生体適合性セラミックス/ポリマーハイブリッド
【課題】ハイドロキシアパタイトセラミックス構造の気孔の中に含まれた生分解性ポリマーを含む生体適合性材料を提供する。
【解決手段】前記の生分解性ポリマーは、ポリL-乳酸ポリマーで有り得る。該材料を調製する方法は、10mm以上の平均気孔直径を有する気孔を含む多孔性ハイドロキシアパタイトセラミックスを調製するステップ及び多孔性ハイドロキシアパタイトセラミックスの気孔の中に生分解性ポリマーを形成するステップを含む。前記の多孔性ハイドロキシアパタイトセラミックスは、ハイドロキシアパタイトファイバー及び熱分解性粒子を選択された溶媒中に含むスラリーを調製するステップ、前記のスラリーを濾過してペーストを調製し、前記のペーストを使用して成形された塊を圧縮して生成形体を調製するステップ、及び加熱し、多孔性ハイドロキシアパタイトセラミックス構造を調製するステップにより調製されることができる。
【解決手段】前記の生分解性ポリマーは、ポリL-乳酸ポリマーで有り得る。該材料を調製する方法は、10mm以上の平均気孔直径を有する気孔を含む多孔性ハイドロキシアパタイトセラミックスを調製するステップ及び多孔性ハイドロキシアパタイトセラミックスの気孔の中に生分解性ポリマーを形成するステップを含む。前記の多孔性ハイドロキシアパタイトセラミックスは、ハイドロキシアパタイトファイバー及び熱分解性粒子を選択された溶媒中に含むスラリーを調製するステップ、前記のスラリーを濾過してペーストを調製し、前記のペーストを使用して成形された塊を圧縮して生成形体を調製するステップ、及び加熱し、多孔性ハイドロキシアパタイトセラミックス構造を調製するステップにより調製されることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に関する相互参照
本発明は、35 U.S.C. § 119に基づき2008年12月16日に出願された米国仮出願第61/138,016号の優先権を主張する。前記の仮出願の内容は、すべて引用により援用されている。
【0002】
本発明の技術分野
本発明は、骨の修復又は置換のための複合材料に関するものであり、さらに詳細にはハイドロキシアパタイト及び生体適合性ポリマーを含むハイブリッド材料に関するものである。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景
例えば骨折のような多くの疾患では、硬い組織(例えば骨)に対する損傷が含まれる。前記の状態では、前記の硬い組織の損傷を修復するために使用され得る材料が必要である。平均寿命の増加に伴い、前記の材料のニーズは実質的に増加すると期待されている。
【0004】
前記の修復に使用される前記の材料は、しばしば損傷を受けた硬い組織の機能を置換するために十分な機械的な強度を具備することが必要とされる。これらの材料は、前記の硬い組織自身が修復するまでの一時的に使用されるか、または永久的な置換として使用される。前記の硬い組織の修復に使用される様々な材料としてはセラミックス材料が挙げられる。
【0005】
最近になり、前記の目的に三つのタイプのセラミックスが臨床的に使用されている。生体活性なセラミックスは、宿主の骨に直接結合する材料である。前記の材料の例としては、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2;
HAp)が挙げられる。第二のタイプは生物分解性セラミックスである。これらの材料は、徐々に体に吸収されることができる。前記の生分解性材料としては、例えばリン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2;略称はTCPである。)が挙げられる。第三のタイプのバイオセラミックスは、生体不活性なセラミックスである。これらの材料は生体内で安定であり、高い機械的な強度を有している。生物学的に不活性なセラミックスの例としては、アルミナ(a-Al2O3)及び正方晶系ジルコニウム(t-ZrO2)が挙げられる。
【0006】
ハイドロキシアパタイトは、ヒトの体内の歯及び骨に存在する天然の構成成分である。
それゆえ、ハイドロキシアパタイト(HAp)は優れた生体適合性を有することから、硬組織の置換又は修復のための好適な材料の候補である。確かに、それは損傷を受けた骨を置換する充填材として、又はインプラント上における骨の成長を促すコーティング材として通常使用される。例えば、股関節や歯科インプラントといった医療用インプラントのいくつかは、ハイドロキシアパタイトによりコーティングされ、これらのインプラント上の骨形成を促進することが確認されている。
【0007】
ハイドロキシアパタイトのこれらの好ましい特性から、医療用途にこの材料を開発又は改良が非常に注目されている。これらの骨への結合及びその他の性質を改善するためにハイドロキシアパタイト及び他のインプラントをモデファイする様々な方法が開示されている。例えば、骨形成タンパク質によりこの材料をコーティングするという方法は、細胞の付着を改善し、そして続いて起こる組織への結合を改善することができることが示された。Zeng, H., et al., Biomaterials 20 (1999): 377 384を参照されたい。もう一つの通常使用されるモディフィケーションは、窒化物形成である。窒化物形成により、ハイドロキシアパタイトの硬さが改善され、そして生物学的な環境に対するハイドロキシアパタイトの化学的な安定性が改善される。Habelitz, S., et al., J. European Ceramic Society 19
(1999): 2685 2694, and Torrisi, L., Metallurgical
Science and Technology 17(1) (1999): 27 32を参照されたい。
【非特許文献1】Zeng, H., et al., Biomaterials 20 (1999): 377 384
【非特許文献2】Habelitz, S., et al., J. European Ceramic Society 19(1999): 2685 2694, and Torrisi, L., MetallurgicalScience and Technology 17(1) (1999): 27 32
【0008】
より最近になり、Risbudらに対して発行された米国特許第7,211,271号によれば、前記の材料上に組織の成長を促進するハイドロキシアパタイトを製造するために、これらの二つの方法(すなわち、窒化物形成、及び骨の骨形成タンパク質若しくはそのアナログ、又は前記のプロテイン若しくそのアナログをコードするDNAによるコーティング)が組み合わせられている。
【0009】
ハイドロキシアパタイト材料及びモデファイされたハイドロキシアパタイト材料は優れた生体適合性を有し、そして有益な組織/骨形成の促進効果を有しているが、その機械特性、特に靭性値及びヤング率は、皮質骨のそれらの値とはかなり異なっている。その結果として、骨の修復又は置換にハイドロキシアパタイトを使用すると、これらの人工的な材料と生体骨との連結部分の周りに望ましくない応力が発生する。前記の望ましくない応力により、最終的には連結が破壊される。それゆえ、ハイドロキシアパタイトの利点に加え、生体骨の機械特性により類似した新たな材料が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明の概要
本発明の一つの態様は、ハイドロキシアパタイト
セラミックスハイブリッド材料に関するものである。本発明の一つの態様に従うハイドロキシアパタイト セラミックスハイブリッド材料は、気孔を有するハイドロキシアパタイトセラミックス構造を含み、ハイドロキシアパタイトセラミックス構造の気孔の中に含まれた生分解性ポリマーを含む。前記の気孔は、前記のハイドロキシアパタイトセラミックス構造の体積の40-70%を占める。本発明の一つの態様では、前記の生分解性ポリマーは、リパーゼを触媒とする酵素重合反応により形成されるポリL-乳酸ポリマーである。
【0011】
本発明のもう一つの態様は、ハイドロキシアパタイトセラミックス材料を調製する方法に関するものである。本発明の態様に係る方法は、10 mm以上の平均気孔直径を有する気孔を含む、多孔性のハイドロキシアパタイトセラミックスを調製するステップ及び前記の多孔性のハイドロキシアパタイトセラミックスの気孔の中に生物分解性ポリマーを形成するステップを含む。前記の多孔性のハイドロキシアパタイトセラミックスは、選択された溶媒にハイドロキシアパタイトファイバー及び熱分解性粒子を懸濁させたスラリーを調製するステップ、前記のスラリーをペースト状にするために濾過するステップ、前記のペーストを使用して塊に成形するステップ、生成形体を調製するために前記の成形された塊を圧縮するステップ、及び多孔性のハイドロキシアパタイトセラミックス構造を調製するために少なくとも1000℃で前記の生成形体を加熱するステップにより調製される。
【0012】
本発明の他の態様及び利点は、次の記載及び添付された特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、骨の陥没を図解する脊椎における従来のハイドロキシアパタイトインプラントを示す。
【図2】図2は、多孔性のハイドロキシアパタイトセラミックスを本発明の一つの態様に従って調製するための方法を図解するフローチャートを示す。
【図3A】図3Aは、カーボンビーズの包含物を使用することなく調製された多孔性のHApセラミックスを示す。
【図3B】図3Bは、150 mmの直径を有するカーボンビーズの包含物を使用して本発明の一つの態様に従って調製された多孔性のHApセラミックスを示す。
【図4】図4a-4dは、異なる直径の様々なカーボンビーズを使用して調製されたHApセラミックスの気孔のサイズの分布を示す。
【図5】図5は、多孔性のHApセラミックスの気孔の中にポリマーを本発明の一つの態様に従って形成する方法を図解するフローチャートを示す。
【図6】図6は、本発明の一つの態様に従うHAp及びPLLAハイブリッド材料の微細構造を示す。
【図7】図7は、本発明の一つの態様に従う、様々なHAp及びPLLAハイブリッド材料の気孔率を示す。
【図8】図8は、本発明の様々なHAp-PLLAハイブリッド材料の曲げ強さ及びヤング率を示す。
【図9】図9は、本発明の一つの態様に従う、前記のHAp-PLLAハイブリッド材料上で7日間培養された細胞の形態を示す。なお、ポジティブコントロールとして高密度のHApセラミクスを使用し、そしてコントロールとして細胞培養プレート用のポリスチレンを使用した。
【図10】図10(A)-10(D)は、Apaceram(登録商標)と称される多孔性のセラミックス(図10(A)及び図10(C))及び本発明の二極化した多孔質構造を持つHApセラミックス(図10(B)及び図10(D))をウサギの頸骨に4週間(図10(A)及び図10(B))及び24週間(図10(B)及び図10(D))インプラントした場合における骨細胞の成長を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の態様は、生物活性を有するHApに基づくバイオセラミックス材料に関するものである。本発明の態様に従う生物活性を有するハイドロキシアパタイト材料は、骨の機械特性と類似した幾らかの機械特性を有する。本発明のいくらかの態様は、HAp及びポリ-L-乳酸(PLLA)ハイブリッド材料に関するものである。これらのHAp-PLLAハイブリッド材料の機械的強度及びヤング率は、HApよりも生体骨のそれらに近い。さらに、PLLAは生分解性であり、そして体に吸収されることができるため、新しい骨の成長のためのスペースを形成することができる。
本発明のいくらかの態様は、これらのハイブリッド材料を調製及び使用する方法に関するものである。
【0015】
上記で説明したように、ハイドロキシアパタイト(HAp)の機械的な強度及び物理的な性状は、生体骨のそれらとは非常に異なっている。下記の表1に示したように、生体骨よりも大きなヤング率を有するが、生体骨よりも低い破壊靭性値を有する。それゆえ、ハイドロキシアパタイトは、生体骨によりも脆性破壊を起こしやすい。
【表1】
【0016】
ハイドロキシアパタイトは柔軟性に乏しく、より容易に割れやすいので、HApを骨の置換又は修復に使用した場合には、その骨-HApの接合面において異常な応力が発生する。前記の応力は時間の経過とともに悪化する接合面を発生させるか、又は前記の応力は、応力を発生する接合面の周辺において骨の喪失を招く生物学的な応答(例えば、骨のリモデリングのアンバランスによる骨吸収の促進)の引き金にさえなる。結果として、前記の骨の置換は、時間の経過とともに適切に機能しなくなる。たとえば、図1は、ハイドロキシアパタイト片を脊柱にスペーサーとして使用した例を示す。時間の経過とともに、前記の骨及びHApの接合が悪化し、骨の陥没が発生する。
【0017】
上記の問題を克服するために、生体骨のそれと類似した性状を有するHApセラミック材料を開発することが望ましい。この点では、本発明の発明者は、多孔性HApの性状を前記のHAp構造の気孔に他の材料を含ませることにより変えることができることをすでに報告した。例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を多孔性HApに導入した場合、前記のハイブリッドでは、ヤング率が~63GPaであり、破壊靭性値が~2 MPa・m-1であり、曲げ強さが~65MPaであることを報告した。Aizawa
et al., Bioceramics, vol. 12, p. 453 (1999); and Aizawa et al., Key Engineer. Mater, vol. 218-220, p.465-468 (2002)を参照されたい。PMMAは相対的にin vivoでよい耐性を示したが、PMMAは生分解性ではないので、HApセラミックスの気孔が永久的に塞がれたままである。
【0018】
本発明のいくらかの態様は、生分解性ポリマーを含む多孔性HApセラミックスに関するものである。前記のハイブリッド材料は、生体骨と類似の、望ましい機械特性を有する。加えて、前記の生分解性ポリマーは分解され、そして吸収されるため、新たな骨の成長の空間を作ることができる。
【0019】
図2は、HAp及び生分解性材料からなるハイブリッドを調製するための本発明の方法を図解するフローチャートを示す。この例において、前記の生分解性材料は、ポリ-L-乳酸(PLLA)である。しかしながら、他の適切な生分解性材料を代わりに使用することができることを当業者ならば認識するであろう。
【0020】
図2に示すように、HApファイバー及びカーボンビーズを含むスラリーを調製する(ステップ21)。前記のHApファイバーをKawata et al., “Development
of porous ceramics with well-controlled porosities and pore sizes from apatite
fibers and their evaluations,” Journal of Materials Sciences: Materials in
medicine, Vol. 15, pp. 817-823 (2004) の開示に従うことにより調製することができる。この論文は、以下の本明細書の記載では「Kawata論文」と言及されている。
【0021】
例えば、HApファイバーを、Ca(NO3)2 (0.167 mol・dm-3), (NH4)2HPO4
(0.1 mol・dm-3), (NH2)2CO (0.5
mol・dm-3),及びHNO3 (0.1 mol・dm-3)を含む水性溶液における沈殿により調製することができる。この溶液にはCa/Pが1.67の割合で含まれる。この溶液を80°Cで24時間加熱し、ついで90°Cで72時間加熱することにより、約60-100 mmの長軸径をもつアパタイトファイバーを調製する。これらのファイバーを、例えば濾過により集める。懸濁液を調製するために、前記のアパタイトファイバーを適当な濃度(例えば、約1重量%)で水に懸濁する。
【0022】
前記のスラリー中の前記のカーボンビーズは、あらゆる熱分解性粒子で置換されている。前記の熱分解性材料(例えば、カーボンビーズ又はプラスチックビーズ)は前記のファイバーの間に空間を作り出すであろう。熱処理後、これらの材料は、セラミックスの内部で消失及び気孔の背後に移るであろう。記載を明確にするために、前記の分解性材料の例としてカーボンビーズの使用について以下に説明するであろう。しかしながら、当業者ならば、前記のセラミックスの内部で気孔から消失することができる、他の同様な分解性材料(例えば、プラスチックビーズ等)もまた使用することを理解しているであろう。カーボンビーズは市販されている。たとえば、Nikabeads(登録商標)は、様々な直径(5、20又は150 mm)でNippon Carbon Co., Ltd.(Yokohama, Japan)から入手できる。
【0023】
Kawata論文の示されているように、前記のカーボンビーズのサイズは、最終的に前記のセラミックスの気孔のサイズに影響する。本発明の態様についての使用では、平均直径が約10-500mmであり、好ましくは約100-200mmであり、最も好ましくは約150mmである、カーボンビーズ(又は熱分解性材料ビーズ)を使用することができる。
【0024】
さらに、前記のHApファイバーの量あたりの前記のカーボンビーズの量は、最終的に前記のセラミックスの全気孔率に影響する。本発明の態様によれば、HApに対するカーボンビーズの使用割合は、1/10〜50/10(w/w)、好ましくは2/10〜10/10、最も好ましくは約5/10である。
【0025】
前記のカーボンビーズ及び前記のHApファイバーの密度が異なり、前記のスラリーでは分離してしまうので、これらの二つの成分を均一に分散させるもう一つの成分を添加することが望ましい。例えば、適当な濃度(例えば、前記のアパタイトファイバーの量の1/10)の寒天が使用される。寒天を使用することにより、前記のファイバー及びカーボンビーズはよく分散され、最終的に三次元セラミックス構造において前記の気孔の分布を均一(無作為)にする。寒天(又は同様な懸濁助剤)を使用しないと、前記のファイバーは、凝縮してシート(二次元)構造になる傾向がある。寒天を含む前記のスラリーを加温して幾分か高い温度(例えば、水浴)にし、前記の寒天を溶かす。当業者ならば、過度に実験をすることなく、寒天の量を最適化する方法及び使用する温度を理解しているであろう。さらに、寒天以外の材料が前記のHApファイバーと前記のカーボンビーズの均一な分散を助長し、そして高温で分解されるならば、前記の寒天以外の材料もまた使用されてもよい。
【0026】
前記のスラリー(前記のアパタイトスラリー又はアパタイト−寒天スラリーの何れか)に、前記の水溶液の表面張力を変化させて、前記の粒子の分散を助長するために溶媒(例えばエタノールのようなアルコール)を任意に添加してもよい。前記の溶媒の量は、前記の望ましい効果に依存するであろう。例えば、エタノールを使用した場合、エタノールは、前記の全量(水とエタノールを合わせた液量)に対して約10-50%(v/v)、好ましくは約30%v/v使用されてもよい。
【0027】
前記のスラリーは、目的とするセラミックスを調製するために焼結される(高温での加熱)、生成形体を調製するために使用される。例えば、生成形体の前駆体を調製するために、前記のスラリーを目的とする形状の型に注ぎ込む。前記の型は、多孔質で溶媒が浸透できる底面を有するので、前記の溶媒(水及びエタノール)を、必要ならば吸引濾過により除去することができる。前記に加えて、上記で言及したように、HApファイバー及びカーボンビーズを含む、前記の混合されたスラリーを、前記のスラリーに望ましい量の寒天を添加することにより均一にすることができる。前記のスラリーにおいて寒天は、三次元のセラミックス構造において均一に分布した(無作為)気孔を作り出すことができるのを助長する。
【0028】
前記の生成形体の前駆体を乾燥する。ついで、さらに、生成形体を調製するために、それに例えば約10-50 MPa、好ましくは約20-40 MPa、より好ましくは約30 MPaの選定された圧力を掛けてさらに圧縮する(ステップ23)。前記の圧縮するステップは、前記の最終製品であるセラミックスにおける前記の気孔サイズに影響し、そして前記の最終製品であるセラミックスの機械的強度にも影響する。
【0029】
ついで得られた生成形体を焼結して(例えば、高温化における加熱)、前記のセラミックスを調製する(ステップ24)。前記の焼結(加熱)ステップは従来の手順に従って行ってもよい。前記の加熱ステップは、約1000-1500°C、好ましくは約1200-1300°Cで行ってもよい。前記の焼結ステップは、電気炉で行ってもよい。さらに、本発明の態様に従うと、前記のハイドロキシアパタイトからの水酸基の消失を防止するために、前記の加熱ステップは、蒸気の雰囲気下で行ってもよい。前記の焼結(加熱)ステップに必要とされる時間は、前記の生成形体のサイズ、使用される温度及び他の条件に依存するであろう。典型的には、前記の硬化するステップは、数時間、例えば1-10時間、好ましくは約3-5時間を掛かってもよい。
【0030】
前記の加熱(高温による硬化)ステップでは、前記のHApファイバーが焼結により結合してセラミックスとなり、同時に前記のカーボンビーズが蒸発する。結果として、前記の最終的なHAp構造は、前記のファイバーの間の隙間により形成された小さな気孔(カーボンビーズが前記の生成形体に取り込まれていなかった。)とともに、相対的に大きな気孔(前記のカーボンビーズが存在した。)を有する。それゆえに、これらの手順により二つの形式の気孔(すなわち、大きな気孔及び小さな気孔)が分布するHAp構造が調製される。
【0031】
例えば、約150 mmの直径を有するカーボンビーズを使用した場合には、前記のHApセラミックスには約100 mm又はそれより大きい気孔が検出される。これらの気孔に加えて、生じたHApセラミックスはまた、前記のカーボンビーズを含まない前記のHApファイバーの間の隙間から生じる約1-5mmの直径のより小さい気孔を含む。すなわち、これらの多孔性HApセラミックスは、約数マイクロメーターの大きさの小さな気孔の一つのグループ、及び100μmよりも大きいサイズの気孔のもう一つのグループである二つの異なるサイズの分布を有する気孔を実際に有する。これは、二極化した多孔質構造をもつHApセラミックスと称される。
【0032】
図3の左側のパネル(A)に示したように、HApセラミックスは、カーボンビーズを添加することなくして調製された。結果として、前記の気孔は、数mm(例えば、1-5 mm)の範囲の小さいサイズである。図3右側のパネル(B)に示したように、カーボンビーズ(150 mmの直径)を添加して調製された前記のHApセラミックスは、前記の小さな気孔(1-5 mm)に加えて、より大きな気孔(100 mm又はそれより大きい気孔まで)を有する。これらの気孔は、図3ではそれぞれマクロ気孔及びミクロ気孔と言及されている。
【0033】
Kawata論文に特に言及されているように、前記のセラミックス調製物の全気孔率は、カーボンビーズサイズ及びHApの量に対するカーボンビーズ量の割合を変えることにより制御することができる。前記のカーボンビーズサイズ及びその使用量に加えて、生成形体の調製に使用される圧縮する圧力及び前記のセラミックスの調製の際に使用される焼結する温度も、最終製品の全気孔率に影響する。これらの要因の内で、前記のカーボンビーズ直径が最終的な気孔サイズに最も大きく影響する。これに対して、前記の圧縮する圧力及び前記の焼結する温度は、前記のセラミックスの最終的な気孔に比較的少ない影響を有する。
【0034】
本発明の態様に従うと、前記のHApセラミックスは、約30-80%の全気孔性、好ましくは40-70%の全気孔性を有する。カーボンビーズを使用することにより、これらのセラミックスは、相互接続された大きな気孔を有する。これらの相互接続された気孔は、前記の生物分解性ポリマーを包含することには望ましく、生体内で使用された場合には骨の新たな成長にも望ましい。
【0035】
気孔量のパーセンテージは、前記のセラミックスの物理的な強度及び機械特性に影響するであろう。それゆえ、より強く又はより硬いセラミックスが望まれるならば、より少量のカーボンビーズが使用される。他方、より柔軟なセラミックス又は大きな全気孔体積を有するセラミックスが望まれるならば、より多量のカーボンビーズが使用される。
【0036】
図4は、様々なサイズのカーボンビーズにより調製されたHApセラミックスの気孔サイズの分布及び気孔量を示す。図4、パネル(a)に示したように、カーボンビーズが含まれていない場合、調製されたセラミックスは最も小さい気孔(気孔がファイバー間の隙間から生ずるので、気孔の直径の中央値は1.2 mmである。)を有する。カーボンビーズ(5 mm)が含まれている場合、前記の調製されたセラミックスは、二種類のサイズの気孔(パネルb:気孔の直径の中央値は2.5 mmである。)カーボンビーズ(20 mm)が含まれている場合、前記の調製されたセラミックスは、より大きな気孔サイズの気孔(パネルb:気孔の直径の中央値は2.6 mmである。)図4、パネル(d)は、150 mmの直径のカーボンビーズを使用して調製された前記のセラミックスが5.4 mmの中間直径の気孔を有することを示す。しかしながら、これらのセラミックスは、2種類の気孔サイズを有し、その内の一方は10 mm未満の気孔を有し、他方は、明らかに10〜100 mmの間の気孔直径の分布を示す。
【0037】
前に特記したように、カーボンビーズ(例えば、直径150 mm)を含ませることにより調製された前記の多孔性HApセラミックスは、〜100 mmオーダーの直径の大きな気孔を有する。前記の大きなサイズの気孔は、前記の多孔性HApセラミックスにおいて多くの連通孔を生ずる。以下に記載した本発明の態様によれば、前記の連通孔が望ましい。なぜならば、前記の連通孔は前記のセラミックスに生分解性ポリマーを含ませるのを促進するからである。さらに、これらの連通孔もまた、前記のデバイスが患者に埋入された後に前記のセラミックスの内部における骨組織の形成を助成する。
【0038】
前記のセラミックス調製物は、さらに加工されて(例えば、カット又は研磨)最終の望みのセラミックス製品に調製される。前記の更なる加工ステップにより、意図された用途のための形態のセラミックス製品が調製される。
【0039】
再び図2を参照すると、本発明の態様に従うとHAp多孔性セラミックスは、1つ以上の生分解性材料を前記の気孔(特にこれらの気孔により形成された前記の連通孔)に包含させることによりさらに加工される(ステップ25)。適切な生分解性材料の例としては、エステル又はアミド等が挙げられる。本発明の態様に従うと、前記の生分解性材料は好ましくはエステルである。より好ましくは、前記の前記の生分解性材料は、例えばL-乳酸、グリコール酸、クエン酸のような天然の酸のエステルである。前記の生分解性ポリマーもまた、例えば乳酸及びグリコール酸の混合ポリマーのようなこれらの材料の混合物から調製されてもよい。以下の記載において、前記の生分解性材料の例としてポリ-L-乳酸エステルが使用される。しかしながら、当業者ならば本発明の態様では、本技術分野で知られたあらゆる適切な生分解性材料を使用されることができることを認識するであろう。
【0040】
本発明のいくらかの態様に従えば、ポリ乳酸エステルは、前記の乳酸を重合する反応を触媒する酵素により多孔性HApセラミックスの気孔に取り込まれる。リパーゼを含む、あらゆる適切な酵素が、前記の重合反応には使用される。適切なリパーゼとしては、リパーゼCA、リパーゼPS又はあらゆる適切なリパーゼが挙げられる。例えばSigma-Aldrich(St. Louis, MO)より入手できるBurkholderia cepaciaにより産生されるAmano lipase PSのようないくつかのリパーゼが市販されている。
【0041】
例えばリパーゼ(例えば、リパーゼS)酵素を使用する前記の乳酸(又はそのダイマーであるラクチド)の重合は、本技術分野では知られている。例えば、H. Uyama,
K. Takeya, S. Kobayashi, Bull. Chem. Soc. Jpn., 68, 56(1995) を参照されたい。本発明の態様に従えば、PLLA形成は、あらゆるプロトコールを使用することができ、及びあらゆる適切な条件下で実施されることができる。例えば、図5は、本発明の一つの態様に従ったHApセラミックスの気孔の内部における乳酸の重合の一つの方法を例示するフローチャートを示す。図5に示されているように、前記のHAp、乳酸(又はラクチド)及びリパーゼを反応容器中で混合する(ステップ51)。
【0042】
前記の基質及び酵素混合物を、前記の選ばれたリパーゼに好適な溶媒(例えば、バッファー)中で混合してもよい。もう一つの方法では、前記の基質(例えば、ラクチド)溶液及び前記の酵素溶液を別々に前記の多孔性HApセラミックスの内部に充満させてもよい。例えば、最初に前記の酵素溶液を前記のHApセラミックスに浸し、ついで前記の酵素が前記のセラミックスの気孔の表面に結合するいくらかの時間が経過後、それを乾燥させる(又は前記の気孔から前記の溶液を除去する。)。ついで、得られたセラミックスを前記の基質(例えばラクチド)含む溶液に浸す。
【0043】
凍結融解及び真空化に2回又は3回付すことにより前記の混合物からガスを除去する(ステップ52)。前記のガスを除去するステップは、セラミックスの内部の気孔に捕獲された空気を除去し、そして前記の反応液で置換することを確実にするためである。ついで、前記の反応溶液に不活性ガス、例えば窒素又はアルゴンを吹きかける(ステップ53)。前記の凍結−融解−真空化サイクルの操作を簡単に行うために、前記の溶解(及びそれに続く反応)を、ガスの排出及び前記の不活性ガスの導入を容易におこなえるバルブを備えた排出口が設置された反応容器中で行ってもよい。
【0044】
ついで、前記の重合を、前記の酵素及び使用された反応条件に依存する選定された時間について適当な温度に前記の反応混合物を保つことにより、前記の重合を進行させることができる。前記のリパーゼの商業的供給者は、しばしば前記の反応に使用される条件を推奨する。前記の特定の反応の効率を改善するこれの推奨及び実験に従ってもよい。前記の反応の最適化は、本技術分野では一般に知られたプラクティスである。
【0045】
いくらかの実験では、前記のPLLAの重合反応は、ラクチド及びリパーゼを使用して、100℃より高い温度(例えば130℃)で選定された時間(例えば168時間)継続することにより実施された。この高い温度では、このシステムは、前記の密閉された反応容器であるため加圧下にある。この高圧は、前記のセラミックスの前記の気孔へ反応溶液を押し込むのに役立つかもしれない。この反応条件下では、前記の酵素は長い時間安定ではないかもしれない。それのみならず、本発明者は、良好な重合をするための前記の高温条件を見出した。前記の実際のメカニズムが知られていないが、前記の重合のいくらか又はほとんどはこの反応条件下では酵素により触媒作用がなくして起こるかもしれないということが可能性としてある。例えば、前記のシステムにおける前記のリパーゼが前記の反応の開始時点において前記の反応を触媒するといことが可能性としてある。一旦、前記のラクチド分子が重合し始めると、各分子には、順にもう一つのラクチド分子と反応することができる遊離の水酸基が発生する。それゆえ、前記の重合反応は、リパーゼが高温で活性を消失した後でさえ、連鎖反応のように進行するかもしれない。
【0046】
重合反応後、前記の過剰に形成されたPLLAは除去される(ステップ55)。ついで、前記のHAp-PLLAハイブリッドは、最終製品を提供するために研磨されてもよい(ステップ56)。図5に示された方法はあくまで例示であることを注記する。当業者ならば、本発明の範囲内においてこの手順の他の変法又は改良法が可能であることを認識するであろう。
【0047】
HApの中に含まれる生分解性ポリマー(例えば、ポリ-L-乳酸(PLLA))を有する前記の多孔性HApは、前記のHApセラミックス部分及び前記の生分解性材料(例えばPLLA)部分を含むハイブリッド材料である。図6及び図7に示すように、PLLAは前記のHApセラミックスの気孔を満たすので、前記の生じたハイブリッドの断面図は、多孔性の形態から緻密な構造に変化した。これらの図において、PHA(−)は、調製過程でカーボンビーズが加えられていないHApセラミックスを意味し、PHA(150)は、平均直径が150 mmのカーボンビーズが加えられたことを意味する。加えて、PLLA(x%)はPLLAの重合において使用されたリパーゼのx%(100%としてラクチドにおける乳酸の量に比例して)を意味する。
【0048】
図6は、様々なセラミックス(PLLAを有しない)及びハイブリッド(PLLAを有しする)の走査電子顕微鏡(scanning EM)の写真を示す。図6の左のパネルに示したように、カーボンビーズを加えずに調製されたHApセラミックスであるPHA(−)は、小さな気孔(HApファイバーの絡み合わせから生ずる)のみを含む(図3も参照されたい。)。これに対して、HApファイバーにカーボンビーズ(直径150 mm)を加えて調製されたHApセラミックスであるPHA(150)は、大きな気孔(約100 mmのサイズ)及び小さい気孔(約数mmの直径)の両者を有する。
【0049】
図6の右パネルに示すように、3%のリパーゼ(ラクチドにおける乳酸の量に比例して)を使用して気孔中に生分解性材料(すなわち、PLLA)を形成させた後に、PHA(-)/PLLA(3%)ハイブリッドは、前記の顕微鏡の写真の滑らかな断面で立証されるように大部分の気孔がPLLAにより満たされていることを示す。同様に、PHA(150)/PLLA(3%)ハイブリッドは大きな気孔を備えていないし(図6の右側のパネル)、そしてその断面積はほとんど滑らかであることから、前記の大きな気孔の内部にPLLAが効率的に形成されていることを示している。両ケースにおいて、完全に満たされていない、残りの小さい気孔があるのみである。
【0050】
図7は、前記のセラミックスの気孔におけるPLLAによる充填状態の定量結果を示すグラフを示す。前記のチャートから、カーボンビーズを添加せずに調製された前記のHApセラミックスは約38%の全気孔率であるのに対し、150 mmのカーボンビーズを添加して調製されたものは約70%の気孔率であることが明らかになった。前記の気孔中にPLLAの形成後、すべての前記のハイブリッド材料には、約5-7%の気孔が残存している。この結果から、前記の5-7%の残存する気孔は、それらが調製された方法に関係なくすべてのセラミックスに共通していることが示唆された。さらに、この結果から、PHA(150)セラミックスもまた5-7%の残存する気孔のみを有しているので、前記のPHA(150)セラミックスのすべての大きな気孔は完全にPLLAにより満たされていることが示唆される。図7に示された結果からも、前記の重合反応を1%又は3%リパーゼで実施したとしても大きな差異はないことが示唆される。
【0051】
小さな気孔を有するHApセラミックス又はHAp-PLLAハイブリッドに比べて、大きな気孔を有するHApセラミックス又はHAp-PLLAハイブリッドの機械的又は物理的な性状は、著しく変わったと期待される。図8に示すように、大きな気孔を有するHApの曲げ強さ及びヤング率は、大きな気孔を有しないものよりも非常に小さい。PLLA形成により、前記の曲げ強さ及びヤング率が、小さな気孔を有するHApセラミックス及び大きな気孔を有するHApセラミックスの両者で増加する。前記の重合を1%又は3%リパーゼで実施したとしても大きな差異はないようである。
【0052】
図8に示された結果により、PLLA形成により大きな気孔を有するHApセラミックスの曲げ強さ及びヤング率が改善され、それらを前記の生体骨の物理的な性状に非常に近づけることができることが明らかに示された。本発明者らは、HApセラミックスにおける大きな気孔が、前記のセラミックスの内部における骨成長を誘発するために重要であることを見出した(図9に関する説明を参照されたい。)。しかしながら、HApセラミックスに大きな気孔が存在することにより、前記の大きな気孔を有しないHApセラミックスに比べて、前記のHApセラミックスの物理的な強度が著しく低下する。それゆえ、PLLA導入形成は、前記のHApセラミックス材料の有用性を改善する実用的なアプローチである。
【0053】
本発明の態様に従う大きな気孔を有するHAp-PLLAハイブリッドの曲げ強さ及びヤング率が低いことは、小さな気孔を有するHApに比べて、これらの材料をより順応性のあるものにしている。これらの大きな気孔を有するHAp-PLLAハイブリッド材料の用途としては、新たな骨の形成が望まれる用途が考えられる。それゆえ、これらの材料の低い物理的強度は一時的な効果を示すのみであろう。新たな骨の成長が一旦成し遂げられると、機械特性におけるこの相違は消失するであろう。さらに重要なことには、大きな気孔を有する前記のハイブリッドは、前記の相互接続された大きな気孔の内部における骨細胞(例えば、骨芽細胞)の内部成長を促進することができる。それゆえ、大きな気孔を有する前記のHAp-PLLAハイブリッドは、新たな骨形成が要求される状況へ適用されるであろう。
【0054】
図8に示すように、すべてのケース(大きな気孔を有するHApセラミックス又は小さな気孔を有するHApセラミックス)において、PLLAを導入すると、前記のセラミックス材料の機械的な強度(例えば、曲げ強さ及びヤング率)が、二つ以上の要因により増加する。これらの結果は、HApセラミックス材料の機械特性を変化させるために生分解性材料を使用するというコンセプトを実証する。さらに、これら結果から、気孔のサイズ及び/又はバイオポリマー形成の程度を制御することにより、性状の望ましい結合を成し遂げることができる。例えば、前記の生体骨の物理的性状に前記のHAp-PLLAハイブリッド材料の機械特性を保ちながら、例えば、より小さいカーボンビーズ(例えば、20、50又は100mmの直径)を使用して骨の進入に十分な大きさである、より小さい気孔を有する多孔性セラミックスを調製してもよい。
【0055】
前記のHAp-PLLAハイブリッド材料は、HApの望ましい生体適合性及びPLLAの生分解性を取り入れている。これらの材料は、in vivoで使用した場合に非常に高い生体適合性を有することが期待され、そして生分解性PLLAは、例えば骨芽細胞のような骨細胞の進出に取って変られるようにすると期待されている。それゆえ、これらの材料は、前記のハイブリッド材料の気孔中に新たな骨組織の形成を助成すると期待されている。
【0056】
本発明のHAp-PLLAハイブリッド材料の生体適合性及び有用性を試験するために、マウスの頭骨から誘導され、かつ骨芽細胞様の細胞としてその特性がよく解明されているMC3T3-E1細胞とともに、これらの材料をインキュベートした。5% CO2雰囲気下37℃で胎児の子牛の漿液を10%含むa-MEM培養液中で前記のインキュベーションを行った。手短に言えば、前記のハイブリッド材料の一片(直径が約15.5 mmであり、厚さが1-1.5 mmである。)を3.0×104個のMC3T3-E1細胞と共にインキュベートし、数日に亘りモニターした。前記の材料を所定の時間に取り出し、scanning EMにより経時的な前記の細胞の成長及び接合を観察した。
【0057】
図9に示すように、本発明の態様に従うHAp-PLLAハイブリッド材料は、その表面に細胞の成長を実によく誘発することができる。7日間経過時に細胞は、これらの材料上でよく増殖している。このSEM観察からは、明確に見出すことはできなかったが、PLLAが一部溶解し、その結果、形成された空間内に細胞が移動しながら、増殖しているものと思われる。これらの結果は本発明のHAp-PLLAハイブリッド材料が前記の細胞に対して無毒性であることを示し、さらにこれらは骨芽細胞様細胞の成長を助長することが見出された。それゆえ、本発明のHAp-PLLAハイブリッド材料は、骨の修復及び置換に有用であろう。
【0058】
骨の修復及び置換におけるこれらの材料の有用性をさらにin vivoで試験するために、これらの多孔性セラミックスをウサギの頸骨に埋設した。これらの実験において、三匹のウサギの各々が、市販されているセラミックスであるApaceram(登録商標)(Pentax Corp. Japanより入手。)と本発明の多孔性セラミックスとを比較するように使用された。Apaceram(登録商標)は、生体適合性ハイドロキシアパタイトである。
【0059】
埋設後4週間経過時の結果である図10(A)(Apaceram(登録商標))及び図10(B)(150 mmのカーボンビーズであるPHA(150)により調製された本発明の二極化した多孔質構造をもつHApセラミックス)に示されているように、トルイジンによるダークブルー染色に立証されるように、両セラミックスとも新たな骨の形成の兆候を示している。
図10(C)(Apaceram(登録商標))及び図10(D)(本発明の二方式の多孔性のHAp)は24週間経過時の結果である。
これらの結果から、骨形成の促進性、すなわち本発明の二極化した多孔質構造をもつHApの大きな気孔中における新たな骨の形成を促進する性質において、本発明の二極化した多孔質構造をもつHApは、既存の市販されている生体適合性セラミックス(Apaceram(登録商標))に比べて同等か又は優れていることが示されている。
【0060】
本発明の二極化した多孔質構造をもつHApの優れている性質は、前記のセラミックスの内部における骨細胞の成長をより促進するであろう、前記の大きな気孔が相互に連結しているという事実におそらく起因している。同時に、前記のより小さい気孔が、前記の細胞への栄養素の放出を促進するかもしれない。
【0061】
本発明の態様の利点は、以下の点の1つ以上を含んでもよい。本発明のHApセラミックスの二極化した多孔質構造は、相互接続されたチャンネルを形成する大きな気孔を含む。これらの内部で連結されているチャンネルはそのチャンネルの中のバイオポリマーの形成を促進する。より重要なことは、これらの相互接続されたチャンネルは、これらのセラミックスの内部における骨の成長を助成する。HApセラミックスにおける大きな気孔が存在することにより、これらの材料の物理的な性状が著しく変化する。しかしながら、これらの多孔性HApセラミックス材料の内部にPLLAポリマー(又は他の生分解性ポリマー)を形成することにより、前記の多孔性HApセラミックス材料の物理的な性状が非常に改善され、生体骨により類似した機械特性を有するこれらの材料を与える。それゆえ、これらのハイブリッド材料を骨の修復又は置換に使用した場合、それらは、その接合面に多くのストレスを誘発しないであろう。In vivoにおける研究から、これらのHAp-PLLAハイブリッド材料は、前記の細胞に対して無毒性であり、そして骨細胞(例えば、骨芽細胞)の成長を実際に促すことが示された。
【0062】
本発明は、限られた数の態様に関して記載されたが、本明細書における開示の利益を享受する当業者は、本明細書に開示された本発明の範囲から逸脱することなく他の態様を案出できることを認識するであろう。したがって、本発明の範囲は、添付された特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
【技術分野】
【0001】
関連出願に関する相互参照
本発明は、35 U.S.C. § 119に基づき2008年12月16日に出願された米国仮出願第61/138,016号の優先権を主張する。前記の仮出願の内容は、すべて引用により援用されている。
【0002】
本発明の技術分野
本発明は、骨の修復又は置換のための複合材料に関するものであり、さらに詳細にはハイドロキシアパタイト及び生体適合性ポリマーを含むハイブリッド材料に関するものである。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景
例えば骨折のような多くの疾患では、硬い組織(例えば骨)に対する損傷が含まれる。前記の状態では、前記の硬い組織の損傷を修復するために使用され得る材料が必要である。平均寿命の増加に伴い、前記の材料のニーズは実質的に増加すると期待されている。
【0004】
前記の修復に使用される前記の材料は、しばしば損傷を受けた硬い組織の機能を置換するために十分な機械的な強度を具備することが必要とされる。これらの材料は、前記の硬い組織自身が修復するまでの一時的に使用されるか、または永久的な置換として使用される。前記の硬い組織の修復に使用される様々な材料としてはセラミックス材料が挙げられる。
【0005】
最近になり、前記の目的に三つのタイプのセラミックスが臨床的に使用されている。生体活性なセラミックスは、宿主の骨に直接結合する材料である。前記の材料の例としては、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2;
HAp)が挙げられる。第二のタイプは生物分解性セラミックスである。これらの材料は、徐々に体に吸収されることができる。前記の生分解性材料としては、例えばリン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2;略称はTCPである。)が挙げられる。第三のタイプのバイオセラミックスは、生体不活性なセラミックスである。これらの材料は生体内で安定であり、高い機械的な強度を有している。生物学的に不活性なセラミックスの例としては、アルミナ(a-Al2O3)及び正方晶系ジルコニウム(t-ZrO2)が挙げられる。
【0006】
ハイドロキシアパタイトは、ヒトの体内の歯及び骨に存在する天然の構成成分である。
それゆえ、ハイドロキシアパタイト(HAp)は優れた生体適合性を有することから、硬組織の置換又は修復のための好適な材料の候補である。確かに、それは損傷を受けた骨を置換する充填材として、又はインプラント上における骨の成長を促すコーティング材として通常使用される。例えば、股関節や歯科インプラントといった医療用インプラントのいくつかは、ハイドロキシアパタイトによりコーティングされ、これらのインプラント上の骨形成を促進することが確認されている。
【0007】
ハイドロキシアパタイトのこれらの好ましい特性から、医療用途にこの材料を開発又は改良が非常に注目されている。これらの骨への結合及びその他の性質を改善するためにハイドロキシアパタイト及び他のインプラントをモデファイする様々な方法が開示されている。例えば、骨形成タンパク質によりこの材料をコーティングするという方法は、細胞の付着を改善し、そして続いて起こる組織への結合を改善することができることが示された。Zeng, H., et al., Biomaterials 20 (1999): 377 384を参照されたい。もう一つの通常使用されるモディフィケーションは、窒化物形成である。窒化物形成により、ハイドロキシアパタイトの硬さが改善され、そして生物学的な環境に対するハイドロキシアパタイトの化学的な安定性が改善される。Habelitz, S., et al., J. European Ceramic Society 19
(1999): 2685 2694, and Torrisi, L., Metallurgical
Science and Technology 17(1) (1999): 27 32を参照されたい。
【非特許文献1】Zeng, H., et al., Biomaterials 20 (1999): 377 384
【非特許文献2】Habelitz, S., et al., J. European Ceramic Society 19(1999): 2685 2694, and Torrisi, L., MetallurgicalScience and Technology 17(1) (1999): 27 32
【0008】
より最近になり、Risbudらに対して発行された米国特許第7,211,271号によれば、前記の材料上に組織の成長を促進するハイドロキシアパタイトを製造するために、これらの二つの方法(すなわち、窒化物形成、及び骨の骨形成タンパク質若しくはそのアナログ、又は前記のプロテイン若しくそのアナログをコードするDNAによるコーティング)が組み合わせられている。
【0009】
ハイドロキシアパタイト材料及びモデファイされたハイドロキシアパタイト材料は優れた生体適合性を有し、そして有益な組織/骨形成の促進効果を有しているが、その機械特性、特に靭性値及びヤング率は、皮質骨のそれらの値とはかなり異なっている。その結果として、骨の修復又は置換にハイドロキシアパタイトを使用すると、これらの人工的な材料と生体骨との連結部分の周りに望ましくない応力が発生する。前記の望ましくない応力により、最終的には連結が破壊される。それゆえ、ハイドロキシアパタイトの利点に加え、生体骨の機械特性により類似した新たな材料が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明の概要
本発明の一つの態様は、ハイドロキシアパタイト
セラミックスハイブリッド材料に関するものである。本発明の一つの態様に従うハイドロキシアパタイト セラミックスハイブリッド材料は、気孔を有するハイドロキシアパタイトセラミックス構造を含み、ハイドロキシアパタイトセラミックス構造の気孔の中に含まれた生分解性ポリマーを含む。前記の気孔は、前記のハイドロキシアパタイトセラミックス構造の体積の40-70%を占める。本発明の一つの態様では、前記の生分解性ポリマーは、リパーゼを触媒とする酵素重合反応により形成されるポリL-乳酸ポリマーである。
【0011】
本発明のもう一つの態様は、ハイドロキシアパタイトセラミックス材料を調製する方法に関するものである。本発明の態様に係る方法は、10 mm以上の平均気孔直径を有する気孔を含む、多孔性のハイドロキシアパタイトセラミックスを調製するステップ及び前記の多孔性のハイドロキシアパタイトセラミックスの気孔の中に生物分解性ポリマーを形成するステップを含む。前記の多孔性のハイドロキシアパタイトセラミックスは、選択された溶媒にハイドロキシアパタイトファイバー及び熱分解性粒子を懸濁させたスラリーを調製するステップ、前記のスラリーをペースト状にするために濾過するステップ、前記のペーストを使用して塊に成形するステップ、生成形体を調製するために前記の成形された塊を圧縮するステップ、及び多孔性のハイドロキシアパタイトセラミックス構造を調製するために少なくとも1000℃で前記の生成形体を加熱するステップにより調製される。
【0012】
本発明の他の態様及び利点は、次の記載及び添付された特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、骨の陥没を図解する脊椎における従来のハイドロキシアパタイトインプラントを示す。
【図2】図2は、多孔性のハイドロキシアパタイトセラミックスを本発明の一つの態様に従って調製するための方法を図解するフローチャートを示す。
【図3A】図3Aは、カーボンビーズの包含物を使用することなく調製された多孔性のHApセラミックスを示す。
【図3B】図3Bは、150 mmの直径を有するカーボンビーズの包含物を使用して本発明の一つの態様に従って調製された多孔性のHApセラミックスを示す。
【図4】図4a-4dは、異なる直径の様々なカーボンビーズを使用して調製されたHApセラミックスの気孔のサイズの分布を示す。
【図5】図5は、多孔性のHApセラミックスの気孔の中にポリマーを本発明の一つの態様に従って形成する方法を図解するフローチャートを示す。
【図6】図6は、本発明の一つの態様に従うHAp及びPLLAハイブリッド材料の微細構造を示す。
【図7】図7は、本発明の一つの態様に従う、様々なHAp及びPLLAハイブリッド材料の気孔率を示す。
【図8】図8は、本発明の様々なHAp-PLLAハイブリッド材料の曲げ強さ及びヤング率を示す。
【図9】図9は、本発明の一つの態様に従う、前記のHAp-PLLAハイブリッド材料上で7日間培養された細胞の形態を示す。なお、ポジティブコントロールとして高密度のHApセラミクスを使用し、そしてコントロールとして細胞培養プレート用のポリスチレンを使用した。
【図10】図10(A)-10(D)は、Apaceram(登録商標)と称される多孔性のセラミックス(図10(A)及び図10(C))及び本発明の二極化した多孔質構造を持つHApセラミックス(図10(B)及び図10(D))をウサギの頸骨に4週間(図10(A)及び図10(B))及び24週間(図10(B)及び図10(D))インプラントした場合における骨細胞の成長を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の態様は、生物活性を有するHApに基づくバイオセラミックス材料に関するものである。本発明の態様に従う生物活性を有するハイドロキシアパタイト材料は、骨の機械特性と類似した幾らかの機械特性を有する。本発明のいくらかの態様は、HAp及びポリ-L-乳酸(PLLA)ハイブリッド材料に関するものである。これらのHAp-PLLAハイブリッド材料の機械的強度及びヤング率は、HApよりも生体骨のそれらに近い。さらに、PLLAは生分解性であり、そして体に吸収されることができるため、新しい骨の成長のためのスペースを形成することができる。
本発明のいくらかの態様は、これらのハイブリッド材料を調製及び使用する方法に関するものである。
【0015】
上記で説明したように、ハイドロキシアパタイト(HAp)の機械的な強度及び物理的な性状は、生体骨のそれらとは非常に異なっている。下記の表1に示したように、生体骨よりも大きなヤング率を有するが、生体骨よりも低い破壊靭性値を有する。それゆえ、ハイドロキシアパタイトは、生体骨によりも脆性破壊を起こしやすい。
【表1】
【0016】
ハイドロキシアパタイトは柔軟性に乏しく、より容易に割れやすいので、HApを骨の置換又は修復に使用した場合には、その骨-HApの接合面において異常な応力が発生する。前記の応力は時間の経過とともに悪化する接合面を発生させるか、又は前記の応力は、応力を発生する接合面の周辺において骨の喪失を招く生物学的な応答(例えば、骨のリモデリングのアンバランスによる骨吸収の促進)の引き金にさえなる。結果として、前記の骨の置換は、時間の経過とともに適切に機能しなくなる。たとえば、図1は、ハイドロキシアパタイト片を脊柱にスペーサーとして使用した例を示す。時間の経過とともに、前記の骨及びHApの接合が悪化し、骨の陥没が発生する。
【0017】
上記の問題を克服するために、生体骨のそれと類似した性状を有するHApセラミック材料を開発することが望ましい。この点では、本発明の発明者は、多孔性HApの性状を前記のHAp構造の気孔に他の材料を含ませることにより変えることができることをすでに報告した。例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を多孔性HApに導入した場合、前記のハイブリッドでは、ヤング率が~63GPaであり、破壊靭性値が~2 MPa・m-1であり、曲げ強さが~65MPaであることを報告した。Aizawa
et al., Bioceramics, vol. 12, p. 453 (1999); and Aizawa et al., Key Engineer. Mater, vol. 218-220, p.465-468 (2002)を参照されたい。PMMAは相対的にin vivoでよい耐性を示したが、PMMAは生分解性ではないので、HApセラミックスの気孔が永久的に塞がれたままである。
【0018】
本発明のいくらかの態様は、生分解性ポリマーを含む多孔性HApセラミックスに関するものである。前記のハイブリッド材料は、生体骨と類似の、望ましい機械特性を有する。加えて、前記の生分解性ポリマーは分解され、そして吸収されるため、新たな骨の成長の空間を作ることができる。
【0019】
図2は、HAp及び生分解性材料からなるハイブリッドを調製するための本発明の方法を図解するフローチャートを示す。この例において、前記の生分解性材料は、ポリ-L-乳酸(PLLA)である。しかしながら、他の適切な生分解性材料を代わりに使用することができることを当業者ならば認識するであろう。
【0020】
図2に示すように、HApファイバー及びカーボンビーズを含むスラリーを調製する(ステップ21)。前記のHApファイバーをKawata et al., “Development
of porous ceramics with well-controlled porosities and pore sizes from apatite
fibers and their evaluations,” Journal of Materials Sciences: Materials in
medicine, Vol. 15, pp. 817-823 (2004) の開示に従うことにより調製することができる。この論文は、以下の本明細書の記載では「Kawata論文」と言及されている。
【0021】
例えば、HApファイバーを、Ca(NO3)2 (0.167 mol・dm-3), (NH4)2HPO4
(0.1 mol・dm-3), (NH2)2CO (0.5
mol・dm-3),及びHNO3 (0.1 mol・dm-3)を含む水性溶液における沈殿により調製することができる。この溶液にはCa/Pが1.67の割合で含まれる。この溶液を80°Cで24時間加熱し、ついで90°Cで72時間加熱することにより、約60-100 mmの長軸径をもつアパタイトファイバーを調製する。これらのファイバーを、例えば濾過により集める。懸濁液を調製するために、前記のアパタイトファイバーを適当な濃度(例えば、約1重量%)で水に懸濁する。
【0022】
前記のスラリー中の前記のカーボンビーズは、あらゆる熱分解性粒子で置換されている。前記の熱分解性材料(例えば、カーボンビーズ又はプラスチックビーズ)は前記のファイバーの間に空間を作り出すであろう。熱処理後、これらの材料は、セラミックスの内部で消失及び気孔の背後に移るであろう。記載を明確にするために、前記の分解性材料の例としてカーボンビーズの使用について以下に説明するであろう。しかしながら、当業者ならば、前記のセラミックスの内部で気孔から消失することができる、他の同様な分解性材料(例えば、プラスチックビーズ等)もまた使用することを理解しているであろう。カーボンビーズは市販されている。たとえば、Nikabeads(登録商標)は、様々な直径(5、20又は150 mm)でNippon Carbon Co., Ltd.(Yokohama, Japan)から入手できる。
【0023】
Kawata論文の示されているように、前記のカーボンビーズのサイズは、最終的に前記のセラミックスの気孔のサイズに影響する。本発明の態様についての使用では、平均直径が約10-500mmであり、好ましくは約100-200mmであり、最も好ましくは約150mmである、カーボンビーズ(又は熱分解性材料ビーズ)を使用することができる。
【0024】
さらに、前記のHApファイバーの量あたりの前記のカーボンビーズの量は、最終的に前記のセラミックスの全気孔率に影響する。本発明の態様によれば、HApに対するカーボンビーズの使用割合は、1/10〜50/10(w/w)、好ましくは2/10〜10/10、最も好ましくは約5/10である。
【0025】
前記のカーボンビーズ及び前記のHApファイバーの密度が異なり、前記のスラリーでは分離してしまうので、これらの二つの成分を均一に分散させるもう一つの成分を添加することが望ましい。例えば、適当な濃度(例えば、前記のアパタイトファイバーの量の1/10)の寒天が使用される。寒天を使用することにより、前記のファイバー及びカーボンビーズはよく分散され、最終的に三次元セラミックス構造において前記の気孔の分布を均一(無作為)にする。寒天(又は同様な懸濁助剤)を使用しないと、前記のファイバーは、凝縮してシート(二次元)構造になる傾向がある。寒天を含む前記のスラリーを加温して幾分か高い温度(例えば、水浴)にし、前記の寒天を溶かす。当業者ならば、過度に実験をすることなく、寒天の量を最適化する方法及び使用する温度を理解しているであろう。さらに、寒天以外の材料が前記のHApファイバーと前記のカーボンビーズの均一な分散を助長し、そして高温で分解されるならば、前記の寒天以外の材料もまた使用されてもよい。
【0026】
前記のスラリー(前記のアパタイトスラリー又はアパタイト−寒天スラリーの何れか)に、前記の水溶液の表面張力を変化させて、前記の粒子の分散を助長するために溶媒(例えばエタノールのようなアルコール)を任意に添加してもよい。前記の溶媒の量は、前記の望ましい効果に依存するであろう。例えば、エタノールを使用した場合、エタノールは、前記の全量(水とエタノールを合わせた液量)に対して約10-50%(v/v)、好ましくは約30%v/v使用されてもよい。
【0027】
前記のスラリーは、目的とするセラミックスを調製するために焼結される(高温での加熱)、生成形体を調製するために使用される。例えば、生成形体の前駆体を調製するために、前記のスラリーを目的とする形状の型に注ぎ込む。前記の型は、多孔質で溶媒が浸透できる底面を有するので、前記の溶媒(水及びエタノール)を、必要ならば吸引濾過により除去することができる。前記に加えて、上記で言及したように、HApファイバー及びカーボンビーズを含む、前記の混合されたスラリーを、前記のスラリーに望ましい量の寒天を添加することにより均一にすることができる。前記のスラリーにおいて寒天は、三次元のセラミックス構造において均一に分布した(無作為)気孔を作り出すことができるのを助長する。
【0028】
前記の生成形体の前駆体を乾燥する。ついで、さらに、生成形体を調製するために、それに例えば約10-50 MPa、好ましくは約20-40 MPa、より好ましくは約30 MPaの選定された圧力を掛けてさらに圧縮する(ステップ23)。前記の圧縮するステップは、前記の最終製品であるセラミックスにおける前記の気孔サイズに影響し、そして前記の最終製品であるセラミックスの機械的強度にも影響する。
【0029】
ついで得られた生成形体を焼結して(例えば、高温化における加熱)、前記のセラミックスを調製する(ステップ24)。前記の焼結(加熱)ステップは従来の手順に従って行ってもよい。前記の加熱ステップは、約1000-1500°C、好ましくは約1200-1300°Cで行ってもよい。前記の焼結ステップは、電気炉で行ってもよい。さらに、本発明の態様に従うと、前記のハイドロキシアパタイトからの水酸基の消失を防止するために、前記の加熱ステップは、蒸気の雰囲気下で行ってもよい。前記の焼結(加熱)ステップに必要とされる時間は、前記の生成形体のサイズ、使用される温度及び他の条件に依存するであろう。典型的には、前記の硬化するステップは、数時間、例えば1-10時間、好ましくは約3-5時間を掛かってもよい。
【0030】
前記の加熱(高温による硬化)ステップでは、前記のHApファイバーが焼結により結合してセラミックスとなり、同時に前記のカーボンビーズが蒸発する。結果として、前記の最終的なHAp構造は、前記のファイバーの間の隙間により形成された小さな気孔(カーボンビーズが前記の生成形体に取り込まれていなかった。)とともに、相対的に大きな気孔(前記のカーボンビーズが存在した。)を有する。それゆえに、これらの手順により二つの形式の気孔(すなわち、大きな気孔及び小さな気孔)が分布するHAp構造が調製される。
【0031】
例えば、約150 mmの直径を有するカーボンビーズを使用した場合には、前記のHApセラミックスには約100 mm又はそれより大きい気孔が検出される。これらの気孔に加えて、生じたHApセラミックスはまた、前記のカーボンビーズを含まない前記のHApファイバーの間の隙間から生じる約1-5mmの直径のより小さい気孔を含む。すなわち、これらの多孔性HApセラミックスは、約数マイクロメーターの大きさの小さな気孔の一つのグループ、及び100μmよりも大きいサイズの気孔のもう一つのグループである二つの異なるサイズの分布を有する気孔を実際に有する。これは、二極化した多孔質構造をもつHApセラミックスと称される。
【0032】
図3の左側のパネル(A)に示したように、HApセラミックスは、カーボンビーズを添加することなくして調製された。結果として、前記の気孔は、数mm(例えば、1-5 mm)の範囲の小さいサイズである。図3右側のパネル(B)に示したように、カーボンビーズ(150 mmの直径)を添加して調製された前記のHApセラミックスは、前記の小さな気孔(1-5 mm)に加えて、より大きな気孔(100 mm又はそれより大きい気孔まで)を有する。これらの気孔は、図3ではそれぞれマクロ気孔及びミクロ気孔と言及されている。
【0033】
Kawata論文に特に言及されているように、前記のセラミックス調製物の全気孔率は、カーボンビーズサイズ及びHApの量に対するカーボンビーズ量の割合を変えることにより制御することができる。前記のカーボンビーズサイズ及びその使用量に加えて、生成形体の調製に使用される圧縮する圧力及び前記のセラミックスの調製の際に使用される焼結する温度も、最終製品の全気孔率に影響する。これらの要因の内で、前記のカーボンビーズ直径が最終的な気孔サイズに最も大きく影響する。これに対して、前記の圧縮する圧力及び前記の焼結する温度は、前記のセラミックスの最終的な気孔に比較的少ない影響を有する。
【0034】
本発明の態様に従うと、前記のHApセラミックスは、約30-80%の全気孔性、好ましくは40-70%の全気孔性を有する。カーボンビーズを使用することにより、これらのセラミックスは、相互接続された大きな気孔を有する。これらの相互接続された気孔は、前記の生物分解性ポリマーを包含することには望ましく、生体内で使用された場合には骨の新たな成長にも望ましい。
【0035】
気孔量のパーセンテージは、前記のセラミックスの物理的な強度及び機械特性に影響するであろう。それゆえ、より強く又はより硬いセラミックスが望まれるならば、より少量のカーボンビーズが使用される。他方、より柔軟なセラミックス又は大きな全気孔体積を有するセラミックスが望まれるならば、より多量のカーボンビーズが使用される。
【0036】
図4は、様々なサイズのカーボンビーズにより調製されたHApセラミックスの気孔サイズの分布及び気孔量を示す。図4、パネル(a)に示したように、カーボンビーズが含まれていない場合、調製されたセラミックスは最も小さい気孔(気孔がファイバー間の隙間から生ずるので、気孔の直径の中央値は1.2 mmである。)を有する。カーボンビーズ(5 mm)が含まれている場合、前記の調製されたセラミックスは、二種類のサイズの気孔(パネルb:気孔の直径の中央値は2.5 mmである。)カーボンビーズ(20 mm)が含まれている場合、前記の調製されたセラミックスは、より大きな気孔サイズの気孔(パネルb:気孔の直径の中央値は2.6 mmである。)図4、パネル(d)は、150 mmの直径のカーボンビーズを使用して調製された前記のセラミックスが5.4 mmの中間直径の気孔を有することを示す。しかしながら、これらのセラミックスは、2種類の気孔サイズを有し、その内の一方は10 mm未満の気孔を有し、他方は、明らかに10〜100 mmの間の気孔直径の分布を示す。
【0037】
前に特記したように、カーボンビーズ(例えば、直径150 mm)を含ませることにより調製された前記の多孔性HApセラミックスは、〜100 mmオーダーの直径の大きな気孔を有する。前記の大きなサイズの気孔は、前記の多孔性HApセラミックスにおいて多くの連通孔を生ずる。以下に記載した本発明の態様によれば、前記の連通孔が望ましい。なぜならば、前記の連通孔は前記のセラミックスに生分解性ポリマーを含ませるのを促進するからである。さらに、これらの連通孔もまた、前記のデバイスが患者に埋入された後に前記のセラミックスの内部における骨組織の形成を助成する。
【0038】
前記のセラミックス調製物は、さらに加工されて(例えば、カット又は研磨)最終の望みのセラミックス製品に調製される。前記の更なる加工ステップにより、意図された用途のための形態のセラミックス製品が調製される。
【0039】
再び図2を参照すると、本発明の態様に従うとHAp多孔性セラミックスは、1つ以上の生分解性材料を前記の気孔(特にこれらの気孔により形成された前記の連通孔)に包含させることによりさらに加工される(ステップ25)。適切な生分解性材料の例としては、エステル又はアミド等が挙げられる。本発明の態様に従うと、前記の生分解性材料は好ましくはエステルである。より好ましくは、前記の前記の生分解性材料は、例えばL-乳酸、グリコール酸、クエン酸のような天然の酸のエステルである。前記の生分解性ポリマーもまた、例えば乳酸及びグリコール酸の混合ポリマーのようなこれらの材料の混合物から調製されてもよい。以下の記載において、前記の生分解性材料の例としてポリ-L-乳酸エステルが使用される。しかしながら、当業者ならば本発明の態様では、本技術分野で知られたあらゆる適切な生分解性材料を使用されることができることを認識するであろう。
【0040】
本発明のいくらかの態様に従えば、ポリ乳酸エステルは、前記の乳酸を重合する反応を触媒する酵素により多孔性HApセラミックスの気孔に取り込まれる。リパーゼを含む、あらゆる適切な酵素が、前記の重合反応には使用される。適切なリパーゼとしては、リパーゼCA、リパーゼPS又はあらゆる適切なリパーゼが挙げられる。例えばSigma-Aldrich(St. Louis, MO)より入手できるBurkholderia cepaciaにより産生されるAmano lipase PSのようないくつかのリパーゼが市販されている。
【0041】
例えばリパーゼ(例えば、リパーゼS)酵素を使用する前記の乳酸(又はそのダイマーであるラクチド)の重合は、本技術分野では知られている。例えば、H. Uyama,
K. Takeya, S. Kobayashi, Bull. Chem. Soc. Jpn., 68, 56(1995) を参照されたい。本発明の態様に従えば、PLLA形成は、あらゆるプロトコールを使用することができ、及びあらゆる適切な条件下で実施されることができる。例えば、図5は、本発明の一つの態様に従ったHApセラミックスの気孔の内部における乳酸の重合の一つの方法を例示するフローチャートを示す。図5に示されているように、前記のHAp、乳酸(又はラクチド)及びリパーゼを反応容器中で混合する(ステップ51)。
【0042】
前記の基質及び酵素混合物を、前記の選ばれたリパーゼに好適な溶媒(例えば、バッファー)中で混合してもよい。もう一つの方法では、前記の基質(例えば、ラクチド)溶液及び前記の酵素溶液を別々に前記の多孔性HApセラミックスの内部に充満させてもよい。例えば、最初に前記の酵素溶液を前記のHApセラミックスに浸し、ついで前記の酵素が前記のセラミックスの気孔の表面に結合するいくらかの時間が経過後、それを乾燥させる(又は前記の気孔から前記の溶液を除去する。)。ついで、得られたセラミックスを前記の基質(例えばラクチド)含む溶液に浸す。
【0043】
凍結融解及び真空化に2回又は3回付すことにより前記の混合物からガスを除去する(ステップ52)。前記のガスを除去するステップは、セラミックスの内部の気孔に捕獲された空気を除去し、そして前記の反応液で置換することを確実にするためである。ついで、前記の反応溶液に不活性ガス、例えば窒素又はアルゴンを吹きかける(ステップ53)。前記の凍結−融解−真空化サイクルの操作を簡単に行うために、前記の溶解(及びそれに続く反応)を、ガスの排出及び前記の不活性ガスの導入を容易におこなえるバルブを備えた排出口が設置された反応容器中で行ってもよい。
【0044】
ついで、前記の重合を、前記の酵素及び使用された反応条件に依存する選定された時間について適当な温度に前記の反応混合物を保つことにより、前記の重合を進行させることができる。前記のリパーゼの商業的供給者は、しばしば前記の反応に使用される条件を推奨する。前記の特定の反応の効率を改善するこれの推奨及び実験に従ってもよい。前記の反応の最適化は、本技術分野では一般に知られたプラクティスである。
【0045】
いくらかの実験では、前記のPLLAの重合反応は、ラクチド及びリパーゼを使用して、100℃より高い温度(例えば130℃)で選定された時間(例えば168時間)継続することにより実施された。この高い温度では、このシステムは、前記の密閉された反応容器であるため加圧下にある。この高圧は、前記のセラミックスの前記の気孔へ反応溶液を押し込むのに役立つかもしれない。この反応条件下では、前記の酵素は長い時間安定ではないかもしれない。それのみならず、本発明者は、良好な重合をするための前記の高温条件を見出した。前記の実際のメカニズムが知られていないが、前記の重合のいくらか又はほとんどはこの反応条件下では酵素により触媒作用がなくして起こるかもしれないということが可能性としてある。例えば、前記のシステムにおける前記のリパーゼが前記の反応の開始時点において前記の反応を触媒するといことが可能性としてある。一旦、前記のラクチド分子が重合し始めると、各分子には、順にもう一つのラクチド分子と反応することができる遊離の水酸基が発生する。それゆえ、前記の重合反応は、リパーゼが高温で活性を消失した後でさえ、連鎖反応のように進行するかもしれない。
【0046】
重合反応後、前記の過剰に形成されたPLLAは除去される(ステップ55)。ついで、前記のHAp-PLLAハイブリッドは、最終製品を提供するために研磨されてもよい(ステップ56)。図5に示された方法はあくまで例示であることを注記する。当業者ならば、本発明の範囲内においてこの手順の他の変法又は改良法が可能であることを認識するであろう。
【0047】
HApの中に含まれる生分解性ポリマー(例えば、ポリ-L-乳酸(PLLA))を有する前記の多孔性HApは、前記のHApセラミックス部分及び前記の生分解性材料(例えばPLLA)部分を含むハイブリッド材料である。図6及び図7に示すように、PLLAは前記のHApセラミックスの気孔を満たすので、前記の生じたハイブリッドの断面図は、多孔性の形態から緻密な構造に変化した。これらの図において、PHA(−)は、調製過程でカーボンビーズが加えられていないHApセラミックスを意味し、PHA(150)は、平均直径が150 mmのカーボンビーズが加えられたことを意味する。加えて、PLLA(x%)はPLLAの重合において使用されたリパーゼのx%(100%としてラクチドにおける乳酸の量に比例して)を意味する。
【0048】
図6は、様々なセラミックス(PLLAを有しない)及びハイブリッド(PLLAを有しする)の走査電子顕微鏡(scanning EM)の写真を示す。図6の左のパネルに示したように、カーボンビーズを加えずに調製されたHApセラミックスであるPHA(−)は、小さな気孔(HApファイバーの絡み合わせから生ずる)のみを含む(図3も参照されたい。)。これに対して、HApファイバーにカーボンビーズ(直径150 mm)を加えて調製されたHApセラミックスであるPHA(150)は、大きな気孔(約100 mmのサイズ)及び小さい気孔(約数mmの直径)の両者を有する。
【0049】
図6の右パネルに示すように、3%のリパーゼ(ラクチドにおける乳酸の量に比例して)を使用して気孔中に生分解性材料(すなわち、PLLA)を形成させた後に、PHA(-)/PLLA(3%)ハイブリッドは、前記の顕微鏡の写真の滑らかな断面で立証されるように大部分の気孔がPLLAにより満たされていることを示す。同様に、PHA(150)/PLLA(3%)ハイブリッドは大きな気孔を備えていないし(図6の右側のパネル)、そしてその断面積はほとんど滑らかであることから、前記の大きな気孔の内部にPLLAが効率的に形成されていることを示している。両ケースにおいて、完全に満たされていない、残りの小さい気孔があるのみである。
【0050】
図7は、前記のセラミックスの気孔におけるPLLAによる充填状態の定量結果を示すグラフを示す。前記のチャートから、カーボンビーズを添加せずに調製された前記のHApセラミックスは約38%の全気孔率であるのに対し、150 mmのカーボンビーズを添加して調製されたものは約70%の気孔率であることが明らかになった。前記の気孔中にPLLAの形成後、すべての前記のハイブリッド材料には、約5-7%の気孔が残存している。この結果から、前記の5-7%の残存する気孔は、それらが調製された方法に関係なくすべてのセラミックスに共通していることが示唆された。さらに、この結果から、PHA(150)セラミックスもまた5-7%の残存する気孔のみを有しているので、前記のPHA(150)セラミックスのすべての大きな気孔は完全にPLLAにより満たされていることが示唆される。図7に示された結果からも、前記の重合反応を1%又は3%リパーゼで実施したとしても大きな差異はないことが示唆される。
【0051】
小さな気孔を有するHApセラミックス又はHAp-PLLAハイブリッドに比べて、大きな気孔を有するHApセラミックス又はHAp-PLLAハイブリッドの機械的又は物理的な性状は、著しく変わったと期待される。図8に示すように、大きな気孔を有するHApの曲げ強さ及びヤング率は、大きな気孔を有しないものよりも非常に小さい。PLLA形成により、前記の曲げ強さ及びヤング率が、小さな気孔を有するHApセラミックス及び大きな気孔を有するHApセラミックスの両者で増加する。前記の重合を1%又は3%リパーゼで実施したとしても大きな差異はないようである。
【0052】
図8に示された結果により、PLLA形成により大きな気孔を有するHApセラミックスの曲げ強さ及びヤング率が改善され、それらを前記の生体骨の物理的な性状に非常に近づけることができることが明らかに示された。本発明者らは、HApセラミックスにおける大きな気孔が、前記のセラミックスの内部における骨成長を誘発するために重要であることを見出した(図9に関する説明を参照されたい。)。しかしながら、HApセラミックスに大きな気孔が存在することにより、前記の大きな気孔を有しないHApセラミックスに比べて、前記のHApセラミックスの物理的な強度が著しく低下する。それゆえ、PLLA導入形成は、前記のHApセラミックス材料の有用性を改善する実用的なアプローチである。
【0053】
本発明の態様に従う大きな気孔を有するHAp-PLLAハイブリッドの曲げ強さ及びヤング率が低いことは、小さな気孔を有するHApに比べて、これらの材料をより順応性のあるものにしている。これらの大きな気孔を有するHAp-PLLAハイブリッド材料の用途としては、新たな骨の形成が望まれる用途が考えられる。それゆえ、これらの材料の低い物理的強度は一時的な効果を示すのみであろう。新たな骨の成長が一旦成し遂げられると、機械特性におけるこの相違は消失するであろう。さらに重要なことには、大きな気孔を有する前記のハイブリッドは、前記の相互接続された大きな気孔の内部における骨細胞(例えば、骨芽細胞)の内部成長を促進することができる。それゆえ、大きな気孔を有する前記のHAp-PLLAハイブリッドは、新たな骨形成が要求される状況へ適用されるであろう。
【0054】
図8に示すように、すべてのケース(大きな気孔を有するHApセラミックス又は小さな気孔を有するHApセラミックス)において、PLLAを導入すると、前記のセラミックス材料の機械的な強度(例えば、曲げ強さ及びヤング率)が、二つ以上の要因により増加する。これらの結果は、HApセラミックス材料の機械特性を変化させるために生分解性材料を使用するというコンセプトを実証する。さらに、これら結果から、気孔のサイズ及び/又はバイオポリマー形成の程度を制御することにより、性状の望ましい結合を成し遂げることができる。例えば、前記の生体骨の物理的性状に前記のHAp-PLLAハイブリッド材料の機械特性を保ちながら、例えば、より小さいカーボンビーズ(例えば、20、50又は100mmの直径)を使用して骨の進入に十分な大きさである、より小さい気孔を有する多孔性セラミックスを調製してもよい。
【0055】
前記のHAp-PLLAハイブリッド材料は、HApの望ましい生体適合性及びPLLAの生分解性を取り入れている。これらの材料は、in vivoで使用した場合に非常に高い生体適合性を有することが期待され、そして生分解性PLLAは、例えば骨芽細胞のような骨細胞の進出に取って変られるようにすると期待されている。それゆえ、これらの材料は、前記のハイブリッド材料の気孔中に新たな骨組織の形成を助成すると期待されている。
【0056】
本発明のHAp-PLLAハイブリッド材料の生体適合性及び有用性を試験するために、マウスの頭骨から誘導され、かつ骨芽細胞様の細胞としてその特性がよく解明されているMC3T3-E1細胞とともに、これらの材料をインキュベートした。5% CO2雰囲気下37℃で胎児の子牛の漿液を10%含むa-MEM培養液中で前記のインキュベーションを行った。手短に言えば、前記のハイブリッド材料の一片(直径が約15.5 mmであり、厚さが1-1.5 mmである。)を3.0×104個のMC3T3-E1細胞と共にインキュベートし、数日に亘りモニターした。前記の材料を所定の時間に取り出し、scanning EMにより経時的な前記の細胞の成長及び接合を観察した。
【0057】
図9に示すように、本発明の態様に従うHAp-PLLAハイブリッド材料は、その表面に細胞の成長を実によく誘発することができる。7日間経過時に細胞は、これらの材料上でよく増殖している。このSEM観察からは、明確に見出すことはできなかったが、PLLAが一部溶解し、その結果、形成された空間内に細胞が移動しながら、増殖しているものと思われる。これらの結果は本発明のHAp-PLLAハイブリッド材料が前記の細胞に対して無毒性であることを示し、さらにこれらは骨芽細胞様細胞の成長を助長することが見出された。それゆえ、本発明のHAp-PLLAハイブリッド材料は、骨の修復及び置換に有用であろう。
【0058】
骨の修復及び置換におけるこれらの材料の有用性をさらにin vivoで試験するために、これらの多孔性セラミックスをウサギの頸骨に埋設した。これらの実験において、三匹のウサギの各々が、市販されているセラミックスであるApaceram(登録商標)(Pentax Corp. Japanより入手。)と本発明の多孔性セラミックスとを比較するように使用された。Apaceram(登録商標)は、生体適合性ハイドロキシアパタイトである。
【0059】
埋設後4週間経過時の結果である図10(A)(Apaceram(登録商標))及び図10(B)(150 mmのカーボンビーズであるPHA(150)により調製された本発明の二極化した多孔質構造をもつHApセラミックス)に示されているように、トルイジンによるダークブルー染色に立証されるように、両セラミックスとも新たな骨の形成の兆候を示している。
図10(C)(Apaceram(登録商標))及び図10(D)(本発明の二方式の多孔性のHAp)は24週間経過時の結果である。
これらの結果から、骨形成の促進性、すなわち本発明の二極化した多孔質構造をもつHApの大きな気孔中における新たな骨の形成を促進する性質において、本発明の二極化した多孔質構造をもつHApは、既存の市販されている生体適合性セラミックス(Apaceram(登録商標))に比べて同等か又は優れていることが示されている。
【0060】
本発明の二極化した多孔質構造をもつHApの優れている性質は、前記のセラミックスの内部における骨細胞の成長をより促進するであろう、前記の大きな気孔が相互に連結しているという事実におそらく起因している。同時に、前記のより小さい気孔が、前記の細胞への栄養素の放出を促進するかもしれない。
【0061】
本発明の態様の利点は、以下の点の1つ以上を含んでもよい。本発明のHApセラミックスの二極化した多孔質構造は、相互接続されたチャンネルを形成する大きな気孔を含む。これらの内部で連結されているチャンネルはそのチャンネルの中のバイオポリマーの形成を促進する。より重要なことは、これらの相互接続されたチャンネルは、これらのセラミックスの内部における骨の成長を助成する。HApセラミックスにおける大きな気孔が存在することにより、これらの材料の物理的な性状が著しく変化する。しかしながら、これらの多孔性HApセラミックス材料の内部にPLLAポリマー(又は他の生分解性ポリマー)を形成することにより、前記の多孔性HApセラミックス材料の物理的な性状が非常に改善され、生体骨により類似した機械特性を有するこれらの材料を与える。それゆえ、これらのハイブリッド材料を骨の修復又は置換に使用した場合、それらは、その接合面に多くのストレスを誘発しないであろう。In vivoにおける研究から、これらのHAp-PLLAハイブリッド材料は、前記の細胞に対して無毒性であり、そして骨細胞(例えば、骨芽細胞)の成長を実際に促すことが示された。
【0062】
本発明は、限られた数の態様に関して記載されたが、本明細書における開示の利益を享受する当業者は、本明細書に開示された本発明の範囲から逸脱することなく他の態様を案出できることを認識するであろう。したがって、本発明の範囲は、添付された特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロキシアパタイトセラミックスハイブリッド材料であって、
その中に気孔を有するハイドロキシアパタイト構造及び
前記ハイドロキシアパタイトセラミックス材料の前記気孔中に含まれる生分解性ポリマーを含む、ハイドロキシアパタイトセラミックスハイブリッド材料。
【請求項2】
前記生分解性ポリマーがポリL-乳酸ポリマーである、請求項1に記載のハイドロキシアパタイトセラミックスハイブリッド材料。
【請求項3】
前記生分解性ポリマーがポリグリコール酸ポリマーである、請求項1に記載のハイドロキシアパタイトセラミックスハイブリッド材料。
【請求項4】
前記生分解性ポリマーがL-乳酸及びポリグリコール酸を含む混合ポリマーである、請求項1に記載のハイドロキシアパタイトセラミックスハイブリッド材料。
【請求項5】
前記気孔が、一方が10 mm以上の平均サイズを有する二種類の気孔サイズ分布を含む、請求項1に記載のハイドロキシアパタイトセラミックスハイブリッド材料。
【請求項6】
前記気孔が、前記ハイドロキシアパタイトセラミックス構造の体積として40-70%を占める、請求項1に記載のハイドロキシアパタイトセラミックスハイブリッド材料。
【請求項7】
ハイドロキシアパタイトセラミックス−ポリマーハイブリッド材料を調製する方法であって、
10 mm以上の平均気孔直径を有する気孔を含む多孔性ハイドロキシアパタイトセラミックスを調製するステップ、及び
前記ハイドロキシアパタイトセラミックスの気孔中に生分解性ポリマーを形成するステップを含む、方法。
【請求項8】
前記多孔性ハイドロキシアパタイトセラミックスが、一つのグループが5 mm以下の平均気孔サイズであり、そして他のグループが10 mm以上の平均気孔サイズである、二つのグループの気孔を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記生分解性ポリマーがポリL-乳酸ポリマーである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記生分解性ポリマーがポリグリコール酸ポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記生分解性ポリマーがL-乳酸及びポリグリコール酸を含む混合ポリマーである、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記生分解性ポリマーを形成するステップにリパーゼを使用する、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記多孔性ハイドロキシアパタイトセラミックスを
選択された溶媒中でハイドロキシアパタイトファイバー及び熱分解性粒子を含むスラリーを調製するステップ、
前記スラリーを濾過して、ペーストを得るステップ、
前記ペーストを使用して成形された塊を調製するステップ、
前記成型された塊を圧縮して生成形体を調製するステップ、及び
選択された継続期間約1000℃より高い温度で前記生成形体を加熱するステップにより調製する、請求項7記載の方法。
【請求項14】
前記熱分解性粒子がカーボンビーズである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記スラリーを濾過するステップ及び前記成形された塊を調製するステップを、型の底にフィルターが設置された型により濾過することにより単一のステップで実施する、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記加熱が約1300℃で実施される、請求項13記載の方法。
【請求項17】
前記スラリーが前記ハイドロキシアパタイトファイバー及び前記熱分解性粒子を分散させるのを助成する寒天をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項18】
前記加熱が蒸気の存在下で実施される、請求項13記載の方法。
【請求項19】
前記カーボンビーズが約150 mmの平均直径を有する、請求項13記載の方法。
【請求項1】
ハイドロキシアパタイトセラミックスハイブリッド材料であって、
その中に気孔を有するハイドロキシアパタイト構造及び
前記ハイドロキシアパタイトセラミックス材料の前記気孔中に含まれる生分解性ポリマーを含む、ハイドロキシアパタイトセラミックスハイブリッド材料。
【請求項2】
前記生分解性ポリマーがポリL-乳酸ポリマーである、請求項1に記載のハイドロキシアパタイトセラミックスハイブリッド材料。
【請求項3】
前記生分解性ポリマーがポリグリコール酸ポリマーである、請求項1に記載のハイドロキシアパタイトセラミックスハイブリッド材料。
【請求項4】
前記生分解性ポリマーがL-乳酸及びポリグリコール酸を含む混合ポリマーである、請求項1に記載のハイドロキシアパタイトセラミックスハイブリッド材料。
【請求項5】
前記気孔が、一方が10 mm以上の平均サイズを有する二種類の気孔サイズ分布を含む、請求項1に記載のハイドロキシアパタイトセラミックスハイブリッド材料。
【請求項6】
前記気孔が、前記ハイドロキシアパタイトセラミックス構造の体積として40-70%を占める、請求項1に記載のハイドロキシアパタイトセラミックスハイブリッド材料。
【請求項7】
ハイドロキシアパタイトセラミックス−ポリマーハイブリッド材料を調製する方法であって、
10 mm以上の平均気孔直径を有する気孔を含む多孔性ハイドロキシアパタイトセラミックスを調製するステップ、及び
前記ハイドロキシアパタイトセラミックスの気孔中に生分解性ポリマーを形成するステップを含む、方法。
【請求項8】
前記多孔性ハイドロキシアパタイトセラミックスが、一つのグループが5 mm以下の平均気孔サイズであり、そして他のグループが10 mm以上の平均気孔サイズである、二つのグループの気孔を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記生分解性ポリマーがポリL-乳酸ポリマーである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記生分解性ポリマーがポリグリコール酸ポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記生分解性ポリマーがL-乳酸及びポリグリコール酸を含む混合ポリマーである、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記生分解性ポリマーを形成するステップにリパーゼを使用する、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記多孔性ハイドロキシアパタイトセラミックスを
選択された溶媒中でハイドロキシアパタイトファイバー及び熱分解性粒子を含むスラリーを調製するステップ、
前記スラリーを濾過して、ペーストを得るステップ、
前記ペーストを使用して成形された塊を調製するステップ、
前記成型された塊を圧縮して生成形体を調製するステップ、及び
選択された継続期間約1000℃より高い温度で前記生成形体を加熱するステップにより調製する、請求項7記載の方法。
【請求項14】
前記熱分解性粒子がカーボンビーズである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記スラリーを濾過するステップ及び前記成形された塊を調製するステップを、型の底にフィルターが設置された型により濾過することにより単一のステップで実施する、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記加熱が約1300℃で実施される、請求項13記載の方法。
【請求項17】
前記スラリーが前記ハイドロキシアパタイトファイバー及び前記熱分解性粒子を分散させるのを助成する寒天をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項18】
前記加熱が蒸気の存在下で実施される、請求項13記載の方法。
【請求項19】
前記カーボンビーズが約150 mmの平均直径を有する、請求項13記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
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【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−148870(P2010−148870A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−284999(P2009−284999)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(599088438)昭和医科工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284999(P2009−284999)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(599088438)昭和医科工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】
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