説明

異種添加元素の結晶粒界及び結晶粒界付近の固溶濃度調節方法、及びそれを用いた結晶粒の大きい核燃料焼結体の製造方法

【課題】本発明は焼結ガスの酸素分圧に応じてウラン系酸化物内の固溶度が変化し且つ添加剤元素を含むウラン系酸化物成形体の焼結において、結晶粒界で添加剤が固溶される濃度を制御する方法を考案し、それを用いて結晶粒の大きい核燃料焼結体を製造する方法を提供する。
【解決手段】これを実現するために、本発明は、異種元素の添加剤粉末が含まれたウラン系酸化物成形体の焼結において、等温焼結中に酸素分圧を段階的に変化させることで、焼結中に異種添加剤元素の結晶粒界固溶濃度を一定のレベルに維持する異種添加元素の結晶粒界固溶度調節方法を提供し、添加剤の混合ウラン酸化物粉末を用意する段階と、前記混合物を用いて添加剤の混合ウラン酸化物成形体を形成する段階と、前記成形体を低酸素分圧のガス雰囲気下で焼結温度まで昇温させる加熱段階と、等温の焼結温度で酸素分圧が段階的に増加するように焼結ガス雰囲気を変化させて焼結する段階と、を含む結晶粒の大きい核燃料焼結体を製造する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種添加元素の結晶粒界固溶度調節方法、及びそれを用いた核燃料焼結体の製造方法に関し、より詳細には、Cr−化合物、Al−化合物及びY−化合物のうち1種以上の添加剤が混合されたウラン系酸化物成形体の焼結中に酸素分圧を段階的に変化させ、結晶粒界に固溶される添加剤の固溶濃度が一定のレベルを維持できるようにする固溶度調節方法、及びそれを用いて結晶粒の大きい焼結体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電はウランを核分裂させるときに発生する熱を利用し、このような原子力発電に使用される核燃料として通常はUO焼結体を使用する。UO焼結体は、ウラン酸化物粉末を圧縮成形して得られた成形体(green pellet)を還元性ガス雰囲気下において約1700〜1800℃の温度で2〜8時間焼結して製造されることができる。このような従来の方法を用いて約95.5%TD(理論密度)の密度と約6〜10μmの結晶粒径を有するUO焼結体を製造することができる。
【0003】
近年では、核燃料の経済性を高め、且つ使用済核燃料の量を減らすために、核燃料を長時間燃焼させる高燃焼度核燃料が開発されている。結晶粒の大きい核燃料焼結体は、気相或いはは腐食性を有する核分裂生成物の焼結体外部への放出を抑制することで、高燃焼度における核燃料棒の健全性を向上させることができる。また、結晶粒径が増加すると、高温での変形特性が向上し、その結果、駆動中に焼結体が被覆管に印加される応力を効果的に減少させ核燃料棒の安全性を向上できるようになる。このような理由から、高燃焼度或いは超高燃焼度用核燃料棒の焼結体として、結晶粒の大きいウラン系酸化物焼結体を製造する研究が進められている。
【0004】
結晶粒成長は、結晶粒界を介した物質の移動によって生じるため、結晶粒の大きい焼結体を製造するためには、焼結中に結晶粒界を介した物質移動速度を上げることが重要となる。結晶粒界における物質移動速度を上げるためには、結晶粒界の成長駆動力を増加させなければならない。核燃料焼結体の製造において結晶粒径を増加させるためには、焼結温度を上げたり、添加剤元素を使用する方法が開示されている。添加剤元素を使用する方法としては、添加剤元素を固溶させる方法と、結晶粒界に物質の拡散速度が速い液相を形成させる方法が開示されている。
【0005】
添加剤元素を固溶させる方法は、添加剤元素がウラン系酸化物に固溶される場合に欠陥が形成され、この欠陥によって物質移動が容易になり結晶粒成長速度が増加することを利用した方法である。特許文献1には、UOに余剰酸素を固溶させ、低い焼結温度で焼結する方法が開示されている。この特許では、焼結ガスの酸素分圧を増加させることにより酸素イオンがUO格子内に固溶されてU陽イオン空孔を形成し、これによって物質移動速度を増加させて焼結温度を低下させる工程を提示している。そのほか、添加剤元素としてはAl、Cr、Ti、Nb、Mg、V、P、Si等が知られている。これらの添加剤は、焼結体中のウラン陽イオンに対する重量比で数ppm〜数万ppm程度添加して使用され、添加剤の種類によって添加される含量は異なる。
【0006】
添加剤の固溶により欠陥を形成させ、結晶粒成長速度を増加させる方法において、一定のレベル以上の欠陥濃度を形成させるためには、添加剤の量を増加する必要がある。また、固溶により形成されたUO格子内の欠陥は、炉内燃焼時に生成する核分裂ガスの放出速度を高めることに寄与する。即ち、核分裂放出を抑制するために結晶粒径を増加させてもUO格子の拡散速度が増加することで核分裂ガス放出の抑制効果が得られなくなる。非特許文献1と非特許文献2の研究結果によると、Crが添加された焼結体においてCrイオンが固溶されて結晶粒成長の効果を示すが、UO格子にも欠陥が形成されて核分裂ガスの拡散速度が速くなり、核分裂ガスの放出を抑制する効果が低いと報告されている。上記のような短所を克服するために、特許文献1及び特許文献2では、焼結温度よりも低い温度で還元雰囲気で熱処理して余剰酸素を取り除いたり、固溶した金属陽イオンを金属形態で析出して格子欠陥を最小限に抑える方法を開示している。
【0007】
添加剤元素を用い、焼結温度付近で結晶粒界に液相を形成させて結晶粒径を増加させる方法についての技術も報告されている。特許文献3には、アルミノケイ酸塩(alumino−silicate)添加剤を0.5wt%添加後、1640℃で7時間焼結することで、平均結晶粒径が37μmとなるUO焼結体を製造する技術が開示されている。この特許によると、添加されたアルミノケイ酸塩(alumino−silicate)は、焼結温度付近で結晶粒界に液相を形成し、これにより物質移動が加速され結晶粒成長が大きくなると報告している。また、非特許文献3では、Cr添加UO焼結体の製造時、焼結ガスの酸素分圧を特定の値に調節すると、Cr−化合物添加剤が焼結中に液相を形成して結晶粒径を大きく増加させると報告した。特許文献2は、Crが添加されたUO成形体を、液相が形成される酸素分圧区間で焼結した後、低温、低酸素分圧で焼鈍することで固溶されたCrをCr金属粒子として析出させる工程を提案した。液相を用いる工程の場合、結晶粒界に形成される液相の量によって結晶粒径が決定され、添加剤の一部が液相形成温度に達する前に固溶されたり、液相焼結中に一部の液相が結晶粒内に固溶されたりするため、所望の結晶粒径を得るために多量の添加剤を必要とする。一例として、特許文献2に開示されたCr−添加の結晶粒の大きいUO焼結体の製造工程の具体的な方法は以下の通りである。Crが混合されたウラン酸化物成形体を水分/水素ガス比1.7%の湿潤水素ガス雰囲気下、1700℃で4時間維持して焼結体を製造した後、この焼結体を再び水分/水素ガス比0.05%以下の乾燥水素ガス雰囲気下、1300℃で5時間焼鈍(annealing)することで、Crが析出された核燃料焼結体を製造する。上記の方法において、添加されたCrは成形体の温度が1680℃付近まで上がるまでCr相を維持し、一部は固溶される。固溶せずに残存している一部のCrは1680℃以上で液相を形成し、結晶粒成長に寄与するようになる。その後、低温での焼鈍工程で固溶されたCrはCr金属粒子として析出される。上記のような方法は初期に添加されたCrの多くが液相形成前に固溶され、一部のみが結晶粒成長に寄与するようになるため、1500ppm以上の多量の添加剤が必要となる。
【0008】
添加剤を用いてウラン系酸化物の結晶粒径を増加させる場合、同じ結晶粒径を得るために添加される添加剤の量はできるだけ最小限に抑えられる必要がある。添加剤元素は、結晶粒界に固溶されて核分裂生成物の拡散速度を増加させるだけでなく、U充填量を低下させたり、中性子を吸収して中性子経済性を低下させる恐れがあるためである。従って、添加剤の量を最小限に抑えながら結晶粒径を大きく増加させることができる新たな技術の開発が必要となった。
【0009】
特許文献4には、焼結温度まで成形体を昇温する間に添加剤が固溶されることを最大限に抑え、焼結温度で存在する液相の量を最大化して結晶粒成長の効果を向上させる方法が開示されている。この特許によると、添加されたCr−化合物が1500℃以下でCrに還元されてCr相を維持し、その後、1650〜1780℃でCr元素が液相を形成する酸素ポテンシャルを有するガス雰囲気下で焼結する過程が開示されている。上記工程によって製造された焼結体は、特許文献2で提示された工程によって製造された焼結体に比べて、同じ添加量を使用した場合、焼結中に形成される液相の量が多いため、より大きな結晶粒径が得られる。しかし、特許文献4で提示された工程は酸素分圧が高い焼結温度で急激に増加するため、生成された添加剤の液相がUO格子内に急速に固溶するという短所を有する。非特許文献4の研究結果によると、UO格子内Crイオンの固溶量が、1550℃以上である場合に温度と酸素分圧の増加により固溶量が急激に増加すると報告されている。従って、特許文献4に提示された工程は形成された液相が結晶粒界に留まる時間が短く、結晶粒成長に完全に寄与できず、一定量以上の添加剤が必要となり限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許登録US6878313B2号
【特許文献2】米国特許登録6221286B1号
【特許文献3】米国特許登録US4869866号
【特許文献4】韓国特許登録第10−0964953号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Killeen et al.[Journal of Nuclear Materials,88(1980),p.177−184]
【非特許文献2】Kashibe et al.[Journal of Nuclear Materials,254(1998),p.234−242]
【非特許文献3】Bourgeois et al.[Journal of Nuclear Materials,297(2001),p.313−326]
【非特許文献4】A.Leenaers et al.[Journal of Nuclear Materials,317(2003),p.62−68]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題を解決するためになされたもので、焼結ガスの酸素分圧に応じてウラン系酸化物内の固溶度が変化し且つ添加剤元素を含むウラン系酸化物成形体の焼結において、結晶粒界及び結晶粒界付近で添加剤が固溶される濃度を制御する方法を考案し、それを用いて結晶粒の大きい核燃料焼結体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を実現するための手段として、本発明による異種添加元素の結晶粒界及び結晶粒界付近の固溶濃度調節方法は、異種元素の添加剤粉末が含まれたウラン系酸化物成形体の焼結において、等温焼結中に酸素分圧を段階的に変化させることで、焼結中に異種添加剤元素の結晶粒界固溶濃度を一定のレベルに維持することを特徴とする。
【0014】
また、上記等温焼結においては、酸素分圧を段階的に増加させることが好ましい。
【0015】
本発明による結晶粒の大きい核燃料焼結体の製造方法は、添加剤粉末とウラン酸化物粉末を混合する段階と、上記混合粉末を用いて添加剤混合ウラン酸化物成形体を形成する段階と、上記成形体を等温焼結段階の最小酸素分圧以下の酸素分圧のガス雰囲気で等温焼結温度まで昇温させる加熱段階と、上記等温焼結温度で酸素分圧が段階的に増加するように焼結ガス雰囲気を変化させ、等温焼結する段階と、を含むことを特徴とする。
【0016】
また、上記ウラン酸化物成形体のウラン系陽イオンに対する添加剤陽イオンの重量比は10〜2000μg/gであることが好ましい。
【0017】
また、上記ウラン酸化物成形体のウラン系陽イオン1gに対する添加剤陽イオンは10〜2000μgであることが好ましい。
【0018】
また、上記添加剤の粉末は、Cr−化合物、Al−化合物及びY−化合物のうち少なくとも1種以上が混合された粉末を使用することが好ましい。
【0019】
また、上記Cr−化合物、Al−化合物及びY−化合物は、酸化物、硝酸塩、ステアレート、クロライド及びハイドロオキシドで構成された群から選択された少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0020】
また、上記添加剤の混合ウラン酸化物粉末を用意する段階において、UO系粉末は、UO粉末、または、UO粉末にPuO粉末、Gd粉末及びThO粉末のうち1種以上が混合されたものが好ましい。
【0021】
また、上記雰囲気ガスは、水素ガス、または二酸化炭素、水蒸気及び不活性ガスからなる群から選択された少なくとも1種以上のガスと水素ガスが混合されたものが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の焼結体の製造方法を用いれば、焼結中に結晶粒成長の駆動力が低下することを最小限に抑え、同じ量の添加剤を使用した場合に従来に比べて結晶粒の大きい焼結体を製造することができる。また、結晶粒の大きい焼結体を製造することで、原子炉で燃焼する過程で核分裂生成物が放出することを抑制し、高温での変形特性を向上させることで、高燃焼度における核燃料棒の健全性及び安全性の向上をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】酸素分圧の増加により固溶度が増加するセスキ酸化物(sesquioxides)添加剤を含有したウラン系酸化物の等温焼結において、焼結ガスの酸素分圧の変化による結晶粒界付近における添加剤濃度の変化を図式的に示した図面である。
【図2】本発明の焼結工程を概略的に示したグラフである。
【図3a】実施例1の結晶粒組織写真である。
【図3b】(B−1)、(B−2)、(B−3)、(B−4)はそれぞれ比較例1、2、3及び4の結晶粒組織写真である。
【図3c】実施例2の結晶粒組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
で表される3価の陽イオンで構成されたセスキ酸化物(sesquioxides)のうち、Cr、Y、Al等は酸素分圧が増加するほどUO格子内の固溶度が増加する互いに類似する傾向がある。また、上記セスキ酸化物の結晶粒界固溶度も酸素分圧が増加するほど増加する。
【0025】
結晶粒界は、格子より欠陥が多く、結晶粒内格子に比べて添加剤元素の固溶限界が高い。また、結晶粒界に存在する添加剤濃度と格子内に存在する添加剤濃度の差が大きくなるほど結晶粒成長の駆動力が高くなり、結晶粒成長に有利である。よって、(結晶粒界添加剤の固溶濃度/格子内添加剤の固溶濃度)をCとし、結晶粒界添加剤の固溶濃度をBとすると、BとCが共に大きい条件において結晶粒成長速度が大きくなる。
【0026】
Cr、Y等の酸素分圧の増加によって固溶度が増加するセスキ酸化物(sesquioxides)元素が含まれた添加剤を含有したウラン系酸化物成形体を等温で同じ酸素分圧で焼結する時、焼結ガスの酸素分圧毎に結晶粒界に存在する添加剤濃度の変化を図1に概略的に示した。
【0027】
図1の(b)に示したように、低酸素分圧で焼結する場合には、格子内だけでなく、結晶粒界における添加剤の固溶濃度も非常に低い。そのため、この場合に、Cはある程度のレベルを維持することができるが、Bが低いため、添加された添加剤の非常に少ない量のみが結晶粒成長に関与するようになり、結晶粒成長が困難となる。
【0028】
図1の(c)に示したように、焼結ガスの酸素分圧を高くすると、Bが高くなるため初期にはある程度の結晶粒成長を促進できるが、結晶粒界が直ぐに固溶限界に達し、格子拡散が起こると、Cも徐々に低くなるため、結晶粒成長の駆動力が徐々に低下するようになる。
【0029】
これは、特許文献4等からも確認することができるが、Cr−含有UO焼結工程に開示された液相が形成される酸素分圧においてCr−含有UO焼結で液相が生成する瞬間にはBとCが共に高くなり結晶粒成長が活発になるが、その後、液相が結晶粒内に速く拡散され、固溶されて結晶粒成長が終了する。
【0030】
本発明の発明者らはこのようなことを発見し、Cr、Y等の酸素分圧の増加によって固溶度が増加するセスキ酸化物(sesquioxides)元素が含まれた添加剤を含有したウラン系酸化物成形体の焼結において、結晶粒成長を最大限に引き出すためには、焼結中にBとCが常に特定の値以上に維持することが重要であることが分かった。
【0031】
焼結中にBとCが特定の値以上になるように維持させるためには、等温焼結中に焼結ガスの酸素分圧を段階的に増加させる方法により実現することができる。即ち、酸素分圧を徐々に増加させると結晶粒界の固溶度が増加し、これにより、結晶粒界から結晶粒内に拡散していく添加剤より多くの添加剤が結晶粒界に持続的に供給されるようになる。
【0032】
従って、図1の(a)に示したように、BとCが常に大きい値を維持できるようになり、焼結中に結晶粒成長の駆動力が低下することを最小限に抑えることができるため、同じ量の添加剤を使用した場合、従来に比べて結晶粒の大きい焼結体を製造できるようになる。
【0033】
つまり、異種元素の添加剤粉末が含まれたウラン系酸化物成形体の焼結において、等温焼結中に酸素分圧を段階的に変化させることで、焼結中に異種添加剤元素の結晶粒界及び結晶粒界付近の固溶濃度を一定のレベルに維持することができ、特に、上記等温焼結中に酸素分圧を常に増加させると結晶粒の大きい核燃料焼結体を製造することができる固溶濃度勾配を維持することができる。
【0034】
また、上記の固溶濃度調節方法であれば、晶粒径の大きい核燃料焼結体を製造でき、高燃焼度における核燃料棒の健全性を向上させることができる。
【0035】
以下に、本発明の核燃料焼結体の製造方法について説明する。
【0036】
添加剤混合ウラン酸化物粉末を用意し、上記混合物を用いて添加剤混合ウラン酸化物成形体を形成する。次いで、上記成形体を低酸素分圧のガス雰囲気で焼結温度まで昇温させた後、等温の焼結温度で酸素分圧が段階的に増加するように焼結ガス雰囲気を変化させて焼結することで結晶粒の大きい核燃料焼結体を製造する。
【0037】
上記ウラン酸化物粉末の添加剤の含量は、ウラン酸化物粉末のウランに対する添加剤陽イオン或いは金属元素の重量比(ΣM/U)を基準として50〜2000μg/gであることができる。
【0038】
本発明の製造条件で核燃料焼結体を製造する場合には、焼結中に酸素分圧を調節して固溶限界を徐々に増やしながら結晶粒を成長させることで、上記のように非常に少ない量の添加剤を使用する場合でも十分な結晶粒成長の効果を得ることができる。
【0039】
上記添加剤が混合されたウラン酸化物粉末を用意する段階は、ウラン酸化物粉末と添加剤粉末を乾式工程によって混合または粉砕する方法を用いて製造することができる。
【0040】
上記成形体を形成する段階では、成形モールドに上記添加剤が混合されたウラン酸化物粉末を加え、3〜5ton/cm圧力で形成する方法を用いることができる。
【0041】
で表される3価の陽イオンで構成されたセスキ酸化物(sesquioxides)のうち、Cr、Y、Al等は酸素分圧が増加するほどUO格子内の固溶度が増加する互いに類似する傾向がある。また、上記セスキ酸化物の結晶粒界固溶度も酸素分圧が増加するほど増加し、これらの添加剤粉末は中性子吸収断面積が比較的低いという長所を有する。
【0042】
従って、上記添加剤の粉末は、Cr−化合物、Al−化合物、Y−化合物のうち少なくとも1種以上が混合された粉末を使用することが好ましい。
【0043】
上記Cr−化合物、Al−化合物、Y−化合物は、酸化物、硝酸塩、ステアレート、クロライド、ハイドロオキシドで構成された群から選択された少なくとも1種以上を使用することが好ましい。
【0044】
上記添加剤の混合ウラン酸化物粉末を用意する段階において、UO系粉末は、UO粉末、または、UO粉末にPuO粉末、Gd粉末、ThO粉末のうち1種以上が混合された粉末を使用することが好ましい。
【0045】
上記焼結段階において、酸素分圧を増加させるために使用される雰囲気調節ガスは、水素ガス、または二酸化炭素、水蒸気、不活性ガスからなる群から選択された少なくとも1種以上のガスと水素ガスが混合されて使用することが好ましい。
【0046】
以下に、本発明を実施例を挙げてさらに詳細に説明する。但し、以下の実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
UO粉末にCr粉末をCr/U基準で1500μg/g湿式粉砕した後、乾燥させ、Crが混合されたUO粉末を用意した。上記混合粉末を3ton/cm圧力で圧縮成形して円柱形成形体(green pellet)を製造した。
【0048】
上記成形体を下記の表1の焼結体製造工程を行い、結晶粒径を測定して表1に示した。製造された焼結体はアルキメデス法を用いて密度を測定し、密度の測定後、焼結体の断面を鏡面研磨して気孔組織を観察し、熱エッチングを行って結晶粒組織を観察した。焼結体の結晶粒径は直線交差法を用いて測定した。
【0049】
また、図2に、本発明の例として、実施例1の焼結工程を示した。上記成形体に対する焼結工程において、焼結温度である1700℃まではCrがCrに還元される低酸素分圧を有する水素雰囲気を維持するが、これは、UO格子内にCrイオンが固溶される速度を最小限にすることで等温焼結時に上述したC値が低くなることを防止するためである。
【0050】
上記焼結において、1700℃の等温焼結区間では焼結ガスの酸素分圧が段階的に増加するように水素中のCOの混合比率を段階的に増加させるが、このように増加させる場合、上述したB及びCが常に一定のレベル以上の値を維持するようになり、結晶粒成長が最大限になる効果が得られる。
【0051】
また、各実施例及び比較例の結晶粒組織写真を観察し、その結果を図3a及び図3bに示した。図3aは、実施例1の結晶粒組織写真であり、図3bの(B−1)、(B−2)、(B−3)、(B−4)はそれぞれ比較例1、2、3及び4の結晶粒組織写真である。
【0052】
【表1】

【0053】
表1において、実施例1及び比較例1から4の結晶粒径を比較すると、実施例1の結晶粒径は130μmで、比較例1から4の結晶粒径に比べて約2〜9倍増加したことが分かる。このような実施例及び比較例1から4の差は、図3a及び図3bの結晶粒径写真で確認することができる。
【0054】
図3bの(B−1)及び表1を参照すると、比較例1の結晶粒径は17μmで、実施例1に比べ9倍以上小さく、比較例のうち最も小さい結晶粒径を有することが分かる。
【0055】
図3bの(B−2)及び表1を参照すると、比較例2の結晶粒径は34μmで、実施例1に比べ5倍以上小さい値を示したが、比較例1よりは約2倍程度増加したことが分かる。これは、水分/水素ガス比が比較例2では1.0体積%で、比較例1の0.3体積%より高い条件で焼結体を製造したためであり、酸素分圧の増加によりCr固溶度が高くなり、物質移動速度の増加により結晶粒径が増加したものと考えられる。
【0056】
図3bの(B−3)及び表1を参照すると、比較例3の結晶粒径は45μmで、実施例1に比べ3倍以上小さい値を示したが、比較例1よりは約3倍程度増加した。これは、焼結ガス雰囲気でCr添加剤が液相を形成して物質移動速度を増加させたためである。
【0057】
図3bの(B−4)及び表1を参照すると、比較例4の結晶粒径は62μmで、実施例1に比べ2倍以上小さい値を示したが、比較例1よりは3.5倍以上増加した。比較例4では、焼結温度まで達するまでCrがUO内に固溶するのを最大限に抑えて液相量を増やすことを目的として行われたが、焼結中に液相が結晶粒界に速く固溶されるため、実施例1に比べて結晶粒径が非常に小さい。従って、焼結中に結晶粒界に固溶されるCrの濃度と結晶粒内に固溶されるCrの濃度を適切に調節した実施例1の場合が結晶粒径を増加させることに非常に効果的であることが分かる。
【0058】
(実施例2)
UO粉末にCr粉末をCr/U基準で500μg/g添加し、湿式粉砕した後、乾燥させ、Crが混合されたUO粉末を用意した。上記粉末を用いて成形体と焼結体を製造する工程は実施例1と同様に行った。
【0059】
上記実施例1のように密度及び結晶粒径を測定し、結晶粒組織写真を観察した結果を図3cに示した。
【0060】
実施例2で測定された結晶粒径は46μmで、結晶粒径45μmであった比較例3とほぼ同じ結果が得られた。実施例2及び比較例3を比較すると、比較例3ではCr粉末を1500μg/g添加したが、実施例2では500μg/gを添加し、これによって、本発明の製造方法で焼結体を製造すれば、従来の1/3の少量の添加量でもほぼ同じ大きさの結晶粒径が得られることが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種元素の添加剤粉末が含まれたウラン系酸化物成形体を焼結する焼結工程において、等温焼結中に酸素分圧を段階的に変化させ、焼結中に異種添加剤元素の結晶粒界及び結晶粒界付近の固溶濃度を一定のレベルに維持する異種添加元素の結晶粒界及び結晶粒界付近の固溶濃度調節方法。
【請求項2】
前記等温焼結中に酸素分圧を段階的に増加させる、請求項1に記載の異種添加元素の結晶粒界及び結晶粒界付近の固溶濃度調節方法。
【請求項3】
添加剤粉末とウラン酸化物粉末を混合する段階と、
前記混合粉末を用いて添加剤の混合ウラン酸化物成形体を形成する段階と、
前記成形体を等温焼結段階の最小酸素分圧以下の酸素分圧のガス雰囲気下で等温焼結温度まで昇温させる加熱段階と、
前記等温焼結温度で酸素分圧が段階的に増加するように焼結ガス雰囲気を変化させ等温焼結する段階と、を含む結晶粒の大きい核燃料焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記ウラン酸化物成形体のウラン系陽イオン1gに対する添加剤陽イオンが10〜2000μgである、請求項3に記載の結晶粒の大きい核燃料焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記添加剤の粉末は、Cr−化合物、Al−化合物及びY−化合物のうち少なくとも1種以上が混合された粉末である、請求項3または請求項4に記載の結晶粒の大きい核燃料焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記Cr−化合物、Al−化合物及びY−化合物は、酸化物、硝酸塩、ステアレート、クロライド及びハイドロオキシドで構成された群から選択された少なくとも1種以上である、請求項5に記載の結晶粒の大きい核燃料焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記添加剤の混合ウラン酸化物粉末を用意する段階において、UO系粉末は、UO粉末、または、UO粉末にPuO粉末、Gd粉末及びThO粉末のうち1種以上が混合された粉末である、請求項3ないし請求項6のいずれか一項に記載の結晶粒の大きい核燃料焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記雰囲気ガスは、水素ガス、または二酸化炭素、水蒸気及び不活性ガスからなる群から選択された少なくとも1種以上のガスと水素ガスが混合された、請求項3ないし請求項7のいずれか一項に記載の結晶粒の大きい核燃料焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【公開番号】特開2012−88317(P2012−88317A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229977(P2011−229977)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(507272603)韓国原子力研究院 (6)
【出願人】(502326554)韓国水力原子力株式会社 (4)