。非特許文献1によれば、音響波の大きさである音圧Pの変化を複数の個所で測定及び解析することにより、被検体の初期発生音圧分布(P)を画像化することができる。なお、Γは組織が決まれば、ほぼ一定の値をとることが知られているので、式(1)の関係から、μとΦの積、すなわち、光エネルギー吸収密度分布も得ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M. Xu, L. V. Wang, “Photoacoustic imaging in biomedicine”, Review of scientific instruments, 77, 041101(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光音響トモグラフィーでは、上記の式(1)から分かるように、音圧(P)の計測結果から、被検体内の吸収係数(μ)の分布を求めるためには、音響波を発生する吸収体に照射された光量の分布(Φ)を何らかの方法で求める必要がある。しかし、被検体(特に生体)内に導入された光は拡散し減衰するため、吸収体に照射された光量の推定は難しい。それゆえ従来は、音響波の音圧測定結果に基づき、光エネルギー吸収密度(μ×Φ)の分布、あるいはそれにΓを乗じた初期圧力(P)の分布しか画像化することができなかった。言い換えると、サイズ・形状・吸収係数が同じ光吸収体が、生体内部での光量の減衰の影響により(つまり光吸収体が生体内のどこに存在するかに依存して)、異なるコントラストで表示されてしまうという課題があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、光音響トモグラフィーにおいて、被検体内部での光量の減衰の影響を低減するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の生体情報処理装置は、被検体に光を照射する光源と、前記被検体内の光吸収体が光を吸収することによって発生する音響波を検出し、検出信号を出力する音響波検出器と、前記音響波検出器から出力される検出信号を増幅する増幅器と、前記被検体内部での光量の減衰に起因する音響波の強度の低下を補正するために、利得の時間変化を定義する利得制御テーブルに従って前記増幅器の利得を時間的に変化させる利得制御部と、前記増幅器により増幅された信号から前記被検体内部の情報を得る信号処理部と、を備え、少なくとも前記被検体内部の光量の分布又は前記音響波検出器の位置が異なる、複数の測定条件での測定が可能であり、前記利得制御部は、測定条件に応じて前記利得制御テーブルを変更することを特徴とする生体情報処理装置である。
【0008】
本発明の生体情報処理方法は、被検体に照射された光を前記被検体内の光吸収体が吸収することによって発生する音響波を検出し、検出信号を出力する工程と、出力された検出信号を増幅器により増幅する際に、前記被検体内部での光量の減衰に起因する音響波の強度の低下を補正するために、利得の時間変化を定義する利得制御テーブルに従って前記増幅器の利得を時間的に変化させる工程と、前記増幅器により増幅された信号から前記被検体内部の情報を得る工程と、を有し、少なくとも前記被検体内部の光量の分布又は前記音響波検出器の位置が異なる、複数の測定条件での測定が可能であり、測定条件に応じて前記利得制御テーブルが変更されることを特徴とする生体情報処理方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光音響トモグラフィーにおいて、被検体内部での光量の減衰の影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1実施形態の生体情報処理装置を示す図。
【図2】被検体内部の光量分布を模式的に示す図。
【図3】TGCで用いる利得制御テーブルの例を示す図。
【図4】増幅器及び利得制御部の構成例を示す図。
【図5】第2実施形態の生体情報処理装置を示す図。
【図6】圧迫板間の距離を変えた場合の光量分布の変化を示す図。
【図7】圧迫板間の距離を変えた場合の利得制御テーブルの変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係る生体情報処理装置は、光音響トモグラフィー(PAT)を利用したイメージング装置である。この生体情報処理装置は、被検体上の光照射領域に光を照射する光源と、被検体内の光吸収体が光を吸収することによって発生する音響波を検出し、検出信号を出力する音響波検出器と、を備える。また生体情報処理装置は、音響波検出器から出力される検出信号を増幅する増幅器と、この増幅器の利得を制御する利得制御部と、増幅器により増幅された信号に基づき被検体内部の情報(例えば光学特性値分布)を得る信号処理部と、を備える。なお、本発明において、音響波とは、音波、超音波、光音響波と呼ばれるものを含み、被検体に近赤外線等の光(電磁波)を照射して被検体内部で発生する弾性波のことを示す。
【0012】
光照射領域(光の照射される面)より被検体内部に入射した光は被検体内で拡散するため、光照射領域から離れるほど光量(フォトン数)が著しく減少する。つまり、被検体内において、光の照射される面から遠くなるに従い、発生する音響波の強度(初期音圧)が低下する。そこで本実施形態では、このような光量の減衰に起因する音響波の強度の低下を補正するために、利得制御部によって増幅器の利得を変化させる。具体的には、光照射領域からの距離が遠いところから発生した音響波を検出するときほど、増幅器の利得を大
きくする。
【0013】
ところで、生体情報処理装置が、光照射方法若しくは音響波検出器の位置、又はその両方が異なる複数の測定条件での測定が可能である場合は、測定条件毎に利得の変化のさせ方を変える必要がある。光照射方法(例えば、光照射領域の位置・数・大きさ、照射光の光量・周波数など)が変わると、被検体内部の光量分布、つまり被検体内の各点での音響波の強度が変わるからであり、音響波検出器の位置が変わると、音響波の検出時刻が変わるからである。例えば、光照射領域が被検体を挟んで音響波検出器の反対側にある場合には、音響波検出器に入ってくる音響波は時間とともに強くなる。そのため、時間の経過とともに増幅器の利得を下げるような制御が必要となる。逆に、光照射領域が音響波検出器と同じ側にある場合には、音響波検出器に入ってくる音響波は時間とともに弱くなる。そのため、時間の経過とともに増幅器の利得を上げるような制御が必要となる。
【0014】
そこで本実施形態の生体情報処理装置は、測定時の測定条件に応じて、利得制御部が利得制御に用いる利得制御テーブルを適宜変更するという構成を採用する。この構成によれば、光量分布や検出時刻などを都度計算する必要がないため、適応的な利得制御を簡単な回路構成で実現することができる。なお、利得制御テーブルとは、利得の時間変化(或いは、光照射時刻からの経過時間に対する利得の値)を定義する関数又はテーブルである。
【0015】
利得制御テーブルの変更の仕方としては、次の2つの構成がある。一つは、利得制御部が、複数の測定条件のそれぞれに対応する複数の利得制御テーブルを予めメモリ内に記憶しており、測定時の測定条件に対応する利得制御テーブルを選択し利得制御に使用するという構成である。測定条件毎に専用のテーブルを用意するため、高い補正精度を期待できる。測定条件のバリエーションが限られている場合は、この構成が有利である。二つ目は、利得制御部が、標準の測定条件に対応する標準利得制御テーブルを予め記憶しており、測定時の測定条件と標準の測定条件との差異に基づき標準利得制御テーブルを修正し、修正したテーブルを利得制御に使用するという構成である。この構成は、テーブル作成に要するコストとテーブルを格納するメモリ容量を削減できるという利点がある。勿論、上記2つの構成を組み合わせることも好ましい。
【0016】
上記のように時間の経過とともに増幅器の利得を変化させる技術をTGC(Time Gain Control)と呼ぶ。TGCは、従来の通常の超音波診断装置(超音波を送信し、被検体内
の測定対象で反射した反射超音波を受信する装置)でも利用されている。ただし、その目的は超音波信号の生体内での減衰を補正することであり、本実施形態のように光量の減衰に起因する音響波の強度の低下を補正することを目的とするものではない。また、超音波診断装置の場合においては、超音波を発生するのも検出するのも超音波探触子であるため、時間とともに利得を単調増加させるだけでよい。これに対し、本実施形態のTGCでは、測定条件に応じて利得の変化のさせ方を変えている。この点でも、本実施形態のTGCと従来のTGCは異なっている。
【0017】
本実施形態のTGCを実現する回路として可変利得アンプがある。可変利得アンプは、通常の増幅器と違い外部からの入力信号によって利得を変えられる増幅器である。通常、利得を制御するための入力は電圧制御である。つまり、TGCは、音響波の検出信号を増幅する増幅器を可変利得アンプで構成し、その可変利得アンプの利得変更用の入力信号を時間とともに制御することによって可能となる。
【0018】
複数の音響波検出器を用いて測定を行う場合や、音響波検出器自体が音響波を受信して電気信号に変換する複数の素子から構成される場合には、被検体上の光照射領域から各音響波検出器又は各素子までの距離が同じであれば、全ての音響波検出器に対して同じ利得制御テーブルを適用すればよい。しかしながら、光照射領域に対して直交する方向に複数
の音響波検出器又は複数の素子が配列されている構成のように、光照射領域から音響波検出器までの距離が異なる場合には、音響波検出器毎又は素子毎に利得制御テーブルを変更するとよい。つまり、光照射領域に近い側に置かれている音響波検出器又は素子の検出信号の強度は、遠い側に置かれている音響波検出器又は素子のものよりも相対的に強いため、光照射領域からの距離が近くなるほど利得を小さくする。このように、TGCに加えて、光照射領域からの距離に応じた音響波検出器毎又は素子毎の利得調整を行うことで、補正精度のさらなる向上を期待できる。
【0019】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
[第1実施形態]
(装置の構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る生体情報処理装置の構成を示したものである。図1に基づいて、本発明の第1実施形態について説明する。ここで説明する生体情報処理装置は、悪性腫瘍や血管疾患などの診断や化学治療の経過観察などを目的として、生体内の光学特性値分布及び、それらの情報から得られる生体組織を構成する物質の濃度分布の画像化を可能とする装置である。
【0020】
生体情報処理装置は、光源101と、音響波検出器(探触子ともいう)106と、増幅器107と、利得制御部108と、信号処理部109と、表示装置110から構成される。光源101は、光102を発する装置である。光源101から発せられた光102は生体などの被検体103に照射される。本実施形態の光源101は、被検体103に対して両側から光を照射可能な構成を有する。図1の例では、単一の光源101からの光102を光学装置によって分離し被検体103の両側に導いているが、光照射領域毎に個別に設けられた複数の光源を同時に発光させることで複数の方向から光照射を行う構成も好ましい。なお、被検体103の片側の表層に存在する光吸収体104を検出するためには、片側の光照射だけでもよい。このような場合には、光源101から照射される光が片側だけの光照射になるように光路などを切り替えるようにする。
【0021】
被検体103の内部を伝播した光のエネルギーの一部が血管などの光吸収体104に吸収されると、その光吸収体104から音響波(典型的には超音波)105が発生する。被検体103に接触させた音響波検出器106により、光吸収体104から発生した音響波105を検出し、電気信号に変換する。増幅器107は、音響波検出器106から出力される電気信号の増幅を行う。信号処理部109は、増幅器107にて増幅された電気信号をデジタル信号に変換した後信号処理を行う。この信号処理は、デジタル信号に変換した信号を用いて画像データを生成する処理であり、生体内の光学特性値分布及び、それらの情報から得られる生体組織を構成する物質の濃度分布を画像データとして生成(画像再構成)する。信号処理部109は、例えばパーソナル・コンピュータ(PC)で構成される。表示装置110は信号処理部109で生成された画像データを画像として表示する装置である。
【0022】
(光量の減衰)
図2(A)は、被検体103の両側から光を照射した場合の、被検体内部の光量分布を模式的に示したものである。横軸は、音響波検出器106の側の光照射面(図1の右側の光照射面)からの深さである。図2(A)は被検体両側の照射面間の距離が5cmの例である。同様に図2(B)に、被検体103の右側から光を照射した場合の光量分布、図2(C)に、被検体103の左側から光を照射した場合の光量分布を示す。片側照射の場合、被検体103の内部では、照射面からの距離に関して光量が指数関数的に減衰する。図2(A)のように両側から光を照射した場合には、両側の照射面に近いほど光量が大きく、照射面間の中心に近づくに従って光量が指数関数的に減衰する。中心部分では両側の光量の寄与がある。このような光量分布は、被検体に対する光照射領域の配置、照射光の光
量・周波数、被検体内部の光吸収や光散乱などの光学係数(光学特性値)などから、モンテカルロ法や有限要素法などを用いて計算することが出来る。また、このような数値計算手法ではなく、解析解から計算することも出来る。
【0023】
図2(A)〜図2(C)に示されるような被検体内の光量の変化は、発生する音響波の初期音圧に影響する。つまり、発生する音響波の初期音圧は光量に比例する。初期音圧が大きければ、音響波検出器にて検出される音響波の強度もそれに比例して大きくなる。つまり検出される音響波の強度は被検体内部の光量に比例する。
なお、光吸収体から発生した音響波は被検体103内部を通過することで減衰する。本実施形態では、この音響波の減衰補正に関しては述べないが、正確に計測するためにはこの音響波の減衰も考慮して補正することが好ましい。
【0024】
(利得制御)
上記のような被検体内部での光量の減衰による音響波の強弱を補正するために、本実施形態では、検出した音響波の検出信号を増幅する増幅器107の利得を利得制御部108にて制御する。音響波は音響波検出器106に近い部位から発生した音響波が時間的に先に届き、遠い部位から発生した音響波が時間的に遅れて届くことになる。音響波検出器106に近い部位の検出信号を増幅するときの利得から、遠い部位の検出信号を増幅する利得へと、時間的に連続的に変化させることで光量の減衰の補正をすることが可能となる。
【0025】
利得制御部108は、増幅器107に与える利得の時間変化を定義する利得制御テーブルを予め記憶しており、この利得制御テーブルに従って増幅器107の利得を変化させる。利得制御テーブルは、被検体内部の光量分布と音響波検出器106の位置とから決定することができる。つまり、被検体内部の光量分布が分かれば、被検体内部の各部位で発生する音響波の強度(初期音圧)が求まり、音響波検出器106の位置が決まれば、被検体内部の各部位からの音響波の到達時刻が求まる。そして、各部位の初期音圧のばらつきを低減するように利得(ゲイン)の値を決定し、それらの値を音響波の到達時刻順に並べることで、利得制御テーブルが得られる。実際には、利得のカーブの傾きや絶対値は、各部位の初期音圧の値、音響波検出器106の感度、増幅器107などの雑音、制御性などを考慮して決定することが好ましい。
【0026】
ところで、図2(A)〜図2(C)に示すように、被検体への光照射の条件を変えると、被検体内部の光量分布が変化する。従って、本実施形態では、各測定条件に対応する複数の利得制御テーブルを予め用意しておき、測定時の条件に応じて利得制御部108が利得制御テーブルを切り替える。
【0027】
図3(A)に、両側から光を照射する場合に用いられる利得制御テーブルの例を示す。縦軸は利得(dB)であり、横軸は光が照射されてからの経過時間である。利得制御部108は、この利得制御テーブルに従った利得設定を増幅器107に与えることで、光量の減衰の補正を行う。図3(B)は、図1の右側(音響波検出器106と同じ側)から光を照射する場合の利得制御テーブルの例であり、図3(C)は、図1の左側(音響波検出器106の反対側)から光を照射する場合の利得制御テーブルの例である。
【0028】
なお、両側照射/片側照射のように光照射領域(照射面)の位置や数を変える以外にも、光照射領域の大きさや照射光の光量・波長などの条件を変えた場合も被検体内の光量分布は変化する。また、音響波検出器106を被検体103のどこに当てるかによって、各部位からの音響波の到達時刻(到達順)が変わる。従って、生体情報処理装置が取り得るすべての測定条件について、予め利得制御テーブルを用意しておくとよい。測定条件は、生体情報処理装置が動作状況や測定目的などに応じて自動的に切り替えることもできるし、ユーザ(測定者)の指定により切り替えることもできる。
【0029】
図4は、TGCを実行するための増幅器107及び利得制御部108の具体的な構成例を示している。図4において、利得制御部108は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)45とDAコンバータ(Digital Analog Convertor:DAC)43で
構成される。FPGA45のメモリには、複数の利得制御テーブルが記憶されている。測定時に不図示の制御系より測定条件を示す情報を受け取ると、FPGA45は測定条件に対応する利得制御テーブルを読み出す。そして、FPGA45は、音響波の検出時刻に同期して利得の値を出力する。利得の値はDAC43でアナログ信号に変換され、増幅器107に送られる。増幅器107は、低ノイズ増幅器(Low Noise Amplifier:LNA)4
1と、可変ゲインアンプ(Variable Gain Amplifier:VGA)42とで構成される。低
ノイズ増幅器41は、音響波検出器106で検出された信号を一律に増幅する。その後で、可変ゲインアンプ42により、検出時刻に応じた利得(ゲイン)で検出信号を増幅する。可変ゲインアンプ42の出力は、ADコンバータ(Analog Digital Convertor:ADC)でデジタルデータに変換された後、信号処理部109に送られる。
【0030】
以上述べたように、本実施形態の構成によれば、測定条件に応じて適切な利得制御テーブルに切り替えることで、音響波検出器106の検出信号に対して適切なTGCを適用することができる。従って、光量の減衰に起因する音響波の強度の低下を精度よく補正でき、その結果、被検体内部の情報を表す再構成画像の品質を改善することができる。
【0031】
(装置の詳細)
次に、本実施形態の生体情報処理装置の構成をより具体的に説明する。
図1において、光源101は生体を構成する成分のうち特定の成分に吸収される特定の波長の光を照射する手段である。光源としては数ナノから数百ナノ秒オーダーのパルス光を発生可能なパルス光源を少なくとも一つは備える。光源としてはレーザーが好ましいが、レーザーのかわりに発光ダイオードなどを用いることも可能である。レーザーとしては、固体レーザー、ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザーなど様々なレーザーを使用することができる。なお、本実施の形態においては、単一の光源の例を示しているが、複数の光源を用いても良い。複数光源の場合は、生体に照射する光の照射強度を上げるため、同じ波長を発振する光源を複数用いても良いし、光学特性値分布の波長による違いを測定するために、発振波長の異なる光源を複数個用いても良い。なお、光源として、発振する波長の変換可能な色素やOPO(Optical Parametric Oscillators)を用いることができれば、光学特性値分布の波長による違いを測定することも可能になる。使用する波長に関しては、生体内において吸収が少ない700nmから1100nmの領域が好ましい。ただし、比較的生体表面付近の生体組織の光学特性値分布を求める場合は、上記の波長領域よりも範囲の広い、例えば400nmから1600nmの波長領域を使用することも可能である。
【0032】
光源から照射される光102を光導波路などを用いて伝搬させることも可能である。図1で示してはいないが、光導波路としては、光ファイバが好ましい。光ファイバを用いる場合は、それぞれの光源に対して、複数の光ファイバを使用して、生体表面に光を導くことも可能であるし、複数の光源からの光を一本の光ファイバに導き、一本の光ファイバのみを用いて、すべての光を生体に導いても良い。光学装置は、例えば、主に光を反射するミラーや、光を集光したり拡大したり形状を変化させるレンズなどの光学部品で構成される。このような光学部品は、光源から発せられた光102が被検体表面の光照射領域に所望の形状で照射されれば、どのようなものを用いてもかまわない。
【0033】
本実施形態の生体情報処理装置は、人や動物の悪性腫瘍や血管疾患などの診断や化学治療の経過観察などを目的としている。よって被検体103としては、人体や動物の乳房や指・手足などの診断の対象部位が想定される。光吸収体としては、被検体内で吸収係数が
高いものを示し、例えば、人体が測定対象であればヘモグロビンやそれを含む多く含む血管あるいは悪性腫瘍が該当する。
【0034】
音響波検出器(探触子)106は、生体内を伝播した光のエネルギーの一部を吸収した物体から発生した音響波(超音波)を検知し、電気信号(検出信号)に変換する素子を1つ以上有するものである。圧電現象を用いたトランスデューサー、光の共振を用いたトランスデューサー、容量の変化を用いたトランスデューサーなど音響波を検知できるものであれば、どのような音響波検出器を用いてもよい。複数の素子を有する音響波検出器を生体表面に配置させたてもよく、複数の場所で音響波を検知できれば同じ効果が得られるため、1個以上の素子を有する音響波検出器を生体表面上で2次元に走査しても良い。また、音響波検出器106と被検体との間には、音波の反射を抑えるためのジェルや水などの音響インピーダンスマッチング剤を使うことが望ましい。
【0035】
[第2実施形態]
図5は、本発明の第2実施形態に係る生体情報処理装置の構成を示したものである。本実施形態の生体情報処理装置は、被検体103を圧迫する圧迫手段を有しており、圧迫距離に応じて標準の利得制御テーブルを修正し、修正したテーブルを利得制御に用いる。それ以外の構成は第1実施形態のものと同様である。
【0036】
本実施形態の生体情報処理装置は、対向する板状部材(以下、圧迫板401とよぶ)の間で被検体103を圧迫した状態で、光を被検体103の両側から照射可能な形態になっている。測定時には、圧迫機構402によって圧迫距離(圧迫板401間の距離)を変化させ、被検体103を変形させる。それによって、光の照射面からの被検体103の中心部分までの距離を短くすることで、到達する光量を増加させる。
【0037】
圧迫距離は被検体103の大きさや硬さなどに依存して決定する必要がある。たとえば、被検体103が大きかったり硬かったりして、標準の圧迫距離まで圧迫することが困難な場合には、圧迫距離は必然的に大きくせざるを得ない。逆に、標準の圧迫距離よりも小さな被検体の場合には、圧迫距離を小さくして圧迫板で挟めるようにする。
【0038】
いずれの場合においても、圧迫距離が変わる場合には、被検体内部の光量減衰の状態が変わってくる。図6は圧迫距離が標準の圧迫距離(例えば5cm)よりも小さくなったときの、被検体内部の光量を模式的に示した図である。圧迫距離が小さくなると、両側の光照射面からの被検体内部の距離が小さくなる。そのため、光量の減衰量が少なくなるため、内部の光量は標準の圧迫距離の場合に比較して大きくなる。図7に、この場合の光量の減衰を補正するための利得制御部108にて生成される利得制御テーブルを示す。被検体内部に到達する光量が大きくなるため、被検体中心部分で発生する音響波に対する利得は標準の場合に比較して小さくてよい。また、音響波の検出時刻は総じて短くなる。そのため、標準の利得制御テーブルに比べて、時間方向に短く、且つ、被検体中心部分の利得の山が低い利得制御テーブルとなる。利得の絶対値は、システムの雑音など、他の要因も考慮して決定することが好ましい。
【0039】
本実施形態においては、圧迫機構402によって被検体103を圧迫する圧迫板401を駆動する。そして距離測定手段である圧迫距離計測器403によって圧迫距離が計測され、その距離情報が利得制御部108に入力される。圧迫距離が標準値(5cm)の場合は、利得制御部108は標準の利得制御テーブルをそのまま使用する。圧迫距離が標準値と異なっていた場合は、利得制御部108は圧迫距離の差異に基づき標準の利得制御テーブルを修正する。具体的には、圧迫距離が標準値よりも大きい場合は、利得制御テーブルを時間方向に伸張すると共に、利得の山を高くし、標準値よりも小さい場合は、利得制御テーブルを時間方向に縮小すると共に、利得の山を低くする。ここで、利得の山の位置は
基本的に被検体内部の光量のもっとも小さな位置に合わせる。両側から同じ光量で照射を行う場合においては、二枚の圧迫板401の中間点に利得の山を合わせる。両側からの光量が異なる場合は、両側の光量の減衰を推定して利得の山の位置を求めればよい。
【0040】
このように修正した利得制御テーブルを用いて、第1実施形態と同様の利得制御を行うことで、検出信号の強度を適切に補正することができる。なお、本実施形態においても、音響波自体の減衰を考慮して利得制御テーブルを決定すれば、補正精度をより向上することができる。
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した各実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。
【符号の説明】
【0041】
101:光源、103:被検体、104:光吸収体、105:音響波、106:音響波検出器、107:増幅器、108:利得制御部、109:信号処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に光を照射する光源と、
前記被検体内の光吸収体が光を吸収することによって発生する音響波を検出し、検出信号を出力する音響波検出器と、
前記音響波検出器から出力される検出信号を増幅する増幅器と、
前記被検体内部での光量の減衰に起因する音響波の強度の低下を補正するために、利得の時間変化を定義する利得制御テーブルに従って前記増幅器の利得を時間的に変化させる利得制御部と、
前記増幅器により増幅された信号から前記被検体内部の情報を得る信号処理部と、を備え、
少なくとも前記被検体内部の光量の分布又は前記音響波検出器の位置が異なる、複数の測定条件での測定が可能であり、
前記利得制御部は、測定条件に応じて前記利得制御テーブルを変更することを特徴とする生体情報処理装置。
【請求項2】
前記利得制御部は、前記複数の測定条件のそれぞれに対応する複数の利得制御テーブルを予め記憶しており、測定時の測定条件に対応する利得制御テーブルを選択して利得制御に使用することを特徴とする請求項1に記載の生体情報処理装置。
【請求項3】
前記利得制御部は、標準の測定条件に対応する標準利得制御テーブルを予め記憶しており、測定時の測定条件と前記標準の測定条件との差異に基づき前記標準利得制御テーブルを修正し、修正した利得制御テーブルを利得制御に使用することを特徴とする請求項1に記載の生体情報処理装置。
【請求項4】
前記音響波検出器は、音響波を検出し検出信号を出力する複数の素子から構成され、
被検体上の光が照射された領域から前記素子までの距離が素子毎に互いに異なる場合、
前記利得制御部は、前記素子毎に利得制御テーブルを変更することを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の生体情報処理装置。
【請求項5】
前記光源は、前記音響波検出器と同じ側から前記被検体に光を照射することと、前記音響波検出器の反対側から前記被検体に光を照射することが可能であり、
前記利得制御部は、前記音響波検出器と同じ側から光を照射して測定を行う場合と、前記音響波検出器の反対側から光を照射して測定を行う場合と、両側から同時に光を照射して測定を行う場合とで、利得制御テーブルを変更することを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の生体情報処理装置。
【請求項6】
対向する2つの板状部材の間で前記被検体を圧迫する圧迫手段と、
前記2つの板状部材の間の距離を測定する距離測定手段と、を有し、
前記音響波検出器は、前記板状部材に取り付けられており、
前記利得制御部は、前記距離測定手段により測定された距離に応じて利得制御テーブルを変更することを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の生体情報処理装置。
【請求項7】
被検体に照射された光を前記被検体内の光吸収体が吸収することによって発生する音響波を検出し、検出信号を出力する工程と、
出力された検出信号を増幅器により増幅する際に、前記被検体内部での光量の減衰に起因する音響波の強度の低下を補正するために、利得の時間変化を定義する利得制御テーブルに従って前記増幅器の利得を時間的に変化させる工程と、
前記増幅器により増幅された信号から前記被検体内部の情報を得る工程と、を有し、
少なくとも前記被検体内部の光量の分布又は前記音響波検出器の位置が異なる、複数の測定条件での測定が可能であり、
測定条件に応じて前記利得制御テーブルが変更されることを特徴とする生体情報処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−152273(P2011−152273A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15535(P2010−15535)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】