説明

生物餌料タウリン強化用餌料

【課題】
効率良く生物餌料特にワムシのタウリン強化が可能で、しかもワムシの培養水の水質を悪化させない生物餌料タウリン強化用餌料を提供する。
【解決手段】
水分含量が60〜90%のタウリン含有クリーム状酵母にビタミンB12、キサンタンガム、植物プランクトン及び栄養強化剤を添加・混合して得られる本発明の生物餌料タウリン強化用餌料をワムシの培養に使用することで、ワムシのタウリン強化が効率良くなり、しかもワムシの培養水の水質も悪化させないことを見出し、本発明を完成させるに至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海産魚の種苗生産で使用される生物餌料タウリン強化用餌料、及び該生物餌料タウリン強化用餌料を用いた生物餌料のタウリン強化法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、タウリンは海産魚においても必須の栄養成分の一つであると云われるようになってきた。ところが養魚用飼料には魚粉を始めとして、イカミールやオキアミミール等タウリンを多量に含む原料を使用するので、配合飼料を摂食するようになった魚にはタウリン欠乏症は認められない。
問題になるのは配合飼料を摂食するようになる前、具体的には生物餌料であるワムシを摂食している時期である。ワムシにはタウリンは殆ど含まれていないので、ワムシにタウリンを強化してやる必要がある。現在、タウリン給源として最も安価な原料は合成タウリンであり、この合成タウリンをワムシの培養水に溶解し、ワムシに取り込ませる方法が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−259760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところがワムシは水中に懸濁している固形物を濾過して摂取する生物であるため、タウリンを水中に溶解した場合には取り込み効率が悪くなるという問題点がある。また、水中に溶解したタウリンは取り込み効率が悪いため、大量のタウリンをワムシの培養水に溶解する必要があるが、タウリンを大量に溶解した水でワムシを培養すると短時間でアンモニア濃度が高くなるため、ワムシの活力に影響を与えるのみでなく、該ワムシを用いて飼育した魚にも悪い影響を及ぼす。よって、効率良くワムシのタウリン強化が可能で、しかもワムシの培養水の水質を悪化させない生物餌料タウリン強化用餌料の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記従来の問題点を解決するため鋭意研究の結果、水分含量が60〜90%のタウリン含有クリーム状酵母にビタミンB12、キサンタンガム、植物プランクトン及び栄養強化剤を添加・混合して得られる本発明の生物餌料タウリン強化用餌料をワムシの培養に使用することで、ワムシのタウリン強化が効率良くなり、しかもワムシの培養水の水質も悪化させないことを見出し、本発明を完成させるに至った。課題を解決するための手段は、以下の通りである。
(1)水分含量が60〜90%のタウリン含有クリーム状酵母を有効成分とする生物餌料タウリン強化用餌料。
(2)前記(1)に記載のタウリン含有クリーム状酵母1Kgに対してキサンタンガムを0.035〜0.35g添加してなる生物餌料タウリン強化用餌料。
(3)前記(1)または(2)に記載のタウリン含有クリーム状酵母1Kgに対してビタミンB12を0.01〜10mg添加・混合することを特徴とする、生物餌料タウリン強化用餌料。
(4)タウリン含有クリーム状酵母中のタウリン含量が0.1〜12%乾物であることを特徴とする、前記(1)から(3)のいずれかに記載の生物餌料タウリン強化用餌料。
(5)タウリン含有クリーム状酵母の由来がパン酵母である、前記(1)から(4)のいずれかに記載の生物餌料タウリン強化用餌料。
(6)栄養強化剤、植物プランクトンからなる群のうち1つ又は2つを添加し混合してなる、前記(1)から(5)のいずれかに記載の生物餌料タウリン強化用餌料。
(7)生物餌料100万個体当たり、前記(1)から(6)のいずれかに記載の生物餌料タウリン強化用餌料を1日に0.1〜10g給餌することを特徴とする、生物餌料のタウリン強化方法。
(8)前記(1)から(6)のいずれかに記載の生物餌料タウリン強化用餌料を単独あるいは栄養強化剤と併用して培養することを特徴とする、生物餌料のタウリン強化方法。
(9)前記(7)または(8)に記載した方法でタウリン強化した生物餌料をさらに合成タウリンを用いてタウリン強化することを特徴とする、生物餌料のタウリン強化方法。
(10)前記(7)から(9)のいずれかに記載した方法でタウリン強化した生物餌料を用いて海産魚を飼育する方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明の生物餌料タウリン強化用餌料を使用してワムシを培養することにより、高濃度のタウリン溶解水でタウリン強化したワムシと同等の効果を得ることが可能となり、また本生物餌料タウリン強化用餌料とクロレラを半量ずつ使用してワムシを培養することにより、マダイの場合にはワムシへのタウリン強化が必要無くなり、ワムシ培養水の水質悪化を防ぐことが可能となり、ワムシを長期間良好な状態で培養することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の生物餌料タウリン強化用餌料、及びそれを用いたワムシのタウリン強化法について詳細に説明する。
本発明に係る生物餌料とは、海産魚の種苗生産に通常使用されている動物プランクトン類であれば問題はなく、主としてS型・L型のワムシが望ましい。また、甲殻類であるアルテミアやタマミジンコなどには通常タウリンが比較的高濃度に含まれているが、更にタウリン含量を高くするために本発明の生物餌料タウリン強化用餌料を使用することも可能である。
【0007】
本発明の1つめの態様である、生物餌料タウリン強化用餌料とは、前記ワムシなどの生物餌料中のタウリン含量を高めるための、該生物餌料が摂取する餌料のことを指し、特にタウリンを含有する酵母、より望ましくはタウリンを含有するクリーム状の酵母、更に望ましくは特許第3456897号に記載したような、水分含量が60〜90%であるクリーム状酵母にタウリンを含有させたものを指す。
【0008】
左記クリーム状酵母にタウリンを取り込ませることにより本発明の生物餌料タウリン強化用餌料の材料をなすが、クリーム状酵母にタウリンを取り込ませる方法は、特願2005-181481号「タウリン高含有酵母及びその製造法」に記載されている。また前記方法により得られたタウリン含有クリーム状酵母中には、タウリン含量が0.1〜12%乾物で含有されることを特徴とする。
【0009】
なお、タウリン含量が非常に高い生物餌料タウリン強化用餌料を与えた区では、ワムシ培養水槽中のアンモニア濃度の上昇が著しくなり、その結果ワムシの活力が無くなり、栄養強化剤の取り込みが悪くなり、魚が必須脂肪酸欠乏を起こす可能性が出てくる。ゆえに、そのような生物餌料タウリン強化用餌料は、ワムシの長期培養用餌料ではなく、タウリン強化用の強化剤として短期間使用とするのが望ましい。本発明の生物餌料タウリン強化用餌料を短期間のワムシの培養に使用する場合には、タウリン含量は9.0〜15%乾物の濃度、特に12%乾物の濃度が望ましい。一方、長期使用の場合ワムシへの長期間のタウリン強化を行う場合、タウリン含量を実施例1よりも少なくした生物餌料タウリン強化用餌料を調製するのが望ましいが、その分ワムシのタウリン強化の度合いが減少することとなるため、この減少分を補う目的で、後述のような栄養強化剤、植物プランクトンを添加するのが望ましい。本発明の生物餌料タウリン強化用餌料を長期間のワムシの培養に使用する場合には、タウリン含量は1.0〜9.0%乾物の濃度、特に5%乾物の濃度が望ましい。
【0010】
本発明の生物餌料タウリン強化用餌料は、タウリン含有クリーム状酵母1Kgに対してキサンタンガムを0.035〜0.35g添加するのが望ましい。なぜなら、酵母菌体は時間の経過とともに水底に沈降するため、これを防ぐために沈降防止剤を上記クリーム状酵母に添加することが有効だからである。しかしながら、例えば特許第3456897号公報に記載してあるクリーム状酵母他よりなる生物餌料培養用餌料には酵母菌体の沈殿防止剤として化工澱粉が添加する技術が開示されているが、均一に懸濁・溶解させるのに時間がかかり作業性が悪いことや、該生物餌料培養用餌料でワムシを長期間培養していると化工澱粉に起因する懸濁物や沈殿が発生し、ワムシを濾過・回収する時にネットに目詰まりを起こすなどの問題を生じることが明らかとなった。そこで、懸濁・溶解が短時間で簡便に行うことができ、長期間ワムシを培養しても懸濁物や沈殿が生じない酵母菌体の沈殿防止剤を検討した結果、キサンタンガム、グアーガムまたはCMCが望ましく、特にキサンタンガムが最も望ましい。
【0011】
本発明の生物餌料タウリン強化用餌料は、栄養強化のため、前記のタウリン含有クリーム状酵母1Kgに対してビタミンB12を0.01〜10mg添加・混合するのが望ましい。また、ビタミンB12以外にも、ビタミンCあるいはビタミンB1等の栄養素を添加することが可能である。
【0012】
本発明におけるタウリン含有クリーム状酵母の原料として使用可能な酵母としては特に限定されず、例えばSaccharomyces cerevisiae、同uvarum、同rouxii、Saccharomycopsis fibligeraその他に属する、パン酵母、ビール酵母、ぶどう酒酵母、清酒酵母、アルコール酵母、甘酒酵母、味噌醤油酵母、飼料酵母、餌料酵母等が挙げられるが、その中でも特にパン酵母が望ましい。
【0013】
生物餌料タウリン強化用餌料は、タウリン含有クリーム状酵母単独でも有効であるが、更に栄養強化剤、植物プランクトンからなる群のうち1つ又は2つを添加し混合することにより、ワムシに対する効果が高まるため、望ましい。本発明において使用可能な前記栄養強化剤には、主として必須脂肪酸を取り込ませるための強化剤が挙げられるが、その中でも特にマリングロスやDHAce等が望ましい。また、本発明において使用可能な前記植物プランクトンには、ナンノクロロプスシスやクロレラ等が挙げられるが、その中でも特にクロレラが望ましい。
【0014】
本発明の2つめの態様である、生物餌料のタウリン強化方法は、生物餌料に対して上記の方法により得られた生物餌料タウリン強化用餌料を給餌することからなり、特に生物餌料100万個体当たり、前記生物餌料タウリン強化用餌料を1日に0.1〜10g給餌するのが望ましい。本発明の生物餌料タウリン強化用餌料を単独で使用しても良いが、栄養強化剤と併用して培養しても良く、その栄養強化剤は一般に使用されているものであれば、特に限定されない。あるいはそれらの方法でタウリン強化した生物餌料をさらに合成タウリンを用いてタウリン強化しても良い。
【0015】
本発明の方法によりタウリン強化した生物餌料を用いて飼育しうる魚種は、海産魚や淡水魚など特に限定されないが、望ましくは海産魚である。
【0016】
以下に、本発明の生物餌料タウリン強化用餌料を発明する際に行った予備的検討及びその結果を示す。
(試験例1:キサンタンガムの至適添加量の検討)
以下に述べる方法でキサンタンガムの至適添加量の検討を行った。
(1)必要量のビタミンB12を添加したタウリン強化用クリーム状酵母10mLを3000回転(遠心機のローター半径10cm)で10分間遠心分離し、上澄水率を求める。
(2)200mLのタウリン強化用クリーム状酵母を取り、これに含まれる上澄水量を求める。
(3)上澄水量に対して0〜0.1%w/v(0、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.075、0.1%)量のキサンタンガム(三栄源エフ・エフ・アイ社製)を添加し、充分に溶解する。
(4)冷蔵庫内に1ヶ月静置し、容器上面に分離している水の量を対照区(特許3456897号公報記載の化工澱粉を添加・溶解したもの)と比較する。
【0017】
以上の試験の結果、キサンタンガムの添加量が0.05%まで、キサンタンガムの添加量が多くなるに従って分離した水の量が少なくなった。0.05%以上キサンタンガムを添加してもそれ以上分離水が少なくなる事は無かった。また、従来の化工澱粉の区と比較すると、キサンタンガムを0.01%添加した区が略同じ程度の分離水を生じていた。以上の結果から、キサンタンガムの至適添加量は遠心上澄水量の0.05%が最適であることが明らかとなった。
【0018】
(試験例2)
遠心上澄水量の0.05%のキサンタンガムを添加・溶解した生物餌料タウリン強化用餌料を調製した。この生物餌料タウリン強化用餌料とクロレラ(使用比率1:1)を用いてS型ワムシを水温27〜28℃で100L水槽にて3日間培養し、培養水の懸濁物と水槽底の沈殿物を調べた。比較対照は酵母菌体沈殿防止剤として従来の化工澱粉を使用した区である。
【0019】
結果は培養水中の懸濁物も水槽底の沈殿物の量もキサンタンガム使用区が少なかった。それに伴いワムシの回収作業も楽で、更に回収されたワムシに異物が含まれる量も少なくなった。また、図1に示すようにワムシの増殖にも問題無く、両区に差は認められなかった。
【0020】
以下に実施例として、生物餌料タウリン強化用餌料を使用したマダイの種苗生産の一例を記す。特願2005-181481号「タウリン高含有酵母及びその製造法」に記載されているように、酵母中のタウリン含量は0〜12%乾物の範囲で任意の濃度に調整できる。そこで2段階(11.3%乾物及び5.4%乾物)のタウリン濃度の酵母を調製し、それぞれのタウリン酵母に必要量のキサンタンガムとビタミンB12を添加して生物餌料タウリン強化用餌料を調製した。この2種類の生物餌料タウリン強化用餌料を用いてワムシを培養し、そのワムシを用いて海産魚の種苗生産試験を行った。
【実施例1】
【0021】
タウリン含量が11.3%乾物と高いタウリン含量の生物餌料タウリン強化用餌料を製造し、この生物餌料タウリン強化用餌料が海産魚、特にマダイの種苗生産に利用出来るか否かを調べた。
この試験の目的は下記の4項目である。
(1)海産魚の種苗生産時にワムシへのタウリン強化が必要か否か。
(2)生物餌料タウリン強化用餌料に含まれるタウリンがワムシに吸収・蓄積されるか否か。
(3)ワムシに蓄積されたタウリンが海産魚に移行・蓄積されるか否か。
(4)タウリンを含まないワムシで飼育された海産魚とタウリンを含むワムシで飼育された海産魚で違いが有るか否か。
試験の詳細は下記の通りである。
<試験方法>
試験場所:近畿大学水産研究所
試験区:生物餌料タウリン強化用餌料(タウリン含量11.3%乾物)を用いてワムシを培養。
対照区:特許第3456897号公報記載の生物餌料培養用餌料(商品名「ロティフル」、オリエンタル酵母工業株式会社製)を用いてワムシを培養
試験方法:図2に試験の流れを、また以下に試験の詳細を示す。
【0022】
種ワムシ:クロレラ:ロティフル=1:1で培養。1KL水槽2個使用。培養水温28℃。
試験ワムシ:上記種ワムシを用いて、以下の2餌料で2日間培養。各区200L水槽3個使用。培養水温26〜27℃。
対照区:ロティフル
試験区:生物餌料タウリン強化用餌料(タウリン含量11.3%乾物)
栄養強化:主として必須脂肪酸の強化を目的とし、試験ワムシ培養3日目に栄養強化剤(マリングロス:日清マリンテック社製)を添加し、19時間強化処理。
マダイの飼育:栄養強化後の2種類の試験ワムシを用い、孵化時から20日間(アルテミア投与開始直前まで)飼育した。飼育には各区200L水槽2個を用い、各水槽には4000尾の孵化仔魚を収容した。水温は20℃に調整し、微通気、微量通水で飼育した。
活力試験:飼育試験終了時に各区120尾(各水槽20尾×3回)の魚をネットで120秒間空中露出し、その後清水を張った水槽に戻して24時間後の生残率を調べた。
水質測定:試験期間中毎日水温、溶存酸素量、PH及びアンモニア濃度を調べた。
ワムシの状態観察:試験期間中毎日ワムシの活力、個体数、携卵率を調べた。
分析:ワムシと魚体の水分とタウリン含量を調べた。水分は定法で、タウリンは試料を20%塩酸で95℃48時間加水分解した後HPLCで分析した。
【0023】
<結果>
魚の成長を図3に示す。なお、数値は各試験区2水槽の平均値である。飼育開始10日目以降、成長は生物餌料タウリン強化用餌料を与えた区が優れていた。すなわちワムシへのタウリン強化によって魚の成長と活力が増すことが明らかとなった。生残率と活力試験の結果を表1(単位:%)に示す。生残率は両区で差が無く、活力試験の結果は生物餌料タウリン強化用餌料を使用した区の方がはるかに優れていた。活力試験で死亡する程度の生命力しかない魚は養殖や放流用種苗になる前に死亡する可能性が高いと考えられるので、生残率と活力試験生残率を乗じて種苗生残率を求めたところ、やはり生物餌料タウリン強化用餌料使用区の方が優れていた。
【表1】

【0024】
次に、ワムシと魚体のタウリンの分析結果を表2と図4、5に示す。すなわち、ワムシは生物餌料タウリン強化用餌料に含まれるタウリンを比較的短期間で取り込んでピーク濃度に達してしまい、その後は略同じ濃度を維持する。本実施例では1日単位でしか測定していないが、数時間でピークに達しているものと考えられる。なお、試験区では栄養強化中にタウリン含量が減少しているが、これはワムシ消化管中に含まれていた不消化のタウリン含有酵母が排泄されたためと考えられる。
【表2】

【0025】
また、生物餌料タウリン強化用餌料中のタウリンは効率良くワムシに取り込まれ、ワムシに蓄積したタウリンは魚に移行、蓄積し、このワムシ中のタウリン含量がマダイの成長と活力に反映される。しかしながら、タウリン含量が非常に高い生物餌料タウリン強化用餌料を与えた区では、ワムシ培養水槽中のアンモニア濃度の上昇が著しい。ワムシ培養水槽中のアンモニア濃度の変化を図6に示す。水中のアンモニア濃度が高くなるとワムシの活力が無くなり、主として必須脂肪酸の強化が目的である栄養強化の際にも栄養強化剤の取り込みが悪くなり、魚が必須脂肪酸欠乏を起こす可能性が出てくる。また活力が無いワムシは水中での動きが悪く水槽底に沈下しやすいので、魚による摂餌量も少なくなり、その結果餌料不足を起こす事も考えられる。よって、タウリン含量が非常に高い生物餌料タウリン強化用餌料は、ワムシの長期培養用餌料ではなく、タウリン強化用の強化剤として短期間使用とするのが望ましい。
【実施例2】
【0026】
実施例1の結果、特に図6に示す結果より、高タウリン含量の生物餌料タウリン強化用餌料はワムシへの短期間のタウリン強化に使用する方が望ましく、長期間の使用には望ましくないことが明らかとなった。ワムシへの長期間のタウリン強化を行う場合、タウリン含量を実施例1よりも少なくした生物餌料タウリン強化用餌料を調製するのが望ましい。ただし、低タウリン濃度の酵母でも酵母単独ではワムシの培養水の水質悪化を起こす可能性があるため、本実施例ではクロレラ等の植物プランクトンを併用することとした。
【0027】
特に本実施例では、タウリン含量5.4%乾物の生物餌料タウリン強化用餌料とクロレラの併用で長期間ワムシを培養することにより水質悪化が起こるか否か、生物餌料タウリン強化用餌料のタウリン含量が実施例1よりも低くても、タウリンがワムシに取り込まれ、更にワムシから魚へと移行・蓄積するか否か、及び本生物餌料タウリン強化用餌料と合成タウリンとで、効果に差があるか否かを検討した。
【0028】
試験の詳細は下記の通りである。
<試験方法>
試験区:本試験では以下の3試験区を設けた。
対照区:クロレラ1/2+ロティフル1/2で種ワムシを培養後、実施例3と同様にマリングロスで栄養強化を行う。このワムシでマダイを飼育。
試験区1:クロレラ1/2+タウリン含量5.4%乾物生物餌料タウリン強化用餌料1/2で種ワムシを培養。それ以外は対照区と同様。
試験区2:クロレラのみで種ワムシを培養。対照区、試験区1と同様にマリングロスで栄養強化を行うが、その時同時にワムシ栄養強化水槽の水1L当たり合成タウリン(潜江永葯業製)を800mg溶解し、タウリンの強化も行う。それ以外は対照区、試験区1と同様。
魚の飼育法、調査項目、分析法などは実施例1と同じ。
【0029】
<結果>
魚の成長を図7に示す。なお、数値は各試験区2水槽の平均値である。
今回は実施例1と違って各区間で成長に差は認められなかった。これは今回の試験では予想以上に魚の生残率が高く、何れの区も多少餌料不足の状態にあり、図8に示すように餌料の質よりも魚の生残率(言い換えれば魚1尾当たりワムシが何個体摂餌出来るか)に成長が依存している状況にあったことによる。生残率と活力試験の結果を表3に示す。
【表3】

【0030】
生残率は試験区2が低く、活力は対照区が低い。これも図9に示すように魚の生残率が活力に及ぼす影響が強い。生残率と活力試験生残率を乗じて求めた種苗生残率では試験区1と試験区2に差は認められず、略同程度の優れた結果を示している。一方、対照区はやや劣る結果となっており、ワムシへの生物餌料タウリン強化用餌料の効果が認められる。
【0031】
この様にタウリン含量5.4%乾物と比較的低い生物餌料タウリン強化用餌料とクロレラを半量ずつ使用してワムシを長期間培養することにより、合成タウリン濃度800mg/L培養水という非常に高濃度のタウリン溶液でタウリン強化したワムシと同等の優れた結果を得る事が出来た。ワムシと魚体のタウリンの分析結果を表4と図10に示す。
【表4】

【0032】
対照区ではワムシにも魚体にもタウリンは認められないが、試験区1では実施例1に比べると少ないものの明らかにワムシ・魚体共に生物餌料タウリン強化用餌料からタウリンが移行・蓄積している。試験区2では栄養強化後のワムシ及び飼育試験終了時の魚体に非常に高いタウリンが含まれている。これはワムシの栄養強化水槽の水1L当たり800mgと非常に高い合成タウリンを溶解した為である。
【0033】
魚の飼育結果に試験区1と試験区2で差が無い事から判断すると、ワムシと魚体にタウリンが多いほど良いという訳ではなく、一定量以上に含まれていてもその分は無駄になっているようである。すなわち、タウリン含量5.4%乾物の比較的低い生物餌料タウリン強化用餌料とクロレラを半量ずつ使用してワムシを培養する事により、合成タウリン800mg/L培養水という非常に高濃度のタウリン溶解水でタウリン強化したワムシと同等の効果が得られた。
【0034】
試験期間を通じてワムシ培養水中の溶存酸素量、pH、アンモニア濃度は各区間で差は認めらず、良好な状態を維持していた。本生物餌料タウリン強化用餌料とクロレラを半量ずつ使用してワムシを培養することによって、ワムシ培養水の水質悪化を防ぐことができ、ワムシを長期間良好な状態で培養することができた。同様にワムシの増殖倍率と携卵率にも各区間で差は認められず、正常な値を示していた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】沈殿防止剤に加工澱粉又はキサンタンガムを使用した場合の、ワムシの増殖曲線(試験例1)
【図2】海産魚を用いた試験方法の流れを示す図(実施例1)
【図3】ロティフル又は生物餌料タウリン強化用餌料(タウリン含量11.3%乾物)を使用した場合の、魚の成長曲線(実施例1)
【図4】ロティフル又は生物餌料タウリン強化用餌料(タウリン含量11.3%乾物)を使用した場合の、ワムシ中のタウリン含量の変化(実施例1)
【図5】ロティフル又は生物餌料タウリン強化用餌料(タウリン含量11.3%乾物)を使用した場合の、ワムシ中及び魚体中のタウリン含量(実施例1)
【図6】ロティフル又は生物餌料タウリン強化用餌料(タウリン含量11.3%乾物)を使用した場合の、ワムシ培養水のアンモニア濃度の変化(実施例1)
【図7】クロレラ1/2+ロティフル1/2、クロレラ1/2+生物餌料タウリン強化用餌料(タウリン含量5.4%乾物)1/2、又はクロレラのみを使用した場合の、魚の成長曲線(実施例2)
【図8】生残率と魚体の全長との相関関係を示すグラフ(実施例2)
【図9】生残率と活力試験生残率との相関関係を示すグラフ(実施例2)
【図10】クロレラ1/2+ロティフル1/2、クロレラ1/2+生物餌料タウリン強化用餌料(タウリン含量5.4%乾物)1/2、又はクロレラのみを使用した場合の、ワムシ中及び魚体中のタウリン含量(実施例2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分含量が60〜90%のタウリン含有クリーム状酵母を有効成分とする生物餌料タウリン強化用餌料。
【請求項2】
請求項1に記載のタウリン含有クリーム状酵母1Kgに対してキサンタンガムを0.035〜0.35g添加してなる生物餌料タウリン強化用餌料。
【請求項3】
請求項1または2に記載のタウリン含有クリーム状酵母1Kgに対してビタミンB12を0.01〜10mg添加・混合することを特徴とする、生物餌料タウリン強化用餌料。
【請求項4】
タウリン含有クリーム状酵母中のタウリン含量が0.1〜12%乾物であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の生物餌料タウリン強化用餌料。
【請求項5】
タウリン含有クリーム状酵母の由来がパン酵母である、請求項1から4のいずれかに記載の生物餌料タウリン強化用餌料。
【請求項6】
栄養強化剤、植物プランクトンからなる群のうち1つ又は2つを添加し混合してなる、請求項1から5のいずれかに記載の生物餌料タウリン強化用餌料。
【請求項7】
生物餌料100万個体当たり、請求項1から6のいずれかに記載の生物餌料タウリン強化用餌料を1日に0.1〜10g給餌することを特徴とする、生物餌料のタウリン強化方法。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の生物餌料タウリン強化用餌料を単独あるいは栄養強化剤と併用して培養することを特徴とする、生物餌料のタウリン強化方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載した方法でタウリン強化した生物餌料をさらに合成タウリンを用いてタウリン強化することを特徴とする、生物餌料のタウリン強化方法。
【請求項10】
請求項7から9のいずれかに記載した方法でタウリン強化した生物餌料を用いて海産魚を飼育する方法。


【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−53967(P2007−53967A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243252(P2005−243252)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000103840)オリエンタル酵母工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】