説明

症状伝達ツール

【課題】言語による意思の疎通が図り難い患者に対し、その身体に直接触れることなく、その苦痛の程度と発症部位との概要を事前に予備問診等で把握しておくことが可能で、もって診療の効率化を図る一助となし得る症状伝達ツールを提供する。
【解決手段】本発明は、体調の善し悪しを言語によって明瞭に表現することの困難な患者が、症状の発症部位とその苦痛の程度とを他者に視覚的に知らせるための症状伝達ツールであって、人間や動物を模した立体形状の身体モデルと、該身体モデルの表面に着脱自在に貼り付けられて苦痛等の程度を視覚的に表示する表示片とからなり、該表示片には苦痛等の程度に応じてその強弱を段階的に表す複数種のものが用意されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体調の善し悪しを他者に言語で明瞭に伝えることが困難な患者が、その症状の発症部位と苦痛の程度とを他者に視覚的に知らせることができるようにした、問診等の際に使用して好適な症状伝達ツールに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、医師や看護士等の医療スタッフが実際の医療現場で問診する際に有用なツール及びシステムとして、各患者の主観的要素である痛みや気分等の程度を複数段階のレベルに数値化して容易に収集可能となしたものの提案がなされている。
即ち、この提案にあっては、複数の患者に対する問診による諸データの収集時において、その各患者の主観的要素である痛み等のレベルを聞き出すにあたり、その痛み等の強弱の程度を、フェイスマークの表情やグラデーションによる色分け等の相違によって段階的に表現した複数の画像を用紙に印刷するなどして用意しておき、当該画像を各患者に示して選択させることによって数値化するようにしている。
【特許文献1】特開2003−919591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記ツール及びシステムにあっては、医師や看護士等の医療スタッフが実際の医療現場で問診する際に用いて、特に患者の主観的要素である痛みの程度を患者自らにそのレベルを選択させて数値化することで、患者自身が感じている痛みのレベルを直に反映させたデータを複数の患者から容易に収集できるようにはなるものの、その発症部位については患者に選択させるものとはなっていない。このため、当該ツール及びシステムにあっては、次のような課題がある。
【0004】
即ち、患者の中にはその症状を言語で明瞭に伝えられない人がいる。例えば幼児、或いは諸原因による言語障害をもつ患者、意思の疎通が図れる程の会話力を身につけていない外国人の患者等である。つまり、このような患者にあっては、上記ツール及びシステムにあっては、痛み等の強弱の程度は画像を選択して伝えることはできても、その症状の発症部位を伝えることはできない。
【0005】
とくに、医師が直接患者の身体に触れてその発症部位や、その程度、痛みの種類などを知ることが出来れば良いが、診療の順番待ちなどで、医師が直接患者に対面する以前の予備問診等の状態では、発症部位を良く把握できない場合が多い。
【0006】
また、特に幼児の場合には、医師と対面すると恐怖心が先走って医師の質問に答えられなくなる等、その正確な問診自体が成立たない場合もある。
【0007】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、言語による意思の疎通が図り難い患者に対し、その身体に直接触れることなく、その苦痛の程度と発症部位との概要を事前に予備問診等で把握しておくことが可能で、これによって診療の効率化を図る一助となし得る症状伝達ツールを提供することにある。
【0008】
また本発明では、問診そのものに遊び感覚を取入れることで、言語によって自分の意志を相手に伝えることの出来ない幼児等の患者であっても、所定の問診結果を得ることができる症状伝達ツールを提供することを他の目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために本発明は、体調の善し悪しを言語によって明瞭に表現することの困難な患者が症状の発症部位とその苦痛の程度とを他者に視覚的に知らせるための症状伝達ツールであって、人間や動物を模した立体形状の身体モデルと、該身体モデルの表面に着脱自在に貼り付けられて苦痛等の程度を視覚的に表示する表示片とからなり、該表示片には苦痛等の程度に応じてその強弱を段階的に表す複数種のものが用意されていることを特徴とする。
【0010】
ここで、前記表示片は苦痛の強弱の程度に応じたグラデーションで色分けされている構成となし得る。
また、前記表示片には布やビニール等の柔軟なシート片を用い、該シート片の表面には苦痛等の程度を表示する印が施されている構成となし得る。
また、前記印はフェイスマークとしても良い。
さらに、前記印に対応した苦痛の程度を文字で表した対応表を添付するようにしても良い。
【0011】
また、前記身体モデルの表装と前記表示片の裏面とを、相互に付着可能な面ファスナで構成されていることを特徴とする。
【0012】
前記身体モデルに、前記表示片を収納する開閉自在なポケットが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記構成に係る発明の症状伝達ツールによれば、体調の善し悪しを言語によって明瞭に表現することの困難な患者であっても、自己の症状について、その発症部位とその苦痛の程度とを他者に言語によらず視覚的に知らせることができるようになる。これによって診療方針の確立や効率化を図る一助とすることが出来る。
【0014】
身体モデルの表装と前記表示片の裏面とを、相互に付着可能な面ファスナで構成することにより、表示片を確実に繰り返し付着させることが出来る。したがって、低コストで本症状伝達ツールを作成できる。また、身体モデルの表装側を面ファスナのループ状の起毛部とすることで、柔らかな触り心地の良いものにすることができる。
【0015】
また、本症状伝達ツールは玩具の縫いぐるみとしての要素も具備することになるので、遊び感覚で使うことができ、もって幼児等の患者に恐怖心を与えることなく問診して、医師や介護人が疾病発生部位や痛みの程度を把握することが出来る。
【0016】
また、身体モデルに前記表示片を収納する開閉自在なポケットを設けておけば、幼児を対象とした場合、玩具として外出先にも携帯することができ、体調に変化を来した際に、その外出先の場所等を問わずに即座に使えて有用性に富む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明に係る症状伝達ツールの最良の形態について、添付図面を参照して説明する。図1,2は身体モデル及びこれに貼着される表示片の正面及び背面図を示す。
【0018】
図示するように、本実施の形態に係る症状伝達ツール1は、動物を模した立体形状の身体モデル2と、この身体モデル2の表面に着脱自在に貼り付けられて苦痛等の程度を視覚的に表示する表示片8とからなる。ここでは身体モデル2を熊の縫いぐるみ(以下熊と略記する)とした例を示してある。この身体モデル2は適宜裁断されたモケットなどの起毛布または表面に面ファスナとなるループ状の起毛部を有した布を表装材として、これら布地を適宜裁断して胴体2、左右の手足3,4及び頭部5を組合せ縫合して熊の外形に造形したものであり、内部には適宜な素材の詰物が充填されている。また、この身体モデル2の背面部にはジッパー6により開閉可能なポケットが設けられており、当該ポケット内には症状伝達に必要な附属品等が収容されるようになっている。
【0019】
この身体モデル2は、その表面に線書などによる区画線Lを引いて、身体各部を複数の区画に仕切っている。区画線Lを実際に引かずに、各区画を異なる色を用いて仕切るようにして、各色の境界線を区画線Lとしてもよい。区画線Lは、疾病部位を特定して認知し易くするために設けられ、人体の各部との対応が一目でわかるような区分けを形成している。
【0020】
例えば、胴体2の場合には、これを左右の肩部、胸部、腹部、下腹部(背面側では背中、腰部、臀部)などの部位に区分けしており、手3の場合は上腕部、手先部、掌部などの部位に区分けし、足4の場合には、上肢、下肢、足先などの部位に区分けし、さらに頭部5の場合には、左右の首、顔面(背面側では後頭部)頭頂部などの部位に区分けしている。
【0021】
なお、身体モデル2として前記熊の身体各部のプロポーションは、人体のプロポーションに類似はするものの、細部は明らかに異なる。従って、熊に替えて人間の身体モデルを用いても良いが、リアルな身体モデルを用いた場合には、却って恐怖感や、嫌悪感を与えかねないため、このような身体モデルとしては、熊その他動物の縫いぐるみ人形が好適であり、さらには人間のモデルを用いるとしても、誰しもが可愛らしいと認めるキャラクター化された人形の縫いぐるみが好ましい。
【0022】
また、前記身体モデル2は主として予備問診に用いられるものであり、疾病部位を概略特定すれば良いため、身体各部を概略区画しているが、身体モデル2の大きさに応じてさらに細分化された区画線Lで仕切ることも可能である。
【0023】
前記身体モデル2の近傍には表示片スタンド7が配置され、この表示片スタンド7の前面に複数の貼着用表示片8が上から順に配列されている。表示片8のスタンド7への付着状態については、後述する。
【0024】
表示片8には、図3に示すように、苦痛等の程度に応じてその強弱を段階的に表す複数種のものが用意されている。当該図示例では、表示片8には布からなるシート片が用いられている。
【0025】
各シート片8の表面には苦痛の程度を表情で表すフェイスマーク8a〜8eが五段階程度描かれており、それに対応して図3に示す対応表9が用意されている。
【0026】
図3において、この対応表9では前記各フェイスマーク8a〜8eに対応して上から順に「快適である」、「普通」、「やや痛い」、「痛い」、「激しく痛い」などの表現としてマニュアル化し、症状の客観化を図っている。
【0027】
なお、言語の通じない外国人を問診対象患者とする場合には、図示省略するが、その国の言語の対応表を用意するか、前記日本語とともに各種言語に応じた翻訳文などが以上の対応表に付加表示される。
【0028】
なお、図4は前記表示片8を身体モデル1に対して付着させて状態を示している。図示するように、身体モデル1の表装と前記表示片8の裏面とは、相互に付着可能な面ファスナ10として構成されている。ここでは、表示片8の裏面側には鉤側の面ファスナ10aが一体化されている。一方、前述したように身体モデル1の表装材には、布地1aの表面にループ状の起毛部を有した生地が使用されて、ループ側の面ファスナ10bが形成されている。従って、表示片8は面ファスナ10を介して身体モデル1の表面に確実に貼着され、かつ表示片8を容易に剥がして繰返し使用できるようになっている。なお、図4中符号1cは前述の発泡ウレタンなどの詰物である。
【0029】
この付着状態は、表示片8と表示片スタンド7に対する付着状態と同様である。すなわち、表示片スタンド7の表面はモデル1と同様の表装材により形成され、表示片8は図4に図示される状態と同様にして、スタンド7の所定位置に貼着される。このようにして表示片8が紛失しないように保持している。
【0030】
ただし、表示片8の保持ツールとして、スタンド7の形式に限定するものではない。布製やビニール製などの柔軟なシート状の形態にしても良く、このような保持シートに形成すれば表示片8を貼着したまま丸めるなどしてモデル1背面部のポケット内に容易に収容できる。もちろん、スタンド7をポケット内に収容できる程度の大きさにしてもよい。
【0031】
以上の構成において、前記対応表9を患者に示すことにより、患者は前記各フェイスマーク8a〜8eのうち自分の痛さの程度に該当するフェイスマークを判断し、選択したフェイスマークを表示片スタンド7から剥がし、これをモデル1の疾病該当部位に貼り付ける。たとえば、図1にはレベル4に相当する「痛い」と言う状況が右脇腹に生じていることが表示されている。
【0032】
以上のごとく、身体のどの部位がどの程度痛いのかを、患者は言語で意思表示しなくても、身体モデル上に視覚的に表して他者に伝え得るので、患者の身体に直接触れることなく、患者の訴える症状を一目瞭然に把握できるのである。なお、この貼り付け作業は、患者本人が行っても良いし、介護人が患者の身振り手振り等による指摘を受けつつ補助をして疾病該当部位に貼り付けるようにしても良い。
【0033】
また、文字を読めない幼児などに対しては、以上の対応表を元に介護人が患者にあやすようにして話し、当該疾病部位該当個所に患者自身または介護人が貼り付けるようにしても良い。
【0034】
いずれにしろ、以上の症状伝達ツールを用いた問診作業は、福笑いなどに類似して半分は遊び感覚で出来るため、特に幼児などにとっては、恐怖感覚なく自己の疾病部位や痛みの程度を自然に医師や介護人、保護者などに言語を介さずに伝えることが出来るようになるのである。
【0035】
なお、以上の実施形態では、「痛い」と言う表現を段階表示したが、痛さの種類は、鈍痛や、疝痛、めまい、気持の悪さなど疾病の種類によって各種あるため、さらにその種類を特定したい場合には、それに応じたフェイスマークの貼着用表示片8及びその対応表9を用意し、これを応じた種類を選択してモデルに貼り付けるようにすればよい。
【0036】
また、表示片8は、フェイスマークを描いたものに限定するものではなく、痛みの種類や程度に応じたグラデーションになるように、それぞれ異なる色付けをしたものとしてもよい。
【0037】
その他、前記実施形態では、布製のシート片からなる表示片8の裏面に面ファスナを設けることによって繰返し使用できるようにしたが、紙製などのシート片の裏面に弱粘着剤を設け、これを剥離紙からはがして使えるようにした使い捨てタイプでも良い。その場合に、身体モデル1やスタンド7、保持シート等の表装材は木やプラスチックなどとして、弱粘着剤により表示片8を貼着できるように表面を滑らかにしたものでもよい。また、前記実施形態では身体モデル1に区画線Lを設けているが、当該区画線Lは必須のものではない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る問診用モデル及びこれに貼着される表示片を示す正面図である。
【図2】同背面図である。
【図3】表示片の表面に表示されたフェイスマークとその苦痛程度を文字表現した対応表を示す図表である。
【図4】表示片断面とモデル一部断面を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 身体モデル
2 胴体
3,4 手足
5 頭部
8 貼着用表示片
8a〜8e フェイスマーク
9 対応表
10 面ファスナ
10a 鉤側の面ファスナ
10b ループ側の面ファスナ
L 区画線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体調の善し悪しを言語によって明瞭に表現することの困難な患者が、症状の発症部位とその苦痛の程度とを他者に視覚的に知らせるための症状伝達ツールであって、
人間や動物を模した立体形状の身体モデルと、該身体モデルの表面に着脱自在に貼り付けられて苦痛等の程度を視覚的に表示する表示片とからなり、
該表示片には苦痛等の程度に応じてその強弱を段階的に表す複数種のものが用意されている、
ことを特徴とする症状伝達ツール。
【請求項2】
前記表示片が、苦痛の強弱の程度に応じたグラデーションで色分けされていることを特徴とする請求項1に記載の症状伝達ツール。
【請求項3】
前記表示片が、布やビニール等の柔軟なシート片でなり、該シート片の表面には苦痛等の程度を表示する印が施されていることを特徴とする請求項1または2に記載の症状伝達ツール。
【請求項4】
前記印がフェイスマークであることを特徴とする請求項3に記載の症状伝達ツール。
【請求項5】
前記印に対応した苦痛の程度を文字で表した対応表が添付されていることを特徴とする請求項3または4のいずれかに記載の症状伝達ツール。
【請求項6】
前記身体モデルの表装と前記表示片の裏面とが、相互に付着可能な面ファスナで構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の症状伝達ツール。
【請求項7】
前記身体モデルに、前記表示片を収納する開閉自在なポケットが設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の症状伝達ツール。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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