説明

生花等の植物の保存装置

【課題】十分な鮮度保持機能を有するとともに簡便な生花等の植物の保存装置を提供することを目的とする。
【解決手段】保存庫2と保存庫2内の空気に陰電子を供給する陰電子供給装置3とを備え、生花等の植物10の下端部を浸す水を入れるための容器4が、保存庫2内に配置され、接地線11を介して接地された電極部5が、容器4内に配置された生花等の植物の保存装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生花(切花を含む。)等の植物の保存装置に関し、特に陰電子を用いて生花等の植物の鮮度を保持する保存装置に関する。
【背景技術】
【0002】
陰電子の雰囲気中で野菜、果物、生花等の生鮮物を保存すると、鮮度が長期に保持されることが知られている。陰電子と鮮度保持作用との関係については理論的に解明されていないが、陰電子の酸化抑制作用(還元作用)によるものと考えられている。
【0003】
例えば下記特許文献1には、陰電子を混入した空気を生鮮植物に接触させることにより、生鮮植物の鮮度を保持する生鮮植物の鮮度保持装置が開示されている。また、下記特許文献2には、切花を保存する保存庫に、陰電子発生装置に接続された陰電子置換装置を設置して、陰電子を印加した空気を保存庫内に供給するとともに、別途、陰電子発生装置に接続された陰電子印加水製造装置で陰電子印加水を製造し、保存庫内で切花を陰電子印加水に生けて保存する切花の保存方法が開示されている。
【0004】
なお、生花等の植物の保存装置ではないが、ブラシ形(剣山形)電極を用いた陰電子発生装置を備えた冷蔵庫を開示するものに、下記特許文献3がある。また、銅や銀の抗菌性について記載されたものに、下記非特許文献1、2がある。
【特許文献1】特開平9−140328号公報
【特許文献2】特開平7−165503号公報
【特許文献3】特開平8−145545号公報
【非特許文献1】村上陽太郎、“抗菌性材料の現状”、[online]、2005年2月、ニューマテリアルセンター、[平成20年3月3日検索]、インターネット〈URL:http://www.ostec.or.jp/nmc/TOP/35.pdf〉
【非特許文献2】熊田誠、他5名、「銅表面の抗菌性」、伸銅技術研究会誌、2001年、第40巻、第1号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の鮮度保持装置では、植物内部に陰電子を誘導することができないため、鮮度保持機能が不十分である虞があった。また、上記特許文献2の保存方法は、植物内部に陰電子を誘導可能であるものの、別途、陰電子印加水製造装置で陰電子印加水を製造しなければならないため、簡便でないという問題があった。
【0006】
本発明は、上述した問題を解決するものであり、十分な鮮度保持機能を有するとともに簡便な生花等の植物の保存装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の生花等の植物の保存装置は、保存庫と前記保存庫内の空気に陰電子を供給する陰電子供給装置とを備え、生花等の植物の下端部を浸す水を入れるための容器が、前記保存庫内に配置され、接地線を介して接地された電極部が、前記容器内に配置されたことを特徴とする。
【0008】
ここで、前記電極部の表面の少なくとも一部が銅又は銀からなることが好ましい。
【0009】
また、前記電極部が、網状、多数の孔を有する板状、または、多数の凹部が形成された板状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の保存装置によれば、十分な鮮度保持機能を有するとともに、別途陰電子印加水を製造する必要がなく、簡便である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1に示すように、保存装置1は、保存庫2と陰電子供給装置3とを備えている。
【0013】
陰電子供給装置3は、交流電源6に接続された交流/直流変換器7と、交流/直流変換器7に接続された昇圧回路8と、昇圧回路8の陰極出力端子8aに接続された陰電子放出用電極9とを備えている。昇圧回路8の陽極出力端子8bは絶縁封鎖されているが、接地線を介して接地(アース)することとしてもよい。陰電子放出用電極9は、導体平板上に多数の針状電極を植設したブラシ形(剣山形)電極である。陰電子供給装置3は、交流電源6からの交流を交流/直流変換器7で直流に変換し、その直流電流を昇圧回路8で昇圧し高電圧とする。この直流高電圧のうちの負の電圧は、陰極出力端子8aから陰電子放出用電極9に印加される。そして、陰電子放出用電極9と保存庫2内の空気とが接触することにより、保存庫2内の空気に陰電子が供給される。
【0014】
保存庫2は、開閉扉を有して密閉可能で、庫内を約−15℃〜50℃の範囲で温度設定可能に構成されており、ステンレス鋼で内壁が形成され、内壁は接地線を介して接地されている。保存庫2内には、上部に陰電子放出用電極9が配設されている。
【0015】
保存庫2の底壁上には、ガラス、合成樹脂等の絶縁体で形成された容器4が、絶縁体で形成された絶縁部材12を介して配置され、容器4内には底壁付近に電極部5が配置されている。電極部5は、表面の一部又は全部が導体で構成され、接地線11を介して接地されている。
【0016】
以上のように構成された保存装置1で生花等の植物を保存する場合には、保存庫2内の容器4に、電極部5が水中に没するように水を入れ、植物10をその下端部(切花であれば切り口)が水に浸るように容器4に挿入し、開閉扉を閉鎖して保存庫2を密閉し、保存庫2内を低温に保つ。陰電子供給装置3からは陰電子を保存庫2内に供給する。
【0017】
すると、保存庫2内に供給された陰電子により植物10の表面がマイナスに帯電し、一方、容器4内の水中には接地された電極部5が配置されているので、この電極部5に向かって植物10の内部を電流が流れることとなり、植物10の酸化を抑制して長期に鮮度を保持できる。
【0018】
以下に実験例を示す。
【0019】
〈実験1〉
保存庫2として福島工業株式会社製低温インキュベータを用い、陰電子放出用電極9無しの保存庫2と、陰電子放出用電極9有りの保存庫2の2台を用いた。実験サンプルとしてバラ(品種:オールドローズ)の切花を3本用い、ガラス製の容器4に水を入れてサンプルを各1本挿入したものを、陰電子放出用電極9無しの保存庫2には1つ、陰電子放出用電極9有りの保存庫2には2つ収納した。なお、容器4に入れる水は水道水で添加物は入れず、水替えもしないこととした。また、陰電子放出用電極9有りの保存庫2に収納した2つの容器4の一方にのみ、容器4の底壁上に電極部5を配置した。電極部5は銅板とし、接地線11で接地した。各保存庫2内の温度は10℃とし、陰電子放出用電極9に約−3000Vの高陰電圧を印加して、各サンプルのベントネック(花首の曲がり)の発生を調べた。
【0020】
実験結果を表1に示す。実験期間は平成19年8月3日〜8月22日(8月23日に実験打切り)であり、表1の数字「3〜23」は日にちを表している。また、記号◇は陰電子放出用電極9無し(表1では「ブラシ電極無し」と表記)のサンプルを示し、記号●は陰電子放出用電極9有りで電極部5有り(表1では「ブラシ電極有り(アース銅電極付き)」と表記)のサンプルを示し、記号○は陰電子放出用電極9有りで電極部5無し(表1では「ブラシ電極有り(アース銅電極無し)」と表記)のサンプルを示す。また、ベントネックの度合は、茎軸に対する花首の曲がり角度で示した。
【0021】
【表1】

表1に示すように、陰電子放出用電極9無しのサンプル(記号◇)、及び、陰電子放出用電極9有りで電極部5無しのサンプル(記号○)は、いずれも5日後にベントネックの発生が見られたが、陰電子放出用電極9有りで電極部5有りのサンプル(記号●)は、19日後でもベントネックの発生が見られなかった。すなわち、陰電子放出用電極9と電極部5の両方を設けた場合は、顕著な鮮度保持効果が見られた。これは、サンプルに帯電した陰電子が、花弁又は葉→茎→容器4内の水→電極部5→接地線11という経路で流れ、サンプルの表面のみならず内部の酸化を抑制したためと考えられる。
【0022】
〈実験2〉
実験2は、実験1の効果の再現を見るために、実験1の各サンプル(記号◇、○、●)を、それぞれ新しいものに取替え、実験1と同じ条件で引き続き実験を行ったものであり、実験期間は平成19年8月10日〜8月22日(8月23日に実験打切り)である。実験2の実験結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

表2に示すように、陰電子放出用電極9無しのサンプル(記号◇)では8日後に、陰電子放出用電極9有りで電極部5無しのサンプル(記号○)は11日後にベントネックが発生しているが、陰電子放出用電極9有りで電極部5有りのサンプル(記号●)は、12日後でもベントネックの発生が無く、陰電子放出用電極9と電極部5の両方を設ければ、顕著な鮮度保持効果を奏することが再度確認できた。
【0024】
なお、陰電子放出用電極9無しのサンプルと、陰電子放出用電極9有りで電極部5無しのサンプルとでは、実験1では差が殆ど無かったのに対し、実験2では後者が前者より3日長く鮮度が保持された。これは、陰電子放出用電極9有りで電極部5無しのサンプルは、陰電子放出用電極9有りで電極部5有りのサンプルと同じ保存庫2で保存されているため、陰電子放出用電極9有りで電極部5有りのサンプルに陰電子を奪われてしまうが、その奪われる割合が実験1よりも実験2では少なかったのではないかと考えられる。
【0025】
以上のように、保存装置1によれば、植物10の鮮度を長期に保持可能である。これは、陰電子供給装置9により保存庫2内の空気に供給された陰電子が、接地された電極部5との電位差により、植物10へ引き寄せられて植物10の表面に帯電し、植物10内部へ誘導されて植物10内部を通るので、植物10表面のみならず植物10内部の酸化が抑制されるためと推察される。また、陰電子印加水を製造する必要がないので、簡便である。
【0026】
なお、電極部5は、実験1、2では、いずれも銅板(すなわち、電極部5全部を銅で形成したもの)としたが、銅メッキ板とする(すなわち、電極部5表面のみを銅で形成する)等、他の構成も取り得る。但し、電極部5の表面の少なくとも一部を銅又は銀とすることが好ましい。銅や銀が有する抗菌性(非特許文献1、2参照)により、容器4内の水における菌の増殖が抑制され、植物10の鮮度保持効果を向上可能だからである。なお、コスト面からは銅を用いることが好ましいが、殺菌力の面からは勿論、銀を用いてもよい。
【0027】
また、実験1、2の電極部5は銅の平板で無孔のものとしたが、電極部5の形状も、以下に説明する電極部5A、5B、5Cのように適宜変更可能である。
【0028】
図2に示す電極部5Aは、銅板または銅メッキ板に多数の凹部51を形成したものである。これによれば、凹部51内に植物10の下端部が入り込み易くなる。そして、凹部51内に下端部が入り込んだ植物10は、凹部51に溜まった水を吸い上げることとなるが、凹部51に溜まった水は銅表面に多く触れてよく殺菌されると考えられ、凹部51に植物10の下端部が入り込めば植物10の導管と電極部5Aとの距離が短くなって、電流が導管から電極部5Aに流れ易くなることとも相まって、植物10の鮮度保持効果を向上可能だからである。さらに、凹部51、51間の凸部52の上端面は、図2(c)に示すようにR(アール)を付ける(すなわち、凸曲面状とする)ことが好ましい。植物10の下端部が凸部52の上端面に沿って滑り落ち、より凹部51内に入り込み易いからである。
【0029】
また、図3に示す電極部5Bのように、網状乃至多数の孔を有する板状(例えば、銅板に多数の孔を打ち抜いたもの)としてもよい。通常斜めに切られた植物10の下端部が電極部5Bの孔53に入り込んで、植物10の導管と電極部5Bとの距離が短くなるため、電流が導管から電極部5Bに流れ易くなり、植物10の鮮度保持効果を向上可能だからである。
【0030】
さらに、網状の場合、図4に示すように、細長い薄板状の銅板または銅メッキ板をその短手方向が上下方向となるように格子状に組んだ電極部5Cとして、かかる電極部5Cを容器4の底壁上に置いてもよい。これによれば、電極部5Cの孔54の部分に植物10の下端部が入り込んで、孔54と容器4の底壁とに囲まれた部分の水を吸い上げることとなるが、かかる部分の水は銅表面に多く触れてよく殺菌されると考えられ、植物10の下端部が孔54に入り込めば植物10の導管と電極部5Cとの距離が短くなって電流が導管から電極部5Cに流れ易くなることとも相まって、植物10の鮮度保持効果を向上可能だからである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係る保存装置の概略構成図である。
【図2】多数の凹部が形成された電極部の例であり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は一部断面拡大図である。
【図3】網状の電極部の例であり、植物を挿入した状態の斜視図である。
【図4】網状の電極部の他の例である。
【符号の説明】
【0032】
1…保存装置
2…保存庫
3…陰電子供給装置
4…容器
5…電極部
9…陰電子放出用電極
11…接地線
51…凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保存庫と前記保存庫内の空気に陰電子を供給する陰電子供給装置とを備え、
生花等の植物の下端部を浸す水を入れるための容器が、前記保存庫内に配置され、
接地線を介して接地された電極部が、前記容器内に配置されたことを特徴とする生花等の植物の保存装置。
【請求項2】
前記電極部の表面の少なくとも一部が銅又は銀からなることを特徴とする請求項1記載の保存装置。
【請求項3】
前記電極部が、網状、多数の孔を有する板状、または、多数の凹部が形成された板状であることを特徴とする請求項1又は2記載の保存装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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