説明

異方性膜用化合物

【課題】 偏光膜などの異方性膜に有用な、主に短波長領域で二色性が高く、耐久性に優れた異方性膜用化合物を提供する。
【解決手段】 遊離酸の形が、下記式(I)で表される異方性膜用化合物。


(上記式(I)において、Ar及びArはフェニレン基、ナフチレン基又は複素環基。j及びkは0〜2の整数。L及びLは−(CH=CH)r−基又は−(C≡C)s−基、r及びsは1〜5の整数。X及びXは水素原子又は有機基。Yはアゾ基又はアゾキシ基。m、n、p及びqは0又は1。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光素子や液晶素子(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)などの発光型の表示素子、タッチパネルなどの入出力素子に具備される偏光膜等に有用な異方性膜用化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、LCDなどの平面型ディスプレイはテレビ受像機に広く用いられるようになり、従来のCRTを用いたテレビに置き換わろうとしている。また、現在のテレビシステムであるNTSCの色再現性は、CRTの蛍光体の特性を基準に決められたものであり、実在する物体の色の約半分しか表現できないという問題があった。一方、デジタルカメラやカムコーダーなどの撮像装置は、NTSCで定義された範囲よりも広範囲な色表現(色再現)が近年可能となり、その情報をより正確に再現する拡張色空間に対応したディスプレイが望まれている。
【0003】
このような背景において、LCDなどのCRTに代わる平面型ディスプレイは、原理上CRTよりも高彩度色の表現が可能なデバイスであり、平面型ディスプレイが有する高機能性を生かした新動画用拡張色空間の規格化が進められてきた。その結果、国際規格IEC61966−2−4として「動画用拡張色域YCC色空間(Extended-gamut YCC color space for video application-xyYCC)」が発行された。
【0004】
xyYCC色空間は、実在する物体色のほぼ全てが表現できる規格であり、これにより色鮮やかな物体の素材感や立体感までも表現できるようになった。
しかし、拡張された色空間情報を従来のLCDで表示しようとした場合、LCDに使用される各種部材の特性が充分でないため、xyYCC色空間に対応したディスプレイを構築するために幾つかの改良が進められている。
【0005】
その例として、
(1)RGB3原色の色純度が良好なバックライトの採用、
(2)RGB3原色に補色を加えたマイクロカラーフィルターの採用
などが挙げられる。
(1)の代表的な手段としてはLEDの採用や冷陰極管に用いられる蛍光体の発光波長の
最適化であり、(2)ではイエロー、シアンを追加したマイクロカラーフィルターの採用が
挙げられる(特許文献1、2参照)。
【0006】
このように、LCDの色再現性を支配する因子は、発光に関係する部材や可視光波長域に吸収を有する部材であるが、マイクロカラーフィルターと同様に可視光波長域に吸収を有する偏光フィルム(偏光膜)については、まだ充分な検討が進められていない状況にある。
xyYCC拡張色空間への対応には、バックライトやマイクロカラーフィルターの改良内容から推定されるように、可視光線の両端部に当たる短波長領域と長波長領域の特性を改善することが必要である。
【0007】
しかしながら、従来の偏光フィルムは、可視光波長領域における吸光度や二色性などの光学特性が一定でないため、特定の波長や色におけるコントラスト比が低下する問題があった。特に、青色光の補色である短波長領域の二色性が低いために、青色光の色純度が低下し、色再現性が十分に得られないことがあった。
【0008】
また、拡張色空間対応ディスプレイ以外においても、液晶プロジェクタや車載用液晶パネルの場合には、高温時の耐久性の問題からヨウ素ではなく、可視光波長領域全体で二色性を有する有機化合物が用いられている。しかし、短波長に吸収を有する化合物は、分子構造の一般的な特徴として、長波長に吸収を有する化合物よりもπ共役の広がりが小さい、つまり分子長が短い傾向がある。通常、二色性化合物において十分なアスペクト比を得るためには、分子長が長いことが必要とされるため、特に短波長に吸収を有する化合物を二色性化合物として用いようとすると、これらを両立することが難しい。これに起因して、これまでに使用されてきた偏光フィルムでは短波長領域の二色性が低く、こちらにおいても短波長領域で高い二色性を有する化合物の開発が望まれていた。また、これらの用途においては、額縁故障あるいは額縁むらと呼ばれる温湿度変化に伴うフィルムの収縮などに起因する欠陥が生じる問題があるために、高温時の耐久性が必要とされること、また、この問題を解決する変性ポリビニルアルコール(ポリビニルアルコール誘導体)などの高分子材料と二色性物質の組み合わせが重要となってきていることからも、新規の二色性化合物の開発が望まれている。
【0009】
このような課題を解決する二色性化合物として、例えば、スチルベン部位と、アルケニルアミドあるいはアルキニルアミド部位とを併せて有するアゾ化合物が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−73290号公報
【特許文献2】特開2007−25285号公報
【特許文献3】国際公開第2009/8298号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記のスチルベン部位と、アルケニルアミドあるいはアルキニルアミド部位とを併せ持つ化合物は、分子直線性や二色比に優れると考えられていたが、実用的に十分な二色比を得るためには未だ改良の余地があった。
本発明は、広範囲な色表現が可能な偏光膜に有用な、主に短波長領域に吸収を有する異方性膜用化合物を提供することを課題とする。
また、本発明は耐久性に優れ、実用的に十分な二色比の得られる異方性膜用化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが鋭意検討した結果、遊離酸の形が下記式(I)で表される異方性膜用化合物が上記課題を解決できることがわかり、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は、遊離酸の形が下記式(I)で表されることを特徴とする異方性膜用化合物(請求項1)、に存する。
【0014】
【化1】

【0015】
(上記式(I)において、Ar及びArは、それぞれ独立に、置換されていてもよいフェニレン基、置換されていてもよいナフチレン基又は置換されていてもよい複素環基を
表し、
j及びkは、それぞれ独立に、0〜2の整数を表す。
及びLは、それぞれ独立に、−(CH=CH)r−基又は−(C≡C)s−基を表し、r及びsはそれぞれ独立に1〜5の整数を表し、
及びXは、それぞれ独立に、水素原子又は有機基を表す。
Yは、アゾ基又はアゾキシ基を表す。
m、n、p及びqは、それぞれ独立に、0又は1を表すが、m、n、p及びqが同時に全て0になることはない。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、偏光膜などの異方性膜に有用な、主に短波長領域で二色性が高く、耐久性に優れた化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の異方性膜用化合物の実施の形態を詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に特定はされない。
【0018】
本発明の異方性膜用化合物が適用される異方性膜とは、色素等の化合物を含有する膜の厚み方向および任意の直交する面内2方向の立体座標系における合計3方向から選ばれる任意の2方向における電磁気学的性質に異方性を有する膜である。電磁気学的性質としては、吸収、屈折などの光学的性質、抵抗、容量などの電気的性質などが挙げられる。吸収、屈折などの光学的異方性を有する膜としては、例えば、直線偏光膜、円偏光膜、位相差膜、導電異方性膜などがある。
【0019】
本明細書において単に異方性膜という場合には、本発明の異方性膜用化合物を含有する層を指し、通常、この層にはさらに低分子材料および/または高分子材料を含有するが、例えば本発明の異方性膜用化合物のみから構成される層であってもよい。
【0020】
本発明の異方性膜用化合物は、いわゆる色素としての機能も有する化合物であって、本発明の異方性膜用化合物を含有する異方性膜は、色素膜としても機能し得るものである。なお、ここでいう色素とは、一般に、可視光波長領域において吸収を有する化合物を意味する。
本発明の異方性膜用化合物を用いて製造された異方性膜は、主たる効果として吸収異方性を有する機能性膜に用いられることが好ましく、偏光膜に用いられることがより好ましい。
【0021】
以下、本発明の異方性膜用化合物について詳述する。
なお、本発明において置換されていてもよいとは、置換基を1または2以上有していてもよいことを意味する。
【0022】
また、本明細書において置換基の「炭素数」という場合には、その置換基中に含まれる炭素原子の数を表し、置換基がさらなる置換基を有しているときに置換基の「総炭素数」といった場合には、さらなる置換基に含まれる炭素数も含めたすべての炭素数である。
【0023】
1.異方性膜用化合物
本発明の異方性膜用化合物は、遊離酸の形が、下記式(I)で表されることを特徴とする。
【0024】
【化2】

【0025】
(上記式(I)において、Ar及びArは、それぞれ独立に、置換されていてもよいフェニレン基、置換されていてもよいナフチレン基又は置換されていてもよい複素環基を表し、
j及びkは、それぞれ独立に、0〜2の整数を表す。
及びLは、それぞれ独立に、−(CH=CH)r−基又は−(C≡C)s−基を表し、r及びsはそれぞれ独立に1〜5の整数を表し、
及びXは、それぞれ独立に、水素原子又は有機基を表す。
Yは、アゾ基又はアゾキシ基を表す。
m、n、p及びqは、それぞれ独立に、0又は1を表すが、m、n、p及びqが同時に全て0になることはない。)
【0026】
本発明の異方性膜用化合物は、分子中央部にアゾ基またはアゾキシ基の両側をスチルベン部位で分子伸長した構造部位を有し、さらに、分子の両末端にはアルケニルアミドあるいはアルキニルアミド部位で分子伸長した構造部位を有するアゾ化合物である。スチルベン部位とアルケニルアミドあるいはアルキニルアミド部位は、剛直で分子直線性の高い構造でありながら、アゾ化合物のパイ電子共役系の伸長への寄与が小さいため、本発明の異方性膜用化合物は、短波長領域に吸収を有しながらも大きいアスペクト比を得ることができ、高い二色性を示す。また、本発明の異方性膜用化合物は、短波長領域のみならず、それ以外の領域に吸収をもつ化合物としても高い二色性を示す。
【0027】
<Ar及びAr
前記式(I)において、Ar及びArは、それぞれ独立に、置換されていてもよいフェニレン基、置換されていてもよいナフチレン基又は置換されていてもよい複素環基を表す。Ar及びArは、同一であっても異なっていてもよい。
【0028】
該置換されていてもよいフェニレン基は、総炭素数が通常6以上、通常15以下、好ましくは12以下である。該フェニレン基に置換していてもよい基としては、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、およびアミノ基、メチルアミノ基、(n)−ブチルアミノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、シンナモイルアミノ基などが挙げられる。該置換されていてもよいフェニレン基の具体例としては、1,4−フェニレン基、3−メチルー1,4−フェニレン基、2,5−ジメトキシー1,4−フェニレン基等の置換されていてもよいフェニレン基が挙げられる。
【0029】
該置換されていてもよいナフチレン基は、総炭素数が通常10以上、通常15以下、好ましくは12以下である。該ナフチレン基に置換していてもよい基としては、アルキル基、アルコキシ基、スルホ基およびカルボキシ基などが挙げられる。該置換されていてもよいナフチレン基の具体例としては、1,4−ナフチレン基、7−スルホー1,4−ナフチレン基、8−スルホー1,4−ナフチレン基等の置換されていてもよいナフチレン基が挙げられる。
【0030】
該置換されていてもよい複素環基は、1価の複素環基で、通常芳香族複素環基であり、総炭素数が通常3以上、通常10以下、好ましくは6以下の芳香族複素環基である。該複素環基に置換していてもよい基としては、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、フェニル基およびカルボキシ基などが挙げられる。該置換されていてもよい複素環基の具体例と
しては、ピリジン環、キノリン環、フラン環由来の基などが挙げられ、好ましくはピリジン環、キノリン環由来の基である。
【0031】
上記の中でも、Ar及びArとしては、置換されていてもよいフェニレン基、ナフチレン基であることが好ましく、置換されていてもよいフェニレン基であることがより好ましい。特に、特定の色調の再現の観点からは、フェニレン基は、メチル基、エチル基等の低級アルキル基、又は、メトキシ基、エトキシ基等の低級アルコキシ基で置換されたフェニレン基であることが好ましい。
【0032】
<j及びk>
前記式(I)において、j及びkは、それぞれ独立に、0〜2の整数を表す。目的とする色調により好ましいj及びkの値は異なるが、主に短波長領域に吸収を有する化合物としては、j及びkは好ましくは1である。j及びkが同じ整数である場合、化合物分子は分子中央部のアゾ基またはアゾキシ基を中心とする対称的な構造となる。
【0033】
<L及びL
前記式(I)において、L及びLは、それぞれ独立に−(CH=CH)r−基又は−(C≡C)s−基を表し、r及びsは、それぞれ独立に1〜5の整数を表す。
rとしては、水に対する溶解性の観点から、1〜4であることが好ましく、1〜3であることがより好ましく、1〜2であることが特に好ましい。また、sとしては、同様に水に対する溶解性の観点から、1〜4であることが好ましく、1〜3であることがより好ましく、1〜2であることが特に好ましい。
【0034】
<X及びX
前記式(I)において、X及びXは、それぞれ独立に、水素原子又は有機基を表す。
本発明でいう有機基とは炭素原子を含む基をいい、具体的には、置換されていてもよいアルキル基、カルボキシ基、置換されていてもよいアルコキシカルボニル基、置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよいナフチル基、置換されていてもよい複素環基等が挙げられる。
【0035】
該置換されていてもよいアルキル基は、総炭素数が通常1以上、通常8以下、好ましくは5以下である。該アルキル基に置換していてもよい基としては、アルコキシ基およびカルボキシ基などが挙げられる。該置換されていてもよいアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基等が挙げられ、特に置換されていてもよい低級アルキル基が好ましい。
【0036】
該置換されていてもよいアルコキシカルボニル基は、総炭素数が通常2以上、通常10以下、好ましくは8以下である。該アルコキシカルボニル基に置換していてもよい基としては、アルコキシ基、フェニル基、およびカルボキシ基などが挙げられる。該置換されていてもよいアルコキシカルボニル基の具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0037】
該置換されていてもよいフェニル基は、総炭素数が通常6以上、通常15以下、好ましくは12以下である。該フェニル基に置換していてもよい基としては、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、およびアミノ基、メチルアミノ基、(n)−ブチルアミノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、シンナモイルアミノ基などが挙げられる。該置換されていてもよいフェニル基の具体例としては、フェニル基、4−ニトロフェニル基等の置換されていてもよいフェニル基が挙げられる。
【0038】
該置換されていてもよいナフチル基は、総炭素数が通常10以上、通常15以下、好ま
しくは12以下である。該ナフチル基に置換していてもよい基としては、アルキル基、アルコキシ基、およびカルボキシ基などが挙げられる。該置換されていてもよいナフチル基の具体例としては、2−ナフチル基、6−メチル−2−ナフチル基等の置換されていてもよいナフチル基が挙げられる。
【0039】
該置換されていてもよい複素環基は、1価の複素環基で、通常芳香族複素環基であり、総炭素数が通常3以上、通常10以下、好ましくは6以下の芳香族複素環基である。該複素環基に置換していてもよい基としては、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、フェニル基およびカルボキシ基などが挙げられる。該置換されていてもよい複素環基の具体例としては、ピリジン環、キノリン環、フラン環由来の基などが挙げられ、好ましくはフラン環由来の基である。
【0040】
{好ましいXおよびX
およびXは、置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよいアルキル基、カルボキシ基または水素原子であることが好ましく、二色性および化合物の安定性の観点からは、無置換のフェニル基、または、置換基としてニトロ基、アミノ基、カルボキシ基、水酸基、シンナモイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基のうち1つを有するフェニル基であることが好ましい。水溶性の観点からは、カルボキシ基であることが好ましい。
【0041】
<LおよびLとXおよびXの好ましい組み合わせ>
上記したLおよびLと、XおよびXの中でも、LおよびLが−CH=CH−基であり、XおよびXが置換されていてもよいフェニル基であることが、二色性および化合物安定性の観点から好ましく、XおよびXはフェニル基であることがさらに好ましい。また、水溶性の観点からは、LおよびLが−CH=CH−基であり、XおよびXがカルボキシ基であることが好ましい。
【0042】
<Y>
前記式(I)において、Yは、アゾ基又はアゾキシ基を表す。
これらは還元反応の条件によって、アゾ基又はアゾキシ基のいずれか、または両方の混合物の形で得られるが、これらのいずれの形態であってもよい。Yはアゾキシ基、またはアゾ基とアゾキシ基の混合物であることが好ましい。Yがアゾ基であるかアゾキシ基であるかは、マススペクトルデータを取得し解析すること等により確認することができる。
【0043】
<m、n、p及びq>
前記式(I)において、m、n、p及びqは、それぞれ独立に、0又は1を表すが、m、n、p及びqが同時に全て0になることはない。目的とする色調により好ましいm、n、p及びqの値は異なるが、主に短波長領域に吸収を有する化合物としては、m、n、p及びqは好ましくはいずれも1である。
【0044】
<分子量>
遊離酸の形が前記式(I)で表される本発明の異方性膜用化合物の分子量としては、遊離酸の形で、500以上が好ましく、また、2000以下が好ましく、1800以下がより好ましく、1500以下が特に好ましい。
【0045】
<水溶性>
本発明の異方性膜用化合物は、通常、水溶性の化合物である。
【0046】
<塩型について>
本発明の異方性膜用化合物は、前記式(I)で示されるような遊離酸の形(遊離酸型)のまま使用してもよく、酸基の一部が塩型になっているものであってもよい。また、塩型
の化合物と遊離酸型の化合物が混在していてもよい。また、製造時に塩型で得られた場合はそのまま使用してもよいし、所望の塩型に変換(塩交換)してもよい。塩交換の方法としては、公知の方法を任意に用いることができ、例えば以下の方法が挙げられる。
【0047】
1)塩型で得られた化合物の水溶液に塩酸等の強酸を添加し、化合物を遊離酸の形で酸析せしめた後、所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液等)で化合物の酸性基を中和して塩交換する方法。
2)塩型で得られた化合物の水溶液に、所望の対イオンを有する大過剰の中性塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化リチウム等)を添加し、塩析ケーキの形で塩交換する方法。
3)塩型で得られた化合物の水溶液を、強酸性陽イオン交換樹脂で処理し、化合物を遊離酸の形で酸析せしめた後、所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液等)で化合物の酸性基を中和して塩交換する方法。
4)予め所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液等)で処理した強酸性陽イオン交換樹脂に、塩型で得られた化合物の水溶液を作用させ、塩交換する方法。
【0048】
本発明の異方性膜用化合物の酸性基が遊離酸型となるか、塩型となるかは、化合物のpKaと化合物溶液のpHに依存する。そのため、本発明の異方性膜用化合物の酸性基は、遊離酸型、いずれかの塩型、酸性基が2つ以上ある場合には遊離酸型と塩型の混合または2種類以上の塩型の混合など、さまざまな型となりうる。特に、異方性膜中での異方性膜用化合物の酸性基は、後述する異方性膜用組成物の好ましいpHや、異方性膜用化合物を含んだ基材への解離性の塩を含む溶液による処理の影響等を受けて、異方性膜を作製する工程で用いたものとは異なる塩型になっていることもありうる。
【0049】
上記の塩型の例としては、Na、Li、K等のアルカリ金属の塩、アルキル基もしくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムの塩、または有機アミンの塩等が挙げられる。
該アンモニウムの塩が有していてもよい置換基であるアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基としては、炭素数1〜6の低級アルキル基およびヒドロキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキル基が挙げられる。
有機アミンの例としては、炭素数1〜6の低級アルキルアミン(例えば、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン等)、ヒドロキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキルアミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)、カルボキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキルアミン(例えばカルボキシメチルアミン、カルボキシエチルアミン、カルボキシプロピルアミン、ジカルボキシメチルアミン等)等が挙げられる。
【0050】
これらの塩型の場合、その種類は1種類に限られず複数種混在していてもよい。また、化合物の一分子内に複数種混在してもよいし、組成物中に複数種混在していてもよい。
本発明の異方性膜用化合物の酸性基の好ましい型としては、化合物の製造工程、後述する異方性膜用組成物の内容や好ましいpHなどによって異なるが、水に対して高溶解度が必要な場合(例えば、基材への化合物移行能を高めるため、異方性膜用組成物中において高い化合物濃度が必要な場合など)には、リチウム塩、アンモニウム塩、トリエチルアミン塩、水溶性基が置換した有機アミン塩またはこれらの塩を1以上有することが好ましい。一方、水に対して低溶解度が必要な場合(例えば、化合物製造工程において化合物溶液から該化合物を析出させたい場合など)には、遊離酸型であるか、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩またはこれらの塩を1以上有することが好ましい。
【0051】
遊離酸の形が前記式(I)で表される異方性膜用化合物の具体例としては、例えば、以
下のような異方性膜用化合物が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
【化3】

【0053】
【化4】

【0054】
【化5】

【0055】
【化6】

【0056】
3.化合物の合成方法
遊離酸の形が前記式(11)で表される本発明の異方性膜用化合物は、それ自体周知の方法に従って製造することができる。
【0057】
例えば、遊離酸の形が前記式(11)で示される化合物は、下記<1>〜<3>の工程に従って製造することができる。
【0058】
<1> 4−アミノ−4’−ニトロスチルベン−2,2’−ジスルホン酸ナトリウムを常法{例えば細田豊著「新染料化学」(昭和48年12月21日、技報堂発行)第396頁〜第409頁参照}に従ってジアゾ化し、2,5−ジメトキシアニリンにカップリングさせる。反応終了後、塩析によりモノアゾ化合物を取り出す。
<2> 得られたモノアゾ化合物をN−メチル−2−ピロリドンに室温にて溶解し、桂皮酸クロリドと炭酸ナトリウムを添加、80℃にて1時間アシル化を行う。反応終了後、水に排出し、塩析によりアシル化物を取り出す。
<3> 得られたアシル化物を水に溶解し、30%の水酸化ナトリウム水溶液を加え、強塩基性とし、次いで40℃に昇温、グルコースを添加して、縮合反応を行う。反応終了後、塩酸で中和し、次いで塩析することにより遊離酸の形が前記式(11)で示される化合物をナトリウム塩として得る。
【0059】
4.異方性膜用組成物
異方性膜を製造するにあたって、異方性膜用組成物を用いることができる。
異方性膜用組成物は、本発明の異方性膜用化合物と、通常さらに溶剤を含有し、本発明の化合物が溶剤に溶解もしくは分散されたものである。
【0060】
なお、異方性膜用組成物中または以下に詳述する異方性膜において、本発明の異方性膜用化合物は1種を単独で使用することができるが、本発明の異方性膜用化合物を2種以上組み合わせて使用したり、ヨウ素や公知の二色性化合物等の他の二色性物質を組み合わせて使用することもできる。さらに、製造される異方性膜に所望の性能を与えたり、製造に好適な組成物とするために、種々の溶剤、添加剤等を適宜組み合わせて使用することができる。更には配向を低下させない程度に紫外線吸収化合物や近赤外線吸収化合物などの他の化合物と混合して用いることができる。これにより、異方性膜の耐久性の向上、色相の補正、偏光性能の向上を図ると共に、各種の色相を有する異方性膜を製造することができる。
【0061】
異方性膜用組成物に用いる溶剤としては、水、水混和性のある有機溶剤、或いはこれらの混合物が適している。有機溶剤の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、2,2’−チオジエタノール、ジエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン等のアミド系の溶剤、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性溶剤等の単独または2種以上の混合溶剤が挙げられる。
【0062】
これらの溶剤に本発明の異方性膜用化合物を溶解する場合の濃度としては、化合物の溶解性や会合状態の形成濃度にも依存するが、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。
【0063】
また、異方性膜用組成物は、本発明の異方性膜用化合物の溶解性向上等のため、必要に応じて尿素、チオ尿素、カプロラクタム、ビウレット、セミカルバジド等の化合物を添加したり、界面活性剤等の添加剤を加えることができる。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系のいずれも使用可能である。これらの添加濃度は通常0.01重量%以上、10重量%以下が好ましい。
【0064】
さらに、本発明に係る異方性膜用組成物は、基材への染着性などの向上ため、必要に応じて添加剤を用いることができる。具体的には、浅原照三編「新染料加工講座 第7巻 染色II」(共立出版株式会社、1972年6月15日発行、233頁から251頁)や、山下雄也、根本嘉郎共著「高分子活性剤と染色助剤の界面化学」(株式会社誠文堂新光社、1963年9月5日発行、94頁から173頁)などに記載の繊維用染色に用いられる染色助剤、およびその手法や前述の界面活性剤、アルコール類、多価アルコール類、セロソルブ類、アミド系溶剤類、尿素、チオ尿素、等の化合物類、塩化ナトリウム、ボウ硝等の無機塩などである。その添加濃度は通常0.01重量%以上、15重量%以下が好ましい。
【0065】
5.異方性膜
本発明の異方性膜用化合物を用いて異方性膜を製造することができる。
この異方性膜は、本発明の異方性膜用化合物の他に、必要に応じてその他の化合物、例えば、公知の青色二色性染料、ヨウ素等や上記のような界面活性剤等の添加剤を含有していてもよい。もちろん、本発明の異方性膜用化合物で表される化合物同士を組み合わせて
含有していてもよい。
異方性膜の作製方法としては、次の(a)〜(d)の方法などが挙げられる。
【0066】
(a)延伸したポリビニルアルコールなどの高分子基材を、本発明の異方性膜用化合物を含有する溶液(異方性膜用組成物)等で染色する方法
(b)ポリビニルアルコールなどの高分子基材を、本発明の異方性膜用化合物を含有する溶液(異方性膜用組成物)等で染色した後、延伸する方法
(c)ポリビニルアルコールなどの高分子基材を、本発明の異方性膜用化合物を含有する溶液(異方性膜用組成物)等の溶液に溶解し、フィルム状に成膜した後に延伸する方法
(d)本発明の異方性膜用化合物を適当な溶剤に溶解して、成膜用(異方性膜形成用)組成物を調製し、この成膜用組成物を用いてガラス板などの各種基材表面に湿式成膜法にて成膜し、組成物中に含まれる異方性膜用化合物を配向・積層させる方法
【0067】
本発明においては上記(a)〜(d)のいずれを用いてもよいが、(a)〜(c)を用いるのが特に好ましい。
【0068】
以下に、本発明の異方性膜用化合物を用いて異方性膜を製造する方法について説明するが、特に、本発明の異方性膜用化合物において好ましく用いられる上記(a)〜(c)の方法により異方性膜を作製する場合の組成物について詳述する。
【0069】
なお、上記(d)の方法により異方性膜を作製する方法や、その場合に用いられる組成物については、公知の方法および組成物を適宜用いることができるが、例えば、国際公開第2006/107035号パンフレット等に記載の方法および組成物等が挙げられる。
【0070】
本発明の異方性膜用化合物を用いて、異方性膜を形成する場合、例えば前記(a)〜(c)のいずれの方法においても、本発明の異方性膜用化合物を適当な溶剤に溶解して使用する。溶剤としては、前記異方性膜用組成物に含有する溶剤が挙げられる。
【0071】
なお、前記(a)、(b)の方法における本発明の異方性膜用化合物を含有する溶液で染色する基材や、前記(c)の方法において本発明の異方性膜用化合物とともに延伸されてなる基材としては、ポリビニルアルコール系の樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン/酢酸ビニル(EVA)樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。中でも、ポリビニルアルコールなど、本発明の異方性膜用化合物との親和性の高い高分子材料が好ましい。
【0072】
ポリビニルアルコールの種類としては、一般的に高分子量かつ高ケン化度のものが、偏光度や二色性などの光学特性の観点から好ましいが、温湿度による収縮による欠陥を抑止することや光学特性と耐環境性能の両立を図るなどの目的から、二色性物質の種類とポリビニルアルコールのケン化度や変性度(疎水性共重合成分比)を適宜調整したポリビニルアルコール誘導体を選択することができる。
【0073】
高分子材料と本発明の異方性膜用化合物の相互作用を制御する具体的手法としては、高分子材料と本発明の異方性膜用化合物の各々にプロトン供与性の−OH、−NH、−NHR、−NHCO−、−NHCONH−などに対し、プロトン受容性の−N=N−、−OH、−NH、−NRR’、−OR、−CN、−C≡C−およびフェニル基やナフチル基などの芳香環を官能基として組み合わせることにより、有効なものにすることができる(RおよびR’は任意の置換基である)。さらに官能基の密度を調整することで、二色性や染着性の向上に効果が得られる。
【0074】
前記(a)〜(c)の方法における、染色および成膜並びに延伸は、一般的な下記の方
法で行うことができる。
【0075】
上記の異方性膜用組成物および必要に応じて塩化ナトリウム、ボウ硝等の無機塩、界面活性剤等の染色助剤を加えた染浴中に、通常35℃以上、通常80℃以下で、通常10分以下、高分子フィルムを浸漬して染色し、次いで必要に応じてホウ酸処理し、乾燥する。あるいは、高分子重合体を水および/またはアルコール、グリセリン、ジメチルホルムアミド等の親水性有機溶媒に溶解し、本発明に係る異方性膜用組成物を添加して原液染色を行い、この染色原液を流延法、溶液塗布法、押出法等により成膜して染色フィルムを作成する。溶媒に溶解させる高分子重合体の濃度としては、高分子重合体の種類によっても異なるが、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上程度で、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下程度である。また、溶媒に溶解する本発明の異方性膜用化合物の濃度としては、高分子重合体に対して通常0.1重量%以上、好ましくは0.8重量%以上程度で、通常5重量%以下、好ましくは2.5重量%以下程度である。
【0076】
上記のようにして染色および成膜して得られた未延伸フィルムは、適当な方法によって一軸方向に延伸する。延伸処理することによって本発明の異方性膜用化合物分子が配向し、二色性が発現する。一軸に延伸する方法としては、湿式法にて引っ張り延伸を行う方法、乾式法にて引っ張り延伸を行う方法、乾式法にてロール間圧縮延伸を行う方法等があり、いずれの方法を用いて行ってもよい。延伸倍率は2倍以上、9倍以下にて行われるが、高分子重合体としてポリビニルアルコールおよびその誘導体を用いた場合は3倍以上、6倍以下の範囲が好ましい。
【0077】
延伸配向処理したあとで、該延伸フィルムの耐久性向上と偏光度向上の目的でホウ酸処理を実施する。ホウ酸処理により、異方性膜の光線透過率と偏光度が向上する。ホウ酸処理の条件としては、用いる親水性高分子重合体および本発明の異方性膜用化合物の種類によって異なるが、一般的にはホウ酸濃度としては、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上程度で、通常15重量%以下、好ましくは10重量%以下程度である。また、処理温度としては通常30℃以上、好ましくは50℃以上で、通常80℃以下の範囲にあることが望ましい。ホウ酸濃度が1重量%未満であるか、処理温度が30℃未満の場合は、処理効果が小さく、また、ホウ酸濃度が15重量%を超えるか、処理温度が80℃以上を超える場合は異方性膜がもろくなることがある。
【0078】
(a)〜(c)の方法により得られる異方性膜の膜厚は通常5μm以上、特に10μm以上で、200μm以下が好ましく、特に100μm以下であることが好ましい。膜厚が厚すぎると、ディスプレイに用いる際に薄型化が困難となることがある。一方、膜厚が薄すぎると、製造が困難となり、コストの問題を生じることがある。
(a)〜(c)の方法により得られる異方性膜に含まれる異方性膜用化合物の濃度は、通常0.001%以上、特に0.01%以上で、1%以下が好ましく、特に0.5%以下であることが好ましい。濃度が低すぎると、偏光性能が不十分となることがある。逆に高すぎると、光線透過率が下がるため、ディスプレイとして十分な輝度を得ることができなかったり、消費電力が大きくなったりする問題を生じることがある。
【0079】
本発明の異方性膜用化合物は、短波長領域における二色性の改良に特に優れた効果を示し、さらに、短波長領域のみならず吸収のある領域全体において高い二色性を示すものである。ここで、短波長領域とは、通常380nm〜500nm付近の領域を指し、本発明の異方性膜用化合物はこの領域において吸収を有し、高い二色性を発現することを一つの特徴としている。ただし、該化合物はより長波長側にも吸収を有していてもよく、また、吸収の極大値は短波長領域にあってもよいし、短波長領域になくてもよい。上記領域に吸収を有し、高い二色性を発現するものであれば、好ましく用いることができる。
【0080】
本発明の異方性膜用化合物を含有する異方性膜は、光吸収の異方性を利用し、直線偏光、円偏光、楕円偏光等を得る偏光膜として機能するほか、膜形成プロセスと基材や本発明の異方性膜用化合物を含有する組成物の選択により、屈折率異方性や伝導異方性などの各種異方性膜として機能化が可能となり、様々な種類の、多様な用途に適用可能な偏光素子とすることができる。
【0081】
該異方性膜を偏光素子として使用する場合、前記(a)〜(c)に代表される方法で作成された異方性膜そのものを使用してもよく、また該異方性膜上に保護層、粘着層、反射防止層、位相差層など、様々な機能をもつ層を積層形成し、積層体として使用してもよい。
【0082】
本発明の異方性膜を基板上に形成して偏光素子として使用する場合、形成された異方性膜そのものを使用してもよく、また上記の様な保護層のほか、粘着層或いは反射防止層、配向膜、位相差フィルムとしての機能、輝度向上フィルムとしての機能、反射フィルムとしての機能、半透過反射フィルムとしての機能、拡散フィルムとしての機能などの光学機能をもつ層など、様々な機能をもつ層を湿式成膜法などにより積層形成し、積層体として使用してもよい。
【0083】
これら光学機能を有する層は、例えば以下の様な方法により形成することができる。
【0084】
位相差フィルムとしての機能を有する層は、例えば特開平2−59703号公報、特開平4−230704号公報などに記載の延伸処理を施したり、特開平7−230007号公報などに記載された処理を施したりすることにより形成することができる。
【0085】
また、輝度向上フィルムとしての機能を有する層は、例えば特開2002−169025号公報や特開2003−29030号公報に記載されるような方法で微細孔を形成すること、或いは、選択反射の中心波長が異なる2層以上のコレステリック液晶層を重畳することにより形成することができる。
【0086】
反射フィルムまたは半透過反射フィルムとしての機能を有する層は、蒸着やスパッタリングなどで得られた金属薄膜を用いて形成することができる。
【0087】
拡散フィルムとしての機能を有する層は、上記の保護層に微粒子を含む樹脂溶液をコーティングすることにより、形成することができる。
【0088】
また、位相差フィルムや光学補償フィルムとしての機能を有する層は、ディスコティック液晶性化合物、ネマティック液晶性化合物などの液晶性化合物を塗布して配向させることにより形成することができる。
【0089】
本発明の異方性膜用化合物を用いた異方性膜は、広範囲な色表現が可能で、高耐熱性の偏光素子を得ることができるという点から、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイだけでなく液晶プロジェクタや車載用表示パネル等、高耐熱性が求められる用途に好適にも使用することができる。
【実施例】
【0090】
次に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0091】
なお、以下の実施例中、二色比は、プリズム偏光子を入射光学系に配した分光光度計で異方性膜の透過率を測定した後、次式により計算した。
二色比(D)=Az/Ay
Az=−log(Tz)
Ay=−log(Ty)
Tz:異方性膜の吸収軸方向の偏光に対する透過率
Ty:異方性膜の偏光軸方向の偏光に対する透過率
【0092】
[実施例1]
蒸留水100重量部に、下記式No.(22)の構造を有する化合物のリチウム塩0.05重量部と無水硫酸ナトリウム0.02重量部を加えて、撹拌溶解し、染色液(異方性膜用組成物)とした。ポリビニルアルコールフィルム(OPLフィルム、日本合成化学工業社製、膜厚75μm)を50℃のこの染色液に3分間浸漬して染色し、50℃の水浴で余剰の染料を洗浄した後、50℃の4重量%ホウ酸水溶液中で6倍に延伸した。延伸後、室温の水浴中で余剰のホウ酸を洗浄し、送風乾燥することで異方性膜を得た。
この異方性膜の最大吸収波長は545nmであり、その波長での単体透過率は46.3%、二色比は80であり、十分な染色性と高い二色性を有していた。
【0093】
【化7】

【0094】
[実施例2]
No.(22)の化合物に代えて、下記式No.(10)の構造を有する化合物のリチウム塩を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で異方性膜を得た。
この異方性膜の最大吸収波長は470nmであり、その波長での単体透過率は53.7%、二色比は60であり、十分な染色性と高い二色性を有していた。
【0095】
【化8】

【0096】
[実施例3]
No.(22)の化合物に代えて、下記式No.(16)の構造を有する化合物のナトリウム塩を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で異方性膜を得た。
この異方性膜の最大吸収波長は480nmであり、その波長での単体透過率は46.8%、二色比は64であり、十分な染色性と高い二色性を有していた。
【0097】
【化9】

【0098】
[実施例4]
No.(22)の化合物に代えて、下記式No.(25)の構造を有する化合物のナト
リウム塩を用い、染色液に浸漬する時間を5分にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で異方性膜を得た。
この異方性膜の最大吸収波長は495nmであり、その波長での単体透過率は46.0%、二色比は66であり、十分な染色性と高い二色性を有していた。
【0099】
【化10】

【0100】
[比較例1]
実施例1の化合物No.(22)に代えて、米国特許公開2007/0190269号公報に記載の化合物(i)、すなわち、分子中央にアゾキシ基と二つのスチルベン部位を有するが、アルケニルアミド部位で分子伸長していない構造を有する化合物のリチウム塩を用い、実施例1と同様の方法で異方性膜を得た。
この異方性膜の最大吸収波長は545nmであり、その波長での単体透過率は47.8%、二色比は49であり、実施例1に比べると、波長は変わらないが、高い二色性を示さなかった。アルケニルアミド部位で分子伸長することにより、波長を大きく変えることなく、高い二色性を示すことが確認できた。
【0101】
【化11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離酸の形が、下記式(I)で表されることを特徴とする化合物。
【化1】

(上記式(I)において、Ar及びArは、それぞれ独立に、置換されていてもよいフェニレン基、置換されていてもよいナフチレン基又は置換されていてもよい複素環基を表し、
j及びkは、それぞれ独立に、0〜2の整数を表す。
及びLは、それぞれ独立に、−(CH=CH)r−基又は−(C≡C)s−基を表し、r及びsはそれぞれ独立に1〜5の整数を表し、
及びXは、それぞれ独立に、水素原子又は有機基を表す。
Yは、アゾ基又はアゾキシ基を表す。
m、n、p及びqは、それぞれ独立に、0又は1を表すが、m、n、p及びqが同時に全て0になることはない。)

【公開番号】特開2011−122091(P2011−122091A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281979(P2009−281979)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】