説明

生化学反応用ピン、及びその利用

【課題】新規な生化学反応用ピン、及びその利用を提供する。
【解決手段】本発明の生化学反応用ピン10は、先端部11の表面が、当該先端部11に隣接する部分(細径部12a)の表面と比較して蛋白質固定化反応への反応性がより高く、当該先端部11の表面に抗体又は抗原蛋白質を固定化可能なピン15を備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体を特異的に固定化可能な生化学反応用ピン、及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
個人化医療の推進による患者のQOL(Quality of life)の向上と医療費の削減とは、現代社会の直面する課題である。ポイントオブケア検査(POCT:Point of Care Testing)とは、開業医及び専門医の診察室や病棟、並びに、外来患者向け診療所等の「患者の身辺での検査」の総称である。ポイントオブケア検査は、将来的には、中央検査室で集中且つ大量に検体を測定する病院での通常検査に置き換わるものになると予測されている。現在、ポイントオブケア検査用の診断キットは、大部分がイムノクロマト方式を採用している。イムノクロマト方式は、薄層クロマトグラフィの原理を用いるため検体液以外には溶液を必要としないドライ化が可能であり、例えば10分後に検定ラインの出現位置を目で確認でき、操作が極めて簡単な簡易診断キットが実現されている。しかし、イムノクロマト方式では、検出感度が通常の検査法より低い、測定が定性的である、等の課題がある。
【0003】
一方、酵素免疫判定法(ELISA: Enzyme LinkedImmuno Assay)法は、例えば、96穴プレート上で抗原抗体反応を利用した測定を行う方法として、研究測定、診断測定に広く普及している。ELISA法は信頼性と感度は高いが、洗浄操作及び試薬添加等の操作が複雑でありPOCT用にはほとんど普及していない。簡易化したELISAシステムとして、わずかに、フィン型(特許文献1)及び板型(特許文献2)のスティック法が実用化されているというのが現状である。
【0004】
しかし、簡易化したELISAシステムである上記フィン型及び板型のスティック法は、マイクロプレートの個々のウェルで行われる複数回の操作を、独立の複数連のチューブ内でハンドリングするものである。すなわち、ウェルの内面に捕捉抗体を固定する代わりに、平面上のスティックに捕捉抗体を固定し、このスティックを、必要な試薬を格納したウェルに移し替えて反応あるいは洗浄操作をするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許公報4225575号
【特許文献2】米国特許公報7374951号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、簡易型のELISAキットは、マイクロプレートの個々のウェルで行われる複数回の操作を、独立の複数連のチューブ内でハンドリングするものである。しかし、キットに固定化される抗体量を一定にする、又は所望の範囲に制御可能なように構成されていない。そのため、信頼性、再現性、及び定量性が不十分であり、マイクロプレート等によるELISAを代替する機能は持たない。また、複数種類の固定化抗体を用いたELISAには適用困難である。さらに、上記簡易型のELISAキットは、ウェル操作と実質的に同等の操作を要するために必要とされる試薬量も多い。
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、所定の領域のみに抗体又は抗原蛋白質が固定化可能に設計された生化学反応用ピン、及びその利用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本願発明者らは鋭意検討を行った。その結果、従来のマイクロプレートに代えてピンの先端部に特異的に抗体又は抗原蛋白質を固定化した生化学反応ピンを用いるという新たな発想に基づき、本願発明を想到するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る生化学反応用ピンは、先端部の表面が、当該先端部に隣接する部分の表面と比較して蛋白質固定化反応への反応性がより高く、当該先端部の表面に抗体又は抗原蛋白質を固定化可能なピンを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る生化学反応用ピンは、上記の構成において、上記蛋白質固定化反応が、上記先端部の表面に存在するCOOH基(カルボキシル基)をカルボジイミドで活性化した後に抗体又は抗原蛋白質を当該表面に固定化する反応であることが好ましい。
【0011】
本発明に係る生化学反応用ピンは、上記の構成において、上記先端部の表面がアクリル系樹脂からなり、上記先端部に隣接する部分の表面がテフロン(登録商標)、又は、デルリン(登録商標)から選択されることが好ましい。
【0012】
本発明に係る生化学反応用ピンは、上記の構成において、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)に用いる一次抗体又は抗原蛋白質が上記先端部の表面に固定されているものであってもよく、より好ましくは、ELISAに用いる一次抗体が上記先端部の表面に固定されているものである。
【0013】
本発明に係る生化学反応用ピンの集合体は、上記何れか一項に記載の生化学反応用ピンを複数個備えたピンの集合体であって、これら複数の生化学反応用ピンの間では先端部の表面積が等しいことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る生化学反応用ピンチップは、上記何れかの生化学反応用ピンを複数個備えることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る生化学反応用ピンチップは、上記複数個の生化学反応用ピンの間では先端部の表面積が等しいことがより好ましい。
【0016】
本発明に係るELISA用カートリッジは、上記の生化学反応用ピン、又は当該生化学反応用ピンを複数個備えた生化学反応用ピンチップを用いたELISAに使用されるELISA用カートリッジであって、検体試料との反応槽、洗浄槽、二次抗体との反応槽、及び二次抗体検出用の反応槽とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明に係るELISA用カートリッジは、上記の構成において、検体試料との上記反応槽、1つ以上の上記洗浄槽、二次抗体との上記反応槽、1つ以上の上記洗浄槽、及び、二次抗体検出用の上記反応槽が、この順に環状に配置されていることが好ましい。
【0018】
本発明に係るELISA用カートリッジは、上記の構成において、上記反応槽及び上記洗浄槽を覆う蓋部材を備え、上記蓋部材は、上記反応槽及び上記洗浄槽が環状に配置されたカートリッジの本体部に、当該反応槽及び洗浄槽の配置の中心を基点にした回転が可能に取り付けられるものであり、上記蓋部材は、本体部に取り付けられたときに、ピンの先端部が上記反応槽及び上記洗浄槽側に向くように上記生化学反応用ピン又は生化学反応用ピンチップを取り付ける支持固定部を備えることがより好ましい。
【0019】
本発明に係るELISA用カートリッジは、上記の構成において、上記反応槽に反応液が充填された状態で当該反応槽がシールされている、及び/又は、上記洗浄槽に洗浄液が充填された状態で当該洗浄槽がシールされている構成であってもよい。
【0020】
本発明に係るELISA用カートリッジは、上記の構成において、上記反応槽の何れかは上記洗浄槽を兼ねるものであり、洗浄槽を兼ねる当該反応槽は、給液ポートと廃液ポートとを備える構成であってもよい。
【0021】
本発明に係るELISA用キットは、上記何れかの生化学反応用ピン又は生化学反応用ピンチップと、上記何れかのELISA用カートリッジとを備えることを特徴としている。
【0022】
本発明はまた、上記何れかのELISA用カートリッジを格納するELISA反応部を備える生化学反応装置を提供する。
【0023】
また、本発明に係る生化学反応装置は、検体試料との上記反応槽、上記洗浄槽、二次抗体との上記反応槽、及び二次抗体検出用の上記反応槽へ、上記上記生化学反応用ピン又は上記生化学反応用ピンチップを移動させる移動機構を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、所定の領域のみに抗体又は抗原蛋白質が固定化可能に設計された生化学反応用ピン、及びその利用を提供することが出来るという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る生化学反応用ピンの概略構造を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る生化学反応用ピンチップの概略構成を示す側面図である。
【図3】図2に示す生化学反応用ピンチップを用いたELISAの工程を説明する図である。
【図4】(a)〜(c)は、本発明の一実施形態に係るELISA用カートリッジの概略構成を示す斜視図である。
【図5】図4に示すELISA用カートリッジを用いるELISA反応装置の一構成例を示す図である。
【図6】図5に示すELISA反応装置が備える駆動機構の一例を示す図である。
【図7】(a)〜(c)は、生化学反応用ピンチップを用いたELISAに使用されるELISA用カートリッジ、及びELISA反応装置の一構成例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔実施の形態1〕
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
1.生化学反応用ピン
(生化学反応用ピンの基本構成)
本実施の形態に係る生化学反応用ピンは、先端部の表面が、当該先端部に隣接する部分の表面と比較して蛋白質固定化反応への反応性がより高く、当該先端部の表面に抗体又は抗原蛋白質を固定化可能なピンを備えてなることを一つの特徴とする。蛋白質固定化反応への反応性の相違を利用すれば、ピンの先端部の表面のみに所望する抗体又は抗原蛋白質を固定化可能である。その結果、ピンに固定化される抗体量又は抗原蛋白質量の制御が容易となり、生化学反応用ピンを用いた測定の精度(とりわけ定量性)が向上する。生化学反応用ピンは、先端部に隣接する部分の表面が蛋白質固定化反応への反応性が実質的に無いことが特に好ましい。
【0028】
また、生化学反応用ピンを複数本のセット(ピンの集合体)で用いる場合(後述するピンチップの場合も含む)、すべてのピンについて、抗体又は抗原蛋白質を固定化可能な部位(先端部の表面)の面積が一定であることが好ましい。この構成によれば、異なる生化学反応用ピン間で固定化された抗体量又は抗原蛋白質量を揃えることが出来るため、複数本の生化学反応用ピンを用いた測定の精度(とりわけ定量性)が向上する。
【0029】
図1は、生化学反応用ピンの一例を示す斜視図である。生化学反応用ピン10は、図1に示すように、生化学反応用ピン10は、ピン15と、ピン15の直径より外側に張出すように円盤状に形成された固定用凸部16とを備える。固定用凸部16は、ピン15の他端側(先端とは反対側)に、ピン15と一体的かつ同心的に形成される。ピン15は、その先端側から固定用凸部16側に向けて順に、先端がドーム状に形成された円柱形状の先端部(抗体固定部)11、及び、当該先端部11に隣接した隣接部12を備える。隣接部12は、先端部に近い方から順に、細径部12a、径変部12b、及び太径部12cから構成される。細径部12aは、先端部11に隣接する部分であって、先端部11と同じ直径の円柱形状に形成される。太径部12cは、細径部12aより太い直径の円柱形状に形成される。径変部12bは、細径部12aと太径部12cとを連結するテーパー形状の部分である。なお、隣接部12は、径変部12bや太径部12cを有さない、先端部11と同一径の円柱形状に形成されてもよい。また、固定用凸部16を設けなくともよい。さらに、先端部11は球状ではなく平坦としても良い。以上の構造において、先端部11の表面と細径部12aの表面とは、段差のないシームレス構造で繋がっていることがより好ましい。
【0030】
ピン15の先端部11の直径(円柱状でない場合は等価直径)は特に限定されないが、その上限が2mm以下に設計されることが好ましく、0.8mm以下に設計されることがより好ましい。先端部11の直径が小さいほど、生化学反応用ピン10を複数個組合せてピンチップを構成する際等に、小型化及びピンの高密度化が可能となる。ピン15の先端部11の直径の下限は特に限定されないが、例えば、0.05mm以上である。
【0031】
また、ピン15の先端部11の長さは特に限定されず、固定化したい抗体量等又は抗原蛋白質量等に応じて適宜設定されるが、例えば、0.01mm以上で1mm以下の範囲内である。また、先端部11の表面積も特に限定されず、固定化したい抗体量等又は抗原蛋白質量等に応じて適宜設定されるが、例えば、0.002mm以上で3mm以下の範囲内である。同様に、隣接部12の直径及び長さも特に限定されず適宜設定すればよいが、例えば、細径部12aの長さは4mm以上で10mm以下の範囲内であり、太径部12cの長さは2mm以上で5mm以下の範囲内であり、太径部の直径は2mm以上で5mm以下の範囲内であり、径変部12bの長さは0.5mm以上で2mm以下の範囲内である。
【0032】
(ピンの先端部への抗体又は抗原蛋白質の固定化)
図1に示すピン15において、先端部11の表面は、当該先端部11に隣接する細径部12aの表面と比較して蛋白質固定化反応への反応性がより高く構成されている。特に好ましくは、ピン15において、細径部12aの表面が蛋白質固定化反応への反応性を実質的に示さない。そのため、蛋白質固定化反応の条件を適切に制御することによって、当該先端部11の表面にのみ抗体又は抗原蛋白質が固定化可能となる。なお、特に限定されないが、不所望な抗体又は抗原蛋白質の固定を確実に防止するため、細径部12aの表面に加えて、径変部12b及び太径部12cの表面(すなわち、隣接部12の表面全体)も、先端部11の表面より蛋白質固定化反応への反応性が低く構成されることがより好ましい。
【0033】
なお、上記蛋白質固定化反応への反応性の相違は、例えば、先端部11の表面とそれに隣接する細径部12aの表面とで、表面処理の種類を異ならせる、及び/又は、材質を異ならせる、等の方法により実現可能である。
【0034】
上記の蛋白質固定化反応とは、例えば、光固定化ポリマー被膜を用いた蛋白質(抗体又は抗原)の固定化反応や、カルボジイミドを用いて活性化されたCOOH基に対する蛋白質(抗体又は抗原)の固定化反応(カルボジイミド活性化法)、アミノ基を用いた蛋白質の固定化反応(シッフ塩基法、エポキシ基法、イソシアナート法等)等、その種類は限定されず、各種の方法を採用することができる。
【0035】
例えば、上記蛋白質固定化反応が、カルボジイミド活性化法の場合、先端部11の表面がアクリル系樹脂からなり、上記細径部12aの表面(好ましくは隣接部12の表面全体)が、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)(テフロン(登録商標))被膜、ポリテトラフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(GPPS)、ポリエチレン(PE)、デルリン(登録商標)等の、アルカリ処理によりCOOH基が生じない材料からなる構成が挙げられる。ここで、アクリル系樹脂とは、重合体の繰り返し単位としてアクリル酸単位、又はメタクリル酸単位を含む樹脂の総称であって、ホモポリマーでもコポリマーでもよい。なお、アクリル系樹脂の中では、ポリメチルメタクリレートが特に好ましい。
【0036】
上記構造のピン15が、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ溶液による表面処理を受けると、アクリル酸単位又はメタクリル酸単位は、加水分解を受けてCOOH基を生成する。その結果、先端部11の表面にCOOH基が表出する。一方、細径部12aの表面は、この表面処理を受けても実質的な変化を生じずCOOH基は表出しない。次いで、アルカリによる表面処理後のピン15をカルボジイミドの溶液で表面処理すると、先端部11の表面に形成されたCOOH基とカルボジイミドとが反応して活性化され、先端部11の表面のみに蛋白質(抗体又は抗原)が固定化可能となる。なお、蛋白質(抗体又は抗原)の固定化は、当該蛋白質(抗体又は抗原)を含む溶液中に、ピン15の先端部11又はピン15の全体を浸漬する等の公知の方法で行えばよい。
【0037】
ピン15の先端部11に固定化される蛋白質(抗体又は抗原)の種類は特に限定されないが、その一例は、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)に用いる一次抗体である。これにより、ELISA用の生化学反応用ピン10が提供される。このELISA用の生化学反応用ピン10では、先端部11の表面のみに所望する一次抗体が固定化されている。その結果、生化学反応用ピン10を用いた測定の精度(とりわけ定量性)が向上する。また、他の例では、ピン15の先端部11に特異的に、ELISAに用いる抗原蛋白質が固定される。抗原蛋白質は例えば各種のアレルゲン等、抗原性を示す蛋白質でありそのサイズ等は特に限定されない。
【0038】
先端部11の表面への蛋白質(抗体又は抗原)の固定密度は特に限定されないが、一例では、0.1ng/mm(先端部11の単位表面積)以上で100ng/mm以下の範囲内である。
【0039】
また、生化学反応用ピン10の特に具体的な構成例では、ピン15と固定用凸部16とを異なる素材で構成する方法がある。例えば、テフロンを素材としてピン15の軸部をまず射出成型し、その後、ポリメチルメタクリレートの射出成型により当該軸部の先端に先端部11を一体化形成する。このような異材複合加工はテフロンの加工温度は高く(約300度)、またポリメチルメタクリレートの加工温度は低い(約100度)ため実現できる。他の構成例としては、ピン15全体をポリメチルメタクリレートの射出成型により形成した後、先端部11をマスキングし、ピン15の領域(具体的には、隣接部12)の表面に、テフロン被膜をスプレーコーティングしてもよい。あるいはピン15の表面全体にテフロンコートし、先端部11のみを鏡面レベルに研磨加工して、コーティング膜を除去してポリメチルメタクリレート表面を形成しても良い。いずれにしても、先端部11の抗体固定表面の面積を一定にすること、先端部11の表面と隣接部12の表面との繋ぎ目を段差のないシームレス構造として、境界領域に妨害分子の非特異的な吸着を最小限に抑えることが、計測の安定化と感度向上に特に好ましい。
【0040】
2.生化学反応用ピンチップ、ピンチップ等を用いたELISA
(生化学反応用ピンチップの基本構成)
生化学反応用ピンチップとは、支持体上に、図1に示すような生化学反応用ピン10が複数個固定された構造物である。生化学反応用ピンチップは、複数の生化学反応用ピン10を用いた、対象物の同時検出反応等に利用される。
【0041】
図2は本実施形態に係る生化学反応用ピンチップを示す側面図である。生化学反応用ピンチップ21は、複数個の生化学反応用ピン10が基板20上に固定されてなる。複数個の生化学反応用ピン10の先端部11(図1参照)は、その表面積が全て同じ面積である。また、基板20から、複数の生化学反応用ピン10の先端部11までの距離は全て等しい。そのため、生化学反応用ピン10の先端部11に固定される抗体量又は抗原蛋白質量を、複数の生化学反応用ピン10間で実質的に均一とすることが出来る。なお、図2に示す例では、生化学反応用ピン10はピン15(図1参照)からなり、当該ピン15は同一直径の円柱状である。
【0042】
基板20と生化学反応用ピン10とは一体的に形成してもよい。例えば、基板20と生化学反応用ピン10とを同じ樹脂材料(例えば、ポリメチルメタクリレート)で一体的に射出成型した後に、生化学反応用ピン10の先端部11(図1参照)以外の部分にテフロン被膜形成等の表面処理を行う。或いは、基板20と生化学反応用ピン10とを別体で構成した後に、両者を固定化してもよい。例えば、基板20に、図1に示す生化学反応用ピン10の太径部12cと同等の大きさの貫通孔を複数個形成しておき、当該貫通孔に生化学反応用ピン10を1つずつ嵌め込んでもよい。
【0043】
なお、生化学反応用ピンチップ21における生化学反応用ピン10の形成密度は特に限定されないが、例えば、0.25本/mm(基板20の単位表面積)以上で2本/mm(基板20の単位表面積)以下の範囲内である。
【0044】
(生化学反応用ピン又は生化学反応用ピンチップを用いたELISA)
図3は、図2に示す生化学反応用ピンチップ21を用いたELISAの工程を示す図である。この工程は、概略的には、以下に示す、第一工程〜第五工程をこの順に含んでなる。生化学反応用ピン10の先端部11には、ELISA用の一次抗体として、例えば、異なるピン10の先端部11間で互いに異なる抗体(例えば、異なる抗原を認識する抗体)が固定化されている。
【0045】
第一工程は、ELISA用の一次抗体と、検体試料中の抗原との抗原抗体反応である。第一工程では、生化学反応用ピンチップ21が備える生化学反応用ピン10を、液状の検体試料で満たされた単一の検体反応槽131に所定の条件で浸漬する。
【0046】
第二工程は、洗浄工程である。洗浄工程では、上記生化学反応用ピン10を、洗浄液で満たされた単一の洗浄槽132に所定の条件で浸漬する。洗浄工程では、適宜、振とうしたり、超音波等の振動を与えてもよい。洗浄工程で用いる洗浄液は、例えば、PBS、TBS、HEPES、等のバッファー溶液であり、必要に応じてTween、TritonX等の界面活性剤を含んでいてもよい。
【0047】
第三工程は、ELISA用の二次抗体と、生化学反応用ピン10に捕捉された抗原との抗原抗体反応である(サンドイッチELISA)。第三工程では、上記生化学反応用ピン10を、二次抗体溶液で満たされた二次抗体反応槽133に所定の条件で浸漬する。二次抗体反応槽133は、生化学反応用ピン10の個数に応じて形成された複数個のウェル134を備える。各ウェル134には、対応する生化学反応用ピン10が捕捉する抗原に特異的に反応する二次抗体溶液で満たされている。すなわち、各ウェル134に含まれる二次抗体の種類は、ウェル134間で異なる。
【0048】
第四工程は、第二工程と同じく洗浄工程である。洗浄工程では、上記生化学反応用ピン10を、洗浄液で満たされた単一の洗浄槽35に所定の条件で浸漬する。
【0049】
第五工程は、化学発光検出工程である。化学発光検出工程では、上記生化学反応用ピン10を、化学発光試薬溶液で満たされた単一の化学発光反応槽36に所定の条件で浸漬する。例えば、第三工程で用いる上記二次抗体が何れも同一のペルオキシダーゼで標識されている場合、化学発光試薬としてはペルオキシダーゼの作用により発光する各種試薬が挙げられる。そして、発光検出装置37により化学発光量を検出する。
【0050】
上記では、生化学反応用ピンチップ21を用いたELISAを説明したが、個々の生化学反応用ピン10を用いて同様のサンドイッチELISAを行ってもよい。
【0051】
以上のように、本実施形態に係る生化学反応用ピン10、又は、生化学反応用ピンチップ21を用いたELISAは、これらピン10やピンチップ21を、順次、反応槽や洗浄槽に移動させるのみで実行可能である。従って、ELISAの自動反応装置を比較的容易に構成できる。自動反応装置は、ピン10やピンチップ21を移動させる移動機構(ロボットアーム等)を備えればよい。また、必要に応じて、洗浄液、及び各種反応液の供給機構を備えればよい。自動反応装置の一例は、図5及び図6を用いて別途説明する。
【0052】
なお、ピンチップ21を構成するピン10の先端部に蛋白性アレルゲン等の抗原蛋白質を固定してELISAを行ってもよい。この場合、上記第一工程は、ELISA用の抗原蛋白質と、検体試料中の抗体との抗原抗体反応である。また、上記第三工程は、ELISA用の二次抗体と、生化学反応用ピン10に捕捉された抗体との抗原抗体反応である。すなわち二次抗体としては、生化学反応用ピン10に捕捉された抗体を特異的に認識可能な抗体を用いる。
【0053】
(適用可能なELISAの種類)
一次抗体が先端部11に固定された生化学反応用ピン10、又は、生化学反応用ピンチップ21を用いたELISAの種類は、いわゆる抗原測定系(検体試料中に含まれる抗原量の測定系)であれば広く適用可能である。具体的には例えば、競合法によるELISA、及びサンドイッチELISA等が挙げられる。競合法によるELISAとは、検体試料中の抗原と、酵素標識抗原とを、上記一次抗体に競合反応させるELISAである。サンドイッチELISAとは、上記一次抗体と二次抗体とで検体試料中の抗原を検出するタイプのELISAである。好ましくは、図3を用いて説明したサンドイッチELISAである。
【0054】
また、抗原測定系のELISAではなく抗原自体をピン先端に固定しても良く、これにより検体中の目的抗体を捕捉し、さらに2次抗体として標識した目的抗体に対する抗体を、それぞれにあるいは個別に用いれば目的抗体量を各ピンで検出できる。この方式では、2次抗体及び/又は発光試薬を後述のウェル(例えば、図6中の(b)に示す反応槽96及び97)に充填しておくことができ、生化学反応装置90に送液ポンプが不要となり、装置の簡易化ができる。またこの方式では、2次抗体をピン毎に代えることもできる。
【0055】
3.ELISA用カートリッジ(1)、及び、反応装置(1)
(ELISA用カートリッジ(1))
図4の(a)〜(c)は、生化学反応用ピン10を用いたELISAに使用されるELISA用カートリッジ70を、異なる角度から示す斜視図である。図4では、使用される生化学反応用ピン10の数は二本であるが、特にこの本数に限定されない。ELISA用カートリッジ70を簡易検査用に用いる場合、使用される生化学反応用ピン10の本数は特に限定されないが、例えば1本以上で30本以下であり、或いは2本以上で10本以下であり、或いは2本以上で6本以下である。生化学反応用ピン10の先端部11(図1も参照)には、ELISA用の一次抗体が固定されている。なお、ELISA用の一次抗体に代えて抗原蛋白質を、生化学反応用ピン10の先端部11に固定することもできる。
【0056】
ELISA用カートリッジ70は、概略的には、蓋部材30と、カートリッジ本体部40とから構成される。カートリッジ本体部40は、円盤状に成型された基体52の上面側に、検体試料との反応槽41、3つの洗浄槽42〜44、二次抗体との反応槽45、3つの洗浄槽46〜48、及び二次抗体検出用の反応槽49が、この順に環状に配置されている。基体52の上面側の中心には、蓋部材30の回転軸が貫通する凹部としての回転軸貫通孔51が形成されている。回転軸貫通孔51の中心は、上記反応槽及び洗浄槽の環状配置の中心軸である。すなわち、上記反応槽及び洗浄槽は、回転軸貫通孔51の中心から等距離(半径の長さ)に配置されている。なお、反応槽41・45・49は、使用される生化学反応用ピン10の本数に応じた個数で設けられる。また洗浄槽42〜44、46〜48は、まとめて1個を設ける構成としてもよい。さらに、反応槽45は、生化学反応用ピン10を複数個用いる場合でも、目的に応じてまとめて1個とすることも可能である。
【0057】
さらに、上記基体52の上面側には、円管状の凹部としての蓋部材固定孔(蓋部材位置決め手段)50が複数個形成されている。複数の蓋部材固定孔50は、回転軸貫通孔51の中心を基準とし、上記反応槽及び洗浄槽より内側(内径側)に環状に配置されている。上記反応槽及び洗浄槽と、蓋部材固定孔50とは1:1対応の関係にあり、各反応槽及び洗浄槽の内側(内径側)に蓋部材固定孔50が1個配置されている。
【0058】
また、カートリッジ本体部40では、検体試料との反応槽41を除く、反応槽45・49に反応液が予め充填されている。また、各洗浄槽42〜44・46〜48に洗浄液が予め充填されている。また、上記基体52の上面全体は、円盤状のシール60により覆われている。すなわち、上記各反応槽及び洗浄槽は、シール60によりシールされている。そして、カートリッジ本体部40を使用する際に、シール60は剥がされる。
【0059】
反応槽49は底面が透明光学材料(透光性材料)で構成され、光計測器にピン先端の発光信号を伝達することができる。反応槽49は干渉を避けるためピン毎に個別に設けることも可能であり、またまとめて1個とすることも可能である。
【0060】
蓋部材30は、カートリッジ本体部40と同等の大きさの円盤状の基体34を有する。基体34の中心には、基体34の上方側に突出した変形円管状の凸部としての回転軸受33が形成されている。また、基体34の下方側に突出した円管状の凸部としての固定突起32が形成されている。さらに、基体34をその厚み方向に貫通するように円管状のピン固定孔31(支持固定部)が形成されている。これら、回転軸受33、固定突起32、及びピン固定孔31は、回転軸受33の中心から伸びる1つの半径(直線)上に、内周側から外周側にかけてこの順に形成されている。
【0061】
ELISA用カートリッジ70の使用時には、まず、反応槽41内に検体試料を充填する。次いで、回転軸受33が、回転軸貫通孔51上に位置するように、蓋部材30をカートリッジ本体部40上に載置する。このとき、蓋部材30を回転させる回転軸(図示せず)は、回転軸貫通孔51を貫通して、回転軸受33内に挿入される。また、蓋部材30の固定突起32が、カートリッジ本体部40の蓋部材固定孔50の何れかに挿入される。このとき、蓋部材30のピン固定孔31に挿入された生化学反応用ピン10は、その先端部が上記反応槽又は上記洗浄槽側(すなわち、固定突起32が挿入された蓋部材固定孔50に対応する槽)に向いて、反応又は洗浄に供される。すなわち、まず、生化学反応用ピン10が反応槽41内に向くように、蓋部材30とカートリッジ本体部40とがはめ合わされる。次いで、蓋部材30を持ち上げて、図4中で反時計回り方向に順次回転させることにより、生化学反応用ピン10を順次、洗浄槽42〜44、反応槽45、洗浄槽46〜48、及び反応槽49での洗浄又は反応に供する。これにより、蓋部材30によって、全ての反応槽及び洗浄槽を覆った状態で、ELISAの検出反応を行うことができる。なお、蓋部材30がカートリッジ本体部40に対して相対的に移動すればよいため、実際に回転等するのは蓋部材30であっても、カートリッジ本体部40であってもよい。図3に示すELISA反応の工程図と対応させると、反応槽41は第一工程(一次抗体と抗原との反応工程)、洗浄槽42〜44は第二工程(洗浄工程)、反応槽45は第三工程(二次抗体と抗原との反応工程)、洗浄槽46〜48は第四工程(洗浄工程)、反応槽49は第五工程(化学発光検出工程)に夫々相当する。なお、ELISA用カートリッジ70を、後述する生化学反応装置80(図5参照)に格納してELISA反応を行う場合は、上記蓋部材30の持ち上げ操作及び順次回転操作は、生化学反応装置80に供えられた回転駆動手段(例えば、蓋部材の回転用モーター、及び蓋部材の上下動用モーター等の組合せ)を用いて行ってもよい。
【0062】
なお、図4に示すELISA用カートリッジ70では、各反応槽の後段に3つの洗浄槽を設けているが、洗浄槽の数はこれに限定されず1つ以上あればよい。また、ELISA用カートリッジ70は、カートリッジ本体部40のみを用いて、蓋部材30の無い構成とすることもできる。さらに、反応槽41以外の反応槽や洗浄槽についても反応液や洗浄液を予め充填はしておかず、使用時にこれらを充填する構成としてもよい。
【0063】
なお、サンドイッチELISA法による二次抗体による検出については、発色法、化学発光法、蛍光法、その他のどの方法を使用しても良い。化学発光法では、二次抗体をHRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識して抗原抗体反応させ、その後発光試薬を反応液に加えて、HRP量に応じた発光強度を観測する。装置を簡略化できる。発色法では発光試薬の代わりに発色試薬を用いる。発色試薬は安価であるという利点がある。二次抗体を蛍光標識する等の蛍光法は最も高い感度が得られ、発色や発光試薬を加える手間が省けるという利点がある。
【0064】
(ELISA用の反応装置(1))
図5は、本発明に係るELISA用カートリッジを用いる生化学反応装置の概略構成の一例を示す図である。生化学反応装置80は、図4に示すELISA用カートリッジ70を格納するELISA反応部81を備える。また、図示しないが、反応槽49で生じる化学発光を検出する発光検出部(図3に示す発光検出装置37に相当)を有する。
【0065】
ELISA反応部81は、蓋82を備える。そして、ELISA用カートリッジ70の格納及び取り出しを行うときは蓋82を開き、ELISA反応を行っている間は蓋82を閉じてELISA反応部81を外部環境から隔離する。
【0066】
上記説明の通り、ELISA用カートリッジ70には、反応に必要な洗浄液及び反応液が予め格納されている。そのため、生化学反応装置80は、洗浄液及び反応液を供給する供給ポンプや、これらを排出する排出ポンプを備える必要がない。よって、生化学反応装置80は、構成の簡素化や小型化が容易である。
【0067】
なお、生化学反応装置80は、ELISA用カートリッジ70の蓋部材30の持ち上げ操作及び順次回転操作を行うための回転駆動手段を備える。回転駆動手段の一例を、図6に示す。回転駆動手段は例えば、回転用モーター103、回転歯車101b、及び回転歯車101aを含んで構成される回転駆動部と、上下動用モーター104、及びギア102b・102aを含んで構成される上下駆動部とからなる。
【0068】
回転歯車101bは、回転用モーター103の駆動軸(回転軸)に取り付けられるとともに、回転歯車101aとかみ合っている。また、回転歯車101aは、蓋部材30の回転軸100に取り付けられて、回転用モーター103の回転を回転軸100に伝達する。回転軸100は二重シャフト構造をとっており、回転用モーター103の回転が伝達されるのは外側シャフトである。
【0069】
また、互いにかみ合うギア102b・102aのうち、ギア102bは上下動用モーター104の駆動軸(回転軸)に取り付けられ、ギア102aは回転軸100に取り付けられる。ギア102aは、上下動用モーター104の回転を上下方向の運動に変換して、回転軸100の内側シャフトに伝達する。
【0070】
図6中の(b)は、蓋部材30の持ち上げ操作、及び相対的な順次回転操作を行う様子を示す図である。同図に示すように、まず、上下動用モーター104の回転運動を、ギア102b・102aを用いて上下方向の運動に変換して、回転軸100の内側シャフトを持ち上げる。これにより、蓋部材30が、カートリッジ本体部40に対して持ち上がる。次いで、回転用モーター103の回転運動を、回転歯車101a・101bを用いて回転軸100の外側シャフトに伝達する。これにより、ELISA用カートリッジ70のうちカートリッジ本体部40のみを、当該外側シャフトと一体的に回転させる。そして、所定量の回転動作が終了すれば、上下動用モーター104を逆回転させて、蓋部材30をカートリッジ本体部40に対して当接させる(図6中の(a)参照)。なお、回転用モーター103及び上下動用モーター104の駆動は、生化学反応装置80が備える制御部105により自動制御される。
【0071】
(ELISA用のキット(1))
本発明は、生化学反応用ピン又は生化学反応用ピンチップと、ELISA用カートリッジとを備えるELISA用キットも提供する。ELISA用キットの一例は、図1に示す生化学反応用ピン10を1〜複数本と、図4に示すELISA用カートリッジ70とを備えるものである。ELISA用キットは、その他、1)キットの取扱説明書、2)ELISAに用いる各種反応液(反応試薬)及び洗浄液、3)ピペット等の液体注入手段、4)注射器等の検体試料取得手段、等を必要に応じて備えていてもよい。
【0072】
〔実施の形態2〕
以下、本発明の他の実施の形態について詳細に説明する。
【0073】
1.ELISA用カートリッジ(2)、及び、反応装置(2)
図7中の(a)〜(c)は、生化学反応用ピンチップ21(図2も参照)を用いたELISAに使用されるELISA用カートリッジ93、及びELISA用の生化学反応装置90を示す斜視図である。図中の(a)は概略の全体構成を示し、(b)は概略の要部構成を示す。ここで、生化学反応用ピンチップ21が有する生化学反応用ピン10の先端部11(図1も参照)には、ELISA用の一次抗体が固定化されている。
【0074】
(ELISA用カートリッジ(2))
ELISA用カートリッジ93は、概略的には、略直方体形状の基体の上面側に、検体試料との反応槽94、二次抗体との反応槽96、及び二次抗体検出用の反応槽97が、この順に一直線状に並ぶように離間配置されている。
【0075】
反応槽94は、生化学反応用ピンチップ21の基板20を受ける円柱状の窪みであり、生化学反応用ピンチップ21が有する生化学反応用ピン10全てを同時に受け入れるように構成されている。反応槽94は、当該反応槽94の側面に開口する給液ポート95aと廃液ポート95bとが設けられている。給液ポート95aは、生化学反応装置90側に設けられた液体供給ポンプ(図示せず)と接続されて、反応槽94内に液体(液体状の検体試料、及び洗浄液)を導入するためのポートである。廃液ポート95bは、生化学反応装置90側に設けられた液体排出ポンプ(図示せず)と接続されて、反応槽94内から液体(液体状の検体試料、及び洗浄液)を排出するためのポートである。後述するが、反応槽94は、洗浄槽としても機能する。
【0076】
反応槽96は、生化学反応用ピンチップ21の基板20を受ける円柱状の浅い窪みと、当該窪み内に複数個設けられた細長円柱状の窪み96aとからなる。窪み96aそれぞれは、生化学反応用ピンチップ21の生化学反応用ピン10を一つずつ受け入れるように構成されている。
【0077】
反応槽97は、生化学反応用ピンチップ21の基板20を受ける円柱状の窪みであり、生化学反応用ピンチップ21が有する生化学反応用ピン10全てを同時に受け入れるように構成されている。
【0078】
ELISA用カートリッジ93は、略直方体形状の基体における対向する側面の一部が互いに内側に向ってくびれた一対の凹部98・98を備える。凹部98・98は、ELISA用カートリッジ93を生化学反応装置90に格納する、又は、生化学反応装置90から取り出す際に、作業者の指で摘まれる部分である。ELISA用カートリッジ93では、凹部98・98は、対向する長手方向の側面の中央部に形成されている。
【0079】
ELISA用カートリッジ93の使用時には、まず、給液ポート95aを通じて、反応槽94内に検体試料を充填する。また、反応槽96の窪み96aに二次抗体を含む溶液を充填し、反応槽97に化学発光試薬溶液を充填する。
【0080】
次いで、生化学反応用ピンチップ21を反応槽94にはめ合わせて、当該生化学反応用ピンチップ21が有する生化学反応用ピン10全てを同時に検体試料に接触させる。次いで、生化学反応用ピンチップ21を反応槽94にはめ合わせた状態で、反応槽94内の検体試料を、廃液ポート95bを通じて排出する。次いで、空になった反応槽94内に給液ポート95aを通じて洗浄液を充填して洗浄を行った後に、当該洗浄液を廃液ポート95bを通じて排出する。この洗浄動作は、必要に応じて複数回行ってもよい。
【0081】
次いで、生化学反応用ピンチップ21を反応槽96上に移動させて、反応槽96が有する窪み96aそれぞれが、生化学反応用ピンチップ21の生化学反応用ピン10を一つずつ受け入れるように、生化学反応用ピンチップ21を反応槽96にはめ合わせる。これにより、生化学反応用ピン10に捕捉された検体試料と、ELISA用の二次抗体とを反応させる。次いで、生化学反応用ピンチップ21を反応槽94上に移動させ、生化学反応用ピンチップ21を反応槽94にはめ合わせる。次いで、反応槽94内に給液ポート95aを通じて洗浄液を充填して洗浄を行った後に、当該洗浄液を廃液ポート95bを通じて排出する。この洗浄動作は、必要に応じて複数回行ってもよい。
【0082】
次いで、生化学反応用ピンチップ21を反応槽97上に移動させて、生化学反応用ピンチップ21が有する生化学反応用ピン10全てが化学発光試薬溶液に接触するように、生化学反応用ピンチップ21を反応槽97にはめ合わせる。そして、反応槽97で生じた化学発光を検出することにより、ELISAの検出反応を行う。なお、図3に示すELISA反応の工程図と対応させると、反応槽94は第一工程(一次抗体と抗原との反応工程)及び第二工程(洗浄工程)、反応槽96は第三工程(二次抗体と抗原との反応工程)、反応槽94は第四工程(洗浄工程)、反応槽97は第五工程(化学発光検出工程)に夫々相当する。なお、ELISA用カートリッジ93を、後述する生化学反応装置90(図6参照)に格納してELISA反応を行う場合は、上記生化学反応用ピンチップ21の移動は、生化学反応装置90に供えられた駆動手段(例えば、上下動ソレノイド及び回転モーター等の組合せ)を用いて行う。
【0083】
なお、ELISA用カートリッジ93を簡易検査用に用いる場合、使用される生化学反応用ピン10の本数(生化学反応用ピンチップ21が備えるピン10の本数)は特に限定されないが、例えば1本以上で30本以下であり、或いは4本以上で25本以下である。
【0084】
(反応装置(2))
ELISA用の生化学反応装置90は、図7中の(a)及び(b)に示すように、ELISA用カートリッジ93を格納するELISA反応部92を備える。また、図示しないが、生化学反応装置90は、ELISA用カートリッジ93の反応槽97で生じる化学発光を検出する発光検出部(図3に示す発光検出装置37に相当)を有する。
【0085】
ELISA反応部92は、蓋112を備える。そして、ELISA用カートリッジ93の格納及び取り出しを行うときは蓋112を開き、ELISA反応を行っている間は蓋112を閉じてELISA反応部92を外部環境から隔離する。また、ELISA反応部92には、ELISA用カートリッジ93を載置するステージ91が設けられている。ステージ91は、ステージ駆動手段(図示せず)により、図中の矢印方向に自在に動くように構成されている。なお、この矢印方向は、ELISA用カートリッジ93における、反応槽94、反応槽96、及び反応槽97の並び方向に一致している。
【0086】
さらに、生化学反応装置90は、ELISA用カートリッジ93の反応槽94に、給液ポート95aを通じて洗浄液及び検体試料を供給する供給ノズル及び供給ポンプと、廃液ポート95bを通じて洗浄液及び検体試料を反応槽94外に廃液する廃液ノズル及び排出ポンプと、を備える。なお、検体試料は供給ノズル及び供給ポンプを介さずに、反応槽94内に供給するようにしてもよい。
【0087】
生化学反応装置90では、ELISA用カートリッジ93に対する生化学反応用ピンチップ21の相対移動は、例えば、ステージ91の移動と、アーム111の上下方向への移動との組合せで実現する。例えば、図7中の(a)に示す状態において、ステージ91を矢印方向に沿って移動させて、当該ステージ91とアーム111とを近づける。これにより、図7中の(b)に示す状態となり、アーム111が、生化学反応用ピンチップ21を把持する。次いで、生化学反応用ピンチップ21を把持したアーム111を上方に移動させて、生化学反応用ピンチップ21とELISA用カートリッジ93とを離間させる。次いで、ステージ91を矢印方向に沿って移動させて、ELISA用カートリッジ93が有する所望の反応槽(反応槽94等)上に、生化学反応用ピンチップ21を位置づける。次いで、アーム111を下方に移動させて、生化学反応用ピンチップ21を所望の反応槽内に位置づける。なお、ステージ91及びアーム111の駆動は、生化学反応装置90が備える制御部(図示せず)により自動制御される。
【0088】
(ELISA用のキット(2))
本発明は、生化学反応用ピン又は生化学反応用ピンチップと、ELISA用カートリッジとを備えるELISA用キットも提供する。ELISA用キットの一例は、図2に示す生化学反応用ピンチップ21と、図7に示すELISA用カートリッジ93とを備えるものである。ELISA用キットは、その他、1)キットの取扱説明書、2)ELISAに用いる各種反応液(反応試薬)及び洗浄液、3)ピペット等の液体注入手段、4)注射器等の検体試料取得手段、等を必要に応じて備えていてもよい。
【0089】
本発明は上述した各実施形態及び実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、所定の領域のみに抗体が固定化可能に設計された生化学反応用ピン、及びその利用を提供することが出来る。
【符号の説明】
【0091】
10 生化学反応用ピン
11 先端部
12a 細径部(先端部に隣接する部分)
15 ピン
21 生化学反応用ピンチップ
30 蓋部材
31 ピン固定孔(支持固定部)
40 カートリッジ本体部(本体部)
41・45 反応槽
42〜44 洗浄槽
46〜48 洗浄槽
49 反応槽
70 ELISA用カートリッジ
80 生化学反応装置
81 ELISA反応部
90 生化学反応装置
92 ELISA反応部
93 ELISA用カートリッジ
94 反応槽
95a 給液ポート
95b 廃液ポート
96 反応槽
97 反応槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部の表面が、当該先端部に隣接する部分の表面と比較して蛋白質固定化反応への反応性がより高く、当該先端部の表面に抗体又は抗原蛋白質を固定化可能なピン
を備えることを特徴とする生化学反応用ピン。
【請求項2】
上記蛋白質固定化反応が、上記先端部の表面に存在するCOOH基(カルボキシル基)をカルボジイミドで活性化した後に抗体又は抗原蛋白質を当該表面に固定化する反応であることを特徴とする請求項1に記載の生化学反応用ピン。
【請求項3】
上記先端部の表面がアクリル系樹脂からなり、上記先端部に隣接する部分の表面がテフロン(登録商標)又はデルリン(登録商標)からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の生化学反応用ピン。
【請求項4】
ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)に用いる一次抗体又は抗原蛋白質が上記先端部の表面に固定されていることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の生化学反応用ピン。
【請求項5】
ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)に用いる一次抗体が上記先端部の表面に固定されていることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の生化学反応用ピン。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の生化学反応用ピンを複数個備えたピンの集合体であって、これら複数の生化学反応用ピンの間では先端部の表面積が等しいことを特徴とする生化学反応用ピンの集合体。
【請求項7】
請求項1から5の何れか一項に記載の生化学反応用ピンを複数個備えることを特徴とする生化学反応用ピンチップ。
【請求項8】
上記複数個の生化学反応用ピンの間では先端部の表面積が等しいことを特徴とする請求項7に記載の生化学反応用ピンチップ。
【請求項9】
請求項4に記載の生化学反応用ピン、又は当該生化学反応用ピンを複数個備えた生化学反応用ピンチップを用いたELISAに使用されるELISA用カートリッジであって、
検体試料との反応槽、洗浄槽、二次抗体との反応槽、及び二次抗体検出用の反応槽とを備えることを特徴とするELISA用カートリッジ。
【請求項10】
検体試料との上記反応槽、1つ以上の上記洗浄槽、二次抗体との上記反応槽、1つ以上の上記洗浄槽、及び、二次抗体検出用の上記反応槽が、この順に環状に配置されていることを特徴とする請求項9に記載のELISA用カートリッジ。
【請求項11】
上記反応槽及び上記洗浄槽を覆う蓋部材を備え、
上記蓋部材は、上記反応槽及び上記洗浄槽が環状に配置されたカートリッジの本体部に、当該反応槽及び洗浄槽の配置の中心を基点にした回転が可能に取り付けられるものであり、
上記蓋部材は、本体部に取り付けられたときに、ピンの先端部が上記反応槽及び上記洗浄槽側に向くように上記生化学反応用ピン又は生化学反応用ピンチップを取り付ける支持固定部を備えることを特徴とする請求項10に記載のELISA用カートリッジ。
【請求項12】
上記反応槽に反応液が充填された状態で当該反応槽がシールされている、及び/又は、上記洗浄槽に洗浄液が充填された状態で当該洗浄槽がシールされていることを特徴とする請求項9から11の何れか一項に記載のELISA用カートリッジ。
【請求項13】
上記反応槽の何れかは上記洗浄槽を兼ねるものであり、洗浄槽を兼ねる当該反応槽は、給液ポートと廃液ポートとを備えることを特徴とする請求項9に記載のELISA用カートリッジ。
【請求項14】
請求項1から5の何れか一項に記載の生化学反応用ピン又は請求項7から8の何れか一項に記載の生化学反応用ピンチップと、請求項9から13の何れか一項に記載のELISA用カートリッジとを備えることを特徴とするELISA用キット。
【請求項15】
請求項9から13の何れか一項に記載のELISA用カートリッジを格納するELISA反応部を備えることを特徴とする生化学反応装置。
【請求項16】
検体試料との上記反応槽、上記洗浄槽、二次抗体との上記反応槽、及び二次抗体検出用の上記反応槽へ、上記上記生化学反応用ピン又は上記生化学反応用ピンチップを移動させる移動機構を備えることを特徴とする請求項15に記載の生化学反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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