説明

生体試料培養観察装置

【課題】高湿度な培養環境内を、培養を行うための温度に保ちつつ、結露による光学的なパワーが原因で生じる光学的な不具合を抑制し、生体試料の状態を正確に観察すること。
【解決手段】外部と隔離され、外部以上の温度である培養環境Eに制御された内部に生体試料を収納すると共に、外部から照射された照明光Lを透過させる光透過部5を有する培養手段2と、生体試料を透過した照明光に基づいて生体試料の光学的観察を行う観察光学系3と、観察光学系に入射する照明光が通過する光路内において、光透過部に発生する結露に起因する光学的パワーを抑制すると共に、光透過部を通じた外部への放熱により培養環境の温度が変化することを抑制する結露抑制手段4とを備えている生体試料培養観察装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を培養すると共に該細胞を経時的に観察する生体試料培養観察装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の遺伝子解析技術の進歩に伴って、人を含む多くの生物における遺伝子配列が明らかになると共に解析されたタンパク質等の遺伝子産物と疾病との因果関係も少しずつ解明され始めている。また、今後さらに、各種タンパク質や遺伝子等を網羅的且つ統計的に解析するため、細胞を用いた様々な検査方法や装置が考えられ始めている。
通常、細胞を長時間に亘って観察を行う中で、細胞に刺激を与えたときの細胞の形態を確認する必要がある。これは、細胞の形態画像を確認することによって、細胞に形態変化が生じているかの判断を行う為である。しかし、インキュベータボックスの中は、飽和状態に保たれているので、インキュベータボックスの外部から、インキュベータボックスの内部の試料に対して光学的観察を行う場合、介在する容器上面等の透過部材面上に結露が発生する可能性があった。そのため、透過観察において、結露による水滴の影響、つまり光学的パワーの影響により光が屈折等してコントラストが悪化してしまい、細胞の状態を詳細に観察することができなかった。
【0003】
顕微鏡を覗いて観察を行う場合には、容器上面が結露により曇ったとしても、観察者自らが何らかの曇り対策を適時行うことができるが、長時間に亘って撮像を自動で行い、後から観察者が画像を確認するという状況では、観察者による曇り対策はほぼ不可能といえる。仮に、観察者が観察の途中でインキュベータボックスに発生する曇りを拭き取るような所作を行った場合には、培養環境の維持が難しくなったり、データの誤差要因が増加したりする等、不利益な点が多い。また、コンタミネーション等細胞に悪影響を及ぼしうる要因を作ることにもなる。
【0004】
そこで、このような不具合を解消するため、観察設定温度を±1℃の精度で設定して、通常生活温度での生細胞の活動を観察することができると共に、観察皿蓋内面での曇りの発生を防止する生細胞観察用顕微鏡温度制御装置が提供されている(例えば、特許文献1参照)。
この装置によれば、結露等による曇りの発生が抑えられるので、細胞を良好に観察することができる。
【特許文献1】特開2003−116518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されている装置では、まだ以下の課題が残されていた。
即ち、従来の装置では曇りの発生を抑えることはできるが、観察皿を密閉しているので、換気をすることができず、細胞を長時間飼うことができないものであった。また、長期間培養を行いながら観測する場合には、曇り発生防止剤として培養液を観察用皿蓋内面に塗布して観察を行っているが、実際に難しく非現実的であると言わざるを得ない。
また、投光部や対物レンズを温風により加温しているが、長時間温風の吹き付けを続けると、伝熱により投光部、対物レンズに近接している観察皿のみならず、広範囲が昇温されてしまう。このような場合、透光部や対物レンズに生じる温度ムラが光学的特性に影響を与えることが懸念される。特に、時間をかけて徐々に昇温されるので、光学的特性の変化もシフトするような形で生じることになる。従って、細胞の経時的変化等を正確に観察することが困難であった。
【0006】
この発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高湿度な培養環境内を、培養を行うための温度に保ちつつ、結露による光学的なパワーが原因で生じる光学的な不具合を抑制し、生体試料の状態を正確に観察することができる生体試料培養観察装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
請求項1に係る発明は、生体試料に対して液体又は気体の少なくともいずれか一方を供給して培養を行うと共に、培養中の生体試料の経時的変化を観察する生体試料培養観察装置であって、外部と隔離され、外部以上の温度である培養環境に制御された内部に前記生体試料を収納すると共に、外部から照射された照明光を透過させる光透過部を有する培養手段と、前記生体試料を透過した前記照明光に基づいて、前記生体試料の光学的観察を行う観察光学系と、前記観察光学系に入射する前記照明光が通過する光路内において、前記光透過部に発生する結露に起因する光学的パワーを抑制すると共に、光透過部を通じた外部への放熱により前記培養環境の温度が変化することを抑制する結露抑制手段と、を備えている生体試料培養観察装置を提供する。
【0008】
この発明に係る生体試料培養観察装置においては、外部より温度の高い培養環境とされている培養手段の内部に結露が生じることを抑制しつつ、培養環境が生体試料を培養するための温度から変化して、生体試料の観察結果に影響が生じることを抑制できる。
また、本発明によれば、内面が生体試料を培養するための培養環境に直接面した光透過部の、培養環境に直接面した側が結露することを抑制することができる。つまり、培養手段の内部に結露抑制手段を備えているので、例えば、結露抑制手段を培養手段の外部に設けた場合のように、光透過部の温度が結露を抑制できる温度に上昇するまで待つといったことがなく、速やかに結露の発生を抑制することができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の生体試料培養観察装置において、前記培養環境が、前記培養手段の外部よりも高い湿度に調節されている生体試料培養観察装置を提供する。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の生体試料培養観察装置において、前記結露抑制手段が、前記光透過部における前記培養手段内面に対して、前記培養環境内が培養を行うための温度になるように、所定の温度に調節された気体を吹き付ける気体吹付手段を備えている生体試料培養観察装置を提供する。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の生体試料培養観察装置において、前記気体が、前記培養環境の温度と略同一の温度に調節されている生体試料培養観察装置を提供する。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項3又は4に記載の生体試料培養観察装置において、前記気体が、前記培養に必要な培養ガスを含んでいる生体試料培養観察装置を提供する。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の生体試料培養観察装置において、前記培養ガスが、前記培養手段の外部の湿度より高い湿度に調節されている生体試料培養観察装置を提供する。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項3から6のいずれか1項に記載の生体試料培養観察装置において、前記気体吹付手段が、前記光透過部に生じた結露による水滴を前記光路外に除去する大きさのエネルギーで、前記気体を吹き付ける生体試料培養観察装置を提供する。
【0015】
請求項8に係る発明は、請求項7に記載の生体試料培養観察装置において、前記吹き付け方向における前記光透過部の周囲のうち少なくとも一部に、除去された前記水滴を回収する水滴回収体が設けられている生体試料培養観察装置を提供する。
【0016】
請求項9に係る発明は、請求項7又は8に記載の生体試料培養観察装置において、前記光透過部の表面には、前記水滴を弾く撥水処理が施されている生体試料培養観察装置を提供する。
【0017】
請求項10に係る発明は、請求項7から9のいずれか1項に記載の生体試料培養観察装置において、前記光透過部が、前記観察光学系と前記生体試料との間の光路と交差する部分が、水平面に対して傾斜した状態で設けられている生体試料培養観察装置を提供する。
【0018】
請求項11に係る発明は、請求項10に記載の生体試料培養観察装置において、前記傾斜が、前記光透過部と前記水滴との接触角に基づいた角度で傾斜している生体試料培養観察装置を提供する。
【0019】
請求項12に係る発明は、請求項1又は2に記載の生体試料培養観察装置において、前記光透過部を所定間隔空けながら略平行に配した状態で2つ有し、前記結露抑制手段が、前記2つの光透過部の間に設けられ、前記照明光を透過する断熱層を有している生体試料培養観察装置を提供する。
【0020】
請求項13に係る発明は、請求項12に記載の生体試料培養観察装置において、前記断熱層には、前記培養手段の外部の温度を培養手段の内部に伝導することを抑制する流体が導入されている生体試料培養観察装置を提供する。
【0021】
請求項14に係る発明は、請求項13に記載の生体試料培養観察装置において、前記流体が、前記培養環境が培養を行うための温度になるように温度調節されている生体試料培養装置を提供する。
【0022】
請求項15に係る発明は、請求項13又は14に記載の生体試料培養観察装置において、前記結露抑制手段が、前記2つの光透過部の間に前記流体を導入する導入口と、導入された流体を2つの光透過部の間から排出する排出口とを有する生体試料培養観察装置を提供する。
【0023】
請求項16に係る発明は、請求項13から15のいずれか1項に記載の生体試料培養観察装置において、前記流体が、前記培養環境内部に対して培養に必要な湿度を与える加湿用液体である生体試料培養観察装置を提供する。
【0024】
請求項17に係る発明は、請求項13から16のいずれか1項に記載の生体試料培養観察装置において、前記流体が、水又は油のいずれかである生体試料培養観察装置を提供する。
【0025】
請求項18に係る発明は、請求項12に記載の生体試料培養観察装置において、前記断熱層が、真空状態に維持されている生体試料培養観察装置を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る生体試料培養観察装置によれば、高湿度な培養環境内を、培養を行うための温度に保ちつつ、結露の影響を受けずに生体試料の状態を正確に観察することができ、コントラストの良い画像を得ることができる。その結果、例えば、細胞活性を維持可能な培養容器により培養しながら、クリアな画像を得ることができ、細胞の活性判断を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る生体試料培養観察装置の第1実施形態について、図1から図3を参照して説明する。
本実施形態の生体試料培養観察装置1は、図示しない細胞(生体試料)に対して液体又は気体の少なくともいずれか一方を供給して培養を行うと共に、培養中の細胞の経時的変化を観察する装置であって、図1に示すように、インキュベータボックス(培養手段)2と、観察光学系3と、結露抑制手段4とを備えている。
【0028】
インキュベータボックス2は、図1及び図2に示すように、観察光学系3の後述するX軸動作ステージ37上に固定される開閉可能なボックス状のものであって、外部と隔離され、外部よりも高い温度である培養環境Eに制御された内部に細胞を収納すると共に、外部から照射された照明光Lを透過させるガラス板等の透明板(光透過部)5を有する蓋部6を備えている。
この蓋部6は、図3に示すように、例えば、アルマイト処理されたアルミニウムや防食性に優れたステンレス等からなる筐体7の上部開口を塞ぐものである。また、蓋部6の中心には、上記照明光Lが入射する開口6aが形成されており、該開口6aを塞ぐように、光学的に透明な材料から形成される上記透明板5が蓋部6に取り付けられている。
【0029】
また、インキュベータボックス2は、図1及び図2に示すように、市販されている通常のインキュベータと同様に、培養ガス、湿度や温度等が制御されている。これにより内部の培養環境Eは、上述したように、外部よりも高い温度或いは略同じ温度に制御されていると共に、外部よりも高い湿度になるように制御されている。培養環境Eとして、一般的には二酸化炭素濃度5%、飽和湿度、温度37℃の組み合わせが多い。
【0030】
また、インキュベータボックス2内には、ディッシュやマイクロプレート等の培養容器10が収納されている。なお、本実施形態では、培養容器10として、マイクロプレートを採用した場合を例にしている。このマイクロプレートの各凹部10a内に細胞が収納された状態で培養されている。
また、インキュベータボックス2内には、開口面積が広く確保されるように環状に形成され、加湿水Wを貯留する水槽11を備えている。この加湿水Wによって、インキュベータボックス2内の培養環境Eは、上述したように所定の湿度条件に調整されている。この加湿水Wは、筐体7に取り付けられた加湿水供給継手12及び該加湿水供給継手12に接続された加湿水供給チューブ13を介して、インキュベータボックス2の外部に設置された加湿水タンク14からベリスタポンプ15によって供給されている。なお、単に供給されるだけでなく、加湿水タンク14内に再度加湿水Wを排出して循環できるように構成しても構わない。また、水槽11を補助的に加温するために、水槽11に接するように図示しない小型若しくはテープ状のヒータが取り付けられている。
【0031】
また、加湿水タンク14に隣接してCO混合槽16が設けられており、CO供給チューブ17によって互いに接続された状態となっている。また、CO混合槽16には、略100%の二酸化炭素が供給されるようになっていると共に、該二酸化炭素と空気とを内部で混合させて所定の二酸化炭素濃度に調整した培養ガスGを造りだしている。そして、CO混合槽16は、造り出した培養ガスGを、エアポンプ18によってCO供給チューブ17を通して加湿水タンク14に供給するようになっている。
【0032】
また、加湿水タンク14の下部には、スターラ19が取り付けられており、CO混合槽16から供給された培養ガスGを加湿水W内に溶解させている。これにより、インキュベータボックス2内の培養環境Eは、加湿水Wが気化することで上述したように所定の二酸化炭素条件に調整されている。
【0033】
また、インキュベータボックス2の周囲には、ヒータ等の加温体20が設けられており、インキュベータボックス2内を加温している。この加温体20及び後述する温風Hによって、インキュベータボックス2内の培養環境Eは、上述したように所定の温度条件に調整されている。なお、インキュベータボックス2内には、培養容器10の周辺に該培養容器10近傍の温度を測定する小型の温度センサ21が取り付けられている。
【0034】
また、インキュベータボックス2の内部には、内部温度及び気化した二酸化炭素混入加湿空気を、インキュベータボックス2内で均一に対流させて分散させるファン22が適宜取り付けられている。このファン22によって、インキュベータボックス2内の培養環境Eは、ムラがなくなり均一な条件となる。
更に、インキュベータボックス2の内部には、培養環境Eの二酸化濃度を測定するCOセンサ23が取り付けられている。
【0035】
インキュベータボックス2の筐体7には、図1及び図3に示すように、透明板5の内面5aに対して、培養環境E内が培養に適した温度になるように、所定の温度に調節された温風(気体)Hを吹き付ける温風供給ノズル(気体吹付手段)25が取り付けられている。本実施形態では、透明板5の側方に1つ取り付けられている例を説明する。但し、温風供給ノズル25は、複数でも構わないし、透明板5の側面に限られるものではない。透明板5に効率良く温風Hを吹き付けることができると共に、培養容器10に直接温風Hが当たらない位置であれば構わない。
【0036】
この温風供給ノズル25は、温風供給チューブ26、ヒータ27、温風供給チューブ28を介してCO混合槽16に接続されている。ヒータ27は、CO混合槽16で造られた培養ガスGを加温して、インキュベータボックス2内の培養環境Eと同じ温度(37℃)になるように調節している。また、調節された培養ガスGは、温風供給チューブ26に介在されたベリスタポンプ29によって、温風供給ノズル25に供給されている。その結果、温風供給ノズル25から温風Hとして排出される。つまり、この温風Hは、培養環境Eの温度と略同一の温度に調節されていると共に、培養に必要な培養ガスGを含んでいる。
【0037】
また、ベリスタポンプ29は、オン・オフ及び供給流量を任意に設定できるようになっている。なお、本実施形態では、透明板5に生じた結露による水滴を、照明光Lが通過する光路外に除去する大きさのエネルギーで温風Hを吹き付けられるように、ベリスタポンプ29の流量が調整されている。
【0038】
上状した温風供給ノズル25、温風供給チューブ26、28、ヒータ27及びベリスタポンプ29は、観察光学系3に入射する照明光Lが通過する光路内に含まれる透明板5において、該透明板5に発生する結露に起因する光学的パワー(例えば、結露に含まれる水滴により光の屈折等が発生し、観察光学系3が取得する像のコントラストが悪化すること)を抑制すると共に、透明板5を通じた外部への放熱により培養環境Eの温度が変化することを抑制する上記結露抑制手段4を構成している。
【0039】
また、インキュベータボックス2は、遮光ボックス30によって覆われており、観察に必要な光以外が細胞に当たらないように構成されている。この遮光ボックス30は、外部環境光の遮断の他に、外部温度環境の影響を低減する効果がある。なお、遮光ボックス30内にヒータ等の加温体を設置することにより、インキュベータボックス2全体を所定温度(例えば、37℃)環境に維持することも可能である。
この場合、例えば、室温等の外部温度が略37℃になっている場合もあれば、37℃未満の場合もある。上記遮光ボックス30を用いれば、インキュベータボックス2を細胞の培養を行うための温度に維持することができる。
【0040】
上記観察光学系3は、例えば、顕微鏡によって構成され、細胞を透過した照明光Lに基づいて細胞の光学的観察を行うものであって、インキュベータボックス2の上方に配され、培養容器10に照明光Lを照射する透過照明光学系31と、インキュベータボックス2を載置するステージ32及び対物レンズ33を有すると共に透過した照明光Lを検出する検出器34とを備えている。
ステージ32は、ベース35と、該ベース35上に移動可能に設けられ、奥行き方向に往復動作するY軸動作ステージ36と、該Y軸動作ステージ36上に移動可能に設けられ、左右に往復動作するX軸動作ステージ37とからなっている。これらY軸動作ステージ36及びX軸動作ステージ37は、図示しないコンピュータによって電動操作可能とされており、X軸動作ステージ37上に固定されたインキュベータボックス2を、所定範囲内で任意の位置に移動させることができるようになっている。
【0041】
また、ベース35、Y軸動作ステージ36及びX軸動作ステージ37には、それぞれ開口が形成されており、これら開口内に対物レンズ33が収まるように配されている。この際、Y軸動作ステージ36に形成された開口は例えば奥行き方向に縦長となっており、X軸動作ステージ37に形成された開口は例えば左右方向に縦長となっている。これにより、両ステージ32をそれぞれの方向に移動させたときに、各ステージ32が対物レンズ33に接触しないようになっている。
【0042】
また、上述したベリスタポンプ15、29、エアポンプ18、スターラ19、加温体20、温度センサ21、ファン22及びCOセンサ23、ヒータ27は、それぞれコンピュータに接続されており、総合的に制御されるようになっている。
【0043】
次に、このように構成された生体試料培養観察装置1を用いて、細胞を培養しながら、該細胞の経時的変化を観察する場合について、以下に説明する。
まず、インキュベータボックス2内に培養容器10をセットすると共に、水槽11に滅菌水等の加湿水Wを貯留させる。そして、コンピュータは、温度センサ21からの信号に基づいて加温体20を制御することで、インキュベータボックス2内の培養環境Eが所定の温度条件になるように維持する。また、図示しないヒータをオン・オフ制御等することにより水槽11に貯留された加湿水Wの温度を制御して、該加湿水Wを蒸発させる。これにより、インキュベータボックス2内の培養環境Eが、所定の湿度条件(インキュベータボックス2の外部よりも高い湿度)に維持される。
【0044】
更に、この加湿水Wには、二酸化炭素が混入されているので、加湿水Wの蒸発に伴ってインキュベータボックス2内には二酸化炭素も供給される。よって、二酸化炭素についても、培養環境Eは所定の濃度条件に維持される。この際、COセンサ23からの信号に基づいて、濃度調整を行う。
これらの結果、インキュベータボックス2内は、例えば、二酸化炭素濃度5%、飽和湿度、温度37℃の環境になり、この環境条件下にて培養容器10内の細胞を培養し続けることができる。
【0045】
そして、透過照明光学系31より照明光Lを照射する。この照明光Lは、透明板5を通過して培養容器10の各凹部10a内に収容された細胞を照射すると共に、該細胞を透過して対物レンズ33に入射する。検出器34は、この透過照明光Lに基づいて細胞の経時的変化を観察することができる。
このように細胞を培養しながら観察を行えるので、培養過程で生じる細胞内の挙動を、正確且つ経時的に測定することができる。即ち、培養条件を変化させながら観察対象の細胞の反応をリアルタイムで測定することができ、タンパク質の発現の有無や発現量の測定、時間経過に伴う発現量の変化等を正確に測定することができる。
【0046】
更に、コンピュータが、各解析ステップにより撮像された撮像画像を細胞の幾何学的特長量、光学的特徴量、座標位置及び面積より、細胞の1つ1つをそれぞれ確実に区別して認識し、各細胞を追跡する。そのため、蓄積されたデータの経時的な処理を施すことができ、培養中の1つ又は複数の細胞に対して、各細胞を間違えることなく、培養過程で生じる細胞内の挙動を正確且つ経時的(連続的)に測定することができる。
【0047】
特に、本実施形態の生体試料培養観察装置1は、結露抑制手段4を備えているので、上述した細胞の観察を行うにあたって、透明板5が結露によって曇ってしまうことを抑制することができる。
即ち、観察を行うにあたってベリスタポンプ29を作動させ、温風供給ノズル25から温風Hをインキュベータボックス2の内部に吐出させる。具体的には、透明板5の内面5aに温風Hを吹き付ける。これにより、透明板5は加温されるので、加湿水Wの蒸発によって生じた水滴が付き難く、結露の発生が抑制される。特に、温風Hは、ヒータ27によって培養環境Eの温度(37℃)と略同じ温度に調節されているので、培養環境Eと透明板5との温度差を最小限に抑えることができる。よって、結露の発生を効果的に抑制することができる。
【0048】
また、温風Hが培養環境Eと略同じ温度に温められているので、吹付けによってインキュベータボックス2内の温度ムラが発生することを低減することができる。また、温風供給ノズル25は、透明板5の近傍に配置されており、培養容器10に直接温風Hが当たらないようになっているので、吹付けによって培養容器10の温度が低くなることを防止できる。そのため、細胞に与える温度の影響を最小限に抑えることができる。
また、この温風Hは、細胞の培養に必要な培養ガスGを含んでいる、即ち、二酸化炭素を含む気体であるので、吹付けを行うことで、インキュベータボックス2内の二酸化炭素濃度が低下していくことを抑制することができる。
【0049】
更に、温風供給ノズル25は、透明板5の内面5aに向けて積極的に温風Hを吹付けているので、仮に結露が生じたとしても、該結露を飛ばす若しくは乾かすことができる。特に、温風Hは、ベリスタポンプ29によって所定のエネルギーで吹付けられているので、結露によって付着した水滴の蒸発を促進すると共に、蒸発しきれない水滴を少なくとも照明光Lの光路外、即ち、観察視野外に寄せることができる。なお、この温風Hは、インキュベータボックス2を温める効果もある。
【0050】
上述したように、本実施形態の生体試料培養観察装置1によれば、結露抑制手段4を備えているので、外部より温度の高い培養環境Eとしたインキュベータボックス2の内部に、結露が生じることを抑制しつつ、培養環境Eが細胞を培養するための温度から変化して細胞の観察結果に影響が生じることを抑制することができる。また、インキュベータボックス2内に温風供給ノズル25を配置しているので、速やかに透明板5の内面5aを加温して、結露の発生を効果的に抑制することができる。
【0051】
つまり、透明板5の内面に結露が発生することを抑制できると共に、仮に発生したとしても観察視野外に水滴を寄せたり、水滴を蒸発させたりすることができる。よって、水滴に光があたって屈折する等の従来生じていた光学的な影響がなくなり、コントラストの良い画像を見ることができる。よって、細胞活性を維持可能な培養容器10により細胞を培養しながら、クリアな画像を得ることができ、細胞の活性判断を容易に行うことができる。
【0052】
なお、細胞を培養している間、常に温風Hを吹き付ける必要はなく、観察光学系3による観察が行われる一定時間前から温風Hの吹付けを開始し、観察開始時点までに観察対象エリア上部の結露が除去されていれば構わない。
また、インキュベータボックス2内に吹付けられた温風Hは、X軸動作ステージ37、Y軸動作ステージ36及びベース35の各開口を通って、インキュベータボックス2の外部に排出されるようになっている。よって、吹付けに伴って、インキュベータボックス2内の気圧が増加する恐れはない。
【0053】
なお、上記第1実施形態において、インキュベータボックス2の外部の湿度よりも高い湿度に調節された培養ガスGを温風Hとして利用して、温風供給ノズル25より吹き付けても構わない。こうすることで、透明板5の結露の発生及び培養環境Eの外部温度からの影響をそれぞれ抑制しながら、同時に培養に必要な液体の蒸発を防止するための湿気を供給することができる。
【0054】
また、上記第1実施形態において、透明板5を水平面に対して傾斜させても構わない。即ち、図4に示すように、観察光学系3と細胞との間の光路と交差する部分が、水平面に対して傾斜した状態で透明板5を設けても構わない。なお、この場合には、温風Hが直接透明板5の内面5aに吹き付けられるように、温風供給ノズル25を蓋部6に組み込むように取り付けると良い。
このようにすることで、温風Hが透明板5の内面5aに当たり易くなり、該内面5aに結露が生じたとしても乾燥を促進することができる。また、透明板5が傾いているので、吹き付け力が低くても、結露によって生じた水滴を観察視野外に寄せ易くなる。なお、透明板5に当たった温風Hが、直接培養容器10に当たらないように、透明板5の傾斜角度及び温風供給ノズル25の位置を調整すると良い。また、温風Hは、インキュベータボックス2を温める役割も果たしている。
【0055】
また、上述したように透明板5を傾けた場合において、該透明板5の表面に水滴を弾く撥水処理を施しても構わない。即ち、図5に示すように、透明板5の内面5aに、撥水コーティングを施して撥水面40を形成しても構わない。この際、撥水コーティングは、水滴の接触角が110°以上になるものが望ましく、例えば、テフロン(登録商標)からなるコーティング等がより好ましい。
このように撥水面40を形成することで、吹き付け力をさらに低くしたとしても、容易に水滴を光路外に寄せ易くなる。
なお、透明板5の傾斜は、水滴との接触角に基づいて傾斜させると良い。例えば、接触角160°程度の超撥水コーティングが可能であれば傾斜角は5°前後で良く、接触角110°であれば傾斜角は10〜20°程度傾ける必要がある。このように、透明板5の傾斜角度を接触角に応じて変更することで、水滴をより確実に光路外に寄せることができる。
【0056】
更に、上述したように撥水面40を形成した場合において、温風Hの吹き付け方向における透明板5の表面や近傍等、透明板5の周囲のうち少なくとも一部に、除去された水滴を回収する水滴回収体を取り付けても構わない。
即ち、図6に示すように、抗菌素材スポンジ等の吸水体(水滴回収体)41を蓋部6に取り付ける。この際、吸水体41は、観察光学系3の視野外であって、透明板5の内面5aに接する位置に取り付ける。これにより、温風Hの吹きつけにより撥水面40上を移動した水滴を吸い取ることができ、観察視野外で水滴が溜まって、落下してしまうことを防止することができる。
その結果、培養容器10内に水滴が落下することによるカビ等の発生を防止することができ、インキュベータボックス2の内部を清潔に保つことができる。
【0057】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る生体試料培養観察装置の第2実施形態を、図7を参照して説明する。なお、この第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、透明板5の内面5aに対して温風供給ノズル25から温風Hを吹き付けることで、結露の発生を抑制していたのに対し、第2実施形態では、温風Hを使用せずに結露を抑制する点である。
【0058】
即ち、本実施形態の生体試料培養観察装置は、図7に示すように、透明板5を所定間隔を空けながら略平行に配した状態で2つ有し、結露抑制手段50が2つの透明板5の間に設けられ、照明光Lを透過する断熱層51を有している。即ち、本実施形態の蓋部6は、間に断熱層51となる隙間の空いた2重構造の透明板5を有している。
また、断熱層51には、インキュベータボックス2の外部の温度を内部に伝導することを抑制する流体W1が導入されている。この流体W1は、水やオイル等の光学的に透明な流体であって、脱気された後封入されている。なお、光学ガラスの屈折率は約1.5、水の屈折率は1.3であり、油浸対物等に用いられるイマージョンオイルの屈折率は1.5である。よって、透明板5としてガラスを用いる場合には、流体W1としてイマージョンオイルを採用することが、最も屈折率が近く余計な屈折が生じない分、適しているといえる。
【0059】
本実施形態のように、断熱層51を設けることで、インキュベータボックス2の外部温度が内部の培養環境Eの温度に影響することを抑制できるので、結露の発生を極力抑制することができる。特に、断熱層51内に水やオイル等の流体W1が導入されているので、さらにインキュベータボックス2の外部の温度が、内部の培養環境Eに影響し難くなる。
また、インキュベータボックス2を加温する加温体20からの熱が筐体7を介して蓋部6に効率良く伝熱するように、筐体7と蓋部6との接触抵抗を低くすると良い。こうすることで、蓋部6自体がある程度の温度まで加温され、結露の発生をより低減することができる。
更に、蓋部6を積極的に暖めることにより、熱放射によってインキュベータボックス2内の上下方向に発生する熱分布を軽減することができる。特に、流体W1として、水やオイルを用いた場合には、熱の変化が急激に生じ難いので、加温体20による蓋部6の加温が仮に停止したとしても、瞬時に温度が低下して培養環境Eに影響を与えることはない。
【0060】
なお、上記第2実施形態では、断熱層51に流体W1を導入したが、流体W1に限られず、光学的に透明なものであれば構わない。更には、温度絶縁性の高いものが好ましい。そうすることで、遮光ボックス30内の環境温度の変化に対して、インキュベータボックス2の内面の温度変化を発生し難くさせることが可能であり、結露を発生し難くすることができる。
また、断熱層51内に流体W1を導入せず単に真空状態に維持しても構わない。この場合においても、少なくとも2枚の透明板5によって2重構造になっているので、温度差のあるインキュベータボックス2の外部と内部との距離が離れ、結露が発生し難い。
また、2枚の透明板5のうち、インキュベータボックス2の内側に位置する透明板5の内面に親水コーティングを施しても構わない。こうすることで、より確実に結露を防止することができる。
【0061】
更に、図8に示すように、蓋部6の上面等、蓋部6自体にヒータ52等を取り付けても構わない。これにより、蓋部6自身が加温されるので、より外気温度の影響を低減することができると共に、曇りについても防止することができる。
なお、蓋部6の素材は、熱伝導性の良いものが好ましい。また、ヒータ52については、ワイヤーやテープ状等の小型のものが操作性を阻害せず適している。また、このヒータ52による蓋部6の加温によって、インキュベータボックス2を補助的に温めるようにしても良い。そうすることで、熱放射を利用してインキュベータボックス2内の上下方向に発生する熱分布を軽減することができる。
【0062】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る生体試料培養観察装置の第3実施形態を、図9から図11を参照して説明する。なお、この第3実施形態においては、第2実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第3実施形態と第2実施形態との異なる点は、第2実施形態では、図7に示すように、2枚の透明板5で挟まれた断熱層51内に水やオイル等の流体W1が単に封入された状態であったのに対し、第3実施形態では断熱層51内で流体W1を流すように導入する点である。
また、第2実施形態では、水や油を流体W1として用いたが、第3実施形態では、培養環境Eに対して培養に必要な湿度を与える加湿水W(加湿用液体)を流体W1として用いている点である。
【0063】
即ち、本実施形態の生体試料培養観察装置60は、図9から図11に示すように、結露抑制手段4が2枚の透明板5の間に加湿水Wを導入する加湿水供給ポート(導入口)61と、導入された加湿水Wを排出する加湿水排出ポート(排出口)62とを備えている。
加湿水供給ポート61には、加湿水タンク14に接続された加湿水供給チューブ63が接続されている。これにより、ベリスタポンプ15の作動によって、断熱層51内に加湿水Wが供給されるようになっている。
一方、加湿水排出ポート62は、インキュベータボックス2内に設けられた水槽11内に先端が達するように下方に向けて延出している。よって、断熱層51内を流れた加湿水Wは、水槽11内に排出されて、該水槽11内で貯留されるようになっている。このように、本実施形態では、加湿水Wが断熱層51内を常に流れるようになっている。
【0064】
また、加湿水供給ポート61及び加湿水排出ポート62を、図11に示すように蓋部6に対して対角に配置するのが好ましい。こうすることで、加湿水Wを、断熱層51内においてムラなく均一に流すことができるためである。また、本実施形態で使用する加湿水Wは、煮沸、静置等により溶存酸素を除去したものを用いる。これにより、内部で気化する恐れがなく、泡による光学的パワーを排除することができる。
また、蓋部6は、加温体20によって所定温度(例えば、37℃)に保温されていることが望ましい。更に、培養環境Eをより安定させるため、所定温度(例えば、37℃)に保温した状態で供給するのが好ましい。
更には、加湿水タンク14は、別途加温されていると蓋部6内の温度分布を発生させないので、さらに望ましい。加湿水Wを温めてから供給するので、培養環境Eの温度環境を安定に保つこともできる。よって、加湿水Wの温度が培養環境Eと同じレベルになるまで、保温されてから水槽11に供給するのが望ましい。
【0065】
また、本実施形態では、筐体7に二酸化炭素供給ノズル64が取り付けられており、CO混合槽16から二酸化炭素供給チューブ65を介してインキュベータボックス2内に所定濃度の二酸化炭素が供給されている。
【0066】
また、本実施形態の生体試料培養観察装置60は、インキュベータボックス2内の細胞に対して、培養又は観察に必要な複数種類の液体又は気体を保持する複数の試薬容器70、71、72から、液体又は気体を選択的に供給する供給装置73を備えている。
この供給装置73は、遮光ボックス30に隣接して設けられており、内部の天井部には供給装置73内の環境を清潔に維持するために、殺菌用のUVランプ74と、ヘパフィルタ及びファンが組み合わされた空気清浄用の空気浄化ユニット75とが固定されている。
【0067】
供給装置73の内部には、培養液W2又は試薬W3又はPBS(−)等のバッファ緩衝液W4を貯留する試薬容器70、71、72と、古くなった培養液W2を貯留する廃液タンク76と、これら試薬容器70、71、72及び廃液タンク76を冷凍保存する冷蔵庫77とを備えている。なお、加湿水タンク14及びCO混合槽16についても、供給装置73内に設けられている。
各試薬容器70、71、72には、培養液W2又は試薬W3又はバッファ緩衝液W4を培養容器10に供給するための培養液供給チューブ78の一端が接続されている。また、この培養液供給チューブ78の他端は、使用したい試薬W3等を選択するための流路切替弁79に接続されている。なお、流路切替弁79は、予備ポートを備えている。各培養液供給チューブ78は、流路切替弁79で1本にまとめられて、培養液供給用共通チューブ80として培養容器10に接続されている。
【0068】
この培養液供給用共通チューブ80には、流路切替弁79から培養容器10に向かって順に、培養液供給用ポンプ81、加温タンク82が介在されている。加温タンク82は、培養液供給用共通チューブ80内を流れる培養液W2等を、所定温度(例えば、37℃)に加温するためのものである。
また、廃液タンク76は、廃液排出チューブ83を介して培養容器10に接続されている。この廃液排出チューブ83には、廃液排出用ポンプ84が介在されている。
【0069】
このように構成された本実施形態の生体試料培養観察装置60においては、所定温度(例えば、37℃)に調節された加湿水Wが、加湿水供給ポート61から2枚の透明板5で挟まれた断熱層51内に導入され、断熱層51内を流れた後、加湿水排出ポート62から排出されるようになっているので、長時間細胞を培養しながら観察を行ったとしても、透明板5の温度が低下しない。そのため、結露の発生をより効果的に抑制することができる。つまり、第2実施形態のように単に流体W1が封入されている場合には、長時間の培養により流体W1の温度が低下する恐れがあるが、本実施形態の場合にはこのような不具合がない。よって、細胞の長時間観察を光学的な悪影響がない状態で行うことができ、細胞の経時的な活性を正確に観察することができる。
【0070】
また、排出された加湿水Wは、加湿水排出ポート62を介して水槽11に送られるので、該水槽11に別個に加湿水Wを供給する装置を設ける必要がない。このように加湿水Wを共通に利用するように構成されているので、構成部品を極力少なくでき、構成の簡略化及び小型化を図ることができる。
【0071】
更に、本実施形態の生体試料培養観察装置60は、各試薬容器70、71、72及び流路切替弁79を有しているので、様々な条件下で観察を行うことができ、より多角的な細胞の観察を行うことができる。
例えば、試薬W3によって細胞に刺激を与える場合には、流路切替弁79を、試薬容器71が培養容器10に連通するように切り替えて、培養液供給用ポンプ81を作動させる。これにより、試薬W3を培養液供給用共通チューブ80を介して培養容器10に直接供給することができる。
なお、この際同時に廃液排出用ポンプ84を作動させて、培養容器10内の培養液W2を廃液排出チューブ83を介して廃液タンク76に排出させる。これにより、培養容器10内の液面をほぼ一定に保つことができる。
【0072】
また、試薬W3によって細胞に刺激を与える他の方法としては、流路切替弁79を切り替えて、例えば、培養液W2を貯留している試薬容器70を培養液供給用共通チューブ80に連通させ、培養液供給用ポンプ81を作動させることにより、加温タンク82内に予め培養液W2を貯えておく。次いで、流路切替弁79を切り替えて、試薬W3を貯えている他の試薬容器71を培養液供給用共通チューブ80に連通させる。そして、再度培養液供給用ポンプ81を作動させて加温タンク82内に試薬W3を供給させる。これにより、試薬W3は培養液W2に溶解される。このように、試薬W3を溶解させた培養液W2を、培養容器10に供給することも可能である。
【0073】
また、培養容器10内の培養液W2を全て廃棄して、培養液W2や試薬W3を新たに供給したい場合には、まず、廃液排出用ポンプ84のみを作動させ、廃液排出チューブ83を介して培養液W2を全て廃液タンク76に排出させる。そして、同時に或いはやや遅れて培養液供給用ポンプ81を作動させ、流路切替弁79を適時切り替えて、培養液W2或いは試薬W3を培養容器10に供給すれば良い。
【0074】
更に、投与した試薬W3を完全に除去したい場合には、上述したように、予め培養容器10の培養液W2を除去した後、流路切替弁79を切り替えてバッファ緩衝液W4を培養容器10内に供給する。これにより、培養液供給用共通チューブ80や培養液供給用ポンプ81の洗浄を行うことができる。次いで、流路切替弁79を切り替えて、培養液W2を培養容器10に再供給すれば良い。こうすることで、試薬W3間の汚染を防ぐことができる。
【0075】
また、培養容器10への培養液W2等の供給方法としては、1時間あたり予め決められた量だけ連続的に供給する方法がある。また、他の供給方法としては、いわゆるバッチ式の方法がある。これは、所定日数毎に、培養容器10中の培養液W2を半分或いは全部廃棄し、それに代わって新たな培養液W2を所定量供給する方法がある。本実施形態の生体試料培養観察装置60によれば、連続式或いはバッチ式のいずれの方式であっても、自由に選択することができる。
【0076】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0077】
例えば、図12に示すように、温風Hの吹き付けを行わずに、透明板5を水平にした状態で、内面5aに超親水コーティングによる親水面90を形成することで結露抑制手段4を構成しても構わない。
こうすることで、インキュベータボックス2内部の飽和蒸気が付着したとしても、水滴が形成されることを防止することができる。なお、超親水コーティングとしては、酸化チタン、水溶性高分子膜、親水性エポキシ樹脂等が適している。
また、インキュベータボックス2を保温する加温体20からの熱が、インキュベータボックス2の筐体7を介して蓋部6に効率良く伝熱するように、筐体7と蓋部6との接触抵抗を低くすると良い。そうすることで、蓋部6自体がある程度まで加温され、結露の発生を低減することができる。また、別個に蓋部6を加温するヒータを設けても構わない。この際、ヒータとして、ワイヤーやテープ状等の超薄型のものが操作性を低下させない点で好ましい。
【0078】
なお、酸化チタンによる超親水コーティングの場合には、光触媒を利用するため、紫外線(UV)照射が必要となるが、非測定時(細胞がいないとき)に透過照明光学系31若しくは照明光学系からUV波長の光を照射しても良いし、遮光ボックス30内に滅菌用のUV照明を取り付けても良い。こうすることで、インキュベータボックス2内の滅菌と同時に光触媒効果を誘導することができる。また、UV照射が不用な光触媒親水コーティングを用いれば、当然、UV光を照射する必要はなく、環境光や透過照明等を用いて光触媒効果を誘導することができる。
【0079】
また、上記各実施形態において、培養ガスとして、二酸化炭素が含まれるものを用いたが、培養ガスとしては、この場合に限られず、例えば、酸素を含むものや窒素を含むもの等がある。また、光学的な観察に必要な光を透過させる透明板としては、例えば、ガラス板や生体試料に対して毒性のない材料であって透明な樹脂板等が考えられる。
【0080】
また、上記各実施形態では、培養手段を、内部が外部と隔離されたインキュベータボックスとして説明した。この場合には、結露はインキュベータボックスを収納する遮光手段内とインキュベータボックス内との温度差により、インキュベータボックスの蓋部にある透明板の内部に生じるため、結露抑制手段はインキュベータボックス内に設けられるものである。この場合、例えば、インキュベータボックス内に収納され、生体試料を保持する培養容器は、インキュベータボックス内の環境と隔離されておらず、インキュベータボックス内の空間が直接培養環境に設定されていることが考えられる。
【0081】
但し、培養手段を、内部が外部と隔離された培養環境にされた培養容器としても構わない。この場合には、結露は培養容器を収納するインキュベータボックス内と培養容器内との温度差により、培養容器の蓋にある透明板等の光透過部の内部に生じるため、培養容器の内部に結露抑制手段を設ければ良い。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明に係る生体試料培養観察装置の第1実施形態を示す構成図である。
【図2】図1に示すインキュベータボックスを上方から見た図である。
【図3】図1に示すインキュベータボックスの蓋部周面の断面図であって、結露抑制手段の一例を示した図である。
【図4】図1に示すインキュベータボックスの蓋部周面の断面図であって、結露抑制手段の他の例を示した図である。
【図5】図1に示すインキュベータボックスの蓋部周面の断面図であって、結露抑制手段の他の例を示した図である。
【図6】図1に示すインキュベータボックスの蓋部周面の断面図であって、結露抑制手段の他の例を示した図である。
【図7】本発明に係る生体試料培養観察装置の第2実施形態を示す図であって、インキュベータボックスの蓋部周面の断面図であって、結露抑制手段の一例を示した図である。
【図8】図7に示す結露抑制手段の他の例を示した図である。
【図9】本発明に係る生体試料培養観察装置の第3実施形態を示す構成図である。
【図10】図9に示すインキュベータボックスの蓋部周面の断面図であって、結露抑制手段の一例を示した図である。
【図11】図10に示すインキュベータボックスを上方から見た図である。
【図12】本発明に係る生体試料培養観察装置の結露抑制手段の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0083】
E 培養環境
G 培養ガス
L 照明光
W 加湿水(加湿用液体)
W1 流体
1、60 生体試料培養観察装置
2 インキュベータボックス(培養手段)
3 観察光学系
4、50 結露抑制手段
5 透明板(光透過部)
25 温風供給ノズル(気体吹付手段)
41 吸水体(水滴回収体)
51 断熱層
61 加湿水供給ポート(導入口)
62 加湿水排出ポート(排出口)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料に対して液体又は気体の少なくともいずれか一方を供給して培養を行うと共に、培養中の生体試料の経時的変化を観察する生体試料培養観察装置であって、
外部と隔離され、外部以上の温度である培養環境に制御された内部に前記生体試料を収納すると共に、外部から照射された照明光を透過させる光透過部を有する培養手段と、
前記生体試料を透過した前記照明光に基づいて、前記生体試料の光学的観察を行う観察光学系と、
前記観察光学系に入射する前記照明光が通過する光路内において、前記光透過部に発生する結露に起因する光学的パワーを抑制すると共に、光透過部を通じた外部への放熱により前記培養環境の温度が変化することを抑制する結露抑制手段と、を備えていることを特徴とする生体試料培養観察装置。
【請求項2】
請求項1に記載の生体試料培養観察装置において、
前記培養環境は、前記培養手段の外部よりも高い湿度に調節されていることを特徴とする生体試料培養観察装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の生体試料培養観察装置において、
前記結露抑制手段は、前記光透過部における前記培養手段内面に対して、前記培養環境内が培養を行うための温度になるように、所定の温度に調節された気体を吹き付ける気体吹付手段を備えていることを特徴とする生体試料培養観察装置。
【請求項4】
請求項3に記載の生体試料培養観察装置において、
前記気体は、前記培養環境の温度と略同一の温度に調節されていることを特徴とする生体試料培養観察装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の生体試料培養観察装置において、
前記気体は、前記培養に必要な培養ガスを含んでいることを特徴とする生体試料培養観察装置。
【請求項6】
請求項5に記載の生体試料培養観察装置において、
前記培養ガスは、前記培養手段の外部の湿度より高い湿度に調節されていることを特徴とする生体試料培養観察装置。
【請求項7】
請求項3から6のいずれか1項に記載の生体試料培養観察装置において、
前記気体吹付手段は、前記光透過部に生じた結露による水滴を前記光路外に除去する大きさのエネルギーで、前記気体を吹き付けることを特徴とする生体試料培養観察装置。
【請求項8】
請求項7に記載の生体試料培養観察装置において、
前記吹き付け方向における前記光透過部の周囲のうち少なくとも一部に、除去された前記水滴を回収する水滴回収体が設けられていることを特徴とする生体試料培養観察装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の生体試料培養観察装置において、
前記光透過部の表面には、前記水滴を弾く撥水処理が施されていることを特徴とする生体試料培養観察装置。
【請求項10】
請求項7から9のいずれか1項に記載の生体試料培養観察装置において、
前記光透過部は、前記観察光学系と前記生体試料との間の光路と交差する部分が、水平面に対して傾斜した状態で設けられていることを特徴とする生体試料培養観察装置。
【請求項11】
請求項10に記載の生体試料培養観察装置において、
前記傾斜は、前記光透過部と前記水滴との接触角に基づいた角度で傾斜していることを特徴とする生体試料培養観察装置。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の生体試料培養観察装置において、
前記光透過部を所定間隔空けながら略平行に配した状態で2つ有し、
前記結露抑制手段は、前記2つの光透過部の間に設けられ、前記照明光を透過する断熱層を有していることを特徴とする生体試料培養観察装置。
【請求項13】
請求項12に記載の生体試料培養観察装置において、
前記断熱層には、前記培養手段の外部の温度を培養手段の内部に伝導することを抑制する流体が導入されていることを特徴とする生体試料培養観察装置。
【請求項14】
請求項13に記載の生体試料培養観察装置において、
前記流体は、前記培養環境が培養を行うための温度になるように温度調節されていることを特徴とする生体試料培養装置。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の生体試料培養観察装置において、
前記結露抑制手段は、前記2つの光透過部の間に前記流体を導入する導入口と、導入された流体を2つの光透過部の間から排出する排出口とを有することを特徴とする生体試料培養観察装置。
【請求項16】
請求項13から15のいずれか1項に記載の生体試料培養観察装置において、
前記流体は、前記培養環境内部に対して培養に必要な湿度を与える加湿用液体であることを特徴とする生体試料培養観察装置。
【請求項17】
請求項13から16のいずれか1項に記載の生体試料培養観察装置において、
前記流体は、水又は油のいずれかであることを特徴とする生体試料培養観察装置。
【請求項18】
請求項12に記載の生体試料培養観察装置において、
前記断熱層は、真空状態に維持されていることを特徴とする生体試料培養観察装置。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−166982(P2007−166982A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369482(P2005−369482)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】