生体膜内在性ウイルス様粒子及びその製造方法
【課題】ゲノムDNAを含まない純粋なウイルス様粒子を確実かつ高純度に製造し、かつ、キャプシド内在分子の種類や存在態様、配置等の制御を容易に行い得る方法の確立を目的とする。
【解決手段】生体膜内在性ウイルスを構成するタンパク質のうち、(1)キャプシド構成タンパク質、(2)ペントンタンパク質、及び(3)少なくとも一種の膜形成タンパク質を含むことを特徴とするウイルス様粒子。
【解決手段】生体膜内在性ウイルスを構成するタンパク質のうち、(1)キャプシド構成タンパク質、(2)ペントンタンパク質、及び(3)少なくとも一種の膜形成タンパク質を含むことを特徴とするウイルス様粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体膜内在性ウイルス様粒子及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウイルス様粒子(VLP:Virus-Like Particle)としては、パピローマウイルスキャプシド蛋白コード配列を、バキュロウイルス転移ベクター中にクローニングし、上記バキュロウイルス転移ベクターおよびオートグラフィカ・カリホルニカ核多面体(polyhedrosis)ウイルスゲノムDNAを昆虫細胞に同時形質導入して得られるもの(特許文献1:特表平08-507685)、ヒトポリオーマウイルスをJCVの主要構造タンパク質VP1を組換えによって昆虫細胞内で発現させたもの(特許文献2:WO97/19174)、C型肝炎ウイルス(HCV)コアタンパク質、HCVエンベロープ1(E1)タンパク質、HCVエンベロープ2(E2)タンパク質およびp7タンパク質をコードする配列を含むC型肝炎ウイルスのcDNAを含有するベクターを昆虫細胞内で発現させたもの(特許文献3:特表2001-504337)等が知られている。
【0003】
しかし、これらのウイルス様粒子は、ゲノムDNAを含む場合には用途が限定される。また、ゲノムDNAを含まない場合もキャプシド内に特定の物質を十分な制御下に封入するのが困難である。さらに、これらのウイルス様粒子の製造方法においては、ウイルス様粒子に含有されるウイルスタンパク質を特異的に認識する免疫試薬を用いて免疫吸着する方法が一般的であるが、こうした手法では精製に多大な手間とコストが掛かる上、ウイルスタンパク質断片も吸着されるため、ウイルス様粒子のみを確実に採取することが困難である。
【0004】
【特許文献1】特表平08−507685
【特許文献2】WO97/19174
【特許文献3】特表2001−504337
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ゲノムDNAを含まない純粋なウイルス様粒子を確実かつ高純度に製造し、かつ、キャプシド内在分子の種類や存在態様、配置等の制御を容易に行い得る方法の確立を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ウイルス様粒子を構成するためのウイルスとして生体膜内在性ウイルスに着目した。生体膜内在性ウイルスとは脂質膜をキャプシド内に内包するウイルスであり、その例としてはテクチウイルスファミリーに属する腸内細菌ファージが挙げられる。これらは、大腸菌やサルモネラ菌などのグラム陰性菌を宿主とするウイルスである。
【0007】
これらのウイルスは、宿主に感染後、菌体内で合成されたキャプシドタンパク質が宿主の脂質膜と結合したウイルス膜タンパク質や他のウイルス構成タンパク質とともにプレカーサー粒子を形成し、最後にDNAをパッケージングして成熟したウイルス粒子となり、溶菌により菌体外に放出されていくといったライフサイクルをもつ。そのため、これらのウイルス粒子は、キャプシドの内側に宿主由来の生体膜を内包する。
【0008】
一般に生体膜内在性ウイルスは、数十種類のタンパク質を含む大変複雑な構成をしており、従来、ウイルス様粒子を構成するための素材として用いられたことはない。しかし、本発明者らは、これらのウイルスにおいて(1)キャプシド構成タンパク質、(2)ペントンタンパク質、及び(3)少なくとも一種の膜形成タンパク質を宿主内で生産させた場合、キャプシドの自己会合が起こり得ること、この場合、膜形成タンパク質は上述のように宿主の生体膜と複合してウイルス様粒子内に存在するため、ウイルス様粒子内への物質の内包を制御して行い得ること、さらに、特にペントンタンパク質のN末端にHisタグを付加することにより、再構成されたウイルス粒子のみを効率的に回収し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のウイルス様粒子、ウイルス様粒子の製造方法並びにウイルス粒子の組み換え体またはウイルス様粒子の採取及び/または精製方法を提供する。
〔1〕生体膜内在性ウイルスを構成するタンパク質のうち、(1)キャプシド構成タンパク質、(2)ペントンタンパク質、及び(3)少なくとも一種の膜形成タンパク質を含むことを特徴とするウイルス様粒子。
〔2〕生体膜内在性ウイルスがテクチウイルスファミリーに属するウイルスである前記〔1〕に記載のウイルス様粒子。
〔3〕生体膜内在性ウイルスがPR772ウイルスまたは上記(1)〜(3)に相当するタンパク質がPR772ウイルスと同等のキャプシド再構成挙動を示すウイルスである前記〔1〕または〔2〕に記載のウイルス様粒子。
〔4〕生体膜内在性ウイルスがPR772ウイルスであり、(1)キャプシド構成タンパク質がP3及びP30、(2)ペントンタンパク質がP31、(3)少なくとも一種の膜形成タンパク質がP16(但し、これらのタンパク質はこれらとキャプシド再構成挙動が同等である限りにおいて改変されていてもよい。)を含む前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のウイルス様粒子。
〔5〕ペントンタンパク質P31がN末端にペプチドタグを付加するように改変されたものである前記4に記載のウイルス様粒子。
〔6〕ペプチドタグがHisタグである前記5に記載のウイルス様粒子。
〔7〕脂質が前記少なくとも一種の膜形成タンパク質との複合体として粒子内に含まれる前記1〜6のいずれかに記載のウイルス様粒子。
〔8〕キャプシド構造の内部に少なくとも一つの作用物質を含有する、前記1〜7のいずれかに記載のウイルス様粒子。
〔9〕作用物質が核酸、ペプチド、脂質、タンパク質および生理学的活性物質からなる群から選択される一種または二種以上の物質である前記8に記載のウイルス様粒子。
〔10〕作用物質が前記少なくとも一種の膜形成タンパク質と結合してキャプシド構造の内部に存在する前記9に記載のウイルス様粒子。
〔11〕ウイルス粒子またはウイルス様粒子表面にN末端を露出させたタンパク質を含むウイルス粒子の組み換え体またはウイルス様粒子の採取及び/または精製方法であって、
(A)前記タンパク質をコードする遺伝子をそのN末端にペプチドタグを付加したタンパク質をコードするように改変したウイルス粒子の組み換え体を宿主中で増殖させるか、
(B)前記タンパク質をコードする遺伝子をそのN末端にペプチドタグを付加したタンパク質をコードするように改変し、ウイルス様粒子を形成するのに必要な他のタンパク質とともにベクターに組み込み、宿主中で発現させてウイルス様粒子を形成し、
(A)により得られたウイルス粒子または(B)により得られたウイルス様粒子を前記ペプチドタグに親和性のある物質に吸着させて採取することを特徴とする方法。
〔12〕ペプチドタグがHisタグであり、ペプチドタグに親和性のある物質がNi含有物質である前記5に記載のウイルス様粒子。
〔13〕前記N末端を露出させたタンパク質がペントンタンパク質である前記11または12に記載のウイルス粒子の組み換え体またはウイルス様粒子の採取及び/または精製方法。
〔14〕前記1〜10のいずれかに記載のウイルス様粒子に前記11〜13のいずれかに記載の方法を適用することを特徴とする前記1〜10のいずれかに記載のウイルス様粒子の採取及び/または精製方法。
〔15〕PR772ウイルスの(1)キャプシド構成タンパク質P3及びP30、(2)ペントンタンパク質P31、(3)膜形成タンパク質P16のN末端にHisタグを付加した改変タンパク質を発現ベクター内に組み込み、宿主細胞中で発現させてウイルス様粒子を再構成し、得られた粒子をNiアガロースに吸着させて回収精製することを特徴とするPR772ウイルス由来のウイルス様粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ウイルス様粒子内への物質の内包を制御して行い得る。また、特にペントンタンパク質のN末端にHisタグを付加することにより、再構成されたウイルス粒子のみを効率的に回収し得る。なお、Hisタグ付加による精製方法は組み換えウイルスの精製にも用い得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(A)ウイルス様粒子
はじめに、本発明によるウイルス様粒子について説明する。
本発明によるウイルス様粒子は、生体膜内在性ウイルスを構成するタンパク質のうち、(1)キャプシド構成タンパク質、(2)ペントンタンパク質、及び(3)少なくとも一種の膜形成タンパク質を含むことを特徴とする。
【0012】
ここで、生体膜内在性ウイルスとは、上述の通り、脂質膜をキャプシド内に内包するウイルスであり、一般に数十種類のタンパク質を含むが、本発明のウイルス様粒子では、(1)キャプシド構成タンパク質(主としてキャプシドの面部分を構成するタンパク質)、(2)ペントンタンパク質(主としてキャプシドの頂点部分を構成するタンパク質)、及び(3)少なくとも一種の膜形成タンパク質のみを含む。従って、キャプシド構成タンパク質が一種類であれば、最少三種類のタンパク質(一般的にはキャプシド構成タンパク質が二種類で、膜形成タンパク質が一種類でよいので四種類のタンパク質)のみでウイルス様粒子を構成できる。
また、キャプシド構成タンパク質はキャプシドの表面を構成するタンパク質であり、ペントンタンパク質はキャプシドの頂点に位置するタンパク質である。
【0013】
生体膜内在性ウイルスの例としてはテクチウイルスファミリーに属する腸内細菌ファージが挙げられる。例えば、PRD1ウイルス粒子は、直径74nm、分子量66MDaで、外側は正二十面体のキャプシドの殻に覆われ、内側に宿主由来の生体膜を内包し、約15kbpの二本鎖DNAをゲノムとして持つ。PRD1とゲノムDNAの塩基配列が97.2%の相同性を有し、PRD1と同一のウイルス粒子構造をもつと考えられるPR772(ATCC:American Type Culture Collectionにおけるカタログ#BAA-769-B1)が好適に使用できる。PR772はウイルス用フィルタ評価基準で広く流通しており、PRD1よりも汎用性があるためである。なお、生体膜内在性ウイルスはテクチウイルス以外の種でもよい。そのような例としては、コルチコウイルスに属する海洋性細菌ファージPM2(ATCCにおけるカタログ#27025-B1)が挙げられる。PM2は直径約60nmの正二十面体構造で、粒子のキャプシドは複数の層状を示し、正二十面体の各頂点には突起構造が見られ、約10kbpの環状の二本鎖 DNAをゲノムとして持つ。
【0014】
以下、PR772ウイルスを例として述べるが、生体膜内在性ウイルスがPR772ウイルスまたは上記(1)〜(3)に相当するタンパク質がPR772ウイルスと同等のキャプシド再構成挙動を示すウイルスも同様に利用できる。なお、ここで、「PR772ウイルスと同等のキャプシド再構成挙動を示す」とは、必要なコピー数の(1)キャプシド構成タンパク質、(2)ペントンタンパク質、及び(3)少なくとも一種の膜形成タンパク質を宿主内で生成させたときにPR772ウイルスと同程度以上のキャプシド再構成能力を示すことを言う。
【0015】
PR772ウイルスにおけるキャプシド構成タンパク質は、メジャーキャプシドタンパク質P3とマイナーキャプシドタンパク質P30である。ペントンタンパク質はP31である。膜形成タンパク質はP7,P11,P14,P16,P18,P32,P34が含まれるが、P16が好適に用いられる。これらの配列は既知であり、それぞれ配列表の配列番号1〜4のアミノ酸配列を有する。但し、これらのタンパク質はこれらとキャプシド再構成挙動が同等である限りにおいて改変されていてもよい。改変は、タンパク質粒子の基本構造に大きな変更をもたらさない限りにおいてフォールドされたタンパク質粒子の内部に位置するアミノ酸の置換、付加、欠失、タンパク質粒子間の自己会合に大きな変更をもたらさない限りにおいてタンパク質粒子の内部に位置するアミノ酸の置換、付加及び/または欠失を含む。相同性において90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上有するタンパク質でもよい。なお、欠失において相同性90%以上では欠失後のタンパク質の配列長さはP3の配列長さの90%以上である。
【0016】
但し、これらのタンパク質はこれらとキャプシド再構成挙動が同等である限りにおいて改変されていてもよい。このような改変の例としては、ペントンタンパク質P31N末端へのペプチドタグの付加が挙げられる。ペプチドタグとしては親水性ペプチド、例えば、Hisタグの付加が挙げられる。もっとも、Hisタグと同様にアフィニティー精製可能なタグを付加してもよい。このようなタグはキャプシド再構成挙動に大きな影響を与えない限りにおいて特に限定されないが、その例としてはHisタグの他にS−タグ等が挙げられる。
【0017】
上記の生体膜内在性ウイルスは、宿主に感染後、菌体内で合成されたキャプシドタンパク質が宿主の脂質膜と結合したウイルス膜タンパク質や他のウイルス構成タンパク質とともにプレカーサー粒子を形成し、最後にDNAをパッケージングして成熟したウイルス粒子となり、溶菌により菌体外に放出されていくといったライフサイクルを持つが、上記の各タンパク質から構成されるウイルス様粒子も、脂質膜を前記少なくとも一種の膜形成タンパク質との複合体として粒子内に含む。
【0018】
本発明のウイルス様粒子はキャプシド内部にゲノムDNAを含まず、種々の作用物質を含み得る。このような作用物質の例としては核酸、ペプチド、脂質、タンパク質および生理学的活性物質等が挙げられる。生理学活性物質の例としては、上記以外の構造を有する医薬やトキシン等が挙げられる。これらの二種以上を含んでもよい。薬剤を含有させた場合は、ドラッグデリバリーシステム(DDS)に用いることが可能である。また、本発明においては、作用物質を前記少なくとも一種の膜形成タンパク質と結合してキャプシド構造の内部に内包させることができる。従って、膜形成タンパク質と作用物質との結合態様を調整することにより、作用物質をウイルス粒子内で制御された状態で配置することが可能となり、作用物質の解析等にも応用することが可能となる。また、本発明のウイルス様粒子はキャプシド内部に生体膜を内包しているため、前記作用物質を生体膜と接触させたり、前記作用物質が生体膜を貫通したり、膜内に存在するように配置することができる。さらに、外部から薬物を投与し、キャプシドの隙間を通じて薬物を内部に進入させ、生体膜と相互作用させることも可能である。このため、細胞膜システムのバイオセンサーのプラットホームとしても使用可能となり得る。
【0019】
(B)ウイルス様粒子の製造方法
ウイルス様粒子の再構成系としては、ウイルス粒子形成に必要なタンパク質(PR772ウイルスでは、メジャーキャプシドタンパク質P3、膜タンパク質
P16、マイナーキャプシドタンパク質 P30、ペントンタンパク質 P31の4種のタンパク質)を同一の宿主内で発現させ、ウイルスタンパク質の自己会合により菌体内でウイルス粒子を形成させる。宿主としては当該ウイルスが通常宿主としているものであれば特に限定されないが、好ましくは大腸菌が使用できる。
【0020】
以下、PR772ウイルス−大腸菌系を例として述べるが、他の生体膜内在性ウイルス−宿主系でも当業者であれば適宜修正を加えて同等な操作が可能である。
はじめに、PR772ウイルスのゲノムDNAを鋳型として、P3、P16、P30、P31の翻訳領域を含むDNA断片をPCRにより増幅し、大腸菌用発現ベクターを用いて、同一の大腸菌でこれら4種のウイルスタンパク質を発現させる。このようなベクターとしては、pDuetcoexpression vectors(Novagen 社)の4種の発現ベクターpETDuet1、pACYCDuet1、pRSFDuet1、pCDFDuet1のうち、pETDuet1(図1)あるいはpCDFDuet1(図2)に2種ずつ挿入して構築した発現用プラスミドが好ましい。pDuetcoexpression vectorsの4種の発現ベクターは、各プラスミドが異なる複製開始点と薬剤耐性遺伝子をもつため、同時に同一の大腸菌に導入することが可能であるとともに、各ベクターは2種の目的タンパク質を大腸菌で発現できるように設計されているので、最大8種の目的タンパク質を同一の大腸菌で発現させることが可能である。各タンパク質はウイルス様粒子を構成するのと同様の量比で生成させることが好ましい。すなわち、これらのタンパク質がウイルス粒子内ではmi個のni量体として存在する場合は、各タンパク質を概ねmi×niコピーまたはその整数倍ずつ生成するように発現させる。
【0021】
ここで、ペントンタンパク質 P31(配列番号3)のN末端にはヒスチジンタグを付加した組換えウイルスタンパク質(His−P31)を用いることが好ましい。例えば、上記のpDuetcoexpression vectors (Novagen社)の4種の各ベクターは、6つのHisをコードする塩基配列(Hisタグ)がベクターに組み込まれており、その下流には数種類の制限酵素切断部位があるため、Hisタグとフレームが合うように目的タンパク質をコードするDNA断片を挿入すれば、そのN末端にHisタグを付けることが可能である。もっとも、Hisタグ以外のアフィニティー精製用タグを付加してもよい。これらのタグの付加は遺伝子組み換え技術により付加が可能である。
【0022】
大腸菌の菌体内で、ウイルスタンパク質の自己会合によりウイルス様粒子(VLP)が再構成されたか否かは、大腸菌を超音波処理により破砕後、適当な平衡密度勾配超遠心(例えば、塩化セシウムの平衡密度勾配超遠心やショ糖の密度勾配超遠心)等によって遠心し、野生型PR772ウイルスを大腸菌に感染させて得た溶菌液をコントロールとしてバンドの確認によって行なうことができる。
【0023】
本発明ではペプチドタグ等のアフィニティー精製用タグを付加した場合は、対応する親和性(吸着)物質を適当な担体に固定化したもの(Hisタグの場合、Ni−アガロース;Sタグの場合、S-proteinアガロースなど)を用いて精製を行なうことにより、高純度のウイルス様粒子を効率的に回収精製できる。例えば、Ni−アガロースを用いてアフィニティー精製したHis−VLPsを、限外濾過膜で濃縮後、適当な平衡密度勾配超遠心(例えば、塩化セシウムの平衡密度勾配超遠心やショ糖の平衡密度勾配超遠心)にかけてさらに精製を行なうことにより精製度の高い試料を得ることができる。こうした高純度ウイルス様粒子を結晶化させた場合、内包した物質のX線構造解析等の解析に利用できる可能性がある。このような物質の例としては、特に生体膜内での構造の解析が大きな課題となっている受容体タンパク質が挙げられる。受容体タンパク質の例には膜貫通型の種々のタンパク質が含まれるが、特にGタンパク質共役型受容体(GPCR)タンパク質が挙げられる。
【0024】
(C)ウイルス粒子の組み換え体またはウイルス様粒子の採取及び/または精製方法
上記のウイルス様粒子の製造方法は、ゲノムを内包するウイルス粒子の組み換え体に適用することも可能である。すなわち、本発明は、ウイルス粒子またはウイルス様粒子表面にN末端を露出させたタンパク質を含むウイルス粒子の組み換え体またはウイルス様粒子の採取及び/または精製方法であって、
(A)前記タンパク質をコードする遺伝子をそのN末端にペプチドタグを付加したタンパク質をコードするように改変したウイルス粒子の組み換え体を宿主中で増殖させるか、
(B)前記タンパク質をコードする遺伝子をそのN末端にペプチドタグを付加したタンパク質をコードするように改変し、ウイルス様粒子を形成するのに必要な他のタンパク質とともにベクターに組み込み、宿主中で発現させてウイルス様粒子を形成し、
(A)により得られたウイルス粒子または(B)により得られたウイルス様粒子を前記ペプチドタグに親和性のある物質に吸着させて採取することを特徴とする方法全般を含む。ここで、ペプチドタグは、対応する親和性物質が存在する限りにおいて特に限定されないが、上述の通り、Hisタグ、Sタグ等が挙げられる。親和性物質は適当な担体、例えば、アガロース分子等に固定して用いることが好ましい。N末端にペプチドタグを付加したタンパク質としては、上記の通り、ペントンタンパク質が好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
実施例1
PR772ウイルス(ATCCカタログ#BAA-769-B1)のゲノムDNAを鋳型として、P3、P16、P30、P31の翻訳領域を含むDNA断片を、それぞれの塩基配列内に制限酵素の認識配列(下線部)を含むように設計した以下に示すプライマーを用いてPCRにより増幅した。PCRの条件も以下に示す。
【0027】
P3
5’側プライマー(PR772-8582-NdeI-F):5’-cggagtaattaCatatggcacag-3’ (配列番号5)
3’側プライマー(PR772-9829-BglII-R):5’-attccgccaGatcTgtgattagct-3’ (配列番号6)
PCRの条件:94℃、5分→60℃、1分→68℃、1.5分(1サイクル)
94℃、30秒→60℃、30秒→68℃、1.5分(29サイクル)
【0028】
P16
5’側プライマー(PR772-11823-NcoI-F):5’-ttaaggggtaaaCcatggacaaaa-3’(配列番号7)
3’側プライマー(PR772-12278-NotI-R):5’-gaacaaccGcggccGctaggcgcg-3’ (配列番号8)
PCRの条件:94℃、5分→60℃、1分→68℃、1分(1サイクル)
94℃、30秒→60℃、30秒→68℃、1分(29サイクル)
【0029】
P30
5’側プライマー(PR772-10822-NcoI-F):5’-taagggggtaCcatggcactgatt-3’ (配列番号9)
3’側プライマー(PR772-11107-EcoRI-R):5’-aaaatggcggAAttcatccttagc-3’(配列番号10)PCRの条件:94℃、5分→60℃、1分→68℃、1分(1サイクル)
94℃、30秒→60℃、30秒→68℃、1分(29サイクル)
【0030】
P31
5’側プライマー(PR772-4896-NdeI-F): 5’-aaggtgtaaCAtatgaatgtgaat-3’(配列番号11)
3’側プライマー(PR772-5323-KpnI-R): 5’-cgttaccgtgGtAccgccgatttg-3’ (配列番号12)
PCRの条件:94℃、5分→60℃、1分→68℃、1分(1サイクル)
94℃、30秒→60℃、30秒→68℃、1分(29サイクル)
【0031】
なお、上記において( )内はプライマー名称で、そのうちの数字は、PR772ゲノムDNAの塩基配列(GenBank ACCESSION No. AY848688)における塩基番号に相当し、プライマーの5’末端の位置を示す。また、その数字の次は制限酵素名を示し、そのプライマーが名称に示した制限酵素で切断されることを示す。プライマーの塩基配列のうち大文字は、もとの塩基からその塩基に置換させたことを示し、その塩基に置換することでプライマー中に下線で示した制限酵素の認識配列を作製した。
【0032】
次いで、PCRにより増幅したDNA断片をそれぞれ制限酵素で消化し、大腸菌用発現ベクターpDuetcoexpression vectors (Novagen社)の4種の発現ベクター pETDuet1(図1)、pACYCDuet1、pRSFDuet1、pCDFDuet1(図2)のうち、まず、P3のNdeI-BglII断片(約1.2kbp)とP16のNcoI-NotI断片(約0.4kbp)をpETDuet1のNcoI-NotI部位とNdeI-BglII部位にそれぞれ挿入してP16とP3の発現用プラスミドpETDuet1/P16-P3を構築した。一方、P30のNcoI-EcoRI断片(約0.3kbp)とP31のNdeI-KpnI断片(約0.4kbp)をpCDFDuet1のNcoI-EcoRI部位とNdeI-KpnI部位にそれぞれ挿入してP30とP31の発現用プラスミドpCDFDuet1/P30-P31を構築した。pETDuet1/P16-P3とpCDFDuet1/P30-P31を同時に大腸菌BL21(DE3)に導入して得た形質転換体をOvernight Express Autoinduction System(Novagen社)のTB培地に植菌し、37℃で16時間培養してウイルス蛋白質の発現を誘導させ、これら4種のウイルス蛋白質を発現させることに成功した。Overnight Express Autoinduction Systemは、IPTGで誘導可能な大腸菌の発現系において、高レベルのタンパク質誘導発現を自動的に行なわれるように設計された培地システムである。
【0033】
この大腸菌の菌体内で、ウイルスタンパク質の自己会合によりウイルス様粒子(VLPs)が再構成されたかを調べるため、大腸菌を超音波処理により破砕後、野生型PR772ウイルスを大腸菌に感染させて得た溶菌液をコントロールとして、塩化セシウムの平衡密度勾配超遠心を行った。その結果、野生型(wt)では、ウイルス粒子を含むと思われる乳白色のバンドが2本(UとL)検出され、再構成系(VLPs)でも、野性型のUバンドとほぼ同じ位置とその下方にVLPs形成により生じたと思われるバンドが2本検出された。そこで、これらのバンドを回収し、SDS−14% PAGEで解析した結果、野生型でも再構成系でも同様な泳動パターンが観察され、再構成系のU及びLバンドに4種のウイルスタンパク質も検出された。
【0034】
さらに、原子間力顕微鏡を用いて観察したところ、野生型(wt)のUバンドには、PR772ウイルス粒子と考えられる直径約67nmの球状の粒子が観察された(図3A)。一方、再構成系(VLPs)のUバンドには直径約52nmや約75nmの粒子も混在していたが、野性型とほぼ等しい約65nmの球状の粒子を確認できた(図3B)。なお、図には示していないが、再構成系のLバンドにおいても、約65nmの球状の粒子を確認できた。
【0035】
つぎに、再構成させたVLPsが宿主由来の脂質膜を内包しているかどうかを調べるため、VLPsからBligh & Dyer法により総脂質を抽出し、薄層クロマトグラフィーにより分析した。野性型PR772ウイルスを大腸菌に感染させて得た溶菌液(wt)と、4種のウイルスタンパク質を共発現させた大腸菌(VLPs)及びネガティブコントロールとして外来タンパク質などを発現させていない宿主大腸菌BL21(DE3)の超音波破砕液を、塩化セシウムの平衡密度勾配超遠心にかけ、ウイルスタンパク質を含む各分画(上層U、下層L1及びL2)を回収した。まず回収した分画に含まれるタンパク質をSDS−14%PAGEにより解析した。野性型(wt)及び再構成系(VLPs)では、U及びL1分画にウイルスタンパク質が確認された。
【0036】
PR772ウイルスの脂質成分に関する報告はないが、PRD1ウイルスでは、キャプシドの内側に存在する脂質膜の主成分はホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルグリセロール(PG)、及びカルジオリピン(CL)である。PR772もこれらの脂質を含んでいることが推測され、再構成VLPsが宿主由来の生体膜を内包していれば、これらの脂質が検出されると予想された。これら3種の脂質をスタンダードとして、回収した各分画から抽出した脂質をシリカゲル薄層プレート(silica gel 60 F254、Merck社)にスポットし、クロロホルム/メタノール/酢酸(65:25:10)の溶媒にて展開後、ヨウ素蒸気法により脂質の検出を行った。その結果、野生型(wt)は予想通りPE、PG、CLを含んでおり、再構成系(VLPs)の場合にもUとL1分画でこれら3種の脂質が検出された。対応する宿主大腸菌の画分からはこれらの脂質が殆ど検出されなかったことから、再構成VLPsは宿主大腸菌由来の生体膜を内包していると考えられた。
【0037】
さらに、透過型電子顕微鏡を用いネガティブ染色法によりVLPsの形態観察を行った(図4)。野生型(wt)のUバンドでは直径50〜63nmの粒子が観察された(図4A)。再構成系(VLPs)では、U、Lバンドとも、直径約42nmの小さな粒子や約88nmの大きな粒子も混在していたが、大多数の粒子は直径54〜68nmで、粒子の内側には膜と思われる形態も観察された(図4B)。以上の結果より、4種のウイルスタンパク質P3、P16、P30、P31を同一の大腸菌で発現させることにより、生体膜内在性のウイルス粒子を再構成させることに成功したと考えられる。
【0038】
実施例2
塩化セシウムの平衡密度勾配超遠心により精製した実施例1のVLPsでは、図4の電子顕微鏡写真で観察されるように、膜の凝集体やキャプシドタンパク質と思われる構造体が混在していた。結晶化を行うためには純度の高いVLPsの調製が必要である。VLPsにHisタグを付け、Ni−アガロースを用いたアフィニティー精製を試みた。Hisタグとしては、His×6を用いた。
【0039】
具体的には、ペントン蛋白質のN末端にHisタグを付けるため、発現用プラスミドを新たに構築した。
<His・P31とP30の発現用プラスミドの構築>
実施例1と同様に、PR772ウイルスのゲノムDNAを鋳型として、P30、P31の翻訳領域を含むDNA断片を、それぞれの塩基配列内に制限酵素の認識配列(下線部)を含むように設計した以下に示すプライマーを用いてPCRにより増幅した。PCRの条件は実施例1と同じである。
【0040】
P30
5’側プライマー(PR772-10820-NdeI-F):5’-tttaagggggtCaTatggcactg-3’ (配列番号13)
3’側プライマー(PR772-11161-XhoI-R):5’-atgcaatgCtcgAggcctagcca-3’ (配列番号14)
【0041】
P31
5’側プライマー(PR772-4892-HindIII-F): 5’-ttcaaaggtgAaGCttatgaatgt-3’(配列番号15)
3’側プライマー(PR772-5321-NotI-R):5’-ttaccgtgctgcGgccgCtttgtt-3’ (配列番号16)
【0042】
PCRにより増幅したDNA断片をそれぞれ制限酵素で消化し、P30のNdeI-XhoI断片(約0.3kbp)とP31のHindIII-NotI断片(約0.4kbp)をpCDFDuet1のHindIII-NotI部位とNdeI-XhoI部位にそれぞれ挿入してP30とHis・P31の発現用プラスミドpCDFDuet1/His・P31-P30を構築した。ベクターのHindIII部位はヒスチジンタグの下流に位置し、従って、P31の翻訳領域はヒスチジンタグとフレームが合うように挿入した。この発現用プラスミドを用いてP31を大腸菌で発現させると、実際は、P31のN末端に
MetGlySerSerHisHisHisHisHisHisSerGlnAspProAsnSerSerSerAlaArgLeuGlnValAspLysLeu
というアミノ酸配列(26アミノ酸残基)からなるペプチドが付加することになる(下線部Hisタグ;ベクターのマップ参照)。
【0043】
このように、P31に代えてHis−P31を用いたほかは実施例1と同様にして、P3、P16及びP30とともにHis−P31を同一の大腸菌で発現させ、超音波処理により破砕後、前述と同様に、超遠心によりHis−VLPsを含むバンドを回収、以下に示すNi−アガロース及び試薬を用いてHis−VLPsのアフィニティー精製を行なった。
【0044】
<試薬>
・Ni-NTA-アガロース(QIAGEN 社)
・Binding buffer : 0.5M NaCl、20mM Tris・HCl(pH 8.0)、1mM MgCl2、10mM イミダゾール
・Wash buffer : 0.5M NaCl、20mM Tris・HCl(pH 8.0)、1mM MgCl2、20mM イミダゾール
・Elution buffer : 0.5M NaCl、20mM Tris・HCl(pH 8.0)、1mM MgCl2、1M イミダゾール
・TM buffer : 10mM Tris・HCl(pH 7.5)、1mM MgCl2
【0045】
すなわち、超遠心により回収したウイルス様粒子を含むフラクションを透析チューブに移して Binding buffer に4℃で一晩透析した後、試料を別のチューブに移した。しかる後、Binding buffer で平衡化した Ni-NTA-アガロース(試料の1/3〜1/4容)を投入し、ローテーターを用いて4℃で二晩撹拌しながら吸着させた。吸着後、遠心(3000回転 1分、4℃)によりビーズを回収し、Binding buffer(ビーズの5〜10倍容)を加えてローテーターを用いて4℃で10分間、撹拌しながら洗浄(3回)した。遠心(3000回転 1分、4℃)によりビーズを回収し、Wash buffer (ビーズの5〜10倍容)を加えてローテーターを用いて4℃で30分間撹拌しながら洗浄(2回)した。遠心(3000回転 1分、4℃)によりビーズを回収し、Elution buffer(ビーズと等容〜2倍容)を加えてローテーターを用いて4℃で一晩撹拌しながら溶出し、透析チューブに移して TM buffer に4℃で一晩透析した後、別のチューブに移して4℃で保存した。
【0046】
なお、ネガティブコントロールとして、超遠心によりVLPsを含むバンドを回収し、His−VLPsと同条件でアフィニティー精製を行なった。Ni−アガロースにより精製された試料をSDS−14%PAGE解析した結果、His−VLPsにはP3、P16、P30、His−P31のバンドが検出されたが、VLPsにはP3、P16、P30、P31のバンドが検出されなかった。精製したHis−VLPsから抽出した総脂質を薄層クロマトグラフィーで分析した結果、野生型と同じ脂質成分を含んでいることを確認できた。さらに、電子顕微鏡を用いた形態観察では、直径62〜63nmの均一のHis−VLPsが観察され(図5A)、内側に膜と思われる形態を示す粒子も観察された(図5B、図5C)。よって、粒子の表面にHisタグの付いた生体膜内在性のウイルス様粒子His−VLPsを再構成させ、精製することに成功した。
【0047】
結晶化の試料として、より純度の高い試料を調製するため、前述と同様の方法で大腸菌を大量培養してNi−アガロースを用いてアフィニティー精製したHis−VLPsを、限外濾過膜で濃縮後、塩化セシウム平衡密度勾配超遠心にかけてさらに精製を試みた。その結果、アフィニティー精製したHis−VLPsよりも精製度の高い試料を得ることができた(図6)。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、わずか数種類のタンパク質だけで野生型と比較してもほぼ同様な粒子径のキャプシドを再構成できる。さらに、このウイルスキャプシドは、野生型と同様に生体膜を内在している。これから、このウイルスキャプシドは、生理活性物質等を内包するための安定なプラットホームとなりうることがわかった。従って、DDSとして有用である。また、本発明のウイルス様粒子では、これらの内包物質を生体膜内で制御された状態で配置させることが可能であると考えられるので、様々な細胞内情報伝達系の研究や生化学的な機能解析に画期的な影響を与えるものと期待される。さらに、工業的には、様々な種類の酵素タンパク質を適切に再配置させることで、人工的にタンパク質複合体を作り上げることが容易に出来る。そのため、目的の酵素活性を持つ人工的なマシーナリーを作製する基本的な技術となり得る。
なお、本発明は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の平成17年度第2回「産業技術研究助成事業」により助成を受けた研究上の発明である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明において発現用ベクターとして用いたpETDuet1の遺伝子地図。
【図2】本発明において発現用ベクターとして用いたpCDFDuet1の遺伝子地図。
【図3A】野生型(wt)ウイルス粒子の原子間力顕微鏡写真。
【図3B】本発明により製造したウイルス様粒子(VLPs)の原子間力顕微鏡写真。
【図4A】野生型(wt)ウイルス粒子の原子間力顕微鏡写真。
【図4B】本発明により製造したウイルス様粒子(VLPs)の透過型電子顕微鏡。
【図5A】本発明により製造したウイルス様粒子の透過型電子顕微鏡。
【図5B】本発明により製造したウイルス様粒子の透過型電子顕微鏡。
【図5C】本発明により製造したウイルス様粒子の透過型電子顕微鏡。
【図6A】本発明により製造したHis−タグ付加ウイルス様粒子(His−VLPs)及び野生型タンパク質のSDS−14%PAGEのCBB染色図、銀染色図、ウエスタンブロット透過型電子顕微鏡(A;図中、1は超遠心後、Ni−アガロースで精製したHis−VLPs、2は1を限外濾過膜で濃縮後、超遠心で精製したHis−VLPs、wtはPR772野生型ウイルス)。
【図6B】図6Aにおける2の電子顕微鏡写真。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体膜内在性ウイルス様粒子及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウイルス様粒子(VLP:Virus-Like Particle)としては、パピローマウイルスキャプシド蛋白コード配列を、バキュロウイルス転移ベクター中にクローニングし、上記バキュロウイルス転移ベクターおよびオートグラフィカ・カリホルニカ核多面体(polyhedrosis)ウイルスゲノムDNAを昆虫細胞に同時形質導入して得られるもの(特許文献1:特表平08-507685)、ヒトポリオーマウイルスをJCVの主要構造タンパク質VP1を組換えによって昆虫細胞内で発現させたもの(特許文献2:WO97/19174)、C型肝炎ウイルス(HCV)コアタンパク質、HCVエンベロープ1(E1)タンパク質、HCVエンベロープ2(E2)タンパク質およびp7タンパク質をコードする配列を含むC型肝炎ウイルスのcDNAを含有するベクターを昆虫細胞内で発現させたもの(特許文献3:特表2001-504337)等が知られている。
【0003】
しかし、これらのウイルス様粒子は、ゲノムDNAを含む場合には用途が限定される。また、ゲノムDNAを含まない場合もキャプシド内に特定の物質を十分な制御下に封入するのが困難である。さらに、これらのウイルス様粒子の製造方法においては、ウイルス様粒子に含有されるウイルスタンパク質を特異的に認識する免疫試薬を用いて免疫吸着する方法が一般的であるが、こうした手法では精製に多大な手間とコストが掛かる上、ウイルスタンパク質断片も吸着されるため、ウイルス様粒子のみを確実に採取することが困難である。
【0004】
【特許文献1】特表平08−507685
【特許文献2】WO97/19174
【特許文献3】特表2001−504337
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ゲノムDNAを含まない純粋なウイルス様粒子を確実かつ高純度に製造し、かつ、キャプシド内在分子の種類や存在態様、配置等の制御を容易に行い得る方法の確立を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ウイルス様粒子を構成するためのウイルスとして生体膜内在性ウイルスに着目した。生体膜内在性ウイルスとは脂質膜をキャプシド内に内包するウイルスであり、その例としてはテクチウイルスファミリーに属する腸内細菌ファージが挙げられる。これらは、大腸菌やサルモネラ菌などのグラム陰性菌を宿主とするウイルスである。
【0007】
これらのウイルスは、宿主に感染後、菌体内で合成されたキャプシドタンパク質が宿主の脂質膜と結合したウイルス膜タンパク質や他のウイルス構成タンパク質とともにプレカーサー粒子を形成し、最後にDNAをパッケージングして成熟したウイルス粒子となり、溶菌により菌体外に放出されていくといったライフサイクルをもつ。そのため、これらのウイルス粒子は、キャプシドの内側に宿主由来の生体膜を内包する。
【0008】
一般に生体膜内在性ウイルスは、数十種類のタンパク質を含む大変複雑な構成をしており、従来、ウイルス様粒子を構成するための素材として用いられたことはない。しかし、本発明者らは、これらのウイルスにおいて(1)キャプシド構成タンパク質、(2)ペントンタンパク質、及び(3)少なくとも一種の膜形成タンパク質を宿主内で生産させた場合、キャプシドの自己会合が起こり得ること、この場合、膜形成タンパク質は上述のように宿主の生体膜と複合してウイルス様粒子内に存在するため、ウイルス様粒子内への物質の内包を制御して行い得ること、さらに、特にペントンタンパク質のN末端にHisタグを付加することにより、再構成されたウイルス粒子のみを効率的に回収し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のウイルス様粒子、ウイルス様粒子の製造方法並びにウイルス粒子の組み換え体またはウイルス様粒子の採取及び/または精製方法を提供する。
〔1〕生体膜内在性ウイルスを構成するタンパク質のうち、(1)キャプシド構成タンパク質、(2)ペントンタンパク質、及び(3)少なくとも一種の膜形成タンパク質を含むことを特徴とするウイルス様粒子。
〔2〕生体膜内在性ウイルスがテクチウイルスファミリーに属するウイルスである前記〔1〕に記載のウイルス様粒子。
〔3〕生体膜内在性ウイルスがPR772ウイルスまたは上記(1)〜(3)に相当するタンパク質がPR772ウイルスと同等のキャプシド再構成挙動を示すウイルスである前記〔1〕または〔2〕に記載のウイルス様粒子。
〔4〕生体膜内在性ウイルスがPR772ウイルスであり、(1)キャプシド構成タンパク質がP3及びP30、(2)ペントンタンパク質がP31、(3)少なくとも一種の膜形成タンパク質がP16(但し、これらのタンパク質はこれらとキャプシド再構成挙動が同等である限りにおいて改変されていてもよい。)を含む前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のウイルス様粒子。
〔5〕ペントンタンパク質P31がN末端にペプチドタグを付加するように改変されたものである前記4に記載のウイルス様粒子。
〔6〕ペプチドタグがHisタグである前記5に記載のウイルス様粒子。
〔7〕脂質が前記少なくとも一種の膜形成タンパク質との複合体として粒子内に含まれる前記1〜6のいずれかに記載のウイルス様粒子。
〔8〕キャプシド構造の内部に少なくとも一つの作用物質を含有する、前記1〜7のいずれかに記載のウイルス様粒子。
〔9〕作用物質が核酸、ペプチド、脂質、タンパク質および生理学的活性物質からなる群から選択される一種または二種以上の物質である前記8に記載のウイルス様粒子。
〔10〕作用物質が前記少なくとも一種の膜形成タンパク質と結合してキャプシド構造の内部に存在する前記9に記載のウイルス様粒子。
〔11〕ウイルス粒子またはウイルス様粒子表面にN末端を露出させたタンパク質を含むウイルス粒子の組み換え体またはウイルス様粒子の採取及び/または精製方法であって、
(A)前記タンパク質をコードする遺伝子をそのN末端にペプチドタグを付加したタンパク質をコードするように改変したウイルス粒子の組み換え体を宿主中で増殖させるか、
(B)前記タンパク質をコードする遺伝子をそのN末端にペプチドタグを付加したタンパク質をコードするように改変し、ウイルス様粒子を形成するのに必要な他のタンパク質とともにベクターに組み込み、宿主中で発現させてウイルス様粒子を形成し、
(A)により得られたウイルス粒子または(B)により得られたウイルス様粒子を前記ペプチドタグに親和性のある物質に吸着させて採取することを特徴とする方法。
〔12〕ペプチドタグがHisタグであり、ペプチドタグに親和性のある物質がNi含有物質である前記5に記載のウイルス様粒子。
〔13〕前記N末端を露出させたタンパク質がペントンタンパク質である前記11または12に記載のウイルス粒子の組み換え体またはウイルス様粒子の採取及び/または精製方法。
〔14〕前記1〜10のいずれかに記載のウイルス様粒子に前記11〜13のいずれかに記載の方法を適用することを特徴とする前記1〜10のいずれかに記載のウイルス様粒子の採取及び/または精製方法。
〔15〕PR772ウイルスの(1)キャプシド構成タンパク質P3及びP30、(2)ペントンタンパク質P31、(3)膜形成タンパク質P16のN末端にHisタグを付加した改変タンパク質を発現ベクター内に組み込み、宿主細胞中で発現させてウイルス様粒子を再構成し、得られた粒子をNiアガロースに吸着させて回収精製することを特徴とするPR772ウイルス由来のウイルス様粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ウイルス様粒子内への物質の内包を制御して行い得る。また、特にペントンタンパク質のN末端にHisタグを付加することにより、再構成されたウイルス粒子のみを効率的に回収し得る。なお、Hisタグ付加による精製方法は組み換えウイルスの精製にも用い得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(A)ウイルス様粒子
はじめに、本発明によるウイルス様粒子について説明する。
本発明によるウイルス様粒子は、生体膜内在性ウイルスを構成するタンパク質のうち、(1)キャプシド構成タンパク質、(2)ペントンタンパク質、及び(3)少なくとも一種の膜形成タンパク質を含むことを特徴とする。
【0012】
ここで、生体膜内在性ウイルスとは、上述の通り、脂質膜をキャプシド内に内包するウイルスであり、一般に数十種類のタンパク質を含むが、本発明のウイルス様粒子では、(1)キャプシド構成タンパク質(主としてキャプシドの面部分を構成するタンパク質)、(2)ペントンタンパク質(主としてキャプシドの頂点部分を構成するタンパク質)、及び(3)少なくとも一種の膜形成タンパク質のみを含む。従って、キャプシド構成タンパク質が一種類であれば、最少三種類のタンパク質(一般的にはキャプシド構成タンパク質が二種類で、膜形成タンパク質が一種類でよいので四種類のタンパク質)のみでウイルス様粒子を構成できる。
また、キャプシド構成タンパク質はキャプシドの表面を構成するタンパク質であり、ペントンタンパク質はキャプシドの頂点に位置するタンパク質である。
【0013】
生体膜内在性ウイルスの例としてはテクチウイルスファミリーに属する腸内細菌ファージが挙げられる。例えば、PRD1ウイルス粒子は、直径74nm、分子量66MDaで、外側は正二十面体のキャプシドの殻に覆われ、内側に宿主由来の生体膜を内包し、約15kbpの二本鎖DNAをゲノムとして持つ。PRD1とゲノムDNAの塩基配列が97.2%の相同性を有し、PRD1と同一のウイルス粒子構造をもつと考えられるPR772(ATCC:American Type Culture Collectionにおけるカタログ#BAA-769-B1)が好適に使用できる。PR772はウイルス用フィルタ評価基準で広く流通しており、PRD1よりも汎用性があるためである。なお、生体膜内在性ウイルスはテクチウイルス以外の種でもよい。そのような例としては、コルチコウイルスに属する海洋性細菌ファージPM2(ATCCにおけるカタログ#27025-B1)が挙げられる。PM2は直径約60nmの正二十面体構造で、粒子のキャプシドは複数の層状を示し、正二十面体の各頂点には突起構造が見られ、約10kbpの環状の二本鎖 DNAをゲノムとして持つ。
【0014】
以下、PR772ウイルスを例として述べるが、生体膜内在性ウイルスがPR772ウイルスまたは上記(1)〜(3)に相当するタンパク質がPR772ウイルスと同等のキャプシド再構成挙動を示すウイルスも同様に利用できる。なお、ここで、「PR772ウイルスと同等のキャプシド再構成挙動を示す」とは、必要なコピー数の(1)キャプシド構成タンパク質、(2)ペントンタンパク質、及び(3)少なくとも一種の膜形成タンパク質を宿主内で生成させたときにPR772ウイルスと同程度以上のキャプシド再構成能力を示すことを言う。
【0015】
PR772ウイルスにおけるキャプシド構成タンパク質は、メジャーキャプシドタンパク質P3とマイナーキャプシドタンパク質P30である。ペントンタンパク質はP31である。膜形成タンパク質はP7,P11,P14,P16,P18,P32,P34が含まれるが、P16が好適に用いられる。これらの配列は既知であり、それぞれ配列表の配列番号1〜4のアミノ酸配列を有する。但し、これらのタンパク質はこれらとキャプシド再構成挙動が同等である限りにおいて改変されていてもよい。改変は、タンパク質粒子の基本構造に大きな変更をもたらさない限りにおいてフォールドされたタンパク質粒子の内部に位置するアミノ酸の置換、付加、欠失、タンパク質粒子間の自己会合に大きな変更をもたらさない限りにおいてタンパク質粒子の内部に位置するアミノ酸の置換、付加及び/または欠失を含む。相同性において90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上有するタンパク質でもよい。なお、欠失において相同性90%以上では欠失後のタンパク質の配列長さはP3の配列長さの90%以上である。
【0016】
但し、これらのタンパク質はこれらとキャプシド再構成挙動が同等である限りにおいて改変されていてもよい。このような改変の例としては、ペントンタンパク質P31N末端へのペプチドタグの付加が挙げられる。ペプチドタグとしては親水性ペプチド、例えば、Hisタグの付加が挙げられる。もっとも、Hisタグと同様にアフィニティー精製可能なタグを付加してもよい。このようなタグはキャプシド再構成挙動に大きな影響を与えない限りにおいて特に限定されないが、その例としてはHisタグの他にS−タグ等が挙げられる。
【0017】
上記の生体膜内在性ウイルスは、宿主に感染後、菌体内で合成されたキャプシドタンパク質が宿主の脂質膜と結合したウイルス膜タンパク質や他のウイルス構成タンパク質とともにプレカーサー粒子を形成し、最後にDNAをパッケージングして成熟したウイルス粒子となり、溶菌により菌体外に放出されていくといったライフサイクルを持つが、上記の各タンパク質から構成されるウイルス様粒子も、脂質膜を前記少なくとも一種の膜形成タンパク質との複合体として粒子内に含む。
【0018】
本発明のウイルス様粒子はキャプシド内部にゲノムDNAを含まず、種々の作用物質を含み得る。このような作用物質の例としては核酸、ペプチド、脂質、タンパク質および生理学的活性物質等が挙げられる。生理学活性物質の例としては、上記以外の構造を有する医薬やトキシン等が挙げられる。これらの二種以上を含んでもよい。薬剤を含有させた場合は、ドラッグデリバリーシステム(DDS)に用いることが可能である。また、本発明においては、作用物質を前記少なくとも一種の膜形成タンパク質と結合してキャプシド構造の内部に内包させることができる。従って、膜形成タンパク質と作用物質との結合態様を調整することにより、作用物質をウイルス粒子内で制御された状態で配置することが可能となり、作用物質の解析等にも応用することが可能となる。また、本発明のウイルス様粒子はキャプシド内部に生体膜を内包しているため、前記作用物質を生体膜と接触させたり、前記作用物質が生体膜を貫通したり、膜内に存在するように配置することができる。さらに、外部から薬物を投与し、キャプシドの隙間を通じて薬物を内部に進入させ、生体膜と相互作用させることも可能である。このため、細胞膜システムのバイオセンサーのプラットホームとしても使用可能となり得る。
【0019】
(B)ウイルス様粒子の製造方法
ウイルス様粒子の再構成系としては、ウイルス粒子形成に必要なタンパク質(PR772ウイルスでは、メジャーキャプシドタンパク質P3、膜タンパク質
P16、マイナーキャプシドタンパク質 P30、ペントンタンパク質 P31の4種のタンパク質)を同一の宿主内で発現させ、ウイルスタンパク質の自己会合により菌体内でウイルス粒子を形成させる。宿主としては当該ウイルスが通常宿主としているものであれば特に限定されないが、好ましくは大腸菌が使用できる。
【0020】
以下、PR772ウイルス−大腸菌系を例として述べるが、他の生体膜内在性ウイルス−宿主系でも当業者であれば適宜修正を加えて同等な操作が可能である。
はじめに、PR772ウイルスのゲノムDNAを鋳型として、P3、P16、P30、P31の翻訳領域を含むDNA断片をPCRにより増幅し、大腸菌用発現ベクターを用いて、同一の大腸菌でこれら4種のウイルスタンパク質を発現させる。このようなベクターとしては、pDuetcoexpression vectors(Novagen 社)の4種の発現ベクターpETDuet1、pACYCDuet1、pRSFDuet1、pCDFDuet1のうち、pETDuet1(図1)あるいはpCDFDuet1(図2)に2種ずつ挿入して構築した発現用プラスミドが好ましい。pDuetcoexpression vectorsの4種の発現ベクターは、各プラスミドが異なる複製開始点と薬剤耐性遺伝子をもつため、同時に同一の大腸菌に導入することが可能であるとともに、各ベクターは2種の目的タンパク質を大腸菌で発現できるように設計されているので、最大8種の目的タンパク質を同一の大腸菌で発現させることが可能である。各タンパク質はウイルス様粒子を構成するのと同様の量比で生成させることが好ましい。すなわち、これらのタンパク質がウイルス粒子内ではmi個のni量体として存在する場合は、各タンパク質を概ねmi×niコピーまたはその整数倍ずつ生成するように発現させる。
【0021】
ここで、ペントンタンパク質 P31(配列番号3)のN末端にはヒスチジンタグを付加した組換えウイルスタンパク質(His−P31)を用いることが好ましい。例えば、上記のpDuetcoexpression vectors (Novagen社)の4種の各ベクターは、6つのHisをコードする塩基配列(Hisタグ)がベクターに組み込まれており、その下流には数種類の制限酵素切断部位があるため、Hisタグとフレームが合うように目的タンパク質をコードするDNA断片を挿入すれば、そのN末端にHisタグを付けることが可能である。もっとも、Hisタグ以外のアフィニティー精製用タグを付加してもよい。これらのタグの付加は遺伝子組み換え技術により付加が可能である。
【0022】
大腸菌の菌体内で、ウイルスタンパク質の自己会合によりウイルス様粒子(VLP)が再構成されたか否かは、大腸菌を超音波処理により破砕後、適当な平衡密度勾配超遠心(例えば、塩化セシウムの平衡密度勾配超遠心やショ糖の密度勾配超遠心)等によって遠心し、野生型PR772ウイルスを大腸菌に感染させて得た溶菌液をコントロールとしてバンドの確認によって行なうことができる。
【0023】
本発明ではペプチドタグ等のアフィニティー精製用タグを付加した場合は、対応する親和性(吸着)物質を適当な担体に固定化したもの(Hisタグの場合、Ni−アガロース;Sタグの場合、S-proteinアガロースなど)を用いて精製を行なうことにより、高純度のウイルス様粒子を効率的に回収精製できる。例えば、Ni−アガロースを用いてアフィニティー精製したHis−VLPsを、限外濾過膜で濃縮後、適当な平衡密度勾配超遠心(例えば、塩化セシウムの平衡密度勾配超遠心やショ糖の平衡密度勾配超遠心)にかけてさらに精製を行なうことにより精製度の高い試料を得ることができる。こうした高純度ウイルス様粒子を結晶化させた場合、内包した物質のX線構造解析等の解析に利用できる可能性がある。このような物質の例としては、特に生体膜内での構造の解析が大きな課題となっている受容体タンパク質が挙げられる。受容体タンパク質の例には膜貫通型の種々のタンパク質が含まれるが、特にGタンパク質共役型受容体(GPCR)タンパク質が挙げられる。
【0024】
(C)ウイルス粒子の組み換え体またはウイルス様粒子の採取及び/または精製方法
上記のウイルス様粒子の製造方法は、ゲノムを内包するウイルス粒子の組み換え体に適用することも可能である。すなわち、本発明は、ウイルス粒子またはウイルス様粒子表面にN末端を露出させたタンパク質を含むウイルス粒子の組み換え体またはウイルス様粒子の採取及び/または精製方法であって、
(A)前記タンパク質をコードする遺伝子をそのN末端にペプチドタグを付加したタンパク質をコードするように改変したウイルス粒子の組み換え体を宿主中で増殖させるか、
(B)前記タンパク質をコードする遺伝子をそのN末端にペプチドタグを付加したタンパク質をコードするように改変し、ウイルス様粒子を形成するのに必要な他のタンパク質とともにベクターに組み込み、宿主中で発現させてウイルス様粒子を形成し、
(A)により得られたウイルス粒子または(B)により得られたウイルス様粒子を前記ペプチドタグに親和性のある物質に吸着させて採取することを特徴とする方法全般を含む。ここで、ペプチドタグは、対応する親和性物質が存在する限りにおいて特に限定されないが、上述の通り、Hisタグ、Sタグ等が挙げられる。親和性物質は適当な担体、例えば、アガロース分子等に固定して用いることが好ましい。N末端にペプチドタグを付加したタンパク質としては、上記の通り、ペントンタンパク質が好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
実施例1
PR772ウイルス(ATCCカタログ#BAA-769-B1)のゲノムDNAを鋳型として、P3、P16、P30、P31の翻訳領域を含むDNA断片を、それぞれの塩基配列内に制限酵素の認識配列(下線部)を含むように設計した以下に示すプライマーを用いてPCRにより増幅した。PCRの条件も以下に示す。
【0027】
P3
5’側プライマー(PR772-8582-NdeI-F):5’-cggagtaattaCatatggcacag-3’ (配列番号5)
3’側プライマー(PR772-9829-BglII-R):5’-attccgccaGatcTgtgattagct-3’ (配列番号6)
PCRの条件:94℃、5分→60℃、1分→68℃、1.5分(1サイクル)
94℃、30秒→60℃、30秒→68℃、1.5分(29サイクル)
【0028】
P16
5’側プライマー(PR772-11823-NcoI-F):5’-ttaaggggtaaaCcatggacaaaa-3’(配列番号7)
3’側プライマー(PR772-12278-NotI-R):5’-gaacaaccGcggccGctaggcgcg-3’ (配列番号8)
PCRの条件:94℃、5分→60℃、1分→68℃、1分(1サイクル)
94℃、30秒→60℃、30秒→68℃、1分(29サイクル)
【0029】
P30
5’側プライマー(PR772-10822-NcoI-F):5’-taagggggtaCcatggcactgatt-3’ (配列番号9)
3’側プライマー(PR772-11107-EcoRI-R):5’-aaaatggcggAAttcatccttagc-3’(配列番号10)PCRの条件:94℃、5分→60℃、1分→68℃、1分(1サイクル)
94℃、30秒→60℃、30秒→68℃、1分(29サイクル)
【0030】
P31
5’側プライマー(PR772-4896-NdeI-F): 5’-aaggtgtaaCAtatgaatgtgaat-3’(配列番号11)
3’側プライマー(PR772-5323-KpnI-R): 5’-cgttaccgtgGtAccgccgatttg-3’ (配列番号12)
PCRの条件:94℃、5分→60℃、1分→68℃、1分(1サイクル)
94℃、30秒→60℃、30秒→68℃、1分(29サイクル)
【0031】
なお、上記において( )内はプライマー名称で、そのうちの数字は、PR772ゲノムDNAの塩基配列(GenBank ACCESSION No. AY848688)における塩基番号に相当し、プライマーの5’末端の位置を示す。また、その数字の次は制限酵素名を示し、そのプライマーが名称に示した制限酵素で切断されることを示す。プライマーの塩基配列のうち大文字は、もとの塩基からその塩基に置換させたことを示し、その塩基に置換することでプライマー中に下線で示した制限酵素の認識配列を作製した。
【0032】
次いで、PCRにより増幅したDNA断片をそれぞれ制限酵素で消化し、大腸菌用発現ベクターpDuetcoexpression vectors (Novagen社)の4種の発現ベクター pETDuet1(図1)、pACYCDuet1、pRSFDuet1、pCDFDuet1(図2)のうち、まず、P3のNdeI-BglII断片(約1.2kbp)とP16のNcoI-NotI断片(約0.4kbp)をpETDuet1のNcoI-NotI部位とNdeI-BglII部位にそれぞれ挿入してP16とP3の発現用プラスミドpETDuet1/P16-P3を構築した。一方、P30のNcoI-EcoRI断片(約0.3kbp)とP31のNdeI-KpnI断片(約0.4kbp)をpCDFDuet1のNcoI-EcoRI部位とNdeI-KpnI部位にそれぞれ挿入してP30とP31の発現用プラスミドpCDFDuet1/P30-P31を構築した。pETDuet1/P16-P3とpCDFDuet1/P30-P31を同時に大腸菌BL21(DE3)に導入して得た形質転換体をOvernight Express Autoinduction System(Novagen社)のTB培地に植菌し、37℃で16時間培養してウイルス蛋白質の発現を誘導させ、これら4種のウイルス蛋白質を発現させることに成功した。Overnight Express Autoinduction Systemは、IPTGで誘導可能な大腸菌の発現系において、高レベルのタンパク質誘導発現を自動的に行なわれるように設計された培地システムである。
【0033】
この大腸菌の菌体内で、ウイルスタンパク質の自己会合によりウイルス様粒子(VLPs)が再構成されたかを調べるため、大腸菌を超音波処理により破砕後、野生型PR772ウイルスを大腸菌に感染させて得た溶菌液をコントロールとして、塩化セシウムの平衡密度勾配超遠心を行った。その結果、野生型(wt)では、ウイルス粒子を含むと思われる乳白色のバンドが2本(UとL)検出され、再構成系(VLPs)でも、野性型のUバンドとほぼ同じ位置とその下方にVLPs形成により生じたと思われるバンドが2本検出された。そこで、これらのバンドを回収し、SDS−14% PAGEで解析した結果、野生型でも再構成系でも同様な泳動パターンが観察され、再構成系のU及びLバンドに4種のウイルスタンパク質も検出された。
【0034】
さらに、原子間力顕微鏡を用いて観察したところ、野生型(wt)のUバンドには、PR772ウイルス粒子と考えられる直径約67nmの球状の粒子が観察された(図3A)。一方、再構成系(VLPs)のUバンドには直径約52nmや約75nmの粒子も混在していたが、野性型とほぼ等しい約65nmの球状の粒子を確認できた(図3B)。なお、図には示していないが、再構成系のLバンドにおいても、約65nmの球状の粒子を確認できた。
【0035】
つぎに、再構成させたVLPsが宿主由来の脂質膜を内包しているかどうかを調べるため、VLPsからBligh & Dyer法により総脂質を抽出し、薄層クロマトグラフィーにより分析した。野性型PR772ウイルスを大腸菌に感染させて得た溶菌液(wt)と、4種のウイルスタンパク質を共発現させた大腸菌(VLPs)及びネガティブコントロールとして外来タンパク質などを発現させていない宿主大腸菌BL21(DE3)の超音波破砕液を、塩化セシウムの平衡密度勾配超遠心にかけ、ウイルスタンパク質を含む各分画(上層U、下層L1及びL2)を回収した。まず回収した分画に含まれるタンパク質をSDS−14%PAGEにより解析した。野性型(wt)及び再構成系(VLPs)では、U及びL1分画にウイルスタンパク質が確認された。
【0036】
PR772ウイルスの脂質成分に関する報告はないが、PRD1ウイルスでは、キャプシドの内側に存在する脂質膜の主成分はホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルグリセロール(PG)、及びカルジオリピン(CL)である。PR772もこれらの脂質を含んでいることが推測され、再構成VLPsが宿主由来の生体膜を内包していれば、これらの脂質が検出されると予想された。これら3種の脂質をスタンダードとして、回収した各分画から抽出した脂質をシリカゲル薄層プレート(silica gel 60 F254、Merck社)にスポットし、クロロホルム/メタノール/酢酸(65:25:10)の溶媒にて展開後、ヨウ素蒸気法により脂質の検出を行った。その結果、野生型(wt)は予想通りPE、PG、CLを含んでおり、再構成系(VLPs)の場合にもUとL1分画でこれら3種の脂質が検出された。対応する宿主大腸菌の画分からはこれらの脂質が殆ど検出されなかったことから、再構成VLPsは宿主大腸菌由来の生体膜を内包していると考えられた。
【0037】
さらに、透過型電子顕微鏡を用いネガティブ染色法によりVLPsの形態観察を行った(図4)。野生型(wt)のUバンドでは直径50〜63nmの粒子が観察された(図4A)。再構成系(VLPs)では、U、Lバンドとも、直径約42nmの小さな粒子や約88nmの大きな粒子も混在していたが、大多数の粒子は直径54〜68nmで、粒子の内側には膜と思われる形態も観察された(図4B)。以上の結果より、4種のウイルスタンパク質P3、P16、P30、P31を同一の大腸菌で発現させることにより、生体膜内在性のウイルス粒子を再構成させることに成功したと考えられる。
【0038】
実施例2
塩化セシウムの平衡密度勾配超遠心により精製した実施例1のVLPsでは、図4の電子顕微鏡写真で観察されるように、膜の凝集体やキャプシドタンパク質と思われる構造体が混在していた。結晶化を行うためには純度の高いVLPsの調製が必要である。VLPsにHisタグを付け、Ni−アガロースを用いたアフィニティー精製を試みた。Hisタグとしては、His×6を用いた。
【0039】
具体的には、ペントン蛋白質のN末端にHisタグを付けるため、発現用プラスミドを新たに構築した。
<His・P31とP30の発現用プラスミドの構築>
実施例1と同様に、PR772ウイルスのゲノムDNAを鋳型として、P30、P31の翻訳領域を含むDNA断片を、それぞれの塩基配列内に制限酵素の認識配列(下線部)を含むように設計した以下に示すプライマーを用いてPCRにより増幅した。PCRの条件は実施例1と同じである。
【0040】
P30
5’側プライマー(PR772-10820-NdeI-F):5’-tttaagggggtCaTatggcactg-3’ (配列番号13)
3’側プライマー(PR772-11161-XhoI-R):5’-atgcaatgCtcgAggcctagcca-3’ (配列番号14)
【0041】
P31
5’側プライマー(PR772-4892-HindIII-F): 5’-ttcaaaggtgAaGCttatgaatgt-3’(配列番号15)
3’側プライマー(PR772-5321-NotI-R):5’-ttaccgtgctgcGgccgCtttgtt-3’ (配列番号16)
【0042】
PCRにより増幅したDNA断片をそれぞれ制限酵素で消化し、P30のNdeI-XhoI断片(約0.3kbp)とP31のHindIII-NotI断片(約0.4kbp)をpCDFDuet1のHindIII-NotI部位とNdeI-XhoI部位にそれぞれ挿入してP30とHis・P31の発現用プラスミドpCDFDuet1/His・P31-P30を構築した。ベクターのHindIII部位はヒスチジンタグの下流に位置し、従って、P31の翻訳領域はヒスチジンタグとフレームが合うように挿入した。この発現用プラスミドを用いてP31を大腸菌で発現させると、実際は、P31のN末端に
MetGlySerSerHisHisHisHisHisHisSerGlnAspProAsnSerSerSerAlaArgLeuGlnValAspLysLeu
というアミノ酸配列(26アミノ酸残基)からなるペプチドが付加することになる(下線部Hisタグ;ベクターのマップ参照)。
【0043】
このように、P31に代えてHis−P31を用いたほかは実施例1と同様にして、P3、P16及びP30とともにHis−P31を同一の大腸菌で発現させ、超音波処理により破砕後、前述と同様に、超遠心によりHis−VLPsを含むバンドを回収、以下に示すNi−アガロース及び試薬を用いてHis−VLPsのアフィニティー精製を行なった。
【0044】
<試薬>
・Ni-NTA-アガロース(QIAGEN 社)
・Binding buffer : 0.5M NaCl、20mM Tris・HCl(pH 8.0)、1mM MgCl2、10mM イミダゾール
・Wash buffer : 0.5M NaCl、20mM Tris・HCl(pH 8.0)、1mM MgCl2、20mM イミダゾール
・Elution buffer : 0.5M NaCl、20mM Tris・HCl(pH 8.0)、1mM MgCl2、1M イミダゾール
・TM buffer : 10mM Tris・HCl(pH 7.5)、1mM MgCl2
【0045】
すなわち、超遠心により回収したウイルス様粒子を含むフラクションを透析チューブに移して Binding buffer に4℃で一晩透析した後、試料を別のチューブに移した。しかる後、Binding buffer で平衡化した Ni-NTA-アガロース(試料の1/3〜1/4容)を投入し、ローテーターを用いて4℃で二晩撹拌しながら吸着させた。吸着後、遠心(3000回転 1分、4℃)によりビーズを回収し、Binding buffer(ビーズの5〜10倍容)を加えてローテーターを用いて4℃で10分間、撹拌しながら洗浄(3回)した。遠心(3000回転 1分、4℃)によりビーズを回収し、Wash buffer (ビーズの5〜10倍容)を加えてローテーターを用いて4℃で30分間撹拌しながら洗浄(2回)した。遠心(3000回転 1分、4℃)によりビーズを回収し、Elution buffer(ビーズと等容〜2倍容)を加えてローテーターを用いて4℃で一晩撹拌しながら溶出し、透析チューブに移して TM buffer に4℃で一晩透析した後、別のチューブに移して4℃で保存した。
【0046】
なお、ネガティブコントロールとして、超遠心によりVLPsを含むバンドを回収し、His−VLPsと同条件でアフィニティー精製を行なった。Ni−アガロースにより精製された試料をSDS−14%PAGE解析した結果、His−VLPsにはP3、P16、P30、His−P31のバンドが検出されたが、VLPsにはP3、P16、P30、P31のバンドが検出されなかった。精製したHis−VLPsから抽出した総脂質を薄層クロマトグラフィーで分析した結果、野生型と同じ脂質成分を含んでいることを確認できた。さらに、電子顕微鏡を用いた形態観察では、直径62〜63nmの均一のHis−VLPsが観察され(図5A)、内側に膜と思われる形態を示す粒子も観察された(図5B、図5C)。よって、粒子の表面にHisタグの付いた生体膜内在性のウイルス様粒子His−VLPsを再構成させ、精製することに成功した。
【0047】
結晶化の試料として、より純度の高い試料を調製するため、前述と同様の方法で大腸菌を大量培養してNi−アガロースを用いてアフィニティー精製したHis−VLPsを、限外濾過膜で濃縮後、塩化セシウム平衡密度勾配超遠心にかけてさらに精製を試みた。その結果、アフィニティー精製したHis−VLPsよりも精製度の高い試料を得ることができた(図6)。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、わずか数種類のタンパク質だけで野生型と比較してもほぼ同様な粒子径のキャプシドを再構成できる。さらに、このウイルスキャプシドは、野生型と同様に生体膜を内在している。これから、このウイルスキャプシドは、生理活性物質等を内包するための安定なプラットホームとなりうることがわかった。従って、DDSとして有用である。また、本発明のウイルス様粒子では、これらの内包物質を生体膜内で制御された状態で配置させることが可能であると考えられるので、様々な細胞内情報伝達系の研究や生化学的な機能解析に画期的な影響を与えるものと期待される。さらに、工業的には、様々な種類の酵素タンパク質を適切に再配置させることで、人工的にタンパク質複合体を作り上げることが容易に出来る。そのため、目的の酵素活性を持つ人工的なマシーナリーを作製する基本的な技術となり得る。
なお、本発明は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の平成17年度第2回「産業技術研究助成事業」により助成を受けた研究上の発明である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明において発現用ベクターとして用いたpETDuet1の遺伝子地図。
【図2】本発明において発現用ベクターとして用いたpCDFDuet1の遺伝子地図。
【図3A】野生型(wt)ウイルス粒子の原子間力顕微鏡写真。
【図3B】本発明により製造したウイルス様粒子(VLPs)の原子間力顕微鏡写真。
【図4A】野生型(wt)ウイルス粒子の原子間力顕微鏡写真。
【図4B】本発明により製造したウイルス様粒子(VLPs)の透過型電子顕微鏡。
【図5A】本発明により製造したウイルス様粒子の透過型電子顕微鏡。
【図5B】本発明により製造したウイルス様粒子の透過型電子顕微鏡。
【図5C】本発明により製造したウイルス様粒子の透過型電子顕微鏡。
【図6A】本発明により製造したHis−タグ付加ウイルス様粒子(His−VLPs)及び野生型タンパク質のSDS−14%PAGEのCBB染色図、銀染色図、ウエスタンブロット透過型電子顕微鏡(A;図中、1は超遠心後、Ni−アガロースで精製したHis−VLPs、2は1を限外濾過膜で濃縮後、超遠心で精製したHis−VLPs、wtはPR772野生型ウイルス)。
【図6B】図6Aにおける2の電子顕微鏡写真。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体膜内在性ウイルスを構成するタンパク質のうち、(1)キャプシド構成タンパク質、(2)ペントンタンパク質、及び(3)少なくとも一種の膜形成タンパク質を含むことを特徴とするウイルス様粒子。
【請求項2】
生体膜内在性ウイルスがテクチウイルスファミリーに属するウイルスである請求項1に記載のウイルス様粒子。
【請求項3】
生体膜内在性ウイルスがPR772ウイルスまたは上記(1)〜(3)に相当するタンパク質がPR772ウイルスと同等のキャプシド再構成挙動を示すウイルスである請求項1または2に記載のウイルス様粒子。
【請求項4】
生体膜内在性ウイルスがPR772ウイルスであり、(1)キャプシド構成タンパク質がP3及びP30、(2)ペントンタンパク質がP31、(3)少なくとも一種の膜形成タンパク質がP16(但し、これらのタンパク質はこれらとキャプシド再構成挙動が同等である限りにおいて改変されていてもよい。)を含む請求項1〜3のいずれかに記載のウイルス様粒子。
【請求項5】
ペントンタンパク質P31がN末端にペプチドタグを付加するように改変されたものである請求項4に記載のウイルス様粒子。
【請求項6】
ペプチドタグがHisタグである請求項5に記載のウイルス様粒子。
【請求項7】
脂質が前記少なくとも一種の膜形成タンパク質との複合体として粒子内に含まれる請求項1〜6のいずれかに記載のウイルス様粒子。
【請求項8】
キャプシド構造の内部に少なくとも一つの作用物質を含有する、請求項1〜7のいずれかに記載のウイルス様粒子。
【請求項9】
作用物質が核酸、ペプチド、脂質、タンパク質および生理学的活性物質からなる群から選択される一種または二種以上の物質である請求項8に記載のウイルス様粒子。
【請求項10】
作用物質が前記少なくとも一種の膜形成タンパク質と結合してキャプシド構造の内部に存在する請求項9に記載のウイルス様粒子。
【請求項11】
ウイルス粒子またはウイルス様粒子表面にN末端を露出させたタンパク質を含むウイルス粒子の組み換え体またはウイルス様粒子の採取及び/または精製方法であって、
(A)前記タンパク質をコードする遺伝子をそのN末端にペプチドタグを付加したタンパク質をコードするように改変したウイルス粒子の組み換え体を宿主中で増殖させるか、
(B)前記タンパク質をコードする遺伝子をそのN末端にペプチドタグを付加したタンパク質をコードするように改変し、ウイルス様粒子を形成するのに必要な他のタンパク質とともにベクターに組み込み、宿主中で発現させてウイルス様粒子を形成し、
(A)により得られたウイルス粒子または(B)により得られたウイルス様粒子を前記ペプチドタグに親和性のある物質に吸着させて採取することを特徴とする方法。
【請求項12】
ペプチドタグがHisタグであり、ペプチドタグに親和性のある物質がNi含有物質である請求項5に記載のウイルス様粒子。
【請求項13】
前記N末端を露出させたタンパク質がペントンタンパク質である請求項11または12に記載のウイルス粒子の組み換え体またはウイルス様粒子の採取及び/または精製方法。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかに記載のウイルス様粒子に請求項11〜13のいずれかに記載の方法を適用することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のウイルス様粒子の採取及び/または精製方法。
【請求項15】
PR772ウイルスの(1)キャプシド構成タンパク質P3及びP30、(2)ペントンタンパク質P31、(3)膜形成タンパク質P16のN末端にHisタグを付加した改変タンパク質を発現ベクター内に組み込み、宿主細胞中で発現させてウイルス様粒子を再構成し、得られた粒子をNiアガロースに吸着させて回収精製することを特徴とするPR772ウイルス由来のウイルス様粒子の製造方法。
【請求項1】
生体膜内在性ウイルスを構成するタンパク質のうち、(1)キャプシド構成タンパク質、(2)ペントンタンパク質、及び(3)少なくとも一種の膜形成タンパク質を含むことを特徴とするウイルス様粒子。
【請求項2】
生体膜内在性ウイルスがテクチウイルスファミリーに属するウイルスである請求項1に記載のウイルス様粒子。
【請求項3】
生体膜内在性ウイルスがPR772ウイルスまたは上記(1)〜(3)に相当するタンパク質がPR772ウイルスと同等のキャプシド再構成挙動を示すウイルスである請求項1または2に記載のウイルス様粒子。
【請求項4】
生体膜内在性ウイルスがPR772ウイルスであり、(1)キャプシド構成タンパク質がP3及びP30、(2)ペントンタンパク質がP31、(3)少なくとも一種の膜形成タンパク質がP16(但し、これらのタンパク質はこれらとキャプシド再構成挙動が同等である限りにおいて改変されていてもよい。)を含む請求項1〜3のいずれかに記載のウイルス様粒子。
【請求項5】
ペントンタンパク質P31がN末端にペプチドタグを付加するように改変されたものである請求項4に記載のウイルス様粒子。
【請求項6】
ペプチドタグがHisタグである請求項5に記載のウイルス様粒子。
【請求項7】
脂質が前記少なくとも一種の膜形成タンパク質との複合体として粒子内に含まれる請求項1〜6のいずれかに記載のウイルス様粒子。
【請求項8】
キャプシド構造の内部に少なくとも一つの作用物質を含有する、請求項1〜7のいずれかに記載のウイルス様粒子。
【請求項9】
作用物質が核酸、ペプチド、脂質、タンパク質および生理学的活性物質からなる群から選択される一種または二種以上の物質である請求項8に記載のウイルス様粒子。
【請求項10】
作用物質が前記少なくとも一種の膜形成タンパク質と結合してキャプシド構造の内部に存在する請求項9に記載のウイルス様粒子。
【請求項11】
ウイルス粒子またはウイルス様粒子表面にN末端を露出させたタンパク質を含むウイルス粒子の組み換え体またはウイルス様粒子の採取及び/または精製方法であって、
(A)前記タンパク質をコードする遺伝子をそのN末端にペプチドタグを付加したタンパク質をコードするように改変したウイルス粒子の組み換え体を宿主中で増殖させるか、
(B)前記タンパク質をコードする遺伝子をそのN末端にペプチドタグを付加したタンパク質をコードするように改変し、ウイルス様粒子を形成するのに必要な他のタンパク質とともにベクターに組み込み、宿主中で発現させてウイルス様粒子を形成し、
(A)により得られたウイルス粒子または(B)により得られたウイルス様粒子を前記ペプチドタグに親和性のある物質に吸着させて採取することを特徴とする方法。
【請求項12】
ペプチドタグがHisタグであり、ペプチドタグに親和性のある物質がNi含有物質である請求項5に記載のウイルス様粒子。
【請求項13】
前記N末端を露出させたタンパク質がペントンタンパク質である請求項11または12に記載のウイルス粒子の組み換え体またはウイルス様粒子の採取及び/または精製方法。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかに記載のウイルス様粒子に請求項11〜13のいずれかに記載の方法を適用することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のウイルス様粒子の採取及び/または精製方法。
【請求項15】
PR772ウイルスの(1)キャプシド構成タンパク質P3及びP30、(2)ペントンタンパク質P31、(3)膜形成タンパク質P16のN末端にHisタグを付加した改変タンパク質を発現ベクター内に組み込み、宿主細胞中で発現させてウイルス様粒子を再構成し、得られた粒子をNiアガロースに吸着させて回収精製することを特徴とするPR772ウイルス由来のウイルス様粒子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【公開番号】特開2009−125005(P2009−125005A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303832(P2007−303832)
【出願日】平成19年11月24日(2007.11.24)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【出願人】(599035627)学校法人加計学園 (43)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月24日(2007.11.24)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【出願人】(599035627)学校法人加計学園 (43)
【Fターム(参考)】
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