説明

生体組織洗浄装置

【課題】フィルタの目詰まりを生じさせることなく生体組織を効率的に洗浄する。
【解決手段】生体組織Aを通過させず、洗浄液Bを通過させるフィルタ3と、該フィルタ3を通過した洗浄液Bを排出する廃液部5とを備え、生体組織Aと洗浄液Bとの混合液Cを攪拌して生体組織Aを洗浄する処理容器2と、該処理容器2内に洗浄液Bを供給する洗浄液供給部4と、処理容器2の廃液部5により排出される洗浄液Bの液量を検出する廃液量検出部6と、該廃液量検出部6により検出された洗浄液Bの液量に基づいて、生体組織Aがフィルタ3に接触する前に洗浄液Bの排出を停止するよう廃液部5を制御する制御部7とを備える生体組織洗浄装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒトから採取された脂肪組織を生理食塩水とともに容器内で回転させることにより攪拌し、脂肪組織に付着している赤血球などを洗浄することが行われる(例えば、特許文献1参照。)。
この特許文献1においては、容器内部がフィルタにより仕切られており、洗浄後の廃液は、フィルタを介して排出されることにより脂肪組織から分離されるようになっている。
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/012480号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、脂肪組織がフィルタに接触すると、脂肪組織がフィルタに目詰まりして、廃液が排出され難くなり、洗浄効率が低下するという問題がある。すなわち、フィルタに目詰まりが発生すると、洗浄液の排出に要する時間が増大し、洗浄処理が長時間に及んでしまうという不都合がある。また、フィルタが目詰まりするとフィルタにかかる負荷が大きくなり、フィルタが破損するという不都合もある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、フィルタが目詰まりすることを防止し、洗浄効率を低下させることなく生体組織を効率的に洗浄することができる生体組織洗浄装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、生体組織を通過させず、洗浄液を通過させるフィルタと、該フィルタを通過した洗浄液を排出する廃液部とを備え、生体組織と洗浄液との混合液を攪拌して生体組織を洗浄する処理容器と、該処理容器内に洗浄液を供給する洗浄液供給部と、処理容器の廃液部により排出される洗浄液の液量を検出する廃液量検出部と、該廃液量検出部により検出された洗浄液の液量に基づいて、生体組織がフィルタに接触する前に洗浄液の排出を停止するよう廃液部を制御する制御部とを備える生体組織洗浄装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、生体組織および洗浄液が収容された処理容器内においてこれらの混合液を攪拌することにより、生体組織を洗浄し、洗浄後の赤血球等を含む洗浄液を廃液口から一のフィルタを介して排出することにより、処理容器内に洗浄された清浄な生体組織を得ることができる。この場合に、廃液部の作動により処理容器内の処理後の洗浄液が排出されると、廃液量検出部により排出される洗浄液の液量が検出され、生体組織がフィルタに接触する前に洗浄液の排出が停止される。これにより、生体組織のフィルタへの付着を低減し、フィルタの目詰まりを防止して洗浄効率の向上およびフィルタの保全を図ることができる。
ここで、廃液量検出部は、排出される洗浄液の液量を直接的に検出する場合の他、液面等他の状態の検出によって排出される洗浄液の液量を間接的に検出する場合も含む。
【0008】
上記発明においては、前記処理容器が外部から内部を透視可能な透明な材質からなり、前記廃液量検出部が、前記フィルタの上方において前記処理容器の半径方向外方から内部の混合液の色を検出する光学センサからなり、前記制御部が、前記光学センサにより検出された混合液の色の変化に基づいて洗浄液の排出を停止するよう廃液部を制御することとしてもよい。
【0009】
例えば、生体組織が脂肪組織である場合には、混合液は脂肪組織を含む上層が半透明の黄色、洗浄液からなる下層が透明または赤血球による赤色を有している。したがって光学センサにより検出された混合液の色の変化を監視することにより、簡易に生体組織と洗浄液との境界面を検出して、生体組織がフィルタに接触する前に洗浄液の排出を停止することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記制御部が、廃液部を制御して洗浄液の排出を停止した後は、前記廃液量検出部により検出された洗浄液の液量と同等の液量の洗浄液を処理容器内に供給する洗浄液の供給、攪拌および洗浄液の廃液を繰り返すよう洗浄液供給部および廃液部を制御することにしてもよい。
【0011】
このようにすることで、フィルタに生体組織を接触させることなく、洗浄液の供給、攪拌および洗浄液の排出を繰り返し、生体組織を十分に洗浄することができる。このように、洗浄液の排出を繰り返しても、フィルタに目詰まりが発生しないので、洗浄液の排出がスムーズに行われ、短時間に十分な洗浄を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フィルタが目詰まりすることを防止し、洗浄効率を低下させることなく生体組織を効率的に洗浄することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る生体組織洗浄装置1について、図1および図2を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織洗浄装置1は、例えば、脂肪組織Aのような生体組織を洗浄する装置であって、脂肪組織Aと洗浄液Bとの混合液Cを収容して攪拌する透明な材質からなる処理容器2と、該処理容器2内を上下に区画するように配置されたフィルタ3と、処理容器2の上部に設けられた洗浄液供給部4と、処理容器の下部に設けられた廃液部5と、処理容器2の側壁の外部のフィルタ3の若干上方に配置された検出部6と、該検出部6による検出結果に基づいて、洗浄液供給部4および廃液部5を制御する制御部7とを備えている。
【0014】
処理容器2は、上部に洗浄液供給口2a、下部に廃液口2bを備えている。
フィルタ3は、脂肪組織Aを通過させず、洗浄液Bのみを通過させることができる程度の多数の透孔を有している。処理容器2内のフィルタ3上方の空間には、脂肪組織Aが収容されるようになっている。
【0015】
洗浄液供給部4は、洗浄液タンク4aと、該洗浄液タンク4aと処理容器2の洗浄液供給口2aとを結ぶ管路に設けられた供給バルブ4bとを備えている。
廃液部5は、廃液口2bを開閉する廃液バルブ(以下、廃液バルブ5とも言う。)により構成されている。
【0016】
検出部6は、色を検出可能な光学センサであって、フィルタ3の若干上方に配置される混合液Cの色を処理容器2の外部から検出することにより、間接的に廃液口2bから排出された洗浄液Bの液量を検出することができるようになっている。
すなわち、混合液Cは脂肪組織Aを含む上層が半透明の黄色、洗浄液Bからなる下層が透明または赤血球による赤色を有している。したがって、検出部6により検出された混合液Cの色の変化を監視することにより、生体組織Aと洗浄液Bとの境界面Dを検出することができるようになっている。
【0017】
制御部7は、検出部6からの検出結果を受けて、その変化により、生体組織Aと洗浄液Bとの境界面Dがフィルタ3に近接したと判定し、廃液バルブ5を閉止して洗浄液Bの排出を停止するようになっている。
また、制御部7は、洗浄液Bの供給、攪拌および洗浄液の排出からなる洗浄作業を複数回繰り返すように、廃液バルブ5を閉止した後には、洗浄液供給部4の供給バルブ4bを開放し、洗浄液タンク4aに貯留されている洗浄液Bを所定量、処理容器2内に供給させるようになっている。
【0018】
このように構成された本実施形態に係る生体組織洗浄装置1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織洗浄装置1を用いて脂肪組織Aを洗浄するには、処理容器2内のフィルタ3の上方の空間に脂肪組織Aを含むチュメッセント液(脂肪組織Aの採取時に脂肪組織Aとともに吸引される生理食塩水、麻酔および血管収縮剤の混合液。)を供給する(ステップS1)。
【0019】
そして、制御部7が廃液バルブ5を開放して、処理容器2内のチュメッセント液を排出する。このとき、制御部7は、検出部6により検出された処理容器2内の混合液Cの色の変化を監視し(ステップS3,S4)、脂肪組織Aとチュメッセント液との境界面Dがフィルタ3に近接したか否かを判定する。混合液Cの色が変化したときには、脂肪組織Aとチュメッセント液との境界面Dがフィルタ3に近接したと判断し、廃液バルブ5を閉止し、チュメッセント液の排出を停止するよう制御する(ステップS5)。
【0020】
次に、制御部7は、洗浄液供給部4を制御して、供給バルブ4bを開放し、洗浄液タンク4aに貯留されている新たな洗浄液Bを所定量だけ処理容器2内に供給する(ステップS6)。そして、処理容器2内においては脂肪組織Aと新たな洗浄液Bとの混合液Cの攪拌が所定時間にわたって行われる(ステップS7)。
【0021】
攪拌が終了した後には、制御部7は廃液バルブ5を開放して、処理容器2内の洗浄液を排出する(ステップS8)。このとき、制御部7は、検出部6により検出された処理容器2内の混合液Cの色の変化を監視し(ステップS9,S10)、脂肪組織Aと洗浄液Bとの境界面Dがフィルタ3に近接したか否かを判定する。混合液Cの色が変化したときには、脂肪組織Aと洗浄液Bとの境界面Dがフィルタ3に近接したと判断し、廃液バルブ5を閉止し、洗浄液Bの排出を停止するよう制御する(ステップS11)。
【0022】
制御部7は、予め規定された回数だけ、洗浄液の供給、攪拌および洗浄液の排出からなる洗浄作業を繰り返すよう洗浄液供給部4および廃液部5を制御する(ステップS12)。これにより、脂肪組織Aが十分に清浄な状態に洗浄されることになる。
【0023】
このように、本実施形態に係る生体組織洗浄装置1によれば、検出部6により脂肪組織Aとチュメッセント液あるいは洗浄液Bとの境界面Dを監視し、脂肪組織Aがフィルタ3に接触することを未然に防止するので、フィルタ3が目詰まりすることがなく、繰り返し行われる洗浄液Bの排出がスムーズに行われる。すなわち、洗浄液Bの排出がフィルタ3の目詰まりによって妨げられることがないので、短時間で効率的に生体組織Aを十分に洗浄することができるという利点がある。また、フィルタ3が目詰まりしないので、廃液口2b側を負圧に吸引しても、フィルタ3に過度の負荷がかかることがなく、フィルタ3の破損を防止しつつ、さらに効率的に洗浄作業を行うこともできる。
【0024】
なお、本実施形態においては、チュメッセント液または洗浄液Bの排出を停止した後、すぐにあらたな洗浄液Bを供給することとしたが、これに代えて、図3に示されるように、チュメッセント液または洗浄液Bの排出を停止した後、所定時間にわたって待機するとともに(ステップS5′,S11′)、再度検出部6により混合液Cの色の変化を監視することとしてもよい(ステップS13,S14)。
【0025】
脂肪組織A内には、チュメッセント液あるいは洗浄液Bが付着あるいは浸透しているので、所定時間待機することで、付着あるいは浸透している洗浄液B等を脂肪組織Aから排出させることができ、それによって脂肪組織Aと洗浄液Bとの境界面Dが再度上昇することも考えられる。このため、所定時間待機した後、再度混合液Cの色の変化を確認し、変化していた場合には、チュメッセント液あるいは洗浄液Bを再度排出することにより、その後に新たに供給される洗浄液B内におけるチュメッセント液や赤血球等の不純物の濃度を低減し、より効果的に脂肪組織Aを洗浄することができるという利点がある。
【0026】
また、本実施形態においては、検出部6によって境界面Dを監視することにより、脂肪組織Aがフィルタ3に1回も接触しないようにしたが、これに代えて、最初の1回の接触を許容できる場合には、さらに構成および処理を簡易にすることができる。
すなわち、上述したように脂肪組織Aの洗浄作業は、新たな洗浄液の供給、攪拌、洗浄液の排出からなる洗浄作業を複数回繰り返すものであるため、脂肪組織Aのフィルタ3への接触が複数回繰り返されることにより、フィルタ3の目詰まりが発生すると考えられる。
【0027】
したがって、最初の1回のみの接触を許容し、以後繰り返される洗浄作業における脂肪組織Aのフィルタ3への接触を回避することにより、目詰まりを防止して洗浄作業を効率的に行うことができる。
【0028】
例えば、図4に示されるように、処理容器2内に収容されたチュメッセント液の全量を排出する(ステップS15)と、脂肪組織Aがフィルタ3に接触して捕捉される。この状態で脂肪組織Aの重量測定等によりその体積を測定し(ステップS16)、脂肪組織Aがフィルタ3から十分に離れることができる量の洗浄液Bを供給する(ステップS6′)。洗浄液Bの量を脂肪組織Aの量にほぼ等しくすることにより、洗浄効率を高めることができる。
【0029】
このようにすることで、処理容器2内に収容されている洗浄液Bの液量が把握できるので、攪拌後に脂肪組織Aがフィルタ3に接触しない最小限の液量を残して洗浄液Bを排出することができる(ステップS8)。
この場合には、廃液口2bから排出される洗浄後の洗浄液の廃液量を検出し(ステップS17)、所定量排出されたか否かを判定する(ステップ18)ことにより、脂肪組織Aがフィルタ3に接触しない最小限の液量を残して洗浄液Bを排出することができる。
洗浄液の廃液量の検出は、廃液口2bに積算流量計を設けて行ってもよいし、処理容器2の重量計測により、間接的に行ってもよい。
【0030】
また、この場合に、以後、複数回繰り返される洗浄液Bの供給(ステップS6′)および排出(ステップS8)においては、最初のステップS8,S17,S18による洗浄液Bの排出時の廃液量と同量の洗浄液Bを供給および排出することにより、脂肪組織Aのフィルタ3への接触を防止し、洗浄効率を向上することができる。
【0031】
また、チュメッセント液の全量を排出する方法に代えて、図5に示されるように、脂肪組織Aのフィルタ3への接触を検出することにしてもよい(ステップS19,S20)。脂肪組織Aのフィルタ3への接触の検出は、図示しない圧力センサによりフィルタ3にかかる圧力を検出することにしてもよいし、図示しない気泡センサによってフィルタ3下方の空間における気泡の発生により、洗浄液Bの液面のフィルタ3下方への下降の検出によって、脂肪組織Aのフィルタ3への接触を検出することにしてもよい。
【0032】
この方法によっても、処理容器2内に収容されている洗浄液Bの液量が把握できるので、攪拌後に脂肪組織Aがフィルタ3に接触しない最小限の液量を残して洗浄液Bを排出することができ、以後、複数回繰り返される洗浄液Bの供給(ステップS6′)および排出(ステップS8)においては、最初のステップS8,S17,S18による洗浄液Bの排出時の廃液量と同量の洗浄液Bを供給および排出することにより、脂肪組織Aのフィルタ3への接触を防止し、洗浄効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係る生体組織洗浄装置を模式的に示す全体構成図である。
【図2】図1の生体組織洗浄装置の動作を説明するフローチャートである。
【図3】図2の動作の第1の変形例を説明するフローチャートである。
【図4】図1の生体組織洗浄装置の変形例における動作を説明するフローチャートである。
【図5】図1の生体組織洗浄装置の他の変形例における動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0034】
A 生体組織
B 洗浄液
C 混合液
1 生体組織洗浄装置
2 処理容器
3 フィルタ
4 洗浄液供給部
5 廃液バルブ(廃液部)
6 検出部(廃液量検出部)
7 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を通過させず、洗浄液を通過させるフィルタと、該フィルタを通過した洗浄液を排出する廃液部とを備え、生体組織と洗浄液との混合液を攪拌して生体組織を洗浄する処理容器と、
該処理容器内に洗浄液を供給する洗浄液供給部と、
処理容器の廃液部により排出される洗浄液の液量を検出する廃液量検出部と、
該廃液量検出部により検出された洗浄液の液量に基づいて、生体組織がフィルタに接触する前に洗浄液の排出を停止するよう廃液部を制御する制御部とを備える生体組織洗浄装置。
【請求項2】
前記処理容器が外部から内部を透視可能な透明な材質からなり、
前記廃液量検出部が、前記フィルタの上方において前記処理容器の半径方向外方から内部の混合液の色を検出する光学センサからなり、
前記制御部が、前記光学センサにより検出された混合液の色の変化に基づいて洗浄液の排出を停止するよう廃液部を制御する請求項1に記載の生体組織洗浄装置。
【請求項3】
前記制御部が、廃液部を制御して洗浄液の排出を停止した後は、前記廃液量検出部により検出された洗浄液の液量と同等の液量の洗浄液を処理容器内に供給する洗浄液の供給、攪拌および洗浄液の廃液を繰り返すよう洗浄液供給部および廃液部を制御する請求項1に記載の生体組織洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−137852(P2009−137852A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313544(P2007−313544)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】