説明

生体試料中の測定対象物質の測定方法及び測定試薬、ヘモグロビンの影響回避方法、並びにヘモグロビンの影響回避剤

【課題】本発明の課題は、生体試料中のヘモグロビンの影響を回避し、生体試料中の測定対象物質の濃度を正確に測定することが出来る測定方法及び測定試薬を提供することである。
また、本発明の課題は、ヘモグロビンの影響を回避する方法を提供することであり、ヘモグロビンの影響回避剤を提供することである。
【解決手段】本発明は、生体試料中の測定対象物質の測定において、ヘモグロビンの影響回避剤として、酸化剤、並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を測定反応液中に共存又は含有させることを特徴とする生体試料中の測定対象物質の測定方法及び測定試薬である。
また、本発明は、生体試料中の測定対象物質の測定方法において、酸化剤、並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩の共存下で測定を行うことにより、ヘモグロビンの影響を回避する方法である。
更に、本発明は、酸化剤、並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩よりなる、生体試料中の測定対象物質測定時のヘモグロビンの影響回避剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中の測定対象物質の測定方法及び測定試薬、ヘモグロビンの影響回避方法、生体試料中の測定対象物質測定時のヘモグロビンの影響回避剤に関するものである。
本発明は、特に、化学、生命科学、分析化学及び臨床検査等の分野において有用なものである。
【背景技術】
【0002】
血液等の生体試料中の測定対象物質を測定し、その変動を見ることは、疾患の診断、治療、早期発見や予防に不可欠であり、広く実施されている。この生体試料中の測定対象物質の測定には、化学分析法、機器分析法、免疫学的測定法等があり、呈色反応を利用して測定対象物質を定量する比色測定法が最も一般的に利用されている。この比色測定法としては、酵素を使用する酵素的測定法、又は化学的反応を使用する方法等を挙げることができる。
【0003】
しかしながら、これら比色測定法による生体試料中の測定対象物質の測定においては、生体試料に含まれる種々の還元物質、薬剤、生体色素等により、影響を受け易いことも知られている。これらの影響を与える物質の中でも、ヘモグロビンは、測定試薬中の成分等によって酸化することにより、ヘモグロビン自体の吸収波長の変化が起こり、生体試料中の測定対象物質の測定値に誤差を与えてしまうことが広く知られていた。
【0004】
この生体試料中のヘモグロビンの影響を回避する方法としては、例えば、界面活性剤を使用する方法(例えば、特許文献1参照。)、チオ尿素を使用する方法(例えば、特許文献2参照。)等が提案されているが、必ずしも完全とは言えなかった。
【0005】
【特許文献1】 特開昭60−168050号公報
【特許文献2】 特公平6−12998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、生体試料中のヘモグロビンの影響を回避し、生体試料中の測定対象物質の濃度を正確に測定することが出来る測定方法及び測定試薬を提供することである。
また、本発明の課題は、ヘモグロビンの影響を回避する方法を提供することであり、ヘモグロビンの影響回避剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題の解決を目指して鋭意検討を行った結果、生体試料中の測定対象物質の測定方法及び測定試薬において、酸化剤、並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を存在又は含有させることにより、生体試料中のヘモグロビンの影響を回避し、生体試料中の測定対象物質の濃度を正確に測定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明を提供する。
(1) 生体試料中の測定対象物質の測定方法において、酸化剤、並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を、測定反応液中に存在させることを特徴とする、生体試料中の測定対象物質の測定方法。
(2) 酸化剤が、亜硝酸、テトラゾリウム類、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェイト、フェロシアン化物、フェリシアン化物又はチオサリチル酸あるいはこれらの塩から選択された1種以上の物質である、前記(1)記載の生体試料中の測定対象物質の測定方法。
(3) 酸化剤、並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を、ヘモグロビンの影響回避剤として存在させる、前記(1)又は(2)記載の生体試料中の測定対象物質の測定方法。
(4) 生体試料中の測定対象物質の測定試薬において、ヘモグロビンの影響回避剤として、酸化剤、並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を含有させることを特徴とする、生体試料中の測定対象物質の測定試薬。
(5) 酸化剤が、亜硝酸、テトラゾリウム類、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェイト、フェロシアン化物、フェリシアン化物又はチオサリチル酸あるいはこれらの塩から選択された1種以上の物質である、前記(4)記載の生体試料中の測定対象物質の測定試薬。
(6) 生体試料中の測定対象物質の測定方法において、酸化剤、並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩の存在下で測定を行うことにより、ヘモグロビンの影響を回避する方法。
(7) 酸化剤が、亜硝酸、テトラゾリウム類、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェイト、フェロシアン化物、フェリシアン化物又はチオサリチル酸あるいはこれらの塩から選択された1種以上の物質であることを特徴とする、前記(6)記載のヘモグロビンの影響を回避する方法
(8) 酸化剤、並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩よりなる、生体試料中の測定対象物質測定時のヘモグロビンの影響回避剤。
(9) 酸化剤が、亜硝酸、テトラゾリウム類、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェイト、フェロシアン化物、フェリシアン化物又はチオサリチル酸あるいはこれらの塩から選択された1種以上の物質であることを特徴とする、前記(8)記載のヘモグロビンの影響回避剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生体試料中の測定対象物質の測定において、ヘモグロビンの影響回避剤として、酸化剤並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を、測定反応液中又は測定試薬中に存在又は含有させることにより、生体試料中のヘモグロビンの影響を回避し、測定対象物質の濃度を正確に測定することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、生体試料中の測定対象物質の測定において、ヘモグロビンの影響回避剤として、酸化剤並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を、測定反応液中又は測定試薬中に存在又は含有させることを特徴とする生体試料中の測定対象物質の測定方法及び測定試薬、生体試料中の測定対象物質の測定方法において、酸化剤並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩の存在下で測定を行うことにより、ヘモグロビンの影響を回避する方法、酸化剤並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩よりなる、生体試料中の測定対象物質測定時のヘモグロビンの影響回避剤である。
【0011】
(1) 酸化剤
本発明においては、ヘモグロビンの影響回避剤として、酸化剤並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を、測定反応液中又は測定試薬中に存在又は含有させることにより、生体試料中の測定対象物質の測定を行う。
ここで、酸化剤とは、生体試料中に含まれるヘモグロビンを酸化できるもの、すなわち、ヘモグロビン中の2価の鉄イオンを3価に変えることができるものをいう。
本発明における酸化剤としては、例えば、亜硝酸、テトラゾリウム類、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェイト、フェロシアン化物、フェリシアン化物又はチオサリチル酸あるいはこれらの塩等を挙げることができる。
なお、テトラゾリウム類又はその塩としては、例えば、テトラゾリウムブルー〔TB〕、ニトロテトラゾリウムブルー〔ニトロ−TB〕、テトラゾリウムバイオレット〔TV〕、ニトロブルーテトラゾリウム〔NBT〕、3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニル−2Hテトラゾリウム〔MTT〕、2−(4−ヨードフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルフェニル)−2H−テトラゾリウム塩〔WST−1〕、2−(4−ヨードフェニル)−3−(2,4−ジニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルフェニル)−2H−テトラゾリウム塩〔WST−3〕、2−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルフェニル)−2H−テトラゾリウム塩〔WST−8〕、2,3,5−トリフェニルテトラゾリウム、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−フェニル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルフォフェニル)−2H−テトラゾリウム塩〔MTS〕等の公知のものを挙げることができる。
また、フェロシアン化物としては、例えば、フェロシアン化カリウム、フェロシアン化ナトリウム等を挙げることができる。
更に、フェリシアン化物としては、例えば、フェリシアン化カリウム、フェリシアン化ナトリウム等を挙げることができる。
【0012】
本発明において、酸化剤は、市販品をそのまま用いることができる。また、酸化剤の濃度は、生体試料中に含まれるヘモグロビンを酸化できる範囲であればよく、生体試料と測定試薬を混合した後の測定反応液中において、0.05〜5%の範囲にあることが好ましく、0.1〜1.0%の範囲が特に好ましい。また、酸化剤の濃度は、5%を超えて含有させても問題はないが、その濃度までで充分な効果が得られる。前記の酸化剤は単独で用いてもよいし、複数の酸化剤を併用してもよい。また、複数の酸化剤を併用する場合には、両者を併せた濃度が上記の濃度範囲であればよい。
【0013】
また、本発明の測定方法及び測定試薬が1ステップ法(1試薬系)である場合は、酸化剤の濃度は、上記の範囲のものとすればよく、2ステップ法(2試薬系)以上の複数ステップ法(複数試薬系)である場合には、測定対象物質を測定する際の各々の添加量の比で混合した時に、この混合後の測定反応液中の酸化剤の濃度が上記の範囲となるように、酸化剤の濃度を定めればよい。例えば、2ステップ法(2試薬系)の場合、混合後の測定反応液中の酸化剤の濃度が上記濃度範囲に入るのであれば、酸化剤は第1試薬と第2試薬の両方に含有させてもよい。なお、ヘモグロビンの吸収波長の変化の速度を速め、この変化を短時間の内に終了させるためには、酸化剤を第1試薬に含有させることが好ましい。
【0014】
(2) イミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩
本発明においては、ヘモグロビンの影響回避剤として、酸化剤に加えてイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を、測定反応液中又は測定試薬中に存在又は含有させることにより、生体試料中の測定対象物質の測定を行う。
ここで、イミダゾール又はその誘導体としては、イミダゾール骨格を持つ化合物であればよく、例えば、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1−プロピルイミダゾール、1−ブチルイミダゾール、1−フェニルイミダゾール、1−ビニルイミダゾール、1−アリルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フォルミルイミダゾール、1−ベンジル−4−ヒドロキシメチルイミダゾール、1−ベンジル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、1−(2−ヒドロキシエチル)−イミダゾール、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、2−ブチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フォルミルイミダゾール、2−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−メチル−1−ビニルイミダゾール、2−ブチル−4−フォルミルイミダゾール、2−ブチル−4−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−ブチル−4−クロロ−5−フォルミルイミダゾール、2−ヒドロキシメチル−1−ベンジルイミダゾール、2−ヒドロキシメチル−2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、4−ブチルイミダゾール、4−フォルミルイミダゾール、4−フォルミル−1−メチルイミダゾール、4−フォルミル−1−トリシルイミダゾール、5−フォルミル−1−メチルイミダゾール、4−フォルミル−5−メチルイミダゾール、4−ヒドロキシメチルイミダゾールヒドロクロライド、メチルイミダゾール−4−カルボキシレート、エチルイミダゾール−4−カルボキシレート、1,2−ジメチルイミダゾール、又は1,2,4−トリメチルイミダゾール等の公知のものを挙げることができる。
【0015】
本発明において、イミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩は、市販品をそのまま用いることができる。また、イミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩の濃度は、生体試料と測定試薬を混合した後の測定反応液中において、10〜500mMの範囲にあることが好ましく、50〜200mMの範囲が特に好ましい。また、イミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩の濃度は、500mMを超えて含有させても問題はないが、その濃度までで充分な効果が得られる。更に、前記のイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩は単独で用いてもよいし、複数のイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を併用してもよい。また、複数のイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を併用する場合には、両者を併せた濃度が上記の濃度範囲であればよい。
【0016】
また、本発明の測定方法及び測定試薬が1ステップ法(1試薬系)である場合は、イミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩の濃度は、上記の範囲のものとすればよく、2ステップ法(2試薬系)以上の複数ステップ法(複数試薬系)である場合には、測定対象物質を測定する際の各々の添加量の比で混合した時に、この混合後の測定反応液中のイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩の濃度が上記の範囲となるように、イミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩の濃度を定めればよい。例えば、2ステップ法(2試薬系)の場合、混合後の測定反応液中のイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩の濃度が上記濃度範囲に入るのであれば、イミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩は第1試薬と第2試薬の両方に含有させてもよい。なお、ヘモグロビンの吸収波長の変化の速度を速め、この変化を短時間の内に終了させるためには、イミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を第1試薬に含有させることが好ましい。
【0017】
酸化剤を用いてヘモグロビンを酸化することは、既に知られているが、本発明者らは、酸化剤とともに、イミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を併用すると、酸化剤とイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩が相乗的に作用し、ヘモグロビンの酸化速度を向上させることを見つけ出した。
すなわち、酸化剤のみを測定反応液中又は測定試薬中に存在又は含有させた場合は、ヘモグロビンの酸化がゆっくりと進むため、測定反応中もヘモグロビンの吸収波長の変化が継続して起きてしまい、測定値への誤差が生じてしまう。しかしながら、本発明のように、酸化剤とともにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を、測定反応液中又は測定試薬中に存在又は含有させた場合には、この酸化剤とイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩の作用により、生体試料中に含まれるヘモグロビンが急速に酸化される。すなわち、生体試料中に含まれるヘモグロビンの吸収波長の変化の速度を速め、この変化を短時間のうちに完全に終了させることができるため、ヘモグロビンの酸化による吸収波長の変化により、生体試料中の測定対象物質の測定値に誤差を与えてしまうという問題点を解消することができる。
【0018】
(3) 測定における他の構成成分
本発明においては、前記の成分の他に、測定反応に使用する成分、測定反応を触媒する酵素、基質、色素、公知の防腐剤、又は安定化剤等を必要に応じて適宜使用することができる。
【0019】
(4) 測定時のpH
本発明において、生体試料中の測定対象物質測定時のpH範囲は、通常の比色測定で使用する酵素や色素等により適宜設定すればよい。
また、前記のpH範囲となるように使用する緩衝液としては、前記のpH範囲に緩衝能がある従来公知の緩衝液を適宜使用することができる。
このような緩衝液として使用できるものとしては、例えば、リン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、グリシルグリシン、MES、Bis−Tris、ADA、ACES、Bis−Trisプロパン、PIPES、MOPSO、MOPS、BES、HEPES、TES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPS、HEPPSO、Tricine、Bicine、TAPS、CHES、CAPSO、若しくはCAPS又はこれらの塩等の各緩衝剤を挙げることができる。
【0020】
(5) 試薬等の構成、及び構成成分の濃度等
本発明の測定方法及び測定試薬は、1ステップ法(1試薬系)で実施、構成してもよく、又は2ステップ(2試薬)以上の複数ステップ法(複数試薬系)で実施、構成してもよい。
また、本発明の測定方法及び測定試薬が1ステップ法(1試薬系)である場合は、前記した各構成成分の濃度、及びpH等は前記の範囲のものとすればよく、複数ステップ法(複数試薬系)である場合には、前記構成成分を測定対象物質を測定する際の各々の添加量の比で混合した時に、前記した各構成成分の濃度範囲、及びpH範囲等となるように各試薬の構成成分の濃度等を定めればよい。
【0021】
(6) 生体試料
本発明において、生体試料とは、生体試料中の測定対象物質の測定を行おうとするもののことであり、このようなものであれば特に限定されない。
このような生体試料としては、例えば、ヒト又は動物の血液、血清、血漿、尿、大便、精液、髄液、唾液、汗、涙、腹水、羊水、脳等の臓器、毛髪や皮膚や爪や筋肉若しくは神経等の組織及び細胞等の抽出液等が挙げられる。
【0022】
(7) 測定対象物質
本発明において、測定対象物質は、比色測定により測定することができる物質であれば、特に限定されないが、例えば、胆汁酸、ブドウ糖、トリグリセライド、リン脂質、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、遊離脂肪酸、リポプロテイン(a)、尿素窒素、尿酸、総蛋白質、アラニンアミノトランスフェラーゼ、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、コリンエステラーゼ、又はクレアチニン等を挙げることができる。
【0023】
(8) 測定対象物質の測定方法又は測定試薬
本発明は、ヘモグロビンの影響を受ける測定方法又は測定試薬であれば、どんな測定原理のものにでも使用することができる。例えば、比色測定方法である、酵素を使用する酵素的測定法(酵素的測定試薬)、又は化学的反応を使用する測定法(測定試薬)等のいずれにも使用することができる。
なお、テトラゾリウム類の存在下に、電子受容体を作用させ、生成するホルマザン色素を比色測定する方法の場合は、酸化剤として亜硝酸塩を使用することが好ましい。
本発明の酸化剤並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を測定反応液中に存在させた、生体試料中の測定対象物質の測定方法について、具体的に説明する。
生体試料中の測定対象物質を測定する場合には、例えば、生体試料と酸化剤並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を含有する試薬とを混合する。この生体試料と試薬との混合物を、発色剤を含有する試薬と混合し、生体試料中の測定対象物質と発色剤を発色反応させる。この発色前後の反応液の吸光度を測定し、発色による吸光度の変化量を求めること等により、生体試料中の測定対象物質の濃度を測定することができる。
なお、測定は、レートアッセイ法及びエンドポイント法のいずれの方法でも行うことができる。
【0024】
(9) 生体試料中に含まれるヘモグロビンによる影響を回避する方法
本発明における、生体試料中に含まれるヘモグロビンによる影響を回避する方法は、生体試料中の測定対象物質の測定方法において、酸化剤、並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩の存在下で測定を行うことによるものである。
この生体試料中の測定対象物質の測定方法において、酸化剤、並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩の存在下で測定を行うことにより、生体試料中にヘモグロビンが混在している場合であっても、このヘモグロビンによる測定値への誤差が生じることを回避でき、精度が高い測定対象物質の測定値を得ることができる。
また、本発明における生体試料中のヘモグロビンによる誤差を回避する方法を実施する際の試薬の構成成分や生体試料や条件等は、前記した通りである。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
〔実施例1〕
(ヘモグロビンの吸収変化の確認−1)
酸化剤である、亜硝酸ナトリウム又は1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェイト(1−PMS)、並びにイミダゾールを用いて、ヘモグロビンの吸収変化を確かめた。
【0027】
1. 試薬の調製
(1)試薬Aの調製
下記の試薬成分を記載の濃度になるように純水に溶解し、pH7.4(20℃)に調整し、試薬Aを調製した。
PIPES 100mM
【0028】
(2)試薬Bの調製
下記の試薬成分をそれぞれ記載の濃度になるように純水に溶解し、pH7.4(20℃)に調整し、試薬Bを調製した。
PIPES 100mM
亜硝酸ナトリウム 0.2%
【0029】
(3)試薬Cの調製
下記の試薬成分をそれぞれ記載の濃度になるように純水に溶解し、pH7.4(20℃)に調整し、試薬Cを調製した。
PIPES 100mM
亜硝酸ナトリウム 0.2%
イミダゾール 100mM
【0030】
(4)試薬Dの調製
下記の試薬成分をそれぞれ記載の濃度になるように純水に溶解し、pH7.4(20℃)に調整し、試薬Dを調製した。
PIPES 100mM
1−PMS 5μM
【0031】
(5)試薬Eの調製
下記の試薬成分をそれぞれ記載の濃度になるように純水に溶解し、pH7.4(20℃)に調整し、試薬Eを調製した。
PIPES 100mM
1−PMS 5μM
イミダゾール 100mM
【0032】
(6)試薬Fの調製
下記の試薬成分をそれぞれ記載の濃度になるように純水に溶解し、pH7.4(20℃)に調整し、試薬Fを調製した。
PIPES 100mM
イミダゾール 100mM
【0033】
2. 試料の調製
1000mg/dL濃度のヘモグロビン溶液を試料とした。
【0034】
3. 試料の測定
前記2の試料を用いて、波長450nm〜700nmにおけるヘモグロビンの吸光度変化を測定した。
ヘモグロビンの測定は、日本分光社製VJ60分光光度計にて行い、前記2で調製した試料の80μLに各々前記1の(1)で調製した試薬A1.6mLを添加して、混和後、波長450nm〜700nmにおける、2分後、4分後、6分後の吸光度を測定した。
また、試薬を前記1の(2)〜(6)で調製した試薬(B〜F)に変えて同様に測定を行った。
【0035】
4. 測定結果
試薬A〜Fを用いて試料を測定した結果をそれぞれ図1〜図6に示した。図2及び図4から明らかなように、試薬に酸化剤である亜硝酸ナトリウム又は1−PMSとPIPESのみを含有させた試薬B又は試薬Dを用いた場合は、ヘモグロビンの吸光度が測定開始以降継続的に変化していることが分かる。これに対して、酸化剤とともに、イミダゾールを含有させた試薬C又は試薬Eを用いた場合は、ヘモグロビンの吸光度は測定開始2分経過以降は殆ど変化していないことが分かる(図3及び図5)。
また、図6から明らかなように、イミダゾールとPIPESのみを含有させた試薬Fを用いた場合は、酸化剤及びイミダゾール無添加試薬である試薬Aを用いた場合(図1)と同様に、ヘモグロビンの吸光度にほとんど変化は見られなかった。
【0036】
これらの結果から、酸化剤とともに、イミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を併用することにより、酸化剤とイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩が相乗的に作用し、ヘモグロビンの吸収波長の変化の速度を速め、この変化を短時間のうちに完全に終了できていることが分かる。
つまり、ヘモグロビンを短時間に完全に酸化させるためには、酸化剤のみではなく、イミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を併用することが必要であることが確かめられた。
【0037】
〔実施例2〕
(試料中の胆汁酸濃度の測定)
亜硝酸ナトリウム(酸化剤)、及びイミダゾールを用いて、試料中の胆汁酸濃度を測定した。
【0038】
1. 測定試薬の調製
(1)胆汁酸測定用第1試薬の調製
下記の試薬成分をそれぞれ記載の濃度になるように純水に溶解し、pHを7.4(20℃)に調整し、亜硝酸ナトリウム及びイミダゾール濃度の異なる10種類の胆汁酸測定用第1試薬を調製した。
亜硝酸ナトリウム 0%、0.05%、0.1%、0.2%、又は0.5%
イミダゾール 0mM、又は100mM
PIPES 100mM
ホウ酸 200mM
ピルビン酸 10mM
オクタン酸 6mM
トライトンX−100 0.2%
【0039】
(2)胆汁酸測定用第2試薬の調製
下記の試薬成分をそれぞれ記載の濃度になるように純水に溶解し、pHを3.0(20°C)に調整し、胆汁酸測定用第2試薬を調製した。
グリシン 10mM
EDTA 1mM
NAD 3mM
WST−1 300mM
1−PMS 15μM
【0040】
2. 試料の調製
ヒト血清にヘモグロビンを、添加濃度が100、200、300、400、又は500mg/dLになるように添加したものを試料とした。
また、ヘモグロビンの代わりに生理食塩水を添加したものをヘモグロビン無添加試料(ヘモグロビン添加濃度が0mg/dL)とした。
【0041】
3. 試料の測定
前記2の各試料中の胆汁酸濃度を、前記1で調製した胆汁酸測定用第1試薬及び胆汁酸測定用第2試薬にて測定した。
本発明の測定試薬における胆汁酸の測定は、日立製作所社製7170S形自動分析装置にて行い、前記2で調製した試料の各8μLに各々前記1で調製した胆汁酸測定用第1試薬160μLを添加して、混和後37℃で5分間反応させた後、前記1で調製した胆汁酸測定用第2試薬80μLを添加し、37度で5分間反応させた。胆汁酸測定用第2試薬添加直前と添加5分後の主波長450nm及び副波長700nmにおける吸光度を測定し、その差を求めた。そして、胆汁酸濃度が既知の試料について、前記の通り測定を行い、この測定値と前記の6種類の試料の測定値を比較することにより、前記6種類の試料中の胆汁酸濃度を求めた。
【0042】
4. 測定結果
試料の測定結果を表1に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
表1から明らかなように、試薬に酸化剤である亜硝酸ナトリウムを含有させていない場合は、試料中のヘモグロビンの影響を受けて、胆汁酸の測定値に正誤差が生じていることが分かる。更に、試料中の添加ヘモグロビン濃度が高くなるにつれて、胆汁酸の測定値が上昇しており、正誤差の程度が大きくなっていることが分かる。
また、試薬にイミダゾールのみを含有させた場合も、試料中のヘモグロビンの影響を受けて、胆汁酸の測定値に正誤差が生じており、試料中の添加ヘモグロビン濃度が高くなるにつれて、正誤差の程度が大きくなっていることが分かる。
これに対して、第1試薬に酸化剤である亜硝酸ナトリウム、及びイミダゾールを含有させた場合は、この測定値の正誤差が減少し改善されていることが分かる。また、この試料中に含まれるヘモグロビンの影響の回避効果は第1試薬中の亜硝酸ナトリウムの濃度が高くなるにつれて大きくなっていることが分かる。
【0045】
これらのことより、生体試料中の測定対象物質の測定方法において、酸化剤、並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩の存在下で測定を行うことにより、生体試料中にヘモグロビンが混在している場合であっても、このヘモグロビンによる測定値への誤差が生じることを回避でき、精度が高い測定対象物質の測定値を得ることができることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】ヘモグロビンの吸収変化を示したグラフである。
【図2】ヘモグロビンの吸収変化を示したグラフである。
【図3】ヘモグロビンの吸収変化を示したグラフである。
【図4】ヘモグロビンの吸収変化を示したグラフである。
【図5】ヘモグロビンの吸収変化を示したグラフである。
【図6】ヘモグロビンの吸収変化を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中の測定対象物質の測定方法において、酸化剤、並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を、測定反応液中に存在させることを特徴とする、生体試料中の測定対象物質の測定方法。
【請求項2】
酸化剤が、亜硝酸、テトラゾリウム類、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェイト、フェロシアン化物、フェリシアン化物又はチオサリチル酸あるいはこれらの塩から選択された1種以上の物質である、請求項1記載の生体試料中の測定対象物質の測定方法。
【請求項3】
酸化剤、並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を、ヘモグロビンの影響回避剤として存在させる、請求項1又は請求項2記載の生体試料中の測定対象物質の測定方法。
【請求項4】
生体試料中の測定対象物質の測定試薬において、ヘモグロビンの影響回避剤として、酸化剤並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩を含有させることを特徴とする、生体試料中の測定対象物質の測定試薬。
【請求項5】
酸化剤が、亜硝酸、テトラゾリウム類、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェイト、フェロシアン化物、フェリシアン化物又はチオサリチル酸あるいはこれらの塩から選択された1種以上の物質である、請求項4記載の生体試料中の測定対象物質の測定試薬。
【請求項6】
生体試料中の測定対象物質の測定方法において、酸化剤、並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩の存在下で測定を行うことにより、ヘモグロビンの影響を回避する方法。
【請求項7】
酸化剤が、亜硝酸、テトラゾリウム類、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェイト、フェロシアン化物、フェリシアン化物又はチオサリチル酸あるいはこれらの塩から選択された1種以上の物質であることを特徴とする、請求項6記載のヘモグロビンの影響を回避する方法
【請求項8】
酸化剤、並びにイミダゾール又はその誘導体あるいはこれらの塩よりなる、生体試料中の測定対象物質測定時のヘモグロビンの影響回避剤。
【請求項9】
酸化剤が、亜硝酸、テトラゾリウム類、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェイト、フェロシアン化物、フェリシアン化物又はチオサリチル酸あるいはこれらの塩から選択された1種以上の物質であることを特徴とする、請求項8記載のヘモグロビンの影響回避剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate