説明

生体試料のガラス化方法

【課題】生物学的標本をガラス化する方法の提供。
【解決手段】生物学的標本を直接的に凍結物質に暴露する。凍結物質に暴露されると生物学的標本がガラス化する。ガラス化した生物学的標本を一定期間保存し、次いで後日解凍しうる。解凍した生物学的標本は生存状態のままである。好ましい本発明による生物学的標本は生育中の細胞である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦依頼の研究・開発下に行われた発明に対する権利に関する説明。
【0002】
本発明の開発時に行った研究の一部は米国政府助成、具体的には国立小児保健発育研究所助成HD22023号を利用した。従って、米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
(技術分野)
本発明は、生体試料を解凍した後にその生体試料が生存状態に維持されるような形での、生体試料のガラス化方法に関する。
【背景技術】
【0004】
人工生殖技術を広く応用するには、卵子、胚、精子および他の同様の生体試料を冷凍保存できることが必須である。しかしながら、細胞が大量であり、しかも卵子および初期胚が冷却に対して高い感受性を有するために、冷凍保存法はほとんどの動物であまり発達していない。
【0005】
従来では、胚は「低速冷凍法」を用いて冷凍保存される。低濃度の凍結防止剤および通常は0.1〜0.3℃/分の範囲の低く制御された冷却速度によって、冷凍中に細胞を徐々に脱水することで細胞内凍結を防止する。そのため、そのような手順を用いた卵子、胚および他の発生細胞の冷凍保存によって、移入後に妊娠を確立・維持する能力がいずれも低下する。卵子は、冷却時に中期紡錘微細管の完全性が破壊されるために凍結乾燥による損傷を特に受けやすい。
【0006】
従来技術による別途の冷凍保存法は、急速に冷却するとガラス状状態となる高濃度の凍結防止剤を用いたガラス化に基づいたものであった。しかしながら、このガラス化法には、凍結防止剤が卵子、肺および他のデリケートな発生細胞に対して非常に有毒であるという欠点を有する。凍結防止剤の毒性は冷却速度を高めることで低下させることができるが、それは、電子顕微鏡検査グリッド上または薄壁ストロー(オープンプル(open pulled)ストローと称される)内に保持された卵子を液体窒素内に直接入れることで行っていた。しかし、これらの方法はいずれも煩雑であり、胚の再生に問題がある。
【0007】
従って、試料の細胞の冷却速度を高め;ガラス化時およびその後の解凍時における試料の生存性を維持し;試料に対する物理的ストレスを防止し;さらには冷凍保存および再生時の操作を容易なものとすることができる生体試料のガラス化方法が望まれている。
【0008】
(発明の開示)
本発明は、生体試料のガラス化法に関する。本発明の方法によれば、生体試料を直接冷凍剤に曝露する。冷凍剤への曝露により、生体試料はガラス化する。ガラス化した生体試料をある期間保存してから、後日解凍する。解凍された生体試料は生存状態に保たれている。本発明による好ましい生体試料は発生細胞である。
【0009】
本発明はまた、生体試料のガラス化方法であって、生体試料が直接冷凍剤に曝露されるような形で移動器具を用いて生体試料を液体窒素などの冷凍剤に入れる段階を含む方法に関するものでもある。次に、移動器具によって保持しながら、生体試料のガラス化を行うが、その際の好ましい移動器具はループである。そうして移動器具および生体試料は好ましくは、冷凍剤内に入れた状態とし、冷凍剤の入った容器に移し入れる。その容器は好ましくはバイアルである。次に、冷凍剤、ループおよびガラス化生体試料が入った状態でバイアルを密閉し、生体試料をさらに使用する必要が生じるまで冷凍保存することができる。
【0010】
本発明の別の態様は、ガラス化に先だっての凍結防止剤中での生体試料の処理である。
【0011】
本発明はまた、ガラス化された生体試料を解凍する方法に関する。その解凍方法は、生体材料が冷凍保存されている冷凍剤から該生体試料を取り出す段階、ならびに該生体試料を加温された解凍液に入れる段階を有する。解凍液は好適な容器に入っていても良く、好ましくは培養シャーレまたはストローに入っている。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、発生細胞のガラス化方法であって、各発生細胞が直接冷凍剤に曝露されるような形で1以上の発生細胞を直接冷凍剤に入れることで該細胞をガラス化させ;ガラス化した発生細胞が、解凍、培養および好適な宿主生物への移植を行うと、ガラス化させていない同じ発生細胞と同等の受精率を与えることを特徴とする方法である。好ましくは発生細胞は、冷凍剤に曝露している際はループ内にある。
【0013】
本発明はまた、哺乳動物胚盤胞または哺乳動物分裂期胚のガラス化方法であって、各哺乳動物胚盤胞または哺乳動物分裂期胚が直接冷凍剤に曝露されるような形で1以上の哺乳動物胚盤胞または哺乳動物分裂期胚を直接冷凍剤に入れることでガラス化を行う段階を有し、ガラス化した哺乳動物胚盤胞または哺乳動物分裂期胚の少なくとも80%、より好ましくは90%が、解凍および好ましくは好適な基本培地中での培養後に生存していることを特徴とする方法に関するものでもある。好ましくは哺乳動物胚盤胞または哺乳動物分裂期胚は、冷凍剤に曝露している際はループ内にある。
【0014】
本発明はさらに、ウマ胚またはブタ胚のガラス化方法であって、各胚が直接冷凍剤に曝露されるような形で1以上の胚を直接冷凍剤に入れることでガラス化を行う段階を有し、ガラス化した胚の少なくとも25%、より好ましくは50%が、解凍および好ましくは好適な基本培地中での培養後に生存していることを特徴とする方法に関するものでもある。好ましくは胚は、冷凍剤に曝露している際はループ内にある。
【0015】
本発明はさらに、生体試料ガラス化キットに関するものでもある。該キットは通常、試料を直接冷凍剤に曝露することを記載した生体試料のガラス化について説明する説明書を有する。このキットはさらに、移動器具(最も好ましくはループ)、ループと内容物となるガラス化試料を保持するのに適した大きさおよび形状のものであるバイアル、基本培地、移動溶液および凍結防止剤など(これらに限定されるものではない)の1以上の適宜の構成要素をも含む。
【0016】
本発明はさらに、本発明の方法によってガラス化された生体試料に関するものでもある。
【0017】
図1は、本発明による生体試料ガラス化方法を説明する模式図である。
【0018】
(発明を実施するための最良の形態)
本発明においては、全体を通じて以下の用語を用い、それらの用語は本願に関して以下のように定義される。
【0019】
基本培地:存在する生体試料の成長、操作、移動または保存用に特に製造された固体または液体の調製物。
【0020】
冷凍保存:極低温での生体試料の保存。
【0021】
発生細胞:発達して独立に存在することが可能な新たな個別の臓器となる能力を有する生物の増殖体。発生細胞には精子、卵子、胚、桑実胚、胚盤胞および他の初期胚細胞などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
直接曝露:生体試料の表面のほとんどあるいは生体試料が入っている媒体、溶液または材料が冷凍剤と直接接触するようになる場合、胚盤胞および胚などの生体試料は冷凍剤に「直接曝露」される。
【0023】
冷凍剤:生体材料のガラス化を起こすことができる液体窒素、液体プロパン、液体ヘリウムまたはエタンスラッシュなどの液体ガスなど(これらに限定されるものではない)の材料。
【0024】
ループ:一般にはナイロン片または自由端で閉ループに成形された白金またはニッケル鋼などの金属ワイヤ−を保持するロッド形状のハンドルからなる、小さい生体サンプル操作用の器具。
【0025】
移動器具:ガラス化プロセス時に生体試料および/または生体試料を含む媒体、溶液もしくは材料を囲んだり保持するような形、および/または冷凍剤内での生体試料の操作が容易となるような形の構造を有する、生体試料を操作して冷凍剤中に入れる器具であり、移動器具によって生体試料を冷凍剤に直接曝露することができる。移動器具は、ループ、ハンドル付きネットまたはハンドル装置を有するパドルなど(これらに限定されるものではないが)の当業界で公知のそのような器具であることができる。本明細書で定義の「移動器具」という用語は、電子顕微鏡検査グリッドおよびストロー(密閉ストローおよびオープンプルストローの両方を含む)を含まない。
【0026】
生存:ある期間にわたって生存および正常発達することができる生体試料。
【0027】
ガラス化(ガラス化する):試料中の水分が結晶化を起こさずにガラス様の状態を形成するように、生体試料が極低温まで急速に冷却される現象。
【0028】
本発明は、米国暫定(provisional)特許出願60/104266号(引用によって本明細書にその全内容が含まれるものとする)に基づいた生体試料のガラス化方法に関する。
【0029】
本発明の方法によれば、生体試料が冷凍剤に直接曝露されるように、その生体試料を冷凍剤に直接入れる。冷凍剤に曝露すると、生体試料はガラス化を受ける。ガラス化を受けた生体試料はある期間保存し、後日解凍することができる。解凍した生体試料は生存状態に維持されている。
【0030】
従って本発明は多くの用途を有する。本発明は、畜産、実験室的研究、絶滅危惧種保存、ならびにヒトの人工生殖に用いることができる。
【0031】
本発明の生体試料は、生きた細胞であるあらゆる種類の生存生体試料であることができるが、好ましくは発生細胞であり、より好ましくは哺乳動物発生細胞である。そのような細胞には、精子、、胚盤胞、桑実胚および卵子などがあり得るが、それらに限定されるものではない。そのような好ましい細胞は、ヒト;サルなどのヒト以外の霊長類;ラット、マウスおよびハムスターなどの実験動物;ブタ、ヒツジ、ウシ、ヤギおよびウマまどの農業家畜;動物学的に重要な動物および/または絶滅危惧動物など(これらに限定されるものではないが)の所望の哺乳動物源からのものであることができる。他の生存生物からの他の発生細胞の使用も本発明の範囲に含まれ、その例としては爬虫類、両生類およびショウジョウバエなどの昆虫などがある。本発明で使用するのに好適な他の細胞には、ヒト幹細胞などの幹細胞および植物組織細胞の両方が含まれる。後述の実施例は、損傷に対して極めて感受性であることから、冷凍保存法には優れたモデルとなるハムスター胚などの多くの異なる細胞種を用いて本発明の使用について説明するものである。実施例ではまた、当業界において低温損傷に対して極めて感受性であることが知られているウシの卵子および胚を用いた場合の本発明の有効性も示してある。
【0032】
好ましくは生体試料は、ガラス化前に移動器具に載置する。移動器具は、生体試料を冷凍剤中に移動させることでき、その際に生体試料を冷凍剤に直接曝露させ、生体試料を非常に急速に冷却させ、従って生体試料が最終的に細胞壁および他の非常に重要な細胞構成要素を破壊することになり得る細胞内の氷結晶を形成せずにガラス化するようにする器具であることができる。
【0033】
本発明の方法は、生体試料を冷凍剤に直接曝露するのではなく、密閉ストローもしくはオープンプルストローなどの容器内に封入していた従来の先行技術法とは対照的である。
【0034】
さらに本発明の方法は、冷凍剤中に入れた際に試料の容易な操作ができなくなるために、試料の取り扱いが困難になって最終的にガラス化試料の再生率が低くなっていた顕微鏡検査グリッドなどのオープンプレートに生体試料を載せていた従来の先行技術法とは異なるものである。従って本発明によって、ガラス化プロセス時における生体試料の取り扱いが良好になり、それによって従来の顕微鏡検査グリッドガラス化法で知られている試料再生率の問題が解決される。
【0035】
本発明による移動器具は、ガラス化プロセス時に生体試料を取り囲んだり保持することから、そのプロセス中に生体材料が失われない。従って移動器具は、平坦なシートまたは顕微鏡検査グリッドの場合のように、器具上に生体試料を載せるわけではないが、生体試料あるいはその試料を含む媒体、溶液または材料を取り囲む強力な凝着力を介してループの場合のように試料を所定の位置に実際に保持することができる。本発明の好ましい移動器具には、ループ、ハンドルが取り付けられた小ネットおよび小スパーテルなどがあるが、これらに限定されるものではない。スパーテル、ネットまたはループには当業界で公知の方法で改良を行って、ループ、ネットもしくはスパーテル内への別のポリマー製メッシュもしくはワイヤーグリッドの取り付けなど、生体試料の所定位置での保持を行いやすくすることができる。好ましい実施態様では、ループはオープンループを有し、ロッド形末端を介してバイアルのキャップ内部に直接取り付けられており、バイアルはガラス化生体試料およびループが中で冷凍保存されるようにできる適切な大きさおよび形状を有する。予想外に驚くべき点として、本発明のガラス化法でのループ使用によって、冷却速度が高まり、肉眼観察が容易となり、操作が容易となり、ガラス化試料を解凍・培養する際の生存の成功率が高くなることが発見された。
【0036】
好ましい実施態様では、生体試料をガラス化に先だって少量の凍結防止剤で処理する。本発明の方法によってさらに、生体試料を使用する液相凍結防止剤に曝露する時間を短縮することができることから、生体試料への凍結防止剤の毒性を低下させることができる。エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジメチルスルホキシド、グリセリン、プロパンジオール、糖類およびメチルペンタンジオールなどの凍結防止剤ならびに当業界で公知の他のものは、冷凍保存時に大量に用いると、卵子および胚などの感受性細胞に対して有毒なものとなり得る。本発明の方法により、当業界で従来説明されている冷凍保存法と比較して、適宜使用される凍結防止剤が生体試料存在下に液相中に存在する時間を短縮することができる。
【0037】
冷却時間の短縮、液相凍結防止剤曝露時間の短縮ならびに生体試料の信頼できる保持および操作が可能となることで本発明によって、発生細胞などの感受性生体試料の良好な冷凍保存という当業界における長い間の課題が解決される。さらに実施例に記載しているように本発明では、解凍および適切な基本培地での培養の際に、冷凍保存された胚盤胞もしくは分裂段階胚が80%、好ましくは90%、好ましくは90%超の生存率を有するように、胚盤胞または分裂段階胚のガラス化率が良好となることが明らかになっている。さらに本発明によって発生細胞のガラス化が可能となり、解凍、培養および好適な宿主生物への移植時に、ガラス化発生細胞によって、同様に移植され冷凍保存されていない発生細胞と同等の受精率が得られる。これによって、冷凍保存発生細胞を用いることで生じる低い妊娠率という長い間の懸案が解決されるようになる。
【0038】
さらに本発明の方法によって、これまでは冷凍保存の努力が奏功していなかった生体試料の冷凍保存が可能となって、生存保存試料パーセントが有用なものとなる。注目すべき点として、ブタ胚およびウマ胚を本発明に従ってガラス化することができ、解凍および培養後に、ガラス化胚の少なくとも25%、30%、35%、40%または45%、より好ましくは50%、55%、60%、65%、70%または75%が生存するようになる。
【0039】
本発明によれば、当業界で公知の手段によって1以上の生体試料を採取し、好ましくは基本培地に移動する。基本培地には、生体試料を低温化合物および/または増粘性化合物から保護し、試料を移動器具(好ましくはループ)内に維持する上で役立つ凍結防止剤などの1以上の適宜成分を含有させることができる。増粘性化合物は、フィコール、パーコール、ヒアルロン酸、アルブミン、ポリビニルピロリドン(PVP)およびグリセリンなどの(これらに限定されるものではない)当業界で公知の化合物であることができる。
【0040】
本発明によれば好ましくは、生体試料を移動器具上に乗せる。試料は基本培地に入れることができ、ループもしくはパドルなどの移動器具を用いて、生体試料を基本培地からすくい取ることができる。好ましい実施態様では、移動器具はループであり、ループは好ましくは基本培地に浸漬させてループ上に基本培地材料の薄膜を形成し、生体材料をピペットを用いてループ内に直接入れる。胚、精子または卵子などの発生細胞を生体試料として用いる場合、各ループ内に1以上を入れることができる。
【0041】
次に、生体試料の入った移動器具を直ちに、生体試料が冷凍剤に直接曝露されて生体試料のガラス化が可能となるように冷凍剤に入れる。好ましくは生体試料のピペットによる移動器具上への載置と生体試料の冷凍剤中への投入との間の時間は45秒以内、好ましくは30秒以内である。冷凍剤は、液体窒素、エタンスラッシュまたは他の当業界で公知の冷凍剤であることができる。好ましくは生体試料は、ガラス化後の全ての操作を行っている間、試料を解凍する時点まで、冷凍剤内に保持しておく。
【0042】
次に、ガラス化生体試料を保存容器中に移動する。好ましい実施態様では移動器具は、バイアルキャップの内部まで取り付けられたループである。バイアルは冷凍剤を充填し、生体試料のガラス化に使用される冷凍剤と同じ貯蔵槽に入れる。ガラス化後、まだループ内に入っている生体試料を、冷凍剤から取り出すことなくバイアル中に密閉することができる。ガラス化生体試料およびループを冷凍剤内に入れている密閉バイアルは、無限に冷凍保存することができる。
【0043】
その後、生体試料を解凍することができ、生存生体試料をさらに発達させることができる。解凍は、ガラス化生体試料の入ったバイアルを、それを入れた保存槽から取り出し、直ちに生体試料の入った移動器具をバイアルから取り出し、移動器具および試料を解凍液に投入することで行う。好ましい実施態様では保存バイアルは、冷凍剤、好ましくはバイアルに入っているものと同じ冷凍剤の入った貯蔵槽に入れる。冷凍剤内に入れた状態で、バイアルを開け、生体試料の入った移動器具を取り出し、直ちに解凍液に投入する。解凍液は、特定の生体試料用の基本培地として適切であることが当業界で知られている培地(それに限定されるものではない)などの、試料の生存性を保持しながら生体試料を解凍できるだけの溶液または材料であることができる。解凍後、利用される試料にとって一般的な方法およびプロセスで、生体試料をさらに操作することができる。
【0044】
図1に従い、本発明の好ましい方法についてさらに説明する。Iに示したように、適切な基本培地に入った生体試料をループに直接入れるかループ中に直接すくい入れる。Iに示したように、ループは磁石のバイアルキャップに取り付けてある。その後直ちに、図示したように液体窒素を充填した断熱ボックスであることができる貯蔵槽内に入った冷凍剤中にループを直接入れる。別法として、冷凍剤を直接バイアルに入れることができ、バイアル自体内の冷凍剤に直接曝露することで生体試料をガラス化することができ、それによって別個の貯蔵槽を用いる必要がなくなる。液体窒素下にある間は、ループは保存バイアル中に入っており、ガラス化生体試料はループ内に留まる。複数のバイアルを貯蔵槽内にあるバイアルの大きさの穴に直立状態で入れることができるか、あるいは別法として、個々のバイアルをピンセットその他の道具を用いて窒素下に維持することも可能であると考えられる。そうして複数のバイアルを、IIIに示したような標準的なデュワー瓶などの好適な容器中で無限に冷凍保存することができる。その後いずれかの時点で、上記で説明したガラス化手順の丁度逆の手順でIVに示したように、液体窒素などの冷凍剤下に、バイアルからループを取り出すことができる。必ずしも必要ではないが、解凍に先だって冷凍剤の貯蔵槽を用いてバイアルを取り囲むことが簡便であるが、バイアル自体に入っている冷凍剤は、解凍前の操作中、生体試料を冷凍保存された状態とするだけのものでなければならない。次に、生体試料を解凍液に直接投入する。解凍液は、Vに示したようなオープン培養シャーレなど簡便な手段に、あるいは移動銃中への直接負荷用のストローに入れることができる。生体試料は解凍液中で直ちに希釈され、ループから出て浮遊する。次に、生体試料を当業界で公知の適切な形で培養することができる。
【0045】
本発明の方法を用いる精子、卵子および胚などの感受性生体試料のガラス化は、本発明の方法では生体試料と冷凍剤との間に絶縁層がないという点で、従来の冷凍保存手順に勝る長所がある。使用される代表的な生体試料あるいは使用される生体試料を含む培地、溶液その他の材料についての1〜5μLという非常に少ない量とともに、前記要素によって、冷却時の熱交換が非常に迅速かつ均一となる。冷却速度が大きいことで、発生細胞などの感受性細胞への冷却損傷が防止される。本発明で得られる極めて高い冷却速度により、使用される凍結防止剤への曝露時間が短縮され、それによって試料への細胞毒性が低下する。
【0046】
本発明の方法の他の主要な利点には、操作中にサンプルを容易に肉眼観察できるようにするオープン系;高価な装置や複雑な装置を必要としない多数サンプルの迅速な冷凍;非常に簡単なラベル表示および保存;ならびに簡単かつ迅速なサンプル昇温および再生などがある。ヒト臨床の分野などの密閉系が必要な利用分野については、標準的な冷凍バイアルを用いることでそれを標準的なプラスチックシート内に密閉することができるか、あるいは別法として、冷凍バイアルキャップ内の取出穴を密閉して、可能性のあるウィルス交差伝染を防止することができる。
【0047】
冷凍保存後の胚の生存性についての最終的な試験は、妊娠を確立および維持して正常な稔性仔を得る能力である。2つの理由から、それにはハムスターが優れたモデルである。第1に、何らかの方法を用いた冷凍保存後にハムスター仔繁殖に成功したという文献報告を本発明の発明者らが見いだせなかったということから明らかなように、in vitro環境に対する感受性のために、それは非常に感受性の高いモデルとなる。第2に、ハムスターは妊娠期間がわずか16日であり、3〜4ヶ月後に性的成熟に達する。後述の実施例には、生存胚の冷凍保存において本発明の方法が成功し、その胚は解凍して正常仔繁殖に用いて、90%以上の成功率を得ることができることを示してある。
【0048】
ウシ胚、特にはウシ卵子は、冷却損傷に対して非常に感受性であることが報告されている。さらに、その胚における高い脂質含有率が、冷凍保存法に対するウシ胚の高感受性に関連していた。以下の実施例で示すように、卵子および分裂段階ウシ胚について本発明の方法を用いるガラス化により、高い孵化成功パーセント率で、その後に培養で発達させて桑実胚/胚盤胞とすることができた。
【0049】
本発明はまた、生体試料ガラス化用キットに関するものでもある。そのキットには、試料を冷凍剤に直接曝露することを記載した、生体試料のガラス化について説明する説明書が含まれる。キットはさらに、移動器具(最も好ましくはループ)、ループと内容物となるガラス化試料を保持するのに適した大きさおよび形状のものであるバイアル、基本培地、移動溶液および凍結防止剤など(これらに限定されるものではない)の1以上の適宜の構成要素をも含む。
【0050】
以下の実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本願に挙げられる引用文献はいずれも、引用によって本明細書に含まれるものとする。
【実施例1】
【0051】
実施例1−ウシおよびハムスターの卵子および胚のガラス化方法およびガラス化用材料
A.培地
以下の実施例で使用した培地は、レーンら記載の方法(Lane et al., Mol. Reprod. Dev., 50: 443-450 (1998))に従って調製したハムスター胚培地−10(HECM−10)であった。胚の採取および冷凍保存については、20mM NaHCOを20mM Hepes(pH7.35)に代えたHECM−10のHepes緩衝調製培地を用いた。使用直前に、培地に凍結防止剤溶液を加えた。ウシ胚培養用の培地は、ガードナーら記載の(Gardner et al., Hum. Reprod. 13: 3434-3440 (1998))G1.2およびG2.2とした。全ての塩、炭水化物、アミノ酸、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコールおよびショ糖は、シグマ社(Sigma Chemical Company, St. Louis, MO)から購入した。ウシ血清アルブミンは、バイエル・ダイアグノスティクス(Bayer Diagnostics)から購入した。
【0052】
B.ハムスター胚の採取および培養
ハムスター胚は、レーンらによって既報の方法(Lane et al., Mol. Reprod. Dev., 50: 443-450 (1998))に従って、過剰排卵雌から採取した。ハムスター胚は前核1−細胞期または2−細胞期のいずれかで冷凍保存した。ハムスター胚は、レーンらの方法(Lane et al., Mol. Reprod. Dev., 50: 443-450 (1998))に従って、HECM−10で培養した。得られた胚盤胞の細胞数を、トリトン処理後のヨウ化プロピジウム染色によって評価した。
【0053】
C.ウシ胚のin vivto成熟/in vitro受精/in vitro培養(IVM/IVF/IVC)
未成熟ウシ卵子を卵巣から摘出し、クリシャーら記載の方法に従って(Krisher et al., Biol. Redprod. 60: 1345-1352 (1999))成熟させた。成熟卵子は、ガラス化および解凍するか、あるいは対照として用いる場合はガラス化および解凍を行わず、クリシャーら記載の方法によって(Krisher et al., Biol. Redprod. 60: 1345-1352 (1999))in vitroで受精させた。受精後、推定受精体を単離し、順次の培地G1.2およびG2.2で、各培地について72時間培養した。計144時間後、桑実胚/胚盤胞ならびに胚盤胞期への発達を評価した。
【0054】
D.ループを用いたガラス化
ガラス化用に用いたループは、エポキシによって冷凍バイアル(Hampton Research, Laguna Niguel, CA)の蓋に保持されたステンレス管上に取り付けられたナイロンループ(幅20μm、直径0.5〜0.7mm)からなるものであった。凍結防止剤を用いた2段階負荷を用いて卵子および胚をガラス化した。最初に卵子および胚を、10%DMSOおよび10%エチレングリコールを含む凍結防止剤溶液Iに1〜3分間入れてから、20%DMSOおよび20%エチレングリコール、10mg/mLフィコール(分子量400000)および0.65Mショ糖を含む溶液IIに約20秒間移した。次に、溶液IIに予め浸漬して薄膜を形成しておいたループに細胞を移した。ハムスター胚の場合、10〜12個の胚をループに乗せ、ウシ胚の場合3〜6個の胚を各ループに乗せた。次に、ナイロンループに懸濁させた胚を直接液体窒素に投入した。冷凍バイアルを予め液体窒素に浸しておくことで、液体窒素の入った冷凍バイアル中に、胚の入ったループを投入し、1回の動作で液体窒素下で密閉した。
【0055】
卵子および胚を、ショ糖を用いる2段階希釈によって解凍した。冷凍バイアルを液体窒素に浸しておきながら、バイアルを開け、細胞の入ったループを液体窒素から取り出し、次に0.25Mショ糖を含む基本培地のウェルに直接挿入した。卵子/胚は直ちに、ループから解凍液中に落下した。2分後に卵子をその溶液から取り出し、0.125Mショ糖を含む基本培地にさらに5分間移した。次に、卵子/胚を基本培地で5分間にわたり2回洗浄し、その後培養に戻した。
【0056】
E.オープンプルドストロー法を使用したガラス化(vitrification)
比較の目的で、Vajtaら,Cryo−Letters 18:191−195(1997)によって記載されたオープンプルドストロー(OPS)法を使用してハムスターの胚をガラス化した。上記と同じ濃度のエチレングリコールとDMSOとから成る凍結保護剤の2段階充填を使用して、10−12個の胚を凍結保護剤に接触させた。胚を第二凍結保存溶液の1μl液滴にピペット注入し、次いで毛細管作用を利用してプルドストローに充填し、胚を収容したストローを液体窒素に直接浸漬させた。解凍のためには、加温中の圧力増加によって胚をストローから押出し、上記のように解凍した。
【0057】
F.胚移植
ハムスターの桑実胚/胚盤胞を3日目(day3)(非同期の前日(−1 day))の偽妊娠レシピエントに移植した。各子宮ホルンに8個の胚を移植した。妊娠14日目に数匹の動物を安楽死させ、着床率及び胎児発生率を測定した。残りの雌は妊娠16日目に出産した。産まれた仔の数を誕生直後に記録した。
【0058】
G.統計学的分析
分布が二項分布である線形−ロジスティック回帰を使用して処理間の発生の差異を評価した(Glim 4.0,Numerical Algorithms Group,Oxford,UK)。実験日も1つの要因であった。ガウスの正規分散及び均等分散が確認されたので分散分析を使用して細胞数の差異を評価した。処理間の多重比較をBonferroniの多重比較手順によって評価した。
【実施例2】
【0059】
実施例2−ハムスターの胚のガラス化及びその後の発生
本発明のループを使用してハムスターの2細胞胚をガラス化し、凍結保護剤に接触させた対照胚、または、実施例1に記載のようなOPS法を使用してガラス化した胚の結果に比較した。ハムスターの胚を輸卵管から採取し、対照、ループガラス化またはOPSガラス化に配分した。以下の表1に示すように、ループ内でガラス化した胚は、OPSを使用してガラス化した胚に比較して、桑実胚/胚盤胞期及び胚盤胞期まで発生した胚の数が有意に増加していた。
【0060】
表1に示すように、どちらかの方法によってガラス化後に培養したとき、桑実胚/胚盤胞または胚盤胞期まで発生を継続できた2細胞胚の数は対照胚に比較して有意に減少していた。しかしながら表1に示すように、ガラス化した2細胞胚から得られた胚盤胞の細胞数(分割率の指標)はガラス化しなかった2細胞胚に統計的に均等であった。ラットの2細胞胚もループを使用したガラス化に成功し、解凍後に対照胚と同様の75%の分割率で正常に発生した(n=10)。
【0061】
ガラス化に感受性な胚の能力を更に評価するために、1細胞胚で実験を繰り返した。但し、1細胞胚では初期希釈度の凍結保護剤に接触させる時間を2分から1分に短縮した。1細胞胚を凍結保護剤溶液に(ガラス化を伴わずに)2分間接触させると発生が著しく減少することが予備試験で証明されていた。再度、輸卵管から胚を採取し、対照、ループガラス化またはOPSガラス化に配分した。
【0062】
表1に示すように、ハムスターの1細胞胚はループによるガラス化後、培養中に分割し桑実胚/胚盤胞期まで発生を継続することが可能であった。ループを使用してガラス化した胚では、OPSを使用してガラス化した胚に比較して、ガラス化後の発生率が有意に増加していた(表1)。ハムスターの卵母細胞もまた、ループを使用したガラス化に成功し(n=20)、その後に受精し、ほぼ10%の割合で桑実胚/胚盤胞期まで発生した。この割合は凍結保存しなかった対照卵母細胞と同等である。
【0063】
【表1】

【実施例3】
【0064】
実施例3−ガラス化後のハムスターの1細胞胚及び2細胞胚の生存率
ループ法またはOPS法を使用してハムスターの胚をガラス化した。加温後、胚を桑実胚/胚盤胞期まで培養し(ガラス化した胚及び対照胚の双方)、偽妊娠レシピエントに移植した。以下の表2に示すように、2細胞期に予めガラス化しておいた桑実胚/胚盤胞期の胚が着床し生存胎児まで発生する生存率を凍結保存しなかった対照胚に比較すると、差異は存在しなかった。しかしながら表2に示すように、OPSを使用してガラス化したときに着床し生存胎児まで発生できた胚の数は有意に減少していた。ループを使用して2細胞期にガラス化した桑実胚/胚盤胞を移植した追加の2匹の雌が出産し、5匹の正常仔が誕生した。これらの仔は形態学的に健常で生殖能力のある成体に発生した。
【0065】
同様に、ハムスターの1細胞胚の場合、表2に示すように、ループを使用するガラス化は着床及び胎児発生に影響しなかった。OPSを使用してガラス化した胚は先行実験で観察されたように培養中の生存率が低かったので移植しなかった。このばあいにも、ループを使用して2細胞期にガラス化した桑実胚/胚盤胞を移植した2匹の雌が出産し、合計9匹の仔が誕生した。誕生後6−9日の間に母ハムスターが仔を1匹食べてしまった。残りの仔は形態学的に健常で生殖能力のある成体に発生した。
【0066】
【表2】

【実施例4】
【0067】
実施例4−ウシ卵母細胞のガラス化、分割期の胚及び胚盤胞
本発明のガラス化方法が種々の細胞特性をもつ胚のガラス化に成功する能力を有するか否かを判定するために、ウシの卵母細胞及び胚を実施例1の教示に従ってガラス化し、それらの生存率及びその後の発生を評価した。結果を表3に示す。卵母細胞及び胚を対照グループまたは本発明の方法を使用するループガラス化グループに配分した。in vitro産生した胚盤胞はループを使用するガラス化に成功し、表3に示すように80%を上回る膨張胚盤胞がガラス化後に膨張を再開し孵化することが可能であった。対照胚盤胞を培養すると、48時間の培養後に100%の孵化率を示した。更に、完全に孵化した胚盤胞の75%がループガラス化を使用したガラス化に成功した。本発明のガラス化方法を使用してガラス化したウシの8細胞胚をガラス化し加温すると、その後の生存率(桑実胚/胚盤胞期まで及び胚盤胞期までの発生によって評価)は、表3に示すように、凍結保存しなかった新しい胚で得られた生存率に均等であった。4細胞期の胚のガラス化は、新しい胚に比較して生存率を多少減少させたが、表3に示すように、多くが桑実胚/胚盤胞期まで正常な発生を完了できた。ウシの卵母細胞は低温損傷に極めて感受性であり、凍結保存後に何らかの成功を示した報告は殆どない。in vitro成熟したウシMII卵母細胞はループを使用したガラス化に成功した。ガラス化し加温した卵母細胞はその後に受精し、そのうちの33%が桑実胚/胚盤胞期まで発生を継続した(n=42)。
【0068】
【表3】

【実施例5】
【0069】
実施例5−ヒト及びマウスの胚盤胞のガラス化方法及び材料
A.培養培地
胚の培養培地はG1.2及びG2.2(IVF Sciences Scandinavian,Gothenburg,Sweden)であった。胚の採取培地はHEPES改質G1.2(H−G1.2)であり、凍結保存及び解凍用の基本培地はアミノ酸及びビタミンを含まないHEPES緩衝改質G2.2(H−G2.2)であった。双方の改質培地は、20mMのNaHCOを20mMのHEPESで置換することによって培地を改質し、pH7.35に調整したものである。
【0070】
B.マウス
4−6週齢の雌のF1(C57BL6xCBa)マウスから胚を採取した。雌マウスを5iuの妊馬血清型ゴナドトロピン(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)で刺激し、48時間後に5iuのヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG;Sigma Chemical Co.)で刺激した。hCGの注入後、雌マウスを同系統の雄マウスと同居させ、翌朝、膣栓の存在によって交配が生じたことを確認した。hCGの22時間後に受精卵を採取し、H−G1.2中で0.5mg/mlのヒアルロニダーゼと共に1分間未満のインキュベーションを行うことによって周囲の卵丘から剥離した。受精卵をH−G1.2中で2回洗浄し、培養した。
【0071】
C.マウス胚培養物
マウスの受精卵を10個ずつのグループにしてG1.2培地の20μl液滴に入れ、5%COの空気から成る湿潤雰囲気下、37℃で培養した。48時間の培養後、8細胞胚をG2.2培地で3回洗浄し、G2.2培地の20μl液滴中で更に48時間培養した。96時間培養後に胚盤胞の発生を評価した。
【0072】
D.ヒト胚培養物
胚盤胞増殖用の培養系をGardnerら,Hum.Reprod.13:3434−40(1998)に記載の方法で作製した。卵母細胞の回収後、卵丘に包囲された卵母細胞を胎児臍帯血清(FCS)を加えたHamのF−10培地でインキュベートして、精液注入の準備をした。精液の初期パラメーター次第で、50−70−95不連続勾配法またはミニ勾配法で精液を調製した(Pure Sperm,Nidacon,Gothenburg)。得られたペレットをHamのF−10培地で洗浄した。正常な精液注入のために、各卵母細胞に50−100,000精子/mLを添加した。細胞質内注入(ICSI)を行ったときは、ヒアルロニダーゼ及び吸引ピペットを使用して卵母細胞を剥離した。成熟卵母細胞の各々を、15%のFCSを加えたリン酸塩緩衝生理食塩水の6μl液滴に入れた。パートナーの精子をPVP(IVF Sciences Scandinavian)の6μl液滴に入れた。全部の液滴をOvoil(IVF Sciences Scandinavian)で被覆した。ICSIは、Nikon倒立顕微鏡上でNarishigeマイクロマニピュレーターで行った。次に、注入した卵母細胞を洗浄し、受精を評価するまでG1.2を入れた管に維持した。精子注入またはICSIの15−18時間後に受精を評価した。27ゲージの使い捨て針で解剖して卵丘及びコロナ細胞を切除して器官培養皿に維持した。得られた2個の前核胚を十分に洗浄し、次いで2−3個のグループにして1mLのFalcon培養管に入れたG1.2培地中で5%COの空気中で培養した。
【0073】
48時間の培養後、胚を3回洗浄し、更に72時間培養した。6日目に、当業界で公知の従来の方法では凍結保存に十分な品質を有していないと考えられた胚盤胞、即ち、十分に膨張しないかまたは内部細胞塊の発生が不十分であった胚盤胞を本発明方法によってガラス化した。
【0074】
E.ループを使用するガラス化
ガラス化に使用したループは、クリオバイアルの蓋に挿入されたステンレススチール管に装着されたナイロンループ(20μm幅;0.5−0.7mm径)から構成されていた。ループを購入し(Hampton Research,Laguna Niguel,CA)、装着し、次いでバイアル内でエポキシ化した。蓋の金属インサートが存在するので、所望の場合にはループ操作用の小磁石の付いたハンドルを使用できる。
【0075】
凍結保護剤の2段階充填を使用して胚盤胞をガラス化した。最初に、胚盤胞を10%のDMSOと10%のエチレングリコールとを含有する凍結保護溶液Iに入れて2分間維持した。次いで、20%のDMSOと20%のエチレングリコールと10mg/mlのフィコール(分子量400,000)と0.65Mのショ糖とを含有する溶液IIに移してほぼ20秒間維持した。これらの凍結保護剤の濃度及び接触時間は、ループ手順を使用する齧歯類及び家畜の胚のガラス化に最適であることが予め証明されていた。胚盤胞を凍結保護溶液I中に維持している間に、ループを凍結保護溶液IIに浸してループに薄膜を形成する。次に胚盤胞を溶液IIからループ上の凍結保護剤の膜に移した。胚盤胞を含んだループを次にクリオバイアルに入れ、クリオバイアルを液体窒素に沈めて液体窒素で満たした。クリオバイアルを予め液体窒素に沈めておくことによって、液体窒素を含んでいるクリオバイアルに胚盤胞を含んだループを入れ、液体窒素下で1動作でシールすることが可能であった。バイアルを標準ケーンに保存した。
【0076】
ショ糖による2段階希釈を使用して胚盤胞を解凍した。クリオバイアルを液体窒素に沈めたままでバイアルを開き、胚盤胞を含んだループを液体窒素から取り出して、0.25Mのショ糖を含む基本培地のウェルに直接配置した。胚盤胞は直ちにループから解凍溶液中に落下した。2分後にこの溶液から胚盤胞を取り出し、0.125Mのショ糖を含む基本培地に移して更に3分間維持した。次いで、胚盤胞を基本培地で5分間を要して2回洗浄し、培養培地に戻した。
【0077】
ガラス化後、胚盤胞の発達を評価する前に、マウス及びヒトの胚盤胞をG2.2培地中で6時間培養して膨張の再開を評価した。移植前の解凍胚盤胞を評価するために使用される標準期間が6時間なので、6時間のインキュベーションを選択した。
【0078】
F.胚盤胞発達の評価
マウス及びヒトの胚盤胞の発達をその後の生存率のマーカーとして評価した。胚盤胞の付着及び発達を評価するために、10%胎児臍帯血清を加えたG2.2培地に胚盤胞を移した。500μlの液滴中の0.1%のゼラチンを予めコートした4ウェルのプレート(Nunclon,Denmark)中で胚盤胞を5%COの空気中で37℃で48時間培養した。24時間培養後に胚盤胞の孵化及び付着を評価し、更に24時間培養後に発達を評価した。内部細胞塊(ICM)及びトロフェクトデルムの発達を、発達の量に基づいて0−3のスコアで示した。Spindle and Pederson,J.Exp.Zool.,186:305−318(1972)に記載されているように、スコア0は発達が生じなかったことを示し、3は広範囲の発達を示す。
【0079】
G.マウスの胚盤胞生存率の評価
ガラス化後のマウス胚盤胞の生存率を偽妊娠レシピエントに移植することによって評価した。加温後、移植の前に、胚盤胞をG.2.2培地中で6時間培養した。6時間の期間後に膨張を再開した胚盤胞をプールし、移植する胚盤胞を無作為に選択した。各子宮ホルンに6個の胚盤胞を移植した。妊娠15日目に、着床、胎児の発生及び胎児の体重を評価した。対照には凍結保存しなかった胚盤胞を使用した。
【0080】
H.統計学的分析
ガラス化後の孵化、付着及び生存率の差異をYates補正を伴うχ(カイ2乗)分析によって評価した。ICM及びトロフェクトデルムの双方の発達データを先ずKolmogorov−Smirnovテストで処理してデータが正規であることを決定した。次にFテストを使用して2つのグループのデータが均等分散を有することを評価した。正規分散及び均等分散を確定した後で、スチューデントのt検定で発達の差異を評価した。
【実施例6】
【0081】
実施例6−マウス胚盤胞のガラス化
合計160個のマウスの胚盤胞を本発明のループを使用してガラス化した。ガラス化後、これらの胚盤胞の100%が培養中に膨張を再開できた。表4に示すように、培養中に孵化及び付着し得るガラス化胚盤胞の能力を対照胚に比較すると、差異は存在しなかった。同様に表4に示すように、培養中のICMまたはトロフェクトデルムの発達能力に関しても対照胚盤胞とガラス化胚盤胞との差はなかった。
【0082】
ガラス化及び解凍後、60個の胚盤胞を偽妊娠レシピエントに移植し、これらの胚盤胞の生存率を対照、即ち、凍結保存しなかった同胞の胚盤胞の生存率に比較した。着床し胎児に発生する能力に関してはガラス化した胚盤胞と対照胚盤胞との差はなかった。得られた胎児の体重の比較でもガラス化した胚盤胞(0.245±0.021g)は対照胚盤胞(0.250g±0.017g)と同等であった。ガラス化した胚盤胞と対照胚盤胞との双方から生じた全部の胎児が形態学的に正常であった。更に、(子宮ホルンあたり4個ずつの)8個のガラス化した胚盤胞が移植された雌のレシピエントが出産した。形態学的に正常な3匹の仔が誕生した。
【0083】
【表4】

【実施例7】
【0084】
実施例7−ヒト胚盤胞のガラス化
最小から半分までの範囲に膨張した18個のヒト胚盤胞を本発明方法でループを使用してガラス化した。そのうちの11個の胚盤胞(83.3%)が培養中に膨張を再開した。培養中の孵化とICM及びトロフェクトデルムの発達とに関しては表5に示すように、ガラス化した胚盤胞と凍結保存しなかった対照胚盤胞とが同様の能力を示した。
【0085】
【表5】

【実施例8】
【0086】
実施例8−8日目のウシ胚盤胞のガラス化
この実施例では以下の溶液を使用した:
凍結溶液:
溶液1:10%のエチレングリコールと10%のDMSOとを含有する基本培地(実施例1に教示);
溶液2:0.65Mのショ糖と20%のエチレングリコールと20%のDMSOと10mg/mlのフィコールとを含有する基本培地:
解凍溶液:
溶液1:0.25Mのショ糖を含む基本培地;
溶液2:0.125Mのショ糖を含む基本培地;
溶液3:基本培地;
溶液4:基本培地。
【0087】
実施例1に記載の方法でウシ胚盤胞を作製した。ガラス化に先立って全部の胚盤胞をある程度まで膨張させた。標準装置を使用し、凍結溶液2に浸しておいたループに胚盤胞をピペットで注入した。各ループが1個の胚盤胞を受容した。胚盤胞を含んだループを次に、凍結溶液1中で2分間処理し、次いで粘性フィコール溶液を含む凍結溶液2で30秒間処理し、直ちに液体窒素に直接浸漬させてガラス化した。胚盤胞を液体窒素中で30−90分間凍結保存し、次いで解凍した。
【0088】
胚盤胞を解凍するために、胚盤胞とガラス化胚盤胞を含んだループとを解凍溶液1−4の各々に順次5分間ずつ配置した。
【0089】
本発明方法によってガラス化し解凍した13個の胚盤胞のうち、9個の胚盤胞が48時間培養後に孵化した。
【0090】
第二セットの4個の胚盤胞を上述のようにガラス化し、解凍し、培養した。48時間培養後に4個の胚盤胞全部が孵化に成功した。
【0091】
第三セットの8日目のウシ胚盤胞を実施例1に記載の方法で作製した。合計12個の胚盤胞を使用し、各ループに2個の膨張胚盤胞を配置した。解凍プロセスを以下の計画で行った以外は上記と同じ手順で胚盤胞をガラス化し、解凍し、培養した。解凍プロセス:溶液1に2分間、溶液2に5分間、溶液3に5分間、及び、溶液4に5分間。48時間培養後、11個の胚盤胞が孵化した。
【実施例9】
【0092】
実施例9−9日目のウシ胚盤胞のガラス化
ウシ胚盤胞を実施例1に記載の方法で作製し、実施例8に記載の方法でガラス化した。次に実施例8に記載の方法で胚盤胞を解凍し、培養した。48時間後、80%の胚盤胞が孵化した。
【実施例10】
【0093】
実施例10−7日目のウシ胚盤胞のガラス化
7日目のウシ胚盤胞を実施例1に記載の方法で作製し、実施例1に記載のG1.2/G2.2を使用して培養した。合計20個の胚盤胞を実施例8に記載の方法でガラス化し、解凍し、ループあたり2−3個の胚盤胞にして2時間凍結した。次に実施例8に記載の方法で胚盤胞を解凍し、培養した。解凍した胚盤胞を48時間培養した後、20個のうちの15個の胚盤胞が孵化し、2個が膨張を再開した。
【0094】
7日目の胚盤胞について、ループあたり1−2個の胚盤胞にして上記の手順で第二の実験を実施した。48時間の培養後、33個のうちの29個のガラス化した胚盤胞が孵化した。
【実施例11】
【0095】
実施例11−ウシ卵母細胞のガラス化
この実施例では、本発明方法を使用するウシ卵母細胞のガラス化を、公知のオープンプルドストロー(OPS)法を使用してガラス化した卵母細胞及び凍結しなかった対照卵母細胞に比較した。実施例8に記載の溶液を使用し、ガラス化すべき卵母細胞を溶液1で35秒間処理し、次いで単独の溶液2または粘性溶液を加えた溶液2で30秒間処理した。次に卵母細胞を、ストローあたり1−3個、またはループあたり1−3個にして、液体窒素に浸漬させることによって凍結させた。ガラス化した後、全部の卵母細胞を実施例8の溶液を使用して以下の計画で解凍した:溶液1に1分間;溶液2に5分間;溶液3に5分間;及び溶液4に5分間。次に、ウシ卵母細胞を成熟培地に戻して2分間維持し、正常に受精させた。1日後、卵母細胞を実施例1のG1.2培地に移した。4日後、分割した胚を実施例1に記載の新しいG1.2培地に移した。対照卵母細胞は37.5%が分割を生じ、本発明方法でガラス化した卵母細胞は19%が分割を生じたが、OPS法を使用してガラス化した卵母細胞で分割を生じたのは14%であった。次に卵母細胞を新しいG2.2培地に移して更に4日間培養した。8日後、出発卵母細胞の表皮を剥離した24個の対照のうちの2個だけが桑実胚発生期に到達した。比較として本発明方法でガラス化した16個の卵母細胞のうちの3個が桑実胚発生期に到達した。比較としてOPS法を使用してガラス化した28個の卵母細胞で桑実胚発生期に到達したものはなく、OPS法の最も成功した唯一の例は16−32細胞期まで進行したが、このような卵母細胞は4個しか生存しなかった。
【実施例12】
【0096】
実施例12−マウス及びヒトの卵母細胞のガラス化方法及び材料
A.培養培地
胚の培養培地は5mg/mlのヒト血清アルブミンを加えたG1.2及びG2.2であった(Gardnerら,Hum.Reprod.13:3434−40(1998))。胚の採取及びガラス化用の培地はHEPES改質G1.2(H−G1.2)であり、凍結保存及び解凍用の基本培地は、20mMのNaHCOを20mMのHEPESで置換することによって培地を改質し、pH7.35に調整したEDTAを含まないHEPES緩衝改質G1.2であった。
【0097】
B.マウス
4−5週齢の雌のF1(C57BL6xCBa)マウスから卵母細胞を採取した。雌マウスを5iuの妊馬血清型ゴナドトロピン(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)で刺激し、53時間後に5iuのヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG;Sigma Chemical Co.)で刺激した。hCG注入の14時間後に卵母細胞を採取し、H−G1.2中で0.5mg/mlのヒアルロニダーゼと共に1分間未満のインキュベーションを行うことによって周囲の卵丘から剥離した。卵母細胞をH−G1.2中で2回洗浄し、精液注入するかまたは凍結保存した。
【0098】
C.ヒト卵母細胞の採取
Gardnerら,Hum.Reprod.13:3434−40(1998)に従って被験者を刺激して多数卵母細胞を産生させた。卵母細胞を卵胞から排出させ、G1.2培地に入れて4時間維持した。G1.2中でヒアルロニダーゼと共にインキュベーションすることによって卵母細胞を周囲の卵丘から剥離した。次に未成熟の卵母細胞を胎児臍帯血清を加えたG2.2中で24時間培養した。次に成熟したMII卵母細胞を対照またはループを使用するガラス化に配分した。
【0099】
D.マウス及びヒトの卵母細胞のループガラス化
凍結保護剤の2段階充填を使用して卵母細胞をガラス化した。最初に、卵母細胞を10%のDMSOと10%のエチレングリコールとを含有する凍結保護溶液Iに入れて1分間維持した。次いで、20%のDMSOと20%のエチレングリコールと10mg/mlのフィコール(分子量400,000)と0.65Mのショ糖とを含有する溶液IIに移してほぼ20秒間維持した。卵母細胞を次に、溶液IIに予め浸して薄膜を形成したループに移し、液体窒素に直接浸漬させた。クリオバイアルを液体窒素に予め沈めておくことによって、液体窒素を含んでいるクリオバイアルに卵母細胞を含んだループを入れ、液体窒素下で1動作でシールすることが可能であった。バイアルを標準ケーンに保存した。
【0100】
ショ糖による2段階希釈を使用して卵母細胞を解凍した。クリオバイアルを液体窒素に沈めたままでバイアルを開き、細胞を含んだループを液体窒素から取り出して、0.25Mのショ糖を含む基本培地のウェルに直接配置した。卵母細胞は直ちにループから解凍溶液中に落下した。2分後にこの溶液から卵母細胞を取り出し、0.125Mのショ糖を含む基本培地に移して更に3分間維持した。次いで、卵母細胞をH−G1.2培地で5分間を要して2回洗浄し、培養培地に戻した。
【0101】
E.マウス卵母細胞のin vitro受精及び胚培養
12−16週齢の雄のF1(C57BL6xCBa)マウスの精巣上体から精子を1mg/mlのグルタチオンと5mg/mlのHSA(Scandinavian IVF Sciences,Gothenburg,Sweden)を加えたFG1培地(Gardner and Lane,1997,Hum.Reprod.Update 3:367−382に記載)に吸引した。精子に受精能を獲得させるために精子注入に先立って精子を1.5時間処理した。卵母細胞に精子を注入する前に、Fertilase 670nmレーザー照準ビーム及び平行にした1.48μMレーザービーム(MTM Medical Technologies,Montreux,Switzerland)を使用して卵母細胞の帯層に小孔(5μM)を形成した。卵母細胞をFG1の100μl液滴に入れ、約1×10の精子と共に4時間コインキュベートした。卵母細胞を2回洗浄し、G1.2の20μlの液滴に入れ、6%CO、5%O及び89%N中、37℃で培養した。翌朝、2細胞胚の存在によって受精を評価した。全部の2細胞を新しいG1.2液滴に移した。48時間の培養後、胚をG2.2で十分に洗浄し、G2.2培地中で更に48時間、胚盤胞期まで培養した。
【0102】
F.ヒト卵母細胞の生存検定
ヒト卵母細胞の生存性を色素排除により評価した。卵母細胞を25μg/ml ヨウ化プロピジウムを含有するH−GI.2に10分間置き、次いでH−GI.2中5分間洗浄した。ガラス化法で生存できなかった卵母細胞は核物質染色で陽性であるが、生存卵母細胞は染色されない。
【0103】
G.統計分析
直線ロジスティック回帰を用いて処置間の発生の差異を評価し、この場合分布は二項式であった(グリム4.0、ニューメリカル・アルゴリズム・グループ、オックスフォード、英国)。実験日は因子として適合させた。分散分析とガウス正規化の両方を用いて細胞数の差を評価し、分散を確認した。多重比較用のボンフェロニ法により処置間の多重比較を評価した。
【実施例13】
【0104】
実施例13 低温保存後のマウス卵母細胞の培養における発生
表6に示すように、本発明の方法を用いてガラス化した卵母細胞では低速凍結法を用いて低温保存した卵母細胞と比較して生存率は有意に高かった。同様に、表6に示すように、本発明の方法を用いてガラス化した卵母細胞では低速凍結法と比較して受精率は有意に高かった。表6に示すように、本発明の方法を用いてガラス化した卵母細胞では受精率は授精した対照の新鮮卵母細胞と同等である。表6に示すように、低速凍結法を用いて低温保存した卵母細胞では受精率は有意に低かった。凍結しなかった対照の胚は全卵母細胞から70.0%、または二細胞胚から95.4%の率で胚盤胞段階まで発生した。表6に示すように、ループを用いてガラス化した卵母細胞からの胚盤胞発生率は対照卵母細胞と比較して差はなかった。対照的に、表6に示すように、低速凍結により低温保存した卵母細胞では全卵母細胞から、または二細胞胚からの胚盤胞発生率は有意に低下した。
【0105】
【表6】

【実施例14】
【0106】
実施例14 低温保存後のマウス卵母細胞のその後の生存性
新鮮かまたは低温保存した卵母細胞のいずれかから誘導した胚盤胞(本発明の方法によるガラス化かまたは低速凍結のいずれかによる)を偽妊娠受体に移し、着床させ、胎児の生育を評価し、その結果を表7に示す。本発明の方法を用いてガラス化した卵母細胞から誘導した胚盤胞では着床率は新鮮な卵母細胞と類似したが、胎児の生育はわずかに低下した。対照的に、低速凍結法を用いて凍結した卵母細胞では対照卵母細胞または本発明の方法を用いてガラス化した卵母細胞のいずれかと比較して、着床率および胎児生育率が有意に低下した。さらに、2匹の雌の各々にガラス化した卵母細胞から得られた8個の胚盤胞を移し同腹子にした。これらの雌から11匹の仔が生まれ(7匹および4匹)、全て形態学的に正常で繁殖力のある成熟マウスに生育した。生まれた11匹の仔のうち、8匹は雌で3匹は雄であった。
【0107】
【表7】

【実施例15】
【0108】
実施例15 低温保存後のヒト卵母細胞の生存率
本発明の方法によりガラス化した後、ヒト卵母細胞の生存性を評価した。表8に示すように高い生存率が観察された。
【0109】
【表8】

【0110】
実施例16 マウスの卵割段階の胚のガラス化
実施例1に記載の方法により胚を収集した。収集後すぐにループを用いて一細胚盤胞をガラス化し、一方実施例1に記載の方法により培養して24時間後に二細胞胚が得られた。
【0111】
実施例12に記載の方法によりループを用いて一細胞胚および二細胞胚をガラス化した。低温保存しなかった新鮮な胚と比較して、培養においてマウス一細胞または二細胞胚の胚盤胞段階への生育能力に差異はなかった。得られた結果を表9に示す。
【0112】
【表9】

【0113】
実施例17 本発明を用いるマウス精子のガラス化
実施例12に記載の方法により成熟マウス精子を収集した。
【0114】
10% DMSOおよび10% エチレングリコールを含有する凍結防止剤溶液I1μl滴をペトリ皿の蓋に載せた。精液1μlを溶液Iの滴に加えた。20秒後、20% DMSOおよび20% エチレングリコール、10mg/ml フィコール(分子量400000)および0.65M スクロースを含有する溶液II 1μlを加え、全滴を液体窒素に突っ込んだループに置いた。解凍するためにループを0.25M スクロースを含有する基本培地20μl中に30秒間置き、さらに1分間、基本培地20μlを滴に加えた時、最後に基本培地2mlを加えた。この手順の後、運動性より生存精子を決定した。
【0115】
以下は、本発明を説明するための実施態様の一覧である。
【0116】
(a)生物学的標本を移動用器具に置くこと;
(b)移動用器具および生物学的標本を直接凍結物質の中に置くこと;
からなる生物学的標本のガラス化方法であって、ここで生物学的標本を直接凍結物質に暴露し、それによりガラス化し、さらに生物学的標本を解凍した後、生物学的標本が生存しているガラス化方法。
【0117】
生物学的標本を胚、精子、卵母細胞、胚盤胞および桑実胚からなる群から選択する[0116]段落に記載の生物学的標本のガラス化方法。
【0118】
移動用器具をループ、ネットおよびヘラからなる群から選択する[0116]段落に記載の生物学的標本のガラス化方法。
【0119】
(a)がさらに:
(i)ガラス化の前に凍結防止剤で生物学的標本を処置すること;
を含んでなる[0116]段落に記載の生物学的標本のガラス化方法。
【0120】
さらに:
(c)ガラス化した生物学的標本を解凍すること;
を含んでなる[0116]段落に記載の生物学的標本のガラス化方法。
【0121】
(b)がさらに:
(i)ガラス化した生物学的標本を凍結物質が含まれている保存用コンテナに移すこと;および
(ii)ガラス化した生物学的標本を解凍しようとするときまでガラス化した生物学的標本を含む保存用コンテナを保存すること;
を含んでなる[0116]段落に記載の生物学的標本のガラス化方法。
【0122】
(c)がさらに:
(i)凍結物質から生物学的標本を除去すること;および
(ii)生物学的標本を解凍溶液中に置くこと;
を含んでなる[0120]段落に記載の生物学的標本のガラス化方法。
【0123】
解凍溶液が培養皿に含まれることを特徴とする[0122]段落に記載の生物学的標本のガラス化方法。
【0124】
解凍溶液がストロー内に含まれることを特徴とする[0122]段落に記載の生物学的標本のガラス化方法。
【0125】
(a)がさらに:
(i)基本培地に生物学的標本を置くこと;
を含んでなり、ここで生物学的標本を胚、卵母細胞、精子、胚盤胞および桑実胚からなる群から選択し、移動用器具をループ、ネットおよびヘラからなる群から選択し、(b)がさらに:
(i)生物学的標本を含む移動用器具を凍結物質内に置くことであって、ここで凍結物質をコンテナ内に配置して生物学的標本をガラス化し:および
(ii)凍結物質、移動用器具および生物学的標本を含むコンテナに封をすること;
を含んでなる[0116]段落に記載の生物学的標本のガラス化方法。
【0126】
基本培地が凍結保護剤および粘性増強化合物からなる群から選択する一つまたはそれ以上の成分を含んでなる[0125]段落に記載の生物学的標本のガラス化方法。
【0127】
さらに:
(c)ガラス化した生物学的標本を解凍すること;
を含んでなる[0125]段落に記載の生物学的標本のガラス化方法。
【0128】
(c)がさらに:
(i)凍結物質から生物学的標本を除去すること;および
(ii)生物学的標本を解凍溶液中に置くこと;
を含んでなる[0127]段落に記載の生物学的標本のガラス化方法。
【0129】
解凍溶液が培養皿に含まれることを特徴とする[0127]段落に記載の生物学的標本のガラス化方法。
【0130】
解凍溶液がストロー内に含まれることを特徴とする[0127]段落に記載の生物学的標本のガラス化方法。
【0131】
[0116]段落に記載の方法でガラス化を行った生物学的標本。
【0132】
[0126]段落に記載の方法でガラス化を行った生物学的標本。
【0133】
(a)胚、卵母細胞、精子、胚盤胞および桑実胚から選択される生物学的標本を基本培地に置くこと;
(b)生物学的標本をコンテナ内に配置した凍結物質内に移動させるための移動用器具を用いて、生物学的標本を凍結物質に直接暴露し、ガラス化を行うこと;
(c)凍結物質、移動用器具および生物学的標本を含むコンテナに封をすること;
(d)封をしたコンテナを保存に供すること;
(e)封をしたコンテナから生物学的標本を除去すること;および
(f)生物学的標本を解凍溶液中に置くこと;
からなる生物学的標本のガラス化方法。
【0134】
移動用器具がループであることを特徴とする[0133]段落に記載の生物学的標本のガラス化方法。
【0135】
(a)一つまたはそれ以上の発生細胞を直接凍結物質中に置いて、各発生細胞を直接凍結物質に暴露し、それによりガラス化を行うことを含んでなり、ガラス化発生細胞を解凍し、培養し、適当な宿主生物に着床させると、ガラス化を行わなかった発生細胞の受精率に等しい受精率が得られることを特徴とする
発生細胞のガラス化方法。
【0136】
発生細胞を胚、精子、卵母細胞、桑実胚および胚盤胞からなる群から選択することを特徴とする[0135]段落に記載の発生細胞のガラス化方法。
【0137】
ループを利用して発生細胞を凍結物質中に運ぶことを特徴とする[0136]段落に記載の発生細胞のガラス化方法。
【0138】
(a)がさらに:
(i)ガラス化の前に凍結防止剤で生物学的標本を処置すること;
を含んでなる[0136]段落に記載の発生細胞のガラス化方法。
【0139】
(a)一つまたはそれ以上の胚盤胞または卵割段階にある胚を直接凍結物質中に置いて、各胚盤胞または卵割段階にある胚を直接凍結物質に暴露し、それによりガラス化を行うことを含んでなり、ここで解凍および培養の後少なくとも80%のガラス化した胚盤胞または卵割段階にある胚が生存していることを特徴とする哺乳動物の胚盤胞または卵割段階にある胚のガラス化方法。
【0140】
解凍および培養の後、少なくとも90%のガラス化した胚盤胞または卵割段階にある胚が生存していることを特徴とする[0139]段落に記載の哺乳動物の胚盤胞または卵割段階にある胚のガラス化方法。
【0141】
ループを利用して胚盤胞または卵割段階にある胚を凍結物質に運ぶことを特徴とする[0139]段落に記載の哺乳動物の胚盤胞または卵割段階にある胚のガラス化方法。
【0142】
(a)がさらに:
(i)ガラス化の前に凍結防止剤で胚盤胞または卵割段階にある胚を処置すること;
を含んでなる[0139]段落に記載の哺乳動物の胚盤胞または卵割段階にある胚のガラス化方法。
【0143】
哺乳動物をヒト、齧歯類およびウシからなる群から選択することを特徴とする[0139]段落に記載の方法。
【0144】
(a)一つまたはそれ以上の胚を直接凍結物質中に置いて、各胚を直接凍結物質に暴露し、それによりガラス化を行うことを含んでなり、ここで解凍および培養の後、少なくとも25%のガラス化した胚盤胞または卵割段階にある胚が生存していることを特徴とする
ウマの胚またはブタの胚のガラス化方法。
【0145】
解凍および培養の後、少なくとも50%のガラス化した胚が生存していることを特徴とする[0144]段落に記載のウマの胚またはブタの胚のガラス化方法。
【0146】
ループを利用して胚を凍結物質に運ぶことを特徴とする[0144]段落に記載のウマの胚またはブタの胚のガラス化方法。
【0147】
(a)がさらに:
ガラス化の前に凍結防止剤で胚を処置すること;
を含んでなる[0144]段落に記載のウマの胚またはブタの胚のガラス化方法。
【0148】
(a)基本培地;
(b)生物学的標本を直接凍結物質に暴露する生物学的標本をガラス化するための指示;
(c)ループ;および
(d)バイアル、ここでバイアルはガラス化した生物学的標本を含有するループを保存するのに適当な大きさおよび形状である;
からなる生物学的標本をガラス化するためのキット。
【0149】
さらに:
(e)凍結保護剤;
を含んでなる[0148]段落に記載の生物学的標本をガラス化するためのキット。
【0150】
本発明は本明細書に説明のために前記した特定の実施態様に限定されるものではないが、以下の請求の範囲内にあるそれのかかる修飾形態はすべて包含されることは理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】本発明による生体試料ガラス化方法を説明する模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)移動用器具;(b)凍結防止(保護)剤を含む培地の薄膜であり、薄膜は培地と移動用器具の間の付着力により保持される;および(c)薄膜に保持された1または2以上の発生細胞を含む、発生細胞をガラス化するためのシステム。
【請求項2】
移動用器具が薄膜を取り囲む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
移動用器具がループである、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
発生細胞が卵母細胞、桑実胚、胚盤胞、または胚を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
a)発生細胞を移動用器具上に配置し、ここで移動用器具は、薄膜と移動用器具の間の付着力により保持された薄膜中に発生細胞を保持するものであり;b)発生細胞をガラス化することを含む、発生細胞のガラス化方法。
【請求項6】
発生細胞が卵母細胞、桑実胚、胚盤胞、または胚を含む、請求項5に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−126471(P2007−126471A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−340830(P2006−340830)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【分割の表示】特願2000−575362(P2000−575362)の分割
【原出願日】平成11年10月13日(1999.10.13)
【出願人】(501151399)
【出願人】(501151403)
【Fターム(参考)】