説明

甲殻類の飼育方法及びその方法により飼育された甲殻類

【課題】飼育容器内を良好な環境状態に保持し、飼育管理が効率的であり、飼育容器内において甲殻類を個体別に飼育する甲殻類の飼育方法を提供する。
【解決手段】甲殻類を水槽内に配設されたメッシュ状の飼育容器内に個別に収容し、該飼育容器には新鮮な飼育水がよどみなく注水されると共に通気がまんべんなく到達するようになし、該飼育容器内の甲殻類の観察、取り上げ、給餌等の飼育管理が容易であり、該飼育容器は水槽に対し着脱自在であり、容器サイズ又はメッシュサイズの異なる他の飼育容器と交換することができ、該飼育容器は水槽内に該水槽の底面から上方に離れた状態で配設され、該飼育容器の外部へ通過した排泄物と残餌とは、一定方向の水流により水槽の底面付近を移動して水槽の排出口に運ばれ、水槽の外部へ排出されるようにしたことを特徴とする甲殻類の飼育方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甲殻類の飼育方法及びその方法により飼育された甲殻類に関するものであり、更に詳しくは、飼育容器内を良好な環境状態に保持し、飼育管理が効率的であり、飼育容器内において甲殻類を個体別に飼育する甲殻類の飼育方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
甲殻類は産業上重要な種類であり、試験研究的、学習教材的なものから産業的なものまで数多くの増養殖事業が実施されてきた。しかしながら、甲殻類を飼育する場合において、共食い、闘争等の個体間関係、病気の感染等は飼育生残率を低下させる大きな原因であった。さらに、生残率の低下ばかりではなく、体の一部の損傷による商品価値の低減も大きな問題であった。さらには、近年はトレーサビリティーの実践等、飼育対象生物の履歴の把握が必要となっている。これらのことは、甲殻類を個別に管理の行き届いた飼育をすることにより解決するものと考えられる。
【0003】
そこで、飼育対象の甲殻類の生残率を向上させることを目的に個体間の干渉をなくすため、個体別に飼育する方法が開発されてきた。しかしながら、それら従来の方法においては、固定された飼育容器を使用し、観察・取り上げ・給餌等の飼育管理が容易ではないなど非効率であり、或いは他の飼育容器内を通過した飼育水が供給されるなど各飼育容器内に新鮮な飼育水が供給されず、通気も各飼育容器にまんべんなく到達するようにはなっていないなどの良好な飼育環境状態が保持されていなかった。飼育管理が容易で、飼育容器内を良好な環境状態に保持し、甲殻類を個体別に飼育する方法に関する特許文献はなく、その開発が必要となっている。
【0004】
さらには、多数の甲殻類について個別に管理の行き届いた飼育をするためには、飼育に必要なスペースが大幅に増大するという大きな課題があり、飼育スペースを圧縮したコンパクトな飼育方法の開発も必要となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
甲殻類を飼育する場合において、共食い等の個体間関係、病気の感染等は飼育生残率を低下させる大きな原因であり、体の損傷による商品価値の低減も大きな問題であった。さらには、近年はトレーサビリティーの実践等、飼育対象生物の履歴の把握が必要となっている。これらのことは、甲殻類について個別に管理の行き届いた飼育をすることにより解決するものと考えられるが、従来の方法では、飼育管理が非効率であり、良好な飼育環境状態が保持されていなかった。
【0006】
本発明は、これらの問題を解決するために、飼育容器内を良好な環境状態に保持し、飼育管理が効率的であり、飼育容器内において甲殻類を個体別に飼育する甲殻類の飼育方法を提供すると共に、このような方法で飼育された甲殻類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者は、鋭意努力した結果、下記の如き甲殻類の飼育方法及びその方法により飼育された甲殻類を提供する。
【0008】
(1)甲殻類を水槽内に配設されたメッシュ状の飼育容器内に個別に収容し、
該飼育容器には新鮮な飼育水がよどみなく注水されると共に通気がまんべんなく到達するようになし、
該飼育容器内の甲殻類の観察、取り上げ、給餌等の飼育管理が容易であり、
該飼育容器は水槽に対し着脱自在であり、容器サイズ又はメッシュサイズの異なる他の飼育容器と交換することができ、
該飼育容器は水槽内に該水槽の底面から上方に離れた状態で配設され、該飼育容器の外部へ通過した排泄物と残餌とは、一定方向の水流により水槽の底面付近を移動して水槽の排出口に運ばれ、水槽の外部へ排出されるようにしたことを特徴とする甲殻類の飼育方法(請求項1)。
【0009】
(2)前記水槽内に一定方向の水流が巡環している飼育環境を有する甲殻類の飼育方法(請求項2)。
【0010】
(3)排水を浄化清浄することにより再び飼育水として使用し、前記水槽内の飼育水を利用して強制的に水流をつくることが可能な循環的な飼育環境を有する甲殻類の飼育方法(請求項3)。
【0011】
(4)保持体内に引出し状の複数の飼育容器をそれぞれ挿脱自在に保持させ、該飼育容器は保持体内にて上下方向又は水平方向に配設し、各飼育容器内に甲殻類を個別に収容し、各甲殻類を個別に管理の行き届いた状態で飼育することを特徴とする甲殻類の飼育方法(請求項4)。
【0012】
(5)前記各飼育容器内に飼育水が注水され、各飼育容器内の飼育水が飼育容器外へ排水される飼育環境を有する甲殻類の飼育方法(請求項5)。
【0013】
(6)前記甲殻類は集団飼育では著しく生残率が低い種類又は実験的にもしくは商品的に個別飼育が必要な種類である(請求項6)。
【0014】
(7)前記甲殻類はアカザエビである(請求項7)。
【0015】
(8)前記甲殻類が若齢期にあるときは請求項1〜3のいずれかに記載の甲殻類の飼育方法を用い、前記甲殻類が成体期にあるときは請求項4又は5に記載の甲殻類の飼育方法を用いる(請求項8)。
【0016】
(9)前記飼育水は海洋深層水である(請求項9)。
【0017】
(10)前記いずれかに記載の方法により飼育された甲殻類(請求項10)。
【発明の効果】
【0018】
[請求項1の発明]
飼育容器内を良好な環境状態に保持し、飼育管理が効率的であり、飼育容器内において甲殻類を個体別に飼育する甲殻類の飼育方法の提供が可能となる。該飼育方法は、試験研究的、学習教材的なもののみならず、産業的な増養殖事業においても使用することができる。さらに、飼育対象の甲殻類の生残、成長が向上し、飼育管理が効率的であるため、効率的な増養殖事業が可能となるという実用性に優れた効果を有するものである。さらに、個体別の飼育であるため、飼育対象甲殻類の履歴の把握が容易となり、トレーサビリティーの実践が可能となる。
【0019】
[請求項2の発明]
水槽内に一定方向の水流が巡環している飼育環境を有するため、飼育容器内は一層良好な環境状態に保持される。
【0020】
[請求項3の発明]
排水を浄化清浄することにより再び飼育水として使用し、水槽内の飼育水を利用して強制的に水流をつくることが可能な循環的な飼育環境を有するため、飼育容器内はさらに良好な環境状態に保持され、飼育水を効率的、省力的に利用することができる。
【0021】
[請求項4の発明]
保持体内に引出し状の複数の飼育容器をそれぞれ挿脱自在に保持させ、該飼育容器は保持体内にて上下方向又は水平方向に配設しているため、飼育スペースが圧縮され、コンパクトになると共に、管理の行き届いた飼育が可能となる。限られた面積においても、特に飼育容器を積み上げることにより飼育収容量を増加させることが可能である。
【0022】
[請求項5の発明]
各飼育容器内に飼育水が注水され、各飼育容器内の飼育水が飼育容器外へ排水される飼育環境を有するため、飼育容器内は良好な環境状態に保持される。
【0023】
[請求項6の発明]
甲殻類の飼育方法は、集団飼育では著しく生残率が低い甲殻類又は実験的にもしくは商品的に個別飼育が必要な甲殻類の場合に、特に好ましく用いられる。
【0024】
[請求項7の発明]
甲殻類の飼育方法は、甲殻類がアカザエビである場合に、特に好ましく用いられる。
【0025】
[請求項8の発明]
サイズが小さく弱いステージである若齢期においては、飼育容器内を良好な環境状態に保持することにより高い生残率が確保され、顕著な効果が発揮される。サイズが大きく広いスペースを専有する成体期においては、立体的に飼育することにより全体的な飼育スペースを圧縮することができ、顕著な効果が発揮される。すなわち、より効率的な飼育管理を実践することができる。
【0026】
[請求項9の発明]
飼育水として海洋深層水を用いることにより、特に好ましい飼育環境が得られる。
【0027】
[請求項10の発明]
上記方法により飼育された甲殻類は、資源回復・増大のために必要な放流種苗として、もしくは養殖、蓄養のための種苗あるいは食材として、又は学習教材、展示鑑賞用等として、利用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明における甲殻類には、増養殖事業、飼育実験、学習教材の対象とされる世界の全ての甲殻類が含まれる。
【0029】
すなわち、本発明における甲殻類には、例えば、タカアシガニ、オオエンコウガニ、タラバガニ、ハナサキガニ、イバラガニモドキ、イバラガニ、エゾイバラガニ、ケガニ、クリガニ、アサヒガニ、イシガニ、シマイシガニ、ヒラツメガニ、ショウジンガニ、ガザミ、タイワンガザミ、ノコギリガザミ、ジャノメガザミ、サワガニ、モクズガニ、中国モクズガニ、ブルークラブ、ダンジネスクラブ、ヨーロッパケアシガニ、ヨーロッパイチョウガニ、ロッククラブ、レッドクラブ、タスマニアオオガニ、ズワイガニ、ベニズワイガニ、アカザエビ、クルマエビ、ウシエビ、コウライエビ、クマエビ、ヨシエビ、シバエビ、モエビ、アカエビ、ツノナガチヒロエビ、ヒゲナガエビ、ジンケンエビ、ボタンエビ、トヤマエビ、ヒゴロモエビ、モロトゲアカエビ、ホッコクアカエビ、ホッカイエビ、イセエビ、ウチワエビ、セミエビ、ロブスター、サクラエビ、シラエビ、コシオリエビ、シャコ、テナガエビ、スジエビ等の食用甲殻類が含まれる。
【0030】
本発明における甲殻類には、さらに、食用のみでなく、オトヒメエビ、ショウグンエビ、アカシマモエビ、サラサエビ、ヒオドシエビ、ヌマエビ、テッポウエビ、ザリガニ、ヤドカリ、ヤシガニ、イソガニ、ワレカラ、ヨコエビ等の飼育、鑑賞、学習教材用等の甲殻類も含まれる。
【0031】
本発明による甲殻類の飼育方法においては、甲殻類を水槽内に配設されたメッシュ状の飼育容器内に個別に収容し、該飼育容器には新鮮な飼育水がよどみなく注水されると共に通気がまんべんなく到達するようになし、該飼育容器内の甲殻類の観察、取り上げ、給餌等の飼育管理が容易であり、該飼育容器は水槽に対し着脱自在であり、容器サイズ又はメッシュサイズの異なる他の飼育容器と交換することができ、該飼育容器は水槽内に該水槽の底面から上方に離れた状態で配設され、該飼育容器の外部へ通過した排泄物と残餌とは、一定方向の水流により水槽の底面付近を移動して水槽の排出口に運ばれ、水槽の外部へ排出されるようになす。
【0032】
飼育容器が収容された水槽内は、一定方向の水流が巡環している飼育環境であることが好ましい。けだし、効率良く一定方向の水流を作り出し、飼育容器の外部へ通過した排泄物と残餌とを効率良く水槽の排出口に運び、水槽外部へ排出することにより、飼育容器内を良好な環境状態に保持することができるからである。
【0033】
排水を浄化清浄することにより再び飼育水として使用し、水槽内の飼育水を利用して強制的に水流をつくることが可能な循環的な飼育環境であることが好ましい。けだし、排水をろ過手段等の浄化装置を用いて浄化清浄することによりこれを再び飼育水として使用すると共に、水槽内の水流を確保するために水槽内の飼育水を利用して循環ポンプにより強制的に水流をつくることにより、効率的、省力的に飼育水を利用することができるからである。
【0034】
また、本発明は、保持体内に引出し状の複数の飼育容器をそれぞれ挿脱自在に保持させ、該飼育容器は保持体内にて上下方向又は水平方向に配設し、各飼育容器内に甲殻類を個別に収容し、各甲殻類を個別に管理の行き届いた状態で飼育することを特徴とする甲殻類の飼育方法を提供する。
【0035】
特に飼育容器を上下方向に配設することによる飼育スペースの圧縮と、管理の行き届いた飼育が可能となる。限られた面積においても、飼育容器を上下方向に積み上げることにより、飼育収容量を増加させることが可能である。
【0036】
飼育水が飼育容器内に注水され、飼育容器内の飼育水が飼育容器外へ排水される飼育環境であることが好ましい。けだし、飼育容器内を良好な環境状態に保持することができるからである。
【0037】
本発明による飼育方法は、特に、甲殻類が集団飼育では著しく生残率が低い種類又は実験的にもしくは商品的に個別飼育が必要な種類であるときに、著しい効果を発揮する。けだし、飼育する甲殻類が例えばガザミ類、モクズガニ類、ロブスター類、イセエビ類、アカザエビ類、クルマエビ類等の如く、共食い、闘争等の個体間関係が顕著な甲殻類である場合には、飼育生残率の向上及び商品価値低減の防除において、顕著な効果が発揮されるからである。
【0038】
本発明による飼育方法は、飼育する甲殻類がアカザエビMetanephrops japonicusであるときに、特に顕著な効果を発揮する。けだし、本種は、プレゾエアとしてふ化し、摂餌することなく3時間以内にほとんどがメガロパ(ポストラーバ)に脱皮する。そしてメガロパは1齢稚エビに脱皮する。そのため、ゾエア幼生期をもつアカザエビ類、ロブスター類等と比較して、その成長段階においてゾエア幼生期がなく、発達した成長段階から飼育・養殖が可能であるため、高い生残率が確保されるからである。
【0039】
因みに、アカザエビ Metanephrops
japonicusは、銚子から南日向灘の水深 200〜400mの砂泥底に生息し、体長20cmに成長する高級食用種である。
【0040】
甲殻類が若齢期にあるときは、請求項1〜3記載の甲殻類の飼育方法を用い、甲殻類が成体期にあるときは、請求項4、5記載の甲殻類の飼育方法を用いることが好ましい。けだし、サイズが小さく弱いステージである若齢期においては、飼育容器内を良好な環境状態に保持することにより高い生残率が確保され顕著な効果が発揮できるからである。さらには、サイズが大きく広いスペースを専有する成体期においては、立体的に飼育することにより全体的な飼育スペースを圧縮することができ、顕著な効果が発揮されるからである。すなわち、より効率的な飼育管理を実践することができる。
【0041】
飼育水は海洋深層水であることが好ましい。海洋深層水は、表層水との比較において、病原菌・細菌数・有害な汚染物質が少ない等の‘清浄性’、周年を通して水温が低い‘低水温性’、水質変動が小さく物理・化学的および微生物学的に安定している‘水質安定性’、硝酸塩・リン酸塩・ケイ酸塩などの無機栄養塩類に富む‘高栄養性’等の水質特性を有する。それらの特徴を持つ海洋深層水を利用することにより、甲殻類の飼育生残率を向上させ、さらには、食品としての安全性が確保され、顕著な効果が発揮されるからである。
【0042】
海洋深層水は、水深100m以深の海水であるが、好ましくは、駿河湾の水深300〜700mから汲み上げたものとする。
【0043】
以上の方法によって飼育された甲殻類は、資源回復・増大のために必要な放流種苗として、もしくは養殖、蓄養のための種苗あるいは食材として、又は学習教材、展示鑑賞用等として、その用途は広い。
【0044】
次に、本発明において用いられる図1〜図7に示す飼育容器等について説明する。
【0045】
符号1に示すものは水槽である。
【0046】
水槽1内には甲殻類3を各別に収容するメッシュ状の飼育容器5、5・・・をそれぞれ該水槽1の底面7から上方に離した状態で着脱自在(取外し自在)に配設する。甲殻類3は、個別に(各別に)、即ち各飼育容器5に1匹ずつ、飼育容器5に収容される。
【0047】
各飼育容器5は、飼育水、気体(空気、酸素)、排泄物、残餌等が通過可能なメッシュ9により形成されている。
【0048】
各飼育容器5は、該水槽1の底面7から上方に離した状態で取外し自在に架台11上に水平に載置されている。
【0049】
各飼育容器5は上端に開口部13を備えている。
【0050】
各飼育容器5内に新鮮な飼育水15を各別に供給する飼育水供給手段17を備えさせる。
【0051】
飼育水供給手段17は、他の飼育容器5内を通過していない新鮮な飼育水15を飼育容器5内に供給する。
【0052】
即ち、飼育水供給手段17は、各飼育容器5に対し少なくとも一つの注水口19を備えている。各注水口19からは新鮮な飼育水15がよどみなく飼育容器5内に注水される。符号20に示すものは、各注水口19に飼育水15を供給する飼育水供給管である。
【0053】
各飼育容器5内に気泡21を各別に供給する気泡供給手段23を備えさせる。
【0054】
気泡供給手段23は、一例として、通気管25を介して好ましくは各飼育容器5下方の気泡分散器27へ気体(空気、酸素)を送り、該気体を気泡分散器27に備えさせた多数の透孔29、29・・・より好ましくは微細な気泡21、21・・・として各飼育容器5内に送入するようにしてなるものである。
【0055】
更に、各飼育容器5外に出た排泄物と残餌とを水槽1の底部を一定方向に流れる水流31により水槽1の外部に排出させる。
【0056】
即ち、飼育容器5の外部へ出た排泄物と残餌とが該飼育容器5の周辺ないし水槽1内の底部に留まって飼育環境を悪化させないようにするために、水槽1内に一定方向の水流31をつくりだすための注水口33を飼育水供給管20に備えさせ、当該一定方向の水流31により排泄物と残餌とが水槽1の底面7付近を移動して水槽1内の底面7に臨む排出口35に運ばれ、該排出口35から水槽1の外部へ排出されるようになす。
【0057】
飼育水15は好ましくは海洋深層水である。
【0058】
前記水流31は水槽1内を巡環する。
【0059】
即ち、一例として、水槽1を図6に示す巡流水槽となすことにより、効率良く一定方向の水流を作り出し、排泄物と残餌とを水槽1の排出口35から効率良く水槽1外部へ排出させる。
【0060】
各飼育容器5に対する光の光量又は光質の調整が可能である。
【0061】
即ち、一例として、水槽1に開閉自在の蓋37を取り付け、該蓋37を閉じることにより各飼育容器5内を暗状態になし、該蓋37を開けることにより各飼育容器5を天然光下の状態にすることが可能である。
【0062】
また、該蓋37の内面に蛍光灯、発光ダイオード等の光源39、39・・・を取り付け、該光源39、39・・・により光量、光質を調整することが可能である。
【0063】
飼育水15の水温調節手段を備えさせる。
【0064】
即ち、一例として、飼育水供給手段17に水温調節機41を備えさせ、該水温調節機41により飼育水15の水温調節を行なう。
【0065】
また、水槽1内にヒーター、クーラー等の水槽内水温調節機43を配設し、水温調節された飼育水15が一時的に注水されない場合においても、該水槽内水温調節機43により水槽1内の水温を調節するようにしてもよい。図6参照。
【0066】
飼育装置の排水を濾過手段等の浄化手段45により浄化清浄することにより再び飼育水15として使用する。図5参照。
【0067】
水槽1は、一例として、該水槽1内の飼育水15を利用して強制的に水流をつくることができる循環水槽とする。
【0068】
即ち、水槽1内の水流31を確保するために、水槽1内の飼育水15を利用して循環ポンプ47により強制的に水流をつくることが可能な循環水槽を用いる。図5参照。
【0069】
次に、図8〜図15に示す飼育容器等について説明する。
【0070】
保持体51内に引出し状の複数の飼育容器53をそれぞれ挿脱自在に保持させる。
【0071】
保持体51には開口した収納室54を備えさせる。飼育容器53は、好ましくは、上端53aを開口するが、該飼育容器53の上端53a等に開閉蓋(図示せず。)を備えさせても差し支えない。該飼育容器53は、収納室54に挿脱自在に保持させる。
【0072】
保持体51における複数の収納室54は、上下方向又は水平方向に配設する。
【0073】
保持体51における複数の収納室54は、好ましくは、上下方向に配設する。上下方向に配設した収納室54に飼育容器53を挿脱自在に保持させることにより、飼育スペースの圧縮と、管理の行き届いた飼育とが可能となる。すなわち、限られた面積においても、飼育収容量を増加させることが可能である。
【0074】
飼育容器53は、収納室54に対し好ましくは水平方向に挿脱自在とするが、収納室54に対し傾斜した方向に挿脱自在であってもよい。
【0075】
保持体51と飼育容器53は、軽量かつ強固であって耐水性に優れた材質、例えばポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ボリプロピレン等により形成される。
【0076】
飼育容器53内を良好な環境状態に保持するために、飼育容器53内に飼育水を注水(55)する注水手段56と、該飼育容器53内の飼育水を該飼育容器53外へ排水(57)する排水手段58とを備えさせる。
【0077】
すなわち、注水手段56の注水管59を介して飼育水が飼育容器53内に注水(55)され、飼育容器53内の飼育水が排水手段58の排水口60に移動(61)し、飼育容器53外へ排水(57)される。
【0078】
飼育環境の清浄化を図る場合には、各飼育容器53内に飼育水を各別に注水する注水手段56と、各飼育容器53内の飼育水を該飼育容器53外へ各別に排水する排水手段58とを備えさせる。
【0079】
すなわち、注水手段56の注水管59を介して飼育水が各飼育容器53内に各別に注水(55)され、飼育容器53内の飼育水が排水手段58の排水口60に移動(61)し、飼育容器53外へ各別に排水(57)される。
【0080】
飼育水使用量の効率化を図る場合には、一つの飼育容器53内の飼育水を他の飼育容器53内に注水又は排水する注水手段56又は排水手段58を備えさせる。
【0081】
すなわち、一つの飼育容器53内を通過した飼育水が注水手段56により他の飼育容器53内に注水(62)され、あるいは、一つの飼育容器53内の飼育水が排水手段58の排水口60に移動(61)し、他の飼育容器内へ排水(63)される。図12参照。
【0082】
飼育容器53内を良好な環境状態に保持するために、飼育容器53内を通気する通気手段64を備えさせる。
【0083】
通気手段64は、一例として、通気管65を介して送入された気体66(空気や酸素)を気泡分散器67により気泡68として各飼育容器53内に拡散するようにしてなるものである。図11、図12、図14参照。
【0084】
飼育水としては、表層海水69、海洋深層水70又は淡水71の使用が可能であり、好ましくは、飼育水の水温調節手段72を備えさせる。図13、図15参照。
【0085】
表層海水69は、水深100m以浅の海水である。海洋深層水70は、水深100m以深の海水である。
【0086】
水温調節手段72により水温調節された表層海水69、海洋深層水70又は淡水71の飼育水を注水管73を介して各飼育容器53に注水することにより、多種類の飼育条件を設定することができ、多種類の甲殻類3を飼育することができる。
【0087】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0088】
[環境向上型飼育実験]
<材料と方法>
人工飼育下で育てたふ化からの日齢100日のアカザエビ103個体を実験に供試した。それらの頭胸甲長はおよそ7〜8mmであった。飼育条件として、対照飼育区と環境向上型飼育区(図1)との2実験区を設定した。アカザエビは、各々の飼育容器内に個別に収容し、飼育水として海洋深層水を使用し、実験開始200日(日齢300日)まで飼育した。両実験区とも、水温は約15℃に調節し、餌料は冷凍アミエビとサクラエビとを2日おきに十分量与えた。対照飼育区としては、1.5トン容水槽内水槽内に、排泄物、残餌等が通過可能な約2リットル容のメッシュ状飼育容器を直接置き、水槽内の一箇所から注水しながら、24個体を飼育した。環境向上型飼育区としては、上記飼育容器を架台の上に置くことにより水槽の底面と接することなく配設し、各飼育容器内の各一箇所から注水し、さらに各飼育容器にまんべんなくエアレーションが到達するようにしながら、79個体を飼育した。さらに、水槽内に一定方向の水流をつくり、水槽の底面付近を排泄物と残餌とが移動して排出口から水槽の外部へ排出するようにした。
【0089】
<結果>
対照飼育区と環境向上型飼育区とのアカザエビの生残率は、実験開始100日後は各々54.2%、94.9%、飼育開始200日後は各々12.5%、81.0%、飼育開始300日後は各々4.2%、68.4%であり、対照飼育区と環境向上型飼育区との間には、100日以降有意な差(χ
検定、 p <0.00 1)が認められ、環境向上型飼育区の生残率が高かった。飼育開始300日後の頭胸甲長はおよそ17〜20mmであった。
【0090】
以上の結果より、環境向上型飼育は生残率が向上し甲殻類の飼育に効率的であった。
【実施例2】
【0091】
[引出型飼育実験]
<材料と方法>
駿河湾で漁獲された47個体のアカザエビを実験に供試した。それらの頭胸甲長はおよそ4〜6cmであった。飼育条件として、対照飼育区と引出型飼育区(図8に示すように、引出し状の飼育容器を用いた飼育区)との2実験区を設定した。アカザエビは、各々の飼育容器内に個別に収容し、飼育水として海洋深層水を使用し、実験開始300日まで飼育した。水温は約7℃に調節し、餌料は冷凍サクラエビを2日おきに十分量与えた。対照飼育区としては、5トン容水槽内に、通水性の約18リットル容飼育容器を平面的に設置し、水槽内の一箇所から注水しながら、23個体を飼育した。今回は、面積0.267m
、容積0.083mのコンテナを、1区画が約18リツトルになるように4スペースに区切って使用した。引出型飼育区としては、引出し状の飼育容器を立体的(上下方向)に配設し、各飼育容器内の各一箇所から注水し、各一箇所から排水することにより換水し、さらに各飼育容器でエアレーションをしながら、24個体を飼育した。今回は、約4リットル容飼育容器8個(
2列4段)が、面積0.14m、容積0.05 1mのケースに収まるものを使用した。
【0092】
<結果>
対照飼育区と引出型飼育区とのアカザエビの生残率は、実験開始100日後は各々95.7%、83.3%、飼育開始200日後は各々8
2.6%、79.2%、飼育開始300日後は各々56.5%、66.7%であり、対照飼育区と引出型飼育区の間には、有意な差(χ検定、 p >0.05)は認められなかった。
【0093】
施設に設置した場合の飼育に要する1個体あたりの必要面積は、対照飼育区では0.067m、引出型飼育区では0.018m
となり、引出型飼育により飼育スペースを27%まで圧縮することができた。引出型飼育は今回1ケース4段のものを採用したが、仮に3ケースを立体的(上下方向)に配設して12段にした場合は飼育スペースは変化せずに収容量をさらに3倍に増加させることができ、飼育スペースを9%まで圧縮可能となる。
【0094】
以上の結果より、引出型飼育区は、従来の生残率を維持しながら飼育スペースを大幅に圧縮することができるため、甲殻類の飼育に効率的であった。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】甲殻類を各別に収容するための飼育容器を示す断面図である。
【図2】同上飼育容器を示す斜視図である。
【図3】飼育装置の一例を示す断面図である。
【図4】同上飼育装置を示す斜視図である。
【図5】同上飼育装置の別の一例を示す斜視図である。
【図6】同上飼育装置の更に別の一例を示す斜視図である。
【図7】気泡分散器の一例を示す斜視図である。
【図8】保持体内に保持された飼育容器の一例を示す断面図である。
【図9】飼育容器の一例を示す斜視図である。
【図10】保持体内に保持された飼育容器の別の一例を示す斜視図である。
【図11】飼育容器の別の一例を示す斜視図である。
【図12】注水手段と排水手段と通気手段とを概略的に示す断面図である。
【図13】保持体内に保持された飼育容器の更に別の一例を示す斜視図である。
【図14】注水手段と排水手段と通気手段とを概略的に示す斜視図である。
【図15】保持体内に保持された飼育容器の更に別の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0096】
1 水槽
3 甲殻類
5 飼育容器
7 底面
9 メッシュ
11 架台
13 開口部
15 飼育水
17 飼育水供給手段
19 注水口
20 飼育水供給管
21 気泡
23 気泡供給手段
25 通気管
27 気泡分散器
29 透孔
31 水流
33 注水口
35 排出口
37 蓋
39 光源
41 水温調節機
43 水槽内水温調節機
45 浄化手段
47 循環ポンプ
51 保持体
53 飼育容器
53a 上端
54 収納室
55 注水
56 注水手段
77 排水
58 排水手段
59 注水管
60 排水口
61 移動
62 注水
63 排水
64 通気手段
65 通気管
66 気体
67 気泡分散器
68 気泡
69 表層海水
70 海洋深層水
71 淡水
72 水温調節手段
73 注水管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甲殻類を水槽内に配設されたメッシュ状の飼育容器内に個別に収容し、
該飼育容器には新鮮な飼育水がよどみなく注水されると共に通気がまんべんなく到達するようになし、
該飼育容器内の甲殻類の観察、取り上げ、給餌等の飼育管理が容易であり、
該飼育容器は水槽に対し着脱自在であり、容器サイズ又はメッシュサイズの異なる他の飼育容器と交換することができ、
該飼育容器は水槽内に該水槽の底面から上方に離れた状態で配設され、該飼育容器の外部へ通過した排泄物と残餌とは、一定方向の水流により水槽の底面付近を移動して水槽の排出口に運ばれ、水槽の外部へ排出されるようにしたことを特徴とする甲殻類の飼育方法。
【請求項2】
前記水槽内に一定方向の水流が巡環している飼育環境を有することを特徴とする請求項1に記載の甲殻類の飼育方法。
【請求項3】
排水を浄化清浄することにより再び飼育水として使用し、前記水槽内の飼育水を利用して強制的に水流をつくることが可能な循環的な飼育環境を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の甲殻類の飼育方法。
【請求項4】
保持体内に引出し状の複数の飼育容器をそれぞれ挿脱自在に保持させ、該飼育容器は保持体内にて上下方向又は水平方向に配設し、各飼育容器内に甲殻類を個別に収容し、各甲殻類を個別に管理の行き届いた状態で飼育することを特徴とする甲殻類の飼育方法。
【請求項5】
前記各飼育容器内に飼育水が注水され、各飼育容器内の飼育水が飼育容器外へ排水される飼育環境を有することを特徴とする請求項4に記載の甲殻類の飼育方法。
【請求項6】
前記甲殻類は集団飼育では著しく生残率が低い種類又は実験的にもしくは商品的に個別飼育が必要な種類であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の甲殻類の飼育方法。
【請求項7】
前記甲殻類はアカザエビであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の甲殻類の飼育方法。
【請求項8】
前記甲殻類が若齢期にあるときは請求項1〜3のいずれかに記載の甲殻類の飼育方法を用い、前記甲殻類が成体期にあるときは請求項4又は5に記載の甲殻類の飼育方法を用いることを特徴とする請求項6又は7に記載の甲殻類の飼育方法。
【請求項9】
前記飼育水は海洋深層水であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の甲殻類の飼育方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法により飼育された甲殻類。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2009−178139(P2009−178139A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22194(P2008−22194)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【Fターム(参考)】