説明

疾患リスクの提示方法およびそのプログラム

【課題】個人の疾患リスクを提示する方法及びプログラムを提供すること。
【解決手段】疾患リスクを提示する方法は、対象者の検査項目の検査値、対象者が有する遺伝子多型セットの遺伝子情報、並びに、検査項目及び遺伝子多型セットを変数とし、検査項目と少なくとも遺伝子多型セットを含む多項式との積を含む判定式を、記録部から読み出す第1ステップ(S2、S4)と、読み出された遺伝子情報を用いて多項式の値を計算する第2ステップ(S6)と、読み出された検査値及び遺伝子情報を用いて、検査項目を含む全ての項の値を計算する第3ステップ(S7)と、第2及び第3ステップで計算された値の各々に対応する第1及び第2図形を提示するステップ(S9)とを含み、判定式が重回帰分析または多重ロジスティック回帰分析によって得られた式である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個人の遺伝子情報およびその他の生体検査結果に応じて、その個人が疾患に罹患するリスクを判定して分かり易く提示する方法およびそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
人の遺伝子に関する解析が進み、個人の有する遺伝子と疾患との関連性の解析が精力的に行なわれている。例えば、動脈硬化の発症や進展には生活習慣の違いと遺伝因子の個人差が関連することが知られている。従って、個人の遺伝子検査の結果や生活習慣の情報を利用して、各個人の身体状態の維持・管理(健康増進や罹患の防止、罹患者に関してはその進展の管理など)に役立つ情報を提供することが要望されている。これは、動脈硬化に限らず、心筋梗塞、脳梗塞などの、生活習慣の違いによって発症する可能性や発症後の進展の程度が異なる疾患に関しても同様に要望されている。なお、生活習慣の情報は、血液検査などの検査結果(検査値)や、問診による喫煙や飲酒に関する情報によって得られる情報を意味する。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、糖尿病に起因する動脈硬化、心筋梗塞、腎症及び網膜症について、疾患危険度(疾患の発症しやすさ、進行しやすさを表す指標)を視覚的に分かり易く提示する方法が開示されている。具体的には、被験者の遺伝子情報と環境因子との交互作用を含む疾患危険度の判定式を用いて、レーダーチャート、発症予測グラフ、及びバブルチャートで提示する方法が開示されている。また、特許文献1には、環境因子が変化した場合に疾患危険度の判定式の変化の程度を予測し、その予測値を基準値と比較して、疾患への対処の必要性を判定する方法が開示されている。
【特許文献1】国際公開WO2006/126618
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に開示された視覚的な提示方法では、疾患毎の危険度の判定式を用いて求めた現在(評価時)の危険度を提示することしかできていなかった。また、疾患への対処の必要性の判定方法では、1つの判定式の変化のみで判断しているので、各環境因子の変化による影響の程度、特に管理可能な環境因子の変化による影響の程度を、分かり易く提示することができなかった。即ち、生活習慣の変化などによって検査値(血圧、総コレステロールなど)が変化した場合の危険度を予測するのに役立ち得る情報を分かり易く提示することはできなかった。
【0005】
本発明は、上記した問題を解決するためのものであって、その目的は、個人の将来の疾患リスクをわかり易く提示することができる方法およびそのプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段は以下のとおりである。なお、ここでは後述する実施の形態に関する図面、符号を引用しているが、これは本発明の理解を容易にするためであり、本発明の限定を意図するものではない。
【0007】
(1)記録部、演算部および出力部を備えた装置を用いて対象者の疾患リスクを求めて提示する方法であって、
前記演算部が、
前記対象者の検査項目(SBP、Tchなど)の値である検査値、
前記対象者が有する遺伝子多型セット(CSNPi)を表す遺伝子情報、並びに、
前記検査項目および前記遺伝子多型セットを変数とし、前記検査項目(SBPなど)と少なくとも前記遺伝子多型セットを含む多項式(Σ(ai×CSNPi)など)との積(SBP×[a0+Σ(ai×CSNPi)]など)を含む判定式(例えば式1で表されるy)
を、前記記録部から読み出す第1ステップと、
前記演算部が、読み出された前記遺伝子情報を用いて前記多項式の値を計算する第2ステップと、
前記演算部が、前記第2ステップで計算された値に対応する第1図形データ(例えば図3の遺伝子リスクの欄に示された図形データ)を決定する第3ステップと、
前記演算部が、前記検査項目に対応させて、前記検査値および前記第1図形データを、前記出力部から出力する第4ステップとを含み、
前記判定式が、前記検査項目および前記遺伝子多型セットを説明変数として、重回帰分析または多重ロジスティック回帰分析によって得られた式である疾患リスクの提示方法。
【0008】
(2)前記第4ステップの前に、前記演算部が、読み出された前記検査値および前記遺伝子情報を用いて、前記検査項目(SBPなど)を含む全ての項(SBP×[a0+Σ(ai×CSNPi)]など)の値を計算する第5ステップと、
前記演算部が、前記第5ステップで計算された値に対応する第2図形データ(顔マーク)を決定する第6ステップとをさらに含み、
前記第4ステップにおいて、前記演算部が、前記検査項目に対応させて前記第2図形データを前記出力部から出力することを特長とする疾患リスクの提示方法。
【0009】
(3)前記第4ステップの前に、前記演算部が、複数の前記検査値のうち所定範囲を超えている検査値を決定し、決定された該検査値を、前記判定式(y)の値が低下する方向に所定値だけ変化させて目標検査値を求め、該目標検査値を用いて前記判定式から改善度(Δy)を求める第7ステップをさらに含み、
前記第4ステップにおいて、前記演算部が、決定された前記検査値に該当する検査項目に対応させて、前記改善度を前記出力部から出力する疾患リスクの提示方法。
【0010】
(4)前記判定式が、複数の被験者の検査値および遺伝子情報の集合を用いて多重ロジスティック回帰分析によって得られた式であり、
年代毎に分類された前記被験者に関する検査値の平均値(tav)が、前記記録部に記録されており、
前記演算部が、前記対象者に関して、前記判定式中の所定の検査項目を含む項の係数値(α)を計算し、該係数値(α)を指数として自然対数の底のべき乗値(eα)を計算して前記所定の検査項目に関するオッズ比を求め、前記対象者の年齢が該当する年代に対応する前記平均値を前記記録部から読み出し、該平均値を前記対象者の前記検査値(t)から減算した値(t−tav)を指数として、前記オッズ比のべき乗値(β=(eα(t−tav))を計算する第8ステップと、
前記演算部が、前記検査項目毎の前記べき乗値(β)を、全て乗算して評価値を計算する第9ステップと、
前記演算部が、前記評価値を前記出力部から出力する第10ステップと
をさらに含む疾患リスクの提示方法。
【0011】
(5)前記判定式が、複数の被験者の検査値および遺伝子情報の集合を用いて重回帰分析によって得られた式であり、
年代毎に分類された前記被験者に関する前記判定式の値の平均値が、前記記録部に記録されており、
前記演算部が、読み出された前記検査値および前記遺伝子情報を用いて前記判定式の値を計算して評価値とする第11ステップと、
前記演算部が、前記対象者の年齢が該当する年代に対応する前記平均値を、前記記録部から読み出す第12ステップと、
前記演算部が、前記評価値および前記平均値を前記出力部から出力する第13ステップと
をさらに含む疾患リスクの提示方法。
【0012】
(6)前記疾患が心筋梗塞であり、
前記判定式に含まれる各々の各遺伝子多型セットが、図7に記載された遺伝子多型セットの1つである疾患リスクの提示方法。
【0013】
(7)前記疾患が脳梗塞であり、
前記判定式に含まれる各々の遺伝子多型セットが、図8に記載された遺伝子多型セットの1つである疾患リスクの提示方法。
【0014】
(8)前記疾患が動脈硬化であり、
前記判定式に含まれる各々の遺伝子多型セットが、図6に記載された遺伝子多型セットの1つである疾患リスクの提示方法。
【0015】
(9)記録部および出力部を備えたコンピュータに、対象者の疾患リスクを求めて提示させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記対象者の検査項目の値である検査値、
前記対象者が有する遺伝子多型セットを表す遺伝子情報、並びに、
前記検査項目および前記遺伝子多型セットを変数とし、前記検査項目と少なくとも前記遺伝子多型セットを含む多項式との積を含む判定式を、前記記録部から読み出す第1機能と、
読み出された前記遺伝子情報を用いて前記多項式の値を計算する第2機能と、
前記第2ステップで計算された値に対応する第1図形データを決定する第3機能と、
前記検査項目に対応させて、前記検査値および前記第1図形データを、前記出力部から出力する第4機能とを実現させ、
前記判定式が、前記検査項目および前記遺伝子多型セットを説明変数として、重回帰分析または多重ロジスティック回帰分析によって得られた式である疾患リスクの提示プログラム。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特定の個人について、遺伝因子および環境因子を総合的に考慮した疾患リスクを、同世代の平均値とともにグラフィカルに提示することができる。
【0017】
また、特定の疾患について、関連する複数の検査項目の各々に対応させて、遺伝因子を考慮した遺伝因子リスクと、遺伝因子および環境因子を考慮した総合リスクとを提示することができる。
【0018】
また、遺伝因子リスク、総合リスクの数値が該当するランクをマークで分かり易く提示することができる。
【0019】
従って、これらの提示に基づいて医師などが、その個人(評価対象者)が将来どのように身体を管理すべきか(生活習慣の改善など)を、わかり易く且つ適切に指導することが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、まず用語について説明した後、図面を参照して本発明についてより詳細に説明する。
【0021】
「遺伝子多型」とは、同一集団内において、一つの遺伝子座に2種類以上の対立遺伝子(アレル)が存在する遺伝子の多様性を意味する。具体的には、ある集団において一定の頻度以上で存在する遺伝子の変異を示す。ここでいう遺伝子の変異は、RNAとして転写される領域に限定されるものではなく、プロモーター、エンハンサー等の制御領域などを含むヒトゲノム上で特定しうるすべてのDNAにおける変異を含むものである。ヒトゲノムDNAの99.9%は各個人間で共通しており、残る0.1%がこのような多様性の原因となり、特定の疾患に対する感受性、薬物や環境因子に対する反応性の個人差として関与し得る。遺伝子多型があっても表現型に差が出るとは限らない。なお、SNP(一塩基多型)も遺伝子多型の一種であるが、本発明が対象とする遺伝子多型はこれに限定されない。
【0022】
このように、「遺伝子多型」は、遺伝子型(genotype)を考慮したものであって、それを含むものであり、本明細書において「遺伝子多型」とは特定の遺伝子型(genotype)を有する遺伝子多型を意味する。
【0023】
本明細書で示す遺伝子型(genotype)は、「1」は置換塩基のうち塩基のアルファベット順(A、C、G、T)で前にくる塩基を有する多型のホモを、「2」はヘテロを、「3」は、置換塩基のうち塩基のアルファベット順で後にくる塩基を有する多型のホモを表す。例えば、対象とする遺伝子(遺伝子多型)がXXXX(C3413G)(この表記は、遺伝子XXXXが、その塩基配列の3413番目の塩基がCまたはGである遺伝子多型を有することを意味する。)であるとすると、その遺伝子型(genotype)がCCのホモである場合を遺伝子型1、CGまたはGCのヘテロである場合を遺伝子型2、GGのホモである場合を遺伝子型3という。なお、「12」は前記1と2の遺伝子型(genotype)の両方の遺伝子型、「23」は前記2と3の遺伝子型(genotype)の両方の遺伝子型を表す。
【0024】
なお、Aldose redactase遺伝子多型(Aldose redactase(AC)nで表され、nはACの繰り返し回数を表し、n=13〜30である)に関しては、上記の規則と異なり、次の規則で遺伝子型を付与している。すなわち、遺伝子の塩基配列中の「AC」の繰り返し回数がn回のホモである場合を遺伝子型「1」、「AC」の繰り返し回数がn回とn回以外とのヘテロである場合を遺伝子型「2」、これら以外の場合、即ち「AC」の繰り返し回数がn回以外のホモまたはヘテロである場合を遺伝子型「3」とする。
【0025】
「遺伝子多型セット」とは、複数の遺伝子多型の組合せをいう。ここで複数の遺伝子多型とは、異なる遺伝子座を有する2種以上の遺伝子多型を意味する。
【0026】
本明細書における塩基配列(ヌクレオチド配列)、核酸などの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAc-IUB communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138; 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作製のためのガイドライン」(特許庁編)及び当該分野における慣用記号に従うものとする。
【0027】
本明細書中において「遺伝子」は、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNA、及び1本鎖DNA(センス鎖)、並びに当該センス鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(アンチセンス鎖)、及びそれらの断片のいずれもが含まれる、また、本明細書で「遺伝子」とは、特に言及しない限り、調節領域、コード領域、エクソン、及びイントロンを区別することなく示すものとする。
【0028】
また、「動脈硬化」とは「頚動脈肥厚」を意味する。
【0029】
図1は、本発明の実施の形態に係る疾患リスクの提示方法を実施するための装置(以下、提示装置と記す)を示すブロック図である。本提示装置1は、演算部(以下、CPUと記す)2と、メモリ3と、コンピュータ用ハードディスクなどの記録部4と、コンピュータ用キーボードやマウスなどの操作部5と、液晶ディスプレイなどの表示部6と、プリンタなどの印刷部7と、入出力のインタフェースである入出部8と、各部間でデータ(制御データを含む)を交換するための内部バス9とを備えている。
【0030】
記録部4には、疾患リスクの計算に使用する遺伝子多型セット(図6〜8参照)の情報が参照テーブルとして記録されている。ここで、図6〜8には、動脈硬化、心筋梗塞および脳梗塞のそれぞれについて、図9A〜9Cに示した133個の遺伝子多型の中から、上記特許文献1に開示された方法と同様の方法で決定された遺伝子多型セットを示している。なお、上記特許文献1では、有効な遺伝子多型セットの決定に正および負のt値を用いているが、図6〜8に示した遺伝子多型セットは、正のt値のみを用いて決定されたものである。
【0031】
図9A〜9Cにおいて、SNP-No.、GENETIC POLYMORPHISM、GENE、SITEはそれぞれ、各遺伝子多型に付した連続番号、遺伝子多型、遺伝子多型の略称、塩基配列上のアレルの位置を表す。図6〜8において、SSNP、Gtype、t-valueはそれぞれ、1つのセットを構成する遺伝子多型の数、遺伝子型、t値を表す。SNP-No.は図9A〜9Cに示した番号であり、GENEは図9A〜9Cに示したGENE(略称)とSITEとを組み合わせた表記である。
【0032】
なお、図9Cに示したSNP-No.が124の遺伝子は、Aldose redactase遺伝子であり、その遺伝子型は上記したように「AC」の繰り返し回数に応じて付与されている。さらに、図6〜8において、Aldose redactase遺伝子をALR_Z_4、ALR_Z_2、ALR_Z、ALR_Z2、ALR_Z4と表記しており、これらの遺伝子型(Gtype)は、図10に示した規則で表記されている。例えば、ALR_Z_4に関しては、「AC」の繰り返し回数が22回のホモである場合に遺伝子型を「1」とし、「AC」の繰り返し回数が22回と22回以外(即ち、13〜21回及び23〜30回の何れか)とのヘテロである場合に遺伝子型を「2」とし、「AC」の繰り返し回数が22回以外のホモまたはヘテロである場合に遺伝子型を「3」とする。また、例えば、ALR_Z_2に関しては、「AC」の繰り返し回数が23回のホモである場合に遺伝子型を「1」とし、「AC」の繰り返し回数が23回以外(即ち、13〜22回及び24〜30回の何れか)のホモである場合に遺伝子型を「3」とし、「AC」の繰り返し回数が23回と23回以外とのヘテロである場合に遺伝子型を「2」とする。ALR_Z、ALR_Z2、ALR_Z4に関しても、繰り返し回数が異なるが同様である。
【0033】
また、図9Bに示したSNP-No.が71のResistin VNTR 遺伝子多型(Resistin(ATG)n repeat)で表わされ、nはATGの繰り返し回数を表し、n=6〜8である)に関しては、一塩基多型と異なり、Aldose redatase(AC)nと同じく、即ち、遺伝子の塩基配列の「ATG」の繰り返し回数がn回のホモである場合を遺伝子型「1」、「ATG」の繰り返し回数がn回とn回以外とのヘテロである場合を遺伝子型「2」、これら以外の場合、即ち「ATG」の繰り返し回数がn回以外のホモまたはヘテロである場合を遺伝子型「3」とする。図7では、n=6のResistin遺伝子多型をresistin_6と表している。
【0034】
記録部4にはさらに、判定対象者の検査値(血液検査結果および問診結果の情報)及び遺伝子情報が、対象者毎に付した情報(対象者ID)と対応させて記録されている。また、記録部4には、疾患危険度の判定式yが記録されている。判定式yは、後述するように検査項目および遺伝子多型セットを変数とする多項式であり、使用するコンピュータプログラム言語に応じた形式で記録されている。
【0035】
以下、図2に示したフローチャートを用いて提示装置1を用いた、疾患リスクの提示方法について説明する。ここでは、特に断らない限り、CPU2が行なう処理として記載する。CPU2は、操作部5を介して指示やデータ入力を受け、処理対象データを記録部4からメモリ3に読み出し、メモリ3をワーク領域として使用して各処理を実行し、処理の途中結果や最終結果を、必要に応じて記録部4の所定領域に記録する。CPU2は、処理結果を記録部4から読み出して、表示部6の入力信号形式に応じた所定形式のデータ(アナログ又はディジタル)に変換し、入出力部8を介して表示部6に伝送し、表示させる。また、CPU2は、処理結果を記録部4から読み出して、印刷部7の入力信号形式に応じた所定形式のデータに変換し、印刷部7に伝送し、例えば紙に印刷させる。
【0036】
ステップS1において、疾患リスクを判定して提示する対象者を指定するために操作部5が操作されて入力される対象者IDを、入出力部8を介してメモリ3に一時記憶する。
【0037】
ステップS2において、ステップS1でメモリ3に一時記憶された対象者IDに対応するデータを記録部4からメモリ3に読み出す。このとき読み出されるデータは、対象者の遺伝子情報(遺伝子多型の有無を表す情報)および検査値である。検査値は、例えば、血液検査の結果である血圧(mmHg)、血中総コレステロール値(mg/dl)、血中中性脂肪値(mg/dl)、血糖コントロール(空腹時血糖値(mg/dl)、及びヘモグロビンA1c値(HbA1c)(%))、身体検査によって得られるBMI(Body-mass-index)(=体重(kg)/(身長(m))2)、問診によって得られる喫煙歴である。ここで、血圧には収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)が含まれる。また、喫煙歴はこの判定時の喫煙習慣を表す情報であり、判定時に喫煙習慣を有してれば1、有していなければ0が設定される。なお、判定時に喫煙習慣を有していないとしても、過去に喫煙習慣を有していたことがあれば、喫煙歴には1が設定される。
【0038】
ステップS3において、予め指定された複数の疾患のうち、処理対象とする最初の疾患を指定する。ここでは、動脈硬化が指定されたとする。また、その他に心筋梗塞および脳梗塞を対象とし、疾患リスクが判定されるとする。
【0039】
ステップS4において、ステップS3で指定された疾患、すなわち動脈硬化に対応する危険度の判定式(回帰式)yを記録部4からメモリ3に読み出す。判定式yは予め決定されており、上記特許文献1に開示されているように、y=Σaii+Σbjj+Σdmnmn+c で表される。各係数ai、bj、dmn、cは、所定の母集団を用いて重回帰分析によって疾患毎に決定された値である。例えば、動脈硬化の場合、IMT(Intima Media Thickness)を目的変数とする。
【0040】
上記した検査項目などの環境因子を説明変数として、判定式yを書き直せば、次式のように記述することができる。
y=SBP×[a0+Σ(ai×CSNPi)]+Tch×[b0+Σ(bi×CSNPi)]
+TG×[c0+Σ(ci×CSNPi)]+HbA1c×[d0+Σ(di×CSNPi)]
+BMI×[e0+Σ(ei×CSNPi)]+SM×[f0+Σ(fi×CSNPi)]
−HDL×[g0+Σ(gi×CSNPi)]+const ・・・・・・・・・(式1)
ここで、SBP、Tch、TG、HbA1c、BMI、SMおよびHDLはそれぞれ、収縮期血圧(mmHg)、血中総コレステロール値(mg/dl)、中性脂肪(mg/dl)、HbA1c値(%)、BMI(kg/m2)、喫煙歴(1又は0)およびHDLコレステロール値(mg/dl)である。CSNPiは、i番目の遺伝子多型セットCSNPの有無に応じて1又は0を取る変数である。ai、bi、ci、di、ei、fi、gi(iは0以上の整数)は回帰係数であり、constは定数である。また、Σはiに関する和を求める演算子である。HDLを含む項の符号がマイナスになっているのは、HDLの疾患リスクへの影響が他の検査値とは逆であること、即ちHDLが大きくなると疾患リスクが低減することを明示的に示すためである。なお、各項の係数は、疾患および判定式yを求めるときに使用した被験者の集合に応じて異なる。また、疾患によっては、判定式yに一部の項が含まれていない場合もある。
【0041】
上記の記述では、本発明の疾患リスクの判定に用いる7種類の環境因子(SBP、Tch、TG、HbA1c、BMI、SMおよびHDL)を含む項を明示的に記述しているが、判定式yには、上記の7種類以外の環境因子(例えば、性別(SEX)、年齢(AGE)、罹病期間など)を含む項や、環境因子を含まない遺伝子多型セットのみの項が含まれていてもよい。その場合、上記の7種類以外の環境因子を含む項(遺伝因子を含まない環境因子のみの項、及び、環境因子と遺伝因子との積である交互作用項を含む)はconstに含める。上記では、constは定数であるとしたが、「定数」とはこのような意味である。本発明では、個人が管理可能な情報を提示することを目的としているので、性別、年齢などの管理不可能な環境因子を含む項は、本発明の処理対象とはしない。
【0042】
ステップS5において、ステップS2で読み出された対象者のデータとステップS4で読み出された判定式yとを用いて、ステップS1で指定された疾患に関する評価値を計算し、対象者IDと対応させて記録部4に記録する。即ち、対象者の遺伝子多型セットのデータ(CSNPi)と検査値(SBP、Tch、TG、HbA1c、BMI、SM、HDL)とを判定式yに代入し、評価値を計算する。
【0043】
ステップS6において、ステップS2で読み出された対象者のデータとステップS4で読み出された判定式yとを用いて、遺伝因子リスクを計算し、検査項目を特定する情報(検査項目ID)及び対象者IDと対応させて記録部4に記録する。即ち、検査項目(BP、Tch、TG、HbA1c、BMI、SM)毎に、検査項目を含む項のうち検査項目を除いた部分の値を計算する。従って、この遺伝因子リスクは、対象者が持っている遺伝子に応じて決定される検査項目毎のリスクといえる。
【0044】
例えば、収縮期血圧に関しては、SBPを含む項であるSBP×[a0+Σ(ai×CSNPi)]のうち、a0+Σ(ai×CSNPi)の値を計算し、血中総コレステロール値に関しては、Tchを含む項であるTch×[b0+Σ(bi×CSNPi)]のうち、b0+Σ(bi×CSNPi)を計算する。中性脂肪、HbA1c値、BMIおよび喫煙歴に関しても、同様に検査項目を除いた部分の値を計算する。
【0045】
ステップS7において、ステップS2で読み出された対象者のデータとステップS4で読み出された判定式yとを用いて、総合リスクを計算し、検査項目ID及び対象者IDと対応させて記録部4に記録する。即ち、検査項目(BP、Tch、TG、HbA1c、BMI、SM)毎に、特定の検査項目を含む全ての項、即ち、特定の検査項目と遺伝子多型セットの多項式(この多項式は特定の検査項目にとって係数に相当する。)との積を計算する。この総合リスクは、対象者が持っている遺伝子および検査値の両方を考慮して決定される検査項目毎のリスクといえる。
【0046】
例えば、収縮期血圧に関しては、SBPを含む全ての項であるSBP×[a0+Σ(ai×CSNPi)]の値を計算し、血中総コレステロール値に関しては、Tchを含む全ての項であるTch×[b0+Σ(bi×CSNPi)]を計算する。中性脂肪、HbA1c値、BMIおよび喫煙歴に関しても、同様に計算する。
【0047】
以上、ステップS5〜S7での処理によって、ステップS1で指定された対象者について、動脈硬化に関する評価値、遺伝因子リスクおよび総合リスクが求められる。次に、これらの値を提示する方法を説明する。動脈硬化に関する提示方法の一例を図3に示す。以下、図3を参照して具体的に説明する。
【0048】
ステップS8において、対象者IDに対応する評価値を記録部4から読み出し、表示部6の画面に、例えば図3の上段(左端に「評価」と表示された枠内)に示されているように提示する。具体的には、横長の細い長方形(以下、スケールと記す)を、例えばグラデーションを付して描画する。スケールは、基準尺度とするために、所定範囲のIMT値を表示したものである。スケールの左端に数値0を表示し、右側に向かって順に数値0.8、1.1、1.4、2.8を表示する。そして、対象者と同世代の人のIMTの平均値に対応するスケール上の位置に矢印を表示する。さらに、評価値に対応するスケール上の位置に、人型の図形を表示し、その下に評価値、例えば1.2を表示する。
【0049】
ここで、スケールに付す数値は、動脈硬化の程度を表す基準値であるIMTの値であり、これらの値は予め設定されて、記録部4に記録されている。なお、図3に示した値(0.8、1.1、1.4、2.8)は、動脈硬化の程度を表す基準値(IMT値)として一般に使用されている値である。
【0050】
また、図3の例では、評価値と平均値とを比較して、評価を文章で自動的に表示している。図3の上段に表示された文章の下線部は条件によって変化する部分であり、それ以外の部分は固定である。即ち、左側の下線部分には疾患名称を表示し、右側の下線部分には、評価値と平均値との大小関係に応じた表示をする。例えば、評価値が平均値よりも大きい場合、「すすんでいる」と表示する。
【0051】
ステップS9において、対象者IDに対応する検査値、遺伝因子リスク及び総合リスクを記録部4から読み出し、表示部6の画面に、例えば図3の下段(左端に「分析表」と表示された枠内)に示したように提示する。即ち、テーブル形式で表示し、最上段に検査項目を、2段目に検査値を、3段目に遺伝因子リスクを、最下段に総合リスクをそれぞれ表示する。
【0052】
図3のテーブルの2段目には、記録部4から読み出された検査値を検査項目毎に提示している。このとき、検査値が、検査項目毎に予め設定された所定範囲内にあるか否かの情報を併せて提示する。図3では、所定範囲から外れている検査値を白抜き文字で表示しているが、別の方法として、異なる色で表示してもよい。なお、血圧に関しては収縮期血圧(SBP)値および拡張期血圧(DBP)値を、血糖コントロールに関しては空腹時血糖値およびHbA1c値を表示し、喫煙歴に関しては、読み出された値が0であれば「無」、1であれば「有」を表示する。
【0053】
図3のテーブルの3段目には、遺伝因子リスクの数値を直接表示せずに、リスクの程度をランク付けして表示するために、数値に応じたマーク(図形)を表示する。即ち、ステップS6で検査項目(i)毎に求められた遺伝因子リスクBiと、予め検査項目(i)毎に決定された各ランク(j)に対応する基準値(Rij)とを比較して、Ri,j≦Bi<Ri,j+1である場合、ランク(j)に対応するマークを記録部4から読み出して表示する。具体的には、判定式yを重回帰分析によって求めるときに使用した被験者の集合に関して、各被験者の検査項目毎の遺伝因子リスクを計算し(ステップS6参照)、その度数分布において、例えば25、50、75パーセンタイルに該当する遺伝因子リスクの値を、検査項目毎の基準値(Rij)とする。例えば、血圧に関しては、判定式y中の収縮期血圧SBPを含む項であるSBP×[a0+Σ(ai×CSNPi)]のうち、a0+Σ(ai×CSNPi)の値を、集合の各被験者について計算する。これによって、対象者の検査項目毎の遺伝因子リスクをマークで表示することができる。なお、図3では、一部の欄(中性脂肪、BMIに対応する欄)が空白になっているが、これは、使用した判定式y中に該当する項が存在しないこと、若しくは、判定式y中に該当する項は存在するが、その対象者が該当する遺伝子多型セットを有していないためにその項が0になったことを意味する。
【0054】
図3のテーブルの最下段には、総合リスクの数値を直接表示せずに、リスクの程度をランク付けして表示するために、数値に応じたマークを表示する。遺伝因子リスクの提示に関して上記したのと同様に、ステップS7で検査項目(i)毎に求められた総合リスクCiと、予め検査項目(i)毎に決定された各ランク(j)に対応する基準値(Tij)とを比較して、Ti,j≦Ci<Ti,j+1である場合、ランク(j)に対応するマークを記録部4から読み出して表示する。具体的には、判定式yを重回帰分析によって求めるときに使用した被験者の集合に関して、各被験者の検査項目毎の遺伝因子リスクを計算し(ステップS7参照)、その度数分布において、例えば25、50、75パーセンタイルに該当する遺伝因子リスクの値を、検査項目毎の基準値(Tij)とする。例えば、血圧に関しては、判定式y中の収縮期血圧SBPを含む項であるSBP×[a0+Σ(ai×CSNPi)]の値を、集合の各被験者について計算する。これによって、対象者の検査項目毎の総合リスクをマークで表示することができる。遺伝因子リスクが判定式y中に該当する項が存在しないために空白の欄(図3参照)があれば、それに対応する総合リスクとして表示するマークは、検査値のみから決定する。
【0055】
以上、ステップS9およびS10での処理によって、例えば図3に示したように、動脈硬化に関して対象者の遺伝因子リスク及び総合リスクを、ランクに対応するマークを用いてわかり易く提示することができる。
【0056】
ステップS10において、予め指定された複数の疾患(動脈硬化、心筋梗塞および脳梗塞)の全てについて処理が完了したか否かを判断し、完了していなければステップS11に移行して別の疾患を指定した後、ステップS4に移行する。予め指定された複数の疾患の全てについて処理が完了していればステップS12に移行し、終了の指示があったか否かを判断し、指示が無かった場合、ステップS1に移行して新たに対象者の指定を受け付ける。
【0057】
以上によって、特定の対象者について、動脈硬化、心筋梗塞および脳梗塞の各疾患に関するリスクを計算し、図3と同様に提示することができる。なお、心筋梗塞および脳梗塞に関しても、上記した動脈硬化に関する処理と同様の処理を行えばよいが、動脈硬化の場合と異なる点もあるので、以下にその点について説明する。
【0058】
心筋梗塞、脳梗塞に関しては、説明変数としては動脈硬化の場合と同様の環境因子(検査項目など)を用いるが、動脈硬化の場合と異なり多重ロジスティック回帰分析によって判定式yを求める。最終的に求められた判定式yは、上記の式1と同様の多項式の形ではあるが、左辺yの値はロジットである。疾患の発症確率をpとすれば、ロジットはlog[p/(1−p)]で表される。ここで、logは自然対数を意味する。また、p/(1−p)はオッズ(Odds)である。
【0059】
即ち、所定の被験者の集合に関して、環境因子(検査項目など)と脳梗塞の発症確率pから求められるオッズとを用いて、多重ロジスティック回帰分析によって脳梗塞の判定式yを求める。また、所定の被験者の集合に関して、環境因子(検査項目など)と心筋梗塞の発症確率pから求められるオッズとを用いて、多重ロジスティック回帰分析によって心筋梗塞の判定式yを求める。例えば、心筋梗塞に関して図7に示した遺伝子多型セットを使用して、中性脂肪およびBMIの各々と遺伝子多型セットとの積の項を含まない判定式yが得られた。また、脳梗塞に関して図8に示した遺伝子多型セットを使用して、中性脂肪と遺伝子多型セットとの積の項を含まない判定式yが得られた。
【0060】
従って、脳梗塞、心筋梗塞に関しては、判定式yの左辺がロジットである点で動脈硬化の場合と異なるが、遺伝因子リスクおよび総合リスクを求める処理はステップS6およびS7の処理と同様であり、遺伝因子リスクおよび総合リスクをマークで提示する処理はステップS9の処理と同様である。
【0061】
しかし、脳梗塞、心筋梗塞に関して、評価値を求める処理はステップS4とは異なる。脳梗塞、心筋梗塞に関して、評価値を求める処理の一例を図5に示す。図5のフローチャートは、図2のフローチャートにおけるステップS5での処理を、脳梗塞、心筋梗塞に関する処理に修正したものである。
【0062】
ステップS51において、処理対象とする最初の検査項目を指定する。具体的には、収縮期血圧、血中総コレステロール値、中性脂肪、HbA1c値、BMIおよび喫煙歴のうちの1つが指定される。
【0063】
ステップS52において、ステップS4で読み出された判定式y(多重ロジスティック回帰分析によって予め決定された判定式)中の、ステップS51で指定された検査項目を含む項の係数値αを計算する。例えば、収縮期血圧に関しては、SBPを含む項であるSBP×[a0+Σ(ai×CSNPi)]のうち、a0+Σ(ai×CSNPi)の値がαである。血中総コレステロール値に関しては、Tchを含む項であるTch×[b0+Σ(bi×CSNPi)]のうち、b0+Σ(bi×CSNPi)の値がαである。
【0064】
ステップS53において、記録部4から、指定された検査項目に関する、対象者と同年代の平均値tavを読み出す。ここで、平均値tavは、判定式yを求めるのに使用した被験者の集合中の被験者を年代毎に分類し、同じ年代の全被験者の検査値を平均して求めた値である。平均値tavは、年代および検査項目毎に予め計算されて、記録部4に記録されている。
【0065】
ステップS54において、ステップS52で求めた値αを用いてeαを計算し、さらに、ステップS53で読み出された値tavおよびステップS2で読み出された対象者の検査値tを用いてβ=(eα(t−tav)を計算する。
【0066】
ステップS55において、全ての検査項目についてステップS52〜S54の処理を終了したか否かを判断し、終了していなければステップS56に移行し、別の検査項目を指定し、ステップS52〜S54の処理を繰り返す。
【0067】
全ての検査項目についてステップS52〜S54の処理を終了した後、ステップS57において、ステップS54で計算した各検査項目に関する指数関数値βを全て乗算して評価値を求め、記録部4に記録し、ステップS6に移行する。
【0068】
そして、ステップS57で求められた評価値を提示する方法は、ステップS8での処理と同様である。心筋梗塞の場合の提示例を図4に示す。脳梗塞に関しても、心筋梗塞と同様に提示することができる。
【0069】
図4に示したスケールは、判定式yを求めるのに使用した集合における、対象者と同じ同年代の平均値と比較した疾患になりやすさ(疾患危険度)を表している。スケールの左端に付された値1は、同年代の平均値を表している。このことは、次のことから理解できる。
【0070】
ある事象を多重ロジスティック回帰分析した場合、説明変数xの回帰係数axのべき乗exp(ax)は、説明変数xが1単位変化した場合の、その事象に関するオッズ比(ステップS54で求めたeαに対応)を表す。従って、説明変数である各検査項目に関して求めた値β(ステップS54参照)は、所定の検査項目に関して、同年代の人(平均値tav)と比較した場合の、対象者(検査値tを有する)の疾患危険度のオッズ比である。よって、全検査項目の値βを乗算して最終的に得られた評価値は、同年代の人と比較した、全検査項目の影響を考慮した、対象者の疾患になりやすさを表しているといえる。
【0071】
以上のように、本発明によれば、特定の対象者について、遺伝因子および環境因子を総合的に考慮した評価値を、同世代の平均値とともに、疾患リスクとしてグラフィカルに提示することができる。また、特定の疾患について、発症に関連する複数の検査項目の各々に対応させて、遺伝子を考慮した遺伝因子リスクと、遺伝因子および環境因子を考慮した総合リスクとを提示することができる。また、遺伝因子リスク、総合リスクの数値に対応するランクを表すマークとして提示することができる。従って、これらの提示に基づいて、医師は、その対象者が将来どのように身体を管理すべきか(生活習慣の改善など)を容易に知ることができ、対象者にわかり易く且つ適切に指導することが可能となる。
【0072】
例えば、図3から、次のことが容易に分かる。即ち、評価値から、対象者は動脈硬化の状態が、同年代の人に比べて進んでいると推測できる。また、テーブルの3段目の遺伝因子リスクにマークが提示されていることから、対象者は血圧、総コレステロール、ヘモグロビンA1cおよび喫煙が高く(多く)なった場合に、動脈硬化が進展する遺伝因子を保有していることが容易にわかる。また、テーブルの2段目の検査値から、判定時点で、総コレステロール、中性脂肪および血糖コントロールが正常範囲を超えていることが容易に分かる。そして、テーブルの最下段の総合リスクに表示されたマークから、正常範囲を超えている総コレステロール、中性脂肪および血糖コントロールのうち、総コレステロールおよびヘモグロビンA1cが遺伝因子と相乗的に作用して、動脈硬化を進展させることが予想でき、中性脂肪を重点的に管理する必要があることが容易に分かる。また、血圧および喫煙は、判定時点で正常範囲内にあるが、これらに対応する遺伝因子リスクを有するため、注意が必要であることが容易にわかる。
【0073】
以上、実施の形態を用いて本発明を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。
【0074】
例えば、各処理の順序は、図2、図5に示したフローチャートの順序に限定されない。評価値、遺伝因子リスク、総合リスクの各値を計算する毎に、直ちに提示するようにしてもよい。
【0075】
また、ステップS6での遺伝因子リスクの計算において、遺伝子多型セットを含まない検査値のみの項、即ち係数a0、b0、c0、d0、e0、f0、g0を含まない項の値を計算してもよい。例えば、収縮期血圧に関しては、SBPを含む項であるSBP×[a0+Σ(ai×CSNPi)]のうち、少なくとも遺伝子多型セットを含むΣ(ai×CSNPi)の値を計算してもよい。これは、係数a0、b0、c0、d0、e0、f0、g0は定数であり、計算結果が一定値だけシフトされるだけであるので、所定の集合に関する平均値との比較や、度数分布からランクの境界値をパーセンタイル値で指定する場合には影響が無いからである。
【0076】
また、多重ロジスティック回帰分析を使用する心筋梗塞、脳梗塞の場合、ステップS6の処理はステップS52の処理と同じ処理であるので、ステップS52の処理結果を記録部に記録しておき、ステップS6の処理を省略してもよい。
【0077】
また、動脈硬化に関しては、IMT測定を行なって得られた実測値があれば、ステップS5の処理を行わずに、その実測値を評価値として提示してもよい。
【0078】
また、上記では、図3に示したような提示によって、医師が、対象者が将来どのように身体を管理すべきか(生活習慣の改善など)を容易に知ることができ、対象者にわかり易く且つ適切に指導することができることを示したが、さらに、検査値の改善による疾患リスクの軽減を定量的に提示することもできる。例えば、正常範囲を超えている総コレステロールの検査値が、所定値だけ減少した場合の疾患リスクの改善度Δy(%)を次の式で求めることができる。
Δy=100×[y(Tch0)−y(Tch0−ΔTch)]/y(Tch0)
ここで、y(Tch0)は、総コレステロール値がTch0である評価時の疾患リスクである。y(Tch1)は、総コレステロール値として、評価時の検査値からΔTchだけ減少させた値(目標検査値)を用い、総コレステロール値以外の検査値(SBP、TG、HbA1c、BMI、SM、HDL)には評価時と同じ値を用いて得られた疾患リスクである。
【0079】
このように、特定の対象者の検査値のうち、所定範囲を超えている検査値について、その検査値から所定の値だけ変化させた値である目標検査値を用いて疾患リスクを求め、上記の式によって、疾患リスク改善度(%)を求めて、検査項目毎に提示すれば、医師および検査者にとって有効である。
【0080】
また、改善度を提示する場合、対応する検査項目を管理する必要がある旨と共に、目標検査値(変更値)および改善度を提示すればより有効である。例えば、「総コレステロールを管理する必要があります。総コレステロールが現状の値から××まで下がれば(△△だけ減少すれば)、疾患リスクが○○%改善します。」のように提示する。なお、改善度を求める式は上式に限定されず、判定式の値が評価時の値からどの程度変化するかを算出できればよい。また、検査項目によっては(例えばHDLコレステロール値)値が増大すれば疾患リスクが改善される検査値もあり、その場合にはその検査値を所定値だけ増大させて、改善度を求めればよい。
【0081】
また、図3および図4に示した各疾患に関する評価値のスケール値は、一例であり、判定式yを求めるときの被験者の集合に応じて設定した値や表示であればよい。また、スケール値やスケール表示は、国や地域が異なれば、違った値や表示になり得る。
【0082】
また、上記では、図3を用いて具体的に説明したが、図3はあくまで一例に過ぎない。判定式yを決定するために用いる被験者の集合が異なれば、決定された判定式yが異なる場合もある。例えば、その集合を構成する被験者の国籍や人種が異なれば、また日本においても被験者の居住地域が異なれば、判定式yが異なる可能性がある。従って、動脈硬化に関して、例えば、血糖コントロールおよびBMIの各々と遺伝因子との積の項を含む判定式yを使用してもよい。同様に、心筋梗塞に関して、例えば、中性脂肪およびBMIの各々と遺伝子多型セットとの積の項を含む判定式yを使用してもよく、脳梗塞に関して、例えば、中性脂肪と遺伝子多型セットとの積の項を含む判定式yを使用してもよい。
【0083】
また、図3では、6種類の検査値を提示する場合を説明したが、これらに限定されない。これらに加えて、若しくはこれらの一部に代えてHDLコレステロール値を提示してもよく、その他の管理可能な検査値を提示してもよい。
【0084】
また、疾患として動脈硬化、心筋梗塞および脳梗塞の3種類を対象とする場合を説明したが、これらに限定されず、その他の疾患に関しても本発明を適用することが可能である。その場合、疾患に応じて遺伝子多型セットおよび判定式yを決定すればよい。
【0085】
また、提示するマークは任意の図形であってもよい。
【0086】
また、提示装置の構成も図1に示した構成に限定されない。処理に必要なデータを記録した記録部が、ネットワークを介して別の装置(コンピュータ)に装備された記録装置であっても、コンピュータ読み取り可能な可搬性の記録媒体(光学式ディスク、半導体メモリなど)であってもよい。
【0087】
また、提示装置を構成する表示部や印刷部を用いて、疾患リスクを表示し、紙に印刷する場合に限らず、計算結果のデータ(評価値、遺伝因子リスク、総合リスク)を所定構造のファイルデータに変換して、コンピュータ読み取り可能な記録媒体や通信回線を介して別の装置に移し、提示してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施の形態に係る疾患リスクの提示装置を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る疾患リスクの提示方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態に係る疾患リスクの提示例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る疾患リスク(評価値)の提示例を示す図であり、心筋梗塞の場合を示す。
【図5】本発明の実施の形態に係る、心筋梗塞または脳梗塞に関する評価値の計算方法を示すフローチャートである。
【図6】動脈硬化リスクの判定に使用する遺伝子多型セットの一例を示す表である。
【図7】心筋梗塞リスクの判定に使用する遺伝子多型セットの一例を示す表である。
【図8】脳梗塞リスクの判定に使用する遺伝子多型セットの一例を示す表である。
【図9A】図6〜8の遺伝子多型セットを決定する際に用いた遺伝子多型を示す表である。
【図9B】図6〜8の遺伝子多型セットの決定する際に用いた遺伝子多型を示す表である。
【図9C】図6〜8の遺伝子多型セットの決定する際に用いた遺伝子多型を示す表である。
【図10】Aldose redactase遺伝子の遺伝子型を決める規則を示す表である。
【符号の説明】
【0089】
1 提示装置
2 演算部(CPU)
3 メモリ
4 記録部
5 操作部
6 表示部
7 印刷部
8 入出力部
9 内部バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録部、演算部および出力部を備えた装置を用いて対象者の疾患リスクを求めて提示する方法であって、
前記演算部が、
前記対象者の検査項目の値である検査値、
前記対象者が有する遺伝子多型セットを表す遺伝子情報、並びに、
前記検査項目および前記遺伝子多型セットを変数とし、前記検査項目と少なくとも前記遺伝子多型セットを含む多項式との積を含む判定式
を、前記記録部から読み出す第1ステップと、
前記演算部が、読み出された前記遺伝子情報を用いて前記多項式の値を計算する第2ステップと、
前記演算部が、前記第2ステップで計算された値に対応する第1図形データを決定する第3ステップと、
前記演算部が、前記検査項目に対応させて、前記検査値および前記第1図形データを、前記出力部から出力する第4ステップとを含み、
前記判定式が、前記検査項目および前記遺伝子多型セットを説明変数として、重回帰分析または多重ロジスティック回帰分析によって得られた式であることを特長とする疾患リスクの提示方法。
【請求項2】
前記第4ステップの前に、前記演算部が、読み出された前記検査値および前記遺伝子情報を用いて、前記検査項目を含む全ての項の値を計算する第5ステップと、
前記演算部が、前記第5ステップで計算された値に対応する第2図形データを決定する第6ステップとをさらに含み、
前記第4ステップにおいて、前記演算部が、前記検査項目に対応させて前記第2図形データを前記出力部から出力することを特長とする請求項1に記載の疾患リスクの提示方法。
【請求項3】
前記第4ステップの前に、前記演算部が、複数の前記検査値のうち所定範囲を超えている検査値を決定し、決定された該検査値を、前記判定式の値が低下する方向に所定値だけ変化させて目標検査値を求め、該目標検査値を用いて前記判定式から改善度を求める第7ステップをさらに含み、
前記第4ステップにおいて、前記演算部が、決定された前記検査値に該当する検査項目に対応させて、前記改善度を前記出力部から出力することを特徴とする請求項1または2に記載の疾患リスクの提示方法。
【請求項4】
前記判定式が、複数の被験者の検査値および遺伝子情報の集合を用いて多重ロジスティック回帰分析によって得られた式であり、
年代毎に分類された前記被験者に関する検査値の平均値が、前記記録部に記録されており、
前記演算部が、前記対象者に関して、前記判定式中の所定の検査項目を含む項の係数値を計算し、該係数値を指数として自然対数の底のべき乗値を計算して前記所定の検査項目に関するオッズ比を求め、前記対象者の年齢が該当する年代に対応する前記平均値を前記記録部から読み出し、該平均値を前記対象者の前記検査値から減算した値を指数として、前記オッズ比のべき乗値を計算する第8ステップと、
前記演算部が、前記検査項目毎の前記べき乗値を、全て乗算して評価値を計算する第9ステップと、
前記演算部が、前記評価値を前記出力部から出力する第10ステップと
をさらに含むことを特長とする請求項1〜3の何れか1項に記載の疾患リスクの提示方法。
【請求項5】
前記判定式が、複数の被験者の検査値および遺伝子情報の集合を用いて重回帰分析によって得られた式であり、
年代毎に分類された前記被験者に関する前記判定式の値の平均値が、前記記録部に記録されており、
前記演算部が、読み出された前記検査値および前記遺伝子情報を用いて前記判定式の値を計算して評価値とする第11ステップと、
前記演算部が、前記対象者の年齢が該当する年代に対応する前記平均値を、前記記録部から読み出す第12ステップと、
前記演算部が、前記評価値および前記平均値を前記出力部から出力する第13ステップと
をさらに含むことを特長とする請求項1〜3の何れか1項に記載の疾患リスクの提示方法。
【請求項6】
前記疾患が心筋梗塞であり、
前記判定式に含まれる各々の各遺伝子多型セットが、図7に記載された遺伝子多型セットの1つであることを特徴とする請求項4に記載の疾患リスクの提示方法。
【請求項7】
前記疾患が脳梗塞であり、
前記判定式に含まれる各々の遺伝子多型セットが、図8に記載された遺伝子多型セットの1つであることを特徴とする請求項4に記載の疾患リスクの提示方法。
【請求項8】
前記疾患が動脈硬化であり、
前記判定式に含まれる各々の遺伝子多型セットが、図6に記載された遺伝子多型セットの1つであることを特徴とする請求項5に記載の疾患リスクの提示方法。
【請求項9】
記録部および出力部を備えたコンピュータに、対象者の疾患リスクを求めて提示させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記対象者の検査項目の値である検査値、
前記対象者が有する遺伝子多型セットを表す遺伝子情報、並びに、
前記検査項目および前記遺伝子多型セットを変数とし、前記検査項目と少なくとも前記遺伝子多型セットを含む多項式との積を含む判定式を、前記記録部から読み出す第1機能と、
読み出された前記遺伝子情報を用いて前記多項式の値を計算する第2機能と、
前記第2ステップで計算された値に対応する第1図形データを決定する第3機能と、
前記検査項目に対応させて、前記検査値および前記第1図形データを、前記出力部から出力する第4機能とを実現させ、
前記判定式が、前記検査項目および前記遺伝子多型セットを説明変数として、重回帰分析または多重ロジスティック回帰分析によって得られた式であることを特長とする疾患リスクの提示プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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