説明

画像形成物

【課題】吸液性基材の記録表面に、光沢のある一の領域と光沢のない他の領域とを含む画像が形成された画像形成物を、好適に形成することができる技術を提供することを目的とする。
【解決手段】吸液性を有する吸液性基材200の記録表面210への画像の形成について、エネルギー硬化型インクのインク滴が付与されて硬化したインクドット232,242で形成された、一の領域220A,220B,220Cでは記録表面210が露出しないようにし、インクドット252で形成された他の領域250では記録表面210が露出するようにし、光沢感に差をもたせた画像形成物100とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクドットによって画像が形成された画像形成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクを吐出して記録媒体に画像を形成(記録)するインクジェット記録に関する技術(構成)が提案されている。例えば、活性エネルギー線を照射することによって硬化するインクを記録媒体上に吐出する記録ヘッドと、吐出されたインクに活性エネルギー線を照射する照射装置と、記録媒体又は記録ヘッドの少なくともいずれか一方を移動させる移動機構と、記録媒体の最大吸液量又は一定時間後の吸液量が閾値を超えるときは、インクが記録媒体に着弾してから活性エネルギー線がインクに照射されるまでの時間を短くするように移動機構を制御するとともに吐出させるインクの量を減少させるように記録ヘッドを制御する制御部を備えたインクジェット記録装置が提案されている。なお、このインクジェット記録装置によれば、画質の揃った高精細な画像を得ることができる。また、単位面積当りのインク量を変化させずに画像の質感をコントロールすることができるので、濃度や色域への影響を軽減しつつ所望の画像を得ることができるという効果を奏する、とされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−144849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えばインクジェット記録装置によって、所定の基材に所定の画像を記録することが広く行われている。吸液性を有する基材(吸液性基材)に画像を記録した場合、記録表面に付与されたインクが基材に吸液される。しかし、その吸液量は、付与されるインクの量によって異なるため、記録された1つの画像内で光沢感にばらつきが発生する。これに対し、特許文献1のようなインクジェット記録装置(技術)によれば、記録された画像について、画質の揃った状態とすることができるとされている。
【0005】
ここで、所定の基材に形成される画像には、種々のものがあるが、その一つとして、光沢のない領域と光沢のある領域との両方が含まれる画像がある。このような柄の画像を記録する場合、特許文献1のような技術によれば、光沢感に差のない画像が形成されてしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、吸液性基材の記録表面に、光沢のある一の領域と光沢のない他の領域とを含む画像が形成された画像形成物を、好適に形成することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みなされた本発明は、吸液性を有する吸液性基材の記録表面への画像の形成(記録)について、特定の領域毎にエネルギー硬化型インクのインク滴が付与されて硬化したインクドットで、記録表面が露出しないように、また露出するようにし、光沢感に差をもたせることとしたものである。
【0008】
本発明を反映した第1の課題解決手段は、吸液性を有する吸液性基材の記録表面に、エネルギー硬化型インクのインク滴が付与されて硬化したインクドットにより、画像が形成された画像形成物であって、前記記録表面の一の領域では、前記吸液性基材の前記記録表面が露出することなく前記インクドットが形成され、前記記録表面の他の領域では、前記吸液性基材の前記記録表面が露出するように前記インクドットが形成されていることを特徴とする画像形成物である。
【0009】
これによれば、意図した一の領域について、光沢感のある画像が形成された画像形成物とすることができる。ここで、吸液性を有する吸液性基材にインク滴が付与された場合、このインク滴が硬化したインクドットで記録表面が覆われない、換言すれば、記録表面が露出している領域では、インク滴が吸液性基材に吸収され、その結果、エネルギー硬化型インクに含まれる樹脂分が記録表面で少なくなっているため、光沢感が抑えられる。これに対し、記録表面を覆うようにインク滴が付与されて硬化したインクドットで、記録表面が露出していない領域では、吸液性基材の吸液性を超過して樹脂分が記録表面で硬化するため、光沢感を出すことができる。
【0010】
第2の課題解決手段は、第1の課題解決手段の画像形成物であって、前記一の領域は、第1種領域と第2種領域とを含み、前記第1種領域は、前記第2種領域および前記他の領域と比較し色濃度が高い領域であることを特徴とする。これによれば、濃い色について光沢感(黒光り調)を再現した画像形成物とすることができる。
【0011】
第3の課題解決手段は、第1の課題解決手段の画像形成物であって、前記一の領域は、第1種領域と第2種領域とを含み、前記第2種領域は、前記第1種領域および前記他の領域と比較し色濃度が低い領域であることを特徴とする。これによれば、色濃度の低い淡い色について光沢感を再現した画像形成物とすることができる。
【0012】
第4の課題解決手段は、第1から第3の課題解決手段のいずれか1つの画像形成物であって、前記記録表面の光沢度は、前記一の領域における光沢度の50%以下であることを特徴とする。これによれば、画像が形成された画像形成物で、記録表面のうち、一の領域とこれ以外の領域との光沢感について、メリハリをつけることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、吸液性基材の記録表面に、光沢のある一の領域と光沢のない他の領域とを含む画像が形成された画像形成物を、好適に形成することができる技術を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は画像形成物の平面図であり、(b)は(a)に示すA−A断面であり、(c)は(a)に示すB−B断面である。
【図2】(a)〜(c)は、御影石柄の光沢化処理を説明する図である。
【図3】インクドット密度テーブルを示す図である。
【図4】(a)〜(c)は、リング柄の光沢化処理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を反映した上記課題解決手段を実施するための実施形態について、図面を用いて以下に詳細に説明する。上記課題解決手段は以下に記載の構成に限定されるものではなく、同一の技術的思想において種々の構成を採用することができる。
【0016】
(画像形成物)
画像形成物100について、図1を参照して説明する。なお、図1は、説明を容易にするためのものであり、実際には、画像形成物100には、これとは異なる画像が形成(記録)される。例えば、鉱物を含む天然石柄、より具体的には御影石柄またはリング柄の画像が形成される。ここで、御影石柄の画像は、鉱物部分(領域)に光沢があり、その他の部分は光沢がない(少ない)。また、リング柄の画像は、リング部分に光沢があり、その他の部分は光沢がない(少ない)態様となる場合がある。吸液性基材200の表面には、画像が形成される部分(エリア)である記録表面210が設定されている。なお、余白部分を設定しない場合、吸液性基材200の表面が記録表面210となる。
【0017】
画像形成物100の記録表面210に形成される画像は、インクジェット記録装置を用いて形成される。具体的には、吸液性基材200の記録表面210に、インクジェット記録装置が備える記録ヘッド部に形成されたノズルからエネルギー硬化型インクが吐出される。吐出されたインク滴は、記録表面210に付与される。記録表面210にインク滴が付与された後、所定のエネルギーがインク滴に照射され、インク滴が硬化し、硬化したインク滴によるインクドット232,242,252によって画像が形成される。画像形成物100の記録表面210には、一の領域220A,220B,220C(以下、総称して「一の領域220」ともいう。)と他の領域250とに、オブジェクトがそれぞれ配置された画像が形成されている。
【0018】
一の領域220では、インクドット密度が高い状態、すなわち、吸液性基材200の記録表面210が露出することなくインク滴が付与され、堆積したインク滴が硬化したインクドット232,242による厚みt(記録表面210を基準とした厚み)の皮膜が形成されている。インクドット232,242による皮膜は、吸液性基材200の吸液量を超過する樹脂分が、画像の形成後に照射されるエネルギーによって硬化して形成される。皮膜は光沢性を有し、画像形成物100を視認した観察者は、一の領域220において光沢感を得る。皮膜の光沢度は、30〜100が好ましく、60〜85がより好ましい。なお、光沢度は、JIS Z 8741(鏡面光沢度測定方法)にしたがい、入射角60度で測定した値である(以下に示す光沢度についても同じ。)。画像中の領域が狭く直接測定できない場合には、スケールを予め作成しておき、測定を要する領域とスケールを対比する方法により光沢度を求めてもよい。
【0019】
他の領域250では、インクドット密度が一の領域220と比較して低い状態、すなわち、吸液性基材200の記録表面210が露出するようにインク滴が付与されている(図1(c)に示す隙間s参照)。他の領域250では、一の領域220のような皮膜、すなわち、インクドット252による皮膜は形成されていない。他の領域250では、記録表面210に付与されたインク滴は、吸液性基材200に吸液され、インク滴が吸収された状態でインクドット252が形成されている。換言すれば、インクドット252は、吸液性基材200に吸収された状態で、一の領域220のような皮膜を形成していない。画像形成物100を視認した観察者は、他の領域250において一の領域220より低い光沢感を得る。すなわち、観察者は、一の領域220と他の領域250とに対し、異なった光沢感を得る。
【0020】
ここで、一の領域220は、第1種領域230と第2種領域240とを含む。一の領域220を形成する第1種領域230は、他の領域250と比較し色濃度が高い領域である。また、一の領域220を形成する第2種領域240は、他の領域250と比較し色濃度が低い(淡い)領域である。第1種領域230はインクドット232による領域であり、第2種領域240はインクドット242による領域である。第1種領域230は、第2種領域240と比較し色濃度が高い領域である。換言すれば、第2種領域240は、第1種領域230と比較し色濃度が低い領域である。色濃度が低い第2種領域240で、光沢感を出すためには、インクドット密度を高めるべく淡色または透明のエネルギー硬化性インクが用いられる。なお、第1種領域230または第2種領域240と、記録表面210から一の領域220および他の領域250を除いた周辺領域260(記録表面210の素地)との関係について、第1種領域230は、周辺領域260と比較し色濃度が高い領域であって、また、第2種領域240は、周辺領域260より色濃度が低い領域となる場合もある。
【0021】
(吸液性基材)
画像形成物100を形成する吸液性基材200としては、記録表面210においてエネルギー硬化型インクを吸収する吸液性を有するものであれば、いずれの媒体であってもよい。吸液性基材200としては、例えば、吸湿材(調湿建材)、結露防止材、防滴材、保水材、断熱材、振動吸収材、吸音材、吸水材などの建材、織物、編物、不織布その他の繊維構造物、パンチカーペットなどが挙げられる。また、吸液性基材200としては、コンクリートブロック等のコンクリート製品が挙げられる。
【0022】
吸液性基材200は、艶なし基材であって、記録表面210の光沢度は、例えば一の領域220の光沢度、すなわち、インクドット232,242による皮膜の光沢度の50%以下であることが好ましい。具体的に、記録表面210の光沢度は、0〜40が好ましく、0〜10がより好ましい。
【0023】
(エネルギー硬化型インク)
本実施形態の画像形成物100の記録表面210に付与されるエネルギー硬化型インクとしては、紫外線硬化型インク、電子線硬化型インクなどが挙げられる。これらは硬化速度が大きいため、吸液性基材200の吸液性を超過する樹脂分は、吸液性基材200の表層(記録表面210)で硬化しやすい。したがって、吸液性基材200の記録表面210の特定の領域を、露出させることなく被覆することが可能で、光沢感をコントロールすることができる。
【0024】
紫外線硬化型インクは、顔料、反応性モノマーおよび/または反応性オリゴマー、光重合開始剤を含み、さらに必要に応じて添加剤などを含む。電子線硬化型インクは、顔料、反応性モノマーおよび/または反応性オリゴマーを含み、さらに必要に応じて添加剤などを含む。インク色は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの他、ライトシアン、ライトマゼンタ、ライトイエロー、ホワイト、グレー、クリア(透明)色など適宜選定することができる。ライトシアン、ライトマゼンタ、ライトイエローのエネルギー硬化型インクは、シアン、マゼンタ、イエローのエネルギー硬化型インクに対し淡色、具体的には濃度比が例えば10〜30%のインクである。
【0025】
ここで、顔料濃度は、紫外線硬化型インクまたは電子線硬化型インク100重量部中に0.5〜20重量部であることが好ましい。インクの顔料濃度が0.5重量部未満の場合には、着色が不十分となり、画像記録(画像形成)が困難になるおそれがあり、また、顔料濃度が20重量部を超える場合には、インクの粘度が高くなって画像記録を行う際の取り扱いが難しくなる。
【0026】
顔料には、有機顔料および無機顔料が存在する。有機顔料としては、ニトロソ類、染付レーキ類、アゾ類、フタロシアニン類、アントラキノン類、ペリレン類、キナクリドン類、ジオキサジン類、イソインドリン類、キノフタロン類、アゾメチン類、ピロロピロール類などが挙げられる。無機顔料としては金属の酸化物類、水酸化物類、硫化物類、フェロシアン化物類、クロム酸塩類、炭酸塩類、ケイ酸塩類、リン酸塩類、炭素類(カーボンブラック)、金属粉などが挙げられる。有機顔料それぞれまたは無機顔料それぞれを単独または複数種類を混合して使用可能である。
【0027】
反応性モノマーとしては、例えばジペンタエリスリトールヘキサアクリレートやそれらの変性体などの6官能アクリレート;ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレートなどの5官能アクリレート;ペンタジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの4官能アクリレート;トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、グリセリルトリアクリレートなどの3官能アクリレート;ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンアクリル酸安息香酸エステル、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート、ビスフェノールAジアクリレートなどの2官能アクリレート;および、カプロラクトンアクリレート、トリデシルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコールジアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ネオペンチルフリコールアクリル酸安息香酸エステル、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシ−ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ−トリエチレングリコールアクリレート、メトキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボニルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシエチル−コハク酸、2−アクリロイロキシエチル−フタル酸、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸などの単官能アクリレートが挙げられる。特に、強じん性、柔軟性に優れる点で、2官能モノマーが好ましい。2官能モノマーの中では、難黄変性である点で、炭化水素からなる脂肪族反応性モノマー、具体的には1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレートなどが好ましい。
【0028】
反応性モノマーとしてはさらに、上記の反応性モノマーにリンまたはフッ素、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドの官能基を付与した反応性モノマーが挙げられる。また、これらの反応性モノマーを単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
反応性モノマーは、紫外線硬化型インクまたは電子線硬化型インク100重量部中に50〜85重量部含まれることが好ましい。50重量部未満の場合、インクの粘度が高くなって画像記録を行う上で取り扱いが難しくなり、85重量部を超えると硬化に必要な他の成分が不足し、硬化不良になるおそれがある。
【0030】
インクに用いる反応性オリゴマーとしては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、シリコンアクリレート、ポリブタジエンアクリレートが挙げられ、これらを単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。特に、強じん性、柔軟性および付着性に優れる点で、ウレタンアクリレートが好ましい。ウレタンアクリレートの中では、難黄変性である点で、炭化水素からなる脂肪族ウレタンアクリレートがさらに好ましい。
【0031】
反応性オリゴマーは、紫外線硬化型インクまたは電子線硬化型インク100重量部中に1〜40重量部含まれることが好ましく、5〜40重量部がより好ましく、10〜30重量部がさらに好ましい。反応性オリゴマーが1〜40重量部の範囲であれば、インク滴の硬化した皮膜が、強じん性、柔軟性および密着性の点でより優れたものとなる。
【0032】
紫外線硬化型インクに用いる光重合開始剤としては、ベンゾイン類、ベンジルケタール類、アミノケトン類、チタノセン類、ビスイミダゾール類、ヒドロキシケトン類およびアシルホスフィンオキサイド類が挙げられ、これらを単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。特に、高反応性であり、難黄変性である点で、ヒドロキシケトン類およびアシルホスフィンオキサイド類が好ましい。
【0033】
光重合開始剤の添加量は、紫外線硬化型インク100重量部中1〜15重量部であることが好ましく、3〜10重量部であることがより好ましい。1重量部未満では重合が不完全で皮膜が未硬化となるおそれがあり、一方、15重量部を超えて添加しても、それ以上の硬化率および硬化速度の向上が期待できず、コスト高となる。
【0034】
紫外線硬化型インクまたは電子線硬化型インクには、必要に応じて、顔料を分散させる目的で分散剤を添加してもよい。分散剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性イオン界面活性剤および高分子系分散剤などが挙げられ、これらを単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
さらに必要に応じて、紫外線硬化型インクまたは電子線硬化型インクには、熱安定剤、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、浸透剤、樹脂バインダー、樹脂エマルジョン、還元防止剤、レベリング剤、pH調整剤、顔料誘導体、重合禁止剤、紫外線吸収剤および光安定剤などの添加剤を加えることもできる。紫外線硬化型インクには、光重合開始剤の開始反応を促進させるための増感剤を加えることもできる。
【0036】
そして、エネルギー硬化型インクは、上述した材料を混合し、さらにその混合物をロールミル、ボールミル、コロイドミル、ジェットミルまたはビーズミルなどの分散機を使って分散させた後、濾過を行うことで得ることができる。分散機としては、短時間かつ大量に分散できることから、ビーズミルが好ましい。
【0037】
(インクジェット記録方法)
画像形成物100を形成するためのインクジェット記録方法について、図2〜図4を参照して説明する。このインクジェット記録方法は、例えば御影石柄を示す画像(図2(a)参照)を領域情報を利用して形成した場合に、一の特定の領域のインクドット密度と、これ以外の領域のインクドット密度とに差を設けることで、一の特定の領域の部分に光沢感を再現する方法である(図2(b)参照)。また、このインクジェット記録方法は、例えばリング柄を示す画像(図4(a)参照)を領域情報を利用して形成した場合に、他の特定の領域のインクドット密度と、これ以外の領域のインクドット密度とに差を設けることで、他の特定の領域の部分に光沢感を再現する方法である(図4(b)参照)。ここで、領域情報とは、任意の領域を特定する情報であり、例えば、マスク情報、レイヤー情報などが挙げられる。また、領域情報は、1画素単位を構成する色情報であってもよく、例えば、RGB値、CMYK値、グレースケール、モノクロ2値、Lab、インデックスなどが挙げられる。
【0038】
また、一の特定の領域は、上記において、「吸液性基材200の記録表面210が露出することなくインク滴が付与され、堆積したインク滴が硬化したインクドット232による厚みtの皮膜が形成されている一の領域220を形成する第1種領域230」に対応する領域である。以下、吸液性基材の記録表面が露出することなくインク滴が付与され、堆積したインク滴が硬化したインクドットによる厚みtの皮膜が形成されている一の領域を形成する領域を「第1種領域330」ともいう。これ以外の領域は、上記において、「吸液性基材200の記録表面210が露出するようにインク滴が付与されている他の領域250」に対応する領域である。以下、吸液性基材の記録表面が露出している領域を「他の領域350」ともいう。他の特定の領域は、上記において、「吸液性基材200の記録表面210が露出することなくインク滴が付与され、堆積したインク滴が硬化したインクドット242による厚みtの皮膜が形成されている一の領域220を形成する第2種領域240」に対応する領域である。以下、吸液性基材の記録表面が露出することなくインク滴が付与され、堆積したインク滴が硬化したインクドットによる厚みtの皮膜が形成されている一の領域を形成する領域を「第2種領域340」ともいう。第1種領域330は、第2種領域340と比較し色濃度が高い領域である。換言すれば、第2種領域340は、第1種領域330と比較し色濃度が低い領域である。
【0039】
インクジェット記録方法において実行される具体的な工程について説明する。なお、以下では、画像形成物100に形成される画像として、御影石柄を例とし(実施例1,2参照)、御影石柄のうち鉱物部分における光沢感のメリハリを再現することとした。また、画像形成物100に形成される画像として、リング柄を例とし(実施例3参照)、リング柄のうちリング部分における光沢感のメリハリを再現することとした。吸液性基材200として調湿建材(吸湿材)を用いた。調湿建材の光沢度は1であった。御影石柄およびリング柄の編集には、Adobe社製の画像編集ソフトPhotoshop(登録商標)(バージョン7.0)を使用した。
【0040】
第1工程では、御影石柄のうち、光沢感を得たい第1種領域330となる領域300(図2(a)参照)を抽出する。例えば、図2(a)の御影石柄(左側に示す図参照)のうち、「○」で囲った部分に含まれる鉱物部分を領域300として抽出する(右側に示す拡大図参照)。また、リング柄のうち、光沢感を得たい第2種領域340となる領域400(図4(a)参照)を抽出する。例えば、図4(a)のリング柄を構成する4つのリング部分を領域400として抽出する。
【0041】
第2工程では、第1工程で抽出した領域300,400を、光沢化処理をする領域として区別できるようにする。例えば、マスク情報(実施例1,2参照)またはレイヤー情報として光沢化処理をする領域300,400を区別する。この他、色情報として区別することもできる(実施例3参照)。ここで、フルカラー画像など、色情報が多数におよぶ場合には、画像中に使用されていない色、例えば高彩度色などで光沢化処理をする領域を置き換え1色にまとめてしまうと、その後の処理が容易になり好適である。
【0042】
第3工程では、ラスターイメージ化処理を行い、第2工程で区別された領域300,400に対して、図3に示すインクドット密度テーブルの密度増加データを処方する。この際、予めLUT(Look up Table)化したデータを用いてもよい。例えば、淡色インクができるだけ使用されるように設計されたLUT化したデータ(図3の「データ1」参照)、または、一定量のクリアインクを加算するようにしたデータ(図3の「データ2」参照)を用いるとよい。なお、光沢化処理を行わない領域(図2(a)の右側に示す拡大図において領域300を除く領域、および、図4(a)において領域400を除く領域)については、基本インクデータ(図3の「基本インクデータ」参照)を用いる。
【0043】
以下、第1工程〜第3工程を実行し、この結果得られた画像が形成された実施例1〜3の画像形成物100について考察する。
【0044】
(実施例1)
実施例1では、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックおよびクリアの合計5色の紫外線硬化型インクを備えるインクジェット記録装置を用いて、調湿建材に御影石柄を形成した。また、実施例1では、第1種領域330となる領域300を2値のマスク情報として区別し、さらに、第1種領域330となる領域300には、クリアインクを100%加算するよう処理を行った(図3の「データ2」参照)。実施例1によると、他の領域350と比較し色濃度が高い第1種領域330で、インクドット密度を高くすることが可能である。
【0045】
実施例1では、第1種領域330である鉱物部分に光沢を有する御影石柄の画像が形成された画像形成物100を得ることができた。御影石の部分的に黒光りする表現がなされていた。実施例1の画像形成物100について、予め作成した光沢度スケールを用いて、マッチング式で目視判定した結果、図2(b)を正面視したとき左側に上下に並ぶ2つの第1種領域330(鉱物部分)の光沢度は60で、他の2つの第1種領域330の光沢度は50で、他の領域350の光沢度は3であった。なお、測定領域が小さいため、光沢度スケールを用いたマッチング式による目視判定とした。
【0046】
(実施例2)
実施例2では、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックおよびこれら各色の淡色を合わせた合計8色の紫外線硬化型インクを備えるインクジェット記録装置を用いて、調湿建材に御影石柄を形成した。また、実施例2では、第1種領域330となる領域300を2値のマスク情報として区別し、さらに、第1種領域330となる領域300については、濃色インクの付与量を濃度比例配分で、淡色インクができるだけ使用されるように設計されたLUT化したデータを用いて処理を行った(図3の「データ1」参照)。実施例2によると、他の領域350と比較し色濃度が高い第1種領域330で、インクドット密度を高くすることが可能である。
【0047】
実施例2でも、第1種領域330である鉱物部分に光沢を有する御影石柄の画像が形成された画像形成物100を得ることができた。御影石の部分的に黒光りする表現がなされていた。実施例2の画像形成物100について、予め作成した光沢度スケールを用いて、マッチング式で目視判定した結果、図2(b)を正面視したとき左側に上下に並ぶ2つの第1種領域330(鉱物部分)の光沢度は70で、他の2つの第1種領域330の光沢度は60で、他の領域350の光沢度は3であった。なお、測定領域が小さいため、光沢度スケールを用いたマッチング式による目視判定とした。
【0048】
(実施例3)
実施例3では、上記5色の紫外線硬化型インクを備えるインクジェット記録装置を用いて、調湿建材にリング柄を形成した。また、実施例3では、第2種領域340となる領域400の色を、白色のRGB値(255,255,255)で置換し、領域400として区別した。第2種領域340となる領域400には、クリア色を100%加算するよう設計されたLUT化したデータを用いて処理を行った(図3の「データ2」参照)。通常白色については、インクを何も加えないデータであるため、この場合、クリアインクのみが100%加算されているデータとなる。実施例3によると、他の領域350と比較し色濃度が低い第2種領域340であっても、インクドット密度を高くすることが可能であり、また、クリアインクのみに限定してインクドット密度を増加することもできる。
【0049】
実施例3でも、第2種領域340であるリング部に光沢を有するリング柄の画像が形成された画像形成物100を得ることができた。実施例3の画像形成物100について、予め作成した光沢度スケールを用いて、マッチング式で目視判定した結果、第2種領域340(リング部)の光沢度は75で、他の領域350の光沢度は3であった。
【0050】
(考察)
以下、図2(b),(c)および図4(b),(c)を参照して、実施例1〜3について考察する。なお、図2(b),(c)および図4(b),(c)では、樹脂量を色の濃さで表現している。具体的に、樹脂量の多い部分(領域)を濃い色で示している。
【0051】
(1)実施例1,2について、これら各実施例による画像形成物100に形成された御影石柄の態様を図2(b)に示し、上記処理を行わずに形成された御影石柄の態様を図2(c)に示す。光沢化処理を実行し密度増加データを処方した図2(b)では、鉱物部分(第1種領域330)の光沢度が、処方していない図2(c)の鉱物部分の領域360の光沢度と比較し高くなる。したがって、実施例1,2の手法によれば、御影石柄の鉱物部分の光沢度を向上させることができる。
【0052】
(2)実施例3について、この実施例による画像形成物100に形成されたリング柄の態様を図4(b)に示し、上記処理を行わずに形成されたリング柄の態様を図4(c)に示す。光沢化処理を実行し密度増加データを処方した図4(b)では、リング部分(第2種領域340)の光沢度が、処方していない図4(c)のリング部分の領域370の光沢度と比較し高くなる。したがって、実施例3の手法によれば、リング柄のリング部分の光沢度を向上させることができる。
【0053】
(3)実施例1〜3について、光沢化処理を行わない領域とされた他の領域350については、図2(b),(c)および図4(b),(c)とも、同一の態様(光沢度)となる。したがって、実施例1〜3の処理によれば、インクジェット記録方法の第1工程で、光沢化処理を行うとして抽出された領域300(御影石柄の鉱物部分)と、領域400(リング柄のリング部分)のみについて、光沢度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0054】
100 画像形成物
200 吸液性基材
210 記録表面
220,220A,220B,220C 一の領域
230,330 第1種領域
232,242,252 インクドット
240,340 第2種領域
250,350 他の領域
260 周辺領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸液性を有する吸液性基材の記録表面に、エネルギー硬化型インクのインク滴が付与されて硬化したインクドットにより、画像が形成された画像形成物であって、
前記記録表面の一の領域では、前記吸液性基材の前記記録表面が露出することなく前記インクドットが形成され、
前記記録表面の他の領域では、前記吸液性基材の前記記録表面が露出するように前記インクドットが形成されていることを特徴とする画像形成物。
【請求項2】
前記一の領域は、第1種領域と第2種領域とを含み、
前記第1種領域は、前記第2種領域および前記他の領域と比較し色濃度が高い領域であることを特徴とする請求項1に記載の画像形成物。
【請求項3】
前記一の領域は、第1種領域と第2種領域とを含み、
前記第2種領域は、前記第1種領域および前記他の領域と比較し色濃度が低い領域であることを特徴とする請求項1に記載の画像形成物。
【請求項4】
前記記録表面の光沢度は、前記一の領域における光沢度の50%以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の画像形成物。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−93311(P2011−93311A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213281(P2010−213281)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】