説明

生分解性潤滑剤組成物

【課題】耐水性を高めた組成において生分解性を高めることの容易な生分解性潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】生分解性潤滑剤組成物には、合成油、植物油及び動物油から選ばれる少なくとも一種の基油と、増ちょう剤として第三リン酸カルシウムと、界面活性剤とが含有されている。基油には、合成油が含まれることが好ましく、その合成油が合成エステル油であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鉱物油を基油として含有する潤滑剤組成物は、土壌、河川、海等の自然環境へ漏出することで、そうした自然環境を汚染することになり得る。このため、自然環境への漏出が懸念される場合には、生分解性を有する潤滑剤組成物の使用が求められる傾向にある。この種の潤滑剤組成物に含有される基油としては、例えば植物油、特定の分子量分布を有するポリエステルエーテルポリオール、特定の動粘度を有する飽和炭化水素系合成炭化水素等が提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開平11−228983号公報
【特許文献2】特開2007−63504号公報
【特許文献3】特開2005−29721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、増ちょう剤として第三リン酸カルシウムを含有した潤滑剤組成物においては、第三リン酸カルシウム自体の安全性が高いことに加えて、例えば耐熱性、極圧性等を高めることができるといった点で有利である。第三リン酸カルシウムに加えて界面活性剤を含有させることで、潤滑剤組成物の使用に際して水と接触した場合であっても、ちょう度が維持され易くなる。すなわち、潤滑剤組成物の耐水性を高めることができるようになる。
【0004】
本発明は、第三リン酸カルシウムを増ちょう剤として含有した潤滑剤組成物において生分解性を高めることのできる組成を見出すことでなされたものである。本発明の目的は、耐水性を高めた組成において生分解性を高めることの容易な生分解性潤滑剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の生分解性潤滑剤組成物は、基油と、増ちょう剤として第三リン酸カルシウムと、界面活性剤とを含有する生分解性潤滑剤組成物であって、前記基油は、合成油、植物油及び動物油から選ばれる少なくとも一種であることを要旨とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の生分解性潤滑剤組成物において、前記基油として合成油を含むことを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の生分解性潤滑剤組成物において、前記合成油が合成エステル油であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐水性を高めた組成において生分解性を高めることが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の生分解性潤滑剤組成物を具体化した実施形態を詳細に説明する。本実施形態における生分解性潤滑剤組成物には、合成油、植物油及び動物油から選ばれる少なくとも一種の基油と、増ちょう剤として第三リン酸カルシウムと、界面活性剤とが含有されている。
【0009】
基油は、生分解性潤滑剤組成物に求められるちょう度等の物性に応じて、合成油、植物油及び動物油から選ばれる少なくとも一種を適宜選択することができる。基油の動粘度は、例えば100℃において2〜40mm/sの範囲であることが好ましい。
【0010】
合成油の具体例としては、ポリオレフィン油、合成エステル油、合成エーテル油、アルキルベンゼン油、アルキルナフタレン油、含フッ素化合物(パーフルオロポリエーテル、フッ素化ポリオレフィン等)、シリコーン油等が挙げられる。ポリオレフィン油としては、各種オレフィンの重合物、又は、その重合物の水素化物が挙げられる。ポリオレフィン油を構成するオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、及び炭素数5以上のα−オレフィンが挙げられる。
【0011】
合成エステル油としては、例えばヒンダードエステル油(ポリオールエステル油)、二塩基酸のジエステル油、ポリオキシアルキレングリコールエステル油等が挙げられる。ヒンダードエステル油は、多価アルコールと脂肪酸とのエステルである。ヒンダードエステル油を形成する多価アルコールの具体例としては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。ヒンダードエステルを形成する脂肪酸の具体例としては、炭素数7〜18の飽和又は不飽和脂肪酸、オレイン酸等が挙げられる。二塩基酸のジエステル油は、脂肪族二塩基酸と1価のアルコールとのエステルである。二塩基酸のジエステル油を形成する脂肪族二塩基酸の具体例としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカノ2酸、フタル酸、ダイマー酸等が挙げられる。二塩基酸のジエステル油を形成する1価のアルコールの具体例としては、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、イソデシルアルコール、トリデシルアルコール等が挙げられる。こうした二塩基酸のジエステル油の具体例としては、ジオクチルセバケート(DOS)、ジオクチルアゼレート(DOZ)、ジオクチルアジペート(DOA)等が挙げられる。ポリオキシアルキレングリコールエステルの具体例としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0012】
合成エーテル油としては、例えばポリオキシアルキレングリコールエーテル油、ポリフェニルエーテル油、ジアルキルジフェニルエーテル油等が挙げられる。
植物油の具体例としては、菜種油、ヒマワリ油、大豆油、綿実油、コーン油、ヤシ油、ひまし油、ヌカ油、パーム油、オリーブ油、落花生油、ゴマ油等が挙げられる。動物油の具体例としては、鯨油、牛脂、豚油、魚油等が挙げられる。なお、こうした植物油及び動物油は水素添加した水添植物油及び水添動物油であってもよい。
【0013】
合成油、植物油及び動物油の中でも、生分解性をより高めることが容易であるという観点から、基油には合成油が含まれることが好ましい。その合成油としては、好ましくは合成エステル油、より好ましくはヒンダードエステル油である。
【0014】
生分解性潤滑剤組成物中における上記基油の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。
第三リン酸カルシウムとしては、Ca(POを使用することができる。また、〔Ca(PO・Ca(OH)で表されるヒドロキシアパタイトの化学構造を有している化合物が好適に使用される。第三リン酸カルシウムは、食品添加物としても知られる化合物であり、こうした第三リン酸カルシウムを増ちょう剤として含有させることで、生体への安全性を高めることができるようになる。
【0015】
生分解性潤滑剤組成物における第三リン酸カルシウムの含有量は、生分解性潤滑剤組成物の用途に適したちょう度となるように適宜調整することができる。生分解性潤滑剤組成物中における第三リン酸カルシウムの含有量は、好ましくは2〜68質量%、より好ましくは5〜60質量%、さらに好ましくは8〜55質量%である。生分解性潤滑剤組成物中における第三リン酸カルシウムの含有量が2〜68質量%である場合、ちょう度を調整することが容易となる。
【0016】
界面活性剤は、生分解性潤滑剤組成物に水が接触した際に界面活性剤の親水基が水を吸着することで、生分解性潤滑剤組成物の耐水性を高める。界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン性界面活性剤に分類される。界面活性剤は、単独で含有させてもよいし、複数種を組み合わせて含有させてもよい。
【0017】
界面活性剤の中でも、好ましくは非イオン性界面活性剤、より好ましくは脂肪酸エステル系界面活性剤である。脂肪酸エステル系界面活性剤は、毒性の低い界面活性剤であるため、生体への安全性を高めた生分解性潤滑剤組成物を得ることができるようになる。
【0018】
脂肪酸エステル系界面活性剤としては、上記基油及び第三リン酸カルシウムに対する親和性が得られ易く、かつ、生体への安全性を高めることができるという観点から、好ましくはグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種、より好ましくはソルビタン脂肪酸エステルである。脂肪酸エステル系界面活性剤の脂肪酸としては、炭素数が12〜22の飽和脂肪酸又は同じく炭素数が12〜22の不飽和脂肪酸が好ましい。
【0019】
グリセリン脂肪酸エステルとしては、例えばステアリン酸モノグリセライド、オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸及びオレイン酸のモノ・ジグリセライド等が挙げられる。ソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えばソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソレビタンモノオレエート、ソルビタントリステアレート、ソルビタントリオレエート等が挙げられる。ショ糖脂肪酸エステルとしては、例えばショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル等が挙げられる。
【0020】
生分解性潤滑剤組成物中における界面活性剤の含有量は、好ましくは0.2〜18質量%、より好ましくは1〜15質量%、さらに好ましくは2〜10質量%である。生分解性潤滑剤組成物中における界面活性剤の含有量が18質量%未満の場合、ちょう度の調整が容易となるとともに経済的に有利である。また、生分解性潤滑剤組成物中における界面活性剤の含有量は、上記第三リン酸カルシウム100質量部に対して好ましくは1〜40質量部、より好ましくは2〜30質量部、さらに好ましくは5〜20質量部である。生分解性潤滑剤組成物中における界面活性剤の含有量が第三リン酸カルシウム100質量部に対して1〜40質量部の場合、ちょう度の調整が容易であり、かつ、経済的に有利である。
【0021】
生分解性潤滑剤組成物には、必要に応じて酸化防止剤、防錆剤、極圧剤、耐摩耗剤、固体潤滑剤、抗菌剤等の添加剤を含有させることができる。
生分解性潤滑剤組成物は、上記基油、第三リン酸カルシウム及び界面活性剤を常法にしたがって混合することにより調製することができる。生分解性潤滑剤組成物を調製する際には、適宜加熱してもよい。また、生分解性潤滑剤組成物を調製する際には、第三リン酸カルシウムを効率的に分散させるという観点から、例えばロールミル等を用いて混捏することが好適である。このように構成された生分解性潤滑剤組成物は半固体状をなし、例えば軸受等の摺動部位を有する各種機械に使用される。
【0022】
本実施形態の生分解性潤滑剤組成物は、合成油、植物油及び動物油から選ばれる少なくとも一種の基油と、増ちょう剤として第三リン酸カルシウムとを含有している。同第三リン酸カルシウムは、植物の生育に必要な成分であるため、微生物の活動を阻害し難い成分と推測される。すなわち、上記基油自体の生分解が進行し易くなる。
【0023】
本実施形態の生分解性潤滑剤組成物は、特に自然環境への漏出が懸念される用途に好適に使用することができる。すなわち、本実施形態の生分解性潤滑剤組成物は、例えば土木建設機械、チェンソー、屋外風車、船外機、農業機械(トラクター、田植機、耕うん機、コンバイン等)、鉄道分野(分岐器、鉄道車両の可動部等)、バイオデグレータ(生ごみ処理機、浄水設備等)の潤滑剤として好適に使用することができる。このような用途においては、潤滑剤に水が接触したり、潤滑剤が自然環境へ漏出したりすることが懸念されるため、本実施形態の生分解性潤滑剤組成物の使用が極めて有効である。
【0024】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)生分解性潤滑剤組成物には、増ちょう剤として第三リン酸カルシウムが含有されている。このため、生分解性潤滑剤組成物の耐熱性は高められている。さらに、生分解性潤滑剤組成物には界面活性剤が含有されることで、同組成物の耐水性が高められている。ここで、第三リン酸カルシウムは、上記基油の生分解を阻害し難いため、上記基油自体の生分解性が進行し易くなる。したがって、耐水性を高めた組成において生分解性を高めることの容易な生分解性潤滑剤組成物を提供することができる。
【0025】
(2)基油として合成油を含むことで、生分解性をより高めることが容易となる。また、その合成油が合成エステル油であることで、エステル結合の生分解を通じて、組成物の生分解性をさらに高めることが容易となる。
【0026】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について以下に記載する。
・前記合成エステル油がヒンダードエステルである生分解性潤滑剤組成物。
・前記ヒンダードエステルは、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びジペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも一種の多価アルコールと、炭素数7〜18の飽和又は不飽和脂肪酸、及びオレイン酸から選ばれる少なくとも一種の脂肪酸とのエステルである生分解性潤滑剤組成物。
【0027】
・前記非イオン性界面活性剤が脂肪酸エステル系界面活性剤であることを特徴とする生分解性潤滑剤組成物。
【実施例】
【0028】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
基油としてのヒンダードエステル油、第三リン酸カルシウム及び界面活性剤を試作釜に投入し、同試作釜にて100℃まで加熱するとともに撹拌した後、三本ロールミルにて混捏することで、生分解性潤滑剤組成物を調製した。第三リン酸カルシウムは、〔Ca(PO・Ca(OH)で表されるヒドロキシアパタイトの化学構造を有するものである。なお、ヒンダードエステル油はペンタエリスリトールとオレイン酸とのエステルである。表1は各成分の含有量を質量部で示している。
【0029】
(比較例1)
比較例1においては、表1に示される組成に変更した以外は実施例1と同様に潤滑剤組成物を調製した。
【0030】
<生分解性試験>
各実施例の生分解性潤滑剤組成物、及び各比較例の潤滑剤組成物について、OECD(経済協力開発機構)化学品テストガイドライン301C:修正MITI試験(I)に従って、生分解度(%)を測定した。その結果を表1に示している。
【0031】
<ちょう度>
各実施例の生分解性潤滑剤組成物、及び各比較例の潤滑剤組成物について、JIS K 2220(ASTM D217)に従ってちょう度を測定した。その結果を表1に示している。
【0032】
<滴点>
各実施例の生分解性潤滑剤組成物、及び各比較例の潤滑剤組成物について、JIS K 2220(ASTM D566)に従って滴点を測定した。その結果を表1に示している。
【0033】
【表1】

表1の結果から明らかなように、実施例1の生分解度は、比較例1の生分解度の20倍を超える値を示している。この結果より、実施例1では生分解性を顕著に高めることができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、増ちょう剤として第三リン酸カルシウムと、界面活性剤とを含有する生分解性潤滑剤組成物であって、
前記基油は、合成油、植物油及び動物油から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする生分解性潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記基油として合成油を含むことを特徴とする請求項1に記載の生分解性潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記合成油が合成エステル油であることを特徴とする請求項2に記載の生分解性潤滑剤組成物。

【公開番号】特開2009−286958(P2009−286958A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142970(P2008−142970)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】