説明

生物活性を調節するための二重特異性結合剤

二重特異性結合剤の生物学的性質および薬学的性質を高める方法が本明細書に記載され、ここでこの二重特異性結合剤は、顕著な生物効果を誘発しない第1の細胞表面マーカーに対する高親和性結合ドメインと、第2の細胞表面マーカーに特異的に結合する低親和性結合ドメインとによって細胞を標的にし、顕著でかつ所望の生物効果を生じることができる。また、このような二重特異性結合剤の組成物、その使用、およびそれを備えるキットも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2004年5月5日付け出願された米国特許仮出願第60/568,656号の利益を請求する。その内容は参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0002】
(連邦政府の支援を受けた研究開発のもとでなされた発明に対する権利に関する陳述)
適用されない
(コンパクトディスクで提出された「配列表」、表、またはコンピュータープログラムを掲載した付属書の言及)
適用されない
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
多くの病気および障害は、細胞表面のレセプターの活性化によって、例えばレセプター特異的リガンドの結合によって生じるシグナル伝達経路の不適切な活性化または過度の活性化によって引き起こされる。病気および障害、例えば癌および自己免疫疾患の開始または進行に関係のあるレセプターが、レセプターの活性化を弱めるかまたは防止する治療剤の開発のための主要な標的として明らかになっている。標的レセプターの例としては、例えば、上皮増殖因子レセプター(「EGFR」)、インスリン様増殖因子1レセプター(「IGF1−R」)、および血小板由来増殖因子レセプター(「PDGFR」)が挙げられ、これらは多数の病態において、例えば最も一般的な固形腫瘍、例えば非小細胞肺癌ならびに乳房、前立腺および結腸の癌において、ならびに多数の自己免疫疾患、例えば重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、および慢性関節リウマチにおいて過剰発現されるかまたは異常に活性化される傾向がある。レセプターの活性化は自己リン酸化をもたらし、病気の進行を招くシグナル伝達経路を駆動する。
【0004】
レセプターインヒビターを用いた可能性のある研究は、病態と関係があるレセプターの活性化を防止することによって、この病態の進展を変えることができることを明確に実証している。しかし、一般的に、病態の原因である1個のレセプターまたは複数個のレセプターは、疾患細胞または組織の他に、多数の種々の細胞および組織で発現される。レセプターインヒビター、例えばハーセプチン(登録商標)〔これはErbB2(「HER−2」)を標的とする〕が臨床用途に利用できるようになりつつあるが、新しい挑戦は、病気に冒されていない細胞および組織を標的とすることなく、疾患細胞または組織を効果的に標的とするであろう治療剤を確認することを含む。
【0005】
薬剤を疾患細胞に特異的に標的として向ける1つのアプローチは、二重特異性結合剤(本明細書では時には「bsBA」と呼ぶ)の使用である。二重特異性結合剤は、2つの結合ドメインを含有し、そのそれぞれは、別個の分子(便宜上、それぞれの結合ドメインによって特異的に結合されるこの分子は、その結合ドメインの「リガンド」と呼び得る)を特異的に認識し、それに結合する。二重特異性結合剤は、非特許文献1,非特許文献2および非特許文献3によって例証されているように、しばらくの間試みられていた。bsBAは、結合ドメインの1つまたは両方として抗体を使用する場合が多いことから、bsBAは時には免疫療法剤と呼ばれる薬剤の群に含まれる。
【0006】
不運なことに、bsBAについて標的として使用することができる分子の領域は限定される。比較的少数の分子だけが、疾患細胞上で発現されるが、正常細胞上では発現されず、従って薬剤をもっぱら疾患細胞に標的として向けるのに使用することができる。さらに別の分子が、正常細胞よりも疾患細胞ではるかに多く発現される。これらの分子は、該分子が正常細胞に比べて疾患細胞で過剰発現される程度に応じて、正常細胞よりも疾患細胞への薬剤のある好ましい送達を可能にすることができる。
【0007】
しかし、例え標的細胞上で標的分子の実質的な過剰発現を用いたとしても、標的に向けた治療剤の送達は、標的分子を発現する正常細胞に対する薬剤の結合に起因して有害な副作用を伴う場合が多い。例えば、FDA承認の免疫療法剤ハーセプチン(登録商標)の標的であるHER2(erbB2)レセプターは、非癌細胞でのHER2レセプターの発現よりも数10〜100倍高いレベルで過剰発現される。それにもかかわらず、ある割合の患者は、正常細胞に対するハーセプチン(登録商標)の結合に起因して不整脈およびその他の有害な副作用を起こす。
【非特許文献1】Schmidt M,ら,「A bivalent single−chain antibody−toxin specific for ErbB−2 and the EGF receptor」, Int J Cancer,1996年,65(4),p.538−46
【非特許文献2】Lu D,ら,「Simultaneous blockade of both the epidermal growth factor receptor and the insulin−like growth factor receptor signaling pathways in cancer cells with a fully human recombinant bispecific antibody」, J Biol Chem.279(4),p.2856−65
【非特許文献3】Francois C,ら,「Antibodies directed at mouse IL−2−R alpha and beta chains act in synergy to abolish T−cell proliferation in vitro and delayed type hypersensitivity reaction in vivo」,Transpl Int.,1996年,9(1),p.46−50
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、非標的細胞に結合することなく標的細胞に結合する改善された能力を有するbsBAを開発することによって免疫療法剤の治療窓を増大させることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、二重特異性結合剤の新規な組成物、ならびにそれを含有するキットおよびその方法および使用を提供する。
【0010】
第1の群の実施形態において、本発明は、標的細胞の生物活性を調節する方法であって、(i)前記細胞の表面の第1の標的分子に対して少なくとも10−7MのKdを有する第1の結合ドメインと、前記細胞の表面の第2の標的分子に対して親和性を有する第2の結合ドメインとを有し、(ii)第2の標的分子が前記第1の標的分子と異なる、(iii)前記第2の標的分子に対する前記第2の結合ドメインの前記親和性が、前記第1の標的分子に対する前記第1の結合ドメインのKdよりも少なくとも10倍小さい、かつ(iv)さらに、前記第1の結合ドメインの標的分子がErbB2である場合には、前記第2の結合ドメインの標的分子がErbB3ではない二重特異性結合剤を使用し、該二重特異性結合剤を標的細胞と、第1の結合ドメインおよび第2の結合ドメインが第1の標的分子および第2の標的分子それぞれに結合することを可能にする条件下で接触させる工程を包含し、ここで第2の標的分子に対する第2の結合ドメインの結合が第2の標的分子の生物活性を調節し、それによって標的細胞の生物活性を調節する、かつまたここで第1の標的分子に対する前記第1の結合ドメインの結合が標的細胞の生物活性を調節しない、標的細胞の生物活性を調節する方法を提供する。いくつかの実施形態において、二重特異性結合剤は2つの抗体からなる。いくつかの実施形態において、抗体はダイアボディ、直接結合されているかまたはリンカーによって結合されている2個の一本鎖Fv、ジスルフィド安定化Fv、あるいはこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態において、標的細胞は癌細胞である。いくつかの実施形態において、第1の標的分子は、腫瘍関連抗原、サイトカインレセプター、または増殖因子レセプターである。いくつかの実施形態において、腫瘍関連抗原はMART−1、gp100、およびMAGE−1からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、第1の標的分子は、癌胎児性抗原(CEA)、ErbB2、EGFR、LewisY、MUC−1、EpCAM、CA125、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、およびTAG72からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、第2の標的分子は、ErbB3、ErbB4、FGFレセプター1〜FGFレセプター4のいずれか、HGFレセプター、IGF1−R、PDGF、レセプターαおよびレセプターβ、ならびにC−KITからなる群より選択される。いくつかの実施形態において、標的細胞は乳癌細胞でありかつ標的分子は上皮増殖因子レセプター(EGFR)、ErbB2(HER2/neu)、ErbB3(HER3)およびErbB4(HER4)からなる群より選択されるレセプターチロシンキナーゼである。いくつかの実施形態において、第1の標的分子に対する第1の結合ドメインのKdは10−8〜10−12Mの間である。いくつかの実施形態において、第2の標的分子に対する第2の結合ドメインのKdは、第1の標的分子に対する第1の結合ドメインのKdよりも少なくとも20倍小さい。
【0011】
本発明はさらに、標的細胞がその外面に第1の標的分子を有しかつその外面に第2の標的分子を有する、かつ(i)前記第1の標的分子および第2の標的分子が共通リガンドを共有せず、(ii)第1の標的分子が、第2の標的分子をも有する非標的細胞よりも標的細胞の表面に少なくとも10倍またはそれ以上豊富にあり、(iii)第2の標的分子が生物活性を有するが、第1の標的分子が生物活性を有しておらず、かつ(iv)第1の結合ドメインの標的分子がErbB2(HER2)である場合には、第2の結合ドメインに対する標的分子がErbB3(HER3)ではない標的細胞と非標的細胞とを有する生物中の標的細胞上の標的分子の生物活性を調節する方法であって、第1の標的分子に対して少なくとも10−7Mの解離定数(Kd)を有する第1の結合ドメインと、第2の標的分子に対して第1の結合ドメインのKdよりも少なくとも10倍小さいKdを有する第2の結合ドメインとを有する二重特異性結合剤を使用し、そして該二重特異性結合剤を標的細胞と、第1の結合ドメインおよび第2の結合ドメインが第1の標的分子および第2の標的分子それぞれに結合することを可能にする条件下で接触させる工程を包含し、ここで前記第2の結合ドメインの結合が前記標的細胞上の前記第2の標的分子の生物活性を調節する、標的細胞と非標的細胞とを有する生物中の標的細胞上の標的分子の生物活性を調節する方法を提供する。いくつかの実施形態において、二重特異性結合剤は2つの抗体からなる。いくつかの実施形態において、抗体はダイアボディ、直接結合されているかまたはリンカーによって結合されている2個の一本鎖Fv、ジスルフィド安定化Fv、あるいはこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態において、標的細胞は癌細胞である。いくつかの実施形態において、標的分子は腫瘍関連抗原、サイトカインレセプター、または増殖因子レセプターである。いくつかの実施形態において、腫瘍関連抗原はMART−1、gp100、およびMAGE−1からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、第1の標的分子は、癌胎児性抗原(CEA)、ErbB2、EGFR、LewisY、MUC−1、EpCAM、CA125、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、およびTAG72からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、第2の標的分子は、ErbB3、ErbB4、FGFレセプター1〜FGFレセプター4のいずれか、HGFレセプター、IGF1−R、PDGF、レセプターαおよびレセプターβ、ならびにC−KITからなる群より選択される。いくつかの実施形態において、第1の標的分子に対する第1の結合ドメインのKdは、10−8〜10−12Mの間である。いくつかの実施形態において、第2の標的分子に対する第2の結合ドメインのKdは、第1の標的分子に対する第1の結合ドメインのKdよりも少なくとも20倍小さい。いくつかの実施形態において、第2の標的分子に対する第2の結合ドメインのKdは、第1の標的分子に対する第1の結合ドメインのKdよりも少なくとも50倍小さい。いくつかの実施形態において、前記の調節は、レセプターチロシンキナーゼの活性の低下である。
【0012】
別の群の実施形態において、本発明は、標的細胞上の第1の標的分子に対して少なくとも10−7Mの解離定数(Kd)を有する第1の結合ドメインと、標的細胞上の第2の標的分子に対して第1の標的細胞に対する第1の結合ドメインのKdよりも少なくとも10倍小さいKdを有する第2の結合ドメインとを含有する二重特異性結合剤(bsBA)であって、(i)第1の標的分子および第2の標的分子が同じ天然リガンドを有していない、(ii)第1の標的分子ではなく、第2の標的分子が生物活性を有する、かつ(iii)第1の結合ドメインの標的分子がErbB2(HER2)である場合には、第2の結合ドメインに対する標的分子がErbB3(HER3)ではないかつまた第2の結合ドメインが、第2の標的分子に結合された場合に第2の標的分子の生物活性を調節する、二重特異性結合剤(bsBA)を提供する。いくつかの実施形態において、第2の結合ドメインのKdは、第1の結合ドメインのKdよりも50倍を超えて小さい。いくつかの実施形態において、第2の結合ドメインのKdは、第1の結合ドメインのKdよりも100倍以上小さい。いくつかの実施形態において、前記bsBAは2つの抗体からなる。いくつかの実施形態において、前記抗体は、ダイアボディ、直接結合されているかまたはリンカーによって結合されている2個の一本鎖Fv、ジスルフィド安定化Fv、あるいはこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態において、第1の結合ドメインは、腫瘍関連抗原、サイトカインレセプター、または増殖因子レセプターに結合する。いくつかの実施形態において、第1の標的分子は、癌胎児性抗原(CEA)、ErbB2、EGFR、LewisY、MUC−1、EpCAM、CA125、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、およびTAG72からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、第2の標的分子は、ErbB3、ErbB4、FGFレセプター1〜FGFレセプター4のいずれか、HGFレセプター、IGF1−R、PDGF、レセプターαおよびレセプターβ、ならびにC−KITからなる群より選択される。いくつかの実施形態において、第1の結合ドメインのKdは10−8〜10−12Mの間である。いくつかの実施形態において、前記第1の標的分子は、その正常細胞での発現に比べて標的細胞では少なくとも10倍まで過剰発現される。
【0013】
さらに別の群の実施形態では、本発明は、(a)二重特異性結合剤(bsBA)と、(b)薬学的に受容可能なキャリアとを含有する組成物であって、前記二重特異性結合剤(bsBA)が、標的細胞上の第1の標的分子に対して少なくとも10−7Mの解離定数(Kd)を有する第1の結合ドメインと、標的細胞上の第2の標的分子に対して第1の結合ドメインのKdよりも少なくとも10倍小さいKdを有する第2の結合ドメインとを含有する、この場合の前記第1の標的分子および第2の標的分子が同じ天然リガンドを有していない、かつまたこの場合の(i)第1の標的分子ではなく、第2の標的分子が生物活性を有する、(ii)第2の結合ドメインが、第2の標的分子に結合された場合に、第2の標的分子の生物活性を調節する、かつ(iii)第1の結合ドメインの標的分子がErbB2(HER2)である場合には、前記第2の結合ドメインに対する標的分子がErbB3(HER3)ではない組成物を提供する。いくつかの実施形態において、第2の結合ドメインのKdは、第1の結合ドメインのKdよりも50倍を超えて小さい。いくつかの実施形態において、第2の結合ドメインのKdは第1の結合ドメインのKdよりも100倍以上小さい。いくつかの実施形態において、前記bsBAは2つの抗体からなる。いくつかの実施形態において、前記抗体は、ダイアボディ、直接結合されているかまたはリンカーによって結合されている2個の一本鎖Fv、ジスルフィド安定化Fv、あるいはこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態において、第1の結合ドメインは、腫瘍関連抗原、サイトカインレセプター、または増殖因子レセプターに結合する。いくつかの実施形態において、第1の標的分子は、癌胎児性抗原(CEA)、ErbB2、EGFR、LewisY、MUC−1、EpCAM、CA125、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、およびTAG72からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、第2の標的分子は、ErbB3、ErbB4、FGFレセプター1〜FGFレセプター4のいずれか、HGFレセプター、IGF1−R、PDGF、レセプターαおよびレセプターβ、ならびにC−KITからなる群より選択される。いくつかの実施形態において、前記第1の標的分子は、第2の標的分子も有する非標的細胞よりも標的細胞上で少なくとも10倍まで過剰発現される。
【0014】
別の群の実施形態において、本発明は、医薬を製造するための二重特異性結合剤(bsBA)の使用であって、標的細胞上の第1の標的分子に対して少なくとも10−7Mの解離定数(Kd)を有する第1の結合ドメインと、標的細胞上の第2の標的分子に対して第1の結合ドメインのKdよりも少なくとも10倍小さいKdを有する第2の結合ドメインとを含有し、(i)第1の標的分子および第2の標的分子が同じ天然リガンドを有していない、(ii)第1の標的分子ではなく、第2の標的分子が生物活性を有する、(iii)前記第2の結合ドメインが、前記第2の標的分子に結合された場合に、第2の標的分子の生物活性を調節する、かつ(iv)前記第1の結合ドメインの標的分子がErbB2である場合には、前記第2の結合ドメインに対する標的分子がErbB3ではない二重特異性結合剤(bsBA)の使用を提供する。いくつかの実施形態において、前記第2の結合ドメインのKdは、第1の結合ドメインのKdよりも50倍を超えて小さい。いくつかの実施形態において、前記第2の結合ドメインのKdは、第1の結合ドメインのKdよりも100倍以上小さい。いくつかの実施形態において、bsBAは2つの抗体からなる。いくつかの実施形態において、前記抗体は、ダイアボディ、直接結合されているかまたはリンカーによって結合されている2個の一本鎖Fv、ジスルフィド安定化Fv、あるいはこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態において、第1の結合ドメインおよび第2の結合ドメインによって結合される標的分子は、腫瘍関連抗原、サイトカインレセプター、および増殖因子レセプターからなる群から独立して選択される(但し、第1の結合ドメインおよび第2の結合ドメインが同一の腫瘍関連抗原、サイトカインレセプター、または増殖因子レセプターを結合しないことを条件とする)。いくつかの実施形態において、医薬は、癌細胞の増殖を阻害するための。いくつかの実施形態において、第1の標的分子は、第2の標的分子も有する非標的細胞よりも標的細胞上で少なくとも10倍まで過剰発現される。
【0015】
さらに、本発明は、(a)容器と、(b)二重特異性結合剤(bsBA)とからなるキットであって、前記二重特異性結合剤(bsBA)が標的細胞上の第1の標的分子に対して少なくとも10−7Mの解離定数(Kd)を有する第1の結合ドメインと、標的細胞上の第2の標的分子に対して第1の標的細胞に対する第1の結合ドメインのKdよりも少なくとも10倍小さいKdを有する第2の結合ドメインとを含有する、(i)第1の標的分子および第2の標的分子が同じ天然リガンドを有していない、(ii)第1の標的分子ではなく、第2の標的分子が生物活性を有する、(iii)第2の結合ドメインが、第2の標的分子に結合された場合に、第2の標的分子の生物活性を調節する、かつ(iv)第1の結合ドメインの標的分子がErbB2(HER2)である場合には、前記第2の結合ドメインに対する標的分子がErbB3ではないキットを提供する。いくつかの実施形態において、第2の結合ドメインのKdは、第1の結合ドメインのKdよりも50倍を超えて小さい。いくつかの実施形態において、前記第2の結合ドメインのKdは、第1の結合ドメインのKdよりも100倍以上小さい。いくつかの実施形態において、前記bsBAは2つの抗体からなる。いくつかの実施形態において、前記抗体は、ダイアボディ、直接結合されているかまたはリンカーによって結合されている2個の一本鎖Fv、ジスルフィド安定化Fv、あるいはこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態において、第1の結合ドメインは、腫瘍関連抗原、サイトカインレセプター、または増殖因子レセプターに結合する。いくつかの実施形態において、第1の標的分子は、癌胎児性抗原(CEA)、ErbB2、EGFR、LewisY、MUC−1、EpCAM、CA125、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、およびTAG72からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、第2の標的分子は、ErbB3、ErbB4、FGFレセプター1〜FGFレセプター4のいずれか、HGFレセプター、IGF1−R、PDGF、レセプターαおよびレセプターβ、ならびにC−KITからなる群より選択される。いくつかの実施形態において、第1の結合ドメインのKdは、10−8〜10−12Mの間である。いくつかの実施形態において、前記第1の標的分子は、正常細胞でのその発現に比べて標的細胞では少なくとも10倍まで過剰発現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(発明の詳細な説明)
(序論)
現在の免疫療法剤に関する1つの問題は、免疫療法剤の正常細胞および疾患細胞に結合する傾向が有害な副作用を生じることであった。従って、科学界の1つの目標は、非標的細胞(すなわち、正常細胞)を結合することなく、高められた標的細胞(例えば、疾患細胞)結合能を有する免疫療法剤を開発することにある。
【0017】
本発明は、標的細胞を結合するための一群の免疫療法剤の特異性を高めるための組成物および方法を提供する。これらの方法および組成物は、非標的細胞の対応する活性に影響を及ぼすことなく標的細胞の高められた生物活性調節能を提供する。意外にも、今般、二重特異性結合剤(「bsBA」)として知られている免疫療法剤による疾患細胞を標的とする特異性を、bsBAの2つの結合ドメインの結合親和性の違いを調節することによって高めることができることが知見された。ここで、本発明のbsBAは、標的細胞上の標的分子の生物活性を高めるかまたは低下させるために使用することができ、それによって、もしあるとするならば非標的細胞の対応する活性に対する影響を小さくしながら、標的細胞の高められた生物活性調節能を提供することができる。
【0018】
名称が示すように、bsBAは、それぞれが異なる標的分子(便宜上、結合ドメインによって特異的に結合された分子は、結合ドメイン用の「リガンド」と呼び得る)に対して特異的な2個の結合ドメインを有する。第1の結合ドメインは、一般に、bsBAをえり抜きの細胞(時には「標的細胞」と呼ばれる)に標的として向けるのに使用される。従って、この結合ドメインはまた、本明細書では「ターゲッティングドメイン」とも呼ばれる。本発明の方法において、ターゲッティングドメインのその標的分子に対する結合は、標的細胞において有意な生物効果を誘導しない。第2の結合ドメインは、標的細胞上の第2の標的分子に結合する。第2の結合ドメインのそのリガンドに対する結合は、特定の生物効果を調節する(すなわち、その生物活性を高めるかまたは抑制する)ことを意図する。種々の方法で生物活性を調節する能力を有する結合ドメインが、当該技術において知られている。
【0019】
しばしば、生物活性は、結合ドメインがその標的分子に対して結合することによって阻害される。例えば、結合ドメインによって結合された分子がサイトカインレセプターの一部分である場合には、そのレセプターに対する結合ドメインの結合が、レセプターへのサイトカインの接近を妨害し、それによって別の方法でその結合によって誘発される生物活性を阻害することができる。同様に、レセプターに対する結合ドメインの結合は、レセプターがヘテロ二量体を形成する(これはいくつかのサイトカインレセプター、例えばインターロイキン(「IL」)−2レセプターの完全な活性化に必要とされる)ことを防ぐことができる。あるいは、結合ドメインの結合は、レセプターのコンホメーションを、レセプターがその天然リガンドを結合することができず、それによって活性化されることができないように変化させ得る。反対に、結合ドメインは、レセプターに結合することによってその生物活性を高める能力について選択され得る。例えば、レセプターに対する結合ドメインの結合は、レセプターのための天然リガンドの効果を模倣することができ、その結果、前記結合がレセプターを活性化するかまたは結合ドメインの結合が低親和性レセプターをその天然リガンドに対して高親和性レセプターにならせるコンホメーションの変化を誘発し得る。
【0020】
述べたように、本発明のbsBAの第1の結合ドメインは、bsBAを標的細胞に対して標的として向かわせる働きをし、これに対して第2の結合ドメインは、主として標的細胞に対して効果を誘発する働きをする。従って、便宜上、2つのドメインの区別において、第1の結合ドメインは、時には本明細書では「ターゲッティングドメイン」と呼ばれ、これに対して第2の結合ドメインは、特には本明細書では「エフェクタードメイン」と呼ばれる。同様に、便宜上、2つの結合ドメインによって結合される分子の区別において、エフェクタードメインの標的分子は、時には「エフェクター標的分子」と呼ばれ、これに対して「標的分子」という用語はそれ自体で、ターゲッティングドメインの標的をさすであろう。
【0021】
従来のbsBAは、典型的には個々の標的分子のそれぞれに対して最も高い利用可能な親和性をもつ結合ドメインを使用して組立てられている。当業者には、一方のドメインがそのそれぞれの標的に対して他方のドメインと同じ親和性を厳密に有するとは思われず、従って2つの結合ドメインが、通常は、親和性において違いを有することが認められるであろう。しかし、従来のbsBAにおいて、親和性の違いは、典型的には大きいものではなく、結合に対する実際の影響の点で有意であるかもしれないしまたは有意でないかもしれない。
【0022】
しかし、本発明の方法および組成物では、ターゲッティングドメインは、そのリガンドに対して、エフェクタードメインがそのリガンドに対して有する親和性よりも少なくとも大規模な高い結合親和性を有するべく選択される。すなわち、ターゲッティングドメインは、それが認識しかつ結合する分子に対して、エフェクタードメインがそれが認識しかつ結合する分子に対して有する親和性よりも、少なくとも10倍またはそれよりも大きい親和性を有する。いくつかの実施形態において、ターゲッティングドメインのそのリガンドに対する親和性は、エフェクタードメインのそのリガンドに対する親和性よりも少なくとも15倍高く、ある場合には20倍以上高く、別の実施形態では25倍以上高く、またいくつかの実施形態において、ターゲッティングドメインは、エフェクタードメインのそのリガンドに対する親和性よりも30倍、40倍、50倍または場合によっては100倍あるいはそれ以上高い親和性を有し、それぞれ個々のより高い親和性がさらに好ましい。本発明のbsBAの2つの結合ドメインの間には結合親和性において少なくとも大規模な相違があることから、bsBAは場合によっては本明細書では「hi−lo」bsBAと呼ばれる。
【0023】
標的結合ドメインとエフェクター結合ドメインの間の結合親和性における意図的および実質的な相違は、従来の二重特異性分子よりも優れた意外にもおよびこれまでに認識されていなかった利点を提供する。前述のように、これまで知られている二重特異性薬剤は、標的リガンドに対してできる限り高い親和性をもつ結合部分を有していた。しかし、同様の親和性をもつ結合部分を有する二重特異性分子は、本発明の組成物および方法に比べて、標的とすることができる分子および使用できる状況の点で限定される。本発明の利点のいくつかを、仮定的例を挙げることによって考察することができる。
【0024】
2つのレセプター、すなわちレセプターA(これは、正常細胞に比べて癌細胞上で過剰発現される)およびレセプターB(これは、正常細胞上で、癌細胞上に存在するコピーの数とほぼ同じ数で発現される)を有する癌細胞の場合を考察する。両方のレセプターに対してほぼ等しい親和性をもつ結合ドメインを有する二重特異性結合剤は、癌細胞および正常な非癌細胞の両方に対してほぼ等しい影響を及ぼす傾向があるであろう。これは、特にbsBAの高い濃度が達成される場合である。その理由は、bsBAは一価の結合によって両方のレセプターを飽和する傾向があるからである。
【0025】
対照的に、レセプターAを標的とする高親和性ターゲッティングドメインと、レセプターBを標的とする低親和性エフェクタードメインを有し、かつレセプターBに対する親和性よりもレセプターAに対して10倍、20倍、30倍またはさらに高い倍数の大きい親和性を有する本発明のbsBAは、癌細胞に優先的に結合するであろうし、また標準的な動力学的相互作用によって、正常細胞に比べて癌細胞により多く結合するであろう。従って、レセプターBを有する細胞、例えば相当な数の正常細胞に無差別に結合する代わりに、エフェクタードメインは、癌細胞に選択的に送達されるであろう。従って、本発明は、標的細胞に対するエフェクタードメインのより選択的ターゲッティングを可能にする。
【0026】
さらに、レセプターAに対する高親和性結合ドメインの結合は、細胞表面の近くに低親和性のエフェクタードメインを結びつけ、そこでエフェクタードメインは時間と共にレセプターBと相互作用するのに利用できる。たとえレセプターBに対するその比較的低い親和性が、「固定されていない」一価(monovalent)(または「univalent」)のエンティティーとして提供されるエフェクタードメインであったレセプターに対する親和性を保持するのに普通は十分でないかもしれないとしても、これはエフェクタードメインがレセプターBに結合することを可能にする。
【0027】
当業者には、抗体またはその他のリガンドの解離定数(「Kd」)は、リガンドのkonおよびkoffによって両方で測定されることが認識されるであろう。すなわち、Kdは、抗体またはその他のリガンドが標的分子に結合される時間と、結合されない時間との間の釣り合いを表す。従って、低親和性結合ドメインは、その標的分子から解離する高い傾向をもつことから、まさに低親和性を有する。結合ドメインがその標的分子から解離する間に、結合ドメインは、結合ドメイン分子に働くブラウン運動、流量、またはその他の動力学的な力によって移動することができる。bsBAの高親和性ドメインによる低親和性ドメインの結合は、低親和性ドメインが標的とするレセプターの近くに低親和性結合ドメインを維持することを促進し、従って任意の時点で低親和性ドメインがその標的分子に結合することができる可能性を高める傾向がある。この仮説において本発明のbsBAの低親和性ドメインの標的分子はレセプターキナーゼであることから、これは、bsBAの標的レセプターキナーゼ結合能を高める傾向があり、従ってその標的細胞に対する生物効果を高める。
【0028】
好ましい実施形態では、本発明のbsBAの2つの結合ドメインは、普通は同じリガンドによって結合されない標的分子を結合する。当業者は、いくつかのリガンド、例えばインターロイキンIL−2が2種類のレセプター鎖によって結合されること、および結合されたIL−2を有する2つの鎖が、次いで相互作用して十分に生物学的に活性な単位を形成することを知っている。従って、2つのレセプター鎖に向けられたbsBAがこのようなレセプターの十分な活性化を防止することができると同時に、このようなbsBAの2つの結合ドメインは、勿論、同じレセプターに向けられる。
【0029】
最後に、bsBAと、結合ドメインによって結合された2つの標的分子との間の三量体の形成は、互いの近くに標的分子を結合しかつ細胞膜の脂質二重層を通るその典型的な拡散を防止するというさらなる利点を有する。bsBAによる種々のレセプターの架橋は、それ自体、標的細胞に対するbsBAの細胞障害効果または細胞増殖抑制効果に起因すると考えられる。例えば、シグナル伝達カスケードは、典型的には、ヘテロ二量体を形成するために相互に結合する2種類のタンパク質よるかまたは初期カスケードにおいて次のタンパク質を修飾する(通常はリン酸化することによって)キナーゼによるかいずれかにより活性化される。種々のレセプターの架橋は、レセプターがその正常なヘテロ二量体を形成する能力を妨害するかまたは通常は初期カスケードの次の工程であるタンパク質を修飾する能力を妨害することができる。
【0030】
一群の実施形態において、bsBAのターゲッティングドメインは、病気または疾患と関係がある標的細胞(例えば、乳癌細胞)上で優先的に発現されるかまたは過剰発現される細胞表面レセプターに結合し、またエフェクタードメインは標的細胞および非標的細胞上で無差別にまたは普遍的に発現される細胞表面レセプターに結合する。本発明のbsBAが標的とすることができる代表的な細胞表面レセプターを、以下に記載する。好ましい実施形態において、ターゲッティングドメインによって結合されるべき分子は、標的細胞上で、エフェクタードメインによって結合されるべき分子の量よりも多い量で発現される。従って、本発明のbsBAおよび方法は、慣用の抗体または二重特異性薬剤によって、あるいはこの両方によって無差別に結合される標的分子を有する細胞に対するエフェクター分子の特異的な送達を向上させるのに特に有用である。当業者は、種々の癌の細胞が種々の抗原を過剰発現させ得るかまたは異なる癌種の細胞を過剰発現させるよりも同じ抗原を種々の程度まで過剰発現させ得ることを知っているであろう。従って、本発明のbsBAの設計において、開業医が、特定のbsBAが標的とする特定の細胞上で過剰発現される細胞表面レセプターを標的とするターゲッティングドメインを選択するであろうということが予期される。
【0031】
いくつかの実施形態において、bsBAのターゲッティングドメインは、病気または疾患と関係がある標的細胞(例えば、癌細胞)上で優先的に発現されるかまたは過剰発現される第1の細胞表面レセプターに結合し、またエフェクタードメインは、正常細胞に比べて疾患細胞(例えば、癌細胞)上で過剰発現されるが、第1の細胞表面レセプターよりも低い水準で発現される第2の細胞表面レセプターに結合する。これらの実施形態においては、第1の細胞表面レセプターと第2の細胞表面レセプターの間の発現レベルの相違が標的分子を有する細胞へのエフェクター分子の特異的な送達を高める。
【0032】
背景技術で述べたように、例えHER2が乳癌細胞において正常細胞でのその発現のレベルの約10〜100倍のレベルで過剰発現されるとしても、患者において免疫治療剤、ハーセプチン(登録商標)が正常細胞に結合することによりいくつかの有害な副作用が認められる。従って、標的分子のさらに十分な過剰発現が、高親和性結合剤が正常細胞に結合し、有害な副作用を妨げるのに必ずしも十分であるとは限らない。
【0033】
対照的に、本発明のbsBAは、その標的分子に対してエフェクタードメインのその標的分子に対する親和性よりも少なくとも10倍高い、場合によってはさらに高い親和性を有するべく選択されるターゲッティングドメインを有する。好ましくは、ターゲッティングドメインのその標的分子に対する解離定数は、10−8〜10−12Mの範囲にある。標的分子は正常細胞上には存在しないという理由で、または標的分子は正常細胞よりも癌細胞で極めて過剰に発現される、好ましくは正常細胞で発現されるよりも少なくとも20倍、さらに好ましくは100倍を越えて極めて過剰に発現されるという理由で、標的分子が選択される。述べたように、ターゲッティングドメインの標的分子に対する高親和性によって、ターゲッティングドメインはbsBAを標的細胞に優先的に結合する傾向があるであろう。従って、エフェクタードメインが、正常細胞上で発現される標的分子を標的とすることができ、さらに慣用のbsBAの治療窓よりも大きい治療窓を提供する選択的結合を達成することが予想される。
【0034】
当業者には、癌細胞が、特に、多数の正常タンパク質、例えば正常細胞においてホメオスタシスを維持する役割をもつ多数の正常タンパク質の発現を上方制御する傾向があることが認められるであろう。従って、通常は癌または腫瘍抗原であるとみなされないタンパク質でさえも、癌細胞で上方制御される傾向がある。例えば、インスリンレセプター(これは、腫瘍抗原とみなされない)は、正常細胞に比べて腫瘍細胞では3〜5倍上方制御される場合が多い(例えば、Milazzo et al., Cancer Res.52(14):3924−30(1992)参照)。
【0035】
別の例として、ErbB3レセプターは、正常細胞でのその発現と比べてある種の癌細胞では幾分過剰発現される。しかし、ErbB3レセプターは、ターゲッティングドメインがさらにより高度に過剰発現される標的分子に向けられる場合には、bsBAのエフェクター標的分子として使用することができる。実施例は、ターゲッティングドメインがEGFRに向けられかつエフェクタードメインがErbB3に向けられる本発明の典型的bsBAを示す。
【0036】
ターゲッティングドメインは標的細胞上で過剰発現される標的分子(例えば、癌抗原)に向けられ、これに対してエフェクタードメインはターゲッティングドメインの標的分子よりも低いレベルで発現される分子(例えば、レセプターキナーゼ)に向けられることが望ましい。標的分子が、エフェクタードメインが標的とする分子よりも高いレベルで発現されることが必要であるだけであるが、一般的に、エフェクター分子はターゲッティングドメインのKdよりも低いbsBA濃度で飽和されることができることから、標的分子の発現とエフェクター分子の発現の間の大きな相違が好都合である。
【0037】
一般的に、ターゲッティングドメインのための標的分子は非標的細胞上の標的分子の発現よりも10倍、20倍、50倍、100倍、またはそれ以上高いレベルで過剰発現されることが好ましく、それぞれ引き続く高いレベルがさらに好ましい。一般的に、エフェクター分子は非標的細胞で発現されるレベルで発現されことがさらに好ましいか、または過剰発現される場合には、非標的細胞のレベルの2〜5倍のレベルで過剰発現されることがさらに好ましい。すなわち、ターゲッティング分子がエフェクタードメインによって結合される分子に比べて高レベルで発現される(または過剰発現される)ことが好ましい。
【0038】
標的細胞が疾患細胞、例えば癌細胞である場合には、標的分子の発現レベルは、癌細胞が生じる組織型と同じ組織型の正常細胞上の同じ分子の発現に対して測定される。すなわち、疾患細胞が乳癌細胞である場合には、発現レベルは標準的な乳房細胞に対して測定され、これに対して卵巣癌細胞の分子の発現レベルは標準的な卵巣細胞に対して測定される。通常は、細胞の集団が使用され、発現レベルの平均値(例えば、細胞当たりの分子の個数)が測定される。
【0039】
さらに、いくつかの好ましい実施形態において、エフェクタードメインによって認識され、結合される細胞表面抗原は、ドメインの結合によって調節することができる生物活性を有するべく選択される。例えば、エフェクタードメインが標的とする細胞表面抗原は、サイトカインまたは増殖因子レセプターであることができ、前記ドメインによるその妨害は標的細胞の正常な表現型への回復に寄与するであろう。レセプターの阻止はレセプターによって活性化された経路を下方制御し、細胞の増殖の速度を低下させることをもたらすことが期待される。
【0040】
前述のように、サイトカインレセプターなどのアゴニストとして作用することができる抗体も知られている;すなわち、抗体は標的分子の活性を高めるために作用する。従って、開業医によって選択される標的分子および結合剤に応じて、本発明のbsBAのエフェクタードメインは標的分子の活性を阻害し得るか、または標的分子の活性を高め得る。エフェクタードメインの標的分子の活性を高めるかまたは低下させる結合ドメインを選択することができることは、開業医に一連の病気に有効なbsBAの設計において相当な柔軟性を提供する。標的分子の活性化は、開業医の選択の自由において、結合剤の思慮深い選択によって高めるまたは低下させることができることを示すために、標的分子に対するbsBAの効果は、時には本明細書では標的分子の活性を「調節する」と呼ばれる。
【0041】
例えば、いくつかの癌は、チロシンキナーゼとして作用するレセプターをコードする遺伝子の突然変異から生じ、構成的に活性になるかまたは過剰発現されてしまうレセプターをもたらすので、細胞は正常なレセプターを用いてまたは正常な量で発現されるレセプターを用いて増殖するよりもよりいっそう増殖する。レセプターの活性を低下させるために、開業医は、この例では、構成的に活性なレセプターのコンホメーションを変化させてその活性を低下させるまたは、過剰発現されるレセプターの場合には、レセプターがその天然リガンドによって結合されることを簡単に妨害することが知られている結合剤を選択し、このようにして過剰発現が標的細胞内のシグナル伝達において不適切な増大をもたらすことを防止する。逆に、標的分子がその活性が高めることが望まれる標的分子である場合には、開業医はその結合が活性のアゴニストとして作用することが知られている結合剤を選択し得る。
【0042】
1個の高親和性結合ドメインもつbsBAの使用は、興味ある細胞に対する特異的結合を提供するのに十分である。種々の研究により、単一の標的分子に向けられた2つの高親和性結合ドメインをもつ結合剤が、標的分子に対して同じ結合ドメインをもつ一価の結合剤に比べて約3倍の親和性を有することが明らかにされている。Nielsen,U. et al., Cancer Res.60(22):6434−40(2000)。従って、一価の結合剤は、典型的には、さらに、ナノモル範囲のKdを有するであろう。治療剤は典型的には最大でマイクロモル濃度、すなわち結合剤の1000倍のKdを提供する量で投与されることから、高親和性ターゲッティングドメインのKdに比べて高濃度の結合剤が標的分子をもつ標的細胞に対する薬剤の結合を可能にすることが期待される。従って、本発明のbsBAの高親和性ターゲッティングドメインは、bsBAが投与される条件下でbsBAの特異的結合を提供することが期待される。
【0043】
開業医がターゲッティングドメインの標的分子とエフェクタードメインの標的分子との適当な組み合わせを選択できることが期待される。多数の好ましい標的分子およびエフェクター標的分子を以下に記載するが、それはいくつかの好ましい標的分子およびエフェクター標的分子を挙げるのに役立ち得る。いくつかの好ましい標的分子は、EGFRおよびErbB2である。いくつかの好ましいエフェクター標的分子は:ErbB3、ErbB4、線維芽細胞増殖因子(FGF)レセプター1−4のいずれか、肝細胞増殖因子レセプター、インスリン様増殖因子1レセプター(IGF1−R)、インスリンレセプター、血小板由来増殖因子(PDGF)レセプターαおよびレセプターβ、ならびにC−KITである。これらの分子のそれぞれは、当該技術では公知であり、以下のセクションにおいてSWISS−PROTデータベースにおける参照番号によって確認される。
【0044】
最後に、本発明のbsBAは、HER3を1つの結合ドメインと結合しかつHER2/neuを第2の結合ドメインと結合するbsBAを包含しない。
【0045】
(定義)
単位、接頭辞、および符号は、これらのSysteme International de Unites(SI)で受け入れられた形で表す。数値範囲は、その範囲を規定する数を含める。特に明示しない限りは、核酸は左から右に5´から3´の配向で書き表され;アミノ酸配列は左から右にアミノ基からカルボキシ基の配向で書き表される。本明細書において提供される表題は、本発明の種々の態様または実施形態の限定ではなく、全体として明細書を参照にして得ることができる。従って、以下に定義する用語は、明細書を全体として参照することによりさらに詳しく定義される。本明細書において定義されていない用語は、当業者によって理解されるような通常の意味を有する。
【0046】
結合剤の「親和性」は、典型的にはその解離定数、すなわち「Kd」に関して記載される。典型的には、有用な結合剤は、ナノモル濃度で記載されるKdを有する。当業者には、10−8MのKdを有する抗体が10−7のKdを有する抗体の10倍高い親和性を有しかつ10−6のKdを有する抗体の100倍高い親和性を有することが認められるであろう。従って、高親和性の薬剤は、低い数字として記載されるKdを有する(すなわち、10−8は10−6よりも小さい数である)。
【0047】
参照の便宜上、本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、完全抗体、抗原認識および結合能を保持する抗体フラグメント、文脈によって必要とされない限りは、完全抗体の修飾によって製造されようとまたは組換えDNA法を使用して新たに合成されようといずれにしろ、モノクロナール抗体、ポリクロナール抗体、および抗体ミミックを包含する。抗体はIgM、IgG(例えば、IgG、IgG、IgGまたはIgG)、IgD、IgAまたはIgEであり得る。
【0048】
「抗体フラグメント」という用語は、完全抗体の部分を意味し、一般には完全抗体の抗原結合部または可変部を含有する分子を意味する。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab´、F(ab´)、Fvフラグメント;ヘリックス安定化抗体(例えば、Arndt et al., J Mol Biol 312:221−228(2001)参照);ダイアボディ(以下を参照);一本鎖Fv(「scFv」、例えば米国特許第5,888,773号明細書参照);ジスルフィド安定化抗体(「dsFv」、例えば米国特許第5,747,654明細書参照)、およびドメイン抗体(「dAb」、例えば、Holt et al., Trends Biotech 21(11):484−490(2003),Ghahroudi et al.,FEBS Lett. 414:521−526(1997),Lauwereys et al.,EMBO J 17:3512−3520(1998),Reiter et al.,J.Mol.Biol. 290:685−698(1999),Davies and Riechmann, Biotechnology,13:475−479(2001)参照)が挙げられる。
【0049】
「ダイアボディ(diabody)」という用語は、2つの抗原結合部位を有する小さい抗体フラグメントをさし、このフラグメントは同じポリペプチド鎖(V−V)において可変L鎖ドメイン(V)に結合された可変H鎖ドメイン(V)からなる。短すぎて同じ鎖の2つのドメインの間で対合をさせないリンカーを使用することによって、2つのドメインは、別の鎖の相補的ドメインと対合し、2つの抗原結合部位を作製することを強いられる。ダイアボディは、例えば、欧州特許出願公開第404,097号明細書;国際公開第WO93/11161号パンフレット;およびHollinger et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444−6448(1993)にさらに詳しく記載されている。
【0050】
典型的には、免疫グロブリンは、H鎖とL鎖を有する。H鎖およびL鎖それぞれは、定常部と可変部を含有する(前記の領域は「ドメイン」としても知られている)。L鎖およびH鎖可変部は、「相補性決定領域」または「CDS」とも呼ばれる3つの超可変部によって中断された「フレームワーク」領域を含有する。フレームワーク領域およびCDRの範囲は定義されている。Kabat and Wu,infra、参照。種々のL鎖またはH鎖のフレームワーク領域の配列は、ある種の範囲内に比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域(構成するL鎖およびH鎖が組み合わさったフレームワーク領域である)は、三次元空間にCDRを配置し、整列させるのに役立つ。
【0051】
CDRは、主として抗原のエピトープに対する結合に関与する。それぞれの鎖のCDRは、N−末端から出発して連続的に番号を付され、典型的にはCDR1、CDR2およびCDR3と呼ばれ、典型的には特定のCDRが配置される鎖で識別される。従って、V CDR3はそれが認められる抗体のH鎖の可変部ドメインに配置され、これに対しV CDR1はそれが認められる抗体のL鎖の可変部ドメイン由来のCDR1である。
【0052】
「V」または「V」に対する言及は、免疫グロブリンH鎖の可変部、例えばFv、scFv、dAb、dsFvまたはFabをさす。「V」または「V」に対する言及は、免疫グロブリンL鎖の可変部、例えばFv、scFv、dsFv、dAbまたはFabを示す。
【0053】
「一本鎖Fv」または「scFv」という語句は、従来の2つの鎖の抗体のH鎖の可変部ドメインおよびL鎖の可変部ドメインが結合して1つの鎖を形成する抗体をさす。場合によっては、リンカー(通常はペプチド)が、適切な折りたたみおよび活性結合部位の作製を可能にさせるために2つの鎖の間に挿入される。
【0054】
「二重特異性結合剤」、すなわち「bsBA」は、2種類以上の標的分子に対して同時に特異的に結合することができる結合分子である。
【0055】
「結合剤」は、標的分子を特異的に結合することができる分子であり、抗体、抗体フラグメント、アプタマー、ペプチド(例えば、Williams et al.,J Biol Chem 266:5182−5190(1991))、および抗体ミミック、例えば第10フィブロネクチンIII型ドメインから作製することができるもの(例えば、Xu,L.,et al.,Chem Biol. 9(8):933−42(2002),Koide et al.,J Mol Biol 284:1141−1151,Skerra, J Mol Recognit 13:167−187(2000),Main et al.,Cell,71:671−678(1992)およびDickinson et al.,J Mol Biol,236:1079−1092(1994)参照)、ならびに天然タンパク質および非天然残基を含有させるために修飾または操作されたタンパク質を含有することができるものを包含する。いくつかの実施形態において、「結合剤」は、レセプター用の天然リガンドをさすこともできる。例えば、IL−13がIL−13レセプター用の結合剤として使用することができる。
【0056】
「アプタマー」とは、一般的に、単一の定義された配列をもつオリゴヌクレオチドまたは前記オリゴヌクレオチドの混合物のいずれかを示し、この場合の混合物は標的分子に特異的に結合する性質を保持する。従って、本明細書で使用される場合、「アプタマー」とは単一または複数の配列のオリゴヌクレオチドを表す。構造的に、本発明のアプタマーは特異的に結合するオリゴヌクレオチドである。オリゴヌクレオチドとしては、慣用の塩基、糖残基およびヌクレオチド間結合を有するオリゴヌクレオチドだけではなく、これらの3つの部分のいずれかまたはその全部の修飾を含むオリゴヌクレオチドオも挙げられる。米国特許第5,756,291号明細書(参照することにより本明細書に組み込まれる)は、アプタマー、アプタマーの製造および試験方法、ならびにその使用を提供する。
【0057】
「標的分子」とは、本明細書では本発明の二重特異性結合剤の結合ドメインによって特異的に結合される分子を示すために使用される。「第1の標的分子」および「第2の標的分子」という用語は、本明細書では同じ分子種の2つの分子よりもむしろ2つの異なる分子種の分子を示すのに使用される。このような分子種は、例えば、2種類のレセプターチロシンキナーゼ(例えば、塩基性線維芽細胞増殖因子レセプター1および肝細胞増殖因子レセプター)であってもよい。いくつかのサイトカインレセプターおよびその他のレセプターは、「鎖」として知られているサブユニットからなり、レセプターは、いくつかの場合には、レセプター用のリガンドが前記の鎖の1つにいったん結合すると、鎖を新しく入れることによって十分に活性化されてしまう。本明細書で使用される場合、特定のレセプター(例えば、IL−2レセプター)の鎖全部が同じ分子種のとみなされ;従って、所定のレセプターの鎖が本発明のbsBAの第1の結合ドメインによって結合されるべき「第1の標的分子」であるべきである場合には、「第2の標的分子」は同じレセプターの第2の鎖であることはできない。
【0058】
本明細書で使用される場合、「生物活性」とは、標的分子が果たす定義された既知の活性をさす。通常、本発明のbsBAによって標的とされる分子の生物活性はシグナル伝達である。例えば、本明細書の後のセクションに、標的分子であることができる分子として多数の増殖因子レセプターを記載する。これらのレセプターは、典型的には、細胞の細胞外表面のリガンド結合ドメインと、貫膜ドメインと、チロシンキナーゼ酵素活性を有する細胞質ゾルドメインとを有する。典型的には、チロシンキナーゼ活性は、リガンド結合ドメインに対するリガンドの結合によって活性化される。ここでは、レセプターキナーゼ活性は、シグナルカスケードを開始する。従って、これらの標的分子の生物活性はシグナル伝達である。当業者には、標的分子の生物活性は、究極的には、標的分子が配置されている細胞に対して影響を及ぼすことが認められるであろう。例えば、増殖因子レセプターを、該増殖因子レセプターを過剰発現させる癌細胞中で活性化させることによって開始されるシグナル伝達カスケードは、細胞の成長および増殖を増大させると思われ、これに対してレセプターの活性を阻害すると上記の増殖を阻害するかまたは遅らせると思われる。従って、「生物活性」という用語は、標的分子の活性に比べて、細胞の活性に関連してより広く使用し得る。意味がどちらを意図するかは、文脈で明らかになるであろう。
【0059】
上記に述べたように、本発明のbsBAの標的分子として使用できるいくつかの分子が生物活性を有することは知られていない。細胞表面の所定の分子が本発明の目的の生物活性を有するかまたは有していないかの測定は、次の手段によって行なうことができる。細胞表面分子を有するヒト細胞の培養物を分けて、2つの別個の培養物を形成することができる。第1の培養物を、細胞表面分子に特異的に結合しかつ該分子に対する天然リガンドの結合を妨げることが期待される結合ドメインと接触させる。別の群の培養物は接触させない。次いで、前記2つの群の培養物を、断らない限りは同じ条件下で培養する。本発明の目的には、結合剤による分子の結合が細胞増殖、細胞生存、アポトーシス、下流キナーゼの活性化、転写活性、表面への接着、軟寒天でのコロニー増殖能において観察できる相違を引きこさない場合には、標的分子は「生物活性」を有していないとみなされる。これらの特性の相違を観察するためにアッセイは、当該技術で周知であり、いくつかを以下にさらに詳しく論じる。
【0060】
本明細書で使用される場合、生物活性の「調節」とは、開業医が望むように、標的分子の生物活性を高めるかまたは抑制することを示す。例えば、標的分子が癌細胞の増殖を高めるとみなされるレセプター(例えば、ErbB3レセプター)である場合には、開業医は、レセプターに結合するために結合ドメインを使用し、レセプターの天然リガンドによるレセプターの結合を妨害することによってレセプターの活性を阻害することを望み得る。頻繁には、これらの標的分子は、天然リガンドの結合の際にチロシンキナーゼとして作用するレセプターである。反対に、標的分子の生物活性が、開業医が高めることを望む活性である場合には、開業医は例えば標的分子のアゴニストとして作用することが当該技術で知られている抗体を結合ドメインとして使用することができる。結果は、治療される病気または病態に役立つことを意図する;例えば悪性病変およびある種の自己免疫疾患の治療については、所望の効果は通常は細胞増殖の阻害またはアポトーシスの誘発であるか、あるいはある細胞種の増殖、例えば自己免疫疾患の治療用のT−調節T−細胞の増殖を誘導であることができる。
【0061】
細胞表面レセプターがこれらのレセプターに特異的に結合するリガンドを有することが理解される。従って、所定のレセプターに関して、「天然リガンド」という用語は、正常な生理学の経過中に所定のレセプターに結合する分子を示す。例えば、インターロイキン(「IL」)−13は、IL−13レセプターのための天然リガンドであり、IL−2はIL−2レセプターのための天然リガンドであり、上皮増殖因子はEGFレセプターのための天然リガンドであるなどである。
【0062】
「有効量」または「に有効な量」または「治療有効量」という用語は、細胞のタンパク質合成を少なくとも50%まで阻害するか、または細胞を死滅させるなどの所望の結果を得るのに十分な薬剤の用量を示すことを包含する。
【0063】
「エフェクター分子」は、結合分子、例えば本発明のbsBAのエフェクタードメインに接触した際に、細胞の挙動を、例えばシグナル伝達、リン酸化、増殖の誘発、または細胞死の誘導によって調節するのに使用し得る細胞表面レセプターとして定義される。
【0064】
「Kd」は、次の型の反応:
A+B=AB
についての逆反応の速度定数と正反応の速度定数の比である。
【0065】
平衡では、平衡定数(K)は、生成物の濃度で除した反応剤の濃度の生成物に匹敵し、濃度のディメンションを有する。
Kd=(濃度A×濃度B)/(濃度AB)
「一価結合剤」および「一価結合組成物」は、例えば2つの結合ドメインを有する完全免疫グロブリンG分子とは対照的に、細胞表面マーカーを結合するための単一のドメインを有する結合分子として定義される。一価結合剤は、典型的には二重特性抗体を形成する2つの結合ドメインの1つの単離フラグメント、例えばscFv、Fab´、単一ドメイン抗体などである。
【0066】
「標的細胞」は、本発明の二重特異性抗体結合剤がその高親和性ターゲッティングドメインによって優先的に結合することを意図する細胞である。
【0067】
「接触する」という用語は、直接的物理的会合における配置に対する言及を含む。
【0068】
細胞は、一般に当該技術では種々のタンパク質、例えばトランスポーター、イオンチャンネル、およびサイトカインレセプターが置かれている脂質二重層からなる形質膜(普通は「細胞膜」と呼ばれる)によって結合されると理解される。一般的に、Alberts et al.,Molecular Biology of the Cell, Garland Publishing,Inc.,New York(3rd Ed.,1994),Chapter 10参照。細胞膜は、細胞質ゾル、または細胞の内面に面した表面と、細胞の外面または細胞外空間に面した表面とを有すると考え得る。貫膜タンパク質は両親媒性であることが多い、すなわち、貫膜タンパク質は疎水性である領域と親水性である領域とを有する。膜の中を通る領域は疎水性であり、二重層からなる脂質分子の疎水性尾部と相互作用する。親水性である領域は、膜の細胞質ゾル側または細胞外側で水に暴露される。貫膜タンパク質の貫膜ドメインは、αヘリックスの状態であるかまたは多重β鎖の状態であるかいずれかである。例えば、Lodish et al.,Molecular Cell Biology, W.E.Freeman and Co.,New York(4th Ed.,2000),chapter 3参照。
【0069】
「サイトカイン」とは、同じ細胞集団(オートクライン)または別の細胞集団(パラクリン)に対して細胞内メディエーターとして作用する1つの細胞集団によって放出されるタンパク質の一般名を意味する。このようなサイトカインの例は、リンホカイン、モノカイン、および伝統的なポリペプチドホルモンである。サイトカインの中には、成長ホルモン、例えばヒト成長ホルモン、N−メチオニルヒト成長ホルモン、およびウシ成長ホルモン;副甲状腺ホルモン;チロキシン;インスリン;プロインスリン;リラキシン;プロリラキシン;糖タンパク質ホルモン、例えば卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホルモン(LH);肝増殖因子;線維芽細胞増殖因子;プロラクチン;胎盤性ラクトゲン;腫瘍壊死因子−αおよびβ;ミューラ管抑制物質;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;インヒビン;アクチビン;血管内皮増殖因子(VEGF);インテグリン;トロンボポエチン(TPO);神経増殖因子、例えばNGF−β;血小板由来増殖因子(PDGF);トランスフォーミング増殖因子(TGF)、例えばTGF−αおよびTGF−β;インスリン様増殖因子(IGF)、例えばIGF−IおよびIGF−II;エリスロポエチン(EPO);骨誘導因子;インターフェロン類、例えばインターフェロン−α、−βおよび−γ;コロニー刺激因子(CSF)、例えばマクロファージ−CSF(M−CSF);顆粒球−マクロファージ−CSF(GM−CSF);ならびに顆粒球−CSF(G−CSF);インターロイキン(IL)類、例えばIL−1、IL−la、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL9、IL−11、IL−12;ならびにその他のポリペプチド因子、例えばLIFおよびkitリガンド(KL、steel因子としても知られている)が含まれる。
【0070】
他に示されない限りは、抗体H鎖またはL鎖のアミノ酸位置についての本明細書での言及は、「KabatおよびWu」システムの下でアミノ酸の番号付与をさす。Kabat,E.,et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, U.S. Government Printing Office, NIH Publication No.91−3242(1991)参照。これは参照することにより本明細書に組み込まれる(KabatおよびWuデータベースおよび番号付与システムはまた、本明細書において「Kabat」システムおよび番号付与と呼ばれる)。KabatおよびWuデータベースは、抗体のアミノ酸残基の番後付与のための技術において最も広く使用されるシステムであり、現在はあまりにも大きすぎで都合よく印刷することができない。それは、現在、購読サービスオンラインとして維持されており、「http://」、次いで「immuno.bme.nwu.edu/」を挿入することによって見出すことができる。「KabatおよびWuシステムの下で残基に与えられた番号は、所定のH鎖またはL鎖の残基についてその鎖のアミノ末端から数えることによって得られる番号に必ずしも対応しない。
【0071】
「残基」または「アミノ酸残基」または「アミノ酸」という用語は、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチド(集合的に「ペプチド」)に組み込まれるアミノ酸に対する言及を含む。アミノ酸は、天然産アミノ酸であることができ、特に限定されない限りは、天然産アミノ酸と同様にして機能することができる天然アミノ酸の類縁体を包含することができる。
【0072】
「保存的置換」とは、タンパク質を説明する場合には、タンパク質の活性を実質的に変化させないタンパク質のアミノ酸組成の変化を示す。従って、特定のアミノ酸配列の「保存的に修飾された変形」とは、タンパク質活性について重要でないこれらのアミノ酸のアミノ酸置換、またはアミノ酸の同様の性質(例えば、酸性、塩基性、正荷電または負荷電、極性または非極性など)をもつ別のアミノ酸による同等の重要なアミノ酸の置換が実質的に活性を変化させないような置換を示す。機能的に類似するアミノ酸を示す保存的置換表は、当該技術では周知である。次の表Aの6つの群それぞれは、互いについて保存的置換であるアミノ酸を含んでいる:
表A
1)アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リシン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);および
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0073】
また、Creighton, Proteins, W.H. Freeman and Company, New York(1984)も参照のこと。
【0074】
「選択的に反応性の」および「選択的に結合する」という用語は、抗原に関して、抗体(全体または部分)の、該抗原を欠いている細胞または組織ではなく該抗原を有する細胞または組織との優先的会合を示す。勿論、ある程度の非特異的相互作用が分子と非標的細胞または組織の間で生じ得ることが認められる。それにもかかわらず、選択的反応性は、抗原の特異的認識によって介在されるように区別し得る。選択的反応性抗体は抗原を結合するが、これらの抗体は低親和性のためにそのように結合し得る。他方、特異的結合は、抗体と、抗原を有する細胞の間で、結合抗体と、抗原を欠く細胞の間の会合よりも強い会合をもたらす。特異的結合は、典型的には、標的抗原またはマーカーを有する細胞または組織に結合された抗体の量(単位時間当たり)を、その抗原またはマーカーを欠く細胞または組織に比べて、2倍よりも多い、好ましくは5倍よりも多い、さらに好ましくは10倍よりも多い、最も好ましくは100倍よりも多い増加をもたらす。このような条件下でタンパク質に対する特異的結合は、特定のタンパク質に関するその特異性について選択される抗体を必要とする。種々の免疫検定フォーマットが、特定のタンパク質と特異的に免疫反応性の抗体を選択するのに適する。例えば、固相ELISA免疫検定法が、タンパク質と特異的に免疫反応性のモノクロナール抗体を選択するのに常用される。特異的免疫反応性を調べるのに使用できる免疫検定フォーマットおよび条件の記載については、Harlow & Lane,Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Publications,New York(1988)を参照。
【0075】
「免疫学的に反応性の条件」という用語は、特定のエピトープに対して生じた抗体をそのエピトープに、実質的に全てのその他のエピトープに対する結合よりも検出できるほど多い程度まで、および/または実質的に全てのその他のエピトープに対する結合を実質的に除外してしまうほどに、結合させる条件に対する言及を含む。免疫学的に反応性の条件は、抗体結合反応のフォーマットに依存し、典型的には免疫検定プロトコールで利用される条件または生体内で遭遇する条件である。免疫検定フォーマットおよび条件の記載については、Harlow & Lane,supra,を参照。好ましくは、本発明の方法で用いられる免疫学的に反応性の条件は、生きている哺乳動物または哺乳動物細胞の内部に特有の条件(例えば、温度、オスモル濃度、pH)に対する言及を含む「生理学的条件」である。いくつかの臓器は過酷な条件にさらされることが認められるが、生体内および細胞内環境は、通常は約pH7(すなわち、pH6.0〜pH8.0、さらに典型的にはpH6.5〜7.5)にあり、水を主溶媒として含有し、0℃を超える温度および50℃よりも低い温度で存在する。オスモル濃度は、細胞の生存および増殖を支える範囲内にある。
【0076】
(治療剤またはマーカーに対するbsASの結合)
bsBAのそのリガンドそれ自体に対する結合は、標的細胞の生物活性を、例えばサイトカインがそのレセプターに接近することを妨害することによって調節することを意図するが、bsBAの生物活性に対する効果は、治療剤をbsBAに結合することによって高めることができる。従って、いくつかの実施形態において、bsBAは治療剤の付着を可能にする官能基を導入するために誘導される。BsBAは、例えば、ヒドラジド、ヒドラジン、一級アミン、または二級アミン基を末端とする側鎖を導入するために誘導することができる。治療剤は、例えばシッフ塩基結合、ヒドラゾンまたはアシルヒドラゾン結合あるいはヒドラジドリンカー(例えば、米国特許第5,474,765号および第5,762,918号明細書参照、これらはそれぞれ参照することにより本明細書に具体的に組み込まれる)によって接合することができる。治療剤を本発明のbsABに接合するのに適した多数のその他の化学物質は、Hermanson,G., Bioconjugate Techniques,Academic Press,San Diego,CA(1996)によって例示されるように、当該技術で周知である。
【0077】
治療剤は、例えば抗悪性腫瘍剤、代謝拮抗剤、放射性薬剤、細胞毒性剤、および化学療法剤から選択することができる。
【0078】
細胞毒性剤としては、抗癌剤、例えば次の抗癌剤:ゲムシタビン;メトトレキセート;5−FU;FUDR;FdUMP;ヒドロキシ尿素;ドセタキセル;ディスコデルモライド;エポチロン類;ビンクリスチン;ビンブラスチン;ビノレルビン;meta−pac;イリノテカン;SN−38;10−OHカンプト;トポテカン;エトポシド;アドリアマイシン;フラボピリドール;シスプラチン;カルボプラチン;ブレオマイシン;マイトマイシンC;ミトラマイシン;カペシタビン;シタラビン;2−Cl−2´デオキシアデノシン;ミトキサントロン;ミトゾロミド;ペントスタチン;およびラルチトレキセドが挙げられる。
【0079】
本発明のbsBAは、診断または治療使用を促進するためにさらに修飾またはマーカーすることができる。例えば、検出可能なマーカー、例えば放射線、蛍光、重金属、またはその他のマーカーを、本発明のbsBAに結合し得る。bsBAの単一、二重または多重マーカー化が好都合であり得る。例えば、bsBAは、1個またはそれ以上の残基の放射性ヨウ素化と、例えばキレート基による90Yのアミン含有側鎖基または反応性基への結合との両方を用いて二重マーカーすることができる。この組み合わせマーカー化は、専門診断ニーズ、例えば広く分散した新生細胞小塊の確認に有用であり得る。
【0080】
本発明のbsBAを放射マーカーするための放射性同位体としては、bsBAの残基に結合または結合することができる放射性同位元素が挙げられる。放射性同位体は、β線またはγ線のいずれかを放射する放射性同位体から選択することができる、あるいはまた、前記ペプチド剤は、例えば類似体のリシン残基(1個または複数)に共有結合することができるキレート基を含有させるために修飾することができる。次いで、キレート基は、種々の放射性同位体、例えばガリウム、インジウム、テクネチウム、イッテルビウム、レニウム、またはタリウム(例えば、125I、67Ga、111In、99mTc、169Yb、186Re)を含有させるために修飾することができる。
【0081】
キレート基は、検出可能なマーカーまたはその他の分子を本発明のbsBAに直接に結合するのに使用し得る。例えば、二官能性の安定なキレート化剤を、1個またはそれ以上の末端または内部アミノ酸反応性基に、イソチオシアネートβ−Alaまたはエドマン分解を防止する適当な非α−アミノ酸リンカーを介して結合し得る。当該技術で知られているキレート化剤の例としては、例えば、イミノカルボン酸およびポリアミノポリカルボン酸反応性基、DTPA(N,N−ビス[2−[ビス(カルボキシメチル)アミノ]エチル]グリシン)、およびDOTA(1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−四酢酸)が挙げられる。
【0082】
癌の診断および治療に関して、本発明のbsBAは、診断およびイメージング組成物、ならびに診断およびイメージング法(例えば、生体内および生体外診断法)でbsBAを利用するキットを製造するのに使用できる。例えば、血管新生化腫瘍は、生体内診断用造影剤に結合させた診断有効量のbsBAであって腫瘍細胞、腫瘍血管系、または腫瘍間質の接近可能要素に結合する少なくとも第1の結合性分子を含有するbsBAを使用して撮像し得る。
【0083】
病気または疾患が癌である別の好ましい実施形態では、癌治療前の予備イメージングは、(a)高発現レセプター特性の腫瘍細胞あるいは腫瘍血管系または腫瘍間質に高親和性を示して結合する第1の結合性分子と、第2の普遍的に発現されるレセプター(例えば、ErbB3またはErbB4)に少なくとも大規模な低親和性を示して結合する第2の結合性分子とを有する本発明の検出可能にマーカーされたbsBAを含有してなる診断有効量の医薬組成物を動物または患者に投与し;そして(b)その後に腫瘍細胞、腫瘍血管または腫瘍間質に結合された、検出可能にマーカーされたbsBAを検出し;それによって腫瘍、腫瘍血管系および/または腫瘍間質の画像を得ることによって行い得る。
【0084】
理論によって拘束されることを望むことなく、bsBAは、細胞表面レセプターに対する結合について天然リガンドと競争することによって細胞シグナル伝達を低下、抑制または阻害することができる。この状況において、bsBAは、リガンドの結合に際して誘発される細胞シグナル伝達を妨害することによって機能する。BsBAはまた、細胞表面レセプターの内在化/下方制御を誘導することによって作用することができる。内在化/下方制御によって引き起こされる細胞表面でのレセプターの数の減少は、レセプター活性化の低下をもたらし、これはこれらのレセプターについてのシグナル伝達経路に沿って細胞シグナル伝達を低下または抑制する。最後に、レセプターの二量化がシグナル伝達に必要とされる場合には、bsBAは2つの細胞表面レセプターの二量化を防止することによって作用することができる。
【0085】
(標的として使用するためおよびエフェクターのための細胞マーカーの選択)
bsBAを標的とするのに使用される細胞マーカーは、典型的には非標的細胞よりも標的細胞でより高いレベルで発現される、すなわち非標的細胞では発現されない。例えば、標的マーカーは、その非標的細胞における発現に比べて特定の癌で高度に過剰発現される、すなわち癌性でない細胞によって発現され得ない。
【0086】
エフェクターとして使用される細胞マーカーは、典型的には細胞シグナル伝達、例えば所定の病態において調節するのに有益である増殖因子、サイトカイン、またはケモカインレセプターに関与する。本発明のhi−lo bsBAによって提供される選択性により、bsBAエフェクタードメインによって結合されるマーカーの発現は、標的細胞に限定される必要はなく、生物のその他の細胞で発現され得る。
【0087】
(Kdの測定)
bsBAの結合分子の結合親和性は、例えば米国特許第6,703,020号明細書(参照することにより本明細書に組み込まれる)に記載のように、当該技術で知られている方法を使用して測定することができる。bsBAの第1の結合分子および第2の結合分子のそれぞれの標的レセプターに対する結合親和性、およびbsBA−レセプター複合体の解離速度は、競合結合アッセイによって測定することができる。競合結合アッセイの一例は、例えばHまたは125Iでマーカーされた1つまたは2つのレセプターを、関心のbsBAと、増加量の非マーカーレセプターの存在下でインキュベートし、マーカーされたレセプターに結合されるbsBAを検出することからなる放射線免疫アッセイである。特定のレセプターに対する関心のbsBAの親和性および結合解離速度は、データから例えばスカッチャードプロット分析によって測定することができる。Kdはまた、例えばNielsenらの論文(Cancer Res.60(22):6434−40(2000))に記載のようにしてフローサイトメトリーでも測定することができる。Kdを測定するための代表的なアッセイを実施例に示す。
【0088】
好ましい方法では、bsABのレセプター結合親和性は、BIAcore表面プラズモン共鳴装置(BIAcore,Inc.,Piscataway,NJ)を使用して測定される結合速度定数および解離速度定数から決定される。典型的に、リガンド分子に対するbsBAの親和性は、適当な量(例えば、500共鳴単位)をバイオセンサーチップ(BIAcore)上に固定することによって測定される。bsBAの結合速度および解離速度は、典型的にはPBS中で25μg/のbsBAをチップ表面全体に5分間注入し、次いで緩衝液をチップ全体に流すことによって結合された物質を5分間解離させることによって測定される。結合反応速度は、例えばソフトウエアBIAevaluation 2.1(BIAcore)を使用することによって解析することができる。特定のbsBAが本発明の範囲に入るか否かを調べるために、bsBAの結合ドメインの親和性は、結合ドメインの相対親和性を決定できるようにbsBAが形成された後に(bsBAbにおけるその配置の前に、ドメインそれぞれの親和性を測定するのとは対照的に)決定される。
【0089】
(所望の生物効果の測定)
本発明のbsBAは、最初に所望の治療活性または予防活性について生体外で試験されることが好ましい。例えば、bsBAの治療または予防有用性を実証するために使用することができる生体外アッセイは、細胞系または患者組織試料に対するbsBAの効果を含む。
【0090】
細胞系および/または組織試料に対するbsBAの効果は、当業者に知られている技法、例えば数ある中から細胞増殖アッセイ、細胞生存アッセイ、タンパク質リン酸化のアッセイ、プロテインキナーゼ活性、アポトーシスアッセイ、およびタンパク質合成阻害研究を利用することによって調べることができる。抗体マイクロアレイは、タンパク質経路における多数のタンパク質についての効果を調べることができる。このようなアッセイは、例えばNielsenらの論文(Proc Natl Acad Sci USA.,100(16):9330−5.(2003))(「Nielsen 2003」という)に記載されている。この場合、BsBAは、ヒトの臨床試験を実施する前に、ヒト以外の動物での効果について生体内で試験される。
【0091】
(一価結合組成物の作製)
bsBAが化学的架橋によって作製される場合には、非架橋フラグメントはそれ自体一価の結合フラグメントである。遺伝子操作によって結合された(すなわち、組換え発現された)bsBAの場合には、一価の結合組成物は、個々の結合タンパク質を一価結合タンパク質の発現および単離を可能にする発現ベクターにクローニングすることによって作製することができる。この場合の個々の一価の結合組成物の親和性は、前記に示したようにして測定することができる。
【0092】
(等価Kの試験)
等価Kは、一価の結合組成物を使用して、前記に示した方法により測定し得る。
【0093】
(bsBAおよび一価結合組成物の結合の比較)
一価結合組成物およびbsBAは、例えばその治療剤としての効果を評価するためにおよびbsBAの効果と比較するために、生物活性アッセイに供し得る。このようなアッセイは、当該技術で知られており、標的抗原に依存する。例として、ELISAによるかまたはヘレグリンまたはその他の増殖因子を用いた活性化の後の免疫ブロット法によるAKTリン酸化の測定、増殖阻止アッセイ(例えば国際公開第WO89/06692パンフレットに記載されている);またはアポトーシスのアッセイが挙げられる。
【0094】
リン酸化については、例えばエフェクター分子それ自体または下流キナーゼの活性化に対する結合分子の効果を測定するために標準免疫ブロット法を使用し得るし、または抗体アレイをNielsen 2003(supra)に詳細に記載されているようにして使用し得る。
【0095】
アポトーシスについては、DNAフラグメント化を、アポトーシス細胞中のDNAニックを検出する標準的な電気泳動またはTUNEL(末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニックおよびマーカー)アッセイを使用して生体外で検出することができる。細胞が固定されると、DNA鎖の切断は、マーカーされたヌクレオチドをこれらのDNAフラグメントの3´ヒドロキシル末端に鋳型に依存しない方法で共有的に付加する哺乳動物末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)を使用してその場で検出することができる。
【0096】
細胞の生存および増殖は、種々の化学的および生物学的試薬を用いて監視することができる。例えば、細胞周期関連マーカーに対する抗体または蛍光に基づく細胞生存および増殖アッセイ、例えばトリチウム化チミジンアッセイ、トリパンブルー排除アッセイ、ATCC Bioproducts(登録商標)MTT細胞増殖アッセイ(American Type Culture Collection,Manassas,VA)、またはCellTiter−Blue(登録商標)細胞生存アッセイ(Promega,Madison,WI)。
【0097】
(増殖因子レセプターを結合するためのbsBAの使用)
多数の分子を、本発明のbsBAのエフェクタードメインによって結合することができる。一連の重要な実施形態において、エフェクタードメインは、細胞表面の増殖因子レセプター、例えばチロシンキナーゼレセプターを結合する。多数の重要な増殖因子レセプターおよびそのリガンド、例えば上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、インスリン様増殖因子(IGF−1)、血小板由来増殖因子(PDGF)、および血管内皮増殖因子(VEGF)ファミリーに属するレセプターおよびリガンドの過剰発現または不適切な活性化は、病気および障害、例えば癌および自己免疫疾患の開始および進行に関係しているかまたはこれらを招くことが知られている。これらの増殖因子は、疾患細胞の生存、増殖または移動を刺激するためにオートクラインおよび/またはパラクリン様式で作用すると考えられる。増殖因子のそのレセプターに対する結合は、レセプター二量化によるレセプターの活性化であって、例えばレセプター自己リン酸化およびその後の種々のシグナル伝達分子のアレイによるシグナル伝達をもたらす活性化をもたらす。
【0098】
増殖因子の結合の活性の妨害またはこのような細胞中のチロシンキナーゼレセプターの活性化は、非癌性表現型を保存するかまたは病気に冒された細胞の増殖の速度を低下させることができる。すなわち、レセプターを本発明のbsBAと接触させると、リガンド、例えば増殖因子のその細胞表面レセプターに対する結合により生じるシグナルを妨害する。bsBAは、リガンドがレセプターに結合することを防止するかまたは抑制することによって、あるいはリガンド誘発のレセプター二量化を防止するかまたは抑制することによって、シグナル伝達経路の活性化を防止するかまたは抑制する。
【0099】
本発明の方法において有用な結果をもたらすためにbsBAのエフェクタードメインによって結合されることができる代表的なチロシンキナーゼレセプター(括弧内に示した別の名称を有する)としては:
ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)、すなわち未分化大型細胞リンパ腫(ALCL)でキメラNPM−ALKタンパク質の部分として発現されるチロシンキナーゼレセプター;
ジスコイジンドメインレセプター(DDR)、すなわちレクチンジスコイジンIに相同性の独特の細胞外ドメインによって識別されるレセプターチロシンキナーゼ(ジスコイジンレセプターチロシンキナーゼ)(チロシン−プロテインキナーゼCAK)(細胞接着キナーゼ)(TRK E)(タンパク質−チロシンキナーゼRTK6)(CD167a抗原);
ジスコイジンドメインレセプター2前駆物質(レセプタータンパク質−チロシンキナーゼTKT)(チロシン−プロテインキナーゼTYRO10)(神経栄養性チロシンキナーゼ、レセプター関連3);
上皮増殖因子レセプター(レセプタータンパク質−チロシンキナーゼErbB−1);
レセプタータンパク質−チロシンキナーゼErbB−2(p185erbB2)(NEUプロトオンコジーン)(C−erbB−2);
レセプタータンパク質−チロシンキナーゼerbB−3前駆物質(c−erbB3)(チロシンキナーゼ型細胞表面レセプター);
レセプタータンパク質−チロシンキナーゼerbB−4(pl80erbB4)(チロシンキナーゼ型細胞表面レセプター);
塩基性線維芽細胞増殖因子レセプター1(FGFR−1)(bFGF−R)(Fms様チロシンキナーゼ−2)(c−fgr);
FLサイトカインレセプター(チロシン−プロテインキナーゼレセプターFLT3)(幹細胞チロシンキナーゼ1)(STK−1)(CD135抗原);
マスト/幹細胞増殖因子レセプター(SCFR)(プロトオンコジーンチロシン−プロテインキナーゼKit)(c−kit)(CD117抗原);
白血球チロシンキナーゼレセプター(タンパク質チロシンキナーゼ−1);
肝細胞増殖因子レセプター(Metプロトオンコジーンチロシンキナーゼ)(c−met)(HGFレセプター)(HGF−SFレセプター);
タンパク質−チロシンホスファターゼeta(R−PTP−eta)(HPTP eta)(タンパク質−チロシンホスファターゼレセプターJ型)(密度増強ホスファターゼ−1)(DEP−1)(CD148抗原);
プロトオンコジーンチロシン−プロテインキナーゼレセプターret(C−ret);
チロシン−プロテインキナーゼ貫膜レセプターROR1(神経栄養性チロシンキナーゼ、レセプター関連1);
チロシン−プロテインキナーゼ貫膜レセプターROR2(神経栄養性チロシンキナーゼ、レセプター関連2);
チロシン−プロテインキナーゼレセプターTie−1;
アンジオポイエチン1レセプター(チロシン−プロテインキナーゼレセプターTIE−2)(チロシン−プロテインキナーゼレセプターTEK)(P140 TEK)(内皮内膜細胞キナーゼ)(CD202b抗原);
高親和性神経増殖因子レセプター(TRKI形質転換チロシンキナーゼタンパク質)(pl40−TrkA)(Trk−A);
BDNF/NT−3増殖因子レセプター(TrkBチロシンキナーゼ)(GP145−TrkB)(Trk−B);
NT−3増殖因子レセプター(TrkCチロシンキナーゼ)(GP145−TrkC)(Trk−C);
血管内皮増殖因子レセプター1(VEGFR−1)(血管透過性因子レセプター)(チロシン−プロテインキナーゼレセプターFLT)(Flt−1)(チロシン−プロテインキナーゼFRT)(Fms様チロシンキナーゼ1);
血管内皮増殖因子レセプター2(VEGFR−2)(キナーゼ挿入ドメインレセプター)(タンパク質−チロシンキナーゼレセプターFlk−1);および
血管内皮増殖因子レセプター3前駆物質(EC2.7.1.112)(VEGFR−3)(チロシン−プロテインキナーゼレセプターFLT4)
が挙げられる。
【0100】
以下の議論は、エフェクタードメインと結合するのに特に有用なチロシンキナーゼレセプター、および本発明の方法で有効に調節することができるその他のレセプターファミリーに関してさらに具体的な情報を記載する。
【0101】
(上皮増殖因子レセプター(EGFR)/ErbBレセプター)
1回貫通(single−spanning)チロシンキナーゼレセプターのEGFR/ErbBファミリーは、4つのメンバー:すなわち上皮増殖因子レセプター(EGFR)、ErbB2(HER2/neu)、ErbB3(HER3)およびErbB4(HER4)からなる。ErbBレセプターを結合し、活性化する多数のリガンド(これらは全て、異なる遺伝子産物である)が、確認されている。これらのレセプターおよびリガンドは、正常細胞の増殖および分化において重要な役割を果たす。
【0102】
ErbBレセプタータンパク質の異常なシグナル伝達および/または調節されない活性化は、多数の癌の発生および進行と関係がある。機能不全ErbBレセプター経路が介在する調節されない細胞増殖が、上皮起源の種々様々な固形癌において認めることができ、データは進行性疾患に対する腫瘍ErbBレセプター発現、過剰発現および/または異常調節、転移性表現型、化学療法耐性および全体にわたる不十分な予後に関係がある。さらにまた、データはまた、高められた腫瘍浸潤、細胞アポトーシスの阻害、高められた細胞接着および血管新生におけるErbBレセプターに関係している。特に、EGFRの高められた発現が、乳房、膀胱、肺および胃のより攻撃的な癌で観察されている(Modjtahedi and Dean,Int.J.Oncol.4:277−296,(1994))。ヒトErbB2の過剰発現は、乳および卵巣の癌(Slamon et al., Science 235:177−182(1987)およびSlamon et al., Science 244:707−712(1989))ならびに胃、子宮内膜、唾液腺、肺、腎臓、結腸および膀胱の癌と関係づけられている。著しく高められたレベルのErbB3がある種のヒト乳腺腫瘍細胞系と関係付けられており、ErbB3がErbB1およびErbB2のようにヒト悪性腫瘍において役割を果たすことを示している。具体的には、ErbB3が、乳癌(Lemoine et al.,Br.J.Camcer 66:1116−1121,1992)、胃腸癌(Poller et al.,J.Pathol.168:275−280,1992; Rajkumer et al.,J.Pathol.170:271−278,1993;およびSanidas et al.,Int.J.Cancer 54:935−940,1993)、および膵癌(Lemoine et al.,J.Pathol.168:269−273,1992およびFriess et al.,Clinical Cancer Research 1:1413−1420,1995)で過剰発現されることが認められている。最後に、高められたErbB4発現はまた、ヒトの癌、例えば上皮起源の癌、例えば乳腺腺癌と密接に関連している。
【0103】
ErbBファミリーのタンパク質レセプターが介在するシグナル伝達は、多くの場合、リガンド誘発レセプターへテロ二量化に際して生じる。へテロ二量化の後の「レセプタークロストーク」は、ErbBレセプターキナーゼドメインの活性化、および例えばEGFRとErbB2の間、ErbB2とErbB3の間、およびErbB2とErbB4の間で生じることが知られているErbBレセプターの交差リン酸化をもたらす(例えば、Wada et al.,Cell 61:1339−1347(1990); Plowman et al.,Nature 336:473−475(1993); Carraway and Cantley,Cell 78:5−8(1994); Riese et al.,Oncogene 12:345−353(1996);Kokai et al.,Cell 58:287−292(1989);Stem et al.,EMBO J. 7:995−1001(1988);およびKing et al.,Oncogene 4:13−18(1989)参照)。
【0104】
本発明のbsBAの製造に使用される好ましい結合分子は、例えば米国特許第5,183,884号、第5,480,968号、第5,968,511号、第5,977,322号および第6,512,097号明細書;Kraus et al.,Proc. Natl.Acad.Sci.USA 86:9193−9197(1989);欧州特許出願公開第444,961A1号明細書;ならびにKraus et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2900−2904(1993)に記載されており、これらのそれぞれは参照することにより本明細書に組み込まれる。治療の方法の実施形態は、癌の他に1つまたは複数の病態、例えば免疫不全、神経疾患、例えば神経線維腫症および末梢神経障害、ならびに心疾患、例えば心臓肥大を包含する。
【0105】
(インスリンレセプター(IR)およびインスリン様増殖因子レセプター(IGF−R))
インスリンレセプターおよびIGF−1レセプターは、2つの主要な病気、すなわち糖尿病および癌用の新規な治療剤の開発のための重要な標的であるタンパク質に密接に関連している。糖尿病は、重要性を増しつつある世界的規模の健康問題である。糖尿病は、世界保健機構によって流行病として分類されている唯一の非感染症である。世界中で、糖尿病の発生は2〜3%であり、米国および欧州諸国では6%まで上昇する。
【0106】
インスリン様増殖因子レセプター(IGFR)がある種の癌および乾癬において重要な役割を果たすという証拠が増えつつある。これらのレセプターにより調節解除されたシグナル伝達は、放射線療法および化学療法に耐性をもつ例えばウイルムス腫瘍形成、胚芽腫、肝臓癌、結腸直腸癌、乳癌、腺癌、多発性骨髄腫、リンパ腫、白血病、前立腺癌、および肺癌の病因と関係がある。インスリンおよびIGFレセプターは、ErbBレセプターファミリーと密接な関係がある。
【0107】
インスリン様増殖因子レセプター(IGFR)は、体の多くの細胞の正常機能の維持に関与する。IGF−IIレセプターは、一般に腫瘍細胞によって発現され、オートクライン増殖因子として作用し得る;場合により標的組織に到達し、腫瘍誘発低血糖症を引き起こすことさえある。IGF−Iレセプターは一般に多くの癌で過剰発現され、多くの最近の研究は癌細胞の増殖、接着、移動、および細胞死に影響を及ぼすIGF−Iレセプターから発生する新しいシグナル伝達経路;癌細胞の生存および転移に重要な機能を確認している(例えば、LeRoith et al.,Cancer Lett.195:127−137(2003)参照)。 The IGF−Iレセプターは、多くの正常細胞もまたこのレセプターを発現することから癌治療剤の有望な標的とみなされていない。科学的証拠は、IGF−Iレセプター阻害が細胞増殖または腫瘍成長に関連した多様な細胞内シグナルに強い衝撃を与え、どのようにしてIGF−Iレセプター阻害が腫瘍細胞を慣用の化学療法またはその他の抗癌剤により感受性にすることができるかを説明することができるメカニズムを提供することを示唆している。IGF−Iレセプターのシグナル伝達の阻害は、腫瘍増殖を抑制し、患者の生存を延ばし、多発性骨髄腫およびその他の血液悪性腫瘍の臨床関連マウスモデルにおいて化学療法の抗腫瘍効果を高めることは、おそらく最も重要である。従って、bsBAの低親和性結合分子がIGF−Iレセプターに結合するbsBAが、IGF−Iレセプターを優先的に標的とする従来の治療剤の欠陥を克服するであろう(すなわち、非標的、非疾患細胞においてIGF−Iレセプターシグナル伝達の阻害を回避することによって)ことが意図される。ここでは、bsBAの高親和性結合分子が、bsBAを疾患細胞(例えば、IGF−Iレセプターの過剰刺激の阻害が望まれる細胞)に特異的に標的に向ける細胞表面レセプターに結合することが好ましい。いったん疾患細胞に優先的に標的に向けられると、ここでbsBAの低親和性結合分子はIGF−Iに結合し、病状に関連した不適切な細胞シグナル伝達を阻害することができる。
【0108】
乳房の進行期腺癌を有する患者に関する治療方針は、細胞障害性化学療法の使用を含む場合が多い。IGF−Iレセプター(細胞周期の調節の重要因子)は、高悪性度の乳癌では過剰発現される場合が多く、これらの癌の主な標的に相当する。ErbB2を過剰発現する乳癌細胞の増殖を阻止する抗HER2/neuレセプターモノクロナール抗体(トラスツズマブ、ハーセプチン(登録商標)としても知られている)を使用して乳癌について治療を受けている患者が、一般に抗体に対する耐性を生じることも認められている。インスリン様増殖因子−I(IGF−I)(これは細胞生存シグナルを活性化する)がトラスツズマブの増殖阻止作用を妨げることが観察されている。本発明のbsBAを使用してIGF−Iレセプターによる細胞シグナル伝達を妨げ、抑制し、または阻止することによって、トラスツズマブ誘発増殖阻止を回復させることができる(例えば、Lu et al.,J.Natl.Cencer Inst. 93:1852−1857、2001参照)。従って、本発明のbsBAの1つの可能な使用は、トラスツズマブあるいはその他の現在または将来の抗癌治療剤に対する耐性の発現を防止または遅らせるためにIGF−Iレセプターシグナル伝達を標的とすることにある。
【0109】
最も悪い予後および致命的結果を伴う小児悪性腫瘍の中に、中枢神経系(CNS)非典型な類奇形/類横紋筋腫瘍(ATT/RhT)がある。今日まで、その細胞障害抑制剤および放射線療法に対する著しい耐性に関する説明はない。IGF−Iレセプターは、細胞の生存、増殖、形質転換、およびアポトーシスの調節において重要な役割を果たす。IGF−Iレセプターは、種々様々な抗癌剤および放射線によって誘発されるアポトーシスから癌細胞を保護するが、インヒビター、例えばアンチセンス戦略、ドミナントネガティブ突然変異体、または三重らせん形成によって傷つけられる場合には、腫瘍細胞は広範なアポトーシスを行い、実験動物モデルにおいて腫瘍形成および転移の阻害をもたらす。IGF−Iレセプターを標的とする本発明のbsBAは、IGF−Iレセプターの活性化によってシグナル伝達を妨げるかまたは抑制し、それによって病気の病態、例えば癌を治療するのに使用ことができる。
【0110】
インスリン様増殖因子(IGF)シグナル伝達経路とエストロゲンレセプター(ER)シグナル伝達経路の間のクロストークは、相乗的増殖をもたらす。エストロゲンは、IGF−Iレセプターの発現およびその下流シグナル伝達分子、ならびにインスリンレセプター基質(IRS)−1およびIRS−2を誘導することによってIGFシグナル伝達を高める。IGF−IレセプターおよびIRS発現のエストロゲン誘導は、IGF−I刺激、次いで高められたマイトジェンによって活性化されたプロテインキナーゼ活性化の後にIRS−1の高められたチロシンリン酸化をもたらす。これは、IGF−Iレセプターの活性化がエストロゲン介在の増殖および乳癌発病に関与することを示している(例えば、Lee et al.,Mol.Endocrinol. 13:787−796,1999参照)。従って、IGF−Iレセプターを標的とすることができる本発明のbsBAは、IGF−Iレセプターの活性化によってシグナル伝達を妨げるかまたは抑制し、それによってエストロゲン誘発乳癌病態を治療するのに使用ことができる。
【0111】
(血管内皮増殖因子レセプター(VEGFR))
血管内皮増殖因子(VEGF)は、低酸素および発癌突然変異によって誘発される多機能サイトカインである。VEGFは、胚形成における血管網の発生および維持の主な刺激剤である。VEGFは、効果のある透過性誘発剤、内皮細胞走化性物質、内皮生存因子、および内皮細胞増殖因子として機能する(Thomas,J. Biol.Chem. 271:603−606、1996;およびNeufeld et al., FASEB J.13:9−22,1999)。VEGFは、多数の生理学的および病理学的プロセス、例えば創傷治癒(Frank et al.,1995;Burke et al.,1995)、糖尿病性網膜症(Alon et al.,、1995;Malecaze et al.,1994)、乾癬(Detmar et al.,1994)、アテローム性動脈硬化症(Inoue et al.,1998)、慢性関節リウマチ(Harada et al.,1998;Nagashima et al.,1999)、および固形腫瘍増殖(Plate et al.,1994;Claffey et al.,1996)において血管新生または脈管形成を駆動する重要な因子である。
【0112】
種々様々な細胞および組織がVEGFを生成する。VEGF二量体は、高親和性を示して2つの十分に特定されたレセプター、すなわち内皮細胞で選択的に発現されるVEGFRI(FLT−1)およびVEGFR2(KDR/Flk−1)に結合する(Flt−1およびFlk−1はマウス同族体である)。VEGFRIおよびVEGFR2に結合するVEGFのKdは、それぞれ15〜100pMおよび400〜800pMである(Terman et al.,1994)。最近確認された第3の細胞表面タンパク質、ニューロピリン−1もまた高親和性を示してVEGFを結合する(例えば、Soker et al.,Cell.92(6):735−45(1998))。
【0113】
VEGFRIおよびVEGFR2は、7個の細胞外IgG様反復、一回貫通貫膜ドメイン、および細胞内スプリットチロシンキナーゼドメインによって特定されるType III型レセプターチロシンキナーゼ(RTK III)ファミリーのメンバーである(Mustonen and Alitalo,J Cell Biol 129:895−898(1995))。ごく最近まで、VEGFRIおよびVEGFR2は、ほぼ例外なく内皮細胞(id.)で発現されると考えられていた。最近の研究により、VEGF、VEGFRI、およびVEGFR2のそれぞれは、脈管形成、血管新生、および胚発生に不可欠であることが明らかにされている。VEGFR1は、VEGFに対してVEGFR2よりも高い親和性を有するが、低いチロシンキナーゼ活性を有する。
【0114】
VEGFレセプターに対するVEGF二量体の結合は、レセプターの二量化を誘発すると考えられる。次いで、レセプターの二量化は、シグナル伝達カスケードを招く特定のチロシン残基の自己リン酸基転移反応を生じる。VEGF誘発シグナル伝達のさらに下流の細胞内事象はあまり明らかではないが、多数の群がVEGFR2のVEGF活性化の後に酸化窒素(NO)が生成することを明らかにしている(Kroll and Waltenberger, Biochem Biophys Res Commun.252(3):743−6(1998))。VEGFによるVEGFR1ではなくVEGFR2の活性化が、SrcおよびRas−MAPキナーゼカスケード、例えばMAPキナーゼ、ERK1および2を活性化することも明らかにされている(Kroll and Waltenberger, J Biol Chem.272(51):32521−7(1997))。
【0115】
本発明のbsBAを調製するのに使用される好ましい結合分子は、例えば米国特許第5,840,301号、第5,874,542号、第6,703,020号明細書、ならびに国際公開第WO99/40118号パンフレットに記載されており、これらのそれぞれは参照することにより本明細書に組み込まれる。bsBAを調製するのに使用される好ましい結合分子は、モノクロナール抗体2C3(ATCC PTA 1595)である。VEGFレセプターに対してRNAアプタマー、アンチセンス分子およびリボザイムもまた、bsBAにおいて結合分子として使用できる。好ましいRNAアンチセンス分子、アプタマーおよびリボザイムは、例えばSaleh et al.,Cancer Res.56(2):393−401(1996); Cheng et al.,Proc Natl Acad Sci USA.93(16):8502−7(1996); Ke et al.,Int J Oncol.12(6):1391−6(1998)およびParry et al.,Nucleic Acids Res.27(13):2569−77(1999)に記載されている;これらのそれぞれは、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0116】
本発明の組成物および使用方法は、特に任意の型の血管新生腫瘍;黄斑変性症、例えば老化関連黄斑変性症;関節炎、例えば慢性関節リウマチ;アテローム性動脈硬化症およびアテローム硬化型プラーク;糖尿病性網膜症およびその他の網膜症;甲状腺過形成、例えばグレーブス病;血管腫;血管新生緑内障;および乾癬(これらはVEGFレセプターの不適切なまたは過度の活性化と関連がある)を有するかまたはこれらを患う危険性がある動物および患者(例えば、ヒト患者)に使用することを目的とする。
【0117】
本発明の組成物および使用方法は、さらに、動静脈奇形(AVM)、髄膜腫および血管再狭窄、例えば血管形成後の再狭窄、VEGFレセプターの不適切なまたは過度の活性化と関連がある病気を有するかまたはこれらを患う危険性がある動物および患者の治療を目的とする。治療方法および使用の別の目的とする標的は、下記のVEGFレセプター関連疾患:血管線維腫、皮膚炎、子宮内膜症、血友病性関節、肥厚性痕跡、炎症性の疾患および障害、化膿性肉芽腫、強皮症、滑膜炎、トラコーマおよび血管接着を有するかまたはこれらを患う危険性がある動物および患者である。
【0118】
前記に示した処置群は、本発明のbsBAで治療することができる病気を網羅するものではない。米国特許第5,712,291号明細書(参照することにより本明細書に組み込まれる)には、エフェクタードメインをVEGFレセプターの1つに指向させる場合に、本発明のbsBAを使用することによって効果的に治療し得る多数のその他の病気を特定する方法が開示されている。また、VEGFRを結合するエフェクタードメインを有する本発明のbsBAを使用して治療することができる別の病気が、例えば米国特許第6,703,020号明細書(参照することにより本明細書に組み込まれる)に見出すことができる。
【0119】
(腫瘍壊死因子レセプター(TNFR))
腫瘍壊死因(TNF)αおよびβは、TNFレセプターを介して作用して多数の生物学的プロセス、例えば感染ならびにショックおよび炎症性疾患の誘導に対する保護を調節するサイトカインである。TNF分子は、「TNFリガンド」スーパーファミリーに属し、そのレセプターまたはカウンターリガンド、すなわち「TNFレセプター」スーパーファァミリーと一緒になって作用する。これまで、TNFリガンドスーパーファミリーの9個のメンバーが確認されており、TNFレセプタースーパーファミリーの10個のメンバーが特定されている。リガンドの中には、TNF−β、リンホトキシン−β(LT−β、TNF−βとしても知られている)、LT−β(複合ヘテロ三量体LT−2−β中に見出される)、FasL、CD40L、CD27L、CD30L、4−1BBL、OX40Lおよび神経増殖因子(NGF)が含まれる。TNFレセプターのスーパーファミリーは、p55TNFレセプター、p75TNFレセプター、TNFレセプター関連タンパク質、FAS抗原またはAPO−1、CD40、CD27、CD30、4−1BB、OX40、低親和性p75およびNGF−レセプターを包含する(例えば、A.Meager, Biologicals 22:291−295,1994参照)。
【0120】
TNFリガンドスーパーファミリーの多数のメンバーは、活性化T細胞によって発現され、これらが細胞個体発生および機能の基礎となるその他の細胞型とのT細胞相互作用に必要であることを暗示する(Meager 1994,supra)。TNFレセプターファミリーのいくつかのメンバーの本質的な機能の注目に値する洞察が、これらのタンパク質の発現を止める突然変異体の確認および作製から得られている。例えば、FAS抗原およびそのリガンドにおける自然に発生する突然変異体は、リンパ球増殖性疾患を引き起こし(例えば、Watanabe−Fukunaga et al.,Nature 356:314,1992参照)、おそらくはプログラムされた細胞死の失敗をもたらす。CD40リガンドの突然変異体は、血漿中の高レベルの免疫グロブリンMおよび低レベルの免疫グロブリンGに特徴があるX連鎖免疫不全状態を引き起こし、不完全なT細胞依存性B細胞活性化を示す(例えば、R.C.Allen et al.,Science 259:990,1993参照)。低親和性神経増殖因子レセプターの標的とされる突然変異は、末梢構造の不完全な感覚革新(sensory innovation)に特徴がある疾患を生じる(例えば、Lee et al.,Cell 69:737,1992参照)。
【0121】
TNFRリガンド、すなわちTNFおよびLT−リガンドは、2つのTNFレセプター(55kdのTNFレセプターおよび75kdのTNFレセプター)に結合することができる。そのレセプターに作用するTNFおよびLT−リガンドによって誘発される多数の生物効果としては、移植腫瘍の出血性壊死、細胞障害性、内毒素ショックの役割、炎症、免疫調節、増殖および抗ウイルス反応、ならびに電離放射線の悪影響に対する保護が挙げられる。TNFおよびLT−リガンドは、広範な病気、例えば内毒素ショック、大脳マラリア、腫瘍、自己免疫疾患、AIDSおよび移植片宿主拒絶反応の病因に関与する(Beutler and Von Huffel,Science 264:667−668,1994)。p55レセプターにおける突然変異は、微生物感染症に対して高められた感受性を生じる。
【0122】
別のTNFR、すなわちTNF関連アポトーシス誘発リガンドすなわち「TRAIL」は、多数のヒト組織(例えば、脾臓、肺、前立腺、胸腺、卵巣、小腸、結腸、末梢血リンパ球、胎盤、腎臓)で発現される。TRAILが、FAS/Apo−ILによる死シグナル伝達に類似するが、TNF誘発アポトーシスよりもさらに早い時間枠の中で、FASリガンドと無関係に作用し、アポトーシスを迅速に活性化することが明らかにされている。
【0123】
腫瘍壊死因子(TNF)ファミリーリガンドが、大多数の多面性サイトカインの中で、多数の細胞応答、例えば細胞障害性、抗ウイルス活性、免疫調節活性、および数種の遺伝子の転写調節を誘発することが知られている。TNF−ファミリーリガンドに対する細胞応答としては、正常な生理学的応答ばかりではなく、高められたアポトーシスまたはアポトーシスの阻害と関連した病気も挙げられる。アポトーシスがプログラムされた細胞死は、免疫系の末梢Tリンパ球の欠失に関与する生理学的メカニズムであり、その異常調節は多数の異なる発病プロセスをもたらすことができる。高められた細胞生存;またはアポトーシスの阻害と関係がある病気としては、癌、自己免疫疾患、ウイルス感染症、炎症、移植片対宿主病、急性移植片拒絶反応、および慢性移植片拒絶反応が挙げられる。高められたアポトーシスと関係がある病気としては、AIDS、神経変性障害、骨髄異形成症候群、虚血性障害、毒素誘発肝疾患、敗血症性ショック、悪液質、および無食欲症が挙げられる。
【0124】
本発明のbsBAは、2つの結合ドメインの少なくとも1つがTNFRに特異的に結合するように調製することができる。次いで、このようなbsBAは、TNFRを活性化することによって、例えばTNFRを結合することによって、それによってアポトーシスを促進しおよび不適切な細胞増殖(例えば、癌の場合)を抑制または低下させることによって癌、自己免疫疾患、ウイルス感染症、炎症、移植片対宿主病、急性移植片拒絶反応、および慢性移植片拒絶反応を治療する方法において使用することができる。好ましい実施形態においては、bsBAの結合分子の1つはTNFRを結合しかつ第2の結合分子は標的細胞で発現されることが知られている第2のレセプター(例えば、第2の異なるTNFR、または疾患特異的レセプター)に結合する。癌の場合には、好ましい第2のレセプターは、ErbBファミリー、例えばErbB2のレセプターである。好ましくは、TNFRを結合するbsBAの結合分子は、第2の結合分子がそのレセプターに対して有する親和性よりも低い親和性を有する。
【0125】
あるいは、本発明のbsBAは、2つの結合分子の少なくとも1つがTNFRに特異的に結合し、TNFRの活性化を、例えばTNFRに結合するリガンドをブロックすることによって抑制するかまたは低下させるように調製することができる。このようなbsBAは、ここでは、TNFRの活性化を抑制するかまたは低下させることによって、例えばTNFRに結合するリガンドを抑制するかまたは低下させることによって、それによってアポトーシスを抑制または低下させることによってAIDS、神経変性障害、骨髄異形成症候群、虚血性障害、毒素誘発肝疾患、敗血症性ショック、悪液質、および無食欲症を治療する方法において使用することができる。好ましくは、2つの結合分子の少なくとも1つがTNFRに特異的に結合するbsBAは、高められたアポトーシスが示す病気(例えば、虚血性障害)を治療するのに使用される。好ましい実施形態において、bsBAのターゲッティングドメインは、抗原に指向させられるかまたは標的細胞で発現される第2のレセプター(すなわち、TNFR以外のレセプター)に指向させられ、bsBAを標的細胞に向けるのに使用される。
【0126】
(線維芽細胞増殖因子レセプター(FGFR))
線維芽細胞増殖因子(FGF)シグナル伝達経路は、正常な発育および創傷治癒の重要な部分である。チロシンキナーゼファミリーのメンバーであるFGFは、その効果を細胞表面レセプターを介して生じる。ヒトでは、4種類の線維芽細胞増殖因子レセプター(FGFR)が確認されている(FGFR1〜FGFR4)。
【0127】
FGFRは、二量化の後に自己リン酸化によって活性化される。二量化は、ヘパラン硫酸塩の存在下でのリガンド結合後に生じ、FGFRの細胞質ドメイン内の数個のチロシン残基のリン酸化をもたらす。FGFRのリン酸化は、キナーゼ活性を活性化し、MAPK、PI3キナーゼおよびStatl/3経路の活性化を招く。
【0128】
FGFR遺伝子における突然変異は、典型的にはレセプターの不適切な活性化による疾患または障害をもたらす機能獲得型突然変異をもたらす。FGFR突然変異は、いくつかの発達障害、例えばプファイファー症候群、ジャクソン−ウェイス症候群、クルゾン症候群、アペール症候群、Beare−Stevenson Cutis Gyrata症候群、Saethre−Chotzen症候群、軟骨形成不全、致死性骨異形成症、低軟骨形成症、Muenke症候群、および発育遅延を伴う重度の軟骨形成不全症および黒色表皮症(SADDAN)異形成症と関係がある。FGFRは、免疫組織化学によって正常組織と比べた場合に多数の腫瘍試料で過剰発現されることも認められる。例えば、FGFR過剰発現は、原発性の結腸直腸癌、膵癌、乳癌、および大腸癌で確認されている。FGF分子は、分裂促進因子、血管由来因子、および抗アポトーシス因子として作用し、また発癌に関与すると思われる。
【0129】
本発明のbsBAは、bsBAの2つの結合分子の少なくとも1つがFGFRに特異的に結合し、例えばFGFRがリガンドに結合するのを妨害することによってまたはFGFRの二量化を抑制するかまたは低下させることによってFGFRの活性化を抑制するかまたは低下させるように調製することができる。このようなbsBAは、ここでは、FGFRの活性化を抑制するかまたは低下させることによってプファイファー症候群、ジャクソン−ウェイス症候群、クルゾン症候群、アペール症候群、Beare−Stevenson Cutis Gyrata症候群、Saethre−Chotzen症候群、軟骨形成不全、致死性骨異形成症、低軟骨形成症、Muenke症候群、発育遅延を伴う重度の軟骨形成不全症および黒色表皮症(SADDAN)異形成症、原発性の結腸直腸癌、膵癌、乳癌、および大腸癌を治療する方法において使用することができる。好ましい実施形態において、bsBAのターゲッティングドメインは、標的細胞で発現される第2のレセプター(すなわち、FGFR以外のレセプター)に向けられ、bsBAを標的細胞に向けるのに使用される。
【0130】
(血小板由来増殖因子レセプター(PDGFR))
PDGFRファミリーは、結合組織細胞、例えば血管平滑筋細胞(VSMC)、乏突起膠細胞(神経線維を包み込む組織の細胞)、および軟骨細胞(軟骨細胞)の増殖および運動性を刺激する下流シグナル伝達酵素を活性化する。PDGFβレセプターは、VSMCの分化に指向させるために必須である。
【0131】
PDGFR経路の過剰発現は、PDGFRの不適切なまたは高められた活性化と関係がある種々の重度の疾患、例えばアテローム性動脈硬化症および癌と関係がある。あるいはまた、PDGFR経路の過剰発現は、骨、歯周組織、靭帯、および軟骨の修復を促進するためにPDGFRの活性化を促進することが望ましくあり得る。
【0132】
本発明のbsBAは、bsBAの2つの結合分子の少なくとも1つがPDGFRに特異的に結合し、例えばリガンドがPDGFRに結合するのを妨害することによってPDGFRの活性化を抑制するかまたは低下させるように調製することができる。このようなbsBAは、ここでは、PDGFRの活性化を抑制するかまたは低下させることによって、例えばアテローム性動脈硬化症および癌を治療する方法において使用することができる。好ましい実施形態においては、bsBAの第2の結合分子は、標的細胞で発現される第2のレセプター(例えば、PDGFR以外のレセプター)に指向させられ、bsBAを標的細胞に向けるのに使用される。好ましくは、PDGFRを結合するbsBAの結合分子は、第2の結合分子がそのレセプターに対して有する親和性よりも低い親和性を有する。
【0133】
あるいは、本発明のbsBAは、bsBAの2つの結合分子の少なくとも1つがPDGFRに特異的に結合し、PDGFRを活性化するように調製することができる。このようなbsBAは、ここでは、PDGFRを活性化することによって骨、歯周組織、靭帯および軟骨の修復を促進する方法において使用することができる。好ましい実施形態においては、bsBAのエフェクタードメインはPDGFRを結合しかつターゲッティングドメインは抗原に結合するかまたは標的細胞で発現することが知られている第2のレセプター(例えば、第2の異なるPDGFR、あるいは骨、歯周組織、靭帯または軟骨特異的レセプター)に結合する。
【0134】
(C−Kitレセプター(Steel因子レセプターとしても公知である))
c−Kitプロトオンコジーンは、メラニン細胞の発育および増殖に重要である貫膜チロシンキナーゼ型レセプターである。プロトオンコジーンc−Kitは、血小板由来増殖因子PDGF/CSF−1(c−fms)レセプターサブファミリーに関連した貫膜チロシンキナーゼレセプターをコードする。C−Kitは、胚メラニン芽細胞の正常な増殖および分化において極めて重要な役割を果たすことが認められている。メラニン細胞の悪性の形質転換およびヒトメラノーマの進行は、c−Kitプロトオンコジーンの発現の喪失と関係がある。c−Kitプロトオンコジーンによってコードされるチロシンキナーゼレセプターの発現は、腫瘍増殖およびヒトメラノーマの浸潤中に徐々に下降する。
【0135】
本発明のbsBAは、bsBAの2つの結合分子の少なくとも1つがc−Kitレセプターに特異的に結合し、活性化するように調製することができる。このようなbsBAは、ここでは、例えばメラノーマを治療する方法において使用することができる。好ましい実施形態においては、bsBAのターゲッティングドメインは抗原に対して指向させられるかまたは標的細胞で発現される第2のレセプター(すなわち、c−Kitレセプター以外のレセプター)に指向させられ、bsBAを標的細胞に向けるのに使用される。
Fcレセプター(FcR)
Fcレセプターは、抗原−抗体複合体、または凝集免疫グロブリン分子のFcの部位を結合しかつ特定のクラスの免疫グロブリンに対して特異性を示し得る凝集免疫グロブリンに対する特異的細胞表面レセプターである。FcRは、B細胞、K細胞、マクロファージ、好中球、および好酸球上で認められ、またいくつかの発生段階中には、T細胞上で認められる;K細胞、マクロファージ、および好中球上のFcRは、抗原に結合されたオプソニン化抗体に結合し、抗原のトリガー食作用を誘発する。
【0136】
ヒトFcRは、自己免疫疾患(例えば、全身性エリテマトーデス、自己免疫血小板減少性紫斑病、重症筋無力症、多発性硬化症、ブドウ膜炎、および甲状腺関連眼障害)、およびアレルゲンに対するアレルギー反応の発生または進行と関係があることが知られている。FcRの自然阻害は、末梢寛容の維持に関与し、それによって自己免疫および自己免疫疾患の発生を防止する。反対に、活性化FcRの不足は、自己免疫疾患由来の保護表現型、脱自己免疫をもたらす。
【0137】
本発明のbsBAは、bsBAの2つの結合分子の少なくとも1つがFcRに特異的に結合し、FcRの活性化を、例えば免疫細胞上のIg分子に対するその結合を妨害することによって抑制するかまたは低下させるように調製することができる。このようなbsBAは、ここでは、例えば自己免疫疾患、例えば全身性エリテマトーデス、自己免疫血小板減少性紫斑病、重症筋無力症、多発性硬化症、ブドウ膜炎、および甲状腺関連眼障害を治療する方法において使用することができる。典型的には、bsBAのターゲッティングドメインは、抗原にまたは標的細胞上で発現される第2のレセプター(すなわち、FcR以外のレセプター)に指向させられ、bsBAを標的細胞に向けるのに使用される。
【0138】
(サイトカインレセプターを結合するためのbsBAの使用)
重要な一群の実施形態において、ターゲッティングドメインまたはエフェクタードメインは、細胞表面上のサイトカインレセプターを結合するのに使用することができる。幾分好ましさで劣るいくつかの実施形態において、結合剤は、サイトカインレセプター(例えば、IL−13はIL−13レセプターを結合するための結合剤として使用することができる)に対する天然リガンド、またはレセプターに結合することができる能力を保持するこのようなリガンドのフラグメントであることができる。
【0139】
bsBAのターゲッティングドメインまたはエフェクタードメインによって所望のように結合されて本発明の方法において有用な結果をもたらすことができる典型的なサイトカインレセプター(括弧内に示す別名を有する)としては:
サイトカインレセプター共通γ鎖(γ−C)(インターロイキン−2レセプターγ鎖)(IL−2Rγ鎖)(P64)(CD132抗原);
インターロイキン−10レセプターα鎖(IL−10R−A)(IL−10R1);
インターロイキン−10レセプターβ鎖(IL−10R−B)(IL−10R2)(サイトカインレセプタークラス−II CRF2−4);
インターロイキン−12レセプターβ−1鎖(IL−12R−β1)(インターロイキン−12レセプターβ)(IL−12レセプターβ成分)(IL−12RB1);
インターロイキン−12レセプターβ−2鎖(IL−12レセプターβ−2)(IL−12R−β2);
インターロイキン−13レセプターα−1鎖(IL−13R−α−1)(IL−13RA−1)(CD213a1抗原);
インターロイキン−13レセプターα−2鎖(インターロイキン−13結合タンパク質);
インターロイキン−17レセプター(IL−17レセプター);
インターロイキン−17Bレセプター(IL−17Bレセプター)(IL−17レセプターホモローグ1)(IL−17Rh1)(IL17Rhl)(サイトカインレセプターCRL4)(UNQ2501/PRO19612);
インターロイキン21レセプター前駆物質(IL−21R);
インターロイキン−1レセプター、I型(IL−1R−1)(IL−1R−α)(P80)(抗原CD121a);
インターロイキン−1レセプター、II型(IL−1R−2)(IL−1R−β)(抗原CDw121b);
インターロイキン−1レセプターアンタゴニストタンパク質(IL−Ira)(IRAP)(IL1インヒビター)(IL−1RN)(ICIL−1RA);
インターロイキン−2レセプターα鎖(IL−2レセプターαサブユニット)(P55)(TAC抗原)(CD25抗原);
インターロイキン−2レセプターβ鎖(IL−2レセプター)(P70−75)(高親和性IL−2レセプターβサブユニット)(CD122抗原);
インターロイキン−3レセプターα鎖(IL−3R−α)(CD123抗原);
インターロイキン−4レセプターα鎖(IL−4R−α)(CD124抗原);
インターロイキン−5レセプターα鎖(IL−5R−α)(CD125抗原);
インターロイキン−6レセプターα鎖(IL−6R−α)(IL−6R1)(CD126抗原);
インターロイキン−6レセプターβ鎖(IL−6R−β)(インターロイキン6シグナル伝達物質)(膜糖タンパク質130)(gp130)(オンコスタチンMレセプター)(CDw130)(CD130抗原);
インターロイキン−7レセプターα鎖(IL−7R−α)(CDw127)(CD127抗原);
高親和性インターロイキン−8レセプターA(IL−8RA)(IL−8レセプター1型)(CXCR−1)(CDw128a);
高親和性インターロイキン−8レセプターB(IL−8RB)(CXCR−2)(GRO/MGSAレセプター)(IL−8レセプター2型)(CDw128b);
インターロイキン−9レセプター(IL−9R);
インターロイキン−18レセプター1(IL1レセプター関連タンパク質)(IL−1Rrp);
インターロイキン−1レセプター様1前駆物質(ST2タンパク質);
インターロイキン−1レセプター様2(IL−1Rrp2)(インターロイキン−1レセプター関連タンパク質2)(IL1R−rp2);
Toll様レセプター1(Toll/インターロイキン−1レセプター様)(TIL);
Toll様レセプター2(Toll/インターロイキン1レセプター様タンパク質4);
Toll様レセプター5(Toll/インターロイキン−1レセプター様タンパク質3);
CX3Cケモカインレセプター1(C−X3−CCKR−1)(CX3CR1)(Fractalkineレセプター)(GPR13)(V28)(βケモカインレセプター様1)(CMK−BRL−1)(CMKBLR1);
C−X−Cケモカインレセプター3型(CXC−R3)(CXCR−3)(CKR−L2)(CD183抗原);
C−X−Cケモカインレセプター4型(CXC−R4)(CXCR−4)(間質細胞由来因子1レセプター)(SDF−1レセプター)(Fusin)(白血球由来7回貫膜ドメインレセプター)(LESTR)(LCR1)(FB22)(NPYRL)(HM89)(CD184抗原);
C−X−Cケモカインレセプター型5(CXC−R5)(CXCR−5)(バーキットSリンパ腫レセプター1)(単球由来レセプター15)(MDR15);
C−X−Cケモカインレセプター6型(CXC−R6)(CXCR−6)(Gタンパク質結合レセプターbonzo)(Gタンパク質結合レセプターSTRL33);
ケモカイン結合タンパク質2(ケモカイン−結合タンパク質D6)(C−CケモカインレセプターD6)(ケモカインレセプターCCR−9)(CC−ケモカインレセプターCCR10);
C−Cケモカインレセプター1型(C−C CKR−1)(CC−CKR−1)(CCR−1)(CCR1)(マクロファージ炎症性タンパク質−1αレセプター)(MIP−1α−R)(RANTES−R)(HM145)(LD78レセプター);
C−Cケモカインレセプター2型(C−C CKR−2)(CC−CKR−2)(CCR−2)(CCR2)(単球化学誘引物質タンパク質1レセプター)(MCP−1−R);
C−Cケモカインレセプター3型(C−C CKR−3)(CC−CKR−3)(CCR−3)(CCR3)(CKR3)(好酸球エオタキシンレセプター);
C−Cケモカインレセプター4型(C−C CKR−4)(CC−CKR−4)(CCR−4)(CCR4)(K5−5);
C−Cケモカインレセプター5型(C−C CKR−5)(CC−CKR−5)(CCR−5)(CCR5)(HIV−1融合補助レセプター)(CHEMR13)(CD195抗原);
C−Cケモカインレセプター6型(C−C CKR−6)(CC−CKR−6)(CCR−6)(LARCレセプター)(GPR−CY4)(GPRCY4)(ケモカインレセプター様3)(CKR−L3)(DRY6);
C−Cケモカインレセプター7型前駆物質(C−C CKR−7)(CC−CKR−7)(CCR−7)(MIP−3βレセプター)(EBV誘発Gタンパク質結合レセプター1)(EBI1)(BLR2);
C−Cケモカインレセプター8型(C−C CKR−8)(CC−CKR−8)(CCR−8)(GPR−CY6)(GPRCY6)(ケモカインレセプター様1)(CKR−LI)(TER1)(CMKBRL2)(CC−ケモカインレセプターCHEMRI);
C−Cケモカインレセプター9型(C−C CKR−9)(CC−CKR−9)(CCR−9)(GPR−9−6);
C−Cケモカインレセプター10型(C−C CKR−10)(CC−CKR−10)(CCR−10)(G−タンパク質結合レセプター2);
C−Cケモカインレセプター11型(C−C CKR−11)(CC−CKR−11)(CCR−11)(ケモカインレセプター様1)(CCRL1)(CCXCKR);
ケモカインレセプター様1(G−タンパク質結合レセプターDEZ)(Gタンパク質結合レセプターChemR23)、
ケモカインレセプター様2(IL8関連レセプターDRY12)(Flow誘発内皮Gタンパク質結合レセプター)(FEG−1)(Gタンパク質結合レセプターGPR30)(GPCR−BR);
ケモカインXCレセプター1(XCケモカインレセプター1)(Lymphotactinレセプター)(Gタンパク質結合レセプター5)
が挙げられる。
【0140】
(腫瘍関連抗原を結合するためのbsBAの使用)
特に重要な一群の実施形態において、bsBAのターゲッティングドメインは、腫瘍関連抗原に結合する。その名称が示すように、腫瘍関連抗原(TAA)は、典型的には、特定の腫瘍の細胞上で発現されるが、典型的には正常細胞上で発現されない抗原である。多くの場合に、TAAは、生物の発育の特定の時点(例えば、胎児の発育中)でのみ細胞中で正常に発現される抗原およびこの発育の現時点で生物中で不適切に発現されつつある抗原であるか、または抗原を現在発現する器官の正常な組織または細胞では発現されない抗原である。多数のTAA、例えばMART−1、癌胎児性抗原(「CEA」)、gp100、MAGE−1、HER−2、およびLewis抗原、ならびに例えば米国特許第5,922,566号および第6,020,478号明細書および国際公開第WO2004/016643A2号パンフレットに記載の抗原が、当該技術で知られている。
【0141】
本発明のbsBAを用いて標的とするのに適しているその他の腫瘍関連抗原としては、
− 造血分化抗原− 通常、clsuster differentiation(CD)分類、例えばCD5、CD19、CD20、CD22、CD33、CD45、CD52、およびCD147と関連がある糖タンパク質;
− 細胞表面分化抗原、例えば糖タンパク質、例えば癌胎児性抗原(CEA、Swiss−Prot ID No.P06731)、腫瘍関連糖タンパク質(TAG−72、またCA72−4としても特定されている、例えば、Hombach et al.,Gastroenterology.113(4):1163−70(1997)参照)、多型上皮ムチン(PEM)、上皮細胞接着分子(Ep−CAM)、MUC−1、A33、G250、E−カドヘリン、前立腺特異的膜抗原(PSMA、Swiss−Prot ID No.Q04609)および前立腺特異的抗原(PSA)、糖脂質、例えばガングリオシド、例えば、GD2、GD3、GM2)および糖質、例えば血液型抗原、例えばLEおよびLE(LEは「LewisY」であり、「CD174」としても知られている;これは糖脂質および糖タンパク質の2型血液型オリゴ糖について認められるジフコシル化四糖である);
− 増殖因子レセプター、例えば上皮増殖因子レセプター(EGFR,ErbBI、Swiss−Prot ID P00533)およびその突然変異体型EGFRvIII、ErbB2(HER−2/neu、Swiss−Prot ID No.P04626)、ErbB3(HER−3、Swiss−Prot ID No.P21860)およびIL−2レセプター
− 血管新生および間質抗原、例えば線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、血管内皮増殖因子レセプター(VEGFR)、テネイシンおよびインテグリン;ならびに
− Frizzledレセプターファミリー(例えばFz−2)
が挙げられる。
【0142】
いくつかの実施形態において、bsBAのターゲッティングドメインはTAAを結合するために向けられるが、これに対してエフェクタードメインは増殖因子レセプターに結合する。
【0143】
いくつかの実施形態において、ターゲッティングドメインは、CEA(Swiss−Prot ID No.P06731)、ErbB2(Swiss−Prot ID No.P04626)、EGFR(Swiss−Prot ID No.P00533)、LewisY、MUC−1(Swiss−Prot ID No.P15941)、EpCAM(mAb17−lA(エドレコロマブ、Panorex(登録商標)、Glaxo Wellcome GmbH)の標的)、CA125(Swiss− Prot ID No.Q96RK2)、PSMA(Swiss−Prot ID No.Q04609)、TAG72、CD20(Swiss−Prot ID No.P11836)、CD19(Swiss−Prot ID No.P15391)、CD22(Swiss−Prot ID No.P20273)、およびCD36(Swiss−Prot ID No.P16671)から選択される分子を標的とする。CD抗原が特に正常細胞で頻繁に発現されるが、ある種の癌でまたはある種の癌のマーカーで過剰発現されることが認められるべきである。
【0144】
いくつかの好ましい実施形態において、エフェクタードメインは、ErbB3(Swiss−Prot ID No.P21860)、ErbB4(Swiss−Prot ID No.Q15303)、FGFレセプター1−4(Swiss−Prot ID Nos.P22455、P11362、P21802、P22607)、HGFレセプター(Swiss−Prot ID No.P08581)、IGF1−R(Swiss−Prot ID No.P08069)、インスリンレセプター(Swiss−Prot ID No.P06213)、PDGFレセプターαおよびレセプターβ(Swiss−Prot ID No.P16234、およびP09619それぞれ)ならびにC−KIT(Swiss−Prot ID No.PI0721)から選択される分子に結合する。いくつかの特に好ましい実施形態において、ターゲッティングドメインは、前記のパラグラフに記載の分子に結合し、エフェクタードメインはこのパラグラフに記載の分子に結合する。
【0145】
(アプタマー)
結合分子の一方または両方がアプタマーであるbsBAは、米国特許第5,756,291号明細書(本明細書に参照することにより組み込まれる)に記載のようにして調製することができる。アプタマーは、通常、「SELEX」(「systematic evolution of ligands by exponential enrichment」の省略である)法で調製することができる。これは、選択された分子標的に対してアプタマーを確認するため使用される反復法である。まず、核酸分子の大きな「ライブラリー」が作製される。選別段階で、関心の標的に対して最も大きい親和性を有する分子が単離される。ヌクレオチド配列のライブラリーは、細胞表面タンパク質に暴露され、ある時間インキュベートされる。ライブラリー中の標的に対して弱い親和性を有するかまたは全く親和性を有していない分子が洗い落とされ、最も高親和性のアプタマーである分子の中から、標的結合分子が標的から精製され、SELEX」プロセスのその後の工程に使用される。
【0146】
捕捉され、精製された配列は、標的に結合することができる分子について実質的に富化される分子の新しいライブラリーを生成させるために、酵素的にコピーされるか、または「増幅される」。富化ライブラリーは、選別、分別および増幅の新しいサイクルを開始するのに使用される。全プロセスの5〜15サイクルの後に、分子のライブラリーを、1015のユニーク配列から、関心の細胞表面タンパク質にしっかりと結合する少数にまで減らす。次いで、混合物中の分子が単離され、そのヌクレオチド配列が調べられ、そしてその結合親和性に関する特性が抗体について本質的に測定される。アプタマーは、標的結合またはアプタマー構造に寄与しないヌクレオチドを除外するためにさらに精製される場合が多い。そのコア結合ドメインに切断されたアプタマーは、典型的にはヌクレオチド15〜60個の長さの範囲にある。2つのアプタマーは、ヌクレオチドリンカーによって結合されるかまたは化学的に架橋されて二重特異性アプタマーを形成し得るし、あるいは単一のアプタマーは、抗体または抗体フラグメントに同様に結合されてキメラ抗体−DNA分子を形成し得る。
【0147】
(化学的架橋による二重特異性BAの作製)
二重特異性遮断剤、例えば二重特異性抗体の結合分子は、当業者に知られている慣用の結合方法、例えば上記のHermansonの論文に記載の方法を使用して結合することができる。いくつかの実施形態において、bsBAの2つの結合分子は、化学結合を使用して結合される。化学結合を使用して調製した従来の二重特異性抗体の一例は、Brennanら(Science,229:81(1985))によって記載されており、本発明のbsBAを調製するのに使用することもできる。完全抗体は、タンパク質分解切断されてフラグメントF(ab´)を生成する。これらのフラグメントは、近接するジチオール類を安定化させかつ分子内ジスルフィド形成を防ぐために、ジチオール錯形成剤 亜ヒ酸ナトリウムの存在下で小さくされる。生成したフラグメントFab´は、次いで、チオニトロ安息香酸(TNB)誘導体に転化される。次いで、Fab´−TNB誘導体の1つは、メルカプトエチルアミンを用いて還元することによりFab´−チオールに再転化され、等モル量の別のFab´−TNB誘導体と混合されて二重特異性抗体を形成する。生成した二重特異性抗体は、酵素の選択的固定化用の薬剤として使用することができる。
【0148】
別の好ましい化学的結合は、架橋用にビス−マレイミドヘキサン又ジ−マレイミドエタンを用いる。また、架橋用の−SH基含有抗体フラグメントは、完全な長さの抗体のタンパク分解切断を避けるために、組換えで調製することもできる(例えば、Shalaby et al.,J.Exp.Med.,175:217−225(1992)参照)。
組換え法または合成法によるbsBAの作製
bsBAは、組換え法によって調製することもできる。bsBAをコードする核酸配列は、適当な方法、例えば適切な配列のクローニングによって調製することができる、あるいは種々の方法、例えばNarang,et al.,Meth.Enzymol.68:90−99(1979)のリン酸トリエステル法;Brown,et al.,Meth.Enzymol.68:109−151(1979)のリン酸ジエステル法;Beaucage,et al.,Tetra.Lett.22:1859−1862(1981)のジエチルホスホロアミダイト法;例えばNeedham−VanDevanter, et al. Nucl.Acids Res.12:6159−6168(1984)に記載のように自動合成装置を使用するBeaucage & Caruthers,Tetra.Letts.22(20):1859−1862に記載の固相ホスホロアミダイトトリエステル法;および米国特許第4,458,066号明細書の固体支持法による直接化学合成によって調製することもできる。化学合成は、一本鎖オリゴヌクレオチドを生成する。これは、相補的配列を用いるハイブリダイゼーションによって、またはDNAポリメラーゼを用いて一本鎖を鋳型として使用する重合によって二本鎖DNAに転化し得る。当業者には、DNAの化学合成が約100個の塩基の配列に限定されるのに対して、それよりも長い配列は短い配列の結合によって取得し得ることが認められるであろう。
【0149】
好ましい実施形態において、bsBAをコードする核酸配列は、クローニング法で調製される。適当なクローニング法および配列決定法、ならびに多数のクローニング実行によって当業者を導くのに十分な使用説明書の例は、Sambrook et al.,Molecualr Cloning:A LABORATORY MANUAL(2ND ED.),Vols.1−3,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)),Berger and Kimmel(eds),GUIDE TO MOLECULAR CLONING TECHNIQUES,Academic Press,Inc.,San Diego CA(1987)),またはAusubel et al.,(eds.),CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,Greene Publishing and John Wiley & Sons,Inc.,(1987、1995 Supplement)(Ausubel))に見出される。生物試薬および実験装置の製造業者からの製品情報も、有用な情報を提供する。このような製造業者としては、SIGMA chemical company(Saint Louis,MO)、R&D systems(Minneapolis,MN)、Pharmacia Amersham(Piscataway,NJ)、CLONTECH Laboratories,Inc.(Palo Alto,CA)、Chem Gene Corp.,Aldrich Chemical Company(Milwaukee,WI)、Glen Research,Inc.,GIBCO BRL Life Technologies,Inc.(Gaithersburg,MD)、Fluka Chemica− Biochemika Analytika(Fluka Chemie AG,Buchs,Switzerland)、Invitrogen(San Diego,CA)、およびApplied Biosystems(Foster City,CA)、ならびに当業者に知られているその他の多くの商業的供給源が挙げられる。
【0150】
bsBAをコードする核酸はいったんクローンされると、これは所望のタンパク質を組換え操作細胞、例えば細菌、植物、酵母、昆虫および哺乳動物細胞中で発現し得る。当業者がタンパク質の発現に利用できる多数の発現系、例えば大腸菌、その他の細菌宿主、酵母、および種々の高等真核細胞、例えばCOS、CHO、HeLaおよび骨髄腫細胞株に精通していることが予測される。原核生物または真核生物においてタンパク質の発現について知られている種々の方法を詳細に説明することを試みることは行わないであろう。
【0151】
当業者には、bsBAをコードする核酸をその生物活性を低下させることなく修飾できることが認められるであろう。いくつかの修飾が、クローニング、発現、またはターゲッティング分子の融合タンパク質への組込みを促進するために行い得る。このような修飾は、当業者には周知であり、かつ例えば終止コドン、開始部位を提供するためのアミノ末端で付加されたメチオニン、および都合よく配置された制限部位を作製するためにいずれかの末端上に配置された追加アミノ酸を含む。
【0152】
組換え法の他に、bsBAは、標準的なペプチド合成を使用して全体としてまたは一部として組立てることもできる。アミノ酸約50未満の長さの本発明のポリペプチドの固相合成は、配列のC末端アミノ酸を不溶性支持体に付着させ、次いで該配列に残りのアミノ酸の連続付加によって達成し得る。固相合成に関する技術は、Barany & Merrifield,The Peptides:Analysis,Synthesis,Biology.Vol.2:Special Methods in Peptide Synthesis,Part A.pp.3−284; Merrifield,et al.,J.Am.Chem.Soc.85:2149−2156(1963)およびStewart et al.,Solid Phase Peptide Synthesis,2nd ed.,Pierce Chem.Co.,Rockford,III(1984)によって記載されている。さらに大きな長さのタンパク質は、短いフラグメントのアミノ末端とカルボキシル末端との縮合によって合成し得る。カルボキシル末端の活性化による(例えば、カップリング試薬N,N´−ジシクロヘキシルカルボジイミドの使用による)ペプチド結合を形成する方法は当業者には知られている。
【0153】
いったん発現されると、組換えbsBAは、当該技術の標準的な方法、例えば硫酸アンモニウム沈降法、親和性カラム法、カラムクロマトグラフィーなど(一般には、R.Scopes,Protein Purification,Springer− Verlag,N.Y.(1982)参照)に従って精製することができる。少なくとも約90〜95%の等質性の実質的に純粋な組成物が好ましく、医薬用途には98〜99%またはそれ以上の等質性が最も好ましい。治療に使用されるべきである場合には、部分的にまたは所望の等質性までいったん精製されると、ポリペプチドは内毒素を実質的に含有しない。
【0154】
大腸菌などの細菌から一本鎖抗体を発現するおよび/または適当な活性体、例えば一本鎖抗体に再び折りたたむ方法は、記載されておりかつ周知であり、また本発明のbsBA、特に抗体を用いるbsBAに適用できる。Buchner et al.,Anal.Biochem.205:263−270(1992);Pluckthun,Biotechnology 9:545(1991);Huse et al.,Science 246:1275(1989)およびWard et al.,Nature 341:544(1989)参照。これらは全て、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0155】
度々、大腸菌またはその他の細菌由来の機能的異種ンパク質は、封入体から単離され、強い変性剤を使用する可溶化、およびその後の再生を必要とする。溶解工程中は、当該技術で周知のように、ジスルフィド結合を分離するために還元剤を存在させなければならない。還元剤を有する典型的な緩衝液は、0.1M Tris(pH8)、6Mグアニジン、2mM EDTA、0.3M DTE(ジチオエリトリトール)である。ジスルフィド結合の酸化還元は、Saxena et al.,Biochemistry 9:5015−5021(1970)(参照することにより本明細書に組み込まれる)に記載のように、特にBuchner et al.,supraに記載のように、還元および酸化された形の低分子量チオール試薬の存在下で生じ得る。
【0156】
再生は、典型的には変性および還元タンパク質を再生緩衝液に希釈(例えば100倍希釈)することによって達成される。典型的な緩衝液は、0.1M Tris(pH8.0)、0.5M l−アルギニン、8mM 酸化されたグルタチオン(GSSG)、および2mM EDTAである。
【0157】
2本鎖抗体精製プロトコールの変更として、H鎖およびL鎖領域は、別々に可溶化され、還元され、次いで再生溶液中で組み合わせられる。好ましい収率は、これらの2つのタンパク質を、一方のタンパク質が他方のタンパク質に対して5倍モル過剰を超えないようなモル比で混合した場合に得られる。酸化還元−シャフリングが完結した後に、過剰酸化グルタチオンまたはその他の酸化性低分子量化合物を再生溶液に加えることが望ましい。
bsBAを基材とする治療剤用途
さらにまた、本発明は、1種またはそれ以上の前記の疾患または障害を治療するために、本発明のbsBAを動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒト患者に投与することを伴うbsBAを基剤とする療法に関する。本発明の治療剤化合物としては、本発明のbsBAが挙げられるが、これに限定されない。本発明のbsBAは、細胞表面レセプターの異常発現および/または活性と関係がある本明細書に記載の疾患または障害を治療、抑制または予防するのに使用できる。細胞表面レセプターの異常発現および/または活性と関係がある疾患および障害の治療および/または予防は、これらの疾患および障害と関係がある症状を緩和することを含むが、これに限定されない。本発明のbsBAは、当該技術では知られているかまたは本明細書に記載の薬学的に受容可能な組成物で提供し得る。本明細書において提供される教示を使用して、当業者にはどのようにして本発明のbsBAを、過度の実験を行うことなく診断、監視、または治療用途に使用するかについて知るであろう。
【0158】
本発明のbsBAは、単独でまたは別の種類の治療(例えば、放射線療法、化学療法、ホルモン療法、免疫療法および抗腫瘍剤)と組み合わせて投与し得る。
bsBAを基剤とする治療/予防用組成物およびその投与
本発明は、対象に有効量の本発明のbsBA、好ましくは本発明の二重特異性抗体を投与することによる治療、阻止および予防方法を提供する。好ましい態様においては、bsBAは実質的に精製される(例えば、その効果を制限するかまたは望ましくない副作用を生じる物質を実質的に含有してない)。前記対象は、好ましくは動物、例えばウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコおよびイヌ(これらに限定されない)であり、また好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトである。
【0159】
種々の送達システム、例えばリポソームへの封入、微小粒子、マイクロカプセル、bsBAを発現することができる組換え細胞、レセプター介在エンドサイトーシス(例えば、Wuand Wu,J.Biol.Chem.262:4429−4432,1987参照)、レトロウイルスまたはその他のベクターの部分として核酸の組立て体などが知られており、本発明のbsBAを投与するのに使用できる。導入の方法としては、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外および経口経路が挙げられるが、これらに限定されない。bsBAは、任意の慣用の経路によって、例えば輸液またはボーラス投与によって、上皮または皮膚粘膜内層(例えば、口腔粘膜、直腸および腸粘膜など)による吸収によって投与してもよいし、また他の生物学的活性剤と一緒に投与してもよい。投与は、全身または局所であり得る。さらにまた、投与は、本発明のbsBAを中枢神経系に適当な経路、例えば脳室内および髄膜内注射によって導入することが望ましい得;脳室内注射は、例えばオンマヤ槽のような貯留槽に接続した脳室内カテーテルによって促進し得る。また肺投与も、例えば吸入器または噴霧器を使用することによって、およびエアゾール化剤を用いた製剤を使用することによって使用することができる。
【0160】
具体的実施形態においては、本発明のbsBAを、治療を必要とする部位に局所的に投与することが望ましい得;これは、例えば、限定としてではなく、手術中の局所注入、例えば手術後の創傷包帯と共に局所投与によって、注射によって、カテーテルを用いて、坐薬を用いて、またはインプラントを用いて達成し得る。前記のインプラントは、多孔質、非孔質、またはゼラチン質物質、例えばシラスチック膜などの膜、または線維である。好ましくは、本発明のbsBA、例えば抗体を投与する場合には、bsBAが吸収しない材料を使用するように注意しなければならない。
【0161】
別の実施形態において、bsBAは、小胞、特にリポソームで送達させることができる(Langer,Science 249:1527−1533,1990;およびTreat et al.,in Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer,Lopez−Berestein and Fidler(eds.),Liss,New York,pp.353−365,1989参照)。
【0162】
さらに別の実施形態においては、bsBAは制御放出系で送達することができる。1つの実施形態においては、ポンプを使用し得る(Langer,supra;Sefton,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201,1987; Buchwald et al.,Surgery 88:507,1980; Saudek et al.,N.Engl.J.Med.321:574,1989参照)。別の実施形態においては、高分子材料を使用することができる(Medical Applications of Controlled Release,Langer and Wise(eds.),CRC Pres.,Boca Raton,Fla.(1974); Controlled Drug Bioavailability,Drug Product Design and Performance,Smolen and Ball(eds.),Wiley,N.Y.(1984); Ranger and Peppas,J.,1983,Macromol.Sci.Rev.Macromol.Chem.23:61参照;またLevy et al.,1985,Science 228:190; During et al.,1989,Ann.Neurol.25:351;Howard et al.,1989,J.Neurosurg.71:105も参照)。さらに別の実施形態においては、制御放出系は、治療標的、例えば体の病気に冒された器官、例えば脳、肺、腎臓、肝臓、卵巣、精巣、結腸、膵臓、乳房および皮膚の近くに配置することができ、従って全身用量の一部分のみを必要とする(例えば、Goodson,in Medical Applications of Controlled Release,supra,vol.2,pp.115−138(1984)参照)。その他の制御放出系はLanger(1990,Science 249:1527−1533)による概説で論議されている。
【0163】
また、本発明は、医薬組成物で提供されるbsBAを提供する。このような組成物は、治療有効量のbsBAと薬学的に受容可能なキャリアを含有する。具体的な実施形態において、「薬学的に受容可能な」という用語は、連邦政府または州政府の監督官庁によって承認されているか、あるいは米国薬局方または動物、さらに詳しくはヒトに使用するためのその他の一般的に認められている薬局方に挙げられていることを意味する。「キャリア」という用語は、治療剤と共に投与される希釈剤、補助剤、賦形剤、またはビヒクルを示す。このような製薬キャリアは、滅菌液体、例えば水および油類、例えば石油、動物、植物または合成起源の油、例えば落花生油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油などであることができる。医薬組成物が静脈内投与される場合には、水が好ましいキャリアである。食塩水溶液および水性デキストロースおよびグリセロール溶液もまた、特に注射液用の液状キャリアとして使用することができる。適当な製薬賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。組成物は、所望ならば、少量の湿潤剤または乳化剤、あるいはpH緩衝剤を含有することもできる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、徐放性製剤などの形をとることができる。組成物は、従来の結合剤およびキャリア、例えばトリグリセリドを用いた坐薬として製剤化することができる。経口製剤は、標準的なキャリア、例えば医薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどを含有することができる。適当な製薬キャリアの例は、「Remington:The Science and Practice of Pharmacy,」A.R. Gennaro,ed.Lippincott Williams & Wilkins,Philadelphia,PA(20th Ed.,2003)に記載されている。このような組成物は、治療有効量の化合物を、好ましくは精製された形で、患者に適切に投与するための形態を提供するように適当な量のキャリアと一緒に含有するであろう。製剤は、投与の様式に適合させるべきである。
【0164】
好ましい実施形態において、組成物は、常用の方法に従ってヒトに静脈内投与するのに適した医薬組成物として製剤化することができる。典型的には、静脈内投与用の組成物は、滅菌等張性水性緩衝液の溶液である。必要な場合には、組成物は、可溶化剤および注射の部位の疼痛を和らげるために局所麻酔薬、例えばリグノカインも含有していてもよい。一般に、諸成分は、別々に供給されるか、または単位剤形で、例えば乾燥凍結乾燥粉末または密封容器中の無水濃厚物、例えば有効成分の分量を示すアンプルまたは分包として一緒に混合される。組成物を輸液によって投与すべき場合には、滅菌医薬グレートの水または食塩水を含有する輸液ビンを用いて調合することができる。組成物を注射によって投与する場合には、注射用滅菌水または食塩水のアンプルを、諸成分を投与前に混合物するように、提供することができる。
【0165】
bsBAは、医薬組成物に製剤化される場合には、中性または塩の形態として製剤化することができる。薬学的に受容可能な塩としては、陰イオンを用いて形成される塩、例えば塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などから誘導される塩、および陽イオンを用いて形成されル塩、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第ニ鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2−エチルアミノ エタノール、ヒスチジン、またはプロカインから誘導される塩が挙げられる。
【0166】
細胞表面レセプターの異常な発現および/または活性と関係がある病気または疾患の治療、抑制および予防において有効であろう本発明のbsBAの量は、標準的な臨床技法調べることができる。また、生体外アッセイを、場合により最適用量範囲を確認するのに役立てるために使用し得る。また、製剤化に使用すべき正確な用量は、投与の経路、および病気または疾患の重症度に左右され、開業医の判断およびそれぞれの患者の状況に従って決定されるべきである。有効量は、生体外または動物モデル試験系から誘導される用量応答曲線から推定し得る。
【0167】
bsBAについて、患者に投与される用量は、典型的には患者の体重について0.1mg/kg〜100mg/kgである。好ましくは、患者に投与すべき用量は、患者の体重について0.1mg/kg〜20mg/kgの間、さらに好ましくは患者の体重について1mg/kg〜10mg/kgである。一般に、ヒト抗体は、外来ポリペプチドに対する免疫応答により、ヒトの体内で他の種由来の抗体よりも長い半減期を有する。従って、ヒト抗体から誘導されるbsBAは、より少ない量でかつより少ない投与回数を用いて投与することができる。また、本発明のbsBAの用量および投与回数は、修飾、例えば脂質化によって摂取および抗体の組織浸透を高めることによって減らし得る。
【0168】
(キット)
本発明はまた、標的分子生体内でまたは生物学的試料中で発現するかまたは過剰発現する細胞を検出するのに使用されるキットを包含する。いくつかの好ましい実施形態において、キットは二重特異性scFv抗体によって標的とされるbsBAを含有する。使用に応じて、抗体は、本明細書に記載のエフェクター(例えば、放射性部分、リポソーム、細胞毒、別の抗体など)に結合するために、リンカーまたはキレーターあるいはその両方を用いて官能化させることができる。キットは、場合によりbsBAの検出に使用すべき緩衝液および組成物をさらに含有していてもよい。
【0169】
キットはまた、例えば癌細胞を検出するための抗体の使用を教示するおよび/または抗体と官能化試薬との組み合わせを教示するかあるいは画像形成および/または治療用途に官能化抗体の使用を教示する教材を含むことができる。ある実施形態においては、2つの成分を別々に投与することができる(例えば、予備ターゲッティングアプローチにおいて)ようにまたは2つの成分を使用直前に投与することができるように、リンカーおよび/またはキレーター(1つの容器中で)を1つまたはそれ以上のエフェクター、例えば細胞毒、放射性マーカー(第2の容器中で)と共に用いて機能化させたbsBAが提供される。
【0170】
ある教材は、推奨される投与計画、カウンターインジケーションなどを提供するであろう。教材は典型的には資料または印刷物からなるが、このような取り扱い説明書を保存しかつこれらをエンドユーザーに知らせることができる媒体が本発明によって熟慮される。このような媒体としては、電子保存媒体(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学媒体(例えば、CD ROM)など、または説明書を提供するインターネット・ロケーションが挙げられる。本発明はまた、本発明の医薬組成物の1種またはそれ以上の成分を充填した1つまたはそれ以上の容器からなる医薬パックまたはキットを提供する。医薬または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関によって規定された形の通知が、場合によりこのような容器(1個または複数)と関係付けられる。この通知は、ヒトに投与するための製造、使用または販売のための政府機関による承認を反映する。
【実施例】
【0171】
(実施例1)
(ダイアボディおよび(scFv)
ダイアボディの製造は、例えば、欧州特許第404,097号明細書;国際公開第WO93/11161号パンフレット;およびHollingerらの論文(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444−6448(1993))に開示されている。ダイアボディは、抗体フラグメントから、通常は2個のscFvから、短すぎて同じ鎖上の2つのドメイン同士の間での対合を可能にすることができないリンカーを使用することによって組み立てられる;2つのドメインは、別の鎖の相補的ドメインと対合し、2つの抗原−結合部位を作製することを強いられる。あるいは、2つのscFvは、2つの分子を共有結合する遺伝子コードリンカーによって結合され、それによって二価抗体である(scFv)を形成し得る。
【0172】
(実施例2)
異なる種類の「二量化ドメイン」は、2つの抗体フラグメントをヘテロ二量化させるのに使用し得る。例えば、二重特異性/二価ダイアボディを、ヒンジ領域によって、IgGのCH(3)ドメインのN末端に遺伝子融合することによって(Lu et al.,J Immunol Methods.279(1−2):219−32(2003))、「ジ−ダイアボディ」と呼ばれる組み立て体を作製する。結果は、前記ヒンジ領域とCH(3)ドメインの間の二量化により生じる四価ダイアボディ二量体である。
【0173】
抗体の天然CHIドメインはまた、一本鎖Fv(scFv)を異なる抗原−結合特異性をもつFabフラグメントのL鎖またはH鎖いずれかのC末端に遺伝子融合する(genetically fusing)ことによって2つの抗体フラグメントをヘテロ二量化するのに使用し得る(Lu et al.,Immunol Methods.267(2):213−26(2002))。また、IgGのH鎖とL鎖の間の自然二量化メカニズムも使用し得る。異なる特異性をもつ2つの一本鎖Fv(scFv)は、ヒトκ鎖の定常部(C(L))およびヒトH鎖の第1の定常部(C(H1))に融合させて、2つのポリペプチド、すなわち(scFv)(1)−C(L)および(scFv)(2)−C(H1)−C(H2)−C(H3)それぞれを形成することができる。哺乳動物細胞で前記2つのポリペプチドの同時発現は、二重特異性を有する共有結合したIgG様へテロ四量体、Bs(scFv)(4)−IgGの形成をもたらす(Zuo et al.,Protein Eng.13(5):361−7(2000),Lu et al.,J.Biol Chem.23;279(4):2856−65(2004))。
【0174】
また、2つの抗体フラグメントのヘテロ二量体形成は、例えばこれらが2つの異なるFab´フラグメントに別々に融合する場合には二重特異性F(ab´)の形成に介在することができるヘテロ二量体形成ロイシンジッパーFosおよびJunを用いて二量化ドメイン中で非共有相互作用によって推し進め得る(Tso et al.,J Hematother.4(5):389−94(1995))。
【0175】
(実施例3 適当な標的およびエフェクターマーカーの決定)
適当な標的マーカーは、多数の方法で、例えば標的組織で過剰発現される標的分子を確認するために標的および非標的組織のmRNAプロファイリングによって、またはプロテオーム法、例えばタンパク質発現レベルの比較およびその後の質量分光分析法による確認のための標的および非標的細胞の2D電気泳動によって決定し得る。例えば、mRNAプロファイリングは、典型的にはAffymetrixマイクロアレイを用い、標的および非標的組織(例えば、腫瘍および隣接正常組織)から調製したcRNAを、Caoらの文献(BMC Genomics.27;5(1):26(2004))に記載のように、比較することによって行う。
【0176】
プロテオーム法においては、標的細胞および非標的細胞を、典型的には溶解するかまたはホモジナイズし、次いで二次元で電気泳動に供する。次いで、タンパク質をゲル中で固定し、視覚化のために染色する。標的および非標的細胞由来のゲルの画像分析は、違った形で発現されるよりもタンパク質スポットを明らかにすることができる。次いで、これらのスポットは、タンパク質スポットの切除、ゲル内トリプシン消化、および質量分光光度計による分析によって確認することができる。この方法は、例えば、Van Greevenbroek et al.45,1148−1154(2004)に記載されている。
【0177】
適当なエフェクターマーカーは、多数の方法で、例えば推定されるリン酸化部位を有するレセプターを確認することによって確認することができる。タンパク質またはDNA配列は、GenBankまたはその他の公開データベースから入手することができ、可能性のあるリン酸化部位は、利用可能な公開サーチエンジン、例えばScanSite(オンラインで「http://」を記入し、次いで「scansite.mit.edu/」を記入することによって見出される)またはNetPhos(ウェブ上で「www.」を記入し、次に「cbs.dtu.dk/services/NetPhos/」を記入することによって見出される)により予測することができる。リン酸化部位を有するレセプターは、シグナル伝達に関与する場合が多いことから、良好なエフェクターマーカーであると思われる。また、適当なエフェクターマーカーは、標的細胞を、細胞上のマーカーに対する抗体と接触させ、次いで前記のようにして所望の生物活性についてアッセイすることによって確認し得る。
【0178】
(実施例4:一価および二価結合ドメインの試験)
結合ドメインまたは二重特異性結合分子の一価親和性を試験するために、bsBAを前記のようにして製造した。結合反応速度を表面プラズモン共鳴で測定するために、バイオセンサーチップを、N−エチル−N´−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)およびN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)を使用して、製造業者(BIAcore)に説明書に従って、レセプターの共有結合のために活性化することができる。次いで、マーカーを、例えば10mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)に注入することによって結合させて、理想的には固定された物質の400応答単位(RU)よりも小さいシグナルを得る。反応速度測定については、一価のまたは二重特異性の結合ドメインの2倍連続希釈液を、PBS/Tween緩衝液(リン酸緩衝食塩水中の0.05%Tween−20)中で抗原チップ上に25℃で20μl/分の流量を使用して注入する。次いで、解離データをone−siteモデルに挿入してkoffを得、擬似一次速度定数(ks)をそれぞれの結合曲線について計算し、タンパク質濃度の関数としてプロットしてkon+/−s.e.を得ることができる。次いで、平衡解離定数Kdを、SPR測定値からkoff/konとして算出することができる。実験アーチファクト、例えば解離したbsBAの再結合の不存在は、種々の密度、例えば100、200および400RUのいくつかの表面上で前記測定を行うことによって調べなければならない。
【0179】
あるいは、これらの親和性は、例えばNielsenらの論文(Cancer Res.60(22):6434−40(2000))に記載のようにしてフローサイトメトリーにより決定してもよい。
【0180】
(実施例5:細胞中のエフェクター機能の測定)
結合ドメインのエフェクター機能は、培養液中で増殖させた標的細胞を、エフェクター結合ドメインと種々の濃度で、例えば30分間接触させることによって調べることができる。この時点で、細胞は、ある場合には、外因性増殖因子により刺激されて分子が変わろうとする生物効果を促す。6ウエルまたは12ウエルの組織培養プレートで増殖させた処理細胞の抽出物を、細胞を27G注射針を介して、氷上のプロテアーゼインヒビター(1mM PMSF、1g/mL ロイペプチン、1g/mL ペプスタチン)を含有する溶解緩衝液(20mM Tris(pH7.5)、150mM NaCl、1mM EDTA、1mM EGTA、1%トリトンX−100、0.5% NP40、10mM β−グリセロホスフェート、10mM NaF、1mM NaVO)中に5回通すことによって調製した。溶解前に、細胞を冷PBS中で2回洗浄した。次いで、溶解液を、例えばリン特異性抗体を用いて免疫ブロットすることによって分析した:全細胞タンパク質抽出液(50gの全タンパク質/レーン)を、7.5%SDS−PAGEプレキャストゲル(Invitrogen,Carlsbad,CA)を使用して電気泳動により再溶解し、ニトロセルロース濾紙に移し、マーカーまたは下流の会合タンパク質の活性化を検出する抗体と共にインキュベートした。あるいは、溶解液は、Nielsenらの論文(Proc Natl Acad Sci USA.100(16):9330−5(2003))に記載のようにして抗体マイクロアレイにより分析してもよい。
【0181】
結合ドメインのエフェクター機能は、所望の生物学的機能の別の読み取り、例えば細胞増殖アッセイによって調べてもよい。標的細胞を、DMEMおよび5%FCSならびに種々の濃度の結合ドメインを含有する96ウエル皿にウエル当たり5×10個で接種することができる。72時間後に、細胞を溶解し、ATPの量をCellTiter−Glo蛍光細胞生存アッセイ(Promega,Madison,WI)で製造業者のプロトコールに従って測定することができる。
【0182】
リン酸化および増殖アッセイの結果は、阻害の程度について、濃度の対数と、次式
【0183】
【数1】

に当てはめることによってエフェクタードメインおよびターゲッティングドメインについて測定したIC50との関数としてプロットすることができる。
【0184】
(実施例6:bsBAの試験)
ErbBレセプターが介在する細胞シグナル伝達をbsBAが抑制、低下または阻害することができる能力についてbsBAの効果を試験するために、癌細胞、例えばA431(エストロゲン依存性乳癌細胞系、National Center for Biotechnology Information Accession GDS121)を、bsBAと種々の濃度で30分間インキュベートし、その後に前記細胞に増殖因子(例えば、ヘレグリンまたはEGF)を最大2時間感染させた。次いで、細胞をトリトン緩衝液に溶解し、次いで音波粉砕した。次いで、溶解液を、免疫ブロットによるかまたはタンパク質のリン酸化に感受性の抗体マイクロアレイを使用することによりリン酸化の変化について分析した(例えば、Nielsen et al.,2003,PNAS 100:9330参照)。
【0185】
例えば、本発明者らのコンピューターによるモデル化は、細胞当たり100万コピーで発現される細胞表面抗原に結合するターゲッティングドメインであって1nMの親和性を有するターゲッティングドメインと、ErbB3に結合する(従って、ヘレグリン結合について競争する)エフェクタードメインであって1Mの親和性を有するエフェクタードメインとを有するbsBAが、1nMの親和性を有し、両者が結合するターゲッティングドメインとエフェクタードメインとを有するbsBAと同じように有効である(IC50によって測定されるように)ことを予測する。
【0186】
bsBAは、適当な抗原を発現する癌の増殖を抑制するために使用することができる。bsBAの効果は、小分子薬剤をbsBAに結合することによって増大させることができる。前記薬剤は、例えば、標準的な細胞障害剤、例えば化学療法剤、またはチロシンキナーゼインヒビター、例えばグリベック(登録商標)(イマチニブメシレート)であることができる。
【0187】
(実施例7: ErbB BsBA)
A431細胞でのヘレグリン(HRG)誘発ERKおよびAKT活性化のコンピューターシミュレーションは、bsBAのErbBレセプター結合分子の1つがそのレセプターに対して、別のErbB結合分子がそのレセプターに対して有する親和性よりも低い親和性を有する場合に、ErbB bsBAが最も有効であることを示した。
【0188】
本発明のbsBAの低親和性結合分子がErbB3またはErbB4のいずれかに指向させられかつbsBAの高親和性結合分子が別のErbBレセプター(例えば、ErbBまたはErbB2)に指向させられる場合には、bsBAは、ErbBレセプターが介在する細胞シグナル伝達を、ErbB3またはErbB4をErbB3またはErbB4レセプター、bsBA、およびErbB1またはErbB2レセプターからなる四量化複合体(すなわち、ErbB3/4:bsBA:ErbB1/2)中に隔離する(と考えられる)ことによって、低下させるか、抑制するかまたは阻害する。
【0189】
bsBAの結合分子はまた、ErbB3およびErbB4に指向させられることもできる。このようなbsBAは、これらのErbBレセプターとErbB1またはErbB2との二量化を阻害すると考えられる。ErbB3またはErbB4と、ErbB1またはErbB2との二量化はシグナル伝達に必要であることから、bsBAは二量体の形成を妨害することによって細胞シグナル伝達を効果的に抑制するか、低下させるかまたは阻害する。このbsBAの低親和性結合分子はErbB3に結合することが好ましい。
【0190】
bsBAの結合分子は、該分子がErbB1およびErbB2に結合し、それによってこれらの2つのレセプターを架橋するように調製することができる。このbsBAは、前記で論じたようにシグナル伝達に必要であるErbB1およびErbB2と、ErbB3またはErbB4との二量化を低下させるか、抑制するかまたは阻害することによって機能する。このbsBAの低親和性結合分子はErbB1に結合することが好ましい。
【0191】
典型的なbsBAとしては、EGFRまたはErbB4に対して高結合性分子を有するErbB3に結合する低親和性結合分子が挙げられる。BsBAはまた、細胞毒性剤または化学療法剤を、ErbBレセプターを発現する細胞に局在させるのに使用することができる。これらの薬剤は2つの結合分子を有し、そのそれぞれは異なるErbBレセプター、およびbsBAに複合される細胞毒性剤または化学療法剤(例えば、サポリン、抗インターフェロン−α、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキセートまたは放射性同位元素ハプテン)に対して特異的である。BsBAは、完全な長さの抗体または抗体フラグメント(例えばF(ab´)または(Fv)二重特異性抗体)、ダイアボディとして、あるいは2つの異なる結合分子を有するアプタマーとして調製することができる。
【0192】
前記モデルは、ErbBファミリーのレセプターを使用して試験されている。EGFまたはHRGによるErbBレセプターの刺激は、ERKおよびAKTのリン酸化をもたらす経路であって、シグナルカスケード内の種々のレベルでクロストークする経路の同時活性化をもたらす。分析の感度は、本発明者らがモデル出力の不確実さを、モデル入力における不確実さの種々の原因に割り当てることを可能にする。腫瘍細胞は異なるレセプター発現レベルに特徴があるので、本発明者らは、ErbB3およびErbB4をHRGがリガンドある場合に極めて感度のよい標的として確認した。
【0193】
一般的に、bsBAの結合分子が抗体またはそのフラグメントである場合には、これらの結合分子は、その解離定数または場合によっては結合定数および解離定数が容易に測定することができることから、生化学的に十分に特定することができる。同様に、抗体の作用のメカニズムは、数学的モデルを使用して容易に説明することができ、また公知の抗体をインヒビターとして使用する効果はコンピューター内で試験することができる。本発明者らのコンピューターモデルを使用して、本発明者らは、ErbB細胞シグナル伝達経路を妨害するために二重特異性抗体(すなわち、2つの異なる結合分子を有し、そのそれぞれの結合領域が異なるErbBレセプターを結合する抗体)を使用するというアイデアを試験した。コンピューター内での結果は、2種類のErbBレセプターに対して結合特異性を有する抗体(その一方のErbBレセプターに対する結合親和性は、他方のErbBレセプターに対する結合親和性よりも大きい)が、ErbB経路による細胞シグナル伝達を妨害または抑制するのに理想的であることを確認する。
【0194】
コンピューター内でのアプローチを使用して、本発明者らは、ErbBレセプターの異なる発現を示す3種類の細胞系(表1)においてErbBシグナル伝達経路の活性化を妨害または抑制するために2種類のErbBレセプターを標的とする二重特異性抗体の能力を、1つのErbBレセプターだけを標的とする慣用のインヒビターの能力と比較した。それぞれの細胞系におけるシグナル阻害は、コンピューター内で二重特異性抗体についておよび現在の治療剤単一特異性抗体についてモデル化した。本発明者らのモデルは、2種類のErbBレセプターに対する異なる親和性を有する二重特異性抗体による細胞シグナル伝達の阻害が、従来の単一のレセプターインヒビターが介在する細胞シグナル伝達の阻害よりもはるかに大きいであろうということを予測した。本発明者らのコンピューターモデル化によって作製されたデータを表2に示す。腫瘍中に存在するレセプター比率に応じて、高親和性結合分子と低親和性結合分子とを有する異なるbsAbは、単一特異性抗体よりもまたは2つの結合分子がそのそれぞれの抗原に同じ結合親和性を示して結合する二重特異性抗体よりも実質的により強力なインヒビターであると予測される。
【0195】
(表1:種々の細胞系でのErbBレセプターのレセプター発現プロフィール)
【0196】
【表1】


【0197】
(表2:従来の単一特異性レセプターインヒビターと比較したbsBAによる阻害)
【0198】
【表2】


【0199】
本発明者らは、全ての刺激条件下でErbB経路の活性化により、細胞シグナル伝達を抑制するための最も効果的な遮断剤としてErbB1(高親和性)およびErbB3またはErbB4(低親和性)に対する二重特異性抗体を確認した。ErbB1−ErbB2 bsAbもまた、全ての刺激条件下でErbB細胞シグナル伝達遮断剤として極めて有効であった。HRGを活性化剤として使用した場合には、ErbB3−ErbB4 bsAbはErbB経路の極めて効果的な遮断剤である。従って、好ましいbsBAは、遮断剤の少なくとも1つの特徴がErbB3またはErbB4レセプター(低親和性結合分子を使用する)を標的とする能力であるbsBAである。実際に、コンピューター用いたモデルの助けを借りて、本発明者らは、ErbB3/4の強いシグナル伝達性を確認した。ErbB3/4をこれら自体に、またはよりいっそう典型的な癌抗原、例えばErbBまたはErbB2に架橋すると、2つのレセプターの同時阻害またはこれらのレセプターの隔離のいずれかによってErbB3/4のシグナル伝達を阻害するメカニズムとして働く。
【0200】
従来の単一特異性遮断剤、例えば単一特異性抗体よりもむしろbsBAの使用と関係がある利点の1つは、二重特異性遮断剤が安定な三量体(すなわち、ErbBレセプター−二重特異性遮断剤−ErbBレセプター)を形成することである。従って、bsBAの効果は、表2に示すように、従来の単一レセプターインヒビターの効果よりもはるかに高い。
【0201】
2種類のErbBレセプターに結合することによって、本発明のbsBAは、ErbBレセプターを同一または異なるErbBレセプターと相互作用することから隔離する。bsBAは、結合されたErbBレセプターの細胞シグナル伝達活性を抑制、低下または阻害する極めて安定な(不可逆性の)三量体複合体を形成する。ErbB1、ErbB2、ErbB3、またはErbB4のいずれかに対するbsBAの初期結合段階は、可逆的段階であることができ、残りのErbBレセプターに対する第2の結合段階は、極めて安定な三量体の形成をもたらす。あるいは、ErbB1、ErbB2、ErbB3またはErbB4のいずれかに対するbsBAの最初の結合段階は不可逆性であり得、第2の結合段階は可逆的であり、それによってbsBAが多種の三量体複合体を形成することを可能にする。ErbBレセプター:bsBA:ErbBレセプター三量体の形成は、細胞シグナル伝達を誘導することができない複合体をもたらす。さらにまた、ErbB1、ErbB2、ErbB3、およびErbB4を隔離することによって、bsBAはこれらのErbBレセプターと同一または異なるErbBレセプターとの二量化を抑制、低下または阻害する。bsBAは、ErbB1またはErbB2に対してより高い親和性を有しかつErbB3またはErbB4に対してより低い親和性を有することが好ましい。但し、bsBAの一方の結合ドメインがErbB2対して高親和性を有し、第2の結合ドメインがErbB3に結合しないことを条件とする。
【0202】
bsBAの2つの結合分子の1つだけが関与する不完全bsBA−ErbBレセプター二量体の形成は、細胞シグナル伝達を損なう複合体をもたらさない;三量体複合体(すなわち、ErbBレセプター:bsBA:ErbBレセプター)の形成のみが、細胞シグナル伝達を抑制する。さらにまた、三量体形成はbsBAによって結合される2つのErbBレセプター同士の間では不可能である。
【0203】
bsBAのその他の特徴としては、1つの結合ドメインがErbBレセプター、例えばHRGに対して天然リガンドと競争することによって細胞シグナル伝達を低下、抑制または阻止する能力が挙げられる。
【0204】
本発明者らのコンピューター内でのデータは、ErbB3−ErbB4 bsBAが細胞シグナル伝達の妨害において単一特異性ErbB3またはErbB4インヒビターよりも有効であることを実証する。ErbB3またはErbB4だけに指向させられる単一特異性インヒビターは、主としてErbB3およびErbB4の高い細胞表面発現レベルにより、AKTリン酸化をErbB3−ErbB4 bsBAと同じ程度に有効に阻害しない。AKTリン酸化は、ErbB3単一特異性インヒビターおよびErbB4単一特異性インヒビターの両方を使用する場合に抑制されるだけである。
【0205】
bsBAは結合されていない状態ではまたは1つのErbBレセプターだけとの二量体複合体としては阻害効果をもたないことから、ErbBレセプターがbsBAで飽和されてしまうようなインヒビター濃度の増大は、bsBAの阻害効果の低下をもたらす。この効果は、bsBAの結合親和性がErbB4に対するよりもErbB3に対して大きい(すなわち、KdErbB3>ErbB4)ように、ErbB2に対して高められた親和性を有するbsBAを提供することによって逆転させることができる。
【0206】
前記で論じたbsBAは、HRG抑制療法(dominated regime)において特に効果がある。一般的に、bsBAは、1つのレセプターだけを標的とするErbBレセプターインヒビターに比べてはるかに低い用量で効果がある。
【0207】
本発明の別の好ましい実施形態は、bsBAの一方の結合分子がErbB1(高親和性結合)に対して結合特異性を有しかつ他方の結合分子がErbB3またはErbB4(低親和性結合)に対して結合特異性を有するbsBAである。一般に、腫瘍細胞は多量のErbB1を発現し(すなわち、100,000レセプター/細胞よりも多い場合が多い)、これに対してErbB3およびErbB4に対するレセプター発現は5,000〜20,000レセプター/細胞の範囲にある。リガンド結合に拮抗するbsBAは、たとえレセプター発現レベルが10倍を超えて異なっていてもレセプターシグナル伝達を首尾よく阻害するであろう。
【0208】
本発明者らのコンピューター内での分析は、二重特異性ErbB1/ErbB3およびErbB1/ErbB4 bsBAの効果を確認している。ErbB3レセプターの阻害は、HRG抑制療法においてシグナル伝達を阻害する。
【0209】
ErbB細胞シグナル伝達経路についての本発明者らのコンピューター内での分析に基づいて、本発明者らはErbB1結合分子を低い解離定数KD<1nMをもつが不可逆性でない高親和性結合部位として確認した。ErbB3およびErbB4レセプターは、ErbB1レセプターよりもはるかに低いレベルで発現される。bsBAがErB1およびErbB3/ErbB4レセプターの両方に結合することから、およびbsBAがより豊富なErbB1レセプターに対して高い親和性を有することから、bsBAは、慣用の単一特異性ErbBインヒビターよりもはるかに低い濃度で、ErbB1と、ErbB3またはErbB4のいずれかとの二量化が介在する細胞シグナル伝達を効果的に妨害することができる。ErbB1に対するbsBAの高親和性は、低いbsBA濃度で高い効率をもたらす。
【0210】
本発明者らのアプローチは、架橋のため最適なレセプターおよび2つの結合分子の所望の親和性を確認するためにコンピューターによるモデル化の利点を利用する。bsBAの2つの結合分子の異なる親和性は、bsBAを、癌細胞に特異的であるとは考えられないレセプター、例えばErbB3に効率的に向ける。より典型的な癌抗原、例えばErbB1にErbB3を架橋させると、癌細胞を特異的に標的としかつこれらの細胞においてErbB3レセプター活性を調節するための手段を提供する。
【0211】
本発明者らのコンピューターによるモデルを使用して、本発明者らは、bsBAの2つの結合分子の異なる親和性の必要性を確認した。この異なる親和性は、bsBA三量体複合体の安定化を促進する。一般的に言って、bsBAの活性な結合分子は、不活性なまたはあまり活性でない結合分子に比べて低い親和性を有するべきである。bsBAの両方の結合分子が不活性であるかまたはあまり活性でない場合には、高発現されるかまたはより強いシグナル伝達レセプターを標的とする結合分子は、高い親和性を有するべきである。標的とされるレセプターについて異なる親和性を有すると、次のこと:すなわちbsBAがより高い親和性相互作用(例えば ErbB1)のKdよりも高い濃度で投与されるが、より低い親和性相互作用(例えばErbB3)のKdよりも低い濃度で投与される場合には、bsBAはより高い親和性相互作用に対して抗原を発現する細胞上に蓄積するだけであるべきであるということをもたらす。bsBAの一方の端部は、これらの細胞上の低親和性抗原と相互作用してその生物機能を妨害するのに(例えばErbB3;下流シグナル伝達を抑制するために)利用することができる。どちらのレセプターが低親和性相互作用であるかまたは高親和性相互作用であるかは、レセプターの特異的シグナル伝達強度(標的として重要)およびbsBAの作用様式に依存する。
【0212】
本明細書に記載の実施例および実施形態は説明を目的とするだけのことおよびこれらに照らして種々の改変または変更が当業者に示唆されかつ本出願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれるべきであることが理解される。本明細書で引用した全ての刊行物、特許明細書および特許出願明細書は、全ての目的にその全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重特異性結合剤を用いて標的細胞の生物活性を調節する方法であって、該二重特異性結合剤は、
(i)該細胞の表面の第1の標的分子に対して少なくとも10−7MのKdを有する第1の結合ドメインと、該細胞の表面の第2の標的分子に対して親和性を有する第2の結合ドメインとを有し、
(ii)該第2の標的分子が該第1の標的分子と異なり、
(iii)該第2の標的分子に対する該第2の結合ドメインの親和性が、該第1の標的分子に対する該第1の結合ドメインのKdよりも少なくとも10倍小さく、そして
(iv)さらに、該第1の結合ドメインの標的分子がErbB2である場合には、該第2の結合ドメインの標的分子がErbB3ではなく、該方法は、
該二重特異性結合剤を標的細胞と、該第1の結合ドメインおよび該第2の結合ドメインがそれぞれ該第1の標的分子および該第2の標的分子に結合することを可能にする条件下で接触させる工程を包含し、
ここで該第2の標的分子に対する該第2の結合ドメインの結合が、該第2の標的分子の生物活性を調節し、それによって該標的細胞の生物活性を調節し、そしてさらに該第1の標的分子に対する該第1の結合ドメインの結合は該標的細胞の生物活性を調節しない、方法。
【請求項2】
前記二重特異性結合剤が2つの抗体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗体がダイアボディ、直接結合されているかまたはリンカーによって結合されている2個の一本鎖Fv、ジスルフィド安定化Fv、あるいはこれらの組み合わせである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記標的細胞が癌細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の標的分子が腫瘍関連抗原、サイトカインレセプター、または増殖因子レセプターである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記腫瘍関連抗原がMART−1、gp100、およびMAGE−1からなる群より選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の標的分子が癌胎児性抗原(CEA)、ErbB2、EGFR、Lewis、MUC−1、EpCAM、CA125、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、およびTAG72からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の標的分子がErbB3、ErbB4、FGFレセプター1〜FGFレセプター4のいずれか、HGFレセプター、IGF1−R、PDGF、レセプターαおよびレセプターβ、ならびにC−KITからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記標的細胞が乳癌細胞であり、前記標的分子が上皮増殖因子レセプター(EGFR)、ErbB2(HER2/neu)、ErbB3(HER3)およびErbB4(HER4)からなる群より選択されるレセプターチロシンキナーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の標的分子に対する前記第1の結合ドメインのKdが10−8〜10−12Mの間である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の標的分子に対する前記第2の結合ドメインのKdが、前記第1の標的分子に対する前記第1の結合ドメインのKdよりも少なくとも20倍小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
標的細胞と非標的細胞とを有する生物中の標的細胞上の標的分子の生物活性を調節する方法であって、ここで、標的細胞がその外面に第1の標的分子を有しかつその外面に第2の標的分子を有し、そして、
(i)該第1の標的分子および該第2の標的分子が共通リガンドを共有せず、
(ii)該第1の標的分子が、該第2の標的分子も有する非標的細胞よりも標的細胞の表面に少なくとも10倍以上豊富であり、
(iii)該第2の標的分子が生物活性を有するが、前記第1の標的分子が生物活性を有さず、そして
(iv)該第1の結合ドメインの標的分子がErbB2(HER2)である場合には、該第2の結合ドメインに対する標的分子がErbB3(HER3)ではなく、該方法は、
該第1の標的分子に対して少なくとも10−7Mの解離定数(Kd)を有する第1の結合ドメインと、該第2の標的分子に対して該第1の結合ドメインのKdよりも少なくとも10倍小さいKdを有する第2の結合ドメインとを有する二重特異性結合剤を使用する工程、ならびに
該二重特異性結合剤を標的細胞と、該第1の結合ドメインおよび該第2の結合ドメインがそれぞれ該第1の標的分子および該第2の標的分子に結合することを可能にする条件下で接触させる工程を包含し、
ここで該第2の結合ドメインの結合が該標的細胞上の該第2の標的分子の生物活性を調節する、方法。
【請求項13】
前記二重特異性結合剤が2つの抗体を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体がダイアボディ、直接結合されているかまたはリンカーによって結合されている2個の一本鎖Fv、ジスルフィド安定化Fv、あるいはこれらの組み合わせである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記標的細胞が癌細胞である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記標的分子が腫瘍関連抗原、サイトカインレセプター、または増殖因子レセプターである、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記腫瘍関連抗原がMART−1、gp100、およびMAGE−1からなる群より選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の標的分子が癌胎児性抗原(CEA)、ErbB2、EGFR、Lewis、MUC−1、EpCAM、CA125、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、およびTAG72からなる群より選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の標的分子がErbB3、ErbB4、FGFレセプター1〜FGFレセプター4のいずれか、HGFレセプター、IGF1−R、PDGF、レセプターαおよびレセプターβ、ならびにC−KITからなる群より選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記第1の標的分子に対する前記第1の結合ドメインのKdが10−8〜10−12Mの間である、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記第2の標的分子に対する前記第2の結合ドメインのKdが、前記第1の標的分子に対する前記第1の結合ドメインのKdよりも少なくとも20倍小さい、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
前記第2の標的分子に対する前記第2の結合ドメインのKdが、前記第1の標的分子に対する前記第1の結合ドメインのKdよりも少なくとも50倍小さい、請求項12に記載の方法。
【請求項23】
前記調節がレセプターチロシンキナーゼの活性を低下させることである、請求項12に記載の方法。
【請求項24】
標的細胞上の第1の標的分子に対して少なくとも10−7Mの解離定数(Kd)を有する第1の結合ドメインと、標的細胞上の第2の標的分子に対して該第1の標的分子に対する該第1の結合ドメインのKdよりも少なくとも10倍小さいKdを有する第2の結合ドメインとを含む二重特異性結合剤(bsBA)であって、ここで、
(i)該第1の標的分子および該第2の標的分子が同じ天然リガンドを有さず、
(ii)該第2の標的分子は生物活性を有するが、該第1の標的分子は生物活性を有さず、そして
(iii)該第1の結合ドメインの標的分子がErbB2(HER2)である場合には、該第2の結合ドメインに対する標的分子がErbB3(HER3)ではなく、
そしてさらに該第2の結合ドメインが、該第2の標的分子に結合された場合に、該第2の標的分子の生物活性を調節する、bsBA。
【請求項25】
前記第2の結合ドメインのKdが前記第1の結合ドメインのKdよりも50倍を超えて小さい、請求項24に記載のbsBA。
【請求項26】
前記第2の結合ドメインのKdが前記第1の結合ドメインのKdよりも100倍以上小さい、請求項24に記載のbsBA。
【請求項27】
前記bsBAが2つの抗体を含む、請求項24に記載のbsBA。
【請求項28】
前記抗体がダイアボディ、直接結合されているかまたはリンカーによって結合されている2個の一本鎖Fv、ジスルフィド安定化Fv、あるいはこれらの組み合わせである、請求項26に記載のbsBA。
【請求項29】
前記第1の結合ドメインが腫瘍関連抗原、サイトカインレセプター、または増殖因子レセプターに結合する、請求項24に記載のbsBA。
【請求項30】
前記第1の標的分子が癌胎児性抗原(CEA)、ErbB2、EGFR、Lewis、MUC−1、EpCAM、CA125、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、およびTAG72からなる群より選択される、請求項24に記載のbsBA。
【請求項31】
前記第2の標的分子がErbB3、ErbB4、FGFレセプター1〜FGFレセプター4のいずれか、HGFレセプター、IGF1−R、PDGF、レセプターαおよびレセプターβ、ならびにC−KITからなる群より選択される、請求項24に記載のbsBA。
【請求項32】
前記第1の結合ドメインのKdが10−8〜10−12Mの間である、請求項24に記載のbsBA。
【請求項33】
前記第1の標的分子がその正常細胞での発現に比べて標的細胞では少なくとも10倍まで過剰発現される、請求項24に記載のbsBA。
【請求項34】
(a)二重特異性結合剤(bsBA)と、
(b)薬学的に受容可能なキャリア
とを含有する組成物であって、該二重特異性結合剤(bsBA)が、標的細胞上の第1の標的分子に対して少なくとも10−7Mの解離定数(Kd)を有する第1の結合ドメインと、標的細胞上の第2の標的分子に対して第1の結合ドメインのKdよりも少なくとも10倍小さいKdを有する第2の結合ドメインとを含み、そして該第1の標的分子および該第2の標的分子が同じ天然リガンドを有さず、さらに、
(i)該第2の標的分子が生物活性を有するが、該第1の標的分子は活性を有さず、
(ii)該第2の結合ドメインが、該第2の標的分子に結合された場合に、該第2の標的分子の生物活性を調節する、そして
(iii)該第1の結合ドメインの標的分子がErbB2(HER2)である場合には、該第2の結合ドメインに対する標的分子がErbB3(HER3)ではない、組成物。
【請求項35】
前記第2の結合ドメインのKdが前記第1の結合ドメインのKdよりも50倍を超えて小さい、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
前記第2の結合ドメインのKdが前記第1の結合ドメインのKdよりも100倍以上小さい、請求項34に記載の組成物。
【請求項37】
前記bsBAが2つの抗体を含む、請求項34に記載の組成物。
【請求項38】
前記抗体がダイアボディ、直接結合されているかまたはリンカーによって結合されている2個の一本鎖Fv、ジスルフィド安定化Fv、あるいはこれらの組み合わせである、請求項37に記載の組成物。
【請求項39】
前記第1の結合ドメインが腫瘍関連抗原、サイトカインレセプター、または増殖因子レセプターに結合する、請求項34に記載の組成物。
【請求項40】
前記第1の標的分子が癌胎児性抗原(CEA)、ErbB2、EGFR、Lewis、MUC−1、EpCAM、CA125、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、およびTAG72からなる群より選択される、請求項34に記載の組成物。
【請求項41】
前記第2の標的分子がErbB3、ErbB4、FGFレセプター1〜FGFレセプター4のいずれか、HGFレセプター、IGF1−R、PDGF、レセプターαおよびレセプターβ、ならびにC−KITからなる群より選択される、請求項34に記載の組成物。
【請求項42】
前記第1の標的分子が、前記第2の標的分子も有する非標的細胞よりも標的細胞上で少なくとも10倍まで過剰発現される、請求項34に記載の組成物。
【請求項43】
医薬を製造するための二重特異性結合剤(bsBA)の使用であって、該二重特異性結合剤は、標的細胞上の第1の標的分子に対して少なくとも10−7Mの解離定数(Kd)を有する第1の結合ドメインと、標的細胞上の第2の標的分子に対して第1の結合ドメインのKdよりも少なくとも10倍小さいKdを有する第2の結合ドメインとを含み、ここで
(i)該第1の標的分子および該第2の標的分子が同じ天然リガンドを有さず、
(ii)該第2の標的分子が生物活性を有するが、該第1の標的分子は活性を有さず、
(iii)該第2の結合ドメインが、該第2の標的分子に結合された場合に、該第2の標的分子の生物活性を調節し、そして
(iv)該第1の結合ドメインの標的分子がErbB2である場合には、該第2の結合ドメインに対する標的分子がErbB3ではない、使用。
【請求項44】
前記第2の結合ドメインのKdが第1の結合ドメインのKdよりも50倍を超えて小さい、請求項43に記載の使用。
【請求項45】
前記第2の結合ドメインのKdが第1の結合ドメインのKdよりも100倍以上小さい、請求項43に記載の使用。
【請求項46】
前記bsBAが2つの抗体を含む、請求項44に記載の使用。
【請求項47】
前記抗体がダイアボディ、直接結合されているかまたはリンカーによって結合されている2個の一本鎖Fv、ジスルフィド安定化Fv、あるいはこれらの組み合わせである、請求項46に記載の使用。
【請求項48】
前記第1の結合ドメインおよび前記第2の結合ドメインによって結合される標的分子が腫瘍関連抗原、サイトカインレセプター、および増殖因子レセプターからなる群から独立して選択されるが、但し、該第1の結合ドメインおよび該第2の結合ドメインが同一の腫瘍関連抗原も、サイトカインレセプターも、増殖因子レセプターも結合しない、請求項43に記載の使用。
【請求項49】
前記医薬が癌細胞の増殖を阻害するためである、請求項43に記載の使用。
【請求項50】
前記第1の標的分子が前記第2の標的分子も有する非標的細胞よりも標的細胞上で少なくとも10倍まで過剰発現される、請求項43に記載の使用。
【請求項51】
(a)容器と、
(b)二重特異性結合剤(bsBA)
とを備えるキットであって、該二重特異性結合剤(bsBA)が、標的細胞上の第1の標的分子に対して少なくとも10−7Mの解離定数(Kd)を有する第1の結合ドメインと、標的細胞上の第2の標的分子に対して第1の標的分子に対する第1の結合ドメインのKdよりも少なくとも10倍小さいKdを有する第2の結合ドメインとを含み、ここで、
(i)該第1の標的分子および該第2の標的分子が同じ天然リガンドを有さず、
(ii)前記第2の標的分子が生物活性を有するが、該第1の標的分子は生物活性を有さず、
(iii)該第2の結合ドメインが、該第2の標的分子に結合された場合に、該第2の標的分子の生物活性を調節し、そして
(iv)該第1の結合ドメインの標的分子がErbB2(HER2)である場合には、該第2の結合ドメインに対する標的分子がErbB3(HER3)ではない、キット。
【請求項52】
前記第2の結合ドメインのKdが第1の結合ドメインのKdよりも50倍を超えて小さい、請求項51に記載のキット。
【請求項53】
前記第2の結合ドメインのKdが前記第1の結合ドメインのKdよりも100倍以上小さい、請求項51に記載のキット。
【請求項54】
前記bsBAが2つの抗体を含む、請求項51に記載のキット。
【請求項55】
前記抗体がダイアボディ、直接結合されているかまたはリンカーによって結合されている2個の一本鎖Fv、ジスルフィド安定化Fv、あるいはこれらの組み合わせである、請求項54に記載のキット。
【請求項56】
前記第1の結合ドメインが腫瘍関連抗原、サイトカインレセプター、または増殖因子レセプターに結合する、請求項51に記載のキット。
【請求項57】
前記第1の標的分子が癌胎児性抗原(CEA)、ErbB2、EGFR、Lewis、MUC−1、EpCAM、CA125、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、およびTAG72からなる群より選択される、請求項51に記載のキット。
【請求項58】
前記第2の標的分子がErbB3、ErbB4、FGFレセプター1〜FGFレセプター4のいずれか、HGFレセプター、IGF1−R、PDGF、レセプターαおよびレセプターβ、ならびにC−KITからなる群より選択される、請求項51に記載のキット。
【請求項59】
前記第1の結合ドメインのKdが10−8〜10−12Mの間である、請求項51に記載のキット。
【請求項60】
前記第1の標的分子が正常細胞でのその発現に比べて標的細胞では少なくとも10倍まで過剰発現される、請求項51に記載のキット。

【公表番号】特表2007−536254(P2007−536254A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511591(P2007−511591)
【出願日】平成17年5月5日(2005.5.5)
【国際出願番号】PCT/US2005/015639
【国際公開番号】WO2005/117973
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(506024308)メリマック ファーマシューティカルズ インコーポレーティッド (4)
【Fターム(参考)】