説明

疎水性多孔質材料およびその製造方法

【課題】 摩擦材などの構造部材用フィラー等として有用な、水蒸気吸着量や吸湿・吸水量の減少を図ることのできる、層間にチタニア粒子が挿入された層状粘土鉱物からなる疎水性多孔質材料、およびこのものを簡単な操作で効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】 層間にチタニア粒子が挿入された層状粘土鉱物であって、その表面が、疎水化剤により疎水化処理されてなる疎水性多孔質材料、および(a)水性媒体中において、層状粘土鉱物の層間に、ゾルゲル法により形成されたチタニア前駆体をインターカレートする工程、(b)上記(a)工程後、固液分離して得られた固形物を水洗処理する工程、および(c)水洗処理された固形物を乾燥、焼成する工程を含み、かつ前記(b)工程において、水洗液に疎水化剤を添加し、水洗処理と同時に疎水化処理する、前記疎水性多孔質材料の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性多孔質材料およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、摩擦材などの構造部材用フィラー等として有用な、表面が疎水性を有し、水蒸気吸着量や吸湿・吸水量の減少を図ることのできる、層間にチタニア粒子が挿入された層状粘土鉱物からなる疎水性多孔質材料、およびこのものを簡単な操作で効率よく製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキやドラムブレーキなどのブレーキ、あるいはクラッチなどに使用される摩擦材は、一般にバインダー樹脂、繊維状補強材、潤滑材、摩擦調整材およびその他充填材などから構成されている。前記バインダー樹脂としては、通常フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられ、繊維状補強材としては、金属繊維、無機繊維、有機繊維などが用いられる。
【0003】
また、潤滑材としては、黒鉛や二硫化モリブデンなどの固体潤滑材が用いられ、摩擦調整材としては、例えばアルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニアなどの無機摩擦調整材、合成ゴムダストやカシューダストなどの有機摩擦調整材が用いられる。さらに、その他充填材として、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、金属粉、バーミキュライト、マイカなどが用いられている。
【0004】
一方、制動時に発生するノイズを防止する目的で、摩擦材の成形材料に配合する摩擦・摩耗調整成分として、層状物質やゼオライトなどを利用する技術が種々開発されている。例えば、特許文献1には、制動力の低下を極力防止しながら、制動時の鳴きを有効に防止することのできる摩擦材として、繊維質と、マイカ、タルクなどの平面状結晶構造を有する無機物の粉粒体を含む熱硬化性樹脂からなる摩擦材が開示されている。
【0005】
しかしながら、層状物質は一般的に層間への吸水性が高いため、ブレーキ摩擦材などのフィラーとして使用すると、吸湿や吸水による錆が発生したり、摩擦力の変動が生じたりする。
【0006】
また、層状の粘土鉱物の層間にインターカレートしたチタニアなどの金属酸化物の製造方法(例えば、特許文献2参照)が開示されている。
【特許文献1】特許第2867661号公報
【特許文献2】特開平10−338516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
層間にチタニア粒子を挿入した層状粘土鉱物からなる多孔質材料は、摩擦材用の摩擦調整材として、耐高温摩耗性や摩擦係数向上などの観点から有用である。しかしながら、表面積が大きく、かつ表面が親水性であることから、吸湿性や吸水性が高いために、ブレーキ摩擦材などの構造部材に配合した場合に、吸湿や吸水によって、錆が発生しやすい上、摩擦材においては摩擦力が変動することがある。上記錆の発生を防止する手段として、例えばアルカリ処理を行ったり、鉄よりもイオン化傾向の大きな亜鉛末を添加することなどが行われており、生産効率の面で、その改良が望まれていた。
【0008】
本発明は、このような状況下になされたもので、摩擦材などの構造部材用フィラー等として有用な、水蒸気吸着量や吸湿・吸水量の減少を図ることのできる、層間にチタニア粒子が挿入された層状粘土鉱物からなる疎水性多孔質材料、およびこのものを簡単な操作で効率よく製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、層間にチタニア粒子が挿入された層状粘土鉱物の表面が、疎水化剤、好ましくはシランカップリング剤により疎水化処理されたものが、疎水性多孔質材料としてその目的に適合し得ることを見出した。
【0010】
また、この疎水性多孔質材料は、層状粘土鉱物の層間に、ゾルゲル法により形成されたチタニア前駆体をインターカレートしたのち、固液分離して得られた固形物を水洗処理する際に、水洗液中に疎水化剤を添加して、水洗処理と同時に疎水化処理することにより、簡便にかつ効率よく得られることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1) 層間にチタニア粒子が挿入された層状粘土鉱物であって、その表面が、疎水化剤により疎水化処理されてなることを特徴とする疎水性多孔質材料、
(2) 疎水化剤がシランカップリング剤である上記(1)項に記載の疎水性多孔質材料、
(3) 層間にチタニア粒子が挿入された層状粘土鉱物が、該チタニア粒子を10〜70質量%の割合で含む上記(1)または(2)項に記載の疎水性多孔質材料、
(4) 層間にチタニア粒子が挿入された層状粘土鉱物における疎水化処理前と疎水化処理後の比表面積が、実質上同じである上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の疎水性多孔質材料、
(5) 比表面積が20〜500m/gである上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の疎水性多孔質材料、
(6) (a)水性媒体中において、層状粘土鉱物の層間に、ゾルゲル法により形成されたチタニア前駆体をインターカレートする工程、(b)上記(a)工程後、固液分離して得られた固形物を水洗処理する工程、および(c)水洗処理された固形物を乾燥、焼成する工程を含み、かつ前記(b)工程において、水洗液に疎水化剤を添加し、水洗処理と同時に疎水化処理することを特徴とする、上記(1)項に記載の疎水性多孔質材料の製造方法、および
(7) (b)工程において、水洗液に添加する疎水化剤がシランカップリング剤であって、その添加量が、(a)工程において用いた層状粘土鉱物の量と形成されたチタニア前駆体のTiO換算量との合計質量に対して、1〜70質量%である上記(6)項に記載の方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、摩擦材などの構造部材用フィラー等として有用な、表面が疎水性を有し、水蒸気吸着量や吸湿・吸水量の減少を図ることのできる、層間にチタニア粒子が挿入された層状粘土鉱物からなる疎水性多孔質材料、およびこのものを簡単な操作で効率よく製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず、本発明の疎水性多孔質材料について説明する。
[疎水性多孔質材料]
本発明の疎水性多孔質材料は、層間にチタニア粒子が挿入された層状粘土鉱物(以下、チタニア粒子挿入粘土鉱物と略称することがある。)であって、その表面が、疎水化剤により疎水化処理されてなることを特徴とする。
(層状粘土鉱物)
本発明の疎水性多孔質材料の原材料の一つとして用いられる層状粘土鉱物としては、層状構造を有するフィロケイ酸塩であり、陽イオン交換能を有する天然・粘土鉱物および合成粘土鉱物を挙げることができる。具体的にはカオリナイト、スメクタイト、バーミキュライト、雲母、脆雲母、緑泥石などである。上記スメクタイトとしては、モンモリロナイト、サポナイト、パイデライト、ノントロナイトなどが挙げられる。また、雲母をフッ素処理した合成フッ素雲母などを用いることもできる。この合成フッ素雲母は、品質のバラツキが小さいことから層状粘土鉱物として好適であり、合成フッ素雲母としては、ナトリウム四ケイ酸フッ素雲母(NaMg2.5Si10)を例示することができる。
【0014】
本発明においては、これらの層状粘土鉱物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(疎水化剤)
本発明の疎水性多孔質材料は、前述の層状粘土鉱物の層間にチタニア粒子が挿入された材料の表面が、疎水化剤により疎水化処理されたものであり、この疎水化剤としては、一分子中に、3価以上の金属原子に結合した疎水性基と加水分解性基を共に有する化合物であればよく、特に制限されず、様々な化合物を用いることができるが、これらの中で、特にシランカップリング剤が好適である。
【0015】
このシランカップリング剤としては、例えば一般式(1)
Si(OR4−m …(1)
で表される化合物を用いることができる。
【0016】
上記一般式(1)において、Rは疎水性基を示し、耐熱性の観点から、メチル基、エチル基、ビニル基、フェニル基などを挙げることができる。Rは、炭素水1〜5の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を示し、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などを挙げることができる。mは1または2を示し、Rが複数ある場合、複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよく、ORが複数ある場合、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよい。
【0017】
前記一般式(1)で表されるシランカップリング剤の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリ−n−プロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ−n−プロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリ−n−プロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ−n−プロポキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジ−n−プロポキシシラン、ジエチルジイソプロポキシシラン、ジエチルジブトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジ−n−プロポキシシラン、ジフェニルジイソプロポキシシラン、ジフェニルジブトキシシラン、エチルメチルジメトキシシラン、エチルメチルジエトキシシラン、エチルメチルジ−n−プロポキシシラン、エチルメチルジイソプロポキシシラン、エチルメチルジブトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジ−n−プロポキシシラン、メチルフェニルジイソプロポキシシラン、メチルフェニルジブトキシシランなどを挙げることができる。これらのシランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
なお、層間にチタニア粒子が挿入された層状粘土鉱物を得る方法、およびその表面を、前記疎水化剤により疎水化処理する方法については、後述の疎水性多孔質材料の製造方法において説明する。
(疎水性多孔質材料の性状)
本発明の疎水性多孔質材料においては、層間にチタニア粒子が挿入された層状粘土鉱物中のチタニア粒子の含有量は、その平均粒径によって好ましい範囲が左右されるが、耐高温摩耗性や摩擦係数向上の観点から、チタニア粒子の平均粒径が3〜20nmの場合は、10〜50質量%が好ましく、20〜40質量%がより好ましい。チタニア粒子の平均粒径が20nmを超え200nm以下の場合は、30〜70質量%が好ましく、40〜70質量%がより好ましい。
【0019】
また、層間にチタニア粒子が挿入された層状粘土鉱物における疎水化処理前と疎水化処理後の比表面積は、実質上同じである。なお、ここで実質上同じであるとは、疎水化処理後の比表面積の疎水化処理前の比表面積に対する変化率が、±5%程度以内であることを指す。すなわち、疎水化処理しても、その比表面積は、疎水化処理前の比表面積とほとんど変らないことを意味する。
【0020】
本発明の疎水性多孔質材料の比表面積は、通常20〜500m/g程度、好ましくは50〜300m/gである。
なお、前記比表面積は、BET法による窒素吸着法によって測定された値である。
【0021】
次に、本発明の疎水性多孔質材料の製造方法について説明する。
[疎水性多孔質材料の製造方法]
本発明の疎水性多孔質材料の製造方法(以下、単に製造方法または方法と略称することがある。)は、(a)水性媒体中において、層状粘土鉱物の層間にゾルゲル法により形成されたチタニア前駆体をインターカレートする工程、(b)上記(a)工程後、固液分離して得られた固形物を水洗処理する工程、および(c)水洗処理された固形物を乾燥、焼成する工程を含み、かつ前記(b)工程において、水洗液に疎水化剤を添加し、水洗処理と同時に疎水化処理することを特徴とする。
((a)工程)
本発明の製造方法において、(a)工程は、水性媒体中において、前述した層状粘土鉱物の層間にゾルゲル法により形成されたチタニア前駆体をインターカレートする工程である。
【0022】
当該(a)工程において、ゾルゲル法により形成されたチタニア前駆体を層状粘土鉱物の層間にインターカレートする方法としては、例えば下記の方法を採用することができる。
【0023】
まず、水性媒体と層状粘土鉱物とを混合して、該粘土鉱物に十分な層間水を取り込ませ、層間隙が最大限広がったゾルを形成させる。
【0024】
一方、適当な濃度の有機酸水溶液中に加水分解性チタン化合物を加え、20〜70℃程度の温度にて5〜240分間程度、該チタン化合物を加水分解・縮合反応させ、チタニア前駆体ゾルを形成させる。この際、用いられる有機酸は、チタニア前駆体ゾルを安定化させるためのもので、例えば酢酸、シュウ酸、ギ酸などのカルボン酸が挙げられる。
【0025】
次いで、前記の層状粘土鉱物のゾルと、チタニア前駆体のゾルとを混合し、通常室温〜100℃程度の温度で10〜300分間程度保持することにより、粘土鉱物に取り込ませた層間水とチタニア前駆体ゾルが置換され、粘土鉱物の層間にチタニア前駆体が挟み込まれてインターカレートされる。
<加水分解性チタン化合物>
チタニア前駆体ゾルの形成に用いられる加水分解性チタン化合物としては、例えば一般式(2)
TiX4−n …(2)
(式中、Rは非加水分解性基、Xは加水分解性基または水酸基を示し、nは0〜3の整数である。Rが複数ある場合、複数のRは、たがいに同一でも異なっていてもよく、Xが複数ある場合、複数のXは、たがいに同一でも異なっていてもよい。)
で表される化合物を用いることができる。
【0026】
前記一般式(2)において、Rで表される非加水分解性基としては、官能基を有していてもよい炭化水素基を挙げることができる。上記炭化水素基としては、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基もしくはアルケニル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を挙げることができる。
【0027】
前記アルキル基およびアルケニル基は、炭素数1〜25、特に1〜3のものが好ましく、シクロアルキル基は炭素数3〜25、特に3〜6のものが好ましい。アリール基は、炭素数6〜25、特に6〜10のものが好ましく、アラルキル基は炭素数7〜25、特に7〜10のものが好ましい。
【0028】
前記炭化水素基に導入されていてもよい官能基としては、例えばエステル結合、エーテル結合、エポキシ基、アミノ基、カルボキシ基、カルボニル基、アミド基、メルカプト基、スルホニル基、スルフェニル基、シアノ基、水酸基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0029】
前記一般式(2)において、Xのうちの加水分解性基としては、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、ケトオキシム基、アシルオキシ基、ハロゲン原子などを挙げることができる。nは0〜3の整数であり、0〜2の整数であることが好ましく、0または1であることがより好ましい。
【0030】
前記一般式(2)で表される加水分解性チタン化合物の好ましいものとしては、例えばテトラエトキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラ−sec−ブトキシチタン、テトラ−tert−ブトキシチタン、テトラアセトキシチタン、メチルトリエトキシチタン、ビニルトリエトキシチタン、フェニルトリエトキシチタン、メチルトリ−n−プロポキシチタン、ビニルトリ−n−プロポキシチタン、メチルトリイソプロポキシチタン、ビニルトリイソプロポキシチタン、フェニルトリイソプロポキシチタンなどを挙げることができる。これらの加水分解性チタン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
((b)工程)
この(b)工程は、前記(a)工程を施したのち、遠心分離やろ過などの従来公知の手段によって固液分離し、得られた固形物を水洗処理する工程である。
【0031】
本発明の方法においては、当該(b)工程において、水洗液に前述した疎水化剤、好ましくはシランカップリング剤を添加し、水洗処理と同時に疎水化処理を行う。なおこの水洗処理は、通常常温で行われる。
【0032】
この際、疎水化剤としてシランカップリング剤を用いる場合、その添加量は疎水化効果と経済性のバランスの観点から、(a)工程において用いた層状粘土鉱物の量と形成されたチタニア前駆体のTiO換算量との合計質量に対して、好ましくは1〜70質量%、より好ましくは10〜40質量%である。
【0033】
なお、本発明においては、上記形成されたチタニア前駆体のTiO換算量は、使用した加水分解性チタン化合物のTiO換算量を算出して得られた値とする。
【0034】
本発明の方法においては、このように水洗液に疎水化剤を添加し、水洗処理と同時に疎水化処理を行うので、疎水化処理工程を別途設ける必要がなく、簡便に、かつ効率よく疎水化処理を行うことができる。
((c)工程)
この(c)工程は、前記(b)工程で水洗処理および疎水化処理された固形物を乾燥、焼成する工程である。
【0035】
当該(c)工程における焼成温度は、加水分解性チタン化合物の疎水基などの耐熱性を考慮して、通常250〜500℃程度である。このように焼成処理することにより、チタニア粒子挿入粘土鉱物が得られる。このチタニア粒子挿入粘土鉱物を粉砕、分級処理することにより、所望の粒径を有する本発明の疎水性多孔質材料を得ることができる。
【0036】
このようにして得られた本発明の疎水性多孔質材料は、各種構造部材用の補強性や耐熱性付与フィラーなどとして有用であり、特に摩擦材用として好適で、耐高温摩耗性や摩擦係数の向上などを付与することができる。
【0037】
また、当該疎水性多孔質材料は、表面が疎水性であることから、吸湿・吸水量や水蒸気吸着量が少なく、摩擦材のフィラーとして用いた場合、疎水化処理をせず、表面が親水性のチタニア粒子挿入粘土鉱物のように、特別の錆発生防止手段を施さなくても、錆の発生が防止される上、摩擦力の変動が抑制される。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0039】
なお、各例における諸特性は、以下に示す方法に従って求めた。
(1)チタニア粒子含有率
チタニア粒子挿入合成フッ素雲母中のチタニア粒子含有率(質量%)を指し、下記の計算式
チタニア粒子含有率(質量%)=[使用アルコキシチタンのTiO換算質量/(使用合成フッ素雲母質量+使用アルコキシチタンのTiO換算質量)]×100
に従って算出する。
(2)比表面積
チタニア粒子挿入合成フッ素雲母(疎水化、未疎水化)の比表面積を、BET法による窒素吸着法によって測定する。
(3)親水−疎水評価
内容積100mLのビーカーに収容された25℃の蒸留水50gの液面に、粉末試料(150メッシュ篩を通過し、400メッシュ篩上に残ったもの)1gを静かに載せ、試料の80%以上が1時間以上液面上に浮遊しているものを○(疎水性)とし、試料の80%以上が1時間未満で沈降したものを×(親水性)とした。
【0040】

実施例1
蒸留水に、1質量%濃度になるように合成フッ素雲母(コープケミカル社製、商品名「ME−100」)を投入し、室温にて24時間攪拌混合して、合成フッ素雲母ゾルを調製した。
【0041】
一方、酢酸80質量%水溶液に、アルコキシチタンとしてテトラブトキシチタンを0.5モル/L濃度になるように投入し、60℃で1時間攪拌混合して、チタニア前駆体ゾルを調製した。
【0042】
上記チタニア前駆体ゾルを室温まで冷却したのち、これに、チタニア粒子含有率が65質量%になるように、上記合成フッ素雲母ゾルを投入し、室温にて3時間攪拌混合した。次いで、この混合液を遠心分離により固液分離したのち、分離した液体と同量の蒸留水中に分離した固形物を加え、さらにシランカップリング剤として、メチルトリエトキシシランを、使用した合成フッ素雲母量と使用したテトラブトキシチタンのTiO換算量との合計質量に対して、20質量%になるように加えて、室温にて3時間攪拌混合し、水洗処理と同時に、疎水化処理を行った。
【0043】
次に、この混合液を遠心分離により、固液分離し、得られた固形物を1kPaの圧力下で約40℃で乾燥処理したのち、450℃で72時間焼成処理することにより、疎水性のチタニア粒子挿入合成フッ素雲母を得た。
【0044】
この試料の比表面積を求めると共に、親水−疎水評価を行った。結果を表1に示す。
実施例2〜5
実施例1と同様にして、合成フッ素雲母ゾルを調製すると共に、アルコキシチタンとして表1に示す化合物を用い、チタニア前駆体ゾルを調製した。
【0045】
次いで、上記チタニア前駆体ゾルに、チタニア粒子含有率が表1に示す値になるように、上記合成フッ素雲母ゾルを投入した以外は、実施例1と同様にして固液分離した。
【0046】
次に、シランカップリング剤として表1に示す化合物を表1に示す量で用い、実施例1と同様にして、水洗処理と同時に、疎水化処理を行い、さらに固液分離したのち、得られた固形物を乾燥処理後、表1に示す温度で焼成処理することにより、各種疎水性のチタニア粒子挿入合成フッ素雲母を得た。
【0047】
各試料の比表面積を求めると共に、親水−疎水評価を行った。結果を表1に示す。
比較例1
実施例1において、シランカップリング剤を用いずに水洗処理のみを行い、疎水化処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様な操作を行い、親水性のチタニア粒子挿入合成フッ素雲母を得た。
【0048】
試料の比表面積を求めると共に、親水−疎水評価を行った。結果を表1に示す。
比較例2
実施例2において、シランカップリング剤を用いずに水洗処理のみを行い、疎水化処理を行わなかったこと以外は、実施例2と同様な操作を行い、親水性のチタニア粒子挿入合成フッ素雲母を得た。
試料の比表面積を求めると共に、親水−疎水評価を行った。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

[注]
1)シランカップリング剤の添加量:使用した合成フッ素雲母量と使用したアルコキシチタンのTiO換算量との合計質量に対するシランカップリング剤の添加割合(質量%)を示す。
【0050】
表1から明らかなように、実施例1〜5のものは、水洗処理時に、水洗液にシランカップリング剤を添加し、水洗処理と同時に疎水化処理を行なうことにより、親水−疎水評価で疎水性を示すが、比較例1および2のものは、水洗処理時に疎水化処理を行っていないため、親水−疎水評価で親水性を示す。
【0051】
また、実施例1と比較例1、および実施例2と比較例2を比較すると、疎水化処理前後の比表面積は、変化率が5%未満で、実質上同じである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の疎水性多孔質材料は、表面が疎水性を有する、層間にチタニア粒子が挿入された層状粘土鉱物からなる材料であって、各種構造部材に補強性や耐熱性を付与し得るフィラーとして有用であり、特に摩擦材に対して耐高温摩耗性や摩擦係数の向上などを付与する摩擦材用フィラーとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層間にチタニア粒子が挿入された層状粘土鉱物であって、その表面が、疎水化剤により疎水化処理されてなることを特徴とする疎水性多孔質材料。
【請求項2】
疎水化剤がシランカップリング剤である請求項1に記載の疎水性多孔質材料。
【請求項3】
層間にチタニア粒子が挿入された層状粘土鉱物が、該チタニア粒子を10〜70質量%の割合で含む請求項1または2に記載の疎水性多孔質材料。
【請求項4】
層間にチタニア粒子が挿入された層状粘土鉱物における疎水化処理前と疎水化処理後の比表面積が、実質上同じである請求項1〜3のいずれか1項に記載の疎水性多孔質材料。
【請求項5】
比表面積が20〜500m/gである請求項1〜4のいずれか1項に記載の疎水性多孔質材料。
【請求項6】
(a)水性媒体中において、層状粘土鉱物の層間に、ゾルゲル法により形成されたチタニア前駆体をインターカレートする工程、(b)上記(a)工程後、固液分離して得られた固形物を水洗処理する工程、および(c)水洗処理された固形物を乾燥、焼成する工程を含み、かつ前記(b)工程において、水洗液に疎水化剤を添加し、水洗処理と同時に疎水化処理することを特徴とする、請求項1に記載の疎水性多孔質材料の製造方法。
【請求項7】
(b)工程において、水洗液に添加する疎水化剤がシランカップリング剤であって、その添加量が、(a)工程において用いた層状粘土鉱物の量と形成されたチタニア前駆体のTiO換算量との合計質量に対して、1〜70質量%である請求項6に記載の方法。

【公開番号】特開2009−126732(P2009−126732A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301178(P2007−301178)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】