説明

生物活性物質放出コーティングと制御された湿潤法

【課題】生理学的条件下でデバイスの表面から生物活性(医薬)物質の放出を与えるコーティング組成物を用いて、埋め込み可能な医学デバイスの提供。
【解決手段】コーティング組成物は、例えばステントおよびカテーテルとしてその送達および/または使用の過程で大きな屈曲および/または膨張を受ける医学デバイスで使用するのに特に適している。組成物は、ポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリアリール(メタ)アクリレート、ポリアラルキル(メタ)アクリレート、またはポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリレート等の第1ポリマー成分と、ポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)等の第2ポリマー成分と組合せて、生物活性物質を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照 本出願は、2002年1月18日に出願された米国特許出願(No.10/175,210)(その全開示内容は参照することにより本明細書に組み込まれる)の優先権を主張する。
【0002】
技術分野
1つの態様において本発明は、生理学的条件下でデバイスの表面から生物活性(医薬)物質の放出を与えるコーティング組成物を用いて、埋め込み可能な医学デバイスを処理する方法に関する。別の態様において本発明は、コーティング組成物自体、およびこのような組成物でコーティングされるデバイスまたは表面に関する。更に別の態様において本発明は、デバイスに組成物をコーティングする方法に関する。
【背景技術】
【0003】
多くの外科的介入には、体内に医学デバイスを入れることが必要である。種々の症状を治療することに必要であり有益であるが、体内への金属製またはポリマー製デバイスを入れることは、多くの合併症を引き起こす。これらの合併症のいくつかには以下のものがある:感染リスクの増大;外来体(foreign body)の応答が開始され炎症と繊維性封入に至る;創傷治癒応答が開始され増殖と再狭窄に至る。体内に金属製またはポリマー製デバイスを導入する時は、これらのおよび他の合併症に対処しなければならない。
【0004】
このような導入の有害作用の可能性を低下させるための我々のアプローチは、より生体適合性のある埋め込みデバイスを提供しよとする試みである。埋め込みデバイスの生体適合性を改良するためにいくつかの方法が利用できるが、あまり成功していない1つの方法は、埋め込み物の近傍に生物活性化合物を供給する能力をデバイスに与えることである。そうすることにより、医学デバイスの埋め込みが引き起こす有害作用の一部を減少させることができる。すなわち例えば、デバイスの表面から抗生物質を放出させて感染の可能性を最小にすることができ、抗増殖薬を放出させて増殖を阻害することができる。生物活性の局所的放出の他の利点は、必要な部位で治療濃度を達成するのに必要な薬剤の、全身的に投与した時の毒性濃度を避けることである。
【0005】
その表面から薬剤を放出することができる医学デバイスの使用から予測される可能な利点は大きいが、このような医学デバイスの開発はゆっくりである。この開発には、該開発を行う時はうまく克服する必要がある多くの課題がある。これらの課題のいくつかは以下の通りである:
1) ある場合に、生物活性物質の長期放出の必要性;
2) 生体適合性のある非炎症性のデバイス表面の必要性;
3) 体内に埋め込まれるかまたは使用される時、特に屈曲および/または膨張を受けるデバイスで顕著な耐久性の必要性;
4) 経済的に実現可能でがあり再現性のある方法でデバイスを製造できるようにするための、加工性に関する懸念;および5) 完成したデバイスを従来法を使用して滅菌できる必要性。
【0006】
薬剤を供給できるいくつかの埋め込み可能な医学デバイスが記載されている。薬剤含有性および放出性コーティングとして生体分解性または生体再吸収性ポリマーを利用するデバイスに関するいくつかの特許があり、例えばTangら、米国特許第4,916,193号、およびMacGregor、米国特許第4,994,071号がある。他の特許は、埋め込みデバイスの表面での薬剤含有ヒドロゲルの形成に関し、これらにはAmidenら、米国特許第5,221,698号、およびSahatjian、米国特許第5,304,121号がある。更に別の特許は、分散した治療用物質を含有するポリマー溶液をステント表面に適用し、次に溶媒を留去することによるコーティング血管内ステントの調製法を記載する。この方法は、Bergら、米国特許第5,464,650号に記載されている。
【0007】
しかし、治療上有効量の生物活性化合物を埋め込み可能な医学デバイスの表面に提供するためには、克服すべき大きな問題がある。これは、埋め込み中または使用中のデバイスの屈曲および/または膨張の過程で、コーティング組成物をデバイス上に維持しなければならない時は問題である。デバイスの表面からの生物活性物質の放出速度を制御するための、簡便で容易に処理可能な方法があることが好ましい。
【0008】
薬剤放出コーティングとしての使用について、多様な疎水性ポリマーがすでに記載されているが、本出願人は、埋め込み時に屈曲および/または膨張を受ける埋め込み可能な医学デバイスにについて、これらを有用にする物性を有するものは、ほんの少数であることを見いだした。薬剤送達ビヒクルとして単独で使用する時、良好な薬剤放出特性を示す多くのポリマーは、屈曲および/または膨張を受けるデバイスで使用するにはもろすぎるコーティングを与える。他のポリマーは、埋め込まれると炎症性応答を誘発することがある。これらのまたは他のポリマーは、ある薬剤については良好な薬剤放出特性を示すが、別の薬剤については非常に弱い特性を示すことがある。
【0009】
いくつかのポリマーは、薬剤無しでデバイスに適用されると良好な耐久性と柔軟性を示すが、薬剤が加えられるとその好ましい特性を喪失する。更に薬剤の濃度が高いかまたはデバイス表面へのポリマーの適用が濃いほど、ポリマーの物性は弱くなる。薬剤の存在下で正しい物性を提供するポリマー、およびポリマー中の薬剤濃度またはポリマー層の厚さを変えることにより薬剤送達速度を制御できるポリマーを、特定することは非常に困難である。
【0010】
本出願人らは、埋め込み時に屈曲および/または膨張を受けても、デバイスの表面から治療上有効量の薬剤を送達することができる埋め込み可能な医学デバイスをすでに提供した。本出願人の米国特許第6,214,901号とPCT出願第WO00/55396号は、第1ポリマー成分として少なくとも1つのポリアルキル(メタ)アクリレートを、そして第2ポリマー成分としてポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)(「pEVA」)を含有するコーティング組成物を与え、適当な手段(例えば、浸漬、噴霧など)を使用して埋め込み物の表面をコーティングするための、このような組成物の使用を記載する。
【0011】
使用目的には確かに適しているが、本出願人らは、このような組成物でコーティングされたデバイスは、例えば本明細書に記載の「生物活性加速放出」試験法または「生物活性物質溶出」試験法を使用して評価する時、検出可能なかつ好ましくない変動のある性質を示す可能性を有することを見いだした。均一な性質を有するコーティングデバイスを提供するために、このような変動の可能性に影響を与え、好ましくは制御する方法を見つけることは有用であろう。
【0012】
生物活性物質を有する埋め込み可能な医学デバイスを提供するためのコーティングの使用に関する種々の他の文献がある。例えば、US20020007213およびPCT出願第WO200187372、WO200187373、WO200187374、WO200187375、WO200187376、WO200226139、WO200226271、WO200226281、WO200187342、およびWO200187263を参照されたい。
【0013】
最後に、本出願人の対応する米国出願(本明細書と同日に出願され、整理番号9896.129.10を有する)は、このような組成物中の第1ポリマー成分として、ポリアリール(メタ)アクリレート、ポリアラルキル(メタ)アクリレートおよびポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリレートからなる群から選択される1つ以上の芳香族ポリ(メタ)アクリレートポリマーの使用を記載する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、例えば、以下の態様1〜40を包含する。
【0015】
[1] インビボ(in vivo)でコーティング組成物からの生物活性物質の放出速度を制御する方法であって、以下の工程を含む方法:
a) ポリ(メタ)アクリレートと芳香族ポリ(メタ)アクリレートから選択される第1ポリマー成分と、ポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)を含む第2ポリマー成分とを含む複数のポリマーと組合せて生物活性物質を含む組成物を与え(providing)、そして
b) 制御された湿度条件下でコーティング組成物を適用して、インビボの対応する制御された生物活性物質放出プロファイルを与える。
【0016】
[2] 芳香族ポリ(メタ)アクリレートは、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアリール(メタ)アクリレート、ポリアラルキル(メタ)アクリレートおよびポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリレートから選択され、コーティングは、埋め込み可能な医学(medical)デバイスの表面に提供され、湿度は、デバイスが組成物でコーティングされる湿度を制御し、および/またはコーティングまたはコーティングされた組成物自体の水分含量を制御することにより制御される[1]の方法。
【0017】
[3] コーティングは埋め込み可能な医学デバイスの表面に提供され、それぞれが制御された湿度の条件下でコーティングされた複数のコーティング組成物を含む、[1]の方法。
【0018】
[4] デバイスは、埋め込みまたはインビボでの使用の過程で屈曲および/または膨張を受けるものである、[2]の方法。
【0019】
[5] 第1ポリマー成分は、
a) 2〜8個の炭素のアルキル鎖の長さを有するポリアルキル(メタ)アクリレート、
b) 6〜16個の炭素原子のアリール基を有する、ポリアリール(メタ)アクリレート、ポリアラルキル(メタ)アクリレート、およびポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリレートからなる群から選択され、
第1ポリマー成分は重量平均分子量が約50〜約900キロダルトンである、[1]の方法。
【0020】
[6] ポリアリール(メタ)アクリレートは、ポリ−9−アントラセニルメタクリレート、ポリクロロフェニルアクリレート、ポリメタクリルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、ポリメタクリルオキシヒドロキシベンゾトリアゾール、ポリナフチルアクリレート、ポリナフチルメタクリレート、ポリ−4−ニトロフェニルアクリレート、ポリペンタクロロ(ブロモ、フルオロ)アクリレートとメタクリレート、ポリフェニルアクリレートとメタクリレートからなる群から選択され、ポリアラルキル(メタ)アクリレートは、ポリベンジルアクリレートとメタクリレート、ポリ−2−フェネチルアクリレートとメタクリレート、ポリ−1−ピレニルメチルメタクリレートからなる群から選択され、ポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリレートは、ポリフェノキシエチルアクリレートとメタクリレート、ポリエチレングリコールフェニルエーテルアクリレートとメタクリレートからなる群から選択される、[5]の方法。
【0021】
[7] 組成物は、約0%〜約95%の相対湿度レベルで制御される相対湿度下でデバイスにコーティングされる、[2]の方法。
【0022】
[8] 第2ポリマー成分は、酢酸ビニル濃度が約8〜約90重量%であるポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)ポリマーからなる群から選択される、[5]の方法。
【0023】
[9] 酢酸ビニル濃度は約20〜約40重量%である、[8]の方法。
【0024】
[10] 組成物は、溶液、エマルジョン、混合物、分散物または調合物からなる群から選択される形で提供される、[1]の方法。
【0025】
[11] 組成物中の両方のポリマーの総組合せ濃度は約0.05〜約70重量%である、[10]の方法。
【0026】
[12] 第1ポリマー成分は、重量平均分子量が約100キロダルトン〜約500キロダルトンであり、ポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)の酢酸ビニル含量は約20〜約40重量%である、[10]の方法。
【0027】
[13] 第1ポリマー成分は、重量平均分子量が約200キロダルトン〜約400キロダルトンであり、ポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)の酢酸ビニル含量は約30〜約34重量%である、[12]の方法。
【0028】
[14] 生物活性物質は、約0.01〜約90重量%の濃度でコーティング組成物に溶解または懸濁される、[1]の方法。
【0029】
[15] 生物活性物質は、トロンビンインヒビター、アンチトロンボジェニック剤、トロンビン溶解剤、繊維素溶解剤、血管痙攣インヒビター、カルシウムチャネルブロッカー、血管拡張剤、抗高血圧剤、抗微生物剤、抗生物質、表面糖タンパク質受容体のインヒビター、抗血小板剤、抗細胞分裂剤、細小管インヒビター、抗分泌剤、アクチンインヒビター、リモデリングインヒビター、アンチセンスヌクレオチド、抗代謝物、抗増殖剤、抗癌化学療法剤、抗炎症性ステロイドまたは非ステロイド抗炎症剤、免疫抑制剤、成長ホルモンアンタゴニスト、増殖因子、ドパミンアゴニスト、放射線治療剤、ペプチド、タンパク質、酵素、細胞外マトリックス成分、インヒビター、フリーラジカルスカベンジャー、キレート剤、抗酸化剤、抗ポリメラーゼ、抗ウイルス剤、光動的治療薬、および遺伝子治療薬からなる群から選択される、[14]の方法。
【0030】
[16] 生物活性物質は、約0.01〜約90重量%の総濃度で第1ポリマー成分と第2ポリマー成分とを有するコーティング組成物中に溶解または懸濁される、[5]の方法。
【0031】
[17] 生物活性物質は、トロンビンインヒビター、アンチトロンボジェニック剤、トロンビン溶解剤、繊維素溶解剤、血管痙攣インヒビター、カルシウムチャネルブロッカー、血管拡張剤、抗高血圧剤、抗微生物剤、抗生物質、表面糖タンパク質受容体のインヒビター、抗血小板剤、抗細胞分裂剤、細小管インヒビター、抗分泌剤、アクチンインヒビター、リモデリングインヒビター、アンチセンスヌクレオチド、抗代謝物、抗増殖剤、抗癌化学療法剤、抗炎症性ステロイドまたは非ステロイド抗炎症剤、免疫抑制剤、成長ホルモンアンタゴニスト、増殖因子、ドパミンアゴニスト、放射線治療剤、ペプチド、タンパク質、酵素、細胞外マトリックス成分、インヒビター、フリーラジカルスカベンジャー、キレート剤、抗酸化剤、抗ポリメラーゼ、抗ウイルス剤、光動的治療薬、および遺伝子治療薬からなる群から選択される、[16]の方法。
【0032】
[18] 生物活性物質は、約0.01〜約90重量%の濃度でコーティング組成物中に溶解または懸濁される、[8]の方法。
【0033】
[19] 生物活性物質は、トロンビンインヒビター、アンチトロンボジェニック剤、トロンビン溶解剤、繊維素溶解剤、血管痙攣インヒビター、カルシウムチャネルブロッカー、血管拡張剤、抗高血圧剤、抗微生物剤、抗生物質、表面糖タンパク質受容体のインヒビター、抗血小板剤、抗細胞分裂剤、細小管インヒビター、抗分泌剤、アクチンインヒビター、リモデリングインヒビター、アンチセンスヌクレオチド、抗代謝物、抗増殖剤、抗癌化学療法剤、抗炎症性ステロイドまたは非ステロイド抗炎症剤、免疫抑制剤、成長ホルモンアンタゴニスト、増殖因子、ドパミンアゴニスト、放射線治療剤、ペプチド、タンパク質、酵素、細胞外マトリックス成分、インヒビター、フリーラジカルスカベンジャー、キレート剤、抗酸化剤、抗ポリメラーゼ、抗ウイルス剤、光動的治療薬、および遺伝子治療薬からなる群から選択される、[18]の方法。
【0034】
[20] 表面は、カテーテルまたはステントを含むデバイスにより提供される、[19]の方法。
【0035】
[21] インビボで配置されるデバイス上のコーティング組成物からの最適な生物活性物質放出速度を選択する方法であって、以下の工程を含む方法:
a) ポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリアリール(メタ)アクリレート、ポリアラルキル(メタ)アクリレート、およびポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含む第1ポリマー成分、およびポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)を含む第2のポリマー成分とを含む、複数のポリマーと組合せて生物活性物質を含む組成物を与え、そして
b) 複数の異なる湿度レベルでデバイス表面に組成物をコーティングして対応する放出プロファイルを提供し、対応する放出プロファイルを評価して所望の制御された湿度レベルを決定する。
【0036】
[22] [1]の方法に従って組成物でコーティングされたデバイスを含む組合せであって、水性環境に置かれた時、生物活性物質の制御放出を提供するようにされている組合せ。
【0037】
[23] デバイスは、埋め込みまたはインビボでの使用の過程で屈曲および/または膨張を受ける埋め込み可能な医学デバイスであり、表面は、それぞれが制御された湿度の条件下で独立にコーティングされた複数のコーティング組成物でコーティングされた、[22]の組合せ。
【0038】
[24] 第1ポリマー成分は、
a) 2〜8個の炭素のアルキル鎖の長さを有するポリアルキル(メタ)アクリレート、
b) 6〜16個の炭素原子のアリール基を有する、ポリアリール(メタ)アクリレート、ポリアラルキル(メタ)アクリレート、およびポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリレート、からなる群から選択され、第1ポリマー成分は重量平均分子量が約50〜約900キロダルトンであり、
そして第2ポリマー成分は、酢酸ビニル濃度が約8〜約90重量%であるポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)ポリマーからなる群から選択される、[22]の組合せ。
【0039】
[25] コーティングは、生物活性物質、および第1ポリマー成分と第2ポリマー成分を含む1部系の形の組成物をコーティングし、コーティング組成物中の両方のポリマーの総組合せ濃度は約0.05〜約70重量%であり、生物活性物質は約0.01〜約90重量%の濃度でコーティング組成物中に溶解または懸濁される、[22]の組合せ。
【0040】
[26] コーティング組成物中の両方のポリマーの総組合せ濃度は約0.25〜約10重量%である、[25]の組合せ。
【0041】
[27] デバイスは、カテーテルとステントからなる群から選択される、[23]の組合せ。
【0042】
[28] カテーテルは、尿カテーテルと静脈内カテーテルからなる群から選択される、[27]の組合せ。
【0043】
[29] 生物活性物質に起因するコーティングの重量は、デバイスの総表面積1cm当たり約1μg〜約10mgの生物活性物質である、[22]の組合せ。
【0044】
[30] 生物活性物質に起因するコーティングの重量は、デバイスの総表面積の1cm当たり約0.01〜約0.5mgの生物活性物質であり、組成物のコーティングの厚さは、約0.1μm〜約100μmの範囲である、[29]の組合せ。
【0045】
[31] a) 設置の過程でまたは以後のインビボで使用の過程で、少なくとも45度以上曲げられるかおよび/またはそのサイズの2倍以上に膨張することによりデバイスが屈曲または膨張を受ける条件下で、インビボでデバイスを埋め込み、そしてb) デバイスが埋め込まれたまま維持され、インサイチュー(in situ)で生物活性物質を放出することを可能にする工程を含む、[23]の組合せの使用法。
【0046】
[32] 第1ポリマー成分は、a) 2〜8個の炭素のアルキル鎖の長さを有するポリアルキル(メタ)アクリレート、
b) 6〜16個の炭素原子のアリール基を有する、ポリアリール(メタ)アクリレート、ポリアラルキル(メタ)アクリレート、およびポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリレート、からなる群から選択され、第1ポリマー成分は重量平均分子量が約50〜約900キロダルトンであり、
そして第2ポリマー成分は、酢酸ビニル濃度が約8〜約90重量%であるポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)ポリマーからなる群から選択される、[31]の方法。
【0047】
[33] 生物活性物質に起因するコーティングの重量は、デバイスの総表面積の1cm当たり約0.01〜約0.5mgの生物活性物質であり、組成物のコーティングの厚さは、約0.1μm〜約100μmの範囲である、[32]の方法。
【0048】
[34] デバイスはカテーテルとステントから選択される、[33]の方法。
【0049】
[35] 体内でインサイチューで配置された[22]のコーティングされたデバイス組合せを含むシステム。
【0050】
[36] 組成物は、そこでポリマーが真の溶液を生成する溶媒を含む、[1]、[15]、[21]、または[31]のいずれか1項の方法。
【0051】
[37] デバイスは、アクリル類、ビニル、ナイロン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリジメチルシロキサン、およびポリエーテルエーテルケトン、天然の有機物質、金属、セラミクス、ガラス、シリカおよびサファイアからなる群から選択される生体材料を含む、[1]、[15]、[21]、または[31]のいずれか1項の方法。
【0052】
[38] アクリルは、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、グリセリルアクリレート、グリセリルメタクリレート、メタクリルアミド、およびアクリルアミドから選択され、ビニルは、エチレン、プロピレン、スチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、およびビニリデンジフルオリドから選択され、ナイロンは、ポリカプロラクタム、ポリラウリルラクタム、ポリヘキサメチレンアジパミド、およびポリヘキサメチレンドデカンジアミドから選択され、有機物質は、ヒト組織、木、セルロース、圧縮炭素、およびゴムから選択され、金属は、チタン、ステンレス鋼、コバルトクロム、金、銀、銅、および白金、およびその合金から選択される、セラミクスは、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニウム、およびアルミナから選択され、このような生体材料]の組合せを含む、[37]の方法。
【0053】
[39] デバイスは、血管デバイス、整形外科用デバイス、歯科デバイス、人工心臓、および心臓支援デバイス;整形外科用デバイス、歯科デバイス、薬剤送達デバイス、眼科デバイス、緑内障ドレインシャント、尿デバイス、合成人工器官、透析チューブおよび膜、血液酸素供給器チューブおよび膜、血液バッグ、縫合糸、膜、細胞培養デバイス、クロマトグラフィー支持材料、バイオセンサーからなる群から選択される、[1]、[15]、[21]、または[31]のいずれか1項の方法。
【0054】
[40] 血管デバイスは、移植片、ステント、カテーテル、弁、人工心臓、および心臓支援デバイスから選択され、整形外科用デバイスは、関節インプラント、骨折修復デバイス、および人工腱から選択され、歯科デバイスは、人工歯根および骨折修復デバイスから選択され、尿デバイスは、陰茎、括約筋、尿道、膀胱および腎デバイスから選択される、[39]の方法。
【0055】
本明細書において用語「コーティング組成物」は、生物活性物質、第1ポリマー成分および/または第2ポリマー成分を、個々にまたは任意の適当な組合せで使用して、表面を有効にコーティングするのに使用される1つ以上のビヒクル(例えば、溶液、混合物、分散物、調合物などの系)に関する。また用語「コートされた(coated)組成物」は、1つ以上のコーティングビヒクルの結果として、または1つ以上の層として形成されても、表面上の生物活性物質、第1ポリマー成分および第2ポリマー成分の有効な組合せを意味する。
【0056】
本発明は、コーティング組成物、および例えばインビボで埋め込まれた時表面が経時的に生物活性物質を放出することを可能にするように、埋め込み可能な医学デバイスの表面をコーティングするために、生物活性物質で表面をコーティングするためのコーティング組成物の関連する使用法を提供する。好適な実施態様においてデバイスは、埋め込みの過程でまたはインビボでの使用で屈曲および/または膨張を受けるものである。更に好適な実施態様において、デバイスをコーティングする方法は、制御された相対湿度(一定の温度で)の条件下で、例えば周囲湿度と比較して上昇または低下した相対湿度の条件下で、デバイス表面に組成物を適用する工程を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
湿度は、組成物を調製および/または使用(例えば適用)する時に、任意の適当な方法、例えば周囲条件とは異なる相対湿度を与える用に適応させた、閉じ込められたチャンバー中または領域中で表面をコーティングすることにより、および/またはコーティングもしくはコーティング組成物自体の水分含量を調整することにより「制御」することができる。また周囲湿度が、対応する制御された生物活性放出プロファイルに相関しているかまたはこれを与えることが決定されているなら、本発明の目的において周囲湿度でさえ「制御」できると考えられる。
【0058】
更におよび特に、対応する複数の層の形で複数のコーティング組成物(その成分を含む)をコーティングする時、湿度を異なる方法(例えば、水和化または脱水コーティング組成物と比較して制御環境を使用して)および/または異なるレベルで制御して、生じるコーティング組成物の所望の放出プロファイルを与えることができる。下記で説明および例示されるように、生じる組成物は、例えば生物活性物質(またはポリマー成分の1つまたは両方を有する生物活性物質)のみを有する初期層(その上に、生物活性物質、第1および/または第2のポリマー成分の適当な組合せを含む1つ以上の追加の層がある)を含む、複数の個々の工程または層を使用してコーティングすることができ、その結果が本発明のコーティング組成物を与える。また、特に好適な実施態様において本発明は、インビボで埋め込まれた医学デバイスの表面からの生物活性物質の放出を再現性良く制御する方法であって、生物活性物質を含むコーティング組成物を用いて制御された湿度条件下で、デバイスをコーティングする工程を含む方法を提供する。本出願人らは、本発明のコーティング組成物は、湿度が上昇した条件下では典型的にはインビボで生物活性物質の放出を加速し、一方湿度レベルの低下が放出を減速させる傾向があることを発見した。制御された湿度は、任意の適当な手段、例えばコーティングプロセス中に環境の湿度を制御することにより、および/またはコーティング組成物自体を水和することにより、達成される。
【0059】
更に、それぞれがその対応する放出プロファイルを有する層の所望の組合せを提供するために、それぞれが制御された湿度を有する複数のコーティング組成物および対応するコーティング工程を使用することができる。当業者は、これらの種々の層の組合せ効果が使用でき、インビボで種々の作用を達成するように最適化する方法を認識するであろう。
【0060】
理論に拘束はされるつもりはないが、インビボでの生物活性物質の放出動態は一般に、埋め込み後数分〜数時間のオーダー内の短期(「バースト」)放出成分と、有用な放出が数時間〜数日または数ヶ月の範囲である長期放出成分とを含むと考えられる。本明細書において生物活性放出の「加速」または「減速」とは、これらの放出動態成分の片方または両方を含むことができる。
【0061】
更に別の実施態様において本発明は、コーティング組成物からの最適放出速度を選択する方法であって、複数の異なる湿度レベルで試料表面をコーティングし、対応する放出プロファイルを評価して所望のプロファイルに対応する制御された湿度レベルを決定することを含む。関連する実施態様において本発明は、制御された湿度条件下で本発明のコーティング組成物を用いて医学デバイスをコーティングするのに使用されるチャンバーを提供する。
【0062】
このような実施態様において、例えばコーティング組成物は、約0%〜約95%の相対湿度(ある温度で、約15℃〜30℃)、および更に好ましくは約0%〜約50%の相対湿度レベルで制御される相対湿度下で、デバイスにコーティングされる。理論に拘束はされるつもりはないが本出願人らは、周囲湿度の差(例えば、同じ位置のコーティング実験の間、および/または異なるコーティング位置の間で)の可能性は大きく変化し、生物活性物質の放出または溶出等の性質に影響を与えるように変化することを見いだした。制御された湿度を使用することにより、本出願人らははるかに制御しやすく再現性良くコーティングを提供することができる。
【0063】
更に本発明の方法でデバイスをコーティングする能力は、種々のコーティング層の組成物により大きな許容範囲を与え、例えば異なる層(例えば、上塗り層として)を形成するのに使用されるコーティング組成物で、多少のポリアルキル(メタ)アクリレートおよび/または芳香族ポリ(メタ)アクリレートが使用されることを可能にする。次にこれは、全体のコーティングからの生物活性物質の放出と溶出を更に制御する機会を提供する。
【0064】
コーティング組成物は、任意の適当な型、例えば真の溶液、液体またはペースト様エマルジョン、混合物、分散物または調合物の形で提供することができる。またコーティング組成物は一般に、溶媒もしくは他の揮発性成分の除去から、および/または表面でインサイチューでコーティング組成物に影響を与える物理化学的作用(例えば、加熱または光照射)により生じる。
【0065】
好適な実施態様においてコーティング組成物は、第1ポリマー成分として少なくとも1つのポリアルキル(メタ)アクリレートを、そして第2ポリマー成分としてポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)(「pEVA」)を含む。本発明での使用に特に好適なポリマー混合物には、ポリ(n−ブチルメタアクリレート)(「pBMA」)とポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)コポリマー(pEVA)の混合物がある。ポリマーの混合物は、約0.05〜約70パーセント(コーティング組成物の重量で)の絶対的ポリマー濃度(すなわち、コーティング組成物中の両方のポリマーの総組合せ濃度)に有用であることが証明されている。ある好適な実施態様においてポリマー混合物は、重量平均分子量が約100キロダルトン〜約1000キロダルトンのポリ(メタ)アクリレート(例えばポリ(n−ブチルメタアクリレート))と、約20〜約40重量%の酢酸ビニル含量のpEVAコポリマーを含む。
【0066】
特に好適な実施態様においてポリマー混合物は、重量平均分子量が約200キロダルトン〜約500キロダルトンのポリアルキル(メタ)アクリレート(例えばポリ(n−ブチルメタアクリレート))と、約30〜約34重量%の酢酸ビニル含量のpEVAコポリマーを含む。コーティング混合物中に溶解または懸濁される生物活性物質の濃度は、最終コーティング組成物の重量に基づき約0.01〜約90重量%の範囲でもよい。
【0067】
本出願人の同時係属出願で議論されているように、第1ポリマー成分として1つ以上の芳香族ポリ(メタ)アクリレートを含むコーティング組成物は、特に対応する広範囲の溶媒の使用の観点から広範囲の生物活性物質の使用を可能にする。例えば本発明のこのような組成物は、それ自体が典型的に使用されているものより極性である溶媒および溶媒系の使用により、極性生物活性物質を含むことを可能にする。このような実施態様において組成物は好ましくは、ポリアリール(メタ)アクリレート、ポリアラルキル(メタ)アクリレート、およびポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1つのポリマー成分、およびポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)を含む第2のポリマー成分とを含む。少なくとも1つの炭素鎖と少なくとも1つの芳香環がアクリル基(特にエステル)と一緒になって本発明のコーティング組成物を提供するポリマー構造を説明するのにこのような用語が使用される。例えばおよび更に詳しくは、ポリアラルキル(メタ)アクリレートまたはポリアリールアルキル(メタ)アクリレートは、また芳香族残基も含有するアルキルから得られる芳香族エステルから作成される。
【0068】
このような組成物は、ポリアルキル(メタ)アクリレートを使用する組成物と比較しても、いくつかの応用で予想外の利点を与える。このような利点は、例えば他の所望の性質の最適組合せを維持しながら、他のコーティング組成物(例えば、ポリアルキル(メタ)アクリレート成分を含むもの)とは異なる特徴(例えば、異なる溶解度特性)を有するコーティングを与える能力に関する。理論に拘束されるつもりは無いが、本発明のアルキルポリ(メタ)アクリレートではなく芳香族ポリ(メタ)アクリレートにより提供される溶解度の上昇(特に、より極性の溶媒において)は、典型的にはポリアルキル(メタ)アクリレートとの使用に好適なものより、それ自体がより極性(例えば、有意に大きい酢酸ビニル成分濃度を有する)であるポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)成分の使用を可能にするようである。
【0069】
本発明のコーティング組成物を調製するのに使用される適当なポリマーおよび生物活性物質は、従来の有機合成法を使用して調製できるか、および/または種々の業者、例えばSigma Aldrich(例えば、1,3−ジオキソラン、ビンクリスチン硫酸、およびポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)、およびPolysciences, Inc. (ワシントン、ペンシルバニア州)(例えば、ポリベンジルメタクリレートおよびポリ(メチルメタクリレート−co−n−ブチルメタクリレート))から販売されている。場合によりおよび好ましくは、このようなポリマー成分は、インビボでの使用に適した形で提供されるか、またはこのような使用のために、当業者に公知の従来法により所望の程度(例えば、不純物を除去して)に精製される。
【0070】
このコーティング組成物と方法は、埋め込み可能な医学デバイスの1つ以上の表面からの生物活性物質(例えば薬剤)の量と放出速度を制御するのに使用することができる。好適な実施態様においてこの方法は、疎水性ポリマーを1つ以上の生物活性物質(例えば薬剤)と組合せた混合物を使用して、医学デバイスからの物質の量と放出速度が、混合物中の疎水性ポリマーの相対的種類および/または濃度を調整することにより制御できるようにする。あるポリマーの組合せについて例えばこのアプローチは、コーティング混合物中のポリマーの相対濃度を調整するのみで、放出速度を調整し制御できるようにする。
【0071】
本発明の好適なコーティング組成物には、相補的物性を有する2つ以上のポリマーと、埋め込みまたは使用時に屈曲および/または膨張を受ける埋め込み可能な医学デバイスの表面に適用される薬剤の混合物がある。適用されるコーティング組成物は、医学デバイスの表面で頑強で柔軟性のある生物活性放出コーティング組成物を与えるために硬化(例えば溶媒を留去)される。相補的ポリマーは、ポリマーの好ましい物性に悪影響を与えることなく、広範囲の相対的ポリマー濃度が使用できるように選択される。本発明のポリマー混合物を使用することにより、コーティングされた医学デバイスからの生物活性放出速度は、ポリマーの相対的濃度を調整することにより操作することができる。
【0072】
発明の詳細な説明 特に好適な実施態様において本発明は、埋め込み時に屈曲および/または膨張を受ける埋め込み可能な医学デバイスをコーティングするための、コーティング組成物と関連方法とに関する。基本的なデバイスの構造と構成は、任意の適当な医学的に許容される設計でよく、コーティング自体と適合性のある任意の適当な材料で作成することができる。医学デバイスの表面は、1つ以上の生物活性物質を含有するコーティングが提供される。
【0073】
好適なコーティングを提供するために、コーティング組成物は、溶媒、溶媒に溶解した相補的ポリマーの組合せ、およびポリマー/溶媒混合物中に分散した生物活性物質とを含むように調製される。溶媒は好ましくは、そこでポリマーが真の溶液を生成するものである。薬剤自体は、溶媒中で可溶性でもまたは溶媒全体に分散物を形成してもよい。例えば本出願人の以前の米国特許第6,214,901号は、溶媒としてテトラヒドロフランの使用を例示する。THFは実際コーティング組成物に適してり、場合により好適であるが、本出願人らは予想外の利点を与えるために、他の溶媒も使用できることを更に発見した。これらの溶媒には、特に限定されないが、アルコール(例えば、メタノール、ブタノール、プロパノール、およびイソプロパノール)、アルカン(例えば、ハロゲン化または非ハロゲン化アルカン、例えばヘキサンおよびシクロヘキサン)、アミド(例えばジメチルホルムアミド)、エーテル(例えば、THFとジオキソラン)、ケトン(例えばメチルエチルケトン)、芳香族化合物(例えば、トルエンおよびキシレン)、ニトリル(例えば、アセトニトリル)、およびエステル(例えば酢酸エチル)がある。
【0074】
生じるコーティング組成物は、制御された相対湿度条件下で任意の適当な方法でデバイスに適用することができ、例えばこれは、医学デバイスの表面に直接か、または浸漬、噴霧、または任意の従来法により表面を修飾した医学デバイスの表面に適用することができる。このような実施態様において例えば、コーティングは少なくとも2つの層を含み、これらは相対湿度の異なる条件下でコーティングされ、および/またはこれら自体が異なる。例えば、生物活性物質を単独で、または1つ以上のポリマー成分とともに有するベース層(その後に1つ以上の上塗り層が、生物活性物質有りまたは無しで、および/または異なる条件の相対湿度下でコーティングされる)。これらの異なる層は次に、生じる複合コーティング中で共同して、いくつかの所望の特徴を有する全体的な放出プロファイルを与え、特に高分子量の生物活性物質との使用に好適である。好ましくは組成物は、1つ以上の応用でデバイス表面にコーティングされる。コーティング組成物のデバイスへの適用方法は、典型的にはデバイスの形状と他のプロセスにより支配される。次に溶媒を留去することによりコーティングは硬化される。硬化プロセスは、室温で、高温で、または真空の助けを借りて行うことができる。
【0075】
本発明で使用するためのポリマー混合物は好ましくは生体適合性であり、例えば埋め込まれた時に炎症または刺激を誘導しない。更にポリマー組合せは、ポリマーの絶対濃度と相対濃度の両方の広いスペーサー下で有用でなければならない。これは、コーティングの物性(例えば、強靱さ、耐久性、柔軟性および拡張性)が典型的には広範囲のポリマー濃度にわたって充分であることを意味する。更に、種々の薬剤の放出速度を制御するコーティングの能力は、好ましくはポリマーの絶対濃度と相対濃度を変化させることにより操作することができる。
【0076】
本発明の第1ポリマー成分は、種々の構造/機能的性質(疎水性、耐久性、生物活性物質放出特性、生体適合性、分子量および利用可能性を含む)の最適組合せを提供する。
【0077】
適当な第1ポリマーのさらなる例には、ポリアリール(メタ)アクリレート、ポリアラルキル(メタ)アクリレート、およびポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリレート、特に6〜16個の炭素原子を有し、重量平均分子量が約50〜約900キロダルトンのアリール基を有するものがある。ポリアリール(メタ)アクリレートの例には、ポリ−9−アントラセニルメタクリレート、ポリクロロフェニルアクリレート、ポリメタクリルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、ポリメタクリルオキシヒドロキシベンゾトリアゾール、ポリナフチルアクリレート、ポリナフチルメタクリレート、ポリ−4−ニトロフェニルアクリレート、ポリペンタクロロ(ブロモ、フルオロ)アクリレートとメタクリレート、ポリフェニルアクリレートとメタクリレートがある。ポリアラルキル(メタ)アクリレートの例には、ポリベンジルアクリレートとメタクリレート、ポリ−2−フェネチルアクリレートとメタクリレート、ポリ−1−ピレニルメチルメタクリレートがある。ポリアリールオキシアルキル(メタ)アクリレートの例には、ポリフェノキシエチルアクリレートとメタクリレート、種々のポリエチレングリコール分子量を有するポリエチレングリコールフェニルエーテルアクリレートとメタクリレートがある。
【0078】
本発明の第2ポリマー成分は、特に第1ポリマー成分との混合物で使用される時、同様の性質の最適な組合せを提供する。適当な第2ポリマーの例は市販されており、酢酸ビニル濃度が約8%〜約90%であり、ビーズ、ペレット、顆粒などの形のポリ(エチレン−co−ビニルアセテート)がある。低パーセント酢酸ビニルとのpEVAコポリマーは、典型的な溶媒中で不溶性が上昇する。
【0079】
本発明で使用される特に好適なコーティング組成物には、ポリアルキル(メタ)アクリレート(例えばポリブチル(メタ)アクリレート)または芳香族ポリ(メタ)アクリレート(例えばポリベンジル(メタ)アクリレート)およびポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)コポリマー(pEVA)の混合物がある。このポリマーの混合物は、絶対ポリマー濃度(すなわち、コーティング組成物中の両方のポリマーの総組合せ濃度)が約0.05〜約70重量%、および更に好ましくは約0.25〜約10重量%で有用であった。好適な実施態様においてポリマー混合物は、重量平均分子量が約100キロダルトン〜約500キロダルトンの第1ポリマー成分(例えばpBMA)と、酢酸ビニル含量が約8〜約90重量%および更に好ましくは約20〜約40重量%のpEVAコポリマーとを含む。ことに好適な実施態様においてポリマー混合物は、分子量が約200キロダルトン〜約400キロダルトンの第1ポリマー成分と、酢酸ビニル含量が約30〜約34重量%のpEVAコポリマーとを含む。コーティング混合物中に溶解または懸濁される生物活性物質の濃度は、最終コーティング組成物の重量に基づいて約0.01〜約90重量%の範囲でよい。
【0080】
本発明で有用な生物活性物質(例えば薬剤)には、埋め込み部位への適用のための好ましい治療的特徴を有する任意の治療用物質がある。これらの物質には以下がある:トロンビンインヒビター、アンチトロンボジェニック剤、トロンビン溶解剤、繊維素溶解剤、血管痙攣インヒビター、カルシウムチャネルブロッカー、血管拡張剤、抗高血圧剤、抗微生物剤、抗生物質、表面糖タンパク質受容体のインヒビター、抗血小板剤、抗細胞分裂剤、細小管インヒビター、抗分泌剤、アクチンインヒビター、リモデリングインヒビター、アンチセンスヌクレオチド、抗代謝物、抗増殖剤(抗血管形成剤を含む)、抗癌化学療法剤、抗炎症性ステロイドまたは非ステロイド抗炎症剤、免疫抑制剤、成長ホルモンアンタゴニスト、増殖因子、ドパミンアゴニスト、放射線治療剤、ペプチド、タンパク質、酵素、細胞外マトリックス成分、ACEインヒビター、フリーラジカルスカベンジャー、キレート剤、抗酸化剤、抗ポリメラーゼ、抗ウイルス剤、光動的治療薬、および遺伝子治療薬。
【0081】
本発明のコーティング組成物は、種々のデバイスの表面をコーティングするのに使用でき、特に水性系と接触するデバイスに有用である。このようなデバイスは、長期に制御された方法で生物活性物質を放出するようにした組成物でコーティングされ、一般にデバイスの表面とその水性環境との最初の接触で始まる。
【0082】
本発明のコーティング組成物は好ましくは、その埋め込みまたはインビボでの使用の過程で屈曲または膨張を受ける埋め込み可能な医学デバイスをコーティングするのに使用される。本明細書において「屈曲」および「膨張」という用語は、その設置の過程でまたは以後のインビボでの使用の過程で、曲げられる(例えば少なくとも45度以上)および/または膨張する(例えば、そのサイズの2倍以上)デバイスまたはその一部を意味する。
【0083】
適当なカテーテルの例には、表面コーティングへの抗微生物剤(例えば、バンコマイシンまたはノルフロキサシン等の抗生物質)の取り込みにより利益を受ける尿カテーテル、および抗微生物剤および/または抗トロンビン剤(例えば、ヘパリン、ヒルジン、クマジン)により利益を受ける静脈内カテーテルがある。このようなカテーテルは典型的には、シリコーンゴム、ポリウレタン、ラテックスおよびポリ塩化ビニル等の物質から作成される。
【0084】
コーティング組成物はまた、ステント(例えば、典型的にはニチノールから作成される自己膨張性ステント、または典型的にはステンレス鋼から作成されるバルーン膨張性ステント)をコーティングするのに使用することもできる。他のステント材料(例えば、コバルトクロム合金)は、コーティング組成物によってもコーティングすることができる。
【0085】
本発明のコーティング組成物は、任意の適当な手段、例えば浸漬、噴霧などを使用して埋め込み物表面をコーティングするのに使用することができる。特定の物質で使用するためのコーティング組成物の適切性、従ってコーティング組成物の適切性を、当業者は本説明から評価することができる。
【0086】
表面上のコーティングの全重量は、決定的に重要ではない。生物活性物質に起因するコーティングの重量は、好ましくはデバイスの有効表面積1cm当たり約1μg〜約10mgの生物活性物質である。「有効」表面積とは、組成物自体でコーティングされる表面を意味する。例えば平面の非多孔性の表面についてはこれは一般に肉眼的表面積自体であり、はるかにより多孔性または屈曲した(例えば、波状、ひだ状、または繊維状)表面については有効表面積は、対応する肉眼的表面積より有意に大きい。更に好ましくは生物活性物質に起因するコーティングの重量は、デバイスの総表面積の1cm当たり約0.01〜約0.5mgの生物活性物質である。この量の薬剤は一般に、生理学的条件下で充分な活性を与えるのに必要である。
【0087】
次に本発明の好適なコーティング組成物の最終的コーティングの厚さは、典型的には約0.1μm〜約100μm、および好ましくは約0.5μm〜約25μmの範囲である。このレベルのコーティング厚さは一般に、薬剤の充分な濃度を与えて、生理学的条件下で充分な活性を与えるのに必要である。
【0088】
コーティング組成物は、種々の生体材料表面から生物活性物質を供給する手段を提供する。好適な生体材料には、合成ポリマー、例えばオリゴマー、ホモポリマー、および付加もしくは縮合重合から得られるコポリマーで形成されるものがある。適当な付加ポリマーの例には、特に限定されないが、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、グリセリルアクリレート、グリセリルメタクリレート、メタクリルアミド、およびアクリルアミドから重合されるアクリル類;ビニル、例えばエチレン、プロピレン、スチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、およびビニリデンジフルオリドがある。縮合ポリマーの例には、特に限定されないが、ナイロン、例えばポリカプロラクタム、ポリラウリルラクタム、ポリヘキサメチレンアジパミド、およびポリヘキサメチレンドデカンジアミド、およびまたポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリジメチルシロキサン、およびポリエーテルエーテルケトンがある。
【0089】
いくつかの天然の材料も適当な生体材料であり、ヒト組織、例えば骨、軟骨、皮膚および歯;および他の材料、例えば木、セルロース、圧縮炭素、およびゴムがある。他の適当な生体材料には、金属およびセラミクスがある。金属には、特に限定されないが、チタン、ステンレス鋼、コバルトクロムがある。第2のクラスの金属には、貴金属、例えば金、銀、銅、および白金がある。金属の合金は、生体材料にも適している。セラミクスには、特に限定されないが、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニウム、およびアルミナ、ならびにガラス、シリカおよびサファイアがある。セラミクスと金属の組合せは、別のクラスの生体材料である。別のクラスの生体材料は繊維性または多孔性である。このような生体材料の表面は、生体材料の表面特性を変化させるために前処理することができる(例えば、Paryleneコーティング組成物)。
【0090】
生体材料は種々の埋め込みデバイスを作成するのに使用することができる。一般的なクラスの適当な埋め込みデバイスには、特に限定されないが、血管デバイス、例えば移植片、ステント、カテーテル、弁、人工心臓、および心臓支援デバイス;整形外科用デバイス、例えば関節インプラント、骨折修復デバイス、および人工腱;歯科デバイスと人工歯根および骨折修復デバイス;薬剤送達デバイス;眼科デバイスと緑内障ドレインシャント;尿デバイス、例えば陰茎、括約筋、尿道、膀胱および腎デバイス;および他のカテーテル、合成人工器官、例えば乳房人工器官および人工臓器。他の適当な生物医学デバイスには、透析チューブおよび膜、血液酸素供給器チューブおよび膜、血液バッグ、縫合糸、膜、細胞培養デバイス、クロマトグラフィー支持材料、バイオセンサーなどがある。
【0091】
本発明は、以下の非限定例を参照して更に説明される。本発明の範囲を逸脱することなく、本明細書に記載の実施態様に多くの変更が可能であることは当業者に明らかであろう。すなわち本発明の範囲は、本出願に記載される実施態様に限定すべきではなく、特許請求の範囲の言葉使い、およびこれらの実施態様の同等物により記載された実施態様により限定される。特に明記しない場合は、すべてのパーセントは重量による。
【実施例】
【0092】
試験方法
インビボ使用のための特定のコーティング組成物の適切性は、種々の方法(例えば耐久性試験、柔軟性試験、および放出試験を含む)により測定できる(そのそれぞれの例を本明細書に記載する)。
【0093】
試料調製
直径1mmのステンレス鋼針金(例えば304グレード)を5cmの長さに切る。針金切片を、パーリーレーンC(Parylene C)コーティング組成物(「パーリーレーン」はUnion Carbide Corporation)の登録商標である)で処理するか、または処理無しで評価した。
【0094】
生物活性物質/ポリマー混合物を、本明細書に記載のように適切な溶媒中である範囲の濃度で調製した。コーティング混合物を、浸漬または噴霧により各針金またはその一部に適用し、コーティングされた針金を溶媒留去により硬化させた。コーティングされた針金を再度重量を測定した。この重量から、コーティングの質量が計算され、これは次にコーティングポリマーと測定すべき生物活性物質の質量を可能にする。コーティング厚さは、任意の適当な手段(例えば、マイクロプロセッサーコーティング厚さゲージ(ミンテスト4100(Minitest 4100))を使用して測定することができる。
【0095】
コーティング組成物の耐久性と柔軟性は、以下の方法で測定することができる。
耐久性試験
適当な耐久性試験は、コーティング試料(例えば針金)を繰り返し摩擦力に付して、実際の使用で試料が暴露される種類の摩耗を刺激する。
【0096】
下記の試験は、繰り返し60サイクル処理を使用し、最初の5サイクルと最後の5サイクルの間の力の測定値に変化があるかどうかまたは走査電子顕微鏡(「SEM」)分析により検出できるはく離または傷跡があるかどうかを測定する。再生セルロース膜を水和し、200gのステンレス鋼をスレッド(sled)の周りに包む。セルロース膜をスレッドの反対側にクリップでかたく留める。次に、回転するアームのあるスレッドとコンピューターインターフェースを有する250gのデジタルフォースゲージに取り付ける。試験表面を、マイクロステッパーモーター制御付きのレールテーブルにのせる。針金を試験表面に固定する。セルロースにカバーされたスレッドを針金の上に置く。スレッドが5プッシュ/プルサイクルで5cmのセクションに0.5cm/秒で移動する時の最初の力の測定を行う。次にスレッドは、50プッシュ/プルサイクルで5cm/秒でコーティング試料の上でサイクルを続けて、摩耗を刺激する。次に速度を0.5cm/秒に低下させ、更に5プッシュ/プルサイクルで最後の力の測定を行う。
【0097】
摩耗したコーティングされた針金と摩耗していないコーティングされた針金のSEM顕微鏡写真を撮って、コーティングによる摩耗の影響を評価する。
【0098】
柔軟性試験
次に適当な柔軟性試験を使用して、コーティング試料の曲げの過程で発生する欠陥(走査電子顕微鏡により観察する時)、特に曲げ部またはその近くのひび割れの兆候を検出することができる。
【0099】
針金試料を、上記の方法により得てコーティングする。コーティングされた針金の一端(1.0cm)を台万力に固定する。針金の空いている方の端(1.0cm)をペンチでつかむ。それ自体が作る角度が90度未満になるまで針金を曲げる。万力から針金をとりはずし、SEMで観察して、コーティングへの曲げの影響を調べる。
【0100】
生物活性物質放出アッセイ
本明細書に記載の適当な生物活性物質放出アッセイを使用して、生理学的条件下で薬剤放出の程度と速度を測定することができる。一般に、放出される薬剤の総量の50%未満が最初の24時間以内に放出されることが好ましい。少なくとも30日間継続してある量の薬剤が放出されることが、しばしば好ましい。薬剤が放出された後、SEM評価により完全なコーティングが明らかになるはずである。
【0101】
特に明記しない場合は、各コーティングされた針金を5mlの緩衝液[これは特に明記しない場合は、リン酸緩衝化生理食塩水(「PBS」、10mMリン酸塩、150mM NaCl、pH7.4、水溶液)]の入った試験管に入れる。
【0102】
試験管を環境オービタルシェーカー中のラックに入れ、37℃で攪拌する。一定間隔で試験管からPBSを取り出し、新鮮なPBSと交換する。各PBS試料中の薬剤濃度を、適切な方法を使用して測定する。
【0103】
コーティングされた針金からすべての測定可能な薬剤が放出されたら、針金を水で洗浄し、乾燥し、再度重量を測定し、コーティング厚さを測定し、コーティングの質をSEM分析により調べる。
【0104】
比較例1
コーティングしたステンレス針金からのヘキサクロロフェンの放出 直径1mmのステンレス針金(304グレード)を2cmの切片に切る。切片を、パーリーレーンC(Parylene C)コーティング組成物で処理して、針金上に薄い相似ポリマーコーティングを沈着させる。
【0105】
針金をコーティングするのに4つの溶液を調製した。溶液は以下の混合物を含有した:pEVA(33重量%の酢酸ビニル、アルドリッチケミカル社(Aldrich Chemical Company Inc.)から);ポリ(n−ブチルメタアクリレート)(「pBMA」)(337,000平均分子量、アルドリッチケミカル社から);およびヘキサクロロフェン(「HCP」)、シグマケミカル社(Sigma Chemical Co.)から、テトラヒドロフランに溶解する。溶液を以下のように調製した:
【0106】
1) 10mg/ml pEVA/60mg/ml pBMA//100mg/ml HCP
【0107】
2) 35mg/ml pEVA/35mg/ml pBMA//100mg/ml HCP
【0108】
3) 60mg/ml pEVA/10mg/ml pBMA//100mg/ml HCP
【0109】
4) 0mg/ml pEVA/0mg/ml pBMA//100mg/ml HCP
【0110】
9つの針金切片を各コーティング溶液でコーティングした。針金切片をコーティングするのに以下のプロトコールに従った。パーリーレーン処理針金切片を、イソプロピルアルコールで湿らせたティッシュで拭いた後コーティングした。2cm/秒の浸漬速度を使用して針金切片をコーティング溶液中に浸漬した。直ちに1cm/秒の速度でコーティング溶液から針金切片を取り出し、次にコーティング切片を室温で風乾した。
【0111】
個々の針金切片を、2mlのリン酸緩衝化生理食塩水(「PBS」、pH7.4)を含有する試験管に入れた。試験管を37℃で環境オービタルシェーカー上で100回転/分でインキュベートした。初日に1時間、3時間および5時間目にPBSを交換し、以後毎日交換した。試料の吸光度をUV/可視光線分光光度計で298nmで測定し、HCP標準曲線と比較することにより、PBS試料をHCP濃度について分析した。
【0112】
結果は米国特許第6,214,901号の図1に示し、これはポリマー混合物の相対濃度を変化させることにより、コーティング表面からの薬剤の放出速度を制御する能力を証明する。
【0113】
比較例2
本開示に記載のポリマーは、上記で概説したアッセイプロトコールを使用して評価した。評価したポリマー混合物は、100% pBMAから100% pEVAの範囲であった。これらの評価の代表的結果を以下に要約する。
【0114】
完全にpBMAで作成されている対照コーティングは非常に耐久性があり、耐久性試験で全く磨耗を示さない。しかし柔軟性試験を行うと、これらのコーティングは、特に多量の薬剤の存在下でひび割れを生じる。これらのコーティングは薬剤の放出が非常に遅い。
【0115】
これに対して完全にpEVAで作成されている対照コーティングは、あまり耐久性は無く、柔軟性試験ではひび割れの兆候は示さないが、耐久性試験では大きな傷跡を示す。これらのコーティングは薬剤を比較的速く放出し、通常総量の50%以上を24時間以内に放出する。
【0116】
両方のポリマーの混合物を含有するコーティングは非常に耐久性があり、耐久性試験で摩耗の兆候も柔軟性試験でひび割れも示さない。これらのコーティングからの薬剤放出は、ポリマーの相対濃度を変化させることにより操作することができる。例えば薬剤放出速度は、pEVAの相対濃度を上げることにより制御的に上昇させることができる。
【0117】
耐久性試験で傷跡の兆候を示さず柔軟性試験でひび割れの兆候を示さない生物活性物質含有コーティングは、埋め込みおよび/または使用の過程で屈曲および/または膨張を受ける埋め込み可能な医学デバイスへの応用に必要な特性を有する。
【0118】
実施例1
各35mg/ml濃度の3つの異なるポリマー溶液を、以下に示す1,3−ジオキソラン中で調製して、1部系の形でコーティング組成物を与えた。最初の溶液はポリ(n−ブチルメタアクリレート)を含有し、およその重量平均分子量は337キロダルトンであった;第2の溶液は、酢酸ビニル含量が60%(w/w)のポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)と、ポリ(ベンジルメタクリレート)(「PEVA60/P[ベンジル]MA)を、(50/50%(w/w))のポリマー比で含有した。ポリ(n−ブチルメタアクリレート)とポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)は、有機溶媒で抽出して不純物(例えばモノマー残基)を除去して精製した。第3の溶液は、酢酸ビニル含量が60%(w/w)のポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)とポリ(メチルメタクリレート−co−n−ブチルメタクリレート)(「PEVA60/P[メチル−co−n−ブチル]MA」)(市販されており、ポリ(メチルメタクリレート/n−ブチルメタクリレートとして知られている)とを、(50/50%(w/w))のポリマー比で含有した。ビンクリスチン硫酸と一部の追加の1,3−ジオキソランを3つの溶液のそれぞれに加え、1部系の形でコーティング組成物に加えた(最終濃度17.5mg/mlで)。ビンクリスチン/ポリマー比は30/70%(w/w)であった。
【0119】
試料調製
直径16mmで全体の厚さが2mmのステンレス鋼のディスクを、直径14mmの平面の台を用いて作成した。台の表面積は1.54cmであった。パーリーレーン等の表面処理をディスクに適用するか、または表面を未処理とした。ディスクの重量をミクロ天秤上で測定した。
【0120】
ビンクリスチン硫酸を含有するポリマー溶液を、ピペットを用いてディスクの台表面に適用した。適用の間でコートを乾燥させて2つのコーティングを適用した。ディスクから溶媒を留去し、ミクロ天秤上でディスクの重量を再度測定して、ディスク当たりのビンクリスチン硫酸の量を得た。
【0121】
生物活性物質放出アッセイ
本明細書に記載の適当な生物活性物質放出アッセイを使用して、生物活性物質放出の程度と速度を測定することができる。一般に、放出される薬剤の総量の50%未満が最初の24時間以内に放出されることが好ましい。少なくとも30日間継続して、ある量の薬剤が放出されることが、しばしば好ましい。
【0122】
特に明記しない場合は各コーティングディスクは、4mlの溶出溶媒を有する琥珀色のバイアルに入れた。溶出溶媒は、50%メタノールと50% PBSからなった。バイアルを水浴に入れ37℃で攪拌した。一定時間間隔で、ディスクをバイアルから取り出し、新鮮な溶出溶媒を含有する新しいバイアルに入れ、新しいバイアルを水浴に入れて実験を続けた。各溶出溶媒試料中の生物活性物質濃度は、UV分光光度法を使用して測定した。
【0123】
すべての測定可能な生物活性物質がコーティングディスクから放出された後、ディスクを水で洗浄し、乾燥し、再度重量を測定してディスクの重量の喪失を測定した。
【0124】
結論
結果を図1に示すが、ここで、ポリ(n−ブチルメタアクリレート)またはポリ(メチルメタクリレート−co−n−ブチルメタクリレート)とポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)の混合物を含有するコーティングについて、約80%以上のビンクリスチン硫酸が1日以内に放出されたことがわかる。ポリ(ベンジルメタクリレート)とポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)を含有する混合物は、1ヶ月以上ビンクリスチン硫酸の持続性制御放出を示した。
【0125】
湿度試料
異なる生物活性物質、すなわち272ダルトンの低分子量生物活性物質の例としてβ−エストラジオールと、4400ダルトンの水溶性の高分子量生物活性物質の例としてテトラメチルローダミンイソチオシアネート−デキストラン(デキストラン−TRITC)とを使用して、2つの例を示す。
【0126】
実施例2
溶液調製−デキストラン
2部系の形で請求された本発明のコーティング組成物を提供するために、2つの溶液を調製した。最初の溶液は、15mg/mlの濃度の生物活性物質デキストラン−TRITCを含有する水溶液である。第2の溶液は、酢酸ビニル濃度が33%(w/w)のポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)と、およその重量平均分子量が337キロダルトンのポリ(n−ブチルメタアクリレート)とを含有する。ポリ(n−ブチルメタアクリレート)とポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)は、有機溶媒で抽出して不純物(例えばモノマー残基)を除去して精製した。第2の溶液のポリマーは、10mg/mlの濃度でテトラヒドロフラン中に溶解した。
【0127】
試料調製
直径15mmで全体の厚さが2mmのステンレス鋼のディスクを、直径9mmの平面の台を用いて作成した。台の表面積は0.64cmであった。パーリーレーン等の表面処理をディスクに適用するか、または表面を未処理とした。ディスクの重量をミクロ天秤上で測定した。生物活性物質水溶液を、ピペットを用いてディスクの台表面に適用した。ディスクから水を留去し、ミクロ天秤上でディスクの重量を再度測定して、ディスク上のビンクリスチン硫酸の量を得た。ポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)とポリ(n−ブチルメタアクリレート)とを含有するポリマーコーティング溶液を、ディスクの全表面に適用してデキストランをカバーした。ポリマーコーティング溶液を、ある範囲の湿度条件下でコーティングした。ディスクからテトラヒドロフランを蒸発させ、コーティングを真空下で乾燥した。3度目のディスクの重量測定を行って、ディスク当たりのポリマーの量を得た。
【0128】
生物活性物質放出アッセイ
本明細書に記載の適当な生物活性物質放出アッセイを使用して、生理学的条件下で生物活性物質放出の程度と速度を測定することができる。一般に、放出される薬剤の総量の50%未満が最初の24時間以内に放出されることが好ましい。少なくとも30日間継続して、ある量の薬剤が放出されることが、しばしば好ましい。
【0129】
特に明記しない場合は各コーティングディスクは、4mlの溶出溶媒を有する琥珀色のバイアルに入れた。バイアルを水浴に入れ37℃で攪拌した。一定時間間隔で、ディスクをバイアルから取り出し、新鮮な溶出溶媒を含有する新しいバイアルに入れ、新しいバイアルを水浴に入れて実験を続けた。各PBS試料中の生物活性物質濃度は、UV分光光度法を使用して測定した。
【0130】
すべての測定可能な生物活性物質がコーティングディスクから放出された後、ディスクを水で洗浄し、乾燥し、再度重量を測定してディスクの重量の喪失を測定した。
【0131】
結論
結果を図2に示すが、ここで、ポリマー上塗り組成物がコーティングされる相対湿度を使用して、下層にコーティングされた生物活性物質の放出速度を制御できることがわかる。生物活性物質は複合コーティングからより速い速度で放出され、10%の相対湿度でコーティングされたポリマー上塗りコーティングからより、上塗りは48%の相対湿度でコーティングされた。
【0132】
実施例3
β−エストラジオール溶液調製
酢酸ビニル濃度が33%(w/w)のポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)と、ポリ(n−ブチルメタアクリレート)を含有するポリマーコーティング溶液を、それぞれ14/86%(w/w)のポリマー比でテトラヒドロフラン中で調製した。ポリマーの溶解後ポリマーコーティング溶液にβ−エストラジオールを加えて、本発明のコーティング組成物を1部系の形で得た。β−エストラジオール含有ポリマー溶液の生物活性物質/ポリマー比は、10mg/mlの濃度で30/70%(w/w)であった。
【0133】
試料調製
外径2mmで18mmの長さの電解研磨したステンレス鋼のステントを作成した(ラセラージテクノロジー社(Laserage Technology Corporation)、Waukegan、イリノイ州)。パーリーレーン等の表面処理をステントに適用するか、または表面を未処理とした。ステントの重量をミクロ天秤上で測定した。β−エストラジオール含有ポリマー溶液を、環境中で0、20、30、または40%の相対湿度で22℃で、ステンレス鋼ステント上にコーティング(例えば噴霧)した。乾燥後、ステントの重量を再度ミクロ天秤上で測定して、ステント当たりのβ−エストラジオールの量を得た。
【0134】
生物活性物質放出アッセイ
本明細書に記載の適当な生物活性物質放出アッセイを使用して、生理学的条件下で生物活性物質放出の程度と速度を測定することができる。一般に、放出される薬剤の総量の50%未満が最初の24時間以内に放出されることが好ましい。少なくとも30日間継続して、ある量の薬剤が放出されることが、しばしば好ましい。
【0135】
特に明記しない場合は各コーティングディスクは、1.6mlのPBSを有する琥珀色のバイアルに入れた。バイアルを水浴に入れ37℃で攪拌した。一定時間間隔で、ステントをバイアルから取り出し、新鮮なPBSを含有する新しいバイアルに入れ、新しいバイアルを水浴に入れて実験を続けた。各PBS試料中のβ−エストラジオールの濃度は、UV分光光度法を使用して測定した。
【0136】
結論
結果を図3に示すが、ここで、異なる湿度レベル条件下でのステントのコーティングを使用して、ポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)とポリ(n−ブチルメタアクリレート)とを含有するコーティングからのβ−エストラジオール放出速度を制御することができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】図1は、実施例1に記載の実験結果を示すプロットを与える。
【図2】図2は、実施例2に記載の実験結果を示すプロットを与える。
【図3】図3は、実施例3に記載の実験結果を示すプロットを与える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビボ(in vivo)でコーティング組成物からの生物活性物質の放出速度を制御する方法であって、以下の工程を含む方法:
a) ポリ(メタ)アクリレートと芳香族ポリ(メタ)アクリレートから選択される第1ポリマー成分と、ポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)を含む第2ポリマー成分とを含む複数のポリマーと組合せて生物活性物質を含む組成物を与え(providing)、そして
b) 制御された湿度条件下でコーティング組成物を適用して、インビボの対応する制御された生物活性物質放出プロファイルを与える。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−185519(P2007−185519A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−33953(P2007−33953)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【分割の表示】特願2004−512819(P2004−512819)の分割
【原出願日】平成15年6月18日(2003.6.18)
【出願人】(500064890)サーモディックス,インコーポレイティド (15)
【Fターム(参考)】