説明

生命維持装置

【課題】本発明の目的は、中性子線及びガンマ線を遮蔽する生命維持装置を提供することである。
【解決手段】本発明に係る生命維持装置は、散乱エックス線及び電子線を遮蔽する内皮層と、内皮層に積層された、ガンマ線を遮蔽する中皮層と、中皮層に積層された、中性子線を遮蔽する上皮層とを備える放射線遮蔽素材と、放射線遮蔽素材により覆われた生命維持手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガンマ線等の放射線を遮蔽する生命維持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高放射線環境においては、作業者を放射線から守る放射線遮蔽手段が必要とされている。
【0003】
例えば、作業者の全身を覆う放射線防護服及び放射線防護服を形成する放射線遮蔽素材が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0004】
特許文献1記載の発明は、着用者のほぼ全身を覆う放射線防護服に湿分透過素材を使用したものである。特許文献2記載の発明は、防護服に用いることができる空調衣服において、衣服本体の内面に複数のスペーサを取り付け、これによって、衣服本体と身体又は下着との間に空気を流通させるための空気流通路を形成しているものである。上記構成によって、特許文献1及び2記載の発明に係る防護服は、除湿機能を有し、発汗による着用者の不快感を軽減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−197688号公報
【特許文献2】国際公開第2005/082182号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
放射線防護服を着用する場合、放射線防護服と着用者の身体との間に皮膚呼吸を行うための空気を送り込んだり、着用者の呼吸のための酸素を送り込んだりする必要がある。このため、着用者は放射線防護服とは別に空気や酸素の送風・排気等を行うための生命維持装置を装着する必要がある。
【0007】
この生命維持装置は、放射線防護服と同様に被ばくの恐れがある環境下で用いられる装置である。このため、生命維持装置経由で着用者の被曝が起こらないように十分に放射線を遮蔽するための対策を講じる必要がある。例えば、放射線に含まれる中性子線が水や酸素に照射されると、低い確率ではあるが物性変化を起こす可能性がある。また、水や酸素に含まれる微細な物質が、放射能汚染してしまう可能性がある。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1及び2には、放射線防護服に関する技術が開示されているのみで、上述した生命維持装置に対する放射線遮蔽技術については考慮されていなかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、中性子線、ガンマ線等の放射線を好適に遮蔽する生命維持装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る生命維持装置は、上述した課題を解決するために、散乱エックス線及び電子線を遮蔽する内皮層と、前記内皮層に積層された、ガンマ線を遮蔽する中皮層と、前記中皮層に積層された、中性子線を遮蔽する上皮層とを備える放射線遮蔽素材と、前記放射線遮蔽素材により覆われた生命維持手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る生命維持装置によれば、中性子線、ガンマ線等の放射線を好適に遮蔽することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態における生命維持装置の構成図。
【図2】本実施形態における生命維持装置の機能ブロック図。
【図3】生命維持装置を装着した放射線防護服の正面図。
【図4】生命維持装置を装着した放射線防護服の側面図。
【図5】生命維持装置を装着した放射線防護服の背面図。
【図6】放射線遮蔽素材の断面図。
【図7】図6のVII−VII線断面図。
【図8】放射線防護服の外皮部の断面図。
【図9】図8のIX部分の拡大図。
【図10】ガンマ線遮蔽材の製造方法の一例を示すフローチャート。
【図11】上記散乱エックス線及び電子線遮蔽材の製造方法の一例を示すフローチャート。
【図12】実施例1で得られた散乱エックス線及び電子線遮蔽材の画像。
【図13】生命維持装置を適用可能な宇宙服の断面図。
【図14】図13のXIV部分拡大図。
【図15】第2の実施形態に係る放射線防護服の正面図である。
【図16】第2の実施形態に係る放射線防護服の右側面図である。
【図17】第2の実施形態に係る放射線防護服の左側面図である。
【図18】第2の実施形態に係る放射線防護服の背面図である。
【図19】第2の実施形態に係る放射線防護服と共に使用される生命維持装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態を添付の図により説明する。
【0014】
図1は、本実施形態における生命維持装置1の構成図である。
【0015】
図2は、本実施形態における生命維持装置1の機能ブロック図である。
【0016】
図3は、生命維持装置1を装着した放射線防護服30の正面図である。
【0017】
図4は、生命維持装置1を装着した放射線防護服30の側面図である。
【0018】
図5は、生命維持装置1を装着した放射線防護服30の背面図である。
【0019】
本実施形態における生命維持装置1は、例えば原子力発電所等の高放射線環境下で作業する際に用いられる。この生命維持装置1は、放射線防護服30を着用した着用者(作業者、生命維持装置1の装着者)により装着されて用いられる。生命維持装置1は、例えば図1に示す取付部材10により、図5に示すように放射線防護服30の背面側に取り付けられる。
【0020】
図1に示すように、生命維持装置1は、主酸素タンク11と、エアータンク12と、給水用タンク13と、呼吸循環エアー冷却装置14と、二酸化炭素吸収材15と、機器制御部16と、GPS(Global Positioning System)17と、マイクロポンプユニット18と、バッテリーユニット19と、を備える。
【0021】
主酸素タンク(酸素タンク)11及びエアータンク12は、それぞれ酸素と窒素を貯蔵する。図2に示すように、主酸素タンク11及びエアータンク12から供給される酸素と窒素は混合され、装着者が呼吸用の空気として用いられる。また、生命維持装置1からの空気は、装着者の皮膚呼吸等のために、後述する放射線防護服30の外皮部31の内側に設けられる供給口61aに供給される。
【0022】
給水用タンク13は、装着者に水分を補給する。呼吸循環エアー冷却装置14は、主酸素タンク11及びエアータンク12から供給される空気、放射線防護服30から排気される空気、及び給水用タンクから供給される水分を冷却し、装着者の体温を調節する。また、呼吸循環エアー冷却装置14は、装着者の呼吸により排出された空気を循環させる。二酸化炭素吸収材15は、カセット型であり、二酸化炭素吸収材15は、主に二酸化炭素検知器15aおよび二酸化炭素濃度調整器15bを有する。放射線防護服30から排気される装着者の呼吸(排出)した二酸化炭素を吸収し再循環させる。
【0023】
機器制御部(制御部)16は、主に、生命維持装置1の主酸素タンク11、エアータンク12、呼吸循環エアー冷却装置14、二酸化炭素吸収材15に設けられる電気制御ユニット16aに対して電気信号を送信し、各部を制御する。
【0024】
例えば、機器制御部16は、生命維持装置1を装着した装着者に対して、主酸素タンク11の酸素を供給するように制御する。機器制御部16は、装着者が呼吸した二酸化炭素を吸収させるように制御する。機器制御部16は、呼吸循環エアー冷却装置14を制御することで装着者の呼吸により排出されたエアーを循環させる。
【0025】
GPS(位置情報取得手段)17は、生命維持装置1の装着者(放射線防護服30の着用者)の現在位置を検出する。機器制御部16及びGPS17は、無線又は有線により管理基地と通信することができ、生命維持装置1の各機器の状態は適宜管理基地に送信され得る。なお、管理基地は、作業者が作業を行う際に設けられる、作業を統括的に管理するための施設をいう。
【0026】
マイクロポンプユニット18は、空気や水分を所定の供給先に供給する。バッテリーユニット19は、電気的に動作する生命維持装置1内の各部に、駆動するための電源を供給する。
【0027】
生命維持装置1は、放射線防護服30との間で空気や水分を供給又は排気するための給気側接続部品21、排気側接続部品22、ヘルメット側給気側接続部品23、ヘルメット側排気側接続部品24及び給水側接続部品25を有する。
【0028】
次に、本実施形態における生命維持装置1が取付けられる放射線防護服30について説明する。
【0029】
図3〜図5に示すように、放射線防護服30は、着用者の頭部、上肢、体幹、下肢を覆う外皮部31と、外皮部31の上から頭部を保護するヘルメット32と、両手を保護するグローブ34と、両足先を保護するブーツ35を備える。
【0030】
外皮部31とヘルメット32とはジョイント部37によって接合され、外皮部31とグローブ34とはジョイント部38によって接合され、外皮部31とブーツ35とはジョイント部39によって接合される。また、着用者の膝及び肘に対応する部位には、膝当て40(図3参照)及び肘あて41(図5参照)が設けられる。
【0031】
このような構成を有する生命維持装置1及び放射線防護服30(外皮部31、グローブ34、ブーツ35、膝当て40及び肘あて41)は、放射線遮蔽素材51によって形成される。
【0032】
図6は、放射線遮蔽素材51の断面図である。
【0033】
図7は、図6のVII−VII線断面図である。
【0034】
放射線遮蔽素材51は、内皮層52と中皮層53と上皮層54とを有する3層構造によって形成されている。放射線遮蔽素材51は、上皮層54側から入射する放射線を遮断するように設計されている。上皮層54は中性子線を遮蔽し、中皮層53はガンマ線を遮蔽する。ガンマ線が物質に接触すると、光電効果及びコンプトン散乱により、散乱エックス線と電子線を発生させる。したがって、中皮層53によってガンマ線を遮蔽した際に生じる可能性のある散乱エックス線と電子線を、内皮層52によって遮蔽するように構成している。
【0035】
内皮層52には中皮層53が積層されている。中皮層53は内皮層52に対向し、且つ内皮層52との間に所定の空間を保持して延びる外層部56と、外層部56から内皮層52に向かって延びる隔壁部57と、該隔壁部57と外層部56によって画定される複数の中空層55とを備えている。
【0036】
図7に示すように、隔壁部57によって、内皮層52と中皮層53の外層部56との間の空間が仕切られて、気体により構成される複数の中空層55が形成されている。隔壁部57には、隣合う複数の中空層55内の充填物が流通できるように、連通孔57aが形成されている。なお、特定の充填物を中空層55に充填する工程を経ない場合には、中皮層53が内皮層52に積層された際に、中空層55には空気が充填されていることになる。
【0037】
図7に示すように、本実施形態において、隔壁部57は格子状に形成されている。隔壁部57は、内皮層52と中皮層53の外層部56との間に空間、すなわち、中空層55を保持すると共に、この3層構造の形体補強にも寄与している。
【0038】
中皮層53の外層部56の外表面には、該外表面に沿って延びる上皮層54が積層されている。図6に示すように、中皮層53の外層部56及び上皮層54の断面は、隣り合う隔壁部57の間において上皮層54側に突出する波形状を有している。一例として、内皮層52の厚さl1は2mmであり、中皮層53の隔壁部57における厚さl2は8mmであり、上皮層54の厚さl3は3mmである。
【0039】
上皮層54は、シリコンゴムに、中性子線を吸収するホウ素を混合して形成する。
【0040】
中皮層53は、シリコンゴムに独自のガンマ線遮蔽材を混合して形成する。この独自のガンマ線遮蔽材は、少なくとも、ビスマス及びチタンの少なくとも1種、ケイ素、並びにストロンチウムを必須元素として有する。このガンマ線遮蔽材については後に詳述する。
【0041】
内皮層52は、シリコンゴムに独自の散乱エックス線及び電子線遮蔽材を混合して形成する。この独自の散乱エックス線及び電子線遮蔽材は少なくともケイ素、ストロンチウム、マグネシウム、ユーロピウム及びジスプロシウムを必須元素として有する。この散乱エックス線及び電子線遮蔽材料については後に詳述する。
【0042】
上皮層54、中皮層53及び内皮層52のそれぞれについて、シリコンゴムと上記各混合物とを混練して、成形のため加硫し、熱と圧力を加えて架橋反応させる。シリコンゴムの硬度は調整可能である。例えば、シリコンゴムとシリコンゴムに加える上記各混合物との混合体積比を調整することによって、より柔らかく又はより硬く形成することができる。シリコンゴムとこのシリコンゴムに加えられる混合物との混合体積比は、一例として、40:60である。上皮層54及び内皮層52はシート状に形成する。中皮層53については、外層部56をシート形状に形成し、外層部56から突出する隔壁部57を、金型を用いて外層部56と一体成型する。
【0043】
形成した中皮層53の外層部56の表面に沿って、シート状に形成した上皮層54を積層する。次いで、シート状に形成した内皮層52の表面に中皮層53の隔壁部57の端部を接着することによって、内皮層52に中皮層53を積層する。積層の際に、隔壁部57の端部間の距離を狭くすることによって、中皮層53の外層部56及び上皮層54を、隔壁部57の端部間において上皮層54側に撓ませることができる。これにより、図7に示すように、中皮層53の外層部56及び上皮層54の断面が波形状に形成される。
【0044】
生命維持装置1及び放射線防護服30(外皮部31、グローブ34、ブーツ35、膝当て40及び肘あて41)は、このような放射線遮蔽素材51により覆われて(形成されて)おり、内部に放射線が侵入することが一切遮断される。
【0045】
このような放射線防護服30の外皮部31について詳細に説明する。
【0046】
図8は、放射線防護服30の外皮部31の断面図である。なお、説明のため、ヘルメット32の図示は省略する。
【0047】
図9は、図8のIX部分の拡大図である。
【0048】
外皮部31は、着用者の体表面62との間に空間63を有している。なお、説明のため、着用者の体表面62を覆う下着64(図8参照)の図示は省略する。
【0049】
シリコンゴムと散乱エックス線及び電子線遮蔽材によって形成された内皮層52は、断熱機能も有している。内皮層52の外表面、すなわち、着用者の体表面62と対向する表面には、図示しないナイロン繊維等の繊維布を内貼りしている。シリコンゴム等から形成された内皮層52の外表面が露出している場合と比べて、繊維布を内貼りすることによって肌触りが良くなり、放射線防護服30の着脱が容易になる。また、ナイロン繊維を用いることによって、吸湿、速乾、抗菌、消臭、保温機能を付加することができる。
【0050】
図9に示すように、繊維布を内貼りした内皮層52の外表面には、供給口61a及び排気口61bが設けられる。なお、図9においては、供給口61aのみ示すが、排気口61bは、図8のIX部分と対称位置である左肘部分における内皮層52の外表面に設けられる。
【0051】
図5に示すように、供給口61aは、生命維持装置1より供給される空気を着用者の体表面62との間の空間63に供給チューブ45aを介して供給する。排気口61bは、空間63より排気される空気を排気チューブ45bを介して排気する。
【0052】
供給チューブ45a及び排気チューブ45bは、内皮層52の外表面に固定されている。供給チューブ45aは、一端が生命維持装置1の給気側接続部品21(図2参照)に接続され、他端が放射線防護服30の供給口61aに接続される。排気チューブ45bは、一端が生命維持装置1の排気側接続部品22(図2参照)に接続され、他端が放射線防護服30の排気口61bに接続される。
【0053】
供給口61aから空気を供給、及び排気口61bから空気を排気することによって、着用者の皮膚呼吸を維持することができる。また、供給する空気の温度を調整することによって着用者の体温を調節することもできる。
【0054】
また、図5に示すように、供給チューブ45a及び排気チューブ45bは、ヘルメット32に設けられるヘルメット内呼吸機構32a(図2参照)の設けられる供給口61a及び排気口61bにも接続される。着用者の呼吸用の空気は、ヘルメット側給気側接続部品23及び該供給口に接続する供給チューブ(ともに図示せず)を介して、ヘルメット32内の呼吸機構に送られる。また、呼吸用の空気は、ヘルメット側排気側接続部品24及び該排気口に接続する排気チューブ(ともに図示せず)を介して、ヘルメット32内の呼吸機構から排気される。
【0055】
なお、ヘルメット32には図示しない給水チューブも設けられる。給水チューブは、一端が給水側接続部品25(図2)に接続され、他端が放射線防護服30の給水口(図示せず)に接続される。
【0056】
本実施形態において、中空層55にはヘリウムガスが充填されている。これによって、放射線防護服30の軽量化を図ることができ、作業性が向上する。また、中空層55を画定する隔壁部57には連通孔57aが形成されているため、各中空層55に充填されたヘリウムガスは各中空層55の間を流通できる。したがって、放射線遮蔽素材51の変形が容易となり、着用者の可動性を高めている。加えて、図3に示す着用者の関節に対応する部位31aにおいては、他の部位よりも中空層55に充填するヘリウムガスの量を減らしている。したがって、部位31aにおける放射線遮蔽素材51は他の部位に比べて変形しやすくなる。これにより、着用者の可動性をさらに高めることができる。
【0057】
膝当て40及び肘あて41には、膝及び肘の保護のために、外皮部31よりも硬度を高めた放射線遮蔽素材51を用いている。前述のように、上皮層54、中皮層53、内皮層52を形成する際に、シリコンゴムへ混合する混合物の割合を変化させることによって、放射線遮蔽素材51の硬度を高めることができる。
【0058】
本実施形態における生命維持装置1は、中性子線を遮蔽する上皮層54と、ガンマ線を遮蔽する中皮層53と、散乱エックス線及び電子線を遮蔽する内皮層52とを有する3層構造によって、外部から入射する中性子線、ガンマ線を遮蔽し、ガンマ線を遮蔽する際に生じる可能性のある散乱エックス線及び電子線も遮蔽することができる。なお、中性子線、ガンマ線よりも物質透過能力の低いアルファ線及びベータ線も放射線遮蔽素材51によって遮蔽される。
【0059】
特に生命維持装置1は、生命維持装置1を装着する高放射線環境下における作業者に対して供給される水や酸素に放射線が照射されることによる物性変化や、水や酸素に含まれる微細な物質の放射能汚染を好適に抑制することができる。この結果、生命維持装置1は、作業者の安全を確保することができる。
【0060】
また、生命維持装置1は、GPS17を備え管理基地と通信可能に構成したため、作業者の状態を把握することができ、より作業者の安全を確保することができる。
【0061】
[ガンマ線遮蔽材]
前述した独自のガンマ線遮蔽材は、ビスマス及びチタンの少なくとも1種、ケイ素、並びにストロンチウムを必須元素として有する。例えば、ビスマス20〜50質量%、ケイ素3〜25質量%及びストロンチウム20〜50質量%を含有する。一例として、チタン20〜50質量%、ケイ素3〜25質量%及びストロンチウム20〜50質量%を含有する。
【0062】
酸化ビスマス、チタン及び酸化チタンの少なくとも1種、ケイ素酸化物、並びに炭酸ストロンチウムを焼成して得ても良い。上記ガンマ線遮蔽材の製造に際して、ビスマス化合物及びチタン化合物の少なくとも1種、ケイ素化合物、並びにストロンチウム化合物を混合し、焼成する焼成工程を備えても良い。一例として、この焼成工程は、上記化合物に加えて、さらにホウ酸を混合し、焼成する工程である。
【0063】
以下、上記ガンマ線遮蔽材について詳述する。
【0064】
上記ガンマ線遮蔽材は、ビスマス及びチタンの少なくとも1種、ケイ素、並びにストロンチウムを必須元素として有することを特徴とする。これらの元素を組み合わせることにより、ガンマ線を良好に遮蔽することができる。また、ケイ酸塩系化合物であるため鉛よりも比重が軽く、さらには加工性にも優れている。
【0065】
ビスマス(Bi)及びチタン(Ti)の少なくとも1種の含有量は、例えば20〜50質量%、好ましくは30〜40質量%である。
【0066】
ケイ素(Si)の含有量は、例えば3〜25質量%、好ましくは5〜15質量%である。ストロンチウム(Sr)含有量は例えば、20〜50質量%、好ましくは25〜40質量%質量%である。
【0067】
ガンマ線遮蔽材は、上記必須元素に加えて、酸素原子(好ましくは5〜30質量%、より好ましくは10〜20質量%)を含んでいてもよい。また、ホウ素原子、上記以外の放射線吸収原子(例えば、エルビウム等のランタノイド元素)等を含んでいてもよく、さらには、製造上不可避な不純物等を含んでいてもよい。
上記ガンマ線遮蔽材では、有害性の観点から、鉛元素を実質的に含まないことが好ましい。例えば、5質量%以下、好ましくは1質量%以下である。
【0068】
ガンマ線遮蔽材の形状は、遮蔽材の使用方法等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、粒状(粉体)、ペレット状、塊状、フィルム状、板状等が挙げられる。特に、上記遮蔽材は、粉体加工が可能で、他の有機物(粉状、繊維状)等に混入させ、様々な遮蔽用途に使用することができる。
【0069】
粒状の場合は、例えば、平均粒子径が0.1μm〜1000μm、好ましくは1μm〜100μmとすればよい。
【0070】
また、上記ガンマ線遮蔽材は、上記必須元素等を含有する化合物単独で使用してもよいし、例えば、水、有機溶剤(アルコール、エーテル等)、界面活性剤、樹脂バインダー、無機粒子、有機粒子、上記独自のガンマ線遮蔽材以外のガンマ線遮蔽材等といった添加剤と併せて使用してもよい。
【0071】
上記ガンマ線遮蔽材は、放射線を遮蔽(防護)する用途に様々な形で使用できる。例えば、防護エプロン、医療用エプロン、防護服、宇宙服、壁紙、外装壁面、屋根材、化粧品、日焼け止め、顔用クリーム、医療機器(マンモグラフィー等)等に使用することができる。
【0072】
上記ガンマ線遮蔽材の好適な製造方法は、ビスマス化合物及びチタン化合物の少なくとも1種、ケイ素化合物、並びにストロンチウム化合物を混合し、焼成する焼成工程を備える。
【0073】
図10は、上記ガンマ線遮蔽材の製造方法の一例を示すフローチャートである。具体的には、例えば、
(i)酸化ビスマス(Bi)、チタン及び酸化チタンの少なくとも1種、
(ii)ケイ素酸化物、並びに
(iii)炭酸ストロンチウム(SrCO)、
を混合し、焼結する工程を経ることにより製造することができる。酸化チタンは、一酸化チタン(TiO)、二酸化チタン(TiO)等のいずれでもよい。ケイ素酸化物としては、二酸化ケイ素(SiO)、一酸化ケイ素(SiO)等のいずれでもよいが、一例として、SiOが好適に用いられる。
配合割合は限定的でないが、例えば、
(1)酸化ビスマス30〜60質量%、好ましくは40〜50質量%
ケイ素酸化物5〜30質量%、好ましくは10〜20質量%、
炭酸ストロンチウム30〜60質量%、好ましくは40〜50質量%、
(2)チタン又は酸化チタン30〜60質量%、好ましくは40〜50質量%
ケイ素酸化物5〜30質量%、好ましくは10〜20質量%、
炭酸ストロンチウム30〜60質量%、好ましくは40〜50質量%、
等とすればよい。
【0074】
上記原料に加えて、さらにホウ酸(HBO)等のホウ素化合物を加えてもよい。これにより、焼成時に金属間の電子移動を容易にさせ、酸化還元作用を促進させることができる。ホウ酸の配合量は限定的でないが、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.5〜3質量%である。
【0075】
混合した後、ボールミル、ロッドミル等の粉砕機で上記原料を粉砕してもよいし、粉砕しなくてもよいが、粉砕することが好ましい。
【0076】
焼成温度は、例えば、電気炉にて500〜2000℃、好ましくは800〜1500℃とすればよい。
【0077】
焼成雰囲気は、大気雰囲気及び不活性ガス雰囲気のいずれでもよいが、好ましくは大気雰囲気である。
【0078】
焼成時間は、焼成温度、焼成雰囲気等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、10分〜10時間、好ましくは30分〜5時間とすればよい。上記焼成する焼成工程に代えて、又は焼成工程後に、プラズマ焼結工程を行ってもよい。これにより、得られるガンマ線遮蔽材のガンマ線の吸収量を向上させることができる。プラズマ焼結は、常法に従って行えばよく、例えばプラズマ焼結機で、500〜2000℃(好ましくは700〜1500℃)にて焼結すればよい。焼結時間は、焼結温度に応じて適宜決定すればよいが、例えば、5分〜2時間、好ましくは10分〜1時間とすればよい。
【0079】
上記ガンマ線遮蔽材を、以下に実施例を用いて、さらに詳細に説明する。なお、上記ガンマ線遮蔽材は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0080】
<ガンマ線遮蔽材の実施例1>
SiO(岩井化学薬品社製)12.58質量%、SrCO(本荘ケミカル社製)42.42質量%、Bi(岩井化学薬品社製)43.85質量%及びHBO(岩井化学薬品社製)1.15質量%をボールミル混合器に入れ、1時間混合した。次いで、電気炉に入れ、大気雰囲気で、900℃、2時間の条件で焼成した。焼成後、常温まで自然冷却し、ボールミル混合機にて平均粒子径が7μmになるまで粉砕した(図10参照)。これにより、実施例1のガンマ線遮蔽材を得た。なお、実施例1のガンマ線遮蔽材の組成比率を測定したところ、Bi37.05質量%、Si9.68質量%、Sr35.12質量%、O(酸素原子)13.94質量%であり、残りは不純物であった。比重を測定したところ、4.78g/cmであった。蛍光X線分析で測定したところ、上記実施例1は、Bi+SrSiOであることが推定された。
<ガンマ線遮蔽材の実施例2>
SiO(岩井化学薬品社製)12.58質量%、SrCO本荘ケミカル社製)42.42質量%、Ti(トーホーテック社製)43.85質量%及びHBO(岩井化学薬品社製)1.15質量%をボールミル混合器に入れ、1時間混合した。次いで、プラズマ焼結機(SPSシンテック社製、製品名「SPS−1030」)にて、1000℃で、約30分焼結した。これにより、実施例2のガンマ線遮蔽材(ペレット状、厚み3mm)を得た。
なお、実施例2のガンマ線遮蔽材の組成比率を測定したところ、Ti37.95質量%、Si6.45質量%、Sr27.37質量%、O(酸素原子)17.73質量%であり、残りは不純物であった。
比重を測定したところ、4.67g/cmであった。蛍光X線分析で測定したところ、上記実施例2は、SrTiO2.6+TiO+SrSiOであることが推定された。
<ガンマ線遮蔽材の比較例>
鉛板(厚さ1mm、市販品)、アルミニウム板(厚さ3mm、市販品)をそれぞれ比較例1及び比較例2とした。
【0081】
<ガンマ線遮蔽材のガンマ線遮蔽性能試験>
実施例1のガンマ線遮蔽材については、さらにプラズマ焼結によりペレット状(厚み3mm)に加工した。下記の条件にて、実施例及び比較例の試料にガンマ線を照射し、遮蔽率を測定した。この結果を表1に示す。
【0082】
条件(Laser:CO2,Power:1W,Magnet:10A,Energy:1.7MeV,
Current:200mA,Coll:3mmφ,DTCT:NaI6)
【0083】
【表1】

【0084】
上記の結果から、ガンマ線遮蔽性能において、上記独自のガンマ線遮蔽材の実施例1及び2は、厚みを考慮するとガンマ線遮蔽性能としては非常に有用な鉛板(比較例1)には及ばないものの、実用的な厚さで十分な高さの遮蔽率を示し、良好なガンマ線遮蔽能を有していることが分かる。特に、比較例2のアルミニウムと比較すると、より高い遮蔽率を示し、十分なガンマ線遮蔽能を有していることが分かる。
【0085】
また、上記独自のガンマ線遮蔽材は、比重が鉛の比重(11.34)よりも大幅に軽く、粒状や板状に容易に変形することができ加工性にも優れている。よって、さまざまな用途や形態で使用可能であることが分かる。
【0086】
また、上記独自のガンマ線遮蔽材は、散乱エックス線及び電子線を遮蔽することもできる。
[散乱エックス線及び電子線遮蔽材]
前述した独自の散乱エックス線及び電子線遮蔽材は、少なくともケイ素、ストロンチウム、マグネシウム、ユーロピウム及びジスプロシウムを必須元素として有する。例えば、ケイ素5〜30質量%、ストロンチウム30〜60質量%、マグネシウム1〜20質量%、ユーロピウム0.1〜5質量%、及びジスプロシウム0.1〜5質量%を含有する。一例として、少なくともケイ素酸化物、炭酸ストロンチウム、酸化マグネシウム、酸化ユーロピウム及び酸化ジスプロシウムを焼成して得られる。この場合、焼成後、さらにプラズマ焼結されて、少なくともケイ素酸化物、炭酸ストロンチウム、酸化マグネシウム、酸化ユーロピウム及び酸化ジスプロシウムを得てもよい。上記散乱エックス線及び電子線遮蔽材を製造する際には、例えば、ケイ素化合物、ストロンチウム化合物、マグネシウム化合物、ユーロピウム化合物及びジスプロシウム化合物を混合し、焼成する焼成工程を備える。前記焼成工程が、上記化合物に加えて、さらにホウ酸を混合し、焼成する工程であってもよい。さらに、プラズマ焼結する工程を備えてもよい。
【0087】
以下、上記散乱エックス線及び電子線遮蔽材について詳述する。
【0088】
上記散乱エックス線及び電子線遮蔽材は、少なくともケイ素、ストロンチウム、マグネシウム、ユーロピウム及びジスプロシウムを必須元素として有することを特徴とする。これらの元素を組み合わせることにより、実用的なレベルで、エックス線を遮蔽することができる。また、紫外線の吸収も可能である。さらに、ケイ酸塩系化合物であるため鉛よりも比重が軽く、加工性にも優れている。
【0089】
ケイ素(Si)の含有量は、好ましくは5〜30質量%、より好ましくは10〜20質量%である。
ストロンチウム(Sr)の含有量は、好ましくは30〜60質量%、より好ましくは40〜50質量%である。
【0090】
マグネシウム(Mg)の含有量は、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは5〜10質量%である。
ユーロピウム(Eu)の含有量は、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.5〜3質量%である。
【0091】
ジスプロシウム(Dy)の含有量は、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.5〜3質量%である。
【0092】
上記散乱エックス線及び電子線遮蔽材は、上記必須元素以外にも酸素原子(好ましくは10〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%)を含んでいてもよい。また、ホウ素原子、上記以外の放射線吸収原子(例えば、エルビウム等のランタノイド元素)等を含んでいてもよく、さらには、製造上不可避な不純物等を含んでいてもよい。
【0093】
上記散乱エックス線及び電子線遮蔽材では、有害性の観点から、鉛元素を実質的に含まないことが好ましい。例えば、5質量%以下、好ましくは1質量%以下である。
【0094】
上記散乱エックス線及び電子線遮蔽材の形状は、遮蔽材の使用方法等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、粒状(粉体)、ペレット状、塊状、フィルム状、板状等が挙げられる。特に、上記遮蔽材は、粉体加工が可能で、他の有機物(粉状、繊維状)等に混入させ、様々な遮蔽用途に使用することができる。
【0095】
粒状の場合は、例えば、平均粒子径が0.1μm〜1000μm、好ましくは1μm〜100μmとすればよい。
【0096】
また、上記散乱エックス線及び電子線遮蔽材は、上記必須元素等を含有する化合物単独で使用してもよいし、例えば、水、有機溶剤(アルコール、エーテル等)、界面活性剤、樹脂バインダー、無機粒子、有機粒子、上記独自の散乱エックス線及び電子線遮蔽材以外の散乱エックス線及び電子線遮蔽材等といった添加剤と併せて使用してもよい。特に、上記独自の散乱エックス線及び電子線遮蔽材では、チタン、酸化チタン等のチタン化合物を併用することが好ましい。これにより、紫外線の遮蔽性をより向上させることができる。
【0097】
上記独自の散乱エックス線及び電子線遮蔽材は、放射線を遮蔽(防護)する用途に様々な形で使用できる。例えば、防護エプロン、医療用エプロン、防護服、宇宙服、壁紙、外装壁面、屋根材、化粧品、日焼け止め、顔用クリーム、医療機器(マンモグラフィー等)等に使用することができる。なお、エックス線のみならず紫外線も遮蔽できるため、化粧品、日焼け止め等に適用することもできる。
【0098】
上記散乱エックス線及び電子線遮蔽材の製造方法は、ケイ素化合物、ストロンチウム化合物、マグネシウム化合物、ユーロピウム化合物及びジスプロシウム化合物を混合し、焼成する焼成工程を備えることを特徴とする。
【0099】
図11は、上記散乱エックス線及び電子線遮蔽材の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0100】
具体的には、例えば、ケイ素酸化物、炭酸ストロンチウム(SrCO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ユーロピウム(Eu)及び酸化ジスプロシウム(Dy)を混合し、焼結する工程を経ることにより製造することができる。
【0101】
ケイ素酸化物としては、二酸化ケイ素(SiO)、一酸化ケイ素(SiO)等のいずれでもよいが、一例として、SiO2が好適に用いられる。
【0102】
配合割合は限定的でないが、例えば、
ケイ素酸化物20〜60質量%、好ましくは30〜50質量%、
炭酸ストロンチウム20〜60質量%、好ましくは30〜50質量%、
酸化マグネシウ5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%、
酸化ユーロピウム0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜1質量%及び
酸化ジスプロシウム0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜1質量%、
とすればよい。
【0103】
上記原料に加えて、さらにホウ酸(HBO)等のホウ素化合物を加えてもよい。これにより、焼成時に金属間の電子移動を容易にさせ、酸化還元作用を促進させることができる。ホウ酸の配合量は限定的でないが、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.5〜3質量%である。
【0104】
混合した後、ボールミル、ロッドミル等の粉砕機で上記原料を粉砕してもよいし、粉砕しなくてもよいが、粉砕することが好ましい。
【0105】
焼成温度は、例えば、電気炉にて500〜2000℃、好ましくは1000〜1500℃とすればよい。
【0106】
焼成雰囲気は、大気雰囲気及び不活性ガス雰囲気のいずれでもよいが、好ましくは大気雰囲気である。
【0107】
焼成時間は、焼成温度、焼成雰囲気等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、10分〜10時間、好ましくは30分〜5時間とすればよい。
【0108】
また、上記焼成工程後に、さらにプラズマ焼結工程を加えることが好ましい。これにより、得られる散乱エックス線及び電子線遮蔽材のエックス線の吸収量を向上させることができる。
【0109】
プラズマ焼結は、常法に従って行えばよく、例えばプラズマ焼結機で、500〜2000℃(好ましくは700〜1500℃)にて焼結すればよい。
焼結時間は、焼結温度に応じて適宜決定すればよいが、例えば、5分〜2時間、好ましくは10分〜1時間とすればよい。
【0110】
上記散乱エックス線及び電子線遮蔽材を、以下に実施例を用いて、さらに詳細に説明する。なお、上記散乱エックス線及び電子線遮蔽材は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0111】
<散乱エックス線及び電子線遮蔽材の実施例1>
SiO(岩井化学薬品社製)40質量%、SrCO(本荘ケミカル社製)38.2質量%、MgO(宇部マテリアルズ社製)20質量%、Eu(ネオマグ社製)0.4質量%、Dy(ネオマグ社製)0.4質量%及びHBO(岩井化学薬品社製)1質量%をボールミル混合器に入れ、1時間混合した。次いで、電気炉に入れ、大気雰囲気で、1300℃、2時間の条件で焼成した。焼成後、常温まで自然冷却し、ボールミル混合機にて平均粒子径が7μmになるまで粉砕した(図11参照)。これにより、実施例1の散乱エックス線及び電子線遮蔽材を得た。図12は、実施例1で得られた散乱エックス線及び電子線遮蔽材の画像である。
【0112】
なお、実施例1の散乱エックス線及び電子線遮蔽材の組成比率を測定したところ、Si13.3質量%、Sr42.4質量%、Mg6.23質量%、Eu0.84質量%、Dy1.83質量%、O(酸素原子)31.3質量%であり、残りは不純物であった。
【0113】
比重を測定したところ、3.7g/cmであった。X線回折装置による定性分析及び蛍光X線分析で測定したところ、上記実施例1は、SrMgSiO7・Eu3+,Dy3+であることが推定された。
【0114】
<散乱エックス線及び電子線遮蔽材の実施例2>
実施例1で得られた散乱エックス線及び電子線遮蔽材をさらに、プラズマ焼結機(SPSシンテック社製、製品名「SPS−1030」)にて、1000℃で、約30分焼結した。焼結後、常温まで自然冷却し、実施例2の散乱エックス線及び電子線遮蔽材(ペレット状、厚み3mm)を得た。
【0115】
<散乱エックス線及び電子線遮蔽材の比較例>
鉛板(厚さ0.3mm、市販品)、アルミニウム板(厚さ3mm、市販品)をそれぞれ比較例1及び比較例2とした。
【0116】
<散乱エックス線及び電子線遮蔽材のエックス線遮蔽性能(エックス線透過率測定)>
実施例1の散乱エックス線及び電子線遮蔽材は、さらにプレス機によりペレット状(厚み3.95mm)に加工した。透過法により、測定エネルギー50keVの条件で、実施例1〜2及び比較例1〜2の試料のエックス線の透過率を測定し、透過率から線吸収係数を計算した。なお、線吸収係数は、透過率の自然対数をとった値を、試料の厚み(cm)で除することにより計算される。得られた測定結果を表2に示す。
【0117】
【表2】

【0118】
<散乱エックス線及び電子線遮蔽材の紫外線遮蔽能:紫外線透過測定>
紫外可視分光光度計(UV2400PC、島津製作所製)により、実施例1の紫外線の透過率を測定した。その結果、250nm〜400nmの波長域においては、透過率が20%以下であった。
【0119】
上記の結果から、エックス線透過率測定において、実施例1及び2は、比較例1のエックス線遮蔽物質としては非常に優れている鉛には及ばないものの、実用的な厚さで十分低い透過率を得ることができ、良好な線吸収係数を有している。特に、比較例2のアルミニウムと比較すると、十分に良好な線吸収係数を持っていることが分かる。
【0120】
加えて、上記独自の散乱エックス線及び電子線遮蔽材の実施例1は、紫外線の透過率が低いため、良好な紫外線遮蔽性能を有していることも分かる。さらには、電子線に対しても効果がある。
【0121】
また、上記独自の散乱エックス線及び電子線遮蔽材は、比重が鉛の比重(11.34)よりも大幅に軽く、粒状や板状に容易に変形することができ加工性にも優れている。よって、さまざまな用途や形態で使用可能であることが分かる。
【0122】
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。一例として、中空層55に、ガンマ線遮蔽材を含む物質を充填して、ガンマ線遮蔽機能をより高めても良い。他の例として、中皮層53に中空層55を形成せず、内皮層52及び上皮層54と同様に中皮層53をシート状に形成しても良い。
【0123】
例えば、上皮層54は、シリコンゴムに加える混合物として、ホウ素に代えて、ベリリウム、カドミウム、ガドリニウム等を添加しても良い。
【0124】
前述のように、中皮層53の形成に用いられる、ビスマス及びチタンの少なくとも1種、ケイ素、並びにストロンチウムを必須元素として有するガンマ線遮蔽材は、散乱エックス線及び電子線の遮蔽機能も有する。したがって、内皮層52を形成する際に、シリコンゴムに、ビスマス及びチタンの少なくとも1種、ケイ素、並びにストロンチウムを混合しても良い。すなわち、中皮層53と同じ素材によって内皮層52を形成しても良い。
【0125】
放射線防護服30において、外皮部31の内皮層52と着用者の体表面62との間に、内圧による酸素の漏れを防止するための気密維持層を設けても良い。この場合、空気を供給する供給口61aは気密維持層と体表面62との間に空気を供給するように、気密維持層の表面に設けられる。第3の実施形態における宇宙服100においても同様に、放射線防護部102と冷却下着103との間に気密維持層を設けても良い。また、生命維持装置1を宇宙服に適用してもよい。
【0126】
図13は、生命維持装置1を適用可能な宇宙服の断面図である。なお、生命維持装置1については図示を省略する。
【0127】
宇宙服100は、着用者の全身を覆う宇宙環境保護部101と、宇宙環境保護部101の内側において着用者の全身を覆う放射線防護部102と、冷却下着103を備えている。宇宙環境保護部101は、断熱と耐宇宙線機能を有する多層構造からなり、宇宙環境から着用者を保護する。冷却下着103は、宇宙服の着用による異常な体温上昇を防止する。放射線防護部102は、前述した放射線遮蔽素材51によって形成され、中性子線、ガンマ線、散乱エックス線及び電子線等の放射線から着用者を保護する。着用者の両手及び両足先を保護するグローブ104及びブーツ105も、他の部分と同様に、宇宙環境保護部101と放射線防護部102とから構成されている。
【0128】
図14は、図13のXIV部分拡大図である。
【0129】
図9に示す放射線防護服30の外皮部31と異なる特徴として、水銀層111が内皮層52の外表面に沿って設けられている。水銀層111と着用者の体表面112との間には、図示しない冷却下着103を介して、空間113が形成されている。水銀層111は水銀保持層115を備え、水銀層111の水銀は、シリコンゴム等で形成した水銀保持層115によって内皮層52との間に保持されている。水銀層111を設けることによって、無重力空間における身体の膨張を抑制することができる。
【0130】
水銀保持層115の表面には図示しないナイロン繊維布を内貼りしている。これにより、着脱が容易になると共に、吸湿、速乾、抗菌、消臭、保温機能を付加することができる。ナイロン繊維布を内貼りした水銀保持層115の表面には、着用者の体表面112との間の空間113に空気を供給する供給口117を設けている。供給口117から延びる図示しないチューブは、宇宙服と共に用いられる生命維持装置1に連結し、生命維持装置1の酸素タンクからの供給される空気を供給口117に送るように構成されている。供給口117及び供給口117から延びるチューブは水銀保持層115の表面に固定されている。供給口117から空気を供給することによって、着用者の皮膚呼吸を維持することができる。また、供給する空気の温度を調整することによって着用者の体温を調節することもできる。
【0131】
中空層55には水銀が充填されている。これにより、水銀層111による身体の膨張抑制機能をさらに補強することができる。
【0132】
各中空層55に充填された水銀は、連通孔57aを介して流通可能である。また、着用者の関節に対応する部位においては、他の部位よりも中空層55に充填される水銀の量を減らしている。したがって、着用者の可動性を高めることができる。
【0133】
宇宙服100は、宇宙環境保護部101の内側において着用者の全身を覆う放射線防護部102を放射線遮蔽素材51によって形成しているが、これに限定されない。例えば、放射線防護部102を宇宙環境保護部101の内側に設けずに、放射線遮蔽素材51を硬質化して、この硬質化した放射線遮蔽素材51を宇宙環境保護部101の形成に用いても良い。
【0134】
第2の実施形態に係る放射線防護服を図15〜図18に示す。図15は放射線防護服110の正面図であり、図16は放射線防護服110の右側面図である。図17は放射線防護服110の左側面図である。図18は放射線防護服110の背面図である。放射線防護服110は、前述した放射線防護服10と同一の構成を有するが、異なる構成について説明する。放射線防護服110は、図15〜図18に示すように、着用者と前記内皮層との間にクッション材を設けている。クッション材140は、ウレタンまたはシリコンから形成されるものであって、着用者の肩、胸、腰、背を防護するものである。
【0135】
図16に示すように、放射線防護服110の背面側には生命維持装置130を取り付けることができる。生命維持装置130の構成を図19に示す。生命維持装置130は、第一のエアータンク131と、第二のエアータンク132と、呼吸循環エアー冷却装置134とを備える。第一のエアータンク131及び第二のエアータンク132から、着用者が呼吸できるように、供給口135及び該供給口135に接続するチューブを介して、ヘルメット12内に酸素が送られる。加えて、後述するように、生命維持装置130からの空気は着用者の皮膚呼吸等のために、内皮部2の内側にも供給される。給水用タンク138は着用者に水分を補給する。
【0136】
流動食用タンク139は、着用者に流動食を補給する。呼吸循環エアー冷却装置134は第一のエアータンク131及び第二のエアータンク132から供給される空気を冷却することによって、着用者の体温を調節する。また、生命維持装置130は、カセット型の二酸化炭素吸収部136を搭載しているため、着用者の排出した二酸化炭素を処理することができる。その他、各種構成部を制御する機器制御部137、マイクロポンプユニット138、電源部133、機器制御部137のGPS(Global Positioning System)等が生命維持装置130内に備えられている。
【0137】
第一のエアータンク131は、カセット式ボンベから構成されるエアータンクであって、逆止弁およびエアーホースを組み合わせ、機器制御部137によって、エア圧力を感知し、エアを供給する。第二のエアータンク132は、カセット式ボンベから構成されるエアータンクであって、電磁弁およびエアーホースを組み合わせ、機器制御部137によって、酸素量を計測し、酸素を供給する。なお、第一のエアータンク131または第2のエアータンク132を生命維持手段として、上述した放射線遮蔽素材として覆ってもよい。
【0138】
電源部133は、リチウムイオン電池を使用し、当該リチウムイオン電池を交換可能とするものである。電源部133は、リチウムイオン電池以外の電池を交換するものであってもよく、また、これらの電池は充電可能なものである。電源部133は、リチウムイオン以外の電池から構成されるものであってもよい。電源部133は、更に、排気部分に使用しヘルメット12の二酸化炭素の増加を調整する循環ファンユニット、放射線防護服110の胴体部分に冷却エアーを体温調整のために作動する小型ポンプ機器からなる循環ポンプユニット、液体窒素を魔法瓶上の冷却装置に封入し、冷却ファンを有する空間に吸気エアーを送り込む冷却装置を有する。
【0139】
二酸化炭素吸収部136は、ヘルメット12内での呼吸の際、排出二酸化炭素の濃度を常時、吸収(吸着)、循環する。また、呼吸循環冷却エアー134は、液体窒素を用いて、エアーの冷却を可能とする機能を有する。
【0140】
機器制御部137は、サーモスタット機能、通信機能、GPS機能を有するものであって、電源部133からの電気を利用し、電磁弁バルブ開閉、濃度測定、GPS・通信・サーモスタット機能をコンピュータ管理しているものである。この機器制御部137は、上述した放射線遮蔽材を覆うように保護し、ユニット交換できる機能を付加する。また、生命維持装置130は、シリコンおよび遮蔽素材により、生命維持装置130の各部をパッケージしている。
【0141】
また、本実施形態において、放射線防護服110の中空層5内には、ヘリウムや水銀ではなく、その他の液体や気体を充填してもよい。
【0142】
放射線防護服110は、着用者と前記内皮層との間にクッション材を設けることにより、着用者への衝撃を吸収し、更に着用者の身体に固定することを可能とする。
【符号の説明】
【0143】
1 生命維持装置
11 主酸素タンク
12 エアータンク
13 給水用タンク
14 呼吸循環エアー冷却装置
15 二酸化炭素吸収材
16 機器制御部
17 GPS
18 マイクロポンプユニット
19 バッテリーユニット
30 放射線防護服
51 放射線遮蔽素材
52 内皮層
53 中皮層
54 上皮層
55 中空層
56 外層部
57 隔壁部
57a 連通孔
110 放射線防護服
130 生命維持装置
131 第一のエアータンク
132 第二のエアータンク
133 電源部
134 呼吸循環エアー冷却装置
135 供給口
136 二酸化炭素吸収材
137 機器制御部
138 マイクロポンプユニット
138 給水用タンク
139 流動食用タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
散乱エックス線及び電子線を遮蔽する内皮層と、前記内皮層に積層された、ガンマ線を遮蔽する中皮層と、前記中皮層に積層された、中性子線を遮蔽する上皮層とを備える放射線遮蔽素材と、
前記放射線遮蔽素材により覆われた生命維持手段とを備えたことを特徴とする生命維持装置。
【請求項2】
前記生命維持手段は、少なくとも、酸素タンクと、二酸化炭素吸収材と、呼吸循環エアー冷却装置と、制御部とを備え、
前記制御部は、前記生命維持装置を装着した装着者に対して、前記酸素タンクの酸素を供給するように制御し、前記装着者が呼吸した二酸化炭素を吸収させるように制御し、前記呼吸循環エアー冷却手段を制御することで装着者の呼吸により排出されたエアーを循環させるものであることを特徴とする請求項1記載の生命維持装置。
【請求項3】
前記生命維持手段は、前記生命維持装置を装着した装着者の位置情報を取得し、前記位置情報を送信する位置情報取得手段をさらに備える請求項2記載の生命維持装置。
【請求項4】
前記生命維持手段は、前記生命維持装置を装着した装着者に水分を供給する給水タンクをさらに備える請求項2又は3記載の生命維持装置。
【請求項5】
前記中皮層は、前記内皮層側に、気体により構成される複数の中空層と、該中空層を仕切る隔壁部を備える請求項1から4いずれか1項記載の生命維持装置。
【請求項6】
前記中空層には、ヘリウムが充填された請求項5記載の生命維持装置。
【請求項7】
前記隔壁部は、該隔壁部を介して隣り合う前記中空層内の充填物を連通させる連通孔を備える請求項5又は6記載の生命維持装置。
【請求項8】
前記上皮層は、少なくともホウ素を加えたシリコンゴムから形成される請求項1〜7のいずれか1項記載の生命維持装置。
【請求項9】
前記中皮層は、ビスマス及びチタンの少なくとも1種、ケイ素、並びにストロンチウムを少なくとも加えたシリコンゴムから形成される請求項1〜8のいずれか1項記載の生命維持装置。
【請求項10】
前記内皮層は、少なくともケイ素、ストロンチウム、マグネシウム、ユーロピウム及びジスプロシウムを加えたシリコンゴムから形成される請求項1〜9のいずれか1項記載の生命維持装置。
【請求項11】
前記シリコンゴムと該シリコンゴムに加えられる物質との混合体積比は、40:60であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項記載の生命維持装置。
【請求項12】
前記シリコンゴムに加える物質の割合を変化させて、前記シリコンゴムの硬さを調整したことを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項記載の生命維持装置。
【請求項13】
前記中空層には、空気または液体が充填されたことを特徴とする請求項5記載の生命維持装置。
【請求項14】
前記生命維持手段は、前記酸素タンクのみであることを特徴とする請求項1記載の生命維持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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