説明

生鮮野菜・果実類の凍結ダメージの評価方法

【課題】 凍結後の生鮮野菜・果実類のダメージを、定量的に評価する方法を提供すること。
【解決手段】 冷凍・解凍によって生鮮野菜・果実類の水分透過性が実際に変化しているかどうかを、その組織切片をNMR(Nuclear Magnetic Resonance)によりその水分拡散係数を測定し、組織の水の拡散係数D/水拡散係数Dwを拡散時間に対して算出することにより、凍結後の生鮮野菜・果実類のダメージを定量的に評価する方法、及び光学顕微鏡により得た細胞直径(拡散可能空間距離)及びNMRにより測定した水の拡散係数を用いて算出される、生鮮野菜・果実と凍結・解凍後の生鮮野菜・果実の水透過係数を比較することにより生鮮野菜・果実の凍結ダメージを評価すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結・解凍後の生鮮野菜・果実類を核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)装置(以下、NMRという)を用いて、測定される組織内の水の拡散係数を用いて凍結・解凍後の野菜等のダメージを評価する方法、詳しくは、新鮮野菜・果実類と凍結・解凍後のものの細胞内の水拡散係数を測定し、一定時間後の両測定値の差から凍結・解凍後の生鮮野菜・果実類の凍結ダメージを評価する方法及び光学顕微鏡等により実測される細胞直径(拡散可能空間距離)と該組織内の水の拡散係数等から求められる組織の水透過係数の値により凍結・解凍後の野菜等のダメージを評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜・果実・畜肉類等の食品は、凍結・解凍による障害を受け、少なからず品質の低下を招いている。その障害の程度を評価する方法として、1)食味評価(食感、味、外観、離水など)による点数比較、2)テクスチャーアナライザー、粘弾性測定装置等による硬さ、弾力などの物性評価、3)顕微鏡による細胞の障害状態の観察が知られている。前記1)、2)の食味や物性の評価においては、未凍結品・凍結品の食味上の差や物性値などの差が比較できるが、組織レベルで凍結の障害度を比較評価するには不十分なデータであり、その差が凍結障害が原因であると判断するには、推測の域を出ない。3)においては細胞の外観観察を行うことで、凍結障害を組織レベルで判断するが、定量性がない上、食品特に野菜・果実によっては細胞壁の存在のため殆ど凍結による障害(損傷)が外観上認め難いというケースが多い。
【0003】
一方、NMR(Nuclear Magnetic Resonance)法により食品中の水の挙動を調べる研究も行われている。食品凍結中の水分子の運動性を、スピンエコー法によるプロトンNMR測定で定量化する冷凍食品の物理的損傷を定量化する方法があり、この技術は、肉等の冷凍食品を対象とし、物理的損傷状態の測定を短時間で行い、官能評価と相関が高い数値を得ることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
又、NMRを用いて生物学的多孔システムにおける水の拡散について研究報告されている(例えば、非特許文献1参照)。それには、パルス傾斜磁場システムを有するNMRを用いて、20〜100%水を含んだコットンファイバーの水の拡散特性やトウモロコシの根を切り取ったものについての構造パラメータを水の拡散測定によって決定されるというものであり、下記の式を用いている。
R=exp[−γδ(t−δ/3)Def(av)
R:振幅(g)に伴うエコー振幅の比
γ:磁気回転比
g:振幅の大きさ
:パルスーパルス間の時間
ef:曲線lnR(g)の“tail”に対する接線から計算される値
av:変化するtに対しgが0に動く、エコーエンベロープlnR(g)に対する接線から計算される値
【0005】
ここ数年、凍結・解凍によるダメージは細胞壁よりは、むしろ細胞膜が原因であるという新しい説が提案されている。この説によれば、正常な植物組織内の細胞では、細胞壁は網目状であり元々水を良く透過させる構造である一方、細胞膜は水を透過させにくいため、細胞内膨圧によって植物細胞はパンパンに張った状態を保っているとされる。そのため、組織全体として張りのあるみずみずしさが野菜に生まれているというものである。これを冷凍すると、細胞壁よりもむしろ細胞膜が破壊あるいは、容易に水を透過させ得るように変化するため膨圧は失われ、組織の軟化が起こると考えられている(例えば、非特許文献2参照)。もとより、植物細胞のプロトプラストの凍結保存研究において細胞膜の水分透過性は動物細胞に比べて著しく低く、凍結ダメージ(細胞外液の凍結によって生じる細胞内外の浸透圧が非常に大きくなり細胞が破裂する)を受けやすいことが知られている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−90321号公報
【非特許文献1】Magnetic Resonance Imaging,Vol.16,Nos.5/6,p565−568,1998
【非特許文献2】「低温生物工学会誌」 Vol.,44 No.1, p43−50
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、凍結・解凍後の生鮮野菜・果実類のダメージを、NMRを用いて組織内の水の拡散並びに光学的な細胞の観測等により定量的に、或いは、グラフ作成により視覚的に評価する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
生鮮野菜・果実類を凍結解凍すると組織軟化するが、その原因は細胞膜の水分透過性が大きくなり、膜の膨圧維持が壊れると考えられている。ところで、パルス化した磁場勾配を有するNMRのスピンエコーを用いて、広範囲の水分量や、特徴的なポーラスシステムを有する、植物サンプルの構造や複数の動的パラメーターを研究することが報告(非特許文献1参照)されている。この報告書には、植物自体の多孔性システムにおける水の拡散について種々言及している。本発明者らは、新鮮野菜・果実類の凍結・解凍後の細胞、組織に、前記報告書に記載されたNMRを用いて植物組織内の水の拡散係数についての特徴を応用し種々実験を試みた。生鮮野菜・果実類に対し、凍結・解凍後の生鮮野菜・果実類の水分透過性が実際に変化しているかどうかを、その組織切片をNMRによりその水分拡散係数を測定する等鋭意検討した結果、拡散係数/水拡散係数が、生鮮のものより凍結・解凍したものの方が高く推移することを見い出し、更に光学的な観測による拡散可能空間距離(細胞直径)を併用することにより、水透過係数を求めることにより定量的な比較ができることで本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、(1)生鮮野菜・果実類と凍結・解凍後の生鮮野菜・果実類を核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)装置を用いて、組織の水の拡散係数を測定し、拡散時間に対し、その測定値が一定になった時の拡散係数の差から生鮮野菜・果実類の凍結ダメージを評価することを特徴とする生鮮野菜・果実類の凍結ダメージの評価方法や、(2)生鮮野菜・果実類と凍結・解凍後の生鮮野菜・果実類のそれぞれの組織切片を、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)装置を用いて、見かけの拡散係数Dを測定し、該Dを測定時の温度における水の拡散係数Dwで割った値を算出し、拡散時間に対し、D/Dwが一定になった時のD/Dwの差から生鮮野菜・果実類の凍結ダメージを評価することを特徴とする生鮮野菜・果実類の凍結ダメージの評価方法や、(3)生鮮野菜・果実類が凍結・解凍を複数回されたことによる凍結ダメージを評価することを特徴とする前記(1)又は(2)記載の生鮮野菜・果実類の凍結ダメージの評価方法に関する。
【0010】
又、本発明は、(4)光学顕微鏡により得た細胞直径(拡散可能空間距離)及び核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)装置により測定した組織の水の拡散係数とから、生鮮野菜・果実類と凍結・解凍後の生鮮野菜・果実類の組織の水透過係数を比較することにより生鮮野菜・果実類の凍結ダメージを評価することを特徴とする生鮮野菜・果実類の凍結ダメージの評価方法や、(5)下記の式により、生鮮野菜・果実類と凍結・解凍後の生鮮野菜・果実類の組織の水透過係数を比較することにより生鮮野菜・果実類の凍結ダメージを評価することを特徴とする前記(4)記載の生鮮・野菜の凍結ダメージの評価方法や、
式:(D−1=D−1+(p・a)−1
:十分に拡散させた時の拡散係数
:自由な水の拡散係数
p:組織の水透過係数
a:拡散可能空間距離(細胞直径)
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、生鮮野菜・果実類と凍結・解凍後の生鮮野菜・果実類の組織切片を、NMRを用いて拡散係数D/水拡散係数Dwが拡散時間に対しプラトーとなる値を算出することにより、更に光学的な観測による拡散可能空間距離(細胞直径)を併用することによる水透過係数を求めることにより定量的な比較ができることで、定量的に、或いはグラフ作成により視覚的に確実に凍結ダメージを評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の生鮮野菜・果実類の凍結ダメージの評価方法として、生鮮野菜・果実類と凍結・解凍後の生鮮野菜・果実類をNMRを用いて、組織の水の拡散係数を測定し、拡散時間に対し、その測定値が一定になった時の拡散係数の差から生鮮野菜・果実類の凍結ダメージを評価する方法であれば特に制限するものではない。さらに、具体的には、生鮮野菜・果実類の凍結前と解凍後のそれぞれの組織切片を、NMRを用いて、スティミュレーテッドエコー法によるパルスシーケンスにより見かけの拡散係数Dを測定し、該Dを測定時の温度における水の拡散係数Dwで割った値を算出し、凍結前と凍結解凍後のものとを比較する方法である。
【0013】
本発明の生鮮野菜・果実類には、食用とされる通常用いられる生の野菜類、例えばタマネギ、にんじん、えだまめ、とうもろこし、つまみな、たけのこ、そらまめ、いんげん、根みつば、アスパラガス、グリンピース、なす、かぼちゃ、きゅうり、トマト、ふき、ピーマン、ごぼう、かぶ、れんこん、パセリ、キャベツ、セロリ、にら、レタス、だいこん、ねぎ、小松菜、サラダ菜、ほうれんそう、さやえんどう、白菜、ブロッコリー、春菊、カリフラワー、さといも、じゃがいも、さつまいも、生しいたけなどや、生の果実類、例えば、あんず、いちご、いちじく、イヨカン、オレンジ、かき、かぽす、かりん、キウイフルーツ、きんかん、グァバ、ぐみ、グレープフルーツ、ココナッツ、さくらんぼ、ざくろ、すいか、すだち、すもも、だいだい、なし、なつみかん、なつめやし、ネクタリン、パインアップル、はっさく、ばなな、パパイア、びわ、ぶどう、ぶんたん、ぽんかん、まくわうり、マンゴー、もも、ゆず、ライム、りんご、レモンなどがある。
【0014】
[生鮮野菜・果実類の採取部位の検討]
生鮮野菜・果実類の採取部位によって、NMRに供した場合、得られたデータである拡散係数に差異が生ずるので、各野菜の採取部位を一定に決めておく必要がある。
生鮮野菜・果実類の1例としてタマネギを用いた。タマネギは、地下の鱗葉を食用とし、本発明ではこの鱗葉部をサンプルに用いた。又、鱗葉は場所により葉基、葉ショウ、葉頂に分けられる。この実験では、最も内側の鱗茎部、および最も外側の鱗葉部を使用した。NMRに供するに先立ち、水分の移動抵抗体となる細胞組織の大きさ目安をつけるためタマネギの光学顕微鏡観察を行った。ついで同一の試料を用いてNMRによる組織内の水の拡散現象について検討した。
【0015】
[顕微鏡観察]
生タマネギをカミソリにより約0.5mmに切り出し、切片を作成した。このとき、切り出すのは柔細胞の部分とした。葉頂部を上にして、真横から切り出し、これをプレパラートにのせ、その上にカバーガラスをかぶせ、これをサンプルとした。このようにして作成したサンプルを光学顕微鏡で観察した。光学顕微鏡はBX51システム生物顕微鏡(OLYMPUS)、デジタルカメラは、COOLPIX995(NIKON)を使用した。光学顕微鏡からみると、凍結前のタマネギ組織においても、部位によって細胞の平均的大きさが異なることが確認された。表層部の方が、中心部よりも細胞サイズが平均して大きくしっかりしている様子が認められた。成長様式から考慮しても表層部は古い成熟細胞で、中心部は若い細胞からなるものと考えられる。凍結体制を検討する上でも、NMRによる実験に関してもサンプルの採取部位を十分考慮する必要があることがわかった。
【0016】
[NMRによる拡散係数の求め方]
NMR測定には、Bruker社のAM200WBを使用し、スティミュレーテッドエコー法を用いた。このパルスシーケンスの詳細を図1に示す。図1中のδは磁場勾配パルス幅、Δは2つの磁場勾配パルスの間隔(拡散時間に相当)[ms]、gは磁場勾配の大きさ[Gauss/cm]、τは1番目と2番目の90°パルス間隔である。Δは30ms〜600ms、90°パルス幅は各サンプルの水のプロトンについて求めた。このパルスシーケンスでは、磁場勾配が与えられた場合および、与えられない場合に得られるエコー強度の比Rは、次の式(1)で表される。
ln(R)=−D(τδg)(Δ−δ/3)・・・・式(1)
拡散を観察している水の成分がただ1成分(緩和時間が1つということ)である時、拡散時間Δを一定として磁場勾配の大きさgを変化させた測定を行い、(τδg)(Δ−δ/3)に対してln(R)をプロットして得られる直線の傾きから拡散時間Δにおける見かけの拡散係数Dを求めた。
【0017】
[水透過係数の求め方]
下記の式(2)に光学顕微鏡による観察で得た拡散可能空間距離(細胞直径)及び測定した拡散係数を代入し生鮮及び凍結・解凍後の水透過係数を求めた。
(D−1=D−1+(p・a)−1・・・・式(2)
:十分に拡散させた時の拡散係数
:自由な水の拡散係数
p:水透過係数
a:拡散可能空間距離(細胞直径)
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
(サンプルの作成)
1)生タマネギを3mm4方、長さ1cmに切り出し、それをサランラップ(登録商標)に包んだ。切り出し方向は、前記顕微鏡観察時と同様とし、表皮細胞部は取り除きなるべく柔細胞部を切り出した。
2)新鮮な生タマネギサンプルは、自然のままのものであり、凍結・解凍後のサンプルは家庭用冷蔵庫(−15℃)で冷凍させ、室温で解凍したものである。このようにして、タマネギの(1)生鮮の表面近傍組織試料、(2)凍結・解凍(4回)後の同試料、(3)生鮮の中心部組織試料、(4)凍結・解凍(4回)後の同試料の4種類のサンプルを用意した。
【0019】
(NMRによる測定)
1)拡散係数の測定
NMR測定には、Bruker社のAM200WBを使用し、スティミュレーテッドエコー法を用いた。前記式(1)により拡散係数Dを求めた。
2)結果
拡散係数は温度によってばらつきがあるため、タマネギの拡散係数(D)を測定時の温度(約20℃)の水の拡散係数(Dw)で割った値を使い、図2、図3が示す結果が得られた。
【0020】
図2、図3に示すように生鮮の状態のタマネギは表層部試料、中心部試料にかかわらず、拡散時間の増加に伴って、平均拡散可能距離が減少するため見かけ上拡散係数が減少する制限拡散現象が確認された。一方、凍結・解凍後のタマネギにはその傾向が弱まり、拡散時間が延びても拡散係数の減少傾向は緩やかであった。特に中心部組織では凍結・解凍を繰り返すと殆ど拡散係数は時間によらず、一定値を示した。すなわち凍結前に存在した水の拡散に対する空間的制限がなくなったことをNMRの結果が示していた。又、表層部、中心部組織にかかわらず、解凍後は拡散係数自体の値も相対的に大きくなり、水の移動が容易になったことがわかる。このことは拡散を制限する細胞膜の損傷を示唆している。
【実施例2】
【0021】
[凍結・解凍回数の違いによる組織変化の評価]
実施例1と同様の生鮮タマネギと凍結・解凍後タマネギサンプルを用いるが、凍結・解凍タマネギサンプルとして、凍結・解凍を1回、2回、4回されたものをNMRに供し、拡散係数を求めた。
その結果を、図4に示す。
【0022】
図4に示すとおり、凍結・解凍の回数が多くなるほど拡散係数の減少傾向は緩やかであることが認められ、生鮮タマネギ、凍結・解凍1回のものと、凍結・解凍2回、4回のものとでは、顕著に差がある。
【実施例3】
【0023】
[生鮮組織、凍結・解凍後組織及びクロロホルム処理後組織]
実施例1と同様の生鮮タマネギ、凍結・解凍後タマネギ及びクロロホルム処理後タマネギを実施例1と同様にNMRに供し、D/Dwを求め、その結果を図5に示す。
【0024】
図5に示すように、タマネギのクロロホルム処理は、制限拡散は見られず、凍結・解凍後処理と同程度に組織変化が起きている。該処理は、細胞膜組織にダメージを与えることを示唆している。
【実施例4】
【0025】
[光学顕微鏡観測と拡散係数との組み合わせ]
上記の式(2)に光学顕微鏡による観測で得た細胞直径(拡散可能空間距離)150μm及び測定した拡散係数を代入し生鮮及び凍結・解凍後の水透過係数を求めた。
(生鮮タマネギ組織の水透過係数)は
8.6×10−4[cm/s]であった。
なお、D=0.73×10−5[cm/s]、
=1.67×10−5[cm/s]である。
(凍結・解凍後タマネギ組織の水透過係数)は、
4.4×10−2[cm/s]であった。
なお、D=1.43×10−5[cm/s]、
=1.76×10−5[cm/s]である。
【0026】
以上の水透過係数の値より、生鮮組織では細胞膜により細胞内に水が保たれ、みずみずしい構造を保っているが、凍結・解凍後では細胞膜が損傷を受けるために生鮮組織に比べて水透過性に2乗オーダーの明らかな差があり、細胞膜の損傷が起ったためと考えられる。
【実施例5】
【0027】
[葉物野菜]
特に凍結障害が問題となる葉物野菜であるレタスを選んだ。新鮮なレタスの芯と外側表面の中間部位から、葉の1枚を3mm×10mmの切片に切り出し、NMR法により測定し、上記(1)式を用いてダメージの程度を得、その結果を図6に示す。
この結果より、レタス生鮮組織の水透過係数を計算したところ
8.5×1−4[cm/s]であった。
なお、a=140μm、
=0.67×10−5[cm/s]、
=1.54×10−5[cm/s]である。
【0028】
図6より、拡散時間の増加に伴って、平均拡散可能距離が減少するため見かけ上拡散係数が減少する制限拡散現象が確認された。一方、凍結・解凍後のレタスにはその傾向が弱まり、拡散時間が延びても拡散係数の減少傾向は緩やかであった。又、凍結・解凍後のレタス組織の水透過性には明らかに変化があり、NMR法は葉物野菜に関しても凍結・解凍ダメージを測定する有効な方法であることが分った。
【0029】
本発明は、生鮮野菜・果実類の凍結ダメージをNMRを用いて、その拡散係数を測定時の温度における水の拡散係数で割った値を、拡散時間(拡散観測時間)ごとにプロットすることにより、生鮮野菜と凍結・解凍後の野菜には顕著な差があるため、凍結・解凍されたものか否か、或いは、凍結・解凍が繰り返しされたかどうかを評価することができる。さらに、光学顕微鏡観測により得た細胞直径(拡散可能空間距離)と測定した拡散係数とから生鮮及び凍結・解凍後の水透過係数を求めることによっても生鮮野菜・果実類の凍結ダメージを定量的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のスティミュレーテッドエコーパルスシーケンスを示す図である。
【図2】本発明の、タマネギ表層部の生鮮、凍結・解凍後の組織の水拡散係数D/水の拡散係数Dwを示す図である。
【図3】本発明の、タマネギ中心部の生鮮、凍結・解凍後の組織の水拡散係数D/水の拡散係数Dwを示す図である。
【図4】本発明の、タマネギの生鮮、凍結・解凍を1,2,4回行った組織の水拡散係数D/水の拡散係数Dwを示す図である。
【図5】本発明の、タマネギの生鮮組織、凍結・解凍後組織、クロロホルム処理後の組織の水拡散係数D/水の拡散係数Dwを示す図である。
【図6】本発明の、生鮮レタスと凍結・解凍後レタスの組織の水拡散係数D/水の拡散係数Dwを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生鮮野菜・果実類と凍結・解凍後の生鮮野菜・果実類を核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)装置を用いて、組織の水の拡散係数を測定し、拡散時間に対し、その測定値が一定になった時の拡散係数の差から生鮮野菜・果実類の凍結ダメージを評価することを特徴とする生鮮野菜・果実類の凍結ダメージの評価方法。
【請求項2】
生鮮野菜・果実類と凍結・解凍後の生鮮野菜・果実類のそれぞれの組織切片を、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)装置を用いて、見かけの拡散係数Dを測定し、該Dを測定時の温度における水の拡散係数Dwで割った値を算出し、拡散時間に対し、D/Dwが一定になった時のD/Dwの差から生鮮野菜・果実類の凍結ダメージを評価することを特徴とする生鮮野菜・果実類の凍結ダメージの評価方法。
【請求項3】
生鮮野菜・果実類が凍結・解凍を複数回されたことによる凍結ダメージを評価することを特徴とする請求項1又は2記載の生鮮野菜・果実類の凍結ダメージの評価方法。
【請求項4】
光学顕微鏡により得た細胞直径(拡散可能空間距離)及び核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)装置により測定した組織の水の拡散係数とから、生鮮野菜・果実類と凍結・解凍後の生鮮野菜・果実類の組織の水透過係数を比較することにより生鮮野菜・果実類の凍結ダメージを評価することを特徴とする生鮮野菜・果実類の凍結ダメージの評価方法。
【請求項5】
下記の式により、生鮮野菜・果実類と凍結・解凍後の生鮮野菜・果実類の組織の水透過係数を比較することにより生鮮野菜・果実類の凍結ダメージを評価することを特徴とする請求項4記載の生鮮・野菜の凍結ダメージの評価方法。

式:(D−1=D−1+(p・a)−1
:十分に拡散させた時の拡散係数
:自由な水の拡散係数
p:組織の水透過係数
a:拡散可能空間距離(細胞直径)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−266950(P2006−266950A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87232(P2005−87232)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年3月5日 社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会2005年度(平成17年度)大会講演要旨集」に発表
【出願人】(504196300)国立大学法人東京海洋大学 (83)