説明

画像形成装置

【課題】複数の印刷モードを切り替えて最適な印刷速度を制御する。
【解決手段】装置内部の所定位置の温度を検出する温度検知手段112と、印刷開始時に検出された検出温度Tsと、当該装置に要求された印刷枚数nと、印刷速度の異なる2以上の各印刷モード(a,b)についての印刷の実行による温度上昇(温度上昇特性値)および温度上昇後の飽和温度(ΔTmax_a,ΔTmax_b)を記録した印刷モードテーブル111と、に基づいて、印刷開始時に、1の印刷モードにより、または2以上の印刷モードを切り替えて印刷を実行することと、各印刷モードで実行する印刷枚数(m,n−m)と、を決定する印刷モード決定手段110と、決定された各印刷モードに応じた印刷速度で、印刷の実行を制御する印刷制御手段202と、を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置、これらの複合機等の画像形成装置として、例えば、液体吐出ヘッドで構成した記録ヘッドを含む装置を用いて、記録媒体(以下、用紙ともいうが材質を限定するものではなく、被記録媒体、記録用紙、転写材、記録紙なども同義で使用する)を搬送しながら、液体としてのインクを用紙に付着させて画像形成(記録、印刷、印写、印字も同義語で用いる)を行なう、いわゆるインクジェット方式の画像形成装置が知られている。
【0003】
また、例えば、像担持体である感光ドラムの表面に静電潜像を形成し、感光ドラム上の静電潜像を現像剤であるトナー等によって現像して可視像化し、現像された画像を転写装置により記録紙に転写して画像を担持させ、圧力や熱等を用いる定着装置によって記録紙上のトナー画像を定着する電子写真方式の画像形成装置が知られている。
【0004】
上記のような画像形成装置により、連続印刷を実施すると装置内の温度が上昇するため、安全性や画像品質を確保するために、印刷動作の実行を一旦休止させたり、印刷途中で印刷速度を落として温度上昇を低減させたり、ファンなどの冷却手段を用いて強制冷却する技術が既に知られている。
【0005】
しかしながら、印刷を一旦休止させる方法では、印刷速度が著しく低下するという問題があった。また、印刷途中で印刷速度を落とす方法は、例えば、上限温度よりも低い温度にスレッシュ温度を設定し、その温度に到達したら印刷速度を低下させるものであるが、速度を低下させて印刷を終了しても、その直後に次の印刷を実施しようとするとさらに温度が上昇し上限温度を超えてしまうので、次の印刷を開始するためには温度が低下するまで時間がかかるという問題があった。さらに、印刷ジョブで枚数が比較的少ない場合は上限温度までに余裕があるにも関わらず、印刷速度を速くすることができない。という問題があった。
【0006】
また、ファンなどの冷却手段を用いる場合は、装置内に設置するための空間が必要となり装置サイズが大きくなったり、コストが高くなったりするという問題があった。
【0007】
このような問題に関して、例えば、特許文献1には、インクジェット記録ヘッド内の温度上昇により発生するインクリフィル特性の低下に伴う画像劣化を回避し、かつ記録速度の低下を最小限にするために、インクジェット記録ヘッドの温度を検出して温度情報を出力する温度検知手段と、検出された温度情報を取得する取得手段と、温度情報と所定温度との比較結果に応じて、画像情報が連続しない単位でインクジェット記録ヘッドの駆動周波数を切り替えるように制御し、記録ヘッドの走査速度を変更するインクジェット記録方法が開示されている。
【0008】
また、例えば、特許文献2には、機内温度が高温となるのを防ぎ、当該装置の動作や性能に関する品質を維持するために、温度検知手段と機内温度推定手段と許容印刷枚数を変更する許容印刷枚数変更手段を有し、機内が高温になる場合に低速印刷に変更もしくはい印刷を一時停止して冷却する画像形成装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、印刷終了直後に次の印刷を実施しようとすると温度が低下するまで時間がかかるという問題を解決することができなかった。
【0010】
また、上記特許文献2に記載の発明における印刷制御(一次停止、速度低減)は、印刷枚数が許容印刷枚数に達したとき、すなわち、装置内の温度が許容温度に達した後に実施されるので、実際には一次停止させて冷却時間が必要となる。また、印刷ジョブの枚数が比較的少ない場合は、許容温度までに余裕があるにも関わらず、印刷速度を速くすることができないという問題があった。
【0011】
そこで本発明は、印刷終了後に温度が上昇していても、すぐに次の印刷を開始することができ、また、印刷ジョブの枚数が比較的少ない場合に枚数が多い場合に比べて高速に印刷することができ、さらに、ファンなどの冷却手段を使用することなく、装置サイズを小さく、低コスト化を図ることができる画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するため、本発明に係る画像形成装置は、装置内部の所定位置の温度を検出する温度検知手段と、印刷開始時に温度検知手段により検出された開始検出温度と、当該装置に要求された印刷枚数と、印刷速度の異なる2以上の各印刷モードについての印刷の実行による温度上昇および温度上昇後の飽和温度を記録した印刷モードテーブルと、に基づいて、印刷開始時に、1の印刷モードにより、または2以上の印刷モードを切り替えて印刷を実行することと、各印刷モードで実行する印刷枚数と、を決定する印刷モード決定手段と、該印刷モード決定手段により決定された各印刷モードに応じた印刷速度で、印刷の実行を制御する印刷制御手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数の印刷モードを切り替えて最適な印刷速度を制御することができる。また、印刷終了後に温度が上昇していても、すぐに次の印刷を開始することができ、また、印刷ジョブの枚数が比較的少ない場合に枚数が多い場合に比べて高速に印刷することができ、さらに、ファンなどの冷却手段を使用することなく、装置サイズを小さく、低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】インクジェット記録装置の機構部の全体構成を説明する側面概略構成図である。
【図2】インクジェット記録装置の機構部の要部平面説明図である。
【図3】インクジェット記録装置の制御部の全体ブロック図である。
【図4】インクジェットヘッドの液室長手方向に沿う断面説明図である。
【図5】インクジェットヘッドの液室短手方向に沿う断面説明図である。
【図6】インクジェットヘッドの要部平面説明図である。
【図7】インクジェットヘッドの駆動制御に係る機能ブロック図である。
【図8】インクジェットヘッドの駆動波形の一例を示すグラフである。
【図9】印刷モードごとの時間と印刷枚数との関係を示すグラフである。
【図10】印刷モードごとの時間と温度上昇ΔTとの関係を示すグラフである。
【図11】印刷モード決定制御に係る部分のブロック図である。
【図12】印刷モード切替制御の一例を示すフローチャートである。
【図13】印刷枚数と温度との関係を示すグラフの一例である(第1の実施形態)。
【図14】印刷枚数と温度との関係を示すグラフの他の例である(第1の実施形態)。
【図15】印刷枚数と温度との関係を示すグラフの他の例である(第2の実施形態)。
【図16】印刷枚数と温度との関係を示すグラフの他の例である(第2の実施形態)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る構成を図1から図16に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
本実施形態に係る画像形成装置は、装置内部の所定位置の温度を検出する温度検知手段(温度検知手段112)と、印刷開始時に温度検知手段により検出された開始検出温度(開始温度Ts)と、当該装置に要求された印刷枚数(印刷枚数n)と、印刷速度の異なる2以上の各印刷モード(印刷モードa,b)についての印刷の実行による温度上昇(温度上昇特性値)および温度上昇後の飽和温度(飽和温度ΔTmax_a,ΔTmax_b)を記録した印刷モードテーブル(印刷モードテーブル111)と、に基づいて、印刷開始時に、1の印刷モードにより、または2以上の印刷モードを切り替えて印刷を実行することと、各印刷モードで実行する印刷枚数(m,n−m)と、を決定する印刷モード決定手段(印刷モード決定手段110)と、該印刷モード決定手段により決定された各印刷モードに応じた印刷速度で、印刷の実行を制御する印刷制御手段(印刷制御手段202、ヘッドドライバ215等)と、を備えたものである。
【0017】
したがって、例えば、印刷速度の速いモードとそれより遅いモードの2つの印刷モードを有する場合に、装置内の検知温度と、印刷速度の速い印刷モードの温度上昇データと、印刷すべき枚数から、温度検知箇所の到達温度を算出し、算出結果が温度検知箇所の許容される上限温度を超えない場合は、印刷速度の速いモードで最終枚まで印刷することができ、算出結果が上限温度を超える場合は、印刷途中で他の印刷速度の遅い印刷モードで印刷を実施し、そのときの温度上昇が飽和したときに上限温度を超えないようなタイミング(印刷枚数)で印刷速度が速いモードから遅いモードへ切り替えることができる。
【0018】
(画像形成装置の構成)
本発明に係る画像形成装置の一実施形態であるインクジェット記録装置について説明する。図1は、インクジェット記録装置の機構部の全体構成を説明する側面概略構成図、図2は、同要部平面説明図である。図1、図2を参照して、このインクジェット記録装置の内部構成の概要及び機構部について説明する。
【0019】
フレーム21を構成する左右の側板21A、21Bに横架したガイド部材であるガイドロッド31とステー32とでキャリッジ33を主走査方向に摺動自在に保持し、図示しない主走査モータによって同じく図示しないタイミングベルトを介して図2で矢示方向(キャリッジ主走査方向)に移動走査する。
【0020】
このキャリッジ33には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する4個の液滴吐出ヘッドからなる記録ヘッド34を複数のインク吐出口を主走査方向と交叉する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
【0021】
記録ヘッド34を構成するインクジェットヘッドとしては、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータなどを、液滴を吐出するための圧力を発生する圧力発生手段として備えたものなどを使用できる。また、記録ヘッド34にはドライバICを搭載し、図示しない制御部との間でハーネス(フレキシブルプリントケーブル)22を介して接続している。
【0022】
また、キャリッジ33には、記録ヘッド34に各色のインクを供給するための各色のサブタンク35を搭載している。この各色のサブタンク35には各色のインク供給チューブ36を介して、前述したように、カートリッジ装填部4に装着された各色のインクカートリッジ10から各色のインクが補充供給される。なお、このカートリッジ装填4にはインクカートリッジ10内のインクを送液するための供給ポンプユニットが設けられ、また、インク供給チューブ36は這い回しの途中でフレーム21を構成する後板21Cに係止部材25にて保持されている。
【0023】
一方、給紙トレイ2の用紙積載部(圧板)41上に積載した用紙42を給紙するための給紙部として、用紙積載部41から用紙42を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙コロ)43及び該給紙コロ43に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド44を備え、この分離パッド44は給紙コロ43側に付勢されている。
【0024】
そして、この給紙部から給紙された用紙42を記録ヘッド34の下方側に送り込むために、用紙42を案内するガイド部材45と、カウンタローラ46と、搬送ガイド部材47と、先端加圧コロ49を有する押さえ部材48とを備えるとともに、給送された用紙42を静電吸着して記録ヘッド34に対向する位置で搬送するための搬送手段である搬送ベルト51を備えている。
【0025】
この搬送ベルト51は、無端状ベルトであり、搬送ローラ52とテンションローラ53との間に掛け渡されて、ベルト搬送方向(副走査方向)に周回するように構成している。この搬送ベルト51は、例えば、抵抗制御を行っていない純粋な厚さ40μm程度の樹脂材、例えば、ETFEピュア材で形成した用紙吸着面となる表層と、この表層と同材質でカーボンによる抵抗制御を行った裏層(中抵抗層、アース層)とを有している。
【0026】
そして、この搬送ベルト51の表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ56を備えている。この帯電ローラ56は、搬送ベルト51の表層に接触し、搬送ベルト51の回動に従動して回転するように配置され、加圧力として軸の両端に所定の押圧力をかけている。なお、搬送ローラ52はアースローラの役目も担っており、搬送ベルト51の中抵抗層(裏層)と接触配置され接地している。
【0027】
また、搬送ベルト51の裏側には、記録ヘッド34による印写領域に対応してガイド部材57を配置している。このガイド部材57は、上面が搬送ベルト51を支持する2つのローラ(搬送ローラ52とテンションローラ53)の接線よりも記録ヘッド34側に突出させることで搬送ベルト51の高精度な平面性を維持するようにしている。
【0028】
この搬送ベルト51は、図示しない副走査モータによって搬送ローラ52が回転駆動されることによって搬送ベルト51が図2のベルト搬送方向(副走査方向)に周回移動する。
【0029】
さらに、記録ヘッド34で記録された用紙42を排紙するための排紙部として、搬送ベルト51から用紙42を分離するための分離爪61と、排紙ローラ62及び排紙コロ63とを備え、排紙ローラ62の下方に排紙トレイ3を備えている。ここで、排紙ローラ62と排紙コロ63との間から排紙トレイ3までの高さは排紙トレイ3にストックできる量を多くするためにある程度高くしている。
【0030】
また、装置本体1の背面部には両面ユニット71が着脱自在に装着されている。この両面ユニット71は搬送ベルト51の逆方向回転で戻される用紙42を取り込んで反転させて再度カウンタローラ46と搬送ベルト51との間に給紙する。また、この両面ユニット71の上面は手差しトレイ72としている。
【0031】
さらに、図2に示すように、キャリッジ33の走査方向一方側の非印字領域には、記録ヘッド34のノズルの状態を維持し、回復するための回復手段を含む維持回復機構81を配置している。この維持回復機構81には、記録ヘッド34の各ノズル面をキャピングするための各キャップ部材(以下「キャップ」という)82a〜82d(区別しないときは「キャップ82」という)と、ノズル面をワイピングするためのブレード部材であるワイパーブレード83と、増粘した記録液を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行うときの液滴を受ける空吐出受け84などを備えている。ここでは、キャップ82aを吸引及び保湿用キャップとし、他のキャップ82b〜82dは保湿用キャップとしている。
【0032】
そして、この維持回復機構81による維持回復動作で生じる記録液の廃液、キャップ82に排出されたインク、あるいはワイパーブレード83に付着してワイパークリーナで除去されたインク、空吐出受け84に空吐出されたインクは図示しない廃液タンクに排出されて収容される。
【0033】
また、図2に示すように、キャリッジ33の走査方向他方側の非印字領域には、記録中などに増粘した記録液を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行うときの液滴を受ける空吐出受け88を配置し、この空吐出受け88には記録ヘッド34のノズル列方向に沿った開口89などを備えている。
【0034】
さらに、装置本体1の内部後方側にはホストとの間でデータを送受するためのUSBなどの通信回路部(インタフェース)が設けられるとともに、この画像形成装置全体の制御を司る制御部を構成する制御回路基板が設けられている。
【0035】
このように構成したインクジェット記録装置においては、給紙トレイ2から用紙42が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された用紙42はガイド45で案内され、搬送ベルト51とカウンタローラ46との間に挟まれて搬送され、更に先端を搬送ガイド47で案内されて先端加圧コロ49で搬送ベルト51に押し付けられ、略90°搬送方向を転換される。
【0036】
このとき、図示しない制御回路によってACバイアス供給部から帯電ローラ56に対してプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返すように、つまり交番する電圧が印加され、搬送ベルト51が交番する帯電電圧パターン、すなわち、周回方向である副走査方向に、プラスとマイナスが所定の幅で帯状に交互に帯電されたものとなる。このプラス、マイナス交互に帯電した搬送ベルト51上に用紙42が給送されると、用紙42が搬送ベルト51に吸着され、搬送ベルト51の周回移動によって用紙42が副走査方向に搬送される。
【0037】
そこで、キャリッジ33を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド34を駆動することにより、停止している用紙42にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙42を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙42の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙42を排紙トレイ3に排紙する。
【0038】
また、印字(記録)待機中にはキャリッジ33は維持回復機構81側に移動されて、キャップ82で記録ヘッド34がキャッピングされて、ノズルを湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、キャップ82で記録ヘッド34をキャッピングした状態で図示しない吸引ポンプによってノズルから記録液を吸引し(「ノズル吸引」又は「ヘッド吸引」という)し、増粘した記録液や気泡を排出する回復動作を行う。また、記録開始前、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出する空吐出動作を行う。これによって、記録ヘッド34の安定した吐出性能を維持する。
【0039】
(制御部)
次に、インクジェット記録装置の制御部(制御手段)について説明する。図3は、インクジェット記録装置の制御部の全体ブロック図である。
【0040】
この制御部は、プリンタコントローラ200と、主走査モータ217および副走査モータ218を駆動するためのモータドライバ214と、給紙ローラに副走査の回転を伝達するための給紙クラッチ216を駆動するためのドライバ213と、記録ヘッド(インクジェットヘッド)34を駆動するためのヘッドドライバ(ヘッド駆動回路、ドライバICで構成)215等を備えている。
【0041】
プリンタコントローラ200は、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置、イメージスキャナなどの画像読み取り装置、デジタルカメラなのでの撮像装置などのホスト側からの印刷データ等をケーブルあるいはネットを介して受信するインターフェース(以下「I/F」という)205と、CPU等からなる主制御部201と、各種データの記録等を行うRAM(記憶手段)203と各種データ処理のためのルーチン等を記憶したROM(記憶手段)204と、記録ヘッドへの駆動波形を発生等させる印刷制御部(印刷制御手段)202と、ドットパターンデータ(ビットマップデータ)に展開された印字データ及び駆動波形等をヘッドドライバ215に送信するためのI/F206、モータ駆動データをモータドライバ214に送信し、クラッチオン信号をドライバに送信するためのI/F207等を備えている。
【0042】
RAM203は、各種バッファ及びワークメモリ等として用いる。ROM204は主制御部によって実行する各種制御ルーチンとフォントデータ及びグラフィック関数、各種手続き等を記憶している。主制御部201は用紙検出センサ212からの検出信号に基づいて給紙制御を行う。また、主制御部201はエンコーダ210の出力信号に基づいてキャリッジ33の主走査方向の位置を検出してキャリッジ33の停止位置制御を行い、用紙センサ211の検知信号に基づいて用紙42の先端位置検知及び搬送ベルト51上での用紙42の有無の検出を行う。
【0043】
この主制御部201はI/Fに含まれる受信バッファ内の印刷データを読み出して解析し、この解析結果(中間コードデータ)をRAM203の所定のエリアに記憶し、記憶した解析結果からROM204に格納したフォントデータを用いて画像出力するためのドットパターンデータを生成し、RAM203の異なる所定のエリアに再び記憶する。なお、ホスト側のプリンタドライバで画像データをビットマップデータに展開してこの記録装置に転送する場合には、単にRAM203に受信したビットマップの画像データを格納すればよい。
【0044】
そして、主制御部201は、記録ヘッド34の1行分に相当するドットパターンデータが得られると、この1行分のドットパターンデータを、発信回路からのクロック信号に同期してI/F206を介してヘッドドライバ215にシリアルデータで送出し、また所定のタイミングでラッチ信号をヘッドドライバ215に送出する。
【0045】
また、全インク吐出口を同時に駆動させる以外に、時間的に分割して駆動させることができる。全インク吐出口を同時に駆動させると、各全インク吐出口間のクロストークの影響による記録品位の低下や、一時的に大電流が必要になることにより電源の大容量化などの不利益が生じる場合があるが、時分割駆動することでこれらの不利益を避けることができる。
【0046】
(記録ヘッド)
次に、このインクジェット記録装置の記録ヘッドを構成するインクジェットヘッド(記録ヘッド)について図4乃至図6を参照して説明する。なお、図4は同ヘッドの液室長手方向に沿う断面説明図、図5は同ヘッドの液室短手方向に沿う断面説明図、図6は同ヘッドの要部平面説明図である。
【0047】
このインクジェットヘッドは、単結晶シリコン基板で形成した流路板141と、この流路板141の下面に接合した振動板142と、流路板141の上面に接合したノズル板143とを有し、これらによって液滴であるインク滴を吐出するノズル145がノズル連通路145aを介して連通するインク流路である加圧室146、加圧室146にインクを供給するための共通液室148にインク供給口149を介して連通する流体抵抗部となるインク供給路147を形成している。
【0048】
そして、振動板142の外面側(液室と反対面側)に各加圧室146に対応して加圧室146内のインクを加圧するための圧力発生手段(アクチュエータ手段)である電気機械変換素子としての積層型圧電素子152を接合し、この圧電素子152をベース基板153に接合している。また、圧電素子152の間には加圧室146、146間の隔壁部141aに対応して支柱部154を設けている。ここでは、圧電素子部材にハーフカットのダイシングによるスリット加工を施すことで櫛歯状に分割して、1つ毎に圧電素子152と支柱部154して形成している。支柱部154も構成は圧電素子151と同じであるが、駆動電圧を印加しないので単なる支柱となる。
【0049】
さらに、振動板142の外周部はフレーム部材144にギャップ材を含む接着剤150にて接合している。このフレーム部材144には、共通液室148となる凹部、この共通液室148に外部からインクを供給するための図示しないインク供給穴を形成している。このフレーム部材144は、例えばエポキシ系樹脂或いはポリフェニレンサルファイトで射出成形により形成している。
【0050】
ここで、流路板141は、例えば結晶面方位(110)の単結晶シリコン基板を水酸化カリウム水溶液(KOH)などのアルカリ性エッチング液を用いて異方性エッチングすることで、ノズル連通路145a、加圧室146、インク供給路147となる凹部や穴部を形成したものであるが、単結晶シリコン基板に限られるものではなく、その他のステンレス基板や感光性樹脂などを用いることもできる。
【0051】
振動板142は、ニッケルの金属プレートから形成したもので、例えばエレクトロフォーミング法(電鋳法)で作製しているが、この他の金属板や樹脂板或いは金属と樹脂板との接合部材などを用いることもできる。この振動板142は加圧室146に対応する部分に変形を容易にするための薄肉部(ダイアフラム部)155及び圧電素子152と接合するための厚肉部(島状凸部)156を形成するとともに、支柱部154に対応する部分及びフレーム部材144との接合部にも厚肉部157を形成し、平坦面側を流路板141に接着剤接合し、島状凸部156を圧電素子152に接着剤接合し、更に厚肉部157を支柱部154及びフレーム部材144に接着剤150で接合している。なお、ここでは、振動板142を2層構造のニッケル電鋳で形成している。この場合、ダイアフラム部155の厚みは3μm、幅は35μm(片側)としている。
【0052】
ノズル板143は各加圧室146に対応して直径10〜35μmのノズル145を形成し、流路板141に接着剤接合している。このノズル板143としては、ステンレス、ニッケルなどの金属、金属とポリイミド樹脂フィルムなどの樹脂との組み合せ、シリコン、及びそれらの組み合わせからなるものを用いることができる。ここでは、電鋳工法によるNiメッキ膜等で形成している。また、ノズル143の内部形状(内側形状)は、ホーン形状(略円柱形状又は略円錘台形状でもよい。)に形成し、このノズル145の穴径はインク滴出口側の直径で約20〜35μmとしている。さらに、各列のノズルピッチは150dpiとした。
【0053】
また、ノズル板143のノズル面(吐出方向の表面:吐出面)には、図示しない撥水性の表面処理を施した撥水処理層を設けている。撥水処理層としては、例えば、PTFE−Ni共析メッキやフッ素樹脂の電着塗装、蒸発性のあるフッ素樹脂(例えばフッ化ピッチなど)を蒸着コートしたもの、シリコン系樹脂・フッ素系樹脂の溶剤塗布後の焼き付け等、インク物性に応じて選定した撥水処理膜を設けて、インクの滴形状、飛翔特性を安定化し、高品位の画像品質を得られるようにしている。
【0054】
圧電素子152は、厚さ10〜50μm/1層のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の圧電層161と、厚さ数μm/1層の銀・パラジューム(AgPd)からなる内部電極層162とを交互に積層したものであり、内部電極162を交互に端面の端面電極(外部電極)である個別電極163、共通電極164に電気的に接続したものである。この圧電常数がd33である圧電素子152の伸縮により加圧室146を収縮、膨張させるようになっている。圧電素子152に駆動信号が印加され充電が行われると伸長し、また圧電素子152に充電された電荷が放電すると反対方向に収縮するようになっている。
【0055】
なお、圧電素子部材の一端面の端面電極はハーフカットによるダイシング加工で分割されて個別電極163となり、他端面の端面電極は切り欠き等の加工による制限で分割されずにすべての圧電素子152で導通した共通電極164となる。
【0056】
そして、圧電素子152の個別電極163には駆動信号を与えるために半田接合又はACF(異方導電性膜)接合若しくはワイヤボンディングでFPCケーブル165を接続し、このFPCケーブル165には各圧電素子152に選択的に駆動波形を印加するための駆動回路(ドライバIC)を接続している。また、共通電極164は、圧電素子の端部に電極層を設けて回し込んでFPCケーブル165のグラウンド(GND)電極に接続している。
【0057】
このように構成したインクジェットヘッドにおいては、例えば、記録信号に応じて圧電素子152に駆動波形(10〜50Vのパルス電圧)を印加することによって、圧電素子152に積層方向の変位が生起し、振動板142を介して加圧室146内のインクが加圧されて圧力が上昇し、ノズル145からインク滴が吐出される。
【0058】
その後、インク滴吐出の終了に伴い、加圧室146内のインク圧力が低減し、インクの流れの慣性と駆動パルスの放電過程によって加圧室146内に負圧が発生してインク充填行程へ移行する。このとき、図示しないインクタンクから供給されたインクは共通液室148に流入し、共通液室147からインク供給口149を経て流体抵抗部147を通り、加圧室146内に充填される。
【0059】
なお、流体抵抗部147は、吐出後の残留圧力振動の減衰に効果が有る反面、表面張力による最充填(リフィル)に対して抵抗になる。流体抵抗部147の流体抵抗値を適宜に選択することで、残留圧力の減衰とリフィル時間のバランスが取れ、次のインク滴吐出動作に移行するまでの時間(駆動周期)を短くできる。
【0060】
(ヘッド駆動回路)
次に、ヘッド駆動制御に係わる部分について図7を参照して説明する。なお、同図では、1つのヘッドの1つの駆動ユニットの駆動制御に係る部分のみを図示している。
【0061】
ヘッド駆動回路(ヘッドドライバ)215は、主制御部201から印刷制御部202およびI/F206を介して与えられる各種データ及び信号に基づいて、記録ヘッドを構成する各インクジェットヘッド34の圧電素子152に対して選択的に駆動波形を印加してインク滴を吐出させる。
【0062】
ここで、記録ヘッドを構成する4個(Y,M,C,K)のインクジェットヘッド34は、複数(例えば、128個)のノズルに対応する128個の圧力発生手段である圧電素子152を有し、各圧電素子152の一方の電極は共通化して共通電極Com(共通電極164)としてグランドに接続し、他方の電極は圧電素子152毎に個別化して選択電極SEL(個別電極163)としている。なお、実際にはノズルは2列設けているので、256個のノズルを有することになる。
【0063】
主制御部201から印刷制御部202およびI/F206を介してパーソナルコンピュータなどの情報処理端末、デジタルカメラ、スキャナなどの画像処理端装置等のホスト側から与えられる画像情報を入力して、ヘッド駆動回路215に対してヘッドを駆動するタイミングに合わせて、8bitの電圧データを順次、波形生成部であるD/A変換回路(DAC)103に出力する。
【0064】
DAC103は、与えられた電圧データを例えば0V〜2Vの出力範囲を8bitの分解能で出力する。8bitのデータ入力ステップが250nsの場合、駆動波形(駆動信号)の立ち上がり時定数tr=5μs、駆動電圧Vp=30V(フルスケ−ル)のとき、DAC103の出力は20ステップの時間刻みで、約0.1V/ステップで0〜2Vまで上昇する。
【0065】
また、駆動波形の立下り時も同様に、立下り時定数tf=10μsであれば40ステップで5〜3Vまで下降する。さらに、駆動波形に要する時間(立ち上がり開始から、立下り終了までの時間)が50μsとすると、200ステップでフルスケ−ル5Vの駆動波形が形成され、ヘッドの駆動タイミングに合わせて繰り返し出力される。
【0066】
このDAC103から出力される駆動波形はアンプ104を介して3〜30V(フルスケ−ル時)の範囲でDAC出力レベルに応じて電圧増幅される。電圧増幅された駆動波形は、SEPP回路(NPNトランジスタQ1及びPNPトランジスタQ2)等で構成される低インピ−ダンス回路からなる電流増幅部105を介して、選択回路であるPZT選択回路106へ与えられる。
【0067】
一方、主制御部201は、インク滴を噴射させるノズルを指定するためのシリアルデータSD(ノズルデータ)とシフトクロックSCLK、ラッチ信号/LATをPZT選択回路106へ入力する。
【0068】
PZT選択回路106は、シフトクロックSCLK、およびノズルデータSDを入力とするシフトレジスタ回路(256bit)と、シフトレジスタ回路の各レジスト値をラッチ信号/LATによってラッチするためのラッチ回路(256bit)と、256ビットのレベルシフタ回路と、レベルシフタ回路でオン/オフが制御されるアナログスイッチ群とからなる。
【0069】
アナログスイッチ群は、各圧電素子152の選択電極163に接続され、駆動波形が入力されている。そしてシフトレジスタ回路にシフトクロックSCLK、ノズルデータSDを取りこみ、ラッチ信号/LATによって取りこんだシリアルデータをラッチ回路でラッチしてレベルシフタ回路に入力する。このレベルシフタ回路は、データの内容に応じて各圧電素子152に接続されるアナログスイッチをオンすることで、駆動波形が選択された圧電素子152に印加される。
【0070】
駆動波形の一例を図8に示す。本実施形態におけるヘッドの駆動方式においては、駆動波形の立下り波形要素(a→b)の時間に圧電素子152はヘッド基板(ベース基板)153方向に収縮変位するので、加圧液室146内の容積は拡大し、加圧液室146は減圧される。そして、上記拡大された加圧液室146は駆動波形のホールド波形要素(b→c)時間の間、保持された後、立ち上がり波形要素(c→d)の時間に圧電素子152がノズル板143方向に拡大変位するので、加圧液室146は縮小し、発生される加圧圧力でノズル145からインク滴が噴射される。
【0071】
(印刷モード切替制御)
図9は、印刷モードごとの時間(印刷時間)と印刷枚数との関係を示すグラフであって、グラフの傾きが急峻なほど印刷速度が速いことを示している。したがって、印刷スピード(印刷速度)は、印刷モードa(高速)>印刷モードs(通常)>印刷モードb(低速)の関係にある。なお、各印刷モードは、印刷制御部202、ヘッドドライバ215等の制御により、所定の主走査の速度(キャリッジの走査スピード)と副走査の速度(紙搬送速度)を制御するための主走査モ−タ217と副走査モ−タ218の回転速度を維持することで実現される。
【0072】
また、図10は、印刷モード(すなわち、印刷スピード)に対応した装置内の温度上昇の特性を示すグラフであって、時間(印刷時間)と温度上昇ΔTとの関係を示すグラフである。
【0073】
通常の印刷モードsでは、時間とともに装置内の温度は上昇するが、やがて飽和状態に達する。この飽和温度をΔTmax_sとする。ここで、一般には、連続印刷を装置内の温度が飽和するまで繰り返し実施し、装置の設置環境温度をTo、安全性や画像品質を確保するための装置内上限温度をTlimitとすると、次式(1)、
To+ΔTmax_s≦Tlimit ・・・(1)
が成立するように、印刷スピードが設定される。
【0074】
しかしながら、上記のように設定すると、印刷可能枚数が比較的少なくなり、装置内の温度上昇も小さい場合は、温度上昇の上限までに余裕があり、印刷速度を上げられるにも関わらず、多数枚の印刷を想定した印刷スピードに抑えられてしまうこととなる。
【0075】
そこで、本実施形態に係る画像形成装置では、印刷枚数が少ないときは印刷スピードを速く、印刷枚数が多いときは、印刷途中から印刷スピードを遅くするように印刷モードおよび各印刷モードでの印刷枚数を決定する印刷モード決定手段110と、決定された印刷モードおよび各印刷モードでの印刷枚数での印刷を制御する印刷制御手段(印刷制御部202等)を備えるものである。図11に印刷モード決定手段110のブロック図を示す。なお、印刷モード決定手段110は、例えば、プリンタコントローラ200内部の主制御部201の一部として構成される。
【0076】
図9に示したように、先ず、通常の印刷スピード(印刷モードs)より速い印刷モードaと、通常の印刷スピードより遅い印刷モードbを設定する。なお、通常の印刷スピードでの印刷モードsを本実施形態に係る画像形成装置が備えることは必須ではない。このときの温度上昇はそれぞれ図10に示され、温度上昇の飽和温度を、それぞれΔTmax_a,ΔTmax_b,ΔTmax_sとすると、飽和温度は、ΔTmax_a>ΔTmax_s>ΔTmax_bの関係となる。
【0077】
また、本実施形態に係る画像形成装置は、各印刷モードa,bの温度上昇特性値(温度−印刷枚数データをいう)と、温度上昇飽和温度(ΔTmax_a,ΔTmax_b)を参照テーブル(印刷モードテーブル111)として記憶手段(例えば、ROM204)に予め記憶しておくものである。
【0078】
図11に示すように、印刷モード決定手段110は、装置内でサーミスタなどの温度検知手段112によって温度管理が必要な対象となる箇所(印刷開始前における所定の検知対象位置)で検出された検出温度Ts(開始温度Ts、開始検出温度ともいう)と、印刷を実施する枚数である印刷枚数nに応じて、印刷モードテーブル111を参照し、印刷モードaの印刷枚数(m)と印刷モードbの印刷枚数(n−m)を算出し、出力するものである。
【0079】
さらに、印刷モード決定手段110から出力された印刷枚数に基づいて、印字制御手段202により各印刷モードにおける主走査/副走査のスピードが設定され、所定の印刷枚数が実施される。
【0080】
次に、本実施形態に係る画像形成装置による印刷制御例について、図12のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0081】
画像形成装置が、ネットワーク等で接続された情報処理端末(PC等)からホストI/F等を介して、n枚の印刷ジョブを受信すると(S101)、画像形成装置の所定位置に設けられた温度検知手段112による検出温度(開始温度Ts)を検知する(S102)。
【0082】
次に、プリンタコントローラの印刷モード決定手段110は、印刷モードテーブル111から最も印刷速度の速い印刷モードaの温度上昇テーブルを参照して、n枚印刷したときの温度上昇度ΔT_a(n)を算出する(S103〜S104)。
【0083】
次に、開始温度Tsと、ΔT_a(n)から、温度検知手段112がn枚の印刷が終了した直後に到達する到達温度Te_a(n)を、次式(2)により算出する(S105)。
Te_a(n)=Ts+ΔT_a(n) ・・・(2)
【0084】
ここで、予め設定されている上限温度Tlimitと、上記式(2)で求めたTe_a(n)とを比較して(S106)、図13に示すように、次式(3)、
Tlimit≧Te_a(n) ・・・(3)
が成立する場合は(S106:Yes)、印刷モード決定手段110は印刷モードaを決定する(S118)。
【0085】
印刷モードaが決定されると、プリンタコントローラは、主走査モ−タ、副走査モ−タを駆動させるためのドライバに所望の速度を設定し、印刷動作を開始し、n枚の印刷が終了するまで印刷動作を継続する(S119〜S122)。
【0086】
これに対し、上限温度TlimitとTe_a(n)とを比較して(S106)、上記式(3)が成立しない、すなわち、次式(4)が成立する場合(S106:No)は、
Tlimit<Te_a(n) ・・・(4)
図14に示すように、開始温度Tsが図13の場合より高く、Ts<Tlimit<Te_a(n)の関係が成立するので、印刷モードaでn枚を印刷すると、装置体内部の温度は途中で上限温度Tlimitを超えてしまうこととなる。
【0087】
そこで、本実施形態では、印刷モードを途中で印刷モードaから印刷モードbに切り替える制御を行うものである。この切り替えタイミングについては、可能な限り印刷速度の速い印刷モードaで印刷する枚数を多くすることと、途中で印刷モードbに切り替えて最終枚まで印刷終了し、その直後に次の印刷jobを受信しても印刷が可能になることが重要となる。以下に説明する。
【0088】
先ず、印刷動作による温度上昇の許容度ΔTkを次式(5)により算出する(S107)。
ΔTk=Tlimit−Ts ・・・(5)
【0089】
ここで、印刷モードaで印刷する枚数をm枚(n>m)とすると、印刷モード決定手段110は、印刷モードテーブル111に保存されている印刷モードa,bそれぞれのm枚印刷したときの温度上昇ΔTa(m),ΔTb(m)と、印刷モードbで印刷し続けたときの温度上昇の飽和温度ΔTmax_bのデータを参照し、次式(6)が成立するようなmの値を算出する(S108)。なお、mは取り得る最大値(整数)である。
ΔTk≧ΔTa(m)+(ΔTmax_b−ΔTb(m)) ・・・(6)
【0090】
印刷モード決定手段110で算出されるmの値(上記式(6))について図14を参照して説明する。先ず、1枚目からm枚目までは印刷モードaで印刷されるため、m枚印刷した時点での温度上昇はΔTa(m)となる。
【0091】
また、印刷モードbで印刷し続けたときの温度上昇はΔTmax_bであるが、実際には、m+1枚目から印刷モードbによる印刷が実施され、m枚印刷終了までの温度上昇は発生しない。したがって、印刷モードbで発生する温度上昇は(ΔTmax_b−ΔTb(m))となる。
【0092】
したがって、印刷モードa,b両者による温度上昇は、ΔTa(m)+(ΔTmax_b−ΔTb(m))となり、この値が上記式(5)で求めた温度上昇の許容度ΔTkを超えなければよいこととなる(上記式(6))。
【0093】
このとき、印刷モードbによる温度上昇の飽和点がTlimit以下になるようなタイミングで印刷モードをaからbに切り替えるため、印刷モードbでTlimitを超えてしまうことはない。
【0094】
以上説明したように、mの値を算出し、以降、m枚までは印刷モードaで印刷が実施され、m+1枚目からは、印刷制御手段202が主走査モ−タ217、副走査モ−タ218を駆動させるためのドライバ215に所望の速度を設定し、印刷動作が開始され、n−m枚の印刷を実施する(S109〜S117)。
【0095】
なお、このとき、印刷モードbの温度上昇は飽和するまで考慮されているので、n枚印刷終了直後に次の印刷ジョブによる印刷が開始されても、そのまま継続して印刷することができ、このときTlimitを超えることはない(S124〜S125)。
【0096】
以上説明したように、本実施形態に係る画像形成装置によれば、装置内の検知温度と印刷モード(印刷速度)の温度上昇と、印刷枚数と、から到達温度を算出し、算出結果が上限温度を超える場合は、他の印刷モードによる温度上昇の飽和温度と検知箇所の上限温度から途中で印刷モードを切り替えるタイミングを算出するので、印刷終了直後に次の印刷が開始されても、その後の温度上昇は飽和し、上限温度を超えないように制御することができる。
【0097】
また、印刷枚数が少ない場合や低温環境時等は、上限温度と印刷開始前の検知温度の差(許容できる温度上昇)が大きいことを算出するので、印刷速度の速い印刷モードで印刷を実施し、印刷時間を短縮することができる。
【0098】
したがって、印刷終了後に温度が上昇していても、すぐに次の印刷を開始することができ、また、印刷ジョブの枚数が比較的少ない場合でも、枚数が多い場合に比べて高速に印刷することができ、さらに、ファンなどの冷却手段を使用することなく、装置サイズを小さく、低コスト化を図ることができる。
【0099】
[第2の実施形態]
以下、本実施形態に係る撮像装置の他の実施形態について説明する。なお、上記第1の実施形態と同様の点についての説明は適宜省略する。
【0100】
第1の実施形態では、印刷を開始する前に印刷モードaと印刷モードbの印刷枚数を決定する例について説明したが、以下、印刷の途中において、温度変化に応じて、印刷モードの印刷枚数を切り替える例について説明する。
【0101】
m枚を印刷モードaで印刷している途中におけるp(ただし、p<m)枚印刷後に、再び温度検知手段112により温度を検出し、そのときの検知温度をTpとする(Ts:印刷開始前の検出温度(開始温度)、Tp:p枚印刷後の検出温度(途中検出温度))。開始温度Tsと、印刷モードテーブル111から算出する算出温度は、Ts+ΔTa(p)となる。
【0102】
ここで、図15に示すように(図中、(a),(b)は、印刷モードa,bを示している)、Tp<Ts+ΔTa(p)のとき(なお、ΔTa(p):印刷モードaでp枚印刷したときの印刷モードテーブル111から算出した温度上昇、ΔT(p):印刷開始前に算出したp枚印刷後の温度とp枚印刷後の検出温度との差(ズレ量)である)、検出温度と算出温度のズレ量ΔT(p)は、次式(7)で表される。
ΔT(p)=Ts+ΔTa(p)−Tp ・・・(7)
【0103】
さらに、ズレ量ΔT(p)から、上限温度Tlimitまでの許容度ΔTkを次のように補正する。補正後のΔTkを、ΔTk’とすると、次式(8)で表される。
ΔTk’=ΔTk+ΔT(p)
=ΔTk+Ts+ΔTa(p)−Tp ・・・(8)
【0104】
したがって、印刷モードがaからbへ切り替わるときの印刷枚数m’は、次式(9)を満たすm’となる。
ΔTk’≧ΔTa(m’)+(ΔTmax_b−ΔTb(m’)) ・・・(9)
【0105】
以上説明したように、本実施形態では、m’枚までは印刷モードaで印刷が実施され、m’+1枚目からn枚までは、印刷モードbで印刷が実施される。
【0106】
なお、第1の実施形態と同様に、印刷モードbの温度上昇は、飽和するまで考慮されているので、n枚印刷終了直後に次のジョブによる印刷が開始されても、そのまま継続して印刷することができ、このときTlimitを超えることはない。
【0107】
これに対し、図16に示すように(図中、(a),(b)は、印刷モードa,bを示している)、Tp>Ts+ΔTa(p)のとき、p枚印刷後の検出温度と算出温度のズレΔT(p)は、次式(10)で表される。
ΔT(p)=Tp−(Ts+ΔTa(p)) ・・・(10)
【0108】
さらに、ズレ量ΔT(p)から、上限温度Tlimitまでの許容度ΔTkを次のように補正する。補正後のΔTkを、ΔTk’とすると、次式(11)で表される。
ΔTk’=ΔTk−ΔT(p)
=ΔTk−Tp+(Ts+ΔTa(p)) ・・・(11)
【0109】
したがって、印刷モードがaからbへ切り替わるときの印刷枚数m’は、次式(12)を満たすm’となる。
ΔTk’≧ΔTa(m’)+(ΔTmax_b−ΔTb(m’)) ・・・(12)
【0110】
本実施形態によれば、画像が異なる印刷の場合や画像形成装置の環境温度が変化しても温度を再検出することで各印刷モードの印刷枚数を補正できるので、より精度よく、印刷時間を短縮することが可能となる。
【0111】
[第3の実施形態]
上記第2の実施形態では、印刷モードaで印刷している途中のp枚印刷後に再び温度を検出するものであるが、本実施形態に係る画像形成装置は印刷開始前に印刷モードテーブル111から算出できる各ページの印刷終了後の算出温度と、実際に各ページの印刷終了後に検出できる検出温度の差をモニタリングしておき、一定値以上にその差が大きくなったら、印刷モードaで印刷できる枚数mを見直して補正するものである。
【0112】
例えば、一定値を5度(deg)とし、印刷枚数がp枚終了後にズレ量ΔT(p)が5degを超える場合、p枚印刷後の検出温度をTp、印刷開始前に算出したp枚印刷後の温度をTs+ΔTa(p)とすると、ズレ量ΔT(p)が、次式(13)を満たす場合のみ、第2の実施形態で説明したように、印刷枚数m’を算出して枚数mを補正するものである。
ΔT(p)=|Tp−(Ts+ΔTa(p))|>5 ・・・(13)
【0113】
本実施形態は、温度上昇が大きい部品温度を検出する場合や上限温度からの余裕度が小さい場合に好適に、各印刷モードの印刷枚数を補正することが可能となる。
【0114】
[第4の実施形態]
さらに、印刷開始前に印刷モードテーブル111から印刷モードaの印刷枚数mを算出した後、一定枚数印刷した後に再び温度を検出して、その結果から印刷枚数mを補正するようにしても良い。これにより、上記実施形態に比べて、温度検出する回数が決められた枚数印刷後に限定することができるので、補正手段によって各印刷モードの印刷枚数を補正することが短時間で実施可能となる。
【0115】
例えば、印刷モードaの印刷枚数mを補正するタイミングを、印刷枚数の1/2(以下、1/2m、と記す)とすることが好ましい。なお、mが奇数枚数の場合は、1/2(m−1)とすればよい。これは、1/2より少ない枚数の場合、ズレ量が小さいため補正の精度が悪くなる場合があり、1/2より大きい枚数の場合、ズレ量が大きくなりすぎ十分な補正ができない場合があるためであり、1/2程度の印刷枚数で実施するのが最も効果的であることによるものである。
【0116】
1/2m枚を印刷モードaで印刷終了後の検出温度をT(1/2m)、印刷開始前に印刷モードテーブル111から算出できる1/2m枚印刷後の算出温度を(Ts+ΔTa(1/2m)とすると、検出温度と算出温度のズレ量ΔT(1/2m)は、次式(14)で表される。
ΔT(1/2m)=|T(1/2m)−(Ts+ΔTa(1/2m))| ・・・(14)
【0117】
以降、第2の実施形態と同様に印刷枚数m’を改めて算出して枚数mを補正するものである。例えば、n=20(枚)の印刷で印刷モードテーブル111から印刷モードaの印刷枚数がm=10(枚)のとき、1/2m=5(枚)印刷終了後に温度を再び検出し、次式(15)を満たせば、上記第2の実施形態で説明した処理を実施するものである。
検出温度T(1/2m)>算出温度Ts+ΔTa(1/2m) ・・・(16)
例えば、再算出した結果がm’=7であるとすると、さらに2枚を印刷した後、印刷モードbに切り替えて、残り13枚を印刷するものである。
【0118】
[第5の実施形態]
上記の実施形態で述べた温度検知手段112を第一の温度検知手段とした場合に、さらに、画像形成装置の、例えば、環境温度に近い外装の温度を測れる場所に、第二の温度検知手段113を備えることも好ましい。
【0119】
本実施形態では、印刷開始前に第二の温度検知手段113が検知した第二の検出温度と、印刷モードaで印刷開始後、途中、各ページの印刷終了後の第二の検出温度の温度変動が一定値以上に大きくなったら、印刷モードaで印刷できる枚数mを見直して補正するものである。
【0120】
例えば、第二の温度検知手段113による検出温度をTs2とし、印刷開始前からの温度変動をΔTs2とする。このΔTs2をモニタリングしておき、一定値以上にその差が大きくなったら、印刷モードaで印刷できる枚数mを見直して補正するものである。
【0121】
例えば、一定値を5degとすると、次式(16)を満たす場合、
ΔTs2>5 ・・・(16)
このときの印刷終了枚数をp枚として、第2の実施形態において述べたように、印刷枚数m’を算出して枚数mを補正するものである。
【0122】
本実施形態によれば、例えば、第二の温度検知手段113を画像形成装置の環境温度に近いところを設置することで、冷暖房等の使用による急な環境温度の変化にも対応して、精度よく各印刷モードの印刷枚数を補正することが可能となる。
【0123】
なお、上記実施形態では、印刷ページ単位で、印刷モードの切り替えを実施する例について述べたが、必ずしも印刷ページ単位で実施する必要はなく、ページ内の途中で印刷モードの切り替えを実施してもよい。その場合、印刷モードテーブル111は温度−印刷時間の温度上昇特性値データを保有し、印刷時間を管理して印刷モードの切り替えを実施するようにするものである。
【0124】
尚、上述の実施形態は本発明の好適な実施の例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上記実施形態では、画像形成装置として、インクジェット記録装置を例に説明したが、電子写真方式(レ−ザ−プリンタなど)の画像形成装置にも適用させることができる。
【符号の説明】
【0125】
1 画像形成装置(装置本体)
2 給紙トレイ
3 排紙トレイ
4 カートリッジ装填部
10 インクカートリッジ
21 フレーム
21A,B 側板
21C 後板
22 ハーネス(フレキシブルプリントケーブル)
25 係止部材
31 ガイドロッド
32 ステー
33 キャリッジ
34 記録ヘッド
35 サブタンク
36 インク供給チューブ
41 用紙積載部(圧板)
42 用紙
43 半月コロ(給紙コロ)
44 分離パッド
45 ガイド部材
46 カウンタローラ
47 搬送ガイド部材
49 先端加圧コロ
48 押さえ部材
51 搬送ベルト
52 搬送ローラ
53 テンションローラ
56 帯電ローラ
57 ガイド部材
61 分離爪
62 排紙ローラ
63 排紙コロ
71 両面ユニット
72 手差しトレイ
81 維持回復機構
82a〜82d キャップ部材(キャップ)
83 ワイパーブレード
84 空吐出受け
88 空吐出受け
89 開口
103 D/A変換回路(DAC)
104 アンプ
105 電流増幅部
106 PZT選択回路
110 印刷モード決定手段
111 印刷モードテーブル
112 温度検知手段(第一の温度検知手段)
113 温度検知手段(第二の温度検知手段)
141 流路板
141a 隔壁部
142 振動板
143 ノズル板
144 フレーム部材
145 ノズル
145a ノズル連通路
146 加圧室
147 インク供給路
148 共通液室
149 インク供給口
150 接着剤
152 圧電素子
153 ベース基板
154 支柱部
155 薄肉部(ダイアフラム部)
156 厚肉部(島状凸部)
157 厚肉部
161 圧電層
162 内部電極層
163 個別電極
164 共通電極
165 FPCケーブル
200 プリンタコントローラ
201 主制御部
202 印刷制御部(印刷制御手段)
203 RAM(記憶手段)
204 ROM(記憶手段)
205,206,207 インターフェース(I/F)
210 エンコーダ
211 用紙センサ
212 用紙検出センサ
213 ドライバ
214 モータドライバ
215 ヘッドドライバ(ヘッド駆動回路)
216 給紙クラッチ
217 主走査モータ
218 副走査モータ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0126】
【特許文献1】特開2002−36514号公報
【特許文献2】特開2009−31580号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置内部の所定位置の温度を検出する温度検知手段と、
印刷開始時に前記温度検知手段により検出された開始検出温度と、当該装置に要求された印刷枚数と、印刷速度の異なる2以上の各印刷モードについての印刷の実行による温度上昇および温度上昇後の飽和温度を記録した印刷モードテーブルと、に基づいて、印刷開始時に、1の印刷モードにより、または2以上の印刷モードを切り替えて印刷を実行することと、各印刷モードで実行する印刷枚数と、を決定する印刷モード決定手段と、
該印刷モード決定手段により決定された各印刷モードに応じた印刷速度で、印刷の実行を制御する印刷制御手段と、を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記印刷モード決定手段は、
決定された印刷モードおよび印刷枚数での印刷の実行途中に前記温度検知手段により検出された途中検出温度と、前記開始検出温度と、印刷モードに応じた温度上昇より算出される算出温度と、に基づいて、
印刷開始時に決定した各印刷モードでの印刷枚数を補正することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記途中検出温度は、所定間隔で検出され、
前記印刷モード決定手段は、前記途中検出温度が検出されるごとに、該途中検出温度と前記算出温度とを比較して、所定のずれ量以上の場合に、印刷開始時に決定した各印刷モードでの印刷枚数を補正することを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記印刷モード決定手段は、
印刷開始時に決定された印刷モードの印刷枚数未満の所定の印刷枚数の印刷終了後に、印刷開始時に決定した各印刷モードでの印刷枚数を補正することを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記所定の印刷枚数は、印刷開始時に決定された印刷モードの印刷枚数の略1/2であることを特徴とする請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記温度検知手段を第一の温度検知手段とし、
該第一の温度検知手段よりも当該装置の環境温度に近い値を検出可能な第二の温度検知手段を更に備え、
印刷開始時に第二の温度検知手段が検知した第二開始検出温度と、印刷途中に検知した第二途中検出温度との温度変動が所定の値以上となった場合に、印刷開始時に決定した各印刷モードでの印刷枚数を補正することを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−52648(P2013−52648A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193877(P2011−193877)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】