説明

癌治療のための、VA遺伝子が変異したアデノウイルスの使用

【課題】p53およびRB経路とは異なる確固たる遺伝的欠失を有する腫瘍細胞における選択的な複製を達成するための新型の変異を提供すること。
【解決手段】本発明は、癌の処置のためのアデノウイルスの使用に関し、このアデノウイルスは、そのウイルス関連(VA)RNAを欠失している。前記アデノウイルスは、VAI遺伝子配列もしくはVAII遺伝子配列、またはその両方に変異を有する。このアデノウイルスはまた、VA RNAの発現を制御する配列に変異を有し得る。このアデノウイルスは、腫瘍内、腫瘍が局在化する腔内、または癌患者の血流内に注入される。このアデノウイルスはまた、化学療法または放射線療法のような他の癌の処置様式と併用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の目的)
本発明の分野は、概して腫瘍生物学の分野に関する。特に、本発明は、VA RNAの遺伝子において変異したアデノウイルス、および癌を抑制するためのこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(先行技術の状態)
現在の癌の処置は、主に、化学療法、放射線療法および外科的手術に基づいている。初期段階の癌の高い治癒率にもかかわらず、最も進行した癌の場合は、外科的に除去し得ないためか、または放射線の線量もしくは投与される化学療法剤の用量が正常細胞への毒性により制限されるために、不治である。腫瘍を抑制または破壊するような遺伝的物質の送達は、非常に有望な代替療法である。従来のストラテジーと比較して、この遺伝子治療ストラテジーは、より特異的に悪性細胞を標的化し、腫瘍細胞における遺伝的欠陥を攻撃するように探求されている。DNAを治療剤として用いるいくつかのストラテジーが存在する:抗腫瘍性免疫応答を刺激する遺伝子の送達、薬物の毒性を活性化する毒性遺伝子の送達、および腫瘍の発達に関する遺伝子(癌遺伝子、腫瘍抑制遺伝子、抗血管新生遺伝子など)の発現をブロックまたは回復するようなDNAの送達。治療的DNAに加え、遺伝子治療の他の成分は、このDNAを送達するビヒクルであるベクターである。標的細胞へのDNAの送達を増加させるために、合成ベクターおよびウイルス誘導体が用いられている。DNAの送達または腫瘍細胞の形質導入には、後者がより効率的である。ウイルスベクターは、とりわけ、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、アデノ随伴ウイルスおよびアデノウイルスを含む種々の型のウイルスから開発されている。癌の遺伝子治療において、アデノウイルスは、大半の固形腫瘍の原因である上皮細胞への高い感染能力から好まれる。アデノウイルスベクターの他の利点は、DNAがまだ分裂状態でない細胞に送達され得ること、ベクターDNAが形質導入された細胞のゲノムに挿入されないこと、これらのベクターが1mlあたり1013ウイルス粒子の濃度まで精製し得ること、そしてこれらが脂質エンベロープを欠いているために、血流において安定であることである。
【0003】
アデノウイルスは、脂質エンベロープを持たず、約36kbの直鎖状の二本鎖DNAを同封する正十二面体のキャプシドにより特徴付けられるDNAウイルスである。50のヒトアデノウイルス血清型が存在し、これらは、その構造特性および機能特性(例えば、赤血球凝集)に基づいて、6つの亜群(A〜F)に分類される。遺伝子治療において、アデノウイルス5型が好まれる。なぜならば、分子的によく定義されており、かつヒトにおける病原性が低いからである。実際、人口の85%がアデノウイルスに感染しており、そしてアデノウイルス抗体の存在について血清陽性である。特に、アデノウイルス5型は、子供に風邪を引き起こし、これは、大抵の場合無症候性である。
【0004】
種々のE1欠失アデノウイルスベクターが、ほとんど首尾良く癌を処置することなく、臨床試験において用いられている。これらの制限された効力は、ベクターが到達する細胞数がわずかであることに起因する。ウイルス粒子の大きなサイズ(直径80nm)は、拡散することを困難にし、そしてベクターは注入部位または血管を越えたところの少しの層の腫瘍細胞にのみ到達する。この制限は、付随的な細胞傷害性作用が形質導入された細胞の近くの形質導入されていない細胞において見出された事実にもかかわらず、細胞傷害性遺伝子または腫瘍抑制因子の導入に基づく治療ストラテジーにおいて特に関連性がある。複数の高用量のベクターが注入された場合でさえ、腫瘍細胞の多くはベクターによって影響されないままであった。近年、このベクターの腫瘍細胞における選択的な増殖が、この制限を解決するためのストラテジーとして提案されている(R.Alemanyら、Nature Biotechnology 2000、Vol.18、723−7頁)。ウイルスに複製は本来、細胞壊死性であり、それゆえ、細胞傷害性遺伝子または腫瘍抑制因子は、抗腫瘍効果を得るために必要とされない。この様式において、非ウイルス遺伝子を運搬することなく、腫瘍細胞において自身を選択的に複製するというアデノウイルスのこの構想は、より正確には、遺伝子治療の分野というよりも、ウイルス療法または癌のウイルス療法の分野に属する。しかし、細胞傷害性遺伝子、免疫賦活因子、または腫瘍抑制因子は複製型アデノウイルスの選択的な毒性を増加させ得、上記遺伝子は、複製型アデノウイルスのゲノムに挿入されている。従って、これらの選択的複製型のベクターは、ウイルス療法と遺伝子治療の構想を連結する。
【0005】
癌の処置のためのウイルス療法、またはウイルスの使用は、遺伝子治療よりも歴史が古い。ウイルスを用いた腫瘍の処置の最初の観察は、前世紀の始めを端緒とする。いくつかのウイルスは、天然に腫瘍親和性である。例えば、パルボウイルスの複製は、未知の機構による細胞の悪性転換に結び付いているようである。水疱性口内炎ウイルス(VSV)は、インターフェロンの抗ウイルス作用に関連する腫瘍親和性を有する。VSVは、インターフェロンによる抑制に非常に感受性であり、そして、腫瘍細胞は、インターフェロンの作用に対して反応せず、抗ウイルス応答を欠失させる。近年腫瘍親和性であると同定された別のウイルスは、レオウイルスである(NormanおよびLee、Journal of Clinical Investigation 2000、Vol.105、1035−8頁)。感染した細胞は、レオウイルスまたはdsRNA依存性キナーゼ(PKR)を活性化する他のウイルスの感染の間に産生される、二本鎖RNA(dsRNA)の産生に反応する。従って活性化されたPKRは、eIF2転写因子のαユニットのリン酸化を介してタンパク質合成をブロックする。このmRNA転写のブロックはまた、ウイルスRNAの転写をブロックし、それと共に、ウイルスの複製もブロックする。多くの型のウイルスが、PKRを不活性にする遺伝子を発現するが、レオウイルスは発現しない。しかし、PKRは、Rasシグナル伝達経路において見出される他のタンパク質によって不活性にさせられ得る。それゆえ、活性なRasを有する細胞において、多くの腫瘍細胞の場合のように、レオウイルスは増殖し得る。他のウイルスは、天然の腫瘍親和性を示さないが、遺伝的に操作され得、その結果、腫瘍において選択的に複製する。例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)は、リボヌクレオチドレダクターゼ遺伝子(活性な増殖状態にある細胞(例えば、腫瘍細胞)においては不要な酵素活性)を欠失することによって腫瘍親和性にさせられる。HSVはまた、PKRによる活性な転写ブロックを相殺するタンパク質ICP34.5を欠失することによって腫瘍親和性にさせられている。この欠失は、レオウイルスの機構と類似の機構によって腫瘍親和性を生じる。最近、インフルエンザAウイルスが操作されて腫瘍親和性になった(Bergmannら、Cancer Reserch 2001、Vol.61、8188−93頁)。このウイルスのウイルスタンパク質NS1はまた、PKRによる転写ブロックを相殺し、その欠失は、活性なRasに依存するウイルスを生じる。しかし、腫瘍における選択的な複製を獲得するために、最も遺伝的操作が行われてきたのは、アデノウイルスである。癌の遺伝子治療におけるアデノウイルスの中心的な役割は、臨床試験において蓄積された経験と合わせて、これらの新しい複製型アデノウイルスベクターの普遍化に寄与している。
【0006】
アデノウイルスの複製を腫瘍細胞に制限するために、2つの方法が用いられている:腫瘍選択的なプロモーターでのウイルスプロモーターの置換、および、腫瘍細胞において不必要なウイルス機能の欠失。両方のストラテジーにおいて、調節されるべきまたは変異されるべき好ましい遺伝子は、E1aである。なぜならば、E1aは、残存遺伝子の発現を制御するからである。多くの組織特異的または腫瘍特異的プロモーターがE1a発現を制御するために用いられている。腫瘍細胞においては不必要であるウイルス機能の欠失のストラテジーの点では、選択的な複製のために提案された最初の変異体は、E1b−55K欠失であった。このタンパク質は、p53に結合して不活性化し、感染した細胞に細胞周期のS期に入るように誘導し、そして、この誘導の結果として誘発されるp53媒介性のアポトーシスを阻害する。E1b−55K変異を有するアデノウイルスは、dl1520またはOnyx−015として公知であり、これは、p53を欠失している腫瘍を処置するのに用いられている。腫瘍における選択的な複製を獲得するために、アデノウイルスのゲノム上で行われた別の変異は、E1aのCR1ドメインおよびCR2ドメインに影響を及ぼす。E1aのこれらのドメインは、網膜芽細胞腫(RB)ファミリーのタンパク質の結合を媒介する。このRBタンパク質は、周期のGo/G1期からS期への移行をブロック子、E2Fと共に転写の複合インヒビターを形成する。E1aがRBと結合する場合、E2F転写因子がRB−E2F複合体から放出され、E2FはS期への移行を担う遺伝子およびE2のようなウイルス遺伝子の転写活性因子として作用する。従って、E2Fの放出は、アデノウイルスの複製の重要な段階である。腫瘍細胞において、RBが存在しないか、または過リン酸化によって不活性化されており、かつE2Fが放出されているために、細胞周期は制御不能である。これらの細胞において、E1aのRB不活性化機能はもはや必要とされない。それゆえ、RBとの結合を妨げるEa1変異を有するアデノウイルスは、通常、不活性なRBを有する細胞において増殖され得る。これらの変異体の選択的な複製が示されている(Fueyoら、Oncogene 2000、Vol.19、2−12頁)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、p53およびRB経路とは異なる確固たる遺伝的欠失を有する腫瘍細胞における選択的な複製を達成するための、新型の変異を記載する。当該分野に存在する他の構築物とは異なり、本発明においては、変異のある標的DNAは、任意のウイルスタンパク質を産生しないが、ウイルス関連RNAを産生し、そして、このウイルス関連(VA)RNAは、アデノウイルスの初期遺伝子には属さず、後期遺伝子に属する。実験データはないが、WO 01/35970は、VAI遺伝子が転写されない、改変したアデノウイルスの使用について言及するが、この技術に関して、アデノウイルスとVAI遺伝子およびVAII遺伝子の同時変異とを組み合せた使用は、述べられていない。本発明において取り組まれる遺伝的欠失は、Ras癌遺伝子の伝達経路であり、この経路は、これまでにアデノウイルスで取り組まれていない。多くの増殖因子レセプターがRasタンパク質(H−Ras、N−Ras、K−Ras AおよびK−Ras B)を活性化して、細胞の外側から核への増殖シグナルを伝達する。Rasタンパク質は、低分子のGTPアーゼであり、GTPに結合したとき、一連のエフェクターを活性化し得る。このエフェクターの活性化は、分裂促進的なシグナルを生じる。Rasは、90%の膵臓腫瘍、50%の結腸腫瘍、30%の肺腫瘍および、他の割合で多くの他の型の腫瘍において、不可逆的に活性形態に変異している。変異したRasを有する多数の腫瘍に加え、Ras経路は、Ras調節タンパク質またはRas経路のベクターの構成的な活性化によって、他の場合において活性化される。例えば、EGFレセプターをコードするc−erbB遺伝子は、50%の膠芽細胞腫で過剰発現しており、そして、そのホモログであるc−erbB2は、乳癌および卵巣癌において頻繁に過剰発現している。一般に、80%の腫瘍が活性化されたRas経路を有すると考えられる。これらの型の腫瘍の多くは、膵臓癌の場合と同様に、従来の治療への応答性を欠いていると仮定すると、新しい治療を必要とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の説明)
本発明は、癌の処置のためのアデノウイルスの使用に関し、この使用は、アデノウイルスがその関連(VA)RNAを欠失しているという事実により特徴付けられる。
【0009】
本発明はまた、前記アデノウイルスがVAIおよびVAII遺伝子の配列に変異を有する、アデノウイルスの使用にも関する。
【0010】
本発明の別の目的は、アデノウイルスの使用であり、前記アデノウイルスは、VA RNAの発現を制御する配列に変異を有する。
【0011】
本発明の別の目的は、アデノウイルスの使用であり、前記アデノウイルスは、腫瘍内にか、腫瘍が局在化する腔内にか、または癌患者の血流内に注入される。
【0012】
本発明の別の目的は、アデノウイルスの使用であり、前記アデノウイルスは、化学療法または放射線療法のような他の癌の処置様式と併用される。
【0013】
本発明のなお別の目的は、活性なRas経路を有するか、またはインターフェロンの作用に応答しない腫瘍細胞における選択的な複製を獲得するために、VA RNAの遺伝子に遺伝的変異を有するアデノウイルスを含む組成物である。
【0014】
本発明のなお別の目的は、腫瘍における選択的な複製を獲得するために、VA RNAの遺伝子ならびにE1a群、E1b群およびE4群由来の1つ以上の遺伝子に遺伝的変異を有するアデノウイルスを含む、癌の処置に使用するための組成物である。
【0015】
本発明のなお別の目的は、腫瘍における選択的な複製を獲得するために、VA RNAの遺伝子に遺伝的変異を有し、従って、E1a群、E1b群およびE4群の1つ以上の遺伝子を含むプロモーターに変異を有するアデノウイルスを含む、癌の処置に使用するための組成物である。
【0016】
本発明のなお別の目的は、腫瘍細胞における選択的な複製を獲得するために、VA RNAの遺伝子に遺伝的変異を有し、かつ、その感染力を増すためか、または、腫瘍細胞のレセプターに方向付けるためのキャプシドの改変を有するアデノウイルスを含む組成物である。
【0017】
本発明のなお別の目的は、VA RNAの遺伝子に遺伝的変異を有するアデノウイルスを含む組成物であって、この遺伝的変異が、腫瘍細胞での選択的な複製を与え、次いで、プロドラッグ活性因子、腫瘍抑制因子または免疫賦活因子のような癌遺伝子治療の分野で通常用いられる他の遺伝子を含む組成物である。
【0018】
本発明のなお別の目的は、腫瘍細胞上での選択的な複製を与える、VA RNAの遺伝子に遺伝的変異を有する、1〜50の血清型由来のヒトアデノウイルスを含む、組成物である。
【0019】
本発明は、癌の処置におけるVA RNAの遺伝子からの変異体アデノウイルスの使用を記載する。このVA RNA変異は、活性なRas経路の存在またはインターフェロンへの感受性に起因するPKR活性化の欠如に供されたアデノウイルスの複製を可能にする。本発明は、膵臓癌、結腸癌、肺癌および他の型の腫瘍のためのよりよい処置を見出す必要性に関する。
【0020】
本発明は、ウイルス関連(VA)RNAの機能を不活性化するPKRを排除するゲノムに変異を有するアデノウイルスを含む。アデノウイルスのゲノムには、VA RNAをコードする2つの遺伝子(VAIおよびVAII)が存在し、これらはウイルスゲノムの約30マップ単位に位置する。両方が、ウイルス周期(viral cycle)の後期にRNAポリメラーゼIIIによって合成される、(160リボヌクレオチド程度の)短いRNAを生じる。各VA RNAは、ループ状に保持され、これらは、RNA依存性キナーゼ(PKR)に結合する。増殖の目的について、このアデノウイルスは、PKRを阻害するためにVA RNAを用いる。これは、そうでなければ、このキナーゼがeIF2タンパク質の転写因子をリン酸化し、eIF2を不活性化し、そして、タンパク質合成全体をブロックするためである。それゆえ、本発明に記載されるVA変異体は、正常細胞ではほとんど増殖しない。逆に、これらの変異体は、PKRがRas経路によって不活性化されている細胞においては、多くの腫瘍細胞において起こるように、正常に増殖する。VA変異体はまた、PKR誘導型アデノウイルスの感染に応答しない細胞においても正常に増殖する。
【0021】
本発明のVA RNAの変異は、VAIおよびVAII遺伝子に影響を及ぼし得る。あるいは、もしくは同時に、この変異は、VAIまたはVAII遺伝子のプロモーターまたは、その発現をブロックするための転写終結配列に影響を及ぼし得る。
【0022】
VA変異体アデノウイルスは、活性なRas経路を有する細胞株(例えば、ヒト膵臓癌細胞株NP9)において増殖および増幅させる。細胞培養での増幅の後、この変異体は、アデノウイルス学の分野における標準の方法に従って、抽出および精製される。
【0023】
癌の処置は、腫瘍へのVA変異体の直接注入によってか、またはアデノウイルス遺伝子治療の分野における標準の方法を用いて、癌患者に日常的な静脈内投与によって実施される。
【0024】
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
癌の処置のためのアデノウイルスの使用であって、該アデノウイルスがそのVAIおよびVAIIというウイルスに随伴するRNAを欠失しているという事実により特徴付けられる、使用。
(項目2)
前記アデノウイルスが前記VAIおよびVAII RNAの遺伝子の配列に変異を有する、項目1に記載の使用。
(項目3)
前記アデノウイルスが前記VAIおよびVAII RNAの遺伝子の発現を制御する配列に変異を有する、項目1に記載の使用。
(項目4)
前記アデノウイルスが、腫瘍内、該腫瘍が局在する腔内、または癌患者の血流中に注入される、項目1〜3のいずれかに記載の使用。
(項目5)
前記アデノウイルスが、化学療法または放射線療法などの他の癌治療様式と併用される、項目1〜4のいずれかに記載の使用。
(項目6)
活性なRas経路を有するかまたはインターフェロンの作用に応答しない腫瘍細胞における選択的な複製を獲得するために、VA RNAの遺伝子に遺伝的変異を有するアデノウイルスを含む、組成物。
(項目7)
腫瘍における選択的な複製を獲得するために、E1a群、E1b群およびE4群の1つ以上の遺伝子において前記VA RNAの遺伝子に遺伝的変異を有するアデノウイルスを含む、項目1〜3に記載の使用のための、組成物。
(項目8)
腫瘍における選択的な複製を獲得するために、前記VA RNAの遺伝子に変異を有し、そして、E1a群、E1b群およびE4群の1つ以上の遺伝子を調節するプロモーターに変異を有するアデノウイルスを含む、項目1〜3に記載の使用のための、組成物。
(項目9)
腫瘍細胞における選択的な複製を獲得するために、VA RNAの遺伝子に遺伝的変異を有し、かつ、その感染力を増すためか、または、腫瘍細胞上に存在するレセプターに方向付けるためにキャプシドに改変を有するアデノウイルスを含む、組成物。
(項目10)
VA RNAの遺伝子に遺伝的変異を有するアデノウイルスを含む組成物であって、該遺伝的変異が、腫瘍細胞での選択的な複製を与え、次いで、プロドラッグ活性因子、腫瘍抑制因子または免疫賦活因子のような癌遺伝子治療の分野で通常用いられる他の遺伝子を含む、組成物。
(項目11)
腫瘍細胞上での選択的な複製を与える、VA RNAの遺伝子に遺伝的変異を有する、1〜50の間の血清型由来のヒトアデノウイルスを含む、組成物。
本発明に含まれる図面は、本発明の特徴、利点および構成を示す目的で添付され、その結果、本発明は明白になり、詳細に理解される。これらの図面は、明細書の一部を成し、好ましい発明を例示するが、本発明の範囲を限定するとみなすべきでない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】アデノウイルス血清型5(Ad5)のVA RNAの二次構造。ワトソンとクリックの対形成規則に従う塩基の対形成によって形成された、ステムおよびループの構造。中央ドメインは、VA機能に重大な意味を有し、そして先端のステムはまた、VA RNAのPKRとの相互作用に関する。
【図2】Ad5 VA領域の配列。示されるDNA配列は、アデノウイルス血清型5のゲノムの10,500〜11,100の塩基対に対応する。この配列は、VA領域を含む(VA遺伝子寄りの鎖のみを示す)。示される配列は、VAI遺伝子の転写の開始に対して、−118塩基対(bp)前に進み、VAIIの終止点を64bp超える。転写の開始点から終止点までのVAI遺伝子(160bp)に下線を施し、イタリック体を用いている。96bpの配列は、VAIおよびVAIIをコードする配列を分離する。VAII(161bp)は、VAIの後ろに見出され、これには下線を施して、かつ太字で示している。
【図3】VA RNAを欠失しているアデノウイルスの、活性なRAS経路を有するかまたはインターフェロンに応答しない細胞における複製選択性機構。ウイルス関連(VA)RNA変異体がRas活性化に供されて複製を示す機構。アデノウイルスの感染は、2本鎖RNAを生じ、これが、リン酸化によってPKRの活性化を誘導する。活性化されたPKRは、eIF2タンパク質の転写因子をリン酸化して不活性化し、従って、タンパク質の伝達全体をブロックする。アデノウイルスのVA RNAは、PKRに結合して不活性化し、感染細胞の抗ウイルス応答を相殺する。VA RNA変異体アデノウイルスは、PKRを阻害し得ず、そしてタンパク質合成の完全なブロックを回避し得ない。さらに、癌遺伝子Rasの活性化はまた、PKRを阻害し、Rasが活性である場合、VA変異体は、正常に増殖する。
【図4】VA RNA変異体の増殖に際するRas活性化の効果。グラフは293におけるウイルスの産生を示す(複製、2日目)。細胞株293は、低レベルの活性化されたRasを示す。Rasのドミナントネガティブ変異体(RasN17)の発現カセットを含有するプラスミドが293にトランスフェクトされ、そして、VAI RNA変異体アデノウイルス(dl331)の増殖効率を評価した。ウェスタンブロットで見られ得るRas阻害は、dl331の増殖を阻害し得る。逆に、293が構成的に活性なRas変異体(RasV12)の発現カセットを含有するプラスミドでトランスフェクトされた場合、ウェスタンブロットによってRasの活性化が、そしてdl331増殖の減少が観察された。
【図5】低いRAS活性を有する細胞(293)または高いRAS活性を有する細胞(NPA)におけるVA RNA変異アデノウイルスの増殖。BCAによって定量化した細胞変性効果(CPE)のグラフ(5日目)。低いRas活性を有する細胞および、高いレベルの活性なRasを有する膵臓癌細胞におけるVA RNA変異体の増殖の比較。野生型アデノウイルスAd5の増殖を、VA変異に帰し得ない感染力および複製の差異を較正するための標準化コントロールとして使用する。
【図6】VA RNA変異体を用いる腫瘍の処置。NP9ヒト膵臓癌腫瘍を免疫抑制したマウス(Balb/cヌードマウス)に移植した。腫瘍が70〜80mmの容積に達したとき、VAI RNA変異体アデノウイルス(dl331)またはコントロールビヒクルを注入した。腫瘍の増殖(腫瘍の容積)を測定した後、VA RNA変異体の抗腫瘍効果を実証した。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(実施形態の詳細な説明)
(変異したウイルス関連(VA)RNAを有するアデノウイルスの構造)
本発明は、癌の処置のための、変異した(すなわち、機能的に欠失した)ウイルス関連(VA)RNAをコードする遺伝子を有するアデノウイルスの使用を記載する。この処置は、活性なRas経路を有する細胞におけるVA変異体の選択的な複製に基づく。
さらに、インターフェロン(α、βおよびγインターフェロン)の抗ウイルス作用に抵抗性の腫瘍がまた、これらの変異体を用いて処置され得る。この活性なRas依存性の複製またはインターフェロン抵抗性依存性の複製を可能にする機構を以下に記載する。アデノウイルスが感染した細胞の細胞質において、ウイルス関連(VA)RNAと呼ばれる、大量の小さなRNAが、アデノウイルスのゲノムの約30マップ単位に位置するいくつかのアデノウイルス遺伝子を転写することによって、細胞RNAポリメラーゼIIIにより合成される。いくつかのアデノウイルス血清型は、1つのVA遺伝子のみを含む(これらは、亜群AおよびF、ならびに亜群B由来のいくつかの血清型に属する)が、他のアデノウイルス血清型は、2つのVA遺伝子を含む(VAIおよびVAIIは、亜群Bのいくつかの血清型に、そして亜群C、DおよびEの全て血清型に、存在する)。VA RNAは、160ほどのリボヌクレオチドを有し、そして、2本鎖のステム(stem)および1本鎖のループによって特徴付けられる二次構造を形成する(図1を参照のこと)。このVA RNAは、アデノウイルスの感染の間に産生される他の2本鎖RNAとの結合において、PKRと呼ばれるプロテインキナーゼと競合する。PKRは、リン酸化活性が2本鎖RNAに依存するキナーゼタンパク質であるが、VA RNAとの結合は、リン酸化を活性化するよりはむしろ、リン酸化を阻害する。VA RNAのこの機能は、ウイルスの複製に必要である。なぜならば、活性化されたPKRは、eIF2タンパク質伝達の開始因子をリン酸化して不活性化し、そして、タンパク質合成をブロックするからである。さらに、RasによるPKRの阻害が記載されている(MundschauおよびFaller、Journal Biological Chemistry、1992、Vol.267、23092−8頁)。PKRの阻害に関して、多数の腫瘍で活性化されていることが見出されているRas伝達経路は、VA RNAと機能的に類似している。これらの所見をまとめると、本発明は、活性なRas経路を有する腫瘍細胞において、VA RNAの機能が、ウイルスの複製に影響を及ぼすことなく、排除され得ることを確立する。それゆえ、本発明は、VA RNAが腫瘍を処置するために使用され得ることを記載する。
【0027】
上の段落に説明されているVA変異体の、腫瘍における選択的な複製機構は、RasエフェクターがPKRを不活性化するという事実に基づく。多くの腫瘍において、本発明者らはまた、PKRの活性化を停止する別の機構:インターフェロンへの応答性の欠如を見出した。α、βまたはγインターフェロン(IFN)の分泌は、先天性免疫系のウイルスに対する最初の応答である。IFNはPKRの発現を誘導し、そして、アデノウイルスのVA RNAの遺伝子は、PKRを阻害することによってIFNの抗ウイルス作用に拮抗する。インターフェロンに応答しない細胞において、PKRは誘導されず、そして細胞質中のPKRの量は、非常に低いレベルのままである。次いで、VA RNAの遺伝子は、もはやウイルスの複製に必要ではなくなる。腫瘍細胞がIFNに対する応答性を欠いているということは、十分に確立されている。実際、IFNの阻害作用に対して非常に感受性であるウイルスは、腫瘍細胞の選択的な溶解および腫瘍の処置のために使用されている(Stojdlら、Nature Medicine 2000、Vol.6、821−5頁)。これらの所見を本発明の実施形態と結びつけると、インターフェロン経路に欠陥を有する腫瘍を処置するためのVA RNA変異体アデノウイルスの使用になる。
【0028】
アデノウイルス血清型5のVA RNAの遺伝子配列を、図2に示す。アデノウイルス5型のVAI遺伝子は、アデノウイルスのゲノム配列中の10,620塩基対〜10,779塩基対の160塩基対からなる。VAII遺伝子は、10,876塩基対〜11,036塩基対の161塩基対からなる。本発明の1つの実施形態は、これらの配列に欠失を有する。他の実施形態は、これらの周囲の配列に影響を及ぼし、VA遺伝子の発現を制御する欠失を有する。特に、VA遺伝子の前の30塩基対の配列は、上記の発現の調節に関与しているとして記載されている(FowlkesおよびShenk、Cell 1980,Vol.22、405−13頁)。別の実施形態は、VA遺伝子の後ろの配列に欠失を有し、この配列は、RNAポリメラーゼIIIによってその転写の終止を制御する(Gunneryら、Journal of Molecular Biology 1999、Vol.286、745−57頁)。
【0029】
VA RNAの機能の研究の間、その機能を排除したいくつかの変異体が構築された。本発明は、そのPKR阻害性作用を排除した、以前に確立されたVA遺伝子変異体が、癌を処置するために試用され得ることを確立する。新規のVA RNA変異体がまた、本発明に記載される適用のために使用され得る。アデノウイルスのゲノムを操作するいくつかの方法が存在する。VA変異体は、例えば、本発明者らによって以前に公開されたプロトコールを用いて変異を方向付けることによってか、その代わりに、そこに記載されている、アデノウイルスのヘキソンまたは繊維のフラグメントを使用すること(VA遺伝子を含むフラグメントを使用する)によって構築され得る。この手順は、以下の通りであり得る:標準の方法を用い、SDS−プロテイナーゼKを介して、アデノウイルス5型から精製DNAを得る。このウイルスDNAをKpnI制限酵素で切断し、そして、VA RNAの遺伝子を含む、2749bpのフラグメント(Ad5の#8,537−11,286bp)を、ゲル電気泳動を用いて精製した。このフラグメントを、同じ制限酵素を用いてpCU19プラスミドに方向付けて結合させることによってクローニングする。上記のVA配列のいずれかを検出するために方向付けられた変異は、市販のプロトコール(「Quick Change site−derected mutagenesis kit」(Stratagene、La Jolla、CA))を用いて、このプラスミド上でなされる。次いで、この変異したKpnIフラグメントをRsrIIで部分的に切断した全長のAd5ゲノムを含むプラスミドを用いる相同組み換えによってウイルスのゲノムに導入する(10,944bpにある標的は、相同組み換えを介して修復される)。293細胞または活性なRas経路を有する細胞にトランスフェクトすることによって、得られたプラスミドからVA変異体を得る。
【0030】
本発明に記載されているVA RNAの遺伝子変異以外の、さらなる型の遺伝的変異および操作が、腫瘍における選択的な複製を獲得するために行われている。これらは、腫瘍細胞において活性であり、ウイルスの遺伝子発現、ならびに、RBおよびp53経路をブロックする初期の機能(「初期のE1およびE4」)の欠失を制御するプロモーターの挿入であり得る。本発明の1つの実施形態は、腫瘍における選択的な複製を獲得するために、他の操作と組み合わせてVA RNAの遺伝子の変異を使用することである。
【0031】
本発明の別の実施形態において、VA RNA変異体は、そのキャプシドに改変を有し、その感染性を増加し得るか、または腫瘍細胞に存在するレセプターに方向付け得る。アデノウイルスのキャプシドタンパク質は、感染性を増加するか、またはウイルスを腫瘍細胞のレセプターに方向付けるリガンドを含むように遺伝的に改変されている。アデノウイルスを腫瘍に方向付けることはまた、片側でウイルスに結合し、そして逆側で腫瘍レセプターに結合する、二機能性リガンドで達成され得る。さらに、このキャプシドは、血中のアデノウイルスの残留性を増加させ、そして、播種性の腫瘍小結節への到達機会を増加するために、ポリエチレングリコールのようなポリマーで覆われ得る。これらの改変は、VA RNA変異体において構成されえる。本発明の別の実施形態は、50以上のヒトアデノウイルス血清型のAd5以外のアデノウイルス血清型のVA RNA変異体の使用であり、VA RNAの遺伝子配列がよく規定されている、少なくとも47血清型が存在する(MaおよびMathews、Journal of Virology 1996、Vol.70、5083−99頁)。これらの血清型のVA遺伝子の変異を用いて、活性なRasまたはインターフェロンへの抵抗性の影響を受ける複製を獲得し得る。
【0032】
本発明の別の実施形態は、腫瘍細胞における細胞傷害性を増殖するために他の遺伝子(例えば、チミジンキナーゼあるいはシトシンデアミナーゼ遺伝子、アポトーシス促進性遺伝子、免疫刺激因子、または腫瘍抑制因子)を有するVA RNA変異体アデノウイルスの使用を記載する。
【0033】
(VA RNAにおいて変異したアデノウイルスの産生、精製および処方)
VA RNA変異体アデノウイルスは、アデノウイルス学およびアデノウイルスベクターの分野の標準の方法に従って増殖される。増殖の好ましい方法は、VA RNA変異体の複製を可能にする細胞株に感染させることによってである。上記細胞株は、例えば、変異したかまたは活性なRas癌遺伝子を有する。NP9膵臓癌株は、上記細胞株の1つの例である。増殖は、例えば、以下の方法において実施される:NP9細胞をプラスチック製の細胞培養プレートにて増殖させ、1細胞あたり50ウイルス粒子を用いて感染させる。2日後、ウイルスの産生を示す細胞変性効果が細胞のクラスターとして見える。細胞をチューブに集めて保存する。1000×gで5分間遠心分離した後、細胞沈殿物を、3回凍結および溶解し、細胞を破壊する。得られた細胞抽出物を1000×gで5分間遠心分離し、ウイルスを含む上清を塩化セシウム勾配の表面上に充填し、35,000×gで1時間遠心分離する。勾配中のウイルスのバンドを、再度別の塩化セシウム勾配上に充填し、35,000×gで16時間遠心分離する。ウイルスのバンドを回収してPBS−10%グリセロールに対して透析する。透析したウイルスをアリコートして−80℃にて保存する。プラーク形成粒子および単位の数の定量を、標準のプロトコールに従って行う。10%グリセロールを含むリン酸緩衝化生理食塩水が、アデノウイルスの保存のための標準の処方である。
【0034】
(癌の処置のためのVA RNA変異体アデノウイルスの使用)
本発明は、癌を処置するためにVA RNAの遺伝子に欠失を有するアデノウイルスの使用を記載する。この処置は、活性なRas経路またはインターフェロンの作用に対する抵抗性を有する細胞におけるVA RNA変異体の選択的な複製に基づく。
【0035】
癌の処置におけるVA変異体を使用するためのプロトコールは、アデノウイルス治療およびアデノウイルス遺伝子治療の分野で用いられているものと同じ手順に従う。位電子治療の分野における、非複製型および複製型のアデノウイルスの使用の広範な経験が存在する。特に、本発明で提案されるものとは異なる選択的な複製機構を有するアデノウイルスが癌を処置するために使用されている。培養において、動物モデルにおいて、および患者での臨床試験における腫瘍細胞の処置に関して、多くの刊行物が存在する。インビトロでの培養細胞の処置のために、上記の処方のいずれかの精製アデノウイルスを、培養培地に添加して、腫瘍細胞に感染させる。動物モデルまたはヒト患者における腫瘍を処置するために、アデノウイルスは、腫瘍内、もしくは腫瘍が局在する体腔内に注射することによって局所的にか、または、血流に注射することによって全身に、投与され得る。他の選択的複製型アデノウイルスを用いて実施されているように、本発明に記載されるVA RNA変異体を用いる腫瘍の処置は、化学療法または放射線療法のような他の処置様式と併用され得る。
【実施例】
【0036】
(実施例1:VAI遺伝子の変異したアデノウイルスは、Ras依存性の複製を示す)
活性化されたRas経路についてのVAI RNA変異体(dl331)の複製の依存性を示すために、本発明者らは、ヒト細胞における活性化状態を調節した。約1.0×10個のヒト胚性幹細胞(293株)を直径10cmのプレートに撒き、緑色蛍光タンパク質(GFP)、構成的に活性形態のRas(H−Ras V12)またはRasのドミナントネガティブ(H−Ras N17)のいずれかを含む、24μgのプラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクションに、リン酸カルシウムの標準的なプロトコールを用いた。トランスフェクションの48時間後に、細胞を新しいプレートに移した。Ras経路についてのプラスミドのトランスフェクション効果を示すために、本発明者らは、ウェスタンブロットによって細胞溶解物のERK(Rasエフェクター)の発現レベルおよびリン酸化を観察した。溶解緩衝液(20mM Tris、2mM EDTA、100mM NaCl、5mM MgCl、1% Triton X−100、10% グリセロール、5mM NaF、100μM NaVO、1mM PMSF、10μg/ml アプロチニン、10μg/ml ロイペプチン)を用いて、4℃で1時間インキュベートすることにより、乾燥溶解物を得た。14,000×gで遠心分離した後、上清のタンパク質(10μg/トラック(Bradfordアッセイを用いて決定))を10% ポリアクリルアミド−SDSゲルで電気泳動により分離し、そして、PVDFメンブレンに移した。ERKおよびリン酸ERKの量は、Amershamのchemoluminescenceキット(ECL)を用いて明らかにした。一次抗体として、ERKに対するモノクローナル抗体(Ab)(Zymed)またはリン酸ERKに対するポリクローナル抗体(Cell Signaling Tech.)を用いた。ラディッシュペルオキシダーゼと結合体化したマウス抗IgGまたはラビット抗IgGを二次抗体として用いた。これらの手順に従って、本発明者らは、トランスフェクトしていない293細胞が、低レベルのERKのリン酸化を有していることを示し、これは、低いRas経路活性を示す。GFPを用いるコントロールトランスフェクションは、これらの結果に影響を及ぼさなかった。H−Ras V12を用いるトランスフェクションは、ERKのリン酸化を増加させた(これはRas経路の活性化を示す)。対照的に、H−Ras N17を用いたトランスフェクションは、Ras経路の阻害を生じた(本発明の図4、上パネル)。
【0037】
一旦Ras経路の調節が上記の手順に従って評価されると、本発明者らは、以下に記載するようなVA RNA変異体の選択的な複製を示すことに進んだ。上の段落で記載したようなトランスフェクトした細胞を、10プラーク形成単位/細胞を用いて、VAI RNA変異体dl331または野生型アデノウイルスで感染させた。ウイルスの産生を、293上でのプラーク形成アッセイによって、上清中のアデノウイルスの量を測定することによって毎日分析した。野生型アデノウイルスは、コントロールの293細胞またはGFPでトランスフェクトした細胞において、VAI変異体よりも7〜10倍複製した。H−Ras V12によって誘導されるRas経路の活性化は、VA変異体の複製効率を10倍上昇させ、その結果、その複製レベルは、野生型アデノウイルスのレベルに達した。逆に、H−Ras N17でのRas経路の阻害は、VA変異体の複製を2倍低下させた。それゆえ、野生型アデノウイルスの複製と比較して、VAI RNA変異体の複製は、本発明者らが認識するよりも、20倍以上Ras経路の活性化に依存する。
【0038】
(実施例2:活性なRas経路を有するヒト腫瘍細胞は、変異したVAI RNAを有するアデノウイルスの効率的な複製を可能にする)
VAI RNAの遺伝子が変異したアデノウイルス(dl331)の複製を、K−Ras遺伝子のコドン12に変異を有する(GGT→GAT)NP9ヒト膵臓癌株において定量した。複製は、細胞の単層におけるタンパク質の量の減少として測定される、ウイルスが誘導する細胞変性効果(CPE)によって見積もる(BCA法)。簡単に言えば、NP−9細胞を1ウェルあたり30,000細胞で96ウェルプレートに撒く。次の日、dl331または野生型のアデノウイルスの、1細胞あたり1000プラーク形成単位の濃度からの限界希釈を用いて細胞に感染させる。感染させた細胞を5日間インキュベートし、そして、培養培地を除去して、ウェルに残るタンパク質の量を測定する。図5は、ウイルス種菌の希釈と比較した感染させていないウェルに関してのタンパク質の百分率として得られた結果を示す。50%の死亡率(タンパク質含量の50%の減少、IC50)を生じる希釈は、最初のウイルス調製物の細胞溶解性力価の推定値である。変異したRasを有する細胞(NP9)において、VAI RNA変異体dl331および野生型アデノウイルスに対して得られたIC50は、それぞれ0.04および0.7であり、これは、VAI RNA変異体の力価が18倍増えていることを示している(図5、上パネルおよび下パネルの実線)。低いRas活性を有する細胞(293)において、これらの値は、0.018および0.003であり、これは、VAI RNAの力価が6倍減少することを示している。該して、この結果は、本発明者らが、活性なRasを有する細胞またはほとんど不活性なRasを有する細胞における、VAI RNA変異体と野生型アデノウイルスの細胞溶解性力価を比較する場合、Rasの活性化が、VAI変異体の複製をおよそ100倍増加させることを示す。
【0039】
(実施例3:VAI RNAの遺伝子が変異したアデノウイルスは、癌を効率的に処置するのに使用され得る)
以下に、本発明者らは、VAI RNA変異体アデノウイルス(dl331)の抗腫瘍効果を示す。活性化されたRas経路(NP9)を有する腫瘍を含む、Balb/c系統の胸腺欠損マウスを用いて、インビボでの実験を行った。全ての実験は、FELASAガイドライン(「Federation of European Laboratory Animal Science Associations」)に従って行った。合計1.2×10個のNP−9細胞株の腫瘍細胞をマウスの各後側面に、皮下に注射した。1日後に形成された腫瘍(70〜80mmに達した)を異なる実験群(各群あたりn=10)間で分布した。コントロール群の腫瘍は、2回の生理緩衝化食塩水の腫瘍内注射を受けた(2×10μl)。VA変異体で処置した群の腫瘍は、2回のdl331(1腫瘍あたり10ウイルス粒子)の腫瘍内注射を受けた(2×10μl)。図6は、最初の処置(0日目)と比較した腫瘍容積を示す。結果は、平均±S.E.M.として示す。結果間の有意差の存在は、ノンパラメトリックな、非対称データMann−Whitney U試験を用いて計算した。増殖曲線を分散分析を用いて比較した。結果は、p<0.05である場合に有意であるとみなした。SPSS統計パッケージ(SPSS Inc.,Chicago,IL)を用いて計算を行った。16日目および21日目の腫瘍サイズの間に、有意差がある。VAI RNA変異体dl331で処置した腫瘍は、後退を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載の発明。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−184940(P2010−184940A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126305(P2010−126305)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【分割の表示】特願2003−577909(P2003−577909)の分割
【原出願日】平成15年3月25日(2003.3.25)
【出願人】(501332264)オンコリティクス バイオテク,インコーポレーテッド (16)
【Fターム(参考)】