説明

生物挙動コントロール方法及びその装置

【課題】本発明の目的は、生物の挙動を適切に観測することのできる生物挙動コントロール装置を提供することにある。
【解決手段】生物の挙動を観測する際に用いられる生物挙動コントロール装置10において、偏光状態のみが異なる複数の光14,16を生成する偏光照射機構12を備え、前記偏光照射機構12が、光14,16に対して挙動を示すであろう生物18の複数の異なる対象部位18a,18bにそれぞれ対応した偏光状態の光14,16を同時に照射し、該生物18の挙動における偏光特性を観測する際に該生物の挙動における偏光特性を制御することを特徴とする生物挙動コントロール装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物挙動コントロール方法及びその装置、特にキラルな光により生物の挙動をコントロールする手法に関する。より詳しくは、偏った円偏光などの特殊な偏光を生物に照射することにより、生物の挙動を制御する技術に関する。例えば、右まわりと光まわりの円偏光を発生させ、シロイヌナズナなどの植物に照射することにより、その成長を制御する。
【背景技術】
【0002】
太陽光に代表される光は、植物の光合成をはじめとして、生物界の根幹的なエネルギー源であり、発光ダイオードによる野菜の効率的生産等に代表されるように、さまざまな形で、光による生物の制御が実用化されている。このような生物の制御を効率的に行うためには、光に対する生物の挙動を把握することが非常に重要である。
【0003】
このために従来は、例えば波長域の異なる紫外線、つまりUVA(320−400nm)、UVB(320−280nm)、UVC(−280nm)を培養細胞に照射し、これらの紫外線の培養細胞に対する作用を調べている(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】岩田 豊人、“紫外線の培養細胞に対する作用の検討”、[online]、独立行政法人産業医学総合研究所、インターネット< URL:http://www.niih.go.jp/jp/current/topics/shigaisen.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来方式にあっても、波長特性だけでは納得のゆく説明が得られない挙動が観測されることがあり、生物の挙動を、十分に把握しているとは必ずしも言えるものでなかった。
したがって、この種の分野では、生物の挙動を正確に調べることのできる技術の開発が強く望まれていたものの、従来は、光に対して生物が示す挙動も未だ不明な点が多く、これを解決することのできる適切な技術が存在しなかった。
本発明は前記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、生物の挙動を適切に観測することのできる生物挙動コントロール方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが前記課題について鋭意検討を重ねた結果、生物の挙動を効率的に制御するためには、生物の挙動における偏光特性を把握することが極めて重要である点を発見し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、一般に、太陽光などの光は、特別な偏光状態とはなっておらず、様々な方向の光が合わさった形で、生物界への恩恵を与えている。一方、生物を構成する成分は、殆どが光学活性体であり、これらは、円偏光に対して旋光や円2色性などの光学異方性を有している。円偏光などの光学活性の評価に用いられる光により生物の行動が制御できれば、より効率性の高い、光による生物制御が可能になる。
ところが、生物は無偏光の自然光の下で生育しているので、従来は、偏光特性という概念そのものがなかった。このため、従来は、円偏光などの特殊な光による生物の挙動の制御という概念もなかったが、本発明者らにより、植物、昆虫などの生物が、光学活性な光に対して、どのような挙動を示すかを明らかとすることが非常に重要であるとの知見に至った。このような知見に基づき、キラルな光、例えば強度と波長の等しい左右の円偏光を生物試料に照射し、生物試料の生育における偏光特性を観測するという課題解決手段を採用するに至った。
【0007】
生物挙動コントロール方法
すなわち、前記目的を達成するために本発明にかかる生物挙動コントロール方法は、生物の挙動を観測する際に用いられる生物挙動コントロール方法において、光に対して挙動を示すであろう生物の複数の異なる対象部位にそれぞれ対応した偏光状態の光を同時に照射し、該生物の挙動における偏光特性の観測に用いられることを特徴とする。
【0008】
生物挙動コントロール装置
また、前記目的を達成するために本発明にかかる生物挙動コントロール装置は、生物の挙動を制御する生物挙動コントロール装置において、偏光状態のみが異なる複数の光を生成する偏光照射機構を備えることを特徴とする。
そして、前記偏光照射機構は、光に対して挙動を示すであろう生物の複数の異なる対象部位にそれぞれ対応した偏光状態の光を同時に照射し、該生物の挙動における偏光特性を観測する際に該生物の挙動における偏光特性を制御する。
【0009】
ここにいう生物の複数の異なる対象部位に、それぞれ対応した偏光状態の光を同時に照射とは、光に対して同一の挙動を示すであろう同一種の生物を複数用意し、該複数の生物に、それぞれ対応した光を照射する場合をいう。
【0010】
なお、本発明において、前記偏光照射機構は、前記偏光状態のみが異なる複数の光として、左右の円偏光、第一直線偏光及び該第一直線偏光に直交する第二直線偏光、又は左右の楕円偏光を同時に生成することが好適である。
ここにいう左右の楕円偏光とは、左楕円偏光の長軸と右楕円偏光の長軸とが直交し、かつ左楕円偏光の楕円率と右楕円偏光の楕円率とが等しい関係を有するものをいう。
【0011】
また、本発明においては、前記偏光照射機構が、一の光源と、波長選択フィルタと、
偏光生成手段と、を備えることが好適である。
ここで、前記光源は、光を発する。
また、前記波長選択フィルタは、前記光源からの光を所望波長の単色光とする。
前記偏光生成手段は、前記波長選択フィルタからの単色光から、前記偏光状態のみが異なる複数の光を生成する。
【0012】
<ウオラストンプリズム>
本発明において、前記偏光生成手段は、ウオラストンプリズムを備えることが好適である。
ここで、前記ウオラストンプリズムは、前記波長選択フィルタからの単色光を、第一直線偏光と第二直線偏光とに同時に分割する。
【0013】
<波長板>
本発明において、前記偏光生成手段は、さらに、波長板を備えることが好適である。
ここで、前記波長板は、前記ウオラストンプリズムからの第一直線偏光、第二直線偏光を同時に、左右の円偏光、第一直線偏光及び該第一直線偏光に直交する第二直線偏光、又は左右の楕円偏光に同時に変換する。
【0014】
<波長板回転機構>
また、本発明においては、波長板回転機構を備えることが好適である。
ここで、前記波長板回転機構は、前記波長板の光軸と直交する平面内で該光軸を中心に該波長板を回転自在に保持する。
【0015】
<照射レンズ>
本発明において、前記偏光照射機構は、さらに、照射レンズと、レンズ回転機構と、を備えることが好適である。
ここで、前記照射レンズは、前記偏光照射機構により生成された複数の光を、それぞれ対応した生物の対象部位に照射する。
また、前記レンズ回転機構は、前記照射レンズから前記生物の各対象部位への光強度が等しくなるように、該照射レンズの光軸を調節自在に該照射レンズを保持する。
【0016】
<仕切板>
本発明において、仕切板を備えることが好適である。
ここで、前記仕切板は、前記偏光照射機構と前記生物との間に設けられ、該偏光照射機構から該生物への各光を仕切る。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる生物挙動コントロール方法及びその装置によれば、生物の挙動における偏光特性を観測することとしたので、生物の挙動を効率的に制御することができる。
【0018】
また、本発明においては、偏光照射機構が、各偏光状態共通の、光源、ウオラストンプリズム、波長板ないし照射レンズを備えることにより、偏光状態以外の観測条件を、より同一にすることができるので、生物の挙動における偏光特性を、より適切に観測することができる。
本発明においては、偏光照射機構から生物への各偏光を仕切る仕切板を備えることにより、生物の挙動における偏光特性を、より適切に観測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に基づき本発明の好適な一実施形態について説明する。
図1には本発明の一実施形態にかかる生物挙動コントロール装置の概略構成が示されている。なお、同図(A)は本実施形態にかかる生物挙動コントロール装置を側方より見た図である。同図(B)は本実施形態にかかる生物挙動コントロール装置の生物近傍を上方より見た図である。
同図に示す生物挙動コントロール装置10は、偏光照射機構12を備えており、本発明の生物挙動コントロール方法を行う。
【0020】
ここで、偏光照射機構12は、偏光状態のみが異なる左右の円偏光14,16を同時に生成している。
そして、偏光照射機構12は、このようなキラルな光に対して挙動(光応答反応)を示すであろう生物18の対象部位18a,18bに、それぞれ対応した左右の円偏光14,16を同時に照射している。
【0021】
このために本実施形態においては、偏光照射機構12が、左右円偏光共通の、光源電源19と、光源20と、集光レンズ22と、波長選択フィルタ24と、ウオラストンプリズム26と、1/4波長板(波長板)28と、照射レンズ30とを備える。
【0022】
ここで、光源20は、光源電源19からの電力により、光32を放出する。
また、集光レンズ22は、光源20からの光32を集光する。
波長選択フィルタ24は、集光レンズからの光32を所望波長の単色光34とする。
ウオラストンプリズム26は、波長選択フィルタ24からの単色光34を、第一直線偏光と第二直線偏光とに分割する。
1/4波長板28は、ウオラストンプリズム26からの第一直線偏光、第二直線偏光から、左円偏光14、右円偏光16を同時に生成する。
照射レンズ30は、左右の円偏光14,16を、それぞれ対応した生物18の対象部位18a,18bに同時に照射する。
【0023】
本実施形態にかかる生物挙動コントロール装置10は概略以上のように構成され、以下にその作用について説明する。
すなわち、本実施形態においては、偏光照射機構12が、キラルな光、つまり偏光状態以外の観測条件が同一に保たれた左右の偏光14,16を、それぞれ対応した生物18の対象部位18a、18bに同時に所定の時間だけ照射している。このため、本実施形態によれば、生物18の挙動における偏光特性を正確に調べることができる。
【0024】
次に、本実施形態の作用について、より具体的に説明する。
まず、本実施形態にかかる生物挙動コントロール装置10は、キラルな光に対して挙動を示すであろう生物18の対象部位を、二分割している。分割された各対象部位を、本実施形態においては、それぞれ第一対象部位18a、第二対象部位18bとしている。
このように本実施形態においては、生物試料として一の生物18を用いることにより、偏光状態以外の観測条件を同一にすることができる。この結果、生物18の挙動における偏光特性を、より正確に調べることができる。例えば左まわりの円偏光14を照射した時と右回りの偏光16照射した時とでの、生物18のエネルギー効率の違いを正確に調べることができる。
【0025】
本実施形態においては、このような生物18の第一対象部位18a、第二対象部位18bに、それぞれ対応した偏光状態以外の観測条件が同一の左右の円偏光14,16を照射している。
すなわち、本実施形態においては、一の光源電源19からの電力供給により発せられた
一の光源20からの光32は、集光レンズ22により集光され、波長選択フィルタ24に入る。
集光レンズ22よりの光32は、波長選択フィルタ24により所望波長の単色光34とされ、ウオラストンプリズム26に入る。
波長選択フィルタ24よりの単色光34は、ウオラストンプリズム26により、第一直線偏光と第二直線偏光とに分割され、1/4波長板28に入る。
ウオラストンプリズム26よりの第一直線偏光、第二直線偏光は、1/4波長板28により左右の円偏光14,16とされ、照射レンズ30に入る。
ウオラストンプリズムよりの左右の円偏光14,16は、照射レンズ30により、それぞれ対応した生物18の第一対象部位18a、第二対象部位18bに照射される。
【0026】
本実施形態においては、左右の円偏光14,16による第一対象部位18a、第二対象部位18bの照射を、所定の時間連続して行い、生物18の挙動における偏光特性を観測する。このとき、本実施形態においては、偏光状態以外の条件が同一の左右の円偏光14,16を一の生物18の第一対象部位18a、第二対象部位18bに照射することができる。
すなわち、本実施形態においては、一の光源電源19からの電力で一の光源20を動かしている。
そして、本実施形態においては、一の光源20からの一の光に基づいて、左右の円偏光14,16が同時に生成されている。
この結果、本実施形態においては、左右の円偏光14,16に対してそれぞれ光源電源、光源を設けたものに比較し、光源電源、光源に起因する観測条件の違いを確実に回避し、偏光状態以外の観測条件を、左右の円偏光14,16間で、より正確に同一にすることができる。
【0027】
また、本実施形態においては、二の円偏光14,16を交互に生成するのでなく、ウオラストンプリズム26及び1/4波長板28により、二の円偏光14,16を同時に生成している。
そして、本実施形態においては、生物18の対象部位18a,18bに、それぞれ対応した二の円偏光14,16を交互に照射するのでなく、ウオラストンプリズム26及び波長板28により同時に生成された二の円偏光14,16を同時に照射している。
【0028】
この結果、左円偏光14を照射した時と右円偏光16を照射した時との時間差に起因する観測条件の違いを確実に回避し、偏光状態以外の観測条件を、左右の円偏光14,16間で、より正確に同一にすることができる。したがって、強度と波長とが同じ左右の円偏光14,16を生物18に照射することができるので、生物18の生育における偏光特性を適切に観測することができる。
【0029】
このようにして本実施形態によれば、異なる偏光状態下で且つ他の条件をほとんど変えることなく、生物18の挙動における偏光特性を正確に把握することにより、生物18の挙動を効率的な制御に役立てることができる。これは、従来のように生物の挙動における波長特性等を観測していたのでは決して得られないものであり、生物の挙動における偏光特性の観測によりはじめて得られる効果である。
【0030】
正確さの向上
ところで、本実施形態においては、生物18の挙動の観測を、より正確に行うため、偏光状態以外の観測条件を、より正確に同一にすることが非常に重要である。このために本実施形態においては、下記の試料シャーレ、仕切板、回転機構を用いることも好ましい。
【0031】
<試料シャーレ>
すなわち、本実施形態においては、生物18の周囲環境を正確に同一にすることも非常に重要である。
このために本実施形態においては、図2に示されるような生物18を入れる試料シャーレを用いることも非常に重要である。同図(A)は試料シャーレを側方から見た図、同図(B)は同様の試料シャーレを上方から見た図である。
本実施形態においては、生物18を入れる容器として、試料シャーレ40を用いており、試料シャーレ40に入れられた一の生物18を複数の対象部位、つまり第一対象部位18aと、第二対象部位18bとに分割している。
そして、本実施形態においては、試料シャーレ40に入れられた生物18の第一対象部位18aへの左円偏光14の照射と、第二対象部位18bへの右円偏光16の照射とを同時に行っている。
このように本実施形態においては、生物18を試料シャーレ40に入れて偏光特性の観測を行うことにより、生物18の第一対象部位18aの周囲環境と第二対象部位18bの周囲環境とを、より正確に同一にすることができる。
したがって、本実施形態においては、生物18の偏光特性を、より正確に調べることができる。
【0032】
<仕切板>
また、本実施形態においては、前記生物18の挙動の観測を、より正確に行うため、生物18の複数の異なる対象部位18a,18bに、それぞれ対応した偏光のみを照射することが非常に重要である。
そこで、本実施形態においては、同図に示されるような仕切板42を備えている。
仕切板42は、偏光照射機構と生物18との間の支柱44に設けられ、偏光照射機構12から生物18への左円偏光14と右円偏光16とを仕切る。
本実施形態においては、試料シャーレ40に仕切板42を被せることにより、左円偏光14が第二対象部位18bに照射されるのを確実に遮断し、且つ右円偏光16が第一対象部位18aに照射されるのを確実に遮断することができる。
この結果、本実施形態においては、生物18の第一対象部位18aには左円偏光14のみを確実に照射し、且つ生物18の第二対象部位18bには右円偏光16のみを確実に照射することができる。
したがって、本実施形態においては、他の光の影響を確実に排除することができるので、生物18の偏光特性を、より正確に調べることができる。
【0033】
なお、同図(A)において、生物18上で左円偏光14の中心軸線Xと右円偏光16の中心軸線X間の距離Lが所定の離隔距離(例えば、L=50mm)を有するように、左円偏光14と右円偏光16とが分割されている。同図(B)において、左右円偏光14,16はそれぞれ、生物18上で各対象部位18a,18bのサイズに基づき定められたビームサイズφ,φ(例えば、φ=φ=40mm)を有する。
【0034】
また、本実施形態においては、仕切板42により、生物18上に左右の円偏光14,16を遮断した未照射状態の部位をつくり、照射ゼロ時の観測に使用することもできる。例えば、この照射ゼロ時の生物の状態を基準にすることで、左円偏光14の照射された第一対象部位18aの評価、ないし右円偏光16の照射された第二対象部位18bの評価を、基準のないものに比較し、より正確に行うこともできる。
【0035】
<波長板回転機構>
前記生物18の挙動の観測では、生物18を動かさずに、偏光状態のみを変えたいという要望もある。
そこで、本発明においては、波長板回転機構を備えることが好適である。
本発明の波長板回転機構は、波長板の光軸と直交する平面内で光軸を中心に、波長板を回転自在に保持する。
【0036】
このために本実施形態においては、波長板回転機構として、図3に示されるような波長板ホルダを備える。同図(A)は波長板近傍を側方より見た図、同図(B)は同様の波長板近傍を上方より見た図である。
同図において、1/4波長板(波長板)28は、偏光照射機構の各光学系構成部材がセットされる支柱50に対して、光軸52に直交する水平面において光軸52を中心に回転自在に設けられている。
このために本実施形態においては、波長板ホルダ54が、下側ホルダ54a及び上側ホルダ54bと、操作ノブ56とを備える。
ここで、下側ホルダ54a及び上側ホルダ54bは、支柱50に水平方向に立設され、下側ホルダ54a上で1/4波長板28が光軸52を中心に回転自在に保持する。
また操作ノブ56は、1/4波長板28の側壁部に設けられ、1/4波長板28を回転する。
【0037】
そして、生物18を移動させずに偏光状態のみを変更したいときは、つまり生物の第一対象部位に右円偏光を照射し、第二対象部位に左円偏光を照射したいときは、操作ノブ56の回転操作により1/4波長板28を、下側ホルダ54a上で光軸52を中心に90度回転させる。すると、本実施形態においては、生物18を移動することなく、照射光の偏光状態の変更のみを行うことができる。
【0038】
このように1/4波長板28には、その光軸回りに波長板ホルダ54等の波長板回転機構を設け、1/4波長板28の90度回転により、左右の円偏光14,16を入れ替える機能を持たせている。また、1/4波長板28を45度方位に設定すれば、偏光状態は変化せず照射光は直交する2つの直線偏光を得ることができる。これらの中間の軸方位に1/4波長板28を設定すれば、生物18への照射光は一般的には長軸方位が直交し、楕円率の絶対値が等しい左右の楕円偏光を得ることができる。
したがって、本実施形態においては、前述のような波長板回転機構により、偏光状態を変えても、偏光状態以外の観測条件が、直交する2つの照射偏光の間で、より正確に同一に保たれるので、生物18の偏光特性を、より正確に調べることができる。
【0039】
<レンズ回転機構>
また、本実施形態において、生物18の偏光特性を正確に観測するため、各対象部位への光の照射強度を正確に同一にすることも非常に重要である。
そこで、本発明においては、レンズ回転機構を備えることが好適である。
本発明のレンズ回転機構は、生物の各対象部位への光強度が等しくなるように、照射レンズの光軸を調節自在に、照射レンズを保持する。
【0040】
このために本実施形態においては、レンズ回転機構として、図4(A)に示されるような照射レンズ30を保持するレンズホルダ60を備える。
同図において、レンズホルダ60は、支柱50に対して水平軸62を中心に、照射レンズ30を図中矢印方向に回転自在としている。
この結果、本実施形態においては、前記レンズ回転機構により、生物の各対象部位への照射光強度がそれぞれ等しくなるように、照射レンズ30の光軸を確実に調整することができるので、生物の各対象部位への各光の照射強度を、より正確に一致させることができる。
【0041】
なお、本実施形態において、前記照射レンズ30による照射光強度の調整は、図4(B)に示されるように、各光の照射位置にそれぞれパワーメータ64a,64bをセットして行うことも非常に好ましい。
すなわち、本実施形態においては、パワーメータ64a,64bにより、各光のモニター強度が同一となるように、照射レンズ30の光軸の図中矢印方向への回転角度を調整している。
この結果、本実施形態においては、各光14,16の照射強度を、試行錯誤で調整した場合に比較し、より正確に同一とすることができるので、生物の挙動における偏光特性を、より正確に調べることができる。
【0042】
変形例
<偏光の種類>
なお、前記構成では、偏光照射機構が、つまり波長板(1/4波長板)が、ウオラストンプリズムからの二の直線偏光を左右の円偏光のペアに変換した例について説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、偏光状態が異なるものであれば、任意の偏光のペアを生成することもできる。
例えば、第一直線偏光と該第一直線偏光に直交する第二直線偏光とのペアは、波長板(λ/2板)により、ウオラストンプリズムからの二の直線偏光を、第一直線偏光と該第一直線偏光に直交する第二直線偏光とのペアに変換することにより得られる。
また、前記左右の楕円偏光のペアは、波長板により、前記円偏光及び前記直線偏光が得られる位相差以外の位相差を直線偏光に与え、ウオラストンプリズムからの二の直線偏光を、左右の楕円偏光に変換することにより得られる。
【実施例1】
【0043】
以下、本発明の一実施例について説明する。なお、本実施例では、左、右まわりの円偏光の照射領域に、生物試料としてシロイヌナズナを静置し、それぞれの場合の挙動を前記生物挙動コントロール装置10で観測した。
すなわち、本実施例では、ウオラストンプリズムにより直交する670nmの光直線偏光を、偏光方位を2等分する45度方位の1/4波長板を通して、左右円偏光のペアを隣接して生成した。これら左右の円偏光を、二つに分けた別々の領域に照射することができるように、前記生物挙動コントロール装置10を調整した。そして、左まわりと右まわりの円偏光照射領域にシロイヌナズナ種子を置床し、その他の条件を全て同一として、継続的に円偏光を直接照射し、14日後の成長の違いを観測した。
【0044】
その結果、本実施例では、左まわりの円偏光を照射時のシロイヌナズナの生長が右まわりの円偏光の照射時に比較し著しく阻害されることが確認された。前記本実施例の実験は、複数回行われたが、すべて同様な結果を示した。また、1/4波長板を90度回転させ、左まわりと右まわりの偏光をスイッチさせた場合も、前記本実施例の実験結果を支持する同様のデータが得られた。これは、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、一般に光を感じる光受容体は、タンパク質、すなわちL−アミノ酸で構成されており、光学活性体である。本実施例の実験結果は、光受容体の偏光吸収の度合いと効率とが、右まわりの偏光と左まわりの偏光とで異なることを示していると考えられる。
以上のように本実施例によれば、シロイヌナズナに対しては、左円偏光の照射は右円偏光の照射に比較し生育を阻害することがわかった。この結果、シロイヌナズナに対しては、その生育を抑制したい場合は左円偏光のみを照射し、一方、シロイヌナズナの生育を促進したい場合は右円偏光のみを照射することで、シロイヌナズナの発育の効率的な制御を行うことができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
<本発明の利用分野>
光学、生物学、植物生理学、昆虫学、構造生物学、有機化学、キラル光学。
【0046】
<本発明の利用・用途>
本発明によれば、円偏光などの光学活性な光により、植物の成長をはじめとした一連の生物の挙動の制御が可能である。
例えば、現在、多方向性の発光ダイオードで行われている野菜等の生産を、より効率的に行うことが可能であると期待できる。
また、これら光学活性な光による作物の収穫時期などのライフサイクルの制御や、有用成分比率を改善させた野菜、果実の作出等、より商品価値の高い作物の効率的生産が期待される。更に、昆虫などは、一般に光に対して敏感であり、本発明による、高効率、高選択的な害虫駆除なども期待される。また微生物の増殖制御技術への応用も期待される。
円偏光の厳密な受容機構を解明することにより、新たな光スイッチの開発が可能となり、光スイッチを用いた生物制御システムの実現が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1A】本発明の一実施形態にかかる生物挙動コントロール装置の概略構成の説明図(側方から見た図)である。
【図1B】本発明の一実施形態にかかる生物挙動コントロール装置の概略構成の説明図(上方から見た図)である。
【図2】本実施形態にかかる生物挙動コントロール装置の生物近傍の拡大図である。
【図3】本実施形態にかかる生物挙動コントロール装置に好適な波長板回転機構の説明図である。
【図4】本実施形態にかかる生物挙動コントロール装置に好適なレンズ回転機構の説明図である。
【符号の説明】
【0048】
10 生物挙動コントロール装置
12 偏光照射機構
14 左円偏光
16 右円偏光
18 生物
18a 第一対象部位
18b 第二対象部位
19 光源電源
20 光源
22 集光レンズ
24 波長選択フィルタ
26 ウオラストンプリズム
28 1/4波長板(波長板)
30 照射レンズ
40 試料シャーレ
54 波長板ホルダ(波長板回転機構)
60 レンズホルダ(レンズ回転機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物の挙動を観測する際に用いられる生物挙動コントロール方法において、
光に対して挙動を示すであろう生物の複数の異なる対象部位にそれぞれ対応した偏光状態の光を同時に照射し、該生物の挙動における偏光特性の観測に用いられることを特徴とする生物挙動コントロール方法。
【請求項2】
生物の挙動を制御する生物挙動コントロール装置において、
偏光状態のみが異なる複数の光を生成する偏光照射機構を備え、
前記偏光照射機構は、光に対して挙動を示すであろう生物の複数の異なる対象部位にそれぞれ対応した偏光状態の光を同時に照射し、
該生物の挙動における偏光特性を観測する際に、該生物の挙動における偏光特性を制御することを特徴とする生物挙動コントロール装置。
【請求項3】
請求項2記載の生物挙動コントロール装置において、
前記偏光照射機構は、前記偏光状態のみが異なる複数の光として、左右の円偏光のペア、第一直線偏光及び該第一直線偏光に直交する第二直線偏光のペア、又は左右の楕円偏光のペアを生成することを特徴とする生物挙動コントロール装置。
【請求項4】
請求項2又は3記載の生物挙動コントロール装置において、
前記偏光照射機構が、光を発する、一の光源と、
前記光源からの光を所望波長の単色光とする波長選択フィルタと、
前記波長選択フィルタからの単色光から、偏光状態のみが異なる複数の光を生成する偏光生成手段と、
を備えたことを特徴とする生物挙動コントロール装置。
【請求項5】
請求項4記載の生物挙動コントロール装置において、
前記偏光生成手段は、前記波長選択フィルタからの単色光を、第一直線偏光と第二直線偏光とに同時に分割するウオラストンプリズムを備えたことを特徴とする生物挙動コントロール装置。
【請求項6】
請求項4又は5記載の生物挙動コントロール装置において、
前記偏光生成手段は、さらに、前記ウオラストンプリズムからの第一直線偏光、第二直線偏光を同時に、左右の円偏光、第一直線偏光及び該第一直線偏光に直交する第二直線偏光、又は左右の楕円偏光に変換する波長板を備えたことを特徴とする生物挙動コントロール装置。
【請求項7】
請求項6記載の生物挙動コントロール装置において、
前記波長板の光軸と直交する平面内で該光軸を中心に該波長板を回転自在に保持する波長板回転機構を備えたことを特徴とする生物挙動コントロール装置。
【請求項8】
請求項2〜6のいずれかに記載の生物挙動コントロール装置において、
前記偏光照射機構は、さらに、該偏光照射機構により生成された複数の光を、それぞれ対応した生物の対象部位に照射する照射レンズと、
前記照射レンズから前記生物の各対象部位への光強度が等しくなるように、該照射レンズの光軸を調節自在に該照射レンズを保持するレンズ回転機構と、
を備えたことを特徴とする生物挙動コントロール装置。
【請求項9】
請求項2〜8のいずれかに記載の生物挙動コントロール装置において、
前記偏光照射機構と前記生物との間に設けられ、該偏光照射機構から該生物への各光を仕切る仕切板を備えたことを特徴とする生物挙動コントロール装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−228688(P2008−228688A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75909(P2007−75909)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000232689)日本分光株式会社 (87)
【Fターム(参考)】