説明

病原性微生物の不活性化方法

【課題】 有機物の存在下でも、病原性微生物を、環境への負荷を軽減しつつ、簡単かつ確実に病原性微生物を不活性化する方法を提供する。
【解決手段】 病原性微生物および有機物を含む水性媒体に、活性酸素供与体、二酸化塩素および活性酸素供与体を順次加えて水性媒体を処理し、前記水性媒体の病原性微生物を不活性化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原性微生物および有機物を含む水性媒体中の病原性微生物を不活性化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病原性細菌やウイルスなどの病原性微生物を不活性化することは、医療機関などの感染性物質を取り扱う施設にとって非常に重要なことである。とりわけ、病原性細菌やウイルスなどにより発病した患者や保菌者からの分泌物や排泄物もしくはこれらを含む排水、治療に使用した医療機器の洗浄液などの感染性物質を外部に排出する場合には、当該廃液が感染性をもたない程度にまで病原性微生物などを不活性化処理しなければならないが、この処理には大規模な装置を必要とするうえ、運転コストなどを考慮すると非常に大きな負担を強いられることとなる。
【0003】
一方、感染性廃液の処理方法としては、たとえば過酸化水素とオゾンを用いる方法(特許文献1)、高濃度オゾンで病原性廃棄物を処理する方法(特許文献2)、二酸化塩素などの殺菌分解剤で前処理をし、その後オゾン処理をすることを特徴とする感染性廃棄物の処理方法(特許文献3)などが知られている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−000982号公報
【特許文献2】特開平05−293167号公報
【特許文献3】特開2004−24922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された発明では、実際のEmbalming廃液(死体保存処理廃液)を用いた処理例が記載されているものの、感染性微生物として記載されているのは、ブドウ球菌に対する効果に過ぎず、病原性微生物の不活性化効果があるかどうかは記載されていない。また、特許文献2に記載された発明では、大腸菌やB型肝ウイルスに対して完全に殺菌できるとされているが、具体的データとともに記載されているのは大腸菌のみであるうえ、この発明では高濃度のオゾンを使用するので、そのための大規模な装置が必要となる。
【0006】
特許文献3に記載された発明では、ウイルスや病原菌についての不活性化効果がほとんど示されていないので、ウイルス不活性化における実効性が担保されていないという問題がある。
【0007】
一方、感染性物質である病原性微生物は、その感染性・病原性を失わせるための条件に大きな差異があり、簡単な処理で不活性化できるものから、厳しい条件で処理しなければ不活性化できないものまで存在する。
【0008】
しかも、病原性微生物を含む廃液中には、通常、血液や組織など種々の有機物が含まれており、これらの有機物が病原性微生物の不活性化を阻害するので、よりその不活性化は困難となる。
【0009】
とりわけ、医療機関からの廃液には、ヒトからの離脱物が多く含まれており、これらの多くはタンパク質であることにより、病原性微生物の不活性化において阻害要因となる。
【0010】
また、有機物が存在する状況では、確実に病原性微生物を不活性化するためとはいえ、塩素を増加させることはトリハロメタンの生成増につながり、新たな環境問題を惹起するという問題があり、簡便で、確実な病原性微生物の不活性化方法が望まれている。
【0011】
本発明の目的は、有機物が存在しても病原性微生物を簡単かつ確実に不活性化して、感染性・病原性を失わせることができ、かつ環境への負荷を軽減した病原性微生物の不活性化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、病原性微生物および有機物を含む水性媒体に、活性酸素供与体、二酸化塩素および活性酸素供与体を順次加えて水性媒体を処理し、前記水性媒体中の病原性微生物を不活性化することを特徴とする病原性微生物不活性化方法である。
【0013】
また本発明は、病原性微生物および有機物を含む水性媒体に、活性酸素供与体および二酸化塩素を順次加えて、前記水性媒体中の病原性微生物を不活性化する病原性微生物の不活性化方法であって、活性酸素供与体を所望の濃度に維持して前記水性媒体を処理しつつ、二酸化塩素を加え、二酸化塩素添加後もさらに前記活性酸素供与体を所望濃度に保って処理することを特徴とする病原性微生物の不活性化方法である。
【0014】
さらに、本発明は、活性酸素供与体がオゾンであり、二酸化塩素が安定化二酸化塩素であり、水性媒体が感染性廃液である病原性微生物の不活性化方法であることを特徴とする。
【0015】
さらに、また本発明は、病原性微生物および有機物を含む水性媒体に、活性酸素供与体および二酸化塩素を加えて水性媒体を処理し、前記水性媒体中の病原性微生物を不活性化することを特徴とする病原性微生物の不活性化方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、活性酸素供与体と二酸化塩素で病原性微生物を不活性化できるので、大規模な装置が不要であり、感染性廃棄物を取り扱う施設の規模に応じて実施できる。
【0017】
また本発明によれば、処理後の廃液中に病原性微生物の不活性化のための薬剤またはこれに起因する副生物がなく、トリハロメタンなど環境に対して負荷をかける物質の産生もないため、環境問題がない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の病原性微生物の不活性化方法の処理工程を示したものである。
【図2】先行技術文献のうち特許文献3と本発明の実施形態1および2について、オゾンと二酸化塩素が水性媒体中で存在する状態の相違を模式的に示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、病原性微生物および有機物を含む水性媒体に、活性酸素供与体および二酸化塩素を加えて水性媒体を処理し、前記水性媒体中の病原性微生物を不活性化する病原性微生物の不活性化方法である。
【0020】
本発明の作用機作については、明らかではないが、まず最初の活性酸素供与体による活性酸素が、病原性微生物の細胞壁を破壊ないし損傷させ、二酸化塩素が病原性微生物の内部により深く浸透しやすくなるためと推測される。
【0021】
本発明は、病原性微生物および有機物を含む水性媒体に、活性酸素供与体、二酸化塩素および活性酸素供与体を順次加えて水性媒体を処理し、前記水性媒体中の病原性微生物を不活性化する病原性微生物の不活性化方法(実施形態1)である。
【0022】
また、本発明は、病原性微生物および有機物を含む水性媒体に、活性酸素供与体を所望の濃度に維持して水性媒体を処理しつつ、二酸化塩素を加え、二酸化塩素添加後もさらに前記活性酸素供与体を所望濃度に保って処理することによって、前記水性媒体中の病原性微生物を不活性化する病原性微生物の不活性化方法(実施形態2)である。
【0023】
図1にしたがって本発明方法を説明する。まず、有機物と病原性微生物を含む廃液に活性酸素供与体を添加し(S1)、二酸化塩素を添加し(S2)、さらに活性酸素供与体を添加する(S3)ことによって好適に実施することができる。
【0024】
本発明において不活性化とは、病原性微生物が有する自己複製能力もしくは感染力またはその両方の能力を実質的に失なわせることを意味し、その対象となる病原性微生物としては、宿主である人、家畜、家禽に感染する能力を有し、かつ疾病を発症させる能力を有するウイルス、真正細菌、菌類および原生動物などがあげられる。
【0025】
本発明においては、後記、実施例に具体的に示すとおり、インフルエンザ病原性微生物(RNA型でエンベロープ有)、ヘルペス病原性微生物(DNA型でエンベロープ有)、ネコカリシ病原性微生物(RNA型でエンベロープ無)および芽胞菌という病原性微生物構造がそれぞれ異なる病原性微生物に有効であるから、殆どの病原性微生物に対して本発明を適用することができる。
【0026】
かかる病原性微生物のうち、ウイルスとしては、たとえば、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(平成十年十月二日法律第百十四号)に定める1類,2類,4類,5類感染症ウイルスがあげられ、具体的には、エボラウイルス(エボラ出血熱の原因病原性微生物、以下、かっこ内は病原性微生物によって発症する疾病を示す)、クリミア・コンゴウイルス(クリミア・コンゴ出血熱)、痘瘡ウイルス(天然痘)、フニンウイルス、サビアウイルス、ガナリトウイルスまたはマチュポウイルス(南米出血熱)、マールブルグウイルス(マールブルグ熱)、ラッサウイルス(ラッサ熱)などの1類感染症ウイルス、ポリオウイルス(急性灰白髄炎)、SARコロナウイルス(重症急性呼吸器症候群)、H5N1ウイルス(鳥インフルエンザ)などの2類感染症ウイルス、HEVウイルス(E型肝炎)、ウエストナイルウイルス(ウエストナイル熱)、HAVウイルス(A型肝炎)、黄熱ウイルス(黄熱)、オムスクウイルス(オムスク出血熱)、キャサヌル森林病ウイルス(キャサヌル森林病)、狂犬病ウイルス(狂犬病)、サル痘ウイルス(サル痘)、ハンタウイルス(腎症候群性出血熱)、西部ウマ脳炎ウイルス(西部ウマ脳炎)、ダニ媒介脳炎ウイルス(ダニ媒介脳炎)、デングウイルス(デング熱)、東部ウマ脳炎ウイルス(東部ウマ脳炎)、鳥インフルエンザ(H5N1を除く)ウイルス(鳥インフルエンザ)、ニパウイルス(ニパウイルス感染症)、日本脳炎ウイルス(日本脳炎)、ハンタウイルス(ハンタウイルス肺症候群)、Bウイルス(Bウイルス病)、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(ベネズエラウマ脳炎)、ヘンドラウイルス(ヘンドラ病原性微生物感染症)、リッサウイルス(リッサ病原性微生物感染症)、リフトバレー熱ウイルス(リフトバレー熱)などの4類感染症病原性微生物、さらには、肝炎(E,Aを除く)ウイルス(B、Cその他の肝炎ウイルス)、急性脳炎ウイルス(急性脳炎)、風疹ウイルス(風疹)、麻疹ウイルス(麻疹)などの5類感染症ウイルスがあげられる。
【0027】
上記以外の感染症原因ウイルス、たとえば、ヒト免疫不全ウイルス(後天性免疫不全症候群)、高病原性インフルエンザ以外の季節性インフルエンザ、水痘・疱疹ウイルス(水痘、帯状疱疹)、などのほか、サイトロメガウイルス、単純疱疹ウイルス(HSV)(単純疱疹)、単純ヘルペスウイルスや、無菌性髄膜炎の原因となるエンテロウイルス、エコーウイルス、コクサッキーウイルスなどのウイルスも不活性化することができる。
【0028】
また、本発明は、対象となるウイルスがヒト免疫不全、B型肝炎、C型肝炎、風疹、HSV、インフルエンザ、ワクシニアなどのエンベロープを有するウイルスであっても、またロタ、アデノ、ポリオ、コクサッキー、エコー、ライノ、A型肝炎、牛ロタなどエンベロープを有しないウイルスであっても不活性化でき、さらにはウイルスがRNA型ウイルスであってもDNA型ウイルスであっても不活性化することができる。
【0029】
さらに、家畜・家禽に感染し、発症させるウイルスとしては、たとえば、上記ウイルスのうち、家畜・家禽に伝染・発症するもの、たとえば典型的なものとしてトリインフルエンザ、ブタインフルエンザなどのほか、ウシ、ウマ、ブタ、トリなどに感染して、呼吸疾患や伝染性下痢をおこさせる各種コロナ病原性微生物のほか、ウシ病原性微生物性下痢病原性微生物(ウシ病原性微生物性下痢・粘膜病)、ウシヘルペス病原性微生物(ウシ伝染性鼻気管炎)、ウシ白血病病原性微生物(ウシ白血病)、ニューカッスル病病原性微生物(トリニューカッスル病)などがあげられる。
【0030】
また、病原性微生物のうち、病原性細菌としては、例えば、結核菌、コレラ菌、梅毒トレポネーマ、淋菌、赤痢菌、劇症型溶血性連鎖球菌、チフス菌、パラチフス菌、鼻疽菌、類鼻疽菌、炭疽菌、髄膜炎菌、破傷風菌、レンサ球菌、突発性発しん、百日咳、肺炎球菌、肺炎桿菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、ジフテリア菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、薬剤耐性緑膿菌、腸管毒素原性大腸菌、腸管出血性大腸菌、ベロ毒素産生大腸菌などの病原性大腸菌、ペスト菌、野兎病菌、ブルセラ菌、ボツリヌス菌、レジオネラ菌、回帰熱菌、オウム病クラミジア、ライム病菌などの細菌のほか、Q熱リケッチャ、コクシジオイデス症真菌、マラリア原虫、クリプトスポリジウム原虫などに対しても不活性化効果を有する。
【0031】
さらに本発明において、有機物とは、ヒトまたは動物由来のものであって、細菌や病原性微生物などの感染性物質の不活性化を阻害するものをいい、具体的には、ヒトまたは家畜、家禽、ペットから離脱した物質をいう。
【0032】
ヒトからの離脱物としては、骨、毛髪、爪、皮膚、臓器、筋肉などのヒトを構成する組織、細胞もしくは成分、血液、リンパ液などのヒト体液、糞便などのヒト排せつ物があげられる。
【0033】
また家畜・家禽からの離脱物としては、体毛、筋肉、臓器、血液などの諸組織のほか、糞便などの排せつ物があげられる。
【0034】
さらに、本発明における水性媒体としては、病原性微生物および有機物を含む水溶液または感染性廃液があげられ、具体的には、たとえば実験室規模ないしは比較的小規模で使用された病原性微生物および有機物を含む廃液のほか、微生物関連の施設や医療機関、とりわけ感染症を対象とした医療機関や施設からの廃液があげられる。
【0035】
これらの水性媒体には、本発明の対象となる病原性微生物および有機物以外の成分や微生物が含まれていても、本発明を実施することができる。また、当然のことながら、有機物を含まず病原性微生物を含む水溶液または感染性廃液であっても本発明を実施することができる。
【0036】
本発明において、病原性微生物および有機物を含む水性媒体(以下、単に水性媒体という)に、最初に加える活性酸素供与体(以下、第1活性酸素という)としては、水性媒体中で活性酸素を発生するものであればよく、特に限定されないが、具体的にはたとえばオゾン、過酸化水素などがあげられる。これらのうち、とりわけオゾンが好ましい。これらの第1活性酸素は市販のものを好適に使用することができる。
【0037】
さらに、本発明において用いられる二酸化塩素(ClO)としては、塩素酸に酸を溶解して製造される二酸化塩素のほか、二酸化塩素をアルカリ性水溶液または水溶液に溶存させて貯蔵を可能にした安定化二酸化塩素を好適に使用することができる。また、二酸化塩素をゲル状にしたゲル化二酸化塩素も知られているが、このような二酸化塩素も好適に使用することができる。
【0038】
本発明においては、取り扱い容易性や安全性の面で優れている安定化二酸化塩素を用いるのが好ましい。
【0039】
また、二酸化塩素に続いて用いられる活性酸素供与体(以下、第2活性酸素という)としては、前記、第1活性酸素としてあげたものを用いることができ、とりわけオゾンが好ましい。
【0040】
本発明方法においては、第1および第2活性酸素としてオゾン、二酸化塩素として安定化二酸化塩素を用いることが好ましい。
【0041】
また、これら第1および第2活性酸素と二酸化塩素は、各成分を適宜組み合わせて用いることもでき、たとえば、第1、第2活性酸素としてオゾンと過酸化水素を併用してもよく、また二酸化塩素として二酸化塩素と安定化二酸化塩素を併用するなどしてもよい。
【0042】
第1活性酸素の前記水性媒体への添加は、有機物および病原性微生物を含む水性媒体に、所望の濃度となるように第1活性酸素を直接加えてもよく、また前記水性媒体中で所望の濃度となる量の第1活性酸素を水溶液に溶解して加えてもよく、または第1活性酸素がオゾンのような気体であるときは、所望の濃度となるよう前記水性媒体中に直接オゾンを吹き込むようにして加えてもよい。
【0043】
第1活性酸素の添加量は、水性媒体中の有機物の種類や含有量、病原性微生物の種類や含有量によっても変動するが、上記いずれの場合も、概ね病原性微生物および有機物を含む媒体に対して、活性酸素として0.5〜20ppm含まれる量を添加すればよく、好ましくは0.5〜10ppm、さらに好ましくは1〜5ppmであり、もっとも好ましくは2〜3ppmとなるよう添加すればよい。
【0044】
第1活性酸素を前記水性媒体中に加えたのち、活性酸素を前記水性媒体中に拡散させるには、静置してもよいが、効率的に拡散させるため前記水性媒体を攪拌または循環して混合すればよい。該混合は特に加熱や冷却を必要とせず、常温で実施することができる。第1活性酸素による処理は、水性媒体中の有機物の種類や含有量、病原性微生物の種類や含有量によっても変動するが、概ね数分程度から1時間で完了する。
【0045】
第1活性酸素に続く、二酸化塩素の添加は、前記水性媒体に、所望の濃度となるように、二酸化塩素を直接加えてもよく、また前記水性媒体中で所望の濃度となる量の二酸化塩素を水溶液に溶解して加えてもよく、または二酸化塩素を気体のまま所望の濃度となるよう前記水性媒体中に直接吹き込むようにしてもよい。
【0046】
二酸化塩素として安定化二酸化塩素を用いるときは、通常アルカリ溶液として保存されているので、そのまま所望の濃度となるよう前記水性媒体に加えることによって実施できる。
【0047】
二酸化塩素を前記水性媒体中に加える場合、前記水性媒体に最初に加えた第1活性酸素は、水性媒体中に残存していてもよく、あるいは消費され残存していなくともよい。
【0048】
二酸化塩素は、前記いずれの場合であっても、前記水性媒体に対して、濃度が5〜1000ppmとなるよう添加すればよく、好ましくは5〜600ppm、とりわけ好ましくは5〜200ppmとなるよう添加すればよい。
【0049】
二酸化塩素による処理は、前記第1活性酸素で前記水性媒体を処理する条件と同様の条件で実施することができる。処理時間は、前記水性媒体中の有機物の種類や含有量、病原性微生物の種類や含有量によっても変動するが、概ね1分程度から1時間で二酸化塩素による処理は完了する。
【0050】
第2活性酸素は、前記水性媒体中の有機物の種類や含有量、病原性微生物の種類や含有量によっても変動するが、前記水性媒体に対して、第1活性酸素と同様の濃度となるよう添加すればよい。また、第2活性酸素の添加時には、第1活性酸素が残存していてもよく、また残存していなくてもよい。
【0051】
第2活性酸素は、第1活性酸素と同様、前記水性媒体中に直接加えてもよく、あるいは所定濃度となるように水などの媒体に溶解、混合または懸濁して加えてもよく、さらには第2活性酸素がオゾンのような場合には気体のままで前記水性媒体中に吹き込むようにしてもよい。第2活性酸素による処理は、前記第1活性酸素による処理と同様の条件で実施することができる。
【0052】
また、本発明においては、前記水性媒体に、第1活性酸素を所望の濃度に維持して前記水性媒体を処理しつつ、二酸化塩素を加え、二酸化塩素添加後もさらに第2活性酸素を所望濃度に保って処理すること、すなわち第1、第2活性酸素が連続して前記水性媒体中に存在させることによって、病原性微生物を不活性化することができる。
【0053】
図2は、本発明の実施形態1,2と特許文献3に係る方法とを表1のように図2(1)〜図2(3)として模式的に示す図である。
【表1】

【0054】
図2(1)および図2(2)に実施形態1,2として模式的に示すように、最初から前記水性媒体に、参照符2a,2bで示すように、オゾンのような第1活性酸素を一定濃度としておき、処理中の適宜の時点で、参照符1a,1bで示すように、二酸化塩素を添加し、さらに第2活性酸素を一定濃度に維持して処理することによって、病原性微生物を不活性化することができる。
【0055】
この方法によるときは、第1活性酸素は第2活性酸素、および二酸化塩素は前記のものを好適に使用することができ、その使用量や添加方法などは、前記した範囲で適宜選択して実施することができる。
【0056】
これに対して図2(3)に示す特許文献3の方法では、参照符1cで示すように、先に水性媒体中に二酸化塩素を添加した後、活性酸素を参照符2cで示すように溶解させているため、有効に病原性微生物の不活性化を実現することができない。
【実施例】
【0057】
(実施例1)
本発明の不活性化対象ウイルスとして、インフルエンザウイルス、ヒト単純疱疹ウイルス、ネコカリシウイルス(ロタウイルスの代用ウイルス)の3種類のウイルスを用いた。
【0058】
有機物としてFBS(ウシ胎児血清)1%を含む蒸留水に、オゾンを濃度が2ppmを維持するよう通気したのち、安定化二酸化塩素を10ppmとなるように添加し、さらにオゾンが2ppmとなるようオゾンを通気した処理水をウイルス含有液に加えて30分間静置したのち、ウイルスの感染価を測定した。
【0059】
このとき、用いたウイルスの感染価は、インフルエンザウイルスが1.1×10PFU/ml、ヒト単純疱疹ウイルスが2.6×10PFU/ml、ネコカリシウイルス4.2×10PFU/mlである。
【0060】
なお、ウイルス感染価は、それぞれの細胞を用いて以下のとおり、プラック感染価測定を行った。
【0061】
[プラック感染価測定]
<ウイルス>
インフルエンザウイルスPR8株を、ニワトリ受精卵(10日卵)の漿尿膜腔に接種し、2日間培養した後、漿尿液を採取し、4℃で3,000rpm10分間遠心分離した上清を30%、60%ショ糖のうえに重層し、25,000rpm90分間遠心分離し、ウイルスを精製した。ヒト単純疱疹ウイルスI型F株(HSV)は、Vero細胞で増殖させた上清を用いた。また、ネコカリシウイルスF9株(FCV)は、CRFK細胞で増殖させた上清を用いた。
【0062】
<細胞>
インフルエンザウイルスの感染価測定用細胞として、ヒト大腸癌由来CaCo2細胞を
用いた。ネコカリシウイルスの感染価測定用細胞は、ネコ腎臓由来CRFK細胞を用いた。HSVの感染価測定用細胞はミドリザル腎臓由来Vero細胞を用いた。
【0063】
<二酸化塩素の検定>
安定化二酸化塩素(50,000ppm)を最終希釈濃度100ppmとなるように滅菌蒸留水で希釈した。有効塩素濃度10ppmの水溶液990μLにウイルス原液10μLを加え1〜60分間室温で処理した。処理時間経過後、10%(W/V)チオ硫酸ナトリウム10μLを加え反応を停止した後、ウイルスを血清不含のDMEMで希釈し0.1mLずつ4ウェルのそれぞれの感受性細胞に接種し、37℃で60分間吸着させた。吸着後、0.8%アガロースゲルまたはメチルセルロースを含む培養液を加え、48〜96時間培養した。培養48〜96時間培養後にメタノール又は10%ホルマリンでウイルス細胞を固定し、0.1%クリスタルバイオレットを含む20%エタノール液を加え、プラックを算定し、感染価を算出した。
【0064】
<オゾン存在下での安定化二酸化塩素の殺ウイルス効果>
ウイルス10μLに200ppm安定化二酸化塩素50μLを加え、2.2ppmになるようにオゾンを通気したオゾン水940μLを加え1〜5分間処理した。処理時間経過後、10%(W/V)チオ硫酸ナトリウム10μLを加え反応を停止した後、ウイルスを血清不含のDMEMで希釈し0.1mLずつ4ウェルのそれぞれの感受性細胞に接種し、37℃で60分間吸着させた。吸着後、0.8%アガロースゲルまたはメチルセルロースを含む培養液を加え、48〜96時間培養した。培養48〜96時間培養後にメタノール又は10%ホルマリンでウイルス細胞を固定し、0.1%クリスタルバイオレットを含む20%エタノール液を加え、プラックを算定し、感染価を算出した。
【0065】
<結果>
結果は、表1に示すとおりであり、インフルエンザウイルス、HSVは、感染価がいずれも5PFU/ml以下で感染価は検出できず、ウイルスを100%不活性化していることが明らかである。またFCVの感染価は16PFU/mlであり、不活性化前の感染価(4.2×10)に比べて99.999%の感染価減衰率を示した。
【0066】
(比較例1)
実施例1のインフルエンザウイルスを用い、オゾン2ppmを含む蒸留水にFBSを最終濃度1.0%となるよう添加し、安定化二酸化塩素を10ppmとなるように添加して、ウイルスを1分間処理してウイルスの不活性化を行った。
【0067】
<結果>
結果は、表2に示すとおりである。
【0068】
(比較例2)
実施例1で使用したインフルエンザウイルスを用い、オゾン2ppmを含む蒸留水にFBSを最終濃度1.0%となるよう添加し、ウイルスを加え1分間処理してウイルスの不活性化を行った。
【0069】
<結果>
結果は、表2に示すとおりである。なお、上記実施例1、比較例1および比較例2の実験は、北里大学医療衛生学部にて行われたものである。
【0070】
【表2】

【0071】
(実施例2)
<供試菌株>
使用菌株としてバチルスズブチリスATCC19659(以下、供試菌株という)を用い、使用培地としてバクトトリプチカーゼソイアガー(TSA)(ディフコ社製)およびティピコソイブロスTSB−BP13(TSB)(レーベンラボラトリー社製)を用いた。
【0072】
<培養方法>
供試菌株の芽胞形成を促進させるための硫酸マンガン5μg/mlを添加したTSA培地に供試菌株を培養し、Rothらの方法(Roth,S.,J.Feichtinger,C.,Hertel.2010,Journal of Applied Microbiology 108,521−532)によって、芽胞菌液を作製した。
菌液は4℃で保存した。
【0073】
また、培養に際して、使用した試薬は次のとおりである。
安定化二酸化塩素(インターナショナルジオキシドインク社製)
10mMリン酸緩衝溶液(シグマ社製)
中和剤:10%トゥイーン80、0.1%ヒスチジン、0.5%チオ硫酸ナトリウム /PBS(pH7.4)(シグマ社製)
消泡剤:KM−73E(信越化学社製)
【0074】
<試験方法>
有機物である0.3%ウシアルブミンを含む滅菌蒸留水200mlに終濃度1〜9×10CFU/mlとなるよう芽胞菌液2mlを添加した。そこに終濃度3ppmとなるようにオゾンを供給し、60分間供給を継続した。ついで、終濃度10ppmとなるよう安定化二酸化塩素原液(500ppm)を4ml添加し、20℃にて1分間インキュベートし、その後、さらにオゾンを終濃度3ppmで、60分間供給した。終了後、処理菌液1に対して中和剤9の割合で混和し、二酸化塩素の中和とオゾンの蒸散を促すために、室温にて処理液を10分間放置し、その後生存する菌数を算定した。
【0075】
<判定>
芽胞菌の残存の確認は、採取した菌液からPBSにて10倍希釈系列(10−1〜10−4)を作製し、希釈液の各々を100μlずつTSA培地に接種した。37℃、48時間培養後、培地上に発育したコロニー数(CFU)を数えて生存菌数を算出することによって行った。
【0076】
また、同時に液体培地による増菌も行い、残存菌の有無を確認した。具体的には、採取した菌液の200μlをTSB2mlに接種し、37℃で48時間培養した。培地の指示薬の色の変化、もしくは濁りが生じた場合を殺菌不可、いずれも認められない場合を菌の発育なしと判定した。
【0077】
<結果>
TSA培地上に発育したコロニーはなく、またTSB培地における指示薬の色の変化ならびに濁りはみられず、前記有機物を含むオゾン処理液中の芽胞菌を100%不活性化することができた。なお、上記実施例2の実験は、名古屋大学医学部保健学科にて行われたものである。
【0078】
以上のとおり、本発明は、活性酸素供与体、安定化二酸化塩素、活性酸素供与体の順に使用することによって、有機物を含む水性媒体中の病原性微生物を、前記成分の相乗効果によって、効率的に不活性化することができる。
【0079】
前記実施例1および2に示すように、0.3%または1.0%という通常より高い濃度の有機物を含む水性媒体中の病原性微生物をオゾン2〜3ppm、安定化二酸化塩素10ppm、オゾン2〜3ppmといった低濃度で不活性化できることは極めて高い効果であり、通常の病院廃液中の有機物濃度が0.02%程度であること、安定化二酸化塩素を消毒剤として使用する場合の通常濃度が300〜400ppmであることからすれば、極めて驚異的な効果であることが明らかである。
【符号の説明】
【0080】
1a,1b 病原性微生物および有機物を含む水性媒体中の二酸化塩素
2a,2b 病原性微生物および有機物を含む水性媒体中のオゾン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
病原性微生物および有機物を含む水性媒体に、活性酸素供与体、二酸化塩素および活性酸素供与体を順次加えて水性媒体を処理し、前記水性媒体中の病原性微生物を不活性化することを特徴とする病原性微生物の不活性化方法。
【請求項2】
病原性微生物および有機物を含む水性媒体に、活性酸素供与体および二酸化塩素を順次加えて、前記水性媒体中の病原性微生物を不活性化する病原性微生物の不活性化方法であって、活性酸素供与体を所望の濃度に維持して前記水性媒体を処理しつつ、二酸化塩素を加え、二酸化塩素添加後もさらに前記活性酸素供与体を所望濃度に保って処理することを特徴とする病原性微生物の不活性化方法。
【請求項3】
活性酸素供与体がオゾンであり、二酸化塩素が安定化二酸化塩素であり、前記水性媒体が感染性廃液であることを特徴とする請求項1または2に記載の病原性微生物の不活性化方法。
【請求項4】
病原性微生物および有機物を含む水性媒体に、活性酸素供与体および二酸化塩素を加えて水性媒体を処理し、前記水性媒体中の病原性微生物を不活性化することを特徴とする病原性微生物の不活性化方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−161785(P2012−161785A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−286950(P2011−286950)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(390010342)エア・ウォーター防災株式会社 (56)
【出願人】(502185168)
【Fターム(参考)】