説明

異常報知装置

【構成】この異常報知装置はウォータポンプに適用されている。ウォータポンプは、ハウジング2に突設された筒部2aの外周に、ポンプ軸3と一体回転するプーリ4を、玉軸受6を介して取り付けている。ハウジング2に、振動により報知音を発する振動板9を設けた。内輪6bに、筒部2aと内輪6bとの相対回転に伴って、振動板9を加振する突条8aを設けた。
【効果】異常の発生を報知音によって知らせることができる。構造が簡単である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、軸受支持部材に、回転軸を、上記軸受支持部材に固定された固定部を含んだ軸受部材を介して支持する回転軸支持装置に装着され、上記固定部が軸受支持部材に対して滑りを生じたことを報知する異常報知装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、上記の回転軸支持装置を自動車用のウォータポンプに適用したものとして、エンジン本体に固定されるハウジングに突設された固定軸と、この固定軸の外周に、内輪,外輪および両者間に介在した転動体を有するころがり軸受を介して取り付けられ、ポンプ軸と一体回転するプーリと、ポンプ軸に固定された冷却水循環用のインペラとを備えた、いわゆる外輪回転型のウォータポンプがあった(実公昭38−10885号公報参照)。
【0003】このウォータポンプにおいては、エンジンによってベルトを介してプーリが駆動されると、ポンプ軸およびインペラが回転されて冷却水が循環される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、このウォータポンプにおいては、ころがり軸受が焼付き等を起こして、その内輪と外輪の相対回転が拘束されると、内輪が外輪側すなわちプーリ側と連れ回りし、内輪と固定軸との間に相対回転を生じる場合があった。この発明は、上記問題に鑑みてされたものであり、簡単な構造にて異常が発生したことを知らせることができる異常報知装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、請求項1に係る異常報知装置は、軸受支持部材に、回転軸を、上記軸受支持部材に固定された固定部を含んだ軸受部材を介して支持する回転軸支持装置に装着され、上記固定部が軸受支持部材に対して滑りを生じたことを報知する異常報知装置において、軸受支持部材および固定部の両者の何れか一方に設けられ、振動により報知音を発する振動板と、上記両者の他方に設けられ、上記両者の相対回転に伴って振動板を加振する加振部とを備えていることを特徴とするものである。
【0006】また、請求項2に係る異常報知装置は、ハウジングに突設された中空の固定軸に、プーリと一体回転する回転軸を、ハウジングに固定された軌道輪を含んだころがり軸受を介して、直接または間接的に支持するウォータポンプの回転軸支持装置に装着され、上記固定された軌道輪がハウジングに対して滑りを生じたことを報知する異常報知装置であって、ハウジングおよびころがり軸受の上記固定された軌道輪の両者の何れか一方に設けられ、振動により報知音を発する振動板と、上記両者の他方に設けられ、上記両者の相対回転に伴って振動板を加振する加振部とを備えていることを特徴とするものである。
【0007】また、請求項3に係る異常報知装置は、軸受支持部材に、回転軸を、上記軸受支持部材に固定された固定部を含んだ軸受部材を介して支持する回転軸支持装置に装着され、上記固定部が軸受支持部材に対して滑りを生じたことを報知する異常報知装置において、軸受支持部材と固定部とを連結するとともに、所定の伝達トルクを超えると軸受支持部材と固定部とを滑らせるトルク制限部材と、上記軸受支持部材および固定部の両者の何れか一方に設けられ、振動により報知音を発する振動板と、上記両者の他方に設けられ、上記両者の相対回転に伴って振動板を加振する加振部とを備えていることを特徴とするものである。
【0008】
【作用】上記請求項1に係る異常報知装置によれば、固定部と軸受支持部材との間に滑りを生じて両者が相対回転した場合、軸受支持部材および固定部の両者の何れか一方に設けられた振動板が、他方に設けられた加振部によって加振される。これにより、振動板が振動して報知音を発する。
【0009】また、請求項2に係る異常報知装置によれば、ころがり軸受が焼付き等を起こして外輪と内輪の相対回転が拘束された場合、固定されている軌道輪とハウジングとの間に相対回転が生ずる。この相対回転に伴って、固定されている軌道輪およびハウジングの何れか一方に設けた加振部が、他方に設けられた振動板を加振する。これにより、振動板が振動して、運転者への報知音を発する。
【0010】また、請求項3に係る異常報知装置によれば、所定の伝達トルクを超えると、トルク制限部材によって、軸受支持部材側と固定部側との間に確実に滑りを生じさせることができ、したがって、確実に報知音を発生させることができる。
【0011】
【実施例】以下実施例を示す添付図面によって詳細に説明する。図1は、この発明の一実施例としての異常報知装置を含むウォータポンプの半断面図である。同図を参照して、このウォータポンプAは、いわゆる外輪回転型のものであり、エンジンブロック1に取り付けられたアルミニウム製の軸受支持部材としてのハウジング2と、このハウジング2に突設された固定軸としての筒部2aと、この筒部2aを貫通した回転軸としてのポンプ軸3と、ポンプ軸3の外端3aに固着されるとともに、筒部2aの外周に軸受部材を提供するころがり軸受としての玉軸受6を介して回転自在に支持されたプーリ4と、ポンプ軸3の内端3bに固着されたインペラ5とを備えている。
【0012】この玉軸受6は、複列に構成されており、プーリ4の内周面に嵌合され、プーリ4と共に回転する外輪6aと、ハウジング2の筒部2aの外周面にトルク制限部材としての摺動部材7を介して取り付けられ、固定部としての、通常は非回転の内輪6bと、内外輪6a,6b間に介在された玉6cとを有している。上記摺動部材7の外周面は、メタルや含油メタルで構成されるか或いは潤滑用のグリースの塗布を受けており、これにより、摺動部材7の外周面と内輪6aとの間に所定の伝達トルクを超える伝達トルクが負荷された場合に、両者間にすべりによる相対回転が生じるようにしてある。また、摺動部材7の内周面は、筒部2aの外周に不動状に嵌合されている。摺動部材7の外端部には、玉軸受6の内輪6bの端面に当接してをこれを筒部2aに固定するためのフランジ部7aが設けられている。
【0013】図1および図2を参照して、インペラ5側の玉軸受6の内輪6bの、インペラ側の端面には、周方向の例えば2か所に径方向に延びる加振部としての突条8aを有する、凹入部8が形成されている。一方、ビス止め等によりハウジング6に固着された振動板9が、その先端部を、凹入部8内の、突条8aとの干渉をさけた位置に侵入する状態で配置されている。この振動板9は、ハウジング2に対して内輪6bが相対回転した場合に、突条8aに接触されて加振されることにより、運転者への報知音を発生する。
【0014】ハウジング2の内周とポンプ軸3との間には、両者間を密封するメカニカルシール10が取り付けられている。この実施例によれば、玉軸受6が焼付き等を起こして内輪6bが外輪6aと一体回転し、内輪6bとハウジング2の筒部2aとの間に相対回転が生じた場合、この相対回転に伴って、振動板9が突条8aにより弾かれて加振され、振動板9は、振動して運転者への報知音を発する。この報知音により、運転者は、ウォータポンプAに異常が発生したことを認知することができ、エンジンを止める等の必要な措置をとることができる。
【0015】しかも、内輪6bとハウジング2の筒部2aとの間には、摺動部材7が介在されているので、外輪6aと内輪6bの回転が拘束された場合、外輪6aとプーリ4の内周面との間ではなく、内輪6bと摺動部材7との間に、確実に滑りが発生される。したがって、異常が発生した場合、確実に、内輪6bとハウジング2の筒部2aとの間に相対回転を生じさせて報知音を発生させることができる。
【0016】また、異常報知装置は、振動板9と突条8aを設けるという簡単な構造であり、上記滑りの発生を電気的に検出する場合のようにリード線の取回しに苦慮したりすることがない。なお、上記実施例において、摺動部材7として、他の公知の滑り軸受を用いることができる。
【0017】図3は、他の実施例に係るウォータポンプの要部拡大図である。同図を参照して、この実施例が図1R>1の実施例と異なるのは、トルク制限部材として、ハウジング2の筒部2aと内輪6bとに跨がって配置され、所定の伝達トルクを超えると剪断される樹脂部材11を用いたこと、および玉軸受6の筒部2aへの固定用部材として、筒部2aの外端に螺合された押え環12を用いたことである。
【0018】樹脂部材11は、ハウジング2の筒部2aの内周側から、筒部2aを径方向に貫通して、内輪6bの内面に設けた凹部61に挿入されている。この樹脂部材11は、凹部61への挿入時に樹脂成形するものであっても良いし、予め成形されたものを押し込むようにしても良い。なお、複列の玉軸受6の内輪6bは一体型のものである。押え環12は、筒部2aの外端部内周に形成された雌ねじ部にねじ込まれる雄ねじ筒12aと、その端部から外径方向に張り出すフランジ部12bとを一体に形成したものである。押え環12は、内輪6bの、筒部2bからの軸方向への抜けを防止する。他は図1の実施例と同様であるので、図に同一符号を付して、その説明を省略する。
【0019】この実施例によれば、図1の実施例と同様の作用効果を奏する。図4はさらに他の実施例を示している。この実施例が図3の実施例と異なるのは、押え環12に加えて、ボール係合機構を採用したことである。このボール係合機構は、筒部2bの外周面に形成したボール進退孔から、コイルスプリング24によって付勢され進出されたボール23を、内輪6の内周に形成した半球面状の凹部に収容している。
【0020】ボール進退孔は、深くなるほど内端側(インペラ側)に近づくように斜めに形成されている。したがって、内輪6bを筒部2aに組み込む際は、ボール23がボール進退孔内に沈む一方、ボール23が内輪6bの凹部に一旦収容された後は、内輪6bの筒部2bからの抜けがボール24によって防止される。図5は、この発明のさらに他の実施例を示している。この実施例の異常報知装置は、いわゆる内輪回転型のウォータポンプに適用されている。回転軸としてのポンプ軸3と、軸受支持装置としてのハウジング2の筒部2aの内周との間に、一対のころがり軸受としての玉軸受6が介在されている。図において右方の、メカニカルシール10に近い側の玉軸受6の固定部としての外輪6aに、加振部としての突条8aが形成されている。一方、ハウジング2の筒部2aの外周に取り付けられた振動板9は、途中部で屈曲して、筒部2aの貫通孔2bを通して、突条8aと接触可能な位置まで進出している。上記のようにメカニカルシール10に近い側の玉軸受6の外輪6aを報知に供するようにしているのは、メカニカルシール10に近い側の玉軸受6には、遠い側のものよりも冷却水の侵入を受けやすく、したがって、滑りを生じやすいと考えられるからである。なお、上記右方の玉軸受6の外輪6aは、左方のころがり軸受6の外輪6aよりも、筒部2aに対する圧入代を少なくして、相対的に滑りを生じやすくしてある。この実施例においても、図1の実施例と同様の作用効果を奏する。
【0021】図6は、この発明のさらに他の実施例を示している。同図を参照して、この実施例の異常報知装置は、外輪回転型のウォータポンプに適用されている。回転軸としてのポンプ軸3と、軸受支持装置としてのハウジング2の筒部2aの外周との間に、一対のころがり軸受としての玉軸受6が介在されている。図において左方の、冷却水の侵入経路Kに近い側の玉軸受6の固定部としての内輪6bに、加振部としての突条8aが形成されている。一方、ハウジング2の筒部2aに取り付けられる、押え環12のフランジ部12bに、振動板9が取り付けられている。なお、上記左方の玉軸受6の内輪6bは、右方の玉軸受6の内輪6bよりも、筒部2aに対する圧入代を少なくして、相対的に滑りを生じやすくしてある。この実施例においても、図1の実施例と同様の作用効果を奏する。
【0022】なお、この発明は上記実施例に限定されるものではなく、外輪6aや内輪6b側に振動板9を設け、ハウジング2側に加振部としての突条や突起を設けることができる。また、振動板および加振部は、軸受の焼きつき等の原因で滑りが発生した時に相対回転を生ずる一対の部材に、それぞれ配置すれば良い。
【0023】さらに、ころがり軸受6に代えて、公知のすべり軸受を用いることもできる。その他、この発明の要旨を変更しない範囲で種々の設計変更を施すことができる。
【0024】
【発明の効果】以上のように請求項1に係る異常報知装置によれば、固定部と軸受支持部材との間に滑りを生じて両者が相対回転した場合、軸受支持部材および固定部の両者の何れか一方に設けられた振動板が、他方に設けられた加振部によって加振されることにより、振動板が振動して報知音を発することができる。しかも、これを、振動板と加振部を設けるという簡単な構造にて達成できる。
【0025】請求項2に係る異常報知装置によれば、ころがり軸受が焼付き等を起こして固定されている軌道輪とハウジングとの間に相対回転が生ずると、この相対回転に伴って、固定されている軌道輪およびハウジングの何れか一方に設けた加振部が、他方に設けられた振動板を加振する。これにより、振動板が振動して、運転者への報知音を発することができ、運転者は、必要な措置をとることができる。
【0026】また、請求項3に係る異常報知装置によれば、トルク制限部材によって、軸受支持部材と固定部との間に確実に滑りを生じさせることができ、したがって、確実に報知音を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る異常報知装置を含むウォータポンプを示す半断面図である。
【図2】その内輪の端面を示す正面図である。
【図3】他の実施例に係る異常報知装置を含むウォータポンプの要部断面図である。
【図4】さらに他の実施例に係る異常報知装置を含むウォータポンプの要部断面図である。
【図5】さらに他の実施例に係る異常報知装置を含むウォータポンプの要部断面図である。
【図6】さらに他の実施例に係る異常報知装置を含むウォータポンプの半断面図である。
【符号の説明】
2 ハウジング(軸受支持部材)
2a 筒部(固定軸)
3 ポンプ軸(回転軸)
4 プーリ
6 玉軸受(ころがり軸受)
6b 内輪
7 摺動部材(トルク制限部材)
8a 突条(加振部)
9 振動板
11 樹脂部材(トルク制限部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】軸受支持部材に、回転軸を、上記軸受支持部材に固定された固定部を含んだ軸受部材を介して支持する回転軸支持装置に装着され、上記固定部が軸受支持部材に対して滑りを生じたことを報知する異常報知装置において、軸受支持部材および固定部の両者の何れか一方に設けられ、振動により報知音を発する振動板と、上記両者の他方に設けられ、上記両者の相対回転に伴って振動板を加振する加振部とを備えていることを特徴とする異常報知装置。
【請求項2】ハウジングに突設された中空の固定軸に、プーリと一体回転する回転軸を、ハウジングに固定された軌道輪を含んだころがり軸受を介して、直接または間接的に支持するウォータポンプの回転軸支持装置に装着され、上記固定された軌道輪がハウジングに対して滑りを生じたことを報知する異常報知装置であって、ハウジングおよびころがり軸受の上記固定された軌道輪の両者の何れか一方に設けられ、振動により報知音を発する振動板と、上記両者の他方に設けられ、上記両者の相対回転に伴って振動板を加振する加振部とを備えていることを特徴とする異常報知装置。
【請求項3】軸受支持部材に、回転軸を、上記軸受支持部材に固定された固定部を含んだ軸受部材を介して支持する回転軸支持装置に装着され、上記固定部が軸受支持部材に対して滑りを生じたことを報知する異常報知装置において、軸受支持部材と固定部とを連結するとともに、所定の伝達トルクを超えると軸受支持部材と固定部とを滑らせるトルク制限部材と、上記軸受支持部材および固定部の両者の何れか一方に設けられ、振動により報知音を発する振動板と、上記両者の他方に設けられ、上記両者の相対回転に伴って振動板を加振する加振部とを備えていることを特徴とする異常報知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開平6−17827
【公開日】平成6年(1994)1月25日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−177163
【出願日】平成4年(1992)7月3日
【出願人】(000001247)光洋精工株式会社 (7,053)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)