説明

異物捕捉デバイスとその製造方法

【課題】捕捉体をシャフトに対して強固に固定することで、捕捉体のシャフトからの脱落を防止することが出来ると共に、固着部分の柔軟化を図ることも出来る、改良された構造の異物捕捉デバイスと、その製造方法を提供すること。
【解決手段】シャフト12の遠位端に対して、シャフト12の先端側に向かって拡開する展開部24を拡縮可能に備えた捕捉体14を取り付けた異物捕捉デバイス10において、シャフト12に外挿固定される筒状の取付部26を捕捉体14に設けて取付部26の軸方向先端側から拡開するように展開部24を一体形成する一方、取付部26に貫通窓30を設けると共に取付部26に樹脂チューブ34を外挿して樹脂チューブ34を貫通窓30を通じてシャフト12と溶融固着した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血栓等による血管の狭窄部位に対して、経皮的血管形成術(PTA)を行う際に用いられて、血管壁から剥離した血栓を捕捉することにより末梢血管の閉塞を防止する、異物捕捉デバイスとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、血管がコレステロールや血栓等によって部分的に狭窄されている場合に、カテーテルを用いた経皮的血管形成術が行われている。即ち、カテーテルの先端に設けたバルーンを血管の狭窄部位に挿入して膨らませることにより、血管の狭窄部位をバルーンによって押し広げて、血流を確保するのである。また、バルーンの表面にブレードを設けて、狭窄の原因となっている血栓等をブレードによって削り取ることにより、狭窄の度合いを低減することも提案されている。
【0003】
ところで、上述の如きカテーテルによる血管の拡張や血栓等の狭窄原因の除去を行うと、血管壁から剥離した血栓等が血流によって末梢血管に運ばれて、新たに末梢血管の閉塞を生じるおそれがある。そこで、シャフトの先端に取り付けられた捕捉体を血管内の狭窄部位よりも下流側で展開して、血流によって搬送された血栓等の異物を捕捉するようにした異物捕捉用デバイスが提案されている。例えば、特開2008−093295号公報(特許文献1)や特開2004−267796号公報(特許文献2)等には、狭窄部位よりも上流側から体内に挿入されて、狭窄部位を越えた下流側で展開する籠状の捕捉体を採用した構造が、開示されている。
【0004】
また、本出願人は、特開2007−319271号公報(特許文献3)において、血管内で展開する捕捉体によって、剥離した血栓等を捕捉して、シャフト(内側シース)の内腔を通じて体内から取り除くことにより、末梢血管の閉塞を防ぐことが出来る、異物捕捉用デバイスを提案している。
【0005】
このような特許文献1〜3に記載されたデバイスにおいては、捕捉体が、シースから引き抜く際の引っ掛かりによる係止力(摩擦抵抗力)や血管壁との間で作用する当接による圧力や引っ掛かりによる係止力(摩擦抵抗力)等によって、シャフトに対して傾いたり、場合によってはシャフトから脱落する可能性も考えられる。そのため、捕捉体をシャフトに対してより強固に固着し得る構造が切望されていた。
【0006】
なお、捕捉体の基端部をシャフトの開口端部に対して圧入したり、外挿後に縮径させてかしめ固定することも考えられるが、シャフトが柔軟性を有する樹脂製の管体であることから、そのような捕捉体のシャフトへの嵌着構造を採用することは困難である。蓋し、シャフトが拡径或いは縮径等の変形を容易に生ずることから、シャフトに対して捕捉体を嵌着する場合に、シャフトの変形を抑えつつシャフトと捕捉体の間に充分な固着力を発生させることが難しいからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−093295号公報
【特許文献2】特開2004−267796号公報
【特許文献3】特開2007−319271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、捕捉体をシャフトに対して強固に固定することで、捕捉体のシャフトからの脱落を防止すると共に、それら捕捉体とシャフトの固着部分において剛性が大きくなるのを防いだり、捕捉体とシャフトの径がそれぞれ大きくならないようにすることも可能とされた、改良された構造の異物捕捉デバイスと、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様は、シャフトの遠位端に対して、該シャフトの先端側に向かって拡開する展開部を拡縮可能に備えた捕捉体を取り付けた異物捕捉デバイスにおいて、前記シャフトに外挿固定される筒状の取付部を前記捕捉体に設けて該取付部の軸方向先端側から拡開するように前記展開部を一体形成する一方、該取付部に貫通窓を設けると共に該取付部に樹脂チューブを外挿して該樹脂チューブを該貫通窓を通じて該シャフトと溶融固着したことを、特徴とする。
【0010】
第一の態様に従う構造の異物捕捉デバイスによれば、捕捉体の取付部に外挿された樹脂チューブをシャフトに対して溶着することにより、シャフトに対して捕捉体が取り付けられている。即ち、シャフトと樹脂チューブが溶融一体化されることで、あたかも取付部が樹脂チューブに対して埋め込まれた構造とされている。それ故、接着剤での固着等に比して、シャフトに対する捕捉体の取付強度を向上させることが出来て、血管壁への接触等に起因する捕捉体のシャフトに対する傾きや脱落を防ぐことが出来る。
【0011】
しかも、取付部に貫通窓が形成されていることにより、シャフトと樹脂チューブの溶着面積が充分に確保されて、シャフトと捕捉体の固定がより強固に実現される。特に、貫通窓を取付部の長さ方向中間部分に形成すれば、取付部における貫通窓よりも基端側の部位と、一体化されたシャフト及び樹脂チューブとの間で、係止作用を発揮させて、捕捉体のシャフトからの抜けをより効果的に防止することが出来る。
【0012】
また、樹脂チューブのシャフトに対する溶着によって捕捉体が固着されていることにより、樹脂チューブの熱収縮等を利用して、捕捉体のシャフトに対する固着部分を小径とすることも可能となり得る。
【0013】
また、捕捉体とシャフトの接合に樹脂チューブの溶融固着を利用することにより、捕捉体をシャフトに対して嵌着固定する場合に比して、シャフトにおける固着部分の強度を抑えることが可能となる。それ故、捕捉体とシャフトの固着部分における柔軟性を確保して、湾曲し易い構造とすることが出来る。
【0014】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された異物捕捉デバイスにおいて、前記樹脂チューブが、前記取付部における前記貫通窓を全体に覆い且つ該取付部の軸方向基端側に延び出しており、この軸方向基端側に延び出した延長部分も前記シャフトに溶融固着されているものである。
【0015】
第二の態様によれば、シャフトと樹脂チューブが、貫通窓を通じて溶融固着されるだけでなく、取付部よりも基端側でも溶融固着されて、シャフトと捕捉体がより強固に固着される。しかも、取付部の基端部がシャフトと一体化される樹脂チューブで覆われることによって、取付部とシャフトの間に段差が出来るのを防いで、シャフトと捕捉体の接合部分における外周面形状を滑らかにすることが出来る。
【0016】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載の異物捕捉デバイスにおいて、前記貫通窓が、前記取付部の軸方向基端側に開口しているものである。
【0017】
第三の態様によれば、軸方向基端側に開口していることによって、取付部に対して貫通窓を容易に形成することが出来る。しかも、貫通窓が設けられることによって、取付部の基端側が弾性的に拡径変形可能とされて、取付部をシャフトに対して外挿し易くなる。
【0018】
本発明の第四の態様は、第一〜第三の何れか1つの態様に記載の異物捕捉デバイスにおいて、前記貫通窓が、前記取付部の斜め周方向に向かって螺旋状に延びているものである。
【0019】
第四の態様によれば、貫通窓を螺旋状に形成することで、貫通窓の開口面積を効率的に確保することが出来る。それ故、シャフトと樹脂チューブの溶着面積を大きく確保することが出来て、シャフトと捕捉体を強固に固定することが出来る。
【0020】
本発明の第五の態様は、第一〜第四の何れか1つの態様に記載された異物捕捉デバイスにおいて、前記捕捉体が金属製とされたものである。
【0021】
第五の態様によれば、捕捉体を金属製(例えば、超弾性金属製)とすることで、捕捉体に要求される特性を高度に実現することが出来る。しかも、金属製の捕捉体であっても、樹脂チューブとシャフトの溶融固着による固定を採用することで、シャフトに対して強固に固着することが出来る。
【0022】
本発明の第六の態様は、第一〜第五の何れか1つの態様に記載された異物捕捉デバイスにおいて、異物を捕捉するフィルタを前記捕捉体の前記展開部で支持せしめたものである。
【0023】
第六の態様によれば、捕捉体の展開部で支持されたフィルタによって、血栓等の異物を効率的に捕捉することが出来る。また、展開部を骨組み構造として、展開部の孔を塞ぐようにフィルタを設けることで、捕捉体の小型化や軽量化,低コスト化等を実現することも出来る。
【0024】
本発明の第七の態様は、シャフトの遠位端に対して、該シャフトの先端側に向かって拡開する展開部を拡縮可能に備えた捕捉体を取り付け、異物を捕捉するフィルタを該展開部で支持せしめた異物捕捉デバイスを製造するに際して、前記シャフトに外挿固定される筒状の取付部を備えており、該取付部の軸方向先端側から拡開するように前記展開部が一体形成されていると共に、該取付部に貫通窓が形成された構造の前記捕捉体を準備する工程と、該捕捉体の前記取付部を前記シャフトの遠位端に外挿すると共に、該取付部に樹脂チューブを外挿配置せしめる工程と、前記捕捉体の前記取付部が外挿された前記シャフトの遠位端に溶着支持棒を挿通させて、該シャフト及び前記樹脂チューブを加熱することにより、それらシャフトと樹脂チューブとを前記貫通窓を通じて溶融固着する工程とを、含むことを特徴とするものである。
【0025】
第七の態様に従う異物捕捉デバイスの製造方法によれば、シャフト及び樹脂チューブを加熱して溶融一体化させることにより、捕捉体をシャフトに対して強固に固定して、異物捕捉デバイスを製造することが出来る。しかも、シャフトの遠位端に溶着支持棒を挿通させて、シャフト及び樹脂チューブを加熱することにより、加熱による変形でシャフトの内周面に凹凸が生じるのを防ぐことが出来ると共に、シャフト全体が屈曲する等の不具合も回避することが出来る。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、捕捉体をシャフトに対して強固に固定することが出来て、捕捉体のシャフトに対する傾動や脱落を防止することが出来る。しかも、シャフトと樹脂チューブの溶着を利用することで、捕捉体の材質による固着力への影響が低減されることから、捕捉体の材料の選択自由度が向上すると共に、捕捉体のシャフトに対する安定した固定を実現することが可能である。
また、本発明によれば、狭窄部位よりも下流側から体内に挿入するタイプの異物捕捉用デバイスであるので、捕捉体を狭窄部位を越えた反対側にまで挿入する必要がないと共に、シャフトの内腔を通じて異物を吸引する際に、血液の流動方向に沿った方向で効率的に吸引することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態としての異物捕捉デバイスを示す側面図。
【図2】図1に示された異物捕捉デバイスを構成する捕捉体を拡大して示す側面説明図。
【図3】図1に示された異物捕捉デバイスにおけるシャフトと捕捉体の接合方法を説明する要部断面図であって、(a)がシャフトと樹脂チューブの溶着前の状態を、(b)がシャフトと樹脂チューブの溶着後で溶着支持棒を抜く前の状態を、(c)が溶着支持棒を抜いた後の状態を、それぞれ示す。
【図4】図1に示された異物捕捉デバイスの使用状態の一例を示す図。
【図5】本発明の別の実施形態としての異物捕捉デバイスを構成する捕捉体を拡大して示す側面説明図。
【図6】図5に示された捕捉体とシャフトの接合方法を説明する要部断面図であって、(a)がシャフトと樹脂チューブの溶着前の状態を、(b)がシャフトと樹脂チューブの溶着後で溶着支持棒を抜く前の状態を、(c)が溶着支持棒を抜いた後の状態を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0029】
図1には、本発明の第一の実施形態として、異物捕捉デバイス10が示されている。異物捕捉デバイス10は、シャフト12と、シャフト12の遠位端に取り付けられた捕捉体14とを、備えている。なお、以下の説明において、施術者側である近位端が図1中の右方であり、患者側である遠位端が図1中の左方である。
【0030】
シャフト12は、小径の長手管形状を有しており、軟質合成樹脂製のチューブを編み込まれた金属線で補強したブレードチューブで構成されている。なお、シャフト12を形成する合成樹脂材料は、特に限定されるものではないが、柔軟性や生体適合性,加工の容易さ等を考慮すると、フッ素樹脂やナイロン樹脂,ポリウレタン樹脂,ポリエチレン,ポリプロピレン,ナイロンエラストマを含む各種エラストマ等が望ましい。特に、ナイロン樹脂又はナイロンエラストマが好適である。また、補強用の金属線としては、ステンレス鋼の線材等が好適に採用される。本実施形態では、シャフト12の略全体がブレードチューブで構成されているが、例えば、後述する樹脂チューブ34との溶着部分(樹脂チューブ34が外挿される部分)だけが合成樹脂単体で形成されていても良いし、シャフトの全体が合成樹脂材料単体で形成された単層チューブとされていても良い。
【0031】
また、シャフト12の近位端側には、コネクタ16が取り付けられている。コネクタ16は、略円筒形状を有する合成樹脂製の硬質部材であって、コネクタ16の内腔がシャフト12の内腔と連通されている。また、コネクタ16の外周面上には、径方向一方向で対向する部位に一対の羽部18が突出している。また、コネクタ16の近位端には、ロック20が一体形成されており、Y字コネクタ等に接続可能となっている。
【0032】
また、シャフト12の近位端には、ストレインリリーフ22が外挿されている。ストレインリリーフ22は、硬質の合成樹脂で形成された全体として筒状の部材であって、遠位側に向かって次第に小径となるテーパ形状とされている。そして、ストレインリリーフ22は、シャフト12の近位端に外挿されて、近位端がコネクタ16に固定されており、これによってシャフト12の近位端におけるキンクを防止している。
【0033】
また、シャフト12の遠位端には、捕捉体14が取り付けられている。捕捉体14は、金属材料で形成されており、図2に示されているように、遠位側の展開部24と近位側の取付部26とを一体的に備えている。
【0034】
展開部24は、略菱形状の網目をもつ網状とされており、全体として、遠位側に向かって開口する略横転チューリップ形状とされている。また、展開部24は、外力を及ぼして拘束することにより、縮径変形させることが出来るようになっていると共に、外力による拘束を解除することによって、図2に示された初期形状に復元するようになっている。また、展開部24は、開口側端部が開口側に向かって次第に縮径しており、これによって、血管内で拘束力を及ぼされた収縮状態から初期の展開状態(図2)に移行する際に、展開部24の開口側端部が刺さることによる血管壁の損傷が防止されている。なお、展開部24の形成材料は、特に限定されるものではないが、金属製とされていることが望ましく、特に好適には、ニッケル−チタン合金等の超弾性金属で形成されている。また、展開部24の表面は、摩擦係数を低減し得る材料でコーティングされていることが望ましく、例えば、シリコーン樹脂等によって全体が被覆されている。
【0035】
展開部24には、フィルタ28を取り付けることも出来る。フィルタ28は、薄膜状で、展開部24の網目を塞ぐように取り付けられていると共に、図示は省略されているが、多数の微小孔が貫通形成されている。この微小孔は、血液に含まれる白血球等の成分よりも大きな直径で形成されており、血液成分の通過が許容されると共に、血液成分よりも大きな血栓等の異物が微小孔を通過することなくフィルタ28で捕捉されるようになっている。より具体的には、フィルタ28に形成される微小孔の直径は、上記の如きフィルタ機能を有効に発揮させるために、100μm〜200μm程度とされることが望ましい。なお、フィルタ28に形成される微小孔よりも小さい血栓は、フィルタ28で捕捉されることなく血流にのって体内を循環することから、微小孔の大きさは、体内を循環しても問題とならない微小な血栓のみが通過し得るように設定される。
【0036】
一方、捕捉体14の近位側には、取付部26が設けられている。取付部26は、金属製の筒状体であって、その軸方向先端側(遠位側)から次第に拡開するように展開部24が一体形成されている。なお、取付部26は、必ずしも展開部24と一体形成されている必要はなく、例えば、展開部24が超弾性金属で形成されると共に、取付部26が形状記憶効果をもたない金属材料で形成されていても良い。
【0037】
また、取付部26には、貫通窓30が形成されている。貫通窓30は、取付部26を径方向に貫通していると共に、取付部26の軸方向(図2中、左右方向)に所定の長さで直線的に延びて、取付部26における近位側の端面(基端面である図2中の右端面)に開口している。なお、本実施形態では、周上に3つの貫通窓30が形成されているが、貫通窓30の数は特に限定されるものではない。
【0038】
このような構造とされた捕捉体14は、図1に示されているように、シャフト12の遠位端に取り付けられて、保持されている。そして、捕捉体14の中央に形成された孔が、シャフト12の内腔と連通されている。なお、捕捉体14の中心腔は、フィルタ28に形成された微小孔よりも大径の孔とされており、フィルタ28によって捕捉された血液成分よりも大きい血栓等の異物が、捕捉体14の中心腔を通じて外部に排出されるようになっている。また、シャフト12の近位側にY字コネクタを接続して、該Y字コネクタを介して吸引装置をシャフト12の内腔及び捕捉体14の中心腔に接続することにより、異物を吸引することも出来る。なお、捕捉体14の中心腔の直径は、特に限定されるものではないが、100μm以上であることが望ましく、より好適には100μm〜10000μm、更に好適には1500μm〜3000μmとされる。
【0039】
ここにおいて、シャフト12と捕捉体14は、樹脂チューブ34によって固定されている。樹脂チューブ34は、熱可塑性の合成樹脂材料で形成された薄肉略円筒形状の部材であって、捕捉体14の取付部に対して外挿され得る直径で形成されている。また、樹脂チューブ34は、捕捉体14の取付部26よりも長さ寸法が大きくなっている。なお、樹脂チューブ34を形成する合成樹脂材料は、特に限定されるものではないが、フッ素樹脂やナイロン樹脂,ポリウレタン樹脂,ポリエチレン,ポリプロピレン,ナイロンエラストマを含む各種エラストマ等が望ましい。
【0040】
そして、樹脂チューブ34は、シャフト12の遠位端及び捕捉体14の取付部26に対して貫通窓30を覆うように外挿された後、外方からシャフト12と共に加熱されながら縮径される。これにより、熱可塑性の合成樹脂で形成されたシャフト12及び樹脂チューブ34が溶融して、貫通窓30を通じて相互に固着される。そして、シャフト12と樹脂チューブ34が一体化されて、捕捉体14がシャフト12に対して固定されることにより、本実施形態の異物捕捉デバイス10が形成される。
【0041】
本実施形態では、樹脂チューブ34が取付部26よりも長くなっていることにより、樹脂チューブ34が取付部26を近位側に外れた位置まで延び出して、シャフト12の外周面に重ね合わされている。そして、樹脂チューブ34が外方から加熱されて溶融することにより、貫通窓30の形成部位に加えて、取付部26を近位側に外れた部位においても、シャフト12に固着される。
【0042】
なお、異物捕捉デバイス10の製造方法の一例を、以下に説明する。
【0043】
先ず、近位端側にコネクタ16とストレインリリーフ22を備えたシャフト12と、樹脂チューブ34とを準備すると共に、展開部24と取付部26を有する捕捉体14を準備する。なお、シャフト12及び樹脂チューブ34は、例えば、合成樹脂の押出成形等によって形成することが出来る。捕捉体14は、例えば、レーザー加工によって形成することが出来る。
【0044】
次に、図3の(a)に示されているように、捕捉体14の取付部26をシャフト12の遠位端に外挿すると共に、樹脂チューブ34を取付部26に外挿する。なお、取付部26は、シャフト12の遠位端に対して、シャフト12を大きく変形させない程度の弱い力で嵌着されて、仮に保持されていることが望ましい。
【0045】
また次に、取付部26を外挿されたシャフト12の遠位端に対して、溶着支持棒36を挿通させる。溶着支持棒36は、略一定の円形断面を有するロッド状であって、後述するシャフト12及び樹脂チューブ34の加熱によって溶融することのない金属材料等で形成されている。なお、溶着支持棒36は、その外径寸法がシャフト12の内径寸法と略同じとされている。
【0046】
そして、シャフト12の遠位端と樹脂チューブ34を加熱することにより、図3の(b)に示されているように、シャフト12と樹脂チューブ34を、貫通窓30の形成部位及び取付部26よりも近位側において溶融固着する。なお、シャフト12及び樹脂チューブ34の加熱方法は、特に限定されるものではないが、取付部26に樹脂チューブ34を被せて、樹脂チューブ34の外側を熱する等、適宜の方法で行うことが出来る。また、シャフト12と樹脂チューブ34を内外から効率的に加熱することで、それらの溶着を確実且つ速やかに行うことも出来る。
【0047】
次に、シャフト12及び樹脂チューブ34が冷却されて一体化された後で、図3の(c)に示されているように、溶着支持棒36をシャフト12から引き抜くことにより、シャフト12と捕捉体14が分離不能に固定された異物捕捉デバイス10を得る。
【0048】
また、異物捕捉デバイス10は、図4に概略的に示されているように、経皮的血管形成術等において用いられる。即ち、シャフト12は、予め血管38に挿入されたシース40の内腔を通じて血管38に挿入される。この際、捕捉体14は、シース40に収容されており、シース40によって折り畳まれた状態に拘束されている。
【0049】
また、コネクタ16の近位側からその内腔を通じてバルーンカテーテル46が挿入される。バルーンカテーテル46は、先端部分にバルーン48を備えた一般的な構造のものであって、ガイドワイヤ50に沿って血管38の狭窄部位に導かれた後で、バルーン48を膨張変形させることにより、血管38の狭窄部位がバルーン48で押し広げられるようになっている。
【0050】
そして、バルーン48の膨張によって、血管38の狭窄部位の内壁面から剥離した血栓等の異物が、血流によって下流側(図4の右側)に搬送される。そこにおいて、血管38の狭窄部位よりも下流側で、異物捕捉デバイス10をシース40に対して押し込むことにより、捕捉体14の展開部24が血管38内で展開されて、血液中の異物52がフィルタ28によって捕捉されるようになっている。なお、捕捉体14で捕捉された異物52が、コネクタ16に接続可能なY字コネクタを通じて外部に取り出されるようになっていても良く、シャフト12が狭窄部位よりも下流側から挿入されていることによって、異物52が血流に逆らうことなく効率的に吸引され得る。
【0051】
本実施形態に従う構造の異物捕捉デバイス10では、シャフト12と樹脂チューブ34の溶着によって、捕捉体14がシャフト12に対して強固に固着されている。それ故、展開部24が血管38の壁面に対して隙間なく展開される場合にも、血管38の壁面への当接で捕捉体14に及ぼされる外力(摩擦力)によって、捕捉体14がシャフト12に対して傾動或いは脱落するのが防止される。
【0052】
しかも、シャフト12に外挿される取付部26に貫通窓30が設けられており、貫通窓30を通じてシャフト12と樹脂チューブ34が溶融固着されている。これにより、シャフト12と樹脂チューブ34の固着面積が大きく確保されて、捕捉体14がシャフト12に対してより強固に固定されている。
【0053】
また、樹脂チューブ34が取付部26を外れた近位側にまで延び出している。これにより、シャフト12と樹脂チューブ34の溶着面積がより大きく確保されて、シャフト12と捕捉体14のより強固な固着が実現される。更に、取付部26の近位側端部が樹脂チューブ34によって被覆されて、シャフト12と捕捉体14との接合部分の外周面が滑らかな形状とされることから、シャフト12と捕捉体14の接合部分における引っ掛かり等を防ぐことが出来る。
【0054】
また、捕捉体14が金属製とされていることにより、捕捉体14に要求される特性(形状の復元性や剛性等)を有利に実現することが出来る。しかも、シャフト12と樹脂チューブ34の溶着によって捕捉体14がシャフト12に固定されるようになっていることから、捕捉体14の材質に拘らず捕捉体14を安定してシャフト12に固定することが出来て、金属製の捕捉体14を合成樹脂製のシャフト12に対して充分な強度で支持させることが出来る。
【0055】
また、展開部24が網状とされていることにより、フィルタ28が展開部24によって安定した展張状態に保持されて、異物52がフィルタ28によって確実に捕捉される。
【0056】
また、貫通窓30が取付部26の端面に至る態様で形成されていることから、取付部26における貫通窓30の形成加工が容易になって、捕捉体14の量産性の向上等が実現され得る。
【0057】
次に、図5には、本発明の第二の実施形態としての異物捕捉デバイスを構成する捕捉体60が示されている。捕捉体60は、展開部24と取付部62を一体的に備えている。なお、前記第一の実施形態と実質的に同一の部位及び部材については、同一の符号を付すことにより、説明を省略する。また、捕捉体60に取り付けられるシャフト12,コネクタ16,ストレインリリーフ22,樹脂チューブ34等は、何れも第一の実施形態のものと同一であるので、図示及び説明を省略する。
【0058】
取付部62は、略円筒形状を有しており、ニッケル−チタン合金等の金属材料によって展開部24と一体形成されている。また、取付部62には、複数の貫通窓64が形成されている。貫通窓64は、軸方向に傾斜しながら周方向に2周程度の長さで延びる螺旋状とされており、取付部62を厚さ方向で貫通するように形成されて、取付部62の内外両面に開口している。また、貫通窓64は、取付部62の長さ方向(図5中、左右方向)の中間部分を貫通するように形成されており、貫通窓64よりも近位側には環状の係合部66が取付部62の一部として設けられている。
【0059】
そして、このような構造の捕捉体60は、図6に示されているように、第一の実施形態の捕捉体14と同様に、取付部62に外挿された樹脂チューブ34が、加熱溶融されて、貫通窓64を通じてシャフト12と固着一体化することにより、シャフト12の遠位端に固定されている。
【0060】
このような斜め周方向に向かって延びる螺旋状の貫通窓64を備えた捕捉体60を採用すれば、取付部62の長さに対して開口面積を効率的に確保することが出来る。
【0061】
加えて、貫通窓64は取付部62の長さ方向中間部に形成されており、取付部62における貫通窓64よりも近位側に係合部66が設けられている。それ故、係合部66が、シャフト12及び樹脂チューブ34における貫通窓64を通じて溶着された部分に対して軸方向に係合されることで、捕捉体14のシャフト12に対する遠位側への抜けがより効果的に防止されている。
【0062】
特に貫通窓64が螺旋状とされていることにより、貫通窓64上の何れの位置でも、その軸方向基端側には、同じく螺旋状に延びる取付部62が存在している。それ故、貫通窓64を通じて一体化されたシャフト12と樹脂チューブ34は、その全長に亘って取付部62と軸方向に係止されることから、取付部62に対して軸方向の抜け抗力が一層効果的に及ぼされる。なお、このような貫通窓64を螺旋状としたことによる係止作用は、環状の係合部66が設けられていなくても発揮され得ることから、係合部66は必須ではなく、螺旋状の貫通窓64が取付部62の基端側に開放されていても良い。
【0063】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、捕捉体は、必ずしも金属製に限定されるわけではなく、合成樹脂製なども採用可能である。捕捉体の形成材料として合成樹脂を採用すれば、同じく合成樹脂で形成されたシャフトや樹脂チューブに対する親和性に優れた捕捉体を実現することが出来て、捕捉体のシャフト及び樹脂チューブに対する固着力の向上が期待できる。
【0064】
さらに、捕捉体の展開部は、網状以外にも、特開2007−319271号公報等に示されているような、母線方向に延びる多数の線材で構成された略円錐状や、多数の湾曲線材で構成されて中央部分に向かって大径となる略樽状等、各種公知の構造が採用され得る。
【0065】
また、貫通窓の形状は、第一,第二の実施形態に示された貫通窓30,64に限定されるものではなく、例えば、長さ方向に直線的に延びて、取付部26の近位側端部までは至らない長さで形成された貫通窓や、周方向に一周弱の長さで延びる貫通窓を採用することが出来る。更に、小径の円形孔で構成された貫通窓を多数形成する等しても、貫通窓の総面積を充分に確保することが出来る。
【0066】
また、樹脂チューブは、取付部26の基端部(近位側端部)よりも近位側に突出している必要はなく、貫通窓30,64を通じてシャフト12に溶融固着されるようになっていれば良い。即ち、樹脂チューブとしては、取付部26と基端部の位置が揃っているものや、取付部26の基端部まで至らない長さのものも、採用され得る。
【0067】
また、フィルタ28は、前述のとおり必須ではなく、例えば、展開部の網目の形状や大きさを調節すること等によって、フィルタが省略された構造であっても、充分な捕捉効果が発揮され得る。
【符号の説明】
【0068】
10:異物捕捉デバイス、12:シャフト、14,60:捕捉体、24:展開部、28:フィルタ、30,64:貫通窓、34:樹脂チューブ、36:溶着支持棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトの遠位端に対して、該シャフトの先端側に向かって拡開する展開部を拡縮可能に備えた捕捉体を取り付けた異物捕捉デバイスにおいて、
前記シャフトに外挿固定される筒状の取付部を前記捕捉体に設けて該取付部の軸方向先端側から拡開するように前記展開部を一体形成する一方、該取付部に貫通窓を設けると共に該取付部に樹脂チューブを外挿して該樹脂チューブを該貫通窓を通じて該シャフトと溶融固着したことを特徴とする異物捕捉デバイス。
【請求項2】
前記樹脂チューブが、前記取付部における前記貫通窓を全体に覆い且つ該取付部の軸方向基端側に延び出しており、この軸方向基端側に延び出した延長部分も前記シャフトに溶融固着されている請求項1に記載の異物捕捉デバイス。
【請求項3】
前記貫通窓が、前記取付部の軸方向基端側に開口している請求項1又は2に記載の異物捕捉デバイス。
【請求項4】
前記貫通窓が、前記取付部の斜め周方向に向かって螺旋状に延びている請求項1〜3の何れか1項に記載の異物捕捉デバイス。
【請求項5】
前記捕捉体が金属製である請求項1〜4の何れか1項に記載の異物捕捉デバイス。
【請求項6】
異物を捕捉するフィルタを前記捕捉体の前記展開部で支持せしめた請求項1〜5の何れか1項に記載の異物捕捉デバイス。
【請求項7】
シャフトの遠位端に対して、該シャフトの先端側に向かって拡開する展開部を拡縮可能に備えた捕捉体を取り付け、異物を捕捉するフィルタを該展開部で支持せしめた異物捕捉デバイスを製造するに際して、
前記シャフトに外挿固定される筒状の取付部を備えており、該取付部の軸方向先端側から拡開するように前記展開部が一体形成されていると共に、該取付部に貫通窓が形成された構造の前記捕捉体を準備する工程と、
該捕捉体の前記取付部を前記シャフトの遠位端に外挿すると共に、該取付部に樹脂チューブを外挿配置せしめる工程と、
前記捕捉体の前記取付部が外挿された前記シャフトの遠位端に溶着支持棒を挿通させて、該シャフト及び前記樹脂チューブを加熱することにより、それらシャフトと樹脂チューブとを前記貫通窓を通じて溶融固着する工程と
を、含むことを特徴とする異物捕捉デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−234769(P2011−234769A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106175(P2010−106175)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】