説明

疎水性アミノ酸又はアミノメチル安息香酸を固定化した液体クロマトグラフィー用充填剤、及びそれを用いた生体高分子の分離精製乃至捕集回収方法

【課題】 タンパク質の等電点や、タンパク質、ペプチド等の生体高分子が溶解する溶媒の塩濃度に影響されず、pHの変化でタンパク質等生体高分子の吸脱着により、分離精製・捕集回収できる新規な液体クロマトグラフィー用充填剤を提供すること、並びにその充填剤を使用して、希薄で多量な細胞培養液から目標とするタンパク質等生体高分子を濃縮回収する方法を提供する。
【解決手段】 液体クロマトグラフィー用充填剤が、疎水性基とカルボキシル基とを有するリガンドが基材に固定化された液体クロマトグラフィー用充填剤であって、
(1)基材が、アルコール性水酸基を基材表面に有する親水性の基材であり、
(2)リガンドが、下記式(1)
【化1】


(上記式中、Rは芳香族基又は炭素数5〜7個の非イオン性脂肪族基を表す。)
で示されるα−アミノ酸、及びアミノメチル安息香酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上のリガンドであり、
(3)上記リガンドが、上記α−アミノ酸又はアミノメチル安息香酸に含まれるアミノ基を介して、アミド結合又はウレタン結合で上記基材に固定化されており、かつ
(4)上記基材に固定化された上記リガンドの量が、上記液体クロマトグラフィー用充填剤1リットル(湿潤容量)当たり20ミリモル以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水溶液に溶解したイオン性物質、特に、タンパク質、ペプチド等の生体高分子を吸着・脱着作用及び/又は液体クロマトグラフィー法により分離精製乃至捕集回収するために好適な充填剤、及びそれを用いたタンパク質の吸着・脱着方法に関する。
【0002】
更に詳しくは、酸性水溶液条件下、充填剤の疎水性基とタンパク質等の生体高分子の表面疎水性基との相互作用を利用して溶質高分子を吸着し、溶離液のpHを中性又は弱アルカリ性に変更することにより充填剤を親水性に変化させて、吸着したタンパク質、ペプチド等の生体高分子を脱着・溶出することにより回収し、分離精製するための液体クロマトグラフィー用充填剤及びそれを用いた吸着・脱着方法に関する。
【背景技術】
【0003】
タンパク質、ペプチド等の生体高分子を吸着・脱着して分離精製する液体クロマトグラフィー用充填剤は、多くの場合、水溶液中でタンパク質及びペプチドを吸着しない親水性充填剤を基材として、その表面にタンパク質と相互作用する官能基を固定化した構造になっている。このような親水性の基材としては、例えば、生体高分子が浸透できる大きさの細孔を持つ多孔性粒子であって、親水性表面を有するものが使用され、官能基を導入しなければ、ほぼ分子サイズの大きい順に、各溶質は溶出する。
【0004】
基材に親水性を付与しているのはアルコール性水酸基、又はアミド基等の非イオン性極性基である。特に水酸基は特定の官能基を固定化するための反応基点として利用されている。
【0005】
官能基として疎水基を導入した場合が疎水クロマトグラフィー用充填剤又は逆相クロマトグラフィー用充填剤である。
【0006】
逆相クロマトグラフィー用充填剤はタンパク質等を溶出する際に、有機溶媒を含む溶出液が必要でタンパク質を変性することが多く、分析には用いられるが精製手段としてはあまり利用されない。
【0007】
一方、疎水クロマトグラフィー用充填剤は高濃度塩溶液中でタンパク質等を吸着し、有機溶媒を添加しなくとも塩濃度を下げることによりタンパク質等を溶出できる分離精製法である。疎水クロマトグラフィーは、生体高分子の複雑な生理活性を保持して目標物質を分離精製する手段としてイオン交換法に次ぐ頻度で広く利用され、イオン交換法と組合わせて使用されることが多い。その主な理由としては、例えば、タンパク質が安定な溶媒(組成、pH)及び温度で分離操作ができること、また、再生洗浄、滅菌処理、エンドトキシン除去処理等に対し比較的に安定性が良く、性能寿命が長いこと、更には、生体高分子とは疎水的相互作用に基づき吸着・脱着を行うものであり、汎用されているイオン交換法とは分離機構が異なること等が挙げられる。
【0008】
疎水クロマトグラフィー用充填剤に用いられる官能基としては、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、フェニル基等の非イオン性基が例示される。
【0009】
近年、特定タンパク質(ペプタイドを含む。)を効率良く産生する方法として、遺伝子組換え技術を利用して、遺伝子組換え細胞を培養し、細胞内又は細胞外にタンパク質を造らせる方法が開発され利用されている。培養上清やホモジネート液中のタンパク質濃度は、多い場合でもリットル当たり数グラム程度であり、通常は更に低い。したがって、多量のタンパク質を製造する場合、数百から数千倍の培養液を迅速に処理し、目的タンパク質を含む粗精製品を捕集することが要求される。
【0010】
ここで、疎水クロマトグラフィーは、タンパク質を吸着するために、吸着緩衝液中に高濃度(一般に1.5モル/リットル以上)の硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウム等を含有させる必要がある。したがって、多量の培養上清やホモジネート液を処理するためには、多量の塩を必要とし、その廃棄も課題となり、精製コストを押し上げることになる。
【0011】
一方、イオン交換法は、低塩濃度の溶液からタンパク質を吸着するには適しているが、上記細胞培養液には、一般に生理食塩水程度(約0.15モル/リットル)以上の塩を含む場合が多く、イオン交換体で捕集するには、塩濃度が高すぎるため、脱塩又は希釈により共存する塩濃度を下げる必要がある。透析又は脱塩用カラムにより前処理するか、希釈により培養液容量を増やすことは、どちらにしても迅速に目的のタンパク質を細胞培養液から捕集するためには適さない。
【0012】
近年、V.Kascheら(非特許文献1参照)や、S.C.Burtonら(特許文献1、特許文献2、非特許文献2参照)、A.Schwarzら(非特許文献3参照)によって、弱アニオン交換基と疎水性基を併せ持つリガンドを上記親水性基材に固定化した充填剤を用いて、中性乃至弱塩基性pH条件にて、吸着溶液の塩濃度にあまり影響されないでタンパク質を吸着し、溶出液pHを弱酸性とし、リガンドのアニオン交換基をイオン化することにより、充填剤を親水性に変え、吸着したタンパク質を溶出回収することができることが報告された。しかしながら、これらの充填剤は等電点がpH=8.5以上のタンパク質は吸着しないか、又は吸着しても吸着量が数ミリグラム/ミリリットル以下に限定される。
【0013】
また、A.Groenbergら(特許文献3参照)により、弱カチオン交換基と炭素、イオウ、酸素で構成されるヘテロ芳香族環を併せ持つリガンドを親水性充填剤に固定化した充填剤を用いて、弱酸性pH条件で抗体を選択的に吸着し、弱塩基性pH条件で溶出することが報告されている。
【0014】
しかしながら、弱アニオン交換基と疎水性基を併せ持つリガンド固定化充填剤の場合、中性乃至弱塩基性条件でタンパク質等を吸着するため、塩基性タンパク質はイオン排除力を受け、逆に酸性タンパク質の大部分のアニオン基はイオン化するため表面親水性が高く、疎水的吸着力が弱まり、吸着容量が少ない。一方、特許文献3に記載の弱カチオン交換基とヘテロ芳香族環を併せ持つリガンドを親水性充填剤に固定化したリガンド固定化充填剤の場合、特定のタンパク質(抗体)への特異性は強く吸着するが、タンパク質全般への適用は困難であり、適用範囲が狭い。
【0015】
そこで、吸着に関しては、タンパク質の等電点や吸着溶液の塩濃度にあまり影響されないで、タンパク質全般への広い適用範囲を持ち、溶出時にpH条件を制御することで溶出する溶質(例えば、タンパク質、ペプチド等)を制御可能な充填剤と吸脱着法の開発が望まれている。
【0016】
すなわち、従来の充填剤では、タンパク質の物性(例えば、等電点)やタンパク質等生体高分子の溶解する溶媒の塩濃度により吸着量が変化してしまい、又、希薄で多量な細胞培養液から目標とするタンパク質等生体高分子を広く濃縮回収することが不可能であった。
【0017】
【特許文献1】米国特許第5,652,348号明細書
【特許文献2】米国特許第5,945,520号明細書
【特許文献3】国際公開第2005/082483号パンフレット
【非特許文献1】Journal of Chromatography,510(1990)p.149−154
【非特許文献2】Journal of Chromatography A,814(1998)p.71−81
【非特許文献3】Journal of Chromatography A,908,1−2(2001)p.251−263
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、タンパク質の等電点や、タンパク質、ペプチド等の生体高分子の溶解する溶媒の塩濃度に影響されず、pHの変化でタンパク質等生体高分子の吸脱着により、分離精製・捕集回収できる新規な液体クロマトグラフィー用充填剤を提供すること、並びにその充填剤を使用して、希薄で多量な細胞培養液から目標とするタンパク質等生体高分子を濃縮回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定のα−アミノ酸又はアミノメチル安息香酸を、アミド結合又はウレタン結合を介して基材に固定化した液体クロマトグラフィー用充填剤、並びにそれを用いたタンパク質の分離精製及び捕集回収方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち本発明は、以下に示すとおりの疎水性アミノ酸又はアミノメチル安息香酸を固定化した液体クロマトグラフィー用充填剤、及びそれを用いたタンパク質の分離精製乃至捕集回収方法である。
【0021】
[1]疎水性基とカルボキシル基とを有するリガンドが基材に固定化された液体クロマトグラフィー用充填剤であって、
(1)基材が、アルコール性水酸基を基材表面に有する親水性の基材であり、
(2)リガンドが、下記式(1)
【0022】
【化1】

(上記式中、Rは芳香族基又は炭素数5〜7個の非イオン性脂肪族基を表す。)
で示されるα−アミノ酸、及びアミノメチル安息香酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上のリガンドであり、
(3)上記リガンドが、上記α−アミノ酸又はアミノメチル安息香酸に含まれるアミノ基を介して、アミド結合又はウレタン結合で上記基材に固定化されており、かつ
(4)上記基材に固定化された上記リガンドの量が、上記液体クロマトグラフィー用充填剤1リットル(湿潤容量)当たり20ミリモル以上である、液体クロマトグラフィー用充填剤。
【0023】
[2]α−アミノ酸が、フェニルアラニン、トリプトファン、ロイシン、ノルロイシン及びα−アミノオクタン酸からなる群より選択されることを特徴とする上記[1]に記載の液体クロマトグラフィー用充填剤。
【0024】
[3]基材が、天然高分子系担体、合成高分子系担体、及び無機系担体からなる群より選択されるクロマトグラフィー用担体であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の液体クロマトグラフィー用充填剤
[4]基材が多孔性粒子であって、その排除限界分子量がプルラン換算で1万以上であることを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の液体クロマトグラフィー用充填剤。
【0025】
[5]基材のアルコール性水酸基を有機溶媒中、1,1−カルボニルビス−1H−イミダゾールで活性化した後、有機溶媒又は含水有機溶媒中でリガンドのアミノ基と反応させ、ウレタン結合によりリガンドを基材に導入することことを特徴とする上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の液体クロマトグラフィー用充填剤の製造方法。
【0026】
[6]基材にカルボキシル基を導入後、カルボジイミド類を触媒として、それとリガンドのアミノ基とを反応させ、アミド結合により前記リガンドを前記基材に導入することを特徴とする上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の液体クロマトグラフィー用充填剤の製造方法。
【0027】
[7]上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の液体クロマトグラフィー用充填剤を用い、pH5以下の酸性水溶液条件で生体高分子を吸着し、その後、中性乃至pH9以下の弱塩基性条件で吸着した生体高分子を脱着することを特徴とする、液体クロマトグラフィーによる生体高分子の分離精製乃至捕集回収方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明の液体クロマトグラフィー用充填剤は、疎水性基とカルボキシル基とを有するリガンドが親水性の基材に固定化されており、酸性水溶液条件ではタンパク質等の生体高分子を吸着し、中性〜弱塩基性条件では吸着した生体高分子を脱着するため、これら生体高分子の疎水性及びイオン性に応じてこれらを溶出回収することができる。
【0029】
また、本発明の液体クロマトグラフィー用充填剤は、タンパク質等の生体高分子が溶解する溶媒の塩濃度に影響されず、pHの変化で生体高分子の吸脱着により、それらを分離精製乃至捕集回収することができる分離材料である。
【0030】
さらに、本発明の液体クロマトグラフィーによる生体高分子の分離精製乃至捕集回収方法によれば、例えば、生理食塩水又はそれ以上の塩を含有する細胞培養上清を、pH調整等の簡便な前処理の後、そのまま本発明の充填剤に接触させることで、タンパク質等の生体高分子の吸脱着により、希薄で多量な細胞培養液から比較的不安定なタンパク質等の生体高分子を迅速に濃縮回収することができる
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の液体クロマトグラフィー用充填剤は、疎水性基とカルボキシル基とを有するリガンドが基材に固定化された液体クロマトグラフィー用充填剤であって、
(1)基材が、アルコール性水酸基を基材表面に有する親水性の基材であり、
(2)リガンドが、下記式(1)
【0032】
【化2】

(上記式中、Rは芳香族基又は炭素数5〜7個の非イオン性脂肪族基を表す。)
で示されるα−アミノ酸、及びアミノメチル安息香酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上のリガンドであり、
(3)上記リガンドが、上記α−アミノ酸又はアミノメチル安息香酸に含まれるアミノ基を介して、アミド結合又はウレタン結合で上記基材に固定化されており、かつ
(4)上記基材に固定化された上記リガンドの量が、上記液体クロマトグラフィー用充填剤1リットル(湿潤容量)当たり20ミリモル以上である、とをその特徴とする。
【0033】
本発明の液体クロマトグラフィー用充填剤に用いる基材は、アルコール性水酸基をその表面に有する親水性の基材であって、特に限定するものではないが、例えば、クロマトグラフィー用担体として一般に使用される、天然高分子系担体、合成高分子系担体、無機系担体等を挙げることができる。
【0034】
本発明において、天然高分子系担体としては、例えば、セルロース、アガロース、デキストラン等の多糖類が挙げられる。合成高分子系担体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体を、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等の架橋性単量体と混合し、重合開始剤の存在下に重合することにより調製したもの等が挙げられる。無機系担体としては、例えば、シリカ、ゼオライト等が挙げられる。
【0035】
また、本発明において、基材の形態としては、例えば、球状粒子、非球状粒子、膜、モノリス(連続体)等が挙げられるが、特に制限されない。
【0036】
本発明においては、これらのうち、水溶性高分子(例えば、タンパク質、ペプチド等)の分子サイズ排除クロマトグラフィー用充填剤として利用可能な液体クロマトグラフィー用担体であって、アルコール性水酸基がその表面にある担体が好適に使用できる。
【0037】
具体的には、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、(メタ)アクリルアミド系モノマーに代表されるモノマーを架橋性モノマーと共重合して粒子化したもの[例えば、(メタ)アクリル酸エステル系充填剤、(メタ)アクリルアミド系充填剤等]や、酢酸ビニルと各種架橋剤(2官能以上のモノマー)とを共重合して粒子化し、酢酸ビニルモノマー単位を加水分解したもの、アガロース、デキストラン、セルロース等に代表される多糖類を架橋したもの(多糖系充填剤)が好適に使用できる。
【0038】
さらに具体的には、(メタ)アクリル酸エステル系充填剤としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとエチレングリコールジ(メタ)アクリレートの共重合粒子、グリシジルメタアクリレートとエチレングリコールジ(メタ)アクリレートの共重合粒子を水又は多価アルコールでグリシジル基を開環付加した粒子等が例示される。
【0039】
また、(メタ)アクリルアミド系充填剤としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドとN,N’−メチレンジ(メタ)アクリルアミドの共重合粒子等が例示される。
【0040】
さらに、多糖系充填剤としては、アガロース、デキストラン、セルロース等の多糖類をエピハロヒドリン又は炭素数2〜8のポリメチレンジハロゲン等で多糖類の水酸基同士間を架橋した充填剤等が例示される。
【0041】
本発明において、充填剤として十分な吸着容量を確保するには、使用される基材は、多孔性粒子であって、その細孔径が対象とする水溶性高分子(例えば、タンパク質、ペプチド等)の分子サイズより大きいことが好ましく、その排除限界分子量がプルラン換算で1万以上が好ましい。更に多くの吸着容量を得るには十分な有効な表面積が大きいことが必要である。極度に大きな細孔又は非多孔性充填剤も機能は発現するが、有効な表面積は少なく、吸着容量の面では少なくなる。また試料溶液及び溶離液を実用的な流速で流す場合の通液性を考慮すると、充填剤の物理的な強度が要求される。多孔性充填剤の場合、純水での膨潤度は12.5ミリリットル/グラム以下が好ましい。
【0042】
本発明において、疎水性基とカルボキシル基とを有するリガンドは、上記式(1)で示される疎水性基を有するα−アミノ酸、又はアミノメチル安息香酸である。疎水性基を有するα−アミノ酸としては、芳香族基を有するα−アミノ酸や、炭素数5個〜7個の非イオン性脂肪族基を有するα−アミノ酸が、本発明の機能を発揮するリガンドとなる。芳香族基を有するα−アミノ酸としては、具体的には、フェニルアラニン、トリプトファン等が例示される。非イオン性脂肪族基を有するα−アミノ酸としては、具体的には、ロイシン、ノルロイシン、α−アミノオクタン酸等が例示される。これらのα−アミノ酸類には光学異性体があるが、L−体、D−体及びラセミ体に関係なく、本発明の機能を発揮する。
【0043】
本発明において、使用するリガンドの種類によっては、リガンド密度が高すぎる場合に疎水性が強くなりすぎ、対象とする水溶性高分子(例えば、タンパク質、ペプチド等)を吸着したときにそれを変性させてしまい、回収率が低下するおそれがある。このような場合には、疎水性のリガンドとしては機能しないが、疎水性の調節用に中性乃至酸性アミノ酸や、親水性アミンを、本発明のリガンドと共に導入することができる。
【0044】
中性乃至酸性アミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、β−アラニン、プロリン、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、チロシン等が挙げられる。
【0045】
また、親水性アミンとしては、例えば、エタノールアミン、2−アミノ−(2−ヒドロキシメチル),1,3−プロパンジオール等が挙げられる。
【0046】
本発明において、これらリガンドの基材への導入方法としては、疎水結合でタンパク質等を保持できるようにリガンド密度が十分に高くできること、及びアニオン交換基が実質的に共存しないことが必要条件となる。これは、得られる充填剤にアニオン交換基が共存すると、酸性pHでイオンに解離し、充填剤の親水性を高め、疎水結合を妨害することになるからである。本発明におけるリガンド導入方法は、これらの条件を満たすものであればよく、特に限定するものではないが、具体例として、以下に2つの方法を示す。
【0047】
第一の合成方法は、基材のアルコール性水酸基を有機溶媒中、1,1−カルボニルビス−1H−イミダゾール(以下、CDIと略す。)で活性化した後、有機溶媒又は含水有機溶媒中でリガンドのアミノ基と反応させ、ウレタン結合により上記リガンドを上記基材に導入する方法である。
【0048】
第二の合成方法は、基材にカルボキシル基を導入した後、カルボジイミド類を触媒として、それとリガンドのアミノ基とを反応させ、アミド結合により上記リガンドを上記基材に導入する方法である。
【0049】
第二の合成方法において、基材にカルボキシル基を導入する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、基材のアルコール性水酸基に対して、ハロゲン化カルボン酸類をアルカリ性条件で反応させる方法、ハロヒドリンをアルカリ性条件で付加し、エポキシ基を導入し、メルカプトカルボン酸(例えば、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸等)を中性又は弱アルカリ性条件で反応させる方法、アリルグリシジルエーテルを付加し、アリル基を導入し、メルカプトカルボン酸を酸性条件で反応させる方法等が挙げられる。
【0050】
また、第二の合成方法において、カルボジイミドとしては、有機溶媒系用には、例えば、ジイソプロピルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド等を使用することができ、水系又は水と有機溶媒混合系用には、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N−シクロヘキシル−N’−(2−モルフォリノエチル)カルボジイミド・メソ−p−トルエンスルホン酸塩等を使用することができる。なお、基材にカルボキシル基を導入した後、カルボジイミド類でカルボキシル基を活性化するときに、N−ヒドロキシコハク酸イミド(以下、NHSと略す場合がある。)や1−ヒドロキシベンゾトリアゾールを共存させ、アミノ基を有するリガンドと反応させることにより、副反応を抑制することができる。
【0051】
ところで、B.H.J.Hofsteeら,Biochemical and Biophysical research communications, 63(1975)p.618−624や、M.Kimら,Journal of Chromatography, 585(1991)p.45−51で報告されているように、上記以外の方法で、疎水性アミノ酸を基材に導入することは既に知られている。しかしながら、上記B.H.J.Hofsteeらの報告にもあるように、臭化シアン活性化法では十分な疎水性アミンを導入できず、溶離液に高濃度の塩溶液中でないとタンパク質を吸着することはできない。
【0052】
また基材にエポキシ基やホルミル基を導入した後、2級アミン結合によりアミノ酸を導入することはできる。しかしながら、この方法では、酸性条件ではアミノ基がイオン解離し、中性条件ではアミノ基とカルボキシル基が共に部分的にイオン解離し、塩基性条件ではカルボキシル基がイオン解離する。よって、上記M.Kimらの報告に記載されているように、低イオン強度の溶離液ではタンパク質を静電的相互作用により吸着保持できるが、疎水性相互作用は強く働かず、溶離液のイオン強度を増すことによりタンパク質は放出される。したがって、リガンドの固定化によってアニオン交換基が生ずる上記したリガンドの導入方法は、本発明においては採用されない。
【0053】
上記第一及び第二の合成方法によって得られた本発明の液体クロマトグラフィー用充填剤は、疎水性基とカルボキシル基とを有するリガンドが固定化された充填剤となる。
【0054】
本発明の液体クロマトグラフィー用充填剤を液体クロマトグラフィー用カラムに充填し、pHが5以下(好ましくは、pHが3〜5の範囲)の溶離液を流すと、カラム内のpHが下がり、カルボキシル基のイオン解離が減少し、上記した充填剤表面の疎水性が上がった状態になる。ここで、この充填剤と、疎水表面を持つ溶質(例えば、タンパク質、ペプチド等)が溶解した試料溶液とを接触させると、溶質は充填剤に吸着する。なお、本発明においては、試料溶液に酸又はアルカリを添加して、そのpHを5以下の酸性水溶液とすることが好ましい。
【0055】
次いで、非吸着成分を上記した溶離液と同一のpHの溶離液で洗浄後、溶離液のpHを徐々に上げていくと、充填剤中のカルボキシル基のイオン解離(イオン化比率)が増加し、逆に充填剤表面の疎水性が減少してくる。そして、中性乃至pH9以下の弱塩基性条件で、吸着していた溶質がその表面疎水性に応じて、充填剤から脱着し溶出してくる。
【0056】
このように、本発明においては、溶質と充填剤間の疎水的相互作用を弱めることにより、溶質の疎水性及びイオン性に基づき個々の溶質を分離精製して溶出回収することができる。また、ここで、急激に溶離液のpHを中性又は弱塩基性まで上げれば、吸着していた溶質を濃縮された溶液として溶出回収することもできる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例で用いる基材は、いずれもアルコール性水酸基をその表面に有する担体(親水化基材)である。当該基材の水系での多孔性に関する物性を排除限界分子量及び空孔率で評価した。それらの測定方法は以下のとおりである。
【0058】
排除限界分子量及び空孔率の測定:
親水化基材のゲルスラリー水溶液を用い、内径10.7mm、長さ150mmのステンレス製カラムに最密充填になるように当該基材を充填した。次に、RI−8020検出器(東ソー社製)を装備したHPLCシステム(東ソー社製)に当該充填カラムを装着した。
【0059】
引き続き、標準物質として分子量4000万のデキストラン、表1に記載した各分子量のプルラン及びポリエチレングリコールを用い、0.5ml/min.の流速で種々の分子量の標準物質を注入し、その溶出容量から排除限界分子量を求めた。また、デキストランとエチレングリコールの溶出容量及びカラム容積から空孔率を求めた。
【0060】
測定に使用した親水化基材は、メタクリル酸エステル系多孔性充填剤[トヨパール HW−65C、HW−60C、及びHW−50C(以上、東ソー社製)]、架橋アガロース系充填剤[セファローズ6・ファストフロー(GEヘルスケアー社製)]、並びに架橋デキストラン系充填剤[セファデックスG−25(GEヘルスケアー社製)]の5充填剤である。得られた結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

製造例1.
その表面にアルコール性水酸基を有するメタクリル酸エステル系多孔性充填剤[トヨパール HW−60C(東ソー社製)]を、グラスフィルター上で、ジオキサン溶媒で懸濁とろ過を繰返し、含有水分を除去し、当該充填剤スラリーの分散溶媒を吸引ろ過により除去して、サクションドライ・ゲルケーキを用意した。
【0062】
このゲルケーキ50グラムとジオキサン100ミリリットルを300ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、攪拌した。CDI 60ミリモルをジオキサン30グラムに溶解し、30℃一定でCDI溶液を上記セパラブルフラスコに滴下した。滴下後1時間攪拌を継続した。その後、スラリーをグラスフィルターでろ過し、ジオキサン溶媒でゲルを洗浄し、未反応CDIや副生成物を除去し、CDI活性化サクションドライ・ゲルケーキを合成した。
【0063】
得られたゲルケーキ全量を再び300ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、100ミリリットルのジメチルホルムアミド(以下、DMFと略す。)を加えて攪拌した。L−フェニルアラニン24ミリモルとグリシン6ミリモルを1モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液25ミリリットルに溶解し、50ミリリットルのDMFを加えて混合した。このアミノ酸溶液を一度に上記セパラブルフラスコに投入し、室温下16時間攪拌し、反応した。
【0064】
反応終了後、再びグラスフィルター上で、DMF、50%アセトン、0.1モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液、純水の順に得られたゲルを洗浄した。この反応で得られたゲルを充填剤1とする。
【0065】
イオン交換容量の測定:
洗浄済の充填剤1(サクションドライ・ゲルケーキ)10グラムを15ミリリットルの純水に懸濁し、グラスフィルター付内径20ミリメートルのガラスカラムに注ぎ、吸引ろ過で溶媒を除去した。形成したベット(カラムに堆積した充填剤部分)のうち、10ミリリットル以上の充填剤部分を除去し(すなわち、カラム内の充填剤を10ミリリットルとし)、0.5モル/リットル塩酸30ミリリットルで2回洗浄し、その後純水40ミリリットルでろ液のpHが5以上になるまで洗浄を繰り返した。洗浄済みの充填剤を取り出し、200ミリリットルのビーカーに移し、100ミリリットルの0.5モル/リットルの食塩水に懸濁し、自動滴定装置(COM−450、平沼産業(株)製)を用い、0.5モル/リットル水酸化ナトリウム水溶液で滴定した。終点はpH8.5であった。終点までの滴定液量から、そのイオン交換容量を算出すると、125ミリ当量/リットルであった。充填剤1のフェニルアラニンとグリシン合計のリガンド導入量は、充填剤1のイオン交換容量に対応し、125ミリモル/リットルである。
【0066】
製造例2.
製造例1と同様にして、CDI活性化サクションドライ・ゲルケーキを合成した。得られたゲルケーキ全量を再び300ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、100ミリリットルのDMFを加えて攪拌した。DL−フェニルアラニン24ミリモルとエタノールアミン6ミリモルを1モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液25ミリリットルに溶解し、50ミリリットルのDMFを加えて混合した。このアミノ酸溶液を一度にセパラブルフラスコに投入し、室温下16時間攪拌し、反応した。
【0067】
反応終了後、再びグラスフィルター上で、DMF、50%アセトン、0.1モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液、純水の順に得られたゲルを洗浄した。この反応で得られたゲルを充填剤2とする。製造例1と同様にして、そのイオン交換容量を測定すると80ミリ当量/リットルであった。充填剤2のフェニルアラニン・リガンドの導入量は、充填剤2のイオン交換容量に対応し、80ミリモル/リットルである。
【0068】
製造例3.
製造例1と同様にして、CDI活性化サクションドライ・ゲルケーキを合成した。得られたゲルケーキ全量を再び300ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、100ミリリットルのDMFを加えて攪拌した。4−アミノメチル安息香酸30ミリモルを1モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液25ミリリットルに溶解し、50ミリリットルのDMFを加えて混合した。このアミノ酸溶液を一度にセパラブルフラスコに投入し、室温下16時間攪拌し、反応した。
【0069】
反応終了後、再びグラスフィルター上で、DMF、50%アセトン、0.1モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液、純水の順に得られたゲルを洗浄した。この反応で得られたゲルを充填剤3とする。製造例1と同様にして、イオン交換容量を測定すると、105ミリ当量/リットルであった。充填剤3の4−アミノメチル安息香酸・リガンドの導入量は、充填剤3のイオン交換容量に対応し、105ミリモル/リットルである。
【0070】
製造例4.
製造例1と同様にして、CDI活性化サクションドライ・ゲルケーキを合成した。得られたゲルケーキ全量を再び300ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、100ミリリットルのDMFを加えて攪拌した。L−ロイシン30ミリモルを1モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液25ミリリットルに溶解し、50ミリリットルのDMFを加えて混合した。このアミノ酸溶液を一度にセパラブルフラスコに投入し、室温下16時間攪拌し、反応した。
【0071】
反応終了後、再びグラスフィルター上で、DMF、50%アセトン、0.1モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液、純水の順に得られたゲルを洗浄した。この反応で得られたゲルを充填剤4とする。製造例1と同様にして、そのイオン交換容量を測定すると、110ミリ当量/リットルであった。充填剤4のロイシン・リガンドの導入量は、充填剤4のイオン交換容量に対応し、110ミリモル/リットルである。
【0072】
製造例5.
架橋アガロース系充填剤[セファローズ6・ファストフロー(GEヘルスケアー社製)]をグラスフィルター上で、ジオキサン溶媒で懸濁とろ過を繰返し、含有水分を除去し、当該充填剤スラリーの分散溶媒を吸引ろ過により除去して、サクションドライ・ゲルケーキを用意した。
【0073】
このゲルケーキ50グラムを用いて、製造例1と同様に反応・処理して得られたゲルを充填剤5とする。製造例1と同様にして、そのイオン交換容量を測定すると、100ミリ当量/リットルであった。充填剤5のフェニルアラニンとグリシン合計のリガンド導入量は、充填剤5のイオン交換容量に対応し、100ミリモル/リットルである。
【0074】
製造例6.
その表面にアルコール性水酸基を有するメタクリル酸エステル系多孔性充填剤[トヨパール HW−65C(東ソー社製)]をグラスフィルター上で、ジオキサン溶媒で懸濁とろ過を繰返し、含有水分を除去し、当該充填剤スラリーの分散溶媒を吸引ろ過により除去して、サクションドライ・ゲルケーキを用意した。
【0075】
このゲルケーキ50グラムを用いて、製造例1と同様に反応・処理して得られたゲルを充填剤6とする。製造例1と同様にして、そのイオン交換容量を測定すると、80ミリ当量/リットルであった。充填剤6のフェニルアラニンとグリシン合計のリガンド導入量は、充填剤6のイオン交換容量に対応し、80ミリモル/リットルである。
【0076】
製造例7.
その表面にアルコール性水酸基を有するメタクリル酸エステル系多孔性充填剤[トヨパール HW−50C(東ソー社製)]をグラスフィルター上で、ジオキサン溶媒で懸濁とろ過を繰返し、含有水分を除去し、当該充填剤スラリーの分散溶媒を吸引ろ過により除去して、サクションドライ・ゲルケーキを用意した。
【0077】
このゲルケーキ50グラムを用いて、製造例1と同様に反応・処理して得られたゲルを充填剤7とする。製造例1と同様にして、そのイオン交換容量を測定すると、185ミリ当量/リットルであった。充填剤7のフェニルアラニンとグリシン合計のリガンド導入量は、充填剤7のイオン交換容量に対応し、185ミリモル/リットルである。
【0078】
製造例8.
架橋デキストラン系充填剤[セファデックスG−25(GEヘルスケアー社製)]をグラスフィルター上で、ジメチルスルホキサイド(以下、DMSOと略す。)溶媒で懸濁とろ過を繰返し、含有水分を除去し、当該充填剤スラリーの分散溶媒を吸引ろ過により除去して、サクションドライ・ゲルケーキを用意した。
【0079】
このゲルケーキ50グラムとDMSO100ミリリットルを300ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、攪拌した。CDI、60ミリモルをジオキサン30グラムに溶解し、30℃一定でCDI溶液を上記セパラブルフラスコに滴下し、滴下後1時間攪拌を継続した。その後、スラリーをグラスフィルターでろ過し、DMSO溶媒で得られたゲルを洗浄し、未反応CDIや副生成物を除去し、CDI活性化サクションドライ・ゲルケーキを合成した。
【0080】
得られたゲルケーキ全量を再び300ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、100ミリリットルのDMSOを加えて攪拌した。L−フェニルアラニン24ミリモルとグリシン6ミリモルを1モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液25ミリリットルに溶解し、50ミリリットルのDMSOを加えて混合した。このアミノ酸溶液を一度に上記セパラブルフラスコに投入し、室温下16時間攪拌し、反応した。
【0081】
反応終了後、再びグラスフィルター上で、DMSO、50%アセトン、0.1モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液、純水の順に得られたゲルを洗浄した。この反応で得られたゲルを充填剤8とする。製造例1と同様にして、そのイオン交換容量を測定すると、160ミリ当量/リットルであった。充填剤8のフェニルアラニンとグリシン合計のリガンド導入量は、充填剤8のイオン交換容量に対応し、160ミリモル/リットルである。
【0082】
製造例1〜製造例8で調製した各充填剤の基材、活性化剤、リガンド、イオン交換容量について、表2にあわせて示す。
【0083】
【表2】

製造例9.
製造例1でも用いたトヨパール HW−60C(東ソー社製)をグラスフィルター上で、純水で懸濁とろ過を繰返し、純水置換した後、当該充填剤スラリーの分散溶媒を吸引ろ過により除去して、サクションドライ・ゲルケーキを用意した。
【0084】
このゲルケーキ120グラムとクロロ酢酸ナトリウム0.8モル、純水140ミリリットルを500ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、攪拌しながら、反応温度50℃で48%水酸化ナトリウム水溶液を1.6モルの水酸化ナトリウム相当を1時間かけて上記セパラブルフラスコに滴下した。滴下終了後1時間反応を継続し、得られたゲルを純水で洗浄した。この反応で得られた、イオン交換基としてカルボキシメチル基を有するゲルをCMイオン交換充填剤1とする(CMはカルボキシメチルの略である。)。製造例1と同様にして、そのイオン交換容量を測定すると、155ミリ当量/リットルであった。
【0085】
膨潤度の測定:
CMイオン交換充填剤1を0.5モル/リットル水酸化ナトリウム30ミリリットルで2回洗浄し、その後純水40ミリリットルでろ液のpHが8.5以下になるまで洗浄を繰り返した。洗浄済の充填剤(サクションドライ・ゲルケーキ)10グラムを15ミリリットルの純水に懸濁し、グラスフィルター付内径20ミリメートルのガラスカラムに注ぎ、吸引ろ過して溶媒を除去した。形成したベットのうち、10ミリリットル以上の充填剤を除去し、残った10ミリリットルの充填剤をグラスフィルターに移し、0.5モル/リットル塩酸30ミリリットルで2回洗浄した。その後、純水40ミリリットルでろ液のpHが5以上になるまで充填剤の洗浄を繰り返した。40ミリリットルのアセトンで2回洗浄した後、洗浄済みの充填剤を取り出し、40℃で減圧乾燥して、充填剤10ミリリットルの重量を測定し、膨潤度を算出した[膨潤度(ml/g)=体積(ml)/重量(g)]。この充填剤の膨潤度は、5.2ミリリットル/グラムであった。
【0086】
また、この乾燥充填剤を元素分析の試料として、CHN全自動分析装置(パーキンエルマー社製、2400II型)を用い、窒素重量百分率を測定した。なお、製造例10以降も同様にして乾燥充填剤の元素分析を実施している。
【0087】
製造例10.
製造例9で合成したCMイオン交換充填剤1 60グラムをグラスフィルター上で、0.5モル/リットルの塩酸、次に純水でろ液が中性になるまで洗浄した。更にジオキサン溶媒で懸濁とろ過を繰返し、含有水分を除去し、当該充填剤スラリーの分散溶媒を吸引ろ過により除去して、サクションドライ・ゲルケーキを用意した。
【0088】
このゲルケーキ60グラムとジオキサン150ミリリットルを300ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、N−ヒドロキシコハク酸イミド(以下、NHSと略す。)30ミリモルとジイソプロピルカルボジイミド(以下、DICと略す。)30ミリモルを投入し攪拌した。30℃で4時間攪拌を継続して、スラリーをグラスフィルターでろ過し、ジオキサン溶媒でゲルを洗浄し、未反応物や副生成物を除去し、ジオキサン・サクションドライ・ゲルケーキ63.5グラムを得た。この反応で得られたゲルケーキをNHS活性化充填剤1とする。
【0089】
このNHS活性化充填剤1を20グラム取り、100ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、20ミリリットルのジオキサンと0.1モル/リットルのリン酸緩衝液(pH6.9)40ミリリットルとL−トリプトファン12ミリモルを加えて攪拌した。25℃で16時間反応後、反応液をろ過して除去し、50%アセトン、0.1モル/リットル塩酸、純水、0.1モル/リットル水酸化ナトリウムの順に、得られたゲルを洗浄して、未反応物や副生成物を除去した。この反応で得られた充填剤を充填剤9とする。製造例1と同様にして、充填剤9のイオン交換容量を測定すると、148ミリ当量/リットルであった。また、製造例9と同様にして、充填剤9の膨潤度を測定すると、4.8ミリリットル/グラムであった。
【0090】
製造例11.
製造例10で合成したNHS活性化充填剤1を20グラム取り、100ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、20ミリリットルのジオキサンと0.1モル/リットルのリン酸緩衝液(pH6.9)40ミリリットルとL−フェニルアラニン12ミリモルを加えて攪拌した。25℃16時間反応後、反応液をろ過して除去し、50%アセトン、0.1モル/リットル塩酸、純水、0.1モル/リットル水酸化ナトリウム、純水の順に、得られたゲルを洗浄して、未反応物や副生成物を除去した。この反応で得られたゲルを充填剤10とする。製造例1と同様にして、そのイオン交換容量を測定すると、148ミリ当量/リットルであった。また、製造例9と同様にして、その膨潤度を測定すると、4.8ミリリットル/グラムであった。
【0091】
製造例12.
製造例10で合成したNHS活性化充填剤1を20グラム取り、100ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、20ミリリットルのジオキサンと0.1モル/リットルリン酸緩衝液(pH6.9)40ミリリットルとα−アミノオクタン酸12ミリモルを加えて攪拌した。25℃16時間反応後、反応液をろ過して除去し、50%アセトン、0.1モル/リットル塩酸、純水、0.1モル/リットルの水酸化ナトリウムの順に、得られたゲルを洗浄して、未反応物や副生成物を除去した。この反応で得られたゲルを充填剤11とする。製造例1と同様にして、そのイオン交換容量を測定すると、148ミリ当量/リットルであった。また、製造例9と同様にして、その膨潤度を測定すると、4.8ミリリットル/グラムであった。
【0092】
製造例13.
製造例9で合成したCMイオン交換充填剤1を30グラム(35ミリリットルに相当)と35ミリリットルの純水を300ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、0.5モル/リットル塩酸を徐々に添加して、pHを4.8に調整した。次にジオキサン30ミリリットルとNHS10.9ミリモルを上記セパラブルフラスコに加えて攪拌混合し、NHSを溶解した。1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(以下、EDCと略す。)10.9ミリモルを3.5ミリリットルの純水に溶解し、上記セパラブルフラスコに25℃で添加し、2時間攪拌を継続して反応させた。反応液をろ過して除去し、純水、ジオキサンの順に、得られたゲルを洗浄して、未反応物や副生成物を除去し、吸引ろ過によりジオキサン・サクションドライ・ゲルケーキ31.5グラムを得た。得られたゲルケーキをNHS活性化充填剤2とする。
【0093】
NHS活性化充填剤2を20グラム取り、100ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、20ミリリットルのジオキサンと0.1モル/リットルリン酸緩衝液(pH6.9)40ミリリットルと4−アミノメチル安息香酸12ミリモルを加えて攪拌した。25℃で16時間反応後、反応液をろ過して除去し、50%アセトン、0.1モル/リットルの水酸化ナトリウム、純水の順に、得られたゲルを洗浄して、未反応物や副生成物を除去した。この反応で得られたゲルを充填剤12とする。製造例1と同様にして、充填剤12のイオン交換容量を測定すると、146ミリ当量/リットルであった。また、製造例9と同様にして、充填剤12の膨潤度を測定すると、4.8ミリリットル/グラムであった。
【0094】
製造例14.
製造例6でも使用したトヨパール HW−65C(東ソー社製)をグラスフィルター上で、純水で懸濁とろ過を繰返し、純水置換した後、吸引濾過して、サクションドライ・ゲルケーキを用意した。
【0095】
このゲルケーキ90グラムとクロロ酢酸ナトリウム0.6モル、純水140ミリリットルを300ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、攪拌しながら、反応温度50℃で48%水酸化ナトリウム水溶液をセパラブルフラスコに1時間かけて滴下した(1.2モルの水酸化ナトリウムに相当)。滴下終了後、1時間反応を継続し、得られたゲルを純水で洗浄した。この反応で得られたゲルをCMイオン交換充填剤2とする。製造例1と同様にして、そのイオン交換容量を測定すると、115ミリ当量/リットルであった。また、製造例9と同様にして、その膨潤度を測定すると、5.0ミリリットル/グラムであった。
【0096】
製造例15.
製造例14で合成したCMイオン交換充填剤2 20グラム(25ミリリットルに相当)と45ミリリットルの純水を100ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、0.5モル/リットル塩酸を徐々に添加して、pHを5.0に調整した。次にジオキサン25ミリリットルとNHS 5.7ミリモルとL−トリプトファン2.85ミリモルとを上記セパラブルフラスコに加えて攪拌混合し、溶解した。EDC 5.3ミリモルを2.5ミリリットルの純水に溶解し、上記セパラブルフラスコに40℃で添加し、6時間攪拌を継続して反応を行った。反応液をろ過して除去し、50%アセトン、0.1モル/リットルの水酸化ナトリウム、純水の順に、得られたゲルを洗浄して、未反応物や副生成物を除去した。この反応で得られたゲルを充填剤13とする。製造例1と同様にして、そのイオン交換容量を測定すると、108ミリ当量/リットルであった。また、製造例9と同様にして、その膨潤度を測定すると、4.8ミリリットル/グラムであった。
【0097】
製造例16.
製造例14で合成したCMイオン交換充填剤2 20グラム(25ミリリットルに相当)と45ミリリットルの純水を100ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、0.5モル/リットル塩酸を徐々に添加して、pHを5.0に調整した。次にジオキサン25ミリリットルとNHS 5.7ミリモルとL−トリプトファン2.85ミリモルとを上記セパラブルフラスコに加えて攪拌混合し、溶解した。EDC 3.8ミリモルを2.5ミリリットルの純水に溶解し、上記セパラブルフラスコに40℃で添加し、6時間攪拌を継続して反応を行った。反応液をろ過して除去し、50%アセトン、0.1モル/リットルの水酸化ナトリウム、純水の順に、得られたゲルを洗浄して、未反応物や副生成物を除去した。この反応で得られたゲルを充填剤14とする。製造例1と同様にして、そのイオン交換容量を測定すると、108ミリ当量/リットルであった。また、製造例9と同様にして、膨潤度を測定すると、4.8ミリリットル/グラムであった。
【0098】
製造例17.
製造例1と同様にして、架橋アガロース系弱カチオン交換ゲル[CM−セファローズ・ファストフロー(GEヘルスケアー社製)]のイオン交換容量を測定すると、105ミリ当量/リットルであった。
【0099】
この架橋アガロース系弱カチオン交換ゲルをグラスフィルター上で純水で懸濁とろ過を繰返し、純水置換した後、吸引ろ過して、サクションドライ・ゲルケーキを用意した。
【0100】
このゲルケーキを17グラム(20ミリリットルに相当)と36ミリリットルの純水を100ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、0.5モル/リットル塩酸を徐々に添加して、pHを5.0に調整した。次にジオキサン20ミリリットルとNHS 4.2ミリモルとDL−フェニルアラニン2.1ミリモルとを上記セパラブルフラスコに加えて攪拌混合し、溶解した。EDC 4.2ミリモルを2ミリリットルの純水に溶解し、上記セパラブルフラスコに25℃で添加し、16時間攪拌を継続して反応を行った。反応液をグラスフィルターでろ過して除去し、50%アセトン、0.1モル/リットルの水酸化ナトリウム、純水の順に、得られたゲルを洗浄して、未反応物や副生成物を除去した。この反応で得られたゲルを充填剤15とする。製造例1と同様にして、そのイオン交換容量を測定すると、98ミリ当量/リットルであった。また、製造例9と同様にして、その膨潤度を測定すると、10.6ミリリットル/グラムであった。
【0101】
製造例18.
製造例6でも用いたトヨパール HW−65C(東ソー社製)をグラスフィルター上で、純水で懸濁とろ過を繰返し、純水置換した後、吸引ろ過して、サクションドライ・ゲルケーキを用意した。
【0102】
このゲルケーキ60グラム、純水100グラム、及びエピクロロヒドリン0.4モルを300ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、攪拌混合して45℃にした。攪拌しながら、反応温度を45℃に保ちながら、48%水酸化ナトリウム0.38モルを2時間かけて上記セパラブルフラスコに滴下し、滴下終了後2時間攪拌を継続して反応を行った。反応混合物をグラスフィルターでろ過し、未反応物や副生成物を純水で洗浄除去して、エポキシ活性化充填剤のサクションドライ・ゲルケーキ31.2グラムを得た。
【0103】
このエポキシ活性化充填剤のサクションドライ・ゲルケーキ30グラムと、DL−フェニルアラニン25ミリモル、純水40ミリリットル、ジオキサン20ミリリットル、炭酸ナトリウム10ミリモルとを100ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、攪拌し反応温度を25℃に保ちながら、16時間反応を行った。反応混合物をグラスフィルターでろ過して、未反応物や副生成物を50%ジオキサン、0.1モル/リットルの塩酸、純水、0.1モル/リットルの水酸化ナトリウム、純水の順に洗浄除去して、DL−フェニルアラニンが2級アミノ結合で導入された充填剤を得た。この充填剤を充填剤16とする。また、製造例9と同様にして、その膨潤度を測定すると、4.7ミリリットル/グラムであった。
【0104】
製造例19.
製造例18で合成したエポキシ活性化充填剤のサクションドライ・ゲルケーキ30グラムと純水90ミリリットル、0.1モル/リットルの塩酸10ミリリットルを300ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、攪拌し反応温度を80℃に保ちながら、4時間反応して、エポキシ基を開環しジオール基にした。このジオール充填剤を純水で洗浄し、その全量と、純水50ミリリットル、過沃素酸ナトリウム13ミリモルとを100ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、攪拌し反応温度を40℃に保ちながら、1.5時間反応して、ジオール基をホルミル化し、純水で洗浄しホルミル化充填剤にした。このホルミル化充填剤全量とDL−フェニルアラニン30ミリモル、純水60ミリリットル、ジオキサン30ミリリットルとを300ミリリットルのセパラブルフラスコに入れ、攪拌し反応温度を25℃で溶解後、冷却し、5−10℃とした。水素化ホウ素ナトリウム40ミリモルを12ミリリットルの純水に溶解し、30分間で上記セパラブルフラスコに滴下添加した。1時間反応後、25℃に昇温し、さらに30分間反応を行った。反応混合物をグラスフィルターでろ過して、未反応物や副生成物を50%ジオキサン、0.1モル/リットルの塩酸、純水、0.1モル/リットルの水酸化ナトリウム、純水の順に洗浄除去して、DL−フェニルアラニンが2級アミノ結合で導入された充填剤を得た。この充填剤を充填剤17とする。また、製造例9と同様にして、その膨潤度を測定すると、4.8ミリリットル/グラムであった。
【0105】
製造例9〜製造例19で調製した各充填剤の基材、活性化剤、リガンド、イオン交換容量、元素分析結果について、表3にあわせて示す。
【0106】
【表3】

実施例1.
製造例1〜製造例4で得られた充填剤1〜充填剤4について、充填剤ごとに各タンパク質サンプルの主ピークの溶出時間及びBSA吸着量を測定した。それらの結果を表2にあわせて示す。
【0107】
なお、pHグラジェント溶出法によるタンパク質の吸着及び溶出、BSA吸着容量の測定及び回収率の測定は以下のとおり行った。
(1)pHグラジェント溶出法によるタンパク質の吸着及び溶出:
表2に示す充填剤を、内径7.5ミリメートル長さ75ミリメートルのステンレスカラムにそれぞれ充填した。送液ポンプ(CCPM−II)、オートサンプラー(AS−8020)、紫外・可視吸光度計(UV−8020)、及びシステムコントローラー(SC−8020)からなる液体クロマトグラフシステム(東ソー社製)にこれら充填カラムを装着した。以下のクロマトグラフィー条件で操作し、各サンプルの主ピークの溶出時間を測定した。
【0108】
クロマトグラフィー条件1:
溶離液1:50ミリモル/リットル酢酸緩衝液(0.15モル/リットル塩化ナトリウム含有、pH4.5),
溶離液2:50ミリモル/リットル燐酸緩衝液(0.15モル/リットル塩化ナトリウム含有、pH7.2),
溶出法:溶離液1:100%から溶離液2:100%への60分間リニアーグラジェント溶出、続いて溶離液2:100%で5分間溶出、最後に溶離液1:100%で15分間再生平衡化,
溶離液の流速:1.0ミリリットル/分,
サンプル:大豆トリプシンインヒビター(以下、STIと略す。)、ウシ血清アルブミン(以下、BSAと略す。)、ヒトγ−グロブリン(以下、IgGと略す。)、ウシα−キモトリプシノーゲンA(以下、CHYと略す。),
サンプル濃度:各2.0グラム/リットル(溶離液1に溶解),
サンプル注入量:0.2ミリリットル,
温度:25℃,
検出:紫外線吸収、波長:280ナノメートル。
(2)BSA吸着容量の測定及び回収率の測定:
200ミリリットルの三角フラスコに、30ミリリットルの吸着用緩衝液と、表1、表2に示す充填剤1.0ミリリットルを投入した。吸着用緩衝液にBSAを7.5グラム/リットルの濃度に溶解した溶液10ミリリットルを上記三角フラスコに添加し、温度25℃、3.0時間振盪し、BSAを吸着させた後、その上清を吸着用緩衝液で2倍に希釈して、吸光度を測定した。充填剤を入れないブランクも上記と同様に希釈し、吸光度測定した。両者の差より、BSA吸着量を求めた。
【0109】
吸光度の差:ΔI=Ib−W×Is
Ib:2倍希釈ブランクの吸光度、
Is:2倍希釈上清の吸光度、
W:充填剤持込水分の関する係数(全ての充填剤でW=1.015であった。)。
【0110】
BSA吸着量:A=80×F(ΔI)
F(ΔI):吸光度とBSA濃度関係の関数。
【0111】
なお、BSA吸着量を求めるに当たって、濃度が0.75/リットル及び1.5グラム/リットルのBSA溶液を調製し、予め波長280nmでそれらの吸光度を測定しておき、BSA濃度と紫外280ナノメートルでの吸光度の関係式を作成しておいた。
【0112】
次いで、BSAを吸着した充填剤を吸着用緩衝液30ミリリットルで洗い流し、フィルター付カラム(内径10ミリメートル)に移し、吸着してないBSAを更に吸着用緩衝液10ミリリットルで流し出した。次に溶出用緩衝液をカラムに流し、溶出液を50ミリリットルのメスフラスコに45ミリリットル以上採取回収し、溶出用緩衝液でメスアップし、吸光度を測定する。吸光度とBSA濃度関係の関数からBSA回収量を算出した。算出した吸着量と回収量より回収率を算出した。
【0113】
吸着用緩衝液:50ミリモル/リットル酢酸緩衝液(0.15モル/リットル塩化ナトリウム含有、pH4.0),
溶出用緩衝液:0.1モル/リットル トリス塩酸緩衝液(0.3モル/リットル塩化ナトリウム含有、pH8.5)。
【0114】
表2に示した充填剤は、プルランによる排除限界分子量80万、空孔率75%の基材(トヨパール HW−60C)を用いてCDI活性化後、各種リガンドを導入した充填剤であるが、各種タンパク質を弱酸性条件で吸着保持し、pH上昇により溶出してくることが確認された。
【0115】
例えば、各充填剤のpKaを測定すると、4−アミノメチル安息香酸を導入した充填剤3は、そのpKaが5.1付近であって、その他のリガンドを導入した3種の充填剤のpKaである4.2より高くなっている。よって、充填剤3は、溶出液のpHがより高いpHで充填剤が親水化され、タンパク質が溶出されるため、溶出時間が遅くなっている。
【0116】
一方、L−ロイシンをリガンドとする充填剤4は、疎水性が比較的弱いため、より少ないイオン解離で親水化され、タンパク質全般に溶出時間が早くなっている。ただし、BSAに対しては比較的強い相互作用が観察される。
【0117】
また、BSA吸着量は、これらいずれの充填剤でも、55〜60mg/mlの範囲であって、リガンドにより多少の相違はあるが、充填剤に用いた基材(トヨパール HW−60C)のBSAに対する有効表面積により大枠決定されている。また、回収率はいずれも94%以上で、高回収率であった。
【0118】
実施例2.
製造例10〜製造例12で得られた充填剤9〜充填剤11について、実施例1と同様にして、充填剤ごとに各タンパク質サンプルの主ピークの溶出時間及びBSA吸着量を測定した。それらの結果を表3にあわせて示す。
【0119】
充填剤9〜充填剤11は、充填剤1〜充填剤4と同様に、トヨパール HW−60Cを基材とし、カルボキシルメチル基を導入した充填剤を用いて、アミド結合で疎水性アミノ酸を導入した充填剤である。
【0120】
表3から明らかなとおり、これら各種リガンドをアミド結合で導入した充填剤のグループ(充填剤9〜充填剤11)も、各種タンパク質を弱酸性条件で吸着保持し、pH上昇により吸着されたタンパク質が溶出してくることが確認された。
【0121】
また、リガンドとしてα−アミノオクタン酸を導入した充填剤11は、疎水性が比較的弱いため、充填剤4と同様の理由で、その他のリガンドを導入した充填剤とは異なる選択性で溶出した。
【0122】
BSA吸着量については、いずれの充填剤でも56〜60mg/mlの範囲であって、リガンドにより多少の相違はあるが、充填剤に用いた基材(トヨパール HW−60C)のBSAに対する有効表面積により大枠決定されている。また回収率はいずれも93%以上で、高回収率であった。
【0123】
実施例3.
製造例5〜製造例8で得られた充填剤5〜充填剤8は、充填剤1とは細孔物性の異なる基材を用い、充填剤1と同様にCDI活性化後、L−フェニルアラニンとグリシンを導入した充填剤のグループである。これらについて、実施例1と同様にして、充填剤ごとに各タンパク質サンプルの主ピークの溶出時間及びBSA吸着量を測定した。それらの結果を表2にあわせて示す。
【0124】
表2から明らかなように、充填剤5は充填剤1に近似した排除限界分子量であるが、空孔率が大きい基材(セファローズ6・ファストフロー(GEヘルスケアー社製))から合成されている。各タンパク質の溶出挙動、BSA吸着量及び回収率も充填剤1と近似した結果であった。
【0125】
また、充填剤6は、空孔率が充填剤1に近似しているが、排除限界分子量が大きく、タンパク質に対する有効表面積が少ない基材(トヨパール HW−65C(東ソー社製))から合成されている。各タンパク質の溶出挙動は近似した結果であるが、BSA吸着量は充填剤1の57%であった。回収率は同じ結果であった。目的とする機能が確認された。
【0126】
また、充填剤7は、空孔率が充填剤1に近似しているが、排除限界分子量が小さめな基材(トヨパール HW−50C(東ソー社製))から合成されており、分子量数万以上のタンパク質が浸透できる細孔は限定的である。リガンド結合量は最も多いが、IgGのような高分子量タンパク質の保持時間はやや少なく、その他のタンパク質は充填剤1に近い値であった。
【0127】
BSA吸着量は充填剤1の40%であり、回収率は近似した結果であった。タンパク質の分子サイズにより吸着量が影響されるが、生理的食塩水程度の塩濃度中に溶解したタンパク質を弱酸性条件で吸着し、中性条件で溶出するという機能が確認された。
【0128】
さらに、充填剤8は、排除限界分子量が小さく、タンパク質が浸透できる細孔はほとんどない基材(セファデックスG−25(GEヘルスケアー社製))から合成されている。このため、リガンドは、細孔内部にも導入されているが、タンパク質と接触できるリガンドは、粒子の外部表面に導入した部分のみと推測される。したがって、タンパク質の回収率は同等であるが、吸着量は非常に少ない結果であった。
【0129】
この充填剤8は、生理的食塩水程度の塩濃度中に溶解したタンパク質を弱酸性条件で吸着し、中性条件で溶出するという機能が確認された。
【0130】
実施例4.
製造例13で得られた充填剤12について、実施例1と同様にして、各タンパク質サンプルの主ピークの溶出時間及びBSA吸着量を測定した。結果を表3にあわせて示す。
【0131】
充填剤12は、充填剤1〜充填剤4と同様に、トヨパール HW−60Cを基材としてカルボキシルメチル基を導入した充填剤を用い、アミド結合で4−アミノメチル安息香酸を導入した充填剤である。
【0132】
表3から明らかなとおり、アミド結合でこのリガンドを導入した充填剤12も、各種タンパク質を弱酸性条件で吸着保持し、pH上昇により溶出してくることが確認された。
【0133】
充填剤12は、そのpKaが5.0付近であり、充填剤3と同様の理由で、その他のリガンドを導入した充填剤と異なる選択性でタンパク質を溶出した。
【0134】
BSA吸着量についても、60mg/mlあり、トヨパール HW−60Cを基材とする他の充填剤の吸着量に近似している。また回収率は96%で、高回収率であった。したがってこの充填剤も目標とする機能が確認された。
【0135】
実施例5.
製造例15、実施例16で得られた充填剤13、充填剤14について、実施例1と同様にして充填剤ごとに各タンパク質サンプルの主ピークの溶出時間及びBSA吸着量を測定した。それらの結果を表3にあわせて示す。
【0136】
充填剤13と充填剤14は、細孔径の大きいトヨパール HW−65Cを基材とし、カルボキシ基を導入後、共にリガンドとしてトリプトファンをアミド結合で固定化した充填剤である。EDC使用量の増減で固定化量に差異が生じている。元素分析による窒素パーセントは充填剤13では0.8%、充填剤14では0.3%であった。これらのリガンド固定化量の差異がタンパク質の溶出容量の差として現れている。
【0137】
一方、BSA吸着量については、いずれの充填剤も32mg/mlと30mg/mlであって、リガンド固定化量の相違にもかかわらず、近似した結果であった。これは、充填剤に用いた基材のBSAに対する有効表面積により吸着量が大枠決定されているためと考えられる。また回収率は95%以上で、高回収率であった。
【0138】
実施例6.
充填剤15は、アガロース系充填剤[商品名:CM−セファローズ・ファストフロー]にカルボキシルメチル基を導入した充填剤を基材として用い、リガンドとしてDL−フェニルアラニンをアミド結合で導入した充填剤である。実施例1と同様にして、各タンパク質サンプルの主ピークの溶出時間及びBSA吸着量を測定した。その結果を表3にあわせて示す。
【0139】
表3から明らかなとおり、BSA吸着量は、60mg/mlであり、トヨパール HW−60Cを基材とする他の充填剤の吸着量に近似している。また回収率は95%で、高回収率であった。
【0140】
比較例1.
製造例9及び製造例14で合成したCMイオン交換充填剤1及びCMイオン交換充填剤2について、実施例1と同様にして、充填剤ごとに各タンパク質サンプルの主ピークの溶出時間及びBSA吸着量を測定した。それらの結果を表3にあわせて示す。
【0141】
表3から明らかなとおり、これらの充填剤は、塩濃度が低ければカチオン交換作用によりBSAが保持され吸着するが、吸着用緩衝液に0.15モル/リットルの塩化ナトリウム含有しているため、BSAは吸着せず、溶出してきた。したがって、親水性なCMイオン交換充填剤では、前処理として希釈乃至脱塩処理が必要となり、本発明の目的は達成できないことがわかった。
【0142】
比較例2.
製造例18で合成した充填剤16について、実施例1と同様にして、各タンパク質サンプルの主ピークの溶出時間及びBSA吸着量を測定した。その結果を表3にあわせて示す。
【0143】
表3から明らかなとおり、疎水性に基づくタンパク質の吸着は起こらず、試したタンパク質はどれも素通りして溶出してきた。
【0144】
充填剤16には、リガンドのフェニルアラニンに帰属するカルボキシル基とエポキシ基と結合したアミノ基が共存する。したがって酸性条件ではアミノ基がイオン化し、塩基性条件ではカルボキシル基がイオン化して、中間領域では両官能基が部分的にイオン化した状態になる。すなわち、充填剤16には十分な疎水性が発生することがないため、溶離液のpH変化でタンパク質を吸脱着する目的には機能しなかった。
【0145】
比較例3.
製造例19で合成した充填剤17について、実施例1と同様にして、各タンパク質サンプルの主ピークの溶出時間及びBSA吸着量を測定した。その結果を表3に示す。
【0146】
表3から明らかなとおり、疎水性に基づくタンパク質の吸着は起こらず、試したタンパク質はどれも素通りして溶出してきた。
【0147】
充填剤17は充填剤16と同様にリガンドのフェニルアラニンに帰属するカルボキシル基と、ホルミル基と結合した後、還元処理して得られた2級アミノ基とが共存する。したがって充填剤16と同様な理由で、充填剤17には十分な疎水性が発生することがなく、溶離液のpH変化でタンパク質を吸脱着する目的には機能しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性基とカルボキシル基とを有するリガンドが基材に固定化された液体クロマトグラフィー用充填剤であって、
(1)基材が、アルコール性水酸基を基材表面に有する親水性の基材であり、
(2)リガンドが、下記式(1)
【化1】

(上記式中、Rは芳香族基又は炭素数5〜7個の非イオン性脂肪族基を表す。)
で示されるα−アミノ酸、及びアミノメチル安息香酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上のリガンドであり、
(3)上記リガンドが、上記α−アミノ酸又はアミノメチル安息香酸に含まれるアミノ基を介して、アミド結合又はウレタン結合で上記基材に固定化されており、かつ
(4)上記基材に固定化された上記リガンドの量が、上記液体クロマトグラフィー用充填剤1リットル(湿潤容量)当たり20ミリモル以上である、液体クロマトグラフィー用充填剤。
【請求項2】
α−アミノ酸が、フェニルアラニン、トリプトファン、ロイシン、ノルロイシン及びα−アミノオクタン酸からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の液体クロマトグラフィー用充填剤。
【請求項3】
基材が、天然高分子系担体、合成高分子系担体、及び無機系担体からなる群より選択されるクロマトグラフィー用担体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体クロマトグラフィー用充填剤
【請求項4】
基材が多孔性粒子であって、その排除限界分子量がプルラン換算で1万以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の液体クロマトグラフィー用充填剤。
【請求項5】
基材のアルコール性水酸基を有機溶媒中、1,1−カルボニルビス−1H−イミダゾールで活性化した後、有機溶媒又は含水有機溶媒中でリガンドのアミノ基と反応させ、ウレタン結合によりリガンドを基材に導入することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の液体クロマトグラフィー用充填剤の製造方法。
【請求項6】
基材にカルボキシル基を導入後、カルボジイミド類を触媒として、それとリガンドのアミノ基とを反応させ、アミド結合により前記リガンドを前記基材に導入することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の液体クロマトグラフィー用充填剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の液体クロマトグラフィー用充填剤を用い、pH5以下の酸性水溶液条件で生体高分子を吸着し、その後、中性乃至pH9以下の弱塩基性条件で吸着した生体高分子を脱着することを特徴とする、液体クロマトグラフィーによる生体高分子の分離精製乃至捕集回収方法。

【公開番号】特開2010−145240(P2010−145240A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322642(P2008−322642)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)