説明

癌治療における免疫療法

【課題】癌免疫治療の新規な方法および該方法にて使用するためのキットの提供。
【解決手段】前哨リンパ節からリンパ球を集め、そのリンパ球を増殖のためにインビトロにて培養することを含む新規な方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌免疫療法の新規かつ改良された方法、およびこの方法にて用いるためのキットに関する。具体的には、本発明は癌患者の前哨リンパ節から得られるリンパ球を用意し、それをインビトロにて拡張させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、多くは種々の型の悪性腫瘍を表すのに用いられる語であり、ヒトの主たる死亡原因の一つである。現在のところ、癌は世界の死亡全体のおよそ23%を占め、より多くの命を奪うのは心血管疾患だけである。個々の人生において、癌は、どの器官のどの組織、いずれの年齢においても発生し、その形質転換した細胞は周辺の組織に侵入するか、または体内のいくつかの部位に転移する。現在では、内因的因子とは別に、喫煙、食品に含まれる、あるいは工業プロセスで放出される特定の化合物への暴露などの特定の活性化物質および環境条件もまた、特定の型の癌および腫瘍の発生の原因となり、その危険性を増大させている。
癌と診断されれば、治療方法を決定することが最優先事項となる。過去においては、ローカルおよびレジオナル療法の両方が用いられ、具体的には、外科手術および/または放射線療法が、通常、全身性療法、すなわち、抗腫瘍薬の投与と組み合わせて用いられた。
【0003】
外科手術は癌療法の最も古い形態であるが、種々の欠点を有する。外科手術は腫瘍が未だ原発性腫瘍細胞を拡散し始めていない初期発育段階にて検出された場合に成功するにすぎず、その治療の成功は癌の部位の間で大きく変動する。放射線療法は、外科手術に加えて、あるいは外科的手段により原発性腫瘍とアクセスすることが困難であるような場合、例えば、結節性およびびまん性のホジキンリンパ腫以外のリンパ腫、頭頚部の扁平上皮細胞癌、縦隔胚細胞腫瘍、前立腺癌または初期段階の乳癌などには単独で利用される。
【0004】
これらの上記した2種の治療方法と一緒に、腫瘍細胞の細胞分裂または拡散を防止するために、抗腫瘍薬が癌患者に投与される(化学療法的処置)。これらの薬剤はその近くにある必然的にすべての増殖の速い細胞に毒性であるとしても、化学療法は、例えば、結腸癌の患者にて、5年以上の追跡で、51%から40%への、死亡率の減少という限られた改善をもたらしうる。
【0005】
最近になって、光線力学療法および腫瘍免疫療法という、2種の付加的な治療方法が開発された。
光線力学療法においては、光感作化合物およびレーザーを用いて腫瘍壊死を生じさせるものである。腫瘍を特定する光感作化合物を患者に全身投与し、つづいてレーザーを用いて活性化させる。感作剤に適当な波長の光を吸収させて励起状態とし、その感作剤と処理される組織内にある酸素分子とを相互作用させて細胞毒性の一重項酸素を発生させ、それを介して細胞障害性を得る。
【0006】
他方、腫瘍免疫療法は、免疫系が体を物理的に完全に保持する手段として個々に実行する先天的な任務からの利益を得ようとするものである。
原理上、哺乳動物の免疫系は、体を保護するための2つの一般的機構として、非特異的または先天的免疫応答、および特異的または後天的免疫応答を有する。外来の侵入物質と非特異的に戦う先天的応答とは異なり、クローン選択によりなされる、特異的応答は特定の物質(抗原)に応じて調整される。後天的免疫は、特異性細胞、エフェクター分子としての抗体を産生するB細胞(体液免疫応答を提供する)により媒介され、細胞そのものを介してその効能を媒介するT−細胞(細胞媒介免疫性)により媒介される。
【0007】
特異的免疫系の細胞は、一般に、体に属しないと、すなわち、異種または「非自己」として認識される各々の存在を攻撃して破壊するが、同時に「自己」を決定すると知られている物質/抗原に対しては攻撃を止める。かくして、内因的物質だけでなく、個々の体内に入る/侵入する外因的生物学的および非生物学的存在も攻撃し、免疫系は「自己」を表すものについて学習することはなく、異種として認識する。
【0008】
個々において、免疫系は、通常、免疫学的監視を提供し、癌の発生を防止する。癌免疫性は主にT−細胞およびNK細胞により媒介され、ここでは形質転換された腫瘍細胞は、(腫瘍関連の)異種物質、すなわち、「自己」に属すると識別されない抗原として認識された後に(T細胞)またはMHCクラスI発現を欠く抗原として認識された後に(NK細胞)破壊される。
これらの機序を癌の治療に活用する医学的試みにおいて、これまで2つの一般的方法が腫瘍免疫療法にて用いられてきた。第一の方法によれば、インターロイキン−2、腫瘍壊死因子またはインターフェロンなどの物質を腫瘍患者に投与することにより先天的免疫応答が刺激される。しかし、この方法は完全に成功であるとは言い切れず、その有効濃度で投与物質が示す高い毒性のため、該方法は強い副作用を示した。
【0009】
免疫系の「自己」と「非自己」を区別する内因的能力を利用する特異的免疫系に別の焦点が当てられた。一般に、形質転換された細胞は異種または「非自己」であると認識される抗原を示すため、免疫系は該形質転換細胞を攻撃する。しかし、場合によっては、腫瘍結合の抗原は免疫応答を惹起する能力を有しないため、またはT−細胞を十分に刺激する能力を有しないため、あるいは腫瘍細胞は免疫応答をインビボにてダウンレギュレートする因子を産生するという理由から、腫瘍細胞はいくらかインビボにて免疫系から漏れる可能性がある。
【0010】
免疫系がその内因的任務を果たすことを補助するために、癌患者の単核細胞を末梢血液から単離し、培養物に移し、そこで該細胞を刺激して拡張させた。拡張後に、該細胞を患者に注入により戻すが、成功した応答割合は35%までにすぎなかった。不利な点の一つが末梢血液は腫瘍抗原に拮抗する機能的活性を有するリンパ球をわずかな数しか有していないということである。
この欠点を克服するために、インビボにて腫瘍に浸潤させたリンパ球の集団、いわゆる腫瘍浸潤リンパ球を単離して拡張させることを含む、種々の操作が提案された。この方法はまだ、腫瘍発生のかなり後の段階でのみ存在し、数が少ない、特定の型のリンパ球を必要とするという欠点がある。さらには、腫瘍浸潤リンパ球は腫瘍からの物質の免疫抑制剤に供され、最終的にかかるリンパ球の単離が実施において常に容易な操作であるとは限らない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の問題は従来技術の上記した欠点を克服し、免疫療法の新規かつ改善された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この問題は、前哨リンパ節からリンパ球を得、こうして得られたリンパ球をインビトロにて活性化させ、拡張させる行程を含む、癌の再発を治療および/または予防する方法により解決される。
【0013】
図面において、
図1は前哨リンパ節の術中の同定結果を示す。
図2はリンパ球の特徴化から由来の結果を示す。
図3は転移についての非特異的活性化および細胞内FACS分析の結果を示す。
図4は、抗原ペプチドの提示およびT細胞の活性化が起こる際に、腫瘍からの抗原物質がどのようにしてリンパ管により排液性リンパ節に輸送され、トレーサー色素により同定されるかの仮定となるスキームを示す。
【0014】
本発明に至る長期にわたる実験の間、本発明者らは結腸直腸癌を患っている患者の免疫特性を解析し、意外にも、その患者の末梢血液から、あるいは一般にリンパ系から単離したリンパ球は腫瘍に対して反応的でないとしても、該患者の前哨リンパ節は腫瘍細胞に拮抗する活性を示すリンパ球を宿していることを見出した。本発明はこの知見に基づいて完成されたものであり、細胞性免疫療法における有用な手段が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1.前哨リンパ節の術中での同定。パテントブルー色素(A)を漿膜下注射することで前哨リンパ節の同定を腫瘍(B)の周囲4カ所で行った。通常、5分以内に1またはそれ以上の青色に変色したリンパ節が腸間膜(C)にて現れる。
【図2A】図2A.リンパ球の特徴化。デュークB(A)の患者からのデータ。腫瘍(CC)、前哨リンパ節(SN)および前哨リンパ節(LN)からの試料をヘマトキシリン−エオシン(左パネル)で染色した(x40)。矢印は前哨リンパ節中の転移結腸癌細胞の存在を示す(B、左パネル、SN)。腫瘍(CC)、前哨リンパ節(SN)、非排液リンパ節(LN)からのリンパ球をCD4および活性化マーカーCD69に対する抗体で染色し、フローサイトメトリーを用いて解析し(中央パネル)、二重陽性CD4Tヘルパー細胞の割合を右上コーナーに示す。腫瘍(CC)、前哨リンパ節(SN)およびリンパ節(LN)からの細胞を10−または100−倍に希釈した自己結腸癌エキスと一緒に5−7日の経時変化の実験にてインキュベートした。細胞を1μCi3H−チミジンを用いて採取する16時間前にパルス処理に付した。ピーク増殖が5日目に生じた(右パネル)。
【図2B】図2B.リンパ球の特徴化。デュークC(B)の患者からのデータ。腫瘍(CC)、前哨リンパ節(SN)および前哨リンパ節(LN)からの試料をヘマトキシリン−エオシン(左パネル)で染色した(x40)。矢印は前哨リンパ節中の転移結腸癌細胞の存在を示す(B、左パネル、SN)。腫瘍(CC)、前哨リンパ節(SN)、非排液リンパ節(LN)からのリンパ球をCD4および活性化マーカーCD69に対する抗体で染色し、フローサイトメトリーを用いて解析し(中央パネル)、二重陽性CD4Tヘルパー細胞の割合を右上コーナーに示す。腫瘍(CC)、前哨リンパ節(SN)およびリンパ節(LN)からの細胞を10−または100−倍に希釈した自己結腸癌エキスと一緒に5−7日の経時変化の実験にてインキュベートした。細胞を1μCi3H−チミジンを用いて採取する16時間前にパルス処理に付した。ピーク増殖が5日目に生じた(右パネル)。
【図3】図3.非特異的活性化および細胞内FACS転移分析。コンカナバリンA刺激(A)に対する増殖応答およびサイトケラチン−20抗体(B)を用いる細胞内FACS解析を示す。末梢血(PBL)、腫瘍(CC)、前哨リンパ節(SN)およびリンパ節(LN)からの細胞を10μg/mLのコンカナバリンA(A)を用いて刺激する経時変化増殖アッセイにて研究した。腫瘍(CC)、前哨リンパ節(SN)およびリンパ節(LN)からの細胞をサポニンと一緒に透過させ、つづいて抗サイトカイン−20抗体と一緒にインキュベートし、抗マウスIgG FITC結合抗体(B)を用いて検出した。点線は第二抗体だけと一緒にインキュベートした対照サンプルを示し、オーバーレイプロットにおいては、第一および第二の両方の抗体を培養器にてインキュベートした。数値はサイトカイン−20陽性腫瘍細胞の割合を示す。
【図4A】図4A.デュークB(A)の仮定的スキームを示す。腫瘍には、代謝回転の速い細胞が存在しており、マクロファージおよび樹枝状細胞を攻撃する不利な環境を生じさせる酸素および栄養素を欠く。腫瘍細胞からの残骸はこれら専門の抗原提示細胞(APC)により食され、パテントブルーの腫瘍周辺注射により術中に検出することのできる、排液前哨リンパ節にリンパ管により輸送される。前哨リンパ節において、APCはペプチドを負荷し、エンドソーム/リソソーム経路にて処理され、腫瘍抗原から主としてHLAクラスIIポケットに誘導される。このクラスII−腫瘍ペプチド複合体はAPCの表面に輸送され、第一活性化シグナルを付与するCD4+Tヘルパー細胞により認識される。第二活性化シグナルは、APC上に高いレベルで発現される、B7.1、B7.2およびICAM−1などの共同刺激分子により付与される。かくして、CD4+Tヘルパー細胞は活性化エフェクター細胞となり、リンパ節を離れて胸管を通って血流に戻る。その活性化CD4+Tヘルパー細胞は腫瘍または転移などの炎症および新規な血管形成の領域にて血流を離れる。細胞は腫瘍浸潤リンパ節(TIL)となる。しかしながら、腫瘍での局所的な不利な環境のため、およびおそらくは腫瘍より放出される免疫抑制サイトカインにより、TIL細胞は免疫抑制され、非反応性となる(アネルギー)。
【図4B】図4B.デュークC(B).転移細胞の前哨リンパ節中の存在下では、本発明者らはリンパ球が腫瘍エキスに拮抗して、あるいは非特異的アクチベーター、例えば、コンカナバリンAに拮抗して増殖できないことを見出した。APCは食される腫瘍残骸と一緒に存在する可能性があり、該細胞は活性化されるようである。一の説明は転移細胞が免疫抑制因子を産生するということである。もう一つ別の説明はデュークC(リンパ節転移の存在)が腫瘍を異種として認識できない免疫性を有する患者にだけ生じるというものである。かくして、リーシュマニア症により攻撃された異なるマウス系統にて見られるような同様の状況は、ある系統では感染を一掃するのに対して、遺伝的な背景の違いから他の系統は死亡する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書に開示されている方法を実施する場合、第一に前哨リンパ節の位置を特定しなければならない。前哨リンパ節は一般に原発腫瘍域からリンパ排液を受け取るリンパ系の第一リンパ節と定義される。この操作は、原発腫瘍の手術の間に、例えば、好ましくは原発腫瘍を外科的に摘出する前に、トレーサー物質を腫瘍部位の回りにあるいはその周辺に導入することによりなされるのが都合がよい。トレーサーは毛細リンパ管に輸送され、マクロファージの食作用を介して下流にあるリンパ節に蓄積する。通常、前哨リンパ節はトレーサー物質を導入した数分後に一またはそれ以上の強烈な色彩のリンパ節をチェックすることにより肉眼で決定することができる。
トレーサー物質として、例えば、パテントブルー色素、リンファズリンブルー(lymphazurine blue)または99Tc標識アルブミンを用いることができる。
【0017】
前哨リンパ節を同定したならば、それを外科的手段により単離し、そのリンパ節の見本としてのスライスを用いてその組織学的状態を評価してもよい。
次の工程では、残りの前哨リンパ節に存するリンパ球を集め、インビトロ培養に移す。このことは、例えば、コラゲナーゼと一緒にまたはなしでリンパ節がその内容物を放出するようにリンパ節を押圧することで達成することができる。
こうして得られた細胞を、その後、インビトロ培養に供する。
不要な細胞を該培養から除去する場合、および/またはT−細胞の特定の部分集合、例えば、CD4、CD8、CD69、CD62Lを選択する場合には、選択される細胞に独特な表面マーカーと関連付けられる抗体などの、ポジティブまたはネガティブ選択技法を用いることができる。かかる技法の一例が、選択される細胞上に存在する表面マーカーに対して方向付けられるモノクローナル抗体をキャリアに結合させるところの、磁性免疫粘着法である。細胞の選択はまた、滅菌条件下、フローサイトメトリーにより補助される細胞分類により行うこともできる。
【0018】
細胞は、最小必須培地またはRPMI培地1640を含む、リンパ球細胞の増殖に適するいずれかの培地中、通常の条件下で培養することができる。細胞の増殖を促進するために、その増殖および生存に不可欠な、血清、例えばウシ胎児血清またはヒト血清、および抗体、例えばペニシリン、ストレプトマイシンを含む因子を添加してもよい。リンパ球を増殖を支持するのに不可欠な条件下、例えば、約37℃の適当な温度、および空気に5%COを加えた大気中に維持する。
リンパ球は、培養の間、拡張用刺激剤に、所望により付加的な活性化シグナルに暴露される。
リンパ球の拡張は、細胞を抗−CD3抗体と接触させること、または細胞を蛋白キナーゼC活性化物質(ホルボールエステル)とカルシウムイオノホールとの併用において接触させることによりなされうる。T−細胞表面上でアクセサリー分子を刺激するために、そのアクセサリー分子と結合するリガンドを利用してもよい。例えば、T細胞は、T−細胞の増殖を刺激するのに適する条件下、抗−CD3抗体および抗−CD28抗体を用いて活性化されうる。
【0019】
原発および共同刺激シグナルは種々のプロトコルにより得ることができる。例えば、各シグナルを提供する薬剤を溶液とするか、または固相表面、例えば、培養コンテナにカップリングさせることができる。固相表面にカップリングさせる場合、薬剤を同じ固相表面に(すなわち、「シス」形成にて)カップリングさせるか、または別の表面に(すなわち、「トランス」形成にて)カップリングさせることができる。さらに、一の薬剤を固相表面にカップリングさせ、他の薬剤を溶液にすることもできる。
【0020】
刺激後のT−細胞の集団の刺激を長期間維持するために、T−細胞をその後に刺激から分離する。けれども、T−細胞は培養期間を通して共同刺激リガンドと接触状態に維持されていてもよい。T−細胞の増殖速度を、例えば、T−細胞の大きさを調べるか、またはその容量を測定することにより、定期的に(例えば、毎日)モニター観察する。T−細胞の平均径がピークから減少すれば、再び活性化および刺激に付し、さらなる増殖を誘発させる。別法として、活性化T−細胞上にて制御される、細胞表面分子、例えばCD25、CD69、CD62LおよびMHCクラスIIの存在をアッセイすることにより、T−細胞の増殖速度およびT−細胞の再刺激時間をモニター観察することもできる。CD4またはCD8T−細胞の集団の長期刺激を誘発するために、T−細胞を抗−CD3抗体および抗−CD28抗体で数回再活性化および再刺激する必要がありうる。
【0021】
加えて、CD4+Tヘルパー細胞をIFN−γ産生Th1エフェクター細胞に対して活性化させるために、維持および増殖のためのIL−2ならびにIL−12、INF−αおよび抗IL−4抗体などのサイトカインを添加することにより、前哨リンパ節から得られるT−細胞を刺激してもよい。十分な程度まで拡張させるためにT−細胞培養に添加すべきサイトカインの量は当業者であれば容易に決定することができる。培養を行う最初の日からサイトカインを添加し、T−細胞の増殖を維持するのに十分な量にて培養の一日おきに添加する。例えば、IL−2を培養物に添加して最終濃度を約100U/mlとし、新たな培地をその細胞培養物に添加する場合、二日毎または三日毎のように隔日にて培養物に添加する。
本発明の方法によれば、既にインビボにて感作がなされており、腫瘍抗原に対する特異性を有するリンパ球が使用されているため、クローン拡張が既に起こっているから、原則として、付加的な活性化/感作は不要である。
【0022】
しかし、免疫抑制物質を産生する腫瘍の患者においては、T−細胞において付加的な活性化シグナルを誘因させるのに適する形態にてリンパ球培養物を腫瘍抗原で刺激してもよく、すなわち、シグナルがTCR/CD3複合体を介してT−細胞にて誘因されるように、抗原をT−細胞に提示させてもよい。例えば、B細胞、マクロファージ、単球、樹枝状細胞、ランゲルハンス細胞などの抗原提示細胞をMHC分子と併用することにより抗原をT−細胞に提示させることができる。このために、腫瘍細胞、自己腫瘍エキスおよび/または組換え腫瘍抗原をリンパ球の培養物に添加し、付加的な感作に十分な時間インキュベートする。同様に、病原体、例えばウイルスに感染し、その病原体の抗原を提示する細胞を、リンパ球と一緒にインキュベートすることもできる。T−細胞の集団が抗原特異的に活性化されると、該細胞は本明細書に記載の方法に従ってさらに拡張させることができる。患者の安全を考慮した場合、腫瘍細胞および/または組換え細胞の除去工程を省くことができるため、自己腫瘍エキスを使用することが好ましい。
【0023】
さらには、腫瘍細胞が前哨リンパ節にある場合、そこから得られたリンパ球は腫瘍細胞不含の前哨リンパ節から得られたリンパ球と比べて腫瘍細胞に拮抗する活性および/または特異性の低いことが見出された。理論に拘束されるつもりはないが、現在のところ、この知見は腫瘍の有する免疫抑制能による可能性があると、すなわち、腫瘍細胞の存在によってアネルギーが機能的状態にある可能性があると考えられている。
リンパ球の培養が所望の程度まで拡張され、刺激された場合に、リンパ球を集め、所望により患者の健康に有害な物質を一掃してもよく、そしてそれを患者に戻す。この操作は約1時間から6時間の間に静脈内注入により行うことができ、その投与される単球の数は増殖工程の間に生成される細胞の数に依存するにすぎない。
【0024】
もう一つ別の具体例によれば、本発明はまた、本発明の方法を実施するためのキットを提供する。該キットは色素、好ましくはパテントブルー色素ならびにリンパ球の増殖および拡張を刺激する試薬を含む。
本発明の方法は従来技術に比べて明らかな利点を提供する。リンパ球は前哨リンパ節から集められるから、具体的には既に腫瘍抗原に拮抗する活性および特異性を有するリンパ球が拡張される。この特異性は、そのリンパ球を自己腫瘍エキスの存在下で培養することにより、インビトロにて強化され、クローン選択および拡張を促進することできる。原発腫瘍に対して特異的な反応性を有するT−細胞は前哨リンパ節にて同定することができ、これらの細胞は細胞免疫療法にて後の使用のために特異的に拡張させることができる。
次に実施例を用いて本発明を説明するが、これらは何ら本発明を限定するものではなく、単なる例示にすぎない。
【実施例】
【0025】
実施例1
細胞採集と調製
手術前の遠隔転移またはリンパ節病変の徴候のない5人の結腸癌の患者をこの実験に利用した(図1)。この実験は倫理委員会により承認されており、患者とのインフォームド・コンセントがなされた。
検査を容易にするために腹膜癒着の分離を介して結腸腫瘍部位を移動させた。1mlのパテントブルー色素(Guerbet, Paris)を腫瘍の回りに表面的に注射した。顕微鏡を用いて5分以内に前哨リンパ節としての1ないし3個の青色に変色した腸間膜リンパ節を同定し、それらを縫合でマークした。
前哨および非前哨リンパ節を半分に切断した。厚みが1mmより薄いスライスをフローサイトメトリーおよび増殖分析用にそのリンパ節の中央部および周辺部より切断した。残りのリンパ節を慣用的な組織病理学検査に付した。組織を組織病理学的にデューク段階A−C(11)として分類した(表1)。
原発腫瘍の一片(浸潤マージンの部分を含む)をフローサイトメトリー分析用および抗原の供給源として摘出した。
【0026】
静脈血、前哨および非前哨リンパ節および腫瘍を素早く処理して、操作時間を最小とした。末梢血のリンパ球(PBL)をフィコール−ハイパキュー(ficoll-hypaque)(Pharmacia, Amersham)で精製した。リンパ節細胞の単細胞懸濁液をルーズ・フィット・ガラス・ホモジナイザーを用いて緩やかな圧力により得た。細胞を懸濁させて2.5%ウシ胎児血清(FCS)DMEM(Life technologies)中で2回洗浄した。最後に、細胞を再びRPMI増殖培地(10%ヒトAB血清(Sigma)、1%ペニシリン−ストレプトマイシン(Sigma)および1%グルタミン(Sigma))に懸濁させた。
【0027】
腫瘍サンプルをDounceホモジナイザーを用いて5倍容量(W/v)のリン酸緩衝セイライン(PBS)中に均一にし、5分後に97℃で変性させた。顕微鏡で無傷の細胞を見つけることはできなかった。腫瘍ホモジネートを完全な増殖培地中にて1:10および1:100に希釈した。3x10細胞/ウェルの精製したPBLおよびリンパ節細胞を、希釈腫瘍ホモジネート、コンカナバリンA10μg/ml(Sigma)または癌胎児性抗原100μg/ml(Sigma)に対する3通りの増殖検定にて使用した。採取する16時間前に1μCiのH−チミジン/ウェル(Amersham)を添加することにより5日、6日および7日目に増殖を測定した。サンプルをシンチレーション計数に付した。
【0028】
1x10細胞/サンプルのPBL、リンパ節細胞および腫瘍細胞の懸濁液をフローサイトメトリー(FACS)を用いる検査に付した。細胞を2%FCSおよび0.02%NaN(FACSバッファー)を含有するPBSにて洗浄し、CD4PE、CD8PerCpおよび極めて速い活性化マーカーCD69FITC(Pharmingen)に対する蛍光細胞表面マーカーを用いて直接三重に標識した。細胞内FACSの場合、FACSバッファー中0.3%サポニン(Sigma)を用いて細胞を室温で15分間透過させ、つづいて30分間サイトカイン−20抗体(Dakopatts)と一緒にインキュベートした。洗浄した後、細胞を抗−マウスIgG FITC(Jackson)結合抗体と一緒に30分間インキュベートした。原発抗体なしで染色した細胞を対照として用いた。染色後、細胞をFACSスキャン(Becton Dickinson)を用いて検査し、データをセルクエスト(cellquest)コンピュータソフトウェア(Becton Dickinson)を用いて解析した。
【0029】
【表1】

【0030】
実施例2
前哨リンパ節の術中同定および病理学的分類
腫瘍の周辺にパテントブルーを注射することで手術中に1ないし3個の前哨リンパ節を検出した(図1)。摘出した試験片を肉眼で解剖して、18と29個の間にあるリンパ節(平均22個)を同定して組織病理学的評価に組み込んだ(図2A、2B左パネル)。患者2および3(表1)は前哨リンパ節までの転移拡張を有し、組織病理学的にデュークCに分類された(図2B左パネル)。他の3人の患者は、腫瘍が腸の筋肉壁を介して増殖している(図2A左パネル)にも拘わらず、前哨リンパ節まで、または他のリンパ節までの転移拡張の徴候を示さなかった。それらをデュークBに分類した。
【0031】
末梢血(PBL)(図示せず)、腫瘍、排液性前哨リンパ節および非排液性リンパ節から別々に集めたリンパ球の単細胞懸濁液を、極めて速い活性化マーカーCD69およびT−細胞マーカーCD4(図2A、B中央パネル)およびCD8(図示せず)を認識する抗体で3通りに染色し、つづいてフローサイトメトリー分析(FACS)に付した。転移の有る(図2A中央パネル)および無し(図2B中央パネル)に拘わらず、前哨および非前哨リンパ節の両方にて同じ数の活性化CD4リンパ球を見つけた。すべての検査した腫瘍は種々の程度まで腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を含有し、CD4およびCD8T−細胞の両方である、これらTILの大部分はCD69表現型を提示かつ活性化した。末梢血にて、活性化されたCD4CD69リンパ球はなかった(図示せず)。
【0032】
リンパ球の機能の状態をさらに抗原供給源として均質にした腫瘍細胞エキスを用いる経時変化による増殖アッセイにて特徴付けた(図2A、B右パネル)。パテントブルー色素による刺激はいずれのケースにおいても増殖を引き起こさなかった(データ図示せず)。転移していないすべての前哨リンパ節において(デュークBのケース)、リンパ球は自己腫瘍エキスに対して用量依存形式にて増殖した(図2A、右パネル)。ピーク増殖が6日目の最高量の抗原で恒常的に観察された(表1)。非前哨リンパ節またはTILからのリンパ球の間では抗原依存性増殖は認められなかった。デュークCのケース(表1、図2B右パネル)にて、前哨リンパ節は転移細胞を含有し、全くないあるいは非常に小さな増殖応答が同定された。リンパ球の機能の状態を評価するために、T−細胞受容体を介しての活性化を無視するコンカナバリンAでT−細胞を非特異的に刺激した。すべてのPBLおよび非前哨リンパ節のリンパ球、ならびにデュークB患者の前哨リンパ節のリンパ球は強い増殖で答えた(図3A)。しかしながら、デュークC患者からの前哨リンパ節のリンパ球はコンカナバリンAに対する増殖で応答せず、デュークBまたはCのケースのTILでも応答しなかった。100μg/mlの癌胎児性抗原を用いてデュークB患者からの前哨リンパ節のリンパ球を刺激することで増殖活性は得られなかった(図示せず)。
【0033】
自己腫瘍エキスに対して特異的活性を有するリンパ球を選択し、長期培養に置いた。その刺激細胞は主にCD4+Tリンパ球からなり、IL−2の存在下で拡張してインビトロにて数週間生存した。
腫瘍、前哨および非前哨リンパ節からの細胞をサイトケラチン−20、上皮癌のマーカーで細胞内染色してからFACSにより検査した。本発明者らは細胞のサポニンでの透過が腫瘍中の大部分のサイトケラチン−20陽性細胞の検出を可能とすることを見出した(図3B)。興味深いことに、本発明者らは微小転移巣の前哨リンパ節中の少量のサイトケラチン−20陽性細胞も検出することができた(図3B、図2B左パネル)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の再発を治療および/または予防する方法であって、
a)患者の前哨リンパ節からリンパ球を摘出し;および
b)そのリンパ球をインビトロにて拡張させる
工程を含む、方法。
【請求項2】
工程(b)がサイトカインまたは抗体を添加することでリンパ球をインビトロにて刺激することを含むところの、請求項1記載の方法。
【請求項3】
サイトカインがIL−2、INF−α、IL−12およびIL−4抗体であるところの、請求項2記載の方法。
【請求項4】
抗体が抗CD3および/または抗CD28抗体であるところの、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
工程(b)が工程(a)にて得られたリンパ球を付加的な活性化シグナルに暴露することを含むところの、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
活性化シグナルがリンパ球を自己腫瘍エキスまたは組換え抗原に暴露することを含むところの、請求項5記載の方法。
【請求項7】
活性化が抗原提示細胞の存在下にてなされるところの、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
抗原提示細胞がB−細胞、マクロファージ、単球、樹枝状細胞、ランゲルハンス細胞を含むところの、請求項7記載の方法。
【請求項9】
リンパ球がヒトまたは動物の起源から由来されるところの、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
色素とリンパ球の増殖刺激能を有する物質とを含む、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の方法を実施するためのキット。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2012−197260(P2012−197260A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−23236(P2012−23236)
【出願日】平成24年2月6日(2012.2.6)
【分割の表示】特願2004−542956(P2004−542956)の分割
【原出願日】平成15年10月8日(2003.10.8)
【出願人】(511209918)セントクローン・インターナショナル・アクチボラゲット (1)
【氏名又は名称原語表記】SentoClone International AB
【Fターム(参考)】