説明

生成物を部分的に金属化する方法

第一の部分(12)および第二の部分(13)を含んでいる生成物(11)を金属化する方法。該生成物は第一の環境(14)に曝露され、該第一の環境(14)は第一の部分の表面を親水性にし、第二の部分の表面を疎水性にする。生成物は水の溶液(15a)に曝露される。次に、生成物は膜形成剤の溶液(17a)に、その後に第二の環境(17b)に曝露され、ここで溶媒が蒸発し、生成物全体を被覆する膜(18)が形成され、その際、該膜の下に水膜が保持される。生成物はそれから十分にすすがれ(17c)、第一の部分の親水性表面の場所にある膜の除去が引き起こされる。次に、生成物は核形成され、このようにして核層(20)が形成され、その後に該膜が除去されて(19b)、第一の部分の親水性表面にある核層が残されるだけとなる。最後に、生成物の表面は金属化環境(21)に曝露され、第一の部分(のみ)の表面上に金属化層(22)が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一のポリマー物質によって構成された第一の部分、および第二のポリマー物質によって構成された第二の部分を含んでいる生成物を金属化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不導体を湿式化学的に金属化する慣用の方法は、一般に以下の手順を実行する。
1.エッチング:親水性表面および該表面の微小規模での粗化を達成して、良好な付着のための状態を得ること、
2.増感:該表面へのSn2+イオンの吸着、
3.活性化:該Sn2+イオンによるPd2+の金属Pdへの還元、および
(注記:プラスチックの表面上にPdを得るために非常にしばしば使用される他の方法があり、この方法では段階2および3が、
2’)核形成:該表面への、Sn2+イオンによって安定化されたPdナノ粒子の吸着、
3’)促進:該Pdの表面からのSnイオンの除去、
によって代替される。)
4.無電解メッキ:イオン状態にある、施与されるべき金属(たとえば、CuまたはNi)および還元剤の両方を含んでいる溶液から、該施与されるべき金属のPdのところでの接触還元。
非導電性基板はこのようにして金属Pdの核を形成され(核またはシード(種)を付与され)、これに、問題としている金属が堆積されることができる。
【0003】
たとえば2種類のプラスチック(すなわち、一方は金属化されるべきもので他方はそうでないもの)から成る生成物を、マスク等を使用しないで選択的に金属化するためには、所要の選択性は化学的または物理的方法に基づくことができる。しかし、問題は、段階2および3におけるSn/Pd核形成(核の形成)がほとんど全てのプラスチック表面で、エッチングされていてもいなくても、強い吸着特性の故にある程度には常に起きることである。したがって、該方法の際に金属の析出が全く起きないような程度にプラスチックを選択しまたは(エッチング、放射線照射または他の表面処理によって)変性することは可能ではない。二つのプラスチックに析出された金属層間の付着力の有意な差を達成することは実際、可能であるが、機械的様式で(たとえば、超音波的に)該金属層を除去することは困難であり、所望の100%の選択性は得られないだろう(非特許文献1も参照せよ。)。
【0004】
プラスチックの金属化は数十年にわたって実施されているけれども、複合プラスチック生成物の選択的金属化は最近の技術であり、MID、MEMS、2層射出成形のような技術の出現ならびに微細化および軽量化の追及から始まった。
【0005】
アディティブ金属化の他に、サブトラクティブパターン法があり、該方法では全体の生成物が金属化され、後でその一部が化学的、物理的(プラズマ)または光学的(レーザー)エッチングによって除去される。
【0006】
いくつかのアディティブ金属化法がある、すなわち、
a)Pd/Snコロイドの吸着が影響を受けるようにプラスチック表面を選択的に状態調整すること
b)予め触媒を添加された(増感された)ポリマー状物質
c)増感されたプラスチックのレーザー活性化
d)マスキングまたはコンタクト印刷、および
e)特許文献1によって知られた方法
である。
注記:方法c)およびd)および部分的にa)については、一成分の基板が使用されることができる。
【0007】
a)プラスチック表面の選択的状態調整
二つの異なったプラスチックに、一方のプラスチックがコロイドの強い吸収を示し他方が示さないように、表面処理を施すことによって、選択的な金属堆積を得ようと試みる方法が非特許文献1に記載されている。ごく限られた場合にのみ、100%の選択性でこの方法は有効である。金属化されるべきでないプラスチックに、ほとんど常にいくらかの金属堆積がある。とりわけ微細の用途において、このことは非常に重大であり、電気回路の短絡を非常に容易にもたらす。非特許文献7は、調節されたプラズマによる疎水性プラスチック(一成分)の局所活性化について記載し、そこではプラズマによって活性化された表面は強力に親水性になり、したがってPd核の形成への大きい親和性を示す。
【0008】
b)予め触媒を添加されたポリマー
過去数年、MIDおよび2層射出成形の用途を見込んで、予め触媒を添加された様々な種類のポリマー粒子が市場に投入された。その例は、Pd粒子を含んでいるTicona社のVectra 820i Pdであり、もっと最近ではDegussa社のVestodur PBT(非特許文献2、3)であり、これは鉄顔料を含んでおり、該鉄顔料は化学的に放出された後に、無電解メッキ方法についてPdと同じ触媒作用を有する。予め触媒を添加されていないポリマーと一緒に、このような予め触媒を添加されたポリマーを2層射出成形法に使用すると、選択的に金属化されることができる生成物を造ることが可能になる。予め触媒を添加されたこれらの系に対する最も主要な難点は、高価格、ならびに触媒物質の量が非常に高くなければならず、その結果ポリマーの特性および加工が有害な影響を受けるという事実の双方である。その上、無電解メッキについては、金属化を開始するために、極めて活性な化学反応が使用されなければならず、実際には、不安定な非常に調節が困難な金属化方法を、これは意味する。
【0009】
c)レーザーによるパターン毎のプラスチックの金属化
最近、有機金属および酸化性金属の添加物を予め触媒として添加されたプラスチックを開発することに、独国の会社LPKFは大きな貢献をした。該有機金属および酸化性金属の添加物は紫外線レーザーへの曝露によって放出されることができ、その結果これらは無電解メッキプロセスにおいて触媒活性になる。したがって、紫外線レーザーの助けを借りて、プラスチック担体上にパターンが書かれることができ、該パターンはその後金属化されることができる(非特許文献4、5)。この方法はレーザー直接回路形成法(LDS)とも呼ばれる。最も主要な不利点は、一方では有機金属添加物がエンジニアリングプラスチックの射出成形に使用される温度に耐えることができないことであり、また触媒物質の量が非常に高くなければならず、その結果ポリマーの特性および加工に有害な影響を与える事実である。
【0010】
d)マスキング/リソグラフィー/コンタクト印刷
マスクを使用することによって選択的金属化が可能である。すなわち、2D施与についてはこれは言うまでもない手段であるが、3D施与マスキング技術はしばしば非常に複雑である。パターンの施与は、サブトラクティブ様式で行われることができる。すなわち、生成物全体がまず金属化され、その後に金属層がマスクを介してエッチングされて、所望のパターンが残る。この他に、アディティブ様式で金属化することも可能である。金属化されるのに適した専用の金属化インクが、スクリーン印刷またはコンタクト印刷方法に使用されることができる(非特許文献6)。可能であれば、マスクはフォトレジストで光学的に生成されることができる(より複雑なおよび3Dの形成回路では可能ではない。)。さらに最近、いわゆるアクティブマスクを使用する開発が進んでいる。電解法に加えて、PVD(非特許文献7)のような真空法が金属化に使用されることができるが、該真空法は、湿式化学金属化に比較してその大きい不利点として、影効果によって影響を受けて、より複雑な3D物体についてこれらの技術がより低度に適したものになることである。
【0011】
e)特許文献1によって知られた方法
特許文献1の方法は、使用されるプラスチックの種類間の化学的溶解度の差を利用する。該公知方法は多数の段階、すなわちエッチング、増感、活性化およびPd核を含んでいる「シード層」での生成物の完全被覆を含んでいる。最終調製段階において、選択的な、非常に侵襲性というほどではないエッチング剤を使用して、金属化されるべきでないプラスチックの表面がわずかにエッチングされて、その表面(のみ)にある触媒Pd核の除去が引き起こされる。この段階を終えると、核形成された成分の無電解メッキを、生成物はいつでもされる状態になる、すなわち生成物全体を金属化環境に曝露することによって、核形成された一または複数の成分のみがその間に金属化されることになる。
【0012】
該公知方法は多数のプラスチックの組み合わせに適用可能であり、該組み合わせとは、すなわち(最終調製段階で)生成物の表面を「選択的にエッチングする」のに適している選択的薬剤が発見されることができるそれぞれの組み合わせであり、該「選択的にエッチングする」とは、すなわち二つのプラスチック成分の一方にあるPd核層をエッチング除去することによって「選択的にエッチングし」、同時に他方の成分の表面にあるPd核には作用を与えずにおくことである。
【0013】
しかし、高品質(HQ)エンジニアリングプラスチック、たとえばLCP、PEEK、PPS、PPAについては多くの場合、好適な選択的エッチング剤が発見されることができないようである。(MIDのような電子用途への適用に非常に関心が持たれている)これらのHQエンジニアリングプラスチックは、その(リフローハンダ接合可能な)高温安定性によって優れており、一般に非常に耐化学薬品性である。これらの表面は、強酸化性酸によって作用を受けるのみでありうる。しかし、この事実の故に、特許文献1によって開示された方法に使用されるときに、このような強酸化性酸は、該公知方法の最終調製段階における選択的エッチングに適していない。何故ならば、このような強酸化性薬剤は、プラスチック成分の一方からのみでなく、それらの両方から触媒Pd核(シード層)を除去することになる。他方、HQエンジニアリングプラスチックの高い耐化学薬品性の故に、より低度に酸化性の薬剤は、生成物の一方あるいは他方のプラスチック成分のいずれの(核形成された)表面にも作用を与えることができないから、このようなより低度に酸化性の薬剤もまた有効でないことになる。再度言うと、該公知方法の最終調製段階における選択的エッチングに適している薬剤は発見されることができず、他方において、両方の(後続の金属化段階の基礎の役割をする)「シード層」が破壊されるか、あるいは両表面がこれらの「シード層」も含めて全く作用を受けないかのいずれかである。
【特許文献1】国際公開第2005035827号パンフレット
【非特許文献1】「微細化されたマイクロシステム成形物を得るための二成分MID技術における熱可塑性物の複合強度」、独国、Hahn−Schickard協会、微細回路形成技術研究所、研究プロジェクト番号12120N・最終報告書、2001年
【非特許文献2】Degussa社Vestodur生成物カタログ、2002年
【非特許文献3】MID teilungen、1999年、第10巻、p.2
【非特許文献4】G.Naundorf、H.Wissbrock、「3D−MIDについて実証された超微細線技術におけるポリマー状基板のアディティブ金属化のための根本的に新規な機構」、Galvanotechnik、2000年、第91巻、p.9
【非特許文献5】M.Huskeら、「3D−MIDのための熱可塑性物のレーザーアシスト活性化およびアディティブ金属化」、第3回LANE2001講演予稿集、2001年、独国、Erlangen
【非特許文献6】zie bijvoorbeeld www.metallization.com/selective
【非特許文献7】M.Thomas、PLUS(回路基板およびシステムの製造)誌、2005年、第6巻;http://www.leuze−verlag.de/plus/verband/3−d−mid/inh_3dmid.asp
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
第一および第二の部分を含んでいる生成物を金属化するための新規な方法は、たとえば、高品質エンジニアリングプラスチックが使用されるが、そのための適当な選択的エッチング手段が発見されることができないような場合における解決手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第一の態様では、第一のポリマー状物質の第一の表面、および第二のポリマー状物質の第二の表面を有する生成物の選択的表面金属化方法を本発明は提供し、該方法は、
a)第一の表面を親水性または水もしくは水性溶液に実質的に親和性にし、かつ第二の表面を疎水性または水もしくは水性溶液に実質的に非親和性にする条件に、当該第一および第二の表面を曝露する段階、
b)水または水性溶液と、当該第一および第二の表面を接触させる段階、
c)水と非混和性の溶媒、好ましくは有機溶媒中の膜形成剤の溶液と、当該第一および第二の表面を接触させる段階、
d)当該溶媒を蒸発させて、当該第二の表面上に当該膜形成剤による膜の形成を許し、他方、当該第一の表面上への当該膜形成剤による膜の付着が、当該第一の表面上の水または水性溶液の存在によって本質的に妨げられ、そして任意的に当該第一および第二の表面を水または水性溶液と接触させて当該第一の表面から当該膜を除去する段階、
e)慣用の金属化工程を実施して当該第一および第二の表面上に金属層を堆積する段階であって、当該段階が好ましくは、無電解メッキと組み合わせて、触媒核による当該表面への核形成、最も好ましくはSn/Pd核の形成を含む段階、および
f)当該第二の表面から当該金属化膜を除去して、当該第一の表面は金属化されている段階
の逐次的段階を含む。
【0016】
要するに、該方法は以下のように実施されることができる。
第一のポリマー物質によって構成された第一の部分(12)、および第二のポリマー物質によって構成された第二の部分(13)を含んでいる生成物(11)が、第一の環境(14)に曝露され、そこで第一の部分の表面が親水性になりまたは親水性のままでいて、他方、第二の部分の表面が疎水性になりまたは疎水性のままでいて、
−生成物が、その後に水または水の溶液(15a)と接触され、
−生成物が、水に非混和性である(混合しないまたは難混合である)溶媒中の膜形成剤の溶液(17a)と接触され、その後に第二の環境(17b)と接触され、そこで有機溶媒が蒸発し、生成物全体を被覆する膜(18)が形成され、その際、親水性表面の場所にある膜の下に水が保持され、
−生成物が十分にすすがれて(17c)、親水性表面の場所にある膜が除去されることが引き起こされ、
−生成物が触媒核(19a)によって核形成され、かくしてその上に核層(20)が形成され、その後に膜(19b)がその上の核層を含めて除去されるが、第一の部分の親水性表面にある核層は残される。
【0017】
第一の段階では、生成物は第一の環境に曝露され、そこで第一の部分の表面は親水性になりまたは親水性のままでいて、他方、第二の部分の表面は疎水性になりまたは疎水性のままでいる。
【0018】
両成分の表面が疎水性(最も普通の状況)であれば、好ましくは第一の部分の表面が親水性になり、他方、第二の部分の表面は疎水性のままでいることを引き起こすのに適した薬剤を、第一の環境は含んでいる。
【0019】
しかし、両成分の表面が親水性であれば、好ましくは第一の部分の表面が親水性のままでいて、他方、第二の部分の表面が疎水性になることを引き起こすのに適した薬剤を、第一の環境は含んでいる。
【0020】
第一の部分の表面が親水性であり、他方、第二の部分の表面が疎水性であれば、第一の環境は、第一の部分あるいは第二の部分のいずれかの表面を親水性から疎水性へまたはその逆へと変性するための何らの薬剤も必要としない。言い換えれば、この場合には第一の環境はその意味において中性であることができる。
【0021】
以下では、本来的に、またはたとえば、両成分の製造の際に使用された疎水性離型剤の故に、第一の部分および第二の部分の両方が疎水性表面を有することが仮定される。
【発明の効果】
【0022】
公知の方法の最終調製段階において、生成物の表面に存在するシード層を選択的にエッチング除去するのに適した薬剤は見出されることができないけれども、種々の生成物成分の、たとえば水に対する表面親和性(吸引力)を選択的に変性する能力、すなわち、一方の成分の表面が親水性になり(または親水性のままでいて)、他方、他方の成分の表面は疎水性になる(または疎水性のままでいる)ことを引き起こす能力がある薬剤が(HQエンジニアリングプラスチックについても)見出されることができることを、本発明者らが今驚いたことに発見したことが注記される。
【0023】
同じ薬剤に曝露されたときの異なったプラスチックの異なった表面エネルギー挙動に基づいて、親水性表面を有する第一の部分および疎水性表面を有する第二の部分をもたらすこの選択段階後に、生成物全体(またはその問題としている部分)が水または水の溶液に曝露されてその全面を覆う水膜がもたらされる。その後、第二の部分の疎水性表面から該水膜はかなり容易に除去されることができ、他方、該水膜は第一の部分の親水性表面には留まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
好適な表面物質は、有機または無機の(ポリマー状)物質を包含するが、これらに限定されない。好ましくは、表面は合成ポリマー状物質の性質のものである。好まれるポリマーは、LCP(液晶ポリマー)、PPA(ポリフタルアミド)、PA4,6、PA6T/x、PA6/6Tの種類のPA(ポリアミド)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PES(ポリエーテルスルホン)、SPS(シンジオタクチックポリスチレン)、PEI(ポリエーテルイミド)、(変性)PPE(ポリフェニレンエーテル)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、PC/ABSブレンド(ポリカーボネート/アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)、ASA(アクリロニトリル−スチレン−アクリルエステル)、PP(ポリプロピレン)、PI(ポリイミド)およびPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)である。LCP、PPAおよびPA4,6およびPPSが最も好まれる。セグメント化コポリマー中の一つのセグメントの重量平均分子量は、約10〜約500,000の範囲内、好ましくは約500〜約25,000の範囲内、より好ましくは約100〜5,000の範囲内、特に好ましくは約500〜約1,000の範囲内にあることができる。
【0025】
好適な膜形成剤は、たとえばカンデリラワックス、ポリジメチルシロキサン、ステアリン酸、パラフィン、ビオノーレまたはポリエチレンもしくはポリアクリレートの低分子量ポリマー等を包含する。膜形成剤が疎水性の第二の表面に選択的に保持され、他方、濡らされた親水性の第一の表面からは洗い流されるという事実によって膜形成剤が疎水性の第二の表面の金属化を妨げる能力がある限り、ならびに(被覆されていない)第一および(膜で被覆された)第二の表面の両方を金属化工程に付すると、膜形成剤が第二の表面から除去されることができる限り、膜形成剤の厳密な性質は関係がないことを、当業者は理解するだろう。
【0026】
膜形成剤のための好適な(有機)溶媒として、トルエン、ジクロロメタン、ペンタン、ヘプタン、ヘキサン、アセトン、ベンゼン、クロロホルム、メタノール、キシレンおよびエチルエーテル等が使用されることができる。
【0027】
実際には、生成物が水から取り出されて溶媒中へ入れられると、重力、乾燥または局所的な水膜のはじきの故に、親水性表面上の水膜が無傷で留まらない危険があることが観察される。この理由により、水をベースとした粘稠な溶液に生成物を曝露して、はるかにより安定である粘稠な水膜を親水性成分上にもたらすことが好まれる。該粘稠な溶液は、たとえばポリアクリル酸の水溶液であることができ、この中に塩(たとえば、NaCl)が添加されてそれをさらにより極性にし、親水性部分の濡れを増加することができる。
【0028】
後続の段階で、水に非混和性である(混合しないまたは難混合である)(有機)溶媒中の(多かれ少なかれ固形の)膜形成剤の溶液に生成物は曝露され、そしてその後に環境、たとえば空気、ガスまたは真空に生成物は曝露され、そこで溶媒が蒸発し、少なくとも第一および第二の表面ならびに任意的に生成物全体を被覆する膜が、該膜の下の水膜を無傷で残しながら、たとえば濡れた親水性表面を保持しながら形成される。
【0029】
次に、生成物はたとえば水で十分にすすがれ、第一の部分の親水性表面の場所にある膜が、(水膜の存在によって)このような場所では膜が該成分の表面に付着していないという事実の故に、除去されることが引き起こされる。
【0030】
(目的とする選択的金属化の前の)追加的な調製段階として、生成物は触媒核によって核形成され、その後に、たとえば膜がその上の核の層を含めて、ただし第一の部分の親水性表面にある核を例外として、その中に溶解するところの有機溶液によって、該膜が除去されてもよい。
【0031】
(最終調製段階の後の)最終段階として、生成物の表面は金属化環境に曝露されて、種々の工程段階の後も核形成された状態に留まっていた第一の部分の表面の金属化が引き起こされることができる。
【0032】
生成物を金属化する方法の他に、本発明はその上、生成物自体、すなわち第一のポリマー物質によって構成された第一の部分、および第二のポリマー物質によって構成された第二の部分を含んでいる生成物であって、その生成物の当該第一の部分の表面が金属化され、または上に概説された方法を使用して金属化のための用意がされている生成物に関する。
【0033】
両方のポリマー成分またはいずれかの成分は、熱硬化性もしくは熱可塑性ポリマー物質またはエラストマーから造られることができる。
【0034】
本発明である新規な方法は、従来技術と比較して多数の利点を有する。すなわち、レーザー回路形成(c)およびマスキング技術(d)と比較して、該方法は、生成物が回分式で処理されることができ、回路形成が各生成物について別々に行われる必要がないことを利点として有する。(e)の特許文献1と比較して、該方法は、他の種類のプラスチックが扱われることができることを利点として有する。この種類としては、HQエンジニアリングプラスチックの種類からの多くのプラスチック、たとえばLCP、PPAおよびPPSが含まれ、これらは適用の観点から非常に関心を持たれている。予め触媒を添加された基板が使用される方法(b)と比較して、より低い物質コストならびにポリマー物質の機械的特性の保持の利点の他に、大きな利点は、処理の様式がより頑健であることである。予め触媒を添加されたポリマーの使用には、非常に活性であるだけでなく不安定でもある金属化化学が要求され、これは制御するのが非常に困難であり、非常に狭い処理可能範囲を有する。
【0035】
他方において本発明の新規な方法は、標準的な安定な無電解メッキ化学を用いて有効に実施できる。金属化の選択性は概して(a)、(b)および(c)の技術によって到達されることができるのよりも大きい。3Dを支援することへの適合性は方法(c)および(d)のそれよりも優れている。表面に、および(スルーホール、ブラインドホールを含む)生成物の全体に、のどちらにも、金属パターンが施与されることができる。
【0036】
以下に典型的な実施態様によって、本発明が例示される。
【0037】
典型的な実施態様
【0038】
異なったポリマー物質から造られた二つの部分を有する成分の従来技術の金属化方法を、特許文献1から導かれた図1a〜gは概略的に示し、ここで図1aは、第一のポリマー物質、たとえばポリマーから造られた第一の部分の部分1、および第二のポリマー物質、たとえばポリマーから造られた第二の部分の部分2から成る成分を示す。図1bは、該成分の全体が活性化またはエッチングの環境3(たとえば、エッチング浴)に曝露されて、良好な結合特性のための親水性のおよび粗化された表面4が得られることを示す。この従来技術の方法では、成分1の表面および成分2の表面の両方がエッチング環境によって作用を受け、その故に両成分の表面が親水性になると考えられることが強調される。
【0039】
図1cは、成分の表面4が(処理環境5中で)金属化のために「増感され」て、金属化シード(または核)層6が得られ、該増感は、たとえば該表面へのSnイオンの吸着およびその後の活性化によって行われ、該活性化は、たとえば当該SnイオンによるPdイオンの金属Pdへの還元によって行われることを示す。図1dは、その後に、シード層6を含む該成分の表面が溶媒7に曝露され、該溶媒7中に当該第一の部分の部分1は可溶性であるが、第二の部分の部分2はそうでないことを示す。成分の部分1の表面は、その上のシード層6を含めて、したがって溶媒7中に溶解される(または溶媒7によってエッチングされる)ことになり、その後に残留物が除去されることができる。
【0040】
図1eは、金属化シード層6が、部分的なシード層8によって表された第二の部分の部分2の表面に留まるのみであることを示す。図1fは、(全体の)成分が金属化環境9に曝露された後、部分的なシード層8によって被覆された成分の部分2のみが、第一の部分の部分1にシード層が存在しないことおよび部分2にそれが存在することの故に、(金属層10によって表されるように)金属化されることになることを示す。金属化環境9は、問題としているコーティング金属イオンおよび還元化学薬品の両方を含んでいる溶液からシード層8上に施与された金属コーティング(たとえば、CuまたはNi)を接触還元する性質のものに基づくことができる。
【0041】
最終金属化工程の結果は、図1gによって表され、二つの部分の成分であり、このうち一方の部分のみ、すなわち部分2が金属層10によって被覆され、他方において、他方の部分である部分1は、「選別する」溶媒7(図1d)によって溶解されてしまった金属化シード層6の不存在の故に被覆されないままである。
【0042】
図2は、(図1aに示された)第一のポリマー物質によって構成された第一の部分12および第二のポリマー物質によって構成された第二の部分13を含んでいる生成物11を金属化する新規な方法を示す。両物質は、たとえばHQプラスチックまたはセラミックであり、従来技術の部分的金属化方法に適していなくてもよい。
【0043】
図2bは、生成物が第一の環境14に曝露され、ここで第一の部分の表面は親水性になりまたは親水性のままでいて、他方、第二の部分の表面は疎水性になりまたは疎水性のままでいることを示す。両成分の表面が疎水性であるときは、第一の環境14は、第一の部分12が親水性になり、他方、第二の部分13が疎水性のままでいることを引き起こすのに適している薬剤を含んでいる。成分12および成分13の表面の両方が(たとえば、本来的にまたは前処理段階でそうされて)親水性であるときは、第一の環境は、第一の部分12が親水性のままでいて、他方、第二の部分13の表面が疎水性になることを引き起こすのに適している薬剤を含んでいる。
【0044】
たとえば、本来的にまたは前の製造工程の結果としてまたは前の工程でそうされて、第一の部分の表面が既に親水性であり、第二の部分の表面が疎水性であると仮定されるときは、第一の環境14は中性であることができ、第一の部分の表面が親水性のまま、かつ第二の部分の表面が疎水性のままでいることを引き起こす。この場合、図2bに示された段階は省略されてもよいだろう。
【0045】
このようにして、各場合に、第一の部分12の表面は親水性であり(親水性にされ)、かつ第二の部分13の表面は疎水性である(疎水性にされる)。
【0046】
次に(図2cに示されたように)、生成物は水または水の溶液15aに曝露される。
【0047】
その後に(図2dに示されたように)、生成物11は、水と難混合である有機溶媒17a中の膜形成剤の溶液に曝露され、このようにして第二の部分13の疎水性表面にある水膜が押しのけられ、他方、第一の部分の表面にある水膜は残される。その後、生成物11は、第二の環境17bに曝露され、そこで溶媒が蒸発し、(たとえば、ワックスまたは低分子量ポリマーを含んでいる)多かれ少なかれ固形のコーティングまたは膜18が膜形成剤の溶液から形成され、該膜18はその下に、すなわち疎水性の一つまたは複数の場所に(部分的な)水膜16を保持しながら、生成物全体を被覆することになる。
【0048】
その後、生成物は水(17c)によって十分にすすがれて、第一の部分の親水性表面の場所にある膜が除去されることが引き起こされる。図2dの処理段階の結果が図2eに示される。すなわち生成物11は、その疎水性表面の一つまたは複数の部分にある膜18によって包まれ、かつ親水性表面の一つまたは複数の部分は包まれないままであり、このようにして図2fに示されたように、該包まれないままであった一つまたは複数の表面の核形成が可能になる。
【0049】
図2fは、触媒核を含んでいる環境19a中で生成物がどのように核形成され、生成物の全表面全体にわたって核層20がもたらされるかを示す。その後、生成物11を溶媒21に曝露させ、該溶媒中に仮の膜18は溶解するが、第一の部分12の親水性表面にある核層19が残されることによって、(部分的に被覆する)膜18がその上の核層19を含めて除去される。
【0050】
最後に、上記の調製段階に続いて、(図2gに示されたように)生成物11の表面が金属化環境21に曝露され、第一の部分12の(核形成された)表面のみの金属化が引き起こされ、その結果、成分12および13を含んでおり、そのうち成分12のみが金属化された表面22を付与されている、図2iに示されたような部分的に金属化された生成物がもたらされる段階が行われる。
【0051】
最後に二つの詳細な実施例が示される。
【実施例1】
【0052】
LCP/PPS
二つの異なったプラスチック、すなわちTicona社によって供された液晶ポリマー(LCP)Vectra 820i、およびPhilips Chevron Chemical社によって供されたポリフェニレンスルフィド(PPS)のタイプ、たとえばRyton R−7またはRyton BR111 BL−Sから構成される部分の選択的金属化を、本実施例は記載する。以下の段階の実施は、LCP表面の選択的金属化をもたらし、他方、PPS表面は金属化されないままである。
【0053】
これらの物質の射出成形された二成分の部分が、以下のように処理される。
1.たとえば(Cookson Electronics社によって供された)MID Select 9020中での、T=80℃における5分間のアルカリ性エッチング。これは親水性LCP表面をもたらし、他方、PPS表面は疎水性のままである。
2.T=75℃における1分間の熱水すすぎと、それに続く純水での短時間の冷すすぎ。
3.ポリアクリル酸(M=1200g/モル)のナトリウム塩の4重量%溶液に1g/リットルのNaClを加えたもの中に撹拌下、5〜10秒間、該部分が浸漬される。これは、段階4で加えられるアクリレート溶液がLCPを濡らすことを妨げるのに役立ち、さらにその上、PPS表面から水相を有機アクリレート相に置き換えるのに役立つ。
4.有機溶媒中のアクリルポリマーの溶液、たとえばNeoCrylのタイプB725、B735、B736(DSM社)中に、5重量%の濃度で室温において2秒間、該部分が浸漬される。溶媒はジクロロメタンまたはトルエンである。
5.アクリルポリマー溶液から該部分が取り出され、環境空気中で約30〜60秒間放置乾燥される。
6.激しい撹拌下に純水中で約30秒間、該部分がすすがれて、LCP表面からアクリルポリマーが除去される。
7.増感溶液、たとえば10g/リットルのSnCl・2HOおよび40ml/リットルのHClから成るもの中へと室温において2分間、該部分が浸漬される。
8.純水中で30秒間、該部分がすすがれる。
9.活性化溶液、たとえば0.25g/リットルのPdClおよび2.5ml/リットルのHClから成るもの中へと室温において1分間、該部分が浸漬される。
10.純水中で30秒間、該部分がすすがれる。
11.有機溶媒、たとえばアセトン中で30秒間、該部分がすすがれて、PPSからアクリレート膜がPd核とともに除去される。
12.純水中で30秒間、該部分がすすがれる。
13.慣用の無電解めっき溶液、たとえば(Cookson Electronics社によって供された)無電解ニッケルEnplate EN 435E中で、該部分が金属化される。
【0054】
LCP表面の選択的金属化が、このようにして得られる。
【実施例2】
【0055】
PA4,6/PPA
二つの異なったプラスチック、すなわちDSM社によって供されたStanyl TE200 F6の商品名を有するポリアミド4,6(PA4,6)、およびSolvay Advanced Polymers社によって供されたポリフタルアミドAmodel AS4133HS NT(PPA)から構成される部分の選択的金属化を、本実施例は記載する。以下の段階の実施は、PA4,6表面の選択的金属化をもたらし、他方、PPA表面は金属化されないままである。
【0056】
これらの物質の射出成形された二成分の部分が、以下のように処理される。
1.100g/リットルのHCl溶液中に室温において2分間、該部分が浸漬される。これはポリアミド4,6表面を親水性にし、他方、PPA表面は疎水性のままである。
2.純水を用いて短時間、該部分がすすがれる。
3.さらなる処理は、実施例1の段階3〜13と同一である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】特許文献1によって公知の従来技術の方法の、いくつかの段階における概略図である。
【図2】本明細書に概説された新規な方法の実施態様の、いくつかの段階における概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のポリマー状物質の第一の表面、および第二のポリマー状物質の第二の表面を有する生成物の選択的表面金属化方法であって、
a)第一の表面を親水性または水もしくは水性溶液に実質的に親和性にし、かつ第二の表面を疎水性または水もしくは水性溶液に実質的に非親和性にする条件に、当該第一および第二の表面を曝露する段階、
b)水または水性溶液と、当該第一および第二の表面を接触させる段階、
c)水と非混和性の有機溶媒中の膜形成剤の溶液と、当該第一および第二の表面を接触させる段階、
d)当該溶媒を蒸発させて、当該第二の表面上に当該膜形成剤による膜の形成を許し、他方、当該第一の表面上への当該膜形成剤による膜の付着が、当該第一の表面上の水または水性溶液の存在によって本質的に妨げられ、そして任意的に当該第一および第二の表面を水または水性溶液と接触させて当該第一の表面から当該膜を除去する段階、
e)金属化工程を実施して当該第一および第二の表面上に金属層を堆積する段階であって、当該段階が好ましくは、無電解メッキと組み合わせて、触媒核による当該表面への核形成、最も好ましくはSn/Pd核形成を含む段階、および
f)当該第二の表面から当該金属化膜を除去して、当該第一の表面は金属化されている段階
の逐次的段階を含む方法。
【請求項2】
第一の表面および第二の表面が疎水性であり、段階a)における曝露が、第一の表面を親水性にしかつ第二の表面を疎水性のままにする薬剤と、当該第一および第二の表面を接触させることを含む、請求項1に従う方法。
【請求項3】
第一の表面および第二の表面が親水性であり、段階a)における曝露が、第一の表面を親水性のままにしかつ第二の表面を疎水性にする薬剤と、当該第一および第二の表面を接触させることを含む、請求項1に従う方法。
【請求項4】
第一のポリマー物質によって構成された第一の部分(12)および第二のポリマー物質によって構成された第二の部分(13)を含んでいる生成物であって、当該第一の部分の表面が、請求項1〜3のいずれか1項に従う方法から得られた金属化層(22)を含んでいる生成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2009−509048(P2009−509048A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532176(P2008−532176)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【国際出願番号】PCT/NL2006/000472
【国際公開番号】WO2007/035091
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(502015784)ネーデルランドセ オルガニサティエ フォール トエゲパストナトールヴェテンシャッペリク オンデルゾエク ティエヌオー (41)
【Fターム(参考)】