説明

痴呆症の診断方法及び診断キット

【課題】痴呆症、特に、頻度の高いアルツハイマー病及び脳血管性痴呆を適切に診断ないし検出する。
【解決手段】本発明は、哺乳動物由来のサンプル中のヒドロキシオクタデカジエノイックアシッド(HODE)類、7−ヒドロキシコレステロール(7-FCOH)類及びペルオキシレドキシン(Prx)類からなる群から選ばれる少なくとも1種を測定することを特徴とする痴呆症の
診断方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、痴呆症の検出、評価ないし診断方法及び診断キットに関する。
【背景技術】
【0002】
痴呆症患者は、人口の高齢化に伴い急速に増加している。アルツハイマー病、脳血管系痴呆などの大部分の痴呆症は、治癒不能かつ患者の長期間の介護が必要になるため、痴呆症を早期に診断し、その進行を遅らせることは、特に意義深いことである。
【0003】
痴呆症は、精神的能力の低下、記憶障害などにより特徴付けられ、年齢とともに症状が悪化する傾向にある。これは痴呆症に共通した症状であるため、例えばアルツハイマー病と脳血管性痴呆を区別して診断することは困難であり、また、痴呆症をその重症度に応じて客観的に診断することも難しい。
【0004】
痴呆症の原因に応じて適切な治療ないし進行の遅延を行うためには、痴呆症の正確な診断が必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、痴呆症、特に、頻度の高いアルツハイマー病及び脳血管性痴呆を適切に診断ないし検出、評価するための方法及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑み検討を重ねた結果、HODE類、7-FCOH類及びPrx類のサンプル
中のレベルが痴呆症の種類及び重症度と相関し、これらのサンプル中のレベルを調べることで痴呆症の診断が可能になることを見出した。
【0007】
本発明は、以下の診断方法及び診断キットを提供することを目的とする。
1. 哺乳動物由来のサンプル中のヒドロキシオクタデカジエノイックアシッド(HODE)類、7−ヒドロキシコレステロール(7-FCOH)類及びペルオキシレドキシン(Prx)類からな
る群から選ばれる少なくとも1種を測定することを特徴とする痴呆症の診断方法。
2. 前記HODE類が、9-HODE, 10-HODE, 12-HODEおよび13-HODEからなる群から選ばれる
少なくとも1種である項1に記載の診断方法。
3. 前記HODE類が、9-HODEおよび13-HODEからなる群から選ばれる少なくとも1種であ
る項2に記載の診断方法。
4. 前記7-FCOH類が、7α−ヒドロキシコレステロール(7α-FCOH)および7β−ヒドロキシコレステロール(7β-FCOH)からなる群から選ばれる少なくとも1種である項1に記載の診断方法。
5. 前記ペルオキシレドキシン類が、酸化型及び還元型ペルオキシレドキシン2(Prx2)並びに酸化型及び還元型ペルオキシレドキシン6(Prx6) からなる群から選ばれる少なく
とも1種である項1に記載の診断方法。
6. 痴呆症がアルツハイマー病及び脳血管性痴呆症からなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1〜5のいずれかに記載の診断方法。
7. 哺乳動物由来のサンプル中のヒドロキシオクタデカジエノイックアシッド(HODE)類及びペルオキシレドキシン(Prx)類を測定し、アルツハイマー病及び脳血管性痴呆症か
らなる群から選ばれる痴呆症を区別して診断することを特徴とする、項1に記載の診断方法。
8. 哺乳動物由来のサンプルを還元剤で処理後、アルカリ処理してHODE類および7−F
COH類からなる群から選ばれる少なくとも1種を測定し、必要に応じてさらにタンパク質画分からペルオキシレドキシン(Prx)類を測定することを特徴とする。項1に記載の診
断方法。
9. 還元剤がNaBH4である項8に記載の診断方法。
10. アルカリ処理をアルカリ金属水酸化物を用いて行う項8に記載の診断方法。
11. 還元剤とアルカリ処理剤を含むHODE類、7−FCOH類及びPrx類からなる群か
ら選ばれる少なくとも1種を測定して痴呆症を診断するための診断キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、痴呆症の診断方法及び診断キットを提供することができ、アルツハイマー病、脳血管性痴呆などの分別診断及び重症度に応じた診断を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、哺乳動物(特にヒト)の痴呆症を検出もしくは診断するための方法として有用である。非ヒト哺乳動物の痴呆の診断ないし評価は、例えば痴呆症の治療薬のスクリーニング系に応用することができる。
痴呆症の各疾患及びその重症度は、サンプル中のヒドロキシオクタデカジエノイックアシッド(HODE)類、7−ヒドロキシコレステロール(7-FCOH)類、ペルオキシレドキシン(Prx)類などを測定ないし定量することにより評価、検出もしくは診断することができる。
【0010】
本発明において、サンプルは、ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ、ラット、マウスなどの哺乳動物由来のものであり、好ましくはヒト由来である。
サンプルとしては、血液(血漿、血清、血球(赤血球、白血球)を含む)、尿、脳脊髄液、涙液、精液、唾液、リンパ液、組織の一部(生検等により得られる)などが挙げられ、好ましくは血液(血漿、血清、血球(赤血球、白血球)を含む)、脳脊髄液、特に血漿、赤血球または血清が例示される。
【0011】
本発明で診断可能な痴呆症は、アルツハイマー病と脳血管性痴呆である。これらは、HODE類、7-FCOH類、Prx類(酸化型と還元型を含む)などのサンプル中のレベルを測定する
ことにより診断可能である。特に、HODE類ないし7-FCOH類(特にHODE類)の測定と、Prx
類(特にPrx6)の結果を組み合わせることで、痴呆症の重症度を評価することも可能になる。
【0012】
HODE類としては、水酸基を有するオクタデカジエノイックアシッド(octadecadienoic acid)が挙げられ、該HODEの2つの二重結合は、(E, E)、(E, Z)もしくは(Z, E)のいずれか或いはこれらの混合物であってもよい。HODEとしては、具体的には9-hydroxyoctadecadienoic acid (9-HODE), 13-hydroxyoctadecadienoic acid (13-HODE), 10-hydroxyoctadecadienoic acid (10-HODE), 12-hydroxyoctadecadienoic acid (12-HODE)が挙げられ、これらは(E, E)体、(E, Z)体、(Z, E)体のいずれであってもよい。測定対象として好ましいHODE類は、9-(E, E)-HODE, 13-(E, E)-HODE, 9-(E, Z)-HODE, 13-(Z, E)-HODE, 10-(E,Z)-HODEおよび12-(Z, E)-HODEである。HODE類としては、9-(E, E)-HODE, 13-(E, E)-HODE, 9-(E, Z)-HODE, 13-(Z, E)-HODE, 10-(E,Z)-HODEおよび12-(Z, E)-HODEを含む総HODEを測定するのが好ましい。
【0013】
7−ヒドロキシコレステロール(7-FCOH)類としては、7α−ヒドロキシコレステロール(7α−FCOH)、7β−ヒドロキシコレステロール(7β−FCOH)が挙げられる。好ましい7-FCOH類は、7β-FCOHである。
【0014】
ペルオキシレドキシン(Prx)類としては、ペルオキシレドキシン2(Prx2)、ペルオキシ
レドキシン6(Prx6)が挙げられ、Prx6がより好ましい。ペルオキシレドキシン(Prx)類は
酸化型と還元型のいずれか一方或いは合計量のいずれを測定してもよいが、酸化型(例えばPrx2(ox)、Prx6(ox))を測定するのがより好ましい。
【0015】
本発明の1つの実施形態において使用され得る好ましいHODE類の構造式を以下に示す。
【0016】
【化1】

【0017】
HODE類、7-FCOH類は、例えば以下のようにして定量することができる。
【0018】
サンプルは、まず還元剤で処理されて、ヒドロペルオキシド、ペルオキシド等の活性酸素との反応生成物をその還元体に導き、それ以上の分解を抑制するのが好ましい。例えば、HODEの原料であるリノール酸などは、活性酸素と反応してヒドロペルオキシドになる。
【0019】
これを還元体に導くと、9-HODEまたは13-HODEなどに変換される。なお、HODEは、哺乳
動物生体内の活性酸素と反応し、さらに還元されて9-HODE、13-HODEなどに導かれるが、
一重項酸素と反応すると10-HODEまたは12-HODEに変換され得る。
【0020】
生体サンプルを還元して過酸化物を安定なHODE類、7-FCOH類に導くための還元剤としては、ヒドロペルオキシドを還元できるが、炭素−炭素二重結合、カルボキシル(CO
OH)基、エステル基などは還元しない還元剤が使用され、例えば水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、ソディウムシアノボロヒドリド(NaCNBH3)などが挙げられる。
【0021】
還元反応は、還元剤を1当量から過剰量用い、メタノール、エタノールなどのアルコール又は含水アルコール中で、0℃〜50℃程度の温度下に1分から5時間程度反応させることにより有利に進行する。
【0022】
7-FCOH類についてもHODE類と同様にヒドロペルオキシド(OOH)或いはペルオキシド(OO)を経由しているので、還元処理により、さらなる分解が抑制されて、これらをより正
確に測定することができる。
【0023】
上記の還元処理により生成する9-HODE、10-HODE、12-HODE、13-HODE、7α-FCOH、7β-FCOHなどのHODE類、7-FCOH類は比較的安定な化合物であり、それ以上の分解は抑制される

【0024】
上記で得られた還元体は、HODE類の脂肪酸型のものも存在するが、多くはホスファチジルコリンなどのリン脂質、コレステロールエステル、トリグリセライド、ジグリセライドなどのグリセリンエステルとして存在する。従って、このエステルを加水分解して高級脂肪酸に導くために、アルカリ処理剤、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物と反応させてHODEを脂肪酸に導く。
【0025】
アルカリ処理により3位の水酸基がエステル化されていた7−ヒドロキシコレステロールエステルが対応する7−ヒドロキシコレステロールに変換される。
【0026】
アルカリ加水分解は塩基の存在下に、室温から溶媒の沸騰する程度の温度下に10分間から24時間程度行うことにより有利に進行する。塩基としては、溶液をアルカリ性にしてエステルを加水分解できるものであれば特に限定されないが、例えばアルカリ金属水酸化物(NaOH, KOH, LiOHなど)、アルカリ土類金属水酸化物(Ca(OH)2, Mg(OH)2, Ba(OH)2)など)、アルカリ金属炭酸水素塩(NaHCO3, KHCO3, LiHCO3), アルカリ金属炭酸塩(Na2CO3, K2CO3, Li2CO3)などが挙げられる。好ましい塩基はNaOH, KOH, LiOHなどのアル
カリ金属水酸化物である。
加水分解は、水中で行ってもよく、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、DMF,DMSO,N−メチルピロリドン、などの溶媒を水と混合して行うこともできる。
【0027】
このような加水分解によって、遊離形態と共にエステル形態の酸化物(HODE類、7-FCOH類)を測定することができる。
【0028】
HODEが生体内で生成するメカニズムを以下に示す。
【0029】
【化2】

【0030】
(式中、R,Rは、一方が(CH)CHを示し、他方が(CH)COOHを示す。hpoはヒドロペルオキシドを示す。)
還元剤処理によりコレステロールおよびコレステロールエステルの過酸化物ないしカルボニル化合物は、下式のように7α−ヒドロキシコレステロール又は7β−ヒドロキシコレステロールに導かれる。
7-FCOH類の生成メカニズム
【0031】
【化3】

【0032】
アルカリ処理後のサンプルは、HPLC等の通常の分離手段により分離し、GC/MSのような
通常の分析手段を用いて、HODE類、7−ヒドロキシコレステロール類、Prx類などの物質
を定量し、痴呆症の診断及び重症度を評価することができる。
【0033】
Prx類は、サンプルのアルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)
処理などによりタンパク質を沈殿させてタンパク質分画を得、Prx類を二次元電気泳動な
どの常法により分析し、例えばPrx類に対する抗体(抗Prx2抗体、抗Prx6抗体など)を用
いることにより、Prx2、Prx6などのPrx類を測定することができる。該抗体は、酸化型と
還元型のPrx類(Prx2、Prx6など)のいずれかを特異的に認識してもよく、酸化型と還元
型のPrx類(Prx2、Prx6など)を同時に認識するものであってもよい。Prx類の電気泳動(好ましくは二次元電気泳動)による分析は、等電点を利用することにより好ましく行うことができ、例えば等電点を利用した二次元電気泳動により酸化型および還元型Prx2(Prx2(ox)とPrx2(red))、酸化型および還元型Prx6(Prx6(ox)とPrx6(red))を分離可能である。画像の可視化及び定量は定法によって行うことが、例えばCCDカメラによる化学発光検
出によってPrx類の定量、数値化を行うことができる。
【0034】
本発明は、さらに、HODE類、7−ヒドロキシコレステロール類及びペルオキシレドキシン類からなる群から選ばれる少なくとも1種を測定し、痴呆症を検出、診断ないし評価するためのキットに関する。
【0035】
該キットは、哺乳動物(特に好ましくはヒト)由来のサンプルを還元し、ヒドロペルオキシド等の過酸化物をアルコールに導くための還元剤、および、エステル型のヒドロペルオキシドを遊離のカルボン酸に鹸化するためのアルカリ処理剤を含む。さらに、ペルオキシレドキシン類(酸化型及び/または還元型)を検出可能な抗体、二次元電気泳動用の装置などを含むことができる。
【0036】
キットに含まれる還元剤は、サンプルの過酸化物を還元するための過剰量含まれるのが好ましく、例えば1サンプルあたり0.1〜100mg程度(或いは3マイクロモル〜3ミリ
モル)使用される。好ましい還元剤は、NaBH4である。
【0037】
また、アルカリ処理剤はエステルを加水分解できる量であれば特に限定されないが、例えば1〜1000mg程度(或いは0.2〜20ミリモル)使用される。
【0038】
本発明のキットは、さらに還元剤をサンプルに加えた還元反応に使用される溶剤を含むことができる。好ましい溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノールおよびイソプロパノールなどのアルコール系溶剤が例示される。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。
実施例1
脳の画像診断等によって断定されたアルツハイマー病患者29名(平均年齢75.1歳SD8.3
歳)から採血し、即座に遠心機にて血漿を採取した(3500rpm×10分)。血漿2mlを
正確に測りとり、内部標準物質として8-アイソ-プロスタグランジンF2a-d4および9-ヒドロキシオクタデカジエノイックアシッド-d4をそれぞれ50ng添加した。メタノールを1
ml添加した後、窒素気流下でソディウムボロハイドライドを0.01g添加し1分間激しく
攪拌した後、4分間室温下で放置した。続いて窒素下で1mol/lに調整した水酸化カリウムのメタノール溶液を1ml添加し密栓した後、40℃で30分間攪拌した。続いて4℃にて3000Gで10分間遠心し、上澄み液を採取した後塩酸水溶液によってpHを3に調整した。
さらに4℃にて3000Gで10分間遠心し、上澄み液をメタノールおよびpH3の水(各2ml
)によって前調整したSep−Pak C18(Waters社製、体積1ml)へ充填し
、各々10mlのpH3水およびアセトニトリル/水(15/85、体積)混合液によって
洗浄した。続いて4mlのヘキサン/酢酸エチル/イソプロピルアルコール(30/65
/5、体積)混合液で目的成分を溶出した。溶出した液を5mlのヘキサンによって前調
整したSep−Pak NH(Waters社製、体積1ml)へ充填し、各々5mlのヘキサン/酢酸エチル(3/7、体積)およびアセトニトリルによって洗浄した。続いて5mlの酢酸エチル/メタノール/酢酸(10/85/5、体積)混合液で目的成分を溶
出した。溶出した液を窒素気流下で溶媒留去を行った。蒸発乾固した成分にN、O-ビス
(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(和光純薬社製)を30μl加え、60℃にて1時間反応した。得られたTMS化サンプルの3μlを質量分析装置(アジェレント社製5973)を備えたガスクロマトグラフィー(アジェレント社製6890N)によって分析し、血漿中の濃度として、トータルヒドロキシオクタデカジエノイックアシッドを得た。一方、疾病歴がない健常者24名(平均年齢68.4歳SD5.0歳)の血漿をまったく同様に測定した。
一方で、医師によるClinical Dementia Rating(CDR)を患者ごとに診断した。CDRは健康状態で0、軽度痴呆1、中程度痴呆2、高度痴呆3、非常に高度の痴呆4、末期痴呆5(応答なく、寝たきり状態)として診断される(参考文献;Hughes CP et al., A new clinical scale for the staging of dementia, Br. J. Psychiatry, 140: 566-572, 1982)。図1に示すように、CDRと血漿中トータルヒドロキシオクタデカジエノイックアシッドとの間に
は極めて良い相関が得られた。相関係数から統計学上有意であると判断される。このように、血漿のトータルヒドロキシオクタデカジエノイックアシッドを測定することによって、早期アルツハイマー病を診断することが可能となった。
実施例2
脳の画像診断等によって断定されたアルツハイマー病患者29名(平均年齢75.1歳SD8.3
歳)から採血し、即座に遠心機にて赤血球を採取した(3500rpm×10分)。赤血球を5
倍量の生理食塩水で3回洗浄することによって完全に血漿を除去した後、生理食塩水によ
ってヘマトクリット値50%に調整した。赤血球溶液に4倍量のメタノールを添加し、ボル
テックスミキサーによって激しく撹拌することによって完全に溶血させた。4℃にて15000rpmで10分間遠心分離し、完全に蛋白質各分を沈降させた後、上層のメタノール溶液2mlを実施例1とまったく同様に分析に供し、トータルヒドロキシオクタデカジエノイックア
シッドを得た。測定値は100%ヘマトクリット値になるように換算し、nmol/L-packed cellとして表した。図2に示すように、CDRと赤血球中トータルヒドロキシオクタデカジエノ
イックアシッドとの間には良い相関が得られた。
【0040】
一方で、アルツハイマー病患者29名のうち7名、および実施例1に記載の24名のうち11名について沈降させた蛋白質画分を用いて、二次元電気泳動、ウエスタンブロット分析によりペルオキシレドキシン2,ペルオキシレドキシン6の酸化型の比率を求めた。
赤血球のメタノール沈殿画分は細胞溶解液に溶解し、超音波洗浄器で破砕、遠心分離(15000 rpm 20分)して上澄み画分の蛋白質量をBCA法にて定量した(細胞溶解液の組成
:20 mMトリス−塩酸緩衝液(pH 7.4), 1%トリトンX−100、1% SDS, 100 mM NaCl, プ
ロテアーゼ阻害剤として細胞溶解液1mlに対して、5 μgペプスタチン、200 μgベンズア
ミジン、25 μgロイペプチンを加えた。)。この溶解液を蛋白質量が30μgとなるように
エッペンドルフチューブに分注し10倍量メタノールを加え、-30℃16時間後遠心分離
(15000 rpm 20分)して沈殿画分を得た。この沈殿を125 μL 9M 尿素 65mM DTE 4% CHAPS 0.5% Ampholyte に溶解させ、pH 4-7 7cm Immobiline strip gel(Amersham Bioscience)で12時間膨潤した。IPGPhor 電気泳動装置(AmershamBioscience社)により500V1時間、1000V1時間、8000V2時間のタイムプログラムにより等電点電気泳動(一次元目)を行った。泳動終了後、等電点電気泳動を行ったゲルは50 mM Tris-HCl(pH 6.8)、6M尿素、30% グリセロール、2% SDS、20mM DTEにより平衡化し、12.5% のSDSポリアクリルアミド
ゲル電気泳動によって二次元目の電気泳動を行った。電気泳動を行った後、PVDF膜(ABI Problott Membrances)に10V(定電圧)1時間セミドライ転写を行い、5%スキムミルク(ナカライテスク)/0.1% TBS-Tで室温1時間ブロッキングを行った。この膜を10 ml TBS-Tに1/4000に希釈した抗ペルオキシレドキシン2抗体(LabFrontier LF-PA0007)もしくは抗
ペルオキシレドキシン6抗体(LabFrontier LF-PA0011)を加え、4℃16時間インキュベートした。この膜を0.1 % TBS-Tで10分3回洗浄した後、10ml 0.1% TBS-T に1/3000に
希釈したIgG-HRP (Amersham Bioscience)に室温1時間インキュベートし、0.1 % TBS-T
で10分3回洗浄した。Chemi-Lumi One(ナカライ)に膜を浸して冷却CCDカメラによるスポットの可視化をLAS3000mini(富士写真フイルム社)により行った。この画像デー
タを図3に示す。ペルオキシレドキシン2の還元型、酸化型はそれぞれ等電点が5.8、5.4のスポットとして、ペルオキシレドキシン6の還元型、酸化型はそれぞれ等電点が6.4、6.1として分離される(参考文献:Wagner E et al., A method for detection of overoxidation of cysteines: peroxiredoxins are oxidized in vivo at the active-site cysteine during oxidative stress, Biochem J., 366, 777-785, 2002)。スポットの濃度はPhoretix 2Dソフトウエア(Non-linear社)によって求め、酸化体のスポット濃度/(酸化
体のスポット濃度+還元体のスポット濃度)をペルオキシレドキシンの酸化の割合とした。図4にトータルヒドロキシオクタデカジエノイックアシッドとペルオキシレドキシン2、および図5にトータルヒドロキシオクタデカジエノイックアシッドとペルオキシレドキシン6の酸化の割合を示した。このように、トータルヒドロキシオクタデカジエノイックアシッドはペルオキシレドキシン2の酸化の割合、ペルオキシレドキシン6の酸化の割合とよい正の相関を示した。
実施例3
実施例2と全く同様に、血管性痴呆患者8名(平均年齢71.6歳SD8.4歳)について赤血球中のトータルヒドロキシオクタデカジエノイックアシッドおよびペルオキシレドキシン2,ペルオキシレドキシン6の酸化体の割合を測定した。それらの相関を図6、図7に示す。図6はトータルヒドロキシオクタデカジエノイックアシッドとペルオキシレドキシン2、図7はトータルヒドロキシオクタデカジエノイックアシッドとペルオキシレドキシン6に関するデータで、いずれもトータルヒドロキシオクタデカジエノイックアシッドに対して血管性痴呆患者のペルオキシレドキシン2,ペルオキシレドキシン6の酸化体の割合は有意な逆相関を示した。よって、赤血球中トータルヒドロキシオクタデカジエノイックアシッド、ペルオキシレドキシン2およびペルオキシレドキシン6の酸化体の割合を比較す
ることで、いずれの値も高い場合はアルツハイマー病と診断され、トータルヒドロキシオクタデカジエノイックアシッドの値のみが高い場合は血管性痴呆と診断することができる。以上のように、本方法により赤血球を用いることで健常者、アルツハイマー病と血管性痴呆を区別することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】CDRと血漿中トータルヒドロキシオクタデカジエノイックアシッドとの関係を示す。
【図2】CDRと赤血球中トータルヒドロキシオクタデカジエノイックアシッドとの関係を示す。
【図3】Prx2とPrx6の還元型、酸化型の二次元電気泳動の結果を示す。
【図4】トータルヒドロキシオクタデカジエノイックアシッド(THODE)とペルオキシレドキシン2(Prx2)酸化型の関係を示す。
【図5】トータルヒドロキシオクタデカジエノイックアシッド(THODE)とペルオキシレドキシン6(Prx6)酸化型の関係を示す。
【図6】トータルヒドロキシオクタデカジエノイックアシッド(THODE)とペルオキシレドキシン2(Prx2)酸化型の関係を示す。
【図7】トータルヒドロキシオクタデカジエノイックアシッド(THODE)とペルオキシレドキシン6(Prx6)酸化型の関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物由来のサンプル中のヒドロキシオクタデカジエノイックアシッド(HODE)類、7−ヒドロキシコレステロール(7-FCOH)類及びペルオキシレドキシン(Prx)類からなる群か
ら選ばれる少なくとも1種を測定することを特徴とする痴呆症の診断方法。
【請求項2】
前記HODE類が、9-HODE, 10-HODE, 12-HODEおよび13-HODEからなる群から選ばれる少なく
とも1種である請求項1に記載の診断方法。
【請求項3】
前記HODE類が、9-HODEおよび13-HODEからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求
項2に記載の診断方法。
【請求項4】
前記7-FCOH類が、7α−ヒドロキシコレステロール(7α-FCOH)および7β−ヒドロキシコレステロール(7β-FCOH)からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の診断方法。
【請求項5】
前記ペルオキシレドキシン類が、酸化型及び還元型ペルオキシレドキシン2(Prx2)並びに酸化型及び還元型ペルオキシレドキシン6(Prx6)からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の診断方法。
【請求項6】
痴呆症がアルツハイマー病及び脳血管性痴呆症からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の診断方法。
【請求項7】
哺乳動物由来のサンプル中のヒドロキシオクタデカジエノイックアシッド(HODE)類及びペルオキシレドキシン(Prx)類を測定し、アルツハイマー病及び脳血管性痴呆症からなる
群から選ばれる痴呆症を区別して診断することを特徴とする、請求項1に記載の診断方法。
【請求項8】
哺乳動物由来のサンプルを還元剤で処理後、アルカリ処理してHODE類および7−FCOH類からなる群から選ばれる少なくとも1種を測定し、必要に応じてさらにタンパク質画分からペルオキシレドキシン(Prx)類を測定することを特徴とする。請求項1に記載の診断
方法。
【請求項9】
還元剤がNaBH4である請求項8に記載の診断方法。
【請求項10】
アルカリ処理をアルカリ金属水酸化物を用いて行う請求項8に記載の診断方法。
【請求項11】
還元剤とアルカリ処理剤を含むHODE類、7−FCOH類及びPrx類からなる群から選ばれ
る少なくとも1種を測定して痴呆症を診断するための診断キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−349451(P2006−349451A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174961(P2005−174961)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】