説明

生化学反応用炭素電極

【課題】バイオフィルムが形成されても実質的な電極表面積が大きく、電極表面への被電解物質の拡散性に優れ、生化学反応の入出力エネルギー密度に優れる生化学反応用炭素電極を提供すること。
【解決手段】本発明に係る生化学反応用炭素電極は、平均径が1μm以下である導電性炭素体の集合体からなることを特徴とし、好ましくは、導電性繊維の集合体からなる基材に担持されていることを特徴とし、さらに好ましくは、酵素及び又は微生物を担持する用途に用いられることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学反応用炭素電極に関し、詳しくは、電子移動に伴う生化学反応に用いられる微小導電性炭素体の集合体からなる生化学反応用炭素電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題が深刻化している事態を受けて、バイオ燃料電池(特許文献1)等のように、微生物や酵素を利用して、生化学反応を電気化学的に進行させる技術が研究されている。
【0003】
しかしながら、微生物や酵素を利用して、生化学反応を電気化学的に進行させる技術は、十分な実用化には至っていない。その理由として、入出力のエネルギー密度が小さいことが第一に挙げられる。
【0004】
環境問題やエネルギー問題を解決する上で、まずは、微生物や酵素との電極反応性に優れた電極の開発が急務である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−043978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、生化学反応の入出力エネルギー密度を向上して、経済性の面でも実用的なレベルにもってゆく上で、生化学反応の反応場となる電極に着目した。
【0007】
従来、特に微生物や酵素を担持した電極における電極反応性(全体的な反応速度)は極めて低いものであった。
【0008】
本発明者は、この理由について鋭意検討し、以下に挙げる問題点を見出した。
【0009】
まず、物理的あるいは化学的な電極表面処理によって、凹凸による比表面積の増大や、表面化学修飾によって反応性を向上させることが試みられている。しかし、所謂生物膜法では、生物膜の形成によって、実質的な比表面積の増大効果が得られず、また表面官能基の効果も相殺され、反応速度が大きく低下して、十分な入出力密度が得られなかった。
【0010】
また、電極反応系においては、バイオフィルムによって被電解物質(例えば細胞外キノン等の所謂エレクトロンシャトルなど)の拡散が制約され易いことも、電極反応を阻害する主な原因の一つである。また、平面状に形成された微生物担持電極の場合、電極面への被電解物質の拡散が一次元的であることも、全体の入出力密度を小さくする理由の一つになっている。
【0011】
以上が、特に微生物担持電極のように、微生物や酵素を利用して生化学反応を電気化学的に進行させる技術において、十分な入出力密度が得られない主な理由である。
【0012】
従来の技術では、これらの問題を部分的に解決することすら困難であるが、本発明者は、これらの問題を一挙に解決して、入出力密度に優れる電極を提供することを試み、鋭意検討した結果、本発明に至った。
【0013】
そこで、本発明の課題は、バイオフィルムが形成されても実質的な電極表面積が大きく、電極表面への被電解物質の拡散性に優れ、生化学反応の入出力エネルギー密度に優れる生化学反応用炭素電極を提供することにある。
【0014】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0016】
(請求項1)
平均径が1μm以下である導電性炭素体の集合体からなることを特徴とする生化学反応用炭素電極。
【0017】
(請求項2)
導電性繊維の集合体からなる基材に担持されていることを特徴とする請求項1記載の生化学反応用炭素電極。
【0018】
(請求項3)
酵素及び又は微生物を担持する用途に用いられることを特徴とする請求項1又は2記載の生化学反応用炭素電極。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、バイオフィルムが形成されても実質的な電極表面積が大きく、電極表面への被電解物質の拡散性に優れ、生化学反応の入出力エネルギー密度に優れる生化学反応用炭素電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】電極表面における物質の拡散性を説明する図
【図2】本発明の生化学反応用炭素電極を備える熱交換型バイオリアクターを有する試験装置を示す図
【図3】図2に示す試験装置における出力電流の経時変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明を実施するための形態について説明する。
【0022】
本発明の生化学反応用炭素電極は、平均径が1μm以下、好ましくは0.5μm以下である導電性炭素体の集合体からなる。
【0023】
本発明において、導電性炭素体とは、炭素質もしくはグラファイト質の炭素から構成された導電性の炭素体である。
【0024】
導電性炭素体としては、繊維長Fが、繊維径Dの少なくとも10倍以上、好ましくは20倍以上、より好ましくは50倍以上の繊維状のもの等が好適に用いられる。
【0025】
本明細書において、導電性炭素体の「平均径」とは、導電性炭素体が粒状であれば、粒径の平均値を指し、また導電性炭素体が繊維状であれば、繊維径の平均値を指す。なお、粒状の導電性炭素体が完全な球でない場合は、球換算した直径であり、また、繊維状の導電性炭素体の繊維断面が完全な円でない場合は、繊維断面を円換算した直径である。平均径は、電子顕微鏡(SEM)等によって容易に測定できる。
【0026】
本発明者は、平均径1μm以下という極めて微小な導電性炭素体であっても、これを集合体として用いることによって、強度低下が補われること、更には、実際の試験によって、特に導電性炭素体表面にバイオフィルムを形成した場合においては、十分な保持性を発現して、十分に実用性を満たすことを見出した。なお、本発明において、バイオフィルムとは、微生物などの生体由来物質が、導電性炭素体の表面に保持されてなるもので、生物膜とも称されるものである。
【0027】
以下に、本発明の生化学反応用炭素電極において、導電性炭素体の平均径が1μm以下であることの技術的意義について説明する。
【0028】
まず、電極反応における実質的な反応面積の観点から、導電性炭素体の平均径が1μm以下であることの技術的意義を説明する。
【0029】
生化学反応用炭素電極において、特にバイオフィルムが形成された場合は、導電性炭素体自体の表面積よりも、バイオフィルムの表面積が、生化学反応の入出力エネルギー密度に大きく影響することになる。
【0030】
バイオフィルムの厚さを一定とした場合、導電性炭素体自体の表面積に対するバイオフィルムの表面積の増加率は、平均径の関数として与えられる。
【0031】
即ち、導電性炭素体の平均径が、バイオフィルムの厚さに対して十分に大きい場合、バイオフィルム形成に伴う表面積の増加率は極めて少ないものとなる。更に言及すれば、導電性炭素体の表面の凹凸が埋まってしまうことにより、導電性炭素体自体の表面積よりも、バイオフィルムの表面積の方が小さくなる事態も生じやすくなる。
【0032】
これに対して、導電性炭素体の平均径が、バイオフィルムの厚さと同程度か、それよりも小さい場合は、バイオフィルム形成に伴う表面積の増加率が極めて大きいものとなる。
【0033】
例えば、一般的に、比較的小さい細菌の直径は0.5μm程度であり、このような細菌を繊維表面に1層に集合させて厚さ0.5μmのバイオフィルムを形成する場合を仮定すると、理論上、導電性炭素体の平均径が1μm以下であれば、表面積の増加率は2倍以上となり、平均径が0.5μm以下であれば、表面積の増加率は2倍以上となる。つまり、導電性炭素体の平均径が、一般的な微生物の径と同程度か、それよりも小さい値を取るとき、表面積の増加率は急激に向上することになる。従って、導電性炭素体の平均径が1μm以下、好ましくは0.5μm以下であれば、バイオフィルム形成に伴って表面積を飛躍的に増加させることができ、生化学反応の入出力エネルギー密度に優れる効果を奏する。即ち、微生物担持の場合は、一般に生物膜などの形成により上述のような比表面積を大きくする効果が得られないことが多いが、本発明の生化学反応用炭素電極であれば、平均径が1μm以下の導電性炭素体から形成されていることにより、生物膜法においても有効な反応面積を確保することが可能となり、実用的な生化学反応速度を実現できる。
【0034】
次に、微生物や酵素、あるいは電極反応における被電解物質の拡散性の観点から、導電性炭素体の平均径が1μm以下であることの技術的意義を説明する。
【0035】
微生物や酵素は、バルク側からの拡散によって電極表面に到達し、該電極表面に担持される。また、電極反応に供される被電解物質もまた、バルク側からの拡散によって電極表面に到達して、反応を起こす。このとき、微生物や酵素、あるいは、被電解物質等の物質の拡散性は、電極表面の形状によって制約を受けることになる。
【0036】
図1は、電極表面における物質の拡散性を説明する図であり、電極Eの平均径が1μm以下の導電性炭素体であり、即ち、その表面が凸曲面である場合(図1(a))と、電極Eの表面が平面である場合(図1(b))とで、物質Mの拡散性を対比している。
【0037】
図1(a)に示すように、電極Eが平均径1μm以下の導電性炭素体であれば、その凸曲面により、物質Mが電極E表面上の任意の一点に到達するための拡散経路が広範囲に亘って形成される。
【0038】
一方、図1(b)に示すように、電極E表面が平面である場合は、物質Mが電極E表面上の任意の一点に到達するための拡散経路が、図1(a)の場合と比較して大幅に狭い範囲に制約されることになる。
【0039】
ここで、図1(b)に示す状態について、電極E表面が平面である場合として説明したが、このように物質Mの拡散が制約される状態は、電極Eが粒状あるいは繊維状である場合にも生じ得る。つまり、拡散する物質Mが、電極Eの粒径ないし繊維径よりも小さくなるほど、相対的に電極Eの粒径ないし繊維径は大きくなり、実質的に電極Eの表面が平坦化された状態、即ち図1(b)に示す状態に近づくからである。
【0040】
つまり、本発明では、導電性炭素体の平均径を、一般的な微生物の径と同程度かそれ未満である1μm以下、好ましくは0.5μm以下とすることにより、優れた拡散性が引き出されて、図1(a)に示すように、電極E表面上への拡散経路を広範囲に亘って形成することを可能とする。
【0041】
その結果、バイオフィルム形成を促進でき、更に、被電解物質の拡散効率を高めて、生化学反応の入出力エネルギー密度に優れる効果を奏する。
【0042】
特に、本発明の生化学反応用炭素電極であれば、バイオフィルム形成が促進されることによって、該電極を酵素や微生物を含む溶液に含浸させるだけで、バイオフィルムを効率的に形成することを可能とする効果が得られる。
【0043】
本発明の生化学反応用炭素電極において、導電性炭素体の集合体とは、各々の導電性炭素体が互いに接触するように集合されたものを指し、その集合形態は格別限定されるものではない。
【0044】
例えば、集合形態の好ましい一例として、何らかの導電性基材の表面に、平均径が1μm以下の導電性炭素体を担持させて、集合体を形成させたものを挙げることができる。
【0045】
導電性基材に対して平均径が1μm以下の導電性炭素体を担持させる方法は、格別限定されず、例えば、導電性ペースト(接着剤)などによって導電性基材に担持させてもよいが、好ましくは、導電性基材として導電性繊維の集合体を用い、その表面に、平均径が1μm以下の導電性炭素体を撒くことによって、基材となる導電性繊維の集合体中に保持させて担持させる方法が挙げられる。特に、導電性炭素体が繊維状であれば、基材を構成する繊維との絡合によって、より好適に担持させることが可能となる。振動等を与えて絡合を促進させてもよいが、単純に撒いただけでも、平均径が1μm以下の導電性炭素体であれば、自然に絡合が生じることを実験により確認している。基材となる導電性繊維の集合体は、導電性繊維を織成又は編成してなる織布、あるいは、導電性繊維からなる不織布を好ましく用いることができる。
【0046】
本発明においては、導電性炭素体が繊維状であれば、各々の導電性炭素体同士の接触が安定化されるため、電気的な接触不良の発生を好適に防止する効果を奏する。
【0047】
本発明において、導電性炭素体の平均径の下限は、格別限定されないが、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上とすることである。平均径をこれよりも小さくしても、生化学反応の入出力エネルギー密度の向上効果が得られ難く、また強度の低下が生じやすくなるためである。
【0048】
本発明において、導電性炭素体は、例えば、ピッチ系、カイノール(フェノール樹脂)系、ポリアクリロニトリル系、セルロース系等の炭素物から、放電法などによってウィスカー等として得ることができる。炭素のグラファイト化率が低い場合は、必要に応じて、窒素気流中等の無酸素雰囲気での高温焼成等の処理によってグラファイト化率を向上させることができる。
【0049】
また、導電性炭素体は、ナノ繊維集合体や不織布やクロスを十分な導電性が得られるまで焼成して得ることもできる。
【0050】
また、平均繊維径が1μmを超えるフェルト、クロス等の炭素繊維であっても、水蒸気処理等の表面処理によって、平均繊維径を1μm以下、好ましくは0.5μm以下の範囲まで低下させることが可能である。このように、あらかじめ1μmを超える炭素繊維を集合体化した後に、平均繊維径を1μm以下、好ましくは0.5μm以下の範囲まで低下さることによって、繊維状の導電性炭素体の集合体を好適に得ることができる。
【0051】
更に、本発明において、導電性炭素体は、例えばアーク放電法やCVD法等によって製造されたカーボンナノチューブであってもよい。カーボンナノチューブとしては、単層ナノチューブ、多層ナノチューブの何れであっても、好ましく用いることができる。また、フラーレンも好ましく用いることができる。
【0052】
本発明の生化学反応用炭素電極は、その表面に、酵素及び又は微生物を担持する用途に好適に用いられる。特に、これにより表面にバイオフィルムを形成する用途に好適である。
【0053】
本発明の生化学反応用炭素電極は、具体的には、例えば生化学反応に関与する水素イオンを含む物質の濃度、温度又は圧力等の少なくとも1要素を計測して、酵素及び又は微生物を担持する生化学反応用炭素電極の電位を制御する反応装置(バイオリアクター)等に、好適に用いることができる。あるいは、担持された酵素及び又は微生物の基質特異性を利用したバイオセンサーにも、好適に用いられる。
【0054】
反応装置としては、微生物の代謝反応を利用したものであれば、好ましく適用でき、具体的には、アルコール、メタン、乳酸等を生成する発酵装置、汚泥分解装置、薬剤等の有価物を微生物の代謝反応によって生成する合成装置、あるいは、バイオ燃料電池等を好ましく例示できる。
【0055】
以上の説明では、導電性炭素体の表面に、直接バイオフィルムを形成する場合について説明したが、これに限定されるものではない。
【0056】
本発明においては、例えば、導電性炭素体の表面に修飾層を介してバイオフィルムを形成してもよい。
【0057】
修飾層としては、例えば官能基導入や分子膜等が好適である。単に微生物担体である炭素繊維等の比表面積を大きくする従来の技術と比較して、本発明では、有効な表面積を維持することが可能である。これにより、実用的な(有効な)比表面積を飛躍的に拡大することができ、実用的な生化学反応速度を得ることができる効果を奏する。
【0058】
また、本発明の生化学反応用炭素電極は、必ずしも表面にバイオフィルムを固定化される必要はなく、生体由来の物質を表面に脱着可能な状態で設けられてもよい。
【0059】
このように、本発明の生化学反応用炭素電極は、生体由来物質が関与する電気化学的な生化学反応の反応場として用いられることにより、生化学反応の入出力エネルギー密度に際立って優れる効果を奏する。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0061】
[1.グルコースの電位制御電解試験]
(実施例1)
電量分析用セルを用いて、下記反応式で表されるグルコースを基質とする微生物電解反応を行った。
12+24OH→6CO+18HO+24e
【0062】
直径が7〜1μm、比表面積が12m/gである1350℃焼成ポリアクリロニトリル系炭素繊維(CF)を、直径38mm、厚さ3mm、かさ比重0.3g/cmの円板状のフェルトに成形した。かかる円板状フェルトからなる基材の表面(面積:1133mm)に、直径0.1〜0.5μm、長さ0.1〜0.5mmの気相成長炭素(VGCF)50mgを均一に撒いて担持させ、作用極とした。作用極には、微生物含有液として活性汚泥上澄液を含浸させた。CFに対するVGCFの重量比は、4.5%である。
【0063】
一方、対極には、上記作用極と同様のPAN系CFフェルトを、気相成長炭素を担持することなく単独で用いた。対極には、ナフトキノンスルホン酸ナトリウムを含有する活性汚泥上澄液を含浸させた。
【0064】
さらに、作用極と対極を一価陽イオン選択性透過膜(交換膜)によって隔離し、電量分析用セルとした。
【0065】
室温において、作用極の電位を、+0.9V(VS 対極)に保持し、2.8mMグルコース水溶液100μLを作用極に添加し、バックグラウンド電流レベルから上昇した分の電流積算を行って電気量を求めた。
【0066】
反応終了後、再度2.8mMグルコース水溶液100μLを作用極に添加し、2回目の試験を行ない、1回目の試験と同様に電流積算を行って電気量を求めた。結果を表1に示す。
【0067】
(実施例2)
実施例1において、VGCFの添加量を150mgに変更し、CFに対するVGCFの重量比を13.6%としたこと以外は、実施例1と同様にして試験を行った。結果を表1に示す。
【0068】
(実施例3)
実施例1において、VGCFに代えて、多層カーボンナノチューブ(CNT;比表面積720m/g)120mgを撒いて、CFに対するCNTの重量比を10.9%としたこと以外は、実施例1と同様にして試験を行った。結果を表1に示す。
【0069】
(比較例1)
実施例1において、VGCFを添加せず、CFを単独で用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験を行った。結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
<評価>
2.8mMグルコース水溶液100μLの完全酸化における理論電気量は0.65クーロンであり、VGCF又はCNTを担持した電極を用いた実施例1及び2においては、理論電気量に近い電気量が得られることがわかる。また、2回目の試験における電気量の有意な低下は認められず、繰り返し使用しても反応性が安定することがわかる。
【0072】
一方、VGCF又はCNTを担持しない電極を用いた比較例1では、理論電気量の半分程度の電気量しか得られないことがわかる。
【0073】
[2.グルコースの電位制御発酵試験]
(実施例4)
実施例1で用いた電量分析用セルにおいて、作用極でのCFに対するVGCFの重量比を1%とし、グルコースのホモ乳酸発酵の速度を測定した。
12→2CHCH(OH)COOH
【0074】
室温において、作用極の印加電圧を、−0.2V(VS 対極)として、0.5Mグルコース水溶液100μLを作用極に添加し、6時間後に、作用極含浸液のpHを測定し、更に作用極における変化を観察した。結果を表2に示す。
【0075】
(実施例5)
実施例4において、作用極でのPAN系CFに対するVGCFの重量比を5%としたこと以外は、実施例4と同様にして試験を行った。結果を表2に示す。
【0076】
(実施例6)
実施例4において、作用極でのPAN系CFに対するVGCFの重量比を10%としたこと以外は、実施例4と同様にして試験を行った。結果を表2に示す。
【0077】
(比較例2)
実施例4において、作用極のPAN系CFに、VGCFを担持しなかったこと以外は、実施例4と同様にして試験を行った。結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
<評価>
CFに対するVGCFの重量比を1〜10%とした実施例4〜6では、何れも乳酸発酵臭が観察され、乳酸が生成したことが確認された。一方、VGCFを用いていない比較例2においては、乳酸発酵臭は観察されず、実施例4〜6に比べて乳酸発酵がほとんど進行していないことがわかる。
【0080】
なお、実施例4〜6及び比較例2共に、エタノール臭は確認されておらず、このことから、発酵は乳酸を生成するホモ乳酸発酵であり、乳酸とエタノールを同時に生成するヘテロ乳酸発酵は主要な発酵ではないと考えられる。
【0081】
[3.汚泥の電極分解による定電圧出力試験]
(実施例7)
図2に示す熱交換型バイオリアクターを備えた試験装置に、活性汚泥と、該活性汚泥をメタン発酵後の消化液とを供給し、熱交換及び酸化還元当量差に基づく電力回収を行った。
【0082】
図2において、1は、活性汚泥を貯留する活性汚泥タンクであり、2は、活性汚泥タンク1からの活性汚泥を送液するシリンダーポンプである。一方、3は、メタン発酵で生成した消化液を貯留する消化液タンクであり、4は、消化液タンク3からの消化液を送液するシリンダーポンプである。
【0083】
活性汚泥としては、生活排水を中心とする活性汚泥処理水沈降スラリー(上澄水を除いたもの)を用いた。一方、消化液としては、前記活性汚泥を、平均保持時間15日の55℃メタン発酵試験槽(有効容量10L)で、一日一回の投入で、連続メタン発酵処理し、排出される消化液を用いた。
【0084】
5は、熱交換型バイオリアクターであり、複極仕切板51によって隔てられた領域を、更にポリスチレンスルホン酸系の陽イオン交換膜52で隔てることにより、正極室53と負極室54とを形成している。
【0085】
複極仕切板51は、基材となる炭素鋼仕切板の両面に、平均径50nm、平均長さ500nmのピッチ系の炭素ウィスカーを、カーボンペーストを接着剤として塗布し、加熱乾燥させてなる。炭素ウィスカーの塗布密度は5mg/cmである。複極仕切板51の一方の面は正極室53における正極53aとして作用し、他方の面は負極室54における負極54aとして作用する。
【0086】
また、複極仕切板51の正極53a及び負極54aは、それぞれ集電板55、56に接続されており、両極53a、54a間に流れる電流を回収可能とされている。
【0087】
活性汚泥タンク1からの活性汚泥は、シリンダーポンプ2によって、正極室53に供給され、一方、消化液タンク3からの消化液は、シリンダーポンプ4によって、負極室54に供給されるように構成されている。
【0088】
また、正極室53から排出された活性汚泥は、活性汚泥タンク1に返送され、一方、負極室54から排出された消化液は、消化液タンク3に返送されるように構成されている。つまり、一定の液量の活性汚泥及び消化液を循環させながら熱交換型バイオリアクター5に供給している。
【0089】
上記の試験装置を用いて、熱交換型バイオリアクター5に、活性汚泥と消化液とをそれぞれ10ml/minの流量で循環供給しながら、活性汚泥供給側の電極(正極53a)の電位を0.9V[VS 負極54a]とする定電位電解を行い、出力電流を測定した。
【0090】
表3に、活性汚泥及び消化液の性状を示す。更に、図3に、出力電流の経時変化を示す。
【0091】
【表3】

【0092】
(比較例3)
実施例7において、複極仕切板51を、炭素ウィスカーを担持しない炭素鋼板のみからなる複極仕切板に代えたこと以外は、実施例7と同様にして試験を行なった。
【0093】
図3に、出力電流の経時変化を示す。
【0094】
<評価>
図3に示す通り、ピッチ系の炭素ウィスカーを用いた実施例7では、用いていない比較例3よりも、出力電流が顕著に向上することがわかる。
【0095】
なお、実施例7の例では、熱交換型バイオリアクター5から排出された活性汚泥の全量を活性汚泥タンク1に返送したが、実装置においては、熱交換型バイオリアクター5から排出された活性汚泥を、メタン発酵槽に供給することによって、あらかじめ熱交換によって加温した活性汚泥をメタン発酵槽に供給することができ、発酵温度を安定化させることが可能となる効果を奏する。更に、このとき、メタン発酵に供給される活性汚泥は、あらかじめ本発明の生化学反応用炭素電極による効率的な還元反応によって嫌気化されている。つまり、酸化還元電位の観点からも、酸化還元電位が低いことが要求されるメタン発酵に好適化されるので、更に発酵を安定化することができる効果を奏する。一方、消化液は、熱交換型バイオリアクター5における効率的な酸化反応によって硫化水素等の有害物質が分解され、環境適応性を向上する効果を奏する。このように、本発明の一態様によれば、効率的な電力回収と、メタン発酵の安定化と、更には優れた環境適応性とを一挙に実現でき、好ましいことである。
【符号の説明】
【0096】
1:活性汚泥タンク
2:シリンダーポンプ
3:消化液タンク
4:シリンダーポンプ
5:熱交換型バイオリアクター
51:複極仕切板
52:陽イオン交換膜
53:正極室
53a:正極
54:負極室
54a:負極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均径が1μm以下である導電性炭素体の集合体からなることを特徴とする生化学反応用炭素電極。
【請求項2】
導電性繊維の集合体からなる基材に担持されていることを特徴とする請求項1記載の生化学反応用炭素電極。
【請求項3】
酵素及び又は微生物を担持する用途に用いられることを特徴とする請求項1又は2記載の生化学反応用炭素電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−11495(P2013−11495A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143568(P2011−143568)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】