説明

画像表示装置及びその駆動方法

【課題】電子放出素子の素子耐圧を向上させる画像表示装置およびその駆動方法を提供する。
【解決手段】画像表示装置の駆動方法であって、複数の走査線のうち第1の走査線に非選択電位を印加する工程と、第1の走査線に選択電位を印加する工程と、を有する。第1の走査線に非選択電位が印加される期間のうち少なくとも一部の期間の間、第1の走査線に接続された電子放出素子に印加される電圧が、電子放出時に印加される電圧と逆極性の電圧に設定される。第1の走査線に選択電位が印加される前の一定期間の間、第1の走査線に接続された電子放出素子に印加される電圧が、0ボルト(ゼロオフセット状態)、または、電子放出時に印加される電圧と同極性で且つ閾値電圧未満の電圧(正オフセット状態)、に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子放出素子を用いる画像表示装置の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大画面薄型ディスプレイとして、非特許文献1に示すような電子源から放出された電子線の蛍光体励起による画像表示装置が注目されている。この電子線励起蛍光体表示装置は、平面型電子源としての電子放出素子アレイが印刷技術を用いて形成できること、電子による蛍光体励起発光のためブラウン管と同じ発光原理を用いていること、さらに平面型電子源は十数Vの電圧で駆動できるため耐圧の低い駆動ICを用いることができる、などのメリットを有する。
【0003】
図17に、平面型電子源を用いた画像表示装置の構成を示す。リアプレート6上に、平面型電子源である電子放出素子12が形成されている。電子放出素子12は、電極10、11間に導電膜9を配置して形成され、電極10、11間に印加された電圧により駆動される。導電膜9には微小な間隙が形成されている。リアプレート6と対向するフェースプレート3上に、画素毎にR,G,Bの蛍光体膜4が塗布されている。蛍光体膜4の上にはアルミニウムからなるアノード電極5が形成されている。両プレート3,6間は真空状態に保持されている。電子放出素子12から放出された電子はアノード電圧により加速されて蛍光体膜4に到達する。この加速電子のエネルギーにより蛍光体膜4が励起発光する。
【0004】
発光そのものの原理はブラウン管と同じである。しかし、平面型電子源を用いた蛍光体表示装置では、画素毎に設けた電子源から放出された電子により、対応する画素の蛍光体層を励起発光させる。また、リア及びフェースプレート間は数mm程度の間隔であり、薄型の表示装置であることにブラウン管と大きな違いがある。
【0005】
図18は、リアプレートの構成を平面的に示す図である。ガラス基板上に電子放出素子12がマトリクス状に配列されている。電極10は走査線7に接続され、電極11は信号線8に接続されている。図示していないが、走査線7と信号線8とを絶縁するための絶縁層が、両配線間に形成されている。図18に示す平面型電子源アレイでは、導電膜9、電極10,11、走査線7、信号線8、絶縁層(不図示)の全てを印刷により形成することができる。このため、大面積基板での素子アレイ形成が容易である。よって、この平面型電子源アレイは、大画面の平面型表示装置の構成としてきわめて有望である。
【0006】
図18において、走査線7に順次選択パルスを印加することにより、1または複数の走査線7が選択される。他方、各信号線8には、画像信号に応じて変調された駆動パルスが印加される。これにより、選択された走査線7に接続された電子放出素子12は、選択パルスと駆動パルスの電位差である駆動電圧が印加される。駆動電圧の振幅およびパルス幅に応じて電子放出素子12から放出される電子の量が制御できる。これにより、必要な電子量を蛍光体に照射することができ、所望の映像を表示することができる。
【0007】
このような平面型電子源を用いた画像表示装置は、以下の特徴を有する。発光効率の高い電子線による蛍光体励起発光を用いるため、大画面であっても消費電力が少ない。また、蛍光体の発光は走査線が選択された極短い時間だけであり、液晶表示装置(LCD)やプラズマ表示装置(PDP)のようなホールド型の表示とならないため、動画像表示においてもごく自然な映像を表示できる。また、LCDのように画面輝度の視角依存性はなく、広い視角特性を有する。さらに、平面型電子源は十数Vで動作するため、耐圧の低いドライバICで駆動することができる。
【0008】
図19に、電子放出素子に印加される電圧波形を示す。図19の符号1は走査線電位Vyの波形を示し、符号2は信号線電位Vxの波形を示している。
【0009】
マトリクスの中の任意の1行の電子放出素子を駆動するには、選択する行の走査線には選択電位Vsを印加し、同時に非選択の行の走査線には非選択電位Vnsを印加する。これと同期して信号線に電子ビームを出力するための駆動電位Veを印加する。この方法によれば、選択する行の電子放出素子には、Ve−Vsの電圧(駆動電圧)が印加され、また非選択行の電子源にはVe−Vnsの電圧が印加される。Ve,Vs,Vnsを適宜の大きさの電圧にすれば選択する行の電子放出素子だけから所望の強度の電子ビームが出力されるはずである。また信号線の各々に異なる駆動電位Veを印加すれば、選択する行の電子放出素子の各々から異なる強度の電子ビームが出力されるはずである。また、電子放出素子の応答速度は高速であるため、駆動電位Veを印加する時間の長さを変えれば、電子ビームが出力される時間の長さも変えることができるはずである。なお、図19では、信号線の非駆動電位Vneは0Vとしている。
【0010】
特許文献1では、非選択状態にある電子放出素子の無効電流を低減する目的で、非選択状態において、駆動電圧と逆極性のオフセット電圧を電子放出素子に印加する方法が提案されている。具体的には、図19に示すように、非選択状態において走査線電位Vyを非選択電位Vns(0<Vns)に設定する。前選択ラインの選択が終了した直後は信号線電位Vxが0Vになっているため、図19に示すように非選択状態において逆オフセット状態が生じる。走査線電位Vyが選択電位Vs(Vs<0)になって当該ラインが選択されると、電圧印加状態は逆極性から正極性へ移行する。更に画像信号に応じた駆動電位Veが信号線に印加されると、信号線と走査線の電位差(Ve−Vs)に応じて電子放出素子から電子が放出される。また非選択状態では信号線と走査線の電位差(Ve−Vns)が小さくなるため、電子源のリーク電流を低減することが出来る。その結果、無効電流が低減する。
【0011】
特許文献2には、電圧波形のオーバーシュートおよびアンダーシュートを抑制する目的で、選択電位と非選択電位の間の遷移を100nsec〜2μsecかけて行う方法が提案されている。また、特許文献2には、nラインにおける選択から非選択への遷移期間と、n+1ラインにおける非選択から選択への遷移期間とを重複させる構成が提案されている。
【非特許文献1】E. Yamaguchi, et.al., “A 1O-in. SCE emitter display”,Journal of SID, Vol.5, p345, 1997.
【特許文献1】特開2002−40986号公報
【特許文献2】特開2006−330701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述の画像表示装置においては、電子放出素子に設けられた狭い間隙に電圧を印加して高電界を発生させ、高電界を利用して電子を放出させている。電界が高いほど放出電流は高くなるので、出来る限り印加電圧は高くしたい。しかしながら電子放出素子が選択状態と非選択状態を繰り返すと、ごく稀に電子源の狭い間隙において放電が発生するという課題があった。素子放電は電子放出素子の破壊を招き表示上の欠陥となる。更に電子放出素子の放電破壊が電子源とアノード電極の間の放電を誘発し、アノード電極にもダメージを与える場合がある。放電発生確率は極めて低いが、表示欠陥が発生するため放電確率は一層低減させる必要がある。
【0013】
本発明は、電子放出素子の素子耐圧を向上させる画像表示装置およびその駆動方法を提
供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る画像表示装置の駆動方法は、
複数の電子放出素子と、該複数の電子放出素子にマトリクス状に接続される複数の走査線及び複数の信号線と、を備え、前記電子放出素子は、前記走査線と信号線とを介して該電子放出素子に印加される電圧が閾値電圧以上となった場合に電子を放出するものである画像表示装置の駆動方法であって、
前記複数の走査線のうち第1の走査線に非選択電位を印加する工程と、
前記第1の走査線に選択電位を印加する工程と、を有し、
前記第1の走査線に非選択電位が印加される期間のうち少なくとも一部の期間の間、前記第1の走査線に接続された電子放出素子に印加される電圧が、電子放出時に印加される電圧と逆極性の電圧に設定され、
前記第1の走査線に前記選択電位が印加される前の一定期間の間、前記第1の走査線に接続された電子放出素子に印加される電圧が、0ボルト、または、電子放出時に印加される電圧と同極性で且つ前記閾値電圧未満の電圧、に設定されること
を特徴とする画像表示装置の駆動方法である。
【0015】
本発明に係る画像表示装置は、
複数の電子放出素子と、
該複数の電子放出素子にマトリクス状に接続される複数の走査線及び複数の信号線と、
前記走査線及び前記信号線それぞれの電位を制御する駆動回路と、
を備え、
前記電子放出素子は、前記走査線と信号線を介して該電子放出素子に印加される電圧が閾値電圧以上となった場合に電子を放出するものであり、
前記駆動回路は、前記複数の走査線のうち第1の走査線に非選択電位を印加した後で、前記第1の走査線に選択電位を印加し、
前記駆動回路は、前記第1の走査線に非選択電位が印加される期間のうち少なくとも一部の期間の間、前記第1の走査線に接続された電子放出素子に印加される電圧を、電子放出時に印加される電圧と逆極性の電圧に設定し、
前記駆動回路は、前記第1の走査線に前記選択電位が印加される前の一定期間の間、前記第1の走査線に接続された電子放出素子に印加される電圧を、0ボルト、または、電子放出時に印加される電圧と同極性で且つ前記閾値電圧未満の電圧、に設定すること
を特徴とする画像表示装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電子放出素子の素子耐圧が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0018】
(画像表示装置の構成)
図1は、画像表示装置の構成を模式的に示している。画像表示装置は、表示パネル100と、表示パネル100を駆動するための駆動回路200とを備える。表示パネル100は、リアプレート6と、リアプレート6に対向するフェースプレート3とを備えている。リアプレート6上には、複数の走査線7及び複数の信号線8がマトリクス状に形成され、走査線7と信号線8の交点部分それぞれに電子放出素子12が形成されている。この構造は単純マトリクス構造とよばれる。フェースプレート3には、蛍光体膜およびアノード電極が形成されている。
【0019】
駆動回路200は、走査線7に電気的に接続されている走査回路210と、信号線8に電気的に接続されている変調回路220とを含む。走査回路210は、走査線7の電位を制御するための回路である。基本的には、走査回路210は、選択対象の走査線7に選択電位Vsを印加し、選択対象でない走査線7に非選択電位Vnsを印加する(Vs<0<Vns)。変調回路220は、信号線8の電位を制御する回路であって、画像信号に応じて変調されたパルス信号を信号線8に印加する。変調方式としては、パルス幅変調、パルス振幅変調、あるいは、パルス幅と振幅の両方の変調のいずれでもよい。
【0020】
図2は、電子放出素子の、「放出電流Ie」対「素子電圧Vf」特性、および「素子電流If」対「素子電圧Vf」特性の典型的な例を示す。素子電圧Vfは電子放出素子12のゲート電極とカソード電極の間に印加される電圧であり、放出電流Ieは電子放出素子12からアノード電極へ流れる電流であり、素子電流Ifはゲート電極とカソード電極の間に流れる電流である。なお、放出電流Ieは素子電流Ifに比べて著しく小さく、同一尺度で図示するのが困難であるため、2本のグラフは各々任意単位で図示されている。
【0021】
この電子放出素子は、閾値電圧Vth以上の大きさの電圧を素子に印加すると急激に放出電流Ieが増加するが、閾値電圧Vth未満の電圧では放出電流Ieはほとんど検出されない、という特性をもつ。本実施形態の画像表示装置はこの特性を利用して画像を表示する。すなわち、駆動対象の素子には所望の発光輝度に応じて閾値電圧以上の電圧を印加し、駆動対象でない素子には閾値電圧未満の電圧を印加するのである。なお、最大発光輝度(最大階調)に対応する放出電流Ieを基準放出電流とした場合に、基準放出電流の1/100の放出電流Ieが検出される電圧を「閾値電圧Vth」に設定するとよい。
【0022】
(素子耐圧の評価)
まず、電子放出素子に印加する電圧波形と素子耐圧の関係を調査するために、図3に示す評価系による素子耐圧評価試験を実施した。
【0023】
特定の走査線7,信号線8にパルス発生器の出力が接続される。選択された走査線および信号線以外の配線の電位は0Vに設定される。アノード電極に対してはアノード電圧が印加される。ただし、アノード電極の電位は0Vでもよい。
【0024】
パルス発生器は、選択された走査線と信号線の交点の電子放出素子に対して、パルスを繰り返し印加する。パルス発生器がパルスの振幅(電圧値)を駆動電圧よりも小さな値から徐々に大きな値へと変えていくと、ある電圧で素子放電が発生する。アノード電圧が印加されている場合は、素子放電が、電子放出素子とアノード電極との間の放電を誘発する。放電の発生は、走査線もしくは信号線の電圧変化、または、アノード電圧もしくはアノード電流の変化で検出できる。
【0025】
放電が発生した時に電子放出素子に印加されていた電圧を「素子耐圧」とよぶ。素子耐圧が高いほど素子放電発生確率が低いと見なせる。実際に表示装置を駆動して放電発生頻度を調査した結果、表示状態における放電発生頻度と上記試験で得られた素子耐圧の間には、明確な相関が得られ、素子耐圧評価試験の有効性が示された。
【0026】
次に、選択電位を印加する前の電圧状態が異なる図4A〜図4Dの4条件について、素子耐圧の比較実験を実施した。図中の単位「us」は「μsec(マイクロ秒)」の略号である。図4Aの条件では、走査線に選択電位が印加される前に約4.0μsecの逆オフセット状態が設けられる。図4Bの条件では、走査線に選択電位が印加される前に約4.0μsecのゼロオフセット状態が設けられる。図4Cの条件では、走査線に選択電位が印加される前に約4.0μsecの正オフセット状態が設けられ、図4Dの条件では、約5.0μsecの正オフセット状態が設けられている。なお、図4A〜図4Dにおいて
、逆/ゼロ/正オフセット状態の前は、走査線電位Vyと信号線電位Vxのいずれも0Vに設定されていた。
【0027】
ここでは、電子放出時(駆動時)に印加される電圧と逆極性の電圧を「逆オフセット電圧」とよび、逆オフセット電圧が電子放出素子に印加されている状態を「逆オフセット状態」もしくは「逆オフセット」とよぶ。換言すれば、逆オフセット状態とは、走査線電位Vyと信号線電位Vxの大小関係が電子放出時(駆動時)と逆になっている状態のことである。また、「ゼロオフセット」とは、電子放出素子に電圧が実質的に印加されていないこと、言い換えれば、走査線電位Vyと信号線電位Vxとが実質的に一致していること、をいう。電子放出時に印加される電圧と同極性の電圧を「正オフセット電圧」とよび、正オフセット電圧が電子放出素子に印加されている状態を「正オフセット」もしくは「正オフセット状態」とよぶ。換言すれば、正オフセット状態とは、走査線電位Vyと信号線電位Vxの大小関係が電子放出時と同じになっている状態のことである。
【0028】
図5は、図4A〜図4Dの4条件の比較実験の結果を示している。横軸は、電子放出素子に印加されたパルスの振幅(素子電圧)[V]を示し、縦軸は、全素子数に対する、その振幅のパルスが印加されるまでに放電が発生した素子数(累積)の割合(確率)を示す。図4Aの逆オフセットの場合に素子耐圧が最も低く、図4Bのゼロオフセットの場合と図4Cの正オフセットの場合に同等の素子耐圧が得られた。正オフセット期間が長い図4Dの条件の場合に、最も高い素子耐圧が得られた。
【0029】
次に、正オフセット期間の長さと素子耐圧の相関を調査するため、正オフセット期間の長さが異なる図6A〜図6Dの4条件について、素子耐圧の比較実験を実施した。図6Aの条件では、2.0μsecの正オフセット期間が設けられている。ここでは、走査線電位Vyを選択電位に設定し、信号線電位Vxを0Vに設定することで、正オフセット状態を作り出した。なお、正オフセット状態の前は走査線電位Vy、信号線電位Vxともに0Vに設定されていた。同様に、図6Bの条件では3.5μsec、図6Cの条件では5.5μsec、図6Dの条件では7.5μsecの正オフセット期間がそれぞれ設けられている。
【0030】
図7は、図6A〜図6Dの4条件の比較実験の結果を示している。横軸および縦軸は図5のグラフと同じである。図7に示すように、正オフセット期間を長くするほど素子耐圧が高くなる傾向が見られた。
【0031】
以上述べた実験より、(1)選択状態(走査線に選択電位が印加された状態)の直前に逆オフセット状態が設けられると素子耐圧が低くなる、(2)選択状態の直前にゼロオフセット状態または正オフセット状態が設けられると素子耐圧が高くなる、(3)更に、選択状態の直前の正オフセット期間を長くすることで、一層の素子耐圧向上を達成できる、という知見が得られた。また、正オフセット期間の長さは2.0μsec以上が好ましく、4.0μsec以上がさらに好ましい、という知見が得られた。
【0032】
以下、画像表示装置の具体的な駆動方法について説明する。
【0033】
(駆動方法1)
図8は、駆動方法1の電圧波形の例である。駆動方法1では、駆動対象の走査線(第1の走査線)に選択電位Vsが印加される前の一定期間の間、当該走査線に接続された電子放出素子に印加される電圧が、閾値電圧未満の一定の正オフセット電圧に設定される。
【0034】
具体的には、駆動方法1では、走査線に非選択電位Vnsが印加される第1の期間(I
)と、走査線にオフセット電位Vmが印加される第2の期間(II)と、走査線に選択電位
Vsが印加される第3の期間(III)とが設けられる(Vs<Vm<0<Vns;0−V
m<Vth)。ここで、第3の期間が選択状態であり、それ以外の第1及び第2の期間が非選択状態である。信号線の基準電位は0Vであり、電子放出素子を駆動する場合は第3の期間中に信号線に駆動電位Veが印加される(0<Ve;Vth≦Ve−Vs)。
【0035】
第1の期間の間、当該電子放出素子は逆オフセット状態に保たれる。これにより、非選択状態での素子リーク電流の発生が抑制される。第2の期間では、当該電子放出素子は正オフセット状態となる。ここでは第2の期間の長さを5.0μsecに設定する。このように選択状態(第3の期間)の直前に正オフセットを設定することにより、従来よりも素子耐圧を高めることができ、放電の発生を抑制することができる。なお、第2の期間の長さは第1の期間の長さに比べて極めて短いので、正オフセットに起因する素子リーク電流(無効電流)の増大は問題にならない。
【0036】
(駆動方法2)
図9は、駆動方法2の電圧波形の例である。駆動方法2では、走査線に選択電位Vsが印加される前の一定期間の間、当該走査線に接続された電子放出素子に印加される電圧が0ボルトに設定される。
【0037】
具体的には、駆動方法2では、走査線に非選択電位Vnsが印加される第1の期間(I
)と、走査線の電位が0Vに設定される第2の期間(II)と、走査線に選択電位Vsが印加される第3の期間(III)とが設けられる(Vs<0<Vns)。ここで、第3の期間
が選択状態であり、それ以外の第1及び第2の期間が非選択状態である。信号線の基準電位は0Vであり、電子放出素子を駆動する場合は第3の期間中に信号線に駆動電位Veが印加される(0<Ve;Vth≦Ve−Vs)。
【0038】
第2の期間では、当該電子放出素子はゼロオフセット状態となる。ここでは第2の期間の長さを5.0μsecに設定する。このように選択状態(第3の期間)の直前にゼロオフセットを設定することにより、従来よりも素子耐圧を高めることができ、放電の発生を抑制することができる。なお、第2の期間の長さは第1の期間の長さに比べて極めて短いので、ゼロオフセットに起因する素子リーク電流(無効電流)の増大は問題にならない。
【0039】
(駆動方法3)
図10は、駆動方法3の電圧波形の例である。駆動方法3でも、駆動方法1と同様、走査線に選択電位Vsが印加される前の一定期間の間、当該走査線に接続された電子放出素子に印加される電圧が、閾値電圧未満の正オフセット電圧に設定される。ただし、駆動方法1が走査線電位Vyを制御することで正オフセットを実現したのに対し、駆動方法3は信号線電位Vxを制御することで正オフセットを実現する。
【0040】
具体的には、駆動方法3では、走査線に非選択電位Vnsが印加され、かつ、信号線電位が0Vに設定される第1の期間(I)と、走査線に非選択電位Vnsが印加された状態
で、信号線にオフセット電位Vm´が印加される第2の期間(II)と、走査線に選択電位Vsが印加される第3の期間(III)とが設けられる(Vs<0<Vns;0<Vm´<
Ve;Vm´−Vns<Vth)。ここで、第3の期間が選択状態であり、それ以外の第1及び第2の期間が非選択状態である。電子放出素子を駆動する場合は第3の期間中に信号線に駆動電位Veが印加される(0<Ve;Vth≦Ve−Vs)。駆動方法3では、走査線に非選択電位Vnsが印加されている期間の一部の期間が逆オフセットに設定される。
【0041】
この駆動方法3によっても、駆動方法1と同様の作用効果が得られる。なお、具体例の説明は省略するが、走査線電位Vyと信号線電位Vxの両方を制御することで正オフセッ
トを実現する方法でも、駆動方法1と同様の作用効果が得られる。
【0042】
なお、本発明における選択状態とは、走査線に選択電位Vsが印加されている状態をいう。また、本発明における非選択状態とは、走査線に選択電位Vsが印加されていない状態をいう。すなわち、図8や図9から明らかなように、非選択状態は走査線に非選択電位Vnsが印加されている状態とは必ずしも一致しない。
【0043】
(駆動方法4)
上記駆動方法1〜3は、走査線の選択状態直前の極めて短い時間において、ゼロオフセットあるいは正オフセットを設けるというものであった。しかしながら、高精細な画像表示装置では、走査線本数が多いので各走査線の選択期間(水平走査期間)が短い。そのため、走査線の選択状態直前にゼロオフセットあるいは正オフセットを挿入する期間を新たに設けることが困難な場合もある。
【0044】
図11および図12を参照して、この問題を解決する方法を説明する。図11は従来の電圧波形であり、図12は駆動方法4の電圧波形である。
【0045】
図11は、順次走査される複数の走査線のうち、Nライン(N番目に選択される走査線)(第1の走査線)と、その直前に選択電位Vsが印加されるN−1ライン(第2の走査線)とを示している。Nラインに接続された電子放出素子は選択状態になる直前まで逆オフセット状態に保たれる。
【0046】
これに対して、駆動方法4では、図12に示すように、Nラインの正オフセット期間が、N−1ラインに選択電位Vsが印加されている期間と重複する部分を有している。具体的には、N−1ラインに選択電位Vsが印加されている間に、Nラインに対するオフセット電位Vmの印加を開始するのである。これにより、各走査線の選択期間が短くても、十分な長さの正オフセット期間を確保することができる。同様にして、ゼロオフセットの期間を確保することもできる。
【0047】
なお、オフセット電位Vmの印加を開始するタイミングは、図12のものに限らない。N−1ラインに選択電位Vsが印加されるよりも前から、Nラインの正オフセットを開始してもよい。すなわち、Nラインの正オフセット期間が、N−2ラインやそれ以上前の走査線の選択期間と重複していてもよい。
【0048】
(駆動方法5)
駆動方法4では、N−1ライン用の駆動電位Veが信号線に印加されたときに、Nラインに接続された素子における無効電流が増大するおそれがある。そこで、駆動方法5では、正オフセット(もしくはゼロオフセット)の期間が、信号線に駆動電位Veが印加される期間と重複しないようにする。
【0049】
具体的には、図13に示すように、N−1ライン用の駆動電位Veの印加が完了した後であって、且つ、N−1ラインが非選択状態になる前に、Nラインに対するオフセット電位Vmの印加を開始する。これにより、無効電流を低減することができる。
【0050】
なお、N−1ラインとNラインとは物理的に隣接している走査線である必要はない。例えば、奇数ラインを走査した後偶数ラインを走査するというようなインタレース走査を行う場合、N−1ラインとNラインとは2走査線分離れたラインとなる。すなわち、N−1ラインとはNラインの1つ前に走査される走査線を意味する。
【0051】
(実施例1)
図1は実施例1に係わる画像表示装置の構成を示す図である。
【0052】
ガラス基板からなるリアプレート6上に複数の走査線7が水平方向に形成され、また複数の信号線8が垂直方向に形成されている。走査線7の本数は480本、信号線8の本数は1920本である。走査線7、信号線8の配線ピッチはそれぞれ720μm、240μmである。走査線7と信号線8の各交点に、平面型電子源である電子放出素子12(ここでは、表面伝導型放出素子)が設けられている。
【0053】
フェースプレート3はガラス基板からなる。フェースプレート3の内面には図17に示すようにR,G,Bの蛍光体膜4が形成されている。各蛍光体膜4はリアプレート6上の各電子放出素子12に対応したピッチで形成されている。蛍光体膜4の上には薄膜のアルミニウム層からなるアノード電極5が形成されている。表示動作時には電子を加速するアノード電圧Vaがアノード電極5に印加される。
【0054】
リアプレート6とフェースプレート3はそれぞれ、フリットガラス等で支持枠(不図示)に接着される。この時リアプレート6とフェースプレート3の間に数mm程度の間隔が形成される。リアプレート6とフェースプレート3の間の空間を維持するため、両プレートの間に板状または柱状のスペーサが設けられることもある。
【0055】
両プレートを封止した後、表示領域外に設けられた排気管を通して、表示セル内部が真空排気される。その後各配線に駆動回路200を接続することで画像表示装置が完成する。
【0056】
図14は本実施例で用いた電子放出素子(表面伝導型放出素子)の構成を示す平面図である。
【0057】
Ptなどの薄膜電極10,11の間に、インクジェット印刷などで、PdOの微粒子による導電膜9が形成されている。電極10,11の間に適当な通電処理を施すことで、導電膜9に間隙(亀裂)13を形成することができる。この間隙13の幅はサブミクロン以下の大きさである。このため、間隙形成後に電極10,11間に電圧を印加すると、電子を放出するのに十分な強電界が間隙13に発生する。
【0058】
電子放出素子12の電子放出能力は間隙13の長さに概ね比例する。本実施例では、間隙13の長さを100μmとした。間隙13の形成条件は、電圧100V、パルス幅1msec、周期10msecのパルス電圧である。なお、電子放出素子の特性をより均一にするため、間隙13を形成後に有機ガス雰囲気中や真空状態で同様な通電処理を施しても良い。
【0059】
本実施例において、電子放出素子12へ印加する電圧波形は、図8に示すものとした。60Hz駆動の場合、一ラインには34.7μsecが割り当てられる。そのうち5μsecを正オフセット状態に、20μsecを選択状態に割り当てることで、表示に十分な電子放出時間を確保することができた。
【0060】
本実施例では、走査線の選択電位Vsを−10V、非選択電位Vnsを+4V,正オフセット状態での走査線電位Vmを−4V、信号線の駆動電位Veを10V、アノード電圧Vaを10kVとして10000時間の連続全白表示試験を実施した。比較として図19に示す従来の駆動方法による全白表示試験も併せて実施した。その結果、従来の駆動法では10000時間の表示試験中に平均1.5回の素子放電が観測されたが、本実施例では10000時間の表示試験中に素子放電は観測されなかった。
【0061】
(実施例2)
本実施例における画像表示装置の構成は、実施例1と同様である。ただし、走査線7の本数は1080本、信号線8の本数は5940本であり、走査線7、信号線8の配線ピッチはそれぞれ720μm、240μmである。
【0062】
本実施例において電子源へ印加する電圧波形は、図12に示すものとした。60Hz駆動の場合、一ラインには15.4μsecが割り当てられる。そのうち10μsecを選択状態に割り当てた。実施例1に比較して選択状態が短い。既に正オフセット状態を挿入するだけの余地はないので、図12に示すように、前ラインが選択状態の間に、正オフセット電圧の印加を開始する方法を採った。その結果、一ライン選択時間とほぼ同じ15μsecを正オフセット状態として確保することができた。
【0063】
本実施例では、走査線の選択電位Vsを−10V、非選択電位Vnsを+4V,正オフセット状態での走査線電位Vmを−4V、信号線の駆動電位Veを10Vとし、アノード電圧Vaを10kVとして10000時間の連続全白表示試験を実施した。比較として図19に示す従来の駆動方法による全白表示試験も併せて実施した。その結果、従来の駆動法では10000時間の表示試験中に平均1.5回の素子放電が観測されたが、本実施例では10000時間の表示試験中に素子放電は観測されなかった。
【0064】
なお、上記実施例では図14に示す表面伝導型放出素子を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば図15及び図16に示す先鋭型の電子源であっても良い。先鋭エミッタ14に走査線電位Vyを、またゲート15に信号線電位Vxを印加した場合、先鋭エミッタ14とゲート15の間で素子放電が発生する場合があるが、本発明の適用により放電頻度を低減することができる。
【0065】
またMIM型電子放出素子や弾道型電子放出素子であっても良い。その他本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、画像表示装置の構成を示す平面図である。
【図2】図2は、電子放出素子の特性を示す図である。
【図3】図3は、電子放出素子の素子耐圧評価試験の方法を示す図である。
【図4】図4A〜図4Dは、選択電位を印加する前の電圧状態が異なる4条件を示す図であり、図4Aは逆オフセット、図4Bはゼロオフセット、図4C及び図4Dは正オフセットを示している。
【図5】図5は、図4A〜図4Dの4条件の比較実験の結果を示す図である。
【図6】図6A〜図6Dは、正オフセット期間の長さが異なる4条件を示す図である。
【図7】図7は、図6A〜図6Dの4条件の比較実験の結果を示す図である。
【図8】図8は、駆動方法1の電圧波形を示す図である。
【図9】図9は、駆動方法2の電圧波形を示す図である。
【図10】図10は、駆動方法3の電圧波形を示す図である。
【図11】図11は、従来の駆動方法の電圧波形を示す図である。
【図12】図12は、駆動方法4の電圧波形を示す図である。
【図13】図13は、駆動方法5の電圧波形を示す図である。
【図14】図14は、表面伝導型放出素子の構成を示す平面図である。
【図15】図15は、画像表示装置の変形例を示す断面図である。
【図16】図16は、図15の画像表示装置のリアプレートの構成を示す平面図である。
【図17】図17は、画像表示装置の構成を示す断面図である。
【図18】図18は、リアプレートの構成を示す平面図である。
【図19】図19は、従来の駆動方法の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 信号線電位の波形
2 走査線電位の波形
3 フェースプレート
4 蛍光体膜
5 アノード電極
6 リアプレート
7 走査線
8 信号線
9 導電膜
10,11 電極
12 電子放出素子
13 間隙
14 先鋭エミッタ
15 ゲート
100 表示パネル
200 駆動回路
210 走査回路
220 変調回路
Ve 駆動電位
Vm オフセット電位
Vns 非選択電位
Vs 選択電位
Vth 閾値電圧
Vx 信号線電位
Vy 走査線電位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電子放出素子と、該複数の電子放出素子にマトリクス状に接続される複数の走査線及び複数の信号線と、を備え、前記電子放出素子は、前記走査線と信号線とを介して該電子放出素子に印加される電圧が閾値電圧以上となった場合に電子を放出するものである画像表示装置の駆動方法であって、
前記複数の走査線のうち第1の走査線に非選択電位を印加する工程と、
前記第1の走査線に選択電位を印加する工程と、を有し、
前記第1の走査線に非選択電位が印加される期間のうち少なくとも一部の期間の間、前記第1の走査線に接続された電子放出素子に印加される電圧が、電子放出時に印加される電圧と逆極性の電圧に設定され、
前記第1の走査線に前記選択電位が印加される前の一定期間の間、前記第1の走査線に接続された電子放出素子に印加される電圧が、0ボルト、または、電子放出時に印加される電圧と同極性で且つ前記閾値電圧未満の電圧、に設定されること
を特徴とする画像表示装置の駆動方法。
【請求項2】
前記一定期間は、前記第1の走査線の直前に前記選択電位が印加される第2の走査線に前記選択電位が印加されている期間と重複する部分を有すること
を特徴とする請求項1に記載の画像表示装置の駆動方法。
【請求項3】
前記一定期間は、前記信号線に駆動電位が印加される期間と重複しないこと
を特徴とする請求項1または2に記載の画像表示装置の駆動方法。
【請求項4】
前記逆極性の電圧は、前記閾値電圧未満の電圧であること
を特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の画像表示装置の駆動方法。
【請求項5】
前記第1の走査線には、前記一定期間の間、前記選択電位と前記非選択電位との間の電位が印加されること
を特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の画像表示装置の駆動方法。
【請求項6】
前記電子放出素子は表面伝導型放出素子であること
を特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載の画像表示装置の駆動方法。
【請求項7】
複数の電子放出素子と、
該複数の電子放出素子にマトリクス状に接続される複数の走査線及び複数の信号線と、
前記走査線及び前記信号線それぞれの電位を制御する駆動回路と、
を備え、
前記電子放出素子は、前記走査線と信号線を介して該電子放出素子に印加される電圧が閾値電圧以上となった場合に電子を放出するものであり、
前記駆動回路は、前記複数の走査線のうち第1の走査線に非選択電位を印加した後で、前記第1の走査線に選択電位を印加し、
前記駆動回路は、前記第1の走査線に非選択電位が印加される期間のうち少なくとも一部の期間の間、前記第1の走査線に接続された電子放出素子に印加される電圧を、電子放出時に印加される電圧と逆極性の電圧に設定し、
前記駆動回路は、前記第1の走査線に前記選択電位が印加される前の一定期間の間、前記第1の走査線に接続された電子放出素子に印加される電圧を、0ボルト、または、電子放出時に印加される電圧と同極性で且つ前記閾値電圧未満の電圧、に設定すること
を特徴とする画像表示装置。
【請求項8】
前記一定期間は、前記第1の走査線の直前に前記選択電位が印加される第2の走査線に
前記選択電位が印加されている期間と重複する部分を有すること
を特徴とする請求項7に記載の画像表示装置。
【請求項9】
前記一定期間は、前記信号線に駆動電位が印加される期間と重複しないこと
を特徴とする請求項7または8に記載の画像表示装置。
【請求項10】
前記逆極性の電圧は、前記閾値電圧未満の電圧であること
を特徴とする請求項7乃至9のうちいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項11】
前記第1の走査線には、前記一定期間の間、前記選択電位と前記非選択電位との間の電位が印加されること
を特徴とする請求項7乃至10のうちいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項12】
前記電子放出素子は表面伝導型放出素子であること
を特徴とする請求項7乃至11のうちいずれか1項に記載の画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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