説明

画像読取装置

【課題】装置の移動又は輸送時になされる移動走査体の移動規制の解除を自動的に行うことで、移動規制状態のままで動作しないような画像読取装置を提供する。
【解決手段】原稿を載置する原稿台を有する装置筐体2と、原稿台に載置された原稿の画像情報を読み取るために、原稿面を照明するための照明手段12を備え、装置筐体2内に移動自在に支持された移動走査体10と、を有した画像読取装置1は、移動走査体10の装置筐体内における移動を規制するための移動規制手段20を有し、移動規制手段20は、照明手段12の点灯により、移動走査体10の移動が規制された規制状態から、移動走査体10の規制が解除された解除状態へと変位し、その後、照明手段12の消灯後も解除状態を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機などの画像形成装置、スキャナ、などにおいて原稿台に載置された原稿の画像を読み取るための画像読取装置に関するものである。特に、本発明は、斯かる画像読取装置の内部に装着された、照明手段等の光学部品を備えた移動走査体(キャリッジ)を装置筐体に固定する構造に特徴を有している。
【背景技術】
【0002】
画像読取装置内の移動走査体(キャリッジ)は、ワイヤーやタイミングベルトなどのフレキシブルな駆動手段によって動力源と接続されているが、装置を輸送する際、その輸送時における振動または衝撃等によって周辺部材と衝突してしまい破損してしまうことがある。
【0003】
(手動の固定手段の先行例)
そこで、例えば特許文献1では、図14に示すように、画像読取装置の筐体111の所定の位置にネジ穴112を設け、さらに移動走査体115の、ネジ穴112に対応する位置にネジ受け(ナット)113を形成する。そして、固定ネジ(ボルト)114をネジ受け113に締結して、筐体111に移動走査体115を固定して、移動走査体115の移動を規制するようにしている。
【0004】
このようにすることによって、輸送時における移動走査体115の移動が規制され、移動走査体115及びその周辺の部品の破損を抑制することができている。
【0005】
上記固定ネジ(ボルト)114は、画像形成装置設置時に設置作業者または使用者によって取り外されることになっている。しかし、しばしば取り外し動作を忘れたまま、すなわち移動走査体115の移動が規制された状態のまま装置を使用し、使用者は故障と勘違いし、クレームとなることがあった。
【0006】
(自動の固定手段の先行例)
そこで、特許文献2では、図15に示すように、装置電源OFF時にはバネ128Bに押圧されてストッパ128Cが搬送ロック受け部127Aに挿入され、移動走査体121の移動を規制する。そして、装置電源ON時にソレノイド128によってストッパ128C引き抜くことで光学ヘッド(移動走査体)121の移動規制状態を解除する機構を提案している。
【0007】
このようにすることによって、輸送時における移動走査体の移動を規制し、移動走査体及びその周辺の部品の破損を抑制する。更に、移動走査体の移動規制を装置自ら自動的に解除することで、上述したような装置使用時における規制手段の取り外し忘れを防止している。
【特許文献1】特開2003−75932号公報
【特許文献2】特開平9−149203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
(解除状態維持のために別途電力が必要となる課題)
しかしながら、特許文献2に記載の機構では、移動走査体の移動規制の解除状態を維持するには、ソレノイド128でストッパ128Cを引き続けなければならず、読取動作用に加えてソレノイド128用の電力も別途必要になる。
【0009】
そもそも移動走査体の移動規制が必要なのは、装置の輸送または移動時であるが、一度設置された装置を再び移動することは頻繁にあることではなく、少なくとも一度設置されたならばその後再び移動するまで移動走査体の移動規制をする必要は無い。
【0010】
したがって、特許文献2に記載のソレノイド128用の電力は余分であり、また移動規制の解除状態を維持するためだけにソレノイド等の電気アクチュエータを付加するのは装置の電気的な構成を複雑にする。
【0011】
そこで、本発明の目的は、装置の移動又は輸送時になされる移動走査体の移動規制の解除を自動的に行うことで、移動規制状態のままで動作しないような画像読取装置を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、簡易で新たに電力を必要としない構成の画像読取装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は本発明に係る画像読取装置にて達成される。要約すれば、本発明は、
原稿を載置する原稿台を有する装置筐体と、
前記原稿台に載置された原稿の画像情報を読み取るために、原稿面を照明するための照明手段を備え、前記装置筐体内に移動自在に支持された移動走査体と、を有した画像読取装置において、
前記移動走査体の前記装置筐体内における移動を規制するための移動規制手段を有し、
前記移動規制手段は、前記照明手段の点灯により、前記移動走査体の移動が規制された規制状態から、前記移動走査体の規制が解除された解除状態へと変位し、その後、前記照明手段の消灯後も解除状態を維持することを特徴とする画像読取装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡易な構成で別途電力を消費することなく、移動走査体の移動規制の解除を自動的に行うことができ、移動規制状態のままで装置が動作しないようにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る画像読取装置を図面に則して更に詳しく説明する。なお、本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0016】
実施例1
(画像読取装置の構成)
図1は、本発明の画像読取装置であるイメージスキャナ1を、複写機等の画像形成装置100などに適用した時の斜視図である。図2は、図1に示すイメージスキャナ1の内部構成を示す図である。
【0017】
図1及び図2に示すように、画像読取装置であるイメージスキャナ1は、装置筐体2を備えている。装置筐体2には、原稿台ガラスフレーム3が一体に設置され、原稿台ガラスフレーム3には、原稿台ガラス4が取り付けられている。又、原稿台ガラスフレーム3には、回動ヒンジ7により原稿押え手段である原稿押え板5が開閉可能に取り付けられており、原稿押え板5には原稿押えシート6が配置されている。装置筐体内には、詳しくは後述するキャリッジ10が移動自在に配置されている。
【0018】
読み取るべき原稿を原稿台ガラス4の上に平置きに載置し、原稿押え板5の下面に設けられた原稿押えシート6で原稿を原稿台ガラス4に付勢した状態とする。この状態で、イメージスキャナ1は、原稿の画像読取を行なう。
【0019】
原稿押え板5は、回動ヒンジ7を中心に後方に向けて開閉可能に構成されている。原稿押え板5は、複数枚原稿の連続読取を行なう自動原稿給送装置(ADF)に置き換えてもよい。
【0020】
図2に示すように、イメージスキャナ1は、読取光学部品をユニット化したキャリッジ方式を採用している。
【0021】
つまり、本実施例にて、イメージスキャナ1は、移動走査体(キャリッジ)10を備えている。また、本実施例のキャリッジ10は、原稿面を照明する照明手段と、光電変換素子と、前記照明手段で照明された原稿からの光を前記光電変換素子に結像しオフアキシャル反射面を有する複数の結像ミラーとを有する光学ユニットを構成している。光学ユニットについては、詳しくは後述する。
【0022】
このように、本実施例にて、イメージスキャナ1は、キャリッジ方式の光学ユニット(移動走査体)10を備えている。
【0023】
図2を参照して更に説明すると読取手段であるキャリッジ10は、原稿台ガラス4の下部に配置され、副走査方向(矢印A方向)に延在して設置されたガイド軸8及びガイドレール16に移動自在に支持される。
【0024】
なお、本実施例では、キャリッジ10は、図6(a)をも参照すると理解されるように、ガイド軸8側は、軸受8aなどによりガイド軸8に沿った移動のみが可能となるように保持されている。一方、キャリッジ1のガイドレール16側は、摺動部材16aを介してガイドレール16上に載置された構成とされ、上下方向への規制はなされていない。
【0025】
キャリッジ10は、モータ、ギア等を備えた駆動手段90を介し、ベルト9により駆動を受け、ガイド軸8及びガイドレール16に沿って移動する。キャリッジ10は移動しながら、原稿台ガラス4上に平置きされた原稿11の原稿面を読み取る。
【0026】
図3は、原稿押さえ板5を取り外した状態のキャリッジ1の内部構成を示す概略断面図である。
【0027】
キャリッジ10において、原稿台ガラス4上に載置された原稿11は、照明手段12からの光束により照明される。その反射された光束を、第1ミラー31、第2ミラー32、第3ミラー33、第4ミラー34、結像レンズ35を介してCCD等の光電変換素子36面上に結像することにより、主走査方向(図2矢印B方向)の1ライン分の画像情報を読み取る。
【0028】
キャリッジ10は、照明手段12からCCD等の光電変換素子36までの要素すべてを一体に収納しているため各要素の相対位置が常に一定であり、ゆえに副走査方向(図2矢印A方向)への読み取りは、キャリッジ10を一定速度Vで移動させることにより画像情報を読み取ることができる。
【0029】
図4は、輸送時における画像読取装置1の斜視図である。図4に示すように、保護部材18は、原稿台ガラス4と原稿押え板5との間に挟まれた状態で、装置輸送時の原稿台ガラス4を保護する。保護部材18は、通常、スポンジ状の弾性体で形成されている。また、保護部材18は、原稿台ガラス4の破損防止に加えて、原稿台ガラス4の傷防止、汚れ防止をしている。これにより、原稿台ガラス4に付着した傷、汚れがそのままはっきり読取画像に写ってしまうことを抑制し、読取画像の劣化を抑制できる。
【0030】
(移動規制手段の構成)
次に、キャリッジ10のロック機構について詳細に説明する。
【0031】
図5は、輸送時における移動規制手段の構成図である。図6は、使用状態における移動規制手段の構成図である。
【0032】
図5及び図6に示すように、輸送時におけるキャリッジ10は、ガイド軸8を通している側についてはガイド軸8に規制されるため比較的安定した状態を維持できるが、ガイドレール16側については上下方向に振動する恐れがある。
【0033】
また、副走査方向(図2矢印Aの方向)についても、ガイド軸8側は適度な張力を持ったベルト9によって規制、或いは振動を吸収されるので比較的安定した状態を維持できるが、ガイドレール16側については振動する恐れがある。
【0034】
以上のことを鑑みて、図5、図6に示すように、ガイドレール16側を規制する移動規制手段20が設けられている。
【0035】
移動規制手段20は、第1リンク部材21Aと第2リンク部材21Bとを備えたリンク機構21と、引張りバネ23と、ワイヤプーリ部材24(24A、24B)と、熱によって歪を発生し得る線状部材25によって構成される。
【0036】
第1リンク部材21Aは、回動軸26を介して第2リンク部材21Bに対して回動自由に接続される。
【0037】
一端が第1リンク部材21Aと回動軸26を介して回動自在に接続された第2リンク部材21Bは、他端が、筐体2の一方の側壁(図5では左側壁)17aに設けられた回動軸27に対して回動自在に接続されている。
【0038】
このように、第1リンク部材21Aと第2リンク部材21Bは回動軸26に対してそれぞれ回動自由とされる。しかし、図5(c)及び図6(c)に示すように、各リンク部材21A、21Bの上面の互いになす角度θがある任意の角度(120度≦θ≦180度が好ましい)以上は、互いの方へと近接回動しないように、それぞれ、ストッパ部28、29が設けられている。
【0039】
引張りバネ23は、一端を筐体2の左側壁17aの回動軸27より上部の任意の位置に接続され、他端を第1リンク部材21Aの任意の位置に接続されている。
【0040】
ワイヤプーリ部材24(24A、24B)は、キャリッジ10の移動領域外に設置され、線状部材25の経路を規制する。
【0041】
つまり、ワイヤプーリ部材24は、図5にて、筐体2の左側側壁17aに配置された左側プーリ部材24Aと、右側側壁17bに配置された右側プーリ部材24Bとにて構成される。本実施例では、筐体2の左側プーリ部材24Aと右側プーリ部材24Bは同じ構成とされる。
【0042】
左側プーリ部材24Aについて説明すると、第9図(a)に示すように、上段の水平方向に連接して構成された第1及び第2プーリ部材24Aa、24Abと、第1、第2プーリ部材24Aa、24Abの下方に配置された第3プーリ部材24Acとを備えている。
【0043】
右側プーリ部材24Bについて説明すると、第9図(b)に示すように、上段の水平方向に連接して構成された第1及び第2プーリ部材24Ba、24Bbと、第1、第2プーリ部材24Ba、24Bbの下方に配置された第3プーリ部材24Bcとを備えている。
【0044】
本実施例における、熱によって歪を発生し得る線状部材25として、人工筋肉が挙げられる。人工筋肉とは、素材に高度な異方性を持たせ、長さ方向のみに運動方向を限定する性能を持つ繊維状のアクチュエータで、その動作は熱によって得ることができる。即ち、人工筋肉は、加熱すると硬化・収縮し、冷却すると弛緩・伸張する。図16に人工筋肉の温度−ひずみ特性を示す。
【0045】
人工筋肉は、図16に示すように、70〜80℃で収縮ひずみが生じ、その際に発生する引張り力は100〜150MPaにもなり、繰り返し動作を行っても運動ひずみの減少がほとんど無い。また、破断までの動作寿命が108回までと比較的長いという特徴も有している。以下、線状部材25を「人工筋肉」と呼ぶ。
【0046】
人工筋肉25は、図9(a)に示すように、一端を、回動軸26に設けた取付部26a、或いは、第2リンク部材21Bの任意の位置に接続することができる。また、他端は、左側プーリ部材24Aの第3プーリ部材24Acに固定される。
【0047】
つまり、人工筋肉25は、本実施例では、左側プーリ部材24Aの第3プーリ部材24Acから第2プーリ部材24Abを巻回され(走行部25c1)、次いで、右側プーリ部材24Bの第2、第3、第1プーリ部材24Bb、24Bc、24Baを巻回される(走行部25c2、25c3)。人工筋肉25は、右側プーリ部材24Baから、左側プーリ部材24Aの第1プーリ部材24Aaを巻回して、回動軸26の取付部に、人工筋肉25の他端が固定される(走行部25c4)。
【0048】
図5(b)に示すように、人工筋肉25の少なくとも一部は、即ち、本実施例では、左右のプーリ部材24A、24Bの間を走行する走行部25c1、25c4は、筐体天板17c(或いは、原稿台ガラス4)とキャリッジ10に内蔵される照明手段12との隙間を通るように配線される。
【0049】
(移動規制状態の説明)
輸送時においては、図5に示すように、回動軸26が引張りバネ23の両端を結ぶ線(図5(b)中線L−L’)より下側にあるため、引張りバネ23力は、第1リンク部材21A及び第2リンク部材21Bを、回動軸26及び回動軸27についてそれぞれ反時計周りに回動させる方向に働く。
【0050】
このとき、第1リンク部材21Aと第2リンク部材21Bは、図5(c)に示すように、ストッパ部28とストッパ部29が互いに突き当たるため、回動軸26周りの回動は抑えられる。従って、第1リンク部材21Aと第2リンク部材21Bは一体となって、引張りバネ23によって回動軸27について、図5(b)にて、反時計回り方向に付勢される。そのため、第1リンク部材21Aの、回動軸26とは反対側の先端部21Aaがキャリッジ10に設けられた凹部10aに差し込まれ、凹部10aに係合した状態が維持され、キャリッジ10の移動が規制される。
【0051】
これにより、輸送時におけるキャリッジ10の上下方向と副走査方向の振動を抑制することができる。
【0052】
(移動規制解除状態の説明)
図6は、キャリッジ10の固定(移動を規制された状態)が解除され、キャリッジ10が使用状態とされた時のキャリッジ移動規制手段20の状態を示す。
【0053】
キャリッジ固定解除状態では、回動軸26は、引張りバネ23の両端を結ぶ線L−L’(図6(b))より上側にあるため、第1リンク部材21Aは、引張りバネ23によって回動軸26について時計回り方向の付勢を受ける。しかし、回動軸27は引張りバネ23の両端を結ぶ線L−L’(図6(b))の下側にあるため、第2リンク部材21Bは引張りバネ23によって回動軸27について反時計回り方向の付勢を受け続ける。
【0054】
図6(b)において、回動軸26について時計回り方向には、第1リンク部材21A及び第2リンク部材21Bは共にストッパ部材を持たない。そのため、第1リンク部材21A及び第2リンク部材21Bは、図6(c)に示すように、折り畳まれたような状態になり(θ>180度)、第1リンク部材21Aはキャリッジ移動領域から退避する。また、この状態は、外部より特別な操作をしない限り、引張りバネ23によって維持され、キャリッジ10は、副走査方向(図2にて矢印A方向)に移動することができるようになる。
【0055】
このようにすることで、特別に電力を確保することなく、キャリッジ10の移動規制を解除した状態を維持することができる。
【0056】
(移動規制状態→解除状態の動作説明)
図5のキャリッジ移動規制状態から、図6のキャリッジ10の移動規制解除状態への移行(変位)は、人工筋肉25によってなされるが、その動作について次に説明する。
【0057】
図5のような移動規制状態は出荷時に工場作業者によって作られる。このとき、キャリッジ10の位置は、人工筋肉25が配線された位置に、キャリッジ内蔵の照明手段12が位置するように配置されている。
【0058】
即ち、人工筋肉25と移動規制手段20の相対的な位置関係は固定されるが、副走査方向(図2にて矢印A方向)における人工筋肉25と移動規制手段20の位置は任意である。
【0059】
読取装置1が、即ち、例えばこの読取装置1を搭載した複写機100が、ユーザの元へ配送され、設置完了し、その後、初起動時に照明手段12が点灯する。照明手段12の点灯により、照明手段12は百数十度にも達し、その照明手段12の発する熱に反応して、動作温度が70から80度の人工筋肉25は収縮する。それに伴い人工筋肉25が繋がれた回動軸26は上方向に引っ張られ、上方へと移動する。
【0060】
図5(b)にて、回動軸26の上方向への移動に伴い、第2リンク部材21Bは回動軸27について反時計回り方向に回転する。しかし、第1リンク部材21Aは、先端部21Aaがキャリッジ10に突き当たっているため、先端部21Aaが回動中心となり、相対的に回動軸26に対して時計周り方向に回転する。
【0061】
更に、回動軸26を上方向に引っ張り続けると、図7に示すように、回動軸26が引張りバネ23の両端を結ぶ直線(図中線L−L’)よりも上に位置するようになる。
【0062】
このとき、第1リンク部材21Aに対する引張りバネ23の作用する方向は、それまで回動軸26について反時計回り方向だったのに対して、回動軸26について時計回り方向に変化する。それによって、第1リンク部材21Aは引張りバネ23によって筐体左側板17aへ引き寄せられる。そして、図6に示す、キャリッジ固定解除状態となる。
【0063】
このように、照明手段12の点灯の熱を利用することで、自動的にキャリッジ10の移動規制解除を行なうことができる。更にその上に、一度解除した後は引張りバネ23によって解除状態が維持されるので、2回目以降の起動時においては、解除状態維持のために別途電力を要することがない。
【0064】
(人工筋肉の配線例)
本実施例においては、回動軸26を充分に上方向に移動させるだけの、人工筋肉25の動作変位を確保しなければならないが、現状では人工筋肉25の動作変位は自然長の5%程度しかない。そのため、場合によっては自然長の大きい人工筋肉25を配線する必要がある。
【0065】
そこで、本実施例では、先に、図9を参照して説明した構成の配線を採用している。更に、図8(a)、(b)をも参照して、本実施例における人工筋肉25を配線例について説明する。
【0066】
図8(a)、(b)に示すように、人工筋肉25は照明手段12の熱に反応させる必要があるため、照明手段12の熱が得られる位置に多く配線しなければならない。その上、照明手段12の熱によって得られた人工筋肉25の動作変位を回動軸26の移動量として有効に伝達できるような配線にしなければならない。
【0067】
本実施例では、図9を参照して上述したように、それぞれ3個のプーリ部材を備えた左右のワイヤプーリ部材24A、24Bを介して、走行部25c1、25c2、25c3、25c4とが形成されるように配線している。
【0068】
さらに、図8(b)に示す、走査方向(図中矢印B)両端に設けたワイヤプーリ部材24A、24Bが有するプーリの個数を、プーリ厚さを小さくするなどして更に増やし、限られたスペースで自然長の大きい人工筋肉25を配線することができる。
【0069】
(画像読取装置の電気的構成)
図10は、本実施例の画像読取装置1の内部の電気的構成を示すブロック図である。本実施例においては、電源回路21は、AC電源40から供給される電力をDC電源に変換し、マイクロコンピュータ42、駆動回路44、45、46、その他の回路に供給するように構成されている。AC電源40と電源回路41の間には、電源スイッチ43が設けられており、ユーザは、この電源スイッチ43を操作することによって、この画像読取装置1のオン/オフを制御することができる。
【0070】
マイクロコンピュータ42は、ホストコンピュータ49から入出力インタフェース48を介して入力される画像読み取り等のコマンドに対応して、電源回路41や駆動回路44、45、46の動作を制御するように構成されている。また、マイクロコンピュータ42は、駆動回路46を介してCCD36から入力される画像信号を入出力インタフェース48を介してホストコンピュータ49に出力するようにされている。
【0071】
キャリッジ10の駆動手段90の移動モータ47は、ステッピングモータであり、キャリッジ10の配置されている位置は、ステッピングモータ47の移動ステップ数のカウントによりマイクロコンピュータ42が制御している。
【0072】
本実施例においては、キャリッジ10の移動規制解除は自動的に行われるが、図10に示すように、そのための特別な駆動回路は設ける必要がない。すなわち、既存の電気的構成で実現することができる。
【0073】
上記構成とすることにより、特別な電気的構成を追加することなく、また別途電力を消費することなく、製品初起動時の照明手段12の点灯に呼応して、自動的にキャリッジ10の移動規制を解除することができる。また、キャリッジ10の損傷・破損を抑制できるとともに、ユーザ設置時におけるキャリッジ10のロックを解除できる。
【0074】
(制御シーケンスの説明)
図11は、本実施例の画像読取装置におけるシェーディング動作を行うまでの制御のフローを示すフローチャートである。
【0075】
画像読取装置が工場より出荷され、ユーザ先に設置され、製品設置後の初起動時がステップ200(S200)に該当する。
【0076】
そして、ステップ201(S201)で、照明光源12が点灯される。照明光源12の点灯時間は人工筋肉25が作動するのに十分な熱量を発生するだけの長さに設定されている。
【0077】
先ず、ステップ202(S202)でキャリッジ10がホームポジション(HP)に位置しているかを判定する。この判定は、図3に示すように、キャリッジ10に設けられたハタ50が、一点鎖線で示すように、HPセンサ50の受光発光素子間に位置し光を遮断することでHPセンサ51がONとなり、キャリッジ10がHPに位置しているとする。
【0078】
工場出荷時に、キャリッジ10の固定位置をHPにしている場合、ステップ202(S202)の判定はただちに“Yes”となるため、このステップを省略することもできる。
【0079】
しかし、後に設定されているシェーディング動作を行うための位置へ正確に移動するために、ステップ202(S202)でHPセンサ51がONになっているとしても、一度キャリッジ10を移動させ、一度HPセンサ51をOFFとする。その後、すぐに移動方向を逆にして再びHPセンサ51がONになるところで停止して、改めてHPの位置を認識する。
【0080】
工場出荷時のキャリッジ10の固定位置がHPになっていない場合は、ステップ202(S202)の判定は“No”となりキャリッジ10をHPまで移動させるステップ203(S203)に移る。
【0081】
ステップ203(S203)を経て、工場出荷時の固定位置からHPまでの距離を移動させた上でステップ204(S204)に移る。ここで、HPセンサ51がONになっていない場合は、照明光源12の点灯によって生じる熱量が十分でなかったために、人工筋肉25が所定の動作をしなかったと考えられる。そのため、ステップ201(S201)に戻り再び所定の時間だけ照明光源12を点灯させる。
【0082】
ステップ202(S202)にキャリッジ10がHPセンサ51に位置していると判定されれば、ステップ205(S205)において照明光源12を消灯する。消灯後、引き続いて、ステップ206(S206)においてキャリッジ10をシェーディング動作をする位置、即ち、白色補正をするための白色板13(図3参照)の位置へ移動させる。
【0083】
シェーディング位置にシェーディングポジションセンサ52(図3参照)を設置していれば、キャリッジ10に設けられたハタ50がシェーディングポジションセンサ52の受光発光素子間に位置したときにステップ207(S207)によって、キャリッジ10がシェーディングポジションに位置していると判定することができる。
【0084】
しかし、廉価機の場合はセンサを多く設置することができないため、HPとシェーディング位置の設計上の距離を予め設定し、キャリッジ10を駆動するステッピングモータ47のクロック数をカウントし、該所定量を移動させることでキャリッジ10をシェーディング位置へ移動させたと判定することもできる。
【0085】
その場合はステップ207(S207)の判定は省略される。
【0086】
いずれにしても、キャリッジ10がシェーディング位置にあると判定されれば、ステップ208(S208)においてシェーディング動作が開始される。
【0087】
(再度移動規制状態にする場合の説明)
頻繁にあるわけではないが、一度設置した後、再び輸送する必要が生じたときは、再びキャリッジ10を移動規制しなければならない。この場合においても、簡易な構成で簡単に移動規制状態にできることが望ましい。
【0088】
図12及び図13は、再び移動規制を行う場合の移動規制手段20の構成を示している。
【0089】
第2リンク部材21Bの回動軸27側の端部に把手部30を設け、筐体底部17dにスロープ部19を設ける。これにより、ユーザ又は作業者が把手部30を図中矢印Y方向へ持ち上げるだけで、キャリッジ10の移動規制状態にすることができる。
【0090】
つまり、把手部30を図中矢印Yの方向へ持ち上げると、第2リンク部材21Bは回
動軸27について時計回りに回転し、それに伴って第1リンク部材21Aも同方向に回転する。その直後、第1リンク部材21Aの先端21Aaは、スロープ部19に突き当たり、把手部30の持ち上げ動作に伴って、スロープ部19の表面を滑るように移動する。
【0091】
第1リンク部材21Aの先端21Aaがスロープ部19に沿って移動することで、回動軸26と引張りバネ23の両端を結ぶ直線(図12中線L−L’)との相対的位置関係が変化し、第1リンク部材21Aの先端21Aaがスロープ部19を移動しきったとき、即ち、把手部30を持ち上げきったとき、回動軸26は上記直線L−L’の下側に位置する(図13の状態)。
【0092】
このとき、引張りバネ23のバネ力は、第2リンク部材21Bに対して回動軸27の反時計周りの方向に作用するだけでなく、第1リンク部材21Aに対しても回動軸26の反時計周りの方向に作用する。このため、第1リンク部材21Aと第2リンク部材21Bは、ストッパ部28とストッパ部29が突き当たることで、一体的に回動軸27の反時計回りに回転する。そして、第1リンク部材21Aの凹部10aに係合可能とされる先端部21Aaがキャリッジ10の凹部10aに差し込まれ、凹部10aに係合し、移動規制の状態になる。即ち、図5(a)、(b)に示すキャリッジの移動規制状態となる。
【0093】
このような構成にすることで、再びキャリッジ10の移動を規制する必要が生じても、簡易な構成で、簡単な動作によって実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明に係る画像読取装置の位置実施例を示す概略構成斜視図である。
【図2】画像読取装置の内部を示す概略構成斜視図である。
【図3】画像読取装置の概略構成を示す縦断面図で、移動走査体の内部の構成を説明する図である。
【図4】輸送時の画像読取装置の概観を示す斜視図である。
【図5】図5(a)は、輸送時における移動規制状態を示す画像読取装置の概略構成を示す横断面図であり、図5(b)は、移動規制部材を示す拡大図であり、図5(c)は、移動規制部材の斜視図である。
【図6】使用時における、移動規制解除状態を示す画像読取装置の概略構成を示す横断面図であり、図6(b)は、移動規制部材を示す拡大図であり、図6(c)は、移動規制部材の斜視図である。
【図7】移動規制解除動作を説明する図である。
【図8】図8(a)は、線状部材配線例を示す上面図であり、図8(b)は、線状部材配線例を示す側面図である。
【図9】図9(a)は、線状部材配線のための左側ワイヤプーリ部材の構成を示す斜視図であり、図9(b)は、線状部材配線のための右側ワイヤプーリ部材の構成を示す斜視図である。
【図10】画像読取装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図11】画像読取装置の制御シーケンスの一実施例を示すフロー図である。
【図12】移動規制手段を再度移動規制状態へ移動することのできる移動規制手段の他の実施例を説明する図である。の遷移
【図13】移動規制手段を再度移動規制状態へ移動することのできる移動規制手段の他の実施例を説明する図である。
【図14】従来の画像読取装置におけるキャリッジ移動規制手段の一例を示す図である。
【図15】従来の画像読取装置におけるキャリッジ移動規制手段の他の例を示す図である。
【図16】人工筋肉の温度−ひずみ特性を示す図である。
【符号の説明】
【0095】
1 イメージスキャナ(画像読取装置)
2 装置筐体
3 原稿台ガラスフレーム
4 原稿台ガラス
5 原稿押さえ版
6 原稿押さえシート
7 回動ヒンジ
8 ガイド軸
9 ベルト
10 キャリッジ(移動走査体)
11 原稿
12 照明手段
13 白色板
16 ガイドレール
17 筐体
18 保護部材
19 スロープ
20 移動規制手段
21 リンク機構
21A 第1リンク部材
22B 第2リンク部材
23 引張りバネ
24(24A、24B) ワイヤプーリ部材
25 人工筋肉(線状部材)
26、27 回動軸
28、29 ストッパ部
30 把手部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原稿を載置する原稿台を有する装置筐体と、
前記原稿台に載置された原稿の画像情報を読み取るために、原稿面を照明するための照明手段を備え、前記装置筐体内に移動自在に支持された移動走査体と、を有した画像読取装置において、
前記移動走査体の前記装置筐体内における移動を規制するための移動規制手段を有し、
前記移動規制手段は、前記照明手段の点灯により、前記移動走査体の移動が規制された規制状態から、前記移動走査体の規制が解除された解除状態へと変位し、その後、前記照明手段の消灯後も解除状態を維持することを特徴とする画像読取装置。
【請求項2】
前記移動規制手段は、
前記照明手段の発する熱により歪を発生し得る線状部材と、
前記移動走査体に作用し、前記移動走査体の移動を規制するリンク機構と、
前記リンク機構に作用して、前記リンク機構が、前記規制状態か、又は、前記解除状態のいずれかの状態に維持する付勢手段と、
を有し、前記線状部材は、前記照明手段の点灯により歪みを発生して、前記リンク機構を前記解除状態へと変位させ、その後、前記付勢手段が前記照明手段の消灯後も前記リンク機構を解除状態に維持することを特徴とする請求項1に記載の画像読取装置。
【請求項3】
前記リンク機構は、第1リンク部材と第2リンク部材とを備え、
前記第1リンク部材は、回動軸を介して前記第2リンク部材に対して所定の範囲にて回動し得るように接続され、
一端が前記第1リンク部材と回動自由に接続された前記第2リンク部材の他端は、前記装置筐体に回動自由に接続されており、
前記第1リンク部材の前記回動軸に接続された側とは反対の先端部が、前記移動走査体と係合可能とされ、
前記付勢手段は、前記第1リンク部材と前記装置筐体との間に接続される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の画像読取装置。
【請求項4】
前記線状部材は、複数のワイヤプーリ部材に巻回され、少なくとも一部は、前記照明手段の上方を走行しており、また、前記線状部材の一端は、前記第1リンク部材と前記第2リンク部材とを回動自在に接続する前記回動軸に接続され、
前記線状部材は、前記照明手段の発する熱により歪を発生して前記回動軸に作用し、前記第1リンク部材の先端と前記移動走査体との係合を解除する、
ことを特徴とする請求項3に記載の画像読取装置。
【請求項5】
前記第2リンク部材には、前記第2リンク部材に作用して、前記リンク機構を、前記移動走査体の移動が規制された前記規制状態へと変位させる把手部が設けられることを特徴とする請求項3又は4に記載の画像読取装置。
【請求項6】
製品設置後の初起動時に、前記照明手段の点灯を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の画像読取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−290809(P2009−290809A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143934(P2008−143934)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】