説明

生物活性作用を有するヒドロキシアパタイト形成歯科材料

【課題】生物活性作用を有する他の歯科材料を提供する。
【解決手段】成分としてリン酸二カルシウム無水物(DCPA)又はリン酸二カルシウム二水和物(DCPD)及びリン酸四カルシウム(TTCP)を含有する粉末成分と、水及びNa4−EDTA又はNa5−ペンテテートの群からの錯化剤を含有する液体成分とを有する自己硬化性の2成分歯科材料であって、結晶性DCPAが使用され、それがブラッシュ石に典型的な小板型の結晶形状を有し、それぞれ0.2m%(200ppm)未満の含量で鉄(Fe)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)を有する自己硬化性の2成分歯科材料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物活性作用を有する、自己硬化性のヒドロキシアパタイト形成性の2成分歯科材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの歯の硬組織は、ほとんどが無機のリン酸カルシウム化合物、つまりヒドロキシアパタイト(Ca10(PO46(OH)2)からなる。代わりに、種々の材料を基礎とする多数の充填材料を利用可能である(例えばアマルガム、コンポジット、ガラスイオノマーセメント)。これらが歯において理想的には生体適合性の挙動を示すので、通常は、歯の健康な硬組織と充填材料との間で相互作用は存在しない。
【0003】
頭顔面手術用の製品は、ヒトの骨材料に似た付け値がなされる(Leibinger Stryker社製のBone Source、Synthes−Stratec社製のNorian CRS)。これらは、その生体適合性を特徴としており、すなわちは該材料は患者自身の骨の代用である。体内での破骨細胞性吸収と新骨形成とは、段階的な骨への変換をもたらす可能性がある。
【0004】
これらの製品の粉末成分は、リン酸二カルシウム無水物(DCPA)及びリン酸四カルシウム(TTCP)からなる。一リン酸ナトリウム溶液が、混合によるペーストの製造のために使用される。2つの製品のセメントは、硬化の後に、それぞれ約60MPaと30MPaの圧縮強度を達成する。
【0005】
WO94/20064号"リン酸カルシウムヒドロキシアパタイト前駆物質及びその製造方法と使用"(発明者:L.J.ChowとS.Takagi)は、TTCPを基礎とするリン酸カルシウムセメントであって、Ca:P比が2未満であり、かつ別のDCPAを含む難溶性のリン酸カルシウム塩を基礎とするものを記載している。このセメントは、0.25ミリモル/lのH3PO4溶液と混合することによって製造され、かつ該セメントは、圧縮強度60MPaをもたらす。更に、タンパク質、充填剤、種痘菌及び粘度変更物質を添加することができる。該材料は、歯科用充填材料、再石灰化物質、脱感作剤及び骨置換材料として適していると言われている。
【0006】
WO2004/103419号(発明者:J.Barralet、U.Gbureck及びR.Thull)は、2種の粉末成分からなるリン酸カルシウムセメントであって、第一の成分がd50(成分1)<15μmの粒径を有し、かつ第二の成分がd50(成分2)>d50(成分1)の粒径を有するものに関する。成分2は、成分1よりも1.5倍ないし10倍多い。オリゴカルボン酸(例えばクエン酸三ナトリウム、リンゴ酸二ナトリウム、酒石酸二ナトリウム)を、その混ざった液体に添加することで、粒子のゼータ電位が低下するので、粉末と液体との混合による製造における特性を改善するといった目的が果たされる。一例としては、TTCP及びDCPAといった成分から構成されるセメントであって、その粉末成分に硬化反応の促進剤としてリン酸ナトリウムが添加されているセメントが特記される。このセメントは、高い圧縮強度(100MPaまで)を達成する。
【特許文献1】WO94/20064号
【特許文献2】WO2004/103419号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、生物活性作用を有する他の歯科材料を提供することである。用語"生物活性"は、主に、再石灰化能力を指すと解される。再石灰化の到達点は、ヒドロキシアパタイト[Ca5(PO43OH)]が堆積して、歯の硬質物質に取って代わることである。再石灰化は、歯の更なる崩壊の予防と歯の物質の再生とを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、本発明によれば、成分として
リン酸二カルシウム無水物(DCPA)又はリン酸二カルシウム二水和物(DCPD)及びリン酸四カルシウム(TTCP)を含有する粉末成分と
水及びNa4−EDTA又はNa5−ペンテテートの群からの錯化剤を含有する液体成分と
を有する自己硬化性の2成分歯科材料であって、結晶性DCPAが使用され、それがブラッシュ石に典型的な小板型の結晶形状を有し、それぞれ0.2m%(200ppm)未満の含量で鉄(Fe)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)を有する自己硬化性の2成分歯科材料によって解決される。
【0009】
それらの成分は、窩洞に直接適用するためにペーストの混合によって製造するように設計されている。該ペーストは、その中で、ほとんどがヒドロキシアパタイト(>95質量%)からなる新たな相を形成することにより硬化する。その組成は歯の組成と同等なので、この充填材料は、再石灰化可能であり、また歯科エナメルの機能も有している。
【0010】
本発明の特定のリン酸二カルシウム無水物(DCPA)又はリン酸二カルシウム二水和物(DCPD)は、特に反応性のペーストを有することを要求される。またそれは本願で使用されるリン酸四カルシウム(TTCP)の合成においても使用される。
【0011】
DCPAは、鉄(Fe)及びマンガン(Mn)といった元素に関するその高い純度を特徴としている。これらの物質の割合は、0.2m%(200ppm)未満でなければならない。更に、それは非常に結晶性であり、ブラッシュ石に典型的な小板型の結晶形状を形成せねばならない。図1及び図2は、DCPA微結晶の結晶形態の走査型電子顕微鏡像を示している。
【0012】
TTCP合成は、公知法に従って、たとえばWO9420064号に記載されるようにして実施されるが、但し、前記の特定のDCPAをこのために利用することを除く。合成例は、以下に記載されるとおりである:
該ペーストは、DCPA及びTTCPから構成される粉末混合物と、Na4−EDTA又はNa5−ペンテテートの水溶液(400〜700ミリモル/lが有用である)とを混合することによって得ることができる。錯化剤を添加することで、ペーストの混合による製造が改善され、かつ歯科的適用(窩洞、カービング内部への適用)での処理について改善がなされる。
【0013】
更に、該ペーストが硬化するとともに、ヒドロキシアパタイト粒子は、Na3−シトレート溶液を用いた混合による製造よりも強力な結合を形成し、それはより高い圧縮強度をもたらさないが、より高い摩耗安定性を示す。直接的な充填材料として適用するためには、この特性は充填物を安定化させるためには正に重要なことである。
【0014】
硬化したペーストの生物活性作用は、インビトロ実験によって実証に成功した。図3は、製造24時間後の試験体の表面を示している。試験体を人工唾液中で貯蔵する間に、再石灰化により新たな構造の形成がもたらされた(図4及び5)。無形粒子が再配列して、角柱状の構造となり、それが試験体中でエナメルと同様に垂直に"成長"する。
【0015】
本発明による材料が有する今まで知られていた系と比較した一つの利点は、高い摩耗安定性と組み合わされた高い圧縮強度である。公知の系は、主に骨置換材料の分野で使用されており、そこでは"摩耗安定性"の特性は重要な基準ではない。けれども歯科用充填材料として該材料を適用するには、咀嚼ストレスに関する安定性が必要である。
【0016】
本願に示される材料のもう一つの利点は、それが再石灰化可能であるということである。インビトロ実験とインビボ実験においても、該材料が、再石灰化のため新たな構造を形成することが効果的に示された。該ペーストは、その形状を変えずに硬化するので(収縮及び膨張なし)、歯と充填材料との間の辺縁ギャップが形成されない。更に、該充填物は、歯の健康な組織上で石灰化する(図6:充填物を配置してから4ヶ月後の歯の断面、インビボ実験)。
【0017】
以下の実施例により、本発明の一実施態様を実証する:
【実施例】
【0018】
粒径(d50)10〜12μmを有するDCPAを使用してTTCPを合成する。それを炭酸カルシウム(CaCO3)と等モル比で混合し、そして1400〜1550℃での熱処理に4〜18時間供する。その反応時間が経過したら、生成されたTTCPを合成の温度で炉から取りだし、次いで室温に冷却する。粉末混合物で使用するために、粒度(d50)を、ボール磨砕機(ball triturator)中で磨砕することによって直径9〜18μmに調整する。ペーストの粉末混合物中のDCPAは、粒度0.5〜3μmを有し、依然としてその小板形状の結晶構造を保持する。理想的には、TTCPとDCPAの粒度は、それぞれ10μmと1μmである。
【0019】
ペーストは、DCPA及びTTCPから構成される粉末混合物とNa4−EDTA水溶液(500ミリモル/l)との混合によって得られる。
【0020】
硬化した後に、該材料を、ISO 9917:2004に従った試験に供する。こうして90MPa±7MPaの圧縮強度値が得られる。
【0021】
硬化したペーストの長期安定性は、1年を上回った。
【0022】
摩耗安定性は、De Gee(De Gee,A.J.,Pallav,P.,Davidson,C.L.:インビトロでの耐応力コンポジット及びアマルガムの摩耗に際した摩耗媒体の効果(Effect of abrasion medium on wear of stress−bearing composites and amalgam in vitro).J Dent Res 65,654−658(1986))に従って、ACTAマシーン(ACTA machine)を用いて調査した。該方法において、本発明によるペーストは、WO2004/103419号による系よりも2/3だけ低い摩耗を示した。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、TTCPの合成用でペーストの粉末混合物中の特定のDCPAの結晶形状を示している。
【図2】図2は、TTCPの合成用でペーストの粉末混合物中の特定のDCPAの結晶形状を示している。
【図3】図3は、硬化したペーストの24時間後の表面を示している。
【図4】図4は、人工唾液への暴露44週間後の試験体の再石灰化された表面(インビトロ実験)を示している。
【図5】図5:人工唾液への暴露44週間後の試験体の再石灰化された表面(インビトロ実験)を示している。
【図6】図6は、天然歯中の硬化したペーストから構成される充填物の使用4ヶ月後を示している(再石灰化された層の形成は充填物から歯へと拡がっている(インビボ実験))。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分として
リン酸二カルシウム無水物(DCPA)又はリン酸二カルシウム二水和物(DCPD)及びリン酸四カルシウム(TTCP)を含有する粉末成分Aと
水及び錯化剤を含有する液体成分Bと
を有する自己硬化性の2成分歯科材料であって、結晶性DCPAが使用され、それがブラッシュ石に典型的な小板型の結晶形状を有し、それぞれ0.2m%(200ppm)未満の含量で鉄(Fe)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)を有することを特徴とする自己硬化性の2成分歯科材料。
【請求項2】
請求項1記載の歯科材料であって、錯化剤がNa4−EDTA又はNa5−ペンテテートの群に属する歯科材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−254472(P2007−254472A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76380(P2007−76380)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(399011900)ヘレーウス クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (56)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Kulzer GmbH 
【住所又は居所原語表記】Gruener Weg 11, D−63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】