説明

生分解性樹脂組成物

【課題】 機械的性能、特に耐衝撃性、耐折り曲げ性、耐熱性に優れた生分解性樹脂材料を提供する。
【解決手段】 特定の粘度を有するポリー3−ヒドロキシ酪酸と、特定の粘度を有しグリコールと脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体とから合成された脂肪族ポリエステルとからなる樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、優れた成形性、機械的性能および耐熱性、特に優れた耐衝撃性、耐折り曲げ性を有し、農薬などの薬品、化粧品類、食品および産業資材・機械類の包装部材、機械部品、カード類、繊維、モノフィラメントおよび衣類などとして使用される生分解性樹脂製品に転化されうる樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、数多くのプラスチックが、包装材料、衣料、繊維、モノフィラメントおよび工業機械部品用の成形材料として、各種の産業分野において利用されている。同時に、環境保護の立場から、プラスチックの再利用が叫ばれるとともに、自然環境条件で微生物の働きにより完全に分解する生分解性の高分子材料の開発が社会的に強く要請されている。
【0003】生分解性を有する高分子としては、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸(以下PHBと略す)を代表とする微生物の発酵生産によるポリヒドロキシアルカノエート、グリコール類と脂肪族ジカルボン酸やその誘導体から合成される脂肪族ポリエステル、澱粉やその変性体、酢酸セルロースなどのセルロース類、ポリアミノ酸やキチン、キトサンなどの天然高分子などが知られており、それぞれ特徴を生かした用途への適用検討が行われており、市場開発が進んでいる。
【0004】これら生分解性樹脂群の中でPHBは高い融点、速い生分解性、高い弾性率を有し、かつ熱可塑性であることから、既存の成形法による各種用途への利用が積極的に検討されつつある。しかしながら、PHBは溶融状態での熱安定性が不足し成形が困難である。また得られた成形物も伸びが小さく、堅くて脆いことが知られ、耐衝撃性やシート・フィルムに転化した際の耐折り曲げ性に劣り、いまだ充分に利用されるには至っていない。
【0005】ポリブチレンサクシネート(以下PBSと略す)は、溶融状態での安定性に優れ、かつ柔軟性に富んだ生分解性樹脂であり、軟質射出成形品や農業用マルチフィルム、機械部品の包装フィルムなど各種包装材への利用が積極的に行われている。しかしながら、PBSは一般的に融点がおよそ90〜110℃であることから、100℃を越える温度での二次加工を必要とする成形体や熱水などが使用されうる用途では、収縮などで寸法安定性が欠ける恐れがある。そのため、融点の高いPHBなどとのブレンド体の利用が期待されている。
【0006】本発明者等は、近頃、特開平08−157705号公報にPHBとPBSを代表とする脂肪族ポリエステルとのブレンドにより実用性のある生分解性樹脂を作製できることを例示した。しかしながら、引張性能ではPHBとPBSそれぞれの引張性能の幾何平均値で推算される値に近似した実用性のある性能値を示したものの、フィルムインパクト試験などで示される耐衝撃性やMIT試験で示される耐折り曲げ性能は、PHBの脆さを反映し、PBSでの改善効果はあまり認められていなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来技術に見られる前記課題を解決し、成形性に優れるとともに、耐衝撃性、耐熱性に優れた成形品を与え、実用性の高い生分解性樹脂を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、ブレンドする2種類の樹脂−PHB、脂肪族ポリエステル−の溶融粘度比を規定することにより、成形性に優れ、かつ、PHBの高融点を生かした耐熱性および脂肪族ポリエステルの柔軟性を生かした耐衝撃性や耐折り曲げ性など熱的、機械的性能に優れた成形品を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】本発明の要旨は、(1)直径1mmφ、長さ10mmのキャピラリーを用い、圧力10kgf/cm2 、185℃において測定した粘度がn(A) poiseであるポリー3−ヒドロキシ酪酸と、前記条件下で測定した粘度がn(B) poiseでありグリコールと脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体とから合成された脂肪族ポリエステルとからなる樹脂組成物であり、樹脂組成物中のポリー3−ヒドロキシ酪酸の配合割合が35〜95重量%の範囲内にあり、かつ前記n(A) およびn(B) が下記の式(I)および式(II)を満足する生分解性樹脂組成物。
n(A) ≧2000 (I)
0.05≦n(A) /n(B) ≦2.5 (II)
(2)脂肪族ポリエステルがPBSである(1)記載の生分解性樹脂組成物。
【0010】本発明の樹脂組成物におけるPHBの配合割合は35から95重量%、好ましくは40重量%から75重量%が良い。なぜならばPHBの配合割合が35重量%を下回った場合、耐熱性が不足する場合が考えられるためである。また95重量%を越えた場合、PHBの脆性が改善されず、脆くなる可能性が考えられるためである。また、式(II)で示されるPHBの溶融粘度n(A) と脂肪族ポリエステルの溶融粘度n(B) との溶融粘度比n(A) /n(B) が0.05以上2.5以下の場合、特に耐衝撃性、耐折り曲げ性能に優れた樹脂を提供することができる。これは、恐らく脂肪族ポリエステル部分とPHB部分の分散状態がより高性能を発揮できる状態であるためと考えられる。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明で示されるPHBは、例えばアルカリゲネス(Alcaligenes )属、アゾトバクター(Azotobacter )属、メチロバクテリウム(Methylobacterium)属、ノカルジア属(Nocardia)属、シュードモナス(Pseudomonas )属等の細菌を用いた公知の発酵法により製造することができる。発酵法により得られたPHBを分離精製する方法に関しては、例えば、米国特許第3036959号公報、同第4101533号公報、同第3275610号公報、ヨーロッパ特許第15123号公報、特開平07−079788、同07−135985号公報にピリジン、塩化メチレン、1,2−プロピレンカーボネート、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、ニトリル類などの溶剤を用いた精製法が記載されており、また 特開平07−177894号公報には細菌菌体を高圧ホモジナイザーで破砕後、PHBを分離し、分離したPHBを酵素系漂白剤で処理する方法が示されている。最近では、発酵法によらずとも化学合成によるPHBの製造方法が報告されている。
【0012】本発明に使用するPHBは、185℃における溶融粘度が2000poise以上が良い。なぜなら、先に示した様に、PHBは熱安定性に劣るため、これ以下の溶融粘度のPHBを使用した場合、満足な成形体が得られない、あるいは機械的性能が充分ではない等の不都合が生じるためである。
【0013】一方、本発明の構成成分の一つである脂肪族ポリエステルとは、グリコールと脂肪族ジカルボン酸、その酸無水物または低級アルキルエステルなどの酸誘導体とから化学合成されるポリエステルを主成分とするものであり、イソシアネートあるいはカーボネート結合を形成し得る化合物と上記脂肪族ポリエステルのオリゴエステルあるいはポリエステルとを反応させ分子量を充分高くしたものも含まれる。本発明で、用いられるグリコールとしては、例えばエチレングリコール、1,3および1,4−ブタンジオール、トリメチレングリコール等が例示される。これらグリコールは、併用しても良い。グリコールと反応して脂肪族ポリエステルを形成する脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体としては、琥珀酸、アジピン酸、マロン酸、グルタル酸、アゼライン酸などが例示され、これらのエステルあるいは酸無水物も使用可能である。またジカルボン酸とその酸誘導体は併用しても良い。
【0014】本発明の範囲を逸脱せず、本発明の目的を損なわない範囲において、PHB、脂肪族ポリエステル以外の物質、例えば着色剤、可塑剤、離型剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃化剤、酸化防止剤などの慣用の添加剤を目的に応じて添加することができる。
【0015】本発明の生分解性樹脂は、射出成形、射出ブロー成形、射出延伸ブロー成形、押出、押出ブロー成形、押出延伸ブロー成形、延伸、圧延、熱成形、紡糸、延伸を伴う紡糸、紡績、紡織などの一般に熱成形樹脂に適用されうる成形加工法により、シート・フィルム、積層カード類、容器・ボトル、チューブ、モノフィラメント・マルチフィラメント、繊維、不織布、織布、機械部品、農業用部材、建築土木部材、スポーツ用具部品の製品に転化させることができる。これら成形加工品の特に具体的な用途として、使用後の回収または再利用が不可能または困難な資材、例えば医療用器具および備品、食品、農薬、香料等の容器、ゴミ袋、農業用マルチフィルム、釣り糸・漁網などの糸、結束部材、医療用・工業用の布、その他の産業資材を示すことができる。
【0016】
【発明の効果】本発明により、機械的性能、特に耐衝撃性、耐折り曲げ性、耐熱性に優れた生分解性樹脂材料を提供することができ、各種部材に適用することができる。
【0017】
【実施例】次に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、以下に示す溶融粘度、熱的性質、引張性能、耐衝撃性能、折り曲げ性能は、以下の様にして測定した。
(1)溶融粘度装置 :キャピラリーレオメーター((株)島津製作所製、フローテスターCFT−500)
キャピラリー寸法 :直径1mm、長さ10mm測定温度 :185℃圧力 :10kgf/cm2(2)熱的性質Tダイ冷却法により、厚さ約250μmのシートを作製し、150℃に設定した熱風乾燥機中で静置させ、2時間後の試料の長さと初期の長さとの比率で算出する熱収縮率により評価した。
(3)引張性能装置 :引張試験機((株)東洋精機製作所製、ストログラフV1−C)
試験片形状 :JIS K 7127 2号型試験条件 :JIS K 7127 準拠(4)耐衝撃性能装置 :シートインパクト試験機((株)東洋精機製作所製)
(5)耐折り曲げ性能装置 : MIT試験器((株)東洋精機製作所製)
条件 :175cpm、折り曲げ角度135度
【0018】実施例1〜2工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託してあるMethulobacterium extorquens K(寄託番号:FERM BP−3548)を用い、メタノールを炭素源として好気的に連続培養を行った。培養条件は、培養温度32℃、培養pH6.5、平均滞留時間40時間であり、窒素の供給速度が菌体増殖の律速となるよう連続培養を行った。連続培養により得られた菌体を上記特開平07−177894号公報に記載のPHB分離精製方法に従い、高圧ホモジナイザーで破砕後、PHBを遠心分離し、分離したPHBを先ずプロテアーゼで処理し、次いで過酸化水素処理を行い高純度のPHBを得た。このPHBの185℃、キャピラリー寸法、直径1mmφ、長さ10mm、圧力10kgf/cm2 の条件下での溶融粘度は、6500poiseであった。このPHBと同条件下での溶融粘度が6060poiseであるPBS(昭和高分子株式会社製、ビオノーレ 1010)とをPHBのブレンド比が70および60重量%となるよう2軸スクリュー押出機で溶融混合し、ペレットを得た。このペレットから、スクリュー直径20mmの単軸押出機を用いてTダイ冷却法により約250μm厚のシートを作製し、熱収縮率測定用試験片、引張試験片、シートインパクト試験片およびMIT試験片を得た。熱的性質、引張性能、耐衝撃性能、耐折り曲げ性能を測定し、結果を表に示した。
【0019】比較例1PBSの溶融粘度が2370poise(昭和高分子株式会社製、ビオノーレ1020)である以外、実施例1と同手法により各種試験片を得た。測定結果を表に示した。
【0020】比較例2PHBの粘度が2000poise、PBSの溶融粘度が44370poise(昭和高分子株式会社製、ビオノーレ 1001)である以外、実施例1と同手法により各種試験片を得た。測定結果を表に示した。
【0021】比較例3PHBのブレンド比が20%である以外、実施例1と同手法により各種試験片を得た。測定結果を表に示した。
【0022】
表1 実施例/比較例 実施例1 実施例2 比較例1 比較例2 比較例3 樹脂組成 PHB(重量%) 70 60 70 70 20 PBS(重量%) 30 40 30 30 80 n(A)/n(B) 1.07 1.07 2.74 4.51 1.07 熱収縮率(%) <0.2 <0.2 <0.2 <0.2 熱変形、 形状保持 できず 引張性能 引張強度(Mpa) 36.8 37.0 37.4 36.2 32.5 引張弾性率(Gpa) 1.85 1.67 1.79 1.63 0.80 引張伸び率(%) 4.4 5.8 5.9 5.4 150 シートインパクト 試験(J/cm) 13 14 9 8 60 耐折り曲げ性能 (回) >20000 >20000 500 1 >20000

【特許請求の範囲】
【請求項1】 直径1mmφ、長さ10mmのキャピラリーを用い、圧力10kgf/cm2 、185℃において測定した粘度がn(A) poiseであるポリー3−ヒドロキシ酪酸と、前記条件下で測定した粘度がn(B) poiseでありグリコールと脂肪族ジカルボン酸またはその誘導体とから合成された脂肪族ポリエステルとからなる樹脂組成物であり、樹脂組成物中のポリー3−ヒドロキシ酪酸の配合割合が35〜95重量%の範囲内にあり、かつ前記n(A) およびn(B) が下記の式(I)および式(II)を満足することを特徴とする生分解性樹脂組成物。
n(A) ≧2000 (I)
0.05≦n(A) /n(B) ≦2.5 (II)
【請求項2】 脂肪族ポリエステルがポリブチレンサクシネートである請求項1記載の生分解性樹脂組成物。