説明

画像安定性を改良した電気泳動媒体

【課題】電気泳動表示装置の切替時間を過度に長くすることなく、画像安定性を相当に高めること。
【解決手段】懸濁流体(206)に懸濁した複数の粒子(108、218)を含有する電気泳動媒体(200)であって、該粒子(108、218)は、該媒体(200)に電場をかけると、該流体(206)を通って移動できる。該流体は、その中に、20,000を超える数平均分子量を有する重合体を溶解または分散しており、該重合体は、該粒子に事実上非吸収性である。該重合体は、該表示装置の双安定性(すなわち、該表示装置をリフレッシュすることなく、書き込んだ画像が持続する期間)を向上させるが、該懸濁流体の粘度を著しく高めず、それゆえ、該表示装置の切替時間を適切な限度内に保つ。該媒体は、カプセル化され得るか、重合体を分散した電気泳動媒体の形態であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像安定性を改良した電気泳動媒体に関し、また、この媒体を含む電気泳動表示装置に関する。さらに特定すると、本発明は、その表示装置の切替時間または駆動電圧を許容できない程に高めることなく、画像安定性を改良できる電気泳動媒体および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気泳動表示装置は、多年にわたって、多くの研究および開発の対象となっている。このような表示装置は、液晶表示装置と比較すると、良好な明度およびコントラスト、広い視野角、状態双安定性および低い電力消費という特性を有し得る。「双安定な」および「双安定性」との用語は、本明細書中にて、当該分野でのそれらの通常の意味で使用され、少なくとも1つの光学特性が異なる第一および第二表示状態を有する表示素子を含む表示装置をいい、有限持続時間のアドレシングパルス(addressing pulse)によって、任意の所定の素子が駆動された後、その第一または第二表示状態のいずれかを呈し、このアドレシングパルスが停止した後、その状態は、この表示素子の状態を変えるのに必要とされるこのアドレシングパルスの最低持続時間の少なくとも数倍(例えば、少なくとも4倍)持続する。(実際、一部の電気泳動表示装置(本発明の表示装置の一部を含めて)は、複数の灰色状態を達成でき、以下で示すように、それらの極端な黒色および白色の光学状態だけでなく、それらの中間の灰色状態でも、安定である。このような表示装置は、正しくは、「双安定性」よりもむしろ、「多安定性」と記述されるべきであるが、便宜上、本明細書中では、前者の用語が使用され得る)。電場を加えて変えられる光学特性は、典型的には、ヒトの目に知覚できる色であるが、他の光学特性(例えば、光の透過、反射率、発光)であり得るか、または機械読み取りに向けた表示装置の場合、可視域の外側の電磁波長に関連した変化という意味で、擬似色であり得る。それにもかかわらず、これらの表示装置の長期間にわたる画像品質の問題により、それらを広範囲で使用することが妨げられている。例えば、電気泳動表示装置を構成する粒子は、沈降する傾向にあり、その結果、それらの表示装置の耐用年数が不十分となる。
【0003】
Massachusetts Institute of Technology(MIT)およびE Ink Corporationに譲渡されたかそれらの名義の特許および特許出願であって、カプセル化電気泳動媒体を記述している多数の特許および特許出願が、最近公開されている。このようなカプセル化媒体は、多数の小カプセルを含み、その各々は、それ自体、内相(これは、液状懸濁媒体に懸濁された電気泳動移動粒子を含有する)およびカプセル壁(これは、内相を取り囲んでいる)を含む。典型的には、これらのカプセルは、それ自体、高分子結合剤内に保持されて、2個の電極間に配置された干渉相を形成する。この種のカプセル化媒体は、例えば、米国特許第5,930,026号;第5,961,804号;第6,017,584号;第6,067,185号;第6,118,426号;第6,120,588号;第6,120,839号;第6,124,851号;第6,130,773号;第6,130,774号;第6,172,798号;第6,177,921号;第6,232,950号;第6,241,921号;第6,249,271号;第6,252,564号;第6,262,706号;第6,262,833号;第6,300,932号;第6,312,304号;第6,312,971号;第6,323,989号;および第6,327,072号;米国特許出願第2001−0045934号;および国際出願公開第WO97/04398号;第WO98/03896号;第WO98/19208号;第WO98/41898号;第WO98/41899号;第WO99/10767号;第WO99/10768号;第WO99/10769号;第WO99/47970号;第WO99/53371号;第WO99/53373号;第WO99/56171号;第WO99/59101号;第WO99/67678号;第WO00/03349号;第WO00/03291号;第WO00/05704号;第WO00/20921号;第WO00/20922号;第WO00/20923号;第WO00/26761号;第WO00/36465号;第WO00/36560号;第WO00/36666号;第WO00/38000号;第WO00/38001号;第WO00/59625号;第WO00/60410号;第WO00/67110号;第WO00/67327号;第WO01/02899号;第WO01/07691号;第WO01/08241号;第WO01/08242号;第WO01/17029号;第WO01/17040号;第WO01/17041号;第WO01/80287号および第WO02/07216号で記述されている。
【0004】
前記特許および出願の多くから、カプセル化した電気泳動媒体内の不連続なマイクロカプセルを取り囲む壁が連続相で置き換えられ得、それにより、その電気泳動媒体が電気泳動流体の複数の不連続な小滴および高分子材料の連続相を含有する、いわゆる「重合体分散した電気泳動表示装置」を製造すること;およびこのような重合体分散した電気泳動表示装置内の電気泳動流体の不連続な小滴が、個々の各小滴に付随している不連続なカプセル膜がなくても、カプセルまたはマイクロカプセルと見なされ得ることが分かる;例えば、WO01/02899、10ページ、6〜19行目を参照。
【0005】
カプセル化した電気泳動表示装置は、典型的には、伝統的な電気泳動装置のクラスター形成および沈降という故障モードの欠点がなく、さらなる利点(例えば、この表示装置を広範囲の可撓性基板および剛性基板に印刷または被覆する性能)を生じる。(「印刷」との用語の使用は、全ての形態の印刷および被覆を含むと解釈され、これには、以下が挙げられるが、これらに限定されない:予め計量した被覆(例えば、パッチダイ被覆、スロットまたは押出被覆、スライドまたはカスケード被覆、カーテン被覆);ロール被覆(例えば、ナイフオーバーロール被覆、前方および逆ロール被覆);グラビア被覆;浸漬被覆;スプレー被覆;メニスカス被覆;スピン被覆;ブラシ被覆;エアナイフ被覆;シルクスクリーン印刷プロセス;静電印刷プロセス;熱印刷プロセス;インクジェット印刷プロセス;および他の類似の技術)。それゆえ、得られる表示装置は、可撓性であり得る。さらに、この表示媒体が(種々の方法を使用して)印刷できるので、この表示装置それ自体は、安価に作製できる。
【0006】
既に述べたように、電気泳動表示装置は、双安定性を示すが、この双安定性は、無制限ではなく、この表示装置上の画像は時間と共にゆっくりと衰え、その結果、もし、画像が長期間にわたって維持されるなら、その画像は、定期的にリフレッシュされなければならない(そしてこのようなリフレッシングが必要な間隔は、画像安定性の便利な定量手段である)。また、画像安定性に欠ける多くのシステムでは、いわゆる「ブランキングパルス」を規則的な間隔で適用することが必要である;このようなブランキングパルスには、まず、この表示装置の全画素を1つの光学状態(例えば、白色状態)に駆動すること、次いで、これらの全ての画素を反対の光学状態(例えば、黒色)に駆動すること、次いで、所望の画像を描くことが関与している。この表示装置のこのようなリフレッシングおよびブランキングは、本質的にエネルギーを消費するので、また、そのブランキングパルスは、画像に集中しようと試みているユーザーの注意を逸らすので、このようなリフレッシングおよびブランキングをできるだけ少なくすること、すなわち、その画像のリフレッシングおよび/またはブランキング間の間隔が長くなり得るように、この表示装置の双安定性を高めることが望ましく、それにより、この表示装置の電力消費は、少なくされる。例えば、電気泳動表示装置の1つの実行可能な適用には、携帯情報端末(PDA)があり、この場合、その装置の固有のサイズおよび重量の限界、ならびに広範囲の照明条件下でスクリーンが見える必要性により、電力消費が少なくなり、電気泳動表示装置の反射モードが非常に魅力的になる。PDAのユーザーが、長期間にわたって、そのスクリーン上で、単一の画像(例えば、電話番号のリスト)を保持することは、一般的であり、また、PDAのエネルギー消費およびユーザーの注意散漫を絶対的に最小に保つために、この長期間の間、この表示装置のいずれのリフレッシングもブランキングも必要とすることなく、これが達成されることが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者および彼の同僚は、前記特許および特許出願で記述された種類の電気泳動表示装置の画像安定性を限定する主な要因が、重力下での電気泳動顔料粒子の沈降にあることを発見した。このような沈降の速度は、これらの顔料粒子が懸濁された液相の粘度に逆比例した第一次近似であるので、その画像の安定性は、この液相の粘度を高くすることにより、高めることができる。残念なことに、電気泳動表示装置の技術分野の当業者に周知であるように、これらの顔料粒子の電気泳動移動度(これらの粒子が所定電場下にて液相を通って移動する速度)もまた、この液相の粘度と逆比例しており、それゆえ、この表示装置の切替時間(この表示装置の所定画素をその光学状態の1つから他の状態へと変えるのに必要な時間−事実上、これらの顔料粒子が液体媒体の厚さを通って移動するのに必要な時間)は、この液状媒体の粘度に正比例している。従って、この液状媒体の粘度を広範囲に変えることは、当該分野の技術範囲内に入るものの、従来、その粘度を高くすると、長くなった切替時間を犠牲にして、画像安定性を高めるという点で、いかなる選択された粘度も、必然的に妥協に相当していると思われていた。さらに、特に、所望のデータを見つけるのに、数「ページ」または数スクリーンの情報を移動する必要があり得るPDA表示装置のような小さい表示装置の場合、ユーザーは、約1秒を相当に超える切替時間を許容しない。(この表示装置に加えられる駆動電圧を高めることにより、その懸濁流体の粘度が高くなるので、切替時間の増大を相殺することが可能であるが、これにより、それ自体の一連の問題が生じる。この駆動電圧を高めると、必ず、各駆動パルスのエネルギー消費が高くなり、これらの駆動パルスを制御するのに必要な電子回路の複雑性および価格が高くなり得る。さらに、多くの電池駆動装置では、ある限界を上回って駆動電圧を高めることは、実用的ではない)。それゆえ、従来、PDAまたは類似の電気泳動表示装置で達成できる最大画像安定性は、エネルギー節約の目的に望ましい値よりも相当に低い値に限定されると思われていた。
【0008】
電気泳動表示装置で使用される懸濁流体に特定の重合体を加えると、その重合体の追加により引き起こされる流体の粘度上昇により説明できるよりも高い画像安定性の向上が得られることが、現在、発見された。従って、この懸濁流体中でこれらの重合体を使用すると、その表示装置の切替時間を過度に長くすることなく、画像安定性を相当に高めることが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明は、複数の粒子を含有する電気泳動媒体を提供し、該粒子は、懸濁流体に懸濁され、該媒体に電場をかけると、該懸濁流体を通って移動できる。本発明の媒体は、該流体が重合体を溶解または分散していることにより特徴付けられ、該重合体は、20,000を超える数平均分子量を有し、該粒子に事実上非吸収性である。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記重合体は、200,000〜1,600,000g/moleの範囲の粘度平均分子量を有するポリイソブチレンであり、該ポリイソブチレンは、前記懸濁流体の0.25〜2.5重量%を占める。
【0011】
本発明はまた、複数の粒子を含有する電気泳動媒体を提供し、該粒子は、懸濁流体に懸濁され、該媒体に電場をかけると、該懸濁流体を通って移動できる。本発明のこの形態では、該懸濁流体は、その中で、重合体を溶解または分散し、該重合体は、該懸濁流体中で固有粘度[η]を有し、そして該懸濁流体中でイオン性の基またはイオン化可能な基を事実上含まず、そして該重合体は、0.5[η]−1〜2.0[η]−1の濃度で該懸濁流体中にて存在している。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
複数の粒子(108;108、218;218、320)を含有する電気泳動媒体(100;200;300)であって、該粒子(108;108、218;218、320)は、懸濁流体(106;206;306)に懸濁され、該媒体(100;200;300)に電場をかけると、該懸濁流体(106;206;306)を通って、移動でき、該媒体(100;200;300)は、該懸濁流体(106;206;306)が重合体を溶解または分散していることにより特徴付けられ、該重合体は、20,000を超える数平均分子量を有し、該粒子(108;108、218;218、320)に事実上非吸収性である、電気泳動媒体。
(項目2)
前記重合体が、100,000を超える数平均分子量および/または重量平均分子量を有する、項目1に記載の電気泳動媒体。
(項目3)
前記重合体が、150,000〜3,000,000の範囲の数平均分子量を有する、項目2に記載の電気泳動媒体。
(項目4)
前記重合体が、300,000〜3,000,000の範囲の重量平均分子量を有する、項目2に記載の電気泳動媒体。
(項目5)
前記重合体が、2より大きい多分散指数を有する、項目1〜4のいずれか1項に記載の電気泳動媒体。
(項目6)
前記重合体が、炭化水素重合体であり、該炭化水素重合体が、前記懸濁流体中でイオン性成分またはイオン化可能成分を供給できる官能基を事実上含まない、項目1〜5のいずれか1項に記載の電気泳動媒体。
(項目7)
前記重合体が、ポリオレフィンまたはポリシロキサンである、項目6に記載の電気泳動媒体。
(項目8)
前記重合体が、ポリイソブチレンである、項目7に記載の電気泳動媒体。
(項目9)
前記ポリイソブチレンが、200,000〜1,600,000g/moleの範囲の粘度平均分子量を有する、項目8に記載の電気泳動媒体。
(項目10)
前記懸濁流体が、単独で、またはハロゲン化炭化水素と混合して、脂肪族炭化水素である、項目1〜9のいずれか1項に記載の電気泳動媒体。
(項目11)
前記懸濁流体および前記重合体が、分子量に伴う固有粘度の変化の指数が0.55〜0.8の範囲内に入るようにされる、項目1〜10のいずれか1項に記載の電気泳動媒体。
(項目12)
前記重合体が、前記懸濁流体の0.25〜2.5重量%の量で存在している、項目1〜11のいずれか1項に記載の電気泳動媒体。
(項目13)
前記重合体が、前記懸濁流体の0.75〜2重量%の量で存在している、項目12に記載の電気泳動媒体。
(項目14)
複数の粒子(108;108、218;218、320)を含有する電気泳動媒体(100;200;300)であって、該粒子(108;108、218;218、320)は、炭化水素懸濁流体(106;206;306)に懸濁され、該媒体(100;200;300)に電場をかけると、該懸濁流体(106;206;306)を通って、移動でき、該媒体は、その中で、該懸濁流体(106;206;306)がポリイソブチレンを溶解または分散していることにより特徴付けられ、該ポリイソブチレンは、200,000〜1,600,000g/moleの範囲の粘度平均分子量を有し、該ポリイソブチレンは、該懸濁流体(106;206;306)の0.5〜2.5重量%を占める、電気泳動媒体。
(項目15)
複数の粒子(108;108、218;218、320)を含有する電気泳動媒体(100;200;300)であって、該粒子(108;108、218;218、320)は、炭化水素懸濁流体(106;206;306)に懸濁され、該媒体(100;200;300)に電場をかけると、該懸濁流体(106;206;306)を通って、移動でき、該懸濁流体(106;206;306)は、その中で、重合体を溶解または分散し、該重合体は、該懸濁流体(106;206;306)中で固有粘度[η]を有し、該媒体(100;200;300)は、該重合体が該懸濁流体中でイオン性基またはイオン化可能基を事実上含まないこと、および該重合体が0.5[η]−1〜2.0[η]−1の濃度で該懸濁流体(106;206;306)中にて存在していることにより、特徴づけられる、電気泳動媒体。
(項目16)
カプセル化されており、前記懸濁流体および前記粒子が、複数のカプセル内で保持される、項目1〜15のいずれか1項に記載の電気泳動媒体。
(項目17)
2相型であり、前記懸濁流体および前記粒子が、非連続相を形成し、該非連続相が、複数の小滴を有し、該小滴が、連続相が取り囲まれている、項目1〜15のいずれか1項に記載の電気泳動媒体。
(項目18)
異なる電気泳動移動度を有する異なる2つの型の粒子を有する二重粒子型である、項目1〜17のいずれか1項に記載の電気泳動媒体。
(項目19)
少なくとも1,000秒の画像安定性を有する、項目1〜18のいずれか1項に記載の電気泳動媒体。
(項目20)
少なくとも10,000秒の画像安定性を有する、項目19に記載の電気泳動媒体。
(項目21)
電気泳動表示装置であって、該表示装置は、項目1〜20のいずれか1項に記載の電気泳動媒体と、少なくとも1個の電極(110、112)とを有し、該電極は、該媒体に隣接しており、そして該媒体に電場を加えることができる、表示装置。
(項目22)
前記電気泳動媒体の対向面に2個の電極(110、112)が配置され、該電極の少なくとも1個が、実質的に透明であり、その結果、前記電気泳動媒体が、該実質的に透明な電極を通って見ることができる、項目25に記載の電気泳動表示装置。
本発明の好ましい実施形態は、添付の図面を参照して、例としてのみ、ここに記述される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】図1Aは、本発明の第一電気泳動表示装置の概略断面図であり、ここで、その電気泳動媒体は、着色懸濁流体中で、単一型の粒子を含有する。
【図1B】図1Bは、本発明の第一電気泳動表示装置の概略断面図であり、ここで、その電気泳動媒体は、着色懸濁流体中で、単一型の粒子を含有する。
【図2A】図2Aは、本発明の第二電気泳動表示装置の概略断面図であり、これは、図1Aのものとほぼ類似しており、ここで、その電気泳動媒体は、非着色懸濁流体中にて、2種の異なる型の粒子(これらは、反対の極性の電荷を持っている)を含有する。
【図2B】図2Bは、本発明の第二電気泳動表示装置の概略断面図であり、これは、図1Bのものとほぼ類似しており、ここで、その電気泳動媒体は、非着色懸濁流体中にて、2種の異なる型の粒子(これらは、反対の極性の電荷を持っている)を含有する。
【図3A】図3Aは、本発明の第三電気泳動表示装置の概略断面図であり、これは、図2Aのものとほぼ類似しており、ここで、その電気泳動媒体は、非着色懸濁流体中にて、2種の異なる型の粒子(これらは、同じ極性の電荷を持っているが電気泳動移動度が異なる)を含有する。
【図3B】図3Bは、本発明の第三電気泳動表示装置の概略断面図であり、これは、図2Bのものとほぼ類似しており、ここで、その電気泳動媒体は、非着色懸濁流体中にて、2種の異なる型の粒子(これらは、同じ極性の電荷を持っているが電気泳動移動度が異なる)を含有する。
【図4】図4は、上記実施例1で記述しているように、本発明の媒体で使用される好ましい懸濁流体の、そこに加えた重合体の割合に伴う相対粘度の変化を示すグラフである。
【図5】図5は、上記実施例1で記述しているように、本発明の好ましい第一媒体の、そこに加えた重合体の割合に伴う画像安定性の変化を示すグラフである。
【図6】図6は、図5と類似のグラフであるが、上記実施例2で記述しているように、本発明の好ましい第二媒体の、その懸濁流体の相対粘度に伴う画像安定性の変化を示すグラフである。
【図7】図7は、上記実施例3で記述しているように、同じ粘度を有するが重合体を加えていない類似の媒体と比較した、本発明の好ましい第一媒体の白色状態の時間の経過に伴う変化を示すグラフである。
【図8】図8は、上記実施例3で記述しているように、同じ粘度を有するが重合体を加えていない類似の媒体と比較した、本発明の好ましい第二媒体の白色状態の経時的変化を示すグラフである。
【図9】図9は、上記実施例4で記述しているように、本発明の好ましい第一媒体の白色状態、黒色状態および灰色状態の経時的変化を示すグラフである。
【図10】図10は、上記実施例5で記述しているように、温度を変えたときの、本発明の好ましい第一媒体の白色状態および黒色状態の経時的変化を示すグラフである。
【図11】図11は、上記実施例6で記述しているように、重合体の粘度平均分子量に伴う、その重合体を含有する懸濁流体の固有粘度の変化を示すグラフである。
【図12】図12は、上記実施例6で記述しているように、重合体の粘度平均分子量に伴う、その重合体を含有する電気泳動媒体の開始相対粘度の変化を示すグラフである。
【図13】図13は、上記実施例6で記述しているように、懸濁流体の相対粘度に伴う、重合体を含有する電気泳動媒体の画像安定性の変化を示すグラフである。
【図14】図14は、上記実施例6で記述しているように、重合体の粘度平均分子量に伴う、少なくとも400秒の画像安定性を達成するのに必要な相対粘度の変化を示すグラフである。
【図15】図15は、上記実施例7で記述しているように、重合体の粘度平均分子量に伴う、重合体を含有する電気泳動媒体の固有粘度で正規化した高い画像安定性の開始濃度の変化を示すグラフである。
【図16】図16は、上記実施例7で記述しているように、重合体の重量平均分子量に伴う、少なくとも400秒の画像安定性を達成するのに必要な相対粘度の変化を示すグラフである。
【図17】図17は、上記実施例8で記述しているように、重合体の粘度平均分子量に伴う、重合体を含有する懸濁流体の固有粘度の変化を示すグラフである。
【図18】図18は、上記実施例8で記述しているように、懸濁流体のハロゲン化炭化水素含量に伴う、重合体を含有する電気泳動媒体の白色状態画像安定性の変化を示すグラフである。
【図19】図19は、上記実施例9で記述しているように、本発明の電気泳動媒体の種々の光学状態の長期画像安定性を示すグラフである。
【図20】図20は、上記実施例10で記述しているように、本発明の電気泳動媒体の種々の光学状態の長期画像安定性に対する温度の効果を示すグラフである。
【図21】図21は、上記実施例11で記述しているように、本発明の電気泳動媒体の低電場に対する非線形応答を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
既に述べたように、本発明は、懸濁流体に懸濁されている複数の粒子を含有する電気泳動媒体を提供する。該粒子は、懸濁流体に懸濁され、該媒体に電場をかけると、該懸濁流体を通って移動できる。該流体は、溶解および/または分散した重合体を含有し、該重合体は、約20,000を超える数平均分子量を有し、この重合体は、該粒子に事実上非吸収性である。
【0014】
本発明の電気泳動媒体は、前記E InkおよびMITの特許および特許出願で記述された種類のいずれかであり得、このような媒体の好ましい実施形態は、今ここで、添付の図面の図1〜3を参照して、記述されている。
【0015】
本発明の第一電気泳動表示装置(これは、一般に、100と命名されている)は、図1Aおよび1Bで示されているが、カプセル化電気泳動媒体(これは、一般に、102で示されている)を含み、これは、複数のカプセル104(その1個だけが図1A〜1Cで示されている)を含有し、その各々は、懸濁流体106を含有し、その中に、複数の単一型粒子108が分散され、これらは、例示の目的のために、黒色を帯びている。粒子108は、電気泳動的に移動性であり、カーボンブラックから形成され得る。以下の説明において、粒子108は、正に荷電されていると想定されるが、もちろん、もし望ましいなら、負に荷電した粒子もまた、使用できる。(粒子108の三角形、ならびに以下で述べる他の粒子の正方形および円形は、添付の図面において、種々の型の粒子が容易に区別できるように、例示するためのみに使用されており、決して、実際の粒子の物理的形状(これらは、実質的に球形である)には対応していない。しかしながら、本発明者らは、本発明の表示装置において、非球形粒子の使用を除外しない)。
【0016】
表示装置100は、さらに、共通透明前部電極110(これは、そこを通して観察者が表示装置100を見る視界面を形成する)および複数の不連続な後部電極112(その各々は、表示装置100の1個の画素を規定するが、図1Aおよび1Bでは、1個の後部電極112だけが示されている)を含む。説明および理解をし易くするために、図1Aおよび1Bは、後部電極112で規定される画素を形成する単一マイクロカプセルだけを示しているが、実際には、各画素に対して、通常、多数の(20個またはそれ以上)のマイクロカプセルが使用される。後部電極112は、基板114上に取り付けられる。
【0017】
図1Aで示した位置で後部電極112に隣接して横たわっている粒子108が前部電極110を経由して表示装置100を見ている観察者には見えないように、懸濁流体106は、着色されている。懸濁流体106で必要な色は、この流体に染料を溶解させることにより、付けられ得る。着色した懸濁流体106および粒子108は、電気泳動媒体102を不透明にするので、後部電極112および基板114は、不透明電気泳動媒体102を介して見えないので、透明であり得るか、または不透明であり得る。
【0018】
カプセル104および粒子108は、広範囲の大きさで作製できる。しかしながら、一般に、これらのカプセルの厚さ(これは、これらの電極に垂直に測定される)は、約10〜500μmの範囲であるのが好ましいものの、粒子108は、典型的には、約0.25〜約2μmの範囲の直径を有する。
【0019】
図1Aは、負に荷電されている後部電極112および正に荷電されている前部電極110を備えた表示装置100を示している。この条件下では、正に荷電された粒子108は、負に荷電された電極112に引き付けられ、それゆえ、後部電極112に隣接して横たわり、この場合、それらは、着色液体106により、前部電極110を介して表示装置100を見ている観察者から隠される。従って、図1Aで示した画素は、観察者に対して、液体106の色(これは、例示の目的のために、白色を呈する)を表示する。(表示装置100は、図1Aおよび1Bでは、底部に後部電極112を備えて図示されているものの、実際には、前部電極および後部電極の両方は、典型的には、表示装置100が最大に見えるように垂直に配置される。本明細書中で記述した本発明の特定の実施形態のいずれも、決して、それらの粒子の移動を制御するのに、重力に頼っていない;重力下でのこのような移動は、実際、遅すぎて、粒子の移動を制御するのに有用ではない)。
【0020】
図1Bは、前部電極110が後部電極112に対して負に荷電されている、表示装置100を示す。粒子108は、正に荷電されているので、負に荷電された前部電極110に引き付けられ、それにより、粒子108は、前部電極110に隣接して移動し、その画素は、粒子108の黒色を示す。
【0021】
図1Aおよび1Bでは、カプセル104は、実質的に角柱形状であるように図示されており、これは、その高さ(これらの電極の平面に垂直)よりも著しく大きい幅(これは、それらの平面に平行である)を有する。このカプセル104の角柱形状は、意図的になされている。もし、カプセル104が、事実上、球形であるなら、図1Bで示した黒色状態では、粒子108は、そのカプセルの中心の真上にある中央の限られた領域で、このカプセルの最も高い部分に集まる傾向にある。この場合、観察者に見える色は、事実上、この中心黒色領域と白色環帯(これは、この中心領域を取り囲み、ここでは、白色液体106が見える)との平均である。それゆえ、この黒色と推定される領域でも、観察者には、純粋な黒色ではなく灰色がかった色が見え、その画素の2つの極端な光学状態間のコントラストは、それに対応して、限定される。対照的に、図1Aおよび1Bで示した角柱形状のマイクロカプセルを備えていると、粒子108は、事実上、そのカプセルの全断面を覆い、白色液体は、全く見えないか、少なくとも非常に僅かしか見えず、このカプセルの極端な光学状態の間のコントラストが高められる。この点に関する、また、その電気泳動層内のカプセルの密集を得ることが望ましいことに関する、さらなる議論については、読者は、前記米国特許第6,067,185号およびそれに対応している公開された国際出願WO99/10767を参照せよ。また、前記E InkおよびMITの特許および特許出願で記述されているように、その電気泳動媒体に機械的な完全性を与えるために、これらのマイクロカプセルは、通常、固形結合剤内に包埋されるが、この結合剤は、説明を簡単にするために、図1〜3では、省略されている。
【0022】
図2Aおよび2Bで示した本発明の第二の電気泳動表示装置(これは、一般に、200で示されている)は、カプセル化した電気泳動媒体(これは、一般に、202で示されている)を含み、これは、複数のカプセル204を含み、それらの各々は、懸濁流体206を含有し、その中に、複数の正に荷電した黒色粒子108(これは、上で述べた第一表示装置100に関して述べたものと同じである)が分散されている。表示装置200は、さらに、前部電極110、後部電極112および基板114を含み、これらの全ては、第一表示装置100の対応する整数と同じである。しかしながら、黒色粒子108に加えて、液体206中には、複数の負に荷電された粒子218(これらは、本発明の目的のために、白色を呈する)が懸濁されている。
【0023】
典型的には、液体206は、着色されていない(すなわち、事実上、透明である)ものの、そこには、この表示装置の種々の状態の光学特性を調整するために、何らかの色が存在し得る。図2Aは、図示した画素の後部電極112に対して、正に荷電した前部電極110を備えた表示装置200を示している。正に荷電した粒子108は、後部電極112と静電的に隣接して保持されているのに対して、負に荷電した粒子218は、前部電極110に接して静電的に保持されている。従って、前部電極110を介して表示装置200を見ている観察者は、白色粒子218が見えて黒色粒子108が隠れるので、白色画素を見る。
【0024】
図2Bは、図示した画素の後部電極112に対して負に荷電した前部電極110を備えた表示装置200を示す。図1Bで示した対応している光学状態では、正に荷電した粒子108は、今ここでは、負に荷電した電極110に引き付けられるのに対して、負に荷電した粒子218は、正の後部電極112に静電的に引き付けられる。従って、粒子108は、前部電極110に隣接して移動し、その画素は、粒子108の黒色を表示し、これは、白色粒子218を隠す。
【0025】
図3Aおよび3Bで示した本発明の第三の電気泳動表示装置(これは、一般に、300で示されている)は、カプセル化した電気泳動媒体(これは、一般に、302で示されている)を含み、これは、複数のカプセル304を含む。表示装置300は、さらに、前部電極110、後部電極112および基板114を含み、これらの全ては、先に記述した表示装置100および200の対応する整数と同じである。表示装置300は、液体306が着色されていない点、およびその中に白色の負に荷電した粒子218が懸濁されている点で、表示装置200と似ている。しかしながら、表示装置300は、正に荷電した赤色粒子320(これらは、白色粒子218よりも電気泳動移動度が相当に低い)が存在していることにより、表示装置200とは異なる。
【0026】
図3Aは、図示した画素の後部電極112に対して、正に荷電した前部電極110を備えた表示装置300を示している。負に荷電した白色粒子218および負に荷電した赤色粒子320の両方は、前部電極110に引き付けられるが、白色粒子218は、実質的に電気泳動移動度が高いので、それらは、最初に、前部電極110に到達する(図3Aで示した光学状態は、通常、図3Bで示した光学状態にある電極の極性を急激に逆にすることにより発生し、それにより、白色粒子218および赤色粒子320の両方にカプセル304の厚さを強制的に横断させ、それにより、白色粒子218の高い移動度により、それらの位置が、赤色粒子320の前の前部電極110に隣接した位置に到達できるようになることに注目せよ)。それゆえ、白色粒子218は、前部電極110にすぐ隣接して連続層を形成し、それにより、赤色粒子320を隠す。従って、前部電極110を介して表示装置300を見ている観察者は、白色粒子218が見えて赤色粒子320を隠すので、白色画素を見る。
【0027】
図3Bは、図示した画素の後部電極112に対して、負に荷電した前部電極110を備えた表示装置300を示している。負に荷電した白色粒子218および負に荷電した赤色粒子320の両方は、後部電極112に引き付けられるが、白色粒子は、電気泳動移動度が高いので、図3Aで示した光学状態で電極の極性を逆にすることにより、図3Bで示した光学状態が生じるとき、白色粒子218は、赤色粒子320よりも迅速に後部電極112に到達し、この結果、粒子218は、電極112に隣接した連続層を形成し、前部電極110に面した赤色粒子320の連続層が残る。従って、前部電極110を介して表示装置300を見ている観察者は、赤色粒子320が見えて白色粒子218を隠すので、赤色画素を見る。
【0028】
本発明は、図1〜3で示したカプセル化電気泳動媒体の形状のいずれかに適用され得る。しかしながら、本発明は、カプセル化電気泳動媒体には制限されず、非カプセル化媒体および重合体分散電気泳動媒体(これらは、先に記述したように、2相型である)にも適用され得、その懸濁流体および粒子は、非連続相(これは、複数の小滴を含み、これらの小滴は、連続相で取り囲まれている)を形成する。このような重合体分散電気泳動媒体では、これらの小滴は、望ましくは、少なくとも約40容量%の全ての電気泳動媒体を含有する;前記係属中の出願第09/683,903号を参照。
【0029】
本発明の媒体で使用される重合体は、ある種の従来技術の電気泳動媒体で電荷制御剤として使用されている特定の低分子量重合体とは非常に異なる。このような電荷制御剤は、重合体ベースであるとき(それらの全てがそうではないが)、通常、せいぜい数千の分子量を有し、さらに重要なことには、それらを電気泳動粒子上に吸収させる官能基を有しなければならない。なぜなら、それらが、これらの粒子上の電荷を制御する機能を発揮できるのは、このような吸収によってのみであるからである。
【0030】
この重合体が実質的に電気泳動粒子上に吸収されないことを保証するために、その懸濁流体と化学的に非常に適合して溶解性が高い重合体を選択することが望ましい。この重合体および懸濁流体の組合せは、望ましくは、その流体が室温で重合体に対してシータ溶媒であるようにされるべきである。画像安定性が高い温度範囲を広げるために、その流体が画像安定性重合体に対して、少なくとも中程度に良好であれば、これは最適である。適切な重合体/流体の組合せを選択する1方法には、その重合体の分子量に対して、この組合せの固有粘度をプロットすることとにある;望ましい組合せには、この分子量のlogに対して、この固有粘度のlogの最適な線形適合の勾配が、少なくとも0.5、望ましくは、約0.55〜約0.8の範囲であるものがある。
【0031】
典型的には、電気泳動分析で使用される懸濁流体は、脂肪族炭化水素(単独で、またはハロゲン化炭化水素と組み合わせて)であり、このような流体を使うと、この重合体は、官能基(例えば、イオン化可能置換基またはイオン性置換基)(これらは、この重合体を電気泳動粒子上の化学部位と相互作用させ得るか、これらの電気泳動粒子の表面と物理的に吸着させ得る)を事実上含まない炭化水素重合体であることが好ましい。例えば、相当な割合の芳香族基が存在していると、この懸濁流体が脂肪族炭化水素およびハロゲン化炭化水素の等重量部混合物であるとき、これらの電気泳動粒子上への重合体の溶解または吸着が乏しくなると思われ、その結果、この懸濁流体については、相当な割合のポリスチレン繰り返し単位を含有する炭化水素共重合体は、このような電気泳動媒体では、使用するべきではない。脂肪族炭化水素/ハロゲン化炭化水素懸濁流体を有する電気泳動媒体については、その重合体は、好ましくは、ポリオレフィン、ポリイソブチレン(ポリ−2−メチルプロパン)(これは、現在、好ましい重合体である)であるものの、種々の他の種類の重合体(例えば、ポリシロキサン、特に、ポリジメチルシロキサン)もまた、使用され得る。ポリイソブチレンは、本発明で使用するのに適切な分子量範囲で市販されており、安価で、高温で安定であり、酸化に耐性があり、そして簡単に反応する成分もイオン化可能成分も含有しない。既に述べたように、イオン性成分またはイオン化可能成分は、このような成分が懸濁流体に放出されると、これらの電気泳動粒子の電荷(それゆえ、それらの電気泳動移動度)の変化を引き起こして望ましくないので、この重合体中では、望まくない。このポリイソブチレンは、望ましくは、100,000を超える数平均分子量、好ましくは、約150,000〜約3,000,000の数平均分子量、および100,000を超える重量平均分子量、好ましくは、約300,000〜約3,000,000の重量平均分子量を有する;他の重合体では、類似の分子量範囲が使用され得る。これらの分子量範囲に入るポリイソブチレンは、例えば、18145−5および18146−3のカタログ番号で、Sigma−Aldrich,Inc.(P.O.Box 2060,Milwaukee WI 53201)から市販されている。このポリイソブチレンはまた、望ましくは、約200,000〜1,600,000g/moleの粘度平均分子量を有する。
【0032】
任意の特定の系で安定性を生じる重合体の最適な量は、実験的に容易に決定できる。以下の実施例で示すように、重合体の最適な量は、必要な画像安定性の程度、その重合体の分子量、および許容できる媒体の最大切替時間と共に、かなり複雑な様式で、変わる。しかしながら、一般的な指針によって、少なくとも、上記の好ましいポリイソブチレンの場合、この重合体は、この懸濁流体の約0.25〜約2.5重量%の量、好ましくは、約0.75〜約2重量%の量で加えるのが望ましいと述べられている。約0.25重量%未満では、その重合体の分子量に依存して、この重合体は、この懸濁流体の粘度上昇に帰因するもの以外は、画像安定性が殆どまたは全く向上しないのに対して、約2.5重量%より高い重合体濃度では、粘度上昇を引き起こし、これにより、切替時間が許容できなくなり得る。
【0033】
本発明は、その媒体の切替時間を約2〜4倍だけ長くしつつ、電気泳動媒体の安定性を数桁で向上させることができる。以下の実施例で示すように、本発明の好ましい媒体は、少なくとも約1,000秒、ある場合には、少なくとも約10,000秒またはそれよりずっと高い画像安定性を達成できるのに対して、この重合体を加えない類似の媒体は、10秒程度の画像安定性しか達成できない。(本明細書中での画像安定性の言及は、全て、以下の実施例1で記述しているように、光学状態のLが2単位だけ変わるのに必要な時間で測定される時間である)。
【0034】
むしろ、驚くべきことに、以下の実施例で説明されているように、本発明に従って懸濁流体に重合体を加えると、この媒体の2つの極端な光学状態(例えば、黒色および白色)だけでなく、中間の灰色の光学状態も安定化することが発見された;電気泳動表示装置の技術の当業者に周知であるように、このような灰色状態は、その媒体を1つの極端な光学状態から他のものへと駆動するのに必要なパルスと比較して、この媒体を、長さおよび/または電圧を減らした電気パルスにかけることにより、発生できる。本発明が灰色状態を安定化するこの性能は、小さい表示装置(例えば、PDAで使用されるもの)で灰色スケールできる電気泳動表示装置を使用することが望ましいので、重要であり、この場合、この表示装置での画素が限られていることから、灰色スケールを達成するエリアル変調(「半チューニング」)は、実用的ではなくなる。
【0035】
本発明により達成される改良された画像安定性は、少なくとも、以下の実施例で試験した媒体の作用温度範囲内で、温度により著しく影響されない。電気泳動媒体の光学状態は、温度と共に変わるものの、光学状態の変化直後の媒体の初期状態が持続する期間は、以下の実施例5で示すように、それ自体、その温度によって著しく影響されない。
【0036】
本発明の電気泳動媒体は、任意の公知の種類の電気泳動表示装置に組み込まれ得、これには、前記E InkおよびMITの特許および公開された出願で記述された種類の表示装置のいずれかが挙げられる。本発明は、本発明の電気泳動媒体と少なくとも1個の電極(これは、この媒体と隣接して配置され、そして媒体に電場を加えることができる)とを含有する電気泳動表示装置を提供する。このような表示装置は、スタイラス装置または類似の装置(これは、その上に書き込むために、この媒体を横切って移動できる)の形状で、第二電極を有し得る。本発明の電気泳動表示装置の1形状では、その電気泳動媒体の対向面に2個の電極が配置され、該電極の少なくとも1個は、実質的に透明であり、その結果、該電気泳動媒体は、該実質的に透明な電極を通って見ることができる。既に述べたように、本発明の電気泳動媒体がカプセル化されるとき、典型的には、これらのカプセルは、固形結合剤内で保持され、この表示装置の一方または両方の電極は、任意の好都合な方法(例えば、ホットラミネーション)により、この結合剤に固定され得る。
【0037】
さて、本発明の電気泳動媒体および表示装置で使用される特に好ましい試薬、条件および技術の詳細を明らかにするために、例としてのみ、以下の実施例を示す。
【0038】
以下の実施例は、本発明の3種の異なる好ましい媒体を使用し、便宜上、これらの好ましい媒体を、以下、それぞれ、「媒体A」、「媒体B」および「媒体C」と呼ぶ。これらの媒体は、着色していない懸濁流体と共に、重合体被覆したチタニア白色粒子および重合体被覆した黒色粒子を使用して、カプセル化した二重粒子型の全てであるが、下記の方法により調製した。媒体AおよびBで使用される懸濁媒体は、炭化水素(Isopar−G;これは、Exxon Corporation(Houston,Texas)から市販されている;「Isopar」は、登録商標である)およびハロゲン化炭化水素油(ハロゲン化炭化水素油1.8;これは、Halogenated Hydrocarbon Products Corporation(River Edge,New Jersey)−これは、以下、「Halocarbon」として、簡単に呼ぶ)の混合物であり、これは、分散剤(Solsperse 17000;これは、Avecia Ltd.(Blackley,Manchester,United Kingdom)から市販されている;「Solsperse」は、登録商標である)を含有する。媒体Cは、この懸濁流体中にて、Halocarbonを使用しない。
【0039】
(媒体A内相の調製)
カプセル化の準備が出来た媒体A内相1084.6gを製造するために、重合体被覆チタニア40.4gを、充填剤(Solsperse 17000)4.1g、界面活性剤(Span 85)4.1gおよび1:1(w/w)のIsopar/Halocarbon溶媒123gと混ぜ合わせることにより、媒体A前駆体542.3gを調製した。この分散体を一晩混合し、次いで、約1〜2時間にわたって、超音波処理した。別のジャーにて、重合体被覆したカーボンブラック1.7gを、1:1(w/w)のIsopar/Halocarbon溶媒123gと混ぜ合わせた;また、この分散体を一晩攪拌し、次いで、1〜2時間超音波処理した。次いで、このチタニアおよびカーボンブラック分散体を合わせ、そして1:1(w/w)のIsopar/Halocarbon溶媒246gで希釈した。媒体A前駆体を等質量の1:1(w/w)のIsopar/Halocarbon溶媒で希釈することにより、媒体A内相を調製した。ポリイソブチレンを含有する媒体では、下記のように、その最終希釈溶媒を、適切な濃度のポリイソブチレンを使って、調製した。Isopar Vを含有する媒体では、Isopar GをIsopar Vで置き換えて、上で規定した手順に従った。
【0040】
(媒体B内相の調製)
カプセル化の準備が出来た媒体A内相1000gを製造するために、チタニア120gおよびカーボンブラック9gを、別々に、重合体被覆した。重合体被覆したチタニアを、その自体の重量の3.0%の分散剤と混合し、そして1:1(w/w)のIsopar/Halocarbon混合物の30%(w/w)ストック溶液を構成した。重合体被覆したカーボンブラックは、同様に、マイクロフリューダイザーを使用して、約5%(w/w)のストック溶液に構成した。得られた2種のストック溶液を、十分な追加1:1(w/w)Isopar/Halocarbon混合物と混ぜ合わせて、その混合物1000gを作製し、これを、よく振盪して、そのカプセル化プロセスで使用する前に、少なくとも24時間、ロールミルで保存した。(ポリイソシアネートまたはIsopar Vを含有する媒体では、下記のように、この混合段階にて、この重合体を付加するか、Isopar GをIsopar Vで置き換えた)。
【0041】
(内相AおよびBのカプセル化、および表示装置の作製)
そのように調製した内相をカプセル化するために、4Lの反応器にて、40℃で、攪拌しつつ、ゼラチン(22.5g)を脱イオン水(1311.2g)に溶解したが、その溶液の表面で泡が発生しないように注意を払った。別に、アカシア(16.7g;これは、Sigma−Aldrichから入手できる)を脱イオン水(327.8g)に溶解し、得られた溶液を40℃まで加熱した。また、別に、上記内相(580g)を40℃まで加熱し、次いで、約15分間にわたって、このゼラチン溶液に加えた;そのゼラチン溶液は、この添加中に攪拌したが、その添加は、この内相を滴下漏斗(その出口は、ゼラチン溶液の表面より下に設置した)を通って導入することにより、行った。その内相の添加を完了した後、その攪拌速度を高め、この内相を小滴(これは、媒体Aについて約200μmの直径を有し、また、媒体Bについて約80μmの直径を有する)に乳化するために、攪拌を、40℃で、30分間継続した。
【0042】
次いで、このアカシア溶液を、約1分間にわたって加えたが、発泡を避けるように注意を払った。その混合物のpHは、10%酢酸水溶液を使用して、約4.9まで低下させ、同じ温度で、激しい攪拌をさらに40分間継続した。この混合物の温度を、引き続いて激しく攪拌しつつ、2時間にわたって、10℃まで低下させ、グルタルアルデヒド(8.35g)を加えた。この添加後、この混合物を徐々に25℃まで暖め、さらに12時間にわたって、激しく攪拌した。最後に、攪拌を止め、その混合物を、10〜15分間にわたって沈降させ、その間、その液体の上部にて、約25〜50mmの泡状混合物を分離した。
【0043】
次いで、その液相を除去して、この泡状混合物を反応器に残し、この液相内のカプセルを、脱イオン水中で沈降し再分散することにより、3回洗浄した。媒体Aのカプセルを大きさで分離して、100μmと300μmの間の直径(約200μmの平均直径)の分布を得た。媒体Bのカプセルを大きさで分離して、50μmと120μmの間の直径(70〜80μmの平均直径)の分布を得た;このような分布は、これらのカプセルを90秒間にわたって63μmの篩いにかけ、次いで、30秒間にわたって38μmの篩いにかけて行うことができ、最終カプセルスラリーが生成する。
【0044】
得られたスラリーを遠心分離し、次いで、結合剤1重量部:カプセル9重量部の比で、ウレタン結合剤(NeoRez R−9320;NeoResins(730 Main
Street,Wilmington MA 01887)製;「NeoRez」は、登録商標である)水溶液と混合し、スロット被覆添加剤として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース0.3重量%を加えた。得られた混合物を、125μm厚のインジウム−酸化スズ被覆したポリエステルフィルム(これは、そのスロット被覆ヘッドに対して、1m/secで移動している)にスロット被覆した。被覆したフィルムを10分間空気乾燥し、次いで、50℃で、15分間乾燥して、約50μm厚の電気泳動媒体(これは、事実上、単一層のカプセルを含む)を作製した(前記公開国際特許WO00/20922を参照)。
【0045】
次いで、そのように調製した電気泳動媒体の特性を調べるのに使用できる電気泳動表示装置を提供するために、その被覆フィルムのカプセル被覆面を、13ミル(330μm)間隙設定を備えたドクターブレードを使用して、前記NeoRez R−9320でオーバーコートし(この結合剤は、そのカプセル被覆面を平面化すると共に積層接着剤としても働く)、オーバーコートしたフィルムを、50℃で、20分間乾燥した。次いで、乾燥したフィルムを第二ポリエステルフィルム(これは、この電気泳動媒体に面する側で、インジウム−酸化スズで被覆した)に熱積層して、最終電気泳動表示装置または画素を製造した。
【0046】
(媒体C内相の調製)
カプセル化の準備が出来ている媒体C内相1064gを作製するために、重合体被覆チタニア406.8gをIsopar溶媒271.2gと混ぜ合わせることにより、第一媒体C前駆体678グラムを調製した。この分散体を一晩混合し、次いで、約1〜2時間にわたって、超音波処理した。別のジャーで、重合体被覆カーボンブラック16.7グラムをIsopat溶媒67.0グラムと混ぜ合わせた;次いで、この分散体を、高剪断分散した。次いで、このチタニアおよびカーボンブラックの分散体を混ぜ合わせ、そしてIsopar溶媒194.9g、Isopar溶媒中の充填剤(Solsperse 17000)の10重量%溶液48.8g、界面活性剤(Span85)5.2g、およびIsopar溶媒中の必要量の重合体で希釈した。得られた媒体C内相を、カプセル化前に、一晩混合した。
【0047】
(内相Cのカプセル化、および表示装置の作製)
そのように調製した内相をカプセル化するために、4Lの反応器にて、40℃で、攪拌しつつ、ゼラチン(66.7g)を脱イオン水(2622.2g)に溶解したが、その溶液の表面で泡が発生しないように注意を払った。別に、アカシア(66.7g;これは、Sigma−Aldrichから入手できる)を脱イオン水(655.6g)に溶解し、得られた溶液を40℃まで加熱した。また、別に、上記内相(1060g)を40℃まで加熱し、次いで、約15分間にわたって、このゼラチン溶液に加えた;そのゼラチン溶液は、この添加中に攪拌したが、その添加は、この内相を滴下漏斗(その出口は、ゼラチン溶液の表面より下に設置した)を通って導入することにより、行った。その内相の添加を完了した後、その攪拌速度を高め、この内相を小滴(これは、約40μmの直径を有する)に乳化するために、攪拌を、40℃で、60分間継続した。
【0048】
次いで、このアカシア溶液を、約1分間にわたって加えたが、発泡を避けるように注意を払った。その混合物のpHは、10%酢酸水溶液を使用して、約4.9まで低下させ、同じ温度で、激しい攪拌をさらに40分間継続した。この混合物の温度を、引き続いて激しく攪拌しつつ、2時間にわたって、10℃まで低下させ、グルタルアルデヒドの50重量%溶液(16.7g)を加えた。この添加後、この混合物を徐々に25℃まで暖め、さらに12時間にわたって、激しく攪拌した。
【0049】
次いで、その液相を除去して、この液相内のカプセルを、脱イオン水中で沈降し再分散することにより、1回洗浄した。これらのカプセルを大きさで分離して、20μmと60μmの間の直径(約40μmの平均直径)の分布を得た。このような分布は、これらのカプセルを90秒間にわたって38μmの篩いにかけ、次いで、90秒間にわたって25μmの篩いにかけて行うことができ、最終カプセルスラリーが生成する。
【0050】
得られたカプセルスラリーを、1重量%水酸化アンモニウム水溶液で、pH8に調整した。カプセルを遠心分離で濃縮し、次いで、結合剤1重量部:カプセル8重量部の比で、ウレタン結合剤水溶液で濃縮した。得られた混合物を、125μm厚のインジウム−酸化スズ被覆したポリエステルフィルムにバー被覆して、被覆したフィルムを1時間空気乾燥させた後、約20μm厚の電気泳動媒体(これは、事実上、単一層のカプセルを含む)を作製した。
【0051】
スロット−ダイスコーターを使用して、ポリエチレンテレフタレート剥離シート上に、ポリウレタン接着剤を被覆した。この被覆剥離シートを65℃のオーブンに移し、そして10分間乾燥した。被覆中にて、このスロットを通る流速および被覆ヘッド速度を調整して、乾燥したときに15μm厚の接着剤フィルムを得た。次いで、この被覆剥離シートを、Western Magnumロールラミネーターを使用して、マイクロカプセル化ポリエステルフィルムに積層した;乾燥した剥離シートをマイクロカプセル層の上部に置き、そして50PSI(0.46mPa)で、上部ロールを300°F(149℃)にし下部ロールを275°F(135℃)にして、0.7ft/分(3.5mm/秒)の線速度で、このラミネーターのニップで積層した。次いで、得られた積層体を冷却し、冷却した積層体から適切なサイズの断片を切り取ることにより、単一画素表示装置を作製し、その剥離シートを除去し、このフィルムを、その接着面を下にして、後部電極上に置き、前と同じ条件を使用して、このラミネーターに通した。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
本実施例は、媒体A中の懸濁流体にPIBを加えると、PIB添加により引き起こされる粘度上昇に帰因するものよりも高い画像安定性の上昇が得られることを説明している。
【0053】
一連の予備実験を行って、媒体AおよびBで使用した1:1(w/w)のIsopar/Halocarbon混合物の粘度に対する効果を決定した。この混合物それ自体は、25℃で、約0.0021Pa秒の粘度を有することが分かり、媒体AおよびBで使用した顔料を添加すると、この粘度が僅かに上昇した。
【0054】
添付の図4は、この溶液中のPIBの重量割合(χPIB)に伴う相対粘度(ηrel)(すなわち、その溶液粘度と、1:1(w/w)Isopar/Halocarbon混合物の粘度との比)の変化を示し、この変化は、予想した形状である;「最良適合」曲線は、この適合を決定するのに使用したデータには、図4でプロットされていない高いχPIB値が含まれていたこと以外は、このデータに立方多項適合する。この図は、前記PIB重合体18145−5および18146−3に対する重合体の重量割合の効果を示す。図4で示した全ての重合体濃度について、これらの溶液は、0.01〜10Pa(これは、Physica UDS制御応力レオメータにて、直径75mm、1°の円錐およびプレートの形状を使用して、測定した)の測定応力範囲にわたって、ニュートン型であり、これは、重力沈降中にて顔料粒子により流体に加えられた応力および粒子の電気泳動運動により加えられた応力の両方をカバーするのに十分であった。
【0055】
さらに別の実験を行い、PIBの濃度が異なる媒体Aを使用して、表示装置の画像安定性を決定した。これらの実験では、その画像安定性は、まず、42V切替パルスを使用して、画素を、多数のサイクルにわたって、それらの極端な黒色および白色状態に切り替えることにより、測定した;この工程は、同じ画素に対する先の測定から得られる履歴効果(もしあれば)を消すために、行った。これらのサイクルの直後、この画素の所定光学状態を生じるのに必要な電圧パルスを加え(このパルスの末端は、その画像安定性測定について、0時間と印した)、その後、50ms間隔で、この画素の光学状態の反射率を測定した。(軸を外れて照射した画素の時間の関数としての反射率は、光ダイオード検出器を使用して決定した。700〜400nmの範囲にわたって分光光度計を使って測定した反射率に対する電圧応答を較正することにより、光検出器電圧を反射率に変換したが、この場合、この分光光度計は、拡散反射率標準で較正した)。これらの結果を図5で示す。この図(および下記の他の図)では、反射率持続性は、アドレシングパルスの終了後に観察された最大値(一部の後の図における黒色状態については、最小値)から2単位だけ変化するのに明度Lに対して必要な時間として、定義される(例えば、Hunt,R.W.G.「Measuring Color」、3版、Fountain Press,Kingston−upon−Thames,England(1998)を参照。ISBN
0 86343 387 1));以下の図7および8で示すように、この最大値は、このアドレイングパルスの終了時には必ずしも起こらないことに注目すべきである。(この最大値からのLの変化の測定は、ユーザーが表示装置での画像の劣化に気づき始めるときの測定にほぼ相当している。ヒトの目は、広範囲の異なる時点で見える2個の表示装置間の明度の差に対してよりも、限られた時間にわたる所定表示装置の明度の変化に対して、ずっと敏感である。それゆえ、ユーザーは、表示装置が一定の絶対L値に達するときよりもむしろ、最近見た最も明るい画像(最大L)からの変化により、その表示装置に対する画像の劣化を判断する傾向にある)。
【0056】
図5の破線は、図4のPIB(18145−5)に対する粘度−濃度曲線(これは、重合体濃度ゼロでの反射率持続性に対して、縮尺した)であり、これは、ほぼ、重合体濃度に伴う反射率持続性の変化を示しており、これは、もし、反射率持続性の変化が顔料沈降と相関しているなら、予想される値であり、これは、順に、この重合体を加えることにより引き起こされる粘度の変化と相関している。
【0057】
PIBを使って達成される反射率持続性の変化が、単に、PIBを加えることにより引き起こされる粘度の変化が原因ではないことを示す代替手段として、その懸濁流体中のIsopar Gの一部をIsopar V(これは、同じ業者からの化学的に類似した溶媒であるが、粘度が高い)で置き換えた実験も行った。この置換の効果は、いずれの重合体も導入することなく、また、これらの電気泳動粒子により遭遇する化学環境を実質的に変えることなく、この懸濁流体の粘度を高めることにある。これらのIsopar V置換実験から得られる結果を、ポイント指定「w/IV」として、図5でプロットするが、これらのポイントは、同じ粘度のPIB含有媒体に対応して、横軸で、プロットしている。
【0058】
図5から、約0.9重量%より高いPIB濃度(χPIB=0.009)では、反射率持続性の上昇は、懸濁液の粘度に基づいて予測される値よりも高いこと、実験値と予測値との間の不一致は、PIB濃度と共に大きくなることが分かる。図5の縦軸の尺度は、対数であることに注目すべきであり、粘度変化に帰因しない反射率持続性の上昇は、実質的に、最初に見えるよりも相当に大きい;1.5重量%のPIB濃度(χPIB=0.015)では、この反射率持続性は、図5の破線で予測された値の約70倍であるか、Isopar V実験に基づいて予測された値の約30倍である。
【0059】
黒色状態の画像安定性に対する添加重合体の類似の効果もまた、観察されたが、その黒色状態の画像安定性を高めるのに必要な重合体の閾値濃度は、白色状態に必要な値よりもかなり低い。殆どの表示装置用途には、黒色および白色の両方の画像安定性を得ることが望ましいので、この実施例では、白色画像安定性に対する閾値濃度は、どの程度の量の重合体を加えるかを決定する。しかしながら、白色状態と黒色状態との間の閾値濃度の差とは、黒色状態の画像安定性が長時間にわたるか高められる(これは、この溶解性重合体を加えることにより、得られる)が白色状態の画像安定性に乏しいか他の手段で得られた白色状態の画像安定性を有する電気泳動媒体を作製することが可能であることを意味する。
【0060】
(実施例2)
本実施例は、媒体B中の懸濁流体にPIBを加えると、このPIB添加により引き起こされる相対粘度の上昇に帰因するものよりも高い画像安定性の上昇が得られることを説明している。
【0061】
15V切替パルス(これは、媒体Bが設計された切替電圧である)を使用したこと以外は、媒体Bを使って、実施例1のPIBおよびIsopar Vの添加実験を繰り返した。これらの結果を添付の図6で示すが、この図からは、媒体Bを使って達成された結果が、PIBを使って得られる反射率持続性の向上が高濃度(約1.1重量%より高い)でのみ起こること以外は、上記実施例1で記述したように、媒体Aで得られたものと定性的に類似していることが分かる。
【0062】
(実施例3)
本実施例は、PIBの添加と共に媒体AおよびBを使用して得られた画像が、事実上同じ粘度の懸濁流体を有するがPIBを欠いている変性媒体AおよびBから得られる画像よりもゆっくりと劣化することを説明している。
【0063】
媒体Aの表示装置は、1.47%のPIB(これは、3.90の相対粘度(ηrel;変性した媒体の粘度と未変性媒体の粘度との比)を生じるように加えた)を使って作製した。類似の媒体A表示装置は、類似の相対粘度(ηrel=3.60)を生じるように、Isopar Vを使用することにより、作製した。また、類似の対の媒体Bを作製したが、一方は、1.40重量%のPIB(ηrel=3.66)で変性し、また、他方は、Isopar V(ηrel=3.60)で変性した。
【0064】
両方の対の表示装置を、上記実施例1および2で記述したように、それらの白色状態に駆動し、時間の経過と共に、全部で4個の表示装置のL値をモニターした。媒体A表示装置のついての結果は、図7に示し、また、媒体B表示装置についての結果は、図8に示す。両方の場合、PIB含有媒体の反射率持続性は、Isopar Vを含有する媒体のものよりもずっと高い;この媒体A表示装置では、そのPIB変性媒体は、Isopar
V変性媒体の約230秒と比較すると、1200秒を相当に超える反射率持続性を有するのに対して、媒体B表示装置では、PIB変性媒体は、Isopar V変性媒体の約70秒と比較すると、約390秒の反射率持続性を有する。
【0065】
これらの実験は、再度、PIB変性媒体は、PIBを加えることにより引き起こされる懸濁流体の粘度上昇が原因のものよりもずっと大きい画像安定性の向上を示すことを明らかにしている。
【0066】
(実施例4)
本実施例は、本発明により、電気泳動表示装置の極端な(黒色および白色)光学状態だけでなく、中間の灰色状態の安定化も可能であることを説明している。
【0067】
PIBの1.53重量%の媒体Aを使用して、表示装置を作製した。この表示装置を、上記実施例1で記述したようにして、その黒色状態および白色状態に駆動し、また、その黒色状態および白色状態からの表示装置を変えるのに必要な値よりも短い駆動パルスを使用することにより、中間灰色状態に駆動した。3つの状態の全てのL値を、時間の経過と共にモニターし、それらの結果を、図9で示す。この図から、このPIBを添加が、その黒色状態および白色状態だけでなく中間灰色状態を安定化するのにも成功したことが分かる。
【0068】
(実施例5)
本実施例は、本発明により得られる画像安定性の向上が、温度により著しい影響を受けないことを説明している。
【0069】
上記実施例4と同じPIB含有媒体Aを、25℃、35℃および45℃の温度で維持しつつ、上記実施例1で記述したようにして、その黒色状態および白色状態に駆動し、両方の状態のL値を、時間の経過と共に、モニターした。これらの結果を、図10で示すが、この図から、PIBの添加により得られる画像安定性の向上は、温度の影響を実質的に受けなかったことが分かる。(その黒色状態のLの差は、PIBを添加しなくても、この媒体に特徴的であり、これらの差は、この黒色を引き起こすのに使用する駆動パルスの特徴を変えることにより、少なくできる。しかしながら、本当に並行した比較を行うために、これらの実験では、その駆動パルスの特徴のこのような調整を行わなかった)。
【0070】
(実施例6)
本実施例は、本発明の電気泳動媒体で使用される重合体の最適な分子量範囲を決定する方法を説明している。
【0071】
(A部:分子量範囲に伴う固有粘度の変化)
広範囲な分子量範囲にわたる一連のポリイソブチレンは、Sigma−AldrichおよびScientific Polymer Products,Inc.から購入した;これらの業者によれば、この一連のポリイソブチレンは、約10〜4.6×10の範囲の粘度平均分子量(M)を有する。各ポリイソブチレンを、媒体AおよびBを調製するのに使用した脂肪族炭化水素/ハロ炭化水素溶媒に別々に溶解し、得られた溶液の25℃での固有粘度を、図4で示したデータを調製するのに上記実施例1で使用した方法と同じ方法で測定した;それらの結果を、図11で示す。
【0072】
高分子化学の当業者に周知であるように、図4で示したような粘度データは、その重合体および溶媒系についての固有粘度を決定するのに使用できる。固有粘度(「η」)は、比粘度(ηsp)と重合体濃度(C)との比のゼロ濃度限界として定義され、この場合、比粘度は、(ηrel−1)として定義される;従って、[η]は、図4で提示したようなデータから、直接決定できる(例えば、Flory,P.J.「Principles
of Polymer Chemistry」,Cornell University Press:Ithaca,New York(1953)を参照)。固有粘度[η]は、重合体が溶媒の粘度を高める能力の尺度である;それは、分子量と共に高くなり、特定の重合体の化学的性質について、溶媒の品質または溶媒の適合度に敏感である。
【0073】
図11で示した線は、このデータに対する最良の線形適合であり、その勾配は、0.61である。この勾配は、Staudinger−Mark−Houwink等式での指数部aを表している:
[η]=kM
ここで、Mは、粘度平均分子量であり、そしてkは、定数であり、図11で示した最良適合の切片である(Hiemenz,P.C.「Principles of Colloid and Surface Chemistry」、Marcel Dekker,New York,New York(1986)を参照)。重合体および溶媒に伴う変動の値は、典型的には、0.5<a<0.8の範囲に入る。例えば、「Polymer
Handbook,3版」、J.Brandrup and E.H.Immergut(著)、Wiley Interscience:New York,New York(1989)を参照。0.5の値は、溶解した重合体に対するシータ溶解力条件を示し、この場合、重合体/溶媒対に対するシータ溶解力とは、その溶媒から無限分子量の重合体が沈殿する状態である。高いaの値(例えば、0.7またはそれ以上)は、良溶解力、すなわち、潜在的な断熱溶解力を示している。従って、図11で観察された0.61の勾配は、この脂肪族炭化水素/ハロゲン化炭化水素溶媒混合物が、25℃で、PIBに対して、中程度に良溶媒であることを示している。
【0074】
重合体の粘度平均分子量を決定する方法として、固有粘度測定を使用することは、一般的である。例えば、もし、同じ化学的性質を有する一連の異なる分子量の重合体があるなら(この場合、それらの分子量は、他の方法(例えば、光散乱またはゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で決定した)、特定の溶媒中で固有粘度を測定すると、図11で示すように、固有粘度対公知分子量のプロットが作成できる。結果的に、その化学的性質を有する重合体の新しい試料の固有粘度を測定することにより、図11のようなプロットを使用して、その試料の粘度平均分子量が測定できる。これは、実験的な手順であり、各重合体の化学的性質と溶媒との組合せについて確立しなければならない。しかしながら、図11のような曲線に関連した所定重合体試料については、例えば、一連の溶媒混合物または一定範囲の温度にわたって、溶媒型の関数として固有粘度を測定すると、相対的な溶媒和力が判断できる。図11で使用される任意の所定の重合体試料について、例えば、温度または脂肪族炭化水素/ハロゲン化炭化水素溶媒混合物の混合物比の変化が原因の図11で示した値からの固有粘度の低下は、その溶媒の品質が悪化したことを示唆している。
【0075】
(B部:インクの画像安定性)
A部と同じ重合体を使って、媒体Bを使用して、表示装置の画像安定性を決定するために、さらに別の実験を行った。各重合体について、適切な粘度範囲が含まれることを保証するために、図11を使用して、異なる濃度の重合体を有する表示装置を作製した。上記と同じ様式で、各表示装置について、白色状態および黒色状態の画像安定性を測定し、画像安定性を、図6と同じ様式で、各重合体について、相対粘度の関数としてプロットした。
【0076】
一般に、各重合体に対する相対粘度の関数としての画像安定性挙動は、定量的に、図5および6で図示したものと類似している;異なる分子量の重合体の全ては、一旦、その重合体濃度が特定の閾値濃度よりも高くなると、画像安定性が向上した。
【0077】
画像安定性の向上が観察された最も低い相対粘度は、重合体の開始濃度として示した;この開始濃度は、重合体の分子量が高くなると共に、単調に低下した。媒体Bの粘度は、重合体の濃度および分子量と共に変わるので、また、殆どの実用用途では、通常、その表示装置の最適切替時間をできるだけ短くするために、媒体の粘度をできるだけ小さくすることが重要であるので、開始相対粘度として、画像安定性を高めるのに必要な重合体の閾値または開始濃度を測定することが有用である。図12は、重合体の粘度平均分子量の関数として、この開始相対粘度を示している。図12で示した曲線より下の重合体濃度では、媒体Bは、その重合体溶液の粘度に呼応した画像安定性を示す。これは、図13で図示されており、この図は、媒体Bの相対粘度の関数として、画像安定性(IS)を示している(この場合、ηrelは、種々の分子量の重合体を添加することにより、変化した)。図5および6と同様に、図13の破線は、粒子沈降に対する粘度基準化がηrel=3.1に対して垂直にシフトしたことを示している;この図は、その開始濃度(これは、図12で示している)よりも低い濃度で、画像安定性に対する重合体の効果が、相対粘度に対する効果だけに原因することを示している。
【0078】
この開始濃度よりも高い重合体濃度(従って、高い相対粘度)では、媒体Bは、その媒体の粘度に関して、著しく向上した画像安定性を示す。一般に、所定重合体分子量に対して、重合体の濃度が開始濃度よりも高くなるにつれて、画像安定性が向上するが、一部の重合体分子量について図6で示すように、重合体濃度に伴う画像安定性の上昇は、極めて強い。他のもの(例えば、4,600,000g/moleのポリイソブチレン)については、その上昇は、弱い。従って、任意の所定分子量を有する重合体については、その重合体濃度は、一定程度の画像安定性を達成するように「調整」できる。(本実施例で提示したデータは、画像安定性が、重合体濃度の上昇とは無関係に向上することを暗示するものではない。いずれにしても、その相対粘度がある点(すなわち、5または6)を超えて高くなると、その媒体の光学切替時間は、遅くなりすぎて、商業上、重要ではなくなる。それに加えて、一旦、画像安定性が、例えば、10または10秒より高くなると、画像安定性の差を数量化することが困難となる)。
【0079】
図12は、高い画像安定性を達成するのに必要な開始相対粘度をできるだけ低くするために、(これらの試験で使用される懸濁流体中で)、約730,000g/moleのMを有するポリイソブチレンを使用するべきであることを示す。もちろん、実用的な電気泳動媒体は、その開始相対粘度で観察されるものよりも高い画像安定性が必要であり得る。しかしながら、図14は、もし、例えば、400秒の画像安定性が望ましいなら、これは、730,000g/moleのMを有するポリイソブチレンを使用することにより、最も低い相対粘度で、達成できることを示している。
【0080】
本実施例で記述した実験は、画像安定性を得るのに必要な濃度(従って、相対粘度)が、加えた重合体の分子量に依存していることを示している。一般に、電気泳動媒体の光学切替時間をできるだけ短くすることが望ましいので、また、特定の画像安定性を生じるのに必要な重合体の添加が原因の粘度上昇をできるだけ少なくすることが望ましい。B型の媒体(この場合、その炭化水素/ハロカーボン懸濁流体は、広範な分子量範囲の市販のポリイソブチレンに対して、中程度に良溶媒である)については、その最適粘度平均分子量は、400,000<M<1,200,000g/moleの範囲に入る。
【0081】
(実施例7)
本実施例は、本発明の電気泳動媒体中で低い多分散指数を有する重合体を使用することを説明している。
【0082】
上記実施例6で使用したポリイソブチレンは、1.5を超える多分散指数(PDI)で示すように、広範な分子量分布を有する安価な市販の物質である。これらの重合体の分子量分布は、テトラヒドロフラン中のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析し、以下の表1は、実施例6で使用した重合体の一部の数平均分子量(M)、重量平均分子量(M)およびPDI(=M/M)について得られた値を示している。これらの試料は、業者が報告した粘度平均分子量Mに従って、整理した。
【0083】
(表1.市販のPIB試料の分子量)
【0084】
【表1】

実施例6で示すように、画像安定性を向上させる開始濃度は、その重合体の分子量に依存しているので、狭い重合体分子量分布が低い相対粘度で高い画像安定性を生じると推測する理由があった;その分子量分布を狭くすることにより、実際、所望の画像安定性を達成するのに最適には寄与しない低分子量および高分子量物質を除去する。従って、Polymer Standards Service−USA Inc.(Silver Spring,MD)およびAmerican Polymer Standards Corporation(Mentor,OH)から、狭い分子量範囲のポリイソブチレン試料を購入した。これらの製造業者によれば、これらの狭い分散のポリイソブチレンは、市販の高分子量ポリイソブチレンを分別することにより、調製された。GPCおよび光散乱により決定した分子量分布は、製造業者が報告しているように、以下の表2に載せる。表2はまた、本発明者および彼の同僚が測定したように、媒体Bでの懸濁流体として使用した炭化水素/ハロカーボン混合物中での重合体の固有粘度を載せている。
【0085】
(表2.狭い分布のPIB試料の分子量および固有粘度([η]))
【0086】
【表2】

粘度に対する分子量分布範囲の効果は、表1のMが400,000の重合体と表2のMが451,000の重合体とを比較することにより、分かる。表1の重合体の重量平均分子量は、表2の重合体のものより僅かに低いものの、表1の重合体の固有粘度および相対粘度は、表2の重合体のものよりも高い。これは、表1の重合体の高分子量成分がその溶液の粘度に対する不釣り合いに高い寄与を引き起こすので、起こる。これらの高分子量成分は、電気泳動媒体の画像安定性を向上させるほどには多く加えられないと考える理由があったので、画像安定性の向上は、その重合体の分子量分布の幅を狭くすることとにより、低い相対粘度で達成できると思われた。
【0087】
表2の重合体の限られた量だけが利用でき、それらの単位重量あたりの価格は、表1の重合体のものよりも数桁高いので、開始濃度の決定は、粘度平均分子量(M)に対して縮尺した開始濃度([η]CPIB)として、図12で示したデータを再プロットすることにより洗練され、この場合、CPIBは、高い画像安定性の開始に到達するのに必要な重合体の濃度である。これらの結果は、図15で示すが、これは、高い画像安定性を得るのに必要な重合体の開始濃度が[η]−1として概算できることを示している。
【0088】
従って、媒体B表示装置は、[η]−1濃度ガイドを含む範囲の重合体濃度にわたって、表2の重合体を使用して、作製された。図16は、表2の重合体の重量平均分子量に対して、400秒の画像安定性を達成するのに必要な相対粘度を示し、また、表1の重合体について図13から得られる対応するデータを再生している。この図は、その重合体の分子量分布を洗練するか狭くすることにより、著しく低い相対粘度で、高い画像安定性が達成できることを示している。例えば、Mが508,000の表1(広い分布)重合体では、少なくとも400秒の画像安定性を得るのに必要なηrelは、約3.7であったのに対して、Mが583,000の表2(狭い分布)重合体では、類似の画像安定性は、約2.5のηrelで観察された。
【0089】
図16はまた、[η]−1規則により、画像安定性を生じるのに必要な重合体の開始濃度を予測する優れた出発点が得られることを図示している。この図では、太線は、表2重合体の画像安定性についての[η]−1規則の予測値を示しており、この場合、媒体B懸濁流体中でのこれらの重合体について実験的に決定した[η]値は、表2で示している。[η]は、その分子量分布および重合体用の電気泳動媒体の懸濁流体の溶媒品質に敏感であるので、この結果は、この[η]−1規則が、電気泳動媒体中での高い画像安定性の開始を生じるのに必要な溶解性重合体の濃度を予測する一般方法を提供することを示している。
【0090】
本実施例で記述した実験は、本発明に従って溶解性重合体を加えることにより起こる電気泳動媒体の相対粘度の上昇が、添加重合体の分子量分布の幅を狭くすることにより、できるだけ小さくできることを示している。実施例6で使用した重合体は、1.6〜殆ど3の範囲の多分散指数を有していた。そのPDIを1.3未満に低くすることにより、その重合体の添加が原因の相対粘度の上昇は、所定Mを有する重合体に対して、30%より多く減少できる。この規則は、本発明で画像安定性を得るために、広範で多様な分布の重合体の使用を排除するものではない;実際、一部の市販のポリイソブチレンは、極めて広い分子量分布を有するが、依然として、本発明で有用である。
【0091】
また、本実施例で記述した実験では、高い画像安定性を生じるのに必要な重合体の最低濃度(従って、特定の分子量に対する最低粘度)を推定する規則が得られる。この規則は、高い画像安定性を生じるのに必要な所定分子量の開始濃度が[η]−1付近で見られることである。この規則は、電気泳動媒体で重要であり得る他の重合体/懸濁システムでの調合に指針を与えるのに適用できるので、有用である。それゆえ、例えば、もし、異なる電気泳動媒体または懸濁流体中でポリイソブチレンを使用したいなら、新しい懸濁流体でのポリイソブチレンの[η]を測定し、次いで、媒体相対粘度の上昇が最低で画像安定性を向上させる重合体濃度が[η]−1付近で見られると推定し、その調合の最適化を、重合体濃度の範囲(すなわち、0.5[η]−1<CPIB<1.5[η]−1の範囲)に集中する。この規則はまた、他の種類の重合体を使用するときにも適用できるが、許容できる重合体および懸濁流体の溶媒品質といった別の考慮も必要である;これは、以下の実施例8で説明する。
【0092】
(実施例8)
本実施例は、本発明の電気泳動媒体で使用される重合体用の懸濁流体で必要な溶媒品質を説明する。
【0093】
図11のデータを作成するのに使用される実験を、同じポリイソブチレンを使用するが、先に使用した炭化水素/ハロカーボン混合物中ではなく、媒体Cで使用した純粋な脂肪族炭化水素懸濁流体中で繰り返した;これらの結果を、図17で示す。この図での最良線形適合線の勾配は、0.73であり、これは、この炭化水素がポリイソブチレンに対して良好な溶媒であるが、先に使用した炭化水素/ハロカーボン混合物よりも良好な溶媒かどうかは、(データが不確実であり、また、試料の数が少ないことを考えると)確かではないことを示している。
【0094】
媒体C表示装置は、Mが730,000g/moleのポリイソブチレンを使用して作製したが、この場合、重合体の濃度は、先の実施例で誘導した一定[η]CPIBを使用して、決定した。作成した表示装置は、上記実施例6で作製した媒体B表示装置の挙動に基づいて予想されたものと匹敵する画像安定性を有していた。
【0095】
図11および17のデータは、少なくとも25℃で、媒体AおよびB表示装置で使用した炭化水素/ハロカーボン混合物中のハロカーボンの量の増加が、ポリイソブチレン用の懸濁流体の全体的な品質を低下させることを示唆している。実際、ポリイソブチレンは、ハロカーボンを加えることにより、脂肪族炭化水素の濃厚溶液から沈殿でき、このことは、ポリイソブチレンがハロカーボンそれ自体に溶解性がよくても乏しいことを示唆している。図18は、その懸濁流体中でのハロカーボンと脂肪族炭化水素との質量比の関数として、一連の媒体C表示装置の白色画像安定性能を示している。図18は、ハロカーボンの濃度が高くなるにつれて、その画像安定性が乏しくなることを示している。80重量%のハロカーボンを使うと、その表示装置は、ポリイソブチレンが存在していないように挙動し、実際、これは、これらの表示装置を作製するのに使用される濃厚ポリイソブチレンストック溶液がこのような懸濁流体と混ざらないという観察と一致している。図18はまた、Mが730,000g/moleのポリイソブチレンの固有粘度が、溶媒比の関数として示している;ハロカーボン含量の増加に伴う[η]の低下は、その溶媒の品質が乏しくなることを示している。これらの観察に基づいて、電気泳動表示装置において、高い画像安定性を生じる重合体および懸濁流体を選択するための溶媒品質の規準が示唆できる:この重合体/懸濁流体の組合せは、その流体が室温で重合体に対して少なくともシータ溶媒であるようでなければならない。高い画像安定性となる温度範囲を広くするために、この懸濁流体は、少なくとも、この重合体に対して、中程度に良溶媒から良溶媒であるべきである。先に記述したように、これは、分子量に伴う固有粘度の指数(scaling exponent)aで示すことができ、この場合、上記規準は、少なくとも0.5、最適には、0.55<a<0.8の勾配を示唆している。
【0096】
図18で示したデータを作るのに使用した表示装置を作製する際に、[η]に対する溶媒品質の効果について補正を行わなかったが、図示しているように、[η]は、ハロカーボン含量の上昇と共に低下したことに注目せよ。先の段落で特定した最適な溶媒品質範囲にわたって、ハロカーボン含量の上昇と共に、溶媒品質の低下に対して補正するために、一定の[η]CPIB規則が使用できる。
【0097】
本実施例で提供したデータは、電気泳動表示装置で高い画像安定性を生じる重合体/懸濁流体の組合せに許容できる溶媒品質の範囲を規定している。このデータは、一定範囲の懸濁流体にわたって、高い画像安定性を生じるために、ポリイソブチレンが使用できること、また、その流体が重合体用の少なくとも中程度の良溶媒であると確認されたとき、良好な高い画像安定性が認められることを示している。ポリイソブチレン用の流体の溶媒品質が、その組成を変えることにより、悪くなるにつれて、その画像安定性は、低下する。可能な限り最も広い操作温度範囲にわたって、高い画像安定性を生じるためには、重合体/懸濁流体の組合せは、室温での分子量との固有粘度に対する指数aが0.55<a<0.8の範囲内に入るように選択すべきであり、aの値が高いほど、良好となる。
【0098】
媒体C表示装置の画像安定性は、媒体AおよびB表示装置の顔料濃度とは実質的に異なるが、また、画像安定性を誘発する際の重合体の有効性が広い顔料濃度にわたって維持できることを立証している。
【0099】
(実施例9)
本実施例は、数時間から数日の画像安定性を有する電気泳動媒体の作製を説明している。
【0100】
上記のように作製した媒体C内相の各1064gにて、Isopar溶媒中の粘度平均分子量が730,000のポリイソブチレンの13重量%溶液53.5gを使用して、媒体C表示装置を作製した。次いで、これらの表示装置を、5つの異なる型の光学状態遷移(すなわち、黒色−白色(b→w)、白色−黒色(w→b)、黒色−灰色(b→g)、白色−灰色(w→g)および灰色−灰色(g→g))に供し、この場合、黒色および白色は、この表示装置の極端な光学状態を示している。黒色−白色(b→w)および白色−黒色(w→b)の遷移は、0.3秒間にわたって、その媒体を15Vに晒すことにより行い、それに対応して、他の遷移には、それより短い駆動パルスを適用した;この単一駆動パルスの適用後、この表示装置は、各実験の残りでは、出力を供給しないままにした。各表示装置のL値は、この駆動パルスの適用中および適用後、先に記述した様式で測定し、それらの結果を、図19で示す。これらの測定の時間スケールは、8桁をカバーするので、各遷移の開始は、デジタル化されているように見える。
【0101】
図19は、これらの表示装置の白色状態および黒色状態が10秒程度の画像安定性を示すことを明らかにしている。例えば、図19のb→w遷移を注意深く研究すると、その駆動パルスが完了した後、白色状態の明度にゆっくりとした減衰があったことが明らかになる;しかしながら、図19に含まれる時間スケールにわたる全減衰は、依然として、約1〜2Lの規模にすぎず、その画像安定性は、10秒よりも大きい。その測定時間が10秒を超えるとき、明度の最も著しい変化は、その変化速度が極端に低い値まで低下しつつ、比較的に短い時間で起こる。実際、これらの明状態は、数ヶ月(すなわち、10秒を超える期間)持続することが視覚的に観察されたが、この非常に長い時間の画像安定性は、定量的には、追跡されなかった。その画像安定挙動は、数ヶ月の切替にわたって再現性であり、明状態での表示装置の長期間滞留(residence)は、引き続いた遷移において、その明度を達成する性能に影響を与えない(すなわち、永久的な画像の保持または画像のバーンインは、観察されなかった)。
【0102】
図19はまた、媒体Cの灰色状態が画像安定性であることを示しており、これは、その黒色状態および白色状態について観察されたものと類似した明度減衰速度を示す。そのように実証された灰色状態画像安定性により、電気泳動表示装置において、画素を切り替える一般画像流れ波形(すなわち、灰色−灰色アドレシング)を開発することが可能となる。
【0103】
本実施例は、媒体C型電気泳動媒体での一般的な画像安定性を説明しており、黒色状態および白色状態ならびに中間の灰色状態での安定性を示す。本実施例はまた、所定表示状態の安定性が、同じく、この状態が達する経路とは無関係であること、また、低電圧の急速にアドレスした電気泳動媒体では、非常に長期の画像安定性(少なくとも10秒のオーダー)が達成できることを示している。
【0104】
(実施例10)
本実施例は、実施例9で示した種々の状態の画像安定性が温度と実質的に無関係であることを説明している。
【0105】
携帯情報機器(例えば、携帯情報端末(PDA’s)および他の消費者装置)は、通常の使用中にて、広範囲の温度に晒され、それゆえ、機器および装置で使用される表示装置は、(典型的には)、0〜50℃の範囲で操作する必要がある。実施例9で記述した実験を、この温度範囲にわたって繰り返し、その画像安定性がこの範囲内の温度で実質的に影響されないことを確認した。
【0106】
また、ある温度で表示装置を特定の光学状態に駆動したときに何らかの変化が起こるかどうかを決定するために実験を行ない、その後、その表示装置の温度を変えた。さらに具体的には、実施例9で使用した表示装置を、その実施例で記述した様式にて、25℃で、それらの黒色状態、灰色状態および白色状態に駆動し、その後、その温度が0〜50℃の範囲にわたって変わっている間、出力を供給しないままにした。それらの結果を、図20で示す;この図の下部は、時間が経つにつれた黒色、灰色および白色表示装置の温度変化を示すのに対して、この図の上部は、時間が経つにつれたLの変化を示す。この範囲内での温度変化は、これらの表示装置の光学状態に実質的に効果がなかったことが分かる。
【0107】
本実施例は、ポリイソブチレンのような重合体が、表示装置の典型的な操作温度範囲にわたって画像安定性を達成するのに使用できるこを示している。この種の画像安定性を有する表示装置は、その外部環境温度が表示装置の温度を著しく変えても、画像を維持すると予想できる。
【0108】
(実施例11)
本実施例は、本発明に従って電気泳動媒体に重合体を加えると、その媒体に加えられる低電圧インパルスに対する非線形応答が得られることを説明している。
【0109】
上記媒体Bと実質的に同じ懸濁流体、界面活性剤、結合剤、積層接着剤および製作プロセスを使用するが、上記媒体Cと実質的に同じ顔料装填およびカプセルサイズを使って、ハイブリッド媒体B/媒体C表示装置を作製した。このハイブリッド媒体は、ηrelが3.3になるような濃度で、ポリイソブチレン(18146−3)を含有していた。この表示装置は、500ミリ秒で15Vの駆動パルスを使用して、その黒色状態と白色状態の間で切り替え、10秒を超える画像安定性を有していた。図21の破線で示すように、この白色状態は、68のL値を有し、また、この黒色状態は、22のL値を有していた。
【0110】
この表示装置を、低電圧を使用して、その黒色状態と白色状態との間で切り替えるように作製したとき、その表示装置の応答は、実質的に非線形であることが観察された。図21の白丸は、電圧とインパルスを有するパルス長との組合せを有する駆動パルスを表示装置の黒色状態に適用することから得られるL値(すなわち、時間に対する印加された電圧の積分)を示し、これは、その黒色状態を白色状態に完全に切り替えるのに足りる15V、500ミリ秒のパルスの値と同じである。図21から、約10V未満では、加えたインパルスに対する表示装置の応答が実質的に非線形になることが分かる。例えば、この表示装置に2Vを3750ミリ秒間加えると、このような駆動パルスのインパルスが15V、500ミリ秒のパルス(これは、Lを22から68へと上げる)と同じであっても、22から約34へのLの変化を生じるにすぎない。図21の黒丸は、500ミリ秒の規定電圧を加えることにより得られるL値を示す;この期間にわたって表示装置に2Vを加えると、2単位未満のLの変化が生じることが分かり、この変化は、視覚的に殆ど感知できず、その結果、この表示装置は、見かけ閾値を示す。注意深く観察すると、この表示装置は、依然として、たとえゆっくりでも、低電圧で切り替わっていることを示すので、Lの許容できる変化に依存して、3750ミリ秒より短い時間スケールにわたって、見かけ閾値は、2Vで観察される。図21は、その黒色から白色への遷移のデータを示しているにすぎないものの、白色から黒色への遷移についても、類似の挙動が観察された。
【0111】
この弱い閾値挙動は、それによって表示装置が任意のDCオフセット寄生電圧(これは、典型的には、正バイアスおよび負バイアスの両方の数百mVまでであり、活性マトリックス表示装置のバックプレーンで存在している;これらの寄生電圧は、このバックプレーンのトランジスタに電力供給するときはいつでも、連続的である)に非感受性となるので、有利である。
【0112】
この電気泳動媒体のインパルス非線形性は、高い画像安定性を生じるのに使用される重合体の濃度を変えることにより、調節できることが分かった。この非線形性の度合いは、任意の所定分子量の重合体について、その開始濃度より高い濃度より高い濃度に重合体濃度を高めると共に、大きくなる。このインパルス非線形性の度合いが大きくなるにつれて、電気泳動表示装置は、高い見かけ閾値を示す。高い閾値は、パッシブマトリックスアドレッシングスキームで電気泳動媒体を使用可能にする望ましい属性であり得る。
【0113】
本実施例は、本発明に従って高い画像安定性を得るために懸濁流体に重合体を加えると、また、その媒体の光学応答が変わり、この応答を、レオロジーの点で強力なずり減粘挙動と類似した様式で、インパルスに対して非線形にする。この非線形インパルス応答により、この媒体は、電圧閾値挙動を示すと思われる。この非線形性の性質または程度は、この重合体の濃度を調節することにより調節でき、その非線形挙動の度合いは、重合体濃度を高くすると共に大きくなり、その開始濃度より高い濃度で、著しくなる。この現象は、安価なパッシブアドレス表示装置を開発するのに有用であり得る。
【0114】
この非吸収性重合体を含有させること以外に、本発明の電気泳動媒体は、上記特許および特許出願と同じ成分および製造技術を使用し得、読者は、それらを参照して、さらに詳しい情報が得られる。
【0115】
前述の記述から、本発明は、電気泳動表示装置により生じる画像の安定性の実質的な向上を提供し、それにより、特に、携帯機器(ここで、その表示装置のエネルギー消費は、非常に重要である)のような用途で、このような表示装置の有用性が高まることが分かる。さらに、本発明をうまく変えることにより、安価で非毒性の材料(これらは、商業的に容易に入手できる)を使用して、画像安定性の向上が達成できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の粒子(108;108、218;218、320)を含有する電気泳動媒体(100;200;300)を有する電気泳動表示装置であって、該粒子(108;108、218;218、320)は、炭化水素懸濁流体(106;206;306)に懸濁され、該媒体(100;200;300)に電場をかけると、該懸濁流体(106;206;306)を通って、移動でき、該懸濁流体(106;206;306)は、その中で、重合体を溶解または分散し、該重合体は、該懸濁流体(106;206;306)中で固有粘度[η]を有し、該表示装置は、少なくとも1個の電極(110、112)をさらに有し、該電極は、該媒体に隣接しており、そして該媒体に電場を加えることができ、該表示装置は、該重合体が該懸濁流体中でイオン性基またはイオン化可能基を事実上含まないこと、および該重合体が0.5[η]−1〜2.0[η]−1の濃度で該懸濁流体(106;206;306)中にて存在していることを特徴とする、電気泳動表示装置。
【請求項2】
前記媒体がカプセル化されており、前記懸濁流体および前記粒子が、複数のカプセル内で保持されることを特徴とする、請求項に記載の電気泳動表示装置。
【請求項3】
前記媒体が2相型であり、前記懸濁流体および前記粒子が、非連続相を形成し、該非連続相が、複数の小滴を有し、該小滴が、連続相によって取り囲まれていることを特徴とする、請求項に記載の電気泳動表示装置。
【請求項4】
前記媒体が異なる電気泳動移動度を有する異なる2つの型の粒子を有する二重粒子型であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の電気泳動表示装置。
【請求項5】
少なくとも1,000秒の画像安定性によって特徴付けられる、請求項1〜のいずれか1項に記載の電気泳動表示装置。
【請求項6】
少なくとも10,000秒の画像安定性によって特徴付けられる、請求項に記載の電気泳動表示装置。
【請求項7】
前記電気泳動媒体の対向面に2個の電極(110、112)が配置され、該電極の少なくとも1個が、実質的に透明であり、その結果、該電気泳動媒体が、該実質的に透明な電極を通して見ることができることによって特徴付けられる、請求項1〜のいずれか1項に記載の電気泳動表示装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−2933(P2010−2933A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232048(P2009−232048)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【分割の表示】特願2002−577640(P2002−577640)の分割
【原出願日】平成14年4月2日(2002.4.2)
【出願人】(500080214)イー インク コーポレイション (148)
【Fターム(参考)】