用紙搬送装置
【課題】用紙衝突音の音質を改善する。
【解決手段】実施形態によれば、用紙搬送装置は、第1ローラ対101、特性検知部102、検出部107、算出部106、制御フィルタ105、生成部104、および加振部103と、を含む。第1ローラ対は用紙を搬送する。特性検知部は、用紙の特性を検知し、該特性を示す特性信号を出力する。検出部は、用紙が第1ローラ対に到達したことを検出し、検出した旨を示す検出信号を出力する。算出部は、特性信号に応じた参照信号を算出する。制御フィルタは、用紙が第2ローラ対に衝突するときに用紙に付与する制御波の周波数分布を決定する。生成部は制御波を生成する。加振部は、特性信号および検出信号の少なくともいずれか1つにより定まる時刻であって用紙が第2ローラ対に衝突する時刻と、用紙に制御波を付与する時刻との差がしきい値以内であるように、用紙に制御波を付与する。
【解決手段】実施形態によれば、用紙搬送装置は、第1ローラ対101、特性検知部102、検出部107、算出部106、制御フィルタ105、生成部104、および加振部103と、を含む。第1ローラ対は用紙を搬送する。特性検知部は、用紙の特性を検知し、該特性を示す特性信号を出力する。検出部は、用紙が第1ローラ対に到達したことを検出し、検出した旨を示す検出信号を出力する。算出部は、特性信号に応じた参照信号を算出する。制御フィルタは、用紙が第2ローラ対に衝突するときに用紙に付与する制御波の周波数分布を決定する。生成部は制御波を生成する。加振部は、特性信号および検出信号の少なくともいずれか1つにより定まる時刻であって用紙が第2ローラ対に衝突する時刻と、用紙に制御波を付与する時刻との差がしきい値以内であるように、用紙に制御波を付与する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、例えばMFP(Multi Function Peripheral)やプリンタといった画像形成装置における、ローラ対やガイドによって用紙を搬送する用紙搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MFPやプリンタといった画像形成装置では、給紙カセットや手差し給紙部から用紙が給紙され、この用紙は画像形成部へ搬送される。搬送される用紙の姿勢、特に傾きは、用紙上の画像形成位置に多大な影響を与えるため、用紙の位置決めと傾き補正が行われる。また、カラー画像のために繰り返し用紙を搬送する場合には、画像の色ずれを防止するためにも、用紙の位置決めと傾き補正は重要である。画像形成前の用紙位置決めには、レジストローラ対が用いられることが多い。搬送された用紙は用紙ガイドを介して、ローラの回転が静止した状態のレジストローラ対へ衝突する。このとき用紙から衝突音(衝撃音とも呼ぶ)が発生する。用紙先端がレジストローラ対のニップ部に突き当たった後も、搬送ローラ対によって用紙は更に搬送される。そのため、用紙は、たわみを生じ、用紙自身の剛性によって用紙先端面がニップ部に押し付けられて、その先端面が全てレジストローラ対ニップ部に沿って当接することとなる。用紙先端面が全てレジストローラ対に当接した状態から、レジストローラ対が回転することによって、レジストローラ対のニップ部を基準とした用紙の先端の位置決めと傾き補正が行われて、用紙はニップ部から画像形成部へ搬送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−26526号公報
【特許文献2】特開平2007-3964号公報
【特許文献3】特開平9−193504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本実施形態の用紙搬送装置が適用されうる画像形成装置は、事務所環境などに設置される場合が多い。このような環境下では、騒音の影響は、使用者のみならず、周囲の作業者へも及ぶ。そのため、装置の稼動音は全体的に小さいことはもちろん、定常音以外の衝撃音も小さく、かつ落ち着いた音であることが望ましい。用紙を搬送する過程では、用紙位置決めのために停止したローラ対に用紙先端が衝突する音が発生し、騒音となっている。そこで、用紙がローラに衝突したときに用紙から放射される音を、低域強調した制御波を付与することによって音質改善したい。しかし、用紙がローラに衝突するタイミングと、用紙を加振するタイミングのずれが、許容時間以内に収まらなければ、2重に音が発生し、逆効果となってしまう。
【0005】
本実施形態は、上述した事情を考慮してなされたものであり、用紙衝突音の音質を改善する用紙搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、用紙搬送装置は、第1ローラ対、特性検知部、検出部、算出部、制御フィルタ、生成部、および加振部と、を含む。第1ローラ対は用紙を搬送する。特性検知部は、用紙の特性を検知し、該特性を示す特性信号を出力する。検出部は、用紙が第1ローラ対に到達したことを検出し、検出した旨を示す検出信号を出力する。算出部は、特性信号に応じた参照信号を算出する。制御フィルタは、用紙が第2ローラ対に衝突するときに用紙に付与する制御波の周波数分布を決定する。生成部は制御波を生成する。加振部は、特性信号および検出信号の少なくともいずれか1つにより定まる時刻であって用紙が第2ローラ対に衝突する時刻と、用紙に制御波を付与する時刻との差がしきい値以内であるように、用紙に制御波を付与する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施形態に係る用紙搬送装置のブロック図。
【図2A】主パルス波と制御パルス波のずれが異なる複数の場合での主パルス波と制御パルス波と用紙中央での振動速度のそれぞれの時間履歴を示す図。
【図2B】用紙から正面に30cm離れた位置での音圧波形の時間履歴を示す図。
【図3】図1の用紙搬送装置を想定した基礎実験システムのブロック図。
【図4】図3のシステムによって得られた実験結果を示す図。
【図5】人間の聴感特性を示す図。
【図6】第2の実施形態に係る用紙搬送装置のブロック図。
【図7】図6の用紙搬送装置を想定した基礎実験システムによって得られた実験結果を示す図。
【図8】第3の実施形態に係る用紙搬送装置のブロック図。
【図9】図8の用紙搬送装置を想定した基礎実験システムのブロック図。
【図10】図9のシステムによって得られた実験結果を示す図。
【図11】図9のシステムによって得られた、通過周波数帯域が図10と異なる実験結果を示す図。
【図12】図9のシステムによって得られた、通過周波数帯域が図10および図11と異なる実験結果を示す図。
【図13】平板上で任意の1点に外力が作用し、他の1点に制御力を作用させる場合の計算に使用するパラメータとその概要を示す図。
【図14】数値計算するA4サイズの用紙と、外力と制御力のそれぞれの作用点を示す図。
【図15】制御則(n=3)を適用した場合の音圧レベルの周波数分布を示す図。
【図16】制御則(n=10)を適用した場合の音圧レベルの周波数分布を示す図。
【図17】図15の共振周波数150Hzにおける変位分布を示す図。
【図18】数値計算するA4サイズの用紙と、外力と制御力の作用点が用紙正面音圧に対して非対称位置になる場合の作用点を示す図。
【図19】制御力を外力の3倍にした場合の数値計算結果を示す図。
【図20】制御則を使用した図19に対応する数値計算結果を示す図。
【図21】第1から第6の実施形態に係る用紙搬送装置を含む画像形成装置の概略的な構成図である。
【図22】用紙搬送装置の具体的な態様を示す概略図。
【図23】第5の実施形態に係る用紙搬送装置のブロック図。
【図24】図22に示すレジストローラ対に用紙が衝突する位置を示す図。
【図25】第6の実施形態に係る用紙搬送装置のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る用紙搬送装置について詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、同一の番号を付した部分については同様の動作を行うものとして、重ねての説明を省略する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態の用紙搬送装置について図1を参照して説明する。用紙は、用紙搬送ローラ対101から、用紙特性検知部102で例えば厚みを検出した後、停止したレジストローラ対のニップ部へ搬送されてそこに衝突することによって衝突音が発生する。
本実施形態の用紙搬送装置は、用紙搬送ローラ対101、用紙特性検知部102、用紙加振部103、制御波生成部104、制御フィルタ105、参照信号算出部106、用紙搬送・補正信号検出部107を含む。
【0009】
用紙搬送ローラ対101は、用紙を搬送し、場合によってはさらに用紙の向きを補正し、搬送および(または)補正を行った旨を示す信号を出力する。
用紙搬送・補正信号検出部107は、用紙搬送ローラ対101から信号を受け取り、用紙が用紙搬送ローラ対101に来たことを知らせる検出信号を出力する。
用紙特性検知部102は、用紙の特性を検知しその特性を示す特性信号を出力する。用紙の特性は、例えば用紙の厚さ、用紙のサイズ、用紙の硬さがある。
参照信号算出部106は、検出信号と特性信号とを受け取り、特性信号に応じた参照信号(例えば主パルス)を出力する。参照信号算出部106はまた、検出信号または(および)特性信号を受け取った時刻から、停止したローラ対(図1の左端)に用紙が衝突するまでの時間を計算し、停止したローラ対に用紙が衝突する時に用紙加振部103が用紙搬送ローラ対101を振動させ用紙に制御波を付与するようにしてもよい。この時間を、用紙の搬送速度と、用紙搬送ローラ対101と停止したローラ対との距離とから予め計算して、参照信号算出部106などに予め設定しておいてもよい。このような時間については後に図2Aおよび図2Bを参照して説明する。
【0010】
制御フィルタ105は、制御波の周波数分布を決定する。制御フィルタ105は1以上のフィルタ係数を格納している。制御フィルタ105は参照信号の波形を入力して低域強調された波形を得る。
制御波生成部104は、制御フィルタ105で決定された周波数分布の制御波を生成する。制御波生成部104は特定周波数帯域の波動を生成する。制御波生成部104は、参照信号と制御フィルタ105に格納されているフィルタ係数とを畳み込み演算を行い、制御波を生成する。
用紙加振部103は、停止したローラ対に用紙が衝突する際の衝突音(衝撃音とも呼ぶ)に合わせて、制御波生成部104で生成された制御波を用紙搬送ローラ対101の少なくとも一方に与え、用紙搬送ローラ対101の少なくとも一方を振動させて用紙に制御波を付与する。
【0011】
以上の用紙搬送装置によって、用紙の共振を励起させて衝突音を上記特定帯域音に強調させて音質を改善させることができる。
一般的に、同一空間内に主音源と制御音を設置すると両者位相干渉により、局所的に音圧が増減する位置が存在することから、増音制御は位相利用が一般的である。しかし、制御音が衝撃音の場合は、広帯域で位相が合致した制御波の生成と、制御音の発生タイミングを合わせることは難しく、周期性音源に比べて位相制御による増減効果は難しい。
また、低周波数の音は人間の聴感印象として好ましい印象を受けることが少なくとも発明者によって知られている。したがって、低周波数の音を増加させることは音質改善になる。
【0012】
そこで実施形態では、紙の低次共鳴モードは100Hz以下から発現する特性を利用し、上記制御波を励振源として低音共鳴を発生させることで、制御後の放射音を低音域に改変することを提案する。このとき、衝撃音も同時に発生するが、付与する上記制御波の振幅の方が大きいことから、干渉は生じにくく、衝撃音に制御波による低音放射音が重畳した形で発生する。
【0013】
ただし、この場合、衝撃音は周期音と違い、繰り返し発生しないことから、発生タイミングには注意が必要となる。そこで実施形態では、衝突前に入手可能な搬送信号を参照信号に用いることで衝突のタイミングに合わせた制御波付与方法を提案する。完全に一致しない場合でも、紙放射音の場合は、20msec程度遅れた信号を付与しても、両者はマスキングされて放射音圧は同一に聞こえる。
【0014】
次に、衝突音が発生する時刻と制御波を発生する時刻がどの程度近くなくてはならないかについて図2Aおよび図2Bを参照して説明する。
図2はA4サイズの用紙の上端を固定し、その左右に、主パルス波、バンドパスフィルタを通して発生させた制御パルス波を、時間をずらして付与したときの用紙中央での振動速度(図2A)および正面音圧波形(図2B)である。図2Aでは、黒く示される最初の大きなパルスが主パルス波を示し、その後にこの主パルス波よりも振幅の小さい黒く示される複数のパルスが制御パルス波を示す。
【0015】
ここで主パルス波が衝突音に対応し、制御パルス波が制御波に対応する。主パルス波と制御パルス波とのずれによる合成された音圧波形の分離は、図2Aを参照すると、主パルス波と制御パルス波とのずれが30msecまではそれ程顕著ではなく、50msec以上になると顕著であることがわかる。すなわち図2Aによれば、主パルス波と制御パルス波とのずれが50msec以上になると音圧波形は2つの波形にほとんど分離されていることがわかる。図2Bを参照しても50msec以上になると音圧波形は2つの波形に分離されていることがわかる。
【0016】
このようにレジストローラに用紙が衝突時に発生する衝突音(主パルス波)と、付与された制御波(制御パルス波)との時間遅れが大きいと、音が2重に聞こえることとなり、音質改善の目的が達成できない。図2Aによれば少なくとも20から25msec程度までならば、合成された音圧波形は1つの塊と見なせる。従って、位相を無視した本提案手法でも、低音強調が可能となる。本実施形態では、主パルス波と制御パルス波とのずれが少なくとも20から25msecになるように用紙加振部103が動作するように設定する。または第5の実施形態で説明される衝突時間算出部2302を使用する。
また、図2Aは衝突後に制御波を付与する例であるが、衝突時刻を含む前後のしきい値範囲内であれば制御波を付与してもよい。このしきい値範囲内は、衝突音(主パルス波)と、付与された制御波とが合成された音波波形が1つの塊と見なせる範囲である。
【0017】
次に、図1の用紙搬送装置を想定し実施した基礎実験システムについて図3を参照して説明する。その後、図3の実験システムによって得られた実験結果について図4を参照して説明する。なお、図3の左図はA4サイズの用紙を正面から見た図であり、図3の右図は用紙を側面から見た図である。
この実験システムは、振動アクチエータ301、加振用インパルスハンマ302、バンドパスフィルタ303、PC304を含む。実験システムは、A4サイズの用紙の上端を支持し、この用紙を振動アクチエータ301で挟み、振動アクチエータ301の振動を用紙に伝える。
【0018】
PC304はパルス信号を発生し、バンドパスフィルタ303がこのパルス信号のうちの特定の周波数帯域のパルス信号を通過させる。振動アクチエータ301は、この特定の周波数帯域のパルス信号を受け取り、この周波数帯域に含まれる周波数で振動する。この結果、特定の周波数の振動を用紙に与えることができる。
加振用インパルスハンマ302は、用紙の下端に設置され、用紙を下方から上方へ向けてたたくことにより、用紙に振動を与える。
この実験システムでは、振動アクチエータ301が発生する波が制御波に対応し、加振用インパルスハンマ302が発生する波が衝突音に対応する。
【0019】
図4は、端部加振時の用紙中央正面30cmの音圧レベル(dBA)を制御前の結果とし、制御後は、別途PC上で作成したパルス信号を参照信号に見立て、100Hzから500Hzまでを通過周波数帯域とするバンドパスフィルタに畳み込んで算出した制御波を付与した結果である。図4を参照すると、衝突音による振幅とパルスによる振幅は無関係なため、共鳴強調している低音(100Hz〜150Hz)以外は設計したバンドパスフィルタ帯域であっても制御後は増音してはいないことがわかる。
【0020】
本実施形態の用紙搬送装置は、制御フィルタが低周波数帯域(例えば1kHz)を通過帯域とするバンドパスフィルタ特性を有することで、低周波数の音が増え、低周波数の音は聴感印象として好ましい印象を受ける。
【0021】
人間の聴感特性は図5に示すような特性を有していることがわかっている。図5によれば、人間の聴感特性は低音ほど聞き取りにくい特性になっている。図5は音の大きさ(ラウドネス)に関する人間の感覚を表現したもので等ラウドネス曲線(ISO/R226)と呼ばれている。人間の聴感はハイパスフィルタに近い特性を示す。換言すると、低音を多少増加させても、聴感補正された騒音レベルのオーバーオール値はあまり変化がないことがわかる。従って、本実施形態のように低周波数の音を増やしても、制御波付与後の聴感補正された音圧レベル、すなわち騒音レベルは、制御前後であるしきい値の範囲内で同一である。この結果、1kHz以下に通過帯域をもつバンドパスフィルタを制御フィルタとすることで、聴感印象は低音に改善させながらも騒音レベル自体は変化しない。制御フィルタは、1kHz以下を通過帯域とするバンドパスフィルタ特性を有することで、制御波付与後の聴感補正された音圧レベル、すなわち騒音レベルは、制御前とほぼ同一である。MFPの低騒音化においてはデシベルAの騒音レベルが主体であることから、低音強調による音質改善と騒音低減とを両立することができる。
【0022】
以上の第1の実施形態によれば、用紙の共振を励起させて衝突音を特定帯域である低音で強調させることにより音質を改善することができる。例えば、用紙位置決めの際に、ローラの回転が静止した状態のレジストローラ対へ用紙が衝突して発生する騒音の低域を強調し、落ち着いた印象の音を生成できるようになる。また、用紙を搬送する過程で、湾曲した搬送ローラを通過する際に、ローラ対に用紙先端が衝突する音が発生する衝撃音による騒音の音質を改善することができる。
【0023】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の用紙搬送装置について図6を参照して説明する。第1の実施形態と異なる点は、用紙衝撃力検出部601と出力倍率変更部602を具備した点である。
本実施形態の用紙搬送装置は、第1の実施形態の用紙搬送装置の装置部分に加え、用紙衝撃力検出部601、出力倍率変更部602を含む。
【0024】
用紙衝撃力検出部601は、停止したローラ対に用紙が衝突する際の衝撃力を検出し、衝撃力を示す衝撃信号を出力する。衝撃信号は、例えば衝撃力の大きさに比例した振幅を有する信号である。
出力倍率変更部602は、用紙衝撃力検出部601から入力した衝撃信号が示す衝撃の大きさに応じて、制御波の出力倍率を変更する。すなわち、衝撃が大きいほど制御波の大きさも大きくする。出力倍率は例えば複数種類有り、出力倍率変更部602は衝撃の大きさに応じていずれかの出力倍率を選択する。出力倍率変更部602は、制御フィルタ105で決定される周波数分布を有する制御波の振幅を変更する。出力倍率変更部602は例えば、制御フィルタ出力倍率を予め数段階用意し、切り替える。
【0025】
用紙搬送・補正信号検出部107や用紙特性検知部102は前述のとおり用紙衝突前に信号を検出できることから、時間タイミングに関しては、この信号は衝撃と関連の深い信号となる。しかし、これらは加速度センサ信号でないことから、衝撃力の強さとは関連は薄く、これらを参照信号として生成された制御波も、衝撃力に応じた出力信号にはなっていない。
【0026】
大きな衝撃音が発生した場合は大きな低音強調の制御波、小さな衝撃音の場合は小さな低音強調の制御波である方が望ましい。そこで本実施形態では、用紙衝突部の近くに振動センサなどの用紙衝撃力検出部601を設置することで衝撃力をモニタし、出力倍率変更部602では、閾値を決めてその衝撃力の大きさに応じて、制御波の振幅倍率を変更する仕組みを提案する。
【0027】
次に、第1の実施形態で参照した実験システムを使用して得られた実験結果について図7を参照して説明する。
図7は、用紙衝撃力検出部601で検出した衝撃力に応じて出力倍率変更部602が制御波の出力倍率を2.5倍にした場合での実験結果を示す。一方、図4は出力倍率が1倍の場合での実験結果である。図7の「倍率2.5倍」が制御後の音波の周波数分布を示す。図7の制御後の音波は図4の制御後の音波に比較して増音されていることがわかる。結果として、図7の音波は図4の音波よりも増音帯域が拡張している。衝撃力に比例して振幅倍率を増加させていくと、図7のように増音帯域が拡張する。
【0028】
以上の第2の実施形態によれば、第1の実施形態の効果に加えて、発生する衝撃音に応じて制御波の大きさを調整することによって、より適切に音質を改善することができる。
【0029】
(第3の実施形態)
第3の実施形態の用紙搬送装置について図8を参照して説明する。第2の実施形態と異なる点は、出力倍率変更部602を設置せず、用紙衝撃力検出部601の出力信号を参照信号算出部801に出力して制御フィルタ802が衝撃力を考慮した制御波の周波数分布を決定する点である。
本実施形態の用紙搬送装置は、第2の実施形態の用紙搬送装置から出力倍率変更部602を取り去り、参照信号算出部106および参照信号算出部106をそれぞれ参照信号算出部801および制御フィルタ802に置き換えたものである。
【0030】
参照信号算出部801は、検出信号と特性信号と衝撃信号を受け取り(この場合、参照信号は検出信号、特性信号、衝撃信号)、特性信号および衝撃信号に応じた参照信号(例えば主パルス)を出力する。参照信号算出部801は、衝撃信号をそのまま受け取り(すなわち、衝撃力の周波数分布を受け取る)、制御フィルタ802にこの周波数分布情報を含んだ信号を出力する。
制御フィルタ802は、参照信号算出部801から受け取った周波数分布を有する制御波を生成するようにフィルタを設定する。
【0031】
第2の実施形態では複数の出力倍率のうちの、衝撃力の大きさに最も近い出力倍率を選択する。一方、第3の実施形態では衝撃力の周波数分布をそのまま制御フィルタに利用するので、第2の実施形態よりも受けた衝撃力により近い周波数分布を有する制御波を生成することができる。
【0032】
なお、参照信号算出部801は、衝撃信号のみを参照信号に利用してもよい。また、衝突前に検出可能な検出信号や特性信号の特徴をもとに、用紙衝撃力検出部601からの信号を加工したものを参照信号としてもよい。例えば、衝撃力と用紙特性との関係から、紙の種類によって明らかに衝突時には低音強調帯域とは異なった高次の振動が重畳することがわかっていれば、これはノイズとみなせる。このノイズを参照信号から排除することで、SNを向上させることが可能となる。
【0033】
次に、図8の用紙搬送装置を想定し実施した基礎実験システムについて図9を参照して説明する。その後、図9の実験システムによって得られた実験結果について図10、図11、図12を参照して説明する。
図9の実験システムは、加振用インパルスハンマ302にフォースセンサ901と取り付け、フォースセンサ901が検出した加振用インパルスハンマ302の衝撃力をそのままバンドパスフィルタ303にパルスとして入力することが、図3の実験システムとは異なる。図9のシステムでのこの他の点は図3のシステムと同様である。
【0034】
図10は通過周波数帯域が100Hzから500Hzまでとした場合であり、図4と同様な通過周波数帯域である。図4に比較して図10ではより低音強調されていることがわかる。図10では約100Hzから約200Hzまでは制御後にかなり強調されていることがわかる。
図11は通過周波数帯域を100Hzから300Hzにした場合、図12は通過周波数帯域を200Hzから800Hzにした場合についての実験結果を示す。通過周波数帯域の変更によりねらった帯域が強調されていることがわかる。
【0035】
以上の第3の実施形態によれば、発生する衝撃力の周波数分布を含む衝撃信号をそのまま参照信号として利用することによって、第2の実施形態での場合よりもより適切に音質を改善することができる。
【0036】
(第4の実施形態)
第4の実施形態の用紙搬送装置は、第1から第3の実施形態の用紙搬送装置の制御フィルタを最適化したものである。ここでは、どのように制御フィルタを最適化するか、どの程度効果があるかについて図13から図20を参照して説明する。
【0037】
本実施形態の用紙搬送装置は、制御フィルタに、数式(1)に示す、空間同定可能な2つの空間伝達関数と1つの定数nによって算出された、外力に対する制御力の関係である制御則を用いる。この数式(1)を使用して制御力fSを用紙加振部103が用紙搬送ローラ対101の少なくとも一方に与えることで、制御後の放射音圧を制御前よりもn倍、すなわち、20log(n)dBに増音することができる。
【数1】
【0038】
ここで、Fpは外力から用紙正面増音点の音圧までの空間伝達関数であり、Fsは制御力から用紙正面増音点の音圧までの空間伝達関数であり、nは増音点の増音倍率であり、fPは外力であり、fSは制御力である。
【0039】
以下数式(1)の導出過程について説明する。
図13に示す平板において任意の1点に外力が作用し、その結果、振動放射音が発生しているとする。この平板は周辺単純支持とした場合、平板の変位は数式(2)、固有関数は数式(3)、固有角周波数は数式(4)となる。
【数2】
【0040】
【数3】
【0041】
【数4】
【0042】
ここで、Dは曲げ剛性、ρは用紙の密度、hは板厚である。m、nは0以上の自然数である。またD=Eh3/12(1−v2)であり、Eは縦弾性係数、vはポアソン比である。
【0043】
このときの用紙を微小面積Δsiで分割した場合の要素iから放射される正面音圧piは数式(5)となる。ここでriは要素iから正面音圧位置までの距離を示す。また、qiは要素iの体積速度を示す。
【数5】
【0044】
【数6】
【0045】
ここで、制御力を付与することで、振動放射音を制御することを考える。
改めて、用紙上をN個に分割し、外力と制御力が同時に用紙に付与されている場合、i番目の要素(xi、yi)における振動速度をuiとし、外力fPと上記要素の変位によるコンプライアンス(=変位/力)をZPi,制御力と上記要素の変位によるコンプライアンス(=変位/力)をZSiとすると、数式(7)、(8)となる。
【数7】
【0046】
【数8】
【0047】
また、i番目の要素(xi、yi)からri離れた位置に伝わる、面積Siの要素からの音圧Piは、式を簡略化するためにαiと置きなおして記述すると数式(9)となる。
【数9】
【0048】
ここで、
【数10】
【0049】
従って、用紙全体からの音圧Pは、N個の要素すべてから合成音圧となることから、数式(11)となる。
【数11】
【0050】
ここで、さらに式を簡略化するために、下記、A,Bで置き直した。
【数12】
【0051】
また、外力だけが付与されている制御前の用紙放射音は数式(13)となる。
【数13】
【0052】
さて、ここで、本提案では、制御後に音圧を増加させることを目的とすることから、制御後の音圧Pが制御前の音圧P0のn倍になるような制御則を求めると、次式となる。
【数14】
【0053】
つまり、音圧エネルギーに相当するUを目的関数として、これを最小化すればよい。
【数15】
【0054】
【数16】
【0055】
ただし*は複素共役を表す。
【0056】
さらに、外力および制御力を実部と虚部で表現すると、
【数17】
【0057】
従って、数式(18)となり、
【数18】
【0058】
よって、数式(19)を満たすようにfSを求める。
【数19】
【0059】
そこで、目的関数を実部、虚部で偏微分すると、
【数20】
【0060】
よって、それぞれ、数式(21)となる。
【数21】
【0061】
従って、外力に対する制御力の関係である制御則が求まり、増音倍率nの関数になっていることがわかる。
【数22】
【0062】
よって、制御則は数式(23)となる。
【数23】
【0063】
ここで、
【数24】
【0064】
従って、i番目の要素からX離れた位置(ri以外)における、i要素が与える音圧Pi(x)は、数式(25)となり、
【数25】
【0065】
従って、用紙全体では数式(26)となる。
【数26】
【0066】
一方、制御前のi要素が与える音圧P0i(x)は数式(27)となり、
【数27】
【0067】
用紙全体では数式(28)となる。
【数28】
【0068】
従って、制御前後のX位置における音圧レベル増音量(dB)は数式(29)となる。
【数29】
【0069】
確認として、X位置とri位置が同一の場合は、数式(30)より数式(31)となり、n倍増音の目的に合致し、2倍であれば6dB増加、3倍では9.4dB増加する。
【数30】
【0070】
【数31】
【0071】
以上により、正面放射音圧をn倍にする制御則(数式(32))が求まる。
【数32】
【0072】
ここで、構成要素Zは各力から要素iの振動速度であるが、用紙振動速度を微小要素ごとに同定することは多大な時間を要する。従って、Zから上記fsとfpの伝達関数を算出することは難しい。しかし、Σαi・ZPiおよびΣαi・ZSiは、外力から増音したい位置での音圧までの特性に相当することから、各々作用させる点からの空間伝達関数を実測することで、その比率に(n−1)をかけたものが、制御則に相当する。
これにより、用紙の伝達モデルが未知であっても、制御則が実測同定値を用いて推定できるようになる。
【0073】
図14に示すA4サイズのケント紙を想定し、数式(33)の特性を入れて、周囲単純支持条件下における数値計算を実施した。
【数33】
【0074】
外力に対する制御力を最適制御則(正面音圧n倍)とした場合の用紙正面30cmの音圧レベル制御効果を図15、図16に示す。
図15では100Hzから300Hzの帯域を制御則(n=3)にしたとき、図16は100Hzから300Hzの帯域を制御則(n=10)にした場合の結果である。図15および図16を参照すると、狙った帯域だけ20log(n)で増音していることがわかる。
【0075】
また、このときの図15に示す共振周波数150Hzにおける変位分布を図17に示す。制御後は共鳴強調されて全体に変位が増大していることがわかる。
【0076】
次に、制御則の効果を比較により示す。
図18に示す例では、外力と制御力を用紙正面音圧に対して非対称位置になるように制御力の位置をずらす。このとき、図19には制御力を外力の3倍にした場合、図20には数式(1)に示した最適制御則(正面30cm音圧3倍)にて算出した制御力を与えた場合の結果を示す。制御則を使用した場合の方が、オーバーオール値に寄与する共鳴周波数で確実に増音している(図20の山部分の頂点付近、すなわち上に凸な部分の頂点付近)。逆に、オーバーオール値に寄与しない周波数(図20の谷部分の最下点付近、すなわち下に凸な部分の最下点付近)では変化しない結果となり、音圧増音n倍の目的関数をもった制御則の方がよりロバストであることがわかる。
【0077】
以上の第4の実施形態によれば、数式(1)に示す制御則を使用して制御力を用紙搬送ローラ対101に与えることにより、第1から第3の実施形態での場合よりもより適切に音質を改善することができる。
【0078】
以下の実施形態では、今までの実施形態よりもより具体的に説明する。
(具体例)
実施形態の用紙搬送装置を含む画像形成装置について図21を参照して説明する。実施形態に係る用紙搬送装置は、例えば電子写真装置などの画像形成装置の装置本体に設けられる。
【0079】
筐体1の下部には、カセット装置2と、このカセット装置2の上方に設けられたカセット装置3とが設けられている。カセット装置3には、被画像形成媒体である用紙4が収容されており、カセット装置2、3の各一側部には、用紙4を取り出すための各一個のピックアップローラ5が設けられている。
【0080】
筐体1内には、カセット装置2から、カセット装置3、レジストローラ対6および2次転写部7を通って上方に延びる用紙4の搬送路8が形成される。この搬送路8の下部には、カセット装置3に収容された用紙4を一枚ずつ分離して引き上げる給紙ローラ対9と、分離された一枚の用紙4を挟んで搬送する一対の搬送ローラ10とが設けられている。更に、筐体1の下部には、装置本体の内部へ供給される用紙4を手差しで載置することが可能な手差しトレイ11が設けられている。この手差しトレイ11に用紙4が載置された場合、用紙4は手差し給紙ローラ12によって取り出されて搬送路8側に搬送される。
【0081】
カセット装置3用の給紙ローラ対9の上方の搬送路8には、カセット装置2、3および手差しトレイ11からの用紙4を挟んで搬送する中間搬送ローラ対13が設けられている。中間搬送ローラ対13の上方の搬送路8に設けられたレジストローラ対6は、用紙4の位置および向きを調節するために用紙4を一旦停止させて、2次転写部7に対して用紙4を搬送する。中間搬送ローラ対13の上方かつレジストローラ対6の下方には、所定の曲率を有する湾曲がそれぞれに形成された搬送ガイド14、15が設けられている。
【0082】
筐体1の中央部には、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色のトナー画像を、無端状の転写ベルト19に転写形成する画像形成ユニット20、21、22、23が、並列配置されている。4つの現像ローラ30によって転写ベルト19上にトナー画像が形成される。転写ベルト19は、4対のドライブローラ24を駆動するモータによって反時計方向に回転走行する。2次転写ローラ対25は、レジストローラ対6から送り込まれる用紙4を転写ベルト19との間に挟み込みながら、この転写ベルト19に転写されているカラートナー像を用紙4に転写させる。搬送路8において、2次転写ローラ対25よりも用紙搬送方向の下流側の位置には、転写されたトナー像を用紙4に定着させる定着部26が設けられている。用紙4上に転写された画像は、定着部26において加熱および加圧されて、排紙ローラ対27によって排紙部28へ搬送される。搬送路8の終端から筐体1の一側面部に沿って、用紙4の表裏を反転させて搬送するための4対の搬送ローラ対29が設けられている。搬送路8の終端に達した用紙4が、これらの搬送ローラ対29を通ってレジストローラ対6の上流側へ向かって戻されることによって、用紙4の裏面にも転写ベルト19上のトナー像が転写される。
【0083】
このような構成の本実施形態に係る用紙搬送装置を含む画像形成装置において、図示しない駆動制御部は、レジストローラ対6を停止した状態で、中間搬送ローラ対13により用紙4を所定量だけ搬送するように、これらのレジストローラ対6の駆動ローラと、中間搬送ローラ対13の駆動ローラとの各回転速度を制御する。搬送ガイド14は、中間搬送ローラ対13から排出される用紙4の排出方向先端部を湾曲面上に摺接させることによって用紙4をたわませる。そして中間搬送ローラ対13から排出される用紙4の排出方向先端部がレジストローラ対6のニップ部に突き当たった状態、かつこの用紙4が少したわんだ状態になるまでの間、駆動制御部は搬送を継続し、その後、搬送動作を停止させる。従って、用紙4の姿勢が整位されて、用紙4の傾きが補正される。これにより、用紙4の先端部の位置決めが行われる。
【0084】
次に、図21の画像形成装置に含まれる用紙搬送装置について図22を参照して説明する。
図22の用紙搬送装置は、図21の右下部分にあり、給紙ローラ対9、中間搬送ローラ対13、レジストローラ対6、紙厚検知部2201、衝撃力検知部2202を含む。
給紙ローラ対9は、カセット装置に収容された用紙を一枚ずつ分離して引き上げる。
中間搬送ローラ対13は、給紙ローラ対9の上方の搬送路に設けられ、給紙ローラ対9によって導かれた用紙を挟んで搬送する。中間搬送ローラ対13は、図1等では用紙搬送ローラ対101に対応する。
レジストローラ対6は、用紙の位置および向きを調節するために用紙を一旦停止させて、次の部位に用紙を搬送する。
紙厚検知部2201は、用紙の紙厚を検出し、用紙の紙厚を示す信号を出力する。
衝撃力検知部2202は、停止したレジストローラ対6に用紙が衝突する際の衝撃力を検出し、衝撃力を示す信号を出力する。この信号は、例えば衝撃力の大きさに比例した振幅を有する信号である。
【0085】
(第5の実施形態)
第5の実施形態の用紙搬送装置について図23を参照して説明する。本実施形態は第1の実施形態をより具体化したものである。第1の実施形態の装置部分に加え衝突時間算出部2302を新たに含み、用紙特性検知部102の具体化の一例としての紙厚検出部2301を含む。ここで、用紙は、用紙搬送ローラ対101(中間搬送ローラ対)から、紙厚検出部2301で厚みを検出した後、停止したレジストローラ対6のニップ部へ搬送されて衝突することによって衝突音が発生する。図24は、用紙がレジストローラ対6のニップ部へ衝突する瞬間を示している。
【0086】
紙厚検出部2301は、用紙の紙厚を検出し、例えばMRセンサ、光センサなどが用いられる。紙厚検出部2301は紙厚に応じた参照信号を参照信号算出部106に出力する。
【0087】
衝突時間算出部2302は、制御波生成の時間遅れを考慮して制御波付与時刻をより正確に求めるためのものであり、検出された紙厚と紙通過タイミングより、用紙がレジストローラに衝突する時間を算出する。用紙が紙厚検出部2301を通過する時刻をt、搬送速度をv、紙厚検出部2301とレジストローラニップとの間の距離をL、紙厚をh、レジストローラ直径をrとすると、用紙がレジストローラニップに衝突する時刻Tは、以下で表される。
【数34】
【0088】
例えば、レジストローラ直径20[mm]、搬送速度100[mm/s]のとき、紙厚0.04[mm]の用紙と紙厚0.3[mm]の用紙では、15.5[msec]の衝突時間差が発生する。
【0089】
紙厚による衝突時間の差を計算することで、制御波の付与タイミング遅延を小さくし、確実に用紙衝突音の低域を強調する用紙搬送装置を提供することができる。なお、紙厚の検知と、紙通過のタイミングは、それぞれ別のセンサによって検出されてもよい。
【0090】
計算された衝突時間に合わせ、用紙加振部103が制御波を付与する。生成された制御波に基づいてモータ駆動回路が制御波付与ローラを駆動し、用紙に低域強調された制御波を付与する。なお、用紙加振部103は、モータ駆動されるローラの他に、加振器付き追加ローラやフィルムでもよく、スピーカやエアによる非接触の加振器でもよい。
【0091】
制御波付与前の衝突音と制御波付与後の衝突音の周波数分析結果は、例えば図5や図9のようになる。これらの図からわかるように、制御波付与により衝突音の低域が強調された音となっている。
【0092】
以上の第5の実施形態によれば、用紙がレジストローラ対に衝突する衝突時間を計算して、衝突音と制御波との発生時間のずれを所定値以下に抑えることにより、確実に用紙衝突音の低域を強調して音質を改善することができる。
【0093】
(第6の実施形態)
第6の実施形態の用紙搬送装置について図25を参照して説明する。本実施形態も第1の実施形態をより具体化したものである。第1の実施形態の装置部分に加え衝突時間算出部2302を新たに含み、用紙特性検知部102の具体化の一例として紙厚検出部2301を含み、制御フィルタ105の具体化の一例として制御フィルタ選択部2501を含む。
【0094】
制御フィルタ選択部2501は、あらかじめ用紙の固有振動数に応じた制御信号と用紙厚さとを対応付けたテーブルを保持して、参照信号算出部106から出力される参照信号によって用紙厚さを推定しテーブルを参照して対応する制御信号を出力する。すなわち、紙厚検知部で検出された紙厚より用紙種類を判別し、制御波選択部で用紙に応じた制御波を選択する。制御波生成部104は選択された制御波を生成し、用紙加振部103は紙厚より算出された衝突時間に合わせて、制御波を付与する。これによって用紙の固有振動数に最適な制御信号を生成することができる。
【0095】
なお、紙厚検出部2301が参照信号の大きさを紙厚に比例して出力する場合には、制御フィルタ選択部2501は、参照信号の大きさによって紙厚を推定できるので、参照信号の大きさによって制御信号を判定すればよい。
【0096】
以上の第6の実施形態によれば、用紙の共振を的確に励起させて衝突音を特定帯域である低音に強調させることにより音質を改善することができる。
【0097】
以上説明した実施形態の用紙搬送装置によれば、用紙に低音域の制御波を付与することで、騒音レベルのオーバーオール値を増加させずに、衝突音を低音強調させて、衝突時に用紙種類や突入角などの違いでばらつく音質を、搬送速度を低下させずに改善することができる。
【0098】
また、上述の実施形態の中で示した処理手順に示された指示は、ソフトウェアであるプログラムに基づいて実行されることが可能である。汎用の計算機システムが、このプログラムを予め記憶しておき、このプログラムを読み込むことにより、上述した実施形態の用紙搬送装置による効果と同様な効果を得ることも可能である。上述の実施形態で記述された指示は、コンピュータに実行させることのできるプログラムとして、磁気ディスク(フレキシブルディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD±R、DVD±RWなど)、半導体メモリ、またはこれに類する記録媒体に記録される。コンピュータまたは組み込みシステムが読み取り可能な記録媒体であれば、その記憶形式は何れの形態であってもよい。コンピュータは、この記録媒体からプログラムを読み込み、このプログラムに基づいてプログラムに記述されている指示をCPUで実行させれば、上述した実施形態の用紙搬送装置と同様な動作を実現することができる。もちろん、コンピュータがプログラムを取得する場合または読み込む場合はネットワークを通じて取得または読み込んでもよい。
また、記録媒体からコンピュータや組み込みシステムにインストールされたプログラムの指示に基づきコンピュータ上で稼働しているOS(オペレーティングシステム)や、データベース管理ソフト、ネットワーク等のMW(ミドルウェア)等が本実施形態を実現するための各処理の一部を実行してもよい。
さらに、本願発明における記録媒体は、コンピュータあるいは組み込みシステムと独立した媒体に限らず、LANやインターネット等により伝達されたプログラムをダウンロードして記憶または一時記憶した記録媒体も含まれる。
また、記録媒体は1つに限られず、複数の媒体から本実施形態における処理が実行される場合も、本発明における記録媒体に含まれ、媒体の構成は何れの構成であってもよい。
【0099】
なお、本願発明におけるコンピュータまたは組み込みシステムは、記録媒体に記憶されたプログラムに基づき、本実施形態における各処理を実行するためのものであって、パソコン、マイコン等の1つからなる装置、複数の装置がネットワーク接続されたシステム等の何れの構成であってもよい。
また、本願発明の実施形態におけるコンピュータとは、パソコンに限らず、情報処理機器に含まれる演算処理装置、マイコン等も含み、プログラムによって本発明の実施形態における機能を実現することが可能な機器、装置を総称している。
【0100】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
1…筐体、2…カセット装置、3…カセット装置、4…用紙、5…ピックアップローラ、6…レジストローラ対、7…2次転写部、8…搬送路、9…給紙ローラ対、10…搬送ローラ、11…手差しトレイ、12…給紙ローラ、13…中間搬送ローラ対、14、15…搬送ガイド、19…転写ベルト、20、21、22、23…画像形成ユニット、24…ドライブローラ、25…2次転写ローラ対、26…定着部、27…排紙ローラ対、28…排紙部、29…搬送ローラ対、30…現像ローラ、101…用紙搬送ローラ対、102…用紙特性検知部、103…用紙加振部、104…制御波生成部、105…制御フィルタ、106…参照信号算出部、107…用紙搬送・補正信号検出部、301…振動アクチエータ、302…加振用インパルスハンマ、303…バンドパスフィルタ、601…用紙衝撃力検出部、602…出力倍率変更部、801…参照信号算出部、802…制御フィルタ、901…フォースセンサ、2201…紙厚検知部、2202…衝撃力検知部、2301…紙厚検出部、2302…衝突時間算出部、2501…制御フィルタ選択部。
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、例えばMFP(Multi Function Peripheral)やプリンタといった画像形成装置における、ローラ対やガイドによって用紙を搬送する用紙搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MFPやプリンタといった画像形成装置では、給紙カセットや手差し給紙部から用紙が給紙され、この用紙は画像形成部へ搬送される。搬送される用紙の姿勢、特に傾きは、用紙上の画像形成位置に多大な影響を与えるため、用紙の位置決めと傾き補正が行われる。また、カラー画像のために繰り返し用紙を搬送する場合には、画像の色ずれを防止するためにも、用紙の位置決めと傾き補正は重要である。画像形成前の用紙位置決めには、レジストローラ対が用いられることが多い。搬送された用紙は用紙ガイドを介して、ローラの回転が静止した状態のレジストローラ対へ衝突する。このとき用紙から衝突音(衝撃音とも呼ぶ)が発生する。用紙先端がレジストローラ対のニップ部に突き当たった後も、搬送ローラ対によって用紙は更に搬送される。そのため、用紙は、たわみを生じ、用紙自身の剛性によって用紙先端面がニップ部に押し付けられて、その先端面が全てレジストローラ対ニップ部に沿って当接することとなる。用紙先端面が全てレジストローラ対に当接した状態から、レジストローラ対が回転することによって、レジストローラ対のニップ部を基準とした用紙の先端の位置決めと傾き補正が行われて、用紙はニップ部から画像形成部へ搬送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−26526号公報
【特許文献2】特開平2007-3964号公報
【特許文献3】特開平9−193504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本実施形態の用紙搬送装置が適用されうる画像形成装置は、事務所環境などに設置される場合が多い。このような環境下では、騒音の影響は、使用者のみならず、周囲の作業者へも及ぶ。そのため、装置の稼動音は全体的に小さいことはもちろん、定常音以外の衝撃音も小さく、かつ落ち着いた音であることが望ましい。用紙を搬送する過程では、用紙位置決めのために停止したローラ対に用紙先端が衝突する音が発生し、騒音となっている。そこで、用紙がローラに衝突したときに用紙から放射される音を、低域強調した制御波を付与することによって音質改善したい。しかし、用紙がローラに衝突するタイミングと、用紙を加振するタイミングのずれが、許容時間以内に収まらなければ、2重に音が発生し、逆効果となってしまう。
【0005】
本実施形態は、上述した事情を考慮してなされたものであり、用紙衝突音の音質を改善する用紙搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、用紙搬送装置は、第1ローラ対、特性検知部、検出部、算出部、制御フィルタ、生成部、および加振部と、を含む。第1ローラ対は用紙を搬送する。特性検知部は、用紙の特性を検知し、該特性を示す特性信号を出力する。検出部は、用紙が第1ローラ対に到達したことを検出し、検出した旨を示す検出信号を出力する。算出部は、特性信号に応じた参照信号を算出する。制御フィルタは、用紙が第2ローラ対に衝突するときに用紙に付与する制御波の周波数分布を決定する。生成部は制御波を生成する。加振部は、特性信号および検出信号の少なくともいずれか1つにより定まる時刻であって用紙が第2ローラ対に衝突する時刻と、用紙に制御波を付与する時刻との差がしきい値以内であるように、用紙に制御波を付与する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施形態に係る用紙搬送装置のブロック図。
【図2A】主パルス波と制御パルス波のずれが異なる複数の場合での主パルス波と制御パルス波と用紙中央での振動速度のそれぞれの時間履歴を示す図。
【図2B】用紙から正面に30cm離れた位置での音圧波形の時間履歴を示す図。
【図3】図1の用紙搬送装置を想定した基礎実験システムのブロック図。
【図4】図3のシステムによって得られた実験結果を示す図。
【図5】人間の聴感特性を示す図。
【図6】第2の実施形態に係る用紙搬送装置のブロック図。
【図7】図6の用紙搬送装置を想定した基礎実験システムによって得られた実験結果を示す図。
【図8】第3の実施形態に係る用紙搬送装置のブロック図。
【図9】図8の用紙搬送装置を想定した基礎実験システムのブロック図。
【図10】図9のシステムによって得られた実験結果を示す図。
【図11】図9のシステムによって得られた、通過周波数帯域が図10と異なる実験結果を示す図。
【図12】図9のシステムによって得られた、通過周波数帯域が図10および図11と異なる実験結果を示す図。
【図13】平板上で任意の1点に外力が作用し、他の1点に制御力を作用させる場合の計算に使用するパラメータとその概要を示す図。
【図14】数値計算するA4サイズの用紙と、外力と制御力のそれぞれの作用点を示す図。
【図15】制御則(n=3)を適用した場合の音圧レベルの周波数分布を示す図。
【図16】制御則(n=10)を適用した場合の音圧レベルの周波数分布を示す図。
【図17】図15の共振周波数150Hzにおける変位分布を示す図。
【図18】数値計算するA4サイズの用紙と、外力と制御力の作用点が用紙正面音圧に対して非対称位置になる場合の作用点を示す図。
【図19】制御力を外力の3倍にした場合の数値計算結果を示す図。
【図20】制御則を使用した図19に対応する数値計算結果を示す図。
【図21】第1から第6の実施形態に係る用紙搬送装置を含む画像形成装置の概略的な構成図である。
【図22】用紙搬送装置の具体的な態様を示す概略図。
【図23】第5の実施形態に係る用紙搬送装置のブロック図。
【図24】図22に示すレジストローラ対に用紙が衝突する位置を示す図。
【図25】第6の実施形態に係る用紙搬送装置のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る用紙搬送装置について詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、同一の番号を付した部分については同様の動作を行うものとして、重ねての説明を省略する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態の用紙搬送装置について図1を参照して説明する。用紙は、用紙搬送ローラ対101から、用紙特性検知部102で例えば厚みを検出した後、停止したレジストローラ対のニップ部へ搬送されてそこに衝突することによって衝突音が発生する。
本実施形態の用紙搬送装置は、用紙搬送ローラ対101、用紙特性検知部102、用紙加振部103、制御波生成部104、制御フィルタ105、参照信号算出部106、用紙搬送・補正信号検出部107を含む。
【0009】
用紙搬送ローラ対101は、用紙を搬送し、場合によってはさらに用紙の向きを補正し、搬送および(または)補正を行った旨を示す信号を出力する。
用紙搬送・補正信号検出部107は、用紙搬送ローラ対101から信号を受け取り、用紙が用紙搬送ローラ対101に来たことを知らせる検出信号を出力する。
用紙特性検知部102は、用紙の特性を検知しその特性を示す特性信号を出力する。用紙の特性は、例えば用紙の厚さ、用紙のサイズ、用紙の硬さがある。
参照信号算出部106は、検出信号と特性信号とを受け取り、特性信号に応じた参照信号(例えば主パルス)を出力する。参照信号算出部106はまた、検出信号または(および)特性信号を受け取った時刻から、停止したローラ対(図1の左端)に用紙が衝突するまでの時間を計算し、停止したローラ対に用紙が衝突する時に用紙加振部103が用紙搬送ローラ対101を振動させ用紙に制御波を付与するようにしてもよい。この時間を、用紙の搬送速度と、用紙搬送ローラ対101と停止したローラ対との距離とから予め計算して、参照信号算出部106などに予め設定しておいてもよい。このような時間については後に図2Aおよび図2Bを参照して説明する。
【0010】
制御フィルタ105は、制御波の周波数分布を決定する。制御フィルタ105は1以上のフィルタ係数を格納している。制御フィルタ105は参照信号の波形を入力して低域強調された波形を得る。
制御波生成部104は、制御フィルタ105で決定された周波数分布の制御波を生成する。制御波生成部104は特定周波数帯域の波動を生成する。制御波生成部104は、参照信号と制御フィルタ105に格納されているフィルタ係数とを畳み込み演算を行い、制御波を生成する。
用紙加振部103は、停止したローラ対に用紙が衝突する際の衝突音(衝撃音とも呼ぶ)に合わせて、制御波生成部104で生成された制御波を用紙搬送ローラ対101の少なくとも一方に与え、用紙搬送ローラ対101の少なくとも一方を振動させて用紙に制御波を付与する。
【0011】
以上の用紙搬送装置によって、用紙の共振を励起させて衝突音を上記特定帯域音に強調させて音質を改善させることができる。
一般的に、同一空間内に主音源と制御音を設置すると両者位相干渉により、局所的に音圧が増減する位置が存在することから、増音制御は位相利用が一般的である。しかし、制御音が衝撃音の場合は、広帯域で位相が合致した制御波の生成と、制御音の発生タイミングを合わせることは難しく、周期性音源に比べて位相制御による増減効果は難しい。
また、低周波数の音は人間の聴感印象として好ましい印象を受けることが少なくとも発明者によって知られている。したがって、低周波数の音を増加させることは音質改善になる。
【0012】
そこで実施形態では、紙の低次共鳴モードは100Hz以下から発現する特性を利用し、上記制御波を励振源として低音共鳴を発生させることで、制御後の放射音を低音域に改変することを提案する。このとき、衝撃音も同時に発生するが、付与する上記制御波の振幅の方が大きいことから、干渉は生じにくく、衝撃音に制御波による低音放射音が重畳した形で発生する。
【0013】
ただし、この場合、衝撃音は周期音と違い、繰り返し発生しないことから、発生タイミングには注意が必要となる。そこで実施形態では、衝突前に入手可能な搬送信号を参照信号に用いることで衝突のタイミングに合わせた制御波付与方法を提案する。完全に一致しない場合でも、紙放射音の場合は、20msec程度遅れた信号を付与しても、両者はマスキングされて放射音圧は同一に聞こえる。
【0014】
次に、衝突音が発生する時刻と制御波を発生する時刻がどの程度近くなくてはならないかについて図2Aおよび図2Bを参照して説明する。
図2はA4サイズの用紙の上端を固定し、その左右に、主パルス波、バンドパスフィルタを通して発生させた制御パルス波を、時間をずらして付与したときの用紙中央での振動速度(図2A)および正面音圧波形(図2B)である。図2Aでは、黒く示される最初の大きなパルスが主パルス波を示し、その後にこの主パルス波よりも振幅の小さい黒く示される複数のパルスが制御パルス波を示す。
【0015】
ここで主パルス波が衝突音に対応し、制御パルス波が制御波に対応する。主パルス波と制御パルス波とのずれによる合成された音圧波形の分離は、図2Aを参照すると、主パルス波と制御パルス波とのずれが30msecまではそれ程顕著ではなく、50msec以上になると顕著であることがわかる。すなわち図2Aによれば、主パルス波と制御パルス波とのずれが50msec以上になると音圧波形は2つの波形にほとんど分離されていることがわかる。図2Bを参照しても50msec以上になると音圧波形は2つの波形に分離されていることがわかる。
【0016】
このようにレジストローラに用紙が衝突時に発生する衝突音(主パルス波)と、付与された制御波(制御パルス波)との時間遅れが大きいと、音が2重に聞こえることとなり、音質改善の目的が達成できない。図2Aによれば少なくとも20から25msec程度までならば、合成された音圧波形は1つの塊と見なせる。従って、位相を無視した本提案手法でも、低音強調が可能となる。本実施形態では、主パルス波と制御パルス波とのずれが少なくとも20から25msecになるように用紙加振部103が動作するように設定する。または第5の実施形態で説明される衝突時間算出部2302を使用する。
また、図2Aは衝突後に制御波を付与する例であるが、衝突時刻を含む前後のしきい値範囲内であれば制御波を付与してもよい。このしきい値範囲内は、衝突音(主パルス波)と、付与された制御波とが合成された音波波形が1つの塊と見なせる範囲である。
【0017】
次に、図1の用紙搬送装置を想定し実施した基礎実験システムについて図3を参照して説明する。その後、図3の実験システムによって得られた実験結果について図4を参照して説明する。なお、図3の左図はA4サイズの用紙を正面から見た図であり、図3の右図は用紙を側面から見た図である。
この実験システムは、振動アクチエータ301、加振用インパルスハンマ302、バンドパスフィルタ303、PC304を含む。実験システムは、A4サイズの用紙の上端を支持し、この用紙を振動アクチエータ301で挟み、振動アクチエータ301の振動を用紙に伝える。
【0018】
PC304はパルス信号を発生し、バンドパスフィルタ303がこのパルス信号のうちの特定の周波数帯域のパルス信号を通過させる。振動アクチエータ301は、この特定の周波数帯域のパルス信号を受け取り、この周波数帯域に含まれる周波数で振動する。この結果、特定の周波数の振動を用紙に与えることができる。
加振用インパルスハンマ302は、用紙の下端に設置され、用紙を下方から上方へ向けてたたくことにより、用紙に振動を与える。
この実験システムでは、振動アクチエータ301が発生する波が制御波に対応し、加振用インパルスハンマ302が発生する波が衝突音に対応する。
【0019】
図4は、端部加振時の用紙中央正面30cmの音圧レベル(dBA)を制御前の結果とし、制御後は、別途PC上で作成したパルス信号を参照信号に見立て、100Hzから500Hzまでを通過周波数帯域とするバンドパスフィルタに畳み込んで算出した制御波を付与した結果である。図4を参照すると、衝突音による振幅とパルスによる振幅は無関係なため、共鳴強調している低音(100Hz〜150Hz)以外は設計したバンドパスフィルタ帯域であっても制御後は増音してはいないことがわかる。
【0020】
本実施形態の用紙搬送装置は、制御フィルタが低周波数帯域(例えば1kHz)を通過帯域とするバンドパスフィルタ特性を有することで、低周波数の音が増え、低周波数の音は聴感印象として好ましい印象を受ける。
【0021】
人間の聴感特性は図5に示すような特性を有していることがわかっている。図5によれば、人間の聴感特性は低音ほど聞き取りにくい特性になっている。図5は音の大きさ(ラウドネス)に関する人間の感覚を表現したもので等ラウドネス曲線(ISO/R226)と呼ばれている。人間の聴感はハイパスフィルタに近い特性を示す。換言すると、低音を多少増加させても、聴感補正された騒音レベルのオーバーオール値はあまり変化がないことがわかる。従って、本実施形態のように低周波数の音を増やしても、制御波付与後の聴感補正された音圧レベル、すなわち騒音レベルは、制御前後であるしきい値の範囲内で同一である。この結果、1kHz以下に通過帯域をもつバンドパスフィルタを制御フィルタとすることで、聴感印象は低音に改善させながらも騒音レベル自体は変化しない。制御フィルタは、1kHz以下を通過帯域とするバンドパスフィルタ特性を有することで、制御波付与後の聴感補正された音圧レベル、すなわち騒音レベルは、制御前とほぼ同一である。MFPの低騒音化においてはデシベルAの騒音レベルが主体であることから、低音強調による音質改善と騒音低減とを両立することができる。
【0022】
以上の第1の実施形態によれば、用紙の共振を励起させて衝突音を特定帯域である低音で強調させることにより音質を改善することができる。例えば、用紙位置決めの際に、ローラの回転が静止した状態のレジストローラ対へ用紙が衝突して発生する騒音の低域を強調し、落ち着いた印象の音を生成できるようになる。また、用紙を搬送する過程で、湾曲した搬送ローラを通過する際に、ローラ対に用紙先端が衝突する音が発生する衝撃音による騒音の音質を改善することができる。
【0023】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の用紙搬送装置について図6を参照して説明する。第1の実施形態と異なる点は、用紙衝撃力検出部601と出力倍率変更部602を具備した点である。
本実施形態の用紙搬送装置は、第1の実施形態の用紙搬送装置の装置部分に加え、用紙衝撃力検出部601、出力倍率変更部602を含む。
【0024】
用紙衝撃力検出部601は、停止したローラ対に用紙が衝突する際の衝撃力を検出し、衝撃力を示す衝撃信号を出力する。衝撃信号は、例えば衝撃力の大きさに比例した振幅を有する信号である。
出力倍率変更部602は、用紙衝撃力検出部601から入力した衝撃信号が示す衝撃の大きさに応じて、制御波の出力倍率を変更する。すなわち、衝撃が大きいほど制御波の大きさも大きくする。出力倍率は例えば複数種類有り、出力倍率変更部602は衝撃の大きさに応じていずれかの出力倍率を選択する。出力倍率変更部602は、制御フィルタ105で決定される周波数分布を有する制御波の振幅を変更する。出力倍率変更部602は例えば、制御フィルタ出力倍率を予め数段階用意し、切り替える。
【0025】
用紙搬送・補正信号検出部107や用紙特性検知部102は前述のとおり用紙衝突前に信号を検出できることから、時間タイミングに関しては、この信号は衝撃と関連の深い信号となる。しかし、これらは加速度センサ信号でないことから、衝撃力の強さとは関連は薄く、これらを参照信号として生成された制御波も、衝撃力に応じた出力信号にはなっていない。
【0026】
大きな衝撃音が発生した場合は大きな低音強調の制御波、小さな衝撃音の場合は小さな低音強調の制御波である方が望ましい。そこで本実施形態では、用紙衝突部の近くに振動センサなどの用紙衝撃力検出部601を設置することで衝撃力をモニタし、出力倍率変更部602では、閾値を決めてその衝撃力の大きさに応じて、制御波の振幅倍率を変更する仕組みを提案する。
【0027】
次に、第1の実施形態で参照した実験システムを使用して得られた実験結果について図7を参照して説明する。
図7は、用紙衝撃力検出部601で検出した衝撃力に応じて出力倍率変更部602が制御波の出力倍率を2.5倍にした場合での実験結果を示す。一方、図4は出力倍率が1倍の場合での実験結果である。図7の「倍率2.5倍」が制御後の音波の周波数分布を示す。図7の制御後の音波は図4の制御後の音波に比較して増音されていることがわかる。結果として、図7の音波は図4の音波よりも増音帯域が拡張している。衝撃力に比例して振幅倍率を増加させていくと、図7のように増音帯域が拡張する。
【0028】
以上の第2の実施形態によれば、第1の実施形態の効果に加えて、発生する衝撃音に応じて制御波の大きさを調整することによって、より適切に音質を改善することができる。
【0029】
(第3の実施形態)
第3の実施形態の用紙搬送装置について図8を参照して説明する。第2の実施形態と異なる点は、出力倍率変更部602を設置せず、用紙衝撃力検出部601の出力信号を参照信号算出部801に出力して制御フィルタ802が衝撃力を考慮した制御波の周波数分布を決定する点である。
本実施形態の用紙搬送装置は、第2の実施形態の用紙搬送装置から出力倍率変更部602を取り去り、参照信号算出部106および参照信号算出部106をそれぞれ参照信号算出部801および制御フィルタ802に置き換えたものである。
【0030】
参照信号算出部801は、検出信号と特性信号と衝撃信号を受け取り(この場合、参照信号は検出信号、特性信号、衝撃信号)、特性信号および衝撃信号に応じた参照信号(例えば主パルス)を出力する。参照信号算出部801は、衝撃信号をそのまま受け取り(すなわち、衝撃力の周波数分布を受け取る)、制御フィルタ802にこの周波数分布情報を含んだ信号を出力する。
制御フィルタ802は、参照信号算出部801から受け取った周波数分布を有する制御波を生成するようにフィルタを設定する。
【0031】
第2の実施形態では複数の出力倍率のうちの、衝撃力の大きさに最も近い出力倍率を選択する。一方、第3の実施形態では衝撃力の周波数分布をそのまま制御フィルタに利用するので、第2の実施形態よりも受けた衝撃力により近い周波数分布を有する制御波を生成することができる。
【0032】
なお、参照信号算出部801は、衝撃信号のみを参照信号に利用してもよい。また、衝突前に検出可能な検出信号や特性信号の特徴をもとに、用紙衝撃力検出部601からの信号を加工したものを参照信号としてもよい。例えば、衝撃力と用紙特性との関係から、紙の種類によって明らかに衝突時には低音強調帯域とは異なった高次の振動が重畳することがわかっていれば、これはノイズとみなせる。このノイズを参照信号から排除することで、SNを向上させることが可能となる。
【0033】
次に、図8の用紙搬送装置を想定し実施した基礎実験システムについて図9を参照して説明する。その後、図9の実験システムによって得られた実験結果について図10、図11、図12を参照して説明する。
図9の実験システムは、加振用インパルスハンマ302にフォースセンサ901と取り付け、フォースセンサ901が検出した加振用インパルスハンマ302の衝撃力をそのままバンドパスフィルタ303にパルスとして入力することが、図3の実験システムとは異なる。図9のシステムでのこの他の点は図3のシステムと同様である。
【0034】
図10は通過周波数帯域が100Hzから500Hzまでとした場合であり、図4と同様な通過周波数帯域である。図4に比較して図10ではより低音強調されていることがわかる。図10では約100Hzから約200Hzまでは制御後にかなり強調されていることがわかる。
図11は通過周波数帯域を100Hzから300Hzにした場合、図12は通過周波数帯域を200Hzから800Hzにした場合についての実験結果を示す。通過周波数帯域の変更によりねらった帯域が強調されていることがわかる。
【0035】
以上の第3の実施形態によれば、発生する衝撃力の周波数分布を含む衝撃信号をそのまま参照信号として利用することによって、第2の実施形態での場合よりもより適切に音質を改善することができる。
【0036】
(第4の実施形態)
第4の実施形態の用紙搬送装置は、第1から第3の実施形態の用紙搬送装置の制御フィルタを最適化したものである。ここでは、どのように制御フィルタを最適化するか、どの程度効果があるかについて図13から図20を参照して説明する。
【0037】
本実施形態の用紙搬送装置は、制御フィルタに、数式(1)に示す、空間同定可能な2つの空間伝達関数と1つの定数nによって算出された、外力に対する制御力の関係である制御則を用いる。この数式(1)を使用して制御力fSを用紙加振部103が用紙搬送ローラ対101の少なくとも一方に与えることで、制御後の放射音圧を制御前よりもn倍、すなわち、20log(n)dBに増音することができる。
【数1】
【0038】
ここで、Fpは外力から用紙正面増音点の音圧までの空間伝達関数であり、Fsは制御力から用紙正面増音点の音圧までの空間伝達関数であり、nは増音点の増音倍率であり、fPは外力であり、fSは制御力である。
【0039】
以下数式(1)の導出過程について説明する。
図13に示す平板において任意の1点に外力が作用し、その結果、振動放射音が発生しているとする。この平板は周辺単純支持とした場合、平板の変位は数式(2)、固有関数は数式(3)、固有角周波数は数式(4)となる。
【数2】
【0040】
【数3】
【0041】
【数4】
【0042】
ここで、Dは曲げ剛性、ρは用紙の密度、hは板厚である。m、nは0以上の自然数である。またD=Eh3/12(1−v2)であり、Eは縦弾性係数、vはポアソン比である。
【0043】
このときの用紙を微小面積Δsiで分割した場合の要素iから放射される正面音圧piは数式(5)となる。ここでriは要素iから正面音圧位置までの距離を示す。また、qiは要素iの体積速度を示す。
【数5】
【0044】
【数6】
【0045】
ここで、制御力を付与することで、振動放射音を制御することを考える。
改めて、用紙上をN個に分割し、外力と制御力が同時に用紙に付与されている場合、i番目の要素(xi、yi)における振動速度をuiとし、外力fPと上記要素の変位によるコンプライアンス(=変位/力)をZPi,制御力と上記要素の変位によるコンプライアンス(=変位/力)をZSiとすると、数式(7)、(8)となる。
【数7】
【0046】
【数8】
【0047】
また、i番目の要素(xi、yi)からri離れた位置に伝わる、面積Siの要素からの音圧Piは、式を簡略化するためにαiと置きなおして記述すると数式(9)となる。
【数9】
【0048】
ここで、
【数10】
【0049】
従って、用紙全体からの音圧Pは、N個の要素すべてから合成音圧となることから、数式(11)となる。
【数11】
【0050】
ここで、さらに式を簡略化するために、下記、A,Bで置き直した。
【数12】
【0051】
また、外力だけが付与されている制御前の用紙放射音は数式(13)となる。
【数13】
【0052】
さて、ここで、本提案では、制御後に音圧を増加させることを目的とすることから、制御後の音圧Pが制御前の音圧P0のn倍になるような制御則を求めると、次式となる。
【数14】
【0053】
つまり、音圧エネルギーに相当するUを目的関数として、これを最小化すればよい。
【数15】
【0054】
【数16】
【0055】
ただし*は複素共役を表す。
【0056】
さらに、外力および制御力を実部と虚部で表現すると、
【数17】
【0057】
従って、数式(18)となり、
【数18】
【0058】
よって、数式(19)を満たすようにfSを求める。
【数19】
【0059】
そこで、目的関数を実部、虚部で偏微分すると、
【数20】
【0060】
よって、それぞれ、数式(21)となる。
【数21】
【0061】
従って、外力に対する制御力の関係である制御則が求まり、増音倍率nの関数になっていることがわかる。
【数22】
【0062】
よって、制御則は数式(23)となる。
【数23】
【0063】
ここで、
【数24】
【0064】
従って、i番目の要素からX離れた位置(ri以外)における、i要素が与える音圧Pi(x)は、数式(25)となり、
【数25】
【0065】
従って、用紙全体では数式(26)となる。
【数26】
【0066】
一方、制御前のi要素が与える音圧P0i(x)は数式(27)となり、
【数27】
【0067】
用紙全体では数式(28)となる。
【数28】
【0068】
従って、制御前後のX位置における音圧レベル増音量(dB)は数式(29)となる。
【数29】
【0069】
確認として、X位置とri位置が同一の場合は、数式(30)より数式(31)となり、n倍増音の目的に合致し、2倍であれば6dB増加、3倍では9.4dB増加する。
【数30】
【0070】
【数31】
【0071】
以上により、正面放射音圧をn倍にする制御則(数式(32))が求まる。
【数32】
【0072】
ここで、構成要素Zは各力から要素iの振動速度であるが、用紙振動速度を微小要素ごとに同定することは多大な時間を要する。従って、Zから上記fsとfpの伝達関数を算出することは難しい。しかし、Σαi・ZPiおよびΣαi・ZSiは、外力から増音したい位置での音圧までの特性に相当することから、各々作用させる点からの空間伝達関数を実測することで、その比率に(n−1)をかけたものが、制御則に相当する。
これにより、用紙の伝達モデルが未知であっても、制御則が実測同定値を用いて推定できるようになる。
【0073】
図14に示すA4サイズのケント紙を想定し、数式(33)の特性を入れて、周囲単純支持条件下における数値計算を実施した。
【数33】
【0074】
外力に対する制御力を最適制御則(正面音圧n倍)とした場合の用紙正面30cmの音圧レベル制御効果を図15、図16に示す。
図15では100Hzから300Hzの帯域を制御則(n=3)にしたとき、図16は100Hzから300Hzの帯域を制御則(n=10)にした場合の結果である。図15および図16を参照すると、狙った帯域だけ20log(n)で増音していることがわかる。
【0075】
また、このときの図15に示す共振周波数150Hzにおける変位分布を図17に示す。制御後は共鳴強調されて全体に変位が増大していることがわかる。
【0076】
次に、制御則の効果を比較により示す。
図18に示す例では、外力と制御力を用紙正面音圧に対して非対称位置になるように制御力の位置をずらす。このとき、図19には制御力を外力の3倍にした場合、図20には数式(1)に示した最適制御則(正面30cm音圧3倍)にて算出した制御力を与えた場合の結果を示す。制御則を使用した場合の方が、オーバーオール値に寄与する共鳴周波数で確実に増音している(図20の山部分の頂点付近、すなわち上に凸な部分の頂点付近)。逆に、オーバーオール値に寄与しない周波数(図20の谷部分の最下点付近、すなわち下に凸な部分の最下点付近)では変化しない結果となり、音圧増音n倍の目的関数をもった制御則の方がよりロバストであることがわかる。
【0077】
以上の第4の実施形態によれば、数式(1)に示す制御則を使用して制御力を用紙搬送ローラ対101に与えることにより、第1から第3の実施形態での場合よりもより適切に音質を改善することができる。
【0078】
以下の実施形態では、今までの実施形態よりもより具体的に説明する。
(具体例)
実施形態の用紙搬送装置を含む画像形成装置について図21を参照して説明する。実施形態に係る用紙搬送装置は、例えば電子写真装置などの画像形成装置の装置本体に設けられる。
【0079】
筐体1の下部には、カセット装置2と、このカセット装置2の上方に設けられたカセット装置3とが設けられている。カセット装置3には、被画像形成媒体である用紙4が収容されており、カセット装置2、3の各一側部には、用紙4を取り出すための各一個のピックアップローラ5が設けられている。
【0080】
筐体1内には、カセット装置2から、カセット装置3、レジストローラ対6および2次転写部7を通って上方に延びる用紙4の搬送路8が形成される。この搬送路8の下部には、カセット装置3に収容された用紙4を一枚ずつ分離して引き上げる給紙ローラ対9と、分離された一枚の用紙4を挟んで搬送する一対の搬送ローラ10とが設けられている。更に、筐体1の下部には、装置本体の内部へ供給される用紙4を手差しで載置することが可能な手差しトレイ11が設けられている。この手差しトレイ11に用紙4が載置された場合、用紙4は手差し給紙ローラ12によって取り出されて搬送路8側に搬送される。
【0081】
カセット装置3用の給紙ローラ対9の上方の搬送路8には、カセット装置2、3および手差しトレイ11からの用紙4を挟んで搬送する中間搬送ローラ対13が設けられている。中間搬送ローラ対13の上方の搬送路8に設けられたレジストローラ対6は、用紙4の位置および向きを調節するために用紙4を一旦停止させて、2次転写部7に対して用紙4を搬送する。中間搬送ローラ対13の上方かつレジストローラ対6の下方には、所定の曲率を有する湾曲がそれぞれに形成された搬送ガイド14、15が設けられている。
【0082】
筐体1の中央部には、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色のトナー画像を、無端状の転写ベルト19に転写形成する画像形成ユニット20、21、22、23が、並列配置されている。4つの現像ローラ30によって転写ベルト19上にトナー画像が形成される。転写ベルト19は、4対のドライブローラ24を駆動するモータによって反時計方向に回転走行する。2次転写ローラ対25は、レジストローラ対6から送り込まれる用紙4を転写ベルト19との間に挟み込みながら、この転写ベルト19に転写されているカラートナー像を用紙4に転写させる。搬送路8において、2次転写ローラ対25よりも用紙搬送方向の下流側の位置には、転写されたトナー像を用紙4に定着させる定着部26が設けられている。用紙4上に転写された画像は、定着部26において加熱および加圧されて、排紙ローラ対27によって排紙部28へ搬送される。搬送路8の終端から筐体1の一側面部に沿って、用紙4の表裏を反転させて搬送するための4対の搬送ローラ対29が設けられている。搬送路8の終端に達した用紙4が、これらの搬送ローラ対29を通ってレジストローラ対6の上流側へ向かって戻されることによって、用紙4の裏面にも転写ベルト19上のトナー像が転写される。
【0083】
このような構成の本実施形態に係る用紙搬送装置を含む画像形成装置において、図示しない駆動制御部は、レジストローラ対6を停止した状態で、中間搬送ローラ対13により用紙4を所定量だけ搬送するように、これらのレジストローラ対6の駆動ローラと、中間搬送ローラ対13の駆動ローラとの各回転速度を制御する。搬送ガイド14は、中間搬送ローラ対13から排出される用紙4の排出方向先端部を湾曲面上に摺接させることによって用紙4をたわませる。そして中間搬送ローラ対13から排出される用紙4の排出方向先端部がレジストローラ対6のニップ部に突き当たった状態、かつこの用紙4が少したわんだ状態になるまでの間、駆動制御部は搬送を継続し、その後、搬送動作を停止させる。従って、用紙4の姿勢が整位されて、用紙4の傾きが補正される。これにより、用紙4の先端部の位置決めが行われる。
【0084】
次に、図21の画像形成装置に含まれる用紙搬送装置について図22を参照して説明する。
図22の用紙搬送装置は、図21の右下部分にあり、給紙ローラ対9、中間搬送ローラ対13、レジストローラ対6、紙厚検知部2201、衝撃力検知部2202を含む。
給紙ローラ対9は、カセット装置に収容された用紙を一枚ずつ分離して引き上げる。
中間搬送ローラ対13は、給紙ローラ対9の上方の搬送路に設けられ、給紙ローラ対9によって導かれた用紙を挟んで搬送する。中間搬送ローラ対13は、図1等では用紙搬送ローラ対101に対応する。
レジストローラ対6は、用紙の位置および向きを調節するために用紙を一旦停止させて、次の部位に用紙を搬送する。
紙厚検知部2201は、用紙の紙厚を検出し、用紙の紙厚を示す信号を出力する。
衝撃力検知部2202は、停止したレジストローラ対6に用紙が衝突する際の衝撃力を検出し、衝撃力を示す信号を出力する。この信号は、例えば衝撃力の大きさに比例した振幅を有する信号である。
【0085】
(第5の実施形態)
第5の実施形態の用紙搬送装置について図23を参照して説明する。本実施形態は第1の実施形態をより具体化したものである。第1の実施形態の装置部分に加え衝突時間算出部2302を新たに含み、用紙特性検知部102の具体化の一例としての紙厚検出部2301を含む。ここで、用紙は、用紙搬送ローラ対101(中間搬送ローラ対)から、紙厚検出部2301で厚みを検出した後、停止したレジストローラ対6のニップ部へ搬送されて衝突することによって衝突音が発生する。図24は、用紙がレジストローラ対6のニップ部へ衝突する瞬間を示している。
【0086】
紙厚検出部2301は、用紙の紙厚を検出し、例えばMRセンサ、光センサなどが用いられる。紙厚検出部2301は紙厚に応じた参照信号を参照信号算出部106に出力する。
【0087】
衝突時間算出部2302は、制御波生成の時間遅れを考慮して制御波付与時刻をより正確に求めるためのものであり、検出された紙厚と紙通過タイミングより、用紙がレジストローラに衝突する時間を算出する。用紙が紙厚検出部2301を通過する時刻をt、搬送速度をv、紙厚検出部2301とレジストローラニップとの間の距離をL、紙厚をh、レジストローラ直径をrとすると、用紙がレジストローラニップに衝突する時刻Tは、以下で表される。
【数34】
【0088】
例えば、レジストローラ直径20[mm]、搬送速度100[mm/s]のとき、紙厚0.04[mm]の用紙と紙厚0.3[mm]の用紙では、15.5[msec]の衝突時間差が発生する。
【0089】
紙厚による衝突時間の差を計算することで、制御波の付与タイミング遅延を小さくし、確実に用紙衝突音の低域を強調する用紙搬送装置を提供することができる。なお、紙厚の検知と、紙通過のタイミングは、それぞれ別のセンサによって検出されてもよい。
【0090】
計算された衝突時間に合わせ、用紙加振部103が制御波を付与する。生成された制御波に基づいてモータ駆動回路が制御波付与ローラを駆動し、用紙に低域強調された制御波を付与する。なお、用紙加振部103は、モータ駆動されるローラの他に、加振器付き追加ローラやフィルムでもよく、スピーカやエアによる非接触の加振器でもよい。
【0091】
制御波付与前の衝突音と制御波付与後の衝突音の周波数分析結果は、例えば図5や図9のようになる。これらの図からわかるように、制御波付与により衝突音の低域が強調された音となっている。
【0092】
以上の第5の実施形態によれば、用紙がレジストローラ対に衝突する衝突時間を計算して、衝突音と制御波との発生時間のずれを所定値以下に抑えることにより、確実に用紙衝突音の低域を強調して音質を改善することができる。
【0093】
(第6の実施形態)
第6の実施形態の用紙搬送装置について図25を参照して説明する。本実施形態も第1の実施形態をより具体化したものである。第1の実施形態の装置部分に加え衝突時間算出部2302を新たに含み、用紙特性検知部102の具体化の一例として紙厚検出部2301を含み、制御フィルタ105の具体化の一例として制御フィルタ選択部2501を含む。
【0094】
制御フィルタ選択部2501は、あらかじめ用紙の固有振動数に応じた制御信号と用紙厚さとを対応付けたテーブルを保持して、参照信号算出部106から出力される参照信号によって用紙厚さを推定しテーブルを参照して対応する制御信号を出力する。すなわち、紙厚検知部で検出された紙厚より用紙種類を判別し、制御波選択部で用紙に応じた制御波を選択する。制御波生成部104は選択された制御波を生成し、用紙加振部103は紙厚より算出された衝突時間に合わせて、制御波を付与する。これによって用紙の固有振動数に最適な制御信号を生成することができる。
【0095】
なお、紙厚検出部2301が参照信号の大きさを紙厚に比例して出力する場合には、制御フィルタ選択部2501は、参照信号の大きさによって紙厚を推定できるので、参照信号の大きさによって制御信号を判定すればよい。
【0096】
以上の第6の実施形態によれば、用紙の共振を的確に励起させて衝突音を特定帯域である低音に強調させることにより音質を改善することができる。
【0097】
以上説明した実施形態の用紙搬送装置によれば、用紙に低音域の制御波を付与することで、騒音レベルのオーバーオール値を増加させずに、衝突音を低音強調させて、衝突時に用紙種類や突入角などの違いでばらつく音質を、搬送速度を低下させずに改善することができる。
【0098】
また、上述の実施形態の中で示した処理手順に示された指示は、ソフトウェアであるプログラムに基づいて実行されることが可能である。汎用の計算機システムが、このプログラムを予め記憶しておき、このプログラムを読み込むことにより、上述した実施形態の用紙搬送装置による効果と同様な効果を得ることも可能である。上述の実施形態で記述された指示は、コンピュータに実行させることのできるプログラムとして、磁気ディスク(フレキシブルディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD±R、DVD±RWなど)、半導体メモリ、またはこれに類する記録媒体に記録される。コンピュータまたは組み込みシステムが読み取り可能な記録媒体であれば、その記憶形式は何れの形態であってもよい。コンピュータは、この記録媒体からプログラムを読み込み、このプログラムに基づいてプログラムに記述されている指示をCPUで実行させれば、上述した実施形態の用紙搬送装置と同様な動作を実現することができる。もちろん、コンピュータがプログラムを取得する場合または読み込む場合はネットワークを通じて取得または読み込んでもよい。
また、記録媒体からコンピュータや組み込みシステムにインストールされたプログラムの指示に基づきコンピュータ上で稼働しているOS(オペレーティングシステム)や、データベース管理ソフト、ネットワーク等のMW(ミドルウェア)等が本実施形態を実現するための各処理の一部を実行してもよい。
さらに、本願発明における記録媒体は、コンピュータあるいは組み込みシステムと独立した媒体に限らず、LANやインターネット等により伝達されたプログラムをダウンロードして記憶または一時記憶した記録媒体も含まれる。
また、記録媒体は1つに限られず、複数の媒体から本実施形態における処理が実行される場合も、本発明における記録媒体に含まれ、媒体の構成は何れの構成であってもよい。
【0099】
なお、本願発明におけるコンピュータまたは組み込みシステムは、記録媒体に記憶されたプログラムに基づき、本実施形態における各処理を実行するためのものであって、パソコン、マイコン等の1つからなる装置、複数の装置がネットワーク接続されたシステム等の何れの構成であってもよい。
また、本願発明の実施形態におけるコンピュータとは、パソコンに限らず、情報処理機器に含まれる演算処理装置、マイコン等も含み、プログラムによって本発明の実施形態における機能を実現することが可能な機器、装置を総称している。
【0100】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
1…筐体、2…カセット装置、3…カセット装置、4…用紙、5…ピックアップローラ、6…レジストローラ対、7…2次転写部、8…搬送路、9…給紙ローラ対、10…搬送ローラ、11…手差しトレイ、12…給紙ローラ、13…中間搬送ローラ対、14、15…搬送ガイド、19…転写ベルト、20、21、22、23…画像形成ユニット、24…ドライブローラ、25…2次転写ローラ対、26…定着部、27…排紙ローラ対、28…排紙部、29…搬送ローラ対、30…現像ローラ、101…用紙搬送ローラ対、102…用紙特性検知部、103…用紙加振部、104…制御波生成部、105…制御フィルタ、106…参照信号算出部、107…用紙搬送・補正信号検出部、301…振動アクチエータ、302…加振用インパルスハンマ、303…バンドパスフィルタ、601…用紙衝撃力検出部、602…出力倍率変更部、801…参照信号算出部、802…制御フィルタ、901…フォースセンサ、2201…紙厚検知部、2202…衝撃力検知部、2301…紙厚検出部、2302…衝突時間算出部、2501…制御フィルタ選択部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
用紙を搬送する第1ローラ対と、
前記用紙の特性を検知し、該特性を示す特性信号を出力する特性検知部と、
前記用紙が前記第1ローラ対に到達したことを検出し、検出した旨を示す検出信号を出力する第1検出部と、
前記特性信号に応じた参照信号を算出する算出部と、
前記参照信号に応じて前記用紙が第2ローラ対に衝突するときに用紙に付与する制御波の周波数分布を決定する制御フィルタと、
前記制御波を生成する生成部と、
前記特性信号および前記検出信号の少なくともいずれか1つにより定まる時刻であって前記用紙が第2ローラ対に衝突する時刻と、前記用紙に前記制御波を付与する時刻との差がしきい値以内であるように、前記用紙に前記制御波を付与する加振部と、を具備することを特徴とする用紙搬送装置。
【請求項2】
前記用紙が第2ローラ対に衝突した際の衝撃力の大きさを示す衝撃信号を検出する第2検出部と、
前記衝撃信号に応じて前記制御波の出力倍率を変更する変更部と、をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の用紙搬送装置。
【請求項3】
前記用紙が第2ローラ対に衝突した際の衝撃力の大きさを示す衝撃信号を検出する第2検出部をさらに具備し、
前記算出部は前記特性信号および前記衝撃信号に応じた参照信号を算出し、
前記制御フィルタは前記参照信号の周波数分布を有する制御波の周波数分布に決定することを特徴とする請求項1に記載の用紙搬送装置。
【請求項4】
前記制御フィルタは、制御波付与前後の音圧レベルの差がしきい値以内であるようなバンドパスフィルタ特性を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の用紙搬送装置。
【請求項5】
前記制御フィルタは、前記衝撃信号が示す外力fpに応じて、前記加振部が制御波を付与する際の制御力fsを、Fpを外力から用紙正面増音点の音圧までの空間伝達関数、Fsを制御力から用紙正面増音点の音圧までの空間伝達関数、およびnを増音点の増音倍率として、下記の数式(1)
【数1】
に基づいて決定することを特徴とする請求項3に記載の用紙搬送装置。
【請求項6】
前記特性は用紙の厚みであり、
前記厚みに基づいて、前記用紙の先端が前記第2ローラ対に衝突する時刻を計算する計算部をさらに具備し、
前記加振部は、前記時刻と前記用紙に前記制御波を付与する時刻との差がしきい値以内であるように、前記用紙に前記制御波を付与することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の用紙搬送装置。
【請求項7】
前記特性は用紙の厚みであり、
前記厚みに応じて前記制御波の出力倍率を変更する変更部と、
前記厚みに基づいて、前記用紙の先端が前記第2ローラ対に衝突する時刻を計算する計算部と、をさらに具備し、
前記加振部は、前記時刻と前記用紙に前記制御波を付与する時刻との差がしきい値以内であるように、前記用紙に前記制御波を付与することを特徴とする請求項1に記載の用紙搬送装置。
【請求項1】
用紙を搬送する第1ローラ対と、
前記用紙の特性を検知し、該特性を示す特性信号を出力する特性検知部と、
前記用紙が前記第1ローラ対に到達したことを検出し、検出した旨を示す検出信号を出力する第1検出部と、
前記特性信号に応じた参照信号を算出する算出部と、
前記参照信号に応じて前記用紙が第2ローラ対に衝突するときに用紙に付与する制御波の周波数分布を決定する制御フィルタと、
前記制御波を生成する生成部と、
前記特性信号および前記検出信号の少なくともいずれか1つにより定まる時刻であって前記用紙が第2ローラ対に衝突する時刻と、前記用紙に前記制御波を付与する時刻との差がしきい値以内であるように、前記用紙に前記制御波を付与する加振部と、を具備することを特徴とする用紙搬送装置。
【請求項2】
前記用紙が第2ローラ対に衝突した際の衝撃力の大きさを示す衝撃信号を検出する第2検出部と、
前記衝撃信号に応じて前記制御波の出力倍率を変更する変更部と、をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の用紙搬送装置。
【請求項3】
前記用紙が第2ローラ対に衝突した際の衝撃力の大きさを示す衝撃信号を検出する第2検出部をさらに具備し、
前記算出部は前記特性信号および前記衝撃信号に応じた参照信号を算出し、
前記制御フィルタは前記参照信号の周波数分布を有する制御波の周波数分布に決定することを特徴とする請求項1に記載の用紙搬送装置。
【請求項4】
前記制御フィルタは、制御波付与前後の音圧レベルの差がしきい値以内であるようなバンドパスフィルタ特性を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の用紙搬送装置。
【請求項5】
前記制御フィルタは、前記衝撃信号が示す外力fpに応じて、前記加振部が制御波を付与する際の制御力fsを、Fpを外力から用紙正面増音点の音圧までの空間伝達関数、Fsを制御力から用紙正面増音点の音圧までの空間伝達関数、およびnを増音点の増音倍率として、下記の数式(1)
【数1】
に基づいて決定することを特徴とする請求項3に記載の用紙搬送装置。
【請求項6】
前記特性は用紙の厚みであり、
前記厚みに基づいて、前記用紙の先端が前記第2ローラ対に衝突する時刻を計算する計算部をさらに具備し、
前記加振部は、前記時刻と前記用紙に前記制御波を付与する時刻との差がしきい値以内であるように、前記用紙に前記制御波を付与することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の用紙搬送装置。
【請求項7】
前記特性は用紙の厚みであり、
前記厚みに応じて前記制御波の出力倍率を変更する変更部と、
前記厚みに基づいて、前記用紙の先端が前記第2ローラ対に衝突する時刻を計算する計算部と、をさらに具備し、
前記加振部は、前記時刻と前記用紙に前記制御波を付与する時刻との差がしきい値以内であるように、前記用紙に前記制御波を付与することを特徴とする請求項1に記載の用紙搬送装置。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2012−25533(P2012−25533A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165297(P2010−165297)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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