説明

画像信号処理方法及び装置

【目的】 周波数、音圧共に生体組織に悪影響を及ぼさない超音波信号を用いながら歪みやボケの生じない鮮明な断層像が得られる超音波CTを実現する。
【構成】 超音波センサ2を駆動して超音波信号を被観測物体1に向けて送信するとともに被観測物体1からの複数の散乱波信号を異なる位置の受波器で受信する。画像前処理部3では、これら散乱波信号を入力して当該被観測物体1が均質である場合の散乱波信号との差分をとり、これらを音波の波動性を考慮したTLM法(伝達線路網法)の逆伝搬アルゴリズムを用いて逆伝搬させ、散乱波信号の2次音源の位置を検出する。そしてそのときの位置情報を生成して断層画像生成部4に出力し、表示制御部5にて可視化する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば超音波CT(computer tomography:計算機断層撮影像)に用いられる画像信号処理方法及びこの方法を実施する装置に関し、特に、流体や弾性体の媒質境界の分布画像を生成する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、超音波信号を用いて生体や木材等の内部組織を外部より観測し、観測により得た信号を1次元乃至多次元画像信号に変換して可視化する技法が種々提案されている。このような技法は一般に超音波CTと呼ばれ、生体に関してはX線CT等よりも安全なことが実証されている。また、上記画像信号に基づいて実際に内部組織の断層画像を生成表示する装置はCTスキャナと呼ばれる。このCTスキャナは、超音波信号を音場(音波が作用する領域、以下同じ)に対して送信する送波器と、該音場で散乱した散乱波信号を受信する複数の受波器とを有し、それぞれの角度で受信した散乱波信号の属性、例えば音圧に基づいて1次元信号を生成した後、これら1次元信号の波形集合をフーリエ変換法、重畳積分法等によって2次元信号に変換し、これに基づいて2次元の断層画像を生成するものである。また、最近は、CTスキャナを生体等の軸線に沿って少しづつ平行移動させながら多数の2次元断層画像を生成し、これらを3次元的に積み重ねることにより当該内部組織の3次元断層画像に構築することも行われている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、超音波信号は、X線等に比べるとその波長が数桁程度長いので、波動性がより顕著に現れ、生体等を透過する際に、回析や散乱の影響を受け易い。そのため、最終的に生成される断層画像が歪んだり、あるいはボケの生じた不鮮明なものとなる場合がある。これに対処するには、直進性に優れた高周波超音波信号を用いれば良いが、そうすると周波数が高くなるにつれて内部組織での減衰が著しく、深部まで到達しにくくなる欠点がある。また、通常は単一パルス(インパルス)を使用することから、良好なS/N比(信号対雑音比)を得ようとすれば尖頭音圧を大きくする必要があるが、超音波信号といえども高音圧にしすぎると生体等の組織に悪影響を及ぼすことが指摘されている。
【0004】そのため、従来の超音波CT乃至CTスキャナにおいては、高周波化、高音圧化にも限界があり、改善が望まれていた。本発明の課題は、かかる背景に鑑み、周波数、音圧共に生体組織に悪影響を及ぼさないレベルの超音波信号を用いながら、歪みやボケの生じない鮮明な断層画像が得られる画像信号処理方法及び装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明が提供する画像信号処理方法は、生体、木材等の物体が存する音場に超音波信号を送信した後にその物体の媒質境界で散乱した複数の散乱波信号を受信する段階と、受信した各散乱波信号の属性と前記音場が均質である場合の散乱波信号の属性との差分波信号を生成する段階と、生成した差分波信号をTLM法を用いて逆伝搬させ、各逆伝搬波信号の合成振幅が最大となる地点を検出する段階と、検出した地点の位置情報に基づいて前記媒質境界の分布画像を生成する段階と、を有することを特徴とする。
【0006】ここに、TLM法とは、音場をコイルとコンデンサで構成される等価的な格子状の伝達線路網で表現し、ホイヘンスの原理に基づく波動現象を伝達線路網上を伝わるパルス波の伝達・散乱問題として追跡する手法であり、時間積分を必要とせず、単純な計算で直接的に時間領域解を求めることができるという特徴を有する。このTLM法の具体的な内容は、藤井,土屋,加川,日本シミュレーション学会第11回シミュレーション・テクノロジー・コンファレンス(1992.06)論文集p135〜138、「伝達線路網(TLM)法を用いた音波伝搬の非定常解析」、及び、加川幸雄,超音波TECHNO12月号「数値解析法概説」(日本工業出版(株),1993,12)に紹介されている。
【0007】本発明が提供する他の画像信号処理方法は、生体、木材等の物体が存する音場に超音波信号を送信した後にその物体の媒質境界で散乱した複数の散乱波信号を受信する段階と、受信した各散乱波信号を上記TLM法を用いて逆伝搬させてそれぞれの信号強度分布を検出する段階と、検出した各信号強度分布と前記音場が均質である場合の散乱波信号の信号強度分布との差分布を導出する段階と、前記差分布に基づいて前記媒質境界の分布画像を生成する段階と、を有することを特徴とする。
【0008】なお、上記画像信号処理方法において、超音波信号及び散乱波信号は、例えばパルス状あるいはバースト状の信号であり、また、散乱波信号の属性は、例えば該散乱波信号の音圧、変位量、速度、及び密度の少なくとも一つを含むものである。速度と密度とに基づいて音響インピーダンスを求めることもできる。
【0009】また、本発明が提供する画像信号処理装置は、生体、木材等の物体が存する音場に超音波信号を送信する送波器と、前記物体の媒質境界で散乱した散乱波信号を異なった位置にて受信する複数の受波器と、各受波器で受信した散乱波信号の属性と前記音場が均質である場合の散乱波信号の属性との差分波信号を生成する差分波信号生成手段と、前記差分波信号を入力してTLM法に基づく逆伝搬制御を施し、各逆伝搬波信号の合成振幅が最大となる地点を検出する媒質境界検出手段と、検出された前記地点の位置情報に基づいて前記媒質境界の分布画像を生成する画像生成手段と、を有することを特徴とする。
【0010】また、本発明が提供する他の構成の画像信号処理装置は、生体、木材等の物体が存する音場に超音波信号を送信する送波器と、前記物体の媒質境界で散乱した散乱波信号を異なった位置にて受信する複数の受波器と、各受波器で受信した散乱波信号を入力してTLM法に基づく逆伝搬制御を施し、各逆伝搬波信号の信号強度分布を検出する信号強度分布検出手段と、検出した各信号強度分布と前記音場が均質である場合の散乱波信号の信号強度分布との差分布を導出する差分布導出手段と、導出した差分布に基づいて前記媒質境界の分布画像を生成する画像生成手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
【作用】生体や木材等の音場に送波器から超音波信号を送信すると、この超音波信号は音場に存する物体の媒質変化に応じて透過あるいは反射され、当該媒質境界を2次音源として拡がる複数の散乱波信号となる。本発明では、これら散乱波信号を異なった位置に設けた複数の受波器で受信し、差分波信号生成手段あるいは信号強度分布検出手段に導く。
【0012】差分波信号生成手段では、これら散乱波信号の属性と音場が均質である場合の散乱波信号の属性との差分波信号を生成して媒質境界検出手段に導く。このようにすれば各差分波信号は当該音場における音響インピーダンスの変化分のみを表すようになり、後段処理におけるS/N比(信号対雑音比)が格段に向上する。媒質境界検出手段では、生成された差分波信号を入力してTLM法に基づく逆伝搬制御、例えば伝搬の時間軸を反転させた逆伝搬波信号となし、各逆伝搬波信号の合成振幅が最大となる地点を検出する。各散乱波信号は、媒質境界を2次音源として拡がったものなので、合成振幅の最大点がその2次音源、即ち物体の媒質境界となる。この検出した地点の位置情報をそれぞれの差分波信号について生成して後段の画像生成手段に導き、境界分布画像を得る。
【0013】一方、信号強度分布検出手段では、散乱波信号を入力してそれぞれTLM法に基づく逆伝搬制御を施し、各逆伝搬波信号の信号強度分布を検出して差分布導出手段に導く。これら信号強度分布は、当該音場における音響インピーダンスの変化を直接に表している。差分布導出手段では、検出した各信号強度分布と当該音場が均質である場合の散乱波信号の信号強度分布との差分布を導出する。これにより音響インピーダンスの変化点、即ち物体における媒質境界が判るので、これを後段の画像生成手段に導いて境界分布画像を得る。
【0014】なお、音場が均質である場合の散乱波信号とは、例えば生体等の内部組織が同一の音響インピーダンスの媒質から成る場合、あるいは音場に物体が存しない場合の伝達超音波信号であり、当該音場について予め実験により求めておく。生体の場合には、組織毎の音響インピーダンスが周知なので、そのデータをROM(read only memory)等に記憶させ、随時読み出すようにすれば便利である。音場乃至物体によっては、その都度実測した方が良い場合や、既存のデータに基づいてシミュレートできる場合もある。また、TLM法のアルゴリズムは、ホイヘンスの原理という物理モデルを用いているので、散乱波信号や逆伝搬波信号の伝搬モデル化に際しては、有限要素法や境界要素法等のような数値手法に見られる演算処理の困難性は無く、しかも原理的にBorn近似、Rhytov近似等を考慮する必要がないので、波動性を厳密に考慮することができる。従って、超音波信号や散乱波信号の直進性は必ずしも要求されず、例えば長波帯超音波信号であっても境界分布画像の歪みやボケが軽減される。
【0015】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。図1に本発明を超音波CTに適用した場合の要部構成例を示す。図中、1は被観測物体、2は超音波センサ、3は画像前処理部、4は断層画像生成部、5は表示制御部を示す。被観測物体1は、生体全般、木材、流体、弾性体等、音場を形成し得るものであればどのような種類であっても良い。
【0016】超音波センサ2は、送波器と受波器とから成り、例えば超音波信号を被観測物体1に送信した後、該被観測対象物体1からの散乱波信号を一定期間受信するものである。なお、1つの送波器を固定的に配するとともに1以上の受波器を回転させる構成、送波器と受波器の組を被観測物体1の軸線の周囲に複数配して各々回転させる構成、あるいは1つのみのセンサで送波器と受波器とを兼用する構成にしても良い。受信した複数の散乱波信号は、画像前処理部3に導かれる。
【0017】画像前処理部3は、信号属性ファイル31、伝搬アルゴリズム格納部32、散乱波信号入力部33、信号属性比較部34、逆伝搬処理部35、2次音源位置検出部36、作業メモリ37、及び、各部動作を制御する制御部38を有する。信号属性ファイル31には、被観測物体1が均質である場合の散乱波信号の属性、例えば音圧、変位量、速度の少なくとも1つを含むデータを予め測定するか、あるいはシミュレーションにより求めて格納してあり、伝搬アルゴリズム格納部32には、TLM法に基づく時間反転された音波伝搬の数値アルゴリズムが格納されている。これについては更に後述する。
【0018】散乱波信号入力部33は、超音波センサ2より導かれた散乱波信号を入力するものであり、信号属性比較部34は、入力した各散乱波信号の属性と信号属性ファイル31に格納された該当信号の属性、例えば音圧、変位量、速度、及び密度の少なくとも一つと比較して差分波信号を生成するものである。速度と密度とに基づく音響インピーダンスを比較しても良い(以上、差分波信号生成手段)。この差分波信号は、例えば作業エリア37に一時格納され、処理時に読み出される。実時間処理がなされる場合は、作業エリア37を介さずに直接逆伝搬処理部35に導かれる。逆伝搬処理部35は、伝搬アルゴリズム格納部32から上記数値アルゴリズムを読み出して差分波信号にTLM法に基づく逆伝搬制御を施すものであり、2次音源位置検出部36は、各逆伝搬波信号の合成振幅が最大となる地点を検出して当該地点の位置情報を生成するものである(以上、媒質境界検出手段)。この位置情報は断層画像生成部(画像生成手段)4に導かれ、ここで媒質境界の分布画像が生成された後、表示制御部5で可視化される。
【0019】次に、上記構成の超音波CTの動作説明に先立って本実施例の原理を図2を参照して簡単に説明する。いま、図2(a)のように、音響インピーダンスの異なる媒質Aと媒質Bとからなる伝搬路に単一パルス状の超音波信号pが入射されたとすると、この超音波信号pは、図2(b)に示すように、媒質境界で反射されて散乱音波信号p1,p2となる。これはあたかも媒質境界が音源(2次音源)であり、散乱波信号p1,p2はそこから放射されるように観測される。これらの散乱波信号p1,p2を異なる位置の観測点M1,M2で観測し、その波形を画像前処理部3に入力する。その後、観測した波形と媒質A1のみの場合の波形との差分を求め、これらをそれぞれ観測点M1、観測点M2の入力波S1,S2として(図2(c))、各々時間反転された音波伝搬の数値アルゴリズムに従って図2(d)のように逆伝搬させる。適当な時間について時間反転させると、図2(d)のように逆伝搬波が重なり合った合成波S12の振幅が最大となる地点が現れる。この振幅最大の地点が求める媒質境界となる。なお、図2は一次元の場合の例であるが、二次元以上の場合も同様の原理で媒質境界を導出することができる。
【0020】本実施例では、上記時間反転された音波伝搬の数値アルゴリズムを伝搬アルゴリズム格納部32に格納しておく。以下、この具体的な内容について詳述する。例えば2次元のTLM基本要素モデル、即ち単位セルを図3、この単位セルにインパルスが入射された場合の反射、散乱状態を図4に示す。
【0021】図3を参照すると、この単位セルは、4端子(対)から成る。ここで図4(a)のように1つの端子(節点)に単位音圧の超音波信号(この説明において入射パルスと称する)pが入射されたとすると、この枝には他に3つの枝が接続されているので、その接続点が1/3の基準化インピーダンスで終端されていることになる。従って、反射係数Γは良く知られた公式により−1/2となるから、図4(b)に示すように、最初の入射端子にはその−1/2が反射され、他の端子にはそれぞれ1/2の音圧のパルスが透過していく。このような反射及び透過パルスは、隣接節点に向い(図4(c))、各セルへの新たな入射パルスとなって連鎖的に四方へ散乱していく(図4(d)(e))。その拡がり方はまさにホイヘンスの原理が示すところのものである。従って、端子nに入反射するパルスの音圧をそれぞれkinkrnとすれば、4端子すべてにパルスが入射される場合は上記手順の重ね合わせとなるから、図4(a)の最初の入射端子に戻ってくるパルスの音圧は、下記(1)式のように表すことができる。
【0022】
【数1】


【0023】(1)式において、iは入射、rは反射(散乱)、k,k+1は時刻を表す。要素のすべての線路からパルスが入射した場合に拡張すると、その伝搬状態は(2)式のような一般式で表される。
【0024】
【数2】


【0025】(2)式は、更に散乱マトリクスを[S]で表すと(3)式のようになる。
【0026】
【数3】


【0027】逆伝搬制御はこの伝搬手順と逆の手順を行い、反射乃至散乱波から入力波を求めることに相当するので、(4)式の演算を行うことで実現することができる。
【0028】
【数4】


【0029】(3)式あるいは(4)式の数値アルゴリムを伝搬アルゴリズム格納部32に格納しておき、これを差分波信号の入力時に読み出して逆伝搬させることで上記原理を具体化するものである。
【0030】次に、図5及び図6を参照して図1の構成の超音波CTの動作を説明する。まず、超音波センサ2を駆動して(ステップ101)、超音波信号を被観測物体1に向けて送信するとともに、被観測物体1からの複数の散乱波信号を異なる位置の受波器で受信する(ステップ102)。画像前処理部3では、これら散乱波信号を入力して各々当該被観測物体1が均質である場合の散乱波信号の属性との差分をとり、複数の差分波信号を生成する(ステップ103)。
【0031】その後、各差分波信号を逆伝搬させて媒質境界地点を検出する(ステップ104)。ここでの処理の詳細は図6に示すとおりであり、一の差分波信号の入力を契機に伝搬アルゴリズム格納部32から前述の時間軸反転の数値アルゴリズムを読み込み(ステップ201)、この数値アルゴリズムに従って各差分波信号の逆伝搬制御を行う(ステップ202)。これを当該差分波信号の合成振幅が最大になるまで繰り返し(ステップ203)、振幅最大点を検出したときはそのときの位置情報を生成して断層画像生成部4に出力する(ステップ204)。媒質境界は、複数存在するのが通常であり、しかも各媒質境界は所定方向に連続しているので、断層画像生成部4では、各差分波信号における振幅最大点の位置情報を組み合わせて画像情報を生成し(図5、ステップ105)、表示制御部5に表示する。
【0032】このようにして得られる断層画像は、散乱波信号の伝搬状態が近似無く組み入れられているので、使用する超音波信号の周波数にかかわらず歪みやボケが軽減されて鮮明なものとなっている。従って、直進性を得るために超音波信号の周波数を高くする必要が無くなる。また、散乱波信号の属性と被観測物体1が均質である場合の散乱波信号の属性との差分がとられているので、逆伝搬される差分波信号は被観測物体1の音響インピーダンスの変化分のみを表すようになり、S/N比が従来手法に比べて格段に向上している。そのため従来のように尖頭音圧を高くする必要も無くなる。これにより、生体組織等に悪影響を及ぼさない超音波信号を用いながら歪みやボケの生じない鮮明な断層像が得られる超音波CTを実現することができる。なお、超音波信号及び散乱波信号が単一パルスであることを前提として説明したが、これら信号は必ずしも単一パルスに限定されず、複数パルスあるいはそれ以外の波形のバースト信号とすることもできる。バースト信号を用いれば媒質境界が移動するときの速度も検出可能となる。
【0033】以上の説明は、差分波信号の合成振幅が最大となる地点の位置情報に基づいて媒質境界を検出する場合の例であるが、そのほか、散乱波信号の信号強度分布、即ち音響エネルギー分布に基づいて媒質境界を検出することも可能である。この場合は、図1の画像前処理部3において、差分波信号を処理する部分に代えて、受信した散乱波信号にTLM法に基づく逆伝搬制御を施して各逆伝搬波信号の信号強度分布を検出する信号強度分布検出手段と、検出した各信号強度分布と音場が均質である場合の散乱波信号の信号強度分布との差分布を導出する差分布導出手段とを設け、導出した差分布を解析することによって媒質境界を特定する構成とする。信号強度分布は、逆伝搬の際に簡単な計算により求めることができ、差分布は予め実測等で得た分布との差をとることで容易に求めることができる。特定した媒質境界に基づいて断層画像を生成する手順は上述の場合とほぼ同様である。このような構成にすれば、差分布の大きい部分が媒質の音響インピーダンスの差が大きい部分(媒質境界)となるので、振幅の最大地点の位置情報を検出する場合よりも装置構成が簡易となる。また、信号強度分布あるいは差分布を空間積分することで密度分布や散乱波信号の速度分布をも得ることもできるので、多面的に媒質境界を検出することができ、より正確な断層画像を生成することが可能となる。なお、本発明は、超音波CTのみならず、この種の画像処理を要する用途全般に適用可能である。
【0034】
【発明の効果】以上の説明から明かなように、本発明では、受信した各散乱波信号の属性と当該音場が均質である場合の散乱波信号の属性との差分波信号を生成するようにしたので、受信した差分波信号は音場の音響インピーダンスの変化分のみを表すようになり、後段処理におけるS/N比が格段に向上する効果がある。また、各差分波信号をTLM法に基づく逆伝搬アルゴリズムに従って逆伝搬波制御し、その合成振幅が最大となる地点を検出乃至特定するようにしたので、音波の波動性が厳密に考慮され、使用する超音波信号の周波数、尖頭電圧を任意にすることができる効果がある。従って波動性が顕著に現れる長波帯超音波信号を使用することもできる。
【0035】また、受信した散乱波信号にTLM法に基づく逆伝搬制御を施して各逆伝搬波信号の信号強度分布を検出し、検出した各信号強度分布と音場が均質である場合の散乱波信号の信号強度分布との差分布を導出するとともに、この差分布を解析することにより媒質境界を特定するようにしたので、差分波信号の合成振幅最大点の位置情報を検出する場合よりも画像信号処理装置の構成が簡易となり、しかも密度分布や散乱波信号の速度分布をも容易に得ることができるので、媒質境界の検出手法が多面的となる効果がある。
【0036】このように、本発明によれば、従来の問題点を一挙に解消し、周波数、音圧共に生体組織に悪影響を及ぼさないレベルの超音波信号を用いながら、歪みやボケの生じない鮮明な断層画像が得られる画像信号処理方法及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る超音波CTの要部構成図。
【図2】本実施例の原理を説明するための1次元の波形状態遷移図であり、(a)はインパルス入射時、(b)は散乱時、(c)は差分波信号(入射波)入射時、(d)は合成波特定時の状態を示す。
【図3】本実施例によるTLM基本要素モデル(単位セル)の説明図。
【図4】上記モデルにおけるインパルスの入反射及びその拡がり状態の説明図。
【図5】本実施例の超音波CTの動作手順を示すフローチャート。
【図6】図5における媒質境界の特定処理の詳細を示すフローチャート。
【符号の説明】
1 被観測物体(音場)
2 超音波センサ(送波器、受波器)
3 画像前処理部
31 信号属性ファイル
32 伝搬アルゴリズム格納部
33 散乱波信号入力部
34 信号属性比較部
35 逆伝搬処理部
36 2次音源位置検出部
37 作業メモリ
38 制御部
4 断層画像生成部(画像生成手段)
5 表示制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 生体、木材等の物体が存する音場に超音波信号を送信した後にその物体の媒質境界で散乱した複数の散乱波信号を受信する段階と、受信した各散乱波信号の属性と前記音場が均質である場合の散乱波信号の属性との差分波信号を生成する段階と、生成した差分波信号を伝達線路網(Transmission Line Matrix:以下、TLM)法を用いて逆伝搬させ、各逆伝搬波信号の合成振幅が最大となる地点を検出する段階と、検出した地点の位置情報に基づいて前記媒質境界の分布画像を生成する段階と、を有することを特徴とする画像信号処理方法。
【請求項2】 生体、木材等の物体が存する音場に超音波信号を送信した後にその物体の媒質境界で散乱した複数の散乱波信号を受信する段階と、受信した各散乱波信号をTLM法を用いて逆伝搬させてそれぞれの信号強度分布を検出する段階と、検出した各信号強度分布と前記音場が均質である場合の散乱波信号の信号強度分布との差分布を導出する段階と、前記差分布に基づいて前記媒質境界の分布画像を生成する段階と、を有することを特徴とする画像信号処理方法。
【請求項3】 前記超音波信号及び散乱波信号は、バースト状の信号を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の画像信号処理方法。
【請求項4】 前記散乱波信号の属性は、該散乱波信号の音圧、変位量、速度、及び密度の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1又は3記載の画像信号処理方法。
【請求項5】 生体、木材等の物体が存する音場に超音波信号を送信する送波器と、前記物体の媒質境界で散乱した散乱波信号を異なった位置にて受信する複数の受波器と、各受波器で受信した散乱波信号の属性と前記音場が均質である場合の散乱波信号の属性との差分波信号を生成する差分波信号生成手段と、前記差分波信号を入力してTLM法に基づく逆伝搬制御を施し、各逆伝搬波信号の合成振幅が最大となる地点を検出する媒質境界検出手段と、検出された前記地点の位置情報に基づいて前記媒質境界の分布画像を生成する画像生成手段と、を有することを特徴とする画像信号処理装置。
【請求項6】 生体、木材等の物体が存する音場に超音波信号を送信する送波器と、前記物体の媒質境界で散乱した散乱波信号を異なった位置にて受信する複数の受波器と、各受波器で受信した散乱波信号を入力してTLM法に基づく逆伝搬制御を施し、各逆伝搬波信号の信号強度分布を検出する信号強度分布検出手段と、検出した各信号強度分布と前記音場が均質である場合の散乱波信号の信号強度分布との差分布を導出する差分布導出手段と、導出した差分布に基づいて前記媒質境界の分布画像を生成する画像生成手段と、を有することを特徴とする画像信号処理装置。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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