説明

癌を治療するための毒素および放射性核種結合IGF−1受容体リガンド

本発明は、癌を治療するための、治療用放射性核種を有するインスリン様成長因子1(IGF−1)受容体リガンドを提供する。治療用放射性核種を有するIGF−1受容体リガンドを用いて、癌を治療する方法も提供する。毒素に結合したIGF−1受容体リガンドを含有する抗癌治療剤、および癌を治療するためにその毒素コンジュゲートを使用する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
現在、米国だけで毎年130万人が癌と診断され、50万を超す人々が死亡している。癌の新しい種類の治療法として浮上している方法の1つが、治療用放射性核種に結合した抗体を用いる放射線療法の一種であり、その抗体は、特定の種類の癌に特異的であるか、または主として癌細胞に見出される標的を認識する。現在、米国では2例が治療のために承認されており、イブリツモマブ・チウキセタン(ZEVALIN(登録商標))とトシツモマブ(BEXAR(登録商標))である。イブリツモマブ・チウキセタンは、正常B細胞および悪性B細胞に見出されるCD20抗原を認識する。この抗体は、チウキセタンキレート化部分によって治療用イットリウム90放射性核種と結合している。トシツモマブもCD20抗原を認識するが、これはI−131放射性核種で標識されている。共にB細胞非ホジキンリンパ腫の治療に用いられている。
【背景技術】
【0002】
癌細胞に見出される標的を認識する抗体と結合している、ジフテリア毒素またはシュードモナス(Pseudomonas)外毒素などの毒素を含む抗癌剤も研究されているが、この種の薬剤はいずれも現在のところ米国では承認されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
癌を治療するための新しい薬剤が求められている。それらの薬剤は癌細胞を標的とし、健常細胞には概して影響を与えないことが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、治療用放射性核種、あるいはジフテリア毒素またはシュードモナス外毒素などの細胞毒素に結合した、IGF−1自体などのインスリン様成長因子1(IGF−1)受容体のリガンドを含む新規な抗癌治療剤を提供する。
【0005】
これまでの研究において、癌細胞に特異的に見出される抗原に毒素および放射性核種を送達するために、毒素および放射性核種は、抗体と結合していた。抗体を使用する欠点の1つは、抗体が大きな分子であり、投与される患者にしばしば免疫反応および過敏性反応を引き起こすことである。これはそれらの治療的な使用を妨げ得る。抗体の大きさはさらに、それらが固形腫瘍に有効に浸透できない可能性のあることを意味する。抗体はまた、それらが結合する細胞に通常は内在化されない。抗体は単に細胞表面に位置する。放射性核種標識抗体の場合、放射性核種が標的細胞に内在化され、したがって細胞の表面上にあるよりも、放射能の治療標的である細胞の核酸に近ければ、いくらか好ましいであろう。毒素コンジュゲート抗体の場合、細胞を殺すためには、通常、毒素は細胞に内在化されなければならないため、抗体および毒素が標的癌細胞に内在化されないならば、より大きな問題である。
【0006】
癌を定義づける特徴は、適切な制御なしに癌細胞が分裂することである。放射線は分裂していない休止細胞に比べて、活発に分裂している細胞に対してより毒性であるため、放射線は抗癌療法に用いられている。しかしながら、癌細胞は常に分裂しているわけではない。放射線に暴露される時点またはその前後に、細胞の分裂を誘発することができれば、放射線療法の有効性を増大できるだろう。
【0007】
IGF−1受容体は、ほぼすべての種類の癌によるほとんどの腫瘍において著しく過剰に発現している。IGF−1は、プロインスリンと40%の同一性を有する70アミノ酸残基のペプチドである(Daughaday,W.H.等、1989年、Endocrine Revs.10:68)。IGF−1は肝臓によって循環系に分泌され、多くの細胞型の成長を刺激する。IGF−1はまた、オートクリン作用およびパラクリン作用のために、多くの癌を含む全身の多くの細胞型によって産生される。IGF−1産生は、成長ホルモンに刺激される(Stewart,C.H.等、1996年、Physiol.Revs.76:1005;Yakar,S.等、2002年、Endocrine、19:239)。IGF−1受容体は、良性乳房組織に比べて、悪性乳癌組織で43倍多く見出された(Jammes,H.等、Br.J.Cancer 66:248〜253)。
【0008】
IGF−1の生物学的役割は、細胞分裂を刺激することである。放射線は非分裂細胞に比べて分裂細胞に対してより毒性であるため、これは大きな意義を有する。したがって、放射性標識IGF−1受容体アゴニストは、高い特異性で癌細胞を標的とするだけでなく、それらが照射されるときに細胞の分裂を引き起こし、放射性に対して細胞を感作する可能性もある。
【0009】
さらに、その受容体と結合することによって、IGF−1は受容体介在性エンドサイトーシスにより細胞に内在化される。これによりIGF−1または別のIGF−1受容体リガンドに結合した放射性核種は細胞に取り込まれ、標的核酸に近づく。この要因は、毒素−IGF−1受容体リガンドコンジュゲートの場合に、より重要である。なぜなら、これが毒素を細胞内に取り込み、ほとんどの毒素はその毒性を発揮するために細胞に浸透しなければならないためである。
【0010】
したがって、本発明の一実施形態は、治療用放射性核種を有するインスリン様成長因子(IGF−1)受容体リガンドを提供する。
【0011】
本発明の他の実施形態は、毒素に結合したIGF−1受容体リガンドを含む、抗癌治療剤を提供する。
【0012】
本発明の他の実施形態は、哺乳動物において癌を治療する方法であって、治療用放射性核種を有する治療上有効量のIGF−1受容体リガンドをその哺乳動物に投与することを含む方法を提供する。
【0013】
本発明の他の実施形態は、哺乳動物において癌を治療する方法であって、毒素に結合したIGF−1受容体リガンドを含有する治療上有効量の治療剤をその哺乳動物に投与することを含む方法を提供する。
【0014】
本発明の他の実施形態は、癌細胞の増殖を阻害する方法であって、治療用放射性核種を有するIGF−1受容体リガンドにそれらの癌細胞を接触させることを含む方法を提供する。
【0015】
本発明の他の実施形態は、癌細胞の増殖を阻害する方法であって、毒素に結合したインスリン様成長因子1(IGF−1)受容体リガンドを含有する治療剤にそれらの癌細胞を接触させることを含む方法を提供する。
【0016】
本発明の他の実施形態は、抗癌活性に関して化合物をスクリーニングする方法であって、治療用放射性核種を有するIGF−1受容体リガンドを含む化合物に癌細胞を接触させることを含む方法を提供する。
【0017】
本発明の他の実施形態は、抗癌活性に関して化合物をスクリーニングする方法であって、毒素に結合したIGF−1受容体リガンドを含む化合物に癌細胞を接触させることを含む方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
定義:
本明細書では、「毒素」という用語は、すべての細胞に対して一般に致死性である分子または部分を指す。これは選択的に分裂細胞に対して致死性であり、非分裂細胞に対して致死性の低い従来の抗癌化学療法剤と対照的である。選択的に分裂細胞に対して致死性であり、哺乳動物において癌を治療するために全身投与することのできる抗癌化学療法剤は、本明細書では「毒素」という用語から除外する。
【0019】
本明細書では、「治療用放射性核種」という用語は、癌細胞を殺すのに治療上有用である放射線形態を放出する原子を指す。
【0020】
本明細書では、「含有する(containing)」という用語は制限がなく、名前を挙げていない他の要素を包含することができ、「含む(comprising)」と同じ意味を有する。
説明:
本発明の一実施形態は、治療用放射性核種を有するIGF−1受容体リガンドを提供する。いくつかの実施形態において、たとえばI−131によるタンパク質リガンドのチロシンまたはヒスチジン残基のヨウ素化によって、放射性核種はリガンドに直接結合することができる。
【0021】
他の実施形態において、放射性核種は、リンカー部分によってリガンドに結合されている。このリンカー部分には、放射性核種を保持するためのキレート剤を含むことができる。キレート剤の例は、チウキセタン[N−[2−ビス(カルボキシメチル)アミノ]−(p−イソチオシアネートフェニル)−プロピル]−[N−[2−ビス(カルボキシメチル)アミノ]−2−(メチル)−エチル]グリシン]がある。他の結合用リガンドの例は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)がある。IGF−1リガンドを直接、またはキレート剤リンカーを用いて放射性標識する方法は、実施例1にさらに詳しく記載する。
【0022】
好適な放射性核種の例は、ヨウ素131、イットリウム90、インジウム111、レニウム186、およびルテチウム177である。これらはすべて短い半減期を持つベータまたはガンマ放射体である。細胞に内在化されているIGF−1受容体リガンドの場合、アルファ放射体も治療上有効な放射性核種でありえる。アルファ粒子は非常に短い距離で吸収されるため、癌細胞の表面または腫瘍の外面から放射された場合、通常は治療上有用でない。しかしながら、IGF−1受容体の多くのリガンドは、受容体介在性エンドサイトーシスによって内在化される。これにより放射性核種は細胞の核に取り込まれ、DNA標的と直接接触することになる。したがって、その場合アルファ放射の放射性同位体が有用でありえる。
【0023】
治療用放射性核種を有するIGF−1受容体リガンドは、IGF−1受容体アゴニストであることができる。アゴニストは細胞分裂を刺激し、放射線は非分裂細胞に比べて分裂細胞に対してより致死性であるため、これにより癌細胞は放射線による殺滅に感作されることになる。アゴニストであるIGF−1受容体リガンドの好適な例は、IGF−1自体である。ヒトIGF−1の配列を配列番号1として示す。
【0024】
本発明における使用に適したIGF受容体アゴニストの他の例には、受容体を活性化するが、可溶性IGF−1結合タンパク質に対して低下した親和性を有するIGF−1の変異体が含まれる。いくつかの例が米国特許第4876242号に開示されている。IGF−1結合タンパク質は、IGF−1に結合して循環中、IGF−1を維持し、その生物学的半減期を延長する天然血清タンパク質である。IGF−1結合タンパク質に対する結合の低下により、IGF−1受容体と結合する薬剤の放出が促進されるため、結合の低下は、本発明の放射性標識および毒素結合IGF−1受容体リガンドに有利な可能性がある。IGF受容体と結合するが、可溶性IGF結合タンパク質とは結合しない特に重要なIGF−1変異体は、IGF−1の最初の16残基が、インスリンB鎖の最初の17残基に置換されている変異体である(米国特許第4876242号)(配列番号2)。
【0025】
他の特定の実施形態において、IGF−1受容体アゴニストは、IGF−2である(配列番号8)。
【0026】
本発明の特定の実施形態において、毒素コンジュゲートおよび放射性標識剤には、可溶性IGF−1結合タンパク質に対する親和性が低下した変異IGF−1タンパク質が含まれる。特定の実施形態において、変異体は、可溶性IGF−1結合タンパク質に対する結合親和性が天然IGF−1に比べて、100分の1より低い、さらに好ましくは1000分の1より低い。可溶性IGF−1結合タンパク質に対する結合親和性は、Bayne,M.L.等、1988年、J.Biol.Chem.263:6233〜6239、およびBayne,M.L.等、1987年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:2638〜2642に記載のとおり検定することができる。この技法は、酸安定性ヒト血清タンパク分画に対する125I−IGF−1の結合の阻害に関して、その変異IGF−1の阻害定数を測定することを含む。
【0027】
本発明の特定の実施形態において、放射性標識されているか、または毒素コンジュゲートの一部であるIGF−1受容体リガンドは、10μM未満、1μM未満、100nM未満、50nM未満、20nM未満、10nM未満、5nM未満、2nM未満、または1nM未満のIGF−1受容体に対するKDを有する。好ましくは、リガンドは、約50nM未満、より好ましくは約20nM未満のIGF−1受容体に対するKDを有する。IGF−1受容体に対する結合親和性は、たとえばBayne,M.L.等、1988年、J.Biol.Chem.263:6233〜6239、およびBayne,M.L.等、1987年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:2638〜2642に記載のとおり、胎盤膜に対する結合に関して放射性標識IGF−1との競合を測定することによって求めることができる。
【0028】
いくつかの実施形態において、IGF−1受容体リガンドは、IGF−1受容体アンタゴニストである。いくつかのアンタゴニストペプチドは、米国特許出願公開第2004/0023887号に開示されており、ペプチドSFSCLESLVNGPAEKSRGQWDGCRKKが含まれる(配列番号3)。
【0029】
特定の実施形態において、IGF−1受容体リガンドは、インスリン受容体に対してより、IGF−1受容体に対して大きい親和性を有する。特定の実施形態において、IGF−1受容体リガンドは、インスリンでない。特定の実施形態において、IGF−1受容体リガンドは、インスリン受容体に対してより、IGF−1受容体に対して高い親和性を有する。
【0030】
特定の実施形態において、IGF−1受容体リガンドは、抗体または抗体フラグメントでない。その他の実施形態において、IGF−1受容体リガンドは、抗体または抗体フラグメントである。
【0031】
特定の実施形態において、IGF−1受容体リガンドは、200未満のアミノ酸残基、または100未満のアミノ酸残基のポリペプチドである。
【0032】
本発明の一実施形態は、毒素に結合したIGF−1受容体リガンドを含有する抗癌治療剤である。
【0033】
毒素コンジュゲートの特定の実施形態において、IGF−1受容体リガンドは、IGF−1受容体アゴニストである。たとえば、IGF−1であるか、または可溶性IGF−1結合タンパク質に対する結合が低下している米国特許第4876242号の変異IGF−1の1つであることができる。
【0034】
いくつかの実施形態において、IGF−1受容体リガンドは、IGF−1受容体アンタゴニストである。いくつかのアンタゴニストペプチドは、米国特許出願公開第2004/0023887号に開示されており、ペプチドSFSCLESLVNGPAEKSRGQWDGCRKKが含まれる(配列番号3)。
【0035】
毒素コンジュゲートの特定の実施形態において、IGF−1受容体リガンドは、インスリン受容体に対してより、IGF−1受容体に対して大きい親和性を有する。特定の実施形態において、IGF−1受容体リガンドは、インスリンでない。特定の実施形態において、IGF−1受容体リガンドは、インスリン受容体に対してより、IGF−1受容体に対して高い親和性を有する。
【0036】
毒素コンジュゲートの特定の実施形態において、IGF−1受容体リガンドは、抗体または抗体フラグメントでない。その他の実施形態において、IGF−1受容体リガンドは、抗体または抗体フラグメントである。
【0037】
毒素コンジュゲートの特定の実施形態において、IGF−1受容体リガンドは、200未満のアミノ酸残基、または100未満のアミノ酸残基のポリペプチドである。
【0038】
特定の実施形態において、毒素は、ジフテリア毒素、シュードモナス外毒素、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)エンテロトキシン、リシン、またはそれらの毒性フラグメントである。
【0039】
特定の実施形態において、IGF−1受容体リガンド−毒素コンジュゲートの毒素部分は、天然毒素の毒性フラグメントである。ジフテリア毒素、シュードモナス外毒素、およびクロストリジウム・パーフリンジェンスエンテロトキシンなどの、ほとんどの細菌毒素は、毒素を特定の細胞表面受容体に向かわせる部分とその毒素タンパク質の毒性に関与する部分とを含む。たとえば、クロストリジウム・パーフリンジェンスエンテロトキシンは、細胞表面でクローディン3およびクローディン4に結合する。クロストリジウム・パーフリンジェンスエンテロトキシン(CPE)は、319アミノ酸残基のタンパク質である(配列番号4)。クロストリジウム・パーフリンジェンスエンテロトキシンの残基290〜319からなるペプチドは、クローディン3およびクローディン4に結合するが、毒性ではない(Hanna,P.C.等、1991年、J.Biol.Chem.260:11037〜43)。CPEの残基のおよそ45〜116は、細胞膜内に大きな複合体を形成することによって、細胞溶解に関与する(Kokai−Kun,J.F.等、1996年、Infect.Immun.64:1020〜25;Kokai−Kun,J.F.等、1997年、Clin.Infect.Dis.25(補遺2):S165〜S167;Kokai−Kun,J.F.等、Infect.Immun.65:1014〜1022;Kokai−Kun,J.F.等、1999年、Infect.Immun.67:5634〜5641;Hanna,P.C.等、1991年、J.Biol.Chem.266:11037〜43)。受容体への結合を止めるには残基315〜319だけの欠失で充分である(Kokai−Kun,J.F.等、1999年、Infect.Immun.67:5634〜5641)。したがって、本発明の毒素コンジュゲートのいくつかの実施形態において、コンジュゲートの毒素部分は、配列番号4の残基45〜116を含有するが、配列番号4の残基315〜319を欠く、CPEのフラグメントである。たとえば、この毒素は、配列番号4の残基1〜314、1〜289、1〜116、45〜314、45〜289、または45〜116であってよい。
【0040】
他の実施形態において、毒素は、ジフテリア毒素、またはその毒性フラグメントである。ジフテリア毒素は、535アミノ酸残基のタンパク質である(配列番号5)。これは3つのドメインを含有する。残基1〜193は、細胞において伸長因子2を不活性化して、細胞を殺すことに関与するADPリボシルトランスフェラーゼ活性を有する触媒ドメインである(Choe,S.等、1992年、Nature 357:216〜222)。残基のおよそ203〜378は、細胞膜を横切る毒素の転移に関与する(同上)。さらに、残基のおよそ386〜535は、受容体への結合に関与する(同上)。ジフテリア毒素の残基1〜389へのインターロイキン2の融合は、ジフテリア毒素のより長いフラグメントへの融合に比べて、インターロイキン2受容体を有する細胞に対して細胞毒性が強いことが見出されている(Williams,D.P.等、1990年、J.Biol.Chem.265:11885〜89;Kiyokawa,T.等、1991年、Protein Engineering 4:463〜468)。したがって、いくつかの実施形態において、本発明のコンジュゲートの毒素部分は、配列番号5の残基1〜389である。
【0041】
一実施形態において、毒素−IGF−1受容体リガンドコンジュゲートは、配列番号6であるか、または配列番号6を含み、これは可溶性IGF結合タンパク質に結合しない変異IGF−1配列番号2に結合したジフテリア毒素の残基1〜389である。配列番号6において、コンジュゲートのIGF−1部分とジフテリア毒素部分は、His−Alaリンカーで分離されている。
【0042】
他の実施形態において、毒素−IGF−1受容体リガンドコンジュゲートは、配列番号7であるか、または配列番号7を含み、これは配列番号2に結合したクロストリジウム・パーフリンジェンスエンテロトキシン(CPE)の残基45〜289である。配列番号7において、コンジュゲートのIGF−1部分とCPE部分は、His−Alaリンカーで分離されている。
【0043】
参照により本明細書に取り込まれる米国特許仮出願第60/513048号、および国際公開第2005/041865号に開示の方法によって、毒素はタンパク様IGF−1受容体リガンドに化学的にコンジュゲートすることができる。
【0044】
毒素とIGF−1受容体リガンドが共にタンパク質またはペプチドである場合、それらのコンジュゲートは、好ましくは、組み換えDNA法によって発現された毒素とIGF−1受容体リガンドの融合タンパク質である。
【0045】
毒素コンジュゲートの特定の実施形態において、毒素は、カリケアマイシンまたはその誘導体である(Merck Index 第13版、#1722)。特にカリケアマイシンγ1Iまたはその誘導体である。カリケアマイシンの誘導体化は、典型的にトリスルフィドで生じる(Hamann,P.R.等、2005年、Bioconjugate Chem.16:346〜353;Hinman,L.M.等、Enediyne Antibiotics as Antitumor Agents、87〜106頁、D.B.Borders、T.W.Doyle編、Marcel Dekker Inc.New York、1995年)。カリケアマイシンは、毒素と対比して従来の抗癌化学療法剤とみなされることがある。しかしながら、カリケアマイシンは動物モデルにおいて腫瘍に対して短期的にはもっとも有効である用量で、またはその用量以下で、標的薬剤にコンジュゲートすることなく全身投与されたとき、それらの動物にほぼ100%の遅延致死率を示すため、本明細書では「毒素」とみなす(Durr,F.E.等、Enediyne Antibiotics as Antitumor Agents、127〜136頁、D.B.Borders、T.W.Doyle編、Marcel Dekker Inc.New York、1995年)。
【0046】
好ましくは、タンパク質であるIGF−1受容体リガンド(たとえば、配列番号1または配列番号2)は、その1つまたは複数のリシン(lysine)残基によって、N−アセチル−カリケアマイシンγ1Iにコンジュゲートされている。N−アセチル−カリケアマイシンγ1Iは、過剰の無水酢酸において、メタノール中カリケアマイシンγ1Iをアセチル化することによって作製できる。NAc−ガンマカリケアマイシンジメチル酸O−スクシンイミジルエステル(Hamann,P.R.等の化合物6、2005年、Bioconjugate Chem.16:346〜353)は、Hamann,P.R.等、2002年、Bioconjugate Chem.13:40〜46に記載のとおり調製される。この活性化スクシンイミジルエステルは、タンパク質のアミン基と反応し、IGF−1受容体リガンドとN−アセチル−カリケアマイシンγ1Iとの間にアミド結合コンジュゲートを形成する。
【0047】
本発明の一実施形態は、哺乳動物において癌を治療する方法であって、治療用放射性核種を有する治療上有効量のIGF−1受容体リガンドをその哺乳動物に投与することを含む方法である。特定の実施形態において、癌は、非小細胞肺癌、前立腺癌、結腸直腸癌、乳癌、膵臓癌、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、白血病、肝臓癌、胃癌、卵巣癌、子宮癌、精巣癌、脳腫瘍、または黒色腫である。
【0048】
本発明の一実施形態は、哺乳動物において癌を治療する方法であって、毒素に結合したインスリン様成長因子1(IGF−1)受容体リガンドを含有する治療上有効量の治療剤をその哺乳動物に投与することを含む方法である。特定の実施形態において、癌は、非小細胞肺癌、前立腺癌、結腸直腸癌、乳癌、膵臓癌、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、白血病、肝臓癌、胃癌、卵巣癌、子宮癌、精巣癌、脳腫瘍、または黒色腫である。
【0049】
本発明の一実施形態は、癌細胞の増殖を阻害する方法であって、治療用放射性核種を有するIGF−1受容体リガンドにその癌細胞を接触させることを含む方法である。接触はin vivoまたはin vitroであることができる。特定の実施形態において、治療用放射性核種を有するIGF−1受容体リガンドは、癌細胞を殺滅する。
【0050】
本発明の他の実施形態は、癌細胞の増殖を阻害する方法であって、毒素に結合したIGF−1受容体リガンドを含有する治療剤にその癌細胞を接触させることを含む方法である。接触はin vitroまたはin vivoであることができる。特定の実施形態において、癌細胞は殺滅される。
【0051】
本発明の他の実施形態は、抗癌活性に関して化合物をスクリーニングする方法であって、治療用放射性核種を有するIGF−1受容体リガンドを含む化合物に癌細胞を接触させることを含む方法である。この方法は、癌細胞の増殖または殺滅をモニターすることを含む。接触はin vitroまたはin vivoであることができる。
【0052】
本発明の他の実施形態は、抗癌活性に関して化合物をスクリーニングする方法であって、毒素に結合したIGF−1受容体リガンドを含む化合物に癌細胞を接触させることを含む方法である。この方法は、癌細胞の増殖または殺滅をモニターすることを含む。接触はin vitroまたはin vivoであることができる。
【0053】
以下の非限定的な実施例によって、本発明を例示する。
【実施例1】
【0054】
131I−IGF−1および90Y−IGF−1によるマウス乳癌モデルの治療
材料および方法:
IODO−GEN法(1,3,4,6−テトラクロロ−3α,6α−ジフェニルグリコールウリル;Pierce Biotechnology,Inc)を用いて、IGFをI−131(Amersham Biosciences)で放射性ヨウ素化する。簡潔には、IODO−GEN50〜100μgで被覆したガラス製バイアルにおいて、PBS(0.1M、pH7.4)85μl中、IGF−1を室温でインキュベートする。10分後、飽和チロシン溶液100μlを添加して、反応を停止する。その後、反応混合物をPD−10カラム(Amersham Biosciences)において、PBSおよび0.5%ウシ血清アルブミンで溶出して分離する。比放射能は約80kBq/μgである(Koppe,M.J.等、2004年、J.Nucl.Med.45:1224〜1232)。
【0055】
Y−90で標識するために、IGF−1をイソチオシアネート−ベンジル−ジエチレントリアミン五酢酸(ITC−DTPA、Macrocyclics,Inc)とコンジュゲートする。Ruegg等(Ruegg,C.L.等、1990年、Cancer Res.50:4221〜26)によって記載されているとおり、100倍モル過剰のITC−DTPAを用いて、室温で1時間、NaHCO3緩衝液(0.1M、pH8.2)中、ITC−DTPAをIGF−1にコンジュゲートする。酢酸アンモニウム緩衝液(0.1M、pH5.0)に対して透析して、このDTPA−IGF−1コンジュゲートを精製する。IGF−1分子当たりのDTPAリガンド数は、Hnatowich,D.J.等、1983年、J.Immunol.Methods 65:147〜157の方法で求めることができる。IGF−1当たり3つまでのリガンドがコンジュゲートされていてもよい。精製したDTPA−IGF−1コンジュゲート(0.8mg/ml)を、室温で20分間、酢酸アンモニウム緩衝液(0.1M、pH5.4)中、Y−90(Perkin−Elmer Corp.)と共にインキュベートする。比放射能は約370kBq/μgである(Koppe,M.J.等、2004年、J.Nucl.Med.45:1224〜1232)。
【0056】
この放射性標識調製物を、0.5%ウシ血清アルブミンを含むPBSで溶出して、PD−10カラム(Amersham)でゲル濾過によって精製する。シリカゲル片および移動相としてクエン酸緩衝液(0.1M、pH6.0)を用い、薄層クロマトグラフィで遊離放射性同位体の量を求める。IGF−1にコンジュゲートしていない標識は5%未満であるべきである。
【0057】
6週齢の雌ヌードマウス(nu/nu、Sprague Dawley、Madison、Wisconsin)で、非標識IGF−1、131I−IGF−1、および90Y−IGF−1の最大耐用量を求める。
【0058】
MCF−7は、IGF−1に反応性のヒト乳癌細胞株である(Dupont,J.等、2003年、J.Biol.Chem.278:37256)。MCF−7細胞は、5%ウシ胎児血清(FCS)および10μg/mlインスリンを添加したF12/DME培養液において、95%空気、5%CO2中、37℃で培養する(Karey,K.P.等、1988、Cancer Res.48:4083〜4092)。細胞を4〜6日毎に移し、10cm皿の培養液20mlに1.75×106細胞/プレートで接種する。
【0059】
上述のとおりMCF−7細胞を培養する。無血清培養液0.05ml中5×106MCF−7細胞を、6週齢の雌ヌードマウス(nu/nu、Sprague Dawley、Madison、Wisconsin)の背部に皮下注射する。マウスのエストロゲン産生は、MCF−7の増殖を支持するには不十分であるため、癌細胞注射の1日前から開始して、その後は週に1回、ゴマ油に溶解したベータ−エストラジオール(0.1mg/油0.05ml、皮下)をマウスに注射する。直径5mmまで腫瘍を成長させる(Hardman,W.E.等、1999年、Anticancer Res.19:2269)。
【0060】
腫瘍が5mmに達したときに、IGF−1、131I−IGF−1、または90Y−IGF−1を、それぞれ5匹のマウスに最大耐用量の半量で注射する。5匹のコントロールマウスには薬剤を与えない。
【0061】
腫瘍の大きさを3日毎にモニターする。
結果:
MCF−7腫瘍を有し、131I−IGF−1または90Y−IGF−1を投与されたマウスは、治療を受けていないか、または非標識IGF−1を投与されたコントロールマウスと比べて、長く生存し、腫瘍の成長が遅いことがわかる。
【実施例2】
【0062】
IGF−1−dgリシン(Ricin)Aコンジュゲートによるマウス乳癌モデルの治療
材料および方法:
Gregg,E.O.等(1987年、J.Immunol.138:4502〜08)に記載のとおり、リシンA鎖を調製する。Blakey,D.C.等(1987年、Cancer Res.47:947〜952)に記載のとおり、リシンA鎖を脱グリコシル化する。
【0063】
コンジュゲートの手順は一般に、Thorpe,P.E.等(1982年、Immunol.Rev.62:119〜158)、およびHuang,X.等(2004年、Prostate 61:1〜11)に記載のとおりである。50mMホウ酸緩衝液(pH9.0)中のIGF−1溶液(1ml、10mg/ml)に、ジメチルホルムアミド10μlに溶解した4−スクシンイミジルオキシカルボニル−メチル−α−[2−ピリジルジチオ]トルエン(SMPT、Pierce Biotechnology)1.2mgを添加した。SMPTとIGF−1のモル比は約3:1である。室温で30分間攪拌した後、0.1M酢酸ナトリウム、0.1M NaCl、pH4.5で平衡化したSephadex G−25カラムに反応混合物を通す。誘導体化タンパク質を同じ緩衝液で溶出する。リシンA鎖分子当たり2.6SMPTの比率で、同じ手順によって、脱グリコシル化リシンA鎖をSMPTで誘導体化する。0.1M酢酸ナトリウム、0.1M NaCl、pH4.5で平衡化したSEPHADEX G−25カラムに溶液を通して、誘導体化脱グリコシル化リシンAを試薬から分離する。
【0064】
誘導体化IGF−1を2.5mlに濃縮し、ジチオスレイトール10mgを添加する。室温で30分間攪拌した後、窒素通気PBSで平衡化したSEPHADEX G−25カラムにその溶液を通す。溶出したIGF−1をそのまま誘導体化脱グリコシル化リシンAの溶液に流入し、IGF−1と脱グリコシル化リシンA(dgA)の比率1:1.5の混合物中で反応させる。この反応によりIGF−1当たり1dgAのIGF−1−dgAコンジュゲートが形成される。
【0065】
IGF−1当たり1dgAのコンジュゲートを、SUPERDEX200において、サイズ排除クロマトグラフィによって精製する。SDS−PAGEでコンジュゲートの特性を明らかにして、この物質が1脱グリコシル化リシン(Ricin)A鎖に結合した1IGF−1の精製コンジュゲートからなることを確認する。このコンジュゲートの構造を以下に示すが、リンカーはタンパク質のN末端アルファアミノ基またはリシン(lysine)側鎖に結合している。
【0066】
【化1】

【0067】
マウスの治療:上述のとおりMCF−7細胞を培養する。無血清培養液0.05ml中5×106MCF−7細胞を、6週齢の雌ヌードマウス(nu/nu、Sprague Dawley、Madison、Wisconsin)の背部に皮下注射する。マウスのエストロゲン産生は、MCF−7の増殖を支持するには不十分であるため、癌細胞注射の1日前から開始して、その後は週に1回、ゴマ油に溶解したベータ−エストラジオール(0.1mg/油0.05ml、皮下)をマウスに注射する。直径5mmまで腫瘍を成長させる(Hardman,W.E.等、1999年、Anticancer Res.19:2269)。
【0068】
様々な用量のコンジュゲートをマウスに腹腔内注射して、コンジュゲートの最大耐用量を求める。その後、5mmの腫瘍を有する5匹のマウスに、最大耐用量の半量のコンジュゲートを腹腔内注射する。5mmの腫瘍を有する5匹のコントロールマウスには治療をしない。その後、腫瘍の大きさを3日毎にモニターする。
結果:
IGF−1−dgAコンジュゲートを投与されたマウスは、コントロール未治療マウスと比べて、長く生存し、腫瘍の成長が遅いことがわかる。
【0069】
引用したすべての特許、特許文献、および他の参考文献は、参照により本明細書に取り込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療用放射性核種を有するインスリン様成長因子1(IGF−1)受容体リガンド。
【請求項2】
前記リガンドがリンカー部分によって前記放射性核種に結合している、請求項1に記載のIGF−1受容体リガンド。
【請求項3】
前記リンカー部分がキレート剤を含む、請求項1に記載のIGF−1受容体リガンド。
【請求項4】
前記治療用放射性核種が、ヨウ素131、イットリウム90、インジウム111、レニウム186、またはルテチウム177である、請求項1に記載のIGF−1受容体リガンド。
【請求項5】
前記リガンドがIGF−1受容体アゴニストである、請求項1に記載のIGF−1受容体リガンド。
【請求項6】
前記リガンドがIGF−1である、請求項5に記載のIGF−1受容体リガンド。
【請求項7】
前記リガンドがIGF−1受容体アンタゴニストである、請求項5に記載のIGF−1受容体リガンド。
【請求項8】
前記リガンドが、インスリン受容体に対してより、IGF−1受容体に対して大きな親和性を有する、請求項1に記載のIGF−1受容体リガンド。
【請求項9】
毒素に結合したインスリン様成長因子1(IGF−1)受容体リガンドを含む抗癌治療剤。
【請求項10】
前記IGF−1受容体リガンドがIGF−1受容体アゴニストである、請求項9に記載の抗癌治療剤。
【請求項11】
前記IGF−1受容体リガンドがIGF−1である、請求項10に記載の抗癌治療剤。
【請求項12】
前記IGF−1受容体リガンドがIGF−1受容体アンタゴニストである、請求項9に記載の抗癌治療剤。
【請求項13】
前記IGF−1受容体リガンドが、インスリン受容体に対してより、IGF−1受容体に対して大きな親和性を有する、請求項9に記載の抗癌治療剤。
【請求項14】
前記毒素が、ジフテリア毒素、シュードモナス外毒素、クロストリジウム・パーフリンジェンスエンテロトキシン、リシン、またはそれらの毒性フラグメントである、請求項9に記載の抗癌治療剤。
【請求項15】
哺乳動物において癌を治療する方法であって、治療用放射性核種を有する治療上有効量のIGF−1受容体リガンドを前記哺乳動物に投与することを含む方法。
【請求項16】
前記癌が、非小細胞肺癌、前立腺癌、結腸直腸癌、乳癌、膵臓癌、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、白血病、肝臓癌、胃癌、卵巣癌、子宮癌、精巣癌、脳腫瘍、または黒色腫である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
哺乳動物において癌を治療する方法であって、毒素に結合したインスリン様成長因子1(IGF−1)受容体リガンドを含有する治療上有効量の治療剤を前記哺乳動物に投与することを含む方法。
【請求項18】
前記癌が、非小細胞肺癌、前立腺癌、結腸直腸癌、乳癌、膵臓癌、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、白血病、肝臓癌、胃癌、卵巣癌、子宮癌、精巣癌、脳腫瘍、または黒色腫である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
癌細胞の増殖を阻害する方法であって、治療用放射性核種を有するIGF−1受容体リガンドに前記癌細胞を接触させることを含む方法。
【請求項20】
前記接触がin vitroである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記接触がin vivoである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
癌細胞の増殖を阻害する方法であって、毒素に結合したインスリン様成長因子1(IGF−1)受容体リガンドを含有する治療剤に前記癌細胞を接触させることを含む方法。
【請求項23】
前記接触がin vitroである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記接触がin vivoである、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
抗癌活性に関して化合物をスクリーニングする方法であって、治療用放射性核種を有するIGF−1受容体リガンドを含む化合物に癌細胞を接触させることを含む方法。
【請求項26】
前記接触がin vitroである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記接触がin vivoである、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
抗癌活性に関して化合物をスクリーニングする方法であって、毒素に結合したIGF−1受容体リガンドを含む化合物に癌細胞を接触させることを含む方法。
【請求項29】
前記接触がin vitroである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記接触がin vivoである、請求項28に記載の方法。

【公表番号】特表2008−517917(P2008−517917A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538030(P2007−538030)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/037739
【国際公開番号】WO2006/047214
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(506137527)アイジーエフ オンコロジー エルエルシー (3)
【Fターム(参考)】