説明

産業用ロボットの溶接機制御方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、産業用ロボットの溶接作業の動作方法に係り、特に溶接作業のクレータ処理作業を良好に行う制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の装置は、特開昭58−90379号公報に記載のように、MiG溶接又はTiG溶接の場合の切換と、溶接シーケンスにおける電流値、電圧値の設定によりアーク溶接ロボットの溶接形態の共通動作を除く特有動作の制御指令のみをティーチングする構成とすることにより、ティーチングの煩雑さをなくし、溶接の作業能率を向上するように構成してあり、また特開昭57−47583号公報に記載してある装置では、自動溶接中に停止指令が入力されると、その時点から次のティーチングポイントまでそのまま溶接し、クレータフィラーを行うように構成してある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】現在の溶接機では、溶接終了点で直ちにアークオフ(アークOFF)すると溶着金属が薄くなり、ビード外観にクレータが発生してしまう。そこで、このため、溶接作業者は溶接終了点で溶接金属を盛り上げる処理、すなわちクレータ処理をしている。
【0004】作業用ロボットによる溶接作業においては、ユーザのティーチングにより、上記のクレータ処理を行っていたため、ティーチング時にユーザに余計な手間が掛っていた。これは、従来の産業用ロボットにはクレータ処理の概念がなかったためである。
【0005】本発明の目的は、クレータ処理が必要な溶接終了点で自動的にクレータ処理が実行されるようにした産業用ロボットの溶接機制御方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的は、少なくともアークスタート点でアークオン処理を実行させる命令と、ロボット本体をアークオフ点に移動させる命令と、アークオフ点でアークオフ処理を所定時間実行させる命令と、このアークオフ処理を実行させる命令の別命令として備えられ、予め記憶してあるクレータ処理用の電流値と電圧値及びクレータフィラー時間に基づいてクレータ処理を実行させる命令とを含む制御ソフトにより溶接動作するティーチング方式の産業用ロボットにおいて、前記所定時間を設定するためのタイマに対するティーチングがオンであることを条件として、それに設定されている時間を調べる判定処理を設け、前記アークオフ点で、前記判定処理による判定結果が時間ゼロであったとき、前記クレータ処理を実行させる命令を呼び出し、該命令によりクレータ処理が実行されるようにして達成される。
【0007】このクレータ処理は、産業用ロボットの制御ソフト内で実行されるようにしてあり、図1の溶接作業部のb点で示すアークオフ点(溶接終了点)で実行されるものである。このb点は、ロボットのティーチングではアークOFF点のことであり、従って、このアークOFF点でクレータ処理が実行されることになる。そして、図2に示すように、クレータ処理を実行するか否かの選択を容易に行うことができる。
【0008】クレータ処理の実行自体に関しては、制御ソフト内に組み込まれており、従来のロボットでのクレータ処理のように、ユーザがティーチングして行うものではないため、ティーチングの誤りなどに影響されないという利点があり、クレータ処理の実行は全て自動的に行われるものである。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明によるクレータ処理は、ロボット制御ソフト内に組込んで実行されるものであり、図1の一実施形態例に示すように、制御装置Cより溶接機W及びロボット本体Rへの信号のやり取りにより実行される。図1は、その信号交換内容を示したもので、各信号交換内容の詳細は、次の通りになる。
【0010】■ 制御装置Cから、溶接作業開始点(図1R>1のa点)へ移動する信号をロボット本体Rに送る。
■ ロボット本体RがアークON点へ到着した時点で、制御装置Cから溶接機WにアークON。
■ ロボット本体RがアークOFF点(図1のb点)へ到着した信号を送る。
【0011】■ 制御装置Cから溶接機Wへ、クレータ処理用の電流、電圧の設定値を送る(クレータ処理を実行させる場合)。
■ 溶接機Wから制御装置Cへ、電流、電圧をセットしたことを返す。
■ 制御装置Cは、溶接機Wがクレータ処理を行っている間、ロボット本体Rを同一位置で待機させる。
【0012】図2は、本発明の一実施形態例における溶接作業中の判断フローを示したもので、図1の信号■により、ロボット本体Rがアークスタート点aに到着した時点からこの図2の判断処理が開始する。まず、ロボットRは、アークON(S2)してからアークOFF点に到着するまでの間、判断(S3)により、溶接異常などでアーク切れが発生した場合には、クレータ処理の実行判断を行わないようになっている。
【0013】そして、判断(S4)により、アーク切れが発生せずにアークOFF点に到着すると、アークOFF点において、タイマONのティーチングがなされていたか否かを判断(S5)し、結果がNoのときにはクレータ処理(S9)を飛び越して、直ちにアークOFF処理(S10)に進む。従って、この実施形態例によれば、アークOFF点でもクレータ処理を必要としないときには、ユーザは、ティーチング時、タイマOFFに設定すればよく、これにより、この実施形態例では、クレータ処理を必要としない場合にも対応できるようにしたものである。
【0014】一方、判断(S5)での結果がYesのときには、次いでタイマデータが0であるか否かの判断(S6)を行ない、この判断(S6)の結果がYesになったとき、クレータ処理(S9)を実行するのである。ここでのタイマとは、タイマデータが0になっていなかったときに、アークOFF処理(S7)の後で実行されるタイマ処理(S8)に用いるものである。
【0015】そして、このタイマ処理(S8)は、第3図(B)に示すように、タイマONとなっていたらロボット本体Rを停止させ(待機)、この状態で設定されているタイマデータ(設定時間)が経過するのを待つ処理となっている。
【0016】ところで、このタイマは、ロボットを用いたアーク溶接処理で一般的に用いられているものであるが、このとき、タイマデータが0になっていたときには、たとえタイマONになっていたとしても、タイマ処理(S8)では、実質的には何も処理が行なわれない。そこで、この実施形態例では、このタイマの性質を用い、ここでもクレータ処理 (S9)を実行させるか否かの選択が行えるようにしてある。従って、この実施形態例では、アークOFF点(S4)であっても、タイマONで、しかもタイマデータが0のときにだけ、クレータ処理(S9)が実行されることになる。
【0017】なお、このタイマデータ0を使用したことによる利点は、以下の通りである。すなわち、通常のロボットでは、ティーチング時、タイマONにしたとき、タイマデータは初期値、つまり0になっている。従って、ユーザは、ティーチング時、アークOFF点でタイマONをティーチングするだけで、クレータ処理を自動的に実行させるティーチングをすることができ、ティーチングが簡単になることである。
【0018】クレータ処理(S9)は、第3図(A)に示すように、ロボットのティーチング作業以前に予めユーザが設定しておいたクレータ処理条件、電流値、電圧値、設定時間(クレータフィラー時間)をセットしてアークON、次いでアークONのまま設定時間待機してクレータ処理を行い、設定時間が経過した時点でクレータ処理を終了するものとなっている。クレータ処理(S9)終了後はアークOFFを実行(S10)して、図2の判断処理を終了する。
【0019】図4は、クレータ処理を実行させたときの溶接ビード外観を示したもので、図4(1)に示す溶接終了点のビード外観のクレータ100は、クレータ処理を行うと、同図(2)に示すビード外観101のようになる。
【0020】以上のようなクレータ処理機能を、ロボット制御ソフト内に組み込み実行させると容易にクレータ処理を行うことが出来、ティーチング時の時間と手間が従来のものより少なくてすみ、簡単であるという利点がある。
【0021】そして、このとき、アークOFF命令は、クレータ処理を別の命令して持ち、アークOFF命令が実行されると、アークOFFする前に別命令のクレータ処理を実行する。この別命令のクレータ処理は、図3(A)に示すように、サブルーチンとして設定してあり、アークOFF命令により呼び出されて実行される。従って、本発明では、従来技術のように、ティーチング時、アークOFF命令の前に、いちいちクレータ処理のプログラムを入力する必要がない。
【0022】
【発明の効果】本発明によれば、クレータ処理はロボットが自動的に条件設定をし実行してくれるため、ユーザは、クレータ処理に関してティーチする必要がなくなる。自動的にクレータ処理を行う事により、ユーザの手間の削減につながり、ビード外観に統一性が生まれ、作業効率の向上や良い品質の溶接金属を得ることが出来るという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用されたハードの構成と、クレータ処理自動設定の各々の信号交換内容を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態例の動作を説明するフローチャートである。
【図3】図2におけるクレータ処理とタイマ処理の内容を説明するフローチャートである。
【図4】クレータ処理をしない場合とクレータ処理をした場合のビード外観を示す説明図である。
【符号の説明】
R ロボット本体
C 制御装置
W 溶接機

【特許請求の範囲】
1.少なくともアークスタート点でアークオン処理を実行させる命令と、ロボット本体をアークオフ点に移動させる命令と、アークオフ点でアークオフ処理を所定時間実行させる命令と、このアークオフ処理を実行させる命令の別命令として備えられ、予め記憶してあるクレータ処理用の電流値と電圧値及びクレータフィラー時間に基づいてクレータ処理を実行させる命令とを含む制御ソフトにより溶接動作するティーチング方式の産業用ロボットにおいて、前記所定時間を設定するためのタイマに対するティーチングがオンであることを条件として、それに設定されている時間を調べる判定処理を設け、前記アークオフ点で、前記判定処理による判定結果が時間ゼロであったとき、前記クレータ処理を実行させる命令を呼び出し、該命令によりクレータ処理が実行されるように構成したことを特徴とする産業用ロボットの溶接機制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【特許番号】第2760425号
【登録日】平成10年(1998)3月20日
【発行日】平成10年(1998)5月28日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−48760
【分割の表示】特願昭62−56575の分割
【出願日】昭和62年(1987)3月13日
【公開番号】特開平9−192828
【公開日】平成9年(1997)7月29日
【審査請求日】平成9年(1997)3月4日
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000233217)日立京葉エンジニアリング株式会社 (25)
【参考文献】
【文献】特開 昭57−187174(JP,A)
【文献】特開 昭61−111778(JP,A)
【文献】特許2592228(JP,B2)