説明

異物捕捉用フィルタ

【課題】冷却水中の捕捉した異物の脱落を防止する異物捕捉フィルタ。
【解決手段】 複数の同一形状をし、所定間隔で配列された屈曲板と、この屈曲板の配列方向に交差する方向で、前記屈曲板の長手縁辺に等間隔Aをもって固定された複数の第1格子板と、前記屈曲板の前記第1格子板が結合された長手縁辺とは反対側の長手縁辺に、前記等間隔Aよりも大きな等間隔Bをもって固定された複数の第2格子板とを有して成る異物捕捉用フィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は異物捕捉用フィルタに関し、流通する冷却水の圧力損失が小さく、冷却水中に存在する異物を捕獲することのできる異物捕捉用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来においては、燃料集合体に装荷される様々な異物捕捉用フィルタが開発されてきた。
【0003】
特許文献1には、「・・・破片捕取装置であって、該破片捕取装置は、一対の重ね合わせた板を含んでおり、該板の各々は、実質的に同じ寸法、形状及びピッチの複数の孔を有しており、前記一対の板のうちの一方の板の前記孔は、該一対の板のうちの他方の板の前記孔からずれている、破片捕取装置とを備えた原子炉用の下部タイプレート・アセンブリ」が記載されている(特許文献1の請求項1及び図10〜14参照。)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された破片捕取装置にあっては、孔を有する2枚の板をずらして重ね合わせているので、冷却水の流路を狭めているに過ぎず、流通方向に沿って直線状の異物が流通している場合は、板に形成されている孔から他の板に形成されている孔へと直線状の異物が通過する可能性があった。
異物が通過する可能性を低減するために、冷却水の流路を直線状にしないという改良が加えられてきた。
【0005】
例えば特許文献2には、「・・・原子炉用の燃料集合体であって、この燃料集合体は冷却材中に含まれる固体異物を燃料集合体の入口側で捕捉するフィルタを備え、このフィルタに形成された複数の貫通孔は、入口から出口を直線で見通せない曲がり部を有し、さらにこれらの複数の貫通孔を流路開口面において千鳥格子状に配列したことを特徴とする燃料集合体」が記載されている(特許文献2の請求項1、図3及び5参照。)。
【0006】
更に、特許文献3には、「・・・、前記異物フィルタが、複数の第1平板とこれらの前記第1平板と直交する方向に配置された複数の第2平板を組合せて構成された格子を含む一対の平板集合体を備え、それぞれの平板集合体において、各前記第1平板が前記下部タイプレートの軸方向と並行に配置され、各前記第2平板が前記軸方向に対して同じ向きに傾斜して配置され、前記一対の平板集合体のうちの一方である第1の平板集合体が、前記軸方向において、他方の第2の前記平板集合体よりも前記燃料棒側に配置されており、隣り合う前記第2平板間に形成される流路が、前記軸方向に対して斜めになるように、その入口から出口まで真っ直ぐに形成されており、前記第2平板集合体に形成される前記流路が、前記第1平板集合体に形成される前記流路と逆方向に傾斜されており、前記第1平板集合体の前記第1平板の下端が前記第2平板集合体の前記第1平板の上端と接触しており、前記第2平板集合体の前記流路の出口における前記第2平板の位置が、前記第1平板集合体の前記流路の入口におけるほぼ中央に配置され、前記第1平板集合体の前記流路の入口における第2平板の位置が、前記第2平板集合体の前記流路の出口におけるほぼ中央に配置されたことを特徴とする燃料集合体」が記載されている(特許文献3の請求項1及び図3〜5参照。)。
【0007】
しかしながら、特許文献2及び3に記載されているような、流路を屈折させる構造にあっては、流通する冷却水の圧力損失が大きくなる。特許文献1のように孔を設けた板体を2枚重ねて、更に流路を変形するという技術的思想としては、例えば特許文献4に記載された発明を挙げることができる。
【0008】
特許文献4には、「多数の流水孔を有する下部ノズルのアダプタプレート上面に支持格子を近接させ、この支持格子の格子板にて上記流水孔出口を細分化してなる原子燃料集合体において、上記流水孔の軸角度を上記支持格子の流路方向に対して傾斜させ、かつ隣合う列の流水孔同士の傾きを互いに逆方向となしたことを特徴とする原子燃料集合体」が記載されている(特許文献4の請求項1、図5及び6参照。)。
また、特許文献5には、「冷却材が通過する入口側と出口側との間を真っ直ぐに貫通する流路が存在しないように、中間部分が入口側と出口側に対し水平方向にずれている湾曲プレートを或る等間隔で配列した燃料集合体のデブリフィルタにおいて、前記湾曲プレートの流水面に突起を局部的に設けて流路開口部を仕切ったことを特徴とする燃料集合体のデブリフィルタ」が記載されている(特許文献5の請求項1)。
【0009】
しかしながら、圧力損失の充分な低減と異物の捕獲とを両立することのできる異物捕捉用フィルタは無かった。
また、上記従来のフィルタを装着した燃料集合体を原子炉内の冷却水中に浸漬した場合、フィルタ内を通過する冷却水流とともに搬送された針状、あるいはワイヤ状の異物がフィルタ内に留めおかれてフィルタの下流側に抜け出ないようにはなっているが、燃料集合体を原子炉内の冷却水から引き上げたとき、あるいは原子炉内に燃料集合体を挿入したまま冷却水を排出したときには、フィルタ内に留めおかれていた前記異物が重力に従ってフィルタの下部からフィルタ外に排出され、結局のところ前記異物が原子炉内から除去されることがないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−240680号公報
【特許文献2】特開2004−317522号公報
【特許文献3】特許第3977969号
【特許文献4】特開平8−105988号公報
【特許文献5】特開平2001−116872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明が解決しようとする課題は、流通する冷却水の圧力損失が小さく、冷却水中に存在する異物を確実に捕獲し、かつ、捕獲された異物が、フィルタ外に脱落し難い異物捕捉用フィルタを提供することである。
【0012】
この発明が解決しようとする別の課題は、設置領域の縮小を図ることのできる異物捕捉用フィルタを提供することである。
【0013】
この発明が解決しようとする他の課題は、製造工程の低減を図ることのできる異物捕捉用フィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するための手段は、
(1) 複数の同一形状をした屈曲板と、複数の同一形状をした第1格子板と、複数の同一形状をした第2格子板とを備える異物捕捉用フィルタであって、
前記第1格子板は、短冊状に形成された板であり、
前記第2格子板は、短冊状に形成された板であり、
前記屈曲板は、短冊状に形成された第1傾斜板と前記第1傾斜板の長手方向に沿う長手縁辺を共有して短冊状に形成された第2傾斜板とを有し、
第1傾斜板同士及び第2傾斜板同士が互いに平行になるように配列された複数の屈曲板における前記第1傾斜板の、第2傾斜板と共有する長手縁辺とは反対側の第1長手縁辺と、前記第1格子板の長手方向に沿う長手縁辺とが交差するように、前記屈曲板と前記第1格子板とが固定され、かつ、前記複数の前記第1格子板の前記屈曲板に対する固定間隔が等間隔であり、
前記複数の屈曲板における前記第2傾斜板の、第1傾斜板と共有する長手縁辺とは反対側の第2長手縁辺と、前記第2格子板の長手方向に沿う長手縁辺とが交差するように、前記屈曲板と前記第2格子板とが固定され、かつ、前記複数の前記第2格子板の前記屈曲板に対する固定間隔が互いに等間隔であるとともに前記複数の前記第1格子板の前記屈曲板に対する固定間隔よりも大きい間隔であり、
前記屈曲板に固定された前記第1格子板の、前記第2格子板に向う長手縁辺と、前記屈曲板に固定された前記第2格子板の、前記第1格子板に向う長手縁辺とが非接触状態であることを特徴とする異物捕捉用フィルタであり、
(2) 前記第1格子板は、その板の長手方向に沿う長手縁辺に、長手方向に対して斜めに形成された複数の第1傾斜切目を有してなり、
前記第2格子板は、その板の長手方向に沿う長手縁辺に、長手方向に対して斜めに形成された複数の第2傾斜切目を有してなり、
前記屈曲板の前記第1長手縁辺が前記第1格子板の第1傾斜切目に挿入及び固定され、
前記屈曲板の前記第2長手縁辺が前記第2格子板の第2傾斜切目に挿入及び固定されて成る(1)に記載の異物捕捉用フィルタであり、
(3) 前記屈曲板は、前記第1長手縁辺に、前記長手方向に直交する方向に形成された複数の第1切目を有し、かつ、前記第2長手縁辺に、前記長手方向に直交する方向に形成された複数の第2切目を有し、
前記複数の屈曲板における前記第1切目と前記第1格子板における前記第1傾斜切目とが噛み合うように組み合わされ、前記複数の屈曲板における前記第2切目と前記第2格子板における前記第2傾斜切目とが噛み合うように組み合わされて成る(2)に記載の異物捕捉用フィルタであり、
(4) 前記屈曲板は、前記第1長手縁辺に、前記長手方向に直交する方向に形成された複数の第1切目を有し、かつ、前記第2長手縁辺に、前記長手方向に直交する方向に形成された複数の第2切目を有し、
前記第1格子板の長手縁辺が前記屈曲板の前記第1傾斜切目に挿入及び固定され、
前記第2格子板の長手縁辺が前記屈曲板の前記第2傾斜切目に挿入及び固定されて成る(1)に記載の異物捕捉用フィルタである。
【発明の効果】
【0015】
この発明によると、第1格子板の長手縁辺と第2格子板の長手縁辺とが非接触であることにより、屈曲板のみで形成されて成る流路、換言すると断面積が冷却水の流入口よりも大きい流路によって圧力損失を低減することができると共に、屈曲板に沿って冷却水を整流することができるので、流通する冷却水の圧力損失が小さい異物捕捉用フィルタを提供することができる。更に、この発明によると、冷却水の流入する部位と流出する部位に第2格子板及び第1格子板と屈曲板とにより断面積の小さい流路が形成されていることによって、冷却水が流入してから流出するまでに2度の異物を捕集する機会が生じるので、異物を確実に捕捉可能であると共に、捕捉された異物が、第1格子板と屈曲板とで形成される第1格子と、第2格子板と屈曲板とで形成される第2格子との間のフィルタ内部に、留まるため、冷却水流を止めた場合あるいは冷却水からこのでも、フィルタ外に脱落することがない。
【0016】
また、この発明によると、第1格子板及び第2格子板、並びに/又は屈曲板に切目が設けられており、切目と長手縁辺とが又は切目と切目とが組合せられる。
【0017】
このことにより、切目を設けない場合に比べて、冷却水が流入する部位から流出する部位までの寸法を縮小することができるので、設置領域の小さい異物捕捉用フィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、この発明に係る異物捕捉用フィルタの一実施態様を示す平面図である。
【図2】図2は、図1に示した異物捕捉用フィルタの正面図である。
【図3】図3は、図1に示した異物捕捉用フィルタの一部拡大斜視図である。
【図4】図4は図1に示した異物捕捉用フィルタにおける俯瞰図であり、(a)は、図1に示した異物捕捉用フィルタにおける第2格子を見た俯瞰図であり、(b)は、図1に示した異物捕捉用フィルタにおける第1格子を見た俯瞰図である。
【図5】図5は、この発明に係る異物捕捉用フィルタの他の実施態様を示す俯瞰図である。
【図6】図6は、この発明に係る異物捕捉用フィルタにおける第1格子板の一実施態様を示す平面図である。
【図7】図7は、この発明に係る異物捕捉用フィルタにおける屈曲板の一実施態様を示す平面図である。
【図8】図8は、この発明に係る異物捕捉用フィルタの他の態様を示す平面図である。
【図9】図9は、この発明に係る異物捕捉用フィルタ内における異物の捕捉状態の一態様を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下においては、この発明に係る異物捕捉用フィルタの一実施態様を、図面を参照しつつ説明する。先ず、図1〜3には、異物捕捉用フィルタの向きをそれぞれ変えて示した。なお、図1は、異物捕捉用フィルタにおいて、後述の第1格子板と第2格子板との長手方向に沿った面を示している。図2は、異物捕捉用フィルタにおいて、後述の屈曲板の長手方向に沿った面を示している。図3は、異物捕捉用フィルタの斜視図を示している。異物捕捉用フィルタは、燃料集合体における下部タイプレート又は燃料支持金具側面の冷却材流入口に炉心オリフィスに代えて付設することにより、燃料集合体内を流通する冷却水中に混入している異物を捕集することができる。
【0020】
図1に示す異物捕捉用フィルタ1は、複数の同一形状をした屈曲板2と、複数の同一形状をした第1格子板3と、複数の同一形状をした第2格子板4とを備える。
【0021】
第1格子板3と第2格子板4とは、それぞれ短冊状に形成された板体である。また、屈曲板2は、短冊状に形成された第1傾斜板5と、第1傾斜板5の長手方向に沿う長手縁辺6を共有して短冊状に形成された第2傾斜板7とを有する。
【0022】
なお、屈曲板2の第1傾斜板5及び第2傾斜板7の各部位の寸法及び第1傾斜板5と第2傾斜板7とが成す角度等は、異物の捕集能力及び冷却水の圧力損失等を考慮して、好適な数値を選定する。更に、第1格子板3の短辺、長辺及び厚みの各寸法と、第2格子板4の短辺、長辺及び厚みの各寸法とは、同一に形成されている。よって、製造時に1種類の短冊状の板体を製造することにより、第1格子板3と第2格子板4とを得ることができる。もっとも、この発明に係る異物捕捉用フィルタにおいて、第1格子板と第2格子板との各部位の寸法は、異物の捕集能力及び冷却水の圧力損失等を考慮して、同一にしなくとも良い。
【0023】
この発明に係る異物捕捉用フィルタにおいて、屈曲板は、この発明の目的を達成することができるように、屈曲して成る板体であれば、その製造方法に制限なく製造されることができる。具体的には、屈曲板は、例えば長手縁辺と短手縁辺とを有する一枚の矩形板を一方の短手縁辺の中点と他方の短手縁辺の中点とを結ぶ仮想的な長手方向の線において山折りに、又は谷折りに折り曲げることにより、第1傾斜板と第2傾斜板とを有する屈曲した板体として形成される。第1傾斜板と第2傾斜板とは、矩形板における折り曲げられた箇所を、長手縁辺として共有している。屈曲板は、このように前記矩形板を屈曲することにより形成することができるが、2枚の短冊状の板が相互に傾斜しているように、2枚の短冊状の板における長手縁辺同士を溶着等によって結合することにより、長手縁辺が共有された第1傾斜板と第2傾斜板とを有する屈曲板としてもよい。屈曲板における第1傾斜板における短手方向の縁辺と第2傾斜板における短手方向の縁辺とは同じ寸法で有っても異なる寸法であってもよい。
【0024】
この発明に係る異物捕捉用フィルタにおいて、複数の屈曲板が、第1傾斜板同士及び第2傾斜板同士が互いに平行になるように配列されている。
異物捕捉用フィルタを形成する全ての屈曲板における第1傾斜板及び第2傾斜板が同じ形状を有し、しかも全ての屈曲板がいずれも、第1傾斜板と第2傾斜板とのなす角度を同じにしている場合には、第1傾斜板同士及び第2傾斜板同士が互いに平行になるように、全ての屈曲板を配列することは容易である。
異物捕捉用フィルタを形成する全ての屈曲板における第1傾斜板が全て同じ形状であり、また全ての屈曲板における第2傾斜板が全て同じ形状であり、全ての屈曲板における第1傾斜板の大きさと第2傾斜板の大きさとが相違するときには、同じ大きさの第1傾斜板が平行に、また同じ大きさの第2傾斜板が平行に配列されるように、複数の屈曲板の方向性を選択してこれらを配列する必要がある。
ともかく、第1傾斜板5同士及び第2傾斜板7同士が互いに平行になるように配列された複数の屈曲板2において、前記第1傾斜板の前記長手縁辺6とは反対側の第1長手縁辺8と、第1格子板3の長手方向に沿う長手縁辺9とが交差するように、屈曲板2と第1格子板3とが固定されている。更に言うと、図1〜3に示すように、屈曲板2及び第1格子板3は、屈曲板2の第1長手縁辺8と第1格子板3の長手縁辺9とが直交するように、屈曲板2と第1格子板3とが固定されている。
【0025】
また、複数の屈曲板2において、前記第2傾斜板7の前記長手縁辺6とは反対側の第2長手縁辺10と、第2格子板4の長手縁辺12とが交差するように、屈曲板2と前記第2格子板4とが固定されている。更に、図1〜3に示すように、屈曲板2及び第2格子板4は、屈曲板2の第2長手縁辺10と第2格子板4の長手縁辺12とが直交するように、屈曲板2と第2格子板4とが固定されている。
【0026】
異物捕捉用フィルタ1においては、図1〜3に示すように、第1格子板3の長手縁辺9と第2格子板4の長手縁辺12とが非接触、つまり隔絶した状態となって配置される。このような配置構成であると、図1において、下方から上方に向けて冷却水が流通する場合に、屈曲板2と第2格子板4とにより形成される冷却水流入用の流路、及び、屈曲板2と第1格子板3とにより形成される冷却水流出用の流路は、隣接する屈曲板2の第1傾斜板5同士及び第2傾斜板7同士で形成される流路に比べると、流路の断面積が小さい。したがって、異物捕捉用フィルタ1には、異物捕捉用フィルタ1を通過する冷却水の流路の断面積が相対的に小さい部分と、相対的に大きい部分とが存在していることになる。
【0027】
なお、以下においては、断面積が小さい流路であって冷却水が異物捕捉用フィルタ1内に流入する際に通過する流路、すなわち第2格子板4と屈曲板2の第2傾斜板7とにより形成される流路を、流入路13と称することがある。また、断面積が大きい流路、すなわち流路の形成に第1格子板3及び第2格子板4が寄与しておらず、屈曲板2のみで形成される流路を、屈曲流路部14と称することがある。更に、断面積が小さい流路であって冷却水が異物捕捉用フィルタ1外に流出する際に通過する流路、すなわち第1格子板3と屈曲板2の第1傾斜板5とにより形成される流路を、流出路15と称することができる。
【0028】
ここで、冷却水が異物捕捉用フィルタ1内を流通するときの作用について、説明する。先ず、冷却水は、流入路13、屈曲流路部14、及び流出路15を、この順番に流通することになる。冷却水は、異物捕捉用フィルタ1を通過する前は流入路13、屈曲流路部14及び流出路15のいずれに比べても断面積が大きい流路を流通していることが多いので、冷却水が流入路13に流入したときに圧力損失が大きくなる。しかしながら、冷却水は異物捕捉用フィルタ1外の流路よりは断面積が小さいが、流入路13よりは断面積が大きい屈曲流路部14において大幅に圧力損失が小さくなる。更に、屈曲流路部14は、冷却水の流通が完全には自由になっておらず、屈曲板2によって整流作用が働く。屈曲流路部14内部においては、流入部13から流出部15に至るまで、整流作用によって冷却水が円滑に流通する。屈曲流路部14において整流作用が働いているので、屈曲流路部14から流出部15内に冷却水が流通しても圧力損失は大きくならない。最後に、冷却水は、小さい圧力損失を維持しつつ、流出部15を通って異物捕捉フィルタ1外に流出する。結果として、冷却水が断面積の小さい流路を流通することにより圧力損失の増大は避けられなかった従来の異物捕捉用フィルタに比べて、この発明に係る異物捕捉用フィルタは、屈曲板により形成される屈曲流路部が設けられているので、圧力損失を大幅に低減し、更にその小さい圧力損失を維持しつつ冷却水を流通させることができる。
【0029】
更に、異物捕捉用フィルタ1は、断面積の小さい流路が流入路13及び流出路15と2つ設けられているので、冷却水中に含まれる異物を捕集することのできる機会が2回ある。したがって、断面積の小さい流路を1つ設けて成る従来の異物捕捉用フィルタに比べて、異物捕捉用フィルタ1は異物をより確実に捕集することができる。
【0030】
この発明に係る異物捕捉用フィルタにおいて、屈曲板、第1格子板及び第2格子板の材料としては、冷却水によって溶解する等の変質を生じることがなく、異物によって不可逆的な破損を生じない材料によって形成されていることが好ましく、例えば金属、更に言うとステンレス、及びインコネル等を挙げることができる。
【0031】
異物捕捉用フィルタ1を第1格子板3の側から俯瞰した図を、図4aに、第2格子板4の側から俯瞰した図を、図4bに示す。図4aに示すように、屈曲部2の第1長手縁辺8と第1格子板3の長手縁辺とが直交するように、屈曲部2と第1格子板3とが配置されており、図4bに示すように、屈曲部2の第2長手縁辺10と第2格子板4の長手縁辺とが直交するように、屈曲部2と第2格子板4とが配置されている。
ここで、図4bに示された、隣接する第2格子板4の屈曲板2に対する固定間隔が、図4aに示された、隣接する第1格子板3の屈曲板2に対する固定間隔よりも大きくなっており、図4bに示された、第2格子の格子密度が、図4aに示された、第1格子の格子密度よりも低くなっている。
このように、この発明においては、流入部13の格子密度が流出部15の格子密度よりも低い(あるいは小さい)ことにより、第1格子板3では捕捉される程度の大きさの異物が、第2格子4に捕捉されることなく、前記第2格子板4を通過し、最終的に、異物捕捉用フィルタ内部に形成された屈曲流路部内に捕捉されるので、冷却水流を止めた場合、又はこの異物捕捉用フィルタを装着した燃料集合体を冷却水から引き上げた場合に、前記屈曲流路部内に捕捉された異物が異物捕捉用フィルタの外に排出されることが、防止される。
さらに、この発明においては、屈曲板の第1長手縁辺と第1格子板の長手縁辺とは交差していれば良いので、例えば図5に示すように、屈曲部21の第1長手縁辺81と第1格子板31の長手縁辺とが傾斜して交差するように、屈曲部21と第1格子板31とが配置されていても良い。屈曲部の第1長手縁辺と第1格子板の長手縁辺との交差態様について、異物捕捉用フィルタ1及び異物捕捉用フィルタ11のいずれを採用するかは、異物捕捉用フィルタが設置される燃料集合体内を流通する冷却水中に含まれる異物の形状及び大きさに応じて決定すれば良い。
【0032】
また、屈曲板と第1格子板との固定、及び屈曲板と第2格子板との固定は、燃料集合体内を流通する冷却水から受ける圧力によって屈曲板、第1格子板及び第2格子板が分離しない程度に固定されていれば良く、例えばそれぞれの接点を溶接する等して固定する態様を挙げることができる。
【0033】
この発明に係る異物捕捉用フィルタにおいて、屈曲板の第1長手縁辺と第1格子板の長手縁辺又は第2格子板の長手縁辺との固定態様として、例えば単に縁辺同士を点接触させて溶接して固定する態様であっても良いが、第1格子板及び第2格子板、並びに/又は屈曲板に切目を設けて、切目と各部材とを又は切目同士を組合せて固定する態様であっても良い。なお、図1〜5に示した実施態様は、いずれも屈曲板、第1格子板、及び第2格子板の全てに切目を設けて、切目同士が噛み合うように組合せて固定する態様である。各部材に切目を設ける態様について以下に説明する。
【0034】
図6には、図1〜4に示した異物捕捉用フィルタ1における第1格子板3を示した。
【0035】
第1格子板3は、第1格子板3の長手方向に沿う長手縁辺9に、長手方向に対して斜めに形成された複数の第1傾斜切目16を有して成る。前記異物捕捉用フィルタ1における第1格子板3及び第2格子板4は、各寸法が同一であるので、図6に示すように形成された第1格子板3を第2格子板4としても用いることができる。第1格子板と第2格子板との寸法を変えて作成する場合は、図6には示していないが、第2格子板4の長手縁辺12に、長手方向に対して斜めに形成された複数の第2傾斜切目を形成すると良い。
【0036】
仮に、第1格子板3及び第2格子板4にのみ切目を設けた場合、屈曲板2の第1長手縁辺8が第1格子板3の第1傾斜切目16に挿入され、相互の摩擦力で固定されることにより、流出路15が形成される。また、屈曲板2の第2長手縁辺10が第2格子板4の第2傾斜切目に挿入された上で固定されることにより、流入路13が形成される。
【0037】
第1傾斜切目16及び第2傾斜切目を設けて、第1傾斜切目及び第2傾斜切目に屈曲板の第1長手縁辺及び第2長手縁辺をそれぞれ挿入及び固定することにより、切目を設けずに単に縁辺同士を点接触させて固定する態様に比べて、流入路から流出路までの寸法が小さくなるので、小型の異物捕捉用フィルタに形成することができ、狭い設置領域にこの小型の異物捕捉用フィルタを配置することができる。
【0038】
図7には、図1〜4に示した異物捕捉用フィルタ1における屈曲板2を示した。
【0039】
屈曲板2は、第1長手縁辺8に、屈曲板2の長手方向に直行する方向に形成された複数の第1切目17を有し、かつ、第2長手縁辺10に、屈曲板2の長手方向に直行する方向に形成された複数の第2切目18を有する。
この発明においては、前記屈曲板における第1傾斜板の第1長手縁辺に等間隔に設けられた複数の切目の数が、第2傾斜板の第2長手縁辺に等間隔に設けられた複数の切目の数よりも多い。これにより、前記複数の前記第1格子板の前記屈曲板に対する固定間隔が等間隔であり、かつ、前記複数の前記第2格子板の前記屈曲板に対する固定間隔が等間隔であり、前記複数の前記第2格子板の前記屈曲板に対する固定間隔が、前記複数の前記第1格子板の前記屈曲板に対する固定間隔よりも大きくなる。
【0040】
仮に、屈曲板2にのみ切目を設けた場合、第1格子板3の長手縁辺9が屈曲板2の第1切目17に挿入された上で固定されることにより、流出路15が形成されることになる。また、第2格子板4の長手縁辺12が屈曲板2の第2切目18に挿入され、相互の摩擦力で固定されることにより、流入路13が形成されることになる。
【0041】
第1切目及び第2切目を設けて、第1切目及び第2切目に第1格子板の長手縁辺及び第2格子板の長手縁辺をそれぞれ挿入及び固定することにより、切目を設けずに単に縁辺同士を点接触させて固定する態様に比べて、流入路から流出路までの寸法が小さくなるので、小型の異物捕捉用フィルタに形成することができ、狭い設置領域にこの小型の異物捕捉用フィルタを配置することができる。
【0042】
屈曲板、第1格子板及び第2格子板に切目を設ける更に別の態様としては、屈曲板、第1格子板及び第2格子板のいずれにも切目を設けて、屈曲板における前記第1切目と前記第1格子板における前記第1傾斜切目とが噛み合うように組み合わされて固定され、屈曲板における前記第2切目と前記第2格子板における前記第2傾斜切目とが噛み合うように組み合わされて固定される態様を挙げることができる。
【0043】
この態様も上述の切目を設けて成る態様と同様に、切目を設けずに単に縁辺同士を点接触させて固定する態様に比べて、流入路から流出路までの寸法が小さくなるので、小型の異物捕捉用フィルタに形成することができ、狭い設置領域にこの小型の異物捕捉用フィルタを配置することができる。
【0044】
なお、各部材に切目を設ける場合に、屈曲板に形成される第1切目の数が第1格子板の数と同じであり、屈曲板に形成される第2切目の数が第2格子板の数と同じであり、屈曲板の数が第1傾斜切目の数及び/又は第2傾斜切目の数と同数である態様であるのが好ましい。この態様によると、部材の枚数だけ溝を形成すれば良いので、第1格子板と第2格子板とを同一寸法で一挙に作製することができ、異物捕捉用フィルタの製造工程の簡素化を図ることができる。
【0045】
図8は、この発明に係る異物捕捉用フィルタの他の例を示す。図8に示される異物捕捉用フィルタ1が図1〜7に示される異物捕捉用フィルタ1と相違するところは、先ず第1に、図8に示される屈曲板2が第1傾斜板5と第2傾斜板7と第3傾斜板19とを有してなるに対し、図1に示される屈曲板2が第1傾斜板5と第2傾斜板7とを有してなることである。また、図8に示される第2格子板4の短手方向長さが、図1に示される第2格子板4の短手方向長さよりも長くなっている点において、図8に示される異物捕捉用フィルタ1と図1に示される異物捕捉用フィルタ1とが相違する。
図1に示される異物捕捉用フィルタ1においては第1格子板3と第2格子板4とは、同形同大であり、第1格子板3の長手方向に沿う長手縁辺9に形成された第1傾斜切目16の数及び切込深さは、第2格子板4の長手方向に沿う長手縁辺12に形成された第2傾斜切目の数及び切込深さと同じである。
図8に示される異物捕捉用フィルタ1における第2格子板4は、その短手縁辺の長さが第3傾斜板19の短手方向長さと第2傾斜板7の短手縁辺の長さを合計した寸法以下に設計されている。図8に示される異物捕捉用フィルタ1における第2格子板4に形成される第2傾斜切目は、図6に示される第1格子板3と同形の第2格子板4に形成される第2傾斜切目と同じ形状であってよい。
図8に示される異物捕捉用フィルタ1においては、冷却水などの液体が、第3傾斜板19の開口側から、隣接する第3傾斜板19と隣接する第2格子板4とで形成される空間内に、導入され、導入された前記液体は、隣接する第3傾斜板19と隣接する第2格子板4とで形成される空間内で、整流され、次いで隣接する第2傾斜板7と隣接する第2格子板4とで形成される空間内に導入されてさらに整流されて配列された複数の第1格子板3と第2格子板4との間であって配列された複数の屈曲板2で形成される内部空間内に導出され、次いで隣接する第1傾斜板5と隣接する第1格子板3とで形成される空間内に液体が導入され、導入された液体は異物捕捉フィルタ1の外に流出していく。
この様子を図9によりさらに詳細に解説すると、液体例えば冷却水中に含まれている針状乃至ワイヤ状の異物20が、液体の流れと共に、第2格子板4および屈曲板2に対して略垂直に第3傾斜板19と第2格子板4とで形成される空間に入る。このとき、図9で上下方向に延びた第3傾斜板19の効果により、前記流入時針状異物20が、よりフィルタ内に流入し易い。次いで、前期針状異物20は、第2格子板4の短手縁辺が充分に長い場合は、第2傾斜板7と第2格子板4とで形成される斜行空間に入り、次いで第1格子板3と第2格子板4との間であって屈曲板2同士で形成される空間内に至る。このとき、屈曲板2同士で形成される空間内に到った針状異物20は、フィルタ内の複雑な経路により乱された液体の流れの影響で、流路方向に対して傾斜した状態21と成り、さらには、フィルタ内で屈曲板2の長手方向に傾斜した状態22となる。かかる、フィルタ内傾斜針状異物21および22は、第1格子板3と屈曲板2とで形成される空間が第2格子板4と屈曲板2とで形成される空間よりも狭くなっているので、第1格子板3と屈曲板2とで形成される空間を通過することができない。
このような状態でこの異物捕捉用フィルタを通過する液体の流通を停止させた場合、又はこの異物捕捉用フィルタを液体から引き上げた場合に、第1格子板3と第2格子板4との間であって複数の配列された屈曲板2で形成された空間内に捕捉された異物、及び、第2格子板4の短手縁辺が充分に長い場合は、第2格子板4と屈曲板2とで形成される空間内に捕捉された異物が、この異物捕捉用フィルタ1から脱落し、外部に離脱し難くなる。
【符号の説明】
【0046】
1、11 異物捕捉用フィルタ
2、21 屈曲板
3 第1格子板
4 第2格子板
5、51 第1傾斜板
6、61、9、12 長手縁辺
7 第2傾斜板
8、81 第1長手縁辺
10 第2長手縁辺
13 流入部
14 屈曲流路部
15 流出部
16 第1傾斜切目
17 第1切目
18 第2切目
19 第3傾斜板
20 流入時針状異物
21 フィルタ内流路方向傾斜針状異物
22 フィルタ内屈曲板長手方向傾斜針状異物








【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の同一形状をした屈曲板と、複数の同一形状をした第1格子板と、複数の同一形状をした第2格子板とを備える異物捕捉用フィルタであって、
前記第1格子板は、短冊状に形成された板であり、
前記第2格子板は、短冊状に形成された板であり、
前記屈曲板は、短冊状に形成された第1傾斜板と前記第1傾斜板の長手方向に沿う長手縁辺を共有して短冊状に形成された第2傾斜板とを有し、
第1傾斜板同士及び第2傾斜板同士が互いに平行になるように配列された複数の屈曲板における前記第1傾斜板の、第2傾斜板と共有する長手縁辺とは反対側の第1長手縁辺と、前記第1格子板の長手方向に沿う長手縁辺とが交差するように、前記屈曲板と前記第1格子板とが固定され、かつ、前記複数の前記第1格子板の前記屈曲板に対する固定間隔が等間隔であり、
前記複数の屈曲板における前記第2傾斜板の、第1傾斜板と共有する長手縁辺とは反対側の第2長手縁辺と、前記第2格子板の長手方向に沿う長手縁辺とが交差するように、前記屈曲板と前記第2格子板とが固定され、かつ、前記複数の前記第2格子板の前記屈曲板に対する固定間隔が互いに等間隔であるとともに前記複数の前記第1格子板の前記屈曲板に対する固定間隔よりも大きい間隔であり、
前記屈曲板に固定された前記第1格子板の、前記第2格子板に向う長手縁辺と、前記屈曲板に固定された前記第2格子板の、前記第1格子板に向う長手縁辺とが非接触状態であることを特徴とする異物捕捉用フィルタ。
【請求項2】
前記第1格子板は、その板の長手方向に沿う長手縁辺に、長手方向に対して斜めに形成された複数の第1傾斜切目を有してなり、
前記第2格子板は、その板の長手方向に沿う長手縁辺に、長手方向に対して斜めに形成された複数の第2傾斜切目を有してなり、
前記屈曲板の前記第1長手縁辺が前記第1格子板の第1傾斜切目に挿入及び固定され、
前記屈曲板の前記第2長手縁辺が前記第2格子板の第2傾斜切目に挿入及び固定されて成る請求項1に記載の異物捕捉用フィルタ。
【請求項3】
前記屈曲板は、前記第1長手縁辺に、前記長手方向に直交する方向に形成された複数の第1切目を有し、かつ、前記第2長手縁辺に、前記長手方向に直交する方向に形成された複数の第2切目を有し、
前記複数の屈曲板における前記第1切目と前記第1格子板における前記第1傾斜切目とが噛み合うように組み合わされ、前記複数の屈曲板における前記第2切目と前記第2格子板における前記第2傾斜切目とが噛み合うように組み合わされて成る請求項2に記載の異物捕捉用フィルタ。
【請求項4】
前記屈曲板は、前記第1長手縁辺に、前記長手方向に直交する方向に形成された複数の第1切目を有し、かつ、前記第2長手縁辺に、前記長手方向に直交する方向に形成された複数の第2切目を有し、
前記第1格子板の長手縁辺が前記屈曲板の前記第1傾斜切目に挿入及び固定され、
前記第2格子板の長手縁辺が前記屈曲板の前記第2傾斜切目に挿入及び固定されて成る請求項1に記載の異物捕捉用フィルタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−207988(P2012−207988A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73062(P2011−73062)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000165697)原子燃料工業株式会社 (278)